特許第6103268号(P6103268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103268
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】窒化物発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20170316BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   H01L33/32
   H01L21/205
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-196276(P2015-196276)
(22)【出願日】2015年10月1日
(62)【分割の表示】特願2013-73952(P2013-73952)の分割
【原出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2016-27669(P2016-27669A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2015年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 徹
(72)【発明者】
【氏名】月原 政志
(72)【発明者】
【氏名】三好 晃平
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−186403(JP,A)
【文献】 特開平10−163577(JP,A)
【文献】 特開2002−094112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に、n層と、p層と、前記n層と前記p層に挟まれた位置に形成された発光層を有する窒化物発光素子であって、
前記n層は、キャリア濃度が、ドープされているSi濃度よりも高いAlGa1−xN(0<x≦1)で構成されていることを特徴とする窒化物発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化物発光素子の製造方法であって、
III族元素を含む化合物の流量に対するV族元素を含む化合物の流量の比であるV/III比が2000より大きく10000以下の原料ガスを処理炉内に供給して結晶成長させることで前記n層を形成する工程を含むことを特徴とする窒化物発光素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al、Ga、InなどのIII族元素の窒化物による窒化物半導体素子は、n型半導体よりなる電子供給層と、p型半導体よりなる正孔供給層の間に、発光層を介在することで発光素子として利用される。より具体的には、n型半導体層とp型半導体層の間に電圧を印加して、発光層に電流を流すことで当該領域を発光させる。
【0003】
ここで、n型半導体層、発光層、及びp型半導体層の積層体(以下、ここでは「LED層」と呼ぶ。)と、例えばn型半導体層の上層に積層される電極(以下、「n側電極」と呼ぶ。)の間の抵抗値が高いと、発光に必要な電流を流すために必要な電圧が高くなってしまい、効率が低下する。このため、低い動作電圧で高い光量の光を取り出すためには、LED層とn側電極の間の抵抗値をなるべく低下させることが重要となる。
【0004】
このような課題を受け、下記特許文献1には、n型半導体層を、Siなどのn型不純物が高い濃度でドープされた高濃度層と、この高濃度層よりも低い濃度でn型不純物がドープされた低濃度層を順次積層させて形成したLED素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−258529号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Fritze, et al., “High Si and Ge n-type doping of GaN doping - Limits and impact on stress”, Applied Physics Letters 100, 122104, (2012)
【非特許文献2】谷保他、「SiドープAlNおよび高Al組成AlGaNのn型伝導性制御」、電子情報通信学会技術研究報告、102(114)、61−64、2002−06−06
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
なるべく低い動作電圧で、発光層に対して必要な電流を流すためには、素子抵抗をできるだけ小さくすることが好ましい。このためには、n型半導体層へのSiドープ量をできるだけ多くして、n層とn側電極の間のオーミック接続を実現させる方法が考えられる。
【0008】
ここで、窒化物発光素子として青色LEDを実現する場合には、一般的にn型半導体層としてGaNが用いられる。しかし、このGaN層に対して注入するn型ドーパントの濃度を1×1019/cm以上にすると、原子結合の状態が悪化するなどの原因により、膜荒れが発生してしまうという現象が知られている(例えば、上記非特許文献1参照)。このような現象が生じてしまうと、低抵抗のn層が形成されず、結果的に発光効率が低下してしまう。
【0009】
上記特許文献1では、この課題を克服すべく、高濃度のn層と低濃度のn層を交互に順次積層させる構成としている。同文献によれば、このような構成により高濃度層に形成された表面の荒れが低濃度層によって埋められるため、良質なn層が形成されるとされている。
【0010】
しかし、特許文献1に記載の方法を採用した場合、n層として高濃度層と低濃度層を順次交互に複数組積層させる必要があるため、プロセスが複雑化してしまうという別の問題が発生する。
【0011】
n層のキャリア濃度を高くすることで、n層を低抵抗化することが可能である。このためには、Siドープ濃度を可能な限り高めることが必要であると一般的に考えられていた。例えば、上記非特許文献2によれば、ドープするSi濃度を高めるとキャリア濃度はこれに連れてある程度までは高くなるものの、ある閾値を超えるとキャリア濃度の上昇は飽和する旨、並びにSi濃度よりもキャリア濃度の方が低い旨が開示されている。
【0012】
ところが、上述したようにn層をGaNで実現した場合には、膜荒れの問題が生じるため、Si濃度を1×1019/cm以上にすることができず、この結果、キャリア濃度を高めることによるn層の低抵抗化には限界があると思われていた。
【0013】
本発明者は、鋭意研究によって、n層を一定条件下で成長させたAlGa1−xN(0<x≦1)で構成することで、簡易なプロセスによって従来よりも低抵抗化を実現できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、このようなn層を含む窒化物発光素子によって、低い動作電圧でも高い光の取り出し効率が実現され、且つ簡易なプロセスで製造可能な素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の窒化物発光素子は、支持基板上に、n層と、p層と、前記n層と前記p層に挟まれた位置に形成された発光層を有する窒化物発光素子であって、
前記n層は、キャリア濃度が、ドープされているSi濃度よりも高いAlGa1−xN(0<x≦1)で構成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明者の鋭意研究により、n層をGaNではなくAlGa1−xN(0<x≦1)で構成した場合、所定の条件下でn層を成長させることで、キャリア濃度が、ドープされているSi濃度よりも高くなることを見出した。
【0016】
より詳細には、n層の成長条件を、III族元素を含む化合物の流量に対するV族元素を含む化合物の流量の比であるV/III比を2000より大きく10000以下の原料ガスを処理炉内に供給して結晶成長させる。この方法でn層を成長させると、ドープされているSi濃度よりもキャリア濃度の高いn層が生成される。
【0017】
このn層を含む窒化物発光素子によれば、ドープするSi濃度よりも高濃度のキャリア濃度が実現されるため、Si濃度を極めて高い値としなくてもn層の低抵抗化が実現される。これによって、低い動作電圧によっても発光に必要な電流量を発光層に流すことができ、発光効率を向上させることが可能である。
【0018】
更に、上記構成を実現するに際しては、n層を結晶成長させる際の原料ガスのV/III比を2000より大きく10000以下の範囲内に設定するのみでよく、プロセス自体が従来と比較して複雑化するものではない。よって、複雑な製造プロセスを必要とせず、簡易なプロセスにて窒化物発光素子を製造することが可能である。
【0019】
なお、上記構成において、前記n層を、ドープされているSi濃度が1×1019/cm以上のAlGa1−xN(0<x≦1)で構成するものとしても構わない。
【0020】
本発明者の鋭意研究により、n層をGaNではなくAlGa1−xN(0<x≦1)で構成したときには、ドープするSi濃度を1×1019/cm以上、更には7×1019/cm以上にしても膜荒れの問題が生じないことが確認できた。
【0021】
つまり、AlGa1−xN(0<x≦1)で構成されるn層にドープするSi濃度を、GaNにおける膜荒れが生じない上限値である1×1019/cm以上の値とすることで、従来よりもSi濃度を高めることができる。更に、このn層のキャリア濃度は、ドープされるSi濃度よりも高濃度が実現されている。このため、従来構成と比較して、n層を極めて低抵抗化することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の窒化物発光素子によれば、n層の抵抗値を低下させることが可能となるため、簡易なプロセスによって低い動作電圧によっても発光に必要な電流量を発光層に流すことができ、発光効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】窒化物発光素子の一実施形態の概略断面図である。
図2A】Si濃度を7×1019/cmとしたときのAlGa1−xN(0<x≦1)の層表面の写真である。
図2B】Si濃度を1.5×1019/cmとしたときのGaNの層表面の写真である。
図3】Si濃度とキャリア濃度の関係の検証のための検証用素子の構成図である。
図4】V/III比を変化させて検証用素子を作製したときの、V/III比と検証用素子のn層のSi濃度及びキャリア濃度の関係をグラフに示したものである。
図5】I−V特性及び発光特性を検証するための検証用素子の構成図である。
図6】n層形成時のV/III比を異ならせた各検証用素子に対して電流を印加したときの、電流−発光出力の関係を示すグラフである。
図7】n層形成時のV/III比を異ならせた各検証用素子に対して電圧を印加したときのI−V特性を示すグラフである。
図8】V/III比を2000,4000,8000,10000,12000としてn層を成長させた5種類の検証用素子における、n層の断面TEM写真である。
図9】窒化物発光素子の別の一実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の窒化物発光素子及びその製造方法につき、図面を参照して説明する。なお、各図において図面の寸法比と実際の寸法比は必ずしも一致しない。
【0025】
[構造]
本発明の窒化物発光素子の構造の一例につき、図1を参照して説明する。図1は窒化物発光素子の一実施形態の概略断面図である。
【0026】
窒化物発光素子1は、支持基板11、導電層20、絶縁層21、LED層30及び給電端子42を含んで構成される。LED層30は、p層31、発光層33、及びn層35が下からこの順に積層されて形成されている。
【0027】
(支持基板11)
支持基板11は、例えばCuW、W、Moなどの導電性基板、又はSiなどの半導体基板で構成される。
【0028】
(導電層20)
支持基板11の上層には、多層構造からなる導電層20が形成されている。この導電層20は、本実施形態では、ハンダ層15、保護層17及び反射電極19を含む。
【0029】
ハンダ層15は、例えばAu−Sn、Au−In、Au−Cu−Sn、Cu−Sn、Pd−Sn、Snなどで構成される。ハンダ層15は、製造方法の項で後述されるように、サファイア基板と支持基板11を接合する際に利用される(ステップS5参照)。
【0030】
保護層17は、例えばPt系の金属(TiとPtの合金)、W、Mo、Niなどで構成される。後述するように、プロセス時においてハンダ層を介した2基板の貼り合わせを行う際、ハンダを構成する材料が後述する反射電極19側に拡散し、反射率が落ちることによる発光効率の低下を防止する機能を果たしている。
【0031】
反射電極19は、例えばAg系の金属(NiとAgの合金)、Al、Rhなどで構成される。窒化物発光素子1は、LED層30の発光層33から放射された光を、図1の紙面上方向(n層35側)に取り出すことを想定しており、反射電極19は、発光層33から下向きに放射された光を上向きに反射させることで発光効率を高める機能を果たしている。
【0032】
なお、導電層20は、一部においてLED層30、より詳細にはp層31と接触しており、支持基板11と給電端子42の間に電圧が印加されると、支持基板11、導電層20、LED層30を介して給電端子42へと流れる電流経路が形成される。
【0033】
(絶縁層21)
絶縁層21は、例えばSiO2、SiN、Zr、AlN、Alなどで構成される。この絶縁層21は、上面がp層31の底面と接触している。なお、この絶縁層21は、後述するように素子分離時におけるエッチングストッパー層としての機能を有すると共に、支持基板11の基板面に平行な方向に電流を拡げる機能も有する。
【0034】
(LED層30)
上述したように、LED層30は、p層31、発光層33、及びn層35が下からこの順に積層されて形成される。
【0035】
p層31は、例えばAlGa1−yN(0<y≦1)で構成される層(正孔供給層)とGaNで構成される層(保護層)を含む多層構造で構成される。いずれの層も、Mg、Be、Zn、Cなどのp型不純物がドープされている。
【0036】
発光層33は、例えばInGaNからなる井戸層とAlGaNからなる障壁層が繰り返されてなる多重量子井戸構造を有する半導体層で形成される。これらの層はアンドープでもp型又はn型にドープされていても構わない。
【0037】
n層35は、発光層33に接触する領域にGaNで構成される層(保護層)を含み、その上層にAlGa1−xN(0<x≦1)で構成される層(電子供給層)を含む多層構造である。少なくとも保護層には、Si、Ge、S、Se、Sn、Teなどのn型不純物がドープされており、特にSiがドープされているのが好ましい。なお、n層35をAlGa1−xN(0<x≦1)で構成される電子供給層のみで形成しても構わない。
【0038】
また、AlGa1−xN(0<x≦1)で構成されるn層35は、ドープされているSi濃度よりもキャリア濃度の方が高くなるように構成されている。このような構成を実現する方法については後述される。
【0039】
更に、本実施形態では、このn層35を、ドープされているSi濃度が1×1019/cm以上となるように構成している。実験によって得られた写真に基づいて後述されるように、本構成においては、n層35の不純物濃度を1×1019/cmより大きい値としても、膜荒れは生じない。
【0040】
(給電端子42)
給電端子42はn層35の上層に形成され、例えばCr−Auで構成される。この給電端子42は、例えばAu、Cuなどで構成されるワイヤが連絡されており(不図示)、このワイヤの他方は、窒化物発光素子1が配置されている基板の給電パターンなどに接続される(不図示)。
【0041】
なお、図示していないが、LED層30の側面及び上面に保護膜としての絶縁層を形成しても構わない。なお、この保護膜としての絶縁層は、透光性を有する材料(例えばSiOなど)で構成するのが好ましい。
【0042】
上述の実施形態では、p層31を構成する一材料をAlGa1−yN(0<y≦1)と記載し、n層35を構成する一材料をAlGa1−xN(0<x≦1)と記載したが、これらは同一の材料であっても構わない。
【0043】
[膜荒れの有無の検証]
次に、窒化物発光素子1のように、n層35をAlGa1−xN(0<x≦1)で構成することで、ドープされるSi濃度を1×1019/cmより大きくしても膜荒れが発生しないことにつき、図2A及び図2Bの実験データを参照して説明する。なお、以下では、AlGa1−xN(0<x≦1)をAlGa1−xNと略記する。
【0044】
図2Aは、Si濃度を7×1019/cmとしたときのAlGa1−xNの層表面の写真である。また、図2Bは、Si濃度を1.5×1019/cmとしたときのGaNの層表面の写真である。なお、図2Aは、AFM(Atomic Force Microscopy:原子間力顕微鏡)で撮影されたものであり、図2Bは、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)で撮影されたものである。
【0045】
図2Bに示すように、n層をGaNで構成した場合、Si濃度を1.5×1019/cmとすると、表面に荒れが生じていることが分かる。なお、不純物濃度を1.3×1019/cm、2.0×1019/cmとしても同様に表面の荒れが確認できた。これより、GaNにおいては、非特許文献1に記載のように、1×1019/cmより大きくすると層表面に荒れが生じてしまうことが分かる。
【0046】
これに対し、図2Aによれば、n層をAlGa1−xNで構成すると、Si濃度を7×1019/cmとしてもステップ状の表面(原子ステップ)が確認されており、層表面に荒れが生じていないことが分かる。なお、Si濃度を2×1020/cmとしても、図2Aと同様の写真が得られた。また、構成材料として、AlとGaの成分比率を変化させても(AlGa1−xN)、同様に層表面に荒れが生じないことが確認された。
【0047】
一方、n層をGaNで構成し、Si濃度を0.5×1019/cm、つまりSi濃度を1×1019/cm以下とした場合でも、図2Aと同様の写真が得られた。
【0048】
以上によれば、n層をAlGa1−xNで構成することで、Si濃度を1×1019/cmより大きくしても、膜荒れの問題が生じないことが分かる。
【0049】
[Si濃度とキャリア濃度の関係の検証]
次に、後述する方法によってn層35を実現することで、n層35内にドープされているSi濃度よりもキャリア濃度の方を高くすることができる点につき、データを参照して説明する。
【0050】
図3は、Si濃度とキャリア濃度の関係の検証を行うために用いた素子の例である。図3に示す素子2Aは、n層35をAlGa1−xNで構成する場合において、当該AlGa1−xNの成長条件を変化させたときのn層35のSi濃度とキャリア濃度の関係を検証するための素子である。このため、窒化物発光素子1とは異なり、検証に必要な範囲で素子を構成した。
【0051】
図3に示す検証用素子2Aは、サファイア基板61の上層にアンドープ層36を介して、AlGa1−xNで構成されるn層35を形成したものである。
【0052】
AlGa1−xNで構成されるn層35を形成する際には、アンドープ層36の上面にAlGa1−xNを結晶成長させる必要がある。結晶成長は、一般的にMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相蒸着)装置などの装置内に、所定の温度、所定の圧力の条件下で、所定の原料ガスを供給することで行われる。
【0053】
AlGa1−xNを結晶成長させる場合には、TMG(トリメチルガリウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、アンモニアを含む混合ガスが原料ガスとして利用される。更に、Siドープをする場合には、TES(テトラエチルシラン)も併せて供給される。ここで、III族元素を含む化合物であるTMG、TMAの流量に対する、V族元素を含む化合物であるアンモニアの流量の比であるV/III比をそれぞれ異ならせてn層35を形成させた検証用素子2Aを複数作製した。その際、TESの流量を異ならせることで、異なるSiドープ濃度を示すn層35を有する検証用素子2Aを作製した。
【0054】
図4は、V/III比を変化させて検証用素子を作製したときの、V/III比と検証用素子2Aのn層35のSi濃度及びキャリア濃度の関係をグラフに示したものである。なお、n層35のSi濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)によって計測し、キャリア濃度はホール測定装置によって計測した。
【0055】
(実施例1)
n層35の成長条件として、Siドープ濃度を4×1019/cmとし、V/III比を2000,4000,8000,10000,12000とした5種類の検証用素子2Aを形成した。
(実施例2)
n層35の成長条件として、Siドープ濃度を1×1019/cmとし、V/III比を2000,4000,8000,10000,12000とした5種類の検証用素子2Aを形成した。
【0056】
n層35のSiドープ濃度を4×1019/cmとした実施例1によれば、V/III比を2000としてn層35を成長させた場合、n層35のSi濃度とキャリア濃度はほぼ等しい。そして、V/III比が4000のときは、キャリア濃度が8×1019/cmと、Si濃度の倍ものキャリア濃度の値が実現されている。V/III比が8000のときは、キャリア濃度が7×1019/cmを示し、V/III比が4000のときよりはキャリア濃度の値は低いものの、Si濃度の倍近いキャリア濃度の値が実現されている。V/III比が10000のときは、キャリア濃度が5×1019/cmを示し、V/III比が8000のときよりもキャリア濃度は低下しているものの、依然としてSi濃度よりは高い値を示している。一方、V/III比が12000のときは、キャリア濃度が3×1019/cmを示し、Si濃度の値を下回っている。
【0057】
n層35のSiドープ濃度を1×1019/cmとした実施例2においても、キャリア濃度の値の傾向は、実施例1と同様である。すなわち、V/III比を2000としてn層35を成長させた場合、n層35のSi濃度とキャリア濃度はほぼ等しい。V/III比が4000のときは、キャリア濃度が4×1019/cmを示しており、Si濃度に比べて極めて高いキャリア濃度の値が実現されている。V/III比が8000、10000の場合は、V/III比が4000のときに比べるとキャリア濃度の値は低いものの、依然としてSi濃度よりも高いキャリア濃度が実現されている。一方、V/III比が12000のときは、キャリア濃度がSi濃度の値を下回っている。
【0058】
図4に示す結果によれば、Si濃度の値に関係なく、n層35を成長させるときの成長条件として、V/III比を2000より高く10000以下とした場合には、n層35には、Si濃度よりも高いキャリア濃度が形成されることが分かる。特に、V/III比を4000とした場合には、n層35には、Si濃度よりも極めて高いキャリア濃度が形成される。これにより、Siを極めて高濃度でドープしなくても、V/III比を2000より高く10000以下としてn層35を成長させることで、高いキャリア濃度が実現され、n層35を低抵抗化させられることが分かる。
【0059】
なお、V/III比を12000のように、極めて高い値とした場合には、n層35に形成されるキャリア濃度は、ドープしたSi濃度を下回っている。これは、n層35の成長過程は、エッチングと成長のバランスにより成長するが、V/III比をあまりに高くした結果、エッチングが強くなり、結晶欠陥が生じたことでキャリアが不活性化したものと推察される。なお、この現象の発生は、図8に示すn層35の断面写真を参照して後述される。
【0060】
[I−V特性、発光特性の検証]
次に、V/III比を2000より高く10000以下としてn層35を成長させて素子を形成することで、低い動作電圧で発光に必要な電流を素子に流すことができる点につき、実施例を参照して説明する。
【0061】
図5は、I−V特性及び発光特性を検証するための検証用素子の例である。図5に示す検証用素子2Bは、図3に示す検証用素子2Aのn層35の上面に、更に発光層33、p層31及びp層41を形成し、p層41の上面に給電端子42を2箇所形成している。p層41は、p層31と給電端子42とのコンタクト抵抗を低減させるために形成されたものであり、ここでは高濃度ドープのp−GaNで構成した。
【0062】
そして、n層35の成長条件として、Siドープ濃度を4×1019/cmとし、V/III比を2000,4000,8000,10000,12000とした5種類の検証用素子2Bを形成した。
【0063】
図6は、n層35の形成時のV/III比を異ならせた各検証用素子2Bに対して電流を印加したときの、電流−発光出力の関係を示すグラフである。
【0064】
また、図7は、n層35形成時のV/III比を異ならせた各検証用素子2Bに対して電圧を印加したときのI−V特性を示すグラフであり、各検証用素子2Bに対し、給電端子42に電圧Vを印加したときに流れる電流Iの関係をグラフ化したものである。
【0065】
図6によれば、V/III比を4000,8000,10000としてn層35を形成した検証用素子2Bは、V/III比を2000,12000としてn層35を形成した検証用素子2Bと比べて、同一の電流が流れているときの発光出力が高いことが分かる。また、図7によれば、V/III比を4000,8000,10000としてn層35を形成した検証用素子2Bは、V/III比を2000,12000としてn層35を形成した検証用素子2Bと比べて、同一の電流を流すのに必要な電圧が低く抑えられていることが分かる。
【0066】
図6及び図7の結果からも、V/III比を2000より高く10000以下としてn層35を成長させることで、n層35が低抵抗化できていることが分かる。すなわち、V/III比を2000より高く10000以下として形成したn層35を含む窒化物発光素子1を形成することにより、低い駆動電圧で必要な電流量を流すことができ、また同一の電流量を供給したときの発光量を向上させることができる。つまり、n層35へのSiドープ濃度を著しく高くすることなく、発光効率を向上させることができる。
【0067】
[V/III比の上限値の検証]
図4を参照して前述したように、V/III比を12000のように極めて高い値とした場合には、n層35に形成されるキャリア濃度は、ドープしたSi濃度を下回っている。これは、n層35に結晶欠陥が生じたものと推察される。この点につき、図8に示すn層35の断面TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)写真を参照して説明する。
【0068】
図8は、図3に示す検証用素子2Aを、V/III比を2000,4000,8000,10000,12000としてn層35を成長させた5種類の検証用素子2A(図3参照)における、n層35の断面TEM写真である。図8によれば、V/III比を12000とした場合には、アンドープ層36からn層35にかけて形成された貫通転位51の周囲に結晶欠陥52が生じているのが確認される。一方、V/III比を2000,4000,8000,10000とした場合には、このような結晶欠陥52は確認されていない。
【0069】
V/III比を12000とした場合には、n層35内にこの結晶欠陥52が形成されたことで、ドープされたSiの不活性化が起こり、これによってn層35が高抵抗化されると共に、この結晶欠陥52による非発光再結合中心が増加したことで発光効率が低下したものと考えられる。
【0070】
この図8のTEM写真と、図4のグラフにより、n層35の形成時のV/III比はあまりに高くすると結晶欠陥52の発生に起因したSiの不活性化によって、ドープされたSi濃度よりもキャリア濃度が下回ることが分かる。よって、n層35の形成時のV/III比は、結晶欠陥52の発生が生じない値をその上限とするのが好ましい。図4及び図8によれば、少なくともn層35の形成時のV/III比が10000の場合には、結晶欠陥52の発生が確認されず、Si濃度よりも高いキャリア濃度を示すn層35を形成できている。よって、n層35の形成時のV/III比は10000以下とするのが好ましい。
【0071】
また、図4によれば、n層35の形成時のV/III比を2000とした場合には、Si濃度とキャリア濃度がほぼ同等であり、V/III比を4000,8000,10000とした場合には、Si濃度よりも高いキャリア濃度を示すn層35を形成できている。これにより、少なくともn層35の形成時のV/III比を2000より高く、10000以下とすることで、Si濃度よりも高いキャリア濃度を示すn層35を形成できることが分かる。
【0072】
[製造方法]
次に、窒化物発光素子1の製造方法の一例につき説明する。なお、下記製造方法で説明する製造条件や膜厚などの寸法は、あくまで一例であって、これらの数値に限定されるものではない。
【0073】
(ステップS1)
サファイア基板上にLEDエピ層を形成する。この工程は、例えば以下の手順により行われる。
【0074】
〈サファイア基板の準備〉
まず、c面サファイア基板のクリーニングを行う。このクリーニングは、より具体的には、例えばMOCVD装置の処理炉内にc面サファイア基板を配置し、処理炉内に流量が10slmの水素ガスを流しながら、炉内温度を例えば1150℃に昇温することにより行われる。
【0075】
〈アンドープ層の形成〉
次に、c面サファイア基板の表面に、GaNよりなる低温バッファ層を形成し、更にその上層にGaNよりなる下地層を形成する。これら低温バッファ層及び下地層がアンドープ層に対応する。
【0076】
アンドープ層のより具体的な形成方法は例えば以下の通りである。まず、МОCVD装置の炉内圧力を100kPa、炉内温度を480℃とする。そして、処理炉内にキャリアガスとして流量がそれぞれ5slmの窒素ガス及び水素ガスを流しながら、原料ガスとして、流量が50μmol/minのTMG及び流量が250000μmol/minのアンモニアを処理炉内に68秒間供給する。これにより、c面サファイア基板の表面に、厚みが20nmのGaNよりなる低温バッファ層を形成する。
【0077】
次に、MOCVD装置の炉内温度を1150℃に昇温する。そして、処理炉内にキャリアガスとして流量が20slmの窒素ガス及び流量が15slmの水素ガスを流しながら、原料ガスとして、流量が100μmol/minのTMG及び流量が250000μmol/minのアンモニアを処理炉内に30分間供給する。これにより、低温バッファ層の表面に、厚みが1.7μmのGaNよりなる下地層を形成する。
【0078】
〈n層35の形成〉
次に、アンドープ層の上層にAlGa1−xN(0<x≦1)の組成からなるn層35を形成する。なお、必要に応じてその上層にn型GaNよりなる保護層を形成しても構わない。
【0079】
n層35のより具体的な形成方法は例えば以下の通りである。まず、MOCVD装置の炉内圧力を30kPaとする。そして、処理炉内にキャリアガスとして流量が20slmの窒素ガス及び流量が15slmの水素ガスを流しながら、原料ガスとして、TMG、TMA及びアンモニアを、III族元素を含む化合物であるTMG、TMAの流量に対する、V族元素を含む化合物であるアンモニアの流量の比であるV/III比が2000より高く10000以下となるような条件下で処理炉内に供給し、n層35にドープするSi濃度に応じた流量のTESを処理炉内に供給する。
【0080】
例えば、TMGの流量を50μmol/min、TMAの流量を3μmol/min、アンモニアの流量を220000μmol/min、TESの流量を0.045μmol/minとして処理炉内に30分間供給することにより、Al0.06Ga0.94Nの組成を有し、V/III比が4000、ドープされるSi濃度が4×1019/cm、厚みが500nmの高濃度電子供給層をアンドープ層の上層に形成する。
【0081】
上述したように、III族元素を含む化合物であるTMG、TMAの流量に対する、V族元素を含む化合物であるアンモニアの流量比であるV/III比を、2000より高く10000以下としてn層35を成長させる。これにより、ドープされるSi濃度よりも高濃度のキャリアを有したn層35が形成される。
【0082】
GaNよりなる保護層を形成する場合には、その後、TMAの供給を停止すると共に、それ以外の原料ガスを6秒間供給することにより、電子供給層の上層に厚みが5nmのn型GaNよりなる保護層を形成する。
【0083】
〈発光層33の形成〉
次に、n層35の上層にInGaNで構成される井戸層及びAlGaNで構成される障壁層が周期的に繰り返される多重量子井戸構造を有する発光層33を形成する。
【0084】
発光層33のより具体的な形成方法は例えば以下の通りである。まず、MOCVD装置の炉内圧力を100kPa、炉内温度を830℃とする。そして、処理炉内にキャリアガスとして流量が15slmの窒素ガス及び流量が1slmの水素ガスを流しながら、原料ガスとして、流量が10μmol/minのTMG、流量が12μmol/minのTMI(トリメチルインジウム)及び流量が300000μmol/minのアンモニアを処理炉内に48秒間供給するステップを行う。その後、流量が10μmol/minのTMG、流量が1.6μmol/minのTMA、0.002μmol/minのTES及び流量が300000μmol/minのアンモニアを処理炉内に120秒間供給するステップを行う。以下、これらの2つのステップを繰り返すことにより、厚みが2nmのInGaNよりなる井戸層及び厚みが7nmのAlGaNよりなる障壁層による15周期の多重量子井戸構造を有する発光層33が、n層35の表面に形成される。
【0085】
〈p層31の形成〉
次に、発光層33の上層に、AlGa1−yN(0<y≦1)で構成される層(正孔供給層)を形成し、更にその上層にGaNで構成される層(保護層)を形成する。これら正孔供給層及び保護層がp層31に対応する。
【0086】
p層31のより具体的な形成方法は例えば以下の通りである。まず、MOCVD装置の炉内圧力を100kPaに維持し、処理炉内にキャリアガスとして流量が15slmの窒素ガス及び流量が25slmの水素ガスを流しながら、炉内温度を1050℃に昇温する。その後、原料ガスとして、流量が35μmol/minのTMG、流量が20μmol/minのTMA、流量が250000μmol/minのアンモニア及び流量が0.1μmol/minのビスシクロペンタジエニルを処理炉内に60秒間供給する。これにより、発光層33の表面に、厚みが20nmのAl0.3Ga0.7Nの組成を有する正孔供給層を形成する。その後、TMAの流量を9μmol/minに変更して原料ガスを360秒間供給することにより、厚みが120nmのAl0.13Ga0.87Nの組成を有する正孔供給層を形成する。
【0087】
更にその後、TMAの供給を停止すると共に、ビスシクロペンタジエニルの流量を0.2μmol/minに変更して原料ガスを20秒間供給することにより、厚みが5nmのp型GaNよりなるコンタクト層を形成する。
【0088】
なお、p型不純物としては、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)、カーボン(C)などを用いることができる。
【0089】
このようにしてサファイア基板上に、アンドープ層、n層35、発光層33及びp層31からなるLEDエピ層が形成される。
【0090】
(ステップS2)
次に、ステップS1で得られたウェハに対して活性化処理を行う。より具体的には、RTA(Rapid Thermal Anneal:急速加熱)装置を用いて、窒素雰囲気下中650℃で15分間の活性化処理を行う。
【0091】
(ステップS3)
次に、p層31の上層の所定箇所に絶縁層21を形成する。より具体的には、後の工程で給電端子42を形成する領域の下方に位置する箇所に絶縁層21を形成するのが好ましい。絶縁層21としては、例えばSiOを膜厚200nm程度成膜する。なお成膜する材料は絶縁性材料であればよく、例えばSiN、Alでも良い。
【0092】
(ステップS4)
p層31及び絶縁層21の上面を覆うように、導電層20を形成する。ここでは、反射電極19、保護層17、及びハンダ層15を含む多層構造の導電層20を形成する。
【0093】
導電層20のより具体的な形成方法は例えば以下の通りである。まず、スパッタ装置にてp層31及び絶縁層21の上面を覆うように、膜厚0.7nmのNi及び膜厚120nmのAgを全面に成膜して、反射電極19を形成する。次に、RTA装置を用いてドライエアー雰囲気中で400℃、2分間のコンタクトアニールを行う。
【0094】
次に、電子線蒸着装置(EB装置)にて反射電極19の上面(Ag表面)に、膜厚100nmのTiと膜厚200nmのPtを3周期成膜することで、保護層17を形成する。更にその後、保護層17の上面(Pt表面)に、膜厚10nmのTiを蒸着させた後、Au80%Sn20%で構成されるAu−Snハンダを膜厚3μm蒸着させることで、ハンダ層15を形成する。
【0095】
なお、このハンダ層15の形成ステップにおいて、サファイア基板とは別に準備された支持基板11の上面にもハンダ層を形成するものとして構わない。このハンダ層は、ハンダ層15と同一の材料で構成されるものとしてよい。なお、この支持基板11としては、構造の項で前述したように、例えばCuWが用いられる。
【0096】
(ステップS5)
次に、サファイア基板と支持基板11とを貼り合せる。より具体的には、280℃の温度、0.2MPaの圧力下で、ハンダ層15と支持基板11を貼り合わせる。
【0097】
(ステップS6)
次に、サファイア基板を剥離する。より具体的には、サファイア基板を上に、支持基板11を下に向けた状態で、サファイア基板側からKrFエキシマレーザを照射して、サファイア基板とLEDエピ層の界面を分解させることでサファイア基板の剥離を行う。サファイアはレーザが通過する一方、その下層のGaN(アンドープ層)はレーザを吸収するため、この界面が高温化してGaNが分解される。これによってサファイア基板が剥離される。
【0098】
その後、ウェハ上に残存しているGaN(アンドープ層)を、塩酸などを用いたウェットエッチング、ICP装置を用いたドライエッチングによって除去し、n層35を露出させる。
【0099】
(ステップS7)
次に、隣接する素子同士を分離する。具体的には、隣接素子との境界領域に対し、ICP装置を用いて絶縁層21の上面が露出するまでLED層30をエッチングする。これにより、隣接領域のLED層30同士が分離される。なお、このとき絶縁層21はエッチングストッパー層として機能する。
【0100】
なお、このエッチング工程では、素子側面を垂直でなく、10°以上のテーパ角を有する傾斜面とするのが好ましい。このようにすることで、後の工程で絶縁層を形成する際、LED層30の側面に絶縁層が付着しやすくなり、電流リークを防ぐことができる。
【0101】
また、ステップS7の後、LED層30の上面にKOH等のアルカリ溶液で凹凸面を形成するものとしても構わない。これにより、光取り出し面積が増大し、光取り出し効率を向上させることができる。
【0102】
(ステップS8)
次に、n型35の上面に給電端子42を形成する。より具体的には、膜厚10nmのNiと膜厚10nmのAuからなる給電端子42を形成後、窒素雰囲気中で250℃1分間のシンタリングを行う。
【0103】
その後の工程としては、露出されている素子側面、及び給電端子42以外の素子上面を絶縁層で覆う。より具体的には、EB装置にてSiO膜を形成する。なおSiN膜を形成しても構わない。そして、各素子同士を例えばレーザダイシング装置によって分離し、支持基板11の裏面を例えばAgペーストにてパッケージと接合して給電端子42に対してワイヤボンディングを行う。
【0104】
[別実施形態]
以下、別実施形態について説明する。
【0105】
〈1〉 図1では、窒化物発光素子1としていわゆる縦型構造のLED素子を想定して説明したが、図9に示すように、窒化物発光素子1を横型構造のLED素子として実現しても構わない。
【0106】
図9に示す窒化物発光素子1は、サファイア基板61上に、アンドープ層36を有し、その上層に、n層35、発光層33、及びp層31を下からこの順に積層して構成されている。n層35の上面が一部露出されており、n層35のこの露出面の上層と、p層31の上面に給電端子42が形成されている。
【0107】
この構成においても、V/III比を2000より高く10000以下としてAlGa1−xNを成長させることによってn層35を形成することで、ドープされているSi濃度よりもキャリア濃度の高いn層35が実現されるため、素子抵抗の低減化が図られ、上述した縦型の窒化物発光素子1と同様の効果が実現される。
【0108】
図9に示す窒化物発光素子1を形成するに際しては、上述したステップS1〜S2の後、p層31側からn層35の一部上面が露出するまでエッチングを行なう。その後、p層31の上面及びn層35の一部上面に、ステップS8と同様の処理を行なって給電端子42を形成する。
【0109】
なお、図9の窒化物発光素子1において、サファイア基板61の裏面側に、反射電極19を形成しても構わない。また、給電端子42の上面を除くLED層30の上面及びLED層30の側面を覆う絶縁層を形成しても構わない。
【0110】
〈2〉 図1に示した構造、並びに上述した製造方法は、好ましい実施形態の一例であって、これらの構成やプロセスの全てを備えなければならないというものではない。
【0111】
例えばハンダ層15は、2つの基板の貼り合せを効率的に行うべく形成されたものであって、2基板の貼り合せが実現できるのであれば窒化物発光素子1の機能を実現する上で必ずしも必要なものではない。
【0112】
反射電極19は、発光層33から放射される光の取り出し効率を更に向上させる意味においては備えるのが好適であるが、必ずしも備えなければならないというものではない。保護層17なども同様である。
【0113】
また、絶縁層21は、ステップS7における素子分離時のエッチングストッパー層として機能させるために形成したが、必ずしも備えなければならないものではない。ただし、絶縁層21を、支持基板11の基板面に直交する方向において、給電端子42に対向する位置に形成することで、電流を支持基板11の基板面に平行な方向に拡げる効果が期待できる。
【符号の説明】
【0114】
1 : 窒化物発光素子
2A : 検証用素子
2B : 検証用素子
11 : 支持基板
15 : ハンダ層
17 : 保護層
19 : 反射電極
20 : 導電層
21 : 絶縁層
30 : LED層
31 : p層
33 : 発光層
35 : n層(AlGa1−xN)
36 : アンドープ層
41 : p
42 : 給電端子
51 : 貫通転位
52 : 結晶欠陥
61 : サファイア基板
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図9
図8