(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103308
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】加速度防護スーツ
(51)【国際特許分類】
B64D 10/00 20060101AFI20170316BHJP
A41D 13/002 20060101ALI20170316BHJP
A41D 31/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
B64D10/00
A41D13/002
A41D31/00 B
A41D31/00 C
A41D31/00 501E
A41D31/00 502B
A41D31/00 503Z
A41D31/00 501A
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-539279(P2013-539279)
(86)(22)【出願日】2011年11月18日
(65)【公表番号】特表2013-544206(P2013-544206A)
(43)【公表日】2013年12月12日
(86)【国際出願番号】EP2011070433
(87)【国際公開番号】WO2012066114
(87)【国際公開日】20120524
【審査請求日】2014年9月17日
(31)【優先権主張番号】1948/10
(32)【優先日】2010年11月19日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】513111824
【氏名又は名称】ジー−ニアス エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】レインハード,アンドレアズ
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05027437(US,A)
【文献】
米国特許第03523301(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0275291(US,A1)
【文献】
特表2007−508981(JP,A)
【文献】
特表2005−509550(JP,A)
【文献】
米国特許第03392405(US,A)
【文献】
米国特許第03505990(US,A)
【文献】
実開昭60−152628(JP,U)
【文献】
米国特許第04534338(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 10/00
A41D 13/002 − 13/005
A41D 27/28
A62B 17/00 − 17/08
B63C 11/04 − 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐伸縮織物材料から作られるカバー(4)、及び複数の空気チューブ(2)を有する、航空機のパイロット用の加速度防護スーツであって、前記カバー(4)の少なくとも一部のパーツは、2つの壁を有しており、したがって該カバー(4)の内側及び外側にコンパートメント(6)を形成し、可撓性の伸縮性のあるプラスチックからなる前記空気チューブ(2)が前記コンパートメント内に挿入され、前記空気チューブ(2)には、加速に応じた空気圧を供給することができ、したがってブラダーとして伸縮することができる、加速度防護スーツにおいて、
該加速度防護スーツには、空気ブラダーを形成する空気チューブ(2)を有する少なくとも2つの異なるタイプのコンパートメント(6)、すなわち、「スペーサー」(9)として働く第1のタイプのコンパートメント(6)であって、該第1のタイプのコンパートメント(6)の、着用者の身体に向かって面する側は、弾性の織布又は編物から作られ、該第1のタイプのコンパートメント(6)の反対の側は非弾性材料から作られ、該第1のタイプのコンパートメント(6)の内部に緩い第1のタイプの空気チューブ(9)を有し、前記第1のタイプの空気チューブ(9)に圧縮空気が供給されている間に、前記第1のタイプの空気チューブ(9)は、前記第1のタイプのコンパートメント(6)とは異なる輪郭を形成するように構成され、該第1のタイプのコンパートメント(6)内部の前記第1のタイプの空気チューブ(9)の容積は、該第1のタイプのコンパートメント(6)の内側容積よりも小さい、第1のタイプのコンパートメント(6)、
並びに、「筋状体」(10)として働く第2のタイプのコンパートメント(6)であって、前記第2のタイプのコンパートメント(6)の、着用者の身体に向かって面する側は、耐伸縮織物材料から作られ、前記第2のタイプのコンパートメント(6)の反対の側も耐伸縮織物材料から作られ、前記第2のタイプのコンパートメント(6)は、内部に第2のタイプの空気チューブ(10)を有し、該第2のタイプのコンパートメント(6)の内側にはチューブ材料が付着しており、前記第2のタイプのコンパートメント(6)及び前記第2のタイプの空気チューブ(10)は同じ輪郭を形成するように構成される第2のタイプのコンパートメント(6)が備え付けられ、
また加えて、前記加速度防護スーツ内には、該加速度防護スーツの着用者の腹部領域に位置し、全ての前記空気チューブ(2)が接続され、全てのコンパートメント(6)内の全ての前記空気チューブ(2)と自由に連通する圧力ブラダー(12)があり、該圧力ブラダー(12)は、該加速度防護スーツの圧縮空気供給源を接続することができるとともに、コックピット内の供給空気圧及び/又は圧力が降下すると閉じるように設定されている少なくとも1つのメインバルブ(13)を有し、
前記複数の空気チューブ(2)は、前記第1のタイプの空気チューブ(9)である空気チューブ(2)、前記第2のタイプの空気チューブ(10)である空気チューブ(2)、及び前記第1のタイプの空気チューブ(9)と前記第2のタイプの空気チューブ(10)が接続されている空気チューブ(2)から構成され、
前記第1のタイプの空気チューブ(9)は、前記着用者の身体に対して局所的な圧力を形成するように構成され、前記第2のタイプの空気チューブ(10)は、前記着用者の身体に対して一様な圧力を形成するように構成されることを特徴とする、加速度防護スーツ。
【請求項2】
「筋状体」として働く第2のタイプのコンパートメントである、前記第2のタイプのコンパートメント(6)は前記カバー(4)と同じ材料から作られ、前記「筋状体」(10)はそれらの容積が制限され、また「スペーサー」として働く第1のタイプのコンパートメントである、前記第1のタイプのコンパートメント(6)の内側は伸縮性のある弾性材料から作られ、それによって、前記「スペーサー」(9)は前記第1のタイプのコンパートメントの弾性の一部として伸縮することができることを特徴とする、請求項1に記載の加速度防護スーツ。
【請求項3】
スペーサーとして働く前記第1のタイプの空気チューブ(9)の前記第1のタイプのコンパートメント(6)は、前記加速度防護スーツの外側に対して位置決めされる側に、低下した気圧を補償する閉じた薄壁ブラダー(25)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の加速度防護スーツ。
【請求項4】
前記加速度防護スーツの前記「筋状体」(10)及び前記スペーサー(9)は、該加速度防護スーツによって覆われる以下の身体部分:腕、脚、胸部、背骨及び腹部にわたって伸縮することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項5】
前記加速度防護スーツは、周囲空気を吸引するとともに換気用脈管(21)に供給する電気的なファン(23)を含み、前記換気用脈管(21)は前記加速度防護スーツ内に別個に配置されており、また閉じリップを有する複数の孔(22)を有する換気用脈管(21)は、「スペーサー」として働く前記第1のタイプのコンパートメント内に配置され、換気用脈管(21)を通して、前記ファン(23)によって別個の換気用脈管(21)にわたって前記第1のタイプのコンパートメントの内側に空気を供給することができ、空気は、前記加速度防護スーツの着用者の体表面を冷却するために前記第1のタイプのコンパートメントの材料によって拡散させることができることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項6】
前記加速度防護スーツは、周囲空気を吸引するとともに換気用脈管(21)に供給する電気的なファン(23)を含み、前記換気用脈管(21)は前記加速度防護スーツ内に別個に配置されており、また閉じリップを有する複数の孔(22)を有する換気用脈管(21)は、「筋状体」として働く前記第2のタイプのコンパートメント内に一体化され、換気用脈管(21)を通して、前記ファン(23)によって別個の換気用脈管にわたって前記第2のタイプのコンパートメントの内側に空気を供給することができ、空気は、前記加速度防護スーツの着用者の体表面を冷却するために前記第2のタイプのコンパートメントの材料によって拡散させることができることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項7】
前記加速度防護スーツは、周囲空気を吸引するとともに換気用脈管(21)に供給する電気的なファン(23)を含み、前記換気用脈管(21)は前記加速度防護スーツ内に別個に配置されており、また閉じリップを有する複数の孔(22)を有する換気用脈管(21)は、空気チューブに沿って「スペーサー」として働く前記第1のタイプのコンパートメントに配置され、空気圧が上昇した場合に、空気を、該換気用脈管(21)を介して前記第1のタイプのコンパートメントの内側に送達することができ、空気は、前記加速度防護スーツの着用者の体表面を冷却するために前記第1のタイプのコンパートメントの材料によって拡散させることができ、同様に、閉じリップを有する複数の孔(22)を有する換気用脈管(21)が、前記第1のタイプのコンパートメントの内側に対向して一体化されている前記空気チューブに沿って、「筋状体」として働く前記第2のタイプのコンパートメント内にあり、空気圧が上昇した場合に、空気を、該換気用脈管を介して送達することができ、空気は、前記加速度防護スーツの着用者の体表面を冷却するために隣接する前記第2のタイプのコンパートメントの材料によって拡散させることができることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項8】
前記加速度防護スーツの、身体に隣接するコンパートメント側の表面に位置する前記コンパートメントの少なくとも40%が、「スペーサー」として働く第1のタイプのコンパートメントであり、少なくとも40%が「筋状体」として働く第2のタイプのコンパートメントであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項9】
前記加速度防護スーツの、身体に隣接する前記コンパートメントの側の表面に位置する前記コンパートメントの半分が、「スペーサー」として働く第1のタイプのコンパートメントであり、半分が「筋状体」として働く第2のタイプのコンパートメントであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項10】
前記圧力ブラダー(12)は、空気ポケット(16)への圧縮空気の供給部であり、前記空気ブラダーが接続されるとともに空気ポケット(16)のクロック式圧送を達成するのに用いることができる装置も有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項11】
前記圧力ブラダー(12)に接続されている、空気ポケット(16)のクロック式圧送を行う前記装置は、前記第1のタイプのコンパートメントと相互作用し、前記第1のタイプのコンパートメントは、足から喉セクションにかけて伸縮し、部分的に水で満たされる水脈管及び複数の空気ポケットを有し、前記複数の空気ポケットは、前記水脈管の内部に固定されているとともに底部から上部まで順次圧縮空気で満たすことができ、それによって、水を、底部から上部へ押し上げることができ、これによって、前記加速度防護スーツ内に、循環を助けるか又は着用者の心臓の電解質レベルを高めるための、律動的に上昇する圧力、及び前記空気ポケットの順次の又は完全な通気の場合には低下する圧力を形成することを特徴とする、請求項10に記載の加速度防護スーツ。
【請求項12】
前記換気用脈管(21)の空気は前記ブラダー(12)によって供給されることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【請求項13】
前記圧力ブラダー(12)は下流が別のチェックバルブに接続し、上流が前記換気用脈管(21)に接続し、別のチェックバルブは、前記航空機の供給管路内及び/又はコックピット雰囲気中の突然の圧力損失の場合に閉じることを特徴とする、請求項5〜7及び12のいずれか一項に記載の加速度防護スーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能航空機の乗組員用の加速度防護スーツに関する。そのような防護スーツは幾つかの職務遂行中に利用可能である。そのような防護スーツは、いわゆる空気圧式防護スーツである、圧縮流体として空気が供給されるスーツ、及び、流体静力学的な原理に基づいて作用するスーツといった、異なるタイプのスーツに分類される。後者のタイプは、スーツを着用する人に対して直接的に静水圧を形成するか、又は、局所的かつ瞬間的なZ軸を主に通るとともに防護スーツのサイズを小さくすることによって対応して液柱の内圧を増大させる流体脈管が設けられている。それらのスーツはともに、流体は水のみに限定されないが、単に流体静力学的防護スーツとして知られている。
【背景技術】
【0002】
本発明は、特に空気圧式防護スーツに関連する。幾つかのそのような防護スーツが、例えば、最も類似する従来技術である特許文献1から既知であり、さらに、数例であるが、特許文献2、特許文献3及び特許文献4からも既知である。特許文献5は、二重壁のコンパートメント又はバッグを有する、低伸縮材料から作られる保護スーツを開示している。コンパートメント内には、可撓性プラスチックパイプがある。これらの空気パイプは、加速に応じた空気圧で充填可能であり、したがってバブルとして伸縮可能である。
【0003】
そのような防護スーツでは、防護される身体の部分又は領域が、防護スーツ又はそのパーツによって囲まれる。特に極度の加速に晒される身体の部分又は領域は、それによって、G
Zとして知られる瞬間的かつ局所的なZ軸の加速を受ける圧縮空気又はガスによる作用を受けるブラダー又はパイプを介して、そのような防護スーツ内で加圧され、それによって、止血圧が弱められる。これがそのような防護スーツの全体的な目的である。
【0004】
効果的なG防護のコストは、従来のスーツでは依然として相当なものであり、本発明の意図は新たなスーツによってそれらのコストを低減することである。この防護スーツは、従来のスーツの特に境界エリアにおいて当てはまる、着用者による特別な動作の必要なく、あらゆる状況下及びあらゆる条件において効果的であるべきである。従来の防護スーツは比較的重くて堅く、着用者が中で汗をかきやすく、このことは着用者の精神状態に悪影響を与える。スーツによっては着用者の足及び腕の痛みを引き起こすものもある。過剰な圧力によって誘発される呼吸(陽圧呼吸、PPB)に関しては、医学的見地からは証明されていない。したがって、絶対的に信頼性のあるG防護を確実にすること、すなわち、いわゆるGロックを確実に防止することに加えて、改良されたG防護スーツは、過剰な圧力下での呼吸を必要とすることなく、可能な限り低コストでこのG防護を確実にするべきである。改良されたG防護スーツは、ユーザーがいかなる影響も与えることなく、すなわち、「抗G緊張動作」(AGSM:Anti G Straining Manoeuvre)を行うことなく、あらゆる状況で可能な限りその最適な効果を示すべきであり、下着と同様に、着用する上で高い快適性を提供するべきである。したがって、改良されたG防護スーツは、着用者の尚早な疲労を防止し、痛みを確実に防止するべきである。さらに、改良されたG防護スーツは、より良い防護を自動的に提供する、すなわち、突然の圧力降下の場合に適切な防護を確実にするとともに、水中への浸水の場合に浮きとなる支持体を提供するべきである。任意選択的には、改良されたG防護スーツは、能動冷却装置を含むべきである。スーツは、標準的なスーツのように製造可能であるべきであり、事前に必要とされる、そのようなスーツをそれぞれの個々の着用者に合わせることを、もはや必要のないものにするべきである。
【0005】
このことは、反力によって身体又は防護スーツの異なる部分に異なる圧力が供給されるという圧力レジームによってもたらされる。防護スーツの異なる領域はこの目的で異なって開発される。
【0006】
覆っている防護スーツの接触圧は着用者の身体上で変わるため、これらの圧力を生じさせるブラダーを、防護される身体の部分に応じて異なるサイズで設計するべきである。先行技術文献から分かるように、ブラダーの容積は比例して大きく、これは、空気の圧縮率と組み合わせて、G
Zの高い開始速度を可能にし、防護スーツの遅い反応につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第1755948
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0289050号
【特許文献3】特開2008−12958号
【特許文献4】独国特許第102007053236号
【特許文献5】国際公開第03/020586号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、防護される身体の相対高さに従って、また影響のある局所的かつ瞬間的な加速G
Zに従って、防護スーツによって防護される身体の内圧を制御するとともに、満たされる容積を最小限に抑えることである。防護スーツは更に、正確なフィットを必要とすることなく着用者にとって快適であるべきである。防護スーツは、過剰な圧力中での呼吸を必要とすることなく着脱が容易であるべきであり、高レベルの防護及び温度(climate)制御を提供するべきである。
【0009】
本発明の別の目的は、この内圧の律動的な変化によって、着用者の静脈還流を助けることである。この問題の答えは、本発明の特徴に関しては特許請求の範囲の請求項1に、及び他の有利な発展形態に関しては従属する請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるスーツは、繊維の伸び及び結合部の伸張に抵抗を示す耐伸縮織物材料から作られるカバーを含む。ポケットが、例えば縫い付け、糊付け又は溶着によってこのカバー内及びカバー上に固定される。これらのコンパートメントは、カバーを二重にすることによって形成され、織物材料のストリップが、その壁の内側又は外側に設けられることによってその縁に沿ってのみカバーに取り付けられる。これらのコンパートメントは、第1の場合には、カバーと同じ材料の織物から同様に作られ、第2の場合には、例えばカバーの内側の伸縮性のある生地から作られる。加圧時に膨張する、エラストマーから作られる可撓性のチューブがこれらのコンパートメント内に挿入される。前者のコンパートメントは、着用者の身体に当接している側を弛緩状態でその容積に沿って伸張させることによって膨張することができる。コンパートメントは、個人の身体が着用している加速度防護スーツに、外周の張りによって着用者の身体に必要とされる内圧を形成する程度までプレストレスをかける。更に膨張することができない後者のコンパートメントが、空気チューブ内の高圧下でそれらの幅に沿って収縮することによってカバーを締め付ける。
【0011】
本発明の着想による更なる追加として、水が部分的に満たされる脈管を、足から喉セクションまで延びる第1のタイプのコンパートメント内に任意選択的に挿入することができる。これらの脈管は、水脈管の内部に締結されるとともに底部から上部まで圧縮空気によって順次満たされる複数の空気ポケットを含む。したがって、水は、底部から上部へ変位し、加速度防護スーツ内に、律動的に上昇する圧力を、また空気ポケットの順次の又は完全な通気の場合には低下する圧力を形成する。これによって、サイクルが助けられ、心臓の電解質レベルが増す。
【0012】
本発明の着想を、添付の図面を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1a】防護スーツの非アクティブ状態における身体の部分の概略断面図である。
【
図1b】防護スーツの作動状態における同じ断面図である。
【
図2a】「スペーサー」として知られる第1のタイプの空気チューブの断面図である。
【
図2b】「スペーサー」として知られる第1のタイプの空気チューブの断面図である。
【
図3a】「筋状体」として知られる第2のタイプの空気チューブの断面図である。
【
図3b】「筋状体」として知られる第2のタイプの空気チューブの断面図である。
【
図4】非アクティブなスペーサー及び非アクティブな高圧ブラダーを有するコンパートメントを示す図である。
【
図5】アクティブなスペーサー及びアクティブな高圧ブラダーを有するコンパートメントを示す図である。
【
図9a】空気を含まない温度制御チューブの上面図である。
【
図9b】空気を含む温度制御チューブの上面図である。
【
図10】従来の防護スーツを着用した場合及び本発明による防護スーツを着用した場合の持続的G負荷の比較データを有する図である。
【
図11】従来の防護スーツを着用した場合及び本発明による防護スーツを着用した場合のG正規化負荷の心拍曲線の比較データを有する図である。
【
図12】3つの従来の防護スーツA、B及びCと比較した本発明による防護スーツのz軸におけるG負荷の閾値を示すである。
【
図13】異なる防護スーツの場合の正規化されかつ相対的に達成されるG
Z負荷を考慮に入れた、循環器系パラメーターの平均変化、すなわち、ベースラインと比較した直流成分(定数成分)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1aは、身体の部分1、例えば太腿の断面図を概略的に示す。この身体の部分1は、防護スーツの織物カバー4によって密接して覆われている。例えば、2つの空気チューブ2が織物カバーの内部に固定されている。空気チューブ2は
図1aでは空であり、身体の部分1とカバー4との間で平坦になっている。空気チューブ2は、エラストマーで構成され、可撓性及び弾性でもある。
図3に示されるように、空気チューブ2は、伸縮性のある織物カバーによって少なくとも一方の側が包囲されており、スーツ4の内部に、すなわち、織物カバー4の、身体の部分に面する全ての側で固定されている。空気チューブ2のみが圧縮空気によって作用を受ける場合、空気チューブ2はカバー4をピンと張り、これによって外周の張りσが形成され、これは、関係式
σ=p×r
によって、身体組織内に圧力pを形成する。したがって、
【0015】
【数1】
となり、pは、身体の部分に接する曲線rに反比例する。
【0016】
カバー4を含むスーツは、好ましくは、例えばアラミド繊維である、低い結合及び生地の伸びを有する低伸縮性織物から作製される。スーツは皮膚に接して直接着用され、このため従来の下着の圧縮率さえも考慮されない。スーツは、任意選択的には、衛生上の理由から特別に適合される薄手の織物の下着とともに着用することもできる。しかし、防護スーツは従来の洗濯機で洗うことができる。
【0017】
着用者の身体内に必要な内圧を発生させるために、
図2a、
図2bによる特別な第1のタイプの空気チューブが、これ以降はそれらの機能から「スペーサー」として知られることになるディスプレーサー(displacer)として専ら好適である。
図2aはそのような「スペーサー」のコンパートメント6の断面を示す。
図2a、
図2bのコンパートメント6は、着用者の身体に面する側にのみ弾性の織布又は編物から作られるカバー8を含み、一方で織物コンパートメント6の反対側は非弾性材料で構成される。カバー8の窪みは外周の張りσにほとんど寄与せず、一方でカバー4は一見したところ圧力を伝達する。一方で、そのような空気チューブ2は、カバー8とともに着用者の身体を押圧し、着用者の身体内に必要な内圧を直接生成する。これらの「スペーサー」はしたがって、織物コンパートメントの断面の直接的な特定の収縮を生じさせない。その代わりに、「スペーサー」は、着用者の体表面に接する織物コンパートメント6の弾性の内側8に形成される圧力によって働きかけ、したがって、この身体部分及びその下にある血管に対して局所的な圧力を形成する。このように反力として生成される外周の張りσは、カバー4を通して身体の残りの部分に自然に伝えられ、その結果として、身体に対する防護スーツの十分な張りが生じる。したがって、着用者の身体の体型(topography)がこれらの「スペーサー」によって補正される。スーツはしたがって異なる体表面に適したものとなり、基本的な張りが生成されるため、スーツは、スーツの個々の着用者の体表面に完全に接する。これが、「スペーサー」と名付けられたこのコンパートメントのタイプの主な機能である。これは、当日のスーツの着用者のフィット具合によっては、必要な内圧を形成するには依然として十分ではない場合がある。その結果、記載されるような第2のタイプの他のコンパートメントが用いられる。
【0018】
したがって、本発明によるスーツの目的は、各パイロットの特注の衣類を提供することではなく、多様な着用者の標準的なスーツを目的とする。以下で「スペーサー」と称される第1のタイプのチューブ2からの加圧は、まさにこの目的で用いられる。
【0019】
「スペーサー」の空気チューブ2は、リップ形状の開口が設けられる、縦方向に通過する換気用脈管21を有することができる。防護スーツに電気的に一体化されている別個のファンによって吹き込まれる空気が、これらのリップ形状の開口を通って逃げることができる。防護スーツに一体化されているこのファンは、外気を吸引して換気用脈管21内に吹き込む。空気は次に織物コンパートメントの内側エリアに、及び次に、織物コンパートメント内の過剰な圧力に起因して隣接する織物組織を通して着用者の体表面上に広がる。したがって、空気は着用者への冷却効果を生成する。
【0020】
図3a、
図3bは、第2のタイプの織物コンパートメント内の膨張可能な空気チューブ2の断面を示す。エラストマーから作られる膨張可能なチューブ2は、スーツのカバー4のように同様に低膨張性の織物材料から作られる織物コンパートメント6内に挿入される。スーツ4内の空気チューブは、この織物コンパートメント6に固定され、それによって、空気チューブの外形が各織物コンパートメント6全体にわたって延在する。空気チューブ内の空気圧が外側の圧力よりも大きい場合、チューブ自身が膨らむ。織物コンパートメントの織物材料は膨張することができず、したがって、織物コンパートメントの幅は、織物コンパートメントが平坦であるときのその幅に比して短くなる。したがって、防護スーツは着用者の四肢の周りを締め付ける。
図3a、
図3bに示されるような換気用脈管21は任意選択的であり、防護スーツ内に別々に配置される。換気用脈管21は、織物コンパートメント6内の空気チューブ2に沿い、空気チューブ2に一体化されるため、平滑な表面が形成される。この表面は織物コンパートメント6の内側に隣接する。これらの換気用脈管21は
図3a、
図3bにおいて断面で見てとることができる。織物材料に向かう側には複数のリップ形状の開口がある。これらのリップは内圧が上昇すると開き、空気は、通気性のある隣接する織物材料を通って着用者の体表面まで拡散するように流れて冷却する。給気は、前述したような電気的なファンによって行われる。
【0021】
チューブ2は、
図3aでは空であり、
図3bでは部分的に空気で満たされている。ここで、別個の換気用脈管21が、平滑な表面を形成するように空気チューブ2内に挿入されていることが分かる。コンパートメント6はカバー4及び内側カバー7から形成され、これらはともにスーツのカバー4と同じ低弾性の材料から作られる。空気チューブ2は、膨らむと、最初にコンパートメント6全体を満たし、したがってコンパートメント6の横寸法すなわち幅を短くする。したがって、このように形成される織物コンパートメントは「筋状体」と呼ばれる。これらの「筋状体」は、それらの膨張不可能なシースの長さを短くし、したがって着用者の身体に対して一様な圧力を形成する。
【0022】
図4は、織物コンパートメントの双方の異なる側4及び7、すなわち非弾性の側4及び弾性の側7とともに「スペーサー」として働く空気チューブ2を有する第1のタイプの織物コンパートメントの別の実施形態(execution)を示す。薄壁の、閉じた別個のプラスチックブラダー25が、空気チューブ2と織物コンパートメントの非弾性の外側との間に特別な特徴部として組み込まれている。外圧が低下すると、プラスチックブラダー25の容積が膨らみ、「スペーサー」の空気チューブ2に対向するブラダー25の内側26が空気チューブ2に隣接し、航空機が上昇しているときに低下する高圧を自動的に補償するものとして働く。このブラダー25は、
図4では、外圧が大きくは低下していないため非アクティブである。
図5は、外圧が低下したときに生じることを示している。それに対応して、ブラダー25は膨張し、スペーサーの空気チューブ2も膨張する。この結果、高圧の低下が補償される。この付加的なブラダー25は、付加的な薄い弾性ゴム膜を空気チューブ2の外側に取り付けることによっても形成することができ、この場合、この膜はカバー4に隣接するため、空気チューブ2はその外面によってブラダー25の内側26を形成する。その結果、防護スーツにおけるこの組み合わせはあまり堅いものではなくなる。
【0023】
図6及び
図7は、本発明の着想に従って構成された、一方では「スペーサー」として働く織物コンパートメント、及び他方では「筋状体」として働く織物コンパートメントを有するスーツを示す。ここでは、空気チューブは、好ましくは個々の位置に割り当てられるそれらのタイプに従って符号が付される。これは着用者の体格に依存するため、但し個人の好みに合わせることもできるため、代替的な割り当ても可能である。第1のタイプの空気チューブ、すなわち、
図2a、
図2bによる「スペーサー」は参照符号9を有し、第2のタイプ、すなわち
図3a、
図3bによる「筋状体」として機能する空気チューブは符号10を有する。好ましくは、身体を覆う防護スーツの織物コンパートメントの40%が、スペーサー機能若しくは筋状体機能を有するか、又は、双方の機能部が着用者の身体上におおよそ同じ織物コンパートメント表面を提供する。
【0024】
図6のようにスーツは、四肢全てに、喉から鼠径部までのメイン開口と同様のジッパー11を有し、このジッパーは、
図6に示されるジッパーとは異なって中心に配置することもできる。全ての空気チューブ9、10と直接的又は間接的に連通している中心の圧力ブラダー12がメインバルブ13を有する。航空機の圧縮空気供給源への接続は、概してチューブ14を用いてこのバルブにおいて確立される。空気チューブ9、10はそれぞれ腕及び脚に沿っており、この場合、双方とも膝から胸部にかけて引き上げることができる。足及び手はスーツによって覆われないままである。
【0025】
メインバルブ13は安全バルブとしても機能する。メインバルブ13は、
キャビンの圧力が何らかの理由で降下するか、又は
航空機が供給する圧力が不足すると
すぐに、空気ブラダー12を環境から直ちに閉鎖する。そのような時点で、スーツは圧力スーツとして機能し、圧力状態を危機的ではない閾値内で安定的に維持する。本発明によるこの加速度防護スーツとともに、必要であれば、ABC防御(ABC influence)及び/又は冷水の防護のための付加的な機能を有する、従来の承認されているオーバーオールを着用することができる。さらに、スーツには、スーツ自体が担持するバッテリーによって給電される電気的なファン23が備え付けられる。換気用脈管21は、このファン23から出て種々の空気チューブ9、10に入り、示されるように空気チューブ9、10に沿って配置され、その表面に平滑に一体化される。
【0026】
図7は、後側から見た同じスーツを示す。脚から胸部まで延びる、「スペーサー」として機能する空気チューブ9を容易に見てとることができる。背骨の中央に、「スペーサー」よりも太く見える空気チューブ9がある。
図8は、任意選択的な水脈管15の長手方向概略断面図を示す。3つ以上の空気ポケット16が示されている。最も下の空気ポケット16は既に完全に満たされており、第2の空気ポケット16は部分的に満たされており、第3の空気ポケットは空のままである。空気ポケット16は水脈管15に固定されている。さらに、空気ポケット16は、水脈管15に下から接合し、装置に接続される空気パイプ19に接続されている。この装置には、航空機の圧縮空気供給源によって直接的に又は間接的に供給される。空気ポケット16が空である場合に鼠径部の高さまで水で満たされる水脈管15は、上側の空気ポケット16が膨らむと空気ポケット16の容積の周りで上昇する。次の空気ポケット16が膨らむと、水がその容積の周りで増大する。同じことが、空気ポケット16を膨らませるときに当てはまる。その後、全ての空気ポケット16が通気され、その結果、水位が元の高さまで下がる。さらに、防護スーツのカバー4の上側部分で生成された張りが再び元の値に達する。空気ポケット16の順次の給気及び排気によって、心臓血管系のストレスを低減するマッサージ効果がもたらされる。
【0027】
換気用脈管21は
図9a、
図9bに示されており、通気及び冷却に用いられる。スーツのカバー4にはエラストマーから作られる複数のそのような換気用脈管21が複数あり、固定されている。換気用脈管21は、スーツが空であるときは平坦である。換気用脈管21は、
図9bに示されるように換気用脈管21内の内圧が上昇すると開いて換気用脈管21を通って流れる空気の通路を形成する複数のリップ形状の開口22を有する。換気用脈管21はブラダー12に接続することができるが、このことは、ブラダー12にチェックバルブを必要とするため、航空機からの供給管路又はコックピットの雰囲気中で圧力損失がある場合でも加速度防護スーツの主な機能は変わらないままである。代替的に、換気用脈管21は、航空機からの、又はスーツ内に一体化された電源も有するファンによってスーツからの自発的な、自身の空気供給源を有する。したがって、スーツは、パイロットが航空機の外の待機位置にいる場合であっても通気することができる。パイロットは、出撃する前に、多くの場合に空調管理されているブリーフィングルーム又はメンテナンスルームから航空機に向かうが、航空機内は多くの場合に非常に高温であるため、パイロットは短期間でこの高温に晒される。この結果、防護スーツを着ているパイロットが数分以内に多量に汗をかきはじめるという状況が生じる。しかし、このことは、パイロットの健康状態にかなり有害であり、疲れを加速させる。したがって、スーツの中の身体を効果的に冷却することができることが非常に重要である。これは、ファン23及び換気用脈管21を通した電気的な通気によって実現することができる。
【0028】
「筋状体」及び「スペーサー」が備え付けられているそのような防護スーツによって達成することがきる実際的な結果は驚くべきものである。それらの結果は、2011年の春に、戦闘機のパイロット用の最も大きい遠心分離機のうちの1つにおける試験を用いて測定し、基本的な形で本明細書に示す。試験グループには27歳から56歳の11人の男性及び1人の女性がおり、そのグループは0時間から6400時間に及ぶ飛行経験を有していた。データは、43回の異なるフライトのシミュレーションについて193回の遠心分離体験によって計算した。例として、
図10は、本発明によるG防護スーツによって提供される利点と比較した、従来のG防護スーツである、そのような異なる織物コンパートメントのない、Air Crew Equipment Assembly(英国)からのいわゆるAEAスーツによって耐えられるG負荷を示す。41歳の被験者が耐えたG負荷の積分値(integral)を経時にわたって記録し、この場合、斜線の表面は従来の防護スーツによる積分値を示し、その下の積分値は新たな防護スーツによって達成された測定値を示す。本発明による防護スーツによる積分値は、150秒の期間にわたって76%以上優れていることを示すことが証明された。
【0029】
図11は、この被験者の、異なる防護スーツを着用したときの150秒のストレスにわたるG正規化平均心拍数を示す。斜線の曲線は、従来の防護スーツによる結果であり、最も低い白色の曲線は本発明による防護スーツの結果である。定性的には、この防護スーツによって達成された値は非常に優れており;縦線を有するスーツと比較して、すなわち、Life Support System & Aircrew Equipment Assembly (AEA)(英国)のG防護スーツと比較して44%より低かった。横線を有する曲線は、ユーロファイターにおいて用いられるような、商標名LIBELLE G−Multiplus(登録商標)の、従来の最良のGスーツに属するものであり、本発明による防護スーツは、このスーツと比較しても大幅により優れている。
【0030】
図12は、この試験のときの種々のG防護スーツによる平均G負荷を示す。従来の防護スーツA、B及びCでは4.15±1.62G、4.08+1.82G及び4.36±2.39Gが達成され、本明細書において提示されるG防護スーツでは5.82±2.78Gが達成された。また最後に、
図13は、ベースラインと比較したときの、垂直z軸における正規化され相対的に達成されるG負荷を考慮に入れた、循環器系パラメーターから導出される直流成分(定数成分)の平均変化、いわゆる容積損失指数(Volume Loss Index)、すなわち平均G負荷に分散したDC
810−正規化である、最終的な結果を示す。示されるこの結果は自ら明らかである。また、そのようなスーツの重量は1050gmしかなく、したがって、そのように感じられることはほとんどないであろうが、パジャマ又は下着のように着用するのが非常に快適である。しかし、その機能は非常に納得のいくものであり、他のG防護スーツによって提供される利点に勝る。