(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6103417
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】浮力差を利用した肺活量検出表示装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/091 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
A61B5/08 300
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-235700(P2016-235700)
(22)【出願日】2016年12月5日
【審査請求日】2016年12月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392004015
【氏名又は名称】角元 純一
(72)【発明者】
【氏名】角元 純一
【審査官】
九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−189409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/091
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水 とは水泳用プールの水や温泉の湯などの、人が浸かる水を意味するものとし、
設計的に とは商品の製造に関わる設計レベルの業務において、商品が使用状態に合わせて目的の機能を果たすべく、素材、形状、寸法、回路定数、プログラムのパラメータなどを選択し決定する業務を意味するものとし、
(計算式)は()内のが数値の計算式であるとし、
+、―、*、/ はそれぞれ 加算、減算、乗算、除算 の演算子とし、
(レジスタ名)は そのレジスタ名 の内容であるとし、
水に浮く容器や浮子を フロート とし、
手で握る取手を 取手 とし、
取手とフロートの間にかかる荷重の測定機能を荷重測定機能とし、
取手は荷重測定機能に連結されているものとし、
水に浸かって取手を握って浮かんでいる人の呼吸の、吸い入む過程を吸入行程とし、吐き出す過程を吐出行程とし、
荷重測定機能の出力結果を受けてデータ処理を作用させ、肺活量を算出する機能を計算機能とし、
計算機能は Rmax と Rmin と Rtmax と Rtmin の少なくとも 4個 のレジスタを持つものとし、それぞれのレジスタの内容を、Fmax Fmin Ftmax Ftmin とし、
時系列で測定される荷重測定機能が出力する時々刻々の荷重を f とし、
f の短時間平均値を F とし、
吐出行程では F は大きくなるものとし、
吸入行程では F は小さくなるものとし、
短時間平均 とは、水面の波立ちや取手にかかる微振動や細かい揺れを除去するに必要充分な時間であって、呼吸周期よりも充分短く、肺活量の測定精度に影響を及ぼさない時間であってその手法は設計的に決定されるものとし、
荷重測定機能の出力がディジタル符合かアナログ信号かは設計的に決定されるものとし、
計算機能は荷重測定機能の出力である荷重データを一定のサンプリング周期で取込む機能を持つものとし、
荷重測定機能が機能している定常状態で、
第n 番目のサンプリング値を Fn とし
Fn が、
(Rmax) より大きい場合は (Rmax) を Fn に更新し、
(Rmin) より小さい場合は (Rmin) を Fn に更新し、
F の時系列信号の傾向が 吸入行程にあると判断する機能を吸入行程判定機能とし、
F の時系列信号の傾向が 吐出行程にあると判断する機能を吐出行程判定機能とし、
吸入行程判定機能と吐出行程判定機能の仕組みは設計的に決定されるものとし、
吸入行程に入ったとの判定をもって、(Rmax) を (Rtmax) で更新の後、
さらに (Rtmin) を (Rtmax) で更新するものとし、
吐出行程に入ったとの判定をもって、(Rmin) を (Rtmin) で更新の後、
さらに (Rtmax) を (Rtmin) で更新するものとし、
人が浸かっている水の、あらかじめ測定され既知の密度を D とし、
地球の重力加速度 を A とし、
(Fmax―Fmin)/(D*A) を計算し、その計算結果を C とし、Cの値を得るための計算手順を実行する機能を浮力差容積計算機能とし、
D の値は、あらかじめ設計的に計算機能に組み込まれるか、または、設計的に組み込まれた仕組みにより測定前に器具の操作機能を介して計算機能に伝えられるものとし、
C を測定肺活量とし、
測定肺活量 C の値を肺活量として表示する機能を表示機能とし、
フロート と 取手 と 荷重測定機能 と 浮力差容積計算機能 と 表示機能 とを持つことを特徴とするところの、
息を吸う行程の検出と息を吐く行程の検出ごとに、測定肺活量の表示を更新する肺活量検出表示装置。
【請求項2】
請求項1に記述の、荷重測定機能を水面に浮かせたフロート内部に組み込むことで、フロートの浮力で取手にかかる荷重を測定することで肺活量を算出する仕組みであるところを、荷重測定機能を水底に沈め、取手の代わりに足を乗せる測定台とすることで、測定台にかかる荷重の測定をもって肺活量を算出し、息を吸う行程の検出と息を吐く行程の検出ごとに、測定肺活量の表示を更新する肺活量検出表示装置。
【請求項3】
請求項1に記述の測定肺活量の算出行程において、
吸入行程を判定した以後、次の吐出行程検出までは、
(Fmax―F)/(D*A) を計算し、その計算結果を E とし、
吐出行程を判定した以後、次の吸入行程検出までは、
(F―Fmin)/(D*A) を計算し、その計算結果を E とし、
E の計算機能を浮力差容積計算機能とし、
E を測定肺活量とし、
E の値を 時々刻々の肺活量として表示する機能を表示機能とし、
フロート と 取手 と 荷重測定機能 と 浮力差容積計算機能 と 表示機能 とを持つことを特徴とするところの、測定肺活量の表示を常時更新する肺活量検出表示装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0002】
肺活量計で検索すれば数多くの商品が市場で販売されている。
これらは、息を吹き込むことで肺活量を直接測定する商品である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開2009-9189409 は家庭用浴槽の両端に電極を設け、電極間の電気的特性を測定することにより肺活量を測定する装置に関する。
特開2001-321457 はプールを浸かった個人用の運動用設備であって、肺活量の測定装置も、健康状態の総合的な測定システムに組み込まれたものである。
【発明の概要】
【0004】
請求項で定義した 用語 と 記号 は明細書においても同様とする。
+、―、*、/、= はそれぞれ 加算、減算、乗算、除算、等号 の演算子である。
(計算式)は()内が計算式であることを意味する。
(レジスタ名称) はそのレジスタ名の内容とする。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加齢に伴い肺活量は減少する傾向にある。変化がゆるやかで血圧などのように毎日頻繁に測るものではないが、加齢が進むと三年から五年単位くらいでは顕著な変化がある。
たまに利用する温泉などで湯に浸かりながら、自身の肺活量を話の種の程度に手軽に測定できることは、身体の変化の状況を知る、という意味で通常に設置されている体重計と同様に有効な器具である。
温泉や水泳プールで、簡易に肺活量を測定できる器具があれば便利である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1に、フロートを水面に浮かせに取手を設け、取手とフロートの間にかかる荷重を測定する機能を設ける。
第2に、フロートの代わりに密閉容器を水底に沈め、踏み台を設け、踏み台と密閉容器の間にかかる荷重を測定する機能を設ける。
第3に、人の身体を首まで水中に沈めた状態で肺に、空気を吐ききった状態 と 空気を吸いきった状態 での 取手とフロート または 踏み台と密閉容器 の間にかかる荷重の差測定し、その荷重の差に相当する容積から肺活量を算出し表示する。水の種類や温度によっては比重の違いによる修正を加える。
【発明の効果】
【0007】
第1に、湯や水に浸かりながら簡易に肺活量を測ることができる。
第2に、口を測定器具に接触させる必要がないことから、衛生面で安全であり利用者が不確定多数であるところの、プールや温泉などで利用者が代わる代わる使うことができる。
第3に、肺活量は成長期の子供でもせいぜい一年単位、高齢者であれば数年単位くらいの間隔での測定で充分と考えられる身体機能であることから、病院での肺活量の測定や、家庭単位で測定器具を購入することなく、機会あるごとに気軽に測定することで肺活量の状況を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】浮力差を利用した肺活量検出表示装置の一実施例の説明図。
【
図2】肺活量測定に必要な主要機能の信号処理シーケンスの説明図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1(a)(b)に示す構造の内部に蓄電池の電源を持つところの湯や水に浸かりながら測定できる肺活量測定器具。
【産業上の利用可能性】
【0010】
水泳プールや温泉などの備品としての、簡易な肺活量測定器具
【実施例】
【0011】
図1は、浮力差を利用した肺活量検出表示装置の一実施例の説明図である。
図1(a)は装置の内部構成の説明図。
図1(b)は装置を上面から見た説明図。
図1(c)は荷重検出機能が測定する荷重の、呼吸による変化の様子の説明図。
図1(d)は測定した荷重の瞬時値と短時間平均の様子の説明図。
【0012】
図(a)、図(b)中、
FLOAT は、測定器具を、体重と浮力の差の荷重に打ち勝って肺活量測定装置を浮かせる機能を持つ フロート。
BELLOWS は 重力方向に自由度を保ち測定器具内部へ水が入らないよう、防水機能を持つ ベロー。
HANDLE は水に浸かった人がこれを持ち、足が浮いた状態にするための取手。
MEASURE は体重と浮力の差を測定する荷重測定機能。荷重によるバネの伸縮やストレーンゲージの抵抗変化を利用した、体重計などに使われている公知の荷重測定方法による。
【0013】
CPU は荷重測定機能が出力する荷重データ f を取り込み、その値から、請求項1と請求項2に記述の測定肺活量 C または E を算出し、 C または E の値を測定肺活量として表示するための制御を司る計算機能。
INDICATOR は測定肺活量の表示機能。
【0014】
Fmin は 測定された短時間平均荷重の最小値であるところの、息を吸いきった状態の荷重(Rmin) である。 請求項1に記述のとおり、短時間平均荷重 F の増加の傾向が吐出行程にあることの判定結果をもって、(Rmin) は (Rtmin) で更新される。
【0015】
Fmax は測定された短時間平均荷重の最大値であるところの息を吐ききった状態の荷重であって、(Rmax)である。請求項1に記述のとおり、短時間平均荷重 F の減少の傾向が吸入行程にあることの判定結果をもって、(Rmax) は (Rtmax) で更新される。
ここで、
Fmin=(Rmin)、Fmax=(Rmax)、Ftmin=(Rtmin)、Ftmax=(Rtmax)である。
【0016】
F の増加または減少傾向が、それぞれ、吐出行程または吸入行程であることの判定に関しては、
請求項1に記述のとおり設計的に決定されるが、具体的な代表例としては 以下の第1と第2の方法がある。
第1に、F の増加または減少 があらかじめ設計的に決定した 時間幅あるいは特定のサンプリング数 を継続したことをもって吐出行程または吸入行程にあると推定できる。
第2に、f から定常値を除去した値の積分値の極小値または極大値にあることをもって吐出行程または吸入行程にあると推定できる。
図1(d)中、Tdown と Tup はそれぞれ、区間が吸入行程と吐出行程である。
【0017】
Fmax-Fmin は浮力を差し引いた荷重の最大値と最小値の差であって、肺活量に対応する浮力差。
TIME はグラフの時間軸。
f は測定された瞬時値の荷重であって、水面の揺れや手の細かい動きに対応する浮力の揺らぎを含む値。
F は測定された短時間平均荷重であって、f との関係を請求項1に記述の、水面の揺れや手の細かい動きに対応する浮力の揺らぎが除去された値。
揺らぎの除去は
第1に、電気回路では抵抗とコンデンサによる一次平均化回路に相当する信号処理による方法、
第2に、複数のレジスタを使った f の値の先入れ先出し方法で 総てのレジスタの内容に記憶されている f の平均値を得る方法、
その他、公知の数多くの手法がある。
【0018】
Fmax_c Fmax_e Fmax_g はそれぞれ時刻 tc te tg 付近における 短時間平均荷重の最大値。
Fmin_d Fmin_f Fmin_h はそれぞれ時刻 td tf th 付近における 短時間平均荷重の最小値。
ta から tb の間は測定していない時間帯であって、時刻 tb から測定が始まる。時刻 tb を過ぎると th まで F は呼吸による上がり下がりを繰り返す。
【0019】
図2は本案の測定系の信号処理手順の一実施例の説明図である。
図は、処理手順をわかりやすくするためにシーケンス形式で表現しているが、処理手順をどのような言語でどのように記述するかについては本案の本質ではない。
図2(a)の UPDATE は吐出行程と吸入行程を検出した時の計算処理の手順である。MAXMIN は短時間平均荷重のサンプリングごとの計算処理の手順である。
UPCYCLE? は状態が、前回の吸入行程の確認後に吐出行程に入ったことを確認する行程である。吐出行程に入ったことが確認されれば、(Rmin) を 最新の最小荷重である (Rtmin) で更新し、さらに (Rtmax) を(Rtmin) で更新し、その後、(Rtmax) は、増加傾向にあるところの F の値で更新され、次の Fmax の検出に備える。
DOWNCYCLE? は状態が、前回の吐出行程の確認後に吸入行程に入ったことを確認する行程である。吸入行程に入ったことが確認されれば、(Rmax) を 最新の最大荷重である(Rtmax) で更新し、さらに (Rtmin) を(Rtmax) で更新し、その後、(Rtmin) は減少する傾向にあるところの F の値で更新され、次の Fmin の検出に備える。
【0020】
図2(b)の MAXMIN は (Rtmax) と(Rtmin) の内容の更新手順を示す。
F が (Ftmax) より大きい時は (Ftmax) を更新する。
F が (Ftmin) より小さい時は (Ftmin) を更新する。
一方、(Ftmax) は (Ftmin) で、(Ftmin) は (Ftmax) で 吐出と吸入の行程の検出をもって更新されることで、測定肺活量の表示が呼吸の半サイクルごとの更新に備える。
【0021】
請求項2について。
首が水面まで浸かっている状態で、足を乗せる台にかかる荷重を測定することで、請求項1に記述のフロートにぶら下がる荷重の測定と全く同じ計算行程で肺活量を測定できる。
請求項3について。
請求項1と請求項2は呼吸によって変動する荷重の最大値と最小値の直近の値で肺活量を表示するものであるが、直近の最大荷重と測定中の荷重の現在値 または 直近の最小荷重と測定中の荷重の現在値 を算出し、呼吸とともに変動する肺活量として表示することができる。
【符号の説明】
【0022】
Fmin 表示する検出肺活量の規準となる短時間平均荷重の最小値
Fmax 表示する検出肺活量の規準となる短時間平均荷重の最高値
Fmax-Fmin 浮力差
Ftmin (Rtmin) 常時更新される検出した短時間平均荷重の最低値
Ftmax (Rtmax) 常時更新される検出した短時間平均荷重の最高値
Rmin Fmin 用のレジスタ
Rmax Fmax 用のレジスタ
Rtmin Ftmin 用のレジスタ
Rtmax Ftmax 用のレジスタ
D 水の密度
A 重力加速度
FLOAT フロート
BELLOWS ベロー
HANDLE 取手
MEASURE 荷重測定機能
CPU 計算機能
INDICATOR 表示機能
TIME グラフの横軸である時間
F 短時間平均荷重
f 瞬時荷重
Fmax_c 時刻 tc 付近における 平均荷重の最大値
Fmin_d 時刻 td 付近における 平均荷重の最小値
Fmax_e 時刻 te 付近における 平均荷重の最大値
Fmin_f 時刻 tf 付近における 平均荷重の最小値
Fmax_g 時刻 tg 付近における 平均荷重の最大値
Fmin_h 時刻 th 付近における 平均荷重の最小値
Tup 吐出行程区間の一例
Tdown 吸気行程区間の一例
UPDATE 吐出行程検出時と吸入行程検出時の計算処理の手順
MAXMIN 短時間平均荷重のサンプリングごとの計算処理の手順
upcycle? 吐出行程が検出されたかどうかの判断
downcycle? 吸入行程が検出されたかどうかの判断
yes 検出された場合の処理
no 検出されない場合の処理
矢印 <- は左のレジスタの内容を 右の値で更新することを示す
【要約】
【課題】
温泉や水泳プールで、簡易に肺活量を測定できる器具があれば便利である。
【解決手段】
フロートに取手を設け、取手とフロートの間にかかる荷重を測定する機能を設ける。
人の身体を首まで水中に沈めた状態で肺の空気を、吐き出しきった状態と空気を吸い込みきった状態の、取手とフロートの間にかかる双方の荷重の差を求め、その荷重の差に相当する容積から肺活量を算出し表示する。海水や温泉の種類や温度によっては比重の違いによる修正を加える。
【選択図】
図1