特許第6103449号(P6103449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 桐生 悠一の特許一覧

<>
  • 特許6103449-潮流発電パネルと係留索 図000002
  • 特許6103449-潮流発電パネルと係留索 図000003
  • 特許6103449-潮流発電パネルと係留索 図000004
  • 特許6103449-潮流発電パネルと係留索 図000005
  • 特許6103449-潮流発電パネルと係留索 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103449
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】潮流発電パネルと係留索
(51)【国際特許分類】
   F03B 13/26 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   F03B13/26
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-56889(P2015-56889)
(22)【出願日】2015年3月4日
(65)【公開番号】特開2016-160928(P2016-160928A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2015年4月3日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595098549
【氏名又は名称】桐生 悠一
(72)【発明者】
【氏名】桐生 悠一
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5622013(JP,B1)
【文献】 特開昭54−16047(JP,A)
【文献】 特開2007−177797(JP,A)
【文献】 特許第5656155(JP,B1)
【文献】 特開2010−203319(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/114019(WO,A2)
【文献】 特表2014−503048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/00−13/26
F03B 17/00−17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠構造体と、前述枠構造体に支持された平板状の集合保持体とで構成し、前述集合保持体は複数台のダクト状の発電ユニットを受け入れ保持できるように構成し、前述発電ユニットは自動着脱装置により前述集合保持体に挿入する動作で前述集合保持体との機械的結合と電気的結合を成立させ、その逆の動作となる前述発電ユニットが前述自動着脱装置により前述集合保持体から引き出される動作で前述機械的結合と前述電気的結合が解除されるように構成し、前述枠構造体は海底係留基礎に発する係留索を接続する複数の係留点を設けて潮流に対して同じ位置に止まるように構成し、その上方端を大きな浮力を有する双胴船等の船体に懸垂・固定して発電により潮流から受ける抗力は係留索が受け止め、船体は斜めに張られた係留索が発する垂直方向の下方引き込み力に抗して枠構造体を垂直な姿勢に保つ浮力を受け持ち、必要あれば船体への固定を解除して枠構造体を直角に回転させて水平状態に保って海上でメンテナンスを行う係留型潮流発電船となり、前述電気的結合により前述潮流発電ユニットより受け取った電力を前述双胴船等の船上に送り、そこで水素等のエネルギー媒体の製造や直接電力としての送電を行うようにしてなる潮流発電施設に用いる潮流発電パネル。
【請求項2】
双胴船の浮力中心で二つの船体の間に船体に対して回転自在な潮流発電パネルを垂直に懸垂・固定する係留型潮流発電船において、前述潮流発電パネルの発電抗力中心を通る水平線上の前述枠構造体の左右に各1個所の前述係留点を設け、前述2個所の係留点から発する2本の船側係留索を前述係留点の間隔の2倍乃至20倍の範囲の等距離で係留中継点に集め、前述係留中継点に海底係留基礎から延伸した基礎側係留索を接続してなる請求項1に記載の潮流発電パネル。
【請求項3】
双胴船の浮力中心で二つの船体の間に船体に対して回転自在な潮流発電パネルを垂直に懸垂・固定する係留型潮流発電船において、前述潮流発電パネルの発電抗力中心より若干下方を通る水平線上の前述枠構造体の左右に各1個所の前述係留点を設け、前述2個所の係留点に発する2本の船側係留索を前述係留点の間隔の2倍乃至20倍の範囲の等距離で係留中継点に集め、前述係留中継点に1本または2本の補助係留索を設けて船体前部に設けた係留点に係留することによって前述発電抗力中心と船側係留索が上下方向に離れているために発生する回転力を補助係留索の張力によって打ち消し、前述係留中継点に海底係留基礎から延伸した基礎側係留索を接続してなる請求項1に記載の潮流発電パネル。
【請求項4】
双胴船の浮力中心より潮流の上流の位置で二つの船体の間に船体に対して回転自在な潮流発電パネルを垂直に懸垂・固定する係留型潮流発電船において、前述潮流発電パネルの発電抗力中心より下方を通る水平線上の前述枠構造体の左右に各1個所の前述係留点を設けることにより前述潮流発電パネルに前述2個所の係留点間を軸として抗力中心に加わる抗力が発生させる回転力を前述浮力中心と懸垂点が一致していないために発生する逆方向の回転力で打ち消し、この2本の船側係留索を前述2個所の係留点の間隔の2倍乃至20倍の範囲の等距離で係留中継点に集め、前述係留中継点に海底係留基礎から延伸した基礎側係留索を接続してなる請求項1に記載の潮流発電パネル。
【請求項5】
係留型潮流発電船方式において潮汐流の満ち潮方向と引き潮方向に発電パネルの前後対称に各2個所の係留点と2本の船側係留索と1個所の係留中継点と1本の基礎側係留索と1基の海底係留基礎を各一式、前方と後方で計二式設け、時間帯によって水流の方向が反転する潮汐流にも対応できる請求項1に記載の潮流発電パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒潮などの潮流の持つ流体の運動エネルギーを水力タービン等により回転エネルギーとなし、発電機により電気エネルギーへと変換する潮流発電施設に関する。
【背景技術】
【0002】
潮流発電と風力発電には、流体の運動エネルギーを電気エネルギーへ変換することで共通点がある。風力発電は陸地や水深の浅い海上での利用は、製品のライフサイクルに当てはめると既に成長後期の段階にあり、長大な円筒支柱の上に巨大な風車を持つ発電ナセルを旋回可能に搭載する方式が世界標準に収斂しつつある。
【0003】
潮流発電は風力発電に次ぐ自然エネルギーとして注目を集めているテーマである。例えば黒潮は平均的に海面から水深200m付近までの厚さで、幅100kmに及ぶ強流帯を有する表層流であり、その流れの方向は長期間安定で、流れの速度は日間変動も季節変動も比較的少ないことが知られている。晴れた日の日中しか発電できない太陽光発電や、気まぐれな風力発電とは異なり総合発電効率(総合設備利用率)が100%に近く、信頼性が高い安定したエネルギー源となり、日本国が必要とするエネルギーの相当部分を担うことができると指摘されている。
【0004】
だが、地上で設置作業や点検・補修作業が行える他の自然エネルギー発電方式に比べ、海中でそれらの作業を行わねばならぬ潮流発電は、作業の困難さから実用化の試みが敬遠されてきた。このため、製品のライフサイクルに当てはめると、まだ導入前期の段階に止まっており、幾つかの方式がやっと実証試験に入りつつある段階である。将来、どのような方式が世界標準になるかはまだ見えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特許第5656155号公報 多胴船型潮流発電施設
【特許文献2】 特許第5622013号公報 集合型潮流発電施設
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】 共同研究「海流発電の研究」報告書 海洋科学技術センター 東京電力株式会社 1981年9月
【非特許文献2】 再生可能エネルギー技術白書 第2版 第6章 海洋エネルギー 新エネルギー・産業技術総合開発機構 2013年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在公表されている潮流発電の実証機の主流は、単機出力が巨大化する方向に向かっている。これに対して、「特許文献1」及び「特許文献2」は同じエネルギーを生む対象潮流断面積に対して、単機出力が小さい発電ユニットを多数台集合的に利用する方が、単機出力が大きい発電ユニットを少数台利用するよりも所要資材量が少なくなるというL2乗3乗法則を活用すべきであることを強調した。具体的には実証試験機の単機出力の多くが1000kW級であるのに対して、現在の先進国にて利用可能な輸送機械産業等の既存技術及び既存設備により量産可能な数十kW級の単機出力が小さい発電ユニットを多数台格子状に密集して装荷する設計思想に将来性があると主張した。
【0008】
また、「特許文献1」では設置作業と点検・補修作業の全てが、「特許文献2」では補修作業が大気中で行えるように構成されており、潮流発電が敬遠されていた大きな理由である海中での作業が殆ど不必要となり、実用化へのハードルを一段と低くしている。
【0009】
「特許文献1」及び「特許文献2」は潮流発電の建設・運営での技術的困難性の殆どを解決している。しかしながら、発電パネルの設置方法については、可能性のごく一部を提示するに止まっており、技術体系として不完全である。例えば、「特許文献1」は発電パネルと多胴船の船体を固定させ、海底基礎に発する係留索を船体の係留点に係留する方法のみを示している。
「特許文献1」及び「特許文献2」にはなかった実用化可能な幾何学的構成をできるだけ多く開示して充実した潮流発電の技術体系を構築すること、これが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
「特許文献1」では浮体の下にできるだけ多くの発電パネルを懸垂・固定する大出力発電プラントを目標としたために、多胴船の最左翼と最右翼にある2本の船体に係留索の係留点を設ける幾何学的構成を示した。双胴船に回転自在に1基の発電パネルを懸垂・固定する場合に限定すれば、異なった幾何学的構成が可能となる。発電時に抗力が加わる発電パネルの左右に各1個所の係留点を設ける方式である。この係留点を発電抗力の作用点を通る水平線上の枠構造体に設けるのが課題を解決するための第一の手段である。
【0011】
前述計2個所の係留点から各1本、計2本の係留索が発するが、それらを前述係留点の幅の2倍乃至20倍の範囲の等距離で係留中継点に集め、前述係留中継点に海底係留基礎から延伸した基礎側係留索を接続する。ここには潮流発電パネルの幅を底辺とし、それより長い斜辺を持つ二等辺三角形が形成されており、その頂点を係留中継点と呼び、海底係留基礎から係留中継点までを担う係留索を基礎側係留索と呼んでいる。この幾何学的構成は凧と凧糸との関係と相似であり、この構成をとることにより凧は風に対して安定的に対向姿勢を維持することができる。底辺に対する斜辺の長さの倍数は、凧の経験値では約3〜7倍が良いとされているが、その前後でも姿勢安定化作用を期待することができる。
【0012】
前述第一の手段には、複数のバリエーションがあり得る。前述第一の手段は、潮流発電パネルを凧に擬すと、2本の凧糸で飛んでいる凧のように見えるが、実際にはパネルを懸垂・固定している船体がパネルを垂直に保つための力を作用させており、3本以上の凧糸で姿勢制御している凧と同じ効果がある。そのため、潮流発電パネルは姿勢安定化には左右の2本の係留索以上の係留索を必要としない。
【0013】
しかしながら、潮流発電パネルは潮流との相互作用でカルマン渦を始めとする各種の乱流を発生させ、その反作用として船体にヨーイング力が加わる。海面からの位置関係で、発電抗力の作用点より下の位置に係留点を設けると、潮流発電パネルは係留点に対して船首を持ち上げ、船尾を沈めるような回転力を発生する。この回転力を打ち消すように船体の前部に係留点を設け、係留中継点との間に第三、更には第四の補助係留索を設けると、船体をヨーイングさせる力を抑制する作用が働く。この幾何学的構成が課題を解決する第二の手段である。
【0014】
船体の長手方向のほぼ中央に浮力中心がある。黒潮の強流帯は海面からほぼ200m下までの厚さであるから、潮流発電パネルの上下長さも200m程度になる場合が多いと思われる。この潮流発電パネルを船体長さの中央部に懸垂・固定するには、船体の長さは400mを超えるものとなる。これは少々長すぎると思う。船体の長さを縮めて船首に近い位置から懸垂・固定できれば好都合である。そのような位置に懸垂点を設けると、浮力中心より前方に懸垂・固定点があるために潮流発電パネルに発電抗力が加わると、抗力により生じる係留索の張力の垂直成分が懸垂・固定点に加わるために船体は前のめりの姿勢になる。一方、係留点を抗力中心より下方に下げると、係留点を軸として船尾を下げるような回転力が働く。この二つの力を平衡させるような位置に係留点を設けると、発電負荷をかけても船体は水平に保たれる。この幾何学的構成が課題を解決する第三の手段である。
【0015】
潮流発電パネルに装荷される発電ユニットは、正面から流入する潮流に対応するよう設計されているが、水力タービンのブレード形状を工夫すれば逆方向から流入する水流に対しても同等の発電効率で対応できる。潮流発電パネルに前後対称に海底係留基礎と係留索を設けることは幾何学的に可能である。そのような係留型潮流発電船は時間帯によって1日に4回海流の方向が反転する潮汐流に対しても作動可能である。この幾何学的構成が課題を解決する第四の手段である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は潮流発電においては少数の大型タービン発電機を配置するのではなく、多数の小型タービン発電機を潮流発電パネルに集積した状態で配置する方式が性能面で優れ、経済合理性があり、水素化社会実現の一翼を担えることを示し、そのような発電パネルを装備した係留型潮流発電船に関して4件の幾何学的構成を開示した。潮流発電パネル方式を採用して潮流発電を実用化するに当たって、これらの中から与件に好適なプランを選ぶことにより開発の自由度が増し、正しい方向性を持った実用化がより早く実現できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】係留型潮流発電船の正面図である。(実施例1)
図2】係留型潮流発電船の側面図である。(実施例1)
図3】3本以上の係留索を持つ係留型潮流発電船の側面図である。(実施例2)
図4】浮力中心より前方に発電パネルを懸垂する係留型潮流発電船の側面図である。(実施例3)
図5】潮汐流用係留型潮流発電船の側面図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
図1は本発明になる双胴船型潮流発電船を船首側から見た正面図、図2はその側面図である。「特許文献1」の多胴船型潮流発電施設の図面とほぼ同じ内容だが、「特許文献1」では2本の係留索の係留点が船体の側方に設けられているが、図1では係留点7は潮流発電パネル8の枠構造体の発電抗力の作用中心を通る水平線上に設けられている。両図では2本の船側係留索6が集まって係留中継点5に至り、基礎側係留索4に接続し、海底2の岩盤に埋設された海底基礎3がこの係留型潮流発電船からの巨大な張力を受け止めている状況を示した。この幾何学的構成が「特許請求範囲」の「請求項」に相当する。
【0019】
なお、潮流発電パネル8は運転モードでは双胴船の船体10のデッキに相当する上部構造体11から回転軸構造体12により懸垂・固定されている。図2には運転モードにおける潮流発電パネル8と、上部構造体11に設けられた回転軸構造体12が時計回りに90度回転することにより船内(双胴船の2本の船体間と上部構造体で囲まれた海上の空間)に格納された潮流発電パネル9を同時に図示している。格納モードでは潮流発電パネルに関する発電ユニットの交換等のメンテナンス作業の全てを作業が困難な海中ではなく、作業が安全かつ容易な海上で行うことができる。これが本発明になる係留型潮流発電船の大きなメリットである。
【0020】
図1の潮流発電パネルが秒速2mの潮流に正対しているとしよう。この幾何学的構成は潮流を部分的に堰き止める部分堰を設けて強制的に圧力差(水頭)を作り出す。この潮流発電パネルの抗力係数が1.3であるとき、1m2当たり277kg重の抗力を生じ、それは約27cmの水頭に相当する。この水頭が発電ユニットでコンバージョン・ダイバージョンノズル効果(パネル面積に対してタービン駆動面積が小さいため、水流を絞る作用が発生する)により加速された水流となって潮流発電パネルの潮流対向面積1m2当たり約5kWの電気出力を発生し、前述抗力と平衡する抗力を生ずる。この流速では、一般の水力タービンの1m2当たりの出力は約2kWであるから、それと比較して、潮流発電パネル方式の面積当たり出力は2倍強とかなり大きい。
【0021】
潮流発電パネルの規模をイメージするために、縦200m、横150mで潮流対向面積30,000m2の係留型潮流発電船を例にとって説明しよう。この潮流発電パネルは秒速2mの潮流の場合、約15万kWの出力と潮流発電パネルの総抗力約9,000トン重を発生させる。船体の抗力も含めて12,000トン重であったとしよう。係留索の海面に対する角度を30度とするとき、係留索の張力は13,856トン重、潮流発電パネルが船体を下方に引き込む力は6,928トン重となる。船舶として無負荷状態で浮上している状態に対し、発電状態に入るとこれだけの荷重が船体に加わり、船体の喫水がそれだけ深くなる。船体の浮力が2万トン重以上あれば、この程度の荷重で不安定になることがないので、このスキームは成立する。この発電量は黒部川第四発電所の総出力33万kWの半ばに迫る数値である。水力発電所として考えたとき、このスキームは経済的に成立する可能性が高い。
【0022】
この試算例には発電ユニットのサイズと台数が現れなかった。それは1m2を単位面積として試算したためであり、台数はこの試算では必要なかった。表には出なかったが、実用面からは発電ユニット1台は潮流発電パネルが受け止める潮流のおよそ15m2分を分担すると想定している。潮流発電パネルの集合保持体のなすダクト状の受入空間に挿入・装荷される発電ユニットの外形をなすダクト構造体の潮流に対する断面積は12〜10m2となるであろう。その場合の所要台数は2,000台である。台数は多いが、対処しきれない数ではない。発電ユニットがこの程度のサイズであれば、輸送機械産業等の既存技術及び既存設備により量産が可能であり、かつ、自動マテハン装置(自動着脱装置)で取り扱いが可能な重量に収まると考える。
例えば総出力として15万kWを目標とする場合、1,000kW機を150台個別生産方式で製造するのと、75kW機を2,000台大量生産方式で量産するのとを比較すると、小出力多数台化したためのL2乗3乗則による寸法Lの3乗に比例して資材総所要量が増える効果(相似設計であれば後者は前者の42%になる)と、潮流発電パネル方式による単位面積当たり一般タービン発電機より2倍強高出力化する効果も加わって、後者の方が圧倒的に経済的である。
【0023】
なお、以上の説明には潮流発電パネルの主要構成要素である発電ユニットの構造、潮流発電パネルへの装荷等の詳細に関して触れていないが、この発明が補完する立場にある「特許文献1」にある発電ユニットと同一設計思想である。重複を避けるために省略した。
【実施例2】
【0024】
図3は3本以上の係留索を持つ係留型潮流発電船の側面図である。ヨーイングにより船体が正面からずれ始めると、係留中継点5に発する第三、第四の補助係留索22の張力が係留中継点5と船首との距離を常に最小にしようとするために、水平面内の姿勢を正規位置に戻そうとする強い復元力が働く。
補助係留索22と補助係留点23の構成は、潮流発電パネル8の発電抗力が加わる抗力中心21を軸として時計回りの回転力を発生させる。この回転力とバランスさせる反時計回りの回転力を生じさせるために、船側係留索6の係留点7は、前述抗力中心21より若干下方に下げて設けなくてはならない。この幾何学的構成は「特許請求の範囲」の「請求項3」に相当する。
【実施例3】
【0025】
図4は浮力中心24より前方に発電パネル8を懸垂する係留型潮流発電船の側面図である。縦寸法が200mであるような潮流発電パネルを浮力中心に懸垂・固定する船体は、大略その2倍の400m級もの長さが必要となる。これを短くしようとするのが前述「課題を解決する第三の手段」である。一つの数値例を示そう。海面に対する船側係留索6の傾斜角が30度の場合、潮流発電パネル8の長さを1として浮力中心24より潮流発電パネルの懸垂・固定位置である回転軸構造体12をほぼ0.43前方に移し、潮流発電パネルの抗力中心21より係留点7をほぼ0.25下方に位置させたときに生じる抗力による反時計回りの回転力と、浮力により生じる時計回りの回転力が平衡して「第三の手段」が成立する。この場合は船体の全長は300m以下に短縮でき、船体の全長に対して潮流発電パネルの縦寸法を近付けることができる。図4はその状態を図示した。
【0026】
前述の特定解に限らず、一般に回転軸構造体12の懸垂・固定位置を浮力中心24から船首までの任意の位置に選んで、前述二つの回転力が平衡する位置を計算により求めて、その位置に係留点7を設けることができる。この幾何学的構成では、船体と潮流発電パネルの懸垂・固定部に非常に大きな回転力が加わるため、相当な機械的強度が要求される。船体の短縮による利益と、機械的強度増強による負担を総合的に判断する必要がある。この幾何学的構成は「特許請求の範囲」の「請求項4」に相当する。
【実施例4】
【0027】
図5は潮汐流用係留型潮流発電船の側面図である。潮流発電パネル8を対称面として、その後方に対称的に船尾側海底基礎31、船尾側基礎側係留索32、船尾側係留中継点33、船尾側船側係留索34及び船尾側係留点35を設けている。
潮汐流は1日に満ち潮と引き潮が交互に2回発生し、流れの方向が4回逆転する。図5の幾何学的構成であれば、潮汐流に対応して稼働できる。潮汐流に適用できる双方向流水力タービンの技術は確立している。潮汐流の流速がピーク前後である速潮期と、流れが停止状態になる停潮期があり、停潮期の前後は発電できない。だが、速潮期には一般の潮流より流速が早い海域が多数存在し、総合設備稼働率の低さを流速の速さで補うことができる。この幾何学的構成は「特許請求の範囲」の「請求項5」に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の実施例1には数値例として30,000m2の潮流発電パネルを挙げており、秒速2mの潮流にて出力約15万kWと試算結果を示した。某社の資料によれば、ロータ径100mの風力発電機の定格出力は3,000kWである。定格出力で比較すると、この風力発電機50基が前述数値例の係留型潮流発電船1隻に相当する。
風力発電機の構成要素は強固な基礎、支柱、回転自在な発電機ナセル、風力タービンであり、単純である。対する係留型潮流発電船は海底基礎と係留索に係留された約2万トンの双胴船に潮流発電パネルを懸垂・固定し、船上のスペースには電力プラント、水素生成プラント、管制施設等が置かれた複雑なプラント複合体である。工業常識に照らせば、同じ定格出力に対して風力発電の方が潮流発電より投資金額が安価であろうと判断されよう。だが、風は速度や向きが常時大きく変動するが、潮流の流速と方向の変動は風力に較べれば極めて少ない。実際に1年間運転して得られる総発電力量を、定格出力で同じ期間運転して得られる総発電力量で除した総合発電効率(総合設備利用率)で比較すると、陸上風力発電は20%代、洋上風力発電で30%代と評価されているのに対して、潮流発電は90%代を期待できる。年間総発電力量で発電単価を比較すれば、潮流発電パネルを用いた係留型潮流発電船の経済性とメンテナビリティの高さは極めて魅力的である。
【符号の説明】
【0029】
1 海面
2 海底
3 海底基礎
4 基礎側係留索
5 係留中継点
6 船側係留索
7 係留点
8 (運転モードの)潮流発電パネル
9 格納モードの潮流発電パネル
10 船体
11 上部構造体
12 回転軸構造体
21 抗力中心
22 補助係留索
23 補助係留点
24 浮力中心
31 船尾側海底基礎
32 船尾側基礎側係留索
33 船尾側係留中継点
34 船尾側船側係留索
35 船尾側係留点
図1
図2
図3
図4
図5