特許第6103452号(P6103452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6103452海水魚の延命および/または外傷回復方法で処理した海水魚
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103452
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】海水魚の延命および/または外傷回復方法で処理した海水魚
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/02 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   A01K63/02 Z
   A01K63/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-133078(P2015-133078)
(22)【出願日】2015年7月1日
(62)【分割の表示】特願2011-65872(P2011-65872)の分割
【原出願日】2011年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-165825(P2015-165825A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2015年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】100163647
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】御堂岡 あにせ
(72)【発明者】
【氏名】飯田 悦左
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−136457(JP,A)
【文献】 特開2008−148558(JP,A)
【文献】 特開2008−161126(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/069261(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/153954(WO,A1)
【文献】 特開2010−162044(JP,A)
【文献】 特開2010−162045(JP,A)
【文献】 特開2010−166926(JP,A)
【文献】 特開2010−166927(JP,A)
【文献】 特開2010−166933(JP,A)
【文献】 特開2010−193902(JP,A)
【文献】 特開平10−295213(JP,A)
【文献】 特開2011−030496(JP,A)
【文献】 特開平10−191830(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0047143(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分濃度が0.55%以上2.75%以下の低塩分海水で、10日間以上30日間以下飼育された、漁獲したマダイ。
【請求項2】
塩分濃度が0.6%以上2.2%以下の低塩分海水で、10日間以上30日間以下飼育された、請求項1の漁獲したマダイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水魚の延命および/または外傷回復方法で処理した海水魚に関する。
【背景技術】
【0002】
生きた海水魚は、市場では活魚と呼ばれ、市場価値が高いが、漁業や養殖などで得られる海水魚の多くは、水揚げや輸送などの際に外傷を受けるため死亡しやすい。漁業現場では、これらの海水魚を延命させ、外傷から回復させる技術が存在しないため、市場価値が高い活魚として出荷できるのは漁獲時や水揚げ時に外傷を受けていない魚に限られる。
【0003】
一般的な漁法により水揚げされる魚のうち、外傷を受けないまま漁獲されるものは少数であり、大部分は外傷を受けた状態である。外傷を受けた魚は、死亡する可能性が高いため、やむを得ず、漁獲直後の活力が高いうちに魚を締めて、これを市場に出荷する鮮魚と呼ばれる商品形態が一般的である。しかし、鮮魚は、締めた直後から鮮度の低下が始まるため、市場での販売可能日数が制限される。鮮魚は活魚よりも市場価値が低いため、活魚の方が市場から求められることは言うまでもない。
【0004】
そこで、漁獲魚を延命させ、外傷から回復させることができれば、活魚として出荷調整が可能となり、魚価の低下を防ぐことができる。また、漁獲魚を長期間飼育することが容易となり、市場動向を踏まえて活魚として出荷調整が可能となる。さらに、漁獲魚が未熟な場合には、成長するまで飼育することにより、付加価値の高い活魚として市場価値を高めることができる。
【0005】
動物を延命させる方法としては、例えば、糖アルコールを有効成分とする成長促進剤または延命剤が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法は、動物が餌料を摂取できる状態であることが前提であるため、餌料を受けつけないほど外傷で弱っている漁獲魚に適用して、漁獲魚を延命させることはできない。
【0006】
特許文献2には、海水活魚を飼育する海水槽の生活環境を良好に維持して延命させるための活魚生命維持装置が開示されている。しかし、この装置の設置および維持には高いコストがかかる。
【0007】
特許文献3および4には、傷病を有する水棲動物の回復を促進するのに有効な量のカヤプト(特許文献3)またはベイラムノキ抽出物(特許文献4)を投与することを特徴とする水棲動物の処置方法が開示されている。しかし、この方法では、大量の有効成分を使用する必要があり、コストが高くなる。
【0008】
ところで、特許文献5には、海水魚の仔稚魚を抗病的に飼育することを目的として、飼育水に真水を添加することによる低塩分処理を行い、一定の期間低塩分を維持した後、全海水に復帰させることを特徴とする飼育方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/013501号
【特許文献2】特開平6−46718号公報
【特許文献3】特表平11−501334号公報
【特許文献4】特表2004−521922号公報
【特許文献5】特表2006−288234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、海水魚を延命させ、外傷から回復させる方法により処理した海水魚を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、0.55〜2.75%の濃度の塩分を含有する水の中で海水魚を飼育することにより、海水魚を延命させ、外傷から回復させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、海水魚の延命および/または外傷回復方法を提供し、該方法は、0.55〜2.75%の濃度の塩分を含有する水の中で海水魚を飼育する工程を含む。
【0013】
1つの実施態様では、上記海水魚は、漁獲魚である。
【0014】
1つの実施態様では、上記海水魚は、養殖魚である。
【0015】
1つの実施態様では、上記海水魚は、外傷を有する海水魚である。
【0016】
1つの実施態様では、上記工程は、1〜30日間行われる。
【0017】
1つの実施態様では、上記工程は、1〜10日間行われる。
【0018】
本発明はまた、上記方法で処理した海水魚を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、海水魚を延命させ、外傷から回復させる方法を提供することができる。本発明の方法は、0.55〜2.75%の濃度の塩分を含有する水の中で海水魚を飼育するだけで、海水魚を延命させ、外傷から回復させることができる。また、本発明は、活魚輸送にも適用でき、輸送中に海水魚を延命させ、外傷から回復させることができる。したがって、高価な有効成分を海水魚に投与したり、高価な装置で海水魚を飼育する必要がないため、低コストで海水魚を延命させ、外傷から回復させることができる。このため、活魚として商品価値の高い海水魚を高い生存率で出荷することができる。また、薬剤を使用しないため、安全な活魚を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】模擬外傷を負わせたメバルを塩分濃度1.10%の低塩分海水または全海水(塩分濃度3.30%)で飼育したときの飼育期間中の生存率の経時変化を示すグラフである。
図2】市場から活魚として購入した外傷のあるオニオコゼを塩分濃度1.10%の低塩分海水または全海水(塩分濃度3.30%)で飼育したときの飼育期間中の生存率の経時変化を示すグラフである。
図3】模擬外傷を負わせたマダイを塩分濃度1.10%の低塩分海水または全海水(塩分濃度3.30%)で飼育したときの飼育期間中の生存率の経時変化を示すグラフである。
図4】模擬外傷を負わせたウマヅラハギを塩分濃度1.10%の低塩分海水または全海水(塩分濃度3.30%)で飼育したときの飼育期間中の生存率の経時変化を示すグラフである。
図5】模擬外傷を負わせたキジハタを塩分濃度1.10%の低塩分海水または全海水(塩分濃度3.30%)で飼育したときの飼育期間中の生存率の経時変化を示すグラフである。
図6】鱗を約2cm剥離させたメバルを1.65%の低塩分海水あるいは全海水(塩分濃度3.30%)で飼育したときの飼育開始後15日目の鱗の剥離部分と周辺とを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の海水魚の延命および/または外傷回復方法は、0.55〜2.75%の濃度の塩分を含有する水の中で海水魚を飼育する工程を含む。
【0022】
本発明でいう海水魚とは、海水中または汽水中で生息する魚類の総称をいう。海産魚とも呼ばれる。ここで、海水は、一般に3.1〜3.8%の塩分、すなわち塩化ナトリウムを含有する。一方、塩分を含まない水の中で生息する魚類は、淡水魚と総称され、海水魚と区別される。
【0023】
本発明の方法が適用される海水魚としては、特に限定されないが、好ましくは漁獲魚、養殖魚であり、外傷を有する海水魚である。
【0024】
本発明でいう漁獲魚とは、漁業で水揚げされた天然の海水魚をいう。漁業では、一般に底引き網などの網を用いる漁法が採られることが多い。このような漁法では、大量の海水魚が水揚げされ、消費地まで輸送されることになる。漁獲魚は、水揚げの際に網で外傷を受け、輸送の際にも外傷を受ける可能性が高い。したがって、本発明の方法は、好ましくはこのような漁獲魚に適用される。
【0025】
本発明でいう養殖魚とは、養殖された海水魚をいう。養殖魚も、水揚げの際に網で外傷を受けることがあり、輸送の際にも外傷を受ける可能性が高い。したがって、本発明の方法は、好ましくはこのような養殖魚に適用される。
【0026】
本発明の方法で用いる水が含有する塩分濃度は、0.55〜2.75%であり、好ましくは0.60〜2.20%である。塩分濃度が0.55%よりも低い場合および2.75%よりも高い場合は、海水魚を延命させ、外傷から回復させることはむずかしく、海水魚は斃死しやすい。
【0027】
本発明の方法で用いる塩分を含有する水の調製方法は特に限定されない。例えば、海水を真水で希釈してもよいし、市販の人工海水を真水で希釈してもよい。コストを考えると、海水を真水で希釈することが好ましい。真水としては、塩分および有害物質を含有していない水である限り、特に限定されないが、好ましくは、水道水、淡水域の天然水である。真水の代わりに汽水域の天然水を用いてもよいし、汽水の地下水を用いてもよい。
【0028】
本発明の方法で海水魚を飼育する期間は、特に限定されないが、好ましくは1〜30日間、より好ましくは1〜10日間である。飼育する期間が10日間を超えるようであれば、給餌することが好ましい。
【0029】
本発明の方法で用いる水槽は特に限定されない。輸送用の水槽であってもよい。
【0030】
本発明の海水魚は、上記方法で処理して得られる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1および比較例1)
外傷のある海水魚の延命に対する塩分濃度の効果を調べた。塩分濃度0.20%、0.30%、0.40%、0.45%、0.50%、0.55%、0.60%、0.65%、0.70%、0.75%、0.80%、0.85%、1.20%、1.65%、1.93%、2.20%、2.48%、2.75%および3.03%(0.20〜3.03%の19段階)の低塩分海水をそれぞれ10L調製した。低塩分海水の調製は、全海水(100%海水;塩分濃度3.30%)を、活性炭フィルターで脱塩素した水道水で希釈することにより行った。
【0033】
次に、オニオコゼ(カサゴ目)200尾(7.2cm±0.5cm、7.5g±1.5g)を、網の上に干出して60秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったオニオコゼを上記0.20〜3.03%の19段階の塩分濃度の低塩分海水または全海水(塩分濃度3.30%)で10尾ずつ飼育した。飼育開始後1日目、2日目および3日目の塩分濃度と生存率の関係を調べた。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より明らかなように、模擬外傷を負わせたオニオコゼの飼育開始後3日後の生存率は、塩分濃度0.55〜2.75%の低塩分海水処理区(実施例1)では50%を上回り、特に塩分濃度0.60〜2.20%の低塩分海水処理区ではほぼ100%を維持したが、塩分濃度0.55%未満および塩分濃度2.75%を超える低塩分海水処理区(比較例1−1)ならびに全海水処理区(比較例1−2)では50%を下回った。このように、塩分濃度0.55〜2.75%の低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0036】
(実施例2および比較例2)
外傷のない健康なメバル(カサゴ目)160尾(12.4cm±0.2cm、34.7g±0.7g)を、網の上に干出して60秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったメバルを二分し、80尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)2kLで飼育し(実施例2)、残りの80尾を全海水(塩分濃度3.30%)2kLで飼育した(比較例2)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を図1に示す。
【0037】
図1より明らかなように、模擬外傷を負わせたメバルは、飼育開始後2日目には、低塩分海水処理区では93%の生存率であったのに対して、全海水処理区では30%の生存率であった。また、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では65%の生存率であったのに対して、全海水処理区では8.8%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0038】
(実施例3および比較例3)
底引き網で漁獲された外傷のあるオニオコゼ(カサゴ目)を市場から活魚として100尾(24.6±1.6cm、289.3±58.5g)購入した。この外傷のあるオニオコゼを二分し、50尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)2kLで飼育し(実施例3)、残りの50尾を全海水(塩分濃度3.30%)2kLで飼育した(比較例3)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を図2に示す。
【0039】
図2より明らかなように、市場から活魚として購入した外傷のあるオニオコゼは、飼育開始後5日目には、低塩分海水処理区では100%の生存率であったのに対して、全海水処理区では82%の生存率であった。また、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では96%の生存率であったのに対して、全海水処理区では70%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0040】
(実施例4および比較例4)
外傷のない健康なマダイ(スズキ目)40尾(14.4cm±1.0cm、92.0g±15.9g)を、網の上に干出して45秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったマダイを二分し、20尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)0.1kLで飼育し(実施例4)、残りの20尾を全海水(塩分濃度3.30%)0.1kLで飼育した(比較例4)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を図3に示す。
【0041】
図3より明らかなように、模擬外傷を負わせたマダイは、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では100%の生存率であったのに対して、全海水処理区では70%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0042】
(実施例5および比較例5)
外傷のない健康なウマヅラハギ(フグ目)40尾(7.4cm±0.7cm、9.4g±2.7g)を、網の上に干出して90秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったウマヅラハギを二分し、20尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)0.1kLで飼育し(実施例5)、残りの20尾を全海水(塩分濃度3.30%)0.1kLで飼育した(比較例5)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を図4に示す。
【0043】
図4より明らかなように、模擬外傷を負わせたウマヅラハギは、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では90%の生存率であったのに対して、全海水処理区では60%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0044】
(実施例6および比較例6)
外傷のない健康なキジハタ(スズキ目)12尾(13.9cm±1.4cm、66.1g±12.4g)を、網の上に干出して90秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったキジハタを二分し、6尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)0.1kLで飼育し(実施例6)、残りの6尾を全海水(塩分濃度3.30%)0.1kLで飼育した(比較例6)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を図5に示す。
【0045】
図5より明らかなように、模擬外傷を負わせたキジハタは、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では80%を超える生存率であったのに対して、全海水処理区では50%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0046】
(実施例7および比較例7)
実施例1および比較例1の全海水の代わりに人工海水(株式会社マリン・テック製シーライフ;塩分濃度3.30%)を用いたこと以外は、実施例1および比較例1と同様にして、塩分濃度0.41%、0.83%、1.65%および2.48%(0.41〜2.48%の4段階)の低塩分人工海水をそれぞれ0.1kL調製した。
【0047】
次に、外傷のない健康なメバル(カサゴ目)140尾(12.4cm±0.2cm、34.7g±0.7g)を、網の上に干出して60秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったメバルを上記0.41〜2.48%の4段階の塩分濃度の低塩分人工海水または人工海水(塩分濃度3.30%)で14尾ずつ飼育した。飼育開始後6日目の塩分濃度と生存率の関係を調べた。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2より明らかなように、模擬外傷を負わせたメバルは、塩分濃度0.83%および1.65%の低塩分人工海水処理区(実施例7−1および実施例7−2)では、飼育開始後6日目でも斃死はなかった。塩分濃度2.48%の低塩分人工海水処理区(実施例7−3)では、飼育開始後6日目に斃死があり、6日目の生存率は75%であった。これに対し、塩分濃度0.41%の低塩分人工海水処理区(比較例7−1)では、飼育開始後2日目から斃死が始まり、6日目には45%しか生存しなかった。また、塩分濃度3.30%の人工海水処理区(比較例7−2)では、飼育開始後4日目から斃死が始まり、6日目には40%しか生存しなかった。このように、塩分濃度0.55〜2.75%の低塩分人工海水処理区は、塩分濃度3.30%の人工海水処理区より高い延命効果を示した。
【0050】
(実施例8および比較例8)
鱗を約2cm剥離させたメバル10尾をそれぞれ塩分濃度0.83%または1.65%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)1kLあるいは全海水(塩分濃度3.30%)1kLで飼育した。給餌をしながら飼育し、剥離させた鱗の再生を比較した。結果を表3および図6に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3より明らかなように、塩分濃度0.83%および1.65%の低塩分海水処理区では、飼育開始後10日目から鱗の再生の兆しを観察でき、15日目には鱗の再生を確認でき、そして20日目には鱗が完全に再生した。全海水処理区では、鱗の再生が遅く、飼育開始後30日目でも鱗が十分に再生しなかった。
【0053】
図6より明らかなように、塩分濃度1.65%の低塩分海水処理区では、飼育開始後15日目には鱗の剥離部分と周辺との境界が不鮮明であり、鱗の再生を確認できた。塩分濃度0.83%の低塩分海水処理区でも同様であった。一方、全海水処理区では、鱗の剥離部分と周辺との境界が鮮明であり、鱗の再生を確認できなかった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い外傷からの回復効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、海水魚を延命させ、外傷から回復させる方法を提供することができる。本発明の方法は、0.55〜2.75%の濃度の塩分を含有する水の中で海水魚を飼育するだけで、海水魚を延命させ、外傷から回復させることができる。また、本発明は、活魚輸送にも適用でき、輸送中に海水魚を延命させ、外傷から回復させることができる。したがって、高価な有効成分を海水魚に投与したり、高価な装置で海水魚を飼育する必要がないため、低コストで海水魚を延命させ、外傷から回復させることができる。このため、活魚として商品価値の高い海水魚を出荷することができる。また、薬剤を使用しないため、安全な活魚を提供することができる。さらに、市場動向を踏まえて活魚として出荷調整が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6