【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1および比較例1)
外傷のある海水魚の延命に対する塩分濃度の効果を調べた。塩分濃度0.20%、0.30%、0.40%、0.45%、0.50%、0.55%、0.60%、0.65%、0.70%、0.75%、0.80%、0.85%、1.20%、1.65%、1.93%、2.20%、2.48%、2.75%および3.03%(0.20〜3.03%の19段階)の低塩分海水をそれぞれ10L調製した。低塩分海水の調製は、全海水(100%海水;塩分濃度3.30%)を、活性炭フィルターで脱塩素した水道水で希釈することにより行った。
【0033】
次に、オニオコゼ(カサゴ目)200尾(7.2cm±0.5cm、7.5g±1.5g)を、網の上に干出して60秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったオニオコゼを上記0.20〜3.03%の19段階の塩分濃度の低塩分海水または全海水(塩分濃度3.30%)で10尾ずつ飼育した。飼育開始後1日目、2日目および3日目の塩分濃度と生存率の関係を調べた。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1より明らかなように、模擬外傷を負わせたオニオコゼの飼育開始後3日後の生存率は、塩分濃度0.55〜2.75%の低塩分海水処理区(実施例1)では50%を上回り、特に塩分濃度0.60〜2.20%の低塩分海水処理区ではほぼ100%を維持したが、塩分濃度0.55%未満および塩分濃度2.75%を超える低塩分海水処理区(比較例1−1)ならびに全海水処理区(比較例1−2)では50%を下回った。このように、塩分濃度0.55〜2.75%の低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0036】
(実施例2および比較例2)
外傷のない健康なメバル(カサゴ目)160尾(12.4cm±0.2cm、34.7g±0.7g)を、網の上に干出して60秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったメバルを二分し、80尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)2kLで飼育し(実施例2)、残りの80尾を全海水(塩分濃度3.30%)2kLで飼育した(比較例2)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を
図1に示す。
【0037】
図1より明らかなように、模擬外傷を負わせたメバルは、飼育開始後2日目には、低塩分海水処理区では93%の生存率であったのに対して、全海水処理区では30%の生存率であった。また、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では65%の生存率であったのに対して、全海水処理区では8.8%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0038】
(実施例3および比較例3)
底引き網で漁獲された外傷のあるオニオコゼ(カサゴ目)を市場から活魚として100尾(24.6±1.6cm、289.3±58.5g)購入した。この外傷のあるオニオコゼを二分し、50尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)2kLで飼育し(実施例3)、残りの50尾を全海水(塩分濃度3.30%)2kLで飼育した(比較例3)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を
図2に示す。
【0039】
図2より明らかなように、市場から活魚として購入した外傷のあるオニオコゼは、飼育開始後5日目には、低塩分海水処理区では100%の生存率であったのに対して、全海水処理区では82%の生存率であった。また、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では96%の生存率であったのに対して、全海水処理区では70%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0040】
(実施例4および比較例4)
外傷のない健康なマダイ(スズキ目)40尾(14.4cm±1.0cm、92.0g±15.9g)を、網の上に干出して45秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったマダイを二分し、20尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)0.1kLで飼育し(実施例4)、残りの20尾を全海水(塩分濃度3.30%)0.1kLで飼育した(比較例4)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を
図3に示す。
【0041】
図3より明らかなように、模擬外傷を負わせたマダイは、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では100%の生存率であったのに対して、全海水処理区では70%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0042】
(実施例5および比較例5)
外傷のない健康なウマヅラハギ(フグ目)40尾(7.4cm±0.7cm、9.4g±2.7g)を、網の上に干出して90秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったウマヅラハギを二分し、20尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)0.1kLで飼育し(実施例5)、残りの20尾を全海水(塩分濃度3.30%)0.1kLで飼育した(比較例5)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を
図4に示す。
【0043】
図4より明らかなように、模擬外傷を負わせたウマヅラハギは、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では90%の生存率であったのに対して、全海水処理区では60%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0044】
(実施例6および比較例6)
外傷のない健康なキジハタ(スズキ目)12尾(13.9cm±1.4cm、66.1g±12.4g)を、網の上に干出して90秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったキジハタを二分し、6尾を塩分濃度1.10%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)0.1kLで飼育し(実施例6)、残りの6尾を全海水(塩分濃度3.30%)0.1kLで飼育した(比較例6)。10日間の飼育期間中の生存率の経時変化を比較した。結果を
図5に示す。
【0045】
図5より明らかなように、模擬外傷を負わせたキジハタは、飼育開始後10日目には、低塩分海水処理区では80%を超える生存率であったのに対して、全海水処理区では50%の生存率であった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い延命効果を示した。
【0046】
(実施例7および比較例7)
実施例1および比較例1の全海水の代わりに人工海水(株式会社マリン・テック製シーライフ;塩分濃度3.30%)を用いたこと以外は、実施例1および比較例1と同様にして、塩分濃度0.41%、0.83%、1.65%および2.48%(0.41〜2.48%の4段階)の低塩分人工海水をそれぞれ0.1kL調製した。
【0047】
次に、外傷のない健康なメバル(カサゴ目)140尾(12.4cm±0.2cm、34.7g±0.7g)を、網の上に干出して60秒間振動を与えて、模擬外傷を負わせた。この処理を行ったメバルを上記0.41〜2.48%の4段階の塩分濃度の低塩分人工海水または人工海水(塩分濃度3.30%)で14尾ずつ飼育した。飼育開始後6日目の塩分濃度と生存率の関係を調べた。結果を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
表2より明らかなように、模擬外傷を負わせたメバルは、塩分濃度0.83%および1.65%の低塩分人工海水処理区(実施例7−1および実施例7−2)では、飼育開始後6日目でも斃死はなかった。塩分濃度2.48%の低塩分人工海水処理区(実施例7−3)では、飼育開始後6日目に斃死があり、6日目の生存率は75%であった。これに対し、塩分濃度0.41%の低塩分人工海水処理区(比較例7−1)では、飼育開始後2日目から斃死が始まり、6日目には45%しか生存しなかった。また、塩分濃度3.30%の人工海水処理区(比較例7−2)では、飼育開始後4日目から斃死が始まり、6日目には40%しか生存しなかった。このように、塩分濃度0.55〜2.75%の低塩分人工海水処理区は、塩分濃度3.30%の人工海水処理区より高い延命効果を示した。
【0050】
(実施例8および比較例8)
鱗を約2cm
2剥離させたメバル10尾をそれぞれ塩分濃度0.83%または1.65%の低塩分海水(実施例1および比較例1と同様に調製)1kLあるいは全海水(塩分濃度3.30%)1kLで飼育した。給餌をしながら飼育し、剥離させた鱗の再生を比較した。結果を表3および
図6に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3より明らかなように、塩分濃度0.83%および1.65%の低塩分海水処理区では、飼育開始後10日目から鱗の再生の兆しを観察でき、15日目には鱗の再生を確認でき、そして20日目には鱗が完全に再生した。全海水処理区では、鱗の再生が遅く、飼育開始後30日目でも鱗が十分に再生しなかった。
【0053】
図6より明らかなように、塩分濃度1.65%の低塩分海水処理区では、飼育開始後15日目には鱗の剥離部分と周辺との境界が不鮮明であり、鱗の再生を確認できた。塩分濃度0.83%の低塩分海水処理区でも同様であった。一方、全海水処理区では、鱗の剥離部分と周辺との境界が鮮明であり、鱗の再生を確認できなかった。このように、低塩分海水処理区は、全海水処理区より高い外傷からの回復効果を示した。