特許第6103477号(P6103477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6103477多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂、これを含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とこれを硬化して得られた硬化膜、硬化膜が積層されたプラスチックフィルム、プラスチックフィルムを用いたプラスチック射出成型品及び加工製品。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103477
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂、これを含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とこれを硬化して得られた硬化膜、硬化膜が積層されたプラスチックフィルム、プラスチックフィルムを用いたプラスチック射出成型品及び加工製品。
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/38 20060101AFI20170316BHJP
   C08F 290/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C08F220/38
   C08F290/00
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-42729(P2013-42729)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2013-213200(P2013-213200A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2016年2月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-49408(P2012-49408)
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮尾 佳明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁宣
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 浩壽
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−336581(JP,A)
【文献】 特表2004−536934(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/068138(WO,A1)
【文献】 特表2002−500700(JP,A)
【文献】 Brent Vernon et al.,Water-borne, in situ crosslinked biomaterials from phase-segregated precursors,Journal of Biomedical Materials Research PartA,2003年,Volume64A, Issue3,pp.447-456
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/38
C08F 290/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で算出されるxが100以上、200以下である多官能チオール化合物(A)のチオール末端と、二官能の(メタ)アクリレート化合物(B)の少なくとも一方の末端に有する(メタ)アクリロイル基が、エン−チオール反応して成り、一般式(1)で表わされる末端構造を2以上有することを特徴とする多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物
【数1】
【化1】
(式中、Xは多官能チオール化合物(A)の末端チオール基を除く構造を示す。R及びRはそれぞれ水素またはメチル基、RはO、または、−O−R−O−を示す。Rは、C1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、−(CHCHO)CHCH−、−(CHCH(CH)O)CHCH(CH)−、−CHCHOP=O(OH)OCHCH−、−CHCH(OH)CH−、及び、下記一般式(1−1)〜(1−3)で示される構造より選ばれる少なくとも一種である。m、p及びqは正の整数、p+q=2〜6を示す。)
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項2】
式1で算出されるxが100以上、200以下である多官能チオール化合物(A)のチオール末端と、二官能の(メタ)アクリレート化合物(B)の少なくとも一方の末端に有する(メタ)アクリロイル基が、エン−チオール反応して結合した下記一般式(2)で表わされる末端構造を有する多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物
【数1】
【化5】
(式中、Xは多官能チオール化合物(A)の末端チオール基を除く構造を示す。R及びRはそれぞれ水素またはメチル基、RはO、または、−O−R−O−を示す。Rは、C1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、−(CHCHO)CHCH−、−(CHCH(CH)O)CHCH(CH)−、−CHCHOP=O(OH)OCHCH−、−CHCH(OH)CH−、及び、下記一般式(1−1)〜(1−3)で示される構造より選ばれる少なくとも一種である。m、p及びqは正の整数、p+q=2〜6を示す。nは2〜6を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項3】
多官能チオール化合物(A)が、下記一般式(3)〜(7)で表わされる多官能チオール化合物のいずれか一種以上を含むものであることを特徴とする請求項1又は2記載の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物
【化6】
(式中、Rは水素またはメチル基、nは1〜12の整数を示す。)
【化7】
(式中、Rは水素またはメチル基を示す。)
【化8】
(式中、Rは水素またはメチル基を示す。)
【化9】
(式中、Rは水素またはメチル基を示す。)
【化10】
(式中、Rは、水素またはメチル基を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより硬化させて得られることを特徴とする硬化膜。
【請求項5】
請求項記載の硬化膜が積層されたプラスチックフィルム。
【請求項6】
請求項記載のプラスチックフィルムを用いたプラスチック射出成型品。
【請求項7】
請求項記載のプラスチックフィルムを積層した加工製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂、これを含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とその硬化膜、硬化膜が積層されたプラスチックフィルム、プラスチックフィルムを用いたプラスチック射出成型品及び加工製品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品の表面に絵柄や風合いなどの装飾や傷付き難さの付与を施す製造工法として、(1)PET(ポリエチレンテレフタレート)等のプラスチックフィルムに接着層や絵柄層、ハードコート層を積層した加飾用ハードコートフィルムを金型内に挿入し、射出成型と同時にプラスチック成型品に貼り付けるインモールド成型工法Film Insert Moulding、In−Mold Decorating、In−Mold Laminatingなどと言われる)や、(2)射出成型したプラスチック製品表面、及び、鋼板、建材に加飾用ハードコートフィルムを張り合わせるフィルム貼り合せ加飾工法が注目されている。
【0003】
上記工法では、加飾用ハードコートフィルムが金型内面または成型品の製品形状に沿うように延伸される。しかしながら、一般的にハードコート性を優先するほど硬くて脆い性状となるため、上記工法に使用される加飾用ハードコートフィルムは、延伸時の応力でクラックが生じ易く加工性が低下してしまう。具体的には、曲面のきつい加工や箱型の加工(深絞り加工という)でクラックが生じ易く、ハードコート性を低下させる代わりに柔軟性を付与させ加工性を向上させるか、もしくは、デザイン性が制限されるものであった。
【0004】
近年、製品の差別化を図るためにデザインの複雑化や、表面の傷付き難さが要求されており、ハードコートフィルムにおける柔軟性とハードコート性の両立は必要不可欠である。これに対しては、種々の方法が提案されている。例えば、三官能以上の(メタ)アクリルオリゴマーと一〜二官能(メタ)アクリルモノマーとの配合組成による架橋密度のコントロールする方法が挙げられる(特許文献1参照)。この方法によれば、高い表面硬度と成型時の変形に追従できる柔軟性を兼ね備えたハードコートフィルムが得られるが、表面硬度と柔軟性がトレードオフの関係となっており、ある程度のバランスで妥協せざるを得ないという問題があった。
【0005】
また、他の例として、分子量が5,000〜50,000の(メタ)アクリロイル当量が200g/eq以上800g/eq以下のポリマー(メタ)アクリレートと、分子量1,000〜10,000の(メタ)アクリロイル当量100g/eq以上200g/eq未満の多官能ウレタン(メタ)アクリレート配合する方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、これについても、ハードコート性と柔軟性のトレードオフのバランスを(メタ)アクリロイル当量で規定したものであり、ある程度のバランスで妥協せざるを得ない。
【0006】
更に、ラジカル重合性二重結合を有しない非反応性樹脂を(メタ)アクリルモノマーに配合することで加工性を付与する手法も提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、このような非反応性樹脂や可塑性樹脂を配合する場合には、柔軟になり加工性は向上するものの、近年求められる高いハードコート性を達するには困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−148964号公報
【特許文献2】特開2004−123780号公報
【特許文献3】特開2008−208154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ハードコート性があり、かつ、柔軟性が高く加工性の優れた硬化膜を形成することができる多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明1は、式1で算出されるxが100〜200である多官能チオール化合物(A)(以下、(A)成分ともいう)のチオール末端と、二官能の(メタ)アクリレート化合物(B)(以下、(B)成分ともいう)の少なくとも一方の末端に有する(メタ)アクリロイル基が、エン−チオール反応して成り、一般式(1)で表わされる末端構造を2以上有する多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂である。
【数1】
【化1】
(式中、Xは多官能チオール化合物(A)の末端チオール基を除く構造を示す。R及びRはそれぞれ水素またはメチル基、RはO、または、−O−R−O−を示す。Rは、C1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、−(CHCHO)CHCH−、−(CHCH(CH)O)CHCH(CH)−、−CHCHOP=O(OH)OCHCH−、−CHCH(OH)CH−、及び、下記一般式(1−1)〜(1−3)で示される構造より選ばれる少なくとも一種である。m、p及びqは正の整数、p+q=2〜6を示す。)
【化2】
【化3】
【化4】
【0010】
また本発明2は、(A)成分のチオール末端と、(B)成分の少なくとも一方の末端に有する(メタ)アクリロイル基が、エン−チオール反応して結合した下記一般式(2)で表わされる末端構造を有する多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂である。
【化5】
(式中、Xは多官能チオール化合物(A)の末端チオール基を除く構造を示す。R及びRはそれぞれ水素またはメチル基、RはO、または、−O−R−O−を示す。Rは、C1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、−(CHCHO)CHCH−、−(CHCH(CH)O)CHCH(CH)−、及び、−CHCHOP=O(OH)OCHCH−、−CHCH(OH)CH−、及び、下記一般式(1−1)〜(1−3)で示される構造より選ばれる少なくとも一種である。m、p及びqは正の整数、p+q=2〜6を示す。)
【化2】
【化3】
【化4】
【0011】
また本発明3は、本発明1又は2において、(A)成分が、下記一般式(3)〜(7)で表わされる多官能チオール化合物のいずれかである多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂である。
【化6】
(式中、Rは水素またはメチル基、nは1〜12の整数を示す。)
【化7】
(式中、Rは水素またはメチル基を示す。)
【化8】
(式中、Rは水素またはメチル基を示す。)
【化9】
(式中、Rは水素またはメチル基を示す。)
【化10】
(式中、Rは、水素またはメチル基を示す。)
【0012】
また本発明4は、本発明1〜3のいずれかの多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物である。
【0013】
また本発明5は、本発明4の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより硬化させて得られる硬化膜である。
【0014】
また本発明6は、本発明5の硬化膜が積層されたプラスチックフィルムである。
【0015】
また本発明7は、本発明6のプラスチックフィルムを用いたプラスチック射出成型品である。
【0016】
また本発明8は、本発明6のプラスチックフィルムを積層した加工製品である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のチオエーテル結合含有の多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂を使用すれば、柔軟性と、高い鉛筆硬度と耐擦傷性を有する優れたハードコート性(優れた表面傷付き難さ)とを両立した硬化膜を形成することができる。これにより、従来の技術では困難だった加工性が高いだけでなく、硬化膜表面の傷付き難さを付与することができるハードコートフィルムを形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における(A)成分は、単官能チオール化合物ではなく、反応性官能基として、チオール基(−SH)が末端に2個以上有する多官能チオール化合物であれば特に限定されない。(A)成分を多官能チオール化合物とすることで、本発明の樹脂は、末端に(メタ)アクリロイル基を2個以上有した多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂とすることができ、活性エネルギー線を照射して得られる硬化物は密な三次元架橋構造を取り易くなることから、優れたハードコート性を有するものとすることができる。本明細書における多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂とは、2個以上のチオエーテル結合を含有する多官能(メタ)アクリレートを意味する。
【0019】
また、上記(A)成分は、式1より算出されるxが、100〜200であることが優れたハードコート性を有する硬化膜を形成する多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂を有するものとできる点で好ましい。xが100〜200であれば、密な三次元架橋構造が得ることができ、より優れたハードコート性を付与することができる。具体例としては、一般式(3)〜(7)で表わされるテトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)等の多官能チオール化合物が挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して使用することができる。入手容易性の点から、一般式(3)〜(7)で表わされる多官能チオール化合物がより好ましい。
【数1】
【0020】
上記(B)成分は、少なくとも一方の末端に(メタ)アクリロイル基を有する二官能の(メタ)アクリレートであれば特に限定されない。三官能、もしくはそれ以上の多官能(メタ)アクリレート化合物を用いた場合には、多官能チオール化合物とのエン−チオール反応で、分子同士の架橋構造が過度に形成され易くなる結果、ゲル化が生じ易く、反応制御が困難になる。具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、3−メチル−1.5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1.6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1.3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1.9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、EOまたはPO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート化合物、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ジ(メタ)アクリル酸無水物等が挙げられる。これらはそれぞれを単独で、または2種以上を併用して配合してもよい。より好ましくは、容易に入手できる点で、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ジ(メタ)アクリル酸無水物である。2種以上使用する場合の各二官能(メタ)アクリレート成分の使用割合は、特に制限されない。
【0021】
上記エン−チオール反応とは、本発明では、(メタ)アクリロイル化合物の反応性不飽和基とチオール化合物のチオール基との付加反応をいう。本発明の多官能チオ(メタ)アクリレートは、上記(A)成分と(B)成分のラジカル共重合反応によるラジカル共重合体は含まれない。ラジカル共重合体とすると、本発明が有する一般式(1)の構造が含まれず、(B)成分のみの長鎖重合物が(A)成分のチオール末端と結合した構造となり、ハードコート性は向上するものの加工性が低下する傾向となる。
【0022】
本発明の多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂は、上記(A)成分の末端チオール基(−SH)と、(B)成分の少なくとも一方の末端に有する(メタ)アクリロイル基が、エン−チオール反応して得られた生成物であり、一般式(1)で表わされる末端構造を2以上有するものである。本発明の多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂における(B)成分の使用割合は(A)成分のチオール基1個に対して、(B)成分の二官能(メタ)アクリレート化合物が1〜3分子となる比率が好ましい。(B)成分の割合をこの割合とすることで、未反応の(B)成分の増加を抑制し、ハードコート性をより優れたものとすることができるとともに、(B)成分の両末端がチオール基と反応する確率を下げ、分子量の増大を防ぎ、高粘度化を防止し、有機溶剤等への良好な相溶性を有するものとし、さらにはゲル化しにくくなる。硬化物の加工性とハードコート性の両立を優れたものとする点で、より好ましくは(B)成分の使用割合は、1〜2分子である。
【0023】
エン−チオール反応は、反応性が高く無触媒でも反応が進行するものの、酸、または、アミン触媒を使用することが好ましい。具体的には、例えば、酸触媒としてはオクチル酸第一錫、ジブチル錫ジラウレート等に挙げられる錫化合物、アミン触媒としては、トリエチルアミン、イミダゾリジン、プロリン、キナアルカロイド、トリアザビシクロデセン、ジアザビシクロウンデセン、ヘキサヒドロメチルピリミドピリジン、ジアザビシクロノナン、テトラメチルグアニジン、ジアザビシクロオクタン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルピペリジンが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、上記触媒の使用量は、全重合成分100重量部に対し、0.001〜0.01重量部程度とすることが好ましい。
【0024】
また上記エン−チオール反応においては、メトキノン、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン等の重合禁止剤を使用することができる。重合禁止剤の使用量は特に限定されないが、得られる樹脂の反応硬化性に悪影響を与えることがないようにするため生成物の合計重量100重量部に対して、通常、1重量部程度以下とすることが好ましい。また、重合を防止するために、反応系中に空気を吹き込む等してもよい。
【0025】
上記エン−チオール反応には、有機溶剤を用いず無溶剤で生成物を得ることができる。また、各成分が溶解可能な有機溶剤を用い溶剤中での合成も可能で有り、その場合、有機溶剤の希釈効果により生成物を低粘度で得ることができるメリットがある。好ましい有機溶剤としては、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトン等に挙げられるケトン類以外の有機溶剤であれば、特に限定することなく公知のものを使用することができる。ケトン類を使用した場合は、(A)成分のチオール基と(B)成分の(メタ)アクリロイル基とのエン−チオール反応が阻害されてしまう。好適な有機溶剤として具体的には、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;酢酸ブチル、酢酸エチル等が挙げられる、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。各反応工程において、反応温度を高く設定すると反応を効率よく短時間で進行させることができるため、沸点が高いものが好ましいものの、活性エネルギー線硬化型ハードコート剤としては乾燥性がよいものが好ましい点を考慮すると、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエンが好ましい。
【0026】
本発明はまた、(A)成分のチオール末端と(B)成分の少なくとも一方の(メタ)アクリロイル基がエン−チオール反応して結合した下記一般式(2)で表わされる末端構造を有するチオエーテル結合を含有する多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂でもある。
【化5】
(式中、Xは多官能チオール化合物(A)の末端チオール基を除く構造を示す。R及びRはそれぞれ水素またはメチル基、RはO、または、−O−R−O−を示す。Rは、C1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキレン基、−(CHCHO)CHCH−、−(CHCH(CH)O)CHCH(CH)−、−CHCHOP=O(OH)OCHCH−、−CHCH(OH)CH−、及び、下記一般式(1−1)〜(1−3)で示される構造より選ばれる少なくとも一種である。m、p及びqは正の整数、p+q=2〜6を示す。)
【化2】
【化3】
【化4】
【0027】
本発明の多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂は、一般式(2)で表わされるように、1分子中に2〜6のカッコ内の末端構造を有する。カッコ内で表わされる構造が1のみであれば、硬化膜のハードコート性が低下する。カッコ内で表わされる構造が2〜6であると、密な三次元架橋構造を構築することからハードコート性が向上する。カッコ内で表わされる構造が6を超えると、エン−チオール反応の制御が困難になりゲル化し易くなる。
【0028】
本発明の多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂における(A)成分と(B)成分、これらの割合、製造方法は上述したとおりである。
【0029】
上記多官能チオ(メタ)アクリレート樹脂、(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物もまた本発明の一つである。本発明の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物の硬化物は、架橋密度が高いことからハードコート性に優れ、かつ、柔軟性に優れている。そのため、従来検討されていた架橋密度の調整や、未反応樹脂等の配合などの手法では困難であった硬化膜のハードコート性と柔軟性の両立が達成でき、加飾用ハードコートフィルム用の部材に好適に使用することができる。
【0030】
上記(メタ)アクリロイル基を3個以上有する多官能(メタ)アクリレートは、1分子中に(メタ)アクリロイル基の末端を3個以上有する(メタ)アクリレートであれば特に限定されず、具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ/テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシトリ/テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールプロポキシトリ/テトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらはそれぞれを単独で、または2種以上を併用して配合してもよい。ハードコート性及び硬化性の点から好ましくは、ペンタエリスリトールトリ/テトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートである。より好ましくは、ウレタン(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ/テトラ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートである。2種以上使用する場合の各多官能(メタ)アクリレート成分の使用割合は、特に制限されない。
【0031】
上記ウレタン(メタ)アクリレートとしては、多価のイソシアネート化合物と2個以上の水酸基含有化合物を反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物に、水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られる分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート、及び多価イソシアネート化合物と1つの水酸基を含有する(メタ)アクリレート化合物を反応させて得られる分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、分子中にエポキシ基を3個以上含有する化合物に(メタ)アクリル酸を反応させて得られる(メタ)アクリロイル基を3個以上有するエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
上記光重合開始剤としては、紫外線により分解してラジカルを発生して重合を開始させることができるものであれば、特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン等が挙げられBASF社などから容易に入手することができる。これらは1種を単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。光重合開始剤の使用量は、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物100重量部に対して、0.1〜10重量部程度とすることが好ましい。
【0034】
本発明の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物は、耐摩耗性向上やブロッキング性向上を目的に無機フィラーと配合しても良い。無機フィラーとしては、シリカや金属酸化物微粒子などの公知のものを限定なく使用することができる。例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化インジウム等があげられる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらのうち、商業的に製品群が充実しており入手容易で、安価であることから、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムおよび酸化亜鉛が好ましい。
【0035】
上記無機フィラーの平均粒子径200nm(レーザー回折・散乱法による)以下に制御されたものを使用することが好ましい。平均粒子径が200nmを超えると硬化膜に白化が生じ易くヘイズや透過効率などの光学特性を損ねる恐れがある。
【0036】
本発明の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物は、更に必要に応じて添加剤を配合することもできる。上記添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、表面調整剤、防汚染剤、顔料、帯電防止剤、金属酸化物微粒子分散体が挙げられる。
【0037】
また、上記活性エネルギー線硬化型ハードコート剤に活性エネルギー線を照射することにより硬化させて得られる硬化膜も本発明の一つである。本発明の硬化膜を使用すれば、加工性とハードコート性を両立した加飾ハードコートフィルムとして、使用することができる。
【0038】
上記活性エネルギー線としては、光(紫外線などの光線)、電子線、X線、α線、β線、γ線、中性子線等が挙げられる。一般に広く普及しているという点で、光と電子線が好ましい。
【0039】
上記硬化膜が積層されたプラスチックフィルムも本発明の一つである。これまでハードコート層のクラックから適応できなかったような曲面のきつい加工や深絞り加工においても対応することができ、従来と同等の傷付き難いハードコート性を成型品の表面に付与することができる。具体的には、IML工法やフィルム貼り合せ加飾に好適に使用することができる。
【0040】
上記プラスチックフィルムの基材としては、特に制限はなく、例えば、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)が挙げられる。
【0041】
上記プラスチックフィルムに硬化膜を積層させる方法としては、公知の方法で、活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物を塗布して乾燥させた後に、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより行う。樹脂組成物の塗布方法としては、例えばバーコーター塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法等が挙げられる。なお、塗布量は特に限定されないが、通常は、乾燥後の重量が0.1〜20g/m、好ましくは0.5〜10g/mになる範囲である。
【0042】
本発明はまた、上記プラスチックフィルムを用いたプラスチック射出成型品でもある。従来ではハードコート層のクラックの問題から、プラスチック射出成型品のハードコート性に妥協を強いるか、もしくは、デザイン性に制限があったが、本発明のプラスチックフィルムを用いれば、複雑なデザイン性に対応し、且つ、表面に傷が付き難いプラスチック射出成型品を得ることができ、携帯電話端末やパソコンといった電気機器の筐体や、車内内装トリムや外装カバーの一部に使用可能である。
【0043】
本発明は更に、上記プラスチックフィルムを積層した加工製品でもある。プラスチックフィルムの積層方法は、金型内に挿入し射出成型と同時にプラスチック成型品に貼り付ける工法とは異なり、熱可塑性樹脂を射出成形または押出成形したプラスチック加工品の表面に、プラスチックフィルムを張合せるものである。また、加工製品としては、携帯電話端末やパソコンといった電気機器の筐体や、車内内装トリムや外装カバーの一部、プラスチック容器に使用可能である。
【0044】
以下に、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。なお、各例中、部および%は特記しない限りすべて重量基準である。
【0045】
<合成例1>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、トルエン 31.0部、(B)成分としてジメチロールトリシクロデカンジアクリレート(以下、DCP−A) 31.0部、トリエチルアミン(以下、TEA)0.01部、メトキノン 0.2部を入れ攪拌しながら60℃まで加熱し、予め準備しておいた(A)成分としてテトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)(以下、EG−MP、上記一般式(3)に相当;式1が算出するx=186)19.0部、トルエン19.0部の混合溶液を、滴下ロートから2時間かけて全量を滴下した。その後、60℃で5時間保温し、一般式(1)の末端構造を有するチオエーテル結合含有の二官能アクリレート(樹脂1)を得た。
【0046】
<合成例2>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル 30.8部、(B)成分として2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート(商品名「NKエステル701A」新中村化学工業株式会社)30.8部、TEA0.01部、メトキノン0.2部を入れ攪拌しながら60℃まで加熱し、予め準備しておいた(A)成分としてトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(以下、TM−MP、上記一般式(4)に相当;x=133)19.2部、酢酸ブチル19.2部の混合溶液を、滴下ロートから2時間かけて全量を滴下した。その後、60℃で5時間保温し、一般式(1)の末端構造を有するチオエーテル結合含有の三官能メタアクリレート(樹脂2)を得た。
【0047】
<合成例3>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル 31.9部、(B)成分としてテトラエチレングリコールジアクリレート(以下、4EGA)31.9部、TEA0.01部、メトキノン0.2部を入れ攪拌しながら60℃まで加熱し、予め準備しておいた(A)成分としてトリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(以下、TI−MP、上記一般式(5)に相当;x=176)18.1部、酢酸ブチル18.1部の混合溶液を、滴下ロートから2時間かけて全量を滴下した。その後、60℃で5時間保温し、一般式(1)の末端構造を有するチオエーテル結合含有の三官能アクリレート(樹脂3)を得た。
【0048】
<合成例4>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、トルエン 39.8部、(B)成分としてトリプロピレングリコールジアクリレート(以下、TPGDA)39.8部、TEA0.01部、メトキノン0.2部を入れ攪拌しながら60℃まで加熱し、予め準備しておいた(A)成分としてペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、以下PT−MP、上記一般式(6)に相当;x=123)10.7部、トルエン10.7部の混合溶液を、滴下ロートから2時間かけて全量を滴下した。その後、60℃で5時間保温し、一般式(1)の末端構造を有するチオエーテル結合含有の四官能アクリレート(樹脂4)を得た。
【0049】
<合成例5>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、酢酸ブチル 35.6部、(B)成分としてNKエステル701A 35.6部、TEA0.01部、メトキノン0.2部を入れ攪拌しながら60℃まで加熱し、予め準備しておいた(A)成分としてジペンタエリスリトール ヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、以下DP−MP、上記一般式(7)に相当;x=131)14.4部、酢酸ブチル14.4部の混合溶液を、滴下ロートから2時間かけて全量を滴下した。その後、60℃で5時間保温し、一般式(1)の末端構造を有するチオエーテル結合含有の六官能メタアクリレート(樹脂5)を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
<実施例1>
合成例1により得られたチオエーテル結合含有の二官能アクリレート(樹脂1)100部に対して、ペンタエリスリトールトリアクリレート(以下、PE3A)50部、光重合開始剤(商品名「イルガキュア184」BASF社)5部、メチルエチルケトン(以下、MEK)95部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0052】
<実施例2>
合成例2により得られたチオエーテル結合含有の三官能メタアクリレート(樹脂2)100部に対して、PE3A 116.7部、イルガキュア184 8.3部、MEK 191.7部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0053】
<実施例3>
合成例2により得られたチオエーテル結合含有の三官能メタアクリレート(樹脂2)100部に対して、6官能ウレタンアクリレート(商品名「UA−306H」;共栄社化学株式会社)50部、イルガキュア184 5部、MEK 95部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0054】
<実施例4>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン 39.5部を入れ、窒素気流下で110℃まで昇温させた後、グリシジルメタクリレート(以下、GMA) 26.0部、アゾビスイソブチロニトリル 1.2部の混合液を仕込んだ滴下ロートから2時間掛けて全量滴下し、5時間反応させることで、GMA共重合体を得た。その後、常温まで冷却した後、アクリル酸を13.2部、トリフェニルフォスフィン 0.3部、メトキノン 0.1部を仕込み、滴下ロートを外して窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気をバブリングしながら攪拌し、110℃6時間反応させ重量平均分子量17,000のポリエステルアクリレートを得た。このポリエステルアクリレート 125部に対して、合成例2により得られたチオエーテル結合含有の三官能メタアクリレート(樹脂2)を100部、イルガキュア184 5部、MEK 20部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0055】
<実施例5>
合成例3により得られたチオエーテル結合含有の三官能アクリレート(樹脂3)100部に対して、PE3A 116.7部、イルガキュア184 8.3部、MEK 191.7部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0056】
<実施例6>
合成例4により得られたチオエーテル結合含有の四官能アクリレート(樹脂4)100部に対して、グリセリントリアクリレート(商品名「デナコールDA−314」;ナガセ化成工業株式会社)50部、イルガキュア184 5部、MEK 95部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0057】
<実施例7>
合成例5により得られたチオエーテル結合含有の六官能メタアクリレート(樹脂5)100部に対して、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート(商品名「NKエステルA−9300−1CL」;新中村化学工業株式会社)50部、イルガキュア184 5部、MEK 95部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0058】
<比較例1>
一般的なハードコート剤の構成成分として知られるペンタエリスリトールトリアクリレート(PE3A)を比較として使用。PE3Aとして、市販品の中から商品名「アロニックスM305」(東亞合成株式会社製)を100部、イルガキュア184 5.0部、MEK 145部を混合したものを、固形分40%の汎用ハードコート剤とし、比較例1とした。
【0059】
<比較例2>
架橋密度低減による柔軟性付与を目的とし、比較例1の樹脂組成の一部を、単官能アクリルモノマー;イソボルニルアクリレートに置換した。アロニックスM305 25.0部、イソボルニルアクリレート 75.0部、イルガキュア184 5.0部、MEK 145部を混合し、固形分40%の活性エネルギー線樹脂組成物とした。
【0060】
<比較例3>
柔軟性付与の目的から、比較例1の樹脂組成にラジカル重合性基を有しない未反応樹脂を配合した。アロニックスM305 80部、飽和ポリエステル樹脂 商品名「KA−2056」(荒川化学工業株式会社) 33.3部(固形分20.0部)、イルガキュア184 5部、MEK 131.7部を混合し、固形分40%の活性エネルギー線樹脂組成物とした。
【0061】
<比較例4>
UA−306H 100部、イルガキュア184 5部、MEK 145部を混合し、固形分40%の活性エネルギー線樹脂組成物とした。
【0062】
<比較例5>
デナコールDA−314 100部、イルガキュア184 5部、MEK 145部を混合し、固形分40%の活性エネルギー線樹脂組成物とした。
【0063】
<比較例6>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン 39.5部を入れ、窒素気流下で110℃まで昇温させた後、グリシジルメタクリレート(以下、GMA) 26.0部、アゾビスイソブチロニトリル 1.2部の混合液を仕込んだ滴下ロートから2時間掛けて全量滴下し、5時間反応させることで、GMA共重合体を得た。その後、常温まで冷却した後、アクリル酸を13.2部、トリフェニルフォスフィン 0.3部、メトキノン 0.1部を仕込み、滴下ロートを外して窒素流入口をエアーバブリング装置に取り換えて空気をバブリングしながら攪拌し、110℃6時間反応させ重量平均分子量17,000のポリエステルアクリレートを得た。このポリエステルアクリレート 100部に対して、イルガキュア184 2部を配合し、固形分40%の活性エネルギー線硬化型ハードコート樹脂組成物とした。
【0064】
<比較例7>
NKエステルA−9300−1CL 100部、イルガキュア184 5部、MEK 145部を混合し、固形分40%の活性エネルギー線樹脂組成物とした。
【0065】
<比較例8>
柔軟性を有する多官能アクリレートとして、ε−カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート;商品名「DPCA−120」(日本化薬株式会社)を100部、イルガキュア184 5部、MEK 145部を混合し、固形分40%の活性エネルギー線樹脂組成物とした。
【0066】
<比較例9>
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口を取り付けた四つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート15.9部、ポリカーボネートジオール(数平均分子量1000、商品名「デュラノールT6001」旭化成ケミカルズ)35.8部、メチルイソブチルケトン40部を入れ、攪拌しながら60℃まで加温し1時間保温した後、ジブチル錫ジアセテート0.05部添加し、80℃で2時間反応させ、ポリカーボネートジオールのOH基両末端にそれぞれイソホロンジイソシアネートを付加させ、ポリカーボネートの両末端にイソシアネート基を導入した。その後、40℃まで冷却し、2−ヒドロキシエチルアクリレート 8.3部と、ジブチル錫ジアセテート 0.05部を入れ、80℃まで加温し5時間反応させ、イソシアネート末端に、2−ヒドロキシエチルアクリレートのOH基を付加させ、ポリカーボネートウレタンジアクリレート(樹脂6)が得られた。室温まで冷却させたのち、イルガキュア184を5部、MEK 47部を混合し、固形分40%の活性エネルギー線樹脂組成物とした。
【0067】
各実施例および比較例のハードコーティング剤を厚さ188μmの片面易接着処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名「コスモシャインA4100」東洋紡績株式会社)の易接着面にバーコーターNo.12で塗布し、80℃1分間乾燥させた後、紫外線光を300mJ/cm照射し、膜厚5μmの硬化膜を得た。
【0068】
各実施例および比較例のハードコーティング剤を用い作成された硬化膜は、ハードコート性の評価として、鉛筆硬度試験と耐擦傷性試験にて評価した。加工性の評価は、硬化フィルムを一方向に延伸させる引張り試験にて算出される伸度、屈曲性にて評価した。それらの評価結果は表3に示す。
【0069】
(鉛筆硬度試験)
JIS−K−5600に準じて、鉛筆硬度を評価した。鉛筆硬度F以上のものを優れた硬度としてハードコート性を十分に満たすものとし、鉛筆硬度B以下のものはハードコート性が劣るものであると評価した。
【0070】
(耐擦傷性の評価)
#0000スチールウールを使用し、100g/cm荷重をかけて、硬化膜表面を10往復擦傷し、目視にて傷の有無を確認した。傷が無ければ優れたハードコート性を有し、傷数本であればハードコーティング剤として使用可能、傷多数でハードコーティング剤として不適な結果であると評価した。
【0071】
(伸度)
伸度は、硬化膜を長さ100mm、幅7mmの短冊状に切り出した試験片を引張試験機(型番「RTC−1250A」株式会社オリエンテック)にチャック間距離50mmでセットし、室温25℃、湿度45%RHの環境の下、引張り速度10mm/minで実施し、チャック間距離をそれぞれ60mm(伸度20%)、65mm(伸度30%)、70mm(伸度40%)になった点で停止し、硬化膜のクラックの有無を目視で観察し。クラックがなければ○、クラックが発生していれば×と評価した。硬化膜の伸度の測定により、硬化膜の柔軟性を評価することができる。伸度が大きければ柔軟な硬化膜といえ、例えば塗工フィルムの成型加工工程において、延伸の応力に対して柔軟に追従できることから、硬化膜のクラックを抑制することができ、加工性に寄与することができる。
【0072】
(屈曲性の評価)
硬化膜表面を外向きにし、φ2mmの円柱に巻き付け、クラックの有無を目視で確認した。クラック無ければ○とし、クラックがあれば×とした。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】