(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
巻糸体の芯管に通す支持ロールと該支持ロールの中心軸の両端末を連結するように懸架された押圧手段とを備えたポリウレタン弾性糸用解舒補助装置であって、該押圧手段が、支持ロールの両端末に接続されたアーム部と、該アーム部に接続された巻糸体の巻糸の耳部を押圧する接触押圧部と、両方の該接触押圧部を連結する連結部とを有し、前記支持ロールの中心軸および/または前記連結部がその両端を支持ロールの回転軸方向に引き寄せる張力付与機構を有するポリウレタン弾性糸用解舒補助装置。
前記接触押圧部が、押圧ロールを有するものであり、前記張力付与機構が、引きバネ、シリンダー、クランプ、ゴム及びエラストマーからなる群から選択される張力付与機構である請求項1に記載のポリウレタン弾性糸用解舒補助装置。
ポリウレタン弾性糸の巻糸体を並行して設置された2本の駆動ロール上に置き、該2本の駆動ロールを回転させることにより巻糸体を転がしてポリウレタン弾性糸を解舒する解舒方法であって、上記2本の駆動ロールの間に押圧部およびアーム部がくるように請求項1または2に記載のポリウレタン弾性糸用解舒補助装置を装着するポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒方法。
前記巻糸体の外層から一定厚さを解舒する際には、巻糸体の巻糸の耳部を前記解舒補助装置の押圧部により押圧し、内層側の一定厚さを解舒する際には前記解舒補助装置の押圧部が巻糸体の巻糸の耳部と離間する請求項3に記載のポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒方法。
ポリウレタン弾性糸の繊維度が100デシテックス以上、2000デシテックス以下であるポリウレタン弾性糸の巻糸体を、50m/分以下で回転し、解舒ドラフトを1.0以上、2.0以下とする請求項4に記載のポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒方法。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性糸は、その伸縮特性を活かし、ファンデーション、ソックス、パンティストッキング、水着などの衣料、スポーツ分野の伸縮機能素材として多用されている。また、近年では紙おむつのギャザー作成のための伸縮機能素材としても使用され、ポリウレタン弾性糸の用途はさらに拡大してきている。
【0003】
その中で繊度が100デシテックス以上のポリウレタン弾性糸は、繊維業界の中では中太繊度糸として扱われ、特にレース、細幅テープの衣料分野や、紙おむつに代表される衛生用品の部材や、ゴムネットなどの産業資材に使用されている。
【0004】
代表的な加工方法として、ポリウレタン弾性糸を芯糸にし、ナイロン、ポリエステル、アクリル、レーヨン、綿等を高速に巻き付けたカバーリング糸を造って編成・編織することで、タイツ、ストッキング、組紐などの製品が出来上がる。
【0005】
弾性糸を使用してカバーリング糸を製造する方法については、特許文献1〜特許文献4などに記載されるような方法が開示されており、ポリウレタン弾性糸巻糸体を2本の駆動ロール上に置いて、回転させながら、糸端を一定ドラフトで引き出し、解舒する方法がよく知られている。
【0006】
従来のポリウレタン弾性糸巻糸体では、製造段階において、巻糸体の最外層の巻糸の両端部には、「耳部」と称される凸状の部分が形成されていた。これらは巻糸体の巻取り工程において、弾性糸を巻糸体ボビン軸方向にトラバースして巻上げる際に、トラバースの折り返し部分で糸巻密度が高くなることが原因で発生するものである。
【0007】
上記のようなカバーリング糸を製造する方法の弾性糸の解舒工程では、ポリウレタン弾性糸巻糸体の最外層の巻糸の両端部に位置する弾性糸が、上記の「耳部」と称される凸状の部分から、回転解舒時中に脱落して、これが原因となって糸切れを発生させる問題があった。このような問題が発生した場合、糸切れした不定長なカバーリング糸は屑糸となる。糸が脱落しても、弾性糸の持つ伸縮特性により、幸いにして切れなかったとしても、かかる脱落が生じた個所においてはカバーリング時のドラフトが大きく変動し、その部分でのポリウレタン弾性糸への被覆斑などの製品欠点を引き起こすという問題があった。
【0008】
この様なカバーリング糸を製造する方法の解舒工程でのポリウレタン弾性糸の糸切れを防止するために、「耳部」の大きい弾性糸巻糸体を安定解舒する技術としては、特許文献5に記載されるように、解舒させる駆動ロールの形状を変更して、耳部に触れず解舒させる技術がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の適用対象であるポリウレタン弾性糸は、多数のフィラメントから構成されるマルチフィラメントからなるポリウレタン弾性糸であることが好ましい。フィラメント数、フィラメント形状、単糸デシテックス等については、特に限定はされるものではない。また、油剤の付与の有無も特に限定されるものではない。巻糸体において特に糸の脱落を引き起こしやすいのは、10フィラメント以上、120フィラメント以下の弾性糸であって、その繊度は100デシテックス以上、2000デシテックス以下の範囲である。
【0021】
巻糸体とは、材質を問わない円筒状の芯管にポリウレタン弾性糸をトラバースさせながら、巻き上げられたものであり、通常は張力の調整下で巻き上げられる。巻糸体に巻上げるポリウレタン弾性糸の質量については特に限定されるものでないが、通常100g〜1500gであり、カバーリング工程で使用される巻糸体の糸量としては、300g〜1500gが装置のスペース上の理由から一般的である。ポリウレタン弾性糸巻糸体の形状については、後述する。
【0022】
ポリウレタン弾性糸を構成するポリウレタン重合体は、ポリウレタン−ウレア共重合体であっても良いし、ポリウレタンとポリウレタン−ウレアの混合物もしくは共重合体であってもよい。より具体的には、このポリウレタン重合体は、2種類の型のセグメント、即ち、ソフトセグメントとハードセグメントとから構成されることが好ましい。ソフトセグメントは、長分子鎖からなるポリエーテル及び/又はポリエステルのセグメントからなることが好ましく、ハードセグメントは、有機イソシアネートとジアミン鎖伸長剤またはジオール鎖伸長剤との反応により誘導された比較的短鎖のセグメントからなることが好ましい。
【0023】
このポリウレタン重合体にはその使用用途によってベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤、酸化チタン、酸化鉄等の各種顔料、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化セシウム、炭酸カルシウム、銀イオン等を含有する機能性添加剤等、金属石鹸を代表とする滑剤が含有されていてもよい。滑材としては、ポリウレタンの樹脂内部に練り込み、または、外部に付与する形で添加されていても良い。外部に付与する形の代表例としては、ジメチルシロキサンを主成分とするシリコーン油剤や、流動パラフィンを主成分とする鉱物油剤、または、それらの組み合わせでもよく、適宜、ポリウレタン弾性糸の性能に合わせ、変性シリコーンオイル、添加剤、金属石鹸が加えられた油剤である。
【0024】
該ポリウレタン重合体を固体チップ状にしたものを溶融させて細孔を持つ口金から押し出し、冷却しながら糸状に溶融紡糸したもの、または、該ポリウレタン重合体を溶媒に溶解せしめ、溶液状態となった樹脂溶液を、細孔を持つ口金から押し出し、高温不活性ガス内で糸状に乾燥紡糸したものによりポリウレタン弾性糸を得ることができる。
【0025】
本発明のポリウレタン弾性糸用解舒補助装置は(以下、本解舒補助装置と略記することもある)、巻糸体の芯管に通す支持ロールと該支持ロールの中心軸の両端末を連結するように懸架された押圧手段とを備えたポリウレタン弾性糸用解舒補助装置であって、該押圧手段が、支持ロールの両端末に接続されたアーム部と、該アーム部に接続された接触押圧部と、両方の該接触押圧部を連結する連結部とを有し、前記支持ロールの中心軸および/または前記連結部がその両端を支持ロールの回転軸方向に引き寄せる張力付与機構を有する装置である。
【0026】
本解舒補助装置について具体例を図を用いて説明する。
図1−あ図は本解舒補助装置の一例を示した正面図である。
図1−い図は本解舒補助装置の一例を示した側面図である。
図2には
図1のA、Bを通る面からみた装置の断面を示す。
図1および
図2で代表して説明される態様を、以降第1の態様と記す。
【0027】
さらに別の例を
図3および
図4を用いて説明する。
図1,2と同様、
図3−あ図は本解舒補助装置の別の例を示した正面図である。
図3−い図は本解舒補助装置の別の例を示した側面図である。
図4には
図3のA、Bを通る面からみた装置の断面を示す。
図3および
図4で代表して説明される態様を、以降第2の態様と記す。
【0028】
図1に示す解舒補助装置は、巻糸体の芯管に通す支持ロール1と該支持ロール1の中心軸5aの両端末を連結するように懸架された押圧手段とを備えている。押圧手段は支持ロール1の両端末に接続されたアーム部4と、該アーム部4に接続された押圧ロールを有する2つの接触押圧部2と、両方の接触押圧部2を連結する3aとを具備する。本態様においては、接触押圧部2を連結する連結部3aは張力付与機構である引きバネを連結部3aとして用いており、これにより、2つの接触押圧部2を支持ロール1の回転軸方向に引き寄せることが可能となる。なお、連結部が張力付与機構を有するとは、このように連結部が張力付与機構そのものである場合も含むものであるが、連結部内部に張力付与機構を内蔵するものなども適用可能である。また、
図2に示すように、支持ロール1および接触押圧部2にはそれぞれ支持ロールの中心軸5a、接触押圧部の中心軸5bが通り、各ロールと中心軸がスムースに回転するように、ベアリング6が装備されることが好ましい。
【0029】
図3に示す解舒補助装置は、巻糸体の芯管に通す支持ロール1と該支持ロール1の中心軸5cの両端末を連結するように懸架された押圧手段とを備えている。押圧手段は支持ロール1の両端末に接続されたアーム部4と、該アーム部4に接続された押圧ロールを有する2つの接触押圧部2と、両方の接触押圧部2を連結する連結部3bとを具備する。接触押圧部2の間は連結部3bで結合される。さらに、
図4に示すように、本態様においては張力付与機構5dが支持ロール1内部の支持ロールの中心軸5cの中央部に具備されている。支持ロールの中心軸5cに張力付与機構5dを具備することで、2つの接触押圧部2を支持ロール1の回転軸方向に引き寄せることが可能となる。また、
図4に示すように、支持ロール1および接触押圧部2にはそれぞれ支持ロールの中心軸5c、接触押圧部の中心軸5bが通り、各ロールと中心軸がスムースに回転するように、ベアリング6が装備される。
【0030】
図1〜4に示す解舒補助装置の構成について更に好ましい態様について説明する。支持ロール1は糸体の芯管内径と同じかよりも小さい径のものを選定すればよい。支持ロール1の形状については、巻糸体の芯管の形状に従い、適宜変更すればよく、特に限定されるものでないが、スムーズに回転するロールを使うことが好ましい。
【0031】
支持ロール1の回転軸両端には、2つの接触押圧部2がアーム部4を介して懸架される。
該アーム部の材質などは特に問わないが、支持ロールの回転軸の長さや巻糸体の大きさによって、押圧ロールの巻糸体との接触角度が任意に変えられさえすれば良い。該押圧ロールの長さ、径については巻糸体の形状により適宜変更することが望ましい。押圧ロールの形状については、円筒状でも、くびれ状、そろばん玉状のような形状したものであっても、巻糸体の形状に合わせて選定すれば良い。それ自体回転する巻糸体に触れるものであるから、円筒状のロールがより好ましい。材質についても特に限定はないが、耐久性を考慮して、金属製が良く、金属の場合、表面材質についても、クロムメッキ、梨地処理などを施したものがよいが、特に好ましくは梨地処理である。
【0032】
第1の態様においては前述のように
図1および
図2中に示される連結部3aが張力付与機構であり、第2の態様においては、
図4中に示される支持ロールの中心軸5cに張力付与機構5dを有する。このように、本発明の両態様においては、例示される巻糸体の外層部の耳部8を抑えるための押圧ロールを支持ロールの回転軸方向に引き寄せる張力付与機構を持つ。第1の態様では、押圧ロール軸端どうしを連結し、押圧ロールを引き寄せる機構を例示し、第2の態様では、支持ロール内部に連結部を有し、押圧ロールをアーム部および支持ロールの軸を介して引き寄せる張力付与機構を例示している。
【0033】
これらの張力付与機構は巻糸体の硬度、繊度により適宜選定する。張力付与機構は、引きバネ、シリンダー、クランプ、ゴム、エラストマーなど部材によりその目的を達成できる。具体例としては引きバネ、エアシリンダー、油圧シリンダーが挙げられるが、構造が単純でありメンテナンスも容易な引きバネが好ましい。引きバネについては、バネ長さ、線径の太さと材質より最適なものを選定すればよい。これら部材は、押圧ロールと巻糸体の外層部の耳部8とを接触させ、一定レベルの押圧を付与する役割を持つ。
【0034】
次に本発明の適用対象であるポリウレタン弾性糸巻糸体の形状について図を用いて説明する。
図5は紡糸されたポリウレタン弾性糸を巻き上げ回転に対し垂直方向に往復運動をするトラバース機構、カムトラバースや羽根トラバース機構を持った巻取機で巻き上げた時に一般に得られる代表的なポリウレタン弾性糸巻糸体形状を解舒される方向から見て図示したものである。
【0035】
ポリウレタン弾性糸(以降、弾性糸と略記することもある)は一定張力を加えられながら、芯管7に崩れないように巻き上げられる。一般にトラバース機能で巻き上げられた弾性糸の場合には耳部8が形成される。これはトラバース機能で弾性糸が折り返されて巻き上げられる際に、その部分の巻密度が高くなるからである。弾性糸が解舒されて消費されるにつれて、前記耳部8の凸状態は少しずつ小さくなるが、100デシテックス以上の繊度の弾性糸においては、通常、総巻糸体の質量の6〜7割程度が消費されなければ耳部が消えることはない。
【0036】
図6には一般的に弾性糸の製造工程、即ち、紡糸巻き上げの終了の直前、または、紡糸巻上げ直後のポリウレタン弾性糸巻糸体に物理的外圧を加えて
図5における耳部8を崩して形状を変化させた弾性糸巻糸体の代表的な形状を示した図である。形状変化は
図6のとおり耳部が崩された部分は弾性糸巻糸体の最外層の近傍の部分のみに限定され、巻量が1kgの巻糸体であれば大凡0.025kg程度の糸が消費された時点でその効果は消滅してしまい、
図5のような耳部を持った巻糸体形状に戻ってしまう。
【0037】
図7には、巻糸体の製造工程、即ち巻取機において、巻き上げの終了の直前にトラバースの速度を変える、また或いは、巻上げ時の接触圧、また或いは、巻上げ速度を変えて、巻糸体に形状変化を与え、耳部の形成を抑えた巻糸体の形状の代表例を示す。
図7のとおり良好かつ安定解舒できる弾性糸巻糸体を得つつ、かつ、耳部の形成を抑えることができるのは、巻上げ終了時においてのみ形状変化を施すことに限定され、それは、弾性糸巻糸体の最外層の近傍の部分に効果が限定される。
図6同様、巻量が1kgの巻糸体であれば大凡0.025kg程度の糸が消費された時点でその効果は消滅してしまい、
図5のような耳部を持った巻糸体形状に戻ってしまう。
【0038】
図8にはポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒の仕方と解舒状態の一例を示す。
図8−あ図は弾性糸巻糸体の回転方向から見た図、
図8−い図は回転軸方向からみた図である。弾性糸巻糸体は、水平に設置された駆動ロール10に設置されて巻取り方向の逆回転方向にて糸端9が引き出されて解舒される。
【0039】
図9にはポリウレタン弾性糸巻糸体の最外層部の糸の解舒時に発生する外周表面からの糸の脱落についての一例を示す。
図9−あ図は弾性糸巻糸体の回転方向から見た図、
図9−い図は回転軸方向からみた図である。
図9−あ図、い図には最外層部の耳部(
図5、耳部8)から糸が脱落して解舒されている状態を示す。この状態が発生した場合には弾性糸は直後に糸切れを起こしてしまうのである。
【0040】
本発明のポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒方法においては
図9に示すようなポリウレタン弾性糸巻糸体の最外層部の糸の解舒時に発生する外周表面から糸が脱落するのを防ぐために、
図1〜
図4に示す解舒補助装置を巻糸体に装着するのである。
【0041】
本発明のポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒方法は、
図8に例を示すような、ポリウレタン弾性糸の巻糸体を並行して設置された2本の駆動ロール上に置き、該2本の駆動ロールを回転させることにより巻糸体を転がしてポリウレタン弾性糸を解舒する解舒方法をベースとする方法であって、前記2本の駆動ロールの間に押圧部およびアーム部がくるように前述のポリウレタン弾性糸用解舒補助装置を装着する方法である。以下に具体例を基に説明する。
【0042】
図10と
図11に本発明の解舒補助装置(
図1〜2において説明した第1の態様)を前記2本の駆動ロール10の間に押圧部およびアーム部がくるようにポリウレタン弾性糸巻糸体に装着した一例を示す。
図10(駆動ロール10の記載は省略している)では接触押圧部2の押圧ロールと巻糸体の外層部の耳部(
図5における符号8で示された部分)とが接触し、連結部3aとして設けられた張力付与機構により、前記耳部に押圧が加わった状態を示している。かかる状態の下、
図8に示すように解舒回転することにより巻糸体の形状は、押圧ロールにより巻糸体の外層部の耳部8が崩された
図6に示すような形態を維持するようになる。この形態は、弾性糸巻糸体の解舒の開始から巻糸体上のポリウレタン糸の消費に伴い巻糸体の径の減少が進んで一定の径を下回るまでの一定時間の間、保持されることになる。かかる形態に保持される時間は、押圧部2の押圧ロールの長さ、アーム部4と支持ロールの中心軸5aの長さ、連結部3aの最短時の長さ、および、張力調整機構の引き寄せ力により適宜調整される。かかる形態に保持されるべき時間は巻糸体の耳部の凸部の大きさに応じて調整すれば良い。一般にかかる形態に保持されるべき時間は巻糸体の糸の質量の3割〜6割が消費される迄であることが好ましい。保持が終了すれば、押圧ロールと巻糸体が離間することになる。なお、
図10および
図11に示す例においては、第1の態様のポリウレタン弾性糸用解舒補助装置にて説明を行ったが、第2の態様のポリウレタン弾性糸用解舒補助装置を適用した場合も同様である(その場合には、「支持ロールの中心軸5a」を「連結部3b」に、「連結部3a」を、「支持ロールの中心軸5c」に読み替える)。
【0043】
図12と
図13に本発明の解舒補助装置が、巻糸体の内層部を解舒する場合に、当該装置の押圧ロールが巻糸体の巻糸の耳部から離間したところを示す。弾性糸巻糸体の内層部においては、耳部は消失してしまうので、脱落による糸切れの危険性はなくなる。押圧が終了し、離間した後の解舒補助装置は、巻糸体の重りとなり、カバーリングに回転解舒をより安定にするために活用できる。ポリウレタン弾性糸のカバーリングの場合、解舒を安定にするために、1.0倍以上、2.0倍以下のドラフト(プレドラフトとも呼ばれる)を掛けられながら引き出されて解舒される。巻糸体の消費が進むにつれて、一般に弾性糸の解舒性はより悪くなり、巻糸体の巻糸消費が進むにつれ、巻糸体が軽くなるため、巻糸体自体ががたつく現象が起こることになる。該現象を防止する重りとしての役割を本解舒補助装置は持つ。近年、カバーリングドラフトは通常1.2〜1.5倍に対し、より高い条件=1.5倍〜2.0倍および50m/分以下の速度で解舒されており、ドラフトが高く、解舒速度が速い条件においては、より効果を発揮する。
【0044】
図11および
図13においては、駆動ロール10に対し本発明の解舒補助装置の位置関係を示しており、本発明の解舒補助装置と弾性糸巻糸体とにより、装置が弾性糸巻糸体と共に供回りする場合を防止するために、押圧部2は2つの駆動ロールの間に位置することが望ましい。
【0045】
本解舒補助装置の質量としては、巻糸体の巻量、巻硬度によって適宜、各部材の材質などを選定すれば良い。軽すぎると、巻糸体の回転方向へ押圧部2の押圧ロールが取られてしまい安定解舒性に悪影響を与える。重すぎると、弾性糸の耳部がさらに駆動ロール10に強く接触することで、糸脱落の危険が高くなる。故に巻糸体の質量の10〜30%相当の質量が特に好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例、比較例をあげて説明するが、この実施例は代表例を示すものであり、本発明がその方法に限定されるものではない。まず、性能評価に使用した評価方法の概要について以下に記述する。
【0047】
常法にて得られるポリウレタンウレア溶液を乾式紡糸によって、紡糸筒直下で仮撚りガイドによる仮撚りを施して紡糸筒内で熱融着(合着)させ、395デシテックス、22フィラメント合糸のポリウレタン弾性糸を紡糸し、10%伸長の状態に一定速度に延伸した後、シリコーンオイルを主成分とする油剤をポリウレタン弾性糸の質量の4%になるように付与した後、カムトラバース機構をもった巻取機において、全長115mm、外径82mm、内径76mmの紙製のボビンに巻取り綾角が14度平均になるように、トラバース速度を制御して、ポリウレタン弾性糸の質量が0.9kg、ポリウレタン弾性糸の最外層の外径は162mmとなるポリウレタン弾性糸巻糸体を製造した。尚、製造された弾性糸巻糸体には
図5に示したとおり、巻糸体最外層に鮮明な耳部があった。
【0048】
また、常法にて得られるポリウレタンウレア溶液を乾式紡糸によって、紡糸筒直下で仮撚りガイドによる仮撚りを施して紡糸筒内で熱融着(合着)させ、1145デシテックス、56フィラメント合糸のポリウレタン弾性糸を紡糸し、5%伸長の状態に一定速度に延伸した後、シリコーンオイルを主成分とする油剤をポリウレタン弾性糸の質量の3%になるように付与した後、カムトラバース機構をもった巻取機において、全長115mm、外径82mm、内径76mmの紙製のボビンに巻取り綾角が16度平均になるように、トラバース速度を制御して、ポリウレタン弾性糸の質量が0.9kg、ポリウレタン弾性糸の最外層の外径は170mmとなるポリウレタン弾性糸巻糸体を製造した。尚、製造された弾性糸巻糸体には
図5に示したとおり、巻糸体最外層に耳部があった。
【0049】
得られた弾性糸巻糸体を片岡機械工業(株) 製ダブルカバリングマシン、24錘口、送り出し部分、駆動ロール(メッキロール、径32mm)×2本、駆動ロールのロール軸の中心間距離100mmにニップさせるように上記ポリウレタン弾性糸を載せて、弾性糸の回転速度、即ち周速度=2m/分、解舒ドラフト=1.6倍にて、スピンドル回転=10000rpm、ヨリ=1200ターン/mのダブルカバードヤーンを製作する工程において、本発明に記載する解舒補助装置の性能を評価した。
【0050】
[実施例1]
外径25mm、全長120mmのロールに全長155mの中心軸を通した支持ロールと、外径25mm、全長40mmのロールに全長58mmの軸を通した押圧ロールからなる押圧部をアーム部で連結し、押圧部の間に張力付与機構を有する連結部として新生発条工業(株)製の引きバネ(線径0.6mm、外径5.5mm、自由長70mm、材質ステンレス)を取り付けた
図1および
図2に示す解舒装置を用意した。
【0051】
製造した395デシテックス、ポリウレタン弾性糸の質量0.9kg巻のポリウレタン弾性糸巻糸体を24本準備、それぞれに本発明の解舒補助装置を
図10のとおり装着し、上述のダブルカバードヤーンを製作する工程にておいて、
図11のように糸を解舒し、ポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒時に発生する外周表面からの糸の脱落有無を調べた。
【0052】
[比較例1]
製造した395デシテックス、ポリウレタン弾性糸の質量0.9kg巻のポリウレタン弾性糸巻糸体24本を本発明の解舒補助装置を使わず、上述のダブルカバードヤーンを製作する工程にておいて、
図8のように糸を解舒し、ポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒時に発生する外周表面からの糸の脱落有無を調べた。
【0053】
[比較例2]
製造した395デシテックス、ポリウレタン弾性糸の質量0.9kg巻のポリウレタン弾性糸巻糸体を24本準備、次に
図6に示すように、紡糸巻上げ直後のポリウレタン弾性糸巻糸体に物理的外圧を加えて耳部を崩して形状を変化させた弾性糸巻糸体として、本発明の解舒補助装置を使わず、上述のダブルカバードヤーンを製作する工程にておいて、
図8と同じ方法で糸を解舒し、ポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒時に発生する外周表面からの糸の脱落有無を調べた。
【0054】
[実施例1]、[比較例1]、[比較例2]について、ポリウレタン解舒伴い、どれだけの脱落による糸切れが発生するのかを表1に示した。表1ではポリウレタンの消費量を巻糸体上に残るポリウレタン弾性糸の残量で示した解舒区間毎の解舒時の状況をまとめた、[実施例]では巻糸体と本発明の解舒補助装置の押圧部の押圧ロールとの関係を示した。
【0055】
表1に示されるとおり、[実施例]は[比較例1]および[比較例2]よりも糸切れ脱落率の観点で非常に優れたものであった。
【0056】
[実施例2]
外径25mm、全長120mmのロールに全長155mの中心軸を通した支持ロールと、外径25mm、全長40mmのロールに全長58mmの軸を通した押圧ロールからなる押圧部をアーム部で連結し、押圧部の間に張力付与機構を有する連結部として新生発条工業(株)製の引きバネ(線径0.9mm、外径8.0mm、自由長70mm、材質ステンレス)を取り付けた
図1および
図2に示す解舒装置を用意した。
【0057】
製造した1145デシテックス、ポリウレタン弾性糸の質量0.9kg巻のポリウレタン弾性糸巻糸体を24本準備、それぞれに本発明の解舒補助装置を
図10のとおり装着し、上述のダブルカバードヤーンを製作する工程にておいて、
図11のように糸を解舒し、ポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒時に発生する外周表面からの糸の脱落有無を調べた。
【0058】
[比較例3]
製造した1145デシテックス、ポリウレタン質量0.9kg巻のポリウレタン弾性糸巻糸体24本を本発明の解舒補助装置を使わず、上述のダブルカバードヤーンを製作する工程にておいて、
図8のように糸を解舒し、ポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒時に発生する外周表面からの糸の脱落有無を調べた。
【0059】
[比較例4]
製造した1145デシテックス、ポリウレタン質量0.9kg巻のポリウレタン弾性糸巻糸体を24本準備、
図6に示すように、紡糸巻上げ直後のポリウレタン弾性糸巻糸体に物理的外圧を加えて耳部を崩して形状を変化させた弾性糸巻糸体として、本発明の解舒補助装置を使わず、上述のダブルカバードヤーンを製作する工程にておいて、
図8のように糸を解舒し、ポリウレタン弾性糸巻糸体の解舒時に発生する外周表面からの糸の脱落有無を調べた。
【0060】
[実施例2]、[比較例3]、[比較例4]について、ポリウレタン解舒に伴い、どれだけの脱落による糸切れが発生するのかを表2に示した。表2においても表1と同様ポリウレタンの消費量を巻糸体上に残るポリウレタン弾性糸の残量で示した解舒区間毎の解舒時の状況をまとめた、[実施例2]では巻糸体と本発明の解舒補助装置の押圧ロールとの関係を示した。
【0061】
表1に示されるとおり、[実施例2]は[比較例3]および[比較例4]よりも糸切れ脱落率の観点で非常に優れたものであった。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】