特許第6103561号(P6103561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103561
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】木管楽器用サポートシステム
(51)【国際特許分類】
   G10G 5/00 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   G10G5/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-537470(P2015-537470)
(86)(22)【出願日】2014年8月19日
(86)【国際出願番号】JP2014071685
(87)【国際公開番号】WO2015104864
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年10月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-2092(P2014-2092)
(32)【優先日】2014年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514203649
【氏名又は名称】株式会社タツミ楽器
(74)【復代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】巽 朗
【審査官】 上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−090492(JP,U)
【文献】 米国特許第05753839(US,A)
【文献】 特開2008−268737(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3153387(JP,U)
【文献】 米国特許第07655853(US,B1)
【文献】 米国特許第04348935(US,A)
【文献】 マーマデューク・サックス「フェザーストラップ」|グローバル ピックアップ コーナー,[online],2014年 2月27日,[検索日 2014年9月11日],インターネット,URL,http://ameblo.jp/global-inst/entry-11783156410.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器の管体に取り付けられる台座プレートと、該台座プレートに支持され、前記楽器と反対端にピン軸受が配置された指掛けプレートと、前記ピン軸受に支持されるように回動ピン周りに回動可能に、前記指掛けプレートに取り付けられ、ストラップのフックを係止可能な孔が形成されたフック係止手段とを含むサムレストを備えたことを特徴とする木管楽器用サポートシステム。
【請求項2】
楽器の管体に取り付けられる台座プレートと、該台座プレートに支持された指掛けプレートと、該指掛けプレートの台座プレートへの支持端と反対端に、ストラップのフックを係止可能な孔が形成されたフック係止部とを含むサムレストを備えたことを特徴とする木管楽器用サポートシステム。
【請求項3】
前記指掛けプレートは、上下方向にスライド可能なスライダを介して前記台座プレートに支持された請求項1または2に記載の木管楽器用サポートシステム。
【請求項4】
前記スライダは、前記楽器側に屈曲した上端部位を有し、該上端部位が緩衝部材を介して前記楽器に接触する請求項3に記載の木管楽器用サポートシステム。
【請求項5】
奏者の首に掛けるネックパッドと、
前記ネックパッドの両端に連結された吊り紐の長さをそれぞれの端部で調整、保持可能な第1のスライド手段と、
前記ネックパッドの両端から延びる2本の吊り紐を一束の紐群に束ねるとともに、前記一束の紐群の長さを調整、保持可能な第2のスライド手段と、
前記一束の紐群の下端に連結され、他端に楽器側に係止可能なフックが取り付けられた帯状体とを含むストラップと、
楽器の管体に取り付けられる台座プレートと、該台座プレートに支持され、前記楽器と反対端にピン軸受が配置された指掛けプレートと、前記ピン軸受に支持されるように回動ピン周りに回動可能に、前記指掛けプレートに取り付けられ、ストラップのフックを係止可能な孔が形成されたフック係止手段とを含むサムレストを備えたことを特徴とする木管楽器用サポートシステム。
【請求項6】
奏者の首に掛けるネックパッドと、
前記ネックパッドの両端に連結された吊り紐の長さをそれぞれの端部で調整、保持可能な第1のスライド手段と、
前記ネックパッドの両端から延びる2本の吊り紐を一束の紐群に束ねるとともに、前記一束の紐群の長さを調整、保持可能な第2のスライド手段と、
前記一束の紐群の下端に連結され、他端に楽器側に係止可能なフックが取り付けられた帯状体とを含むストラップと、
楽器の管体に取り付けられる台座プレートと、該台座プレートに支持された指掛けプレートと、該指掛けプレートの台座プレートへの支持端と反対端に、前記ストラップのフックを係止可能な孔が形成されたフック係止手段とを含むサムレストとを備えたことを特徴とする木管楽器用サポートシステム。
【請求項7】
前記ネックパッドは、中央の非伸縮部と、該非伸縮部を挟む両側の伸縮部とからなることを特徴とする請求項5又は6に記載の木管楽器用サポートシステム。
【請求項8】
前記吊り紐の長さは、前記第1のスライド手段と、前記第2のスライド手段の独立した長さ調整により決定され、それぞれのスライド手段で調整された長さが保持される請求項5〜7の何れか一項に記載の木管楽器用サポートシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木管楽器用サポートシステムに係り、特にクラリネット、オーボエ等のように右手親指で楽器を支持するようにして演奏する木管楽器に適用する、装着性、吹奏感の優れたストラップと、ストラップを支持するサムレストから構成された木管楽器用サポートシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
木管楽器のうちクラリネットやオーボエなどは、従来、ストラップを用いずに右手親指をサムレストに掛けて楽器を支持しながら演奏する。近年、クラリネットの材料であるグラナディラが少なくなり、重量のある木材チップを圧縮して成形した楽器も出てきている。また、キーを追加するなど、楽器の重量が重くなっている。そのため、右手親指にかかる負荷が増加している。特に子供や高齢者、入門者などにとってサムレストのみで楽器を支持して演奏することは大きな負担になる。また、このような状況で練習を続けた場合、楽器の上達にも支障が生じる。そこで、この負担を軽減するために、首から掛けたストラップで楽器を補助的に支持するためのフックやアクセサリーが使用されている(非特許文献1、2)。
【0003】
非特許文献1に開示されたクラリネットでは、可動式指掛けのスライダの上部に取付孔が設けられ、この取付孔にストラップリングが支持されている。このストラップリングに楽器支持用のストラップのフックを係止して楽器を支持することで、サムレストに宛がわれた親指での楽器の支持の負担を軽減することができる。
【0004】
このサムレストでは、スライダの上部にストラップリングが設けられているため、ストラップで支持するようにした際、楽器本体に近い位置がストラップの支持点となる。このため、ストラップと左手親指の付け根との距離が接近するため、親指でレジスタキーを操作する際にストラップが干渉し、演奏の妨げになる。また、楽器を高く上げると左手親指に接触してしまうおそれもあり、ストラップで規制されてベルを高く上げて演奏できないと言う問題がある。
【0005】
非特許文献2に開示されたストラップは、楽器のサムレストに短いベルト状のコネクタをボタン掛けするように取り付けて、コネクタの上端の孔にストラップのメタルフックを掛けるようにして使用する。
【0006】
一方、特許文献1に開示されたストラップは、ストラップの下端にサムレストとの係止部を有する板状部材を有する構造からなる。この板状部材の切欠部に露出した糸をサムレストに係止させ、首に掛けたストラップで楽器のサムレストを吊り上げるようになっている。
【0007】
上述のストラップは、楽器側に係止部(コネクタ)を付けるか、ストラップ側に係止部を設けるかの違いはあるが、いずれの場合も楽器の重さをサムレストと首から掛けたストラップとで負担するため、右手親指にかかる負担を軽減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】登録実用新案第3173570号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ヤマハ株式会社著作、"ヤマハクラリネットYCL−255 特長 可動式指掛け、ストラップリング"、[online]、ヤマハ株式会社、[平成25年12月12日検索]、インターネット<URL:http://jp.yamaha.com/products/musical-instruments/winds/clarinets/bb-clarinets/standard/ycl-255/?mode=model#tab=product_lineup
【非特許文献2】amazon.co.jp著作、"BG NYLON ELASTIC(ナイロン エラスティック) ストラップ Bb/Sib クラリネット C20E BG"、[online]、[平成25年12月12日検索]、インターネット<URL:http://www.amazon.co.jp/BG-NYLON-ELASTIC-%E3%82%A8%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88/dp/B000RVSIXS/ref=sr_1_3?ie=UTF8&qid=1387189389&sr=8-3&keywords=BG+%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88+%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%97>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらのストラップは、別体のベルト状のコネクタをサムレストに取り付けたり、ストラップに設けられた係止部材を用いて楽器を支持するため、従来の各種形状のサムレストでも使用できる利点はあるが、やはりストラップの支持点がサムレストの根元部(楽器側)となるため、ストラップと左手親指との距離が大きくとれず、演奏時の問題が残る。
【0011】
また、直管状の木管楽器としては、ソプラノサックスのようにサムフックとリングフックが管体に取り付けられ、リングフックを利用して主としてストラップで楽器を支持し、演奏時に右手親指をサムフックに掛け、左手親指でサムレストを押しながら各キーを操作して演奏するタイプもある。ソプラノサックスの場合、リングフックがサムフックの上部に取り付けられているため、サムレストを押す左手親指の付け根とストラップとが干渉して演奏中にベルを高く上げることができないという問題があった。
【0012】
また、上述のストラップでは、木管楽器を吊るように支持する場合、ストラップの長さの微調整が行えない。このためクラリネットなどの演奏時、上級の演奏者が演奏時の保持位置を正確に設定したい場合に対応できない。
【0013】
さらに、ストラップを保管する際に、ネックパッドとメタルフックとをつなぐ紐が絡まってしまうことが多く、使用する都度、その絡まりを直さなければならないという煩雑さもある。また、ネックパッドを首に掛けた際、吊り紐によってネックパッドの両端が狭まって首元を圧迫する。
【0014】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、サムレストで木管楽器を支持する負担を、ストラップを用いて軽減するとともに、演奏時に好ましい吹奏感が得られるようにした木管楽器用サポートシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の木管楽器用サポートシステムは、楽器の管体に取り付けられる台座プレートと、該台座プレートに支持され、前記楽器と反対端にピン軸受が配置された指掛けプレートと、前記ピン軸受に支持されるように回動ピン周りに回動可能に、前記指掛けプレートに取り付けられ、ストラップのフックを係止可能な孔が形成されたフック係止手段とを含むサムレストを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の木管楽器用サポートシステムは、楽器の管体に取り付けられる台座プレートと、該台座プレートに支持された指掛けプレートと、該指掛けプレートの台座プレートへの支持端と反対端に、ストラップのフックを係止可能な孔が形成されたフック係止部とを含むサムレストを備えたことを特徴とする。
【0017】
前記指掛けプレートは、上下方向にスライド可能なスライダを介して前記台座プレートに支持されることが好ましい。
【0018】
前記スライダは、前記楽器側に屈曲した上端部位を有し、該上端部位が緩衝部材を介して前記楽器に接触させるのが好ましい。
【0019】
また、本発明の木管楽器用サポートシステムは、奏者の首に掛けるネックパッドと、前記ネックパッドの両端に連結された吊り紐の長さをそれぞれの端部で調整、保持可能な第1のスライド手段と、前記ネックパッドの両端から延びる2本の吊り紐を一束の紐群に束ねるとともに、前記一束の紐群の長さを調整、保持可能な第2のスライド手段と、前記一束の紐群の下端に連結され、他端に楽器側のサムレストに係止可能なフックが取り付けられた帯状体とを含むストラップを備えたことを特徴とする。
【0020】
このとき、前記ネックパッドは、中央の非伸縮部と、該非伸縮部を挟む両側の伸縮部とからなることが好ましい。
【0021】
前記吊り紐の長さは、前記第1のスライド手段と、前記第2のスライド手段の独立した長さ調整により決定され、それぞれのスライド手段で調整された長さが保持されるようにすることが好ましい。
【0022】
また、本発明の木管楽器用サポートシステムは、奏者の首に掛けるネックパッドと、前記ネックパッドの両端に連結された吊り紐の長さをそれぞれの端部で調整、保持可能な第1のスライド手段と、前記ネックパッドの両端から延びる2本の吊り紐を一束の紐群に束ねるとともに、前記一束の紐群の長さを調整、保持可能な第2のスライド手段と、前記一束の紐群の下端に連結され、他端に楽器側に係止可能なフックが取り付けられた帯状体とを含むストラップと、楽器の管体に取り付けられる台座プレートと、該台座プレートに支持された指掛けプレートと、該指掛けプレートの台座プレートへの支持端と反対端に、前記ストラップのフックを係止可能な孔が形成されたフック係止部とを含むサムレストを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の木管楽器用サポートシステムによれば、ストラップを使用することで、楽器を保持する右手親指に係る負担を軽減することができる。またストラップの仮想の支持点がサムレストの位置より下になるので、ストラップと左手親指の間隔が広がり、3点支持状態が得られる。さらにストラップ装着時の吹奏感、演奏時の安定性が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の木管楽器用サポートシステムの全体構成と、サムレストにストラップのフックを係止した状態を示した拡大斜視図。
図2】本発明の木管楽器用サポートシステムのサムレストの構成と動作を説明した(a)側面図、及び(b)正面図。
図3図1に示したサポートシステムを用いた演奏状態を示した状態説明図。
図4図1に示したサポートシステムに作用する力と楽器を支持する親指に作用する力の状態を模式的に示した説明図。
図5】(a)及び(b)は木管楽器用サポートシステムのサムレストの他の実施態様を示した正面図。
図6】(a)及び(c)は木管楽器用サポートシステムのサムレストの他の実施態様を示した正面図、また(b)側面図。
図7】木管楽器用サポートシステムのサムレストの他の実施態様を示した斜視図。
図8】木管楽器用サポートシステムのストラップの一実施態様を示した斜視図。
図9図8に示したストラップのネックパッドの構成を示した正面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の木管楽器用サポートシステムの一実施形態について添付図面を参照して説明する。以下、本実施形態では、木管楽器の一例として、たとえばB♭クラリネットに用いられる場合を例にあげて説明するが、ストラップのフックを係止可能な部位を有するサムレストで支持する、オーボエ等の他の種類の木管楽器に適用できることはいうまでもない。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態の木管楽器用サポートシステム(以下、単にサポートシステムと記す。)の全体構成を示した拡大斜視図である。本実施形態のサポートシステム1のうちのサムレスト10は、指掛けプレート13の高さが上下方向に所定量だけ調整できるタイプからなる。本実施形態のサムレスト10は黄銅等の鍛造加工品からなり、クラリネット2本体にねじ止めされた台座プレート11に対して上下方向に所定量だけスライド可能なスライダ12と、スライダ12の下端に一体化して支持端が連続する指掛けプレート13と、指掛けプレート13の支持端と反対側のプレート上面に、ピン軸を介して回動可能に取り付けられたフック係止プレート15を備えている。なお、添付図面では図の簡単化のために、発明の特徴に関係のない、楽器に付属する各種のキー、レバーの図示を一部省略している。
【0027】
台座プレート11は、従来形状のサムレスト10をクラリネット2(以下、楽器2と記す。)本体に固定するのと同様の構成からなり、楽器2の外径に合致した湾曲形状をなし、木製の本体の所定位置にねじ止めされる。この台座プレート11の中央部には固定ねじ16のねじ穴(図示せず)が形成されており、指掛けプレート13の位置を調整した状態でスライダ12が固定ねじ16で台座プレート11に固定される。
【0028】
スライダ12は、図1図2各図に示したように、スライド可能な分の長さの長孔12aが中央に形成された細長形状部材で、スライダ12の上端は楽器側にわずかに折り曲げられている。この上端部位12bはスライダ12が1本の固定ねじ16で台座プレート11に固定される際の振れ止めとして機能する。また上端部位12bと楽器との接触面には合成コルク14(たとえば製品名:ハイコテックス)が貼着されている。この上端部位12bは後述するようにストラップ30(図3)を使用した際に、この部分が楽器を押圧することで指掛けプレート13、スライダ12、固定ねじ16とに作用する力を一部負担し、固定ネジ16への負担を軽減することができる。そのとき上端部位12bが楽器を傷付けないようにクッション材としての合成コルク14が用いられている。
【0029】
スライダ12の下端には指掛けプレート13の支持端が一体的に固着されている。指掛けプレート13は、従来のサムレスト10と同様に右手親指で支持するための指掛け部13aと、指掛け部の上面の端部に形成されたフック係止プレート支持部13bとを備える。指掛け部13aは略円形板状をなし、親指の接触する面がわずかに湾曲し、薄いシート状のクッション材17が貼られ、親指にフィットするようになっている。フック係止プレート支持部13bは、図示したように、フック係止プレート15の下端を貫通して挿入された回動ピンの両端のピン軸受18を有する。ピン軸受18は、指掛けプレート13の上面に形成され親指が触れやすいため、面取りされ全体に丸みを帯びた形状に仕上げられている。
【0030】
フック係止プレート15は、図1図2各図に示したように、回動ピン20が貫通する底部から上部にかけて緩い傾斜部が続き、上端が円弧形をなす板部材である。プレート上部にはフック係止孔15c(丸孔)が形成されている。図1に示したように、このフック係止孔15cにストラップ30のフック36を係止することで、演奏者はサムレスト10で楽器2を支持する際、ストラップ30で楽器2を吊ることによってサムレスト10による支持の軽減することができる。このフック係止プレート15は図2(a)に示したように、回動ピン20周りにスムースに回動することができる。たとえばストラップ30のフック36をフック係止孔15cに取り付けて首からストラップ30を掛けた状態では、楽器2は図2(a)に示した矢印A方向に吊られる。フック係止プレート15はその吊り角度に沿う。また楽器2を楽器ケースに収納する時には、フック係止プレート15を折り畳むように指掛けプレート13上に倒すこともできる。
【0031】
ここで、本発明のサポートシステム1を用いて楽器2を演奏した場合に得られる有利な効果について図3図4を参照して説明する。
図3に示したように、奏者4は首に掛けたストラップ30のフック36を、楽器2に取り付けられた本発明のサポートシステム1のサムレスト10のフック係止プレートに掛けて演奏することができる。このとき、サムレスト10を介して支持する楽器2の重みは右手親指7だけでなく、本発明のサポートシステム1のストラップ30でも支持され、右手親指7への負担が軽減される。ストラップ30のフック36の係止位置がサムレスト10の外側(奏者4側)端となっているため、図示したように、左手親指8の付け根とストラップ30との間の距離を十分離すことができ、左手親指8のスムースなキー操作を行うことができる。
【0032】
さらに、上述した従来の同様の構成のサムレストやストラップに対する本発明のサポートシステム10の有効な作用について、図4を参照して説明する。図4は、右手親指7でサムレスト10を支持した状態でストラップ30のフック36をフック係止プレート15に掛けてストラップ30による支持を併用した状態を示している。同図には比較のために、従来のストラップを併用する例(ストラップリング50をスライダ12に取り付けるタイプ、ベルト状コネクタ51を指掛けプレートに掛けるタイプ)を仮想線で併せて図示している。同図に示したように、本発明のサポートシステムを使用した場合、フック係止プレート15が右手親指7の外側(奏者側)に位置するため、ストラップ30で楽器2を吊った際に、その仮想の楽器支持点S1はサムレスト10の下方に位置することになり、ストラップ30による吊り力は(矢印A)サムレスト10の指掛けプレート13を支持する親指7の支持中心点(×印)の外側(奏者側)から楽器の方向に向かう回転モーメントMとして作用し、親指7にかかる楽器の重さが軽減される。また、このとき楽器2は奏者4がくわえたマウスピースの吹き口と、サムレスト10の親指支持位置と、ストラップ30で吊った状態でのサムレスト10下方の仮想の楽器支持点S1とによる3点支持状態となるため、演奏時の楽器の安定がより高まる。
【0033】
これに対して、従来のストラップ55(図4)で楽器2を吊る例(ストラップリング50をスライダ12に取り付けるタイプ、ベルト状コネクタ51を指掛けプレートに掛けるタイプ)では、いずれの場合もサムレスト10の親指支持位置と、ストラップ55で吊った状態の仮想の楽器支持点S2とがほとんど同じ位置となる。このため、楽器上端とサムレスト10の親指位置の2点支持で楽器を支える状態となり、サムレスト10とストラップ55とで楽器2を支持しても、演奏する際の安定性に寄与しない。
【0034】
図5各図は、他の実施形態としてフック係止プレートをシンプルな形状にしたサポートシステム10を示している。図5(a)に示したサポートシステム10は、回動ピン20の支持パイプ25に直接フックリング26を取り付けた構造からなる。回動ピン20の取付位置は図2(a)の場合と同じく指掛けプレート13の外端部(奏者側)である。フック係止手段としてのプレートをリングとしたため、サムレスト10を軽量、シンプルに仕上げることができる。図5(b)に示したサムレスト10は、三角カン27の一辺27aを回動ピン20として使用した構造からなる。この場合には、三角カン27の一辺27aを支持する短いピン支持パイプ28を指掛けプレート13に取り付ければよく、ピン軸受18(図2(b))に相当する部材を設ける必要がなくなる。
【0035】
図6(a)、(b)は、他の実施形態としてスライダ12(図5他)をなくして指掛けプレート13を台座プレート11に直接取り付けたサムレスト10を示している。このサムレストは、その位置の上下方向の調整が不要な場合にもっともシンプルな形状とした例である。図6(a)に示したサムレスト10は、指掛けプレート13に直接フックリング26を取り付けた構造からなる。フックリング26の取付位置は図5(a)の場合と同じく指掛けプレート13の外端部(奏者側)である。図6(b)は、フックリング26の取り付け向きを変えて取り付けた例で、同様にフックリング26は指掛けプレート13の外端部(奏者側)に取り付けられている。
【0036】
図6(c)は、スライダ12を用いた実施形態に対して、図6(a)に示したようなフックリング26を指掛けプレート13に固定して取り付けるタイプを用いた例を示している。この実施形態では、シンプルな構造で、フック位置を上下方向にスライド可能な機構とすることができる。なお、図6各図に示したフックリング26は、フック係止プレートのような形状とすることもできることは言うまでもない。
【0037】
図7は、指掛けプレート13とフックリング26とを一体的に形成したサムレストの実施形態を示している。このフックリング26は逆U字形をなし、各端部が指掛けプレート13の端部と一体化しリング孔26aを形成している。このため、フック36が矢印B方向にずれた場合にも、フック36がフックリング26から外れにくくなっている。サムレストの素材としては、真鍮材の削り出し部品、各種低融点金属のダイキャスト部材とすることができる。またサムレストに各種のメッキを施すことで、好みの音色に変化させることもできる。
【0038】
サムレストは上述したように各種の形状が可能であり、その材質は強度、耐久性を考慮してパーツによって変更してもよい。金属、樹脂部品を適宜組み合わせてた製品としてもよい。
【0039】
直管の木管楽器であるソプラノサックスやソプラニーノのサムフックに代えてこのサムレストを使用し、従来のフックリングにストラップを係止するのと合わせて、このサムレストとストラップとを連絡する紐状のパーツを付加することで、ストラップの吊り点を増やして演奏時の安定を向上させることもできる。
【0040】
図8は、本発明のサポートシステム1のストラップ30の全体構成を示した斜視図である。このストラップ30は、奏者(図示せず)の首にストラップ30全体を保持させるネックパッド34と、吊り紐31の端部の折り返し長さを微調整可能な第1の調整手段としてのミニスライダ33と、吊り紐31の長さ調整するとともに、吊り紐間の間隔を広げる、第2の調整手段としてのメインスライダ32と、第2吊り部31bの吊り長さL2を調整可能な部位にリングパーツ35aを介して連結されたガイドテープ35と、フックリング26にストラップ30を係止させる先端フック36とから構成されている。
【0041】
本実施形態のネックパッド34は、図9に示したように、両端の紐取付孔34aに結ばれた紐34で矢印方向に引っ張られた際に伸長可能なクロロプレンゴム製シートのカット材からなる。このとき伸縮性のない当て布34Bを中央の所定範囲に縫着して、34A部分のみが伸縮するようにしている。当て布34Bの範囲を変えることにより、ネックパッド34の伸長量を変化させ、伸長量が大きいソフトタイプ、伸長量が中間的なミディアムタイプ、伸長量が小さいハードタイプ等、複数種のネックパッド34を選択することができる。当て布34Bは速乾性、抗菌性を有する生地を用いることが好ましい。ネックパッド34に伸縮性を持たせることにより、演奏中のアンブシュア(楽器の吹き口を保持する口唇の状態)の安定感が増す。
【0042】
次にメインスライダ32とミニスライダ33の構成と役割について図8を参照して説明する。メインスライダ32は図示したような幅広のT字形のウイング状をなしたプレートで、本実施形態ではアルミニウム板が使用されている。メインスライダには複数個の孔が対称に形成されており、所定長さの吊り紐31を中央部から振り分けるようにして各孔に挿通することにより、ネックパッド34の各端部に連結され、奏者の胸前に位置する第1吊り部31aと、メインスライダ32の中央部の下側に一束に束ねられた紐群からなる第2吊り部31bとを構成する。第1吊り部31aでは2本の吊り紐がメインスライダ32により所定の離れ(本実施形態では12.5cm)だけ離れる。これにより、ネックパッド34の下端が狭まらないため、楽器を吊した状態(図3)で奏者の首元を圧迫することがないため、吹奏時の気道が十分に確保でき、楽器に息を吹き込む動作がきわめて楽になる。たとえばクラリネットの場合、ストラップを用いない場合の吹奏感が得られる。
【0043】
吊り紐31とメインスライダ32、ミニスライダ33による長さ調整について説明する。まずストラップ30を首から掛けた状態で、奏者の身長等を考慮し第2吊り部31bの長さL2を調整して決定する。通常の奏者の場合、L2=4cm程度に設定することが好ましい。第2吊り部31bの長さはメインスライダ32を上下させることで決定することができる。なお、L2はメインスライダ32を上下させることでいつでも調整可能である。次いで、第1吊り部31aの長さL3を決定する。第1吊り部31aの長さL3は一番伸ばした状態の吊り紐31の両端を引っ張るようにしてメインスライダ32の位置を決める。このときメインスライダ32が左手親指と干渉しない位置にくるように長さL3を決定することが好ましい。第1吊り部31aの長さL3を決定したら、ミニスライダ33から延びる吊り紐31の余長部分はカットして抜け防止(玉結び、エイトノット等)と端止め加工をしておくことが好ましい。以上の手順で吊り紐の長さを決定した後、実際に楽器を吊して演奏時のベストポジションとなるように、ミニスライダ32を上下に動かして長さの微調整を行う。
【0044】
第2吊り部31bの下端にはリングパーツ35aを介して帯状体としてのガイドテープ35が連結されている。従来のストラップでは、右手親指と吊り紐が干渉しないようにするために、第2吊り部31bに相当する部位を長くしたので、吊り紐が絡まりやすかったが、この部分を帯状のガイドテープ35とすることにより、絡まりが生じないという利点がある。本実施形態では、ガイドテープ35には柔軟な長さL1(本実施形態では約10cm)の細帯状の布テープが用いられている。布テープの素材としては織布、編布を用いることができる。その他合成ゴム系、エラストマー系テープでもよい。編布、合成ゴム系等テープの場合には所定量Δの伸縮をもたせることができる。
【0045】
フック36には金属線材を所定の形状に曲げ加工したメタルフックが用いられている。フック36の形状として直線部36aを設けることでストラップ30の吊り方向を安定させることができ、メインスライダ32が左手親指と干渉するのを効果的に回避することができる。
【0046】
以上の構成からなるストラップ30を用い、サムレスト10を介して楽器を保持することにより、奏者は安定した効率的な吹奏を行うことができる。
【0047】
本出願は、2014年1月9日に出願された日本国特願2014−002092号に基づく。本明細書中に日本国特願2014−002092号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 木管楽器用サポートシステム
2 クラリネット(楽器)
4 奏者
10 サムレスト
11 台座プレート
12 スライダ
13 指掛けプレート
15 フック係止プレート
18 ピン軸受
20 回動ピン
26 フックリング
30 ストラップ
31 吊り紐
32 メインスライダ
33 ミニスライダ
34 ネックパッド
35 ガイドテープ
36 フック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9