特許第6103569号(P6103569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6103569ホソバワダン及び貝抽出物を含む食品組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6103569
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ホソバワダン及び貝抽出物を含む食品組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20170316BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20170316BHJP
   A23L 17/40 20160101ALI20170316BHJP
【FI】
   A23L27/10 B
   A23L27/00 Z
   A23L17/40 C
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-70691(P2016-70691)
(22)【出願日】2016年3月31日
【審査請求日】2016年7月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516097309
【氏名又は名称】惠 隆之介
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】惠 隆之介
(72)【発明者】
【氏名】野原 美夏江
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−299263(JP,A)
【文献】 島野菜と魚貝のムースソース,おきレシ,2011年12月13日,[検索日 2016.8.9]、インターネット<URL: https://www.okireci.net/recipe/3067/,URL,https://www.okireci.net/recipe/3067/
【文献】 やさい畑より〜ニガナ〜,しらかわファーム通信,2006年 4月,[検索日 2016.8.9]、インターネット:<URL: http://shirakawafarm.blog.so-net.ne.jp/2006-03-27-3>,URL,http://shirakawafarm.blog.so-net.ne.jp/2006-03-27-3
【文献】 ニガナの焼きまんじゅう,おきレシ,2012年 4月16日,[検索日 2016.8.10]、インターネット:<URL: http://www.okireci.net/recipe/3514/>,URL,http://www.okireci.net/recipe/3514/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L13/00−17/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝抽出物を含む、ホソバワダンの苦味のマスキング剤。
【請求項2】
貝がシジミ科又はマルスダレガイ科に属する貝である、請求項1に記載のホソバワダンの苦味のマスキング剤。
【請求項3】
貝がシジミである、請求項1に記載のホソバワダンの苦味のマスキング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホソバワダン及び貝抽出物を含む食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
沖縄県は近年まで長寿県として知られ、その平均寿命は世界的に見ても極めて高いものであったが、近年はその地位が揺らぎつつある。他の県では平均寿命が軒並み上昇しているなか、沖縄県では伸び悩み、寿命が相対的には低下しつつあるのである。その理由として、食生活の変化が指摘されている。以前は「医食同源」の考え方に基づき、体に良いものを食べようという意識が高かったのだが、最近、特に若年層では食の欧米化が進んでおり、実際、沖縄県における死亡率は若年層で特に上昇が激しい。
【0003】
ホソバワダン(Crepidiastrum lanceolatum)は、キク科の多年草で、沖縄では「ニガナ」又は「ンジャナ」とも呼ばれる。ホソバワダンは独特の苦味を呈するが、白和え等の形で昔から食されてきた。また、沖縄では古来、ホソバワダンの整腸作用、風邪をひいた際の解熱作用、心臓病や高血圧などに対する効果が伝承され、特に汁物にすると効果が高いとされる。また、近年では含有するポリフェノール等に関する研究なども行われている。
【0004】
しかし、上述のような食生活の変化の結果、沖縄伝統野菜全般の消費が低減していることや、ホソバワダン特有の強い苦味が若い世代に敬遠されていることもあり、近年はホソバワダンを食する人が著しく減少している。沖縄県外はおろか、県内であってもホソバワダンを食べたことがない若者が多い。
【0005】
ホソバワダンは、東アジアの一部地域で生育するが、沖縄ではほぼ全域に分布している。また、ホソバワダンは塩害にも強いことから、沖縄の多くの島では、海岸沿いにも自生しており、しかも、年中採取が可能である。しかしながら、上記のような理由から、現在はホソバワダンが利用されることが少なくなっており、せっかくの食料資源が十分に活用されていない状況となっている。さらには、日本も参加している環太平洋連携協定(TPP)の発効に伴い、この協定の沖縄の主要作物であるサトウキビ価格に対する影響が危惧されるなか、沖縄の農業活性化の一助となる新たな農業資源、特に付加価値の高い農作物やそれを利用した食品の開発が喫緊の課題となっている。
【0006】
また、ホソバワダンは、そもそも沖縄においても知られている調理法が少なく、これがホソバワダンの消費の向上の障害となっている。このような意味からも、ホソバワダンの新たな調理方法、特にその健康効果を保持した商品性のある食品を開発することは重要な課題である。
【0007】
このように、沖縄の伝統野菜であり整腸作用もあるホソバワダンを、その整腸作用を失わずに苦味をマスキングする効果のある方法で処理し、現代の消費者の味覚に受け入れられやすい健康食品を提供することが望まれる。これにより、沖縄伝統食の健康効果の現代人の嗜好に合う形での再発見につながり、もって沖縄内外の人の健康改善に寄与し、ひいては沖縄の農業の活性化に貢献できることが期待される。
【0008】
この問題に関し、ホソバワダンは、昔から、豆腐を用いた白和えにして食べられることがあった。しかし、白和えでは苦味のマスキング効果が十分とはいえないこともあり、若い世代の人の好みに合わず、ホソバワダンの消費は低迷したままである。また、特許文献1は、石灰やエタノール等の凝集剤を用いてオリーブ等の食品の苦味をマスキングした食材、及び苦味マスキング方法を開示している。しかし、この方法を用いてホソバワダンとマスキング剤を組み合わせても、食品として風味が良いものに仕上がるとは限らない。また、ホソバワダンを沖縄自然食品として市場に提供するためには、完全に天然の食材を用いて苦味のマスキングを行うことが、安全性の観点からも、マーケティングの観点からも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−13390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ホソバワダンの整腸作用を失うことなくその苦味がマスキングされている食品組成物、及び安全な天然素材を用いた苦味のマスキング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シジミ等の貝類の抽出物は、ホソバワダンの整腸作用に影響をおよぼすこと無く苦味をマスキングできることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
(1) 貝抽出物を含む、苦味マスキング剤。
(2) 貝がシジミ科又はマルスダレガイ科に属する貝である、上記に記載の苦味のマスキング剤。
(3) 貝がシジミである、上記に記載の苦味マスキング剤。
(4) ホソバワダン(Crepidiastrum lanceolatum)及び貝抽出物を含む食品組成物。
(5) 貝がシジミ科又はマルスダレガイ科に属する貝である、上記に記載の食品組成物。
(6) 貝がシジミである、上記に記載の食品組成物。
(7) 整腸用である、上記に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ホソバワダンの整腸作用を失うことなくその苦味がマスキングされている食品組成物を提供することができる。特に、苦味マスキング剤としてシジミ抽出物を用いた場合には、風味もよく、官能評価でも高く評価される食品を提供することができる。更には、安全な天然素材を用いた苦味のマスキング剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ホソバワダン及び貝抽出物を含む食品組成物に関する。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
(ホソバワダン)
ホソバワダン(Crepidiastrum lanceolatum)は、キク科の多年草で、沖縄では「ニガナ」や「ンジャナ」とも呼ばれるが、和名で「ニガナ」と呼ばれる同じくキク科の野草(Ixeris dentata)とは別種である。ホソバワダンは沖縄のほぼ全域に分布している。ホソバワダンは塩害にも強いことから、沖縄の多くの島では、海岸沿いにも自生しており、しかも、年中採取が可能である。栽培品種は育成されていないが、生産者が自生している株から自家選抜した系統を栽培することは行われており、このような系統は少量ながら市場で流通している。ホソバワダンは、独特の苦味を呈するが、白和え等の形で昔から食されてきた。また沖縄では古来、ホソバワダンの整腸作用、風邪をひいた際の解熱作用、心臓病や高血圧などに対する効果が伝承され、特に汁物にすると効果が高いとされる。本発明に用いられるホソバワダンは、葉、茎及び根を含む任意の部位であってよいが、好ましい部位は、葉及び茎である。また、本発明に用いられるホソバワダンは、未処理のまま用いられても良いが、さらに任意の加工処理(粉砕、乾燥、抽出、焙煎等)が施されていても良い。本発明に用いられるホソバワダンの一つの好ましい態様は、抽出物である。
【0017】
(貝)
本発明に用いられる貝は、食用できるものであれば特に限定されないが、好ましくは二枚貝綱(Bivalvia)に属する貝、好ましくは異歯亜綱(Heterodonta)に属する貝である。好ましい異歯亜綱に属する貝の例としては、シジミ及びアサリがあり、特に好ましくはシジミである。
【0018】
(シジミ)
本発明に用いられるシジミは、二枚貝綱異歯亜綱シジミ科 (Cyrenidae) に分類される二枚貝のことを指す。シジミ科の貝は広く食用にされ、その例としては、ヤマトシジミ(Corbicula japonica)、マシジミ(Corbicula leana)、セタシジミ(Corbicula sandai)、タイリクシジミ(Corbicula fluminalis)、タイワンシジミ (Corbicula fluminea) 等がある。
【0019】
(アサリ)
本発明に用いられるアサリは、二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科アサリ属(Ruditapes)に分類される二枚貝のことを指す。アサリ属に属する貝の例としては、アサリ(Ruditapes philippinarum)及びヒメアサリ(Ruditapes variegata)がある。
【0020】
(苦味)
本発明において「苦味」とは、5つの基本味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)の一つであり、例えばタンニンなどの苦味物質を口に入れることで知覚される味である。本発明における苦味には、「渋味」、「えぐ味」、「収斂味」と呼ばれる味も含まれる。
【0021】
(食品組成物)
本発明において「食品組成物」は飲料を含む。本発明の食品組成物の提供の態様は特に制限されず、例えば、生食品、加熱品、凍結乾燥品、冷凍品、無菌包装品、レトルト品、乾燥品、缶詰品、ボトル詰め品等の任意の態様で提供されてよい。本発明の食品組成物の提供の好ましい態様には、スープ及び味噌汁があり、特に味噌汁が好ましい。
【0022】
(整腸)
本発明において、「整腸」とは、おなか(消化器系)の調子を整えることを意味する。整腸作用の例としては、例えば、便秘や下痢などの便通異常を改善することにより、毎日規則正しく便通がある状態にする、又は保つことがあげられる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0024】
[比較例1:シジミなしのホソバワダン味噌汁]
新鮮なホソバワダンの葉の部分を150g用意し、5mm幅に千切りにし、室温の水で5分間さらしてあく抜きをした後、水分を切った。鍋に水を300ml入れ、前記ホソバワダンを入れた後、火にかけた。鍋の中の水を100℃で沸騰させ、15分間煮詰めた。その後火を止め、室温で12時間静置した。さらにその後、5℃に保たれた冷蔵庫内で48時間静置した結果、ホソバワダンエキスが完成した。
【0025】
ホソバワダンエキス100mlに水500gを加え、火にかけて加熱した。100℃で沸騰したら、一度火を止め、市販のだし入り味噌40gを溶き入れた。これを吸物椀にとり、食用に供した。
【0026】
[実施例1:シジミ入りのホソバワダン味噌汁]
シジミを入れたことを除き、比較例1と同様に、味噌汁を作成した。
【0027】
すなわち、生きているシジミ200gを、1%の塩水につけ、室温で2時間砂出しをした。次に、別途、新鮮なホソバワダンの葉の部分を150g用意し、5mm幅に千切りにし、室温の水で5分間さらしてあく抜きをした後、水分を切った。鍋に水を300ml入れ、前記ホソバワダンを入れた後、火にかけた。鍋の中の水を100℃で沸騰させ、10分間煮詰めた。ここで、前記の砂出しが終わったシジミを入れ、5分間さらに煮詰めた。その後、火を止め、室温で12時間静置した。さらにその後、5℃に保たれた冷蔵庫内で48時間静置した結果、ホソバワダン・シジミエキスが完成した。
【0028】
ホソバワダン・シジミエキス100mlに水500gを加え、火にかけて加熱した。100℃で沸騰したら、一度火を止め、市販のだし入り味噌40gを溶き入れた。これを吸物椀にとり、食用に供した。
【0029】
[官能評価]
10代〜70代の男女計30人のパネラーで比較例1及び実施例1について官能評価を行った。
【0030】
第1の評価方法として、比較例1及び実施例1の味噌汁を食した後、それぞれが苦いか否かについて評価を求めた。結果は、「実施例1が苦い」が6.7%、「比較例1が苦い」が93.3%、「実施例1及び比較例1共に苦い」が0.0%、「実施例1及び比較例1共に苦くない」が0.0%であった。これにより、何も加えないホソバワダンの味噌汁は苦いが、シジミ入りホソバワダンの味噌汁は、苦味を感じない程度にまで苦味がマスキングされていることがわかった。
【0031】
第2の評価方法として、比較例1及び実施例1の味噌汁を食した後、それぞれの食品が好きか否かについて評価を求めた。結果は、「実施例1が好き」が46.7%、「比較例1が好き」が0.0%、「実施例1及び比較例1共に好き」が53.3%、「実施例1及び比較例1共に好きではない」が0.0%であった。これにより、何も加えないホソバワダンの味噌汁が好きだとは感じないパネラーも、シジミ入りホソバワダンの味噌汁は好きだと感じる事がわかった。
【0032】
第3の評価方法として、実施例1の味噌汁について、美味しさの評価を4段階で求めた。結果は、「とても美味しい」が46.7%、「美味しい」が53.3%、「まあまあ」が0.0%、「美味しくない」が0.0%であった。これにより、シジミ入りホソバワダン味噌汁は、苦味が低減されているだけではなく、美味しいものであると評価できる事がわかった。
【0033】
第4の評価方法として、実施例1の摂食の3日後に体調の変化についての評価を求めた。結果は、「便通が良くなった」が80.0%、「胃腸の調子が良くなった」が66.7%、「体が軽くなった」が53.3%、「肌がつやつになった」が26.6%であった。これにより、実施例1は、シジミの効果により苦味がマスキングされているにもかかわらず、ホソバワダンの整腸作用が保たれていることがわかった。
【0034】
[実施例2:アサリ入りのホソバワダン味噌汁]
実施例1と同様のホソバワダンの味噌汁を、シジミの代わりにアサリを使用して作成した。味は実施例1ほど美味ではなかったが、苦味のマスキングは同じ効果が得られ、整腸作用も保たれていた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、ホソバワダンの整腸作用を失うことなくその苦味がマスキングされている食品組成物、及び安全な天然素材を用いた苦味のマスキング剤を提供される。これにより、ホソバワダンは健康に良いにもかかわらず、その苦味が原因で敬遠されているが、本発明の利用により、ホソバワダンの消費が活性化され、ひいては沖縄の産業の発展に寄与することが期待される。
【要約】      (修正有)
【課題】ホソバワダンの整腸作用を失うことなくその苦味がマスキングされている食品組成物、及び安全な天然素材を用いた苦味のマスキング剤の提供。
【解決手段】貝抽出物を含む、苦味のマスキング剤。貝がシジミ科又はマルスダレガイ科に属する貝であり、好ましくはシジミである苦味のマスキング剤。ホソバワダン及び貝抽出物を含む食品組成物。整腸用である食品組成物。
【選択図】なし