(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、保持されている化合物どうしの化学反応によって機能性成分を生成させ得るナノファイバシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、互いに異なる複数種類の化合物を含み、
前記の複数種類の化合物として、それらが反応することで別の化合物を生成することが可能なものを用い、
前記の各化合物それぞれが、異なる水溶性ナノファイバに複合化されているナノファイバシートであって、
互いに異なる複数種類の前記化合物のうちの一つが水溶性酸であり、他の一つが炭酸塩であるナノファイバシートを提供するものである。
【0007】
また本発明は、前記ナノファイバシートの好適な製造方法であって、
互いに異なる複数種類の前記化合物のうちの一つを含む、互いに異なる複数種類の原料液を、該化合物の種類の数だけ用意し、
前記の各原料液を吐出するノズルを、前記の数以上有する電界紡糸装置を用い、回転する基材の回転方向と平行に並べて配置し、
前記の各ノズルから前記の各原料液を同時に吐出して、吐出された各原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、異なる前記水溶性ナノファイバが混合されたナノファイバシートを得る、ナノファイバシートの製造方法を提供するものである。
【0008】
更に本発明は、ナノファイバシートの製造方法であって、
互いに異なる複数種類の前記化合物のうちの一つを含む、互いに異なる複数種類の原料液を、該化合物の種類の数だけ用意し、
前記の各原料液を吐出するノズルを、前記の数以上備えた電界紡糸装置を用い、
前記ノズルのうちの一のノズルから、前記原料液のうちの一の原料液を吐出し、吐出された該原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、前記化合物のうちの一の化合物が複合化された水溶性ナノファイバを含む層を形成し、
前記ノズルのうちの他の一のノズルから、前記原料液のうちの他の一の原料液を吐出し、吐出された該原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、前記化合物のうちの他の一の化合物が複合化された水溶性ナノファイバを含む層を、前記層の一面に積層する工程を有し、
前記化合物の種類の数だけ前記の積層を行う、ナノファイバシートの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用前の保存状態では化学反応が生起せず、かつ水に溶解することで初めて化学反応を生起させ、二酸化炭素を生成させることが可能なナノファイバシートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のナノファイバシートは、互いに異なる複数種類の化合物を含んでいる。複数種類の該化合物は、それらが反応することで、別の化合物、例えば機能性成分を生成することが可能なものである。各化合物は、異なる水溶性ナノファイバに複合化されている。すなわち、1本のナノファイバには、複数種類の該化合物のうちの一の化合物だけが複合化されている。換言すれば、1本のナノファイバに、複数種類の該化合物のうちの二以上が複合化されていることはない。したがって、本発明のナノファイバシートは、複数種類の該化合物の種類の数に対応する種類の、異なる水溶性ナノファイバを含んでいる。以下の説明では、複数種類の該化合物のうちの一の化合物だけが複合化されているナノファイバのことを便宜的に「複合化ナノファイバ」と呼ぶこととする。
【0012】
複合化ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10nm以上3000nm以下、特に10nm以上1000nm以下のものである。複合化ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、複合化ナノファイバを10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(複合化ナノファイバの塊、複合化ナノファイバの交差部分、ポリマー液滴)を除き繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、その線が繊維を横切る長さを直接読み取ることで測定することができる。
【0013】
ナノファイバシートの坪量も、該ナノファイバシートの具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌、歯、歯茎、毛髪に付着させるために用いる場合には、ナノファイバシートの坪量を0.01g/m
2以上100g/m
2以下、特に0.1g/m
2以上50g/m
2以下に設定することが好ましい。
【0014】
ナノファイバシートにおいて、複合化ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又は複合化ナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバシートは、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。複合化ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバシートの製造方法によって相違する。
【0015】
本発明のナノファイバシートは、複数種類の化合物の種類の数に対応する種類の複合化ナノファイバだけを含んで構成されていても良く、あるいは該複合化ナノファイバに加えて、その他の種類のナノファイバを含んでいても良い。また、複合化ナノファイバに加えて、ナノファイバでない繊維を含んでいても良い。
【0016】
複合化ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、複合化ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。複合化ナノファイバは、その長さが、その太さの100倍以上あれば、繊維と呼ぶことができる。また、複合化ナノファイバは、ナノファイバシートにおいて、一方向に配向した状態で存在していても良く、あるいはランダムな方向を向いていても良い。更に、複合化ナノファイバは、一般に中実の繊維であるが、これに限らず例えば中空の複合化ナノファイバや、中空の複合化ナノファイバがその縦断面方向に潰れた形状のリボン状複合化ナノファイバを用いることもできる。
【0017】
複合化ナノファイバを含む本発明のナノファイバシートにおいては、該ナノファイバシートの具体的な用途に応じて適切な範囲の厚みが設定される。本発明のナノファイバシートを、例えばヒトの肌、歯、歯茎、毛髪等に付着させるために用いる場合には、ナノファイバシートの厚みを50nm以上1mm以下、特に500nm以上500μm以下に設定することが好ましい。ナノファイバ層の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。測定時にナノファイバシートに加える荷重は0.01Nとする。
【0018】
複合化ナノファイバは水溶性のものである。この目的のために、複合化ナノファイバは水溶性高分子化合物を含んで構成されている。「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量した後に、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。
【0019】
複合化ナノファイバを構成する水溶性高分子化合物としては、天然高分子及び合成高分子のいずれを用いても良い。天然高分子としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン酸、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、等が挙げられる。合成高分子としては、例えば部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、複合化ナノファイバの調製が容易である観点から、プルラン等の天然高分子、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0020】
複合化ナノファイバに含まれる水溶性高分子化合物の割合は、20質量%以上、特に40質量%以上であることが好ましい。上限値に特に制限はなく、水溶性高分子化合物の割合が複合化ナノファイバに対して100%でも良い。水溶性高分子化合物の割合をこの範囲内とすることによって、複合化ナノファイバを首尾良く水中に溶解させることができ、ナノファイバの作製が容易になる点から好ましい。
【0021】
複合化ナノファイバにおいて、前記化合物が複合化されている形態に特に制限はない。各化合物は、複合化ナノファイバが水に溶解したときに、該化合物が水中に溶出可能な状態で複合化されていれば良い。例えば前記化合物を、完全に溶解した状態に溶液調整することで、複合化ナノファイバを構成する水溶性高分子化合物と混合された状態に複合化することができる。更に、水溶性高分子化合物を含んで構成されるナノファイバが、該ナノファイバの一部に中空部を有するものである場合には、前記化合物を乳化して溶液調整することで、該中空部に前記化合物を存在させることもできる。
【0022】
複合化ナノファイバにおける前記化合物の複合化の形態が上述のいずれであっても、該複合化ナノファイバに含まれる前記化合物の割合は、下限値で5質量%以上、特に10質量%以上であることが好ましい。上限値は80質量%以下であることが好ましい。上限値を80質量%以下にすることでナノファイバの形成を首尾良く行うことができる。
【0023】
ナノファイバと複合化される化合物は少なくとも2種用いられる。反応の種類によっては3種以上の化合物を用いても良い。ここでは一例として、第1の化合物と第2の化合物の2種類の化合物を用いた場合について説明する。この場合のナノファイバシートは、第1の化合物が複合化され、かつ第2の化合物を含まない第1の水溶性複合化ナノファイバ、及び第1の化合物と化学反応を起こし得る第2の化合物が複合化され、かつ第1の化合物を含まない第2の水溶性複合化ナノファイバを少なくとも含んでいる。ナノファイバシートは、第1の水溶性複合化ナノファイバと第2の水溶性複合化ナノファイバとが混合した状態になっている。あるいはナノファイバシートは積層構造を有し、各層に各水溶性複合化ナノファイバが含まれていても良い。この場合、一の層には、一の水溶性複合化ナノファイバが含まれており、他の水溶性複合化ナノファイバは含まれていない。具体的にはナノファイバシートは、第1の水溶性複合化ナノファイバを含み、かつ第2の水溶性複合化ナノファイバを含まない第1の層と、第2の水溶性複合化ナノファイバを含み、かつ第1の水溶性複合化ナノファイバを含まない第2の層とが積層された積層構造を有していても良い。これら混合タイプのナノファイバシートと、積層タイプのナノファイバシートとを比べると、各化合物がより近接して存在している混合タイプのナノファイバシートの方が各化合物どうしの反応性が高くなる傾向にあるので好ましい。
【0024】
第1の化合物と第2の化合物との組み合わせとしては、第1の化合物として水溶性酸を用い、第2の化合物として炭酸塩を用いる組み合わせが好ましい。第1の化合物と第2の化合物との反応で生成する生成物は1種類でも良く、あるいは2種類又はそれ以上でも良い。
【0025】
本発明のナノファイバシートを例えばヒトの肌の美白や美肌等の美容目的(非医療目的)で用いる場合には、ナノファイバシートをヒトの肌、例えば顔、手及び足等に貼付し、その状態下に該ナノファイバシートを水に溶解させて、複合化ナノファイバに含まれている各化合物、すなわち水溶性酸及び炭酸塩を水中に溶出させ両化合物を反応させる。この反応によって生じる二酸化炭素の血行促進効果や新陳代謝効果を利用して、美白や美肌の効果が期待できる。
【0026】
水溶性酸としては、例えば水溶性を有する有機酸又は無機酸を用いることができる。そのような有機酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸;グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、イタ酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、サリチル酸、没食子酸、トロパ酸、アスコルビン酸、グルコン酸等のオキシ酸;が挙げられ、これらの1種以上が使われる。
【0027】
一方、無機酸としては、リン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、酸性ヘキサメタリン酸ナトリウム、酸性ヘキサメタリン酸カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、スルファミン酸が挙げられ、これらの1種以上が使われる。
【0028】
炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、セスキ炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、セスキ炭酸リチウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、セスキ炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水酸化マグネシウム、炭酸バリウムが挙げられ、これらの1種以上が用いられる。
【0029】
本発明のナノファイバシートを例えばヒトの毛髪の脱色に用いる場合には、第1及び第2の化合物として、アルカリ剤と過酸化水素を用いることができる。ヒトの毛髪の染毛に用いる場合には、アルカリ剤又は過酸化水素が複合化されているナノファイバに染料も同時に複合化しておけば良い。
【0030】
本発明のナノファイバシートは、例えばヒトの皮膚、歯、歯茎、毛髪、非ヒト哺乳類の皮膚、歯、歯茎、枝や葉等の植物表面等に付着させて用いることができる。ナノファイバシートを対象物の表面に付着させるのに先立ち、水又は水溶性有機溶剤を含む水などの水性液で該表面を湿潤状態にしておいても良い。そうすることによって、表面張力の作用を利用して、ナノファイバシートを対象物の表面に首尾良く付着させることができる。またナノファイバシートを首尾良く該水性液に溶解させることができる。
【0031】
対象物の表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の水性液を該表面に塗布又は噴霧すれば良い。塗布又は噴霧される水性液としては、ナノファイバシートを付着させる温度において液体成分を含み、かつその温度における粘度(E型粘度計を用いて測定される粘度)が5000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等が挙げられる。また、O/Wエマルション等の乳化液、増粘性多糖類等をはじめとする各種の増粘剤で増粘された水性液等も挙げられる。
【0032】
対象物の表面を湿潤状態にすることに代えて、ナノファイバシートの表面(付着対象物の表面に臨む面)を水性液で湿潤状態にしても良い。これらの操作に加えて、又はこれらの操作に代えて、対象物の表面に本発明のナノファイバシートを付着させた後に、該ナノファイバシートに水性液を付与して、該ナノファイバシートを該水性液中に溶解させても良い。
【0033】
本発明のナノファイバシートは、それ単独で用いても良く、あるいは基材シートと積層させた積層シートとして用いても良い。また、ナノファイバシートを覆うように被覆シートを用いても良い。基材シートや被覆シートとしては、水溶性又は非水溶性のフィルム、メッシュシート及び繊維シートなどが挙げられる。繊維シートしては、ナノファイバシート又はナノファイバシート以外のシートを用いることができる。特に、使用前のナノファイバシートを支持してその取り扱い性を高めるための基材シートを用いることが好ましい。ナノファイバシートを、基材シートと組み合わせて用いることで、本発明のように薄いナノファイバシートを対象物の表面に付着させるときの操作性が良好になる。また、基材シート又は被覆シートを本発明のナノファイバシートの一方の面に配置すると、発生した二酸化炭素の揮散が防がれるので好ましい。この観点から、基材シート又は被覆シートの通気性は、JIS P8117に規定される透気抵抗度(ガーレー)で表して、60秒/100ml以上、特に120秒/100ml以上であることが好ましい。透気抵抗度(ガーレー)の上限値に特に制限はないが、120秒/100ml程度に透気抵抗度(ガーレー)の値が大きければ、二酸化炭素の揮散が効果的に防止される。
【0034】
ナノファイバ積層体の取り扱い性を向上させる観点から、基材シートは、そのテーバーこわさが0.01〜0.4mNm、特に0.01〜0.2mNmであることが好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
【0035】
以上の構成を有するナノファイバシートの好適な製造方法について以下に説明する。本製造方法においては、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)よってナノファイバシートを製造する。
図1及び
図2には、第1の化合物と第2の化合物の2種類の化合物を用いた場合に好適に用いられる電界紡糸法を実施するための装置の一例が模式的に示されている。これらの図に示す装置1は、第1吐出装置10及び第2吐出装置20を備えている。3種類以上の化合物を用いる場合に、該化合物の種類の数と同数又はそれよりも多い数の吐出装置を用意する。装置1は、高電圧源30及び導電性コレクタ40を更に備えている。第1吐出装置10は、シリンダ11、ピストン12及びノズル13を備えている。同様に、第2吐出装置20は、シリンダ21、ピストン22及びノズル23を備えている。第1吐出装置10と第2吐出装置20とは、その形状や寸法が同じでも良く、あるいは異なっていても良い。ノズル13,23の内径はそれぞれ独立に400〜1200μm程度である。高電圧源30は、例えば10〜40kVの直流電圧源である。高電圧源30の正極は第1及び第2吐出装置10,20における第1液及び第2液と導通している。高電圧源30の負極は接地されている。導電性コレクタ40は、
図1においては平坦な形状を有している。一方、
図2においては回転ドラム形状をしている。いずれの形態であっても、導電性コレクタ40は接地されている。第1及び第2吐出装置10,20におけるノズル13,23の先端と導電性コレクタ40との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。この距離は、第1及び第2吐出装置10,20間において同じでも良く、あるいは異なっていても良い。また、
図2においては、第1及び第2吐出装置10,20は、回転ドラム形状をしている導電性コレクタ40の回転方向と平行に並ぶように配置されている。ノズル13,23からの原料液の吐出量は、それぞれ独立に、その下限値が好ましくは0.1ml/h、更に好ましくは0.5ml/hである。上限値はそれぞれ独立に、20ml/hであることが好ましく10ml/hであることが更に好ましい。
図1及び
図2に示す装置1は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、例えば温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。第1吐出装置10を用いた電界紡糸法の実施条件と、第2吐出装置20を用いた電界紡糸法の実施条件とは、同じでも良く、あるいは異なっていても良い。
【0036】
第1吐出装置10のシリンダ11内には第1原料液が充填される。一方、第2吐出装置20のシリンダ21内には第2原料液が充填される。第1原料液は、第1の化合物を含み、第2の化合物を含まず、かつ水溶性高分子化合物を含む水溶液である。第2原料液は、第2の化合物を含み、第1の化合物を含まず、かつ水溶性高分子化合物を含む水溶液である。各原料液の媒体は、水又は水及び水溶性有機溶媒を含む水性液である。第2原料液に含まれる水溶性高分子化合物は、第1原料液に含まれる水溶性高分子化合物と同種でも良く、あるいは異種でも良い。3種類以上の化合物を用いる場合には、該化合物のうちの一つを含み、かつ他の化合物を含まない原料液を、該化合物の種類の数と同数用意する。
【0037】
第1原料液及び第2原料液を電界紡糸法に付すときには、第1吐出装置10及び第2吐出装置20と導電性コレクタ40との間に電圧を印加した状態下に、第1吐出装置10及び第2吐出装置20のピストン12,22を徐々に押し込み、ノズル13,23の先端から第1原料液及び第2原料液を押し出す。押し出された第1原料液及び第2原料液は同電荷に帯電しているので互いに反発する。また、第1原料液及び第2原料液においては、液媒体である水性液が揮発するとともに、残存した成分が繊維化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバ化され、導電性コレクタ40に引き寄せられる。
【0038】
ノズル13,23の先端から第1原料液及び第2原料液を同時に押し出すと、第1の化合物が複合化された第1の複合化ナノファイバと、第2の化合物が複合化された第2の複合化ナノファイバとが同時に形成される。その結果、第1の複合化ナノファイバと第2の複合化ナノファイバとが混合した状態のナノファイバシートが得られる。3種類以上の化合物を用いる場合には、該化合物の種類の数と同数のノズルから各原料液を同時に吐出して、吐出された各原料液をナノファイバ化すれば良い。
【0039】
一方、積層構造のナノファイバシートを得る場合には、次の方法を採用すれば良い。まず、ノズル13の先端から第1原料液を押し出して、第1の化合物が複合化された第1の複合化ナノファイバを形成し、第1の複合化ナノファイバを含む第1の層を形成する。このときには、ノズル23から第2原料液を押し出さない。第1の層が形成されたら、第1原料液の吐出を停止し、それに代えて第2原料液の吐出を開始する。そして吐出された第2原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、第1の層の一面に第2の複合化ナノファイバを含む第2の層を形成する。これによって、第1の層と第2の層との2層の積層構造からなるナノファイバシートが得られる。3種類以上の化合物を用いる場合には、化合物の種類の数と同数用意したノズルのうちの一のノズルから、化合物の種類の数と同数用意した原料液のうちの一の原料液を吐出し、吐出された該原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、複数の化合物のうちの一の化合物が複合化された複合化ナノファイバを含む層を形成する。次に、前記ノズルのうちの他の一のノズルから、前記原料液のうちの他の一の原料液を吐出し、吐出された該原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、前記化合物のうちの他の一の化合物が複合化された複合化ナノファイバを含む層を、前記層の一面に積層する。この積層を前記化合物の種類の数だけ行えば良い。
【0040】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。
【0041】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下のナノファイバシート及びその製造方法を開示する。
<1>
互いに異なる複数種類の化合物を含み、
前記の複数種類の化合物として、それらが反応することで別の化合物を生成することが可能なものを用い、
前記の各化合物それぞれが、異なる水溶性ナノファイバに複合化されているナノファイバシートであって、
互いに異なる複数種類の前記化合物のうちの一つが水溶性酸であり、他の一つが炭酸塩であるナノファイバシート。
【0042】
<2>
異なる前記水溶性ナノファイバが混合した状態になっている<1>に記載のナノファイバシート。
<3>
積層構造を有し、
各層に前記の各水溶性ナノファイバが含まれている<1>に記載のナノファイバシート。
<4>
<2>に記載のナノファイバシートの製造方法であって、
互いに異なる複数種類の前記化合物のうちの一つを含む、互いに異なる複数種類の原料液を、該化合物の種類の数だけ用意し、
前記の各原料液を吐出するノズルを、前記の数以上有する電界紡糸装置を用い、回転する基材の回転方向と平行に並べて配置し、
前記の各ノズルから前記の各原料液を同時に吐出して、吐出された各原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、異なる前記水溶性ナノファイバが混合されたナノファイバシートを得る、ナノファイバシートの製造方法。
<5>
<3>に記載のナノファイバシートの製造方法であって、
互いに異なる複数種類の前記化合物のうちの一つを含む、互いに異なる複数種類の原料液を、該化合物の種類の数だけ用意し、
前記の各原料液を吐出するノズルを、前記の数以上備えた電界紡糸装置を用い、
前記ノズルのうちの一のノズルから、前記原料液のうちの一の原料液を吐出し、吐出された該原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、前記化合物のうちの一の化合物が複合化された水溶性ナノファイバを含む層を形成し、
前記ノズルのうちの他の一のノズルから、前記原料液のうちの他の一の原料液を吐出し、吐出された該原料液を電界紡糸法によってナノファイバ化し、前記化合物のうちの他の一の化合物が複合化された水溶性ナノファイバを含む層を、前記層の一面に積層する工程を有し、
前記化合物の種類の数だけ前記の積層を行う、ナノファイバシートの製造方法。
<6>
前記原料液において、前記化合物が溶解した状態であるか、前記化合物が乳化した状態である<4>又は<5>に記載のナノファイバシートの製造方法。
【0043】
<7>
前記の各化合物それぞれが、異なる水溶性ナノファイバに、混合された状態に複合化されているか、ナノファイバの一部に有する中空部に複合化されている<1>ないし<3>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<8>
ヒトの肌の美白や美肌等の美容目的(非医療目的)で用いる<1>ないし<3>又は<7>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<9>
基材シート又は被覆シートと積層されている<1>ないし<3>、<7>又は<8>のいずれか一項に記載のナノファイバシート。
<10>
前記基材シート又は被覆シートの透気抵抗度(ガーレー)が60秒/100ml以上、特に120秒/100ml以上である<9>記載のナノファイバシート。
<11>
前記基材シートのテーバーこわさが0.01〜0.4mNm、特に0.01〜0.2mNmである<9>又は<10>記載のナノファイバシート。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0045】
〔実施例1〕
本実施例では、水に溶解することで二酸化炭素を発生し得る積層タイプのナノファイバシートを製造した。第1原料液及び第2原料液として、以下の表1に示す組成を有するものを用いた。
【0046】
【表1】
【0047】
図1に示す装置を用い、以下の条件で電界紡糸法を実施した。なお、
図1に示す装置において、導電性コレクタ40の表面にポリエチレンテレフタレート製のメッシュシートを配して、このメッシュシートの表面にナノファイバを捕集するようにした。まず第1原料液を吐出して、炭酸水素ナトリウムが複合化された第1の複合化ナノファイバを含む第1の層を形成した。第1の層の走査型顕微鏡像は
図3(a)に示すとおりである。顕微鏡像から測定された平均繊維径は300nmであった。次に、第2原料液を吐出して、クエン酸が複合化された第2の複合化ナノファイバを含む第2の層を、第1の層の一面に形成した。第2の層の走査型顕微鏡像は
図3(b)に示すとおりである。顕微鏡像から測定された平均繊維径は267.9nmであった。各原料液の吐出条件及び電界紡糸法の条件はいずれも同じであり、以下に示すとおりである。
【0048】
・印加電圧:37kV
・ノズル−コレクタ間距離:230mm
・液吐出量:1ml/h
・吐出時間:40mm四方の領域に20mgのナノファイバが堆積される時間
・製造環境:23℃、35%RH
【0049】
被験者の前腕内側に水を塗布した後、得られた積層タイプのナノファイバシートを付着させた。ナノファイバシートが水に溶解して、炭酸水素ナトリウム及びクエン酸が水中に溶出し、両者が反応して二酸化炭素が発生した。なお、使用前のナノファイバシートを、23℃、50%RHで5時間保存している間に、二酸化炭素の発生は観察されなかった。
【0050】
〔実施例2〕
本実施例では、水に溶解することで二酸化炭素を発生し得る混合タイプのナノファイバシートを製造した。第1原料液及び第2原料液として、以下の表2に示す組成を有するものを用いた。
【0051】
【表2】
【0052】
図2に示す装置を用い、以下の条件で電界紡糸法を実施した。なお、
図2に示す装置において、導電性コレクタ40の表面にポリエチレンテレフタレート製のメッシュシートを配して、このメッシュシートの表面にナノファイバを捕集するようにした。第1原料液及び第2原料液をコレクタの回転方向と平行に配置し同時に吐出して、炭酸水素ナトリウムが複合化された第1の複合化ナノファイバと、クエン酸が複合化された第2の複合化ナノファイバとが混合されたナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートの走査型顕微鏡像は
図4に示すとおりである。顕微鏡像から測定された平均繊維径は122.1nmであった。各原料液の吐出条件及び電界紡糸法の条件は以下に示すとおりである。
【0053】
〔第1原料液〕
・印加電圧:38kV
・ノズル−コレクタ間距離:230mm
・液吐出量:0.75ml/h
・製造環境:23℃、35%RH
〔第2原料液〕
・印加電圧:38kV
・ノズル−コレクタ間距離:230mm
・液吐出量:0.5ml/h
・製造環境:25℃、35%RH
〔吐出時間〕
40mm四方の領域に40mgのナノファイバが堆積される時間
【0054】
被験者の前腕内側に水を塗布した後、得られた混合タイプのナノファイバシートを付着させた。ナノファイバシートが水に溶解して、炭酸水素ナトリウム及びクエン酸が水中に溶出し、両者が反応して二酸化炭素が発生した。なお、使用前のナノファイバシートを、23℃、50%RHで5時間保存している間に、二酸化炭素の発生は観察されなかった。