(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103749
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】FeCo系磁歪合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20170316BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20170316BHJP
H01F 1/14 20060101ALI20170316BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
C22C19/07 C
C22F1/10 B
H01F1/14
!C22F1/00 606
!C22F1/00 624
!C22F1/00 623
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 660Z
!C22F1/00 692A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-232906(P2012-232906)
(22)【出願日】2012年10月22日
(65)【公開番号】特開2014-84484(P2014-84484A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年4月24日弘前文化センターにおいて開催されたPI−SMART2012で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(72)【発明者】
【氏名】古屋 泰文
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 禎子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 健
【審査官】
田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06299703(US,B1)
【文献】
特開平04−072016(JP,A)
【文献】
特開2010−159491(JP,A)
【文献】
特開2001−358377(JP,A)
【文献】
特開2013−177664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/07
C22F 1/10
H01F 1/12− 1/375
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe(鉄)とCo(コバルト)とからなり、Coを50原子%〜70原子%含む体心立方構造を持つ磁歪合金であって、Cu(銅)のKα特性X線を用いたX線回折結果に基づく下記式(1)で表される(110)面の配向度が19%以上であり、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上であることを特徴とするFeCo系磁歪合金。
配向度=(P−P0)/(1−P0) ……(1)
ここで、P=ΣI(110)/{ΣI(110)+ΣI(200)+ΣI(211))}
P0=ΣI0(110)/{ΣI0(110)+ΣI0(200)+ΣI0(211)}
であって、ΣI(110)、ΣI(200)及びΣI(211)は、(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示し、ΣI0(110)、ΣI0(200)及びΣI0(211)は、理想的な無配向の試料における(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示す。
【請求項2】
請求項1記載のFeCo系磁歪合金において、
X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.5°以下であることを特徴とするFeCo系磁歪合金。
【請求項3】
請求項1記載のFeCo系磁歪合金において、
X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.3°以下であることを特徴とするFeCo系磁歪合金。
【請求項4】
Fe(鉄)とCo(コバルト)とからなり、Coを50原子%〜70原子%含むFeCo系磁歪合金の製造方法において、
合金素材を溶解した後に、1500℃/min以上の冷却速度で冷却することで、Cu(銅)のKα特性X線を用いたX線回折結果に基づく下記式(1)で表される(110)面の配向度が19%以上であり、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上である磁歪合金を作製することを特徴とするFeCo系磁歪合金の製造方法。
配向度=(P−P0)/(1−P0) ……(1)
ここで、P=ΣI(110)/{ΣI(110)+ΣI(200)+ΣI(211))}
P0=ΣI0(110)/{ΣI0(110)+ΣI0(200)+ΣI0(211)}
であって、ΣI(110)、ΣI(200)及びΣI(211)は、(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示し、ΣI0(110)、ΣI0(200)及びΣI0(211)は、理想的な無配向の試料における(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示す。
【請求項5】
請求項4記載のFeCo系磁歪合金の製造方法において、
作製される前記磁歪合金の前記X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.5°以下であることを特徴とするFeCo系磁歪合金の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載のFeCo系磁歪合金の製造方法において、
前記冷却後、前記磁歪合金の融点の1/4の温度±40℃で24時間以上の熱処理を行うことを特徴とするFeCo系磁歪合金の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のFeCo系磁歪合金の製造方法において、
作製される前記磁歪合金の前記X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.3°以下であることを特徴とするFeCo系磁歪合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの磁力付与に伴って自ら伸縮する機能を有するFeCo系磁歪合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、外部磁場により磁性を帯びる強磁性体は、外部の磁場付与に伴って、結晶内部に存在する自発磁区のS極とN極の反転、回転等に伴って伸縮現象が起きる。これは磁歪現象と呼ばれ(非特許文献1参照)、磁性体周囲に設置したコイルに交流電流を流して交番磁界を作ると、能動素子としての応用ができる。
【0003】
この磁歪効果は、セラミックスの圧電効果や電歪効果に比べて、立ち上がり時のエネルギー密度が大きく、また、合金ゆえに材料強度もあり、また、バルク化が容易であるので、大型海底探査、魚群探知用ソナー、地下資源探索用超音波振動子への応用が研究され、さらに最近では、逆磁歪効果を利用した振動発電への応用も研究されている。
【0004】
また、磁歪合金での逆磁歪効果を利用した力センサへの利用も可能である。例えば次世代で要求される人間の手のようにソフトで高精細な作業機能を備えた知能ロボットや低侵襲型医療機器でのマニュピレータやロボットハンド部では、ハンドに力覚、触覚を備えなければならないため、指先だけでなく、指の関節部においても高精度に回転角度やねじり力を計測し、制御することが要求される。
【0005】
しかし、現時点でのモバイル機器や知能ロボット等に組み込み可能な小型軽量、構造が簡単で、しかも高感度なトルクセンサは市販されておらず、次世代ロボットへの適用を視野に入れた小型、高感度トルクセンサの開発が求められている。このトルクセンサシステムでは、回転シャフトへの応力負荷時に磁歪合金表面から発生する漏れ磁束が、負荷力に比例する原理を用いているため、センサ感度が磁歪合金の磁気特性に大きく依存しており、優れた材料特性を有する磁歪合金の作製、材料選定が重要である。
【0006】
磁歪効果を利用した振動素子(アクチュエータ)やセンサ素子の主な特徴としては、以下の点が挙げられる。
(1) 金属素材であるので、励磁コイルに設置する際の複雑な形状に加工が容易である。
(2) 材料が金属で強度が高く、堅牢で、長時間にわたる繰り返し振動変形でも破損し難く、耐久性がある。
(3) 非接触ワイヤレスで外部磁場コイルにより駆動可能である。それゆえに、流体内や生体内等のアクチュエータ素子などを、ワイヤレスで遠隔的に設置することができる自由度がある。
(4) 共振振動での高出力発電特性が得られる。
(5) 低出力インピーダンスで、圧電体よりも低電圧で駆動可能であり、母構造側との振動付与、制御でのインピーダンスマッチングが取り易く、大型アクチュエータ設計が容易となる。
(6) 磁歪合金はキュリー温度が高い温度域にあり、使用温度範囲を広く取ることができる(−100℃〜500℃)。
(7) コイルを使用するため、アクチュエータ容積が大型化するのは避けられない。
(8) 高周波振動子で発熱防止用の冷却装置が必要になる。
(9) 電磁ノイズ漏れ遮断用の容器(ハウジング)が必要となる。
【0007】
実際に、磁歪材料の振動素子(アクチュエータ)やセンサ素子としての工業的応用では、これまでは、超磁歪材料(Tb−Dy−Fe合金)(非特許文献1参照)に、一軸方向の圧縮力を付与しながら、振動素子やセンサデバイスとして利用を行うものがあるが、この材料は、希土類元素を含み、延性が低く、また、製品が高コストであるため、使用環境が制限される。
【0008】
また、最近になって、加工性を有する単結晶及び方向性多結晶FeGa合金(Galfenol)(非特許文献2参照)を用いて、磁歪振動素子の実用化(非特許文献3参照)が推進されてきている。
【0009】
これらのFeGa合金では、最大300ppmの磁歪を利用しているが、その場合は、単結晶や方向性を有する粗大結晶組織に限られるので、材質は柔らかく、縦弾性係数(ヤング率)は50〜60GPaとなり、機械的強度が低下することは避けられない。しかしながら、現状のFeGa合金でも、まだ、磁歪エネルギー密度が低く、且つ、単結晶作製には多大なコストがかかる。そのため、磁歪サンプルの量産性、振動素子の加工成形コスト面での汎用の産業機器の様々な使用条件分野に合致した適用レベルには至っていない。
【0010】
また、従来では、一般的な鉄基磁歪材料で、強磁性体であるCo(コバルト)元素からなり、さらに高剛性と高い飽和磁束密度を有するFeCo元系合金をベースにした合金に着目した例が開示されている(非特許文献4〜7)。
【0011】
非特許文献4は、縦弾性係数(ヤング率)のCo依存性を調べたものであり、これによると、Co組成が30原子%付近で最大値(約210GPa)を示し、その後、Co=50原子%付近までは最大値を維持して、その後、Coの濃度が増加するにつれてヤング率が徐々に減少し、Co=85原子%付近で最小値(約182GPa)となっている。
【0012】
非特許文献5には、合金素材を真空中で誘導電気炉により溶解し、さらに金属の型を用いて鋳造した後、真空炉中で1050℃、1.5時間の熱処理を行う例が記載されている。例えばCo=70原子%のFeCo合金では、磁界1000Oeで磁歪量90ppmが得られている。
【0013】
非特許文献6には、合金素材をアルゴン雰囲気中でアーク溶解し、さらに、1000℃×3日間の熱処理を行い、さらに、アルゴン雰囲気中で、試料毎に300℃、350℃等の各温度で熱処理を行う例が記載されている。例えばCo=70原子%のFeCo合金では、840℃の熱処理を行った場合、|縦ひずみ−横ひずみ|で150ppmが得られている。但し、非単結晶の磁歪の定義は、λ=(2/3)×(縦歪―横歪)であるので、磁歪量は100ppmと推定される。
【0014】
非特許文献7は、片持ち梁状の基体上にFeCo合金をスパッタにて成膜した後、800℃×1時間の熱処理を行い、水で急冷した例が記載されている。例えばCo=66原子%のFeCo合金薄膜では、磁歪量260±10ppmが得られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】A.E.クラーク及び江田 弘著、「超磁歪材料」、日刊工業新聞社(1995)、pp.94―100, p143およびp170.
【非特許文献2】A.E.Clark,J.B.Restorff,M.Wun−Fogle,T.A.Lagrasso and D.L.Schlagel、IEEE Trans.Magn.、36、2000、239−244
【非特許文献3】T.Ueno and S.Yamada、Study on Micro−energy Harvesting Device Using Iron−Gallium Alloy、Journal of the Magnetics Society of Japan、vol.35、No.2、2011、88−91
【非特許文献4】Mikio Yamamoto、Young’s Modulus of Elasticity and Its Change with Magnetization in Iron−Cobalt Alloys、Sci. Rep.、Tohoku Imp.Univ.、30、1941、768
【非特許文献5】Yosio Masiyama、On the Magnetostriction of Iron−Cobalt Alloys.、The 294th report of the Research Institute for Iron, Steel and Other Metals.
【非特許文献6】Liyang Dai and Manfred Wuttig,Magnetostriction in Co−rich bcc CoFe Solid Solutions,Submitted for publication in Scripta Mat.October 9,2007
【非特許文献7】Dwight Hunter,Will Osborn,Ke Wang,Nataliya Kazantseva,Jason Hattrick−Simpers,Richard Suchoski,Ryota Takahashi,Marcus L.Young,Apurva Mehta,Leonid A.Bendersky,Sam E.Lofland,Manfred Wuttig & Ichiro Takeuchi、Giant magnetostriction in annealed Co1−xFex thin−films、nature COMMUNICATIONS,ARTICLE;Received 25 May 2011/Accepted 4 Oct 2011/Published 1 Nov 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
FeCo合金は、FeGa合金よりもヤング率が高いため、機械的強度が高く、磁歪振動素子の実用化に有望である。しかし、FeCo合金に関する上述した非特許文献5及び6では、磁歪を高める上で有効な配向度の規定について何ら記載がなく、磁歪を向上させるには限界がある。なお、非特許文献7は、磁歪が高いが、片持ち梁状の基体上に形成された薄膜によるFeCo合金であるため、バルク合金に適用することができないという問題がある。もちろん、非特許文献7には、配向度についての記載もない。
【0017】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、配向度を規定することで、バルク合金の磁歪量を高めることができ、磁歪振動素子等の実用化を促進させることができるFeCo系磁歪合金を提供することを目的とする。ここで、バルク合金とは、塊状、柱状、立方体状、直方体状、薄板状等を有し、薄膜を含まない。
【0018】
また、本発明の他の目的は、配向度を19%以上に高めることで、磁歪量も大きくすることができ、磁歪振動素子等の実用化を促進させることができる優れた磁歪合金を容易に作製することができるFeCo系磁歪合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
[1] 第1の本発明に係るFeCo系磁歪合金は、Fe(鉄)とCo(コバルト)とからなり、Coを50原子%〜70原子%含む体心立方構造を持つ磁歪合金であって、Cu(銅)のKα特性X線を用いたX線回折結果に基づく下記式(1)で表される(110)面の配向度(ロットゲーリングファクタ)が19%以上であり、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上であることを特徴とする。
配向度=(P−P
0)/(1−P
0) ……(1)
ここで、P=ΣI(110)/{ΣI(110)+ΣI(200)+ΣI(211))}
P
0=ΣI
0(110)/{ΣI
0(110)+ΣI
0(200)+ΣI
0(211)}
であって、ΣI(110)、ΣI(200)及びΣI(211)は、(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示し、ΣI
0(110)、ΣI
0(200)及びΣI
0(211)は、理想的な無配向の試料における(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示す。
【0020】
[2] 第1の本発明において、前記X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.5°以下であってもよい。
【0021】
[3] さらに好ましくは、前記X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.3°以下である。
【0022】
[4] 第1の本発明において、合金素材を溶解した後に、1500℃/min以上の冷却速度で冷却して構成してもよい。
【0023】
[5] この場合、さらに、融点の1/4の温度±40℃で24時間以上の熱処理を行って構成してもよい。
【0024】
[6] 第2の本発明に係るFeCo系磁歪合金の製造方法は、Fe(鉄)とCo(コバルト)とからなり、Coを50原子%〜70原子%含む磁歪合金の製造方法において、合金素材を溶解した後に、1500℃/min以上の冷却速度で冷却することで、Cu(銅)のKα特性X線を用いたX線回折結果に基づく下記式(1)で表される(110)面の配向度が19%以上であり、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上である磁歪合金を作製することを特徴とする。
配向度=(P−P
0)/(1−P
0) ……(1)
ここで、P=ΣI(110)/{ΣI(110)+ΣI(200)+ΣI(211))}
P
0=ΣI
0(110)/{ΣI
0(110)+ΣI
0(200)+ΣI
0(211)}
であって、ΣI(110)、ΣI(200)及びΣI(211)は、(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示し、ΣI
0(110)、ΣI
0(200)及びΣI
0(211)は、理想的な無配向の試料における(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示す。
【0025】
[7] この場合、作製される前記磁歪合金の前記X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.5°以下である。
【0026】
[8] 第2の本発明において、前記冷却後、前記磁歪合金の融点の1/4の温度±40℃で24時間以上の熱処理を行ってもよい。
【0027】
[9] この場合、作製される前記磁歪合金の前記X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅が0.1°以上0.3°以下である。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明に係るFeCo系磁歪合金によれば、配向度を規定することで、バルク合金の磁歪量を高めることができ、磁歪振動素子等の実用化を促進させることができる。
【0029】
また、本発明に係るFeCo系磁歪合金の製造方法によれば、合金素材を溶解した後、1500℃/min以上の冷却速度で急冷するようにしたので、配向度を19%以上に高めることができ、配向度の向上に応じて磁歪量も大きくすることができる。その結果、磁歪振動素子等の実用化を促進させることができる優れた磁歪合金を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1の本実施の形態に係る製造方法(第1製造方法)を示す工程図である。
【
図2】
図2Aは第1製造方法で作製した第1磁歪合金(Coの比率=50原子%)のX線回折結果を示すグラフであり、
図2Bは
図2Aの横軸を拡大して示すグラフである。
【
図3】
図3Aは第1製造方法で作製した第2磁歪合金(Coの比率=70原子%)のX線回折結果を示すグラフであり、
図3Bは
図3Aの横軸を拡大して示すグラフである。
【
図4】第2の本実施の形態に係る製造方法(第2製造方法)を示す工程図である。
【
図5】
図5Aは第2製造方法で作製した第3磁歪合金(Coの比率=50原子%)のX線回折結果を示すグラフであり、
図5Bは
図5Aの横軸を拡大して示すグラフである。
【
図6】
図6Aは第2製造方法で作製した第4磁歪合金(Coの比率=70原子%)のX線回折結果を示すグラフであり、
図6Bは
図6Aの横軸を拡大して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るFeCo系磁歪合金及びその製造方法の実施の形態例を
図1〜
図6Bを参照しながら説明する。なお、本明細書において数値範囲を示す「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0032】
最初に、第1の実施の形態に係るFeCo系磁歪合金の製造方法(以下、第1製造方法と記す)について
図1〜
図3Bを参照しながら説明する。
【0033】
この第1製造方法は、先ず、
図1のステップS1において、Fe(鉄)とCo(コバルト)とを秤量して合金素材を作製する。この場合、Coを50原子%〜80原子%の範囲にする。
【0034】
その後、ステップS2において、合金素材を溶解して母合金を作製する。この母合金の作製にあたっては、例えばプラズマアーク溶解装置を使用することができる。
【0035】
その後、ステップS3において、母合金を1000℃/min以上の冷却速度で冷却する。すなわち、急冷する。この急冷処理は、母合金を水冷されている銅ハース中で行うことができる。冷却速度は、好ましくは1500℃/min以上3000℃/min以下、より好ましくは1700℃/min以上2200℃/min以下である。
【0036】
その後、ステップS4において、母合金を切り出して、例えば縦×横×高さ=20mm×2mm×1mmの直方体(磁歪合金の製品モデルの一例)を作製する。
【0037】
この製品モデルを磁気特性評価用の試験片として使用して磁気特性を調べたところ、Cu(銅)のKα特性X線を用いたX線回折結果に基づく下記式(1)で表される(110)面の配向度(ロットゲーリングファクタ)が19%以上であり、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上であった。
配向度=(P−P
0)/(1−P
0) ……(1)
ここで、P=ΣI(110)/{ΣI(110)+ΣI(200)+ΣI(211))}
P
0=ΣI
0(110)/{ΣI
0(110)+ΣI
0(200)+ΣI
0(211)}
であって、ΣI(110)、ΣI(200)及びΣI(211)は、(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示し、ΣI
0(110)、ΣI
0(200)及びΣI
0(211)は、理想的な無配向の試料における(110)面、(200)面及び(211)面の回折強度の積分強度をそれぞれ示す。
【0038】
ここで、一例として、Coを50原子%含む実施の形態に係るFeCo系磁歪合金(以下、第1磁歪合金と記す)と、Coを70原子%含む実施の形態に係るFeCo系磁歪合金(以下、第2磁歪合金と記す)について説明する。
【0039】
第1磁歪合金のX線回折結果を
図2A及び
図2Bに示し、第2磁歪合金のX線回折結果を
図3A及び
図3Bに示す。X線回折結果は、横軸に回折角2θ、縦軸に規格化回折強度をとって示すグラフで示した。なお、
図2B及び
図3Bは、
図2A及び
図3Aの横軸(回折角2θ)を拡大して示したものである。
【0040】
第1磁歪合金及び第2磁歪合金は共に、(110)面、(200)面及び(211)面でピーク波形が現れ、具体的には下記表1に示す結果であった。
【0042】
また、第1磁歪合金及び第2磁歪合金の(110)面における各ピーク波形の半値幅は、第1磁歪合金が0.38°、第2磁歪合金が0.40°であった。半値幅は、
図2B及び
図3Bに示すように、ピーク波形の高さhaの1/2の幅Waを示す。
【0043】
そして、有効磁界H=1000Oeにおける第1磁歪合金の磁歪量は106ppmであり、第2磁歪合金の磁歪量は110ppmであった。
【0044】
このように、本実施の形態に係るFeCo系磁歪合金は、(110)面の配向度が19%以上と高く(100%が上限)、しかも、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上と大きい。
【0045】
つまり、Fe(鉄)とCo(コバルト)とからなり、Coを50原子%〜80原子%含む磁歪合金であって、配向度を19%以上に規定することで、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上という大きな磁歪量を発現できることがわかった。Fe及びCoは共に、強磁性体であり、従来の非磁性GaからなるFeGa系(Galfenol)よりも飽和磁束密度(Bs)及び透磁率(μ)が高く、ヤング率も最大で210GPaにも達するため、高強度と耐久性及び軟磁気特性の優れた磁歪合金となりうる。
【0046】
しかも、非希土類系であるため、脆弱性はなく、超磁歪材料(Tb−Dy−Fe合金)よりも安価であり、Coは資源量も多く、量産化できる利点がある。
【0047】
従って、この磁歪合金を用いることで、磁歪振動素子等の実用化を促進させることができる。例えば大型海底探査、魚群探知用ソナー、地下資源探索用超音波振動子への応用や、逆磁歪効果を利用した振動発電への応用にも有利である。
【0048】
さらに、上述したように、ソフトで高精細な作業機能を備えた知能ロボットや低侵襲型医療機器でのマニュピレータやロボットハンド部等で使用されると想定されるトルクセンサシステムでは、回転シャフトへの応力負荷時に磁歪合金表面からの発生する漏れ磁束が、負荷力に比例する原理を用いているため、センサ感度が磁歪合金の磁気特性に大きく依存することになるが、本実施の形態に係るFeCo系磁歪合金は、上述のように優れた磁気特性及び材料特性を有するため、トルクセンサシステムの磁歪合金として好適となる。
【0049】
また、上述した第1製造方法によれば、合金素材を溶解した後、1500℃/min以上3000℃/min以下の冷却速度で冷却制御することにより、(110)面での配向度を19%以上に高めることができ、配向度の向上に応じて磁歪量も大きくすることができる。その結果、磁歪振動素子等の実用化を促進させることができる優れた磁歪合金を容易に作製することができる。
【0050】
次に、第2の実施の形態に係るFeCo系磁歪合金の製造方法(以下、第2製造方法と記す)について
図4〜
図6Bを参照しながら説明する。
【0051】
先ず、
図4のステップS101〜ステップS104に示す工程は、上述した第1製造方法におけるステップS1〜ステップS4に示す工程とほぼ同じであるため、その重複説明を省略するが、ステップS101において、合金素材を作製し、ステップS102において、母合金を作製する。その後、ステップS103において、母合金を1500℃/min以上の冷却速度で急冷し、ステップS104において、母合金を切り出して、例えば縦×横×高さ=20mm×2mm×1mmの直方体(磁歪合金の製品モデルの一例)を作製する。
【0052】
そして、次のステップS105において、製品モデルに対して、該製品モデルの融点の1/4の温度±40℃で24時間以上の熱処理を行う。
【0053】
この製品モデルを磁気特性評価用の試験片として使用して磁気特性を調べたところ、X線回折結果における(110)面、(200)面及び(211)面の積分強度をそれぞれI(110)、I(200)及びI(211)としたとき、上記式(1)で表される(110)面の配向度が19%以上であり、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上であった。
【0054】
ここで、一例として、Coを50原子%含む熱処理(ステップS105)後の実施の形態に係るFeCo系磁歪合金(以下、第3磁歪合金と記す)と、Coを70原子%含む熱処理後の実施の形態に係るFeCo系磁歪合金(以下、第4磁歪合金と記す)について説明する。
【0056】
第3磁歪合金及び第4磁歪合金は共に、(110)面、(200)面及び(211)面でピーク波形が現れ、具体的には下記表2に示す結果であった。
【0058】
また、第3磁歪合金及び第4磁歪合金の(110)面における各ピーク波形の半値幅は、第3磁歪合金が0.19°、第4磁歪合金が0.24°であった。半値幅は、
図5B及び
図6Bに示すように、ピーク波形の高さhaの1/2の幅Waを示す。第3磁歪合金及び第4磁歪合金は、上述した熱処理前の第1磁歪合金及び第2磁歪合金と比して半値幅が40%以上も狭くなっており、結晶性が向上していることがわかる。
【0059】
また、有効磁界H=1000Oeにおける第3磁歪合金の磁歪量は100ppm、第4磁歪合金の磁歪量は102ppmであり、第1磁歪合金及び第2磁歪合金とほとんど変わらないことがわかった。
【0060】
このことから、上述した熱処理を施すことで、(110)面の配向度を保ったまま、結晶性が向上した磁歪合金を得ることができ、磁場の変化に対して敏感に反応する振動素子を提供することが可能となる。すなわち、結晶性が向上することによるメリットは、結晶性と粒径(結晶子サイズ)効果で変わってくるが、この場合、格子歪の緩和(内部応力の緩和・均一化)に限定すると、磁束のピンニング(磁気モーメントの回転、磁壁の移動を邪魔する効果)が減少する。結晶性が不安定である場合と比べ、磁化過程がスムーズになるため、高透磁率化、つまり、低磁界で磁歪が立ち上がれるようになる。つまり、磁歪感受率が上昇するため、“磁場の変化に対して敏感”になったと言える。
【実施例】
【0061】
[第1実施例]
実施例1〜4、比較例1〜4について、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量を確認した。実施例1〜4、比較例1〜4の内訳は次の通りである。
【0062】
(実施例1)
第1製造方法(
図1参照)に従って実施例1に係る試験片を作製した。すなわち、FeとCoとを秤量してCoの比率が50原子%の合金素材を作製し、その後、プラズマアーク溶解装置(TIG−400F:東栄科学産業社製)を用いて、合金素材を水冷している銅ハース内で熔解、母合金を作製した。その後、母合金を水冷している銅ハース内で、1500℃/min以上3000℃/min以下の冷却速度で、冷却制御しながら、鋳造した。その後、鋳造合金を切り出して、縦×横×高さ=20mm×2mm×1mmの磁気特性評価用の実施例1に係る試験片を作製した。
【0063】
(実施例2〜4)
実施例2、3及び4は、Coの比率をそれぞれ60原子%、65原子%、70原子%の合金素材を用いたこと以外は、上述した実施例1と同様にして作製した。
【0064】
(比較例1)
上述した非特許文献5に示す方法により比較例1に係る試験片を作製した。すなわち、FeとCoとを秤量してCoの比率が50原子%の合金素材を作製し、合金素材を真空中で誘導電気炉により溶解し、さらに金属の型を用いて鋳造して母合金を作製した。その後、母合金を切り出して、縦×横×高さ=20mm×2mm×1mmの直方体を作製した後、この直方体を真空炉中で1050℃、1.5時間の熱処理を行って比較例1に係る試験片を作製した。
【0065】
(比較例2〜4)
比較例2、3及び4は、Coの比率をそれぞれ60原子%、65原子%及び70原子%の合金素材を用いたこと以外は、上述した比較例1と同様にして作製した。
【0066】
<評価>
実施例1〜4、比較例1〜4について、磁歪量は歪ゲージ法、磁気特性は振動試料型磁力計(VSM)を用いて分析、評価を行った。
【0067】
<評価結果>
実施例1〜4、比較例1〜4の評価結果を表3に示す。
【0068】
【表3】
【0069】
表3から、第1製造方法に従って作製した実施例1〜4はいずれも磁歪量が100ppm以上で良好であった。一方、非特許文献5の方法で作製した比較例1〜4のうち、比較例4は磁歪量が90ppmで良好であったが、他の比較例1、2及び3については磁歪量が低く、しかも、Coの比率によってばらつきが大きかった。実施例1〜4において、磁歪量が共に大きくなったのは、本発明による手段、すなわち、合金素材を溶解した後に、1500℃/min以上の冷却速度で急冷したことにより、(110)面の配向度が高くなったことによるものと考えられる。
【0070】
[第2実施例]
第1製造方法(
図1参照)にて作製した実施例5〜9、比較例5及び6について、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量、X線回折結果における上記式(1)にて表される(110)面の配向度、X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅の違いを確認した。実施例5〜9、比較例5及び6の内訳は次の通りである。
【0071】
(実施例5)
上述した実施例1と同様に、FeとCoとを秤量してCoの比率が50原子%の合金素材を作製し、その後、プラズマアーク溶解装置(TIG−400F:東栄科学産業社製)を用いて、合金素材を溶解後、1500℃/min以上の冷却速度で冷却制御しながら鋳造した。その後、鋳造合金を切り出して、縦×横×高さ=20mm×2mm×1mmの磁気特性評価用の実施例5に係る試験片を作製した。
【0072】
(実施例6〜9)
実施例6、7、8及び9は、Coの比率をそれぞれ55原子%、60原子%、65原子%、及び70原子%の合金素材を用いたこと以外は、上述した実施例5と同様にして作製した。
【0073】
(比較例5及び6)
比較例5及び6は、Coの比率をそれぞれ45原子%及び75原子%の合金素材を用いたこと以外は、上述した実施例5と同様にして作製した。
【0074】
<評価>
実施例5〜9、比較例5及び6に係る各試験片について、磁歪合金の結晶構造解析はX線回折法(XRD)、磁歪量は歪ゲージ法、磁気特性は振動試料型磁力計(VSM)を用いて分析、評価を行った。
【0075】
<評価結果>
実施例5〜9、比較例5及び6の評価結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
表4の結果から、FeとCoとからなり、且つ、Coの比率が50原子%〜70原子%の磁歪合金(実施例5〜9)については、X線回折結果における上記式(1)にて表される(110)面の配向度が19%以上でいずれも高く、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上であることがわかった。また、X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅は、0.38°〜0.40°であった。一方、比較例5及び6は共に、磁歪量が上述した比較例1、2及び3よりも高かったが、100ppm未満であった。
【0078】
従って、磁歪量で評価した場合の好ましいCoの比率は、50原子%以上70原子%以下がよく、好ましくは60原子%以上70原子%以下であることがわかる。
【0079】
[第3実施例]
第2製造方法(
図4参照)にて作製した実施例10〜14、比較例7及び8について、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量、X線回折結果における上記式(1)にて表される(110)面の配向度、X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅の違いを確認した。実施例10〜14、比較例7及び8の内訳は次の通りである。
【0080】
(実施例10)
第2製造方法に従って、FeとCoとを秤量してCoの比率が50原子%の合金素材を作製し、その後、プラズマアーク溶解装置(TIG−400F:東栄科学産業社製)を用いて、合金素材を水冷している銅ハース内で熔解、母合金を作製した。その後、母合金は水冷している銅ハース内で、1500℃/min以上の冷却速度で冷却ながら鋳造した。その後、鋳造合金を切り出して、縦×横×高さ=20mm×2mm×1mmの磁気特性評価用の試験片を作製した。そして、この試験片に対して、該試験片の融点の1/4の温度±40℃で24時間以上の熱処理を行った。
【0081】
(実施例11〜14)
実施例11、12、13及び14は、Coの比率をそれぞれ55原子%、60原子%、65原子%、及び70原子%の合金素材を用いたこと以外は、上述した実施例10と同様にして作製した。
【0082】
(比較例7及び8)
比較例7及び8は、Coの比率をそれぞれ45原子%及び75原子%の合金素材を用いたこと以外は、上述した実施例10と同様にして作製した。
【0083】
<評価>
実施例10〜14、比較例7及び8に係る各試験片について、磁歪合金の結晶構造解析はX線回折法(XRD)、磁歪量は歪ゲージ法、磁気特性は振動試料型磁力計(VSM)を用いて分析、評価を行った。
【0084】
<評価結果>
実施例10〜14、比較例7及び8の評価結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
表5の結果から、FeとCoとからなり、且つ、Coの比率が50原子%〜70原子%の磁歪合金(実施例10〜14)については、X線回折結果における上記式(1)にて表される(110)面の配向度が19%以上でいずれも高く、且つ、有効磁界H=1000Oeにおける磁歪量が100ppm以上であることがわかった。また、X線回折結果における(110)面のピーク波形の半値幅は、0.19°〜0.24°であり、上述した第1製造方法にて作製した実施例1〜7と比して半値幅が約40%も狭くなっており、結晶性が向上していることがわかる。一方、比較例7及び8は共に、磁歪量が上述した比較例1及び2よりも高かったが、100ppm未満であった。
【0087】
従って、磁歪量で評価した場合の好ましいCoの比率は、50原子%以上70原子%以下がよく、好ましくは65原子%以上70原子%以下であることがわかる。
【0088】
なお、本発明に係るFeCo系磁歪合金及びその製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0089】
ha…高さ Wa…半値幅