(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103754
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】磁気吸着壁構造及び磁気吸着壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04F 13/07 20060101AFI20170316BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
E04F13/00 Z
E04F13/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-286482(P2012-286482)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129648(P2014-129648A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110893
【氏名又は名称】ニチレイマグネット株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000201191
【氏名又は名称】前橋 清
(72)【発明者】
【氏名】前橋 清
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−245992(JP,A)
【文献】
特開平11−272217(JP,A)
【文献】
実開昭62−190009(JP,U)
【文献】
特開2005−254544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/07
E04F 13/02
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の壁下地の上に衝撃吸収層が形成され、該衝撃吸収層の上に磁性塗料が塗布され硬化することで磁性層が形成された磁気吸着壁構造であって、
前記衝撃吸収層は発泡塩ビシートから成り、
該衝撃吸収層の厚さは複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚みに形成可能であり、
衝撃吸収層を複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚さで試験体の下地としてのコンクリート歩道板に形成し該衝撃吸収層の上に磁性層を形成し高さ1mより1kgの鋼球を20回落下させても該コンクリート歩道板に割れが生じないこと、磁性層の厚みは0.2mm〜0.6mmであることを特徴とする磁気吸着壁構造。
【請求項2】
前記磁性塗料は、軟質磁性粉体が合成樹脂バインダーに分散され、合成樹脂バインダー100重量部に軟質磁性粉体300〜900重量部を分散して成ることを特徴とする請求項1記載の磁気吸着壁構造。
【請求項3】
既存の壁下地の上に衝撃吸収層を形成し、該衝撃吸収層の上に磁性塗料を塗布し硬化させて磁性層を形成する磁気吸着壁の施工方法であって、
前記衝撃吸収層は発泡塩ビシートから成り、
該衝撃吸収層の厚さは複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚みに形成可能であり、
衝撃吸収層を複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚さで試験体の下地としてのコンクリート歩道板に形成し該衝撃吸収層の上に磁性層を形成し高さ1mより1kgの鋼球を20回落下させても該コンクリート歩道板に割れが生じないこと、磁性層の厚みは0.2mm〜0.6mmであることを特徴とする磁気吸着壁構造の施工方法。
【請求項4】
前記磁性塗料は、軟質磁性粉体が合成樹脂バインダーに分散され、合成樹脂バインダー100重量部に軟質磁性粉体300〜900重量部を分散して成ることを特徴とする請求項3記載の磁気吸着壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁に人の体がぶつかった場合でも,その衝撃を吸収して怪我を防止すると共に,磁性層がマグネット部品を磁着する磁気吸着壁構造及び磁気吸着壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衝撃を吸収する塗料として,バインダー固形分100質量部と,水又は有機溶媒を内包するマイクロカプセル10〜50質量部からなることを特徴とする衝撃吸収特性に優れた塗料及び金属板が提案されている(特許文献1)。また樹脂塗料中に中空ビーズを含有したことを特徴とする衝撃吸収性粉体塗料が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−315760号公報
【特許文献2】特開平8−311370号公報
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の衝撃吸収特性に優れた塗料及び金属板は,自動車をはじめとする輸送機械の衝突時の衝撃吸収特性を向上させることを目的としているため,該塗料は有機溶剤を含んでいて高強度鋼板に塗布するような薄塗りの塗料であり,下地がコンクリートやコンパネ等の変形がほとんど無い建築物の壁下地に適用するものではなく、人の体がぶつかった場合に,その衝撃を吸収して怪我を防止するものでは無いという課題がある。
【0005】
特許文献2記載の衝撃吸収性粉体塗料は,建造物に塗布される粉体塗料ではあっても,衝撃吸収の目的は,石,枝,等の物体あるいは鳥のくちばし等があたって塗装の一部が損傷し,この衝突箇所から雨水等が侵入して,塗装内面(塗装材料と被塗装物の接触面)に錆を発生することの防止を目的としていて,特許文献1と同様に人の体がぶつかった場合に,その衝撃を吸収して怪我を防止するものでは無いという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、建造物の壁に人の体,特に高齢者が頭等をぶつけても,その衝撃を吸収して怪我の発生を防止するとともに,該壁にマグネット部品が磁着する磁気吸着壁構造及び磁気吸着壁の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、 既存の壁下地の上に衝撃吸収層が形成され
、該衝撃吸収層の上に磁性塗料が塗布され硬化することで磁性層が形成された磁気吸着壁構造であって
、
前記衝撃吸収層は発泡塩ビシートから成り
、
該衝撃吸収層の厚さは複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚みに形成可能であり、
衝撃吸収層を複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚さで
試験体の下地としてのコンクリート歩道板に形成
し該衝撃吸収層の上に磁性層
を形成
し高さ1mより1kgの鋼球を20回落下させても
該コンクリート歩道板に割れが生じないこと
、磁性層の厚みは0.2mm〜0.6mmであることを特徴とする磁気吸着壁構造を提供する。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記磁性塗料は
、軟質磁性粉体が合成樹脂バインダーに分散され
、合成樹脂バインダー100重量部に軟質磁性粉体300〜900重量部を分散して成ることを特徴とする
請求項1記載の磁気吸着壁構造を提供する。
【0010】
請求項3記載の発明は
、既存の壁下地の上に衝撃吸収層を形成し
、該衝撃吸収層の上に磁性塗料を塗布し硬化させて磁性層を形成する磁気吸着壁の施工方法であって
、
前記衝撃吸収層は発泡塩ビシートから成り
、
該衝撃吸収層の厚さは複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚みに形成可能であり、
衝撃吸収層を複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより3mm以上5mm以下で任意の厚さで
試験体の下地としてのコンクリート歩道板に形成
し該衝撃吸収層の上に磁性層を形成し高さ1mより1kgの鋼球を20回落下させても
該コンクリート歩道板に割れが生じないこと
、磁性層の厚みは0.2mm〜0.6mmであることを特徴とする磁気吸着壁構造の施工方法を提供する。
【0012】
請求項4記載の発明は
、前記磁性塗料は
、軟質磁性粉体が合成樹脂バインダーに分散され
、合成樹脂バインダー100重量部に軟質磁性粉体300〜900重量部を分散して成ることを特徴とする
請求項3記載の磁気吸着壁の施工方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る請求項1乃至請求項3記載の磁気吸着壁構造及び請求項4乃至請求項6記載の磁気吸着壁の施工方法によって形成される磁気吸着壁は,既存の壁下地の上に衝撃吸収層を形成するため,人の体,特に高齢者が頭等をぶつけても,該衝撃吸収層が衝撃を吸収して怪我を未然に防止する効果がある。
【0014】
また,衝撃吸収層の上には磁性層が形成されているため,該磁性層がマグネット部品を磁着させることができ,壁にマグネット部品等を磁着させて,様々な表示等をすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る磁気吸着壁構造を示す断面状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明に係る磁気吸着壁構造を実施するための形態について説明する。
図1は本発明に係る磁気吸着壁構造1の断面状態図であり,2は発泡塩ビシートから成る衝撃吸収層である。発泡塩ビシートである衝撃吸収層2はコンクリート,モルタル,石膏ボード,コンパネ等の壁下地10に接着剤を用いて貼着され,その上には,軟質磁性粉体が合成樹脂バインダーに分散された磁性塗料が塗布硬化した磁性層3が形成されている。衝撃吸収シートの厚さは3mm以上5mm以下が好ましく,3mm未満では衝撃吸収効果が不十分であり,5mm超ではコスト高となる。
【0017】
磁性塗料は,アクリル樹脂,ウレタン樹脂,アクリルウレタン樹脂,ポリエステル樹脂,アルキッド樹脂等の合成樹脂バインダー100重量部に対して,鉄粉,砂鉄粉,ソフトフェライト粉等の軟質磁性粉体300〜900重量部が分散され,市販の磁性塗料としては,マグネットペイント(商品名,ヨーロッパBV(オランダ)社製)がある。軟質磁性粉体が300重量部未満では,マグネット部品の磁着力がやや弱くなり,900重量部超では,磁性塗料としての塗布作業性が不良となる。磁性塗料が硬化後の磁性層の厚みは0.2mm〜0.6mmが好ましく,0.2mmより薄いとマグネット部品の磁着力が不十分であり,0.6mm超では塗布後にダレが生じたり,表面の平滑性が不良となり意匠性が劣る。
【0018】
前記発泡塩ビシートの市販品としては,フォーレックス(商品名,アクリサンデー株式会社製)があり,厚みは1mm,2mm,3mmおよび5mmがある。発泡塩ビシートは軽量なため(比重0.7)施工作業性が良好であり,他に難燃性,防音性,保温性,断熱性等の効果があり,複数枚の発泡塩ビシートを重ねて施工することにより,任意の厚みに形成することもできる。
【0019】
以下,実施例及び比較例にて本出願に係る磁気吸着壁構造について具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
表1に示す仕様にて実施例1乃至実施例3及び比較例1及び比較例2の磁気吸着壁構造の試験体を作製した。試験体の下地は,市販コンクリート歩道板(300×300×60mm)を使用し,衝撃吸収層には上記発泡塩ビシート フォーレックスを使用した。衝撃吸収層の厚みが1mm,2mm,3mm,5mmについては,当該厚みのフォーレックスを市販エポキシ樹脂接着剤で接着させ,衝撃吸収層の厚みが4mmの実施例2は2mmのフォーレックスを市販エポキシ樹脂接着剤で重ね貼りした。
【0021】
衝撃吸収層である発泡塩ビシートの表面は,磁性塗料の付着性を確保するため,サンドペーパー#180で目荒らしをし,該表面を真空掃除機で清浄にした後,市販の磁性塗料マグネットペイントを,0.2L/m
2塗布して硬化させ,これを4回繰り返して塗布乾燥させ磁性層を形成した。磁性塗料を塗布後23℃7日間養生後,衝撃吸収性,マグネット吸着性及び磁性層の付着性を評価した。
【0022】
【表1】
【0023】
〔評価項目及び評価方法〕
【0024】
〔衝撃吸収性〕
実施例1乃至実施例3及び比較例1及び比較例2の試験体を水平に保持し,高さ1mの高さより1kgの鋼球を落下させ,これを繰り返す。落下回数が10回以内でコンクリート歩道板が割れたものを×と評価し,10回以上20回までの落下でもコンクリート歩道板に割れが生じないものを○と評価した。
【0025】
〔マグネット吸着性〕
実施例1乃至実施例3及び比較例1及び比較例2の試験体を垂直状に保持し,多極着磁(極間2.5mm)を施した軟鉄との磁気吸着力65gf/cm
2異方性マグネットシート(3cm×3cm)を非磁性体に積層してなる自重70gfのマグネット部品を試験体表面に磁着させる。該マグネット部品が落下しないものを○と評価し,落下するものを×評価した。
〔磁性層の付着性〕
実施例1乃至実施例3及び比較例1及び比較例2の試験体の磁性層と衝撃吸収層との界面に市販カッターナイフの刃を入れ込み,磁性層が剥離するものを×とし,剥離しないものを○と評価した。
【0026】
〔総合評価〕
全ての項目が○評価のものを○とし,これ以外を×とした。
【0027】
〔評価結果〕
評価結果を表2に示す。
表2に示すように,すべての試験体でマグネット部品は磁着したが,衝撃吸収層の厚みが1mm,2mmの比較例1及び比較例2の衝撃吸収性は×評価であり,総合評価も×であった。
【0028】
【表2】
【符号の説明】
【0029】
1 磁気吸着壁構造
2 衝撃吸収層
3 磁性層
10 下地
20 黒板