【実施例】
【0011】
以下、図面と共に本発明によるシールボックスを使用した電縫鋼管の溶接方法の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を付して説明する。
図1において、符号5で示されるものはフォーミングスタンド出側20からのオープンパイプ1が挿入される全体形状が箱形のシールボックスであり、このシールボックス5内の流体には、その管入側可変部21から下流側にかけて、高周波加熱コイル22、スクイズロール23及び管出側可変部24が設けられている。
【0012】
前記管入側可変部21及び管出側可変部24は、ゴム、樹脂、耐熱フェルト等の柔軟材料で形成され、円状の内径が自在に変形できるように構成され、異なる外径寸法の管を通過させることができるように構成されている。
【0013】
前記シールボックス5の天板部5aには、その上流(入側)から下流(出側)へ向けて、フォーミングロール冷却水及び大気の流入を防止するための不活性ガスを供給するためのシールボックス入口ガス供給管30及びその第1噴出口30aと、溶接点11付近に不活性ガスを50L/min以上で吹付けるための溶接点ガス供給管31及びその第2噴出口31aが設けられている。また、天板部5aには、シールボックス5内の雰囲気を常に100ppm以下に保つためのシールボックス雰囲気調整用ガス供給管32及びその第3噴出口32a、シールボックス5内の酸素濃度を検知するための酸素濃度計33が配設されている。
さらに、シールボックス5内には、ボックス内の雰囲気を排出するための排気口(図示せず)を設けてもよい。
【0014】
前記シールボックス5内に位置して矢印Aの方向に連続走行しているオープンパイプ1と電縫鋼管6内には、その上流側から下流側へかけて、溶接時の加熱効率向上の機能を有したインピーダケース9内に設けられたインピーダ8、電縫鋼管6内の内面に生成するビードを切削するための内面ビード切削装置7が配置され、前記インピーダケース9と内面ビード切削装置7を接続するためのマンドレル
10、前記マンドレル
10の外側に配設され液体の不活性ガスによりインピーダ8と内面ビード切削装置7を連続的に冷却するための液体の不活性ガス供給管34及びその第4噴出口34aも設置され、前記第4噴出口34aの配設位置は、内面ビード切削装置7の手前に位置している。
従って、前述の構成によれば、フォーミングロールの冷却水及び大気の侵入を防止できること、インピーダ8の冷却及び内面ビード切削装置7を液体の不活性ガスにより冷却するため水蒸気の発生を皆無にすることが可能であり、
図3で示されるような酸化物欠陥であるペネトレータ割れ50の発生を零とすることができる。
また、前記インピーダ8を低温の液体
窒素ガスで冷却するため、連続製造中におけるインピーダ8の発熱を効果的に抑制でき、溶接効率の向上を図ることができる。
【0015】
次に、本出願人が実際に
図1の電縫鋼管のシールボックス溶接装置40を用いてガスシールド溶接を行った実施例1について述べる。
Si:1.0%、Mn:1.0%を含む外径30mm、肉厚5.0mmの電縫鋼管の製造に際し、
図1に示すシールボックス溶接装置40内の酸素濃度、溶接点11におけるガス流量、シールボックス入口におけるガス流量、雰囲気調整ガス流量、インピーダ8の冷却及び内面ビード切削装置7の冷却用のガス流量とペネトレータ割れ率の関係を調査した。なお溶接点ガス、シールボックス入口ガス、雰囲気調整ガスには気化したN
2ガスを用いた。
インピーダ8の冷却と内面ビード切削装置7の冷却には液体窒素を用い、その流量は、2〜12L/minとした。酸素濃度は10ppm〜21%まで変化、溶接点におけるガス流量は10〜280L/min、シールボックス入口におけるガス流量は10〜300L/min、シールボックス雰囲気調整ガス流量は0〜300L/minまでそれぞれ変化させ、造管速度20m/min、で製造した。酸素濃度21%とは、シールボックスを開放して大気中での造管を意味する。
評価方法は
図2に示すように溶接部分を圧縮方向に対して垂直の方向に置いて、へん平試験を行った。試験片は、それぞれの製造条件において、20本を採取し、それぞれ1mの試験片を採取して、ペネトレータ割れ率を測定した。ペネトレータ割れ率は、1mの試験片に占めるペネトレータ割れ長さを言う。
図3にへん平試験による代表的なペネトレータ割れの例を示す。
【0016】
【表1】
【0017】
表1に示すように、シールボックス内の酸素濃度のみを低下させた場合や、溶接点11におけるガス流量の増加のみでは、ペネトレータ割れを防止することができない。また、インピーダと内面ビード切削装置の冷却用に用いる液体の不活性ガス流量が5L/min未満の場合には、インピーダの発熱により溶接効率が低下し溶接不良(未溶接)が発生した。
本発明の条件、すなわちシールボックス入口のガス流量を100L/min以上で吹付け、雰囲気調整ガス流量を50L/min以上で導入し、かつ、溶接点11におけるガス流量を50L/min以上とし、インピーダ8と内面ビード切削装置7の冷却用の液体ガス流量を50L/min以上とし、かつ酸素濃度を100ppm以下に抑えることにより、健全な溶接が行えることとペネトレータ割れを皆無にすることが可能となる。
前述の表1のシールボックス5内の酸素によれば、10ppm〜80ppmの範囲であるが、さらなる実験の結果によれば、酸素濃度100ppmから20ppmまでは前述と同様の作用効果を得ることができた。
尚、表1において、ガス流量を増加させればペネトレータ割れ抑制が可能であるが、コスト上昇となるため、溶接点におけるガス流量を50L/min以上とシールボックス入口ガス流量を100L/min以上、シールボックス雰囲気調整ガス流量を50L/min以上として、インピーダ8と内面ビード切削装置7の冷却用の液体の不活性ガス流量を5L/min以上として、これらの合計であるトータルガス流量を400L/min以下とすることが最適であった。なお、液体の不活性ガスの種類は、特に限定しないが、大気圧において液体として取り出せるガスを使用する。