特許第6103856号(P6103856)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103856
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】電気自動車向け消火システム
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/07 20060101AFI20170316BHJP
   A62C 35/02 20060101ALI20170316BHJP
   H01M 2/10 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   A62C3/07 Z
   A62C35/02 A
   H01M2/10 F
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-181414(P2012-181414)
(22)【出願日】2012年8月20日
(65)【公開番号】特開2014-36780(P2014-36780A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】茨木 博
【審査官】 石川 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−247527(JP,A)
【文献】 特開2010−273925(JP,A)
【文献】 特開2009−142419(JP,A)
【文献】 特開2012−049038(JP,A)
【文献】 特開2009−211907(JP,A)
【文献】 特開2000−030739(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014348(WO,A1)
【文献】 特開平07−226232(JP,A)
【文献】 特開2011−254906(JP,A)
【文献】 特開2001−257006(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/161792(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 3/07
H01M 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単電池を密閉された収納容器に収納した蓄電装置の火災を検知して消火する電気自動車向け消火システムに於いて、
前記蓄電装置は、
前記収納容器外壁の所定位置を貫通して、当該収納容器の外側から着脱自在に配置され、前記収納容器内に位置する固形消火剤の燃焼により発生した消火用エアロゾルを前記収納容器内に位置する噴出口から噴出して消火する発煙消火部と、
前記収納容器外壁の、前記発煙消火部とは異なる位置を貫通して配置され、前記複数の単電池の少なくとも何れかの異常に伴う火災を検知する火災検知部と、
前記収納容器の外部に配置され、前記火災検知部により火災を検知した場合又は他の装置から点火制御信号を受信した場合に、前記固形消火剤に点火して燃焼させる消火制御部と、
を備えたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項2】
請求項1記載の電気自動車向け消火システムに於いて、前記発煙消火部は、
前記収納容器外壁の発煙消火部取付穴に対し、当該収納容器の外側から着脱自在に装着され、装着後に当該収納容器内の密閉を維持する消火部本体と、
前記消火部本体の一端に固定され、前記収納容器内に位置する先端側に前記消火用エアロゾルを噴出する噴出口を形成した消火部筐体と、
前記消火部筐体の内部に支持部材を介して浮いた状態に配置され、前記固形消火剤を収納した消火剤収納ケースと、
前記消火剤収納ケースに収納した固形消火剤に点火して燃焼させる点火部と、
前記固形消火剤の燃焼により噴出した前記消火用エアロゾルを、前記消火剤収納ケースから前記噴出口に導く煙道を形成する煙道構造と、
前記煙道に配置された火炎噴出防止部材と、
を備えたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項3】
請求項1記載の電気自動車向け消火システムに於いて、前記火災検知部は、
前記収納容器外壁の検知部取付穴に対し、当該収納容器の外側から着脱自在に装着され、装着後に当該収納容器内の密閉を維持する検知部本体と、
前記収納容器内に配置された検知素子部と、
前記検知素子部を、前記検知部本体を経由して外部に配置した前記消火制御部に接続する信号線と、
を備えたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項4】
請求項3記載の電気自動車向け消火システムに於いて、
前記検知素子部は、火災による熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線を短絡状態に接触させる熱感知ケーブル前記収納容器内に引き込まれて布設され
前記消火制御部は、前記熱感知ケーブルの短絡を検出した場合に、前記点火部により前記固形消火剤に点火して燃焼させることを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項5】
請求項4記載の電気自動車向け消火システムに於いて、前記熱感知ケーブルは、前記収納容器内に収納されて配列している全ての単電池の近傍を横切るように布設されたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項6】
請求項4記載の電気自動車向け消火システムに於いて、前記熱感知ケーブルは、前記信号線の一端が前記検知部本体内に設けた絶縁密閉部を介して前記収納容器内に引き込まれて布設されたものであることを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項7】
請求項3記載の電気自動車向け消火システムに於いて、前記消火制御部は、前記発煙消火部の固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、消火起動信号を他の装置へ出力することを特徴とすることを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【請求項8】
請求項1記載の電気自動車向け消火システムに於いて、
前記収納容器は、前記複数の単電池を収納した収納容器本体に収納容器蓋を装着して密閉され、
前記発煙消火部及び火災検知部は、前記収納容器蓋の側面外壁に形成した取付穴に密閉部材を介して装着されたことを特徴とする電気自動車向け消火システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置の収納容器内に収納した複数配列した単電池の異常に伴う火災を検知して消火する電気自動車向け消火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンや軽油を燃料としたエンジンを動力源とする自動車以外に、エンジンとモータを搭載したハイブリッド自動車が急増している。この背景には原油価格の上昇により、低燃費車の需要が増加したことや、環境負荷低減の意識向上によりCO2排出量の少ないハイブリッド自動車の需要が増加したことにある。さらに、このようなハイブリッド車に加え、電気モータのみを動力源とし、走行時のCO2排出量がゼロである電気自動車も徐々に普及が始まっている。
【0003】
ハイブリッド自動車や電気自動車(以下、総称して「電気自動車」と呼ぶ)の車体には、複数の単電池を配列して直列且つ並列接続した高電圧且つ大容量の蓄電装置が搭載されている。蓄電装置はセルと呼ばれる単電池を複数接続した組電池で構成されている。また蓄電装置に搭載する単電池は、従来のニッケル・水素の単電池から一般家庭でも充電が可能なリチウムイオンの単電池へ移行しており、今後も単電池の高性能化が期待されている。このような高性能で大容量蓄電装置の特性を利用して、電気料金が安価となる夜間に電気自動車を充電し、日中は電気自動車の動力源や生活用電源として使用するほか、災害等による停電時は、電気自動車の蓄電装置を生活用電源の代替として使用する事例も出ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−129009号公報
【特許文献2】特開2011−254906号公報
【特許文献3】特開2009−142419号公報
【特許文献4】特開2009−142420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような電気自動車は、従来のエンジン自動車に見られない車両火災が想定される。エンジン自動車は燃料タンクにガソリンや軽油を搭載しており、万が一、車両火災が発生した場合は、油火災として取扱い、油火災に対応した消火設備によって消火活動をおこなっている。具体的には、泡水溶液消火設備や水噴霧設備といった水系消火設備が主流であり、この他に消火器などの粉末消火設備やガス消火設備が車両火災に対応する消火設備として使用されている。しかし、現在普及が始まっている電気自動車は、単電池を複数接続した組電池で構成された高電圧の大容量の蓄電装置を搭載しており、蓄電装置に設けた単電池において、内部ショートや過充電等の種々の原因で熱暴走が起こった場合は、電池温度が著しく上昇し、その温度は数百度まで達する。そして電池温度が上昇すると、電池内部の圧力が上昇し、その結果、単電池の破裂や発火が起き、蓄電装置を火元とした車両火災となり、エンジン自動車とは異なる電気火災が発生する恐れがある。
【0006】
一方、建築物等に併設された駐車場は、泡水溶液消火設備や水噴霧設備といった水系消火設備が主流であり、電気自動車から生じる電気火災の消火には対応しておらず、それにもかかわらず電気自動車の入庫を制限する駐車場はほとんど見当たらない。また、一般住宅で電気自動車の充電や生活用電源代替設備として使用する際も、電気火災に対応した設備は住宅設備として持ち合わせていない。電気火災が発生した際に、従来の水系消火設備による消火活動は、火災消火或いは抑制するどころか、感電事故等の二次災害を誘発する危険性が高い。
【0007】
特許文献1は、ラミネートフィルムでパッキングされたリチウムイオン電池パックを収納する電池ケースにおいて、リチウムイオン電池パックを加圧するために、液体の消火剤を封入した加圧バッグが電池ケース内に備えられていることが開示されている。リチウムイオン電池に異常加熱があった場合は、リチウムイオン電池パックが膨張して加圧バッグを破裂させ、加圧バッグ内の液体消火剤が電池ケース内にばらまかれることによって、発火を抑制するものである。この場合、電池パックの発火を抑制することはできるが、引き続き電池パックの異常加熱が継続して発火した場合は、電池ケース内にばらまかれた消火剤は既に蒸発していると考えられ、消火を行うことができず、大きな車両火災へ発展してしまう可能性が高い。
【0008】
本発明は、蓄電装置の収納容器内に収納した複数配列した単電池の異常に起因した電気火災を自動検知して消火抑制すると共に、消火に使用する機器の蓄電装置に対する組付け配置を適切化を図るようにした電気自動車向け消火システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(電気自動車向け消火システム)
本発明は、複数の単電池を密閉された収納容器に収納した蓄電装置の火災を検知して消火する電気自動車向け消火システムに於いて、
蓄電装置は、
収納容器外壁の所定位置を貫通して、当該収納容器の外側から着脱自在に配置され、収納容器内に位置する固形消火剤の燃焼により発生した消火用エアロゾルを収納容器内に位置する噴出口から噴出して消火する発煙消火部と、
収納容器外壁の、前記発煙消火部とは異なる位置を貫通して配置され、複数の単電池の少なくとも何れかの異常に伴う火災を検知する火災検知部と、
収納容器の外部に配置され、火災検知部により火災を検知した場合又は他の装置から点火制御信号を受信した場合に、固形消火剤に点火して燃焼させる消火制御部と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
(発煙消火部)
発煙消火部は、
収納容器外壁の発煙消火部取付穴に対し、当該収納容器の外側から着脱自在に装着され、装着後に当該収納容器内の密閉を維持する消火部本体と、
消火部本体の一端に固定され、収納容器内に位置する先端側に消火用エアロゾルを噴出する噴出口を形成した消火部筐体と、
消火部筐体の内部に支持部材を介して浮いた状態に配置され、固形消火剤を収納した消火剤収納ケースと、
消火剤収納ケースに収納した固形消火剤に点火して燃焼させる点火部と、
固形消火剤の燃焼により噴出した消火用エアロゾルを、消火剤収納ケースから噴出口に導く煙道を形成する煙道構造と、
煙道に配置された火炎噴出防止部材と、
を備える。
【0011】
(火災検知部)
火災検知部は、
収納容器外壁の火災検知部取付穴に対し、当該収納容器の外側から着脱自在に装着され、装着後に当該収納容器内の密閉を維持する検知部本体と、
収納容器内に配置された検知素子部と、
検知素子部を、検知部本体を経由して外部に配置した消火制御部に接続する信号線と、
を備える。

【0012】
(熱感知ケーブル)
検知素子部は、火災による熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線を短絡状態に接触させる熱感知ケーブル収納容器内に引き込まれて布設され
消火制御部は、熱感知ケーブルの短絡を検出した場合に、点火部により固形消火剤に点火して燃焼させる。
【0013】
(熱感知ケーブルの布設)
熱感知ケーブルは、収納容器内に収納されて配列している全ての単電池の近傍を横切るように布設される。
また、熱感知ケーブルは、信号線の一端が検知部本体内に設けた絶縁密閉部を介して収納容器内に引き込まれて布設されたものである。
【0014】
(消火起動信号)
消火制御部は、発煙消火部の固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、消火起動信号を他の装置へ出力する。
収納容器は、複数の単電池を収納した収納容器本体に収納容器蓋を装着して密閉され、
発煙消火部及び火災検知部は、収納容器蓋の側面外壁に形成した取付穴に密閉部材を介して装着される。
【発明の効果】
【0015】
(基本的な効果)
本発明の電気自動車向け消火システムは、蓄電装置における収納容器外壁を貫通して、固形消火剤を収納した発煙消火部と、単電池の異常に伴う火災を検知する火災検知部とを配置し、消火制御部が火災検知部の検知信号により火災を検知した場合又は他の装置から点火制御信号を受信した場合に、発煙消火部の固形消火剤に点火し、固形消火剤の燃焼により発生した消火用エアロゾルを収納容器内に噴出して消火するようにしたため、蓄電装置に設けた単電池が、内部ショートや過充電、電気自動車の衝突事故などに伴う損壊等の種々の原因で熱暴走し、電池温度が著しく上昇し、その結果、単電池の破裂や発火が起きた場合に、単電池の異常に伴う電気火災を検知して発煙消火部から消火用エアロゾルを噴出し、電気火災を蓄電装置の収納容器内で消火抑制し、蓄電装置を火元として大きな自動車火災に拡大してしまうことを未然に防止することを可能とする。
【0016】
また、本発明の電気自動車向け消火システムは、収納容器外壁を貫通して発煙消火部と火災検知部を個別に配置し、これに外部に配置した消火制御部を信号線接続してシステム構成するようにしたため、発煙消火部と火災検知部を独立したユニットとして分離したことで、車種に応じて様々な構造をとる蓄電装置の収納容器に対し、収納容器内に消火用エアロゾルを適切に噴出可能な適切な位置を選択して発煙消火部を取付け配置することを可能とし、同様に、収納容器内に収納した単電池の異常に伴う火災を検知するために適切な位置を選択して火災検知部を取付け配置することを可能とし、消火システムを構成する機器となる発煙消火部、火災検知部及び消火制御部を電気自動車に実装する場合の自由度を高めることができる。
【0017】
また、発煙消火部、火災検知部及び消火制御部を分離したことで、各々を小型化することができ、それぞれの蓄電装置およびその周辺に対する配置スペースを最小限に抑えることを可能とする。
【0018】
また、発煙消火装置が蓄電装置の収納容器内に噴出する消火用エアロゾルは、固形消火剤を点火・燃焼させることによって発生し、消火用エアロゾルは2μm程度の微粒子であり、その主成分金属の酸化物、炭酸塩或いは燐酸塩或いはその混合物を含有する。具体的には、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどを主成分とし、これに窒素、二酸化炭素、水蒸気などが含まれ、水系消火剤を使用できない電気火災に好適な消火抑制ができる。
【0019】
また、蓄電装置の収納容器内は、外気から遮断された密閉空間であり、発煙消火装置から噴出した消火用エアロゾルは確実に収納容器内に滞留して外部に漏れ出すことはなく、単電池の異常で起きた収納容器内の電気火災を、確実に消火抑制することができる。
【0020】
(熱感知ケーブルによる効果)
また、火災検知部として例えば熱感知ケーブルを使用し、熱感知ケーブルは単電池の破裂や発火に伴う熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線を短絡状態に接触させることで火災を検知するため、温度センサなどを使用した場合に必要な火災を検知する閾値温度の設定や、閾値と検出温度の比較判断を不要とし、簡単且つ確実に、単電池の異常に伴う電気火災を検知して消火用エアロゾルを収納容器内に噴出し、消火抑制できる。
【0021】
(熱感知ケーブルの布設による効果)
また、熱感知ケーブルを蓄電装置の収納容器内に収納して配列している全ての単電池の近傍を横切るように布設するため、熱感知ケーブルの布設という簡単な構成により、全ての単電池の各々に対し、個別的に異常に伴う発火や破裂による火災を確実に検出して、消火用エアロゾルの収納容器内噴出による消火抑制ができる。
【0022】
(消火起動信号の外部出力)
また、消火制御部は、発煙消火部の固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、消火起動信号を外部に出力するため、例えば消火起動信号に基づき運転表示パネルに消火起動を表示して報知することを可能とする。
【0023】
(発煙消火装置の筐体構造による効果)
発煙消火部の筐体は、収納容器外壁の消火部取付穴に装着する消火部本体、噴射口を備えた消火部筐体、消火剤収納ケース、煙道構造、火炎噴出防止部材、点火部により構成しており、水系の消火装置に比べると、コンパクトで且つ軽量な消火装置とすることができ、蓄電装置の収納容器外壁を貫通して配置しても、蓄電装置の電気自動車への搭載スペースに大きく影響することはない。
【0024】
また消火に必要な消火用エアロゾルを得るための固形消火剤の重量は、例えば1立方メートル当たり80グラム〜200グラム程度となることが知られており、蓄電装置の収納容器内容積は、トラックやバスなどの大型電気自動車であっても、0.25立方メートル程度であり、これに必要な固形消火剤は20グラム〜50グラム程度であり、実際には、収納容器内に複数の単電池を配列して収納することから、実質的な収納容器内の空き容積はそれよりも更に小さく、必要な固形消火剤が少なくて済むため、コンパクトなサイズであっても、十分な消火抑制性能を確保することが可能である。
【0025】
また、必要とする固形消火剤の量が少なくて済むことで、固形消火剤を燃焼して消火用エアロゾルを発生しても、固形消火剤の燃焼による炎や発熱を少なくすることができ、単電池による電気火災を逆に煽ってしまうような不具合は起きない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による電気自動車向け消火システムの実施形態を示した説明図
図2】矩形箱形状の単電池を配列した図1の蓄電装置の分解組立て状態を示した説明図
図3図1の収納容器蓋を外して収納容器本体の内部を示した平面図
図4図3の単電池の電気接続を示した回路図
図5】発煙消火部を軸方向の断面で示した断面図
図6図5の噴出側から示した平面図
図7図5の消火部本体側から示した平面図
図8】発煙消火部の分解組立て状態を示した説明図
図9】熱感知ケーブルを用いた火災検知部を取出して示した説明図
図10】本発明による電気自動車向け消火システムの他の実施形態を示した説明図
図11】円筒形状の単電池を配列した図10の蓄電装置の分解組立て状態を示した説明図
図12】消火制御部における回路構成の実施形態を示した回路図
図13】発煙消火部を起動して消火エアロゾルを発生する状態を示した説明図
図14】複数の蓄電装置を搭載した場合の電気自動車向け消火システムの概略構成を示した説明図
図15図14の消火システムを含む電気自動車システムの概略を示したブロック図
【発明を実施するための形態】
【0027】
[電気自動車向け消火システムの構成]
図1は本発明による電気自動車向け消火システムを配置した蓄電装置を示した斜視図、図2は蓄電装置の分解組立て状態を示した説明図、図3は収納容器本体内を示した平面図である。
【0028】
(蓄電装置の概要)
図1図2及び図3に示すように、蓄電装置10は、上部に開口した箱型の収納容器本体11と、収納容器本体11の開口に装着してボルト13で固定した収納容器蓋12を備え、収納容器本体11と収納容器蓋12で蓄電装置10の収納容器を構成する。なお、蓄電装置10は、電池モジュール或いは電池パックとも呼ばれ、電気自動車には必要に応じて複数台を搭載する。
【0029】
収納容器本体11の長手方向の一端に位置する手前側の側壁には、蓄電装置10の正極出力端子14aと負極出力端子14bを取付けている。
【0030】
収納容器本体11の内部には、2組の組電池25を収納している。組電池25の各々には、扁平箱形状を持つ複数の単電池26を配列している。単電池26は、電池セルとして知られたリチウムイオン電池等の非水電解質二次電池であり、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成した扁平箱形状の外装容器に、非水電解液と共に電極体を備えている。単電池26の電極体は、例えば、正極板及び負極板をその間にセパレータを介在させて渦巻き状に捲回し、さらに、径方向に圧縮することにより、扁平な矩形状に形成している。単電池26の外装容器の上端には、正極端子26a及び負極端子26bを設けている。
【0031】
2組の組電池25の各々には例えば10個の単電池26を配列して直列接続しており、更に2組の組電池25を直列接続している。ここで、リチウムイオン電池の平均セル電圧を例えば3.6ボルトとすると、図4の回路図に示す20個の単電池26について、各組電池25は10個の単純電池26を直列接続することで電圧は36ボルトとなり、更に、2組の組電池25を直列接続することで、蓄電装置10の正極出力端子14aと負極出力端子14bの電圧は72ボルトとなる。なお、単電池26の数は、必要とする組電池の必要電圧に対応した数とする。また、複数の単電池26の接続は、所定数の単電池を並列接続した組電池とし、この組電池を複数直列接続しても良い。
【0032】
(電気自動車向け消火システムの概要)
図1図2及び図3に示すように、本発明の電気自動車向け消火システムは、発煙消火部16、火災検知部18及び消火制御部15で構成する。
【0033】
発煙消火部16は、蓄電装置10における例えば収納容器蓋12の側面外壁に形成した消火部取付穴12aを貫通して先端側を収納容器内に配置し、固形消火剤の燃焼により発生した消火用エアロゾルを収納容器内に噴出して消火する。なお、以下の説明では、発煙消火部16を収納容器に配置した状態で、容器内側を前方又は先端といい、容器外側を後方または後端という。
【0034】
火災検知部18は、蓄電装置10における例えば収納容器蓋12の側面外壁に形成した検知部取付穴12bを貫通して配置し、収納容器内に検知素子部として機能する熱感知ケーブル32を引き出して布設している。熱感知ケーブル32は、ビニールなどの樹脂で絶縁被覆した2本の撚られた信号線であり、2本の信号線の間に消火制御部15から電圧を印加しており、火災による熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線が短絡状態に接触し、感知電流が流れることで火災を検知する。また、火災検知部18から収納容器内に引き出された熱感知ケーブル32は、図3に示すように、収納容器本体11に収納している全ての単電池26の直上を通過するように布設し、単電池26の各々の異常に伴う火災による熱を検知可能としている。
【0035】
消火制御部15は、蓄電装置10における収納容器とは別に設けられ、収納容器蓋12に配置した発煙消火部16及び火災検知部18から引き出した信号線52,54をコネクタ接続しており、また車両制御装置などの外部装置に接続する信号線55、56を引き出している。ここで、信号線55は外部装置へ消火起動信号を出力し、信号線56は外部装置から点火制御信号を入力するために使用する。
【0036】
消火制御部15は、火災検知部18から収納容器内に布設した熱感知ケーブル32の火災の熱による短絡から火災を検知した場合、又は信号線56により車両制御装置などの外部装置から点火制御信号を受信した場合に、信号線52を介して発煙消火部16の点火部に点火信号を出力し、点火部として機能するヒータの通電加熱により固形消火剤に点火して燃焼させ、消火用エアロゾルを収納容器内に噴出して消火する。
【0037】
また、消火制御装置15は、発煙消火部16で固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、信号線55を介して消火起動信号を車両用制御装置側へ出力し、運転表示パネルなどに消火システムの起動を表示することを可能とする。
【0038】
[発煙消火部の構成]
図5は発煙消火部の外観を示した斜視図、図6は発煙消火部を噴出口側から示した平面図、図7は発煙消火部を消火部本体側から示した平面図、及び図8は発煙消火部の分解組立て状態を示した説明図である。
【0039】
図5図6図7及び図8に示すように、本実施形態の発煙消火部16は、消火部本体20、消火部筐体22、消火剤収納ケース36、固形消火剤38、点火部として機能するヒータ40、及び火炎噴出防止部材46で構成している。
【0040】
消火部本体20は、嵌合部20aに続いてねじ部20bを形成し、続いてボルトヘッド20cを形成し、その外側にねじ部20dを形成したコネクタ30を設けている。消火部本体20は、ねじ部20bを、図2に示したように、例えば収納容器蓋12の外壁に設けた消火部取付穴12aに、パッキンを介してねじ込むことで、発煙消火部16を蓄電装置10の収納容器外壁を貫通して固定する。
【0041】
消火部筐体22は、消火部本体20側となる後端に開口し、容器内となる先端側に閉じた円筒体で、内部に円筒空洞20aを形成しており、図6に示すように、先端面に複数の噴出口28を開口し、後端開口を消火部本体20の嵌合部20aに例えば圧入して固定する。
【0042】
消火剤収納ケース36は、消火部本体20側となる後方に開口し、容器内となる先端側に閉じた円筒体であり、内部に円筒空洞36aを形成している。消火剤収納ケース36の消火部本体20側の後端部は、後方に延在した後に外側に屈曲して一対の支持片35を形成し、消火部筐体22内に支持片35の先端を当接し、これにより消火部筐体22の内部に浮いた状態で消火剤収納ケース36を支持している。また消火剤収納ケース36は、一対の支持片35の延在に伴い、支持片35に直交した後方側面に一対の矩形開口36bを形成している。
【0043】
消火剤収納ケース36の噴出口28を形成した先端側には、一対の支持部材34を溶接で固定して軸方向に延在し、消火部筐体22の先端内側に支持部材34の先端屈曲部を当接し、これにより消火部筐体22を内部に浮いた状態で消火剤収納ケース36を支持している。
【0044】
このような消火剤収納ケース36の支持構造は、消火部筐体22に対する接触を最小限に抑え、固形消火剤38の燃焼による熱が外側の消火部筐体22及び消火部本体20に伝わり難い空気層を介在した断熱構造としている。
【0045】
ここで、消火部本体20、消火部筐体22、消火剤収納ケース36及び支持部材34は、固形消火剤38の燃焼により消火用エアロゾルを発生することから、固形消火剤38の燃焼による熱に耐える構造とするため金属材料で作られている。
【0046】
消火剤収納ケース36の内部には円柱形状の固形消火剤38を収納し、固形消火剤38に対しては点火部として機能するヒータ40を埋込み配置し、ヒータ40に通電して加熱することにより固形消火剤38に点火して燃焼させる。
【0047】
本実施形態で使用する固形消火剤38は、燃焼により消火用エアロゾルを発生する。消火用エアロゾルは、2μm程度の超微粒子であり、その主成分は金属の酸化物、炭酸塩あるいは燐酸塩あるいはその混合物含有している。
【0048】
具体的は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどを主成分とし、これに窒素、二酸化炭素、水蒸気などが含まれている。このような主成分を持つ消火用エアロゾルにあっては、消火用エアロゾルそのものに毒性がなく、環境に優しい発生ガスということができる
【0049】
固形消火剤38の燃焼により発生した消火用エアロゾルによる消火作用は、蓄電装置の収納容器内を消火用エアロゾルで満たすことで、火災の発生により燃焼している燃焼の活性中心を消滅、抑制する作用により消火を行うものであり、水系消火剤を使用することのできない電気火災に好適な消火作用が得られる。
【0050】
また固形消火剤38の量は蓄電装置の収納容器内の容積に応じて決まる。閉鎖空間となる消火対象エリア1立方メートル当たりを消火するに必要な消火用エアロゾルを発生するための固形消火剤38の重量は、80グラム〜200グラム程度であり、これに基づき、消火対象とする蓄電装置の収納容器内の容積に応じた量の固形消火剤38を消火剤収納ケース36に収納している。
【0051】
本実施形態の発煙消火部16が消火対象とする電気自動車向け蓄電装置の収納容器内容積は、例えば0.1立方メートル〜0.25立方メートル程度であり、これに複数の単電池で構成した組電池を収納することから、実際の空きスペースの容積は更に小さなものとなる。例えば蓄電装置の収納容器内容積を0.1立方メートルとした場合に必要な固形消火剤の重量は8グラム〜20グラムとなり、また0.25立方メートルとした場合に必要な固形消火剤の重量は20グラム〜50グラムとなる。
【0052】
発煙消火部16の大きさは、必要とする固形消火剤38の重量で決まり、最大でも50グラム以下で済むことから、この程度の重量の固形消火剤38を収納する発煙消火部16は、図1に示したように、例えば収納容器蓋12の外壁に貫通配置できる程度の十分な小型化が可能となる。
【0053】
固形消火剤38を収納した発煙消火部16の内部には、消火剤収納ケース36の後端側面の矩形開口36bからその周囲を通って先端の噴出口28へ至る煙道44を形成している。このように後端から先端に回りこむ煙道44の形成は、固形消火剤38と噴出口28との距離を離し、且つ炎の出る向きと噴出口28が同一方向とならないよう煙道44を屈曲させた構成とし、固形消火剤38の燃焼による炎が噴出口28から蓄電装置の収納容器内に吹き出さないようにしている。
【0054】
また固形消火剤38による炎の噴出を更に効果的に防止するためには、必要に応じて煙道44の途中に、金網などの消火用エアロゾルだけを通過するような火炎噴出防止部材46を配置することが望ましい。本実施形態では、消火剤収納ケース36の後端側の矩形開口36bの内側に火炎噴出防止部材46を配置している。
【0055】
火炎噴出防止部材46の具体例としては、ガラスや磁器などの細径パイプを複数並べて炎の噴出しを抑制する構造、複数の金網を分離配置して炎の噴出しを抑制する構造、ガラスや磁器などのボールを複数配置して炎の噴出しを抑制する構造、更には複数の金網の間にガラスや磁器などのボールを複数配置して炎の噴出しを抑制する構造などがある。
【0056】
[火災検知部の構成]
図9は、検知素子部として熱感知ケーブルを用いた火災検知部を示した説明図である。
【0057】
図9に示すように、火災検知部18は、検知部本体48と熱感知ケーブル32で構成する。検知部本体48は、ねじ部48aに続いてボルトヘッド48bを形成し、その外側にねじ部48cを形成したコネクタ50を設けている。検知部本体18は、ねじ部48aを、図2に示したように、例えば収納容器蓋12の外壁に設けた検知部取付穴12bに、パッキンを介してねじ込むことで、火災検知部18を蓄電装置10の収納容器外壁に固定する。
【0058】
熱感知ケーブル32は、ビニールなどの樹脂で絶縁被覆した2本の撚られた信号線であり、信号線の一端を2芯のコネクタ50の端子に接続した状態で検知部本体48内に設けた絶縁密閉部を介してネジ部48a側に信号線を引き出し、図3に示したように、収納容器本体11に収納している全ての単電池26の直上を通過するように布設し、単電池26の各々の異常に伴う火災による熱を検知可能としている。
【0059】
熱感知ケーブル32は、2本の信号線の間に消火制御部15から電圧を印加しており、火災による熱を受けた場合の絶縁被覆の溶融により一対の信号線が短絡状態に接触し、感知電流が流れることで火災を検知する。
【0060】
[円筒形状の単電池を用いた蓄電装置]
図10は、円筒形状の単電池を収納した蓄電装置を対象として本発明の電気自動車向け消火システムを配置した他の実施形態を示した斜視図、図11図10の蓄電装置の分解組立て状態を示した説明図である。
【0061】
図10及び図11に示すように、蓄電装置100は、上部に開口した箱型の収納容器本体101と、収納容器本体101の開口に装着してボルト103で固定した収納容器蓋102を備え、収納容器本体101と収納容器蓋102で蓄電装置100の収納容器を構成する。収納容器本体101の長手方向の一端に位置する手前側の側壁には、蓄電装置100の正極出力端子104aと負極出力端子104bを取付けている。
【0062】
収納容器本体101の電池収納部105には、組電池125を二組収納している。組電池125は、複数の電池収納区画105aを備えた電池収納箱105に、円筒形状を持つ複数の単電池126を配列している。単電池126は、電池セルとして知られたリチウムイオン電池等の非水電解質二次電池であり、例えば、アルミニウムまたはアルミニウム合金で形成した円筒形状の外装容器に、非水電解液と共に電極体を備えている。単電池126の電極体は、例えば、正極板及び負極板をその間にセパレータを介在させて渦巻き状に捲回すことにより、円筒形状に形成している。単電池126の外装容器の上端は正極端子となり、下端は負極端子となる。
【0063】
組電池125の各々は、例えば24区画に分けた電池収納箱105の内の12区画を電池収納区画105aに使用し、12個の単電池126を配列して直列接続している。ここで、リチウムイオン電池の平均セル電圧を例えば3.6ボルトとすると、12個の単電池126の直列接続により、組電池125の電圧は43.2ボルトとなり、2つの組電池125を直列接続することで、蓄電装置100の正極出力端子104aと負極出力端子104bの電圧も86.4ボルトとなる。なお、単電池126の数は、必要とする組電池の必要電圧に対応した数とする。
【0064】
図10及び図11に示すように、本実施形態の電気自動車向け消火システムは、図1及び図2に示した実施形態の場合と同様に、発煙消火部16、火災検知部18及び消火制御部15で構成している。
【0065】
発煙消火部16は、蓄電装置100における例えば収納容器蓋102の側面外壁に形成した消火部取付穴102aを貫通して先端を収納容器内に配置し、固形消火剤の燃焼により発生した消火用エアロゾルを収納容器内に噴出して消火する。火災検知部18は、蓄電装置100における例えば収納容器蓋102の側面外壁に形成した検知部取付穴102bを貫通して配置し、収納容器内に検知素子部として機能する熱感知ケーブル32を引き出して布設している。
【0066】
消火制御部15は、蓄電装置100における収納容器の外部に配置され、収納容器蓋102に配置した発煙消火部16及び火災検知部18から引き出した信号線52,54をコネクタ接続しており、また車両制御装置などの外部装置に接続する信号線55、56を引き出している。
【0067】
消火制御部15は、火災検知部18から収納容器内に布設した熱感知ケーブル32の火災の熱による短絡から火災を検知した場合、又は信号線56により車両制御装置などの外部装置から点火制御信号を受信した場合に、信号線52を介して発煙消火部16の点火部に点火信号を出力し、点火部として機能するヒータの通電加熱により固形消火剤に点火して燃焼させ、消火用エアロゾルを収納容器内に噴出して消火する。
【0068】
また、消火制御装置15は、発煙消火部16で固形消火剤に点火して燃焼させた場合に、信号線55を介して消火起動信号を車両用制御装置側へ出力し、運転表示パネルなどに消火システムの起動を表示することを可能とする。
【0069】
なお、発煙消火部16、火災検知部18及び消火制御部15の詳細は、図5図9の場合と同様であることから、説明を省略する。
【0070】
[消火制御部の構成]
図12は、消火制御部における回路構成の実施形態を示した回路図である。図12に示すように、消火制御部15は、信号線54により火災検知部の熱感知ケーブル32を接続し、信号線52により発煙消火部のヒータ40を接続し、信号線56により点火制御信号を入力し、信号線55により消火起動信号を出力し、更に電源線58を接続している。なお、点火制御信号を入力する信号線56は通常監視状態で開放状態にあり、点火制御信号を入力する場合は、短絡状態となる。
【0071】
消火制御部15には、トランジスタ68、リレー70、抵抗62,64,66を備えたヒータ駆動回路を設ける。トランジスタ68は、抵抗62,64の分圧電圧を、抵抗66を介してベースに印加しており、熱感知ケーブル32には抵抗62,64を介して電源電圧を常時、印加している。ここで、通常監視状態でトランジスタ68はオフであり、また熱感知ケーブル32の一方の信号線には電源電圧のみが印加されるだけで電流は流れておらず、消火制御部15の消費電量は漏れ電流などに起因した極く僅かな消費電流だけである。
【0072】
トランジスタ68はPNPトランジスタであり、コレクタ側に負荷としてリレー70を接続しており、通常監視状態にあっては、熱感知ケーブル32は2本の信号線のビニールなどによる絶縁被覆で開放状態にあることから、電源ラインから電流は流れず、トランジスタ68はエミッタ・ベース間の電圧が0ボルトであることからオフ状態となっている。
【0073】
リレー70は、その常開リレー接点74を介してヒータ40を接続している。また、リレー70の常開リレー接点72をトランジスタ68のエミッタ・コレクタ間に接続し、ラッチ回路を形成している。更に、信号線55を接続した端子間に消火起動信号を出力するためのリレー接点76を接続している。
【0074】
蓄電装置に収納した単電池の異常発熱に伴う火災の熱を受けて熱感知ケーブル32の絶縁被覆であるビニールが溶け、2本の信号線が接触状態になると、抵抗62、64及び信号線52を介して熱感知ケーブル32に電流が流れる。このため、抵抗62に生ずる電圧によりトランジスタ68のエミッタ・ベース間にバイアス電圧が加わり、これによってトランジスタ68がオンしてリレー70を作動する。
【0075】
リレー70が作動すると常開リレー接点74が閉じ、信号線52を介して図5に示した発煙消火部16のヒータ40に通電し、ヒータ40の通電による加熱で固形消火剤38に点火し、固形消火剤38の燃焼により消火用エアロゾルを発生して、噴出口28から蓄電装置の収納容器内に消火用エアロゾルを噴出させる。
【0076】
またリレー70の作動によりリレー接点72が閉じることで、リレー70を作動状態にラッチし、これによって、熱感知ケーブル32の短絡状態の変動による誤動作を防ぐようにしている。
【0077】
更に、リレー接点76が閉じることで、信号線55を介して外部に対し消火動作が行われたことを示す消火起動信号を出力する。本実施形態の消火制御部15からの消火起動信号は、車両制御装置へ送られ、運転表示パネルに電池火災に対する消火装置の起動を表示して知らせる。
【0078】
一方、運転者の操作や衝突事故検知などに基づき、例えば車両制御装置側から点火制御信号が入力されると、信号線56は短絡状態となり、熱感知ケーブル32により火災検知した場合と同様に、抵抗62、64を介して信号線56に電流が流れてトランジスタ68がオンし、リレー70の作動で常開リレー接点74が閉じて信号線52を介してヒータ40に通電し、加熱で固形消火剤38に点火し、固形消火剤38の燃焼により消火用エアロゾルを発生して、噴出口28から蓄電装置の収納容器内に消火用エアロゾルを噴出させる。
【0079】
[発煙消火部の動作]
図13は発煙消火部の動作を示した説明図である。図13に示すように、発煙消火部16は、消火部本体20を収納容器蓋12における側面外壁の消火部取付穴にねじ込み固定することで、先端の消火部筐体22を収納容器内に配置しており、外部のコネクタ30にはプラグ31により消火制御部15からの信号線52を接続している。
【0080】
図3に示したように、蓄電装置の収納容器内に布設した熱感知ケーブル32の火災による短絡状態を検知した場合、又は外部から点火制御信号が入力した場合、図12に示した消火制御部15が信号線52に点火信号を出力し、ヒータ40を通電加熱して固形消火剤38に点火し、固形消火剤38が燃焼して消火用エアロゾルを発生する。
【0081】
固形消火剤38の燃焼により発生した消火用エアロゾルは、消火剤収納ケース36の後方の切欠開口36bから火炎噴出防止部材46を介して噴き出した後、周囲の空洞である煙道44を通って前方に移動し、発煙消火部16の先端に形成した噴出口28から蓄電装置の収納容器内の空間に消火用エアロゾル78を噴出し、収納容器内を消火用エアロゾル78で満たし、単電池26の異常による電気火災を消火抑制する。
【0082】
この場合、固形消火剤38による燃焼の炎は消火剤収納ケース36の後方に噴き出しており、また、火炎噴出防止部材46が炎の吹き出しを抑制しているため、炎が前方に折り返している煙道44を迂回して噴出口28から蓄電装置の収納容器内に噴き出すようなことはない。また固形消火剤38の燃焼により消火剤収納ケース36が加熱されるが、消火部筐体22及び消火部本体20に対する接触は支持部材34及び支持片35により、ほぼ浮動状態に支持して接触部分が少ない断熱構造としているため、熱伝導による外側の消火部筐体22及び消火部本体20の温度上昇を抑制し、発煙消火部16の過熱が火災の要因となることを防止する。
【0083】
(電気自動車システムの概要)
図14は複数の蓄電装置を搭載した場合の電気自動車向け消火システムの概略構成を示した説明図である。
【0084】
図14に示すように、この例では、電気自動車に4台の蓄電装置10を搭載した場合を例にとっており、蓄電装置10の各々に、発煙消火部16と火災検知部18を設け、消火制御装置150に設けた4台分の消火制御部15の各々に、信号線52,54により接続している。また消火制御部15の各々には、上位装置から点火制御信号を入力する信号線56と、上位装置へ消火起動信号を出力する信号線55を接続している。
【0085】
図15図14の消火システムを含む電気自動車システムの概略を示したブロック図であり、ハイブリッド自動車を例にとっている。
【0086】
図15に示すように、電気自動車システムは、モータジェネレータ80,インバータ装置82、車両制御装置90、および蓄電装置10を備える。なお、蓄電装置10は図14の4台の蓄電装置10を並列接続しており、その内の両側の2台を取出して示している。
【0087】
モータジェネレータ80は、例えば三相交流機である。モータジェネレータ80は、車両の力行時(駆動走行時)及び内燃機関であるエンジンを始動する時など、回転動力が必要な運転モードでは、モータ駆動し、発生した回転動力を車輪及びエンジンなどの被駆動体に供給する。この場合、モータジェネレータ80に、蓄電装置10からインバータ装置82を介して、直流電力を三相交流電力に変換して供給する。
【0088】
また、モータジェネレータ80は、車両の減速、制動などの回生、及び蓄電装置10の充電が必要な場合などの、発電が必要な運転モードでは、車輪或いはエンジンからの駆動力によって駆動し、ジェネレータとして三相交流電力を発生させる。この場合、モータジェネレータ80からの三相交流電力を、インバータ装置82を介して直流電力に変換し、蓄電装置10に供給し、電力を蓄積する。
【0089】
蓄電装置10は、例えば二組の組電池25を備え、組電池25を収納した収納容器には、例えば図2に示したように、複数の単電池26を電気的に直列に接続し、更に二組の組電池25を直列接続している。
【0090】
また蓄電装置10には、バッテリー制御部88とセル制御部86を設けている。バッテリー制御部88は、蓄電装置10の状態を管理及び制御すると共に、上位制御装置である車両制御装置90やインバータ装置82の制御部に蓄電装置10の状態や許容充放電電力などの充放電制御指令を通知する。バッテリー制御部88による蓄電装置10の状態の管理及び制御には、バッテリー電圧及び電流の計測、蓄電状態及び劣化状態などの演算、各組電池25の温度の計測、セル制御部86に対するセル電圧を計測するための指令、セル蓄電量を調整するための指令などの出力などがある。
【0091】
セル制御部86は、バッテリー制御部88からの指令によって複数の単電池(セル電池)の状態の管理及び制御を行う単電池毎に設けた複数の集積回路によって構成する。複数の単電池の状態の管理及び制御には、各単電池の電圧の計測,各単電池の蓄電量の調整などがある。
【0092】
断接部84は、リレー機構を備え、電気自動車システムの起動時には蓄電装置10とインバータ装置82との間を導通し、電気自動車システムの停止時及び異常時には蓄電装置10とインバータ装置82との間を遮断する。
【0093】
ここで、断接部84、セル制御部86及びバッテリー制御部88は、図1に示した蓄電装置10及び消火制御部15とは別に設けた制御装置の収納容器内に配置し、この制御装置を蓄電装置10及び消火制御部15と共に電気自動車の電池搭載場所に配置している。
【0094】
蓄電装置10には、発煙消火部16と火災検知部18を設け、それぞれ信号線52,54により消火制御装置150に接続している。消火制御装置150は、4台分の消火制御部15(両側の2つを示す)を備え、発煙消火装置16及び火災検知部18からの信号線52、54を接続する。また、バッテリー制御装置88との間を、点火制御信号を入力する信号線と消火起動信号を出力する信号線で接続している。このため消火制御装置150に内蔵した消火制御部15は、運転者の操作や衝突検知などに基づき車両制御装置90が出力した点火制御信号を、バッテリー制御装置88を経由して入力し、また、バッテリー制御部88を介して消火起動信号を車両制御装置90へ送信し、運転表示パネルに消火起動を表示可能としている。
【0095】
[本発明の変形例]
上記の実施形態にあっては、扁平な矩形箱状又は円筒形状の外装容器の単電池を収納容器内に複数配置しているが、ラミネート型の単電池(フィルム外装電池)を収納容器内に複数配置した蓄電装置についても、その収納容器に発煙消火部及び火災検知部を設け、消火制御部を信号線接続することで、同様に適用できる。
【0096】
また、上記の実施形態にあっては、蓄電装置の収納容器に対し1つの発煙消火部を設けているが、必要に応じて、複数の発煙消火部を設けて、消火能力を高めるようにしても良い。
【0097】
また、上記の実施形態では、発煙消火部を、収納容器蓋の側面外壁に設けた消火部取付穴に貫通配置しているが、収納容器本体の外壁に同様に貫通配置しても良いし、また、外壁側面ではなく、外壁平面から下向きに貫通配置してもよく、外壁に対する貫通配置は必要に応じて適宜の場所と方向とする。
【0098】
また、消火制御部の回路構成は、上記の実施形態に限定されず、火災を検知して固定消火剤に点火する回路機能、外部から点火制御信号を入力して固形消火剤に点火する回路機能、及び消火起動信号を外部に出力する回路機能を備えれば、適宜の回路とすることができる。
【0099】
また、上記の実施形態は、単電池の異常に伴う火災を検知する火災検知部として熱感知ケーブルを設けているが、これ以外に、熱電対、サーミスタ等の温度センサ、レーザパルス光を入射した場合の後方散乱光の強度から温度測定する光ファイバーセンサなどの適宜の火災検知部を設けても良い。
【0100】
また、本実施形態の蓄電装置に組み込む単電池は、電池容器内のガス圧異常により作動してガスを排出するガス排出弁を設けている場合があり、これに伴い蓄電装置に単電池の異常に伴い噴出した一酸化炭素ガスなどの有毒ガスを排ガスする排ガス機構、例えば収納容器内圧が所定値以上の場合に開放する逆止弁を備えている場合があるが、発煙消火部から蓄電装置の収納容器内に消火用エアロゾルを噴出しても、収納容器内の内圧は排ガス機構を作動する圧力までは上昇せず、消火用エアロゾルが外部に漏れ出して消火効果が下がることはない。
【0101】
また、上記の実施形態で消火制御部は、外部から点火制御信号によっても固形消火剤に点火して消火用エアロゾルを発生させているが、これは行わず、熱感知ケーブル等の火災検知部による火災検知のみで固形消火剤に点火して消火用エアロゾルを発生させるようにしても良い。
【0102】
また、上記の実施形態は、ハイブリッド自動車の電気自動車システムを例にとるものであったが、電気モータのみを動力源とする電気自動車の電気自動車システムについても、同様に適用可能である。
【0103】
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0104】
10,100:蓄電装置
11,101:収納容器本体
12,102:収納容器蓋
14a,104a:正極出力端子
14b,104b:負極出力端子
15:消火制御部
16:発煙消火部
18:火災検知部
20:消火部本体
22:消火部筐体
25,125:組電池
26,126:単電池
28:噴出口
30,50:コネクタ
32:熱感知ケーブル
34:支持部材
35:支持片
36:消火剤収納ケース
38:固形消火剤
40:ヒータ
44:煙道
46:火炎噴出防止部材
48:検知部本体
68:トランジスタ
70:リレー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15