(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103882
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ハット形鋼
(51)【国際特許分類】
E04C 3/32 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
E04C3/32
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-236263(P2012-236263)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-84675(P2014-84675A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鐵住金建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【弁理士】
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 治彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 英行
【審査官】
金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−542412(JP,A)
【文献】
実開平02−149041(JP,U)
【文献】
特開昭61−207758(JP,A)
【文献】
特開2001−123638(JP,A)
【文献】
特開平10−205058(JP,A)
【文献】
米国特許第06360510(US,B1)
【文献】
米国特許第04840004(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/32
E04F 13/073
E04F 13/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面材を取り付けるために用いられるハット形鋼であって、
建物の内部構造材の屋外側に当接する上フランジと、該上フランジの両端部から屋外側へほぼ直角に屈曲連設され所定の部位から幅広に傾斜する一対のウエブと、該一対のウエブの先端から外方へ屈曲連設され前記面材の内側面に当接する一対の下フランジとで断面ハット状に形成されていることを特徴とする、ハット形鋼。
【請求項2】
板厚が2.3〜4.5mm、上フランジ幅が75〜200mm、ウエブ長が全体で、50〜150mm、該ウエブの傾斜部の下フランジ面に対する傾斜角度が5〜81度、下フランジ幅が30〜100mmであることを特徴とする、請求項1に記載したハット形鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の内部構造材(柱材、梁材、母屋、横桟等)の屋外側に固定され、外壁パネル、屋根パネル(デッキプレート含む。)などの各種面材を取り付けるために用いられる下地材の技術分野に属し、更にいえば、断面形状に工夫を施したハット形鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外壁パネル等の面材を取り付けるために用いられる下地材(胴縁)に関する発明は、種々開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで、このような胴縁等の下地材に外壁パネルを取り付けてなる外壁パネルの取付構造に求められる性能としては、例えば、火災時の非損性や遮熱性、雨水などに対する気密性の他に、風荷重が作用する時の外壁パネルの耐力や胴縁等の下地材と外壁パネルとの接合耐力を保有していることが知られている。ここで、胴縁等の下地材と外壁パネルとの接合耐力を向上させるには、胴縁等の下地材と外壁パネルとを接合する接合部材であるドリリングタッピンねじ等の定着具の本数を増やすこと、該定着具の大きさを大きくすること、胴縁等の下地材の設置間隔を密にすることが挙げられる。特に、地上からの建物高さ31mを超える部分に外壁パネルを取り付ける場合には、風荷重が大きくなるため、踏み込んだ対策が必要となる。
【0004】
特許文献1には、
図1、
図2、及び
図10に示すように、鋼製胴縁(構造材66)に、対向する金属外皮1、2間に断熱材3が充填された断熱パネル(外壁パネル)Aを取り付けてなる建物外壁構造が開示されている(同文献1の段落[0033]〜[0036]等を参照)。
図1では、構造材66である柱(角形鋼管)の両側面に、一対の断面L字状の固定金具(アングル材)67を、該柱の一側面部と面一となるように接合した鋼製胴縁が開示されている。また、
図2では、角形鋼管からなる鋼製胴縁が開示されている。
【0005】
特許文献2には、
図1と
図9に示すように、断熱パネル(外壁パネル)8を金属製の下地材3と接続金具4で電気的に接続すると共に、金属製の下地材3を接地してなる建物の避雷構造が開示されている(請求項2等を参照)。
図1では、角形鋼管からなる鋼製胴縁が開示され、
図9では、パネル長さ方向に長い矩形角形鋼管からなる鋼製胴縁が開示されている。
【0006】
前記特許文献1にかかる建物外壁構造は、
図1では、角形鋼管の両側面に設けられた一対のアングル材と外壁パネルとの当接面に、ドリリングタッピンねじ等の定着具65を左右に2本貫通させることにより鋼製胴縁に外壁パネルが取り付けられている。
図2では、角形鋼管の一側面と外壁パネルとの当接面に、ドリリングタッピンねじ等の定着具を左右に2本貫通させることにより鋼製胴縁に外壁パネルが取り付けられている。
前記特許文献2にかかる建物の避雷構造は、
図1では、角形鋼管の一側面と外壁パネルとの当接面に、ドリリングタッピンねじ等の定着具57を左右に2本貫通させることにより鋼製胴縁に外壁パネルが取り付けられている。
図9では、矩形角形鋼管の一側面と外壁パネルとの当接面に、ドリリングタッピンねじ等の定着具を左右に2本貫通させることにより鋼製胴縁に外壁パネルが取り付けられている。
【0007】
なお、前記特許文献1、2にかかる鋼製胴縁は、図示例では、水平方向に隣接する外壁パネルの端部同士の接合部位(縦目地部)に跨るように配設しているが、外壁パネルの中間部でも同様に、鋼製胴縁と外壁パネルとの当接面にドリリングタッピンねじ等の定着具を左右に2本貫通させることにより鋼製胴縁に外壁パネルが取り付けられる。
【0008】
ちなみに、前記特許文献1、2で用いる外壁パネルは共通して、対向する金属外皮(金属板)間に断熱材(パネル芯材)が充填されてなり、その上端部のみを、水平方向へ配設した定着具で取り付ける構成で実施している(同文献1の
図10、同文献2の
図7を参照)。
その他の外壁パネルとして、例えば特許文献3には、対向する金属製表面材1と裏面材(非金属製でも可)2との間に合成樹脂発泡体よりなるパネル芯材3が充填された建築用パネルAが開示されている。この建築用パネル(外壁パネル)Aもまた、上記特許文献1、2に係る外壁パネルと同様に、その上端部のみを、水平方向へ配設した固定具(定着具)βで取り付ける構成で実施している(同文献3の
図3、
図7〜
図11を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4801401号公報
【特許文献2】特開2008−280788号公報
【特許文献3】特開2012−122225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1、2に係る鋼製胴縁は、1本の鋼製胴縁毎に2本の定着具をバランスよく取り付けて実施しているので、外壁パネルに求められる鋼製胴縁への所定の取付強度は達成できる。
しかし、前記外壁パネルは、定着具の取付部位が上端部のみと制限されているので(前記段落[0008]参照)、外壁パネルの鋼製胴縁への取付強度を効率よく向上させることができれば、風圧力が強い地域、又は高層建物で実施する場合などを考慮すると、有益であることは明らかである。もとより、定着具を上端部のみならず下端部でも取付可能な構成の外壁パネルにおいても、有益であることは明らかである。
【0011】
そこで特許文献1について検討すると、
図1にかかる鋼製胴縁は、
図2にかかる角形鋼管で形成した鋼製胴縁と比し、角形鋼管の両側面に一対のアングル材を接合することにより、左右の定着具の設置間隔を広く設定できるので、該定着具の取付強度、ひいては外壁パネルの鋼製胴縁への取付強度を向上させてはいる。
しかし、一対のアングル材を角形鋼管の軸方向の所要部位に複数接合する必要があるので、部材点数、及び接合作業(溶接作業)を行う加工コストが嵩み、部材単価が高騰する。よって、鋼製胴縁は建物の外周に沿って多数用いられることを勘案すると、効率がよいとは云えず、改善の余地が認められる。
【0012】
また、特許文献2について検討すると、
図9にかかる鋼製胴縁は、
図1にかかる角形鋼管で形成した鋼製胴縁と比し、パネル長さ方向に長い矩形角形鋼管を用いて左右の定着具の設置間隔を広く設定できるので、該定着具の取付強度、ひいては外壁パネルの鋼製胴縁への取付強度を向上させてはいる。
しかし、パネル長さ方向に長い矩形角形鋼管は、角形鋼管と比し、断面積が大きくなり、部材単価も嵩む。よって、鋼製胴縁は建物の外周に沿って多数用いられることを勘案すると、やはり効率がよいとは云えず、改善の余地が認められる。
【0013】
そこで、本発明は、上述した背景技術の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、外壁パネル、屋根パネル(デッキプレート含む。)などの各種面材を取り付けるために用いられる下地材(例えば、胴縁)について、効率的にコスト改善を図ることを可能とすることにある。
具体的に、本発明の目的は、断面形状において、ウエブの傾斜部の下フランジ面に対する傾斜角度に工夫を施すことにより、角形鋼管で形成した場合と比し、部材単価を抑えつつ前記各種面材の取付強度を効率よく向上させることができる、経済的かつ合理的なハット形鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るハット形鋼は、面材を取り付けるために用いられるハット形鋼であって、
建物の内部構造材の屋外側に当接する上フランジと、該上フランジの両端部から屋外側へほぼ直角に屈曲連設され所定の部位から幅広に傾斜する一対のウエブと、該一対のウエブの先端から外方へ屈曲連設され前記面材の内側面に当接する一対の下フランジとで断面ハット状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項
2記載した発明は、請求項
1に記載したハット形鋼において、板厚が2.3〜4.5mm、上フランジ幅が75〜200mm、ウエブ長が全体で、50〜150mm、該ウエブの傾斜部の下フランジ面に対する傾斜角度が5〜81度、下フランジ幅が30〜100mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るハット形鋼によれば、以下の効果を奏する。
1)左右一対のウエブの下端部(脚部)を傾斜させた断面ハット状に形成して実施するので、傾斜面を形成することによって面材(例えば、外壁パネル)取付部に作用する曲げモーメントの流れを分散させることができ、該取付部に生じる応力を低減させ得る。そのため、ハット形のごとく開口断面に形成したことによる前記取付部の強度低下が抑制され、安定した取付強度を発揮することができる。
よって、従来の角形鋼管からなる鋼製胴縁、或いは角形鋼管と一対のアングル材とを組み合わせてなる鋼製胴縁と比し、部材単価を抑えつつ前記外壁パネル等の面材のハット形鋼への取付強度を効率よく向上させることができる。
2)これに伴い、前記ハット形鋼を用いて構築した面材(例えば、外壁パネル)の取付構造は、従来の鋼製胴縁を用いた外壁パネル(面材)の取付構造と比し、経済的かつ合理的に強度および剛性を高めることができる。かくして、従来実施化が懸念されていた、風圧力が強い地域、又は高層建物でも実施することが可能となった。
3)付随的効果として、前記面材(例えば、外壁パネル)の下地材(例えば、胴縁)への取付強度を補強するべく、ワンサイドリベット(図示略)を用いることがあるが、このワンサイドリベットの取付位置には通常、アングル材が介在物として用いられ、該アングル材は下地材(例えば、胴縁)に添設する必要があった。本発明にかかるハット形鋼は、前記アングル材に相当する下フランジが予め備わっているので、下準備なしで経済的かつ合理的にワンサイドリベットの打ち込み作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るハット形鋼を用いた外壁パネルの取付構造の実施例を概略的に示した斜視図である。
【
図2】
図1の要部(外壁パネル中間部の取付構造)を拡大して示した平面図である。
【
図3】
図1の要部(外壁パネル端部の取付構造)を拡大して示した平面図である。
【
図5】外壁パネルの取付構造のバリエーションを示した平面図である。
【
図6】(A)は、固定点Xにおける傾斜角度(θ)を変数とし、ハット形鋼に作用する曲げモーメントを表したモデル図であり、(B)は、前記モデル図をもとに傾斜角度(θ)と曲げモーメントとの関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るハット形鋼の実施例を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1〜
図4は、本発明に係るハット形鋼の実施例を示している。このハット形鋼2は、
外壁パネル、屋根パネル(デッキプレート含む。)などの各種面材(図示例では、外壁パネル1)を取り付けるための下地材(図示例では鋼製胴縁)として用いられ、建物の内部構造材(図示例では梁材)3の屋外側に当接する上フランジ21と、該上フランジ21の両端部から屋外側へほぼ直角に屈曲連設され所定の部位から幅広に傾斜する一対のウエブ22、22と、該一対のウエブ22、22の先端から外方へ屈曲連設され前記外壁パネル1等の面材の内側面に当接する一対の下フランジ23、23とで断面ハット状に形成されている。
【0021】
図示例にかかる前記ハット形鋼2は、建物の内部構造材3の屋外側にピースアングル等の固定部材5で固定され、当接された一対の下フランジ23、23及び外壁パネル1の内側面に屋外側から屋内側へドリリングタッピンねじ等の定着具4が貫通されて外壁パネル1が取り付けられている。
図1中の符号6は、縦目地部を示している。
ちなみに、前記定着具4は、ドリリングタッピンねじ(軸径4.8〜8.0mm程度)の他、ワンサイドリベット(軸径3.0〜7.7mm程度)で実施することもできる(両者の併用も可)。このワンサイドリベットは、屋内側から屋外側へ通して定着させる場合に好適に用いられる。
【0022】
前記外壁パネル1は、一例として、対向する金属板の間に断熱材が充填されてなり、その上端部のみを、水平方向へ配設した定着具4で取り付ける構成で実施している。具体的な構成は、前記特許文献1、2に、より詳細に示されている。ただし、前記外壁パネル1は、金属板と非金属板とを対向させ、その間にパネル芯材を充填させた構成でも同様に実施できる。また、定着具4を上端部のみならず下端部でも取付可能な構成の外壁パネルでも同様に実施できる。
【0023】
前記ハット形鋼2は、冷間成形等で、上述したように、左右一対のウエブ22、22の下端部(脚部)を傾斜させた断面ハット状に形成されている。本実施例にかかるハット形鋼2は、板厚が3.2mm程度、上フランジ21の幅が100mm程度、ウエブ22の長さが傾斜部を含めて100mm程度、該ウエブ22の傾斜部の下フランジ23面に対する傾斜角度(θ)が71度程度、下フランジ23の幅が35mmで実施されている(
図4参照)。
なお、前記ハット形鋼2の形態はこれに限定されるものではなく、板厚が2.3〜4.5mm、上フランジ21の幅が75〜200mmで、ウエブ22の長さが傾斜部を含めて50〜150mm、該ウエブ22の傾斜部の下フランジ23面に対する傾斜角度が5〜81度、下フランジ23の幅が30〜100mm、の範囲内であればよい。
また、前記ハット形鋼2の上フランジ21の端部から所定の部位までのウエブ22の直線長さは、本実施例では80mm程度で実施している。この数値は、該ウエブ22の外面に当接する前記ピースアングル等の固定部材5の水平方向への突き出し長さより長く設定することを条件に適宜設計変更される。
ちなみに、本実施例にかかるピースアングル(固定部材)5は、前記梁材(H形鋼)3の下フランジの下面と前記ハット形鋼2の一側のウエブ22の外面に均等に跨るように当てがわれ、溶接等の接合手段により接合して固定される。
上記構成のハット形鋼2は、左右一対のウエブ22、22の傾斜部の下フランジ23面に対する傾斜角度(θ)の関係に比例して(該傾斜角度が大きくなるほど)、下フランジ23の変形が小さくなる特徴がある。
【0024】
前記建物の内部構造材3は、本実施例では梁材で実施しているがこれに限定されず、
図5に示すように、柱材3’等の建物躯体であれば同様に実施できる。
ちなみに、前記柱材3’にハット形鋼2を固定する場合は、該柱材(H形鋼)3’のフランジ面の外面中央部にハット形鋼2の上フランジ21を当接させ、該柱材3’のフランジ面とハット形鋼2の一側のウエブ22とが形成するコーナー部に沿って鉛直方向にピースアングル等の固定部材5’を当てがい、溶接等の接合手段により接合して固定する。
【0025】
かくして、前記ハット形鋼2は、前記建物の内部構造材
(柱材)3
’へ、ピースアングル等の固定部材5
’を介して固定され、前記外壁パネル1は、前記ハット形鋼2へ、ドリリングタッピンねじ等の定着具4を介して固定される。
隣接する前記外壁パネル1、1の接合部は、
図3に示すように、各外壁パネル1、1の端部から突き出た支持片1a、1a同士を突き合わせ、該突き合わせ部に屋外側からパッキン材7及びシーリング材8を充填する等して縦目地部6が形成される。
【0026】
本発明は、部材単価を抑えつつ外壁パネル1(各種面材)に対する取付強度を向上させるべく、断面ハット状に形成した点、また、該断面ハット状の左右一対のウエブ22、22の下端部を傾斜させた点、さらには、前記段落[0023]で説明した寸法範囲に基づいて形成(成形)した点、を主たる特徴点としている。
以下、これらの特徴点の意義について説明する。
【0027】
前記断面ハット状に形成した意義は、前記定着具4を左右の2箇所止めで実施する場合、左右の定着具4、4の間隔は、狭いより広い方が、外壁パネル1に対する取付強度が向上することを考慮したからである。この点、前記特許文献1に係る鋼製胴縁は、角形鋼管の両側面に一対のアングル材を接合することにより、左右の定着具4の間隔を広く設定できるが、部材単価が高騰する。これに対し、断面ハット状に形成すると、部材単価(断面積)を抑えつつ、単一部材で左右の定着具4の間隔を広く設定できるので至極合理的である。
【0028】
また、前記断面ハット状の左右一対のウエブ22、22の下端部を傾斜させた意義は、開口断面を有する断面ハット状に形成したが故に、左右の定着具4、4の取付部に作用する曲げモーメントにより該取付部の強度低下が懸念されるため、これをできるだけ抑制するためである。
本出願人が行った実験結果を
図6に示す。
図6(A)は、固定点Xにおける傾斜角度(θ)を変数とし、ハット形鋼2に作用する曲げモーメントを表したモデル図である。
図6(B)は、前記モデル図をもとに傾斜角度(θ)と取付部に作用する曲げモーメントとの関係を表したグラフである。該グラフの縦軸は、傾斜角度(θ)の傾斜付きハット形鋼を使用した場合のドリリングタッピンねじ取付部に作用する曲げモーメントの値(以下、単に傾斜値という。)を、傾斜角度0度の通常のハット形鋼を使用した場合のドリリングタッピンねじ取付部に作用する曲げモーメントの値(以下、単に通常値という。)で除した数値を示している。
図6(B)から明らかなように、傾斜角度(θ)を徐々に大きくすると、前記傾斜値は、前記通常値に対して徐々に低下していくことが分かる。これは、傾斜面を形成することによって前記取付部に作用する曲げモーメントの流れを分散させることができ、該取付部に生じる応力を低減させ得ることによる。そのため、前記取付部の強度低下(変形)が抑制され、安定した取付強度を発揮することができるのである。
ちなみに、前記ウエブ22の下端部のみを傾斜させ、上端部を直線状とした(傾斜させない)のは、ピースアングル等の固定部材5を用いて建物の内部構造材へ安定した状態で固定できるようにした構造設計上の配慮による。
【0029】
さらに、前記段落[0023]で説明した寸法範囲に基づいて形成した意義は、経済性、加工容易性、使い勝手の良さ(軽量且つコンパクト)、及び構造設計等の諸条件を考慮した結果である。例えば、前記ウエブ22の傾斜部の下フランジ23面に対する傾斜角度を5〜81度としたのは、5度より小さいと製品形状の誤差があり実質傾斜角度がない場合と同程度になることと、前記取付部の強度低下が懸念され、81度より大きいと前記ピースアングル等の固定部材5との当接面を確保しづらいからである。
【0030】
したがって、上記構成のハット形鋼2は、左右一対のウエブ22、22の下端部(脚部)を傾斜させた断面ハット状に形成しているので、従来の角形鋼管からなる鋼製胴縁、或いは角形鋼管と一対のアングル材とを組み合わせてなる鋼製胴縁と比し、部材単価を抑えつつ前記外壁パネル1のハット形鋼2への取付強度を効率よく向上させることができる。
よって、前記ハット形鋼2を用いて構築した外壁パネル1等(面材)の取付構造は、従来の鋼製胴縁を用いた外壁パネル1等(面材)の取付構造と比し、経済的かつ合理的に強度および剛性を高めることができる。かくして、従来実施化が懸念されていた、風圧力が強い地域、又は高層建物(建物高さ31m以上)でも実施することが可能となった。
また、付随的効果として、前記外壁パネル1の鋼製胴縁への取付強度(嵌合強度)を補強するべく、ワンサイドリベット(図示略)を用いることがあるが、このワンサイドリベットの取付位置には通常、アングル材が介在物として用いられ、該アングル材は胴縁に添設する必要があった。この点、前記ハット形鋼2は、前記アングル材に相当する下フランジが予め備わっているので、下準備なしで経済的かつ合理的にワンサイドリベットの打ち込み作業を行うことができる。
【0031】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、本発明にかかるハット形鋼2は、外壁パネル1を取り付けるための鋼製胴縁(下地材)に適用した場合について説明したが、これに限定されず、屋根パネル(デッキプレート含む。)などの各種面材を取り付けるための下地材として適用することもできる。
【符号の説明】
【0032】
1 外壁パネル
1a 支持片
2 ハット形鋼
3 内部構造材(梁材)
3’ 内部構造材(柱材)
4 ドリリングタッピンねじ(定着具)
5 ピースアングル(固定部材)
5’ ピースアングル(固定部材)
6 縦目地部
7 パッキン材
8 シーリング材
21 上フランジ
22 ウエブ
23 下フランジ