(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103906
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】弾性波装置と封止体
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
H03H9/25 A
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-267131(P2012-267131)
(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-116665(P2014-116665A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】514250975
【氏名又は名称】スカイワークスフィルターソリューションズジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 冬希
(72)【発明者】
【氏名】植松 秀典
(72)【発明者】
【氏名】藤田 知宏
(72)【発明者】
【氏名】松島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】亀山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】降旗 哲也
【審査官】
橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−103645(JP,A)
【文献】
特開2012−084954(JP,A)
【文献】
特開2003−101383(JP,A)
【文献】
特開2006−304145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H9/00−9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板の表面上に弾性表面波を発生させるべく前記圧電基板上に設けられた櫛形電極と、
前記圧電基板の上に設けられ前記櫛形電極を前記圧電基板との間に封止する封止体と
を備え、
前記封止体は、前記封止体の第1のガラス転移温度よりも低温の第1の温度領域における第1の線膨張係数を有し、
前記第1の線膨張係数は、前記第1のガラス転移温度よりも高温の第2の温度領域における前記封止体の第2の線膨張係数よりも大きく、
前記圧電基板の線膨張係数は、前記第1の線膨張係数よりも小さくかつ前記第2の線膨張係数よりも大きい弾性波装置。
【請求項2】
前記第1の線膨張係数は、前記圧電基板の表面によって画定される平面に平行かつ前記弾性表面波の伝播方向に垂直な方向における前記圧電基板の線膨張係数よりも大きい請求項1記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記第2の線膨張係数は、前記弾性表面波の伝播方向における前記圧電基板の線膨張係数よりも小さい請求項1記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記封止体は、前記第1のガラス転移温度よりも高温の第2のガラス転移温度を有し、
前記第2の温度領域は、前記第1のガラス転移温度と前記第2のガラス転移温度との間に存在し、
前記第2のガラス転移温度よりも高温の第3の温度領域における前記封止体の第3の線膨張係数が、前記第2の線膨張係数よりも大きい請求項1記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記第3の線膨張係数は、前記圧電基板の表面によって画定される平面に平行かつ前記弾性表面波の伝播方向に垂直な方向における前記圧電基板の線膨張係数よりも大きい請求項4記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記第1のガラス転移温度及び前記第2のガラス転移温度は前記封止体の硬化温度よりも低い請求項4に記載の弾性波装置。
【請求項7】
圧電基板と、
前記圧電基板上に設けられた櫛形電極と、
前記圧電基板の上に設けられ前記櫛形電極を前記圧電基板との間に封止する封止体と
を備え、
前記封止体は、前記封止体の硬化温度よりも低温の温度領域に複数のガラス転移温度を有し、
前記複数のガラス転移温度の一つを挟んで低温側と高温側とで、前記圧電基板の線膨張係数と前記封止体の線膨張係数の大小関係が逆転する弾性波装置。
【請求項8】
圧電基板と、
前記圧電基板の表面上に弾性表面波を発生させるべく前記圧電基板上に設けられた櫛形電極と
前記圧電基板の上に設けられ前記櫛形電極を前記圧電基板との間に封止する封止体と
を備え、
前記封止体はガラス転移温度を有し、
前記封止体の線膨張係数が、前記ガラス転移温度よりも低温で前記圧電基板の線膨張係数よりも大きくかつ前記ガラス転移温度よりも高温で前記圧電基板の線膨張係数よりも小さい弾性波装置。
【請求項9】
前記封止体は前記ガラス転移温度を複数有する請求項8記載の弾性波装置。
【請求項10】
基板上に取り付けられた電子装置を封止する封止体であって、
前記封止体は、
前記封止体の第1のガラス転移温度よりも低温の第1の温度領域における第1の線膨張係数と、
前記第1のガラス転移温度よりも高温の第2の温度領域における第2の線膨張係数と
を有し、
前記第1のガラス転移温度は前記電子装置の使用温度領域内にあり、
前記第1の線膨張係数は前記第2の線膨張係数よりも大きく、
前記基板の線膨張係数は、前記第1の線膨張係数よりも小さくかつ前記第2の線膨張係数よりも大きい封止体。
【請求項11】
前記第1の線膨張係数は、前記弾性表面波の前記伝播方向における前記圧電基板の線膨張係数よりも大きい請求項2に記載の弾性波装置。
【請求項12】
前記第2の線膨張係数は、前記圧電基板の表面によって画定される平面に平行かつ前記弾性表面波の伝播方向に垂直な方向における前記圧電基板の線膨張係数よりも小さい請求項3に記載の弾性波装置。
【請求項13】
前記第3の線膨張係数は、前記弾性表面波の前記伝播方向における前記圧電基板の線膨張係数よりも小さい請求項5に記載の弾性波装置。
【請求項14】
前記圧電基板の線膨張係数は前記弾性表面波の伝播方向により異なる請求項8に記載の弾性波装置。
【請求項15】
前記封止体は前記櫛形電極の上方に空間を画定する請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項16】
前記櫛形電極と前記封止体との間に設けられたカバーをさらに備える請求項15に記載の弾性波装置。
【請求項17】
前記封止体は無機充填材を包含する熱硬化性樹脂を含む請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項18】
前記第1のガラス転移温度は前記弾性波装置の使用温度領域内にある請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項19】
前記封止体は異なるタイプの熱硬化性樹脂を含み、
前記熱硬化性樹脂はそれぞれが互いに異なるガラス転移温度を有する請求項4に記載の弾性波装置。
【請求項20】
前記第1のガラス転移温度は50℃以下である請求項19記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種通信機器や高周波電子機器に電子部品として用いられる弾性波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図10に従来の弾性波装置1Cの断面を模式的に示す。
【0003】
図10において、弾性波装置1Cは、圧電体単結晶からなる圧電基板2の上に櫛形電極3および配線4と、櫛形電極3が励振する空間5と、空間5を覆うカバー体6と、カバー体6の上から空間5を封止する封止体7Cと、封止体7Cの上に設けられた端子電極8と、封止体7Cを貫通して配線4と端子電極8とを接続する接続電極9とを有する。
【0004】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−185976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の弾性波装置1Cは、長期に使用した場合に、層間剥離やクラックが生じ、弾性波装置が破損してしまうという信頼性における課題を有していた。
【0007】
本発明は、長期にわたる信頼性を向上することのできる弾性波装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、前記圧電基板上に設けられた櫛形電極と、前記櫛形電極に接続された配線と、前記圧電基板の上に設けられ前記櫛形電極を封止する封止体と、前記封止体の上に設けられた端子電極と、前記封止体を貫通して前記配線と前記端子電極とを電気的に接続する接続電極とを備え、前記封止体は、第1のガラス転移温度と、前記第1のガラス転移温度よりも低温の第1の温度領域における第1の線膨張係数と、前記第1のガラス転移温度よりも高温の第2の温度領域とにおける第2の線膨張係数とを有し、前記第1の線膨張係数を前記第2の線膨張係数よりも大きくしたものである。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成を有することにより、本発明の弾性波装置は、温度変化による内部応力を低減することができ、長期にわたる信頼性を向上することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態における弾性波装置を模式的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態における弾性波装置について、図面を参照しながら説明する。なお、上述した従来の弾性波装置と同様の構成については、同じ符号を付して説明する。
【0012】
図1は本発明の一実施の形態における弾性波装置を模式的に示した断面図である。
図1において、本発明の一実施の形態における弾性波装置1A(1B)は、圧電基板2の上に櫛形電極3および配線4と、櫛形電極3が励振する空間5と、空間5を上方から覆うカバー体6と、カバー体6の上から空間5を覆う封止体7A(7B)と、封止体7A(7B)の上面に設けられた端子電極8と、封止体7A(7B)を貫通し配線4と端子電極8とを接続する接続電極9とを有する。ここで、封止体7Aを有するものが弾性波装置1Aであり、封止体7Bを有するものが弾性波装置1Bであり、弾性波装置1Aと弾性波装置1Bは封止体7A、7B以外は同様の構成を有する。弾性波装置1A(1B)は圧電基板2と同等レベルの占有面積を有する極めて小型の電子部品であり、圧電基板2を個片に分離する前のウエハ状態で封止し端子電極8を形成することからウエハレベルチップサイズパッケージ(WL−CSP)と呼ばれる。
【0013】
圧電基板2は、回転YカットX伝播の単結晶タンタル酸リチウムからなり、その板厚は100〜350μm程度であり、弾性表面波を伝播する上面において弾性表面波の伝播方向をX方向、弾性表面波の伝播方向に垂直な方向をY方向、圧電基板の厚み方向をZ方向としたときに、X方向の線膨張係数αXは16.2ppm/℃、Y方向の線膨張係数αYは9.7ppm/℃である。
【0014】
櫛形電極3は圧電基板2の表面に形成されたアルミニウムを主成分とする金属よりなり、櫛形電極3に電圧を印加することにより圧電基板2の表面に弾性表面波を励振するものである。櫛形電極3の表面には、必要に応じて酸化ケイ素などの誘電体からなる保護膜を形成する。
【0015】
配線4は、圧電基板2の表面に形成された導体よりなり、櫛形電極3に電気的に接続されたものである。
【0016】
空間5は、圧電基板2の表面において弾性表面波が励振するために櫛形電極3の上方に設けられた密封された空洞である。
【0017】
カバー体6は、圧電基板2の上において空間5を介して櫛形電極3を覆うように設けたものであり、ポリイミド系の樹脂により形成したものである。
【0018】
封止体7A(7B)は、カバー体6の上から空間5を覆う絶縁体であり、熱硬化性の樹脂に無機フィラーを含有させて熱硬化したものである。
【0019】
端子電極8は、弾性波装置1A(1B)の入出力端子またはグランド端子として使用する導体であり、封止体7A(7B)の上面にフォトリソグラフにより形成したものである。
【0020】
接続電極9は、封止体7A(7B)を貫通して配線4と端子電極8とを接続する導体であり、電気銅メッキにより形成したものである。
【0021】
以上のような構成において、本発明の一実施の形態における弾性波装置1A(1B)の封止体7A(7B)は、ガラス転移温度を有し、このガラス転移温度よりも低温における封止体7A(7B)の線膨張係数が、このガラス転移温度よりも高温における封止体7A(7B)の線膨張係数よりも大きくなる温度領域を有するものである。このような構成とすることにより、温度変化によって生じる封止体7A(7B)に加わる応力の増加または減少をガラス転移温度で反転させることができ、広い温度範囲にわたって封止体7A(7B)に加わる応力を低減することができるため、長期の使用における封止体7A(7B)の破損を低減することができるものであり、弾性波装置1A(1B)の信頼性を向上することができるという効果を有する。
【0022】
以下、封止体7Aを有する弾性波装置1Aと封止体7Bを有する弾性波装置1Bについて実施例を用いて説明する。
【0023】
(実施例1)
本発明の実施例1の弾性波装置1Aは封止体7Aを有し、
図2〜
図5に示す特性を有する。
【0024】
図2は封止体7Aの線膨張係数の温度変化を示す。
図2において、封止体7Aの線膨張係数αAを実線で示し、比較例として従来の弾性波装置1Cの封止体7Cの線膨張係数αCを破線で示す。TgAは封止体7Aのガラス転移温度であり、TgA=38℃である。また、単結晶タンタル酸リチウムからなる圧電基板2のX方向の線膨張係数αX=16.2ppm/℃を破線で示し、圧電基板2のY方向の線膨張係数αY=9.7ppm/℃を実線で示す。圧電基板2はX方向の線膨張係数αXが大きいため、温度変化によるX方向の寸法変化が大きく、弾性波装置1A、1Cの電気特性に対して温度変化による影響を有する。従来の弾性波装置1Cの封止体7Cのガラス転移温度TgCは161℃であり、これは一般的な熱硬化性樹脂のガラス転移温度と同等レベルである。従来の弾性波装置1Cの封止体7Cのガラス転移温度TgC以下における線膨張係数αCは、圧電基板2のX方向の線膨張係数αXに近い値に設定されたものであり、圧電基板2のX方向の寸法変化に追随して寸法変化し、圧電基板2に加える封止体7CのX方向の応力は小さい。従来の弾性波装置1Cの封止体7Cの線膨張係数αCは、ガラス転移温度TgCよりも高温において温度依存性を有するが、この温度領域は弾性波装置1Cの使用温度領域外であり、封止体7Cを構成する樹脂成分が軟化することもあって弾性波装置1Cの信頼性に対する影響は小さい。
【0025】
本発明の実施例1の封止体7Aは、
図2に示すように、ガラス転移温度TgAよりも低温において、圧電基板2の線膨張係数αXとαYよりも大きい19.5ppm/℃程度の線膨張係数αAを有し、ガラス転移温度TgAよりも高温において、圧電基板2の線膨張係数αXとαYよりも小さい8ppm/℃の線膨張係数αAを有するものである。
【0026】
図3は、弾性波装置1Aの封止体7Aのヤング率の温度変化を示す。
図3において、弾性波装置1Aの封止体7Aのヤング率EAを実線で示し、比較例として従来の弾性波装置1Cの封止体7Cのヤング率ECを破線で示す。単結晶タンタル酸リチウムからなる圧電基板2のヤング率は273GPa程度である。
【0027】
従来の弾性波装置1Cの封止体7Cのヤング率ECは、
図3に示すように、ガラス転移温度TgCから低温になるにつれて徐々に増加し、125℃以下で10GPa以上であり、−55℃に向かうにつれて14GPaに近づく。
【0028】
本発明の実施例1の封止体7Aのヤング率EAは、
図3に示すように、ガラス転移温度TgAよりも高温において比較的小さく、75℃以上で5GPa以下であり、ガラス転移温度TgAよりも低温において比較的大きく、0℃以下で14GPa以上である。このようなヤング率EAの特性は、熱硬化性樹脂と無機充填材の組成及び配合比により得られる。
【0029】
図4は、弾性波装置1Aの封止体7Aが圧電基板2から受けるX方向の応力の相対値を示したものであり、線膨張係数αAとヤング率EAを用いてシミュレーションにより計算したものである。
図4において、σAXは弾性波装置1Aの封止体7Aが温度変化により圧電基板2から受けるX方向の応力を相対的に示した相対値、σCXは従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが温度変化により圧電基板2から受けるX方向の応力を相対的に示した相対値である。このX方向の応力の相対値σAX、σCXが正の場合は、封止体7A、7Cは圧電基板2からX方向の圧縮応力を受け、圧電基板2に対して引張応力を及ぼしている状態であり、X方向の応力の相対値σAX、σCXが負の場合は、封止体7A、7Cが圧電基板2よりもX方向の収縮が小さく、圧電基板2から引張応力を受け、圧電基板2に対して圧縮応力を及ぼしている状態である。
【0030】
従来の弾性波装置1Cの封止体7CのX方向の応力の相対値σCXは、
図4に示すように、封止体7Cの硬化温度180℃において0であり、温度が低下するにつれて徐々に大きくなり、−55℃において0.4程度になる。
【0031】
弾性波装置1Aの封止体7AのX方向の応力の相対値σAXは、
図4に示すように、封止体7Aの硬化温度180℃において0であり、温度が低下するにつれてわずかに小さくなるが、50℃の近くで極小になり、さらに低温では増加に転じて−55℃において0.1程度になる。このように弾性波装置1Aの封止体7Aは、高温の使用温度領域50〜125℃においてX方向の応力が極めて小さく0に近く、低温の使用温度領域−55〜0℃において圧電基板2から圧縮応力を受ける。このように本発明の弾性波装置1Aは、0〜100℃において、封止体7AがX方向の圧縮応力を受けるが、封止体7Aを圧電基板2から剥離する方向に作用せず、封止体7Aを押さえ込む方向に応力が働くために、封止体7Aの破壊を抑制する効果を有し、信頼性を向上することができる。また、X方向は弾性表面波の伝播方向であるため、X方向の応力は弾性波装置の電気特性に影響を及ぼすが、圧電基板2と封止体7Aとの間の応力を低減することにより、弾性波装置の電気特性への影響を低減できる。
【0032】
図5は、弾性波装置1Aの封止体7Aが圧電基板2から受けるY方向の応力を相対値で示したものであり、線膨張係数αAとヤング率EAを用いてシミュレーションにより計算したものである。
図5において、σAYは弾性波装置1Aの封止体7Aが温度変化により圧電基板2から受けるY方向の応力を相対的に示した相対値、σCYは従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが温度変化により圧電基板2から受けるY方向の応力を相対的に示した相対値である。このY方向の応力の相対値σAY、σCYが正の場合は、封止体7A、7Cが圧電基板2よりもY方向に大きく収縮し、圧電基板2から圧縮応力を受けている状態であり、Y方向の応力の相対値σAY、σCYが負の場合は、圧電基板2が封止体7A、7CよりもY方向に大きく収縮し、封止体7A、7Cが圧電基板2から引張応力を受けている状態である。
【0033】
従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが圧電基板2から受けるY方向の応力の相対値σCYは、
図5に示すように、封止体7Cの硬化温度180℃において0であり、この硬化温度から温度が低下するにつれて徐々に大きくなり、−55℃において1.65程度になる。そうすると、従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが圧電基板2から受ける応力は圧縮応力になり、温度が低下するとともに増大し、封止体7Cのクラックの原因になる。特に低温領域では封止体7Cを構成する樹脂が硬くなるとともに脆くなるため、低温領域においてクラックが生じやすい。
【0034】
本発明の弾性波装置1Aの封止体7AのY方向の応力の相対値σAYは、
図5に示すように、封止体7Aの硬化温度180℃において0であり、温度が低下するにつれてわずかに低下するが、50℃近辺で極小になり、さらに低温では増加に転じて−55℃において1.0程度になる。このように本発明の弾性波装置1Aにおいて封止体7Aは、高温の温度領域50〜180℃においてY方向の応力が小さく0に近く、低温の温度領域−55〜25℃においてY方向に生じる圧縮応力を低減することができる。
【0035】
このように本発明の弾性波装置1Aは、封止体7Aが受けるY方向の応力を小さくすることができるため、封止体7Aの損傷を低減することができ、弾性波装置1Aの信頼性を向上することができる。
【0036】
以上のように、本発明の一実施の形態における弾性波装置は、封止体に関して、ガラス転移温度よりも高温における線膨張係数よりも、ガラス転移温度よりも低温における線膨張係数が大きい領域を有することにより、広い温度範囲にわたって封止体に加わる応力を低減することができ、長期の使用における封止体の破損を低減することができるものであり、弾性波装置の信頼性を向上することができるものである。なお、封止体のガラス転移温度を50℃以下にすることにより、より低温領域における封止体が受ける応力を低減することができるため、信頼性を向上する上で好ましいものである。
【0037】
また、圧電基板の平面方向における線膨張係数が最小となるY方向において、低温での封止体に加わる圧縮応力が特に大きくなる。そのため、本発明の一実施の形態における弾性波装置は、ガラス転移温度よりも低温における封止体の線膨張係数を、圧電基板の平面方向の線膨張係数の最小値よりも大きくしたことにより、ガラス転移温度よりも低温における封止体に加わる応力を圧縮応力にすることができ、封止体の破損を低減することができる。
【0038】
また、本発明の一実施の形態における弾性波装置は、ガラス転移温度よりも高温における封止体の線膨張係数を、圧電基板の平面方向の線膨張係数の最大値よりも小さくしたことにより、ガラス転移温度よりも高温の温度領域における封止体7Aに加わる応力を低減することができ、封止体の破損を低減することができる。
【0039】
(実施例2)
本発明の実施例2の弾性波装置1Bは封止体7Bを有し、
図6〜
図9に示す特性を有する。
【0040】
図6は封止体7Bの線膨張係数の温度変化を示す。
図6において、封止体7Bの線膨張係数αBを実線で示す。TgB1およびTgB2は封止体7Bのガラス転移温度であり、TgB1=36℃、TgB2=114℃である。比較例である従来の弾性波装置1Cの封止体7Cの線膨張係数αCおよびガラス転移温度TgCと、圧電基板2のX方向の線膨張係数αXと、圧電基板2のY方向の線膨張係数αYは実施例1と同様である。
【0041】
実施例2の弾性波装置1Bの封止体7Bは、
図6に示すように、ガラス転移温度TgB1よりも低温において、圧電基板2の線膨張係数αXとαYよりも大きい19.5ppm/℃程度の線膨張係数αBとなる温度領域を有する。また、封止体7Bは、ガラス転移温度TgB1とガラス転移温度TgB2の間において、圧電基板2の線膨張係数αXとαYよりも小さい8ppm/℃程度の線膨張係数αBを有する温度領域を有する。また、封止体7Bは、ガラス転移温度TgB2よりも高温において、圧電基板2の線膨張係数αYよりも大きく、線膨張係数αXよりも小さい15ppm/℃程度の線膨張係数αBを有する温度領域を有する。
【0042】
図7は、弾性波装置1Bの封止体7Bのヤング率の温度変化を示す。
図7において、弾性波装置1Bの封止体7Bのヤング率EBを実線で示す。
図7において、比較例である従来の弾性波装置1Cにおける封止体7Cのヤング率ECは、実施例1のものと同様である。
【0043】
封止体7Bのヤング率EBは、
図7に示すように、ガラス転移温度TgB1よりも高温において比較的小さく、125℃以上で3GPa以下である。封止体7Bのヤング率EBは、ガラス転移温度TgB1よりも低温において比較的大きく、0℃以下で11GPa以上である。このようなヤング率EBの特性は、熱硬化性樹脂と無機充填材の組成及び配合比により得られる。
【0044】
図8は、弾性波装置1Bの封止体7Bが圧電基板2から受けるX方向の応力の相対値を示したものであり、線膨張係数αBとヤング率EBを用いてシミュレーションにより計算したものである。
図8において、σBXは弾性波装置1Bの封止体7Bが温度変化により圧電基板2から受けるX方向の応力を相対的に示した相対値、σCXは従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが温度変化により圧電基板2から受けるX方向の応力を相対的に示した相対値である。
【0045】
このX方向の応力の相対値σBX、σCXが正の場合は、封止体7B、7Cは圧電基板2からX方向の圧縮応力を受け、圧電基板2に対して引張応力を及ぼしている状態であり、X方向の応力の相対値σBX、σCXが負の場合は、封止体7B、7Cが圧電基板2よりもX方向の収縮が小さく、圧電基板2から引張応力を受け、圧電基板2に対して圧縮応力を及ぼしている状態である。
【0046】
従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが圧電基板2から受けるX方向の応力の相対値σCXは、実施例1において
図4に示したものと同様である。
【0047】
弾性波装置1Bの封止体7BのX方向の応力の相対値σBXは、
図8に示すように、封止体7Bの硬化温度180℃において0であり、温度が低下するにつれて低下し、50℃の近くで極小になり、さらに低温では増加に転じて−55℃において0.05程度になる。このように弾性波装置1Bの封止体7Bが受ける応力は、50℃程度で増減が反転することにより、その大きさを低減することができるため、封止体7Bの破壊を抑制し、信頼性を向上することができる。
【0048】
図9は、弾性波装置1Bの封止体7Bが圧電基板2から受けるY方向の応力を相対値で示したものであり、線膨張係数αBとヤング率EBを用いてシミュレーションにより計算したものである。
図9において、σBYは弾性波装置1Bの封止体7Bが温度変化により圧電基板2から受けるY方向の応力を相対的に示した相対値、σCYは従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが温度変化により圧電基板2から受けるY方向の応力を相対的に示した相対値である。このY方向の応力の相対値σBY、σCYが正の場合は、封止体7B、7Cが圧電基板2よりもY方向に大きく収縮し、圧電基板2から圧縮応力を受けている状態であり、Y方向の応力の相対値σBY、σCYが負の場合は、圧電基板2が封止体7B、7CよりもY方向に大きく収縮し、封止体7B、7Cが圧電基板2から引張応力を受けている状態である。
【0049】
従来の弾性波装置1Cの封止体7Cが圧電基板2から受けるY方向の応力の相対値については、実施例1において
図5に示したものと同様である。
【0050】
弾性波装置1Bの封止体7BのY方向の応力の相対値σBYは、
図9に示すように、封止体7Bの硬化温度180℃において0であり、温度が低下するにつれてわずかに上昇するが125℃程度で反転して下降し、50℃近辺で再び反転して増加に転じる。このように本発明の弾性波装置1Bにおいて封止体7Bは、50〜125℃の温度領域においてY方向の応力が極めて小さく0に近く、低温の温度領域−55〜25℃においてY方向の圧縮応力を低減することができる。
【0051】
このように本発明の弾性波装置1Bは、封止体7Bが受けるY方向の応力を小さくすることができるため、封止体7Bの損傷を低減することができ、弾性波装置1Bの信頼性を向上することができる。
【0052】
以上のように、本発明の一実施の形態における弾性波装置は、封止体について、第1の温度領域と、第1の温度領域よりも高温の第1のガラス転移温度と、第1のガラス転移温度よりも高温の第2の温度領域と、第2の温度領域よりも高温の第2のガラス転移温度と、第2のガラス転移温度よりも高温の第3の温度領域とを有し、第3の温度領域における封止体の線膨張係数を、第2の温度領域における封止体のガラス転移温度よりも大きくしたものである。これにより、第3の温度領域における封止体の線膨張係数を圧電基板の平面方向の線膨張係数の最大値に近づけることが可能になるとともに、第2の温度領域における封止体の線膨張係数を圧電基板の平面方向の線膨張係数の最小値に近づけることが可能になり、平面方向に異なる線膨張係数を有する圧電基板の熱膨張の挙動に合せて封止体に加わる応力を低減することができ、弾性波装置の信頼性の向上を可能にできる。
【0053】
また、本発明の一実施の形態における弾性波装置は、封止体の第3の線膨張係数を圧電基板の平面方向の線膨張係数の最小値よりも大きくしたことにより、封止体の第2のガラス転移温度を挟んで封止体と圧電基板の線膨張係数の大小関係を逆転させることができ、封止体の第2のガラス転移温度を含む温度領域において、封止体に加わる応力を低減でき、弾性波装置の信頼性の向上を可能にできる。
【0054】
また、本発明の一実施の形態における弾性波装置の封止体は、ガラス転移温度を挟んで封止体の線膨張係数を変化させることができるため、封止体に加わる応力を低減することを可能にする。そして、封止体の硬化温度以下の温度領域に複数のガラス転移温度を有することにより、広い温度範囲において封止体に加わる応力を低減することが可能になり、広い温度範囲において弾性波装置の信頼性の向上を可能にできる。
【0055】
また、本発明の一実施の形態における弾性波装置の封止体は、ガラス転移温度を挟んで低温側と高温側とで、圧電基板の線膨張係数と封止体の線膨張係数の大小を逆転させることにより、封止体に加わる応力を逆転させることができるため、封止体に加わる応力を低減することができ、弾性波装置の信頼性を向上することができる。そしてこの効果は、特にガラス転移温度を挟む温度領域で顕著な効果を有する。
【0056】
また、本発明の一実施の形態における弾性波装置の封止体は、ガラス転移温度を挟んで低温側と高温側とで、圧電基板の線膨張係数と封止体の線膨張係数の大小を逆転させるようなガラス転移温度を複数有することにより、広い温度範囲において、封止体に加わる応力を低減することができ、弾性波装置の信頼性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る弾性波装置は、主として移動体通信機器に用いられる高周波フィルタや分波器、共用器等において有用となる。
【符号の説明】
【0058】
1A、1B 弾性波装置
2 圧電基板
3 櫛形電極
4 配線
5 空間
6 カバー体
7A、7B 封止体
8 端子電極
9 接続電極