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特許6103971肥満及び/又はメタボリックシンドロームの予防又は治療のための医薬組成物
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  • 特許6103971-肥満及び/又はメタボリックシンドロームの予防又は治療のための医薬組成物 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103971
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】肥満及び/又はメタボリックシンドロームの予防又は治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20170316BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20170316BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20170316BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   A61K31/19
   A61P3/04
   A61P3/06
   A61P3/10
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-24846(P2013-24846)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2013-256489(P2013-256489A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-113364(P2012-113364)
(32)【優先日】2012年5月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306014736
【氏名又は名称】第一三共ヘルスケア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 大二朗
(72)【発明者】
【氏名】塙 雅明
(72)【発明者】
【氏名】柳田 晃良
(72)【発明者】
【氏名】永尾 晃治
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 Biochem. Pharmacol., 1962, Vol.11, pp.823-827
【文献】 Metabolism, 1970, Vol.19, No.1, pp.71-78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/19
A61P 3/04
A61P 3/06
A61P 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを有効成分として含有する、肥満及び/又はメタボリックシンドロームを予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項2】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを有効成分として含有する、白色脂肪重量を減少させるための医薬組成物。
【請求項3】
白色脂肪重量を減少させることによって、哺乳動物の肥満及び/又はメタボリックシンドロームを予防及び/又は治療する請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンが、空腹時血糖値を低下させる請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
白色脂肪が内臓脂肪である請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
肥満が内臓脂肪型肥満である請求項1,またはのいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
経口投与される請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有する、肥満及び/又はメタボリックシンドロームを予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪や糖分の多い欧米型食生活の浸透により、肥満及びメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群ともいう)の増加が世界的に問題となっている。特に、メタボリックシンドロームは、内臓型肥満を共通の要因として高血圧、脂質異常、耐糖能異常等が引き起こされる状態をいう。一般的に、余剰エネルギーは、生体内において白色脂肪、優先的に内臓脂肪として蓄積され、蓄積された白色脂肪から脂肪酸、TNF-αなどの因子が放出され、これらが骨格筋、肝臓及び脂肪組織におけるインスリン抵抗性を惹起するとともに肝臓における中性脂肪の合成を促進し、その結果、高血圧、高脂血症及び耐糖能異常を引き起こし、最終的には動脈硬化症に基づく脳血管障害や心血管障害を惹起すると考えられている。
【0003】
メタボリックシンドロームを治療又は予防するための努力は、抗糖尿病薬、抗高脂血症薬及び降圧薬等の治療薬を用いてなされてきたが、これらの薬物はメタボリックシンドロームの治療又は予防薬としての有効性は限られたものであった。
【0004】
これまでに、肥満及び/又はメタボリックシンドロームの原因や治療に、直接又は間接に関連している因子として、物理的運動、食事習慣、体重、血中グルコース、血中トリグリセリド、血中の各種コレステロール、インスリン抵抗性、アディポネクチン、レプチン、AMPK活性、エストロゲンなどの性ホルモン、遺伝的因子並びにin vivoマロニルCoA濃度等が知られている。
【0005】
現在、肥満及び/又はメタボリックシンドロームを改善するための最も有効な方法は、運動をして体重を減少させるとともに、食事を制限すること、即ち、エネルギー代謝を促進し、結果として体内における過剰エネルギーの消費を増大させるとともに、エネルギー蓄積を阻害することである。しかし、患者に厳しすぎる食事制限及び/又は大変な努力を必要とする治療を強いる必要なく、疾患が予防及び/又は治療されることが好ましい。
【0006】
ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(Diisopropylamine dichloroacetate:略称DADA)は、パンガミン酸の構成成分であり、安全性の高いビタミン様物質として知られている。DADAは、皮膚組織賦活作用による皮膚老化防止効果(特許文献1参照)、肝機能改善作用(例えば、非特許文献1参照)、抗疲労作用(特許文献2参照)を有することが知られている。さらに、DADAは皮膚血行促進剤又は細胞賦活剤として市販の化粧品に配合されており(例えば、特許文献3参照)、慢性肝疾患における肝機能の改善の効能を有する医薬品として供されてきている(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
DADAが、アロキサン投与モデルラットにおけるアロキサン投与直後の血糖値低下の効果を有することも知られている(非特許文献3−4)。これらの実験ではラットは事前にアロキサンを腹腔内投与することによりI型糖尿病の状態となり、DADA投与後数時間で血中グルコース濃度が最大に低下し、その後、血中グルコース濃度が速やかに上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭53−136528
【特許文献2】特開2010−138170
【特許文献3】特開昭61−56114
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】平山千里ほか:肝胆膵 Vol.6 No.4 1983 p.637-645
【非特許文献2】2009年版 医療用医薬品集 JAPIC 2008
【非特許文献3】Biochem Pharmacol 1962;11:823-827
【非特許文献4】Metabolism 1970;19(1):71-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
DADAにアロキサン投与動物における血糖低下作用があることは知られているものの、DADAと白色脂肪組織、特に内臓脂肪との関係は検討されていないし、そもそも、高血糖と肥満又はメタボリックシンドロームとの発生メカニズムは異なる。よって、DADAの肥満又はメタボリックシンドロームに対する効果は知られておらず示唆もない。
【0011】
従って、本発明の課題は、安全で、かつ優れた肥満及び/又はメタボリックシンドロームの予防又は治療のための組成物を提供することにする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために長年にわたり研究を重ねた結果、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(DADA)により、肥満及び/又はメタボリックシンドロームが改善され得る意外な事実を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを有効成分として含有する、肥満及び/又はメタボリックシンドロームを予防又は治療するための医薬組成物、
(2)白色脂肪重量を減少させる(1)に記載の医薬組成物、
(3)ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを有効成分として含有する、白色脂肪重量を減少させるための医薬組成物、
(4)白色脂肪重量を減少させることによって、哺乳動物の肥満及び/又はメタボリックシンドロームを予防及び/又は治療する(3)に記載の医薬組成物、
(5)ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンが、空腹時血糖値を低下させる(1)〜(4)のいずれか一項に記載の医薬組成物、
(6)白色脂肪が内臓脂肪である(2)〜(4)のいずれか一項に記載の医薬組成物、
(7)肥満が内臓脂肪型肥満である(1),(2),(4),(5)のいずれか一項に記
載の医薬組成物、ならびに
(8)経口投与される(1)〜(7)のいずれか一項に記載の医薬組成物、
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンは、安全かつ優れた肥満及び/又はメタボリックシンドロームを予防又は治療する作用を有するため、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】OLETFラットのジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(DADA)添加食群(Dada)、OLETFラットのDADA非添加群(Cont)における血中グルコース濃度(単位mg/dl)を示したものである。参考として、糖尿病を発症しないラット(LETOラット)のDADA非添加食群(Norm)の値も併せて示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「肥満」とは、白色脂肪が過度に増加することを指す(第124回日本医学会シンポジウム 肥満の科学 71〜81頁)。なお、日本肥満学会2000策定の肥満度の判定基準によればBMIが25以上であれば肥満とされているが、本明細書における「肥満」はBMIが25以上の状態も、BMIが25未満であっても体脂肪が多いいわゆる「かくれ肥満」も含む概念である(厚生労働省、“肥満ホームページへようこそ”、[平成24年5月10日検索]、インターネット<URL:http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/index.html>の“肥満って、どんな状態” [平成24年5月10日検索]、インターネット<http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/about.html>”及び[平成24年5月10日検索]、インターネット“肥満症を調べる検査”http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/inspection.html)。従って、肥満の根本的な原因である白色脂肪の重量を減少させることで、肥満の治療又は予防をすることができる。
【0016】
本明細書において、「メタボリックシンドローム」とは、内臓脂肪症候群を指し、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上を併せ持った状態をいう(厚生労働省、“メタボリックシンドロームを予防しよう”、[平成24年5月10日検索]、インターネット<URL:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/metabo02/index.html>の“メタボリックシンドロームってなに?”[平成24年5月10日検索]、インターネット<http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/metabo02/kiso/question/index.html>)。ここで、内臓脂肪型肥満とは、おなかの内臓のまわりに脂肪、すなわち内臓脂肪がたまるタイプの肥満を指す(厚生労働省、“メタボリックシンドロームを予防しよう”(同上)の“内臓脂肪型肥満ってなに?”[平成24年5月10日検索]、インターネット<http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/metabo02/kiso/question/what.html>)。従って、メタボリックシンドロームの根本的な原因である内臓脂肪の重量を減少させることで、メタボリックシンドロームの治療又は予防をすることができる。
【0017】
本明細書において、「白色脂肪」は、「皮下脂肪」と「内臓脂肪」とに大別される。
【0018】
本明細書において、「内臓脂肪」は腹部脂肪と同義であり、腹筋の内側の、内臓の周囲につく白色脂肪を指す。
【0019】
本明細書において、「治療」とは、白色脂肪重量、特には内臓脂肪重量を減少させることにより、疾患又は症状を治癒、軽減、改善、又は抑制することを意味する。
【0020】
本明細書において、「予防」とは、白色脂肪重量、特には内臓脂肪重量を減少させることにより、疾患又は症状の発症を阻止、抑制、又は遅延することを意味する。
【0021】
本発明の一つの態様によれば、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミン(DADA:Diisopropylamine dichloroacetate)を含有する、肥満及び/又はメタボリックシンドロームを予防又は治療する医薬組成物が提供される。
【0022】
本発明の別の態様によれば、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを含有する、白色脂肪重量を減少させるための医薬組成物が提供される。
【0023】
本発明のさらに別の態様によれば、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンを有効成分とする、肥満及び/又はメタボリックシンドロームの予防剤又は治療剤が提供される。
【0024】
一実施形態によれば、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンにより、空腹時血糖値が低下され得る。これにより、肥満及び/又はメタボリックシンドロームがさらにより効果的に予防及び/又は治療可能となる。 別の実施形態によれば、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンにより、血中レプチン濃度が低下され得る。
【0025】
さらに別の実施形態によれば、ジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンにより、血中インスリン濃度が低下され得る。
【0026】
一実施形態によれば、白色脂肪は内臓脂肪である。
【0027】
本発明における有効成分であるジクロロ酢酸ジイソプロピルアミンは、日本薬局方外医薬品規格2002に収載されており、広く市販されており容易に入手できる。白色脂肪を減少させることにより、哺乳動物の肥満及び/又はメタボリックシンドロームが予防及び/又は治療される。
【0028】
本発明は、白色脂肪のうち特に内臓脂肪の重量を減少させるが、全身の脂肪重量に対して蓄積抑制作用効果を発揮し得るため、皮下脂肪の重量も減少可能である。本発明の医薬組成物が投与される対象は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ヒト等、好ましくはヒト)である。
【0029】
本発明の医薬組成物は、種々の形態で投与でき、例えば、錠剤、カプセル剤、水剤、懸濁剤、乳剤、丸剤、散剤、液剤(シロップ剤を含む)、エリキシル剤等による経口投与、又は注射剤(静脈内、筋肉内、皮下又は腹腔内投与)、点滴剤、皮膚外用剤等による非経口投与を挙げることができる。経口製剤の場合、錠剤、カプセル剤、液剤が特に好ましい。皮膚外用剤の場合、これを1日1〜数回皮膚に塗布すればよい。
【0030】
上記の製剤には、本発明の効果を損なわない限り、DADAに加えて、他の薬効成分を配合することができる。また、製剤には更に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、安定剤、防腐剤、着色剤、界面活性剤、pH調節剤、矯味剤、風味剤、甘味剤、保存剤、香料等、一般に許容されている医薬添加剤成分を配合することができる。
【0031】
本発明の製剤は、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、常法(例えば第16改正日本薬局方製剤総則に記載の方法)に従って製造することができる。
【0032】
DADAの使用量は対象の症状、年齢、剤形等により異なるが、成人一人に対して1日当たり0.1〜2000mg、より好適には1〜1000mgを、1日当たり1〜6回、好ましくは1〜3回に分けて服用する。通常、成人1日20〜60mgを2〜3回に分けて分割経口投与する。
【0033】
投与期間は特に限定されないが、一定期間以上(例えば4日間以上、又は14日以上の長期)の投与が、肥満及び/又はメタボリックシンドロームの予防又は治療により有用である。
【0034】
また、DADAを含むペットフードは、イヌやネコなどの愛玩動物(伴侶動物とも呼ばれる)の肥満の抑制及び健康管理の目的で用いることができる。ペットフードには一匹に対して1日当たり0.1〜2000mg、より好適には1〜1000mgが摂取されるようにDADAを含有させ、投与期間はヒトの場合と同様とする。ペットフードの形態及びその製造方法は特に限定されず、当業者に適宜選択可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
実施例1 液剤
DADA25g、果糖ブドウ糖液糖100g、pH調整剤適量を混合し、精製水で全量1000gの液剤をpH5〜7になるように調製する。
実施例2 錠剤
DADA25g、乳糖350g、結晶セルロース125gを投入・混合し、結合剤として5%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧し造粒顆粒を調製する。得られた造粒顆粒49.5gにステアリン酸マグネシウム0.5gを混合・打錠して裸錠を調製する。
実施例3 散剤
DADA25g、乳糖350g、結晶セルロース125gを投入・混合し、結合剤として5%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧し散剤を調製する。
【0036】
試験例1 肥満モデルラットの病態発症の治療効果
(1)被験薬
DADAは目黒化工製のものを使用した。
(2)動物および予備飼育
コレシストキニン受容体変異により過食し肥満するII型糖尿病モデルであり、かつメタボリックシンドロームモデルでもある4週齢のOtsuka Long-Evans Tokushima Fatty(OLETF)ラット及びその対照としての雄Long-Evans Tokushima Otsuka(LETO)ラットを、日本SLC(浜松)から購入した。OLETFラット及びLETOラットについてはKawano, K., Hirashima, T., Mori, S., et al Spontaneous long-term hyperglycemic rat with diabetic complications Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty (OLETF) strain. Diabetes 41:1422-1428, 1992.参照。これらのラットは、12時間明暗サイクル(7-19時明期、19時-翌7時暗期)で室温23℃±2℃のもと、AIN-76組成に準じて調製した食餌(カゼイン20w/w%、コーンスターチ15w/w%、セルロース5w/w%、ミネラル混合物3.5w/w%、ビタミン混合物1w/w%、DL-メチオニン0.3w/w%、重酒石酸コリン0.2w/w%、コーン油7w/w%およびスクロース48w/w%)による予備飼育を1週間行った。
(3)本飼育
予備飼育終了後、LETOラットで構成されDADA非添加食を給餌される群(Norm群、n=6)、OLETFラットで構成されDADA非添加食を給餌される群(Cont群、n=6)、OLETFラットで構成されDADA添加食を給餌される群(Dada群、n=6)の3群を設定した。各群に給餌された実験試料の組成を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
4週間pair feeding(ただし、毎日午前9時から午後7時の間は絶食)により飼育を行い、飲料水として脱イオン水を自由摂取させた。pair feedingの結果、一匹の一日の摂餌量がLETOラット(Norm群)で約15.2g、OLETFラット(Cont及びDada群)で約18.7gとなった。 4週間のpair feedingの飼育初日と飼育最終日に動物の体重を測定した。また、4週間の飼育期間の餌の総摂食量を測定し、体重増加を総摂食量で除することにより摂食効率を算出した。
(4)試験試料の準備
本飼育終了後約9時間絶食させ、エーテル麻酔下で腹部大動脈全採血を行い、さらに、内臓脂肪組織(精巣上体周囲、腎臓周囲、腸管膜周囲)を摘出し、重量を測定し、分析に供した。血液は静置後、3000rmpで15分間(4℃)遠心分離して血清を得た。
(5)試験方法
血中レプチン濃度は、ラットレプチンELISA キット(Rat Leptin ELISA、YK050、(株)矢内原研究所)を用いて測定した。脂肪組織中の遺伝子発現量は、ABI Prism7000(Applied Biosystems)を用いて測定した。血清グルコース濃度は、グルコースCIIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。各値は平均値±標準誤差を表し、2群間の比較にはStudent’s t検定を用い、0.05未満のP値を統計的に有意とした。
【0039】
(試験結果)1.体重変化、摂食量、及び摂食効率
実験試料を4週間摂食させたラットの体重変化、摂食量、及び摂食効率を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
2.脂肪組織重量
実験試料を4週間摂食させたラットの内臓脂肪における白色脂肪組織重量を表3に示す。表3より、DADA摂食により、Dada群ではCont群に対し、精巣上体周囲、腎臓周囲、腸管膜周囲のいずれの白色脂肪組織重量も有意に低下することが認められ、3つの部位の合計では17%の有意な減少が認められた。すなわち、本来、白色脂肪が増加するはずの哺乳動物(例えば、Cont群)にDADAを投与することによりその白色脂肪の増加が明らかに抑制されている(例えば、Dada群)ことから、DADAは肥満又はメタボリックシンドロームの予防又は/及び治療に有用であることが示された。
【0042】
【表3】
【0043】
3.血清中レプチン濃度測定
上記(4)で準備した血清を用いて血中レプチン濃度をラットレプチンELISA キット(Rat Leptin ELISA、YK050、(株)矢内原研究所)を用いて測定したところ、単回帰分析により内臓脂肪組織重量と有意な正の相関が認められた(Y: レプチン= -0.23006 + 0.09760 X: 内臓脂肪組織重量, r=0.82726, p<0.05)。レプチンは、脂肪細胞のみから分泌されるアディポサイトカインであり、全身の脂肪組織重量と高い相関を示すことが知られていることから(Wolden-Hanson T, Marck BT, Smith L, Matsumoto AM. Cross-sectional and longitudinal analysis of age-associated changes in body composition of male Brown Norway rats: association of serum leptin levels with peripheral adiposity. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 1999 Mar;54(3):B99-107. 6)、DADA 摂取は、今回採取した内臓脂肪だけではなく、皮下脂肪も含めた全身の脂肪量に対して蓄積抑制作用を発揮することが示唆された。
【0044】
4.脂肪組織中遺伝子発現解析
脂肪組織中の遺伝子発現量の解析結果を表4に示す。なお、表においてはNorm群での遺伝子発現量を100とした場合の相対値を示している。
【0045】
表4より、Cont群とDada群を比較すると、DADA摂食により、脂肪の分解や熱産生に関わるUCP2の有意な発現増加及び脂肪細胞の分化・成熟を促すPPARγの有意な発現抑制が認められた。以上のことからDADA 摂取は白色脂肪組織において、熱産生や脂肪分解を亢進し、かつ脂肪細胞の分化・成熟の抑制を介して 抗肥満作用を発揮している事が示唆された。
【0046】
【表4】
【0047】
5.血清中グルコース濃度
実験試料を4週間摂食させた各ラット群の血清中のグルコース濃度(単位mg/dl)を図1に示す。Norm群は129±7mg/dl、Cont群は175±7 mg/dl、Dada群は112±5mg/dlであった。
【0048】
図1より、Cont群では野生型のNorm群と比較して血糖値が有意に増加しているが、DADAの投与により血中グルコース濃度の有意な低下が認められ、Cont群はDada群と比較して36%血糖値が低下した。このことから、DADAの長期間投与は高血糖改善作用を持つことが示された。
【0049】
試験例2 肥満モデルラットの病態発症の治療効果
(1)被検薬
試験例1と同一とした。
(2)動物および予備飼育
食餌による予備飼育を4日間とした以外は、試験例1と同一の条件とした。
(3)本飼育
給餌期間を4週間pair feedingの代わりに6週間のpair feedingとした以外は、試験例1と同一の条件とした。
(4)試験試料の準備
本飼育終了後約9時間絶食させ、エーテル麻酔下で腹部大動脈全採血を行った。さらに、肝臓、内臓脂肪組織(精巣上体周囲、腎臓周囲、腸管膜周囲)および大腿部の骨格筋を摘出した後、重量を測定し、分析に供した。
(5)試験方法
無麻酔条件下・尾静脈血中のヘモグロビンA1c(HbA1c)値は、グルコヘモグロビン分析装置(A1CNowプラスモニター、Byer HealthCare)を用いて測定した。血中のグルコース濃度は、グルコカードG+メーター(ARKRAY)を用いて測定した。血清グルコース濃度は、グルコースCIIテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。血清インスリン濃度は、レビスインスリン-ラットT(シバヤギ)を用いて測定した。血清レプチン濃度は、ラットレプチンELISA キット(Rat Leptin ELISA、YK050、(株)矢内原研究所)を用いて測定した。肝臓グリコーゲン濃度は、Loらの方法(J.Appl.Physiol., 28,234-236,1970.)により測定した。各値は平均値±標準誤差を表し、2群間の比較にはStudent’s t検定を用い、0.05未満のP値を統計的に有意とした。
【0050】
(試験結果)
1.体重変化、摂食量、及び摂食効率
実験試料を6週間摂食させたラットの体重変化、摂食量、及び摂食効率を表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
2.脂肪組織重量
実験試料を6週間摂食させたラットの内臓脂肪における白色脂肪組織重量を表6に示す。表6より、DADA摂食により、Cont群ではNorm群に対し、精巣上体周囲、腎臓周囲、腸管膜周囲のいずれの白色脂肪組織重量も有意に増加することが認められた。一方、Dada群ではCont群に対し、精巣上体周囲、腎臓周囲、腸管膜周囲のいずれの白色脂肪組織重量も有意に低下することが認められ、3つの部位の合計では約29%の有意な減少が認められた。すなわち、本来、白色脂肪が増加するはずの哺乳動物(例えば、Cont群)にDADAを投与することによりその白色脂肪の増加が明らかに抑制されている(例えば、Dada群)ことから、DADAは肥満又はメタボリックシンドロームの予防又は/及び治療に有用であることが示された。
【0053】
【表6】
【0054】
3.血中のヘモグロビンA1cおよびグルコース濃度
本飼育39日目に、無麻酔条件下でラット尾静脈から血液を採取し、その血液をそのままヘモグロビンA1c(HbA1c)値の測定に供した。一方、血中のグルコース濃度の測定には、本飼育終了後に腹部大動脈から得た血液をそのまま使用した。HbA1cおよびグルコース濃度ともCont群ではNorm群に対し有意に増大しているが、Dada群ではCont群に対しHbA1c値が有意に低下し、グルコース濃度も低下傾向にあった(表7)。このことから、DADAの投与によりOLETFラットにおける血糖の状態が改善していることが示された。
【0055】
【表7】
【0056】
4.血清中のグルコース、インスリン及びレプチン濃度
腹部大動脈から得た血液を静置後、3000rmpで15分間(4℃)遠心分離して血清を得た。血清中のグルコース、インスリン、レプチンの値を測定したところ、いずれの指標でもNorm群に対するCont群での有意な増加と、Cont群に対するDada群での有意な低下が認められた(表8)。グルコース及びインスリンの低下はDADAの抗血糖作用を示すと共に、レプチンの低下はDADAの脂質代謝の改善作用、特に抗肥満作用を示している。
【0057】
【表8】
【0058】
5.肝臓グリコーゲン量
DADA投与によるラット肝グリコーゲン量への影響を調べたところ、Dada群ではCont群に対し肝臓グリコーゲン量が有意に増加していることが分かった(表9)。このことから、DADAの投与により、肝臓におけるグリコーゲン合成が亢進され、抗血糖作用が増大していることが示された。
【0059】
【表9】
図1