特許第6103992号(P6103992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103992
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ポリイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   C08G73/10
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-43417(P2013-43417)
(22)【出願日】2013年3月5日
(65)【公開番号】特開2014-172911(P2014-172911A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森岡 聖晴
(72)【発明者】
【氏名】玉腰 英明
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−516917(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/010385(WO,A1)
【文献】 Jasinska,Lidia;Villani,Maurizio;Wu,Jing;van Es,Daan;Rastogi,Sanjay;Koning,Cor E.,SYNTHESIS AND CHARACTERIZATION OF NOVEL RENEWABLE,DIAMINOISOIDIDE-BASED POLYAMIDES,Polymer Preprints,American Chemical Society,Division of Polymer CHemistry,2011年 3月31日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表わされるポリアミック酸を脱水閉環することで形成されるポリイミド。
【化1】
[式中、Aの全てまたは一部が、以下の式(II)で表わされる基であり;
【化2】
ここで、式(II)中の環上の水素原子の一部または全ては置換されていてもよく;
は、以下の式(III)で表わされる基であり;
【化3】
は、Hであるか、または、以下の一般式(IV)、(V)もしくは(VI)で表わされる基であり;
【化4】
【化5】
【化6】
ここで、Dは、テトラカルボン酸残基であり;
は、ジカルボン酸残基であり;
nは、1〜200の整数である。]
【請求項2】
請求項1に記載のポリイミドの前駆体であるポリアミック酸。
【請求項3】
ポリアミック酸の製造方法であって、
以下の式(VII)で表わされる化合物または以下の式(VII)で表わされる化合物と他のジアミンとの混合物と、以下の一般式(VIII)で表わされる化合物とを反応させるアミド化工程を含む、製造方法。
【化7】
[式中、環上の水素原子の一部または全ては置換されていてもよい]
【化8】
[式中、Dは、テトラカルボン酸残基である]
【請求項4】
前記アミド化工程において、前記式(VII)で表わされる化合物および前記一般式(VIII)で表わされる化合物と、以下の一般式(IX)で表わされる化合物とを同時に反応させるか、または、
前記アミド化工程により得られたポリアミック酸に、以下の一般式(IX)で表わされる化合物をさらに反応させる、請求項3に記載の製造方法。
【化9】
[式中、Dは、ジカルボン酸残基である]。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法によりポリアミック酸を得た後、得られたポリアミック酸を脱水閉環する工程を含むことを特徴とする、ポリイミドの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリイミド、および請求項2に記載のポリアミック酸からなる群より選択される少なくとも1つの重合体、ならびに溶剤を含有する、樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のポリイミド、その前駆体となるポリアミック酸、並びに、前記ポリイミド及びポリアミック酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、耐熱性や機械特性に優れることから、エレクトロニクス分野で幅広く使用されている。従来、ポリイミドは溶媒に溶けないことが多いため、一般に、前駆体のポリアミド酸(ポリアミック酸)の溶液を基材に塗布し、250℃以上という高温で加熱することにより、溶媒の除去およびイミド化を行うことで成形(フィルム化)されていた。しかしながら、この方法には、高温での加熱により、基材や周辺材料が劣化する場合があるという欠点があった。そのため、より低温での成形が可能となるよう、溶媒に可溶なポリイミドが求められていた。
【0003】
ポリイミドを溶媒可溶型にする方法として、主鎖に脂肪族基を導入して柔軟な屈曲構造にする方法が知られている。しかし、この方法を用いた場合、ポリイミドのガラス転移点が下がることでポリイミド本来の特徴である耐熱性が損なわれるという問題があった。例えば、非特許文献1に示されるイソプロピル基含有ポリイミドでは、215℃と低いガラス転移点を示す。
【0004】
また、シリコーンジアミンを利用するポリイミドも溶剤可溶性となることが知られている。しかしながら、特許文献1に示されるシリコーン変性ポリイミドのガラス転移点は170から190℃であり、低いガラス転移点となっている。
【0005】
そのほか、嵩高い構造を有するポリイミドも、ポリマー間の凝集を抑え、溶剤可溶性を高めることが知られている。例えば、非特許文献2では、テトラフェニル基を持つポリイミドが開示されている。しかしながら、このようなポリイミドの原料は工業的に入手が困難という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−112760号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】機能材料, vol.19, 1989, p.14
【非特許文献2】Polym. J., vol.29, 1994, p.273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、高い耐熱性を維持しながら、溶剤溶解性に優れたポリイミドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポリイミドを合成する際に使用するジアミン成分の全部又は一部として、アンヒドロヘキシトール型ジアミン成分を使用することによって、溶媒溶解性に優れ、高い耐熱性を示すポリイミドを合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の一般式(I)で表わされるポリアミック酸を脱水閉環することで形成されるポリイミドである。
【0011】
【化1】
【0012】
[式中、Aの全てまたは一部が、以下の式(II)で表わされる基であり;
【0013】
【化2】
【0014】
ここで、式(II)中の環上の水素原子の一部または全ては置換されていてもよく;
は、以下の式(III)で表わされる基であり;
【0015】
【化3】
【0016】
は、Hであるか、または、以下の一般式(IV)、(V)もしくは(VI)で表わされる基であり;
【0017】
【化4】
【0018】
【化5】
【0019】
【化6】
【0020】
ここで、Dは、テトラカルボン酸残基であり;
は、ジカルボン酸残基であり;
nは、1〜200の整数である。]
また、本発明は、前記ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸にも関する。
【0021】
さらに本発明は、ポリアミック酸の製造方法であって、
以下の式(VII)で表わされる化合物または以下の式(VII)で表わされる化合物と他のジアミンとの混合物と、以下の一般式(VIII)で表わされる化合物とを反応させるアミド化工程を含む、製造方法にも関する。
【0022】
【化7】
【0023】
[式中、環上の水素原子の一部または全ては置換されていてもよい]
【0024】
【化8】
【0025】
[式中、Dは、テトラカルボン酸残基である]
前記製造方法では、前記アミド化工程において、前記式(VII)で表わされる化合物および前記一般式(VIII)で表わされる化合物と、以下の一般式(IX)で表わされる化合物とを同時に反応させるか、または、
前記アミド化工程により得られたポリアミック酸に、以下の一般式(IX)で表わされる化合物をさらに反応させることが好ましい。
【0026】
【化9】
【0027】
[式中、Dは、ジカルボン酸残基である]。
【0028】
さらにまた、本発明は、前記製造方法によりポリアミック酸を得た後、得られたポリアミック酸を脱水閉環する工程を含むことを特徴とする、ポリイミドの製造方法にも関する。
【0029】
さらに本発明は、前記ポリイミド、前記ポリアミック酸、前記製造方法により得られるポリアミック酸、および前記製造方法により得られるポリイミドからなる群より選択される少なくとも1つの重合体、ならびに溶剤を含有する、樹脂組成物にも関する。
【0030】
また本発明は、前記樹脂組成物から形成された成形品にも関する。
【発明の効果】
【0031】
本発明により提供されるポリイミドは、高い耐熱性を維持しながら、溶剤溶解性に優れたものである。このため、ポリイミドを溶媒に溶かして溶液とすることができ、この溶液を基材に塗布して溶媒の沸点以上という比較的低温に加熱するだけで、ポリイミドのフィルムを当該基材上に形成することができる。このように低温でのフィルム化が可能であるため、基材や周辺材料が熱劣化するのを回避することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のポリイミドは、以下の一般式(I)で表わされるポリアミック酸を脱水閉環することで形成されるものである。当該ポリアミック酸はポリイミドの前駆体であり、高温下または脱水剤の存在下で反応させることにより、ポリアミック酸内部のアミド基中のNH基とカルボキシル基(B中のカルボキシル基)が脱水縮合して環を形成することで、ポリイミドが形成される。
【0033】
【化10】
【0034】
式(I)中、Aの全てまたは一部が、以下の式(II)で表わされる基である。本発明のポリイミドは当該基が含まれるために、高い耐熱性を維持しながら、優れた溶剤溶解性を示すことができるものである。
【0035】
【化11】
【0036】
本発明では、複数存在するAの全てが式(II)で表される基であってよい。また、Aの一部が式(II)で表される基であり、残りのAが、従来のポリイミドの合成で使用されるジアミン化合物の残基(ジアミン化合物から2つのアミノ基を除外した残りの基)であってもよい。この時、式(II)で表される基の含有比は、本発明の効果を達成できる限り特に限定されないが、A全体のうち10モル%以上のAが式(II)で表される基であることが好ましい。より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、特に好ましくは70モル%以上である。なお、複数存在するジアミン化合物の残基は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0037】
また、本発明の効果を達成できる限りにおいて、式(II)中の環上の水素原子の一部または全ては置換されていてもよい。例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等のC1−20アルキル基等)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3−10シクロアルキル基等)、シクロアルケニル基(シクロペンテル基、シクロヘキセル基等のC3−10シクロアルケニル基等)、複素環基(酸素原子、窒素原子、硫黄原子といったヘテロ原子を含むC2−10複素環基等)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)等)等のC6−10アリール基等]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基等のC6−10アリール−C1−4アルキル基等)、メチレン基、ビニル基、アリル基等の炭化水素基、アルコキシ基(メトキシ基等のC1−4アルコキシ基等)、ヒドロキシル基、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルキレンオキシ基等)、アシル基(アセチル基等のC1−6アシル基等)、オキシ基、チオキシ基、ホスフィノ基、ハロゲノ基(フルオロ基、クロロ基等)、アミノ基、イミノ基、N−オキシド基、ニトロ基、シアノ基といった置換基でそれぞれ独立して置換されていてもよい。
【0038】
また、式(I)中のBは、以下の式(III)で表わされる基である。
【0039】
【化12】
【0040】
当該式(III)で、Dは、テトラカルボン酸残基である。テトラカルボン酸としては、従来のポリイミドの合成で使用されるテトラカルボン酸(例えば無水ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等)が挙げられるが、カルボキシル基を4個有し、これらカルボキシル基が2個の酸無水物基を形成できる化合物であれば特に限定されない。テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸から4個のカルボキシル基を除外した残りの基をいう。複数のDは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
さらに、式(I)中のBは、Hであるか、または、以下の一般式(IV)、(V)もしくは(VI)で表わされる基である。
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
【化15】
【0045】
式(IV)及び(V)中のDは、テトラカルボン酸残基であり、式(III)中のDと同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、式(IV)及び(V)中の複数のDは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
式(VI)中のDは、ジカルボン酸残基である。ジカルボン酸としては、カルボキシル基を2個有し、これらカルボキシル基が酸無水物基を形成できる化合物であれば特に限定されない。ジカルボン酸残基とは、ジカルボン酸から2個のカルボキシル基を除外した残りの基をいう。複数のDは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
式(I)中のnは、繰り返し単位の数を表す数字であり、特に限定されないが、例えば、1〜200の整数である。
【0048】
式(I)で表されるポリアミック酸は、一部にイミド結合を持つものであってもよい。
【0049】
式(I)で表されるポリアミック酸を高温下または脱水剤の存在下に置くことにより、ポリアミック酸内部のアミド基中のNH基とカルボキシル基が脱水縮合して環を形成することで、本発明のポリイミドが形成される。
【0050】
式(I)で表されるポリアミック酸は、以下の式(VII)で表わされる化合物または以下の式(VII)で表わされる化合物と他のジアミンとの混合物と、以下の一般式(VIII)で表わされる化合物とを反応させるアミド化工程を実施することにより製造することが可能である。
【0051】
【化16】
【0052】
【化17】
【0053】
本発明の効果を達成できる限りにおいて、式(VII)中の環上の水素の一部または全ては置換されていてもよい。例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等のC1−20アルキル基等)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3−10シクロアルキル基等)、シクロアルケニル基(シクロペンテル基、シクロヘキセル基等のC3−10シクロアルケニル基等)、複素環基(酸素原子、窒素原子、硫黄原子といったヘテロ原子を含むC2−10複素環基等)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)等)等のC6−10アリール基等]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基等のC6−10アリール−C1−4アルキル基等)、メチレン基、ビニル基、アリル基等の炭化水素基、アルコキシ基(メトキシ基等のC1−4アルコキシ基等)、ヒドロキシル基、ヒドロキシ(ポリ)アルキレンオキシ基(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルキレンオキシ基等)、アシル基(アセチル基等のC1−6アシル基等)、オキシ基、チオキシ基、ホスフィノ基、ハロゲノ基(フルオロ基、クロロ基等)、アミノ基、イミノ基、N−オキシド基、ニトロ基、シアノ基といった置換基でそれぞれ独立して置換されていてもよい。
【0054】
式(VII)で表される化合物は、例えば、ソルビトールから取得されたイソソルビドが持つ2つの水酸基を、2つのアミノ基に変換することで合成することができる。具体的な合成方法はTetrahedron, 67, 2011, p.383-389に開示されている。本願の実施例で使用したイソソルビドジアミンの構造を以下に示す。
【0055】
【化18】
【0056】
式(VII)で表される化合物と併用可能な他のジアミンとしては特に限定されず、ポリイミドの原料として使用可能な、アミノ基を2個有する化合物であればよく、例えば、芳香族ジアミン、脂環族ジアミン、脂肪族ジアミン等を挙げることができる。芳香族ジアミンとしては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′−ジアミノジフェニルエーテル、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルエスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,4′−ジアミノジフェニルメタン、2,2′−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ) ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル等が挙げられる。また、脂環族ジアミンとしては、イソホロンジアミン、4,4‘−メチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンビス(メチルアミン)、1,3−ジアミノアダマンタン、1,3−ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,4−ビス(アミノメチル)ベンゼン等が、脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン等が挙げられる。このようなジアミンは本発明において使用してもよいし、使用しなくともよいが、使用する場合には、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
一般式(VIII)で表わされる化合物は、テトラカルボン酸の酸無水物である。本発明で使用できるテトラカルボン酸としては特に限定されず、ポリイミドの原料として使用可能な、酸無水物基を2個有する化合物であればよく、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,4,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3′,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,4,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3′,4′−オキシジフタル酸無水物、3,4,3′,4′−オキシジフタル酸無水物、3,4,3′,4′−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,4,3′,4′−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、4,4′−ヘキサフルオロイソプロピリデンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、脂環族テトラカルボン酸二無水物としては、シクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−カルボキシメチル−2,3,5−シクロペンタントリカルボン酸−2,6:3,5−二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物等が、脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸の酸無水物としては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
ジアミン(式(VII)で表される化合物と他のジアミンの合計)とテトラカルボン酸の酸無水物は実質的に等モルとなるように使用すればよい。これらを有機溶媒中で反応させることでポリアミック酸を合成することができる。
【0059】
この際に使用できる有機溶媒としては、ジアミンと酸無水物を溶解できるものであり、例えば、N,N′−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N′−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルフォスフォラミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
また、ジアミンとテトラカルボン酸の酸無水物を反応させる際には、ジカルボン酸の酸無水物を同時に反応させてもよく、また、ジアミンとテトラカルボン酸の酸無水物を反応させた後に、ジカルボン酸の酸無水物をさらに反応させてもよい。ジカルボン酸の酸無水物は、以下の一般式(IX)で表わされる。このようなジカルボン酸の酸無水物を反応させることで、ポリアミック酸又はポリイミドの末端に、上述した式(VI)で表される基を導入することができる。
【0061】
【化19】
【0062】
以上のようにして得られたポリアミック酸を脱水閉環することによりイミド化を実施し、本発明のポリイミドを得ることができる。脱水閉環は、加熱下または脱水剤の存在下で実施することができる。
【0063】
加熱下でイミド化を行う際の温度としては、従来のイミド化時と同様の温度を適用することができる。例えば、200〜500℃程度であるが、この温度に限定されるものではない。
【0064】
脱水剤の存在下でイミド化を行う場合には、従来のイミド化時と同様、例えば、脱水剤として、無水酢酸、無水プロピオン酸等の有機酸無水物を利用し、触媒として、ピリジン、ピコリン、トリエチルアミン等の有機塩基を併用することができる。イミド化後、脱水剤、触媒塩基を除去してもよい。
【0065】
本発明のポリイミドまたはポリアミック酸は、これを溶解する溶媒に溶解させることで樹脂組成物を構成することができる。特に本発明のポリイミドは、溶剤溶解性を持つものであるので、ポリイミドの溶液を得ることができ、従来のポリイミドと比較して有利である。
【0066】
このような樹脂組成物から溶媒を除去することで成形品を製造することができる。具体的には、前記樹脂組成物を基材上に塗布し、その後、溶媒を加熱下又は減圧下除去することにより、基材上にフィルムを形成することができる。ポリアミック酸を含む樹脂組成物の場合、塗布後にイミド化を進行させて、ポリイミドからなる成形品を得るために、基材上の樹脂組成物を、イミド化可能な高温下に置くことが好ましい。一方、ポリイミドを含む樹脂組成物の場合、基材に塗布後、溶媒が揮発するのに必要な温度下に置くだけで、基材上にフィルムを形成することができる。そのため、より低温での成形が可能となり、基材及び周辺部材として、耐熱性の高いものを使用する必要がないという利点がある。
【0067】
本発明のポリイミドは、溶剤溶解性を示すことに加えて、高い耐熱性を示すものである。従って、従来のポリイミドの代替品として好適に使用することができる。本発明の樹脂組成物および成形品を使用できる用途としては特に限定されないが、例えば、電子回路材料の絶縁基材、多層配線基板の層間絶縁材料、半導体素子の表層の保護膜、レジスト材料、顔料分散体のバインダー樹脂、塗料およびインキ組成物、各種耐熱性樹脂組成物の添加剤、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0068】
(ガラス転移温度の測定方法)
JIS K7121に基づき、セイコーインスツル社製 DSC6220により、窒素を毎分50mlで流しながら、毎分20℃の速度で100℃から300℃まで昇温し、ガラス転移温度を測定した。
【0069】
(5%重量減少温度の測定方法)
JISK−7210に基づき、セイコーインスツル社 TG/DTA6200により、窒素を毎分100mlで流しながら、毎分10℃の速度で100℃から600℃まで昇温し、初期重量から5%減量した時の温度を測定した。
【0070】
(実施例1:樹脂A)
300mL四つ口フラスコ中に、イソソルビドジアミン14.4gおよびN−メチル−2−ピロリドン144.8gを仕込み、窒素ガスを流入させながら溶解させた。溶解後、撹拌しながら無水ピロメリット酸21.8gを、1時間かけて仕込み、室温で8時間、200℃に加熱して24時間撹拌し、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分20%)を得た。得られたポリイミド溶液を1000mlのメタノール中に注ぎ、沈殿したポリイミドをろ過により回収し、200℃にて2時間乾燥させることにより、淡褐色粉末状のポリイミド35gを得た。
【0071】
得られたポリイミドについて、ガラス転移温度、および5%重量減少温度を測定した。結果を表1に示す。なお、ガラス転移温度、および5%重量減少温度は耐熱性の指標である。
【0072】
また、得られたポリイミドについて、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンそれぞれに対する溶解性(ポリイミド20重量%、常温下で攪拌)を確認したところ、いずれの溶媒にも溶解した。
【0073】
(実施例2:樹脂B)
300mL四つ口フラスコ中に、イソソルビドジアミン14.4gおよびN−メチル−2−ピロリドン151gを仕込み、窒素ガスを流入させながら溶解させた。溶解後、撹拌しながら無水ピロメリット酸17.4gを、1時間かけて仕込み、室温で8時間撹拌した。その後、無水フタル酸5.9gを1時間かけて仕込み、室温で8時間撹拌した。200℃に加熱して24時間撹拌し、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分20%)を得た。得られたポリイミド溶液を1000mlのメタノール中に注ぎ、沈殿したポリイミドをろ過により回収し、200℃にて2時間乾燥させることにより、淡褐色粉末状のポリイミド35gを得た。
【0074】
得られたポリイミドについて、ガラス転移温度、および5%重量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0075】
また、得られたポリイミドについて、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンそれぞれに対する溶解性(ポリイミド20重量%、常温下で攪拌)を確認したところ、いずれの溶媒にも溶解した。
【0076】
(実施例3:樹脂C)
300mL四つ口フラスコ中に、イソソルビドジアミン14.4gおよびN−メチル−2−ピロリドン175.2gを仕込み、窒素ガスを流入させながら溶解させた。溶解後、撹拌しながらビフェニルテトラカルボン酸二無水物29.4gを、1時間かけて仕込み、室温で8時間撹拌した。その後、室温で8時間撹拌した。200℃に加熱して24時間撹拌し、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分20%)を得た。得られたポリイミド溶液を1000mlのメタノール中に注ぎ、沈殿したポリイミドをろ過により回収し、200℃にて2時間乾燥させることにより、淡褐色粉末状のポリイミド35gを得た。
【0077】
得られたポリイミドについて、ガラス転移温度、および5%重量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
また、得られたポリイミドについて、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンそれぞれに対する溶解性(ポリイミド20重量%、常温下で攪拌)を確認したところ、いずれの溶媒にも溶解した。
【0079】
(実施例4:樹脂D)
300mL四つ口フラスコ中に、イソソルビドジアミン11.5g、4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン4.2gおよびN−メチル−2−ピロリドン149.8gを仕込み、窒素ガスを流入させながら溶解させた。溶解後、撹拌しながら無水ピロメリット酸21.8gを、1時間かけて仕込み、室温で8時間撹拌した。その後、200℃に加熱して24時間撹拌し、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分20%)を得た。得られたポリイミド溶液を1000mlのメタノール中に注ぎ、沈殿したポリイミドをろ過により回収し、200℃にて2時間乾燥させることにより、淡褐色粉末状のポリイミド40gを得た。
【0080】
得られたポリイミドについて、ガラス転移温度、および5%重量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0081】
また、得られたポリイミドについて、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンそれぞれに対する溶解性(ポリイミド20重量%、常温下で攪拌)を確認したところ、いずれの溶媒にも溶解した。
【0082】
(比較例1:樹脂E)
300mL四つ口フラスコ中に、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル20.0gおよびN−メチル−2−ピロリドン167.2gを仕込み、窒素ガスを流入させながら溶解させた。溶解後、撹拌しながら無水ピロメリット酸21.8gを、1時間かけて仕込み、室温で8時間撹拌した。その後、200℃に加熱して24時間撹拌し、ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン分散液(固形分20%)を得た。得られたポリイミド溶液を1000mlのメタノール中に注ぎ、沈殿したポリイミドをろ過により回収し、200℃にて2時間乾燥させることにより、淡褐色粉末状のポリイミド35gを得た。
【0083】
得られたポリイミドについて、ガラス転移温度、および5%重量減少温度を測定した。結果を表1に示す。
【0084】
また、得られたポリイミドについて、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンそれぞれに対する溶解性(ポリイミド20重量%、常温下で攪拌)を確認したところ、いずれの溶媒にも不溶であった。
【0085】
【表1】
【0086】
以上の結果から、本発明のポリイミドは、高い耐熱性(ガラス転移温度、5%重量減少温度)を維持しながら、溶剤溶解性に優れたものであることが分かる。