(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不働態皮膜中の平均Crカチオン分率が50%以上であり、Tiの炭窒化物が鋼素地中に分布しており、断面観察により求まる炭窒化物の面積率fが0.04%以上であり、露出したTi炭窒化物の表面XPS分析における、TiO2に対するTi2O3の強度比が0.6以上であり、接触抵抗が10mΩ・cm2未満であることを特徴とする、接点部材用ステンレス鋼板。
更に、NbまたはWの炭窒化物が鋼素地中に分布しており、断面観察により求まる炭窒化物の面積率fが0.04%以上である、請求項1または2に記載の接点部材用ステンレス鋼板。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器等に組み込まれ、銅電線を接続するハーネス等の配線端子には、導電性の良好な銅系材料が従来から使用されている。銅系材料のなかでも、内部抵抗が小さくばね性に優れた冷間圧延材が多用されている。軟質で伸びが低い冷間圧延材は、打抜き加工で小型で精密な部品を製造する際、加工面に加わる打抜き荷重が小さく、バリも発生しにくいことからパンチ,ダイの破損や摩耗が少なく、打抜き加工に適した材料である。
【0003】
しかし、銅系材料は、耐食性に劣る。銅系材料から作製された電気配線端子を露出状態で使用すると、表面酸化が進行して表面接触電気抵抗が増加し、電気部品や電子部品の特性が変わることがある。表面酸化による表面接触電気抵抗の増加は、Sn,Ni等のめっきにより抑制できる。しかし、めっき工程を必要とするため製品コストが高くなり、使用環境によっては必要な耐食性を付与できない場合もある。
【0004】
そこで、電気部品や電子部品等に組み込まれる電気接点材料の中で、弱電流が流れる配線端子では接続部品の内部抵抗に起因する発熱を考慮する必要がないことから、耐食性,ばね性に優れたステンレス鋼を配線端子の基材に使用することが検討されている。
【0005】
ステンレス鋼の表面には、Crの酸化物および水酸化物を主体とした不働態皮膜が形成されており、環境から母材を遮断することで優れた耐食性を発揮する。しかし、これは同時に接点材料にとって重要な電気伝導性を低下させる原因ともなっている。したがって、ステンレス鋼を接点材料として適用するには、接触抵抗の低下が不可欠である。
【0006】
特許文献1には、Cuを主体とする第二相を析出させ、或いはCu濃化層をステンレス鋼表面に形成させることにより、接点材料に要求される低接触抵抗を呈するステンレス鋼が開示されている。しかし、Cuを主体とする第二相を析出させたステンレス鋼やCu濃化層を鋼板表面に生成させたステンレス鋼は、使用環境によっては、使用期間の長期化に伴い、接触抵抗が上昇する場合があり、長期信頼性に欠ける。また、Cuは腐食環境においては溶出し、酸化剤として腐食を促進させるため、耐食性の低下を招く。
【0007】
特許文献2には、上記のCu主体の第二相、Cu濃化層に加えて、極薄いNiめっき層を部分的に形成することで、犠牲防食作用によりCu主体の第二相、Cu濃化層の腐食およびそれに伴う接触抵抗の上昇の発生しにくい、湿潤雰囲気で長期間使用した後でも低接触抵抗を示すステンレス鋼製接点材料が開示されている。しかし、これはNiめっきを行うことによるコスト上昇、製造工程数増加を伴う。
【0008】
特許文献3には、ステンレス鋼表面に導電性を有する炭化物系金属介在物および硼化物系金属介在物を分散、露出させた通電部品用ステンレス鋼および固体高分子型燃料電池が開示されている。しかし、通常のステンレス鋼で認められる炭化物系金属介在物および硼化物径金属介在物はCr、TiまたはNbを主成分としたものである。これらの炭化物および硼化物そのものは導電性を示すものの、ステンレス鋼の製造において必ず行われる工程である焼鈍、酸洗により、炭化物および硼化物の表面には、主成分元素の酸化物および水酸化物を主体とした不働態皮膜が形成されている。上述のように、不働態皮膜は極めて高い電気抵抗率を示す。したがって、Cr、TiまたはNbを主成分とした炭化物および硼化物は、焼鈍・酸洗工程を伴う限り、不働態皮膜の働きにより通電部として機能することはない。通常のステンレス鋼にはあまり含有されていないV、Wの炭化物および硼化物についても同様であり、製造工程において不働態皮膜が形成され、電気伝導を阻害する。上記以外の元素を主成分とした炭化物ならびに硼化物を用いる場合、追加元素の添加によるコストの増大、製造性の低下、機械的特性や耐食性の低下を伴うことになる。
【0009】
特許文献4には、ステンレス鋼表面にTiNを形成させ、接触抵抗を低減した固体高分子型燃料電池用セパレータに適したフェライト系ステンレス鋼が開示されている。しかし、表層にTiN層を形成させるための雰囲気熱処理を行う必要があり、外観の黒色化や接合性の低下、製造コストの増大を伴う。また、高温で処理を行うため、最表層に形成されているのはTiO
2不働態皮膜であり、形成された層の抵抗率は、TiN本来の接触抵抗と比較して高い値を示すことになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、コストの増大や特性の低下を伴うことなく、接触抵抗が低い接点材料用ステンレス鋼板、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、詳細な研究の結果、電解処理または浸漬処理により、炭化物系金属介在物ならびに窒化物系金属介在物の表面に形成された不働態皮膜を改質することで、通電部として機能させると共に、Cr、Ti、Al等の酸化皮膜形成元素を最適化することにより、低接触抵抗と優れた耐食性、低コストを兼ね備えた接点部材に好適なステンレス鋼板が実現可能なことを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、不働態皮膜中の平均Crカチオン分率が50%以上であり、Tiの炭窒化物が鋼素地中に分布しており、断面観察により求まる炭窒化物の面積率fが0.04%以上であり、露出したTi炭窒化物の表面XPS分析における、TiO
2に対するTi
2O
3の強度比が0.6以上であり、接触抵抗が10mΩ・cm
2未満であることを特徴とする、接点部材用ステンレス鋼板である。
【0014】
第2の発明は、更に不働態皮膜中の平均Moカチオン分率が5%以上である接点部材用ステンレス鋼板である。
【0015】
第3の発明は、更にNbまたはWの炭窒化物が鋼素地中に分布し、断面観察により求まる炭窒化物の面積率fが0.04%以上である、請求項1または2に記載の接点部材用ステンレス鋼板である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の接点材料用ステンレス鋼板は、表面に露出した介在物が有効な通電部として働くことにより、接触抵抗が低下する。介在物表面の改質は追加の添加元素を必要としないため、コストの増大や加工性・製造性も通常のステンレス鋼と同様である。また、製品としての加工後においても、介在物は表面に残存し続け、低接触抵抗が維持される。さらに、不働態皮膜中のCrカチオン分率は通常のステンレス鋼と同程度以上であるため、耐食性も維持される。ステンレス鋼であるためばね特性も良好である。
したがって、本発明は、接点部材において、耐食性およびばね特性を改善することで装置の長寿命化に対応でき、機器のコスト低減に寄与しうる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述のように、弱電流を用いる接点部材の長寿命化のためには、高耐食性・良ばね性を有するステンレス鋼が好適となる。ステンレス鋼の高耐食性は、表面に形成された不働態皮膜による。不働態皮膜はCrとFeの酸化物・水酸化物からなり、腐食環境における不働態皮膜の安定性は、一般に不働態皮膜中のCrカチオン分率に比例する。
【0018】
しかし、Crの酸化物・水酸化物は抵抗率が極めて高いため、不働態皮膜中のCrカチオン分率が高いほどステンレス鋼の接触抵抗は増大し、接点部材として用いることが困難になる。すなわち、通常のステンレス鋼においては、接触抵抗と耐食性はトレードオフの関係にあり、両立ができない特性である。種々の検討の結果、このような問題を解決するために、本発明では、不働態皮膜中のCrカチオン分率は維持したまま、表面に露出している各種介在物の表面のみを改質し、良好な通電部として機能させる方法を見出した。
【0019】
〔ステンレス鋼中の介在物〕
ステンレス鋼には、その製造条件に由来した、不可避の介在物が存在する。耐火物からのAl
2O
3やMgO、脱酸剤および合金元素として添加されたSiからのSiO
2、不純物であるSからのMnS、TiS、そして、鋭敏化を防ぐ目的で母材中のCおよびNを固定するために添加されたTi、NbからのTi、Nb炭窒化物である。
〔導電性の介在物〕
この中で、Ti、Nb炭窒化物は、本質的に高い導電性を有する。しかし、Ti、Nbの炭窒化物は、材料表面に露出した場合、表層にTiO
2やNbOからなる不働態皮膜を形成する。これらはCrの不働態皮膜と同様に抵抗率が極めて高いため、結果として、Ti、Nbの炭窒化物は通電部として有効に機能しないことになる。
【0020】
発明者らは、詳細な検討の結果、酸性溶液への浸漬または溶液中にて特定の電位に保持することで、TiC、TiNの表面に形成されたTiO
2不働態皮膜の一部を、導電性を有するTi
2O
3に変化させ得ることを見出した。これにより、導電性介在物であるTiC、TiNの表面に形成された不働態皮膜の抵抗率を著しく低下させ、通電部として機能させることが可能となった。
【0021】
ここで、TiO
2からTi
2O
3への変化量については、介在物表層の組成の一部を変質させる処理であることから、定量的評価が困難である。発明者らは、種々の条件で処理を行い接触抵抗と介在物表層のXPS測定結果との関係を検討した。その結果、通電部として実用上十分な接触抵抗を得るためには、露出しているTi炭窒化物の表層をXPSなどで分析し、TiO
2に対するTi
2O
3の強度比が0.6以上であれば良いことを見出した。
TiO
2に対するTi
2O
3の強度比は、異なる3つ以上の観察視野にて、介在物表面のXPS分析を行い、波形分離して得られたTiO
2およびTi
2O
3の強度から算出される。ここで、測定条件はAl−Kα線を用いて入射角57.4°、取り出し角度90°とし、帯電中和を行って測定することが推奨される。
【0022】
ステンレス鋼の母材中に、上述の表面改質を行った導電性介在物Ti、TiNを分散させることで、ステンレス鋼の高い耐食性を維持したまま、接触抵抗のみを低下させることが可能である。介在物は多いほど接触抵抗が低下するが、多量のTiC、TiNは加工性の低下やコストの増大を招くばかりでなく、多量のTi添加によるTiストリークを発生させ、製造性を低下させる。検討の結果、弱電流の接点部材に適用可能な程度の接触抵抗を得るためには、表面改質を行った導電性介在物が、断面観察より求まる析出物の面積率fで0.04%以上あれば良いと分かった。
ここで、表面に露出している析出物の面積率fは、体積率とほぼ同等であるため、任意の試料断面を観察し、析出物の面積率を求めることで、簡便に算出可能である。例えばEDXによりTiを含む析出物を同定し、観察視野中の検出強度を記録した画像を処理することにより、析出物のトータル面積を求め、観察面積で除することで求められる。ただし、観察視野の面積は2×10
−2mm
2以上必要である。
析出物の分布形態は、化学組成および製造条件によってコントロールできる。
【0023】
この介在物表面の改質処理の際、ステンレス鋼の不働態皮膜中のCrカチオン分率が維持できる電位を選択することで、耐食性劣化を避けることが可能である。発明者らは種々のステンレス鋼を用いて、不働態皮膜中のCrカチオン分率と大気環境における耐食性の関係について系統的に検討を行った。その結果、大気環境においては不働態皮膜中のCrカチオン分率が40%以上あれば、初期発銹を防ぎ、良好な耐食性を得ることが可能であることを見出した。不働態皮膜中のCrカチオン分率を40%以上にするためには、Crが皮膜に濃縮する電位域に保持すれば良い。酸性溶液に浸漬することでも同様の効果が得られるが、導電性介在物の表面に強固なTiO
2不働態皮膜が形成され、接触抵抗が増大するため、望ましくない。
【0024】
また、Moは耐食性改善のためにステンレス鋼に添加される元素である。Moは不働態皮膜中にMoO
3として含有されることがあり、MoO
3は導電性を有するため、接触抵抗が低下する。しかし、Moが含有される高耐食ステンレス鋼はCrも多く含有されており、不働態皮膜中のCrカチオン分率が高く、接触抵抗が大きい。種々の検討の結果、実用鋼においては、Moが不働態皮膜中に含有されることによる接触抵抗の低下効果が、有効に機能するためには、不働態皮膜中のMoカチオン分率が5%以上である必要があることが分かった。
【0025】
〔製造方法〕
上記の化学組成を有する鋼を溶製した後、一般的なステンレス鋼製造工程を利用することによって本発明のステンレス鋼に不可欠な析出物分布形態を得ることができる。
【0026】
そのような析出物分布形態を得るためには、熱間圧延→冷間圧延→仕上焼鈍を含む工程において、以下の[1]および[2]を満たす条件を採用することが極めて有効である。
[1]熱間圧延において、巻取温度を750℃未満とする。
[2]仕上焼鈍において、昇温過程で600℃から最高到達温度T
Mまでの平均昇温速度を10℃/s以上とし、かつ冷却過程において、T
Mから600℃までの平均冷却速度を10℃/s以上とするようにコントロールする。
前記の化学組成を満たす鋼に対して、上記[1]および[2]を満たす処理を行うことにより析出物の面積率fが0.04%以上である析出物分布形態を実現することができる。
【0027】
〔介在物表面の改質処理〕
更に、介在物表面の改質処理を施すことで、ステンレス鋼母材のCrリッチな不働態皮膜を維持したまま、TiC、TiNの表面に形成されたTiO
2不働態皮膜の一部をTi
2O
3に変化させ、本発明のステンレス鋼を得ることができる。
【0028】
介在物表面の改質には、以下の[3]または[4]を満たす処理を行えば良い。
[3]45〜60℃の中性または酸性水溶液内に浸漬し、−0.5〜0.7V
Ag/AgClの電位域で30s以上の保持を行う。
[4]浸漬電位が−0.5〜0.7V
Ag/AgClの電位域である45〜60℃の酸性溶液に、30s以上浸漬する。
上記の電位域より貴な電位に保持した場合、Ti
2O
3への変化が発生せず、より卑な電位に保持した場合、ステンレス鋼母材のCrリッチ不働態皮膜がカソード還元で破壊され、耐食性の維持が不可能となる。
【0029】
以上の製造条件・改質処理条件を満たすステンレス鋼は、表面に露出したTi
2O
3を含有する不働態皮膜を形成したTiC、TiNが有効な通電部として機能することにより、接触抵抗が低く、弱電流の接点部材として適用できる。更に、ステンレス鋼母材にはCrリッチな不働態皮膜が形成されており、高耐食性を有する。したがって、従来材のCuと比較して、耐食性が高く、ばね性が良く、原料コストが低減できる。
【実施例】
【0030】
SUS430LX、SUS304、SUS445J1の規格を満たす化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmとし、酸洗した後、冷間圧延にて板厚1mmとし、仕上焼鈍を最高到達温度T
M:1000〜1070℃、保持時間1〜60sの範囲で行った。表1に発明鋼および比較例をまとめたものを示す。熱間圧延および仕上焼鈍は、いずれも前記[1]および[2]を満たす条件としたものを「○」、いずれか片方を満たさないものを「×」と表記した。
各供試鋼板について、以下の特性を調べた。
【0031】
【表1】
【0032】
〔導電性介在物の表面改質〕
導電性介在物の表面に形成された不働態皮膜を改質するため、1Mの硫酸ナトリウム水溶液中にて、25℃、0.5V
SCE、10minの定電位電解処理を行った。これを表1中に「A」と表記する。なお、比較例No.6は、上記の定電位保持において、通常の酸洗工程で保持されている電位域に近い1.5V
SCEに保持した。これを表1中で「B」と表記した。また、比較例No.7は、定電位電解処理を行わなかった。これを表1中で「無」と併記した。それぞれの試料について、異なる5カ所の観察視野にて介在物表層のXPS分析を行った。測定条件は、Al−Kα線を用い、入射角57.4°、取り出し角90°とし、帯電中和補正を行った。得られたスペクトルを波形分離して得られたTiO
2およびTi
2O
3の強度から強度比を算出した。表面改質「A」の試料は、XPS分析におけるTiO
2に対するTi
2O
3の強度比がいずれも0.6以上であった。「B」および「無」の試料は、全てTiO
2に対するTi
2O
3の強度比が0.6未満であった。
【0033】
〔析出物の分布形態〕
各供試鋼板の断面について、電解研磨した表面をSEMにより観察し、観察視野の総面積2×10
−2mm
2中に観察された最も大きい析出物の直径(長径)を析出物の最大粒子径d
maxとした。また、上記視野についてEDXによる面分析を行い、Tiの検出強度がマトリクスより高い部分を析出物と見なして、画像処理により、それらの析出物トータル面積を求め、観察視野の面積で除してパーセンテージ換算することにより、析出物の面積率fを求めた。f=0.04%以上を「○」、0.04%未満を「×」とし、「○」評価を合格とし、表1中に併記した。
【0034】
〔不働態皮膜中のCr分率〕
各供試鋼板から採取した15mmφの円盤状の試験片について、XPSによる不働態皮膜の非破壊分析を行った。不働態皮膜中の全金属イオン中のCrイオンの平均分率を不働態皮膜中のCr分率とし、50%以上を「○」、50%未満を「×」とし、表1中に併記した。「○」評価を合格とした。
【0035】
〔耐食性〕
接点部材とした場合の耐食性を評価するために各供試鋼板から採取した15mmφの円盤状の試験片について、JIS
G 0577に準拠した孔食電位測定を行った。ただし、試験溶液は3.5%NaCl水溶液とした。一般に、腐食環境に曝されたステンレス鋼の自然電位は、海水中で400mV
SCE程度である。接点部材として想定される腐食環境は、最大でも軽度の塩害環境と想定されるため、孔食電位が400mV
SCE以上ならば、腐食の危険性は低いと考えられる。そこで、孔食電位が400mV
SCE以上のものを「○」(耐食性:良好)、孔食電位が400mV
SCE未満のものを「×」(耐食性:不良)と評価し、「○」評価を合格とした。この結果をまとめて表1中に併記した。
【0036】
〔接触抵抗〕
接点部材としての特性を評価するため、各供試鋼板から採取した15mmφの円盤状の試験片について、水銀接触法による接触抵抗測定を行った。接触抵抗が10mΩ・cm
2以下のものを「○」(導電性:良好)、接触抵抗が10mΩ・cm
2を超えるものを「×」(導電性:不良)とし、「○」評価を合格とした。この結果をまとめて表1中に併記した。
【0037】
本発明例のものは、外面耐食性を満足し、かつ接触抵抗が低く、接点材料として良好な特性を示すことが確認された。
【0038】
これに対し、比較例No.4は、表面改質処理時の保持電位が異なるため、導電性介在物の表層に残存したTiO
2不働態皮膜により高い接触抵抗を示し、接点部材の水準に到達しなかった。No.5は電解処理が行われていないため、不働態皮膜中のCr濃化が十分でないため、耐食性が低く、導電性介在物の表面改質も行われていないため、接触抵抗も接点部材も高かった。No.6、No.7は導電性介在物が十分に分散していないため、通電部の面積が十分でなく、接触抵抗が高かった。No.8は、母材のCr含有量が少ないため、今回の表面改質処理条件では不働態皮膜中のCr濃化が不十分であり、耐食性に劣った。更に長時間の処理を行うことでCr濃化は促進されることが予想されるが、工業生産としては時間がかかりすぎ、現実的ではない。