(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程βにおいて、前記起点編目及び前記増し目の各々に基づく編目として、前記起点編目及び前記増し目の各々に続く新たな編目を袋編みで形成し、これら新たな編目同士を重ね合わせて重ね目を形成することを特徴とする請求項1に記載の分岐部を有する編地の編成方法。
前記工程γにおいて、前記左編出し部及び前記右編出し部に続く編目列の少なくとも一方は、ニットとミスを繰り返しながら複数回折り返して1編目列を編成することを特徴とする請求項1又は2に記載の分岐部を有する編地の編成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、増し目ループの交差によって編糸の破断の抑制を行えるものの、増し目ループの交差を各編目のシンカーループで行っているため、張力はシンカーループに対して局所的に掛かり易く、編糸の種類(素材や太さ)によっては、編糸に過大な負荷が掛かる虞がある。よって、分岐部において、更なる強度向上への改善が求められている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、分岐部の強度を向上させる分岐部を有する編地の編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を備え、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能で、かつ前後の針床間で編目の目移しが可能な横編機を用いて、編地の編幅途中で、左編地部と右編地部とに分岐して編成する分岐部を有する編地の編成方法であって、以下の工程α〜工程γを備える。
[工程α]…一方の針床に係止される既存編目列のうち、編幅方向に連続して並ぶ複数の起点編目を選択し、その選択した各起点編目と一対となる増し目を連続的に形成する。
[工程β]…前記起点編目及び前記増し目の各々に基づく編目同士で重ね目を形成する。
[工程γ]…前記重ね目において、前記左編地部及び前記右編地部の前記分岐部での編出しとなる左編出し部及び右編出し部を、一方の編出し部の編目の間に他方の編出し部の一目以上の編目が配されるように設定し、前記左編出し部を含む編目列に続いて左編地部を編成し、前記右編出し部を含む編目列に続いて右編地部を編成する。
【0007】
なお、工程βにおける「起点編目及び増し目の各々に基づく編目」とは、起点編目及び増し目自体の場合と、起点編目及び増し目の少なくとも一方に形成されたウエール方向に繋がる新たな編目の場合を含む。
【0008】
本発明の分岐部を有する編地の編成方法の一形態として、工程βにおいて、起点編目及び増し目の各々に基づく編目として、起点編目及び増し目の各々に続く新たな編目を袋編みで形成し、これら新たな編目同士を重ね合わせて重ね目を形成する形態が挙げられる。
【0009】
本発明の分岐部を有する編地の編成方法の一形態として、工程γにおいて、左編地部及び右編地部の各編出し部に続く編目列の少なくとも一方は、ニットとミスを繰り返しながら複数回折り返して1編目列を編成する形態が挙げられる。
【0010】
この1編目列の編成は、ウエール方向に1段となる編目列を示し、一方向へ給糸口を移動させ、その給糸口を折り返すまでの間にニットとミスを繰り返して1編目列の一部の編目を編成することを、1編目列の全ての編目が編成されるまで、給糸口の移動方向を変えて折り返し編成して繰り返す。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分岐部を有する編地の編成方法によれば、分岐部を連続する複数の編目で線状に構成するため、左編地部と右編地部の分岐部に掛かる左右の張力を広範囲に亘って分散することができる。特に、分岐部における左編地部及び右編地部の各編出し部(左編出し部及び右編出し部)を、一方の編出し部の編目の間に他方の編出し部の編目が配されるように設定するので、左右に掛かる張力を効率的に分散することができる。また、分岐部における左編出し部及び右編出し部を重ね目とし、この重ね目に続けて分岐部における左編地部及び右編地部を直接編成することで、2本の編糸で張力を受けるため、分岐部での編出し部の強度を向上できる。
【0012】
本発明の分岐部を有する編地の編成方法によれば、分岐部に掛かる張力を分散でき、かつ張力が掛かり易い部分の強度を向上できるため、編糸の種類(素材や太さ)の選択の自由度が高い。
【0013】
工程βにおいて、起点編目及び増し目の各々に続く新たな編目を袋編みで形成し、これら新たな編目同士を重ね合わせて重ね目を形成することで、重ね目を含む編目列に続く各左右の編地部を編成し易い。
【0014】
工程γにおいて、左編出し部及び右編出し部に続く編目列の少なくとも一方を、ニットとミスを繰り返しながら複数回折り返して1編目列を編成することで、張力が掛かり易い編出し部に続く編地の強度も向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の分岐部を有する編地の編成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態では、左右方向に延び、かつ前後方向に互いに対向する下部前針床(以下、FD)と下部後針床(以下、BD)、及びこれらFDとBDの上方に設けられ、下部の針床と同ピッチで多数の編針が列設された上部前針床(以下、FU)と上部後針床(以下、BU)を備える4枚ベッド横編機を用いたベストの編成例を説明する。この横編機は、前後の針床間で編目の目移しが可能で、BD,BUは左右にラッキング可能である。なお、現行市販されている横編機では、FDとBDとの間、FDとBUとの間、及びBDとFUとの間で目移し可能であるが、FUとBUとの間では目移しできない構造になっている。使用する横編機は、4枚ベッド横編機に限定されるわけではなく、2枚ベッド横編機であっても良い。
【0017】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係る分岐部を有する編地の編成方法を用いて編成されたVネックベストの前身頃1の概略図である。Vネックベストの後身頃については省略しているが、前身頃1と後身頃は無縫製で筒状に編成されている。Vネックベストの前身頃1は、Vネック部7を編幅方向に2分する中心線X-Xで左右対称であり、裾2から前身頃1の胴部3を編成して、Y-Y上の分岐部4からは左編地部3Lと右編地部3Rに分岐してVネック部7を形成する。左編地部3L及び右編地部3Rはそれぞれ、襟首開口部の周縁に沿って形成される左衿部5L及び右衿部5Rと、各左右衿部5L,5Rのコース方向に連続する左肩部6L及び右肩部6Rとを有する。左編地部3L及び右編地部3Rのうち左衿部5L及び右衿部5Rは、Vネック尖端部における分岐部4(分岐部領域4d)付近で各衿部5L,5Rの一部が重なり合っている。
【0018】
図2は、
図1のVネックベストの前身頃1における分岐部4を編成するための編成工程図である。左欄の『S+数字』は編成工程の番号を、中欄は各編成工程における針床の編成状態を示す。中欄において、A〜Tの黒点は編針、●印はニット目、○印は編針に係止される旧編目、◎印は重ね目、Vは掛け目を示す。右欄の『K』が付く左右方向の矢印は給糸口8,9の移動方向(即ち編成方向)を示し、上下方向の矢印は目移しの方向を示す。なお、編目の移動の際に行われる前針床(以下、FB)と後針床(以下、BU)の相対的なラッキング動作の説明は省略し、使用する針数は実際の編成よりも少なくしている。ここでは、FDとBUを用いた前身頃1の編成のみを示し、BDを用いた後身頃の編成については省略している。後身頃は、前身頃1の編成で使用した給糸口8,9とは別の給糸口を用いて編成している。
【0019】
[増し目形成工程α:S1]
S1では、
図1で示す分岐部4の編成が始まるY-Yの編成コースが示されており、図の左から右方向に向けて給糸口8を移動させて、左編地部3Lと右編地部3Rに分岐が開始されるコースの編目列をFDの編針A〜Tで形成する。その際、分岐部領域4dにおいて、FDの編針E〜Pに係止されるコース方向に連続して並ぶ起点編目に対して割増しを行い、増し目をコース方向に連続して形成する。割増しとは、一方の針床に係止される起点編目を他方の針床に目移しすると共に、その起点編目から引き出される新規編目を一方の針床に形成する公知の編成動作である(特許第2604653号公報などを参照)。ここでは、FDの編針E〜Pに係止される起点編目11をBUの編針E〜Pに目移しすると共に、FDの編針E〜Pに新規編目12を形成する。新規編目12はそれぞれ、起点編目11と一対である。
【0020】
ここでは、割増しを行うことで起点編目11と一対となる増し目を形成したが、掛け目を形成することで起点編目11と一対となる増し目を形成することもできる。
【0021】
[重ね目形成工程β:S2〜S4]
S2及びS3では、分岐部領域4dにおける起点編目11及び新規編目12の各々に続く新たな編目(追加編目11n,12n)を袋編みで形成する。起点編目11と新規編目12に続いて追加編目11n,12nを袋編みで形成することで、起点編目11及び新規編目12の各々に基づく編目列は袋状に繋がった編地となる。
【0022】
S2では、図の右から左方向に向けて給糸口8を移動させて、FDの編針Qに係止される編目にタックを行い、続けてBUの編針P〜Eに係止される起点編目11に続く追加編目11nを編成する。S3では、図の左から右方向に向けて給糸口8を移動させて、FDの編針Dに係止される編目にタックを行い、続けてFDの編針E〜Pに係止される新規編目12に続けて追加編目12nを編成する。S2及びS3で行ったタックは、見栄えに関するものなので、省略してもよい。
【0023】
S4では、BUの編針E〜Pに係止される追加編目11nをFDの編針E〜Pに目移しし、FDの編針E〜Pに係止される追加編目12nに重ね合わせて重ね目13を形成する。
【0024】
[左編地部及び右編地部の編成工程γ:S5〜S12]
S5〜S12では、
図1で示す分岐部4の編成が始まるY-Yの編成コースに続いて左編地部3Lと右編地部3Rとを編成する。分岐部領域4dにおいては、S4で形成した重ね目13が左衿部5Lの編出しとなる左編出し部13Lと右衿部13Rの編出しとなる右編出し部13Rとなる。つまり、重ね目13は、左編地部3L及び右編地部3Rの編出しとなる編目のうち、両編地部3L,3Rの編出しが重なった領域の編目である。左編出し部13Lと右編出し部13Rは一目おきに交互に設定しており、FDの編針F,H,J,L,N,Pに係止される重ね目13が左編出し部13Lであり、FDの編針E,G,I,K,M,Oに係止される重ね目13が右編出し部13Rである。
【0025】
左編出し部13Lと右編出し部13Rの各編目数を同数とし、各編出し部13L,13Rの編目を一目おきに交互に配置することで、左衿部5L及び右衿部5R(
図1)の編幅が揃い見栄えがよい。また、各編出し部13L,13Rの編目を一目おきに交互に配置することで、分岐部4で左右に張力が掛かったとしても、その張力が分散され、分岐部4における強度が向上する。各編出し部13L,13Rの配置は、一目おきの交互に限定されない。例えば、一方の編出し部(例えば左編出し部13L)の編目の間に他方の編出し部(例えば右編出し部13R)の1目〜3目の編目を配することができる。
【0026】
S5及びS6では、左編出し部13L(重ね目13)を含む編目列に続いてコース方向に左編地部3Lを編成する。ここでは、S5とS6の往路と復路で、分岐部領域4dにおける1編目列を編成している。S5では、図の右から左方向に向けて給糸口8を移動させて、FDの編針T,S,Rに係止される編目に対して編成を行い、続けて分岐部領域4dにおける左編出し部13Lのうち一つおきの左編出し部13L(FDの編針N,J,Fに係止される編目)に続けて編成を行う。S6では、図の左から右方向に向けて給糸口8を移動させて、分岐部領域4dにおける左編出し部13Lのうち残りの一つおきの左編出し部13L(FDの編針H,L,Pに係止される編目)に続けて編成を行い、続けてFDの編針Q,R,S,Tに係止される編目に対して編成を行う。
【0027】
S7では、次の編成工程で右編地部3R(具体的には、右衿部5R)を編成するために、分岐部領域4dにおける左衿部5Lの編目をBUの編針F,H,J,L,N,Pに目移しして退避させる。
【0028】
S8及びS9では、右編出し部13R(重ね目13)を含む編目列に続いてコース方向に右編地部3Rを編成する。ここでは、S5及びS6と同様に、S8とS9における給糸口9の往路と復路の双方で、分岐部領域4dにおける1編目列を編成している。
【0029】
S10では、Vネック部7(
図1)を形成するために、分岐部領域4dにおける右衿部5Rの編目をBUの編針E,G,I,K,M,Oに目移しする。
【0030】
S11では、BUの編針E,G,I,K,M,Oに係止される編目をFDの編針D,F,H,J,L,Nに目移しし、右編地部3Rに重ね目を設けて編目を減らすことで、ウエール方向に向かって各衿部5R,5Lが離れるように、Vネック部7の一方の傾斜を形成する。同様に、S12では、BUの編針F,H,J,L,N,Pに係止される編目をFDの編針G,I,K,M,O,Qに目移しし、左編地部3Lに重ね目を設けて編目を減らすことで、ウエール方向に向かって各衿部5L,5Rが離れるように、Vネック部7の他方の傾斜を形成する。
【0031】
本実施形態では、S5及びS6における左衿部5Lと、S8及びS9における右衿部5Rとを、それぞれ強度を向上するために、往路で各衿部5L,5Rのコース方向の一部の編目を編成し、復路で残部の編目を編成することをウエール方向に繰り返し行った。他に、各衿部5L,5Rにおいて、往路及び復路共に、全編目を編成することをウエール方向に繰り返し行ってもよい。
【0032】
上述した編成工程によって、Vネックベストの前身頃1の編幅途中であるY-Y上(
図1)において、分岐部4で左編地部3Lと右編地部3Rに分岐できる。さらに、S5〜S12を、分岐部領域4dの編針に係止される左編出し部13Lもしくは右編出し部13Rの編目数に対応して繰り返すことで、分岐部4の分岐部領域4d付近の左衿部5Lと右衿部5Rの一部が重なり合った部分を編成できる。その後は、左編地部3L及び右編地部3Rをそれぞれ別キャリア8,9で編幅を減らしながら引き返しによる往復編成を行えばよい。このとき、両編地部3L,3Rのうち、左衿部5L及び右衿部5Rは、S5及びS6、S8及びS9と同様に、ニットとミスを繰り返しながら複数回折り返して1編目列を編成することで見栄えを揃えることができる。
【0033】
本実施形態では、重ね目形成工程βにおいて、分岐部領域4dにおける重ね目13は、起点編目11及び新規編目12の各々からウエール方向に繋がる編目(追加編目11n,12n)同士を重ね合わせて形成する形態を説明した。他に、起点編目及び新規編目の各々からウエール方向に繋がる編目は形成せず、起点編目と新規編目とを重ね合わせて重ね目とする形態とすることもできる。
【0034】
<実施形態2>
図3は、実施形態2に係る分岐部を有する編地の編成方法を用いて編成されたUネックベストの前身頃100の概略図である。実施形態2では、左編地部3L及び右編地部3Rはそれぞれ、襟首開口部の周縁に沿って形成される左衿部51L及び右衿部51Rと、各左右衿部51L,51Rのコース方向に連続する左肩部6L及び右肩部6Rとを有し、左衿部51Lと右衿部51Rとが中衿部51Cを挟んで配置されている。Uネックベストの前身頃100は、Y-Y上の分岐部41Lから左衿部51Lと中衿部51Cに分岐し、Y-Y上の分岐部41Rから右衿部51Rと仮衿部(図示せず)に分岐し、中衿部51Cを仮衿部と接続することでUネック部71を形成する。各分岐部41L,41Rにおいてウエール方向に編地を分岐して編成する方法は実施形態1と同様である。ここでは、分岐部41Lから分岐する中衿部51Cを各分岐部41L,41R間のY-Y上の胴部3の最終編目列の編目と接続し、分岐部41Rから分岐する仮衿部と接続してUネック部71を形成する方法について説明する。
【0035】
まず、分岐部41Lにおいて、左衿部51L及び中衿部51Cの各編出し部となる重ね目を形成する。一方、分岐部41Rにおいて、右衿部51R及び仮衿部の各編出し部となる重ね目を形成する。次に、左衿部51Lの編出し部を含む編目列に続いて左編地部3Lを編成する。また、中衿部51Cの編出し部に続いて、分岐部領域4dの幅でウエール方向に新たな編目を往復編成する。この往復編成時に、中衿部51Cの分岐部41R側端部の編目を各分岐部41L,41R間のY-Y上の胴部3の最終編目列の編目に寄せて重ね目を形成して伏目処理を行うことで、中衿部51Cと胴部3とを接続する。このとき、中衿部51Cの編目列は胴部3の編目列と略直交方向に配されることになる。一方、右衿部51Rの編出し部を含む編目列に続いて右編地部3Rを編成する。また、仮衿部の編出し部に続いてウエール方向に新たな編目を数段編成する。最後に、中衿部51Cの最終編目列を仮衿部の最終編目列を係止している編針に目移しして伏目処理を行うことで、中衿部51Cと仮衿部とを接続する。この中衿部51Cと仮衿部との伏目処理は、Uネックベストの前身頃100を外側から見たとき、右衿部51Rの裏側に隠れるように行う。そうすることで、分岐部41L,41Rの強度を向上できると共に、分岐部41L,41Rを左右対称に形成できるため、見栄えを向上できる。