特許第6104028号(P6104028)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ BASFジャパン株式会社の特許一覧 ▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104028
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】複層塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20170316BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20170316BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20170316BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20170316BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170316BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20170316BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20170316BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20170316BHJP
   C09D 161/28 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   B05D1/36 A
   B05D1/36 B
   B05D7/24 301F
   B32B27/30 A
   B32B27/40
   C09D5/00 D
   C09D133/00
   C09D175/04
   C09D167/00
   C09D161/28
【請求項の数】2
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-86876(P2013-86876)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210225(P2014-210225A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】510144591
【氏名又は名称】BASFジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100095599
【弁理士】
【氏名又は名称】折口 信五
(72)【発明者】
【氏名】筒井 宏典
(72)【発明者】
【氏名】小山 陽平
(72)【発明者】
【氏名】本田 康史
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 久之
(72)【発明者】
【氏名】森 聡一
【審査官】 富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−060577(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129136(WO,A1)
【文献】 特表平10−507483(JP,A)
【文献】 特表2013−519772(JP,A)
【文献】 特開平06−220397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D
C09D1/00−10/00;101/00−201/10
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着硬化塗膜上に水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成する中塗り塗膜形成工程、該中塗り塗膜形成工程後にフラッシュオフを行わず、前記中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程、未硬化の前記ベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成するクリヤー塗膜形成工程、及びこれら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる加熱硬化工程を含む複層塗膜形成方法であって、前記水性中塗り塗料及び前記水性ベース塗料が、コア部がアクリル樹脂(A1)、シェル部がポリウレタン樹脂(A2)からなるコア/シェル型樹脂エマルション(A)、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)、及びメラミン樹脂(D)を含有し、前記アクリル樹脂(A1)の水酸基価が10〜30mgKOH/g、酸価が0〜10mgKOH/g、ガラス転移温度が0〜100℃であり、前記ポリウレタン樹脂(A2)の水酸基価が20〜80mgKOH/g、酸価が10〜60mgKOH/g、数平均分子量が2,000〜10,000であり、{前記(A1)成分/前記(A2)成分}で表される固形分質量比が0.80〜1.25であって、前記(A)〜(C)成分の樹脂固形分質量の総和に対して、前記(A)成分の固形分質量含有比率が5〜25質量%、前記(B)成分の固形分質量含有比率が45〜65質量%、前記(C)成分の固形分質量含有比率が20〜40質量%、前記(D)成分の固形分質量含有比率が35〜45質量%であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記クリヤー塗料が、アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有するクリヤー塗料であって、前記アクリル樹脂が、ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)及び環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(b)を有し、前記ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)の含有比率が、前記アクリル樹脂固形分中に15質量%以上であって、前記ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)に対する前記環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(b)の質量含有比率が50〜100質量%である、請求項1に記載の複層塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の分野、特に自動車塗装の分野において利用可能な、新規な複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車車体を被塗装物とする複層塗膜形成方法は、被塗物に電着塗膜を形成して加熱硬化させた後で、中塗り塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜からなる複層塗膜を形成することにより行われている。また、現在では、揮発性有機溶剤(VOC)削減のために、中塗り塗料及びベース塗料として、水性塗料が使用されるようになってきている。
【0003】
さらに、近年、省エネルギーの観点から、電着塗膜上に中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成した後、中塗り塗膜を加熱硬化させず、低温乾燥(フラッシュオフ)させた中塗り塗膜上にベース塗膜及びクリヤー塗膜を形成し、これら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる、いわゆる3コート1ベーク(3C1B)方式による複層塗膜形成方法が採用され始めている。
【0004】
このような3C1B方式の複層塗膜形成方法について、特許文献1には、第1水性塗料、第2水性塗料、クリヤー塗料を使用する3C1B方式の複層塗膜形成方法において、第2水性塗料に、コア・シェル構造を有し、特定のビニルモノマー混合物を乳化重合して得られるエマルション樹脂や、ウレタンエマルションなどを含有させることにより、外観及び耐水性に優れた複層塗膜が得られる複層塗膜の形成方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、水性第1着色塗料、水性第2着色塗料、クリヤー塗料を使用する3C1B方式の複層塗膜形成方法において、水性第1着色塗料に、特定の水酸基含有ポリエステル樹脂や、コア/シェル型構造を有し、特定のモノマー成分を重合して得られる水分散性アクリル樹脂などを含有させることにより、平滑性、鮮映性などに優れた複層塗膜を形成する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1及び2に記載された3C1B方式の複層塗膜形成方法では、さらなる省エネルギーを達成すべく、中塗り塗膜を形成した後のフラッシュオフを省略した場合に、中塗り塗膜とベース塗膜の間で混層が起こり、十分な塗膜外観が得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−297545号
【特許文献2】特表2011−525415号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、3C1B方式による複層塗膜形成方法において、水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成した後、フラッシュオフを行わずに前記中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装した場合においても、優れた塗膜外観を有するとともに、耐チッピング性、塗膜硬度に優れ、また、耐擦り傷性、耐水性、耐酸性など、自動車外装塗膜に要求される塗膜性能を満足する複層塗膜を得ることができる、複層塗膜形成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、水性中塗り塗料及び水性ベース塗料に、コア部がアクリル樹脂、シェル部がポリウレタン樹脂からなり、特定の特性値を有するコア/シェル型樹脂エマルションと、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂と、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂と、メラミン樹脂とを、特定の固形分質量比で併用することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、電着硬化塗膜上に水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成する中塗り塗膜形成工程、該中塗り塗膜形成工程後にフラッシュオフを行わず、前記中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装してベース塗膜を形成するベース塗膜形成工程、未硬化の前記ベース塗膜上にクリヤー塗料を塗装してクリヤー塗膜を形成するクリヤー塗膜形成工程、及びこれら3層の塗膜を同時に加熱硬化させる加熱硬化工程を含む複層塗膜形成方法であって、前記水性中塗り塗料及び前記水性ベース塗料が、コア部がアクリル樹脂(A1)、シェル部がポリウレタン樹脂(A2)からなるコア/シェル型樹脂エマルション(A)、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)、メラミン樹脂(D)を含有し、前記アクリル樹脂(A1)の水酸基価が10〜30mgKOH/g、酸価が0〜10mgKOH/g、ガラス転移温度が0〜100℃であり、前記ポリウレタン樹脂(A2)の水酸基価が20〜80mgKOH/g、酸価が10〜60mgKOH/g、数平均分子量が2,000〜10,000であり、{前記(A1)成分/前記(A2)成分}で表される固形分質量比が0.80〜1.25であって、前記(A)〜(C)成分の樹脂固形分質量の総和に対して、前記(A)成分の固形分質量含有比率が5〜25質量%、前記(B)成分の固形分質量含有比率が45〜65質量%、前記(C)成分の固形分質量含有比率が20〜40質量%、前記(D)成分の固形分質量含有比率が35〜45質量%である、複層塗膜形成方法に関する。なお、(A)〜(C)成分の樹脂固形分質量の総和とは、(A)成分の樹脂固形分質量と、(B)成分の樹脂固形分質量と、(C)成分の樹脂固形分質量の総和の意味である。
【0011】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成方法において、クリヤー塗料が、アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有するクリヤー塗料であって、前記アクリル樹脂が、ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)及び環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(b)を有し、前記ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)の含有比率が、前記アクリル樹脂固形分中に15質量%以上であって、前記ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)に対する前記環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(b)の質量含有比率が50〜100質量%である、複層塗膜形成方法に関する。
さらに、本発明は、上記の複層塗膜形成方法により形成した塗膜に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複層塗膜形成方法においては、水性中塗り塗料を塗装して中塗り塗膜を形成した後、フラッシュオフを行わずに前記中塗り塗膜上に水性ベース塗料を塗装した場合においても、優れた塗膜外観を有するとともに、耐チッピング性、塗膜硬度に優れ、また、耐擦り傷性、耐水性、耐酸性など、自動車外装塗膜に要求される塗膜性能を満足する複層塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複層塗膜形成方法に使用される水性中塗り塗料及び水性ベース塗料は、コア部がアクリル樹脂(A1)、シェル部がポリウレタン樹脂(A2)からなるコア/シェル型樹脂エマルション(A)、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)、メラミン樹脂(D)を含有する。
上記コア部がアクリル樹脂(A1)、シェル部がポリウレタン樹脂(A2)からなるコア/シェル型樹脂エマルション(A)は、コア部がアクリル樹脂(A1)、シェル部がポリウレタン樹脂(A2)からなる樹脂が水性媒体中に分散してエマルションの形態になっているものである。水性媒体は、脱イオン水、純水などの水媒体が挙げられ、水媒体には少量の有機溶剤が含有されていてもよい。
【0014】
コア部がアクリル樹脂(A1)、シェル部がポリウレタン樹脂(A2)からなるコア/シェル型樹脂エマルション(A)は、シェル部となるポリウレタン樹脂(A2)の水溶液又は水分散液中で、アクリル系単量体を含む重合性単量体を重合させることによりコア部となるアクリル樹脂(A1)を合成することにより得られる。
【0015】
コア/シェル型樹脂エマルション(A)のシェル部となるポリウレタン樹脂(A2)は、ポリオールと、ジメチロールアルカン酸と、ポリイソシアネート化合物と、多価アルコールとを原料成分とする公知の方法で得ることができる。
【0016】
ポリウレタン樹脂(A2)の合成に使用するポリオールとして、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールが挙げられるが、耐チッピング性の点から、ポリエステルポリオールが好ましい。
【0017】
ポリエステルポリオールは、多塩基酸と多価アルコールを原料成分とするエステル化反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0018】
ポリエステルポリオールの原料成分である多塩基酸として、通常は多価カルボン酸が使用されるが、必要に応じて1価の脂肪酸などを併用することができる。多価カルボン酸として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などの脂肪族多価カルボン酸、及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの多塩基酸は、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0019】
ポリエステルポリオールの原料成分である多価アルコール、また、ポリウレタン樹脂(A2)の合成に使用する多価アルコールとしては、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。グリコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3−ジエチル−1,5−ペンタンジオールなどが挙げられる。また、3価以上の多価アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0020】
ジメチロールアルカン酸として、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘプタン酸、ジメチロールオクタン酸、ジメチロールノナン酸が挙げられる。これらのジメチロールアルカン酸は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0021】
ポリイソシアネート化合物として、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−又はm−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの水素添加物などの脂環式ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートなどが挙げられる。この中でも、耐黄変性などの点から、脂環式ジイソシアネートが好ましい。これらのポリイソシアネート化合物は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0022】
ポリウレタン樹脂(A2)の水酸基価は20〜80mgKOH/gであり、好ましくは40〜60mgKOH/gである。水酸基価が20mgKOH/g未満では、塗膜の耐チッピング性が低下する場合があり、80mgKOH/gを超えると、塗膜外観性が低下する場合がある。
【0023】
ポリウレタン樹脂(A2)の酸価は10〜60mgKOH/gであり、好ましくは20〜40mgKOH/gである。酸価が10mgKOH/g未満では、塗膜外観性が低下する場合があり、60mgKOH/gを超えると、塗膜外観性が低下する場合がある。
【0024】
ポリウレタン樹脂(A2)の数平均分子量は2,000〜10,000であり、好ましくは3,000〜6,000である。数平均分子量が2,000未満では、塗膜外観性が低下する場合があり、10,000を超えると、塗膜外観性が低下する場合がある。
なお、本明細書における数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得られる値である。
【0025】
コア/シェル型樹脂エマルション(A)のコア部となるアクリル樹脂(A1)は、アクリル系単量体を含むラジカル重合性単量体を原料成分とするラジカル重合反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0026】
ラジカル重合性単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸脂肪族炭化水素エステル、アリルアルコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、αメチルスチレンなどのスチレンアルキル置換体などのスチレン類、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸脂環式炭化水素エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらのラジカル重合性単量体は、単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0027】
これらのラジカル重合性単量体は、アクリル樹脂(A1)の数平均分子量、水酸基価及び酸価が後述する特定の範囲になるように、適宜組み合わせて共重合することができる。
【0028】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノンペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、t−ブチルヒドロペルオキンド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、イソブチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシネオデカネート、t−ブチルペルオキシラウレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシアセテートなどの有機過酸化物などが挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ラジカル重合開始剤の配合量には、特に制限はないが、ラジカル重合性単量体の全量に対して0.01〜10質量%にすることが好ましい。また、ラジカル重合温度は、ラジカル重合開始剤の種類によってよって異なるが、50〜200℃の条件で行うことが好ましく、80〜160℃の条件で行うことがさらに好ましい。
【0030】
溶剤としては、ラジカル重合開始剤を溶解させるものであれば特に制限ないが、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。溶剤は1種単独であっても、あるいは2種以上の複数種類の混合溶剤であっても差し支えない。
【0031】
アクリル樹脂(A1)の数平均分子量は、塗膜外観性の点から、好ましくは20,000以上であり、より好ましくは100,000以上である。
アクリル樹脂(A1)の水酸基価は10〜30mgKOH/gであり、好ましくは15〜25mgKOH/gである。水酸基価が10mgKOH/g未満では、塗膜の耐チッピング性が低下する場合があり、30mgKOH/gを超えると、塗膜外観性が低下する場合がある。
【0032】
アクリル樹脂(A1)の酸価は0〜10mgKOH/gであり、好ましくは3〜7mgKOH/gである。酸価が10mgKOH/gを超えると、塗膜外観性が低下する場合がある。
アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度は0〜100℃であり、好ましくは40〜60℃である。ガラス転移温度が0℃未満では、塗膜硬度が低下する場合があり、100℃を超えると、耐チッピング性が低下する場合がある。
【0033】
[コア部とシェル部の質量比]
コア/シェル型樹脂エマルション(A)において{(A1)成分/(A2)成分}で表される固形分質量比は0.80〜1.25であり、好ましくは0.90〜1.10である。固形分質量比が0.80未満になると、塗膜外観性が低下する場合があり、1.25を超えると、塗膜外観性が低下する場合がある。
【0034】
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)は、コア/シェル型樹脂エマルション(A)のシェル部となるポリウレタン樹脂と同様、公知の方法により得ることができる。
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)の数平均分子量は、耐チッピング性、塗膜外観性の点から、好ましくは1000〜10,000であり、より好ましくは3,000〜6,000である。
【0035】
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)の水酸基価は、塗膜外観性、耐水性の点から、好ましくは10〜100mgKOH/gであり、より好ましくは20〜80mgKOH/gである。
水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)の酸価は、水性塗料中での樹脂の乳化安定性、耐水性の点から、好ましくは10〜50mgKOH/gであり、より好ましくは20〜50mgKOH/gである。
【0036】
水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)は、コア/シェル型樹脂エマルション(A)のシェル部となるポリウレタン樹脂の合成に使用するポリエステルポリオールと同様、多塩基酸と多価アルコールを原料成分とするエステル化反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
【0037】
水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)の数平均分子量は、耐チッピング性、塗膜外観性の点から、好ましくは500〜50,000であり、より好ましくは1,000〜30,000である。
水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)の水酸基価は、塗膜外観性、耐水性の点から、好ましくは10〜100mgKOH/gであり、より好ましくは20〜80mgKOH/gである。
【0038】
水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)の酸価は、水性塗料中での樹脂の乳化安定性、耐水性の点から、好ましくは10〜50mgKOH/gであり、より好ましくは20〜50mgKOH/gである。
【0039】
本発明の水性中塗り塗料及び水性ベース塗料に上記の(A)〜(C)成分を使用するときは、各成分の酸基の少なくとも一部を、塩基性物質で中和させることが好ましい。これにより、各成分を水性塗料中に安定な状態で存在させることができる。
【0040】
塩基性物質として、例えば、アンモニア、モルホリン、N−アルキルモルホリン、モノイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミンなどが挙げられる。これらの塩基性物質は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明の水性中塗り塗料及び水性ベース塗料におけるコア/シェル型樹脂エマルション(A)の固形分質量含有比率は、(A)〜(C)成分の樹脂固形分質量の総和に対して5〜25質量%であり、好ましくは10〜20質量%である。コア/シェル型樹脂エマルション(A)の固形分質量含有比率が5質量%未満ではツヤ引けにより塗膜外観性が低下する場合があり、コア/シェル型樹脂エマルション(A)の固形分質量含有比率が25質量%を超えると、肌荒れにより塗膜外観性が低下する場合がある。
【0042】
本発明の水性中塗り塗料及び水性ベース塗料における水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)の固形分質量含有比率は、(A)〜(C)成分の樹脂固形分質量の総和に対して45〜65質量%であり、好ましくは50〜60質量%である。水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)の固形分質量含有比率が45質量%未満では耐チッピング性が低下する場合があり、水溶性又は水分散性ポリウレタン樹脂(B)の固形分質量含有比率が65質量%を超えると塗膜硬度が低下する場合がある。
【0043】
本発明の水性中塗り塗料及び水性ベース塗料における水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)の固形分質量含有比率は、(A)〜(C)成分の樹脂固形分質量の総和に対して20〜40質量%であり、好ましくは25〜35質量%である。水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)の固形分質量含有比率が20質量%未満では塗膜硬度が低下する場合があり、水溶性又は水分散性ポリエステル樹脂(C)の固形分質量含有比率が40質量%を超えると耐チッピング性が低下する場合がある。
【0044】
本発明の複層塗膜形成方法の水性中塗り塗料及び水性ベース塗料は、架橋剤としてメラミン樹脂(D)を含有する。メラミン樹脂(D)として、例えば、メラミンとホルムアルデヒドとを反応させて得られる部分又は完全メチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をアルコール成分で部分的に又は完全にエーテル化して得られる部分又は完全アルキルエーテル型メラミン樹脂、イミノ基含有型メラミン樹脂、及びこれらの混合型メラミン樹脂が挙げられる。ここで、アルキルエーテル型メラミン樹脂としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル/ブチル混合アルキル型メラミン樹脂などが挙げられる。これらのメラミン樹脂は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明の水性中塗り塗料及び水性ベース塗料におけるメラミン樹脂(D)の固形分質量含有比率は、(A)〜(C)成分の樹脂固形分質量の総和に対して35〜45質量%であり、好ましくは40〜45質量%である。メラミン樹脂(D)の固形分質量含有比率が35質量%未満では、塗膜硬度が低下する場合があり、メラミン樹脂(D)の固形分質量含有比率が45質量%を超えると、耐チッピング性が低下する場合がある。
【0046】
本発明の複層塗膜形成方法に使用される水性中塗り塗料及び水性ベース塗料には、着色顔料、光輝顔料、体質顔料などの各種顔料を含有させることができる。着色顔料として、例えば、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機系顔料、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インディゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機系顔料が挙げられる。また、光輝顔料として、例えば、アルミニウムフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、マイカ顔料、シリカフレーク顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。そして、体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、バライト、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の複層塗膜形成方法に使用される水性中塗り塗料及び水性ベース塗料に顔料を含有させる場合の質量含有比率は、例えば、塗料樹脂固形分に対して3〜200質量%である。
本発明の複層塗膜形成方法に使用される水性中塗り塗料及び水性ベース塗料には、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上を含有させることができる。
【0048】
本発明の複層塗膜形成方法に使用される水性中塗り塗料及び水性ベース塗料は、必要に応じて、水、場合によっては少量の有機溶剤やアミンを使用し、適当な粘度に希釈してから塗装に供される。
本発明の複層塗膜形成方法において使用されるクリヤー塗料としては、有機溶剤塗料、水性塗料、粉体塗料のいずれも使用することができる。クリヤー塗料の基体樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、硬化系としては、メラミン硬化、酸/エポキシ硬化、イソシアネート硬化などが挙げられる。
【0049】
クリヤー塗料のアクリル樹脂は、コア/シェル型樹脂エマルション(A)のコア部となるアクリル樹脂と同様、ラジカル重合性単量体を原料成分とするラジカル重合反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
クリヤー塗料のアクリル樹脂は、樹脂固形分中にε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)と、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(b)を有するアクリル樹脂が好ましい。
【0050】
ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)と、環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位(b)を有するアクリル樹脂を得る方法としては、例えば、(1)水酸基を有するラジカル重合性単量体にε−カプロラクトンを開環付加させて得られたカプロラクトン変性ラジカル重合性単量体と、環構造を有するラジカル重合性単量体と、その他のラジカル重合性単量体とを共重合させる方法や、(2)水酸基を有するラジカル重合性単量体と、環構造を有するラジカル重合性単量体と、その他のラジカル重合性単量体とを共重合させる際、又は共重合させた後に、ε−カプロラクトンを開環付加させる方法が挙げられる。
【0051】
水酸基を有するラジカル重合性単量体として、例えばアリルアルコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。これらの水酸基を有するラジカル重合性単量体は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
カプロラクトン変性ラジカル重合性単量体の市販品として、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルにε−カプロラクトンを付加させたものが挙げられ、具体的には、例えば、プラクセルFA−1、プラクセルFM−1D、プラクセルFM−2D、プラクセルFM−3、プラクセルFM−4(以上、ダイセル社製)が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
上記(1)により、本発明の複層塗膜形成方法のクリヤー塗料のアクリル樹脂を得た場合において、「ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)の含有比率」とは、水酸基を有するラジカル重合性単量体にε−カプロラクトンを開環付加させて得られたカプロラクトン変性ラジカル重合体の含有比率ではなく、開環付加させたε−カプロラクトンのみの含有比率である。
【0054】
また、上記(2)により、本発明の複層塗膜形成方法のクリヤー塗料のアクリル樹脂を得た場合において、「ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)の含有比率」とは、開環付加させたε−カプロラクトンの含有比率である。
【0055】
環構造を有するラジカル重合性単量体における環構造は、芳香族環構造であってもよいし、脂環式環構造であってもよい。環構造を有するラジカル重合性単量体の具体例としては、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシルが挙げられる。これらの環構造を有するラジカル重合性単量体は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
本発明の複層塗膜形成方法のクリヤー塗料にアクリル樹脂を使用する場合において、ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)の含有比率は、耐擦り傷性の点から、好ましくは前記アクリル樹脂固形分中に15質量%以上であり、より好ましくは18〜27質量%である。
【0057】
また、ε−カプロラクトンに基づく構成単位(a)に対する環構造を有するラジカル重合性単量体に基づく構成単位の質量含有比率は、耐擦り傷性の点から、好ましくは50〜100質量%であり、より好ましくは50〜60質量%である。
【0058】
本発明の複層塗膜形成方法のクリヤー塗料にポリイソシアネート化合物を使用する場合において、ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、そして、イソホロンジイソシアネート、水素化XDI、水素化TDI、水素化MDIなどの環状脂肪族ジイソシアネート、さらに、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート、及びこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などを挙げることができる。
【0059】
本発明の複層塗膜形成方法のクリヤー塗料にポリイソシアネート化合物を使用する場合において、ポリイソシアネート化合物の含有量は、クリヤー塗料(C)中のポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と、アクリル樹脂の水酸基とのモル比(NCO/OH)で、硬化性と塗膜硬度の点から、好ましくは0.2〜2.0であり、より好ましくは0.5〜1.5である。
【0060】
本発明のクリヤー塗料組成物は、上記成分を含有させ、あるいは必要に応じて、有機溶剤、各種添加剤、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、界面活性剤、表面調整剤、硬化反応触媒、帯電防止剤、香料、脱水剤、さらにはポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、内部架橋型樹脂微粒子等のレオロジー調整剤などを添加して使用することができる。
【0061】
本発明の複層塗膜形成方法における各塗料の塗装方法としては、自動車産業において通常用いられている方法、例えばエアースプレー塗装、エアー霧化式静電塗装、ベル回転霧化式静電塗装等が適用できる。
本発明の複層塗膜形成方法では、まず、電着硬化塗膜上に水性中塗り塗料が塗装される。
水性中塗り塗料の塗装時の温湿度条件は、特に限定されないが、例えば、10〜40℃、65〜85%(相対湿度)である。また、水性中塗り塗料(A)を塗装した中塗り塗膜の乾燥膜厚は、例えば、10〜30μmである。
【0062】
本発明の複層塗膜形成方法においては、水性中塗り塗料の塗装後は、フラッシュオフを行わずに、この中塗り塗膜上に水性ベース塗料が塗装される。
水性ベース塗料の塗装時の温湿度条件は、特に限定されないが、例えば、10〜40℃、65〜85%(相対湿度)である。また、水性ベース塗料を塗装したベース塗膜の乾燥膜厚は、例えば、5〜15μmである。
【0063】
本発明の複層塗膜形成方法において、水性ベース塗料の塗装後には、フラッシュオフを行ってもよい。なお、フラッシュオフを行う場合の条件は、30〜100℃、3〜10分間が好ましい。
本発明の複層塗膜形成方法では、このベース塗膜上にクリヤー塗料が塗装される。
クリヤー塗料を塗装したクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、特に限定されないが、例えば、10〜100μmである。
【0064】
本発明の複層塗膜形成方法では、上記の方法で形成した中塗り塗膜、ベース塗膜、クリヤー塗膜を、同時に加熱硬化させる加熱硬化させることで、塗膜外観に優れた複層塗膜を得ることができる。
本発明の複層塗膜形成方法の加熱硬化工程において、加熱硬化温度・時間は、例えば、120〜170℃、10〜60分間である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、各例中の部、%、比は、それぞれ質量部、質量%、質量比を表す。また、表中に記載した各成分の配合量の単位は、質量部を表す。
また、水酸基価はJIS K−0070(1992)に従って測定し、酸価はJIS K−5601−2−(1999)に従って測定した。
【0066】
<製造例1:ポリエステルポリオールの製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却管、窒素ガス導入装置、温度計、攪拌装置を装備した反応容器に、ダイマー酸(商品名「EMPOL1008」、BASF社製、炭素数36)54.0部、ネオペンチルグリコール8.0部、イソフタル酸17.8部、1,6−ヘキサンジオール19.4部、トリメチロールプロパン0.8部を仕込み、120℃まで昇温させて原料を溶解した後、攪拌しながら160℃まで昇温させた。160℃のまま1時間保持した後、5時間かけて230℃まで徐々に昇温させた。230℃を保持して反応を続け、樹脂酸価が4mgKOH/gになったら、80℃以下まで冷却した後に、メチルエチルケトン31.6部を加えて、ポリエステルポリオールを得た。このポリエステルポリオールの特性値は、樹脂固形分74.6%、数平均分子量1,800、水酸基価62mgKOH/g、酸価4mgKOH/gだった。
【0067】
<製造例2−1:ポリウレタン樹脂PU−1の製造>
窒素ガス導入装置、温度計、攪拌装置を装備した反応容器に、製造例1で得られたポリエステルポリオール81.4部、ジメチロールプロピオン酸6.1部、ネオペンチルグリコール1.4部、メチルエチルケトン40.0部を仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温させた後、イソホロンジイソシアネート25.9部を仕込み、80℃を保持したまま各成分を反応させた。イソシアネート価が0.43meq/gになったところでトリメチロールプロパン5.9部を加え、そのまま80℃で反応を継続させた。そして、イソシアネート価が0.01meq/gになったところでブチルセロソルブ33.3部を加えて反応を終了させた。その後、100℃まで昇温させ、減圧下でメチルエチルケトンを除去した。さらに、50℃まで降温させ、ジメチルエタノールアミンを3.6部加え、その後に脱イオン水148.9部を加えて、表1に示す特性値を有するポリウレタン樹脂PU−1を得た。
【0068】
<製造例2−2〜2−9:ポリウレタン樹脂PU−2〜PU−9の製造>
表1に示した配合に基づき、製造例2−1と同様の方法で、表1に示す特性値(樹脂固形分、水酸基価、酸価、数平均分子量)を有するポリウレタン樹脂PU−2〜PU−9を得た。なお、PU−3、PU−4及びPU−8については、PU−1を製造する際に使用したトリメチロールプロパンの代わりにネオペンチルグリコールを使用して製造した。
【0069】
【表1】
【0070】
<製造例3−1:コア/シェル型樹脂エマルションAU−1の製造>
温度計、攪拌装置及び窒素ガス導入管を備えたフラスコに、ポリウレタン樹脂PU−1を46.4部、脱イオン水33.1部を仕込み、攪拌しながら85℃まで昇温した後、滴下成分として、スチレン4.9部、メチルメタクリレート7.0部、n−ブチルアクリレート3.5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.8部、アクリル酸0.1部の均一混合液と、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.24部及び溶剤としてのプロピレングリコールモノエチルエーテル3.8部の均一混合液を、それぞれ同時に3.5時間かけて滴下ロートを用いて等速滴下した。滴下終了後、85℃で1時間保持した後、追加触媒として、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03部を溶剤としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル0.14部に溶解させた重合開始剤溶液を添加し、さらに85℃で1時間保持したところで反応を終了した。表2に示す特性値(アクリル樹脂の水酸基価、酸価、ガラス転移温度、及びコア/シェル型樹脂エマルションの樹脂固形分(質量%)及びコア部/シェル部の質量比)を有するコア/シェル型樹脂エマルションAU−1を得た。
【0071】
<製造例3−2〜3−18:コア/シェル型樹脂エマルションAU−2〜AU−18の製造>
表2及び表3に示された配合組成に従って、製造例3−1と同様の方法で、コア/シェル型樹脂エマルションAU−2〜AU−18を得た。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
<製造例4−1:クリヤー塗料用アクリル共重合樹脂A−1の製造>
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、キシレン18部、メチルアミルケトン7部を仕込み、140℃に昇温した。続いて、滴下成分として、プラクセルFM−1(ダイセル社製、ヒドロキシエチルメタクリレートの水酸基にε−カプロラクタム1モルが付加した単量体)24部、スチレン9部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5部、アクリル酸n−ブチル21.4部、アクリル酸0.6部、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート2部からなる混合物を滴下ロートより2時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間還流温度を保ち内容物を100℃まで冷却した。100℃まで冷却後、追加触媒として、t−ブチルペルオキシベンゾエート0.2部とキシレン3部からなる混合物を滴下した。その後100℃の温度で3時間保ったところで重合反応を終了し、キシレン9.8部を加え、樹脂A−1の溶液を得た。
【0075】
<実施例1>
以下に示す方法に従って、水性中塗塗料及び水性ベース塗料を製造し、これらの塗料を用いて複層塗膜を形成し、その物性を評価した。
【0076】
<水性中塗塗料の製造>
分散樹脂として水性ポリエステル樹脂(商品名「SETAQUA6407」、ヌプレクス・レジンズ社製、酸価11mgKOH/g、水酸基価89mgKOH/g、樹脂固形分26%)を使用し、二酸化チタン(商品名「タイピュア R706」、デュポン社製)30.7部及びカーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱化学社製)0.4部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。
次に、コア/シェル型樹脂エマルションAU−1を10.2部、水性ポリウレタン樹脂(商品名「バイヒドロールPT241」、住化バイエルウレタン社製、水酸基価82mgKOH/g、樹脂固形分41%)29.7部をディゾルバーで混合して樹脂ベースを作製した後、先に作製した顔料ペーストを加えて混合した。最後に、メラミン樹脂(商品名「サイメル327」、サイテック・インダストリーズ社製、樹脂固形分90%)9.8部を加えて混合し、水性中塗塗料PR−1を得た。なお水性中塗塗料PR−1中での水性ポリエステル樹脂の含有量は25.6部となるようにした。
【0077】
<水性ベース塗料の製造>
分散樹脂として水性ポリエステル樹脂(商品名「SETAQUA6407」、ヌプレクス・レジンズ社製、酸価11mgKOH/g、水酸基価89mgKOH/g、樹脂固形分26%)を使用し、カーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱化学社製)2.3部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。
次に、コア/シェル型樹脂エマルションC1を10.2部、水性ポリウレタン樹脂(商品名「バイヒドロールPT241」、住化バイエルウレタン社製、水酸基価82mgKOH/g、樹脂固形分41%)29.7部をディゾルバーで混合して樹脂ベースを作製した後、先に作製した顔料ペーストを加えて混合した。最後に、メラミン樹脂(商品名「サイメル327」、サイテック・インダストリーズ社製、樹脂固形分90%)9.8部を加えて混合し、水性ベース塗料BC−1を得た。なお水性ベース塗料BC−1中での水性ポリエステル樹脂の含有量は25.6部となるようにした。
【0078】
<クリヤー塗料の製造>
アクリル共重合樹脂A−1を60部、デスモジュールN3300(住化バイエルウレタン社製、液状ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートタイプ樹脂、樹脂固形分100%)を15.8部、チヌビン900(BASF社製、紫外線吸収剤)の20質量%キシレン溶液を1.0部、チヌビン292(BASF社製、光安定剤)の20質量%キシレン溶液を0.5部、BYK−300(ビックケミー社製、表面調整剤)の10質量%キシレン溶液を0.1部、ソルベッソ100(エッソ社製)を11.3部、酢酸イソブチルを11.3部を順次混合して均一になるように撹拌し、クリヤー塗料CC−1を作成した。
【0079】
<塗膜性能評価>
リン酸亜鉛処理軟鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「カソガードNo.500」、BASFジャパン社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装を行い、175℃で25分間焼き付けて、本評価に使用する電着塗膜板(以下、「電着板」)とした。
製造した水性中塗塗料PR−1と水性ベース塗料BC−1を脱イオン水で希釈し、粘度を40秒(フォードカップ#4、20℃)とした。また、回転霧化型ベル塗装機(商品名「メタリックベルG1−COPESベル」、ABB社製)を準備し、塗装条件を25℃、75%(相対湿度)に設定し、以下の方法で複層塗膜形成を行った。
【0080】
電着板に、水性中塗塗料PR−1を、乾燥膜厚が20μmとなるように塗装した。その後、室温で5分間静置し、水性ベース塗料BC−1を、乾燥膜厚が12μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で3分間の予備加熱を行った。室温となるまで放冷した後、クリヤー塗料CC−1を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装した。塗装後、室温で10分間静置し、140℃で30分間焼き付けて、試験片を得た。
【0081】
(1)塗膜外観性
塗膜表面の平滑性を「Wavescan DOI」(商品名、BYKガードナー社製)により測定して得られたSw値より、試験片の塗膜外観を以下の基準で評価した。
◎:Sw値が10以上、かつ15未満
〇:Sw値が15以上、かつ20未満
×:Sw値が20以上
【0082】
(2)耐チッピング性
試験塗板を、飛び石試験機(スガ試験機社製、商品名「JA−400LA型」)に、角度45度、−20℃の雰囲気下でセットし、250gのM2ナットを5Kg/cmで噴射して塗膜表面に衝突させ、セロハンテープで剥離後、はがれ傷の程度を次の基準で評価した。はがれ傷の評価は、被衝撃部の縦70mm×横70mmの枠内で行った。
◎:評価面積当たりの剥離面積率が0.0〜1.0%未満。
○:評価面積当たりの剥離面積率が1.0〜3.0%未満。
×:評価面積当たりの剥離面積率が3.0%以上。
【0083】
(3)塗膜硬度
鉛筆引っ掻き試験法(JIS−K5600)により塗膜硬度を測定し、次のように評価した。
○:HB以上
×:HB未満(B以下)
上記評価の評価結果を表6に示す。
【0084】
<実施例2〜9、比較例1〜21>
表4〜表6で示す水性中塗塗料、表7に示す水性ベース塗料を使用し、実施例1と同様の方法で、試験片を作製して塗膜性能評価を行った。評価結果を表8〜表11に示す。なお、表中、固形分とは樹脂固形分を意味する。
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
【表8】
【0090】
【表9】
【0091】
【表10】
【0092】
【表11】