特許第6104039号(P6104039)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナノテンパー・テクノロジーズ・ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104039
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】高速熱光学的粒子特徴付け
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20170316BHJP
   G01N 25/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   G01N21/64 F
   G01N25/00 Z
【請求項の数】43
【全頁数】75
(21)【出願番号】特願2013-97168(P2013-97168)
(22)【出願日】2013年5月2日
(62)【分割の表示】特願2009-537524(P2009-537524)の分割
【原出願日】2007年11月20日
(65)【公開番号】特開2013-178265(P2013-178265A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2013年6月3日
【審判番号】不服2015-11023(P2015-11023/J1)
【審判請求日】2015年6月10日
(31)【優先権主張番号】06024057.9
(32)【優先日】2006年11月20日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】07020650.3
(32)【優先日】2007年10月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515132571
【氏名又は名称】ナノテンパー・テクノロジーズ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(72)【発明者】
【氏名】ドゥール,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】バースク,フィリップ
【合議体】
【審判長】 郡山 順
【審判官】 藤田 年彦
【審判官】 ▲高▼橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−514252(JP,A)
【文献】 特開2003−279566(JP,A)
【文献】 特開2000−279169(JP,A)
【文献】 Duhr S et al.,Thermophoresis of DNA determined by microfluidic fluorescence,THE EUROPEAN PHYSICAL JOURNAL E,フランス,EDP SCIENCES,2004年11月,Vol.15, No.3,pp.277−286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62-21/83
G01N 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中の粒子の分子内相互作用及び/又は分子間相互作用を計測する方法であって、
溶液中にマークされた粒子が含まれたサンプルを配し、
前記マークされた粒子を蛍光励起し、前記蛍光励起された粒子の蛍光の第一の検出を行い、
溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成し、
溶液へのレーザーの照射が始ってから所定時間後に、溶液内の粒子の蛍光の第二の検出を行い、
前記2つの検出の結果を比較することに基づいて、前記空間温度分布によって引き起こされた熱泳動に関する前記粒子の分子内相互作用及び/又は分子間相互作用の特徴付けを行い、
前記レーザーの照射及び前記蛍光の検出は、前記サンプルに対して同じ側から共通の光学系を介して行われ、
前記レーザー光ビームは、1200nmから2000nmの波長範囲内にあることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記レーザー光ビームは赤外線レーザー光ビームであり、蛍光検出と赤外線レーザー焦点合わせとが、前記光学系を備える光学ユニットを介して行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザービームは、温度分布内の温度勾配が、0.0K/μmより大きく5K/μm以下の範囲となるように、焦点外しが為されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記レーザービームは、温度分布内の温度勾配が、0.0K/μmより大きく2K/μm以下の範囲となるように、焦点外しが為されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザービームは、前記光学系の光学素子を通じて、溶液内に照射されることを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記光学素子は、単一レンズであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液中の前記照射ビームの周りの温度分布を温度感応性染料により計測するステップを更に備えることを特徴とする1乃至のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記温度分布は、前記温度感応性染料の検出された蛍光に基づいて判定され、前記温度感応性染料を含む溶液は、照射されたレーザービームで加熱され、空間蛍光強度が、前記レーザービームの周りでそれに実質的に垂直方向に計測されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記所定時間は、0.5sから250sの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記所定時間内で、溶液中の空間温度分布内において、熱泳動効果により濃度が変化し、かかる濃度変化が、蛍光の分布の変化により検出されることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項11】
レーザービームは、温度分布内の温度勾配が0.001から10K/μmの範囲内で形成されるように、焦点合わせが為されることを特徴とする請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光は、CCDカメラで検出されることを特徴とする請求項9、10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記蛍光の輝度が、前記レーザービームの中心において、フォトダイオード又はCCDの単一画素により検出されることを特徴とする請求項9、10又は11に記載の方法。
【請求項14】
前記粒子は、生物分子及び/又はナノ粒子及び/又はマイクロビーズ及び/又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
計測されるべき前記粒子は、分子、粒子、ビーズ、有機物、無機物、生物分子、ナノ粒子、マイクロビーズ及び/又はこれらの組み合わせ、からなる群の中から選択される請求項1乃至14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記レーザーは、0.1Wから10Wの範囲内のハイパワーレーザーであることを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記レーザーは、4Wから6Wの範囲内のハイパワーレーザーであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶液は、1アットモルから1モルの範囲内の粒子濃度を有する水溶液であることを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記溶液は、1アットモルから100μモルの範囲内の粒子濃度を有する水溶液であることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記溶液は、0から1Mの範囲の濃度を有する食塩水であることを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記空間温度分布は、0.1℃と100℃の間であることを特徴とする請求項1乃至20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記温度勾配は、レーザービームの周りに、直径0.1μmから500μmの範囲で形成されることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記溶液は、前記レーザー光ビームの方向に、1μmから500μmの厚さを有することを特徴とする請求項1乃至22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記蛍光は、前記レーザービームの方向に、1nmから500μmの範囲内で検出されることを特徴とする請求項1乃至23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記蛍光は、CCDカメラにより、前記レーザー光ビームに対して実質的に垂直な方向に検出されることを特徴とする請求項1乃至24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記第二の蛍光検出は、前記レーザー光ビームに対して実質的に垂直な温度分布に依存した蛍光の空間的測定であることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
溶液中の粒子の分子内相互作用及び/又は分子間相互作用を計測するための装置であって、
溶液中のマークされた粒子を受け入れる受容手段(40,45又は51)と、
マークされた粒子を蛍光励起する手段(32)と、
前記溶液中の蛍光を検出する手段(31)と、
前記溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成するためのレーザー(30)と、
を備え、
前記レーザーと前記蛍光を検出する手段とは、前記受容手段に対して同じ側に配置され、
前記レーザー光ビームは、1200nmから2000nmの波長範囲内にあり、
前記装置は、溶液中の粒子の分子内相互作用及び/又は分子間相互作用を計測するため請求項1乃至26のいずれかの方法を実行するように動作することを特徴とする装置。
【請求項28】
前記レーザー(30)は赤外線レーザーであり、前記レーザー(30)と前記蛍光を検出する手段(31)とは、蛍光像取得と赤外線レーザー焦点合わせとが、同じ光学ユニットを介して行われるように配置されていることを特徴とする請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記レーザー(30)と前記蛍光を検出する手段(31)とは、蛍光像取得と赤外線レーザー焦点合わせとが、同じ対物レンズ系を介して行われるように配置されていることを特徴とする請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記マークされた粒子を蛍光励起する手段は、LEDであることを特徴とする請求項27乃至29のいずれかに記載の装置。
【請求項31】
前記レーザーは、0.1Wから10Wの範囲内のハイパワーレーザーであることを特徴とする請求項27乃至30のいずれかに記載の装置。
【請求項32】
前記レーザーは、4Wから6Wの範囲内のハイパワーレーザーであることを特徴とする請求項31に記載の装置。
【請求項33】
検出された領域を拡大する光学系を更に備えることを特徴とする請求項27乃至32のいずれかに記載の装置。
【請求項34】
前記レーザービームの焦点合わせや焦点外しを行う光学系(10)を更に備えることを特徴とする請求項27乃至33のいずれかに記載の装置。
【請求項35】
前記光学系(10)は単一レンズであることを特徴とする請求項34に記載の装置。
【請求項36】
前記検出手段(31)は、CCDカメラであることを特徴とする請求項27乃至35のいずれかに記載の装置。
【請求項37】
前記検出手段(31)は、フォトダイオードであることを特徴とする請求項27乃至35のいずれかに記載の装置。
【請求項38】
溶液中の前記粒子の分子内相互作用及び/又は分子間相互作用を検出及び/又は計測するための、請求項1乃至26のいずれかに記載の方法の使用。
【請求項39】
前記粒子は、分子、粒子、ビーズ、有機物、無機物、生物分子、ナノ粒子、マイクロビーズ及び/又はこれらの組み合わせ、からなる群の中から選択されることを特徴とする請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記分子は、蛋白質、ペプチド、核酸、蛋白質−核酸融合分子、PNA、ロックされたDNA(LNAs)、からなる群の中から選択されることを特徴とする請求項39に記載の使用。
【請求項41】
溶液中の前記粒子の分子内相互作用及び/又は分子間相互作用を検出及び/又は計測するための、請求項27乃至37のいずれかに記載の装置の使用。
【請求項42】
前記粒子は、分子、粒子、ビーズ、有機物、無機物、生物分子、ナノ粒子、マイクロビーズ及び/又はこれらの組み合わせ、からなる群の中から選択されることを特徴とする請求項41に記載の使用。
【請求項43】
前記分子は、蛋白質、ペプチド、核酸、蛋白質−核酸融合分子、PNA、ロックされたDNA(LNAs)、からなる群の中から選択されることを特徴とする請求項42に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子の高速熱光学的特徴付けのための方法及び装置に関する。特に、本発明は、分子、特に生物分子の安定性、例えば、更なる(生物)分子、特に変性分子、粒子、例えばナノ粒子又はマイクロ粒子、ビーズ、例えばマイクロビーズ、との分子、特に生物分子の相互作用、及び/又は、個々の分子、特に生物分子の、粒子(例えばナノ粒子、マイクロ粒子)の、又はビーズ(例えばマイクロビーズ)の、長さ/大きさ(例えば流体力学的半径)の判定、更に、(生物)分子又は粒子の、例えば長さ又は大きさ(例えば流体力学的半径)の判定を計り知るための方法及び装置に関する。また、これらの特徴の組み合わせが、本発明の手段及び方法により判定される。しかしながら、本発明は、生物分子の測定/特徴付けに限定されないことに注意すべきである。ゆえに、他の化合物/粒子の特徴もここに開示された手段及び方法により測定及び判定でき、例えば分子の運動関連事象や相互作用が判定及び/又は測定可能である。従って、(無機又は有機反応のような)化学的反応も本発明の方法や本発明の装置の使用により測定できる。また複雑な形成及び/又はその解離を判定することも想到できるであろう。
【背景技術】
【0002】
全光学的分子特徴付けのための技術について従来から知られている方法においては、溶液中の生物分子が含まれたサンプルが一旦ある温度にまで均質に加熱され、そしてその後更に次の温度点にまで温められる。共通の手順は、20℃から始めることである。そして、温度を例えば1℃ごと上げていく。そして、約2分が経過すると、全システムは(キュベット及び溶液)は適用温度に達する。これは大きな熱容量に起因する。そしてようやく蛍光が計測される。この手順は、90℃にまで段階的に繰り返される。従って、サンプルの容積全体を熱するのには時間がかかり、またそのような液体に接する熱伝導材料を採用する必要があった。ゲル電気泳動のような当技術分野で知られている分離技法は、現代のDNA及び蛋白質バイオテクノロジーの中核をなすものである。しかしながら、電気泳動は、金属−緩衝液インタフェースにおける電気化学的効果やゲル層の時間のかかる準備により、小型化することが困難である。Duhr et. al. in European Phys. J. E. 15,277,,2004は、“ミクロ液体蛍光により判定されるDNAの熱泳動”に関するものであり、小型
化されたバイオテクノロジー装置において熱泳動駆動力を利用しているものである。この文献は、薄いミクロ液体中で小容積中の生物分子に対して熱泳動を適用して計測するという全光学的アプローチを議論している。蛍光染料に含まれる温度感応性蛍光を利用して、温度が高い空間解像度で計測される。とりわけ、Duhr et. al. (2004, loc. cit.) によ
るある計測は、300秒かそれ以上かかっている。更に、Duhr et. al. (2004, loc. cit.) においては、温度勾配における、重合体、特にDNA、の動きは、分子の鎖長に依存
しないという仮定、すなわち例えば Braun and Libchaber, Physical Review Letters, 89, 18 (2002) にあるような理論的考察と一致するような仮定についても推測している。
この仮定というのは、熱泳動に基づく分子の熱光学的特徴付けを著しく制限するものである。というのは、その技法は、単に分子の大きさの変化に依存するとするものであり、表面特性に対する感応性についてまでは提案していないからである。そして、まさにそのことが本発明の要旨である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した方法は非常に時間がかかるという不利な点を有している。また、それは、Biacore (GE Healthcare), Evotec FCS-plus (Perkin-Elmer), 又はLightcycler 480 (Roche
Applied Science) のような、相互作用、大きさ及び安定性を計測するための確立した方法のためのものである。これらの技法においてはとりわけ1時間以上の時間がかかる。
【0004】
ゆえに、本発明の目的は、粒子又は分子の熱光学的特徴付けのための改良された方法及び装置を提供すること、特に、粒子又は分子、特に生物分子の熱的誘導過程を計測する非常に高速な方法を提供することにある。
【0005】
これらの目的は、独立請求項の特徴により達成される。更に好適な実施形態が従属請求項に特徴付けられている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、特に、分子、特に生物分子、の安定性、他の又は更なる(生物)分子、粒子(例えばナノ粒子又はマイクロ粒子、ビーズ、例えばマイクロビーズ)、との(生物)分子の相互作用を計測し、及び/又は、個々の分子、特に生物分子の、粒子(例えばナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ、例えばマイクロビーズ)の、長さ又は大きさを計測するための方法及び装置に関する。また、これらの特徴の組み合わせが、本発明の手段及び方法により判定される。本発明の方法によれば、数ミリ秒から数秒の時間範囲内でそれらのパラメータ/特徴を、非接触で熱光学的に計測することができる。すなわち、たいへん速い解析が可能となる。本発明の文脈においては、ナノ粒子というのは、100nm未満の少なくとも一寸法を有する微視的粒子であり、マイクロ粒子/マイクロビーズというのは、1mm未満であるが通常100nmを超える特徴的寸法を有する微視的粒子/ビーズである。
【0007】
本発明、特に請求項の記述においては、語句“粒子”は、ビーズ、特にマイクロビーズ、ナノ粒子又は分子、特に生物分子、例えば(DNA、RNA、LNA、PNAのような)核酸、蛋白質及び他の生重合体と共に生物学的細胞(例えば、バクテリア又は真核細胞)又は亜細胞断片、ウイルス粒子又はウイルス及び細胞オルガネラ等を含む概念である。語句“変性粒子”又は“変性ビーズ”は、特に、分子、好ましくは生物分子を含む、又は生物分子にリンクするビーズ又は粒子を意図している。このことは、またそのようなビーズ又は粒子をこれらの(生物)分子で被膜することも含んでいる。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、その発明的方法は、水溶液の赤外線レーザー(LASER)
照射の吸収とそれに引き続く熱への変換とに基づいている。それにより、例えば直径又は長さが250μmの領域内において、例えば0℃と100℃との間のようなあらゆる所望の温度を含む、広い空間的、すなわち二次元又は三次元(2D,3D)、温度分布、を局所レーザー加熱により創出し、それにより所望の温度勾配、とりわけ強力な温度勾配が創出される。局所的温度分布及び温度勾配の双方が、以下に説明するように、パラメータ、特に生物分子パラメータ、を計測するのに使用される。特定の実施形態においては、温度分布はミクロメータースケールである。そのことは、強力な温度勾配により、システムが平衡状態になるために必要な平衡時間(計測時間)が短くなるという意味で有利な点である。特定の実施形態においては、100μm未満の長さの割合で温度を増加させることが有利な点となっている。
【0009】
本発明は、溶液中の粒子/分子の特徴を熱光学的に計測する方法に関し、溶液中にマークされた粒子/分子のついたサンプルを配し、前記マークされた粒子を励起(例えば蛍光励起)し、前記励起された粒子/分子(の蛍光(例))の第一の検出及び/又は計測をし、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに(すなわち、レーザー光ビームで直接照射された水溶液の領域及び/又はその近くに)空間温度分布を形成し、溶液へのレーザー(LASER)の照射が始ってから所定時間後に、溶液内の粒子/分子(の蛍光(例))の第二の検出及び/又は計測をし、前記2つの検出に基づいて粒子/分子の特徴付けを行うものである。
【0010】
本発明の趣旨から外れないことであるが、蛍光に基づく検出の代わりに、他の方法も可能であることが想像できる。検出すべき粒子の大きさ及び特性に応じて、蛍光により励起するステップは省略できるし、光分散、(UV)吸収、位相差、りん光及び/又は偏光に基づく検出も可能である。更に、100nmより大きい粒子については、単一粒子追跡によりそのような粒子の動きが検出できる。
【0011】
本発明による熱光学的特徴付けによれば、溶液、特に水溶液中の分子又は粒子の特性を決定できる。また、それによれば、1つの粒子又は分子種における互いに異なる構成を区別することができ、また粒子又は分子の互いに異なる種を区別することができる。そのような特徴付けは、粒子が、温度勾配の変化や絶対的な温度値の変化に対して応答するようなあらゆるケースで利用することができる。本発明の有利な特徴は、画定された空間温度分布が存在するということである。特に、温度分布は、焦点の合ったレーザーを用いた局所的加熱により、微視的な長さスケールで局所的に生成される。他の有利な特徴は、粒子又は分子の応答が、既知であって任意に生成される空間温度分布のある点において生ずるということである。従って、粒子の温度、場所及び応答が直接的に関係づけられる。
【0012】
更に、Duhr (2004; loc. cit.) と対比しても、本発明は、熱光学的特性における違い
を計測及び/又は検出することにより、粒子又は分子、特に生物分子、の熱光学的計測及び/又は熱光学的特徴付けのための手段及び方法を提供する。それらの熱光学的特性は、主に、熱泳動的な移動性DT(すなわち、温度勾配中の粒子/分子の速度)の違いに端を発するものである。特に、検出信号は、熱泳動的移動性c/c=exp[−(D/D)(T−T)]に依存する。ここで、Dは拡散係数、cは濃度、Tは温度である。拡散定数の変化のみが熱光学的特性に寄与するのであり、それはほとんどのケースで僅かなものであるので、Duhr (2004; loc. cit.) 又は他の者(例えば、Chan et al., Journal of
Solution Chemistry 32, 3 (2003); Schimpf et al., Macromolecules 20, 1561-1563 (1987))により予見されたような重合体長のDT依存性により、DNA及び蛋白質のよう
な生重合体の解析を行うことはほとんど不可能であろう。
【0013】
本発明による熱光学的特徴付けは、溶液中、特に水溶液中、において微視的な長さスケールというような強力な温度勾配を創り出すことに基づくものである。そのようにすることにより、溶液中の分子のエネルギー状態は、温度及び分子の特性に依存して変化する。すなわち、分子は、温度の空間的違いに起因した空間的ポテンシャルの影響を受ける。このポテンシャルにより、分子は、その温度勾配に沿って誘導され、その効果は熱泳動と呼ばれる。温度の変化が、熱泳動に加えて、蛋白質又はDNAのような生重合体のアンフォールディング(変性)を引き起こすような場合もある。アンフォールディング効果は、高温時に観測され、分子の安定性の測度となり(アンフォールディングの根拠というのは、エネルギーのエントロピー要素の影響が大きくなるということである)、その効果は、特徴的な時間スケールの観点で熱泳動とは区別される。安定性解析は、数ミリ秒から1秒、好ましくは約1mnから250ms、1msから200ms、1msから100ms、1msから80ms、1msから50ms、更に好ましくは約40ms、80−180ms、80−150ms、最も好ましくは約50msである。
【0014】
熱泳動は、約0.5秒から250秒の範囲で、好ましくは0.5秒から50秒、好ましくは1秒から250秒、好ましくは1秒から50秒、好ましくは1秒から40秒、好ましくは5秒から20秒、好ましくは5秒から40秒、好ましくは5秒から50秒、好ましくは5秒から約80秒、更に好ましくは5秒から100秒の範囲で頻繁に観測される。熱泳動は、溶液中の分子の表面特性に感応するような方法である。分子を(クロマトグラフィーのような)異なる基質(マトリックス)に晒す必要もなく、何らかの方法(例えば、直接接触や物質を加えること)で分子を物理的に相互反応させる必要もない。電磁波と物体の間の相互反応のみが必要である。赤外線照射は空間的加熱(すなわち、物体の操作)の
ために使用され、蛍光は分子を検出するためのものである。
【0015】
ここで提供されるような熱泳動に基づく熱光学的特徴付けの趣旨は、熱泳動的移動性における違い(すなわち、温度勾配中の分子の速度)や流体力学的半径が、濃度の空間分布(すなわち、例えば蛍光の空間分布により)又は空間的温度分布において捕えられた単一粒子の揺動を解析することにより、検出できる。この実施形態は、粒子、分子、ビーズ、細胞構成物、ベシクル、リポゾーム、セル等を捕えるための熱光学的捕獲にとりわけ関連している。流体力学的半径が分子の半径にのみ関連しているのに対して、熱泳動的移動性は、電荷、表面特性(例えば、表面上の化学的基)、分子の形(表面の大きさ)、蛋白質の構成、又は生物分子間もしくは生物分子と粒子/ナノクリスタル/マイクロビーズとの間の相互作用に感応的である。このことは、上記特性のいずれかが変わるならば、分子は、異なる熱力学的ポテンシャル内に身を置き、それにより熱泳動的移動性が変わってくる(すなわち、空間的濃度分布又は捕獲粒子の揺動振幅の変化)ということを意味している。
【0016】
従って、本発明は、熱的に誘導されたプロセス、例えば、温度勾配導入指向的動き又は熱変性に関するものである。
【0017】
上述した熱光学的特徴付けは、粒子及び/又は分子の高速熱光学的解析のための、特に、核酸分子(例えば、DNA、RNA、PNA)又は蛋白質及びペプチドのような生物分子の熱光学的特徴付けのための手段を提供する。この特徴付けには、特に、大きさ判定、長さ判定、融点又は融解曲線、錯生成、蛋白質−蛋白質間相互作用、蛋白質又はペプチドのフォールディング/アンフォールディング等の生物物理的特徴、分子内相互作用、分子間相互作用の判定、粒子又は分子間の相互作用の判定などが含まれている。分子の相互作用及び特徴、特に生物分子の相互作用及び特徴、を検出し定量化するための従来技術による方法は非常に時間のかかるものであり、つまり分析に必要な時間というのは30分から数時間のオーダーであった。本発明においては、一測定はとりわけ300s未満であり、200s未満であり、100s未満であり、更に50s未満であり、これは明らかに従来技術において記述された方法よりも速いものである。本発明は、分子の相互作用及び特徴、特に生物分子の相互作用及び/又は生物化学的/生物物理的特性を1秒から50秒以内で検出し定量化できる。相互作用という語句には、生物分子(例えば、蛋白質、DNA、RNA、ヒアルロン酸等)間の相互作用が含まれるが、(変性)(ナノ)粒子/(マイクロ)ビーズと生物分子との間の作用も含まれる。この文脈において、変性粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズとは、蛍光標識化粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズである。蛍光標識化粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズとは、例えば、1つ又は2つ以上の蛍光染料が例えば共有結合的に付された粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズである。例えば、蛍光染料は、6-カルボキシ-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオレセイン(6-HEX SE; C20091, Invitrogenn)、6-JOE SE、又は 6-TET SE(添付の図6も参照)の中から選択できる。他の場
合、本発明では、例えば粒子、分子、生物分子に固有の蛍光も活用できる。例えば、蛋白質内のトリプトファン、チロシン、フェニルアラニンに対する蛍光特性が利用できる。この発明の文脈においては、“マークされた粒子”というのは、蛍光標識化分子/粒子、又は蛍光手段により検出できる他の分子/粒子、例えば固有蛍光体を有する分子/粒子、混入染料を有する分子/粒子、又は蛍光体が付された粒子/分子のことを言っている。
【0018】
この発明における、相互作用を検出/定量化する典型的な実験は、発明の範囲を限定するものでなく、以下に説明される。
【0019】
ステップ1a バックグラウンド測定:
蛍光標識化サンプル分子/粒子が含まれていないサンプル緩衝液が、ミクロ液体チャンバーに満たされ、励起光源が点灯した状態で蛍光が計測される。
【0020】
ステップ1b レーザー加熱前の蛍光レベル判定:
蛍光標識化サンプル(例えば、生物分子、ナノ粒子又はマイクロ粒子等の粒子、ビーズ、特にマイクロビーズであり、特定の実施形態においては、それらの全てが、他の生物分子に対して特別な親和力を有している)の任意の濃度の水溶液が、好ましくは、規定された高さを有するミクロ液体チャンバー(好ましくは細管)に満たされる。蛍光が励起され、例えば、25ミリ秒から0.5秒までの露光時間で、CCD装置又は光電子増倍管に、10秒に満たない時間で、空間的な解像で(例えばCCDカメラ)又は空間的な解像ではなく(例えば光電子増倍管、Avalanche Photodiode)、記録される。そして、蛍光励起はオフされる。
【0021】
ステップ2 赤外線レーザー加熱の開始:
赤外線加熱レーザーが起動され、数ミリ秒間で、溶液内に空間温度分布が形成される。温度勾配の基準調整は一旦行われれば、実験が行われるごとに繰り返す必要はない。特に、赤外線加熱と蛍光像取得が片側から同じ光学素子を介して行われるような装置は、赤外線の光学的焦点の安定性という点で有利である。
【0022】
実験においては、光学的脱色による蛍光の5%未満の減少が有利となる。本発明の特定の実施形態においては、光学的脱色による補正は必要ない。
【0023】
熱泳動特性を計測するいくつかの実施形態においては、最大温度は、分子にダメージを引き起こすか、分子間相互作用を阻害すると知られているような温度以下である(例えば、周囲温度に対して1から5℃上である)。
【0024】
溶液内の粒子又は分子の熱泳動特性に依存して(すなわち、温度勾配内において速く移動するか、遅く移動するかに応じて)、赤外線レーザーにより溶液は、5秒から100秒まで、好ましくは5秒から50秒まで、更に好ましくは5秒から20秒まで加熱される。
【0025】
ステップ3 空間蛍光(濃度)分布の記録:
上記時間後、蛍光励起がオンされ、ステップ1bで記述したと同じフレームレート及び長さで、画像が記録される。ステップ3は、熱光学的特性の評価に必要な最後の獲得ステップである。
【0026】
相互作用の検出と定量化のため、これまでの記述された手順の後に更なる計測が必要である。サンプル緩衝液についてのステップ1aが繰り返され、ステップ1bにおいて、蛍光標識化サンプルの水溶液が、相互作用が検出され定量化されるべき分子の一定量と混合される。例えば、粒子間及び/又は分子間の相互作用の検出においては、蛍光標識化サンプル(結合相手を含む)が、十分な量の第二結合相手と混合され、それによりある実質量の蛍光標識化分子又は粒子は、結合相手と共に複合体内にあることとなる。相互作用の強さが、例えば、解離又は結合定数(Ka、Kd)を用いて定量化されるべきであるならば、結合相手の濃度を変化させながら(例えば、蛍光標識化結合相手の濃度の0.1倍から10倍)、前述の手順が行われる。このことは結合相手の滴定もできることを意味している。
【0027】
生データの処理: 任意ではあるが、ステップ3の終了に引き続く全分子の逆拡散を待つことが有益な場合には、(線形)脱色補正を行ってもよい。これにより分析に費やされる時間が劇的に増加する。正確で速い計測のためには、画像ごとに脱色強度を決定し、個々の脱色ファクターですべての画像を補正することが有利である。正確な脱色補正のため
には、加熱スポットからの距離に対する温度勾配が低い(例えば0.001K/μm)ことが有利である。ステップ1bで得られた画象は、全ての画像について不均一輝度を補正するために使用される。空間的な解像を行わずに蛍光度の記録が行われる場合には(例えば、アバランシェフォトダイオード又は光電子増倍管)、制御的実験において、レーザー加熱を伴わずにある染料の脱色特性を一旦決定することにより、光学的脱色は、最適に補正される。
【0028】
データ評価: 相互作用の定性的検出: 画像系列から、基準実験(すなわち、結合相手が存在しない蛍光標識化分子/粒子)及び第二の実験(すなわち、結合相手が存在)の空間蛍光分布が抽出される。蛍光度が加熱スポットからの距離に対してプロットされる。平均化は、同一温度及び同一距離を有する各画素に対してのみ可能である。空間的濃度分布は、それぞれの染料の温度依存性に対して蛍光強度の補正を行うことにより得られる。蛍光染料の温度依存性と空間温度分布ということが分かっていれば、温度上昇による蛍光度減少効果を補正することができる。特定の実施形態においては、相互作用の定性的検出のみならずそれらの定量化のためにも、温度依存性の補正は必要なく、空間蛍光分布のみで十分である。温度依存性を考慮しない特定の実施形態においても、市場のいかなる蛍光染料も使用できる。染料の蛍光特性は、pH等の緩衝液条件に応じて変化させてもよい。
【0029】
蛍光分布の値は、温度が最大温度の例えば10%未満のところ(例えば70μm)の位置まで、積算される。その積算値は比較され、その変化は、使用される濃度で、物質間に親和力があるか否かを正確に示している。相互作用は熱光学的特性(例えば、熱泳動的移動性、表面の大きさ、及び表面上の化学的基)に変化を与えるからである。多くの場合、相互作用は、より高温で、より高い蛍光度(濃度)を引き起こす。
【0030】
細管の全断面が加熱される場合には(すなわち、例えば、楕円形状を有して細管の断面を均一に熱するようなIRレーザービームを発する円筒レンズを使用する場合)、中心加熱スポットから2つ又はそれ以上の画素の強度が平均化される。特定の実施形態においては、加熱ラインへ同距離にある全ての画素は同一温度を有する。これは高精度測定のためには有利なことである。蛍光が空間的には解像せずに記録される場合には、中心加熱スポット/ラインの蛍光度変化が計測される。特定の実施形態においては、全断面を加熱することも有利となる。一般的に、ステップ1b及び3において、2以上のフレームが記録される場合には、複数フレームの積算が可能となる。
【0031】
分子親和力又は粒子親和力の定量化のため、非蛍光結合相手の各種濃度についての全ての実験で同一手順が行われる。基準実験(すなわち、結合相手なし)についての積算結果が、結合相手の異なる各濃度について得られた積算値から差し引かれる。この評価から、相互作用を及ぼす複合体の量が任意の単位で得られる。これらの値を結合が終了したときの値で割れば、相互作用分子間、特に結合相手との間で形成された複合体の、相手方のある濃度における相対量が得られる。これらのデータ組から、自由な、例えば蛍光を伴わない、結合相手の濃度も判定でき、相互作用の強さが結合又は解離定数をもってして定量化できる(添付実施例も参照)。
【0032】
以前に言及したように、既に説明し、またこれから説明する手順を利用して、更に大きな無機的粒子又はナノクリスタルに対する分子の結合を検出することが可能となる。異なる分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)の数値を種々に変えることにより(例えば、1,2,3、又は3以上、正しまでが好ましい)、例えばCdSe粒子のような無機粒子の異形(変性粒子)が形成される。特定の実施形態においては、1乃至3ポリエチレングリコール(PEG)分子が粒子に取りつく。生物分子の相互作用を検出するために、空間蛍光分布が以下説明するように計測される(添付実施例参照)。また、生データが以下で説明するように処理される。粒子又はナノクリスタルに結合したPEG分子の数
又は大きさを計測するためには、前述の手順で得られた空間蛍光分布を比較するだけでよい。しかしながら、蛍光の温度依存性減少を補正することにより、ソレット(Soret)係
数で記述した定量化が可能となる。添付の図面及び実施例、特に添付図26で、例示するように、ソレット係数は、ナノクリスタルに結合したPEG分子の数に比例して増加する。その増加の傾斜は、PEGの分子量に依存する。例えば添付図26で例示されるように、蛋白質の大きさを有する単一分子間の結合が検出可能となる。
【0033】
ここで使用され、また特に上記概説の非限定実施例において使用される語句“相互作用”又は“親和力”は、明確な分子/粒子の相互作用(例えば、分子間相互作用)のことを言及しているのみならず、タンパク質フォールディング現象のような分子内相互作用のことも言っている。
【0034】
ここで採用された語句“蛍光”は、本来の“蛍光”に限定されるものではなく、また以下開示された手段、方法、及び装置として、他の手段、特にりん光等の発光体を使用することも可能であることは、当業者であれば理解できるであろう。従って、語句“前記マークされた粒子を蛍光で励起し、前記励起された粒子の蛍光の第一の検出及び/又は計測を行い”は上で定義された方法における“励起ステップ”に関するものであり、また対応する発光体による励起も含むものである。すなわち、励起は、以下の発光検出よりも短い波長でも行えるということである。ゆえに、語句“分子の蛍光の第二の検出及び/又は計測”というのは、この発明の文脈においては、励起の後の前記発光の検出ステップを意味していることになる。当業者であれば、本発明の文脈において、“励起”波長と“発光”波長とは区別されるべきと気づくであろう。
【0035】
本発明の第一実施形態によれば、(溶液内の粒子/分子(の蛍光(例))が二回目に検出及び/又は計測された後の)所定時間というのは、熱泳動で誘起された濃度変化と対流に関連した又はそれによるアーテファクトが無視できるほど小さくなるに十分なくらい短いものである。言い換えれば、所定時間は、分子間又は分子内反応時間スケールと、よりゆっくりとした温度効果、例えば熱泳動、熱対流とを十分区別できる程度の短い時間ということになる。従って、その所定時間は、好ましくは1msから250msの範囲であり、更に好ましくは80msから180msまでであり、特に150msである。また、特に、溶液が、良好な熱伝導物質、例えばサファイア、ダイアモンド、及び/又はシリコンでできたチャンバーに入れられる場合には、所定時間は更に短くても十分である。例えば、1ms、5ms、10ms又は15msである。測定のためには、チャンバーと溶液が熱的平衡状態にあると有利である。言い換えれば、良好な熱伝導性を有するチャンバーであれば、溶液及びチャンバーはより早く熱的平衡状態に達するので、所定時間はより短くて十分である。熱伝導性がよくない場合には、チャンバー及び溶液が熱的平衡状態に達するまでにはより時間がかかる。すなわち、所定時間は、例えば100msから250msのようにより長くなる。
【0036】
本発明の特定の実施形態においては、検出又は露光時間は、1msから50msの範囲である。検出信号が記録されるのに要する時間というのは、検出ステップ期間の個々の分子の位置変化が無視できる程度に短くなければならない。例えば、検出が、320×200画素の解像度を有するCCDカメラで行われる場合には、検出の間、個々の分子/粒子が一画素のみで検出されることが有利な点となる。各画素はある温度を示しているのだからである。粒子の位置が大きく、すなわち一画素以上変化すれば、粒子は異なる温度に晒されてしまうことになり、そうなれば測定精度が落ちることになる。検出にCCDカメラ装置を使用するということには、一次元検出用の単一ライン画素のみのカメラ(例えば、ラインカメラ)を使用することも含まれる。
【0037】
本発明の特定の実施形態においては、温度分布内における温度勾配が、0.0から2K
/μmの範囲、好ましくは0.0から5K/μmの範囲になるように、レーザービームがデフォーカス(焦点外し)される。従って、温度勾配が小さいことにより、レーザー照射の開始から検出の終了までの間の熱泳動による粒子の移動が無視できるほど小さくなることが保証される。
【0038】
分子の熱変性を検出するのに必要な少なくとも全ての温度の領域が、カメラ装置の視野内になければならない。
【0039】
本発明の更なる様相によれば、レーザービームは、1つ又は複数の光学素子を通して溶液に照射される。レーザービームの焦点合わせは、いくつかの実施形態において、温度勾配が上記規定範囲内にあるように、行われる。レーザーの焦点合わせは、例えば、単一レンズ、複数のレンズ、又は、光ファイバーとレンズもしくは複数のレンズもしくは対物レンズ系との組み合わせにより達成され、入射レーザービームの拡がりは適正に調整される。また、レーザービームの焦点及び/又は方向を制御するための更なる光学素子が、溶液とレーザーの間に配置されてもよい。
【0040】
本発明の更なる実施形態によれば、レーザービームの周りの温度分布は、付加的測定により計測される。つまり、例えば、温度分布は、添付の図面、特に図3a、3b及び15に例示されたように、染料の知られている温度依存性蛍光に基づいていくつかの条件の下で計測される。特に、温度分布は、温度感応性染料の検出された蛍光に基づいて判定することも可能であり、その場合、前記温度感応性染料は、照射レーザービームにより(溶液を介して)加熱され、空間的蛍光強度がレーザービームに対して実質的に垂直方向に計測される。
【0041】
本発明の第二の実施形態によれば、(溶液内の粒子/分子(の蛍光(例))が二回目に検出及び/又は計測された後の)所定時間は、十分長いので、熱泳動的動きに基づく濃度の変化は検出できる。従って、当該所定時間は、好ましくは0.5から250sの範囲内である。当該所定時間内で、溶液中の濃度は熱泳動効果により空間温度分布内で変化し、そのような変化は蛍光の分布の変化により検出され得る。
【0042】
本発明の特定の実施形態にあっては、レーザービームは、温度分布内の温度勾配が0.001から10K/μmの範囲になるように、焦点合わせがなされる。視野内(特に視野の端)の温度は、周辺温度値に達するとは限らない。加熱中心から離れた位置(すなわち、視野の端)の温度増加は、最大温度(℃)と比較してその10%又はそれ未満(℃)であれば、有利である。
【0043】
更なる実施形態によれば、レーザー照射の前後の蛍光がCCDカメラにより検出される。CCDカメラを使用すれば、濃度変化が複数の位置で同時に検出できるという有利な点がある。特定の実施形態においては、CCDカメラは2D(二次元)CCDカメラである。すなわち、CCDアレイは、第一及び第二の方向に複数の検出画素(光電光センサー)を備えている。なお、ここで、その第一及び第二の方向は、互いに垂直であることが好ましい。更なる実施形態によれば、CCDカメラは、ライン又はライン走査カメラである。すなわち、CCDアレイは、第一の方向に複数の検出画素を備えているが、第二の方向には1画素のみである。そのようなカメラは、1D(一次元)カメラとも言われる。言い換えれば、ライン走査カメラに使用されている一次元アレイは、画像の単一切片又はラインのみを捕えるのに対して、二次元アレイは全2D画像を捕える。ラインカメラのCCDアレイは、3つの検出ラインを備えている。すなわち、各ラインは、1つの色チャネル(赤、緑、青)のためのものである。しかしながら、本発明の更なる様相によれば、CCDの単一画素についての検出蛍光変化に基づいて、粒子の特性を計測することも可能である。従って、CCDの単一画素の代わりに、フォトダイオード又は光電子増倍管を使用するこ
とも可能である。いくつかの実施形態においては、レーザー照射の前後の蛍光の輝度が、レーザービームの中心において、フォトダイオード又はCCDの単一画素により計測される。
【0044】
CCDカメラ装置、ラインカメラ、又はPMT/アバランシェフォトダイオードに撮像することにより、蛍光は、使用される液体シートの高さ全体に渡って平均化することもできる。従って、三次元溶液を二次元に落とすことができる。ゆえに、この実施形態で記述された方法は、とりわけ薄膜処理のためのモデルシステム(例えば、表面保護係留二層脂質薄膜(添付図面、特に図38で例証されるようなtBLM)又は伝統的ラングミュア単一層)として使用される二次元脂質シートに適用できることになる。この薄膜(例えば、脂質、蛋白質及び同様のもの)内で浮遊する蛍光標識化化合物は、温度勾配中で移動し、それらの溶媒和エネルギーに応じて再配置する。これらの脂質層又は薄膜内の蛍光再分布は、本発明の文脈においては、溶液中の化合物の再分布と同様、構成変更、相互作用、流体力学的半径等の、生物化学的又は生物物理的特性又は特徴を検出するために採用され得る。薄膜システムにおいては、局所温度分布が、周りの水溶液、例えば表面保護薄膜上の水溶液、により形成される。熱伝導により、水溶液上の脂質層は対応する温度となる。
【0045】
本発明の第一及び第二の実施形態によれば、粒子は、生物分子及び/又は(ナノもしくはマイクロ)粒子及び/又はビーズ、特にマイクロビーズ、及びこれらの組み合わせである。変性ナノ粒子/マイクロ粒子/マイクロビーズを使用し、蛋白質、DNA及び/又はRNAのナノ粒子/マイクロビーズに対する特別な結合を見ることにより、蛋白質、DNA及び/又はRNAを検出できる。その特別な結合は、ナノ粒子/マイクロビーズの熱泳動的動きを変化させるからである。100nmより大きい粒子の速度は、単一粒子追跡により検出できる。
【0046】
レーザー光は、1200nmから2000nmまでの範囲とすることができる。この範囲は水溶液であれば有利となる。水のヒドロキシ基は、前記波長範囲において強力に吸収する。また、グリセロール等のヒドロキシ基を含んだ他の溶液は、赤外線レーザー熱により加熱され得る。いくつかの実施形態においては、レーザーは、0.1Wから10Wまでの、好ましくは1Wから10Wまでの、更に好ましくは4Wから6Wまでの範囲の高出力レーザーである。いくつかの実施形態においては、水溶液の粒子濃度は、1アットモル(例えば、単一粒子マイクロビーズ)から1モル、好ましくは1アットモルから100μモルの範囲である。
【0047】
更なる実施形態によれば、溶液は、0から1Mの範囲の濃度の食塩水であってもよい。
【0048】
本発明のまた更なる実施形態によれば、レーザー(LASER)ビームにより生成された空
間温度分布は、0.1℃から100℃の範囲である。注目している材料の温度感応性の限界温度は、実験で使用される最大温度とする。特に、0.1℃から少なくとも40℃まで、好ましくは少なくとも60℃まで、更に好ましくは少なくとも80℃まで、また更に好ましくは少なくとも100℃までの温度範囲が、レーザー(LASER)ビームにより生成さ
れ、例えばDNA安定性が計測される。当業者であれば、対応する温度は、例えば実験システムの冷却化と共に対応するパワーを有するレーザー(LASER)を使用することにより
達成できる、と認識できるであろう。また、当業者は、全サンプルを冷却することにより、温度増加のより高い振幅(すなわち、レーザー加熱による)が、温度感応性材料にダメージを与えることなく実現できることを認識できるであろう。限定するものではないが、異なる材料及び熱光学的特徴付けの例を表1に示す。従って、特に図3に示すように、熱勾配の中心(分析/特徴付けられるべきサンプル内及び上での最大レーザーパワーの点)において、より高い温度が達成できる。そのような高い温度は、高圧力チャンバーで実現され得る。また、いくつかの実施形態においては、温度勾配は、レーザー(LASER)ビー
ムの周りで、直径0.1μmから500μmまでの範囲で創出される。
【0049】
【表1-1】
@0001
【0050】
【表1-2】
@0002
【0051】
*ここに記載した温度は、熱光学的特性が計測されるサンプルの好ましい温度範囲である。レーザー加熱により誘引された温度増加は、全温度の僅かな一部であるかもしれない。例えば、ナノ粒子の熱光学的特徴付けは、0℃で冷却され、また赤外線レーザーで30℃の最大温度にまで加熱されたサンプルにおいてなされる。
p:好ましくは、mr.p:更に好ましくは、ms.p:最も好ましくは
本発明の文脈においては、語句“レーザー(LASER)”は、語句“レーザー(laser)”と類義であり、また逆もまた同様である。
【0052】
本発明は、溶液中の粒子の熱光学的特徴を計測するための装置に関する。かかる装置は、溶液中の粒子/分子、特にマークされた又は標識を付けられた粒子/分子を受け入れる受容手段と、粒子/分子、特にマークされた又は標識を付けられた粒子/分子の励起を検出する検出手段と、溶液中の空間温度分布を獲得する手段とを備えている。また、溶液中の粒子/分子の特徴を熱光学的に計測するための本発明の装置として参照される他の装置は、マークされた又は標識を付けられた粒子/分子を受け入れる受容手段と、マークされた又は標識を付けられた粒子/分子を蛍光で励起する手段と、前記溶液中の励起された蛍光を検出する手段と、溶液中にレーザー光ビームを照射し、溶液中の赤外線レーザー光ビームの周りの空間温度分布を獲得する手段とを備えている。とりわけ、レーザー光は、溶液中で局所的に焦点合わせがなされ、溶液中の空間温度分布は、吸収された熱エネルギーの伝導により形成される。電磁IR放射の焦点幅を調整することにより、温度分布の空間次元が調整される。すなわち、広い又は狭い温度分布が達成できる。温度分布の形状に対する更なる調整は、ある熱伝導性(例えば、高熱伝導性で狭い温度分布、及びその逆)を呈するミクロ流体チャンバー/細管の材料を選択することによりなされる。c/c=exp[−(D/D)(T−T)]により、熱光学的信号の定常状態の振幅は、温度の増加に指数関数的に係わる。上記関係を使用してD及びD係数を調整することにより、空間温度分布は、正確に空間濃度分布に対応付けられる。システムが定常状態に到達する時間は、Dに対する依存性のみならず、D及び温度勾配に対して強力な依存性を有している。温度勾配及び熱泳動的移動性Dの積をとることにより速度が求められ、その速度で粒子が温度勾配に沿って移動する。大雑把には、温度勾配がより強くなり、熱泳動移動性がより高くなれば、熱光学的特性を計測するのに必要な時間はより短くなる。ゆえに、温度分布を微視的長さスケール(例えば250μm)で形成して、強力な温度勾配を得ることが有利となる。
【0053】
本発明の更なる実施形態によれば、粒子/分子又はマークされた粒子/分子を励起する、特に蛍光で励起する手段は、レーザー、ファイバーレーザー、ダイオードレーザー、LED、ハロゲン、LEDアレイ、HBO(HBOランプは、例えば、放電アークが高圧の水銀含有気体の中で燃焼するような短いアークランプである)、HXP(HXPランプは、例えば、放電アークが極高圧の水銀含有気体の中で燃焼するような短いアークランプである。例えば、HBOランプと比較して、それらは実質的により高圧で動作し、またハロゲンサイクルを採用している。HXPランプは、UV光と、赤光の主な部分を含む可視光を生成する。)からなる群から選択される適当な装置である。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような励起手段も使用される。
【0054】
本発明の更なる実施形態によれば、溶液中の励起された粒子、特に蛍光を検出する手段は、CCDカメラ(2D又はライン走査CCD)、ラインカメラ、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、CMOSカメラからなる群から選択される適当な装置である。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような検出手段も特定の実施形態において使用される。
【0055】
溶液中の粒子、特にマークされた粒子を受け入れる受容手段は、チャンバー、薄いミクロ液体チャンバー、キュベット、又はサンプルの各液滴を供給する装置であってもよい。レーザー光ビームの方向に、1μmから500μm、特に1μmから250μm、特に1μmから100μm、特に3μmから50μm、特に5μmから30μmの厚さを有するチャンバーにサンプルプローブを入れることは有利な点となる。語句チャンバーは、例えば細管、ミクロ流体チップ、又は多層油井プレートのことも言っていることは、当業者であれば理解できるであろう。いくつかの実施形態においては、チャンバーは、レーザー光
の方向の寸法として同じ幅を有している(例えば、細管)。楕円レーザー加熱形状との組み合わせにより、そのようなシステムの半径方向対称性を単一次元に落とすことができる。単一ライン画素(ライン走査CCD)のみを備えたCCDカメラが使用されて、チャンバーの全幅における蛍光が積算されるからである。特定の実施形態においては、溶液中の特にマークされた粒子を受け入れる受容手段、別名試料ホルダーは、対物レンズ系等の光学要素に取り付けられる。そのような装置は、試料ホルダーの対物レンズ系に対する相対的な動きを回避している。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような受容手段も特定の実施形態において使用される。
【0056】
レーザー光を照射するレーザーは、例えばIRレーザーであり、例えば1200から2000nm、好ましくは1455nm及び/又は1480nmの波長を有し、0.1から10Wの放射パワーを有するレーザーが考えられる。レーザーの光源は、コリメータを伴い、又は伴わずに、レーザーファイバー(単一モード又はマルチモード)のような光学的ユニットにより、本発明の装置に組み入れられる。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような照射手段も特定の実施形態において使用されるものであり、当業者が考え付くものである。
【0057】
本発明による装置は、粒子を励起する手段及び/又は励起された粒子を検出する手段を制御するための制御ユニットを備えている。特に、制御ユニットにより、本発明の装置が、本発明の方法に関して議論されたような方法ステップを実行できるように調整されている。
【0058】
制御ユニットは、励起のための手段の種類(例えば波長)、強度、持続時間、及び/又は照射の開始終了時間を制御する。例えば、励起手段がレーザーであるような特定の実施形態においては、レーザービームを形成する持続時間及び/又は開始終了時間は、制御ユニットにより制御される。
【0059】
制御ユニットは、更に、又は、代わりに、露光、感度、持続時間、検出手段による検出/計測の開始終了時間を制御する。例えば、検出手段としてCCDカメラが使用されるような特定の実施形態においては、CCDカメラの露光時間は、制御ユニットにより制御され得る。
【0060】
制御ユニットは、更に、検出手段を励起手段の機能状態に依存するように制御することも可能である。特に、励起時間を検出時間に同期させることは有利な点となる。例えば、励起手段はレーザーであり、検出手段がCCDカメラであるような実施形態においては、CCDの露光時間は、レーザーの照射に同期する。このことは、CCD及びレーザーを直接制御することにより、例えばCCD及びレーザーのオン、オフを同時に切り替えることにより達成できる。
【0061】
制御ユニットは、特に、励起手段と受容手段との間に、及び/又は検出手段と受容手段との間に配置される光学手段等の手段を、代わりに又は追加で、制御することもできる。
【0062】
本発明による装置は、マークされた粒子/分子を受け入れる受容手段と粒子/分子を励起する手段、特にレーザー、との間に配置されるシャッターを少なくとも備えている。本発明による装置は、マークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子/分子を検出する手段、特にCCDカメラ、との間に配置されるシャッターを、代わりに又は追加で、少なくとも備えている。励起ステップのタイミングを検出のタイミングに合わせるために、そのようなシャッターは、制御ユニットにより制御される。
【0063】
単一制御ユニットが、いくつかの機能項目を実行するようにしてもよい。すなわち、制
御ユニットは、各特定手段を制御するように構成された複数のサブユニットを備えるようにしてもよい。
【0064】
本発明による装置は、更に、少なくともビームスプリッター及び/又はミラー、例えばダイクロイックフィルター又はダイクロイックミラー、すなわち可視光の狭い特定範囲の光を選択的に透過して、他の光を反射する色フィルター又はAOFTを備えている。ダイクロイックミラーは、短い波長を反射し(反射率>80%)、長い波長を透過する(透過率>80%)ようにできる。また、ダイクロイックミラーは、例えば90%より大きいIR透過率を有し、350と650nmの間の波長に対して少なくとも反射するように構成できる。いくつかの実施形態においては、ダイクロイックミラーの代わりに、銀鏡も使用できる。(ダイクロイック)ミラーは、装置内の固定位置に配置できる。しかしながら、いくつかの実施形態によれば、(ダイクロイック)ミラーは、例えば(制御手段により制御され得る)駆動手段により駆動されるというように、可動的にすることもできる。
【0065】
本発明による装置は、特定の波長をフィルタリングする放射及び/又は励起フィルター(バンドパス/ロングパス)を少なくとも備えている。
【0066】
言い換えれば、本発明による装置は、マークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子を検出する手段との間に、及び/又はマークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子を励起する手段との間に配置される光学手段をまた備えている。そのような光学手段は、透過又は反射により光の伝搬方向を制御するように、及び/又は(ダイクロイック)フィルターにより異なる波長をフィルタリング又は分離するように、調整されている。そのような光学手段は、制御ユニットにより制御され得る受動的光学手段又は能動的光学手段で構成できる。例えば、マークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子を励起する手段との間に、走査モジュール(例えば、ガルバノ走査ミラー)を配置してもよい。そのような走査モジュールの走査範囲及びタイミングは、制御ユニットにより制御することが可能であり、好ましくは受容手段及び/又は励起手段に対する制御に依存して制御される。
【0067】
本発明による装置に有利な光学手段、特に本発明の方法ステップを実行するのに有利な光学手段が、
既に説明され、またこれ以降も説明される。特に、本発明の装置に有用な複数の光学手段が、本発明の詳細な説明において例証される。
【0068】
本発明の更なる実施形態によれば、レーザーの照射と蛍光の検出は、異なる方向から行われる。例えば、(添付図面、特に図1に示されるように)照射はサンプルの下からであり、検出は上からである。しかしながら、照射と検出の手段は、サンプルプローブに対して同じ側に配置することもできる(例えば、図2参照)。本発明による装置は、重力方向に対して如何なる方向にも向けることができる。すなわち、装置は重力方向に対して、例えば、実質的に垂直にも平行にも逆平行にも向けることができる。
【0069】
本発明の特定の実施形態においては、サンプルプローブがチャンバー内に配される。チャンバー内のサンプルプローブのレーザー光ビーム方向の厚さは、好ましくは小さく、例えば、1μmから500μm、特に1μmから250μm、特に1μmから100μm、特に3μmから50μm、特に5μmから30μmであることが好ましい。当業者であれば、チャンバーという語句は、例えば、細管、ミクロ流体チップ、又は多層油井プレートも意図している。更なる実施形態においては、チャンバーは、レーザー光の方向における寸法として同じ幅を有している(例えば、細管)。楕円レーザー加熱形状との組み合わせにより、そのようなシステムの半径方向対称性を単一次元に落とすことができる。単一ライン画素のみを備えたCCDカメラが使用されて、チャンバーの全幅における蛍光が積算される。更に、加熱スポットの中心にマッピングされたたった1つの画素(又はフォトダ
イオード又は光電子増倍管)が、相互作用の検出、構成等のために使用できる。添付の図面、特に図27に、熱光学的特徴付けのために細管がどのように使用されるかが例示されている。細管は、良好な熱伝導特性を有した堅固な支持/試料のホルダー/台に載置される。堅固な支持/試料のホルダー/台は、ペルチエ素子により冷却され、又は加熱され得る。ペルチエ素子を使用することにより、溶液の“周囲の温度”が調整される。異なる温度で蛋白質構成を計測し、(生物)分子/(ナノ)粒子/(マイクロ)ビーズの熱泳動を、熱泳動の符号変化点に近い値に調整することが有利な点となる(すなわち、結合事象により、より高い温度における集積からより高い温度による減損へと、熱泳動の振る舞いが変化する)。チャンバーを冷却すると、更に大変高いレーザーパワーで温度感応性分子を加熱することができる。更なる実施形態においては、細管の端にはバルブが附され、細管内の液体が移動することを排除している。しばしば、その移動は細管の端での気化により生ずる。
【0070】
しかしながら、液滴、例えば、緩衝液液滴の形体のように、チャンバーを設けることなくサンプルプローブを供することも可能である。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態においては、蛍光は、レーザービームの方向で50nmから500μmの範囲で検出される。
【0072】
更なる実施形態においては、蛍光は、CCDカメラで、レーザー光ビームに対して実質的に垂直に検出される。第二の蛍光検出は、いくつかの実施形態においては、レーザー光ビームに対して実質的に垂直な温度分布に依存した、蛍光の空間測定である。
【0073】
添付図面は、特に、本発明による装置を意図した、限定されない装置構成を示している。これらの装置は、特に熱泳動を計測するのに有用である。それらのすべてに共通していることは、蛍光像取得と赤外線レーザー焦点合わせが、同じ光学ユニットを介して、例えば同じ対物レンズ系を介して行われるということである。特に、IR光に対して非常に低い屈折率を有する対物レンズ系が使用できる。このことは以下の観点で有益である。すなわち、ミクロメータースケールの局所的空間温度分布は、ここで提供される手段及び方法の文脈においては、有利であり望ましいからである。対物レンズ系のIR光に対する高い屈折率によれば、高いバックグラウンド温度上昇を伴う広い温度分布を引き起こすことになる。この不利な効果を解決するために、電磁スペクトルのIR領域(好ましくは、1200−1600nm、すなわち、これはIR放射に対する補正されている)において高い透過性を有する対物レンズ系が使用できる。少ない数のレンズからなる対物レンズ系(すなわち、可視波長に対してそれほど補正を行わない対物レンズ系)がここでは好ましい。以下説明するように、高いアスペクト比(長さ/幅)を有するミクロ液体チャンバーが使用される場合、IRレーザービーム分布を楕円形状に変更して細管の断面全体を均一に加熱すれば有利となる。これにより、特に、ラインカメラ、フォトダイオード又は光電子増倍管による高精度な測定が可能となる。ラインカメラは、細管に沿った線解像を呈するのみであり、細管の断面全体(幅)の空間的蛍光の値を平均化する。
【0074】
フォトダイオード又は光電子増倍管は空間的解像は行わないが、中央の加熱領域の蛍光を計測できるように配置される。そのような配置は、当業者の通常のスキル範囲内にある。ミクロ液体チャンバー(すなわち細管)の楕円照射と組み合わされたラインカメラ及びフォトダイオードの双方が、データ獲得のため、本発明のいくつかの実施形態において使用される。
【0075】
添付の図23は、対応する更なる実施形態を示しており、そこでは2つの又はそれ以上の異なる蛍光体/マーク付け粒子の同時検出が記述されている。2つ又はそれ以上のマークされた粒子/分子に対する異なる放射波長が、例えば、ダイクロイックミラー又はAO
TFを介して、2つ又はそれ以上の方向に分離される。この実施形態においては、例えば1つの検出チャネルが、例えば680nm+/−30nmの波長で、温度依存性蛍光染料、例えばCy5を介して、温度を計測するために使用される。他のチャネルにおいては、マーク付けされた粒子/分子の融解曲線が、例えば560nm+/−30nmの波長で、記録できる。それによれば、粒子/分子の並行検出、例えば異なる輝度又は蛍光マーカーが付された異なる粒子/分子の並行検出が可能になる。
【0076】
従来技術と対比した本発明の効果というのは、空間温度分布を採用することにより、粒子、特に例示であるが、(生物)分子、又は(ナノ又はマイクロ)粒子、又は(マイクロ)ビーズが、μmの解像度で、計測/判定/特徴付けができる、ということである。
【0077】
従って、ここに提供する手段、方法及び装置を用いれば、特に、生物学的、化学的又は生物物理的過程を計測し、検出し、及び/又は確証でき、及び/又は、生物学的もしくは薬学的サンプルのようなサンプルを調査し、研究し、及び/又は確証することができる。また、診断試験が可能となり、それは本発明の実施形態でもある。特に、(DNA、RNAのような)核酸分子の長さを計測し、例えば、二本鎖DNAもしくは二本鎖RNA(dsDNA/dsRNA)、又はDNA/RNAハイブリッド等のハイブリッド核酸分子のような、蛋白質又は核酸分子の融解特徴を計測し、一塩基多型(SNPs)の検出及び/又は測定のような核酸シーケンスを計測し、及び/又は解析し(添付図面、特に図4参照)、同等の各核酸分子の安定性をそれらの相対的長さの関数とし計測し、例えば、一般の医療診断において、また、極細胞診断、移植前診断、法医学解析において、PCR最終生成物を計測し、及び/又は確証することは、想到でき、実行可能なことであろう。従って、本発明において提供される手段及び方法が、任意の粒子/分子の長さ、大きさ、他の分子/粒子に対する親和力に注目しているような測定及び/又は確証において、特に、また限定することなく、有用であるということは、当業者には明らかである。例えば、装置と同様ここに提供している方法は、核酸分子及び蛋白質の融点と共にその長さ及び温度安定性を検出し計測することに有用である。ゆえに、例えば、(DNA−)プライマー及び(DNA−又はRNA−)プローブが、それらの合成中又はその後に計測され、及び/又は確証される、ということは本発明の範囲内にある。DNAチップのようなテンプレート上での核酸分子の測定というのも、また想到できることである。本発明の文脈における融解という語句は、核酸(例えば、RNAs、DNAs)又は蛋白質のような生物分子の熱的変性を意味している。
【0078】
また、例えば、一本鎖高次構造多型(SSCPs)という形態、制限酵素断片長多型(RFLPs)という形態などのような、核酸分子における突然変異及び一般的変種の測定、検出及び/又は確証というのも、本発明の文脈においては、想到できることである。また、本発明は、ヘテロ二本鎖を解析する可能性についても提示している。ヘテロ二本鎖は、例えば、野生型と突然変異のDNA分子の混合物の熱変性及び再アニーリングにより生成される。特に、蛋白質のDNA分子に対する結合が後者の安定性に及ぼす影響を計測することが可能となる。更に、蛋白質の熱的安定性と熱的変性に対する分子(例えば、小さな分子、薬物、準薬物)の効果とを計測することが可能となる。
【0079】
また、例えば、蛋白質構造の複合体形成のような蛋白質−蛋白質間の相互作用、又はそれらの断片化についての測定も本発明の範囲内にある。これらの測定には、抗体−抗原結合反応(一本鎖抗体、抗体断片、クロモ体等の形態も含む)の測定も含まれるがそれだけには限定されない。本発明の実施形態は、例えば、蛋白質複合体の解離などの解離事象の検出及び/又は測定にも関連するものである。ゆえに、本発明は、例えば、抗体‐抗原複合体及びその種のもののような蛋白質複合体の解離の測定といったような、解離事象の測定、判定及び/又は確証に有用である。添付の図面は、ここで提案される手段及び方法が、例えば、核酸分子、蛋白質及び相当の分析における融解曲線の測定において、有用であ
ることを示している。
【0080】
ここで採用されている語句“変性マイクロ粒子/ナノ粒子”は、“マイクロ粒子/ナノ粒子”に限定させるためのものではなく、ここで開示されている手段、粒子及び材料は、他の手段、特に、泡、乳剤及びゾルのようなコロイド手段の利用により、採用されて使用され得るものである。
【0081】
添付の実施例及び図面、特に図33に例証されているように、マイクロ粒子は、大変強い熱泳動性を示すので、それらは、例えば、蛋白質又は核酸のような生物分子の検出及び特徴付けのための担体材料として使用できる。マイクロ粒子を使用することにより、例えば生物分子の熱泳動信号が強調化し得る。熱泳動によりマイクロ粒子が空間温度分布の極限値(例えば温度最大値)に引き付けられる力は十分に強いので、マイクロ粒子はそこに捕えられる(添付の実施例及び図面、特に図34に例証される)。
【0082】
マイクロ粒子とは、特性としてのその長さが1mm未満で100nmを超えるものであり、材質の限定はない粒子をいう(例えば、被膜又は非被膜ケイ酸−/ガラス−/生分解性粒子、ポリスチレン−/被膜−/フローサイトメトリ−/PMMA−/メラニン−/NIST粒子、アガロース粒子、磁性粒子、被膜又は非被膜金粒子もしくは銀粒子もしくは他の金属、遷移メタル、生物学的材料、半導体、有機及び無機粒子、蛍光ポリスチレン微小球、非蛍光ポリスチレン微小球、複合材料、リポゾーム、セル等)。
【0083】
ナノ粒子とは、特性としてのその長さが100nm未満のものであり、材質の限定はない粒子をいう(例えば、量子ドット、ナノクリスタル、ナノワイヤ、量子井戸)。
【0084】
本発明の粒子又はビーズは変性され得る。つまり、例えば、DNA、RNA又は蛋白質のような生物分子の場合、粒子又はビーズへの結合(いくつかの実施形態においては、限定的に及び/又は共有結合的に)が可能である。ゆえに、ビーズ及び/又は粒子、特にそのようなビーズ又は粒子に取り付いた又は掛かった分子、の特性を熱光学的に解析することは、本発明の範囲内にあることである。特に、そのような分子は生物分子である。従って、語句“変性(マイクロ)ビーズ/(ナノ−又はマイクロ)粒子”は、特に、分析又は特徴付けられるべき付加的分子を含むビーズ又は粒子のことを言っている(ナノ粒子についての非限定例が、添付の図面及び実施例、特に図34に示されている)。変性又は非変性マイクロ粒子/(ナノ−又はマイクロ)粒子は、溶液中の生物分子(例えば、DNA、RNA又は蛋白質)のような他の粒子/分子と反応することもある。当業者であれば、変性粒子の熱泳動特性は、その粒子に結合した溶液中の変性としての生物分子に応じて変わる。そのような相互作用は、(変性)粒子/分子に掛かる力に影響を与え得る。IRレーザー照射を調整することにより、粒子/ビーズが捕えられ方における最終的な動きも変わってくる。粒子/ビーズ、特に生物分子を含む粒子/ビーズの“捕獲(trapping)”ということは、粒子/ビーズがある位置範囲に留まり、また比較的低い揺動しか示さない、ということである。これらの揺動は、ブラウン運動に基づく揺動とは異なるものである。溶液中の生物分子が、生物分子変性粒子に結合すると、粒子/ビーズに作用する力は、熱泳動特性の変化により変化し、それによりその粒子/ビーズが捕えられた場所からその粒子が移動し、又は/及び粒子/ビーズの揺動が変化するということになる。ここで記述される方法は、“熱光学的捕獲”と称されるが、特にここで記述される特定の実施形態において有用である。“熱光学的捕獲”は、また添付の実施例及び図面で例証される。“熱光学的捕獲”の他の同義語は、“光学性熱的捕獲”、“熱泳動的捕獲”、また“光学性熱的ツイーザー”、“熱泳動的ツイーザー”である。
【0085】
従って、この発明は、光学性熱的捕獲にも関するものである。語句“熱光学的(thermo-optical)”、“熱光学的(thermooptical)”、“光学性熱的(optothermal)”、及び
“光学性熱的(opto-thermal)”は同義的に使用される。この発明の特定の実施形態は、与えられた目標、例えば、100nmから数μmまでの大きさの蛍光標識化変性ビーズ/粒子(例えば、ポリスチレンビーズ又はケイ酸ビーズ)や脂質ベシクルやセルが、添付図面、特に図39に例示されるように、水溶液に対してIRレーザーを照射することにより生成された空間温度分布の温度最大値の方向へ移動することが分かる、ということを例証している。
【0086】
添付の実施例に示すように、本発明の装置及び方法は、(ベシクル又はリポゾームのような)脂質構造と共に一様なセルの各構成物を含む分子又は粒子の熱泳動的捕獲に対しても採用できる。本発明の装置及び方法は、セル、又はセル核、染色体、ミトコンドリア、葉緑体等のセル構成物の熱泳動的捕獲に対しても採用できる。ここで示される熱泳動的捕獲は、例えば蛋白質の相互作用(例えば、他の蛋白質との抗体抗原反応等)の研究、薄膜を通した輸送事象(例えば、ベシクル又はリポゾーム)の研究、イオンポンプ、薄膜トランスポータ等の生物学的薄膜/ベシクル/リポゾームに含まれる薄膜蛋白質の活動の判定に特に有用である。また、ここで開示される熱泳動的捕獲装置及び方法により、前記溶液中の分子、粒子、リポゾーム、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物の存在そのものも検出及び/又は分析できる。熱泳動的に捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物等は、分析液中で、輸送及び移動可能である(また添付図参照)。熱泳動的に捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物は、いくつかの応用のために異なる緩衝液に晒される、ということも想到できることである。すなわち、捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物の周りの緩衝液は交換され、それに対応した測定が行われるということである。更に、この発明による熱泳動的捕獲という趣旨における実施形態も、添付の実施例で示される。ここで開示されている熱泳動の概念は、例えば、ベシクル、セル構成物(例えば、ミトコンドリア、葉緑体、核、染色体等)、又はセル全体を整列させることにも採用できることは、当業者には明らかである。従って、本発明は、分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を熱光学的に捕獲する方法を提案している。すなわち、その方法は、サンプルプローブに、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物を付し、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成し、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物を選択的に検出し、前記分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物の熱泳動的移動性に応じて、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物を捕獲している。例えば、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物は、(特に、捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等の熱泳動的移動性が負の場合)レーザーにより生成された加熱スポットの中心において捕獲される。しかしながら、特に、捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等の熱泳動的移動性が正の場合には、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物は、(全体的又は局所的に)温度が最低のところで捕獲される。語句“熱泳動的移動性”DTは、v=−DT∇Tにあるように、任意の分子/粒子/ビーズ等の速度(v)を温度勾配(∇T)に関連付ける係数のことを言っている、ということは当業者であれば分かるであろう。
【0087】
溶液内の分子/粒子等の熱光学的特徴を測定するための方法という意味における上述の実施形態においては、必然的に、分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を熱光学的に捕獲するということに応用できる。また、熱光学的に捕獲するための装置がここで提案され、添付の図面に例示される。例えば、添付図19又は24に示されたような装置である。従って、対応する装置は、捕獲されるべき(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物にレー
ザービームを照射するためのIRレーザーを備え、溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成している。(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を熱光学的に捕獲するための前記装置は、(a)溶液中の(任意にマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を受け入れる受容手段と、(b)マークされた粒子を蛍光で励起する(任意的)手段と、(c)前記溶液中の励起された蛍光を検出する(任意的)手段と、(d)溶液内にレーザー光ビームを照射し、溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成するIRレーザーと、を備えている。
【0088】
分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等の動きは、粒子に作用する熱泳動的力により、表現できる。熱力学的平衡を仮定すると、この力は、一定圧力におけるギブス(Gibbs)自由エンタルピーから以下のように得られる。
【0089】
F=−1/2*S*k*grad(T
ここで、Sはソレット(Soret)係数であり、kはボルツマン定数である。
【0090】
温度Tは、x及びyの関数である:T=T(x、y)。例えば、(添付図面、特に図3aに例示されたように)焦点合わせがなされたIRレーザーにより生成された空間温度分布のような半径方向対称性形状の場合には、力は、空間温度分布の最大値のところに粒子を引き付ける、ということが容易に分かる。S<0ならば、任意の目標粒子/ビーズ、例えばケイ酸マイクロ粒子、好ましくは被膜されたケイ酸マイクロ粒子を、温度分布の(局所的又は全体的)最大値の位置において捕獲するような力となる。
【0091】
従来知られている光学的ツイーザー/光学的捕獲と対比すると、本発明による熱泳動的捕獲はそれとは異なる原理に基づくものである。光学的ツイージングで使用されているような電磁界勾配を使用する代わりに、本発明によれば、粒子を捕獲して、移動させ、制御するのに、温度勾配が使用されている。ゆえに、熱泳動的捕獲のいくつかの実施形態においては、洗練された共焦点光学部品は必要としない。また、温度勾配を利用するので、温度勾配の幅(例えば、IRレーザー焦点の幅)に応じて、1μmから数百μmのレーザー焦点までの距離の分子を引き付けることができる。熱光学的捕獲と比較すると、光学的ツイーザーによる獲得領域は、数μmオーダーであり、大変狭い。
【0092】
添付実施例に示すように、ソレット係数Sは、目標分子、例えばビーズ、の表面積A、二次有効電荷σeff、及び粒子場所依存水和エントロピーShydの関数である。それにより熱泳動力は、この粒子特性に比例することになる。
【0093】
これらの特性の1つ(好ましくは有効電荷又は水和エントロピー)が変化すると、捕獲力も変化する。捕獲力/捕獲ポテンシャルが変化すると、(添付の図32にも例示されているように)揺動も変化する。粒子の揺動を記録することにより、粒子の熱光学的特性の変化が検出でき、従って例えば分子の当該粒子/ビーズに対する結合が検出できる。
【0094】
粒子/ビーズ、例えばケイ酸マイクロ粒子、好ましくは被膜されたケイ酸マイクロ粒子、更に好ましくは表面が特別の基で被膜されたケイ酸マイクロ粒子の場合には、これらの基が蛋白質、抗体、小さな分子、DNA、RNA等に結合する。ビーズ/粒子上の特別な基に対するこの種の1つの結合がある場合には、粒子、例えばビーズ、の特性(例えば表面A)が変化し、それにより異なるソレット係数Sとなり、従って異なる熱泳動力F(例えば、その力の符号/方向が変化する)となる。
【0095】
本発明の特定の実施形態は、蛍光等の測定を介してそのような任意の目標粒子/分子の位置を検出することにより、温度分布の最大値における当該粒子/分子の揺動を測定する
ことに関する。粒子/分子が温度分布内において捕獲されると、その周りの溶液は、例えば(例えば抗体による)特別結合が許容されるように変性化されたときにその“捕獲された”粒子に結合すると想到される非標識化又は標識化分子を含む溶液に、容易に交換され得る。結合事象は、揺動の振幅の変化により検出できる(すなわち、粒子が捕獲されるポテンシャルは、分子の粒子表面に対する結合により変化する)。振幅の変化の時間依存特性を検出することにより、結合運動が計測されて確定される。
【0096】
この発明の更に特定の実施形態においては、目標粒子のSの符号の変化が利用できる。S<0ならば、特定の結合基/サイトを有する粒子、例えばビーズ又は蛍光ケイ酸マイクロ粒子、は、空間温度分布の最大温度の位置で捕獲される。目標粒子のSの符号が、結合基の分子、例えば小さな分子、に対する接近や係わりに応じて、変化すると、目標粒子は力を受けて空間温度分布の最大値点から外され、粒子、例えばビーズは、誘引の代わりに反発を受け、その結果、目標粒子の振る舞いの定性的変化が検出できる。例えば、力が誘引から反発に変化すると、粒子は、空間温度分布の最大値点から動いて離れる。それにより、粒子/ビーズの表面で前記結合基と結合した分子、例えば、小さな分子、を検出できる。分子、例えば小さな分子、の結合は、単一粒子追跡方法のみにより容易に計測することができる。緩衝液条件(例えば塩分濃度)、溶液の温度を変えることにより、又は例えば疎水性もしくは電荷粒子との特定の変性化により、粒子は、符号変化の点に近づく条件に至る。語句“目標粒子”又は“目標ビーズ”は、この実施形態においては、生物分子を含む、もしくはそれに関係付けられた粒子/ビーズ、又はそのような生物分子で被膜された粒子/ビーズのような、対応する変性粒子及びビーズのことも意図するものである。ゆえに、“粒子/ビーズ”についての上記記載の実施形態及び特に変性粒子/ビーズは、ここでは当然扱うものである。
【0097】
目標粒子、例えば特別な基で被膜されたケイ酸マイクロ粒子、に掛かる力は、蛍光(粒子が蛍光で励起されている場合)、位相コントラスト、干渉、遠視野像等の適当な方法でその位置を追跡することにより計測することができる。
【0098】
目標粒子、例えば特別に被膜されたケイ酸マイクロ粒子、に対して第二の力を掛けて、結果的な力が、熱泳動力とその第二の力(例えば磁力)の合成となるようにすることもできる。その第二の力は、例えば(磁気粒子)に対する磁力、又は(電荷粒子)に対する電気力、又は流体力学的力、又は光学的ツイーザーにより生成されるような他の光学的力などである。
【0099】
その後、結果の合成力が、例えば粒子の揺動を計測することにより、計測される(添付の図32にも例示されている)。目標粒子/ビーズの特性の1つが僅かに変化すると目標粒子/ビーズが移動するが、粒子/ビーズの特性が変わらなければそれらは同じ場所に居続ける、というように、例えば中和的な力を利用することにより、その方法の感度を増加させるため、この合成は行われる。感度の増加は、第二の力(例えば磁力)の可能な限り細密な調整によるものである。
【0100】
“熱光学的捕獲”は、目標粒子/分子、例えばビーズ/粒子を、入射するIRレーザー照射の軸に垂直な二次元において移動されるために使用できる。IRレーザーの焦点が、例えばガルバニックミラー又は音響光学的ディフレクター(AOD)を使用することにより移動する場合には、空間温度分布の結果的最大値も移動し、それにより目標粒子/分子/ビーズも移動する。又は逆に、チャンバーを移動させて、IRレーザー焦点を固定したままにしてもよい(添付図面、特に図34に例示されるように)。
【0101】
IRレーザー焦点スポットを多様にすることにより、多くの粒子/ビーズ/分子が同時に移動し、それにより異なる目標粒子、例えば特別に被膜されたマイクロ粒子、を互いに
重ね合わせたり組み付けたりすることができるようになる。それで、抗体を有するある目標粒子と対応する抗原を有する他の目標粒子がある場合、それらの目標粒子は、2つのIRレーザー焦点により動かされて、最終的に接触して、抗体が抗原に結合してしまう。このように目標粒子は互いに結合し、粒子の化合物が生成できる。
【0102】
この発明によれば、IRレーザー照射の干渉パターンを生成することができ、それが温度最大値の空間的格子となる。この空間温度分布の空間的格子により、目標粒子/分子は捕獲され、それらはまたその干渉パターンを移動することにより、移動させることができる。
【0103】
添付図面で表されているように、本発明は、一本鎖又は二本鎖核酸分子の判定に特に有用である(例えば添付の図5参照)。これにより、任意のプローブ/サンプルにおいて、一本鎖核酸分子を含むか、二本鎖のそれを含むかを、特に判定できるようになる。これは、任意の生物学的サンプルが、一本鎖DNA又は一本鎖RNAのような、例えばウイルス核酸を含んでいるか否かを判定する必要がある場合に特に重要である。
【0104】
ここで説明するように、本発明の一実施形態は、本発明の手段及び方法により、分子間又は分子内相互作用を大変短い時間で計測できるという事実に基づくものである。この発明の第一の実施形態においては、(任意のプローブ/サンプル内の)広い温度範囲の同時検出ができる熱光学的方法が開示されている。ここで、前記“同時”は、約1msから250msの温度範囲であり、とりわけ80msから180msであり、また例としては150ms、但し長くても250msである。この発明の第一実施形態は、熱泳動に基づくものでも関連するものでもない。つまり、熱泳動は大幅に排除されている。第一実施形態は、例えば融解曲線の判定、例えばDNA及び蛋白質融解(点)曲線の判定に関するものである。この第一実施形態の限定されない例は、添付の図4で提示されたようなものに基づく、一塩基多型の判定/測定についてのものである。“融点”は、50%解離分子により定義される。第一実施形態で提示され開示された方法は、DNA分子の融点の判定には限定されないということはここでは明らかである。
【0105】
この発明の第二実施形態においては、熱泳動又は熱泳動的効果は、とりわけ、約0.5秒から約250秒、好ましくは約1秒から約150秒、更に好ましくは約5秒から約100秒、更に好ましくは約5秒から約80秒、更に好ましくは約5秒から約50秒、より更に好ましくは約5秒から約40秒の所定時間内でその役割を果たし、空間温度分布の濃度変化が計測及び/又は検出される。ここで、特徴付けられるべき粒子/分子の構造的変化ではなく濃度の変化が計測/検出される。この文脈における構造的変化は第一実施形態で言及した熱的変性に関連するものである。第二実施形態は、構成的変化、表面(大きさ及び化学的性質等)の変化、及び相互作用が、熱泳動的特性が変化するという理由から、熱光学的特徴により計測され得る、ということを示している。また、熱光学的“捕獲”装置が、この実施形態で例証されている。この発明のこの実施形態の有用性を最大限に表した対応する例が、添付の例、例えば、流体力学的半径及び蛋白質間の相互作用の判定、分子間の相互作用の検出、大きさに基づく核酸の識別、分子の粒子に対する結合の検出、(生物)分子の構成、構造及び表面の精査、分子のフォールディング/アンフォールディング、粒子又は(生物)分子の捕獲(例えば、ベシクル構造又は脂質の捕獲)等の構成的変化の検出、粒子の共有結合的及び非共有結合的変性の検出、として示されている。
【0106】
以下においては、例えば、核酸(特にDNA)の熱泳動は長さ/大きさの依存性があり、ここで提案される手段及び方法により、一本鎖対二本鎖DNAの判定及び解明と共に、例えば100,300,1000又は5000までの塩基又は塩基対の小さな核酸を判定できる、ということが例示的に記述されている。限定されるものではないが、例が添付の図5に示されている。そこでは、温度勾配中の移動性が、ここで提供さえる手段及び方法
により計測されることが示されている。ここで、特に、この発明の第二実施形態により、核酸分子(特定の例として、一本鎖DNA対二本鎖DNA)の長さ/大きさ(特定の例として20mer対50mer)及び/又は“鎖”の識別的確証を得ることができる。また、本発明のこの第二実施形態は、短DNAの検出や二本鎖又は一本鎖核酸分子の判定には限定されない。また、例えば、蛋白質、核酸(例えば、DNA、RNA、PNA、LNA)、ナノ粒子、ビーズ、特にマイクロビーズ、脂質、リポゾーム、ベシクル、セル、生重合体(ヒアルロン酸、アルギン酸塩等)、二次元脂質シート、無機物質(例えば、カーボンナノチューブ、ブッキーボール等)、ポリエチレングリコール(PEG)などの粒子/分子間の相互作用、構成、またそのような粒子/分子の流体力学的半径、結合運動性及び安定性が計測できる。上述の分子は、例えば温度安定性において違いを示す。それぞれの熱光学的特性の測定のための分子依存温度範囲の例を表1に示す。
【0107】
ここで開示される手段、方法及び装置に使用される例は、本発明を説明するものであるが、限定して解釈されるべきではない。特に、本発明及びその対応する手段及び方法は、核酸又は蛋白質/蛋白質構造のような生物分子の検出、測定及び/又は確証のために使用されるが、限定するものではない。ここで開示されている発明から、各種の温度感応性システムが、ここで開示された方法及び装置に採用できる。例えば、無機又は有機反応のような化学的反応も計測できることは容易に分かるであろう。
【0108】
当業者であれば、ここで開示された発明は、計測され、検出され、確証され、及び/又は評価されるべき反応は、加熱できる、特に任意に加熱できる溶液内で起こる、という事実により限定されるのみである。
【0109】
いくつかの実施形態にあっては、本発明の装置は、励起手段、例えば励起用発光ダイオード(LED)、励起/放射フィルター組、ミクロ液体チャンバー用試料ホルダー、及び蛍光強度の空間解析記録用高速CCDカメラを有する蛍光顕微装置を基本とするものである。そのような蛍光顕微装置は、生命科学や他の分野では十分に確立したものである。本発明によれば、そのような普通の装置に、照射焦点合わせが可能なIRレーザーが加わる。レーザーは試料ホルダーの下に配置され、試料ホルダーの下からミクロ液体チャンバーに対して、IR補正レンズにより、照射の焦点が合わせられる(添付図面、特に図1に例示される)。しかしながら、レーザー、検出手段及び励起手段は、試料ホルダーに対して一方の側、例えば図2に描かれるように試料ホルダーの下、に配置するようにしてもよい。一実施形態にあっては、試料ホルダーは、対物レンズ系に取り付けられる。そのような装置は、試料ホルダーが対物レンズ系に対して動くのを防ぐことができる。更なる実施形態によれば、二電圧駆動赤外線ミラーを使用することにより、レーザーを目標面内において自由に移動させることが可能である。また、局所コヒーレントIR照射と共に、例えば分子溶液の薄型液体チャンバー内に、薄い液体膜(概ね1μmから500μm、好ましくは1μmから50μm、更に好ましくは1μmから20μm、より更に好ましくは1μmから10μm)を使用するというのも有利な点となる。しかしながら、本発明の方法は、薄型液体チャンバーに限定されない。添付図面、例えば添付の図2、16−24に示すように、水溶液のμl液滴又はnl液滴、細管、マイクロ油井プレートに拡張することもできる。更なる実施形態によれば、赤外線加熱及び蛍光検出は同じ対物レンズ系で実現される。それによれば、装置をより柔軟にかつ小型にすることができる(図2、16−24参照)。スペクトルの赤外線と可視部分の双方からの電磁放射に対して焦点合わせできるような1つの対物レンズが使用できるためには、その対物レンズはその双方に対して高い光学的質を有していなければならない。特に、赤外線照射は、その対物レンズにより広く分散してはならない。広く分散してしまうと、高い温度オフセットが生じ、また加熱中心からの各距離における温度勾配が比較的強くなってしまう。いくつかの実施形態においては、かかる状況を避けている。広く分散してしまうと、測定時間が長くなり、正確性は低下する。理論の制約ではないが、このことは、熱泳動が強い部分で長さスケールの増加が大
きくなり、それによりシステムが定常状態に達するまでにより時間がかかる、ということに起因する。また、二つ目の効果は、加熱スポットから非常に離れた位置において熱泳動が無視できるときに非線形脱色補正が正確となるという事実に起因する。これは、赤外線照射の回折度が低いときに達成できることである。従って、本発明によれば、空間の一方向のみが検出及び操作のために使用される。ここの記述された方法とここに開示された装置は、確立している機器や高いスループットを数有するシステムに組み込むことができる。
【0110】
水は、1200nmを超える赤外線レジームの照射をよく吸収する。吸収されたエネルギーは熱に変換される。コヒーレントIRレーザー及びIR光学系によれば、溶液中に、赤外線照射による非常に高いパワー密度を形成することができる。レーザー(LASER)光
学系を制御することにより、レーザー(LASER)焦点を移動させて変更することができる
。これには、半径方向対称レーザービームのアスペクト比を変化させて線形状焦点を生成するような光学系が含まれる。これは特に測定が細管内で行われる場合に有益である。全断面は均一に加熱されるので、空間温度分布は、細管の長さ方向に沿ってのみ現れる。加熱中心から等距離にある全ての画素は平均化されるので、空間の一方向のみの温度勾配は測定の正確性を向上させる。特に、このことにより、単一ライン画素のCCDカメラを使用できるようになる。この場合、蛍光の積算はハードウェアにより得られる。フォトダイオード又は光電子増倍管を使用することにより、有限体積要素から(すなわち、加熱スポット/ラインの中間から)の蛍光が、空間的解析はなくして、計測される。蛍光検出における空間的解析は、熱力学的半径が注目する熱光学的特性である場合にのみ必要となる。この光学的加熱技法によれば、ミクロスケールで、広い温度分布及び強い温度勾配が得られる。レーザー(LASER)焦点の位置においては、温度は最も高くなる。この上側温度限
界は、レーザー(LASER)のパワーとレーザー焦点の形を制御することにより調整できる
。レーザー焦点から距離が増加すると、熱伝導性により、水溶液の温度は降下する。温度の下側限界は、取り囲むチャンバーの材料の温度により設定できる。この材料は、例えば0℃まで冷却できる。このように、レーザー焦点における100℃(高レーザーパワー)と加熱スポットからより離れた0℃の間の全温度を含む温度分布を生成することができる。
【0111】
本発明の方法により、熱光学的方法で、溶液、特に水溶液を加熱して解析することが可能である。加熱要素(銅線、ペルチエ等)からの熱を伝える熱変換器のような熱伝導材料は必要ない。溶液自体が、レーザー(LASER)光により直接加熱される。レーザーの焦点
合わせは、回折に影響を与えるのみであるので、0℃から100℃(水の完全な液体状態)全温度に渡る温度分布が、数百マイクロメーターの長さスケールで同時に観測できる。
【0112】
本発明の方法により、従来有用な最も早い測定システムよりも、3000から10000倍も早く測定が行える。本発明の方法によれば、空間温度分布が使用されるのであるから、0℃から100℃までの全温度を同時に得ることができる。加熱要素に触れることにより温度が形成されるわけではなく、サンプルそれ自体の中で温度が生成される。赤外線走査光学系を使用することにより、溶液中に任意の二次元温度パターンが形成される。このとき、如何なる面の構成ももはや行われない。加えて、ミクロ液体測定チャンバーを造るのに、照射される赤外線を透過するあらゆる材料が使用できる(ガラス、サファイア、プラスチック、シリコン、クリスタル)。
【0113】
加えて、本発明の方法は、表面近くの水溶液内に温度分布を形成するために使用できる。温度の連続性により、表面にも温度分布を採用することができる。ゆえに、溶液と共に表面も加熱することができる。可能な応用は、DNAマイクロアレーの解析である。表面に近いところの温度勾配は、分子を表面方向に移動させたり、表面から離したりするのに使用される。これらの局所濃度変化は、添付図面、特に図24及び36に示された全内部
反射蛍光(TIRF)系、又はTIRFが可能なあらゆる光学系(1)により、正確に計測することができる。入射レーザー光の方向へのこの熱泳動的移動は、分子を捕えたり、及び/又は集約させたりする目的で、分子をミクロ液体構造物内へ移すのに使用される。ゆえに、本発明により生成された温度勾配は、分子/粒子を捕えたり、及び/又は集約させたりすることにも使用される。分子/粒子の獲得と集約は、それらの熱光学的特性(例えば熱泳動的効果の符号)に依存する。
【0114】
溶液内の不均一温度に関する副作用を抑制する方法の1つは、正しいミクロ液体チャンバー形状を選択する、ということである。例えば、対流は、薄い液体シートを用いることのみで対処できる。このことはまた、薄い液体シートの高さが測定ごとに多様ではないということが、再生成可能で正確な測定にとって有利である、ということを意味している。空間温度分布をもたらす対流の速度は、二次的に液体シートの高さに依存する。チャンバー高の僅かな変化が、対流速度の比較的大きな変化を引き起こし、それが濃度及び温度の分布に非常に微妙に影響を及ぼす、ということを、この非線形性は意味している。ゆえに、実験は、規定高さのミクロ液体チャンバー(例えば細管)内で行われることが好ましい。本発明の手段及び方法によれば、熱の吸収プロセスによる生成により、熱が生成されるのであるから、一定の高さというのは、再生可能な温度分布を得るためには有利である。高さの違いがあると、吸収エネルギーの違いにより、また体積/表面の比の違いのために変動が生じてしまうであろう。この比により、熱の周囲への伝搬の割合が決まり、ゆえにまた溶液内の温度分布が決まる。温度分布の再生成性は、測定の可能な最大正確度を決する。
【0115】
他の方法としては、より早く計測して対流による阻害を避ける、ということがある。このことは、単一液滴又はマイクロ油井プレート(より薄い液体シート)での計測の可能性を開く。IRレーザーは、300μm(1/e)の長さスケールで吸収されるので、薄いサンプル、例えば薄いチャンバーはz方向(高さ)に均一に加熱される。
【0116】
従って、本発明は、溶液中の粒子/分子の特徴を熱光学的に計測する改良された方法を提案しており、その方法は、(a)溶液中にマークされた粒子/分子のついたサンプルプローブを配し、(b)前記マークされた粒子を蛍光により励起し、前記励起された粒子/分子の蛍光の第一の検出を行い、(c)溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成し、(d)溶液へのレーザーの照射が始ってから所定時間後に、溶液内の粒子/分子の蛍光の第二の検出を行い、前記2つの検出に基づいて粒子/分子の特徴付けを行うものである。
【0117】
一実施形態において、所定時間は、1msから250msの範囲内である。好ましくは検出時間は、1msから50msの範囲である。特定の実施形態にあっては、レーザービームは、温度分布内の温度勾配が0.0から2K/μm、好ましくは0.0から5K/μmの範囲になるように、焦点外しが行われる。好ましくは、レーザービームは、光学素子を介して溶液中に照射される。特定の実施形態にあっては、光学素子は単一レンズである。本発明の特定の実施形態にあっては、当該方法は、更に、溶液中の照射ビームの周りの温度分布を温度感応性染料により計測するステップを備える。温度分布は、温度感応性染料の検出された蛍光に基づいて判定され、温度感応性染料を含む溶液は照射レーザービームにより加熱され、空間蛍光強度がレーザービームの周りで実質的に垂直に計測される。更なる実施形態にあっては、所定時間は、0.5sから250sの範囲である。好ましくは、前記所定時間内で、溶液中の空間温度分布内において、熱泳動効果により濃度が変化し、かかる濃度変化が、蛍光の分布の変化により検出される。いくつかの実施形態にあっては、温度分布内の温度勾配が0.001から10K/μmの範囲となるように、レーザービームの焦点合わせが行われる。本発明の更なる実施形態にあっては、蛍光はCCDカメラにより検出される。いくつかの実施形態にあっては、前記蛍光の輝度が、レーザービ
ームの中心において、フォトダイオード又はCCDの単一画素により検出される。更なる実施形態にあっては、粒子は、生物分子及び/又はナノ粒子及び/又はマイクロビーズ及び/又はそれらの組み合わせである。特定の実施形態にあっては、レーザー光は、1200nmから2000nmの範囲内にある。好ましくは、レーザーは、0.1Wから10W、更に好ましくは0.1Wから10W、より更に好ましくは4Wから6Wの範囲内のハイパワーレーザーである。いくつかの実施形態にあっては、溶液は、1アットモル(例えば、単一粒子マイクロビーズ)から1モル、好ましくは1アットモルから100μモルの範囲内の粒子濃度を有する水溶液である。特に、溶液は、0から1Mの範囲の濃度を有する食塩水である。好ましくは、空間温度分布は、0.1℃と100℃の間である。好ましい実施形態にあっては、温度勾配は、レーザービームの周りに、直径0.1μmから500μmの範囲で形成される。レーザーの照射及び蛍光の検出は、本発明の好ましい実施形態にあっては、サンプルプローブに対して同じ側から行われる。好ましくは、溶液は、レーザー光ビームの方向に、1μmから500μmの厚さを有する。特定の実施形態にあっては、蛍光は、レーザービームの方向に、1nmから500μm、好ましくは50nmから500μmの範囲内で検出される。好ましくは、蛍光は、CCDカメラにより、レーザー光ビームに対して実質的に垂直な方向に検出される。更に好ましくは、第二の蛍光検出は、レーザー光ビームに対して実質的に垂直な温度分布に依存した蛍光の空間的測定である。好ましい実施形態にあっては、サンプル溶液は、細管内にある。
【0118】
本発明は、また、上記実施形態のいずれかに記述されたように、溶液中の粒子の特徴を熱光学的に計測するための装置を提供し、その装置は、溶液中のマークされた粒子を受け入れる受容手段と、マークされた粒子を蛍光で励起する手段と、前記溶液中の励起された蛍光を検出する手段と、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成するためのレーザーと、を備えている。いくつかの実施形態にあっては、マークされた粒子を蛍光で励起する手段はLEDである。好ましくは、レーザーは、0.1Wから10W、更に好ましくは1Wから10W、より更に好ましくは4Wから6Wの範囲のハイパワーレーザーである。特定の実施形態にあっては、レーザーと励起された蛍光を検出する手段は、受容手段に対して同じ側に配置されている。更に好ましい実施形態にあっては、装置は、検出された領域を拡大する光学系を更に備える。特定の実施形態にあっては、装置は、レーザービームの焦点合わせや焦点外しを行う光学系を更に備えている。好ましくは、その光学系は単一レンズである。好ましい実施形態にあっては、検出手段は、CCDカメラである。いくつかの好ましい実施形態にあっては、CCDカメラは、ラインCCDカメラである。特定の実施形態にあっては、検出は、細管の長さ方向に沿って一次元的である。他の特定の実施形態にあっては、検出手段は、フォトダイオードである。
【0119】
本発明は、上記実施形態のいずれかに記述されたような、溶液中の粒子及び/又は分子の特徴を検出及び/又は計測するための装置に関する。この発明により検出され、計測され、又は特徴付けられるべき分子は、医薬品候補であってもよい。
【0120】
この発明に特定の実施形態にあっては、この発明により検出され、計測されるべき特徴は、粒子の安定性、長さ、大きさ、構成、電荷、相互作用、鎖生成、及び化学的変性の群の中から選択される。好ましい実施形態にあっては、計測されるべき粒子は、分子、生物分子、ナノ粒子、ビーズ、マイクロビーズ、有機物、無機物、及び/又はこれらの組み合わせ、からなる群の中から選択される。好ましくは、前記粒子は、(生物)分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、マイクロビーズ、有機物、無機物、及び/又はこれらの組み合わせ、からなる群の中から選択される。更に好ましくは、(生物)分子は、蛋白質、核酸(例えば、RNA(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、snRNA、siRNA、miRNA)、DNA)、RNAアプタマー、抗体(又はその断片又は誘導体)、蛋白質−核酸融合分子、PNA、ロックされたDNA(LNAs)、及び生重合体(糖重合体、ヒアル
ロン酸、アルギン酸塩等)、からなる群の中から選択される。また、分子間又は分子内相互作用、例えば蛋白質フォールディング/アンフォールディング、は、この実施形態の範囲内にある。
【0121】
本発明の特定の好ましい実施形態は、溶液中の粒子/分子の物理的、化学的又は生物学的な特徴を熱光学的に計測する方法に関し、その方法は、(a)細管内の溶液中にマークされた粒子/分子の付いたサンプルプローブを配し、(b)前記マークされた粒子/分子を蛍光により励起し、細管の長さ方向に沿って一次元的に前記励起された粒子/分子の蛍光の第一の検出を行い、(c)溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに細管の長さ方向に沿って線形温度分布を形成し、(d)溶液へのレーザーの照射が始ってから所定時間後に、溶液内の粒子/分子の蛍光の第二の検出を行い、前記2つの検出に基づいて粒子の特徴付けを行うものである。
【0122】
本発明は、また、上記実施形態のいずれかに記述されたように、溶液中の粒子/分子の物理的、化学的又は生物学的な特徴を熱光学的に計測するための特定の装置を提供し、その装置は、溶液中のマークされた粒子を受け入れる細管と、マークされた粒子/分子を蛍光で励起する手段と、前記細管の長さ方向に沿って一次元的に前記溶液中の励起された蛍光を検出する手段と、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに線形温度分布を形成するためのレーザーと、を備えている。
【0123】
蛍光顕微及び局所赤外線レーザー加熱の手法を備えた本発明による装置は、解離分子に対する温度勾配(例えば温度不均一性)の効果を計測するためにも使用される(本発明の第二実施形態参照)。ほとんどすべての解離分子は、温度勾配中を、熱い領域へも冷たい領域へも移動し始める。この効果は、熱泳動又はソレット(Soret)効果と呼ばれ、15
0年前から知られている。しかし、液体中の分子の動きのメカニズムはずっと不明であった。液体中の熱泳動の理論的理解へのマイヤーの一ステップが最近為された。
【0124】
本発明の装置及び方法により、分子、特に生物分子の安定性、構成、大きさ及び/又は長さの特徴が判定できる。(生物)分子の他の分子又は粒子、例えば更なる(生物)分子、ナノ粒子、又はビーズ、例えばマイクロビーズに対する相互作用の特徴付けが、本発明の特定の実施形態においてはなされる。分析されるべき分子は、ビーズ又は粒子に(共有結合的に又は非共有結合的に)結びつくこともあり得る。例えば、ビーズ又は粒子は、本発明により分析され、特徴付けられるべき分子(例えば生物分子)で被膜される。
【0125】
本発明による方法の以下の2つの実施形態においては、非常に類似している測定プロトコルに基づいているものの非常に異なる分子を分析しているが、そのパラメータの議論が行われている。本発明の第二実施形態の方法においてのみ、粒子の熱泳動的動きが利用されている。第一実施形態の方法では、この効果は除かれるべきであった。更に、本発明の特定の実施形態が、図面を参照し、また添付の詳細実施例を参照して、詳細に説明されるであろう。但し、図面や実施例に対するそのような参照は、発明を限定するものではないと考える。
【0126】
発明の第一実施形態
第一実施形態による方法は、分子、特に生物分子、の温度安定性測定において、特に有益である。しかしながら、再度の注意であるが、ここで供される手段及び方法は、生物分子の検出、確証及び/又は測定に限定されない。以下の限定するものではない実施例として記述され例証されている方法により、例えば、融解温度の測定が可能となる(図3)(安定性や、生物分子(一本の核酸鎖が(ナノ)粒子、マイクロビーズ、表面等に結合できるような蛋白質、二本鎖(ds)RNA、dsDNA)の、dS(エントロピーの変化)、dH(エンタルピーの変化)、及びdG(ギブス(Gibss)自由エネルギーの変化)の
ような熱力学的パラメータ)。dsDNA及びDNAの融解曲線を計測する前記方法により、ヘアピンが為される。その結果は、各文献に示された値に非常によく整合する。上述のように、本発明は、一般的に生物分子の測定に特に有益である。例示であるが、例えば、(短)DNA鎖におけるSNPs(一塩基多型)が容易に検出できることがここで示される(図4も参照)。
【0127】
第一実施形態の特定の方法が、以下に説明される。蛍光タグの付された核酸が、薄いミクロ液体チャンバー(すなわち、例えば40μm、20μm、又は5μm、好ましくは20μm)に入れられる。蛍光タグのようなタグが付された核酸の変性化というのは、広く使用されている十分に確立した技巧である。加熱開始の前に、100%非融解分子の蛍光レベルを判定するために、蛍光が観察される。使用される蛍光タグが、2つのDNA鎖の融解に際し反応する(又はRNA鎖又は蛋白質構造、又はナノ粒子の蛍光が、ssDNA/RNA又はdsDNA/RNAがそれに結合するか否かに応じて反応する)。このことは、例えば蛍光体/失活剤ペアー(ドナー/失活剤ペアー、特にドナー/アクセプターペアー:エネルギー伝達(ET)、例えば共鳴エネルギー伝達(RET)、特に蛍光共鳴エネルギー伝達(FRET))を使用して、又は混入する核酸染料(例えば、SYBR 緑/POPO/YOYO)もしくは蛋白質染料(例えばSYPRO 橙(Invitrogen))の解離により実現され
る。例えば金‐ナノ粒子の場合、DNA結合の屈折率を変えることにより、蛍光は変化する。顕微鏡に取り付けられたレーザーは、熱泳動による粒子の流れが無視できるまでに十分抑えられる程度に温度勾配が低くなるように、焦点合わせが調整される。同時に、分子の融解に十分な高温に達するように、焦点合わせはしっかりと行われなければならない。熱泳動的移動がやはり無視されるもののミクロ液体チャンバーの加熱処理が完全であるような長さの時間で測定が行われる必要があるのであるから、測定は、いくつかの実施形態においては、マイクロ秒のレンジで、高い時間的解像度で行われる。測定は実験条件に強く依存する。融解温度を判定するのに必要なデータは、典型的には、200ms以内で、150ms以内で、100mn以内で、又は50ms以内で、好ましくは150mn以内で得られる。これは大変驚くべきことであり、本発明の趣旨をなすものである。更に短い時間も可能である。本発明の文脈においては、例えば異なる種又は核酸の量的な識別を行う。IRレーザーがオンされる前に第一の画像が取得され、それにより100%非融解分子の蛍光レベルが得られる。レーザーがオンされてから100mn後に、好ましくは50mn後に、更に好ましくは40ms後に、第二の画像が取得される(このときチャンバーは定常状態温度に達している)。これらの2つの画像は、全ての必要な情報を含んでいる。第一の画像は、非融解分子の蛍光を含んでいる。レーザーがオンしている間にとられた画像により、すべての異なる温度における融解分子の割合を同時に観察できる。つまり、加熱スポットから遠く離れた0%(冷たい)から加熱スポットの中心における100%(熱い)までの範囲である。独立した測定から、融解実験におけるすべての画素の温度が分かる。すなわち、融解DNA鎖対温度の割合をプロットすることにより、分子の安定性を判定でき(すなわち融解温度)、また熱力学的パラメータを得ることができる。
【0128】
要するに、本発明の第一実施形態は、ミクロメータースケールの空間温度分布の測定を、化学的/生化学的反応に依存した温度と分子/生物分子/ナノクリスタル/マイクロビーズ間の相互作用に依存した温度に結び付けている。その測定においては、温度傾斜ではなく絶対温度が重要である。マイクロリアクターとしての各検出体積(これはCCDカメラ画素にマッピングされる)を誰でも想像できるであろう。その測定においては、すべての分子が、測定時間中、このマイクロリアクター内に留まっている、ということが非常に重要である。ゆえに、測定は素早く行われて、マイクロリアクターとして扱われる領域から粒子を追い出してしまうような熱泳動及び対流を避けるようにしなければならない。この要求は、150msの測定時間であれば満たされるであろう。
【0129】
第一実施形態による方法及び装置を用いれば、安定性における塩依存性及び長さ依存性
と共に単一塩基不整合(SNP、一塩基多型)をもってして各dsDNAを識別できる。安定性における違いは、dsRNA、DNA及びRNAの各ヘアピン(それらによるssDNA/RNA塩基対)並びに蛋白質についても、計測できる。また、異なる緩衝液システムの安定性に対する影響も計測できる(pH、塩濃度、イオンの価)。生物分子は、また、(ナノ)粒子や(マイクロ)ビーズに結びつき得る。これらの変性粒子の影響は、例えばssDNA/RNA又はdsDNA/RNA(又は他の生物分子)がそれに結合しているか否かに依存して変化する。そのような溶液を加熱すると、生物分子に特別な蛍光マークを付する必要なく、同じ結果を得ることができる。定性的な識別に加えて、定性的な熱力学的解析も可能である。測定時間は、いくつかのケースでは、分子間の反応の緩和時間よりも短いのであるから、全てのケースにおいて、dS(エントロピーの変化)、dH(エンタルピーの変化)及びdG(ギブス自由エネルギーの変化)等の熱力学的パラメータを直接判定できるわけではない。しかし、非平衡熱力学を使用することにより、これらは容易に算出できる。(すなわち)一塩基多型の定性的識別については、非平衡条件下での解析作業が、比較すべき分子の安定性について計測された違いを更に明確にすることができる。ヌクレオチド配列における不整合の測定は、医療診断において非常に重要である。この方法により遺伝病を識別することが可能になる。それはまた、低分子量化合物の核酸に対する結合のための医薬的高効率スクリーニングにおいても使用できる。更に、二本鎖(ds)核酸の融解によりその長さを判定することができる。
【0130】
本発明により計測された融解曲線は、確立された技法により計測された結果を再生するものであるが、PCRサイクラー又は蛍光測定器手法のようなペルチエ又は加熱槽基本手法よりも3000倍も速く結果を提供する。直接接触により全体を加熱する必要がないのであるから、この発明の方法はかなり速いものとなり、分子の0℃から100℃までの間の特別な温度に対する反応を同時に観察することができるというものである。再度言及すると、この実施形態の趣旨は、温度が、時間的な解析の代わりに空間的な解析をもってして、生成されて計測されるということである。加熱及び冷却時間による遅延がないので、本発明の方法は、大変速いものとなる。同時に、薄い液体シートが使用されるので、必要なサンプル容量を小さくすることができる。加えて、分子に対する操作及び解析は、汚染の危険性なく全て光学的に行われる。解析が、すなわち人間のDNAによる汚染が解析を不可能にするようなPCR反応と関わる場合には、それは不可欠なことである。
【0131】
例えば100ms、好ましくは50msの時間内で熱変性が為されることにより、DNA/蛋白質の安定性に対する、高い温度に敏感な物質(例えばDNA結合蛋白質、サイクリックアデノシン−リン酸(cAMP)のような物質)の影響を計測することができる。これらの物質は、従来の技術を使用した実験では、ダメージを受け劣化し、温度安定性に対する影響はそのような従来の技法では検知できない。
【0132】
空間温度分布内においては、温度勾配が存在する。(例えば20μmの厚さのここで提案されているチャンバーについて)測定時間が150msより長いと、生物分子(分子、ナノ粒子、マイクロビーズ)の熱泳動的移動を計測することができる。この計測から更なる情報を集めることができる。
【0133】
発明の第二実施形態
第二実施形態による方法(すなわち、この発明の方法の前記第二の検出についての所定時間が、0.5秒から250秒の範囲内、好ましくは0.5秒から50秒の範囲内、更に好ましくは0.5秒から40秒の範囲内である測定に関する上記の方法)は、温度勾配中の分子の移動性を計測するのに特に有用であり、分子の特徴付けに使用される。上述の第一形態の方法は、温度分布内の分子を、ミリ秒の短い時間スケールで分析する。熱泳動のような動的影響は、この短い時間間隔では、無視することができる。分子が秒のオーダーの時間で観察されると、熱泳動は広まりだし、分子が温度勾配内を移動し始める。この効
果により、電気泳動と同様、分子は勾配に沿って温度の低い方へ(逆が観測されるケースもある)移動する。分子の速度は、分子特有係数Dでもって、温度勾配に直接に比例する。つまり、v=D∇Tである。
【0134】
予想外に、生重合体の熱泳動的移動性は、鎖/分子の長さに応じて大きく変動する。
【0135】
これらの分子の熱泳動的移動性は、溶媒和のエントロピー、大きさ、電荷、表面の種類、表面の大きさ、流体力学的半径等を変化させる分子パラメータに応じて大きく変動する。このことにより、生物分子を区別し、それらの間の(また、ナノ粒子/マイクロビーズと生物分子の間の)相互作用を検出できる可能性が開ける(添付図面、特に図4に例示される)。
【0136】
熱泳動は濃度勾配を作り上げるので、その効果は、通常の拡散により抑えられる。これらの2つの効果の間の相互動作により、式c/c=exp[−S×ΔT]で表現される定常状態濃度分布に導かれる。温度分布内の任意の位置における濃度は、温度差のみに依存し、温度勾配にはもはや依存しない。熱泳動的移動性D及び通常の拡散定数Dについての商は、ソレット係数と呼ばれ、定常状態における熱泳動の大きさを表わしている。それは、温度差に指数関数的に依存する。従って、測定の正確性は、温度分布の再生性に大きく依存する。
【0137】
第二実施形態による典型的な測定手順を以下説明する。正に最初は、IRレーザー(LASER)による加熱なしで画像が取得され、100%の相対濃度レベルの蛍光強度が判定さ
れる。そして、レーザー(LASER)がオンされる。この実験装置においては、レーザーの
焦点合わせを6μm以下の半幅で厳格に行い、強力な温度勾配を創り出したり、焦点を外してレーザーを使用したりすることができる(例えば200μmの温度分布半幅について上述のように)。これにより、分子の速度が影響され、定常状態に到達する速度が影響される。必要な温度上昇は、0.1℃と周囲の温度(20℃)よりも高い80℃との間で変化する。チャンバーが例えば0℃にまで冷却されている場合、サンプルの熱的安定性及び熱泳動効果の大きさに応じて、0.l℃と100℃の間の温度範囲の温度上昇が実現できる。一般的に、(生物)分子、(ナノ)粒子、又は(マイクロ)ビーズの熱泳動効果を判定するのに、画像記録の高い時間的解像度は必要ない。測定信号は、ほとんどの場合2,3秒後に到達する定常状態濃度のものであるか、またはそれに近い状態濃度のものである。定常状態に到達する前においては、ほとんどの分子の信号は、互いに非常に異なり、それにより何ら疑問なくそれらを識別できる。初期濃度以外のデータ分析については、レーザー(LASER)加熱が始まった後のある時点における濃度が必要である(時間変化も取得
可能である)。単一画素(すなわち最大温度点)の濃度が判定できれば十分である。
【0138】
レーザーがオンされる前、分子は均一に分布している。ゆえに、濃度に直接比例する蛍光強度(又はどんな測定信号であろうとも)は、各点で同一の大きさを有している。レーザー(LASER)がオンされると、濃度分布は変化する。分子は、熱いレーザー焦点から離
れるように移動する。ゆえに、蛍光強度の大きさは、定常状態に達するまで、減少し続ける。この減少が計測でき、従って、分子の特徴が熱泳動の理論により導かれ、異なる分子が比較することにより識別できることになる。
【0139】
ここで開示する方法によれば、特に第二実施形態と関連して、多くの相互作用を検出し、計測し、及び/又は拡張するための手段及び方法が提供される。例えば、DNA/DNA、RNA/RNA、蛋白質/蛋白質、蛋白質/DNA、蛋白質/RNAの相互作用と、更に蛋白質、DNA、RNA、の他の物質、例えばナノ粒子/マイクロビーズ、との間の相互作用も計測できる。唯一必要なことは、分子の1つの付される標識、特に蛍光標識である。例外は、例えば、検出に光分散が(直接)利用されるような大きなマイクロビーズ
の場合である。例えば一本鎖DNAが結合するような形の変性マイクロビーズを使用する場合には、このビーズの移動性はその結合に起因して変化する。従って、第二実施形態の方法によれば、この結合を検出することができる。この変性ビーズは、シーケンス設定で使用されるのであるから、本発明の方法はここで採用できる。本方法によれば、分子の大きさ、電荷又は表面を変化させるあらゆるものを検出できる。本発明の方法は、ストレプトアビジン・ビオチン法により、ナノ粒子及びポリスチレンマイクロビーズに対する特別なDNA結合も計測できるということが示されてきた(図35参照)。また、抗体とエピトープとの間の相互作用も検出可能である。また、蛋白質、例えば重合酵素のDNA鎖に対する結合も検出できる。
【0140】
高い時間的及び空間的解像度は必要ないので、第二実施形態の方法は、コスト効果が高く、容易に実現できる。例えば、CCDカメラの代わりに、アバランシェフォトダイオードが使用できる(単一画素についての情報のみが必要とされる)。ミクロ液体チャンバーが細管(すなわち、高いアスペクト比(長さ/幅)を有するミクロ液体チャンバー)の場合には、幅方向の空間解像度は必要なく、蛍光分布の検出にはラインCCDカメラが必要なだけである。蛍光の積算はハードウェアにより行われるのであるから、このCCDカメラとアバランシェフォトダイオード/光電子増倍管の択一性は、非常にコスト効果が高く、データ評価の時間を短縮することができる。測定システムは、より高い濃度において何ら制限なくナノモルまでの濃度を示すことができる。また、比較的程度の大きな汚染が本発明の方法により無視される。セルの粗抽出物や血液についても測定が可能である。汚染に対する耐性以外に、この方法は、溶液の粘性についての高い多様性にも対処できる。測定は、例えば、水もしくはグリセロールで、又は粘性物のようなゲルを含む水溶液で行われる。測定はミクロ液体チャンバーで行われるのであるから、実験に必要な容積は、例えば、0.5μl、1μl、2μl、5μl、10μl、好ましくは2μlであり、更に小さくすることも可能である。簡単に計測調整が行えることから、この方法は、FCS(蛍光補正鏡検法)と比較して大きな利点を有しており、容易に自動化できる。この方法は、生物分子/ナノ粒子/マイクロビーズ間の相互作用を判定するための、市場の他のどんな方法(すなわち、ビアコア(Biacore))よりも早く識別可能である。短DNA分子の長
さは、ゲル電気泳動のようなこの分野の確立された方法に必要な1時間という時間に比較して、数秒以内で判定できる。更なる利点は、測定が水溶液内で行われるということである。分子が解離する相(ゲル熱電気泳動におけるゲル、又はHPLCにおけるC18、HICカラム)を変える必要がない。一本鎖及び二本鎖DNAを区別する可能性により、化学的探究と共に診断分野において新たな可能性が開かれる。一例としては、例えば、ウイルス性の病気又は細菌性の病気のような伝染性の病気である。
【0141】
要するに、第二実施形態の発明方法は、IRレーザー(LASER)により創り出された温
度勾配(10K/μm、いくつかの実施形態では5K/μmまで、特に2K/μmまで)を用いて、水溶液中の生物分子/ナノ粒子/マイクロビーズの濃度を操作している。ここの添付されている例において、液体中の熱泳動の一般的理論は記述されている。
【発明の効果】
【0142】
本発明の最も重要な特徴及び利点が以下に要約される。本発明の方法及び装置は、全て光学的に働く。すなわち、操作及び検出は光学手段により為される。本発明により、単一蛍光染料の大きさまでの分子を光学的に操作することができるが、このことは500nmの球状粒子に限定される光学的捕獲によっては行えない。この方法は、汚染とは無縁であり、小型化や並列化が容易である。これにより、本システムを、ピペットロボット等の既存の計器に組み込むことが可能となる。ミクロスケールで水溶液を加熱することにより、温度分布が形成されるが、それには長い加熱及び冷却時間を必要としない。測定チャンバーを製造するのに使用できる材料の基準も全く特定的なものではない。他の利点は、IRレーザー(LASER)が通信産業の分野で日増しに馴染みのあるものになっており、大量生
産されているからである。更に、生物分子に結びつく蛍光染料の技法も、コスト効果の高い標準の技術となっている。従って、本発明により、分子の安定性と共に如何なる種類の相互作用(互いの、緩衝液システム、他の溶液等)も計測することができる。ゆえに、本発明は、生物分子、又は生物学的、生医学的、生物物理学的、及び/又は医薬的(インビトロ)プロセスの測定、検出及び/又は確証において使用することには制限されない。
【0143】
本発明の第一実施形態の手段及び方法により、広い温度範囲に渡る融解曲線が計測され判定される。この実施形態によれば、熱泳動は避けられるべきである。温度により構造の変化がもたらされ、それは蛍光の振る舞いを介して検出できる。特徴が、広い温度範囲に渡って一度に検出され、及び/又は計測される。公知従来技術文献のいずれも、温度により誘引された分子間及び/又は分子内の反応を開示していない。第一実施形態によれば、レーザーが光ファイバーを介して溶液内に照射される。光は、光ファイバーから拡がって出力することもあり得る。本発明の好ましい実施形態によれば、レーザーの焦点を合わせる光学系は、単一レンズである。
【0144】
本発明の第二実施形態の手段及び方法は、熱泳動の効果は制御されつつ得られる、という利点を呈する。特に、熱泳動効果により誘引された濃度変化は蛍光の振る舞いの変化を介して計測される。従って、第二実施形態において記録される蛍光信号は、主に濃度の変化に基づくものであり、テストされる粒子又は生物分子の構造の変化に基づくものではない。第二実施形態には、濃度の変化は、粒子又は分子の構造の変化に対して感応的であること、も含まれている。公知の従来技術においては、たかだか2.5Kの最大温度差のみが開示されている。また、従来技術においては、低いパワーのレーザー(320mW)による測定のみしか開示されていない。特に、サンプルの蛍光を検出し、又は計測するのにCCDカメラを利用できる。他の実施形態によれば、蛍光ライトの測定又は検出には、CCDカメラの1つの画素のみが使用される。例えば、中央の1x1μm画素が使用される。これにより、本発明の所定の実施形態においては、更なる空間情報が省略できる、という利点が生じる。
【0145】
本発明の他の様相によれば、照射されたレーザー光ビームの周りの温度分布が独立の測定により測定される。これらの測定は、とりわけ、染料における、知られた温度依存性蛍光の振る舞いに基づくものである。
【0146】
従って、添付の実施例において例証もされるように、本発明の特定の実施形態は、(生物)分子又は粒子の熱拡散又は熱泳動の検出、(生物)分子又は粒子の流体力学的半径の判定、(生物)分子又は粒子の、又はそれらの間の結合の検出、(生物)分子又は粒子の、又はそれらの間の相互作用の検出、(生物)分子における構成変化の検出、蛋白質の変性又は核酸の融解の検出、及び(生物)分子又は粒子の光学性熱的捕獲に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0147】
図1図1a、1bは、本発明による蛍光IR走査顕微装置を示している。
図2図2は、この発明による蛍光IR走査顕微装置の他の実施形態を示している。
図3図3a−3dは、150msの照射で融解曲線がどのように得られるかを示している。
図4図4は、高速NSP検出を示している。
図5図5a−5dは、温度勾配における移動性を示している。
図6図6は、本発明の方法において使用されるべき蛍光染料の例である。
図7図7は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図8図8は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図9図9は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図10図10は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図11図11は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図12図12は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図13図13は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図14図14は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。
図15図15は、温度制御の下で蛍光測定器により計測される蛍光染料の温度依存性を示している。
図16図16は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図17図17は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図18図18は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図19図19は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図20図20は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図21図21は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図22図22は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図23図23は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図24図24は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図25図25は、生物分子間の相互作用の定量化を示している。
図26図26は、ナノ粒子に結合する単一分子を示している。
図27図27は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図28図28は、蛋白質構成の特徴付けを示している。
図29図29は、蛍光標識化牛血清アルブミンのサンプルによる測定を示している。
図30図30は、蛍光標識化牛血清アルブミンのサンプルによる測定を示している。
図31図31は、緑色蛍光蛋白質(GFP)を含んだ/緑色蛍光蛋白質(GFP)の2つのサンプルの熱光学的特性の測定を示している。
図32図32は、空間温度分布により作られたポテンシャル井戸において捕獲された粒子の測定を示している。
図33図33は、ミクロ液体チャンバー内のケイ酸ビーズの熱泳動的動きの時間経過を示している。
図34図34は、“光学性熱的捕獲”の他の例を示している。
図35図35は、ナノクリスタル(=量子ドットQD)及び生物分子の複合体のソレット係数の判定を示している。
図36図36は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図37図37は、本発明による装置の特定実施形態を示している。
図38図38は、脂質二重層システムの例を示している。
図39図39は、熱泳動と脂質ベシクルの熱泳動的捕獲を示している。
【発明を実施するための形態】
【0148】
図面の詳細記述
本発明の好適な実施形態の以下の記述において、対応する技術的又は物理的効果を有する各構成には同じ参照番号が付される。
【0149】
図1aは、本発明による蛍光IR走査顕微装置を示している。IR走査顕微装置は、標準の蛍光顕微装置(例えば、Zeiss Axio Tech, Vario)に基づいている。前記装置は、粒子を励起するための1つ以上の光源32、好ましくはハイパワーのLED(例えば、V-Ster, Luxeon)、を備えている。粒子からの信号は、光学系1、好ましくは、40x油浸対物レンズ、により集められ、1つ以上の光分離素子4、好ましくはダイクロイックミラー、により光源の光から分離される。前記信号は、1つ以上の検出器31、好ましくはCC
Dカメラ(例えば、SensiCam QE, PCO)、で記録される。IRレーザー(LASER)30(
例えば、IPG, Raman fibre RLD-5-1455)のビームは、ミクロ液体チャンバー45(例え
ば、多層油井プレート)内に取り入れられる。そのシステムは、蛍光顕微装置や広い分野の顕微装置に通常見受けられる他の構成物も含んでいる。蛍光の励起及び検出手段の例が、Lakowicz, J. R. Principles of Fluorescence Spectroscopy, Kluwer Academic / Plenum Publishers (1999)にも見られる。
【0150】
図1bは、図1aに示した実施形態と同様の、本発明による蛍光IR走査顕微装置の他の実施形態を示している。しかしながら、光源32は、ダイクロイックミラー4に対して異なる方法に向いている。試験サンプル50は、2枚のガラス、好ましくはカバースリップ、の間に挟まれている。
【0151】
図2は、本発明によるIR走査顕微装置の他の実施形態を示している。本発明のこの実施形態によれば、試験サンプル50は、マークされた粒子を含む単一液滴の形態で提供される。そのような液滴の体積(好ましくは数ナノリッターから数マイクロリッターまで)は、レーザービームで照射される液滴の寸法、すなわち厚さが予見できるように容易に調整し得る。この実施形態においては、レーザービーム、すなわち光源32、好ましくはLEDからの蛍光的励起光と共に計測される蛍光ライトは、全て共通光学系1、好ましくは高開口数を有する顕微対物レンズ、更に好ましくは高開口数及び高IR透過性を有する対物レンズにより、焦点合わせが行われる。ゆえに、LED、レーザー(LASER)30、及
び検出器31、好ましくはCCD、はサンプルに対して共通の側に配置される。励起光は、好ましくは光分離素子4とは異なる光スペクトル部分を分離する光分離素子5、好ましくはダイクロイックミラー、により蛍光ライトから分離される。
【0152】
図3a−dは、150msの照射で融解曲線がどのように得られるかを示している。(a)温度感応性染料を計測することにより、ミクロ液体チャンバー内の温度分布が計測できる。(b)は、蛍光により計測される温度の半径方向平均を示している。(c)IRレーザー(LASER)がオンされてから概ね150ms後に、蛍光標識化DNAの画像が取ら
れている。高い強度は、融解したdsDNAを示している。(a)及び(c)から非常に高速で融解曲線が決定できる(d)。
【0153】
図4は高速SNP検出を示している。中央(青)において単一ヌクレオチド不整合が生じている16マーのdsDNAが、野性型(黒)と比較される。150msで両種は明確に区別される。縦軸は、解離したdsDNAの分別を示している。融解点は50%解離分子で定義される。1つの不整合があることにより、15℃ずれている。
【0154】
図5a−5bは、温度勾配における移動性を示している。それらの図は、加熱スポットの中心画素の濃度の時間的変化を示している。測定の開始から数秒後に、レーザーがオンされ、定常状態に達するまで濃度は減少する。その信号により、20マーのdsDNAと50マーのdsDNAが区別できると共に(a)、20塩基ssDNAと20塩基対dsDNAが区別できる(b)。
【0155】
図6は、本発明の方法で使用されるべき蛍光染料の例である(インビトロゲン社製6-carboxy-2’,4,4’,5’,7,7’-hexachlorofluorescein (HEX, SE; C20091))。
【0156】
図7−14は、本発明による詳細例に関する更なる情報を示している。これらの図は、具体的には以下である。
【0157】
図7は、バルク溶液中で、熱拡散が僅かな温度変化によりDNA濃度に如何に影響を及ぼすかを例示している。薄い水膜が、赤外線レーザーにより文字“DNA”に沿って2K
だけ加熱される。3℃に冷却されたチャンバーに対して、蛍光により札付けされたDNAが温かい文字に集結する。しかしながら、室温においては、DNAは、蛍光が減少したその冷却部に移動する。チャンバーは、60μmの厚さであり、1mMトリス緩衝液内に50nMのDNAを含んでいる。塩基対は50番目ごとにTOTO−1の標識が付けられている。
【0158】
図8は、塩依存性を例示している。(a)水内における熱拡散はイオン遮蔽及び水和により支配される。(b)直径1.1、0.5及び0.2μmのカルボキシ変性ポリスチレンビーズについてのソレット係数S対デバイ長である。また、線形プロット(左)と対数プロット(右)である。ソレット係数は、電気泳動で知られているσeff=4500e/μmの有効表面電荷を用いて、式(2)により記述される。切片S(λDH=0)は、分子表面ごとの水和エントロピーShyd=−1400J/(molKμm)に整合している。
【0159】
図9は、温度依存性を示している。(a)温度依存性は、水和エントロピーにおける線形変化により支配されている。それは、塩依存性熱拡散S(λDH)を低い値にシフトさせる。粒子の大きさは、1.1μmである。ソレット係数Sは、水和エントロピーShyd(T)で予測されるように、温度に線形的に比例する。異なる長さを有するDNAについて再調整されたソレット係数から分かるように、それは分子種に依存してその大きさには依存しない。
【0160】
図10は、大きさ依存性を示している。(a)ポリスチレンビーズについて、ソレット係数は、粒子表面に対して、4桁の大きさに渡って比例する。測定は、σeff=4500e/μmの有効表面電荷密度及び無視可能な水和エントロピーを用いて、式(2)で表現される。20nmの直径を有するビーズについての偏移は、a≦λDHについての電荷正規化の導入による増加有効電荷から理解できる。(b)従って、熱拡散係数Dは、ビーズの直径に比例して増減する。(c)DNAのソレット係数は、S∝√Lに応じて、塩基対ごとの有効電荷を0.12eとしたときの式(2)に基づきDNAの長さLに応じて増減する。(d)熱拡散係数Dは、D∝L−0.25により、DNA長さに対して減少するが、これは拡散係数の比例関係D∝L−0.75によるものである。
【0161】
図11は、熱拡散による有効電荷を示している。有効電荷は、式(3)を使用した熱拡散により推論される。ポリスチレンビーズ(20..2000nm)(a)及びDNA(
50−50,000bp)(b)が、大幅な範囲で計測されるが、それは電気泳動では不可能である。予想されるように、ビーズの有効電荷は、粒子表面及びDNAの長さに対して比例する。
【0162】
図12は、熱拡散の依存性を、濃度の時間対で示している。(a)拡散係数Dは、熱源をオフした後の逆拡散から得られた。(b)Dは、有限要素シミュレーションが実験に整合するに至るまで、変化する。(c)焦点合わせされた2K熱スポットによるDNAの半径方向の減損が、時間をかけて監視される。(d)知られているDを用いたシミュレーションとの比較からD及びSが導かれる。
【0163】
図13は、DNA拡散係数の比例関係を示している。この研究において室温で計測された拡散係数である。DNA長に対する比例関係は、短DNA33に対する指数−1及び長DNA33に対する指数−0.6という2つの比例関係レジームについて文献値と一致している。概略としては、その2つの比例関係レジームに渡る拡散は、全体として‐0.75という指数でうまく記述される。
【0164】
図14は、ミクロ液体加熱のシミュレーションを示している。(a)10μm薄型水膜
がPS壁間に封入されている。チャンバー壁の熱伝導率は低いので、その厚さは温度分布に対して独立に決定できるが、それは示された有限要素算出法により確認される。(b)チャンバーの薄い壁と比較的広い加熱焦点により、対流は遅く、最大速度も5nmである。
【0165】
図15は、温度制御下で蛍光測定器により計測された、蛍光染料の温度依存性を示している(ペルチエ素子)。
【0166】
図16は、本発明による装置の特定の実施形態を示している。その装置は、重力方向に対して実質的に任意の方向を向いており、好ましくは、その装置は、重力方向に対して垂直に向いており、更に好ましくはその装置は、重力方向に対して実質的に平行か又は逆平行に向いている。好ましくは、装置の試験サンプル又はチャンバーに対する向きは、図1a、図1b及び図2に示すように調整可能である。その装置は、対物レンズ1(例えば、40x NA 1.3, 油浸、ZEISS “Fluar”)と、ガルバノ走査ミラー又は音響光学デフレクタ
ー(AOD)が採用可能である走査モジュール20と、350nm−650nmで、好ましくは高IR透過率と好ましくは>90%の反射率を有するコールドミラー3と、レーザービームの直径と焦点合わせを決定するものであって、1枚の、2枚の、又はそれを超えるレンズを備えるレンズ系を採用可能なビーム成形モジュール11と、レーザーファイバーカプラーw/oコリメータ−16と、レーザーファイバー(シングルモード又はマルチモード)15と、IR−レーザー(例えば、1455nm, 1480nm, 0.1W-10W)30と、短波長を反射し(R>80%)、長波長を透過する(T>80%)ダイクロイックミラー/ビームスプリッター4と、照射フィルター(バンドパス/ロングパス)7と、CCDカメラ、ラインカメラ、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、CMOS−カメラが採用可能な検出器31と、励起フィルター(例えば、バンドパス/ロングパス)6と、励起光源のビーム特性を決定し、1枚、2枚、又はそれを超えるレンズで構成され得るレンズ系10と、レーザー、ファイバーレーザー、ダイオードレーザー、LED、HXP、ハロゲン、HBOが採用可能な励起光源32と、を備えている。好ましくは、列挙された各構成物は、ハウジング内に収められている。また、コールドミラーは、特別な誘電体ミラーであり、非常に広い温度範囲で、全可視光スペクトルを反射する一方で赤外線波長を非常に効率的に透過するように動作する重クロム(ダイクロマチック)干渉フィルターである。
【0167】
図17は、図16に基づく発明の実施形態を示しており、走査モジュール20が、固定ミラー21、好ましくは銀鏡、に置き換えられている。
【0168】
図18は、図16に基づく発明の実施形態を示しており、走査モジュール20が、固定ミラー21、好ましくは銀鏡、に置き換えられており、また、IRレーザー(LASER)照
射を制御するためのシャッター33が加えられており、また、線形成モジュール12、例えばシリンダーレンズ系、好ましくはパウエルレンズ、が加えられている。
【0169】
図19は、本発明による装置の更なる実施形態を示しており、特に共焦点装置を示している。その装置は、重力方向に対して実質的に任意の方向を向いており、好ましくは、その装置は、重力方向に対して垂直に向いており、更に好ましくはその装置は、重力方向に対して実質的に平行か又は逆平行に向いている。好ましくは、装置の試験サンプル又はチャンバーに対する向きは、図1a、図1b及び図2に示すように調整可能である。その装置は、対物レンズ1(例えば、40x NA 1.3, 油浸、ZEISS “Fluar”)と、高IR反射率
であり、可視光透過率>80%であるホットミラー2と、短波長を反射し(R>80%)、長波長を透過する(T>80%)ダイクロイックミラー4と、照射フィルター(バンドパス/ロングパス)7と、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)が採用可能な検出器31と、ピンホール開口13と、励起光源のビーム特性を決定
し、1枚の、2枚の、又はそれを超えるレンズで構成され得るレンズ系10と、好ましくはレーザー、更に好ましくはファイバー結合レーザーである励起光源32と、レーザービームの直径と焦点合わせを決定するものであって、好ましくは1枚の、2枚の、又はそれを超えるレンズを備えるレンズ系であるビーム成形モジュール11と、レーザーファイバーカプラーw/oコリメータ−16と、レーザーファイバー(シングルモード又はマルチモード)15と、IR−レーザー(例えば、1455nm, 1480nm, 0.1W-10W)30と、シャッター33と、レーザーピンホール13又はレーザーファイバーカプラー17対する共焦点位置のピンホール開口14と(ここで、励起光源32としてファイバー結合レーザーが好ましく使用されるならば、ピンホール13は不要である)、シングルモードでもマルチモードでも可能なレーザーファイバー18と、を備えている。
【0170】
図20は、本発明による装置の更なる実施形態を示しており、特に共焦点装置を示している。その装置は、重力方向に対して実質的に任意の方向を向いており、好ましくは、その装置は、重力方向に対して垂直に向いており、更に好ましくはその装置は、重力方向に対して実質的に平行か又は逆平行に向いている。好ましくは、装置の試験サンプル又はチャンバーに対する向きは、図1a、図1b及び図2に示すように調整可能である。その装置は、対物レンズ1(例えば、40x NA 1.3, 油浸、ZEISS “Fluar”)と、高IR反射率
であり、可視光透過率>80%であるホットミラー2と、短波長を反射し(R>80%)、長波長を透過する(T>80%)ダイクロイックミラー4と、励起フィルター(バンドパス/ロングパス)6と、照射フィルター(バンドパス/ロングパス)7と、励起光源のビーム特性を決定するレンズ系10と、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)が採用可能な検出器31と、励起光源32と、レーザーファイバーカプラーw/oコリメーター16と、レーザーファイバー(シングルモード又はマルチモード)15と、IR−レーザー(例えば、1455nm, 1480nm, 0.1W-10W)30と、を備えている。また、ホットミラーは、特別な誘電体ミラーであり、熱を反射して光源の方へ戻すことにより光学系を保護するようにしばしば採用される重クロム干渉フィルターである。ホットミラーは、入射角が0から45度の間となるように光学系に組み込まれるように設計でき、発生熱が、構成部品を損傷させたり、光源のスペクトル特性に悪影響を与えたりするような各種の応用においては有用である。赤外線を反射しつつ可視光を透過することにより、ホットミラーは、蛍光顕微装置の特別な応用においては、重クロムビームスプリッターとしての役割も果たす。
【0171】
図21は、図20に基づく発明の実施形態を示しており、シャッター33が、IRレーザー照射を制御するために加えられている。
【0172】
図22は、図20に基づく発明の実施形態を示しており、シャッター33及び線形成モジュール12、好ましくは1枚の、2枚の、又はそれを超えるレンズで構成されたレンズ系、更に好ましくはパウエルレンズ、が、IRレーザー照射を制御するために加えられている。
【0173】
図23は、図16に基づく発明の実施形態を示しており、走査モジュール20が、固定ミラー21、好ましくは銀鏡、に置き換えられており、また、光分離素子4とは異なる光スペクトルの部分をうまく分離する付加的光分離素子5、好ましくはダイクロイックミラー、が加えられており、また、照射フィルター7とは異なる波長範囲をうまく透過する照射フィルター8が加えられており、また、フィルター8を通過した信号を検出する第二検出器31が加えられている。
【0174】
図24は、装置の更なる実施形態を示しており、その装置は、CCDカメラ31と、照射フィルター(例えばバンドパス又はロングパス)7と、光分離素子4、好ましくは励起光経路と照射光経路とを分けるためのダイクロイックミラー、と、対物レンズ1と、チャ
ンバー45と、サンプル上にIRレーザーの焦点を合わせるためのレンズ系10と、ガルバノメトリックミラー又は音響光学デフレクターが採用可能な操作モジュール20と、コリメート光学系を備えたレーザーファイバーカプラー16と、レーザーファイバー15と、IR−レーザー30と、励起フィルター6と、1枚の、2枚の、又はそれを超えるレンズを備えるレンズ系が採用可能である、励起用光学系10と、光源(HXP、LED)32と、自動化された、好ましくはチャンバーを走査するように自動化された、レーザー位置決め用xyz−変換台46と、IRレーザーのビーム成形用であって、好ましくは高いIR透過性を有する、1枚の、2枚の、又はそれを超えるレンズを備えるレンズ系、又は対物レンズが採用可能な光学系47と、を備えている。
【0175】
図25は、分子間の相互作用の定量化を示している。100nmの蛍光標識化抗体(アンチ−インターロイキン4)が、いろいろな量のインターロイキンについて滴定される。(左)定常状態の空間蛍光分布が計測される。5nm、80nm及び150nmについての3つの曲線が例示されている。蛍光が減少するものから蛍光が増加するものまで、信号はダイナミックに変化している。80μm(加熱中心からの距離)までの蛍光分布の積算により、溶液中の複合体の数を判定することができる。(右)自由インターロイキン4の濃度は、形成された複合体の濃度に対してプロットすることにより算出できる。これらのデータからKを決定できる。
【0176】
図26は、ナノ粒子に結合する単一分子を示している。PEG分子と複合したナノクリスタルのソレット係数は、定常状態の濃度分布を評価することにより計測できる。ソレット係数は、その粒子に共有結合的に結合したPEG分子の数に比例して増加する。高い分子量を有するPEG分子は、ソレット係数のより急峻な増加を呈する。ここで示されるPEG分子は、大きさにおいて、同様に計測可能な蛋白質又は短DNA分子と比較される。
【0177】
図27は、本発明による装置の更なる実施形態を示している。サンプルプローブ50を受け入れる受容手段は、内径5μmから500μmの細間40であり、サンプルプローブの厚さは、レーザービームに垂直な方向において小さいものとなっている。第1バルブ41及び第2バルブ42が、細管40への/からのサンプルプローブ50の入力/出力を制御するために備わっている。細管は、固体支持台43、好ましくは良好な熱伝導性を有する材料、例えばアルミニウムや銅、の上に搭載されている。ペルチエ素子44が固体支持台43に接して取り付けられており、それにより細管40を冷却できるようになっている。
【0178】
図28は、蛋白質形成の特徴付けを示している。熱光学的特徴付けを行うために、溶液中の蛋白質の形成を特徴付ける手段が設けられている。牛血清アルブミン(BSA)を含む溶液の温度が0℃まで冷却される。この温度から始めて、60℃まで段階的に増していき、異なる複数の温度でソレット係数を計測する。ソレット係数は、熱的変性近辺の値に到達するまで負である。なお、その熱的変性部分では、正のソレット係数への突然のジャンプが観測される。生理的温度(30−40℃)においては、ソレット係数は、大きくは変化しない。この温度範囲においては、蛋白質は、その働きを実現するためには、ほぼ一定の特性を有していなければならない。構造と機能との間の強い関係のために、この範囲では、その構成がずっと維持される。右側に示された、高温度側から開始する実験によりその結果が確認されている。測定は、蛋白質の再フォールディングに必要な時間よりも速く行われるので、ソレット係数は、50℃以下でも未だ正の値である。所定時間(すなわち20分)の後、値は、低温度から始めた測定において得られたような負のソレット係数に到達する。その後、温度上昇させると、低温度から始めた先の実験で計測された負のソレット係数を再生する。
【0179】
図29は、蛍光標識化牛血清アルブミン(BSA)のサンプルでの測定を示している。
蛍光標識化牛血清アルブミン(BSA)のサンプルは、2つの部分に分けられている。その一方は周囲の温度に晒されるのみであり、他方の半分は、数分間、100℃まで加熱される。両サンプル(天然及び変性)の熱光学的特性が、赤外線レーザーの異なる各パワー(すなわち、5℃又は10℃の最大温度上昇)において、計測される。その図面から分かるように、変性蛋白質の蛍光は、天然蛋白質の蛍光よりも低い。これは以下のように説明される。両サンプルの蛍光染料は、温度が上昇すると、その蛍光量は同じように減少する。しかし、変性蛋白質は、正の熱泳動的移動性(すなわち冷たい側へ移動する)を示す一方で、天然蛋白質は、負の熱泳動的移動性(すなわち温かい側へ移動する)を示す。各上昇した温度における積算が、蛍光の減少は、天然蛋白質については、より少なくなっている理由を示している。すなわち、他方、変性蛋白質は、温度依存性に加えて、温度上昇の領域から減損していくからである。温度を上昇させれば、正の及び負の熱泳動は互いに強調されるのであるから、両サンプルの違いは温度上昇(すなわち、10℃の最大温度)より更に増す。
【0180】
図30は、蛍光標識化牛血清アルブミン(BSA)のサンプルでの測定を示している。蛍光標識化牛血清アルブミン(BSA)のサンプルは、2つの部分に分けられている。その一方は周囲の温度に晒されるのみであり、他方の半分は、数分間、100℃まで加熱される(すなわち不可逆的変性)。両サンプル(天然及び変性)の熱光学的特性が、800mAのパワーの赤外線レーザー(すなわち、20℃の最大温度上昇)で、計測される。その図面から分かるように、変性蛋白質の蛍光は、天然蛋白質の蛍光よりも低い。これは以下のように説明される。両サンプルの蛍光染料は、温度が上昇すると、その蛍光量は同じように減少する(すなわち、蛍光の温度感応性)。しかし、変性蛋白質は、正の熱泳動的移動性(すなわち冷たい側へ移動する)を示す一方で、天然蛋白質は、負の熱泳動的移動性(すなわち温かい側へ移動する)を示す。各上昇した温度における積算が、蛍光の減少は、天然蛋白質については、より少なくなっている理由を示している。すなわち、他方、変性蛋白質は、温度依存性に加えて、温度上昇の領域から減損していくからである。興味深いことに、蛋白質の変性温度(すなわち50℃)に近づくにつれ、天然蛋白質と変性蛋白質の振幅は互いに近づき、本来的には同一となる。このことは、蛍光変化の振幅を計測してやれば、基準サンプルとの比較により、蛋白質の融解温度が検出でき、蛋白質の天然形と変性形の区別ができる、ということを示している。また、蛋白質と他の生物分子又は小さな分子(例えば医薬品候補)との相互作用による融解温度のシフトを検出できる、ということを示している。
【0181】
図31は、緑色蛍光蛋白質(GFP)を含む/の2つのサンプルの熱光学的特性の測定を示している。緑色蛍光蛋白質(GFP)の2つのサンプルの熱光学的特性が計測される。第一サンプルにおいては、GFPのみが存在するが、一方、第二サンプルにおいては、GFPが、特異的にGFPに結合する2倍過多抗体片と混合されている。どちらの場合も、まず、加熱することなく蛍光が記録される。そして、蛍光励起がオフされ、IR−レーザー照射がオンされる。数秒の加熱の後、レーザーがオフされ、同時に蛍光励起がオンされる。空間蛍光分布(すなわち濃度分布)の均一状態への緩和が、数秒間、記録される。図面から分かるように、2つの相互に反応する種(すなわちGFP及び抗体片)が含まれるサンプルにおいては、蛍光分布の緩和に時間が更にかかる。これは、複雑さが増せば、拡散がよりゆっくりとなる、ということから説明できる。蛍光分布の時間変化が、ソフトウェアツールにより解析され、拡散定数が決定される。ストークス−アインシュタインの関係を利用して、流体力学的半径が拡散定数から求められる。自由GFPの場合は、その半径は5nmであり、複合体の場合、10nmである。
【0182】
図32は、空間温度分布により作られたポテンシャル井戸において捕獲された粒子の測定を示している。(a)粒子が、空間蛍光分布により作られたポテンシャル井戸において捕獲される。ケイ酸粒子については、井戸は高温部で最も深い。揺動がCCDカメラによ
り記録され(t=1s、2s、3s、4s、5s、6s、7sにおいて)、(b)位置が、ソフトウェアにより、ナノメーターの解像度で追跡される。(c)その位置情報からヒストグラムが算出される。分布の幅は、粒子の熱光学的特性に対して非常に感度がよい。分子が粒子の表面に結合すると、ビーズに対する有効ポテンシャルは変化し、揺動の振幅は増加するか又は減少する。時間対振幅変化を観測することにより、運動結合曲線が計測できる。
【0183】
図33は、ミクロ液体チャンバー内のケイ酸ビーズの熱泳動的動きの時間経過を示している。ミクロ液体チャンバー内のケイ酸ビーズの熱泳動的動きの時間経過である。最初(画像1)、レーザー加熱は行われず、ビーズはほぼ均等に分布している。黒い円は、レーザー焦点の位置を示している。それに続く各画像は、加熱レーザーがオンされた後の3秒間における粒子分布の展開を示している。粒子は、熱源に引きつけられ、最も高い温度の点に集積する。つまり、集積が観察されたら、これらの粒子は、負の熱泳動的移動性を有することになる。正の熱泳動的移動性を有する粒子は、例えば、その周りを円形に温めることにより、捕獲できる。
【0184】
図34は、“光学性熱的捕獲”の他の例を示している。“光学性熱的捕獲”の他の例として、1μmビーズの数個が、画像の中心の明るいスポットにおいて捕獲されている。チャンバーは動かされているが、レーザー焦点は固定されたままである。画像は、約30の単一画像を足し合わせてできたものである。見て分かるように、全てのビーズがチャンバーと共に動いていたので、単一画像を足し合わせることにより、それらの単一粒子が線を形成する結果となる。捕獲された各ビーズは、1つの位置に留まった。捕獲されたビーズの動きは検出されなかった。単一画像を足し合わせることにより、捕獲されたビーズによるかさ及び高強度が見受けられた。
【0185】
図35は、ナノクリスタル(=量子ドットQD)及び生物分子の複合体のソレット係数の判定を示している。ナノクリスタル(=量子ドットQD)及び生物分子の複合体のソレット係数は、空間濃度分布を空間温度分布に関係付けることにより決定される。3つの異なるサンプルが分析された。最初に、蛋白質変性を伴わないナノクリスタルが計測され(QD)、その後、蛋白質ストレプトアビジン(QD+Strep.)で変性化されたサン
プルナノクリスタル(ナノクリスタルごとに概ね5つの蛋白質)が計測された。蛋白質をナノクリスタルに結合させることにより、ソレット係数は、著しく上昇する。サンプルに一本鎖DNAを加えることにより(粒子ごとに1つのDNA)、ソレット係数は更に上昇する(QD+Strep.+DNA)。
【0186】
図36は、図20による発明の更なる実施形態を示しており、温度制御素子44及びチャンバー45を運搬する台43がコネクター48を介して光学系に接続されている。光学系1は、TIRF(全内部反射蛍光)対物レンズを備えることも可能であり、それにより熱泳動はレーザービームの方向に計測される。
【0187】
図37は、図20による発明の更なる実施形態を示しており、シャッター33及び線形成モジュール12、好ましくは1枚、2枚、又はそれを超えるレンズで構成され得るレンズ系、更に好ましくはパウエルレンズが、IRレーザー照射を制御するために加えられている。また、照射フィルター7が、分光器、ポリクロメーターもしくはナノクロメーター、又はこれらの1つ以上の組み合わせである光学機器22に交換されている。ここで、その光学機器とは、例えば、光の異なる波長/周波数の区間を、例えばCCD上の異なる角度/距離又は場所の区間に変換するような機器である。
【0188】
図38は、脂質二重層モデルシステムの例を示している。脂質を構成する層の一部が、表面に(スルフヒドリルペプチドを介して金表面に)結びついている。膜内外蛋白質又は
膜関連蛋白質が脂質二重層に入り込んでいる。加えて、可溶性蛋白質が膜の上部の水溶液中に存在していてもよい。水溶液の赤外線レーザー吸収により、膜内に温度勾配を確立できる。このように、安定性、相互作用及び構成等の熱光学的特性が、蛍光標識化化合物(すなわち脂質、膜蛋白質又は可溶性蛋白質)について計測できる。
【0189】
図39は、熱泳動と脂質ベシクルの熱泳動的捕獲を示している。画像(200x200μm)は、一層薄板ベシクルの溶液を示しており、(a)は赤外線レーザー加熱がない状態、(b)は10秒間赤外線レーザー加熱を行った後の状態を示している。(a)は、ベシクルの均一な分布を示している。そこで、赤外線レーザーが、20℃の室温に対して最大15℃上まで溶液を局所的に加熱する。(b)が示すように、局所温度上昇が、ベシクルを引き付け(すなわち負の熱泳動)、それらの位置を加熱スポットの中心近傍の領域に制限する。加熱スポットの周りの領域は、ベシクルが減損している。視野の端に近いベシクルは、小さな勾配のみの影響を受け、10秒の時間内には引き付けられない。温度分布を広げることにより、これらの粒子はもっと速く引き付けられる。
【0190】
実施例
以下の詳細実施例は、本発明を限定することなく例証するものである。
【実施例1】
【0191】
実施例1: 熱拡散
分子は、温度勾配に沿って移動するが、これは熱泳動、ソレット効果又は熱拡散と呼ばれている。液体中では、その理論的基礎付けが日常的な長い議論の主題であった。新しい全光学的ミクロ液体蛍光方法を用いて、我々は、粒子の大きさ、塩濃度及び温度についての広い範囲に渡るDNA及びポリスチレンビーズに関する実験結果を提示する。そのデータは、溶媒和エントロピーに基づく統一理論をサポートしている。簡単な語句で述べるが、ソレット係数は、kTで除算された負の溶媒和エントロピーで得られる。その理論は、いかなる任意のパラメータを含まずに、ポリスチレンビーズ及びDNAの熱拡散を予見している。我々は、粒子の周りの溶剤粒子の局所的熱力学平衡を仮定する。この仮定は、揺動基準以下の緩やかな温度勾配については満たされている。この基準以上については、熱拡散は非線形となる。DNAとポリスチレンビーズの双方について、熱泳動的動きは低温部で符号は変化する。このより低温側への好熱性は、水和の正のエントロピーの増加に起因し、一般的に支配している嫌熱性というのは、イオン遮蔽の負のエントロピーにより説明される。熱拡散を理解すれば、コロイド及び生物分子の溶媒和特性の詳細な探査への段階へ導かれる。例えば、我々は、各種大きさのDNA及びビーズの有効電荷を首尾よく判定してきたが、これは電気泳動によりできることではない。
【0192】
イントロダクション 熱拡散については長い間知られているものであるが、液体中の分子のその理論的説明については、未だ議論のさなかにある。理論的理解のための研究は、水中の熱拡散を利用すれば生物分子及びコロイドのための全光学的走査方法が確立するかもしれない、という事実が動機付けとなっていた。同様に、熱拡散は分子を全光学的に扱い、そして移動させるので、例えば電気泳動又は光学的ツイーザーのような確立された方法を補完することができる。後者については、光学ツイーザーの力が、粒子の容積に比例して増加したので、この方法は、500nmを超える大きさの粒子に限定された。また、電気泳動は、力の制限を受けなかったが、電極における電気化学的反応のために小型化することが困難であった。
【0193】
一方、熱拡散によれば、小さな粒子及び分子に対してもミクロスケールの操作が可能となる。例えば、1000bpDNAがバルク水内で任意にパターン化できる(図7)。2Kで加熱され、温度パターン“DNA”が、赤外線レーザー走査顕微装置により、水内に書き込まれる。1000bpDNAの濃度は蛍光DNAタグによりイメージ化される。3
℃で全体的に冷却されたチャンバー内で、DNAは加熱された文字“DNA”の方に向って集積するが(負のソレット効果)、室温では、DNAは、暗い文字で分かるように、嫌熱性を呈する(正のソレット効果)。
【0194】
従来において、熱拡散の明白な複雑性が、完全な理論的記述を阻害していた。図13に示したDNAについて分かるように、分子は、温度が上昇した領域からは特徴的に減損している。しかし、それらは、また、逆の効果を示して集積もする。更に、サーマル・フィールドフロー・フラクショネイション(ThFFF)により記録された熱拡散の大きさの範囲は、解釈しづらいあらゆる指数を伴った分数指数法則を示していた。後者は、ThFFFで使用されるきつい熱勾配に対する非線形熱泳動的ドリフトを解明することより、最近解決された。
【0195】
ほとんどの非水系レジームでの熱拡散の計測には各種の方法が使用されてきた。それらは、ビーム屈折3,7、ホログラフィック散乱8,9、電気的加熱から熱レンズにまで渡る。最近、我々は、蛍光ミクロ液体画像化技法13,14を開発し、それにより、熱対流に誘引される人為産物(アーチファクト)を伴うことなく、広い範囲の分子の大きさに渡って、熱拡散を測定できるようになった。非常に希薄された懸濁液が計測でき、ゆえに粒子対粒子の相互作用は、影響を及ぼさない。我々は、緩やかな温度勾配を採用しただけである。以下において、我々は、拡散の分かりやすい理論的説明を確認するために、この方法を使用した。
【0196】
理論的アプローチ 希釈された濃度について、熱拡散的ドリフト速度vは、熱拡散係数Dに等しい比例定数で温度勾配∇Tに線形的に依存する、と一般的に仮定されている(v=−D∇T)。定常状態においては、熱拡散は、通常拡散状態でバランスしている。一定拡散及び熱拡散の両係数を用いれば、指数関数的減損法則16:c/c=exp[−(D/D)(T−T)]が導かれる。ここで、濃度cは、温度差T−Tにのみ依存する。ソレット係数は、比S=D/Dで定義され、それにより定常状態の熱拡散の大きさが決まる。上記の指数関数的分布は、ボルツマン平衡性統計学に基づくアプローチに対して積極的にさせるが、例外のない熱拡散というのは、流体力学、力の場、又は粒子−溶解ポテンシャル17−20を必要とする局所非平衡性効果である。しかしながら、2つの従来文献16において、我々は、緩やかな温度勾配については、粒子の熱的揺動が、局所平衡性の基礎となっている、と論証した。これにより、c/c=exp[(G(T)−G(T))/kT]に従う局所ボルツマン法則を引き継いで、熱拡散的定常状態の記述が可能となる。ここで、Gは、単一粒子−溶解システムのギブス自由エンタルピーである。最近示された通り、温度勾配∇Tが閾値より小さい、∇T<(aS−1、ときのみ、そのようなアプローチが有効である。なお、ここで、その閾値は、流体力学的半径a及びソレット係数Sでの粒子揺動に基づいている。強い温度勾配については、熱拡散的ドリフトは、温度勾配に対して非線形で依存する。現在の研究においては、この限界値未満の温度勾配が使用されており、それにより熱拡散は、局所熱力学的平衡条件に従って計測されている。
【0197】
局所熱力学的平衡状態により、ソレット係数の熱力学的基礎を導くことができる。局所ボルツマン分布により、小さな濃度変化δcが小さなギブス自由エネルギー差に関係付けられる(δc/c=−δG/kT)。我々は、この関係を、δc/c=−SδTにより与えられる局所線形熱拡散定常状態と同一視して、ソレット係数をGの温度微分により見出した。
【0198】
【数1】
@0003
【0199】
上記関係は、以下を導くのに十分であるが、局所的に熱力学的関係dG=−SdT+Vdp+μdNを適用することにより、一般化できる。一定圧力下の単一粒子については、我々は、ソレット係数は、S=−ΔS/kTにより、粒子−溶解システムSの負のエントロピーに等しい、ことを見出した。エントロピーは、その定義から、自由エンタルピーの温度微分に関連するのであるから、この関係は驚くに値しない。
【0200】
上記一般的エネルギー関連処理は、伝達エネルギーにより記述される希釈電界液24,25の熱電気電圧の効果的解釈を含む、局所平衡性22に基づき従来記述されたアプローチにおいては、本来的なものである。最近、Ruckensteinによる非平衡状態のアプローチ
が、デバイ長λDHに割り当てられた特徴長さlを有するコロイド27に適用された。代わりに、粒子半径をaとした場合の、l=2a/3を割り当てるとすると、Ruckenstein
アプローチにより、ソレット係数についての上記局所平衡状態関係(1)を確認できるであろう。SDSミセル27に対する測定は、この非平衡状態アプローチを確認できるようであるが、選択された粒子については、競合パラメータ選択l=2a/3及びl=λDHは、類似の値を導き出してしまう。従って、その実験では競合する理論を区別できない。
【0201】
ここで、我々は、上記局所平衡関係を使用し、水溶液中のデバイ長よりも大きい粒子のソレット係数を導きだし、その結果を厳密な実験的試験に適用する。2つの寄与が水中の粒子エントロピーSを支配する(図8a)。イオン遮蔽についてのエントロピーと水和についての温度感応性エントロピーである。イオン遮蔽のエントロピーによる寄与は、有効電荷をQeff、粒子表面積をAとした、ギブス自由エンタルピー27,28ionic=QeffλDH/[2Aεε]を温度で微分することにより算出できる。あるいは、このエンタルピーは、イオン遮蔽容量C内の電場エネルギーGionic=Qeff/[2C]とも解釈できる。蛍光を使用したアプローチにより、非常に希釈されたシステムの測定が可能になるのであるから、我々は、粒子−粒子の相互作用を無視することにした。ソレット係数を得るために、その温度微分は、デバイ長λDH(T)=√ε(T)εkT/(2e)と非誘電率ε(T)を考慮に入れている。両温度微分から、ファクターβ=1−(T/ε)∂ε/∂Tが導かれる。電気泳動により独立に確認されたことであるが29、有効電荷Qeffは、概ね温度に対して不感応性を有する。強く吸収されたイオンは有効電荷の値を支配するのであるから、かかる依存性は期待されないであろう。実験として、我々は、平面を呈する、すなわち粒子半径がλDHよりも大きい、コロイドを扱っている。この場合、電荷再正規化は重要ではないので、我々は、分子面積Aに対する有効面積電荷密度σeff=Qeff/Aを導入できる。式(1)に基づく時間微分から、ソレット係数に対するイオン寄与は、S(ionic)=(AβσeffλDH)/(4εεkT)である。また、同様の関係が電荷ミセルについて最近導かれたが23、誘電係数εの温度依存性は考慮に入れていない。次に、水和エントロピーのソレット係数に対する寄与は、粒子面積特定水和エントロピーshyd=Shyd/A、つまりS(hyd)=−Ashyd(T)/kTから直接的に推論できる。最後に、粒子の運動エネルギーG=kTを式(1)に代入することにより、ブラウン運動による寄与分が、S=1/Tとして得られる。しかしながら、この寄与分は非常に小さく(S=0.0034/K)、想定下の分子については無視できる。従って、イオン遮蔽及び水和エントロピーによる寄与が加算され、以下の式(2)が得られる。
【0202】
【数2】
@0004
【0203】
ソレット係数Sは、粒子面積Aとデバイ長λDHに線形比例する。我々は、塩濃度、
温度及び分子の大きさに対するSを計測することにより、式(2)を検証した。全てのケースにおいて、熱拡散は、自由パラメータを伴うことなく、定量的に予見される。我々は、蛍光単一粒子追跡を利用して、pH7.6の0.5mMトリス−HCIに透析された、25アットモル濃度であって1.1μm及び0.5μmのカルボキシ変性ポリスチレン(PS)ビーズ(Molecular Probes F-8888)を追跡した。≦0.2μmの粒子の熱拡散
が、粒子のバルク減損を反映する蛍光減少により計測された13。20μmのチャンバーの厚さが、熱的対流を抑えて速度を無視できるようにする16。実験における設計では、また、熱レンズ効果及び光学的捕獲を排除している16。デバイ長λDHは、KClで滴定される(補足資料参照)。
【0204】
塩依存性 図8bは、異なる大きさを有する各ポリスチレンビーズのλDHに対するソレット係数を示している。そのソレット係数は、λDH=0における小さな切片値に線形比例し、式(2)のλDH−依存性を満たしている。更に直径の小さなビーズに対しては、ソレット係数は、式(2)から予想されるように、粒子表面積Aに比例する(図8)。式(2)が計測されたソレット係数を定量的に説明しているかをチェックするために、我々は、電気泳動によるビーズの電荷を推論した(補足資料参照)。λDH=9.6nmにおいて同一のカルボキシ表面変性を有する40nmの各ビーズを用いて、我々は、自由流動的熱泳動を蛍光により観察し、電気浸透を補正したところ、有効表面電荷濃度がσeff=4500±2000e/μmであることを見出した。この値は、使用された塩濃度に対して仮想的に独立している29。この推測された有効電荷を用いると、式(2)は、様々なビーズの大きさ及び塩濃度に対するソレット係数にうまく適合する(図8b、実線)。
【0205】
イオン寄与が0であるところの切片S(λDH=0)は、また、粒子の表面積に比例し、粒子表面ごとの水和エントロピー、shyd=−1400J/(molKμm)により記述される。その値は、類似の表面についての文献値と理論的によく一致する30,31。例えば、ダンシル−アラニン(Dansyl-Alanine)、すなわちポリスチレンビーズと同様の表面群を有する分子、が計測され、同様の温度で、−0.12J/(molK)の水和エントロピー30が得られた。半径a=2として、その表面積に対する線形比例性によれば、値はshyd=−2500J/(molKμm)となり、我々の結果と定量的に一致する。水和エントロピーは、計測することが困難であると知られている、高い有益情報を有する分子パラメータであり、熱拡散に対する興味深い応用をもたらすものである。
【0206】
温度依存性 水における水和エントロピーshydは、減少する温度に対して線形に増加することが知られている30−32。λDHに対するSのうちのイオン寄与の傾斜は、高精度で、水についての温度感応性はないので(β(T)/εT一定)、切片のみが、チャンバーの全温度が下がると、減少すると期待される。これは、確かに、1.1μmの直径を有するビーズの温度依存性から分かることである(図9a、T=6...29℃)。図7のDNAについて分かるように、水和エントロピーは、低温度において熱拡散を支配し、分子を高温側(D<0)に移動させる。
【0207】
1.1μmのビーズ及びDNAについて計測されるように、水和エントロピーの特性から、固定塩濃度において、温度に対してSが線形に比例することが導かれる(図9b)。我々は、S(30℃)で割ることにより、Sを正規化し、分子表面積に対する補償を行った。温度に対するSの傾きは、ビーズとDNAでは異なる。しかしながら、異なる大きさ(50塩基対に対して1000塩基対)のDNA間では傾きは異ならなかった。式(2)に基づくと、水和エントロピーの温度依存性は、分子の表面の種類のみに依存し、その大きさには依存しないのであるから、このことは予想されることである。我々は、それぞれの温度で独立に各DNA種の拡散係数を計測した。実験的誤差の範囲内で、温度
変化範囲に渡るDNAの構成変化を仮定する必要性なく、拡散係数Dの変化は、水の粘度の変化に一致する。DNAソレット係数の符号の変化点は、偶然、水の粘度の最大点の近くにあることに注意すべきである。そこでは2つのエントロピー的寄与がバランスしている。例えば、λDH=2nmでのポリスチレンビーズについては、符号変化は、15℃で観測される(図9a)。温度に対して増加したソレット係数が、以前、水溶液について報告されたが、明らかに非線形性を有しており、それは我々が残りの粒子−粒子間相互作用に起因するものとしているものである。
【0208】
ビーズの大きさ依存性 直径が20nmから2μmのカルボキシ変性ポリスチレンビーズについて(Molecular Probes, F-8888, F-8795, F-8823, F-8827)、ソレット係数が計測された。直径0.2μm、0.1μm、0.04μm及び0.02μmのビーズが、10pM、15pM、250pM及び2nMの濃度にまで希釈され、時間経過に対するそのバルク蛍光の画像が取得され、減損と引き続く逆拡散に基づいてD及びD13,16を得た。直径1.9μm、1.1μm及び0.5μmのより大きなビーズは、3.3aM、25aM及び0.2pMの濃度にまで希釈され、単一粒子追跡により計測された。溶液は、λDH=9.6nmの1nMトリスpH7.6に緩衝液化された。全てのケースにおいて、粒子間の相互作用は排除できた。局所平衡状態レジームにおいて温度勾配が維持されるように注意が払われた。
【0209】
我々は、ソレット係数が、4桁の大きさに渡って、粒子表面積に比例することを発見した(図10a)。このデータは、有効表面電荷密度がσeff=4500e/μmであって、水和エントロピーを無視できるとした条件のもとで、式(2)をよく表わしている。最も小さい粒子(20nm直径)についての5倍も低くなるという予想については、電荷の再正規化ということで説明できる。その半径が、λDHより小さいからである。
【0210】
球についての拡散係数Dは、アインシュタインの関係理論で与えられ、半径に逆比例するD∝1/a。式(2)をS=D/Dに代入すると、熱拡散係数Dは、粒子半径aに比例すると予想される。これは、2桁の大きさに渡って実験的に確認された(図10b)。これらの我々の発見は、大きな熱勾配における非線形熱拡散によりたぶん偏っているサーマル・フィールドフロー・フラクショネイション(ThFFF)による曖昧な実験結果に基づく、Dは粒子の大きさに無関係である17−20,27、といういくつかの理論研究とは矛盾するものである。
【0211】
DNAの大きさ依存性 ポリスチレンビーズは、共通の特徴として、DNA分子と非常に狭い大きさの分布を共有するのではあるが、ビーズはそれほど複雑なモデルシステムではない。ビーズは、その表面でのみ溶液と相互反応する固い球体である。加えて、電荷は、走査が行われる表面に存在する。従って、フレキシブルであり、均一に電荷を蓄えるDNAの熱拡散が同様に式(2)で表現される、ということの発見は、即座に予想しなかったことであり、大変興味深いことであった(図10c,d)。
【0212】
我々は、1μM(50bp)と1nM(48502bp)の間の低い分子濃度で、1mMトリス緩衝液(λDH=9.6nm)内の50塩基対から48502塩基対を有するDNAの大きさを計測した。50番目の塩基対ごとにのみ、TOTO−1蛍光染料で着色した。レーザーがオフされた後、拡散係数が逆拡散により計測され、それは単純ではない仕組みでDNAの長さLに依存していた。そのデータは、流体力学的半径の比例関係a∝L0.75によく整合していた。この関係は、2つのDNA長さレジームに対する有効平均を表わしている。約1000bpよりも長いDNA分子については、0.6の比例係数が見つかったが33、より短いDNAは、1の指数の割合で増減した(補足資料参照)。
【0213】
DNAの有効電荷が、流体力学的半径aを有するその球体面でシールド(遮蔽)される
と仮定するならば、我々は、DNA長の3桁の大きさに渡って計測されたソレット係数を、式(2)で記述できることになる。低い塩濃度(=9.6nm)により、そのような球状の遮蔽は、理にかなうものである。ソレット係数の実験的に観察された増減指数が、式(2)に基づいて正しく予見されるように、その長さの平方根に比例するものである(S∝Qeff/a∝L/L1.5∝L0.5)、ということのみならず、ソレット係数は、定量的方法で完全に記述でき、すなわち塩基ごとに0.12eの有効電荷であり、これは0.05e/bpから0.3e/bpまでの範囲という文献値34によく一致している。
【0214】
図10dに示すように、DNAについての熱拡散係数は、D=DS∝Qeff/a∝L/L2.25∝L−0.25に基づき、DNA長さに比例して減じるものである。従って、短いDNAは、温度勾配中において、より長いDNAよりも実際に速く移動する。この発見は、非水性装置において実験的に発見された重合体長に対する定数Dに矛盾するものではない、ということを指摘することは重要である。式(1)により、熱力学的関連パレメータは、溶媒和エネルギーで判定されるソレット係数である。重合体は脱結合により単に定数Dのみを示すようモノマー(単量体)にならなければならない、という議論20は、もはや、溶媒和エネルギーがSとDの両者を同等に判定するが、大きさが反比例すると判定するような特別なケースについてのものである。我々の局所エネルギー平衡状態の議論によれば、DではなくSのみがガラス遷移35近傍で非水溶重合体についても熱拡散を支配している。ここで、Sは定数であるが、D及びDは増加した摩擦に応じて変化する。しかしながら、溶液中のDNAのシステムについては、長い範囲のシールドが各モノマーを結合させるような場所においては、重合体長に対する定数Dはアプリオリなものと仮定することができる。
【0215】
有効電荷 有効電荷Qeffは、コロイド科学、生物学及びバイオテクノロジーにとって非常に関わりのあるパラメータである。これまで、それは、デバイ長(a≦3λDH36よりも小さな粒子に限定的で、電気泳動からのみ推論できるものであった。残念ではあるが、多くのコロイドはこのレジームから外れている。以前示したように、大きさの同様な限定は、熱拡散にはない。多くの場合、水和エントロピーshydは、15%以下の寄与率であり(図8)、適当な塩レベルにおいては、無視できるものである。従って、我々は、式(2)の逆関数を求め、球体分子についての有効電荷Qeffを得た。
【0216】
【数3】
@0005
【0217】
ポリスチレンビーズ及びDNAについての熱拡散測定から導かれる有効電荷が、大きさ(サイズ)の数桁に渡って、図11にプロットされている。ビーズの有効電荷は、小さな粒子のみについて電気泳動から推測された、有効表面電荷密度σeff=4500e/μmを確認するような傾きで、粒子表面積に比例する。線形比例からの平均偏差は、8%未満である(図11a)。式(3)を使用してDNAの熱拡散測定から推測される有効電荷は、DNA長に比例し、1塩基対に対して0.12eの有効電荷である。その長さ比例は、4桁の大きさに渡って確認され、平均誤差は12%であった(図11b)。従って、広い範囲の粒子サイズについて、少ない誤差で有効電荷を推測するのに、熱拡散が使用できる。熱拡散の測定は、全光学的に、ピコリッターの容積で行うことができるのであるから、熱拡散が使用できることは、生物分子の特徴付けにおいて、より興味深いことである。
【0218】
結論 我々は、液体内の熱拡散、すなわち温度勾配に沿った分子ドリフト、を、一般的な微視的理論で記述した。水溶液に応用すると、この理論は、DNA及びポリスチレンビーズの熱拡散を、20%の平均精度で予見する。我々は、その理論の重要なパラメータの依存性、すなわちスクリーニング長λDH及び分子流体力学的面積Aに対する線形性、有効電荷の二次依存性、並びに温度に対する線形性、を実験的に確証した。熱拡散の測定は、使用される全光学的蛍光技法によりミクロスケールにまで小型化でき、微視的温度差により、分子表面特性に基づいてその分子を扱うことができるようになった(図7)。また、その理論的記述により、大きさ(サイズ)の広い範囲に渡り、分子及び粒子の溶媒和エントロピー及び有効電荷を抽出することができた。
【0219】
赤外線温度制御 熱拡散的動きを誘引するために使用される温度勾配は、1480nmの波長と25mWのパワーを有する赤外線レーザー(Furukawa)の水吸収性により生成される。水は、k=320μmの減衰長で、この波長において、強烈に吸収する。レーザービームは、8mm焦点距離のレンズでゆっくりと焦点合わせが行われる。典型的には、溶液中の温度は、染料BCECF13の温度依存蛍光信号により計測したところ、25μmの1/e直径を有するビーム中心において、1−2Kで上昇した。薄いチャンバーの高さは10μmから20μmであり、緩やかな焦点合わせにより、光学的捕獲、熱によるレンズ作用、及び熱による対流13から、起こり得るアーチファクトを除外することができる。温度依存性測定については、対物レンズ系とミクロ液体チップの双方が、熱槽により調節された。画像は、AxioTech Vario 蛍光顕微装置(Zeiss)を介して取得され、ハイパワーLED(Luxeon)により照らされ、CCDカメラSensiCam QE (PCO)で記
録された。
【0220】
分子 50bp、100bp、1000bp、4000bp、10000bp及び48502bpの高い単分散性の蛋白質フリーのDNA(Fast Ruler, fragments and λ-DNA, Fermentas)が、50μM塩基対濃度にまで希釈された。すなわち、分子濃度は、1μ
M(50bp)から1nM(48502bp)の間である。DNAは、TOTO−1蛍光混入染料(Molecular Probes, Oregon)により、1/50の低い染料/塩基対の比で、蛍光標識化が行われた。直径2μm、1μm、0.5μm、0.2μm、0.1μm、0.04μm、及び0.02μm(F-8888, F-8823, F-8827, F-8888, F-8795, F-8823, F-8827 Molecular Probes)のカルボキシ変性ポリスチレンビーズが蒸留水内で透析され(Eluta Tube mini, Fermentas)、1mMトリスpH7.6内で希釈され、3.3aM(2μ
m)と2nM(0.02μm)の間の濃度にされる。
【0221】
時間経過における濃度画像化 濃度画像化13は単一粒子追跡のうちのいずれかの方法が使用されて、低い濃度、つまりDNAについては0.03g/l、ビーズについては10−5g/l、で、熱拡散が計測される。より高い濃度においては、我々は、熱拡散係数の意味深い変化を発見した。0.5μmより短い直径のDNA及びポリスチレンビーズについて、40x油浸対物レンズ系を用いて、明視野蛍光により、時間経過に対する濃度が画像化された13。脱色、不均一照明、及び温度依存蛍光13に対する補正後に推測された濃度は、有限要素理論に適合していた。そのモデルは、熱拡散的減損及び逆拡散の双方についての全ての詳細情報を取得し、D及びDを独立に計測している(補足資料参照)。測定は、両サイドにPDMSを有し、高さが10μmのミクロ液体チャンバー内で行われる13
【0222】
単一粒子追跡 ゆっくりな平衡化時間と、定常状態減損が熱的対流により阻害されるというリスクとを考慮して、直径が0.5μmより長いポリスチレン粒子が、単一粒子追跡により計測された。熱拡散的ドリフトが、20μmの厚さのチャンバー内の減損初期段階において4Hzの頻度で32x気密対物レンズ系により、画像化された。粒子のz方向に渡る位置を平均化することにより、熱対流による影響が除かれる。400トラックの温度
勾配に対するドリフト速度が、v=−D∇Tに対して線形的に当てはめられて、Dが推測された。粒子の拡散係数が、平方変位に基づいて評価されたが、10%の範囲でアインシュタイン関係性理論に整合していた。
【0223】
本発明は、以上で特に示され、記述された事項によっては、限定されない。むしろ本発明の範囲は、以上で記述された特徴のコンビネーション及びサブコンビネーションと共に、従来技術にないものであって以上の記述を読んだ当業者が思いつくような変形態様や各種態様を含んでいる。
【0224】
赤外線加熱 熱拡散的動きを誘引するのに使用される温度勾配は、1480nmの波長を有し、320mWの最大パワーを有して、とりわけ25mWで使用されるファイバー結合型赤外線固体レーザー(Furukawa FOL1405-RTV-317)が水に吸収されることにより生成される。水は、k=320μmの減衰長で、この波長において、強力に吸収する。赤外線光は結合してファイバーから送出され、1mmの1/e直径を有する平行ビームを形成する。x/y平面上のビーム位置は、ガルバノメーターにより制御される2つの赤外線ミラー(Cambridge Technology 6200-XY Scanner with Driver 67120)により調整可能である。レーザービームは、8mmの焦点距離を有する赤外線補正球面レンズ(Thorlabs, C240TM-C)により焦点合わせが行われ、目標ステージの下から照らされる。とりわけ、加熱焦点においては、2Kだけ温度が上昇する。
【0225】
温度測定 温度勾配は、10mMトリス緩衝液内で50μMに希釈された染料BCECFからの温度依存蛍光信号を介して計測される。脱色補正及び温度抽出の詳細は、以前に記述されている13。BCECFの全温度依存性である−2.8%/Kのうち、−1.3%/Kのみが、使用されるトリス緩衝液のpHの移行に由来するものである。残りの−1.5%/Kは、染料自体の熱拡散の結果であり、以下に記述する時間経過濃度測定方法によりS=0.015/Kと計測された。
【0226】
“DNA”画像 図7の“DNA”分布の測定は、2枚のガラスのスライドの間の60μmの厚さのチャンバー内で行われ、10xの対物レンズ系で画像が取得されるようになっており、またレーザー走査によって文字“DNA”に沿って2Kの加熱が行われる。チャンバーは、蛍光混入染料TOTO−1で着色された、1000bpのDNAの50nM溶液で満たした。減損から集積への切り替えのため、実験は、それぞれ、室温又は3℃に冷却されたチャンバーで行われた。
【0227】
蛍光アプローチ 歴史的には、液体中の熱拡散を計測するのに使用される方法は、溶液濃度の変化に応じた屈折率の変化に基づいている27。本来的には、この信号は、相互作用のない分子の限界に近い低溶液濃度の場合には、小さく、熱レンズ作用又はホログラム干渉のような複雑な検出方法についてもそうであった38。より小さな容積で測定が行われるものの、その使用される蛍光ミクロ液体アプローチ13により、DNAについては、0.03g/lの濃度が可能になり、単一粒子追跡については、10−5g/lまで達するようになった。これは必須である。例えば、DNAの熱拡散においては、より高い濃度で、意味深い変化を見たからである。
【0228】
時間経過に応じた濃度から得る熱拡散 直径が0.5μmより短いDNA及びポリスチレンビーズの双方が、明視野蛍光により、時間経過に応じた分子濃度の画像を取得して計測された。更に基本的な定常状態方法というのは、既に以前記述されている13。ここでは、我々は、それを数値的な理論で洗練し、拡散係数Dとソレット係数Sとを独立に推論した。
【0229】
50bp、100bp、1000bp、4000bp、10000bp及び48502
bpの高い単分散性の蛋白質フリーのDNA(Fast Ruler, fragments and λ-DNA, Fermentas)が、長さ従属の測定に使用された。DNAは、DNAに結合すると1000倍蛍
光が増加する蛍光混入染料TOTO−1(Molecular Probes, Oregon)により蛍光標識化された。染料/塩基の比は、低く(1/50)、結合染料からの構造的又は電荷性アーチファクトを避けられるようにしている。蛍光が、40x油浸対物レンズ系で観察された。各DNA含有溶液が、50μM塩基対濃度にまで希釈された。その濃度は、それぞれ、1μM(50bp)と1nM(48502bp)の間の分子濃度に対応する。直径0.2μm、0.1μm、0.04μm、及び0.02μmのポリスチレンビーズ(Molecular Probes, Oregon, F-8888, F-8795, F-8823, F-8827)が、蒸留水で透析され(Fermentas, Eluta Tube mini)、1mMトリスpH7.6内で、それぞれ、10pM、15pM,250pM及び2nMの濃度に希釈された。DNA熱拡散の測定は、両側にPDMSを有する高さ10μmのミクロ液体チップ内で行われた13。それにより、薄く画定された領域内の小さな容積での測定が可能になった。ポリスチレンビーズは、底部の厚さ1.25mmポリスチレンスライド(Petri Dish, Roth)と、上部のプラスチックスライド(厚さ170μm、1cm x 1cm, Ibidi, Munich)とで挟まれ、マニキュア液で密封されている。温度依存測定については、40x油浸対物レンズ系とミクロ液体チャンバーの双方が、熱槽により下から調整されるようにした。ミクロ液体全体の形状により水が凍る可能性が低くなっているので、0℃以下の温度でも十分対処できることに注意すべきである。
【0230】
DNAの濃度は、蛍光画像から推察できた。その蛍光画像は、AxioTech Vario 蛍光顕
微装置(Zeiss)に取り付けられた40x油浸対物レンズ系(NA=1.3)で計測され
、ハイパワーLED(Luxeon)により照らされ、CCDカメラSensiCam QE (PCO)で画
像化された。時間系列により、不均一な輝度及び脱色に対して補正が行える13。時間系列依存性光学的脱色ということは、全ての画像に対して個々の脱色因子が決定される、ということを意味している。この補正は、蛋白質熱泳動に対する高精度測定という点で有利である。各単一粒子が蛍光内で可視的であるならば、各粒子位置に渡って平均をとる時間平均が利用された。
【0231】
時間経過に伴う半径方向の分布が取得され、熱泳動的減損及び逆拡散の双方の空間‐時間の画像に結び付けられる(図12a,c)。蛍光は、蛍光スペクトルメーターにより−0.5%/Kであると独立に判定されるTOTO−1染料の温度依存性に対して調整された。とりわけ、溶液の温度は、25μmの1/e直径を有するビーム中心において、1−2Kだけ上昇させた。
【0232】
ソレット係数Sは、定常状態の分布から得ることができた。温度依存蛍光から得られる半径rにおける温度が分かると、濃度c(r)は、式(4)により与えられる定常状態温度分布13に整合していた。ここで、Tはチャンバー温度であり、cはバルク濃度である。
【0233】
【数4】
@0006
【0234】
我々は、赤外線レーザービームをオン又はオフさせた後のそれぞれの時間経過に伴う濃度分布の形成と平坦化を解析することにより、D及びDを独立に得ることができた。理論は、実験から得られる濃度の境界条件を使用した、時間経過に伴う半径座標における有限要素モデル(FEMLab, Comsol)から得られている。熱泳動的減損の時間経過の実験との比較によりDが分かり(図12c、d)、熱源をオフしてからの時間経過から、拡散係数Dが得られる(図12a、b)。DNA分子について得られた拡散係数の結果が図13に示されている。1000bpより大きいDNAについてのDのスケーリングは、文献値
及び理論的予想33によく一致している。しかしながら、不屈長(約150bp)のオーダーのDNA分子については、−0.6のべき乗指数は計測値に正確には整合せず、指数−1による異なったスケーリングが必要である。この作業を通して分析された大きさ範囲におけるDNA拡散係数は、中間の−0.75の指数を用いて、うまく表現されている。
【0235】
スクリーニング長 c=0mM、2mM及び20mMのKCLを、c=1mM、pH7.6のトリス緩衝液に加えることにより、デバイ−ヒューケル長が滴定され、次式で算出された。
【0236】
【数5】
@0007
【0237】
分子の有効電荷の変化は、これらの一価塩濃度においては、排除できる。λDH=13.6nmの最大値については、0.5mMトリスHClpH7.6緩衝液のみが使用された。
【0238】
単一粒子追跡を利用した熱拡散 大きな蛍光ポリスチレン粒子(2μm、1μm、0.5μm、Molecular probes, Oregon, F-8888, F-8823及びF-8827)については、単一粒子の可視性の増加、ゆっくりした平衡化時間、及び定常状態減損が熱対流により阻害されるリスクにより、異なる方法が使用されなければならなかった。ビーズは、蒸留水で透析され(Fermentas, Eluta Tube mini)1mMトリスpH7.6内で、それぞれ、3.3aM、25aM及び0.2pMの濃度に希釈された。熱拡散の測定は、厚さ20μmのチャンバー内で行われた。1.25mmの厚さのポリスチレンスライド(Petri Dish, Roth, Karlsruhe)が、チャンバーの底部として選択され、プラスチックスライド(厚さ170μ
m、1cm x 1cm, Ibidi, Munich)がカバースリップとして採用された。低い熱伝導性により、チャンバー全体の一定温度が保証されている。チャンバーの壁は、10W電力のプラズマクリーナー(Harrick)内で、10分間、新水性であるように形成されている。その
結果、ポリスチレン粒子のプラスチックに対する吸収は、高い塩濃度においても、少ない。プラスチックシートの間に2μlのビーズを加え、そして高速乾燥でチャンバーを密封することにより、20μmの高さの再生可能チャンバーができあがる。
【0239】
画像は、AxioTech Vario 蛍光顕微装置(Zeiss)を介して取得され、ハイパワーLED(Luxeon)により照らされ、CCDカメラ SensiCam QE (PCO)で記録された。0.2K/μmの最大温度勾配と共に50μmの1/eスポット半径で、視野面の中心が室温の8K上で加熱され、温度が、別れたチャンバー内で、前述のようにBCECFにより画像化された。図14aにおいては、商業的に取得できるFemlabソフトウェア(Comsol)を使用して実験的な状況で行った有限要素シミュレーションを示している。20μmのチャンバーがその中央で8K加熱される。PS壁の低い熱伝導性のため、温度分布は、チャンバー高に渡り均一となる(図14a)。薄いチャンバーにより、対流速度は抑えられ、最大でも5nm/sの無視可能な速度となる(図14b)。粒子の熱泳動的動きは、32x気密対物レンズ系で画像化され、4Hzで記録される。20μmのチャンバー内の全粒子が、注文品のLabViewプログラムで同等に追跡できるであろう。低い方のチャンバー壁の近くの対流による吸引は、チャンバーの上方近くの対流による相対する減損を相殺するのであるから、環状熱対流によるアーテファクトは、かなりの程度、平均化される。とりわけ、400トラックの速度が、半径に対してプロットされ、熱泳動ドリフトv=−D∇Tに基づき熱拡散により予想されるドリフト速度に当てはめられ、それにより熱泳動的移動性Dが見いだせた。それらのトラックの熱的揺動が、それらの二乗変位に基づいて評価され、それにより粒子の拡散係数Dが得られた。得られた値は、アインシュ
タインの関係式D=kT/(6πηa)に10%以内で整合するものであった。最悪でもチャンバーの厚さは計測される粒子の直径の20倍よりも大きいのであるから、上記結果は期待できることである。
【0240】
電気泳動 40nmの直径のビーズについての有効表面電荷濃度が、厚さ400μmで長さ5cmのチャンバー(Ibidi, Germany)内での電気泳動ドリフトにより計測される。5Vでのチャンバーの高さ全体に渡る速度分布が、2μmのビーズの単一粒子追跡により得られた。80μmの高さのところで、きつく密封されたチャンバー内の電気浸透的流れはゼロである39。予想されるように、この面内の粒子の速度は、100nmより大きい粒子については、飽和し、有効電荷とは無関係となる36。高開口の油浸対物レンズ系が使用され、同じ条件でのチャンバー表面での40nm粒子の速度が分析された。事前に計測されたチャンバー表面とゼロ電気浸透的流れの面との間の一定速度差が、真の電気泳動速度を算出するために使用されてきた。
【0241】
実施例1でこれまでに参照される追加的参考文献
3. S.J. Jeon, M.E. Schimpf and A. Nyborg, Anal. Chem. 69, 3442-3450(1997)
4. P.M. Shiundu, G. Liu, and J.C. Giddings, Anal. Chem. 67, 2705-2713(1995)6
7. B.-J. de Gans, r. Kita, B. Muller and S. Wiegand, J. Chem. Phys. 118, 8073(2003)
8. J. Rauch and W. Kohler, Phys. Rev. Lett. 88, 185901(2002)
9. S. Wiegand and W. Kohler, in Thermal Nonequilibrium Phenomena in Fluid Mixtures, Springer, Berlin, 189(2002)
13. D. Braun and A. Libchaber, Physical Review Letters 89, 188103(2002)
14. S.R. de Groot, P. Mazur, Non Equilibrium Thermodymamics (North-Holland, Amsterdam, 1969)
16. A.H. Jr. Emery and H.G. Drickhammer, J. Chem. Phys. 23, 2252(1955)
17. J.S. Ham, J. Applied Physics, 31, 1853(1960)
18. K.I. Morozov, J. Experim. And Theor. Phys. 88, 944(1999)
19. M.E. Schimpf and S.N.Semenov, J. Phys. Chem. B 104, 9935(2000)
20. A. Voit, A. Krekhov, W. Enge, L. Kramer, and W. Kohler, Phys. Rev. Lett. 92,
214501(2005)
22. S. Fayolle, T. Bickel, S. Le Boiteux and A. Wurger, Phys. Rev. Lett. 95, 208301(2005)
24. P.N. Snowdon, J.C.R. Turner, Trans. Faraday Soc. 56, 1409(1960)
25. E. Ruckenstein, J. Colloid Interface Sci. 83, 77(1981)
27. J. Israelachvili, Intermolecular & Surface Forces, 2nd edition, Academic Press, 1992
28. W. Lin, P. Galletto and M. Borkovec, Langmuir 20, 7465-7473(2004)
29. D. Haidacher, A. Vailaya and C. Horvath, Proc. Natl. Acad. Sci. 93, 2290-2295(1996)
30. N.T. Southall, K.A. Dill and A.D.J. Haymet, J. Phys. Chem B 106, 521-533(2002)
31. B. Kronberg, M. Costas and R. Silveston, Pure & Applied Chemistry 67, 897-902(1995)
【実施例2】
【0242】
実施例2: 流体力学的半径及び蛋白質間の相互作用の判定
本発明の熱光学的特徴付けの方法によれば、蛋白質の流体力学的半径を定量化でき、互いに共有結合しない生物分子の複合体の更なる重要性を判定できる。熱泳動は、ナノメートル未満から数ミクロンまでの分子の流体力学的半径を計測するために、比較的頑健で正
確な方法を提供する。他の熱光学的特徴付け方法と比較して、この方法の精度は、測定の形状大きさ(例えば、液体層の高さ)について過敏ではない。分子の相互作用についてのものだからである。
【0243】
データ獲得: 典型的な測定が以下のように説明できる。
【0244】
ステップ1:
蛍光標識化された分子の溶液が、ミクロ液体測定チャンバー(例えば、細管、ミクロ液体チップ)に導入される。蛍光が励起され、40Hzから0.2Hzまでのフレームレートで(すなわち、高速拡散分子については、高フレームレートが選択される)、5秒以下に対応する空間解像度で、CCD装置に記録される。これらの画像は、100%濃度における蛍光レベルについての必要な情報を提供する。そして、蛍光励起がオフされる。
【0245】
ステップ2:
赤外線レーザーがオンされる。即座に形成された局所空間温度分布により、分析すべき特定分子に依存して、低温側又は高温側への分子ドリフトが生ずる。レーザーは、温度勾配が0.0と5K/μmの間になるように、その焦点合わせが行われる。温度勾配の基準調整は一旦行われれば、実験が行われるごとに繰り返す必要はない。最大温度上昇は、分子にダメージを与えたり、又はそれらの相互作用を崩壊させると知られている温度以下とする。溶液中の分子の熱泳動的特性に応じて(すなわち、分子が温度勾配中を速く移動するか、遅く移動するかに応じて)、赤外線レーザーは、5秒から100秒間、溶液を加熱する。この時間の後、赤外線レーザーはオフされる。
【0246】
ステップ3:
空間温度分布が消滅した後(典型的には2−50ms)、蛍光励起がオンされ、そして蛍光が、蛍光画像化の第一ステップで使用されるフレームレートと同じレートで記録される。このとき、分子の再分布が、5秒から50秒間画像化される。正確な時間は、分子が拡散する速度に依存する(すなわち、熱泳動で形成された濃度勾配の90%が均一化するのにかかる時間)。
【0247】
データ処理−光学的脱色: 蛍光画像は、光学的脱色補正がなされなければならない。蛍光画像が取得されている間は、溶液中には空間温度分布がないのであるから、脱色補正は高精度で行うことができる(すなわち、光学的脱色のレートは温度に依存するから、高精度が可能である)。
【0248】
それゆえ、測定チャンバーの端(すなわち、加熱中心からできる限り離れたスポット)は、ステップ3において熱泳動が無視された場所(当該分野における当業者に対しては、レーザー加熱の間の温度勾配が0.001K/μmより低い場所と言える)であるが、その場所での蛍光が、評価されて、ステップ3で取得された画像列に対する光学的脱色が決定される。光学的脱色が行われれば、蛍光が画像ごとに減ぜられる。各画像に対する個々の因子は、全ての画像を脱色補正するために使用される。別の可能性は、ステップ1で取得された画像の全ての単一粒子についての脱色処理を算出することである。画素ごとの脱色レートは、ステップ3の画像の全ての画素に対して光学的脱色補正をするために使用される。
【0249】
データ処理−不均一輝度補正及び100%濃度への正規化: ステップ4で取得された全ての画像は、ステップ2で取得された単一又は全ての画像で除算され、そして100が掛けられる。このように、不均一輝度に対する補正が行われ、蛍光は、100%濃度に正規化される。
【0250】
データ処理−流体力学的半径の判定: ステップ4の画像列の第一画像から、濃度分布が抽出される。ソフトウェアツールが、濃度勾配の実験的計測緩和度を示している拡散係数(又は混合ケースの場合の多元拡散係数)を評価する。ストークス−アインシュタインの関係性を利用して、その拡散係数から流体力学的半径を導く。
【0251】
特に、上述の実験は、GFPのサンプルについて、以下のように行われる。
【0252】
緑色蛍光蛋白質(GFP)の2つのサンプルが、本発明の装置内で計測される。GFP(5μm、1xPBS緩衝液)の2μlが、対物スライド上に、ピペットで落とされる。サンプルは、その上にカバースリップ(12mmほどの直径)を置くことにより、挟み込まれる。液体はガラス表面間を均一に広がり、チャンバーは、マニキュア液を使用して密封される。これにより、液体が急速に蒸発することが防げる。蒸発が起こると、チャンバー内で次第に液体の比較的強い流れが生じてしまうようになる。このサンプルは、図1aに示す装置上に置かれる。測定ステップ及びデータ処理ステップが、上述のように行われる。同様の実験が、5μMのGFPと、特にGFPに結合する、10μmのGFP結合抗体断片とを含有する第二のサンプルについて行われる。どちらの場合においても、第一に、レーザー加熱なく、蛍光が記録される。そして、蛍光励起がオフされ、IRレーザー照射がオンされる(蛋白質の変性とそれに対するダメージを防止するため、最大温度は35℃未満に保たれる(すなわち、周囲の温度(約20℃)より約15℃上))。数秒の加熱の後、レーザーはオフされ、同時に蛍光励起がオンされる。空間蛍光分布(すなわち、濃度分布)の均一状態への緩和が、数秒間記録される。図31から見て分かる通り、相互作用を及ぼす2つの種(すなわち、GFP及び抗体片)が含まれているサンプルにおいては、蛍光分布が緩和するのにより時間が必要となっている。これは、複合度がより増すと、拡散がよりゆっくりとなる、ということにより説明できる。この蛍光分布の時間評価は、ソフトウェアツール(自社製ソフトウェア、Labview, National Instruments)により分
析され、拡散係数が判定される。ストークス−アインシュタインの関係性を利用して、その拡散係数から流体力学的半径が得られる。自由GFPの場合、これは5nmであり、複合体の方では10nmの半径である。
【実施例3】
【0253】
実施例3: 生物分子間の相互作用の検出と核酸の大きさによる識別
本発明の熱光学的特徴付けは、高速な全光学的生物分子分析のための手段を提供する。生物分子の相互作用の検出及び定量化のための現在の方法は大変時間がかかり、すなわち分析のために必要な時間は、30分ぐらいから数時間である。本発明は、1秒から50秒の範囲内で、生物分子間相互作用を検出し、定量化できる。相互作用という語句は、生物分子(例えば、蛋白質、DNA、RNA、ヒアルロン酸等)間の相互作用のみならず、変性ナノ粒子/マイクロビーズと生物分子との間の相互作用も含んでいる。相互作用を検出し、定量化する典型的な実験を以下に記述する。
【0254】
ステップ1a、バックグラウンド測定:
蛍光標識化サンプル分子/粒子を含まないサンプル緩衝液が、ミクロ液体チャンバーに満たされ、励起光源がオンされた状態で、蛍光が計測される。
【0255】
ステップ1b、レーザー加熱前の蛍光レベルの判定
任意の濃度の蛍光標識化サンプル(例えば、生物分子、ナノ粒子、マイクロビーズであるが、それらは全て、他の生物分子に対して特定の親和力を有する)の水溶液が、ミクロ液体チャンバー(細管)、好ましくはその高さが保証されて規定されているチャンバー、内に満たされる。蛍光が励起され、25ミリ秒から0.5秒までの露光時間で、CCD装置又は光電子増倍管に、10秒に満たない時間、空間解像をもってして(CCDカメラ)、又はそれなくして(光電子増倍管、Avalanche Photodiode)記録される。その後、蛍光
励起がオフされる。
【0256】
ステップ2、赤外線レーザー加熱の開始
次に、赤外線加熱レーザーがオンされ、溶液内に数ミリ秒で、空間温度分布が形成される。温度勾配の基準調整は一旦行われれば、実験が行われるごとに繰り返す必要はない。特に、赤外線加熱と蛍光像取得が片側から同じ光学素子を介して行われるような装置は、光学的及び赤外線の焦点の安定性という点で有利である。
【0257】
実験においては、光学的脱色による蛍光の5%未満の減少が有利となる。
【0258】
最大温度上昇は、溶液中の分子にダメージを引き起こすか、分子間相互作用を阻害すると知られているような温度未満である(例えば、周囲温度に対して1から5℃上である)。
【0259】
溶液内の分子の熱泳動特性に依存して(すなわち、温度勾配内において速く移動するか、又は遅く移動するかに応じて)、赤外線レーザーにより溶液は、5秒から100秒まで加熱される。
【0260】
ステップ3 空間蛍光(濃度)分布の記録:
上記時間後、蛍光励起がオンされ、ステップ1bで記述したと同じフレームレート及び長さで、画像が記録される。ステップ3は、熱光学的特性の評価に必要な最後の獲得ステップである。
【0261】
相互作用の検出と定量化のため、これまでの記述された手順の後に更なる計測が必要である。サンプル緩衝液についてのステップ1aが繰り返され、ステップ1bにおいて、蛍光標識化サンプルの水溶液が、相互作用が検出され定量化されるべき生物分子の一定量と混合される。相互作用の検出については、蛍光標識化サンプルを十分な量の結合相手と混合し、それによりある実質量の蛍光標識化分子が、結合相手と共に複合体内にあることになる。相互作用の強さが、解離又は結合定数(Ka、Kd)を用いて定量化されるべきであるならば、結合濃度を変化させながら(例えば、蛍光標識化結合相手の濃度の0.1倍から10倍)、前述の手順が行われる。このことは結合相手の滴定も行われるべきことを意味している。
【0262】
生データの処理: 線形脱色補正においては、ステップ3の終了に引き続く全分子の逆拡散を待つ必要がある。これにより分析に費やされる時間が劇的に増加する。正確で速い計測のためには、画像ごとに脱色強度を決定し、個々の脱色ファクターですべての像を補正することが有利である。正確な脱色補正のためには、加熱スポットからの距離に対する温度勾配が低い(例えば0.001K/μm)ことが有利である。ステップ1bで得られた画像は、全ての画像について不均一輝度を補正するために使用される。空間的な解像度を伴わずに蛍光度の記録が行われる場合には(例えば、アバランシェフォトダイオード又は光電子増倍管)、制御的実験において、レーザー加熱を伴わずにある染料の脱色特性を一旦決定することにより、光学的脱色は、最適に補正される。
【0263】
データ評価: 相互作用の定性的検出: 画像系列から、基準実験(すなわち、結合相手が存在しない蛍光標識化分子/粒子)及び第二の実験(すなわち、結合相手が存在)の空間蛍光分布が抽出される。蛍光度が加熱スポットからの距離に対してプロットされる。平均化は、同一温度及び同一距離を有する各画素に対してのみ可能である。空間的濃度分布は、それぞれの染料の温度依存性に対して蛍光強度の補正を行うことにより得られる。蛍光染料の温度依存性と空間温度分布ということが分かっていれば、温度上昇による蛍光度減少効果を補正することができる。相互作用の定性的検出のみならずそれらの定量化の
ためにも、温度依存性の補正は必要なく、空間蛍光分布のみで十分である。これにより、温度依存性を考慮せずに、市場のいかなる蛍光染料も使用できる。
【0264】
蛍光分布の値は、温度が最大温度の例えば10%未満のところ(例えば70μm)の位置まで、積算される。その積算値は比較され、その変化は、使用される濃度で、物質間に親和力があるか否かを正確に示している。相互作用は熱光学的特性(例えば、熱泳動的移動性、表面の大きさ、及び表面上の化学的基)に変化を与えるからである。多くの場合、相互作用は、より高温で、より高い蛍光度(濃度)を引き起こす。
【0265】
細管の全断面が加熱される場合には(すなわち、例えば、楕円形状を有して細管の断面を均一に熱するようなIRレーザービームを発する円筒レンズを使用する場合)、中心加熱スポットからより多くの画素の強度が平均化される。加熱ラインへ同距離にある全ての画素は同一温度を有するからである。これは高精度測定のためには有利なことである。蛍光が空間的解像なく記録される場合には、加熱スポット/ラインの中心において蛍光度変化が計測される。しかし、既述のように全断面を加熱することも有利となる。一般的に、ステップ1b及び3において、2以上のフレームが記録される場合には、複数フレームの積算が可能となる。
【0266】
親和力の定量化のため、非蛍光結合相手の各種濃度についての全ての実験で同一手順が行われる。基準実験(すなわち、結合相手なし)についての積算結果が、結合相手の異なる各濃度について得られた積算値から差し引かれる。この評価から、相互作用を及ぼす複合体の量が任意の単位で得られる。これらの値を結合が終了したときの値で割れば、ある相手濃度における複合体の相対量が得られる。これらのデータ組から、自由な非蛍光結合相手の濃度も判定でき、相互作用の強さが結合又は解離定数をもってして定量化できる(図25参照)。
【0267】
実施例3a: 蛋白質の相互作用
図25は、分子間の相互作用の定量化を示している。1xPBS緩衝液内の100nMの蛍光標識化抗体(anti-Interleukin 4, Sigma-Aldrich)が、いろいろな量のインター
ロイキン4の1xPBS緩衝液(0-300 nM IL4 Sigma-Aldrich)について滴定される。(左)概ね200nlのサンプル混合物が、40nmの内径を有する細管に注ぎ込まれる(World Precision Instruments)。細管は、図27に示すように装置上に載置される。細
管の両側のバルブを閉じることにより、液体のドリフトが防止される。測定は、図20に示した装置で行われる。定常状態の空間蛍光分布が、以前説明したプロトコルを使用して計測される。5nM、80nM及び150nMについての3つの結果が例示されている。各測定の後、細管は、概ね5μlの1xPBS緩衝液で満たされる。IL4の抗体に対する結合により、信号が、蛍光の減少から蛍光の増加に、ダイナミックに変化している。80μm(加熱中心からの距離、この例で上で記述された手順参照)までの蛍光分布の積算により、溶液中の複合体の数を判定することができる。(右)自由インターロイキン4の濃度は、形成された複合体の濃度に対してプロットすることにより算出できる。これらのデータからKを決定できる。
【0268】
実施例3b: DNAの大きさによる識別とDNA鎖の相互作用
この実施例3による修正プロトコルを使用して得られた、相互作用の定性的検出結果が、図5に示される。ここで、20塩基対DNAの濃度分布が、(20℃の周囲温度で)、10℃の最大温度上昇において、50塩基対DNAと比較された。第二の実験では、20塩基一本鎖DNAが、20塩基対二本鎖DNAと比較される。4つの全ての実験は、1xSSC緩衝液内で以下のように行われた。2μlのサンプルが、対物スライド(Roth, 厚さ1mm)上に、ピペットで落とされ、12mmの直径を有するカバースリップとの間で挟まれる。液体は2枚のガラス表面間を均一に広がり、それにより約20μmの高さを有
する水の薄いシートが生じる。液体シートは、マニキュア液を使用して密封される。これにより、サンプルが急速に蒸発することが防げる。ミクロ液体チャンバーは、熱光学装置(例えば図1a)の対物ステージ上に置かれ、40x油浸対物レンズ系(NA 1.3, Zeiss
)を介して画像取得される。レーザー焦点が位置決めされて概ね視野の中心にくるようにされ、また約20μmの半幅を有するようにされる。CCDカメラの単一画素のみが蛍光の検出に使用される場合には、その画素は加熱スポットの中心の蛍光を計測する。蛍光は、レーザー加熱なく約1秒記録され、それからIRレーザーがオンされ、同時に蛍光が記録し続けられる。20秒のレーザー加熱の後、測定は終了する。図5から分かるように、一本鎖DNAが二本鎖DNAと区別でき、異なる長さのDNAが、数秒の時間内で識別できることになる。濃度の強い変化が観察されるこの実験では、脱色補正は行われない。
【実施例4】
【0269】
実施例4 :PEG分子のナノ粒子に対する結合の検出
以前説明した通り、以前記述した手順を用いて、分子の、より大きな無機粒子又はナノクリスタルに対する結合を検出することもできる。無機CdSe粒子(約12nmの核直径)が、異なる分子量のいろいろな数(1から3まで)のポリエチレングリコール(PEG)で変性化された。2μlのサンプルが、対物スライド(Roth, 厚さ1mm)上に、ピペットで落とされ、12mmの直径を有するカバースリップとの間で挟まれる。液体は2枚のガラス表面間を均一に広がり、それにより約20μmの高さを有する水の薄いシートが生じる。液体シートは、マニキュア液を使用して密封される。これにより、サンプルが急速に蒸発することが防げる。ミクロ液体チャンバーは、熱光学装置(例えば図1a)の対物ステージ上に置かれ、40x油浸対物レンズ系(NA 1.3, Zeiss)を介して画像取得
される。レーザー焦点が位置決めされて概ね視野の中心にくるようにされ、また約100μmの半幅を有するようにされる。最大温度上昇は、周囲の温度より5℃上と判定された。空間蛍光分布が、生物分子の相互作用に検出のために、以前記述したように記録される。また、生のデータが以前記述したように処理される。ナノ粒子に結合したPEG分子の数又は大きさを計測するためには、得られた空間蛍光分布を以前記述したプロトコルと比較するだけで十分である。しかしながら、蛍光の温度依存性減少を補正することにより、ソレット係数を用いた定量化が可能となる。図26は、ソレット係数が、ナノ粒子に結合したPEG分子の数に応じて線形的に増加していることを示している。その増加の傾斜は、PEGの分子量に依存する。図26は、蛋白質の大きさの単一分子の結合が検出可能であることを示している。
【実施例5】
【0270】
実施例5: 蛋白質の熱泳動
分子の構成、構造及び表面がどのように前記分子の熱光学的特徴に影響を与えるか、またこれらの特徴がどのように計測され、検出され、見出されたかの例が以下に示される。
【0271】
蛍光標識化BSA(牛血清アルブミン、Fermentas)のサンプルが、ミクロ液体チャン
バー(例えば細管)に移される。全サンプル体積の温度が、溶液に対して熱的に接触したペルチエ素子により調整される(ミクロ液体チャンバーは、図27に示す装置に載置されている)。ペルチエ素子は、溶液の“周囲の温度”を調整するために使用される。それは、空間温度分布は創り出さない。いろいろの周囲温度(すなわち蛋白質構成)での熱光学的特性(例えば、表面特性、構成)が計測されるべきであるから、温度の調整というのは重要である。熱光学的特性は、生物分子の相互作用について以前記述されたプロトコルに従って、計測される(ステップ1からステップ3、分子間の特性のみが計測されるのであるから、結合相手は加えない)。また、生データの処理の後、分子の相互作用の検出のための、既述の手続きが行われる。熱光学的特性は、定常状態における濃度分布を判定することにより評価できる。熱光学的特性は、図28に示すように、ソレット係数STとしてプロットされる。ソレット係数は、指数関数形式(c=c−ST(T−T0))の濃
度分布を温度分布に関係付けることにより得られる。ソレット係数は、蛋白質のアミノ酸と水分子の間の相互作用の変化に対して敏感である。低い温度においては、分子は、負のソレット係数に対応する、上昇温度の領域に集積される。高い温度においては、分子の集積は変化する(すなわち、ソレット係数は増加する)。これは、分子の構成における変化(例えば、疎水性の基又はループの再配置)により容易に説明できる。図28から分かるように、熱泳動の符号は、低温側の負の値から高温側の正の値(すなわち減損)に変化する。正のソレット係数への突然のジャンプは、熱的変性が生じる温度(すなわち50℃)と非常によく整合する。体温の範囲(すなわち30℃−40℃)では、熱光学的信号は、それほど変化しない。この予期せぬ振る舞いについては、蛋白質は、この温度範囲で機能するように進化的に設計されているからである、と説明できる。自然界においては、強固な構造−機能の関係があることから、構造は、この温度範囲で保護される。図28に示された値は、蛍光染料の温度依存性について補正される。
【0272】
システム内の局所温度増加が、熱泳動による濃度の変化では純粋には引き起こされない蛍光量の変化を引き起こす。負から正の値へ遷移する温度というのは、絶対蛋白質安定性の測定には重要であるので、蛍光の温度依存性についての補正は有意義なことである。安定性の違いが検出されるべき応用においては(例えば、蛋白質に結合する小さな分子)、蛍光の温度依存性についての補正は必要ない。蛋白質の構造/構成が計測されるという議論は、図28bで支持されており、そこでは、実験は高温度で始められている。熱的変性温度より低い温度においても、ソレット係数は正である。このことは、測定速度、すなわち50秒よりも速い速度、と比較して遅いリフォールディング時間に基づくものである。ある時間の後、図28aに示す熱光学的ST値は、図28bに示す測定で再び得られる。制御の1つとして、システムの温度が再び増加され、負のST値が約40℃の温度で期待通りに得られる。
【実施例6】
【0273】
実施例6: 蛋白質の変性のような構成的変化の検出
a)蛋白質の変性形が、蛍光染料の温度依存性に対するいかなる補正もせずに、天然形のものと識別される、という例が、図15に示される。蛍光標識化牛血清アルブミンのアリクウォット(既知少量、分取)が、10分間、90℃まで加熱される。この温度は、変性の温度より十分上であり、蛋白質は再フォールドできない。また、天然形アリクウォット(すなわち90℃まで加熱されない)の熱光学的特徴が、計測される。天然のサンプルで始めて、概ね200nlのサンプルが、40nmの内径を有する細管に注ぎ込まれる(World Precision Instruments)。細管は、図27に示すように装置上に載置される。細
管の両側のバルブを閉じることにより、液体のドリフトが防止される。測定は、図20に示した装置で行われる。定常状態の空間蛍光分布が、以前説明したプロトコルを使用して計測される。各測定の後、細管は、概ね5μlの1xPBS緩衝液で満たされる。実験は、生物分子の相互作用(ステップ1−ステップ4)についての記述のように行われる。実験は、異なる赤外線レーザーパワー(すなわち、周囲温度よりも5℃上又は10℃上の最大温度が採用される)で2回行われる。その後、変性蛋白質を含んだサンプルが計測される。再び、異なるレーザーパワーの3つの実験が使用される。図29において、熱源(すなわちレーザー焦点)への距離の関数が、2つの異なるレーザーパワー(すなわち、5℃及び10での最大温度)で、天然及び変性の双方の形について、示されるように、蛍光がプロットされる。どちらの場合も、蛍光の変化に対して2つの寄与がある。第一には、(天然形又は変性形のそれぞれについて)濃度の増加又は減少があり、第二に、蛍光染料の温度依存性による蛍光の減少がある。定性的な比較においては(すなわち、天然形と変性形を識別する)、染料の温度依存性のための補正は必要ない。図29に示された全てのケースにおいては、蛍光は減少している。しかし、予想されることであるが、天然蛋白質についての蛍光の減少は、変性形について観測される強い減少ほどではない。これは20℃の周囲温度における天然蛋白質の負のソレット係数により容易に説明でき(図28も参照
)、当該ソレット係数は、高温側温度での分子の集積を引き起こす。これにより、蛍光の温度依存性により生じた、蛍光の減少が阻害される。より高いレーザーパワー(すなわち、10℃の最大温度上昇)のとき、天然形と変性形の違いが、より顕著になる。そのとき、それぞれの形についての、熱泳動的集積及び熱泳動的減損がより強くなるならである。また、より少ない構成的変化が、熱泳動の異なる長さに基づいて検出できる。熱泳動的動きの方向が異なることは有利なことであるが必要なことではない。
【0274】
b)蛍光標識化牛血清アルブミン(BSA)のサンプルは、2つの部分に分けられている。その一方は周囲の温度に晒されるのみであり、他方の半分は、数分間、100℃まで加熱される(すなわち、不可逆的に変性化される)。両サンプル(天然及び変性)の熱光学的特性が、赤外線レーザーの800mAのパワー(すなわち、20℃の最大温度上昇)において、計測される。図30から分かるように、変性蛋白質の蛍光は、天然蛋白質の蛍光よりも低い。これは以下のように説明される。両サンプルの蛍光染料は、温度が上昇すると、その蛍光量は同じように減少する(すなわち、蛍光の温度感応性)。しかし、変性蛋白質は、正の熱泳動的移動性(すなわち冷たい側へ移動する)を示す一方で、天然蛋白質は、負の熱泳動的移動性(すなわち温かい側へ移動する)を示す。各上昇した温度における積算が、蛍光の減少は、天然蛋白質については、より少なくなっている理由を示している。すなわち、他方、変性蛋白質は、温度依存性に加えて、温度上昇の領域から減損していくからである。興味深いことに、蛋白質の変性温度(すなわち50℃)に近づけることにより、天然蛋白質と変性蛋白質の振幅は互いに近づいていき、最終的には同じとなる。このことは、蛍光の変化の振幅を計測し、基準サンプルと比較することにより、蛋白質の融解温度が検出でき、蛋白質の天然形と変性形の区別ができる、ということを意味している。また、その比較により、蛋白質の他の生物分子又は小さな分子(例えば、医薬品候補)に対する相互作用による融解温度のシフトが検出できる。
【実施例7】
【0275】
実施例7: 光学的熱性捕獲/熱光学的捕獲
次に、ケイ酸粒子が、本発明の方法で熱光学的に捕獲されるべき粒子/ビーズの例として採用される。記述された方法は、生物分子又は脂質ベシクル(更なる実施例で示される)のような他の分子の熱光学的捕獲にも採用可能である、ということを理解すべきである。
【0276】
ケイ酸粒子(1μmの直径、無地、Kisker Biotech)が、蒸留水内で1/100に希釈される。2μlが、対物スライド(Roth, 厚さ1mm)上に、ピペットで落とされ、12mmの直径を有するカバースリップとの間で挟まれる。以下においては、ビーズという語句は、粒子と同意語として使用される。ビーズを含む水液体は2枚のガラス表面間を均一に広がり、それにより約20μmの高さを有する水の薄いシートが生じる。液体シートは、マニキュア液を使用して密封される。これにより、サンプルが急速に蒸発することが防げる。ミクロ液体チャンバーは、熱光学装置(例えば、添付の図1aに示される)の対物ステージ上に置かれ、40x油浸対物レンズ系(NA 1.3, Zeiss)を介して画像取得され
る。レーザー焦点が位置決めされて概ね視野の中心にくるようにされ、また約100μmの半幅を有するようにされる。その後、IRレーザーがオンされ、IRレーザー焦点の中心の空間温度分布の最大値点において、周囲温度(20℃)より10℃上まで、溶液が加熱される。図33に示す画像系列は、粒子の集積/捕獲の過程を例示している。最初(図33の第一画像、ページの上部)、レーザー加熱なく、ビーズは概ね均等に分布する。黒の円は、レーザー焦点の位置を示している。引き続く画像は、加熱レーザーがオンされた後の3秒間における粒子の分布の展開を示している。粒子は、レーザー焦点における上昇温度の領域に向けての動きを示しており、それは、負のソレット係数の場合又は負の熱泳動の場合と言うこともできる。驚くことに、ケイ酸粒子は、室温において、負の熱泳動を示す。粒子は、レーザー焦点の温度分布の中心において捕獲される。粒子は、空間温度分
布により良好に創り出されたポテンシャルの影響を受ける。最高の温度の領域へ向けた動きは、溶媒和エネルギーを最小にしようとする粒子の蛍光により説明できる。粒子の位置は、正確に加熱スポットの中心であるわけではない。熱的揺動によりその位置から押し出されるからである。添付の図34は、ステージ(すなわちサンプル)が固定のレーザー焦点に対して数秒/1秒の速度で移動する場合でさえも、ビーズが最も温度が高い領域内で捕獲されることを示している。熱光学的捕獲を使用することにより、粒子を任意に移動させることができ、集めることができる。抗体変性ビーズを加熱スポットに閉じ込めた後、溶液内の1つの抗原が2つ以上のビーズに結合することによる粒子間相互作用が検出可能となる。
【0277】
本発明による熱光学的特徴付けの他のアプローチが図32に示される。ケイ酸粒子(1μmの直径、無地、Kisker Biotech)が、蒸留水内で1/1000に希釈される。希釈ファクターは経験的なものである。その希釈度は、概ね400μm×400μmの範囲で、1つの粒子のみが観測される程度のものである。2μlが、対物スライド(Roth, 厚さ1mm)上に、ピペットで落とされ、12mmの直径を有するカバースリップとの間で挟まれる。ビーズを含む水液体は2枚のガラス表面間を均一に広がり、それにより約20μmの高さを有する水の薄いシートが生じる。液体シートは、マニキュア液を使用して密封される。これにより、サンプルが急速に蒸発することが防げる。ミクロ液体チャンバーは、熱光学装置(例えば図1a)の対物ステージ上に置かれる。レーザー焦点が位置決めされて概ね視野の中心にくるようにされ、また約100μmの半幅を有するようにされる。その後、IRレーザーがオンされ、IRレーザー焦点の中心の空間温度分布の最大値点において、周囲温度(20℃)より10℃上まで、溶液が加熱される。高い希釈度により、単一粒子が、空間温度分布により良好に創り出されたポテンシャル内で捕獲される(図32a参照)。ケイ酸粒子は、負の熱泳動を示すので、油井は、高温側で最も深くなる(すなわち、粒子は、高温側で、溶媒和エネルギーを最小にする)。熱揺動が粒子をその位置から押し出そうとするので、単一ケイ酸粒子は、ポテンシャル油井内で揺動する。その揺動は、CCDカメラを介して記録され(t=1s、2s、3s、4s、5s、6s、7sにおいて)、それらの位置は、ソフトウェア(最高強度を有する粒子を検出する自社製ソフトウェア、Labview National Instruments)によりナノメーターの解像度で追跡される(図32b参照)。位置情報からヒストグラムが算出される(図32c参照)。分布の幅は、粒子の熱光学的特性に対して非常に繊細に影響を受ける。分子が粒子の表面に結合すると、そのビーズの有効ポテンシャルが変化し、揺動の振幅が増加するか減少する。時間経過に伴う振幅の変化を観測することにより、運動性結合曲線が計測できる。以下のように実験が行われるようなミクロ液体システムにおいては、1/1000希釈液(蒸留水)を含む溶液が、細管に注がれてそこに満たされる(図27参照)。細管の端のバルブが閉じられる。単一粒子(ある抗原に特定な抗体で変性化された(例えば被膜化された)、例えば Interleukin 4)が捕獲され、その粒子の揺動が、10秒から100秒の間、検出される。ビーズは、純粋な緩衝溶液により取り巻かれている。次のステップにおいて、その緩衝液は、対応する抗原を含む緩衝液に交換される。緩衝液が交換されている間も、ビーズは捕獲されている。緩衝液が交換された後、同じビーズの揺動が引き続き同様に記録される。揺動振幅の変化は、抗体と抗原の間の相互作用を検出するために使用される。時間経過に伴うその変化は、結合キネティックスを計測するために使用される。
【0278】
添付の図24に例示される装置を使用して、溶液内の互いに垂直な線(例えば10本)を走査することにより、温度勾配が溶液内に生成される。これらの線が交差するところでは、温度の最大が観測される。走査線上の点は中間温度を有し、一方、線の間は温度最小(例えば、線間の間隔が十分に広ければ、周囲温度)を表わしている。上述のケイ酸粒子は、その加熱線の各交点上の平衡状態位置に移動する。その温度格子を移動させると、全ての粒子が同時に移動する。加えて、全てのビーズの揺動が同時に計測され得る。
【実施例8】
【0279】
実施例8: DNA融解曲線
融解曲線の測定のための標準プロトコル(例えば、図1a、1b、16から18、20から24、又は37に示された装置を使用する)
Raman-Laser 1455nm; ファイバーを介してガルバノメトリックミラーに接続されている
ファイバーの後段にコリメータはなく、レーザービームは、広がりつつミラーに当たる。ミラーは、レーザービームを反射してレンズに当てる。レーザービームは、レンズを介してチャンバー上に焦点合わせされる。
【0280】
レーザーオン/オフは、ミラーを介してレーザーを視野内に移動させる、又は視野から外すことにより制御される。
【0281】
準備:
−2枚のカバースリップ(厚さ170μm)、1枚は12mmの直径であり、もう1枚は、24×2mmの正方形であり、脱イオン水ですすがれ、エタノールですすがれ、そして再度、脱イオン水ですすがれる。
【0282】
−溶液の希釈
+1xSSC内の10μm、Tamra
+10μM、1μM、100nMに希釈されたMilliQ水内の100μMのヘアピン、又はSSC緩衝液(1x、0.5x、0.1x又はそれ未満)内のそれ以下のヘアピン
+0.01%の最終容積に界面活性剤TWEEN20を加える(不特定の吸収がある場合)
調整:
−顕微装置(開口、フィルター)について、全てがOKがチェックする
−0.01%のTWEEN20を含む1xSSC(150mMのNaCl、15mMのNa
3−クエン酸塩、pH8.1)内の10μm、Tamra(テトラメチルローダミン);2枚
のカバースリップ(厚さ170μm)で形成され、マニキュア液で密封されたチャンバー内に2μl注がれる。
【0283】
−マニキュア液が乾くまで待つ
−上側カバースリップ上に浸漬油を加える
−測定台の上にチャンバーを載置する
−開口をほとんど閉じることにより蛍光画像の焦点合わせを行う
−レーザースポットを見つける
−レーザー焦点合わせ
−レンズとチャンバーとの間の距離を増加させることによりレーザーの焦点を外す
−広く適した温度分布が得られるようにレーザー焦点を調整する
−レーザーの蛍光画像に対する影響が最小になるようにガルバノメトリックミラーにより視野からレーザースポットを外す。−>この設定を測定プログラムに記憶させる(ガルバノメトリックミラーの電圧スケール上のゼロポイントに交差することを回避する)
−室温を計測する
測定:
温度の測定と共に融解曲線の測定のための以下のステップを使用する
トリガープログラムにより測定を行う
設定:40x油浸対物レンズ系、8x8 Bining, 10msの露光時間(−>28Hzの読み出しレート)
手動で行うこと:
1. レーザーオン
2. 光源オン(HXPの場合はシャッターを開ける)、光源の設定を書き記す
3. トリガープログラムを起動する
4. レーザーオフ
光源オン
測定は、蛍光の検出に基づくものであるから、添付の図16−18及び/又は20−24による装置において行い得る。測定時間が正確であることが望ましいので、CCD、IRレーザー及び光源等の使用される機器は、電気的トリガー信号を使用することにより、同期している。使用されるCCDカメラ(Andor Luca)がトリガー出力ポートを有しているので、IRレーザー制御機器及び光源制御機器は、CCDカメラのそのトリガー信号により同期する。特に、CCDトリガー出力信号が二回目にハイレベルになったときを、測定の時間的ゼロ点とする。次に、CCDカメラの露光時間は、10msであり、2つの画像間の最短時間は、CCDカメラのフレームレートで決定される。チャンバーとして、蛍光標識化サンプル分子(例えば、75mMのNaCl、7.5mMのNa3−クエン酸塩中の10μlのテトラメチルローダミン(TAMRA)、0.01%TWEEN20、pH8.1)の2μlの溶液が、厚さ170μmで直径12mmの2枚のガラスカバースリップで挟み込まれて、マニキュア液で密封される。これにより、チャンバーの厚さは約20μmとなる。そして、チャンバーは、測定装置のところへ移動させられ、光学系の焦点がチャンバーに合わされる。
【0284】
測定手順の簡単な説明:
測定を始める前に、測定装置の蛍光バックグラウンドが“ステップ0”で記録される。このバックグラウンドは、使用される装置に特有のものであるので、長時間変更されないであろうので、使用装置の特徴を決めるこのステップは一度だけ行われることが好ましい。
【0285】
時間t=0: ステップ1:チャンバー内の空間蛍光分布の第一の蛍光画像が記録される。
【0286】
時間t=20ms ステップ2:IRレーザーのスイッチがオンされる。
【0287】
時間t=60ms ステップ3:チャンバー内の空間蛍光分布の第二の蛍光画像が記録される。
【0288】
これらのステップの後、測定は終了し、生データ処理及びデータ評価が行われる。
【0289】
測定手順の詳細説明:
ステップ0 バックグラウンド測定:
蛍光標識化サンプル分子/粒子を含んでいないサンプル緩衝液が、ミクロ液体チャンバーに満たされ、チャンバー内の空間蛍光分布が、励起光がオンされた状態で、CCDカメラにより計測される。
【0290】
ステップ1 レーザー加熱前の周囲温度での蛍光レベルの判定:
任意の濃度(例えば10μM)の温度感応性染料(例えばTAMRA)の水溶液が、好まし
くはその高さが規定されたチャンバー内に満たされる。蛍光が光源(LED)により励起され、CCDカメラにより空間的な解像情報として、周囲温度において記録される。
【0291】
第一に、CCDカメラが起動され、カメラトリガー出力信号の1回目のハイレベルが、IRレーザー制御機器及びLED制御機器をCCDカメラに同期させるために使用される
。その同期のために、例えばNational Instruments製の測定用カードが使用できる。
【0292】
良好な照明のために、LEDが、カメラトリガー信号によりオンされ、その直後にCCDカメラは、第一の蛍光画像I(x,y)を記録する。ゆえに、10msのCCDカメラの露光時間の間、蛍光励起光源は、その光出力が定常状態レベルに達する。カメラが記録を開始したときは、カメラの出力トリガー信号が2回目のハイレベルになったときである。出力信号がその2回目のハイレベルの状態になったときを、t=0のゼロポイントと決定する。
【0293】
ステップ2 赤外線レーザー加熱の開始:
赤外線加熱レーザーがt=20msでオンされ、数ミリ秒で、溶液内に空間温度分布が形成される。温度分布は、例えば、記録画像における温度の全てが30℃と90℃の間にあるように、一度、基準調整され、この基準調整は実験が行われるたびに毎回繰り返す必要はない。
【0294】
ステップ3 赤外線レーザー加熱を伴った空間蛍光分布の記録
t=60ms、すなわちIRレーザー照射が始ってから40ms経つと、第二の蛍光画像I(x,y)が、CCDカメラにより10msの露光時間で記録される。
【0295】
CCDカメラが第二の画像を取得した後、第一及び第二の画像は、生データ処理及びデータ評価のためのPCのハードディスクに保存される。そして測定処理は終了する。
【0296】
生データ処理及びデータ評価:
測定の時間が短いので、脱色補正は必要ない。画像I及びIは、カメラバックグラウンドに対して補正される。蛍光画像の各画素について、比K(x,y)=I(x,y)/I(x,y)(第一の画像で割られた第二の画像、双方ともバックグラウンド補正がなされている)を計算すると、不均一な照射光からアーテファクトを取り除くことができる。染料TAMRAの温度依存性F(T)(図15)は、蛍光測定器での基準調整実験から
知られていることなので、空間温度分布T(x,y)(図3c)は、比K(x,y)から得られる。
【0297】
測定のタイミングは、温度測定と融解曲線の測定とで同じなので、温度測定のための染料(例えばTAMRA)の発光スペクトルが、例えば分子ビーコン(例えば、蛍光体としてのHEX(添付の図6参照)及び失活剤としてのDabcyl)の蛍光標識の発光スペクトルから十分に分離しているならば、両測定は、1つのチャンバー内で1回で行うことができる。
【実施例9】
【0298】
実施例9: ナノ粒子の共有結合修飾及び非共有結合修飾の検出
共有結合修飾及び非共有結合修飾の検出の例が、図35に示される。ナノ粒子(すなわち、ナノクリスタル又は量子ドット)は、インビトロゲン(Invitrogen)から得られてきている。粒子は、水溶液内で安定であるように高分子被膜が施された状態で購入された(直径12nm)。加えて、粒子は、ストレプトアビジンと共有結合した状態で購入され(直径21nm)、同時にビオチン化40塩基一本鎖DNAも購入された。以下のサンプルが準備された。第一に、1xSSC(Saline-Sodium Citrate)緩衝液内で1μMの濃度
に希釈された非変性ナノ粒子。第二に、1xSSC緩衝液内で1μMの濃度に希釈されたストレプトアビジン被膜ナノ粒子。第三に、1xSSC緩衝液内で2μMの濃度に希釈されたストレプトアビジン被膜ナノ粒子が、2μMの40塩基ビオチン化一本鎖DNA(IBA GmbH, Gottingen)と、1xSSC緩衝液内で、1/1の比で混合された。3つの実験
は全て以下のプロトコルに従って1xSSC緩衝液内で準備された。2μlのサンプルが、対物スライド(Roth, 厚さ1mm)上にピペットで落とされ、12mmの直径を有する
カバースリップで挟まれる。水液体は2枚のガラス表面間を均一に広がり、それにより約20μmの高さを有する水の薄いシートが生じる。液体シートは、サンプルが急速に蒸発すること防ぐため、マニキュア液を使用して密封される。ミクロ液体チャンバーは、熱光学装置(例えば図1a)の対物ステージ上に置かれ、40x油浸対物レンズ系(NA 1.3, Zeiss)を介して画像化される。レーザー焦点が位置決めされて概ね視野の中心にくるよ
うにされ、また約20μmの半幅を有するようにされる。実験は相互作用の検出のための上述のような手順で実行され、最大温度上昇は周囲温度の5℃上とした。温度依存蛍光に対する補正が、空間濃度分布から正確にソレット係数を測定するために、行われた(すなわち、ナノクリスタルの蛍光の温度依存性が、独立の蛍光測定器実験で判定された)。図35から分かるように、ソレット係数は、正であり、ストレプトアビジン被膜ナノ粒子についてのものは、蛋白質を有さないナノ粒子のものよりも、大きい。更に、一本鎖DNAの粒子に対する結合が、ソレット係数の変化で検出できる。これは興味深いことである。短いフレキシブルDNA分子は、ナノ粒子の大きさに実質的に寄与しないからである(なお、ストレプトアビジンは寄与する)。熱泳動は、DNA分子の結合による表面特性の変化に感応性を有することから、比較的小さなDNA分子の粒子に対する結合が検出できることになる。
【実施例10】
【0299】
実施例10: 熱泳動と脂質ベシクルの熱泳動的捕獲
蛍光標識化ホスホ脂質であるTexas-Red DHPE (1,2‐ジヘキサデカノイル−ステー
ヌ−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、トリエチルアンモニウム塩)が、ベシクルを染色するために使用される。脂質が、主の構成物たるホスホ脂質に対して約1モルパーセントの比率で、ベシクルの形成の過程に、加えられる。以下の貯蔵溶液が、電気的膨潤によるベシクルの準備に使用された。
【0300】
脂質原液:
・クロロホルム(CHC13)内の2.5mg/ml DPhPC (1,2ジヘキサデカノイル−ステーヌ−グリセロ−3−ホスホコリン)
・1−2%のステアリルアミン
・1%の蛍光脂質(1,2‐ジヘキサデカノイル−ステーヌ−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、トリエチルアンモニウム塩(Mol. Probes))
サッカロース原液:
・希釈液中の300mMnのサッカロース
緩衝液:
・150mMのKCI、20mMのMES、pH5
最終的なベシクル溶液は、蒸留水内で1/100に希釈される。5μlの希釈液が、対物スライド(Roth, 厚さ1mm)上に、ピペットで落とされた。液滴は、対物スライドと12mmの直径を有するカバースリップとの間で挟まれ、測定装置上に載置された。蛍光は、図1aの装置を利用して、あるいは図19の装置を利用して、油浸対物系を介して観測された。後者の場合、IRレーザー加熱が同一の対物系を介して実施される。最大温度上昇は約15℃であった。温度分布は、20μmの半幅を有した。赤外線レーザー加熱の前及び後の画像が取得された。赤外線レーザー加熱の前と10秒後の2つの代表的画像が図39に示される。ベシクルは、負の熱泳動により、加熱スポットに引き付けられる。それらは、加熱スポットの中心に集積する。捕獲領域は、温度分布の幅に依存する(すなわち、有限時間で、粒子を加熱中心の方へ移動させるためには、十分に大きな温度勾配が必要である)。ベシクルの捕獲には、いくつかの重要な応用がある。例えば、ベシクル(セルも同様)は、溶液内で運ばれたり移動させられたりする。また、ポテンシャル油井(すなわち、温度増加により生成)内での単一ベシクルの揺動が観測できる。揺動の振幅は、ベシクルの特性に依存するのであるから、ベシクルに対する蛋白質の結合、又は、膜蛋白質、例えばイオンポンプ膜蛋白質、の活動等の変化が、揺動振幅の変化として検出できる
。熱泳動的動きの符号(例えば、加熱中心に引き付けられるか、又は加熱中心から反発を受ける)は、特性(例えば、電荷、大きさ、表面変性化、蛋白質結合)に依存する。最も高温の領域に通常引き付けられるベシクルが、加熱中心から反発を受けるとき、このことは、このベシクルの特性の変化があったことを示している。この振る舞いは、ベシクルの周りの緩衝液を、例えば結合相手を含む溶液に変更した後に観測されるものである。また、緩衝液内にベシクルを含むものと、緩衝液内に、結合相手(又は膜蛋白質活性化物質、例えばATP)と共にベシクルを含むものの2つのサンプルの振る舞いが比較観察される。最後に、熱泳動特性の違いを利用してベシクル又はセルを分類する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0301】
【非特許文献1】Duhr et. al. in European Phys. J. E. 15,277,,2004, “Thermophoresis of DNA determined by microfluidic fluorescence”
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39