【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、特に、分子、特に生物分子、の安定性、他の又は更なる(生物)分子、粒子(例えばナノ粒子又はマイクロ粒子、ビーズ、例えばマイクロビーズ)、との(生物)分子の相互作用を計測し、及び/又は、個々の分子、特に生物分子の、粒子(例えばナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ、例えばマイクロビーズ)の、長さ又は大きさを計測するための方法及び装置に関する。また、これらの特徴の組み合わせが、本発明の手段及び方法により判定される。本発明の方法によれば、数ミリ秒から数秒の時間範囲内でそれらのパラメータ/特徴を、非接触で熱光学的に計測することができる。すなわち、たいへん速い解析が可能となる。本発明の文脈においては、ナノ粒子というのは、100nm未満の少なくとも一寸法を有する微視的粒子であり、マイクロ粒子/マイクロビーズというのは、1mm未満であるが通常100nmを超える特徴的寸法を有する微視的粒子/ビーズである。
【0007】
本発明、特に請求項の記述においては、語句“粒子”は、ビーズ、特にマイクロビーズ、ナノ粒子又は分子、特に生物分子、例えば(DNA、RNA、LNA、PNAのような)核酸、蛋白質及び他の生重合体と共に生物学的細胞(例えば、バクテリア又は真核細胞)又は亜細胞断片、ウイルス粒子又はウイルス及び細胞オルガネラ等を含む概念である。語句“変性粒子”又は“変性ビーズ”は、特に、分子、好ましくは生物分子を含む、又は生物分子にリンクするビーズ又は粒子を意図している。このことは、またそのようなビーズ又は粒子をこれらの(生物)分子で被膜することも含んでいる。
【0008】
本発明の一実施形態によれば、その発明的方法は、水溶液の赤外線レーザー(LASER)
照射の吸収とそれに引き続く熱への変換とに基づいている。それにより、例えば直径又は長さが250μmの領域内において、例えば0℃と100℃との間のようなあらゆる所望の温度を含む、広い空間的、すなわち二次元又は三次元(2D,3D)、温度分布、を局所レーザー加熱により創出し、それにより所望の温度勾配、とりわけ強力な温度勾配が創出される。局所的温度分布及び温度勾配の双方が、以下に説明するように、パラメータ、特に生物分子パラメータ、を計測するのに使用される。特定の実施形態においては、温度分布はミクロメータースケールである。そのことは、強力な温度勾配により、システムが平衡状態になるために必要な平衡時間(計測時間)が短くなるという意味で有利な点である。特定の実施形態においては、100μm未満の長さの割合で温度を増加させることが有利な点となっている。
【0009】
本発明は、溶液中の粒子/分子の特徴を熱光学的に計測する方法に関し、溶液中にマークされた粒子/分子のついたサンプルを配し、前記マークされた粒子を励起(例えば
蛍光励起)し、前記励起された粒子/分子(の蛍光(例))の第一の検出及び/又は計測をし、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに(すなわち、レーザー光ビームで直接照射された水溶液の領域及び/又はその近くに)空間温度分布を形成し、溶液へのレーザー(LASER)の照射が始ってから所定時間後に、溶液内の粒子/分子(の蛍光(例))の第二の検出及び/又は計測をし、前記2つの検出に基づいて粒子/分子の特徴付けを行うものである。
【0010】
本発明の趣旨から外れないことであるが、蛍光に基づく検出の代わりに、他の方法も可能であることが想像できる。検出すべき粒子の大きさ及び特性に応じて、蛍光により励起するステップは省略できるし、光分散、(UV)吸収、位相差、りん光及び/又は偏光に基づく検出も可能である。更に、100nmより大きい粒子については、単一粒子追跡によりそのような粒子の動きが検出できる。
【0011】
本発明による熱光学的特徴付けによれば、溶液、特に水溶液中の分子又は粒子の特性を決定できる。また、それによれば、1つの粒子又は分子種における互いに異なる構成を区別することができ、また粒子又は分子の互いに異なる種を区別することができる。そのような特徴付けは、粒子が、温度勾配の変化や絶対的な温度値の変化に対して応答するようなあらゆるケースで利用することができる。本発明の有利な特徴は、画定された空間温度分布が存在するということである。特に、温度分布は、焦点の合ったレーザーを用いた局所的加熱により、微視的な長さスケールで局所的に生成される。他の有利な特徴は、粒子又は分子の応答が、既知であって任意に生成される空間温度分布のある点において生ずるということである。従って、粒子の温度、場所及び応答が直接的に関係づけられる。
【0012】
更に、Duhr (2004; loc. cit.) と対比しても、本発明は、熱光学的特性における違い
を計測及び/又は検出することにより、粒子又は分子、特に生物分子、の熱光学的計測及び/又は熱光学的特徴付けのための手段及び方法を提供する。それらの熱光学的特性は、主に、熱泳動的な移動性DT(すなわち、温度勾配中の粒子/分子の速度)の違いに端を発するものである。特に、検出信号は、熱泳動的移動性c/c
0=exp[−(D
T/D)(T−T
0)]に依存する。ここで、Dは拡散係数、cは濃度、Tは温度である。拡散定数の変化のみが熱光学的特性に寄与するのであり、それはほとんどのケースで僅かなものであるので、Duhr (2004; loc. cit.) 又は他の者(例えば、Chan et al., Journal of
Solution Chemistry 32, 3 (2003); Schimpf et al., Macromolecules 20, 1561-1563 (1987))により予見されたような重合体長のDT依存性により、DNA及び蛋白質のよう
な生重合体の解析を行うことはほとんど不可能であろう。
【0013】
本発明による熱光学的特徴付けは、溶液中、特に水溶液中、において微視的な長さスケールというような強力な温度勾配を創り出すことに基づくものである。そのようにすることにより、溶液中の分子のエネルギー状態は、温度及び分子の特性に依存して変化する。すなわち、分子は、温度の空間的違いに起因した空間的ポテンシャルの影響を受ける。このポテンシャルにより、分子は、その温度勾配に沿って誘導され、その効果は熱泳動と呼ばれる。温度の変化が、熱泳動に加えて、蛋白質又はDNAのような生重合体のアンフォールディング(変性)を引き起こすような場合もある。アンフォールディング効果は、高温時に観測され、分子の安定性の測度となり(アンフォールディングの根拠というのは、エネルギーのエントロピー要素の影響が大きくなるということである)、その効果は、特徴的な時間スケールの観点で熱泳動とは区別される。安定性解析は、数ミリ秒から1秒、好ましくは約1mnから250ms、1msから200ms、1msから100ms、1msから80ms、1msから50ms、更に好ましくは約40ms、80−180ms、80−150ms、最も好ましくは約50msである。
【0014】
熱泳動は、約0.5秒から250秒の範囲で、好ましくは0.5秒から50秒、好ましくは1秒から250秒、好ましくは1秒から50秒、好ましくは1秒から40秒、好ましくは5秒から20秒、好ましくは5秒から40秒、好ましくは5秒から50秒、好ましくは5秒から約80秒、更に好ましくは5秒から100秒の範囲で頻繁に観測される。熱泳動は、溶液中の分子の表面特性に感応するような方法である。分子を(クロマトグラフィーのような)異なる基質(マトリックス)に晒す必要もなく、何らかの方法(例えば、直接接触や物質を加えること)で分子を物理的に相互反応させる必要もない。電磁波と物体の間の相互反応のみが必要である。赤外線照射は空間的加熱(すなわち、物体の操作)の
ために使用され、蛍光は分子を検出するためのものである。
【0015】
ここで提供されるような熱泳動に基づく熱光学的特徴付けの趣旨は、熱泳動的移動性における違い(すなわち、温度勾配中の分子の速度)や流体力学的半径が、濃度の空間分布(すなわち、例えば蛍光の空間分布により)又は空間的温度分布において捕えられた単一粒子の揺動を解析することにより、検出できる。この実施形態は、粒子、分子、ビーズ、細胞構成物、ベシクル、リポゾーム、セル等を捕えるための熱光学的捕獲にとりわけ関連している。流体力学的半径が分子の半径にのみ関連しているのに対して、熱泳動的移動性は、電荷、表面特性(例えば、表面上の化学的基)、分子の形(表面の大きさ)、蛋白質の構成、又は生物分子間もしくは生物分子と粒子/ナノクリスタル/マイクロビーズとの間の相互作用に感応的である。このことは、上記特性のいずれかが変わるならば、分子は、異なる熱力学的ポテンシャル内に身を置き、それにより熱泳動的移動性が変わってくる(すなわち、空間的濃度分布又は捕獲粒子の揺動振幅の変化)ということを意味している。
【0016】
従って、本発明は、熱的に誘導されたプロセス、例えば、温度勾配導入指向的動き又は熱変性に関するものである。
【0017】
上述した熱光学的特徴付けは、粒子及び/又は分子の高速熱光学的解析のための、特に、核酸分子(例えば、DNA、RNA、PNA)又は蛋白質及びペプチドのような生物分子の熱光学的特徴付けのための手段を提供する。この特徴付けには、特に、大きさ判定、長さ判定、融点又は融解曲線、錯生成、蛋白質−蛋白質間相互作用、蛋白質又はペプチドのフォールディング/アンフォールディング等の生物物理的特徴、分子内相互作用、分子間相互作用の判定、粒子又は分子間の相互作用の判定などが含まれている。分子の相互作用及び特徴、特に生物分子の相互作用及び特徴、を検出し定量化するための従来技術による方法は非常に時間のかかるものであり、つまり分析に必要な時間というのは30分から数時間のオーダーであった。本発明においては、一測定はとりわけ300s未満であり、200s未満であり、100s未満であり、更に50s未満であり、これは明らかに従来技術において記述された方法よりも速いものである。本発明は、分子の相互作用及び特徴、特に生物分子の相互作用及び/又は生物化学的/生物物理的特性を1秒から50秒以内で検出し定量化できる。相互作用という語句には、生物分子(例えば、蛋白質、DNA、RNA、ヒアルロン酸等)間の相互作用が含まれるが、(変性)(ナノ)粒子/(マイクロ)ビーズと生物分子との間の作用も含まれる。この文脈において、変性粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズとは、蛍光標識化粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズである。蛍光標識化粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズとは、例えば、1つ又は2つ以上の蛍光染料が例えば共有結合的に付された粒子、分子、生物分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、ビーズ又はマイクロビーズである。例えば、蛍光染料は、6-カルボキシ-2’,4,4’,5’,7,7’-ヘキサクロロフルオレセイン(6-HEX SE; C20091, Invitrogenn)、6-JOE SE、又は 6-TET SE(添付の
図6も参照)の中から選択できる。他の場
合、本発明では、例えば粒子、分子、生物分子に固有の蛍光も活用できる。例えば、蛋白質内のトリプトファン、チロシン、フェニルアラニンに対する蛍光特性が利用できる。この発明の文脈においては、“マークされた粒子”というのは、蛍光標識化分子/粒子、又は蛍光手段により検出できる他の分子/粒子、例えば固有蛍光体を有する分子/粒子、混入染料を有する分子/粒子、又は蛍光体が付された粒子/分子のことを言っている。
【0018】
この発明における、相互作用を検出/定量化する典型的な実験は、発明の範囲を限定するものでなく、以下に説明される。
【0019】
ステップ1a バックグラウンド測定:
蛍光標識化サンプル分子/粒子が含まれていないサンプル緩衝液が、ミクロ液体チャンバーに満たされ、励起光源が点灯した状態で蛍光が計測される。
【0020】
ステップ1b レーザー加熱前の蛍光レベル判定:
蛍光標識化サンプル(例えば、生物分子、ナノ粒子又はマイクロ粒子等の粒子、ビーズ、特にマイクロビーズであり、特定の実施形態においては、それらの全てが、他の生物分子に対して特別な親和力を有している)の任意の濃度の水溶液が、好ましくは、規定された高さを有するミクロ液体チャンバー(好ましくは細管)に満たされる。蛍光が励起され、例えば、25ミリ秒から0.5秒までの露光時間で、CCD装置又は光電子増倍管に、10秒に満たない時間で、空間的な解像で(例えばCCDカメラ)又は空間的な解像ではなく(例えば光電子増倍管、Avalanche Photodiode)、記録される。そして、蛍光励起はオフされる。
【0021】
ステップ2 赤外線レーザー加熱の開始:
赤外線加熱レーザーが起動され、数ミリ秒間で、溶液内に空間温度分布が形成される。温度勾配の基準調整は一旦行われれば、実験が行われるごとに繰り返す必要はない。特に、赤外線加熱と蛍光像取得が片側から同じ光学素子を介して行われるような装置は、赤外線の光学的焦点の安定性という点で有利である。
【0022】
実験においては、光学的脱色による蛍光の5%未満の減少が有利となる。本発明の特定の実施形態においては、光学的脱色による補正は必要ない。
【0023】
熱泳動特性を計測するいくつかの実施形態においては、最大温度は、分子にダメージを引き起こすか、分子間相互作用を阻害すると知られているような温度以下である(例えば、周囲温度に対して1から5℃上である)。
【0024】
溶液内の粒子又は分子の熱泳動特性に依存して(すなわち、温度勾配内において速く移動するか、遅く移動するかに応じて)、赤外線レーザーにより溶液は、5秒から100秒まで、好ましくは5秒から50秒まで、更に好ましくは5秒から20秒まで加熱される。
【0025】
ステップ3 空間蛍光(濃度)分布の記録:
上記時間後、蛍光励起がオンされ、ステップ1bで記述したと同じフレームレート及び長さで、画像が記録される。ステップ3は、熱光学的特性の評価に必要な最後の獲得ステップである。
【0026】
相互作用の検出と定量化のため、これまでの記述された手順の後に更なる計測が必要である。サンプル緩衝液についてのステップ1aが繰り返され、ステップ1bにおいて、蛍光標識化サンプルの水溶液が、相互作用が検出され定量化されるべき分子の一定量と混合される。例えば、粒子間及び/又は分子間の相互作用の検出においては、蛍光標識化サンプル(結合相手を含む)が、十分な量の第二結合相手と混合され、それによりある実質量の蛍光標識化分子又は粒子は、結合相手と共に複合体内にあることとなる。相互作用の強さが、例えば、解離又は結合定数(Ka、Kd)を用いて定量化されるべきであるならば、結合相手の濃度を変化させながら(例えば、蛍光標識化結合相手の濃度の0.1倍から10倍)、前述の手順が行われる。このことは結合相手の滴定もできることを意味している。
【0027】
生データの処理: 任意ではあるが、ステップ3の終了に引き続く全分子の逆拡散を待つことが有益な場合には、(線形)脱色補正を行ってもよい。これにより分析に費やされる時間が劇的に増加する。正確で速い計測のためには、画像ごとに脱色強度を決定し、個々の脱色ファクターですべての画像を補正することが有利である。正確な脱色補正のため
には、加熱スポットからの距離に対する温度勾配が低い(例えば0.001K/μm)ことが有利である。ステップ1bで得られた画象は、全ての画像について不均一輝度を補正するために使用される。空間的な解像を行わずに蛍光度の記録が行われる場合には(例えば、アバランシェフォトダイオード又は光電子増倍管)、制御的実験において、レーザー加熱を伴わずにある染料の脱色特性を一旦決定することにより、光学的脱色は、最適に補正される。
【0028】
データ評価: 相互作用の定性的検出: 画像系列から、基準実験(すなわち、結合相手が存在しない蛍光標識化分子/粒子)及び第二の実験(すなわち、結合相手が存在)の空間蛍光分布が抽出される。蛍光度が加熱スポットからの距離に対してプロットされる。平均化は、同一温度及び同一距離を有する各画素に対してのみ可能である。空間的濃度分布は、それぞれの染料の温度依存性に対して蛍光強度の補正を行うことにより得られる。蛍光染料の温度依存性と空間温度分布ということが分かっていれば、温度上昇による蛍光度減少効果を補正することができる。特定の実施形態においては、相互作用の定性的検出のみならずそれらの定量化のためにも、温度依存性の補正は必要なく、空間蛍光分布のみで十分である。温度依存性を考慮しない特定の実施形態においても、市場のいかなる蛍光染料も使用できる。染料の蛍光特性は、pH等の緩衝液条件に応じて変化させてもよい。
【0029】
蛍光分布の値は、温度が最大温度の例えば10%未満のところ(例えば70μm)の位置まで、積算される。その積算値は比較され、その変化は、使用される濃度で、物質間に親和力があるか否かを正確に示している。相互作用は熱光学的特性(例えば、熱泳動的移動性、表面の大きさ、及び表面上の化学的基)に変化を与えるからである。多くの場合、相互作用は、より高温で、より高い蛍光度(濃度)を引き起こす。
【0030】
細管の全断面が加熱される場合には(すなわち、例えば、楕円形状を有して細管の断面を均一に熱するようなIRレーザービームを発する円筒レンズを使用する場合)、中心加熱スポットから2つ又はそれ以上の画素の強度が平均化される。特定の実施形態においては、加熱ラインへ同距離にある全ての画素は同一温度を有する。これは高精度測定のためには有利なことである。蛍光が空間的には解像せずに記録される場合には、中心加熱スポット/ラインの蛍光度変化が計測される。特定の実施形態においては、全断面を加熱することも有利となる。一般的に、ステップ1b及び3において、2以上のフレームが記録される場合には、複数フレームの積算が可能となる。
【0031】
分子親和力又は粒子親和力の定量化のため、非蛍光結合相手の各種濃度についての全ての実験で同一手順が行われる。基準実験(すなわち、結合相手なし)についての積算結果が、結合相手の異なる各濃度について得られた積算値から差し引かれる。この評価から、相互作用を及ぼす複合体の量が任意の単位で得られる。これらの値を結合が終了したときの値で割れば、相互作用分子間、特に結合相手との間で形成された複合体の、相手方のある濃度における相対量が得られる。これらのデータ組から、自由な、例えば蛍光を伴わない、結合相手の濃度も判定でき、相互作用の強さが結合又は解離定数をもってして定量化できる(添付実施例も参照)。
【0032】
以前に言及したように、既に説明し、またこれから説明する手順を利用して、更に大きな無機的粒子又はナノクリスタルに対する分子の結合を検出することが可能となる。異なる分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)の数値を種々に変えることにより(例えば、1,2,3、又は3以上、正しまでが好ましい)、例えばCdSe粒子のような無機粒子の異形(変性粒子)が形成される。特定の実施形態においては、1乃至3ポリエチレングリコール(PEG)分子が粒子に取りつく。生物分子の相互作用を検出するために、空間蛍光分布が以下説明するように計測される(添付実施例参照)。また、生データが以下で説明するように処理される。粒子又はナノクリスタルに結合したPEG分子の数
又は大きさを計測するためには、前述の手順で得られた空間蛍光分布を比較するだけでよい。しかしながら、蛍光の温度依存性減少を補正することにより、ソレット(Soret)係
数で記述した定量化が可能となる。添付の図面及び実施例、特に添付
図26で、例示するように、ソレット係数は、ナノクリスタルに結合したPEG分子の数に比例して増加する。その増加の傾斜は、PEGの分子量に依存する。例えば添付
図26で例示されるように、蛋白質の大きさを有する単一分子間の結合が検出可能となる。
【0033】
ここで使用され、また特に上記概説の非限定実施例において使用される語句“相互作用”又は“親和力”は、明確な分子/粒子の相互作用(例えば、分子間相互作用)のことを言及しているのみならず、タンパク質フォールディング現象のような分子内相互作用のことも言っている。
【0034】
ここで採用された語句“蛍光”は、本来の“蛍光”に限定されるものではなく、また以下開示された手段、方法、及び装置として、他の手段、特にりん光等の発光体を使用することも可能であることは、当業者であれば理解できるであろう。従って、語句“前記マークされた粒子を蛍光で励起し、前記励起された粒子の蛍光の第一の検出及び/又は計測を行い”は上で定義された方法における“励起ステップ”に関するものであり、また対応する発光体による励起も含むものである。すなわち、励起は、以下の発光検出よりも短い波長でも行えるということである。ゆえに、語句“分子の蛍光の第二の検出及び/又は計測”というのは、この発明の文脈においては、励起の後の前記発光の検出ステップを意味していることになる。当業者であれば、本発明の文脈において、“励起”波長と“発光”波長とは区別されるべきと気づくであろう。
【0035】
本発明の第一実施形態によれば、(溶液内の粒子/分子(の蛍光(例))が二回目に検出及び/又は計測された後の)所定時間というのは、熱泳動で誘起された濃度変化と対流に関連した又はそれによるアーテファクトが無視できるほど小さくなるに十分なくらい短いものである。言い換えれば、所定時間は、分子間又は分子内反応時間スケールと、よりゆっくりとした温度効果、例えば熱泳動、熱対流とを十分区別できる程度の短い時間ということになる。従って、その所定時間は、好ましくは1msから250
msの範囲であり、更に好ましくは80msから180msまでであり、特に150msである。また、特に、溶液が、良好な熱伝導物質、例えばサファイア、ダイアモンド、及び/又はシリコンでできたチャンバーに入れられる場合には、所定時間は更に短くても十分である。例えば、1ms、5ms、10ms又は15msである。測定のためには、チャンバーと溶液が熱的平衡状態にあると有利である。言い換えれば、良好な熱伝導性を有するチャンバーであれば、溶液及びチャンバーはより早く熱的平衡状態に達するので、所定時間はより短くて十分である。熱伝導性がよくない場合には、チャンバー及び溶液が熱的平衡状態に達するまでにはより時間がかかる。すなわち、所定時間は、例えば100msから250msのようにより長くなる。
【0036】
本発明の特定の実施形態においては、検出又は露光時間は、1msから50msの範囲である。検出信号が記録されるのに要する時間というのは、検出ステップ期間の個々の分子の位置変化が無視できる程度に短くなければならない。例えば、検出が、320×200画素の解像度を有するCCDカメラで行われる場合には、検出の間、個々の分子/粒子が一画素のみで検出されることが有利な点となる。各画素はある温度を示しているのだからである。粒子の位置が大きく、すなわち一画素以上変化すれば、粒子は異なる温度に晒されてしまうことになり、そうなれば測定精度が落ちることになる。検出にCCDカメラ装置を使用するということには、一次元検出用の単一ライン画素のみのカメラ(例えば、ラインカメラ)を使用することも含まれる。
【0037】
本発明の特定の実施形態においては、温度分布内における温度勾配が、0.0から2K
/μmの範囲、好ましくは0.0から5K/μmの範囲になるように、レーザービームがデフォーカス(焦点外し)される。従って、温度勾配が小さいことにより、レーザー照射の開始から検出の終了までの間の熱泳動による粒子の移動が無視できるほど小さくなることが保証される。
【0038】
分子の熱変性を検出するのに必要な少なくとも全ての温度の領域が、カメラ装置の視野内になければならない。
【0039】
本発明の更なる様相によれば、レーザービームは、1つ又は複数の光学素子を通して溶液に照射される。レーザービームの焦点合わせは、いくつかの実施形態において、温度勾配が上記規定範囲内にあるように、行われる。レーザーの焦点合わせは、例えば、単一レンズ、複数のレンズ、又は、光ファイバーとレンズもしくは複数のレンズもしくは対物レンズ系との組み合わせにより達成され、入射レーザービームの拡がりは適正に調整される。また、レーザービームの焦点及び/又は方向を制御するための更なる光学素子が、溶液とレーザーの間に配置されてもよい。
【0040】
本発明の更なる実施形態によれば、レーザービームの周りの温度分布は、付加的測定により計測される。つまり、例えば、温度分布は、添付の図面、特に
図3a、3b及び15に例示されたように、染料の知られている温度依存性蛍光に基づいていくつかの条件の下で計測される。特に、温度分布は、温度感応性染料の検出された蛍光に基づいて判定することも可能であり、その場合、前記温度感応性染料は、照射レーザービームにより(溶液を介して)加熱され、空間的蛍光強度がレーザービームに対して実質的に垂直方向に計測される。
【0041】
本発明の第二の実施形態によれば、(溶液内の粒子/分子(の蛍光(例))が二回目に検出及び/又は計測された後の)所定時間は、十分長いので、熱泳動的動きに基づく濃度の変化は検出できる。従って、当該所定時間は、好ましくは0.5から250sの範囲内である。当該所定時間内で、溶液中の濃度は熱泳動効果により空間温度分布内で変化し、そのような変化は蛍光の分布の変化により検出され得る。
【0042】
本発明の特定の実施形態にあっては、レーザービームは、温度分布内の温度勾配が0.001から10K/μmの範囲になるように、焦点合わせがなされる。視野内(特に視野の端)の温度は、周辺温度値に達するとは限らない。加熱中心から離れた位置(すなわち、視野の端)の温度増加は、最大温度(℃)と比較してその10%又はそれ未満(℃)であれば、有利である。
【0043】
更なる実施形態によれば、レーザー照射の前後の蛍光がCCDカメラにより検出される。CCDカメラを使用すれば、濃度変化が複数の位置で同時に検出できるという有利な点がある。特定の実施形態においては、CCDカメラは2D(二次元)CCDカメラである。すなわち、CCDアレイは、第一及び第二の方向に複数の検出画素(光電光センサー)を備えている。なお、ここで、その第一及び第二の方向は、互いに垂直であることが好ましい。更なる実施形態によれば、CCDカメラは、ライン又はライン走査カメラである。すなわち、CCDアレイは、第一の方向に複数の検出画素を備えているが、第二の方向には1画素のみである。そのようなカメラは、1D(一次元)カメラとも言われる。言い換えれば、ライン走査カメラに使用されている一次元アレイは、画像の単一切片又はラインのみを捕えるのに対して、二次元アレイは全2D画像を捕える。ラインカメラのCCDアレイは、3つの検出ラインを備えている。すなわち、各ラインは、1つの色チャネル(赤、緑、青)のためのものである。しかしながら、本発明の更なる様相によれば、CCDの単一画素についての検出蛍光変化に基づいて、粒子の特性を計測することも可能である。従って、CCDの単一画素の代わりに、フォトダイオード又は光電子増倍管を使用するこ
とも可能である。いくつかの実施形態においては、レーザー照射の前後の蛍光の輝度が、レーザービームの中心において、フォトダイオード又はCCDの単一画素により計測される。
【0044】
CCDカメラ装置、ラインカメラ、又はPMT/アバランシェフォトダイオードに撮像することにより、蛍光は、使用される液体シートの高さ全体に渡って平均化することもできる。従って、三次元溶液を二次元に落とすことができる。ゆえに、この実施形態で記述された方法は、とりわけ薄膜処理のためのモデルシステム(例えば、表面保護係留二層脂質薄膜(添付図面、特に
図38で例証されるようなtBLM)又は伝統的ラングミュア単一層)として使用される二次元脂質シートに適用できることになる。この薄膜(例えば、脂質、蛋白質及び同様のもの)内で浮遊する蛍光標識化化合物は、温度勾配中で移動し、それらの溶媒和エネルギーに応じて再配置する。これらの脂質層又は薄膜内の蛍光再分布は、本発明の文脈においては、溶液中の化合物の再分布と同様、構成変更、相互作用、流体力学的半径等の、生物化学的又は生物物理的特性又は特徴を検出するために採用され得る。薄膜システムにおいては、局所温度分布が、周りの水溶液、例えば表面保護薄膜上の水溶液、により形成される。熱伝導により、水溶液上の脂質層は対応する温度となる。
【0045】
本発明の第一及び第二の実施形態によれば、粒子は、生物分子及び/又は(ナノもしくはマイクロ)粒子及び/又はビーズ、特にマイクロビーズ、及びこれらの組み合わせである。変性ナノ粒子/マイクロ粒子/マイクロビーズを使用し、蛋白質、DNA及び/又はRNAのナノ粒子/マイクロビーズに対する特別な結合を見ることにより、蛋白質、DNA及び/又はRNAを検出できる。その特別な結合は、ナノ粒子/マイクロビーズの熱泳動的動きを変化させるからである。100nmより大きい粒子の速度は、単一粒子追跡により検出できる。
【0046】
レーザー光は、1200nmから2000nmまでの範囲とすることができる。この範囲は水溶液であれば有利となる。水のヒドロキシ基は、前記波長範囲において強力に吸収する。また、グリセロール等のヒドロキシ基を含んだ他の溶液は、赤外線レーザー熱により加熱され得る。いくつかの実施形態においては、レーザーは、0.1Wから10Wまでの、好ましくは1Wから10Wまでの、更に好ましくは4Wから6Wまでの範囲の高出力レーザーである。いくつかの実施形態においては、水溶液の粒子濃度は、1アットモル(例えば、単一粒子マイクロビーズ)から1モル、好ましくは1アットモルから100μモルの範囲である。
【0047】
更なる実施形態によれば、溶液は、0から1Mの範囲の濃度の食塩水であってもよい。
【0048】
本発明のまた更なる実施形態によれば、レーザー(LASER)ビームにより生成された空
間温度分布は、0.1℃から100℃の範囲である。注目している材料の温度感応性の限界温度は、実験で使用される最大温度とする。特に、0.1℃から少なくとも40℃まで、好ましくは少なくとも60℃まで、更に好ましくは少なくとも80℃まで、また更に好ましくは少なくとも100℃までの温度範囲が、レーザー(LASER)ビームにより生成さ
れ、例えばDNA安定性が計測される。当業者であれば、対応する温度は、例えば実験システムの冷却化と共に対応するパワーを有するレーザー(LASER)を使用することにより
達成できる、と認識できるであろう。また、当業者は、全サンプルを冷却することにより、温度増加のより高い振幅(すなわち、レーザー加熱による)が、温度感応性材料にダメージを与えることなく実現できることを認識できるであろう。限定するものではないが、異なる材料及び熱光学的特徴付けの例を表1に示す。従って、特に
図3に示すように、熱勾配の中心(分析/特徴付けられるべきサンプル内及び上での最大レーザーパワーの点)において、より高い温度が達成できる。そのような高い温度は、高圧力チャンバーで実現され得る。また、いくつかの実施形態においては、温度勾配は、レーザー(LASER)ビー
ムの周りで、直径0.1μmから500μmまでの範囲で創出される。
【0049】
【表1-1】
@0001
【0050】
【表1-2】
@0002
【0051】
*ここに記載した温度は、熱光学的特性が計測されるサンプルの好ましい温度範囲である。レーザー加熱により誘引された温度増加は、全温度の僅かな一部であるかもしれない。例えば、ナノ粒子の熱光学的特徴付けは、0℃で冷却され、また赤外線レーザーで30℃の最大温度にまで加熱されたサンプルにおいてなされる。
p:好ましくは、mr.p:更に好ましくは、ms.p:最も好ましくは
本発明の文脈においては、語句“レーザー(LASER)”は、語句“レーザー(laser)”と類義であり、また逆もまた同様である。
【0052】
本発明は、溶液中の粒子の熱光学的特徴を計測するための装置に関する。かかる装置は、溶液中の粒子/分子、特にマークされた又は標識を付けられた粒子/分子を受け入れる受容手段と、粒子/分子、特にマークされた又は標識を付けられた粒子/分子の励起を検出する検出手段と、溶液中の空間温度分布を獲得する手段とを備えている。また、溶液中の粒子/分子の特徴を熱光学的に計測するための本発明の装置として参照される他の装置は、マークされた又は標識を付けられた粒子/分子を受け入れる受容手段と、マークされた又は標識を付けられた粒子/分子を蛍光で励起する手段と、前記溶液中の励起された蛍光を検出する手段と、溶液中にレーザー光ビームを照射し、溶液中の赤外線レーザー光ビームの周りの空間温度分布を獲得する手段とを備えている。とりわけ、レーザー光は、溶液中で局所的に焦点合わせがなされ、溶液中の空間温度分布は、吸収された熱エネルギーの伝導により形成される。電磁IR放射の焦点幅を調整することにより、温度分布の空間次元が調整される。すなわち、広い又は狭い温度分布が達成できる。温度分布の形状に対する更なる調整は、ある熱伝導性(例えば、高熱伝導性で狭い温度分布、及びその逆)を呈するミクロ流体チャンバー/細管の材料を選択することによりなされる。c/c
0=exp[−(D
T/D)(T−T
0)]により、熱光学的信号の定常状態の振幅は、温度の増加に指数関数的に係わる。上記関係を使用してD
T及びD係数を調整することにより、空間温度分布は、正確に空間濃度分布に対応付けられる。システムが定常状態に到達する時間は、Dに対する依存性のみならず、D
T及び温度勾配に対して強力な依存性を有している。温度勾配及び熱泳動的移動性D
Tの積をとることにより速度が求められ、その速度で粒子が温度勾配に沿って移動する。大雑把には、温度勾配がより強くなり、熱泳動移動性がより高くなれば、熱光学的特性を計測するのに必要な時間はより短くなる。ゆえに、温度分布を微視的長さスケール(例えば250μm)で形成して、強力な温度勾配を得ることが有利となる。
【0053】
本発明の更なる実施形態によれば、粒子/分子又はマークされた粒子/分子を励起する、特に蛍光で励起する手段は、レーザー、ファイバーレーザー、ダイオードレーザー、LED、ハロゲン、LEDアレイ、HBO(HBOランプは、例えば、放電アークが高圧の水銀含有気体の中で燃焼するような短いアークランプである)、HXP(HXPランプは、例えば、放電アークが極高圧の水銀含有気体の中で燃焼するような短いアークランプである。例えば、HBOランプと比較して、それらは実質的により高圧で動作し、またハロゲンサイクルを採用している。HXPランプは、UV光と、赤光の主な部分を含む可視光を生成する。)からなる群から選択される適当な装置である。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような励起手段も使用される。
【0054】
本発明の更なる実施形態によれば、溶液中の励起された粒子、特に蛍光を検出する手段は、CCDカメラ(2D又はライン走査CCD)、ラインカメラ、光電子増倍管(PMT)、アバランシェフォトダイオード(APD)、CMOSカメラからなる群から選択される適当な装置である。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような検出手段も特定の実施形態において使用される。
【0055】
溶液中の粒子、特にマークされた粒子を受け入れる受容手段は、チャンバー、薄いミクロ液体チャンバー、キュベット、又はサンプルの各液滴を供給する装置であってもよい。レーザー光ビームの方向に、1μmから500μm、特に1μmから250μm、特に1μmから100μm、特に3μmから50μm、特に5μmから30μmの厚さを有するチャンバーにサンプルプローブを入れることは有利な点となる。語句チャンバーは、例えば細管、ミクロ流体チップ、又は多層油井プレートのことも言っていることは、当業者であれば理解できるであろう。いくつかの実施形態においては、チャンバーは、レーザー光
の方向の寸法として同じ幅を有している(例えば、細管)。楕円レーザー加熱形状との組み合わせにより、そのようなシステムの半径方向対称性を単一次元に落とすことができる。単一ライン画素(ライン走査CCD)のみを備えたCCDカメラが使用されて、チャンバーの全幅における蛍光が積算されるからである。特定の実施形態においては、溶液中の特にマークされた粒子を受け入れる受容手段、別名試料ホルダーは、対物レンズ系等の光学要素に取り付けられる。そのような装置は、試料ホルダーの対物レンズ系に対する相対的な動きを回避している。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような受容手段も特定の実施形態において使用される。
【0056】
レーザー光を照射するレーザーは、例えばIRレーザーであり、例えば1200から2000nm、好ましくは1455nm及び/又は1480nmの波長を有し、0.1から10Wの放射パワーを有するレーザーが考えられる。レーザーの光源は、コリメータを伴い、又は伴わずに、レーザーファイバー(単一モード又はマルチモード)のような光学的ユニットにより、本発明の装置に組み入れられる。更に、好ましくは詳細な説明で挙げられているような照射手段も特定の実施形態において使用されるものであり、当業者が考え付くものである。
【0057】
本発明による装置は、粒子を励起する手段及び/又は励起された粒子を検出する手段を制御するための制御ユニットを備えている。特に、制御ユニットにより、本発明の装置が、本発明の方法に関して議論されたような方法ステップを実行できるように調整されている。
【0058】
制御ユニットは、励起のための手段の種類(例えば波長)、強度、持続時間、及び/又は照射の開始終了時間を制御する。例えば、励起手段がレーザーであるような特定の実施形態においては、レーザービームを形成する持続時間及び/又は開始終了時間は、制御ユニットにより制御される。
【0059】
制御ユニットは、更に、又は、代わりに、露光、感度、持続時間、検出手段による検出/計測の開始終了時間を制御する。例えば、検出手段としてCCDカメラが使用されるような特定の実施形態においては、CCDカメラの露光時間は、制御ユニットにより制御され得る。
【0060】
制御ユニットは、更に、検出手段を励起手段の機能状態に依存するように制御することも可能である。特に、励起時間を検出時間に同期させることは有利な点となる。例えば、励起手段はレーザーであり、検出手段がCCDカメラであるような実施形態においては、CCDの露光時間は、レーザーの照射に同期する。このことは、CCD及びレーザーを直接制御することにより、例えばCCD及びレーザーのオン、オフを同時に切り替えることにより達成できる。
【0061】
制御ユニットは、特に、励起手段と受容手段との間に、及び/又は検出手段と受容手段との間に配置される光学手段等の手段を、代わりに又は追加で、制御することもできる。
【0062】
本発明による装置は、マークされた粒子/分子を受け入れる受容手段と粒子/分子を励起する手段、特にレーザー、との間に配置されるシャッターを少なくとも備えている。本発明による装置は、マークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子/分子を検出する手段、特にCCDカメラ、との間に配置されるシャッターを、代わりに又は追加で、少なくとも備えている。励起ステップのタイミングを検出のタイミングに合わせるために、そのようなシャッターは、制御ユニットにより制御される。
【0063】
単一制御ユニットが、いくつかの機能項目を実行するようにしてもよい。すなわち、制
御ユニットは、各特定手段を制御するように構成された複数のサブユニットを備えるようにしてもよい。
【0064】
本発明による装置は、更に、少なくともビームスプリッター及び/又はミラー、例えばダイクロイックフィルター又はダイクロイックミラー、すなわち可視光の狭い特定範囲の光を選択的に透過して、他の光を反射する色フィルター又はAOFTを備えている。ダイクロイックミラーは、短い波長を反射し(反射率>80%)、長い波長を透過する(透過率>80%)ようにできる。また、ダイクロイックミラーは、例えば90%より大きいIR透過率を有し、350と650nmの間の波長に対して少なくとも反射するように構成できる。いくつかの実施形態においては、ダイクロイックミラーの代わりに、銀鏡も使用できる。(ダイクロイック)ミラーは、装置内の固定位置に配置できる。しかしながら、いくつかの実施形態によれば、(ダイクロイック)ミラーは、例えば(制御手段により制御され得る)駆動手段により駆動されるというように、可動的にすることもできる。
【0065】
本発明による装置は、特定の波長をフィルタリングする放射及び/又は励起フィルター(バンドパス/ロングパス)を少なくとも備えている。
【0066】
言い換えれば、本発明による装置は、マークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子を検出する手段との間に、及び/又はマークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子を励起する手段との間に配置される光学手段をまた備えている。そのような光学手段は、透過又は反射により光の伝搬方向を制御するように、及び/又は(ダイクロイック)フィルターにより異なる波長をフィルタリング又は分離するように、調整されている。そのような光学手段は、制御ユニットにより制御され得る受動的光学手段又は能動的光学手段で構成できる。例えば、マークされた粒子を受け入れる受容手段と粒子を励起する手段との間に、走査モジュール(例えば、ガルバノ走査ミラー)を配置してもよい。そのような走査モジュールの走査範囲及びタイミングは、制御ユニットにより制御することが可能であり、好ましくは受容手段及び/又は励起手段に対する制御に依存して制御される。
【0067】
本発明による装置に有利な光学手段、特に本発明の方法ステップを実行するのに有利な光学手段が、
既に説明され、またこれ以降も説明される。特に、本発明の装置に有用な複数の光学手段が、本発明の詳細な説明において例証される。
【0068】
本発明の更なる実施形態によれば、レーザーの照射と蛍光の検出は、異なる方向から行われる。例えば、(添付図面、特に
図1に示されるように)照射はサンプルの下からであり、検出は上からである。しかしながら、照射と検出の手段は、サンプルプローブに対して同じ側に配置することもできる(例えば、
図2参照)。本発明による装置は、重力方向に対して如何なる方向にも向けることができる。すなわち、装置は重力方向に対して、例えば、実質的に垂直にも平行にも逆平行にも向けることができる。
【0069】
本発明の特定の実施形態においては、サンプルプローブがチャンバー内に配される。チャンバー内のサンプルプローブのレーザー光ビーム方向の厚さは、好ましくは小さく、例えば、1μmから500μm、特に1μmから250μm、特に1μmから100μm、特に3μmから50μm、特に5μmから30μmであることが好ましい。当業者であれば、チャンバーという語句は、例えば、細管、ミクロ流体チップ、又は多層油井プレートも意図している。更なる実施形態においては、チャンバーは、レーザー光の方向における寸法として同じ幅を有している(例えば、細管)。楕円レーザー加熱形状との組み合わせにより、そのようなシステムの半径方向対称性を単一次元に落とすことができる。単一ライン画素のみを備えたCCDカメラが使用されて、チャンバーの全幅における蛍光が積算される。更に、加熱スポットの中心にマッピングされたたった1つの画素(又はフォトダ
イオード又は光電子増倍管)が、相互作用の検出、構成等のために使用できる。添付の図面、特に
図27に、熱光学的特徴付けのために細管がどのように使用されるかが例示されている。細管は、良好な熱伝導特性を有した堅固な支持/試料のホルダー/台に載置される。堅固な支持/試料のホルダー/台は、ペルチエ素子により冷却され、又は加熱され得る。ペルチエ素子を使用することにより、溶液の“周囲の温度”が調整される。異なる温度で蛋白質構成を計測し、(生物)分子/(ナノ)粒子/(マイクロ)ビーズの熱泳動を、熱泳動の符号変化点に近い値に調整することが有利な点となる(すなわち、結合事象により、より高い温度における集積からより高い温度による減損へと、熱泳動の振る舞いが変化する)。チャンバーを冷却すると、更に大変高いレーザーパワーで温度感応性分子を加熱することができる。更なる実施形態においては、細管の端にはバルブが附され、細管内の液体が移動することを排除している。しばしば、その移動は細管の端での気化により生ずる。
【0070】
しかしながら、液滴、例えば、緩衝液液滴の形体のように、チャンバーを設けることなくサンプルプローブを供することも可能である。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態においては、蛍光は、レーザービームの方向で50nmから500μmの範囲で検出される。
【0072】
更なる実施形態においては、蛍光は、CCDカメラで、レーザー光ビームに対して実質的に垂直に検出される。第二の蛍光検出は、いくつかの実施形態においては、レーザー光ビームに対して実質的に垂直な温度分布に依存した、蛍光の空間測定である。
【0073】
添付図面は、特に、本発明による装置を意図した、限定されない装置構成を示している。これらの装置は、特に熱泳動を計測するのに有用である。それらのすべてに共通していることは、蛍光像取得と赤外線レーザー焦点合わせが、同じ光学ユニットを介して、例えば同じ対物レンズ系を介して行われるということである。特に、IR光に対して非常に低い屈折率を有する対物レンズ系が使用できる。このことは以下の観点で有益である。すなわち、ミクロメータースケールの局所的空間温度分布は、ここで提供される手段及び方法の文脈においては、有利であり望ましいからである。対物レンズ系のIR光に対する高い屈折率によれば、高いバックグラウンド温度上昇を伴う広い温度分布を引き起こすことになる。この不利な効果を解決するために、電磁スペクトルのIR領域(好ましくは、1200−1600nm、すなわち、これはIR放射に対する補正されている)において高い透過性を有する対物レンズ系が使用できる。少ない数のレンズからなる対物レンズ系(すなわち、可視波長に対してそれほど補正を行わない対物レンズ系)がここでは好ましい。以下説明するように、高いアスペクト比(長さ/幅)を有するミクロ液体チャンバーが使用される場合、IRレーザービーム分布を楕円形状に変更して細管の断面全体を均一に加熱すれば有利となる。これにより、特に、ラインカメラ、フォトダイオード又は光電子増倍管による高精度な測定が可能となる。ラインカメラは、細管に沿った線解像を呈するのみであり、細管の断面全体(幅)の空間的蛍光の値を平均化する。
【0074】
フォトダイオード又は光電子増倍管は空間的解像は行わないが、中央の加熱領域の蛍光を計測できるように配置される。そのような配置は、当業者の通常のスキル範囲内にある。ミクロ液体チャンバー(すなわち細管)の楕円照射と組み合わされたラインカメラ及びフォトダイオードの双方が、データ獲得のため、本発明のいくつかの実施形態において使用される。
【0075】
添付の
図23は、対応する更なる実施形態を示しており、そこでは2つの又はそれ以上の異なる蛍光体/マーク付け粒子の同時検出が記述されている。2つ又はそれ以上のマークされた粒子/分子に対する異なる放射波長が、例えば、ダイクロイックミラー又はAO
TFを介して、2つ又はそれ以上の方向に分離される。この実施形態においては、例えば1つの検出チャネルが、例えば680nm+/−30nmの波長で、温度依存性蛍光染料、例えばCy5を介して、温度を計測するために使用される。他のチャネルにおいては、マーク付けされた粒子/分子の融解曲線が、例えば560nm+/−30nmの波長で、記録できる。それによれば、粒子/分子の並行検出、例えば異なる輝度又は蛍光マーカーが付された異なる粒子/分子の並行検出が可能になる。
【0076】
従来技術と対比した本発明の効果というのは、空間温度分布を採用することにより、粒子、特に例示であるが、(生物)分子、又は(ナノ又はマイクロ)粒子、又は(マイクロ)ビーズが、μmの解像度で、計測/判定/特徴付けができる、ということである。
【0077】
従って、ここに提供する手段、方法及び装置を用いれば、特に、生物学的、化学的又は生物物理的過程を計測し、検出し、及び/又は確証でき、及び/又は、生物学的もしくは薬学的サンプルのようなサンプルを調査し、研究し、及び/又は確証することができる。また、診断試験が可能となり、それは本発明の実施形態でもある。特に、(DNA、RNAのような)核酸分子の長さを計測し、例えば、二本鎖DNAもしくは二本鎖RNA(dsDNA/dsRNA)、又はDNA/RNAハイブリッド等のハイブリッド核酸分子のような、蛋白質又は核酸分子の融解特徴を計測し、一塩基多型(SNPs)の検出及び/又は測定のような核酸シーケンスを計測し、及び/又は解析し(添付図面、特に
図4参照)、同等の各核酸分子の安定性をそれらの相対的長さの関数とし計測し、例えば、一般の医療診断において、また、極細胞診断、移植前診断、法医学解析において、PCR最終生成物を計測し、及び/又は確証することは、想到でき、実行可能なことであろう。従って、本発明において提供される手段及び方法が、任意の粒子/分子の長さ、大きさ、他の分子/粒子に対する親和力に注目しているような測定及び/又は確証において、特に、また限定することなく、有用であるということは、当業者には明らかである。例えば、装置と同様ここに提供している方法は、核酸分子及び蛋白質の融点と共にその長さ及び温度安定性を検出し計測することに有用である。ゆえに、例えば、(DNA−)プライマー及び(DNA−又はRNA−)プローブが、それらの合成中又はその後に計測され、及び/又は確証される、ということは本発明の範囲内にある。DNAチップのようなテンプレート上での核酸分子の測定というのも、また想到できることである。本発明の文脈における融解という語句は、核酸(例えば、RNAs、DNAs)又は蛋白質のような生物分子の熱的変性を意味している。
【0078】
また、例えば、一本鎖高次構造多型(SSCPs)という形態、制限酵素断片長多型(RFLPs)という形態などのような、核酸分子における突然変異及び一般的変種の測定、検出及び/又は確証というのも、本発明の文脈においては、想到できることである。また、本発明は、ヘテロ二本鎖を解析する可能性についても提示している。ヘテロ二本鎖は、例えば、野生型と突然変異のDNA分子の混合物の熱変性及び再アニーリングにより生成される。特に、蛋白質のDNA分子に対する結合が後者の安定性に及ぼす影響を計測することが可能となる。更に、蛋白質の熱的安定性と熱的変性に対する分子(例えば、小さな分子、薬物、準薬物)の効果とを計測することが可能となる。
【0079】
また、例えば、蛋白質構造の複合体形成のような蛋白質−蛋白質間の相互作用、又はそれらの断片化についての測定も本発明の範囲内にある。これらの測定には、抗体−抗原結合反応(一本鎖抗体、抗体断片、クロモ体等の形態も含む)の測定も含まれるがそれだけには限定されない。本発明の実施形態は、例えば、蛋白質複合体の解離などの解離事象の検出及び/又は測定にも関連するものである。ゆえに、本発明は、例えば、抗体‐抗原複合体及びその種のもののような蛋白質複合体の解離の測定といったような、解離事象の測定、判定及び/又は確証に有用である。添付の図面は、ここで提案される手段及び方法が、例えば、核酸分子、蛋白質及び相当の分析における融解曲線の測定において、有用であ
ることを示している。
【0080】
ここで採用されている語句“変性マイクロ粒子/ナノ粒子”は、“マイクロ粒子/ナノ粒子”に限定させるためのものではなく、ここで開示されている手段、粒子及び材料は、他の手段、特に、泡、乳剤及びゾルのようなコロイド手段の利用により、採用されて使用され得るものである。
【0081】
添付の実施例及び図面、特に
図33に例証されているように、マイクロ粒子は、大変強い熱泳動性を示すので、それらは、例えば、蛋白質又は核酸のような生物分子の検出及び特徴付けのための担体材料として使用できる。マイクロ粒子を使用することにより、例えば生物分子の熱泳動信号が強調化し得る。熱泳動によりマイクロ粒子が空間温度分布の極限値(例えば温度最大値)に引き付けられる力は十分に強いので、マイクロ粒子はそこに捕えられる(添付の実施例及び図面、特に
図34に例証される)。
【0082】
マイクロ粒子とは、特性としてのその長さが1mm未満で100nmを超えるものであり、材質の限定はない粒子をいう(例えば、被膜又は非被膜ケイ酸−/ガラス−/生分解性粒子、ポリスチレン−/被膜−/フローサイトメトリ−/PMMA−/メラニン−/NIST粒子、アガロース粒子、磁性粒子、被膜又は非被膜金粒子もしくは銀粒子もしくは他の金属、遷移メタル、生物学的材料、半導体、有機及び無機粒子、蛍光ポリスチレン微小球、非蛍光ポリスチレン微小球、複合材料、リポゾーム、セル等)。
【0083】
ナノ粒子とは、特性としてのその長さが100nm未満のものであり、材質の限定はない粒子をいう(例えば、量子ドット、ナノクリスタル、ナノワイヤ、量子井戸)。
【0084】
本発明の粒子又はビーズは変性され得る。つまり、例えば、DNA、RNA又は蛋白質のような生物分子の場合、粒子又はビーズへの結合(いくつかの実施形態においては、限定的に及び/又は共有結合的に)が可能である。ゆえに、ビーズ及び/又は粒子、特にそのようなビーズ又は粒子に取り付いた又は掛かった分子、の特性を熱光学的に解析することは、本発明の範囲内にあることである。特に、そのような分子は生物分子である。従って、語句“変性(マイクロ)ビーズ/(ナノ−又はマイクロ)粒子”は、特に、分析又は特徴付けられるべき付加的分子を含むビーズ又は粒子のことを言っている(ナノ粒子についての非限定例が、添付の図面及び実施例、特に
図34に示されている)。変性又は非変性マイクロ粒子/(ナノ−又はマイクロ)粒子は、溶液中の生物分子(例えば、DNA、RNA又は蛋白質)のような他の粒子/分子と反応することもある。当業者であれば、変性粒子の熱泳動特性は、その粒子に結合した溶液中の変性としての生物分子に応じて変わる。そのような相互作用は、(変性)粒子/分子に掛かる力に影響を与え得る。IRレーザー照射を調整することにより、粒子/ビーズが捕えられ方における最終的な動きも変わってくる。粒子/ビーズ、特に生物分子を含む粒子/ビーズの“捕獲(trapping)”ということは、粒子/ビーズがある位置範囲に留まり、また比較的低い揺動しか示さない、ということである。これらの揺動は、ブラウン運動に基づく揺動とは異なるものである。溶液中の生物分子が、生物分子変性粒子に結合すると、粒子/ビーズに作用する力は、熱泳動特性の変化により変化し、それによりその粒子/ビーズが捕えられた場所からその粒子が移動し、又は/及び粒子/ビーズの揺動が変化するということになる。ここで記述される方法は、“熱光学的捕獲”と称されるが、特にここで記述される特定の実施形態において有用である。“熱光学的捕獲”は、また添付の実施例及び図面で例証される。“熱光学的捕獲”の他の同義語は、“光学性熱的捕獲”、“熱泳動的捕獲”、また“光学性熱的ツイーザー”、“熱泳動的ツイーザー”である。
【0085】
従って、この発明は、光学性熱的捕獲にも関するものである。語句“熱光学的(thermo-optical)”、“熱光学的(thermooptical)”、“光学性熱的(optothermal)”、及び
“光学性熱的(opto-thermal)”は同義的に使用される。この発明の特定の実施形態は、与えられた目標、例えば、100nmから数μmまでの大きさの蛍光標識化変性ビーズ/粒子(例えば、ポリスチレンビーズ又はケイ酸ビーズ)や脂質ベシクルやセルが、添付図面、特に
図39に例示されるように、水溶液に対してIRレーザーを照射することにより生成された空間温度分布の温度最大値の方向へ移動することが分かる、ということを例証している。
【0086】
添付の実施例に示すように、本発明の装置及び方法は、(ベシクル又はリポゾームのような)脂質構造と共に一様なセルの各構成物を含む分子又は粒子の熱泳動的捕獲に対しても採用できる。本発明の装置及び方法は、セル、又はセル核、染色体、ミトコンドリア、葉緑体等のセル構成物の熱泳動的捕獲に対しても採用できる。ここで示される熱泳動的捕獲は、例えば蛋白質の相互作用(例えば、他の蛋白質との抗体抗原反応等)の研究、薄膜を通した輸送事象(例えば、ベシクル又はリポゾーム)の研究、イオンポンプ、薄膜トランスポータ等の生物学的薄膜/ベシクル/リポゾームに含まれる薄膜蛋白質の活動の判定に特に有用である。また、ここで開示される熱泳動的捕獲装置及び方法により、前記溶液中の分子、粒子、リポゾーム、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物の存在そのものも検出及び/又は分析できる。熱泳動的に捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物等は、分析液中で、輸送及び移動可能である(また添付図参照)。熱泳動的に捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物は、いくつかの応用のために異なる緩衝液に晒される、ということも想到できることである。すなわち、捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、セル、又はセル構成物の周りの緩衝液は交換され、それに対応した測定が行われるということである。更に、この発明による熱泳動的捕獲という趣旨における実施形態も、添付の実施例で示される。ここで開示されている熱泳動の概念は、例えば、ベシクル、セル構成物(例えば、ミトコンドリア、葉緑体、核、染色体等)、又はセル全体を整列させることにも採用できることは、当業者には明らかである。従って、本発明は、分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を熱光学的に捕獲する方法を提案している。すなわち、その方法は、サンプルプローブに、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物を付し、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成し、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物を選択的に検出し、前記分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物の熱泳動的移動性に応じて、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物を捕獲している。例えば、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物は、(特に、捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等の熱泳動的移動性が負の場合)レーザーにより生成された加熱スポットの中心において捕獲される。しかしながら、特に、捕獲された分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等の熱泳動的移動性が正の場合には、(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物は、(全体的又は局所的に)温度が最低のところで捕獲される。語句“熱泳動的移動性”DTは、v=−DT∇Tにあるように、任意の分子/粒子/ビーズ等の速度(v)を温度勾配(∇T)に関連付ける係数のことを言っている、ということは当業者であれば分かるであろう。
【0087】
溶液内の分子/粒子等の熱光学的特徴を測定するための方法という意味における上述の実施形態においては、必然的に、分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を熱光学的に捕獲するということに応用できる。また、熱光学的に捕獲するための装置がここで提案され、添付の図面に例示される。例えば、添付
図19又は24に示されたような装置である。従って、対応する装置は、捕獲されるべき(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物にレー
ザービームを照射するためのIRレーザーを備え、溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成している。(好ましくはマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を熱光学的に捕獲するための前記装置は、(a)溶液中の(任意にマークされた)分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等を受け入れる受容手段と、(b)マークされた粒子を蛍光で励起する(任意的)手段と、(c)前記溶液中の励起された蛍光を検出する(任意的)手段と、(d)溶液内にレーザー光ビームを照射し、溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成するIRレーザーと、を備えている。
【0088】
分子、粒子、ベシクル、ビーズ、リポゾーム、セル、又はセル構成物等の動きは、粒子に作用する熱泳動的力により、表現できる。熱力学的平衡を仮定すると、この力は、一定圧力におけるギブス(Gibbs)自由エンタルピーから以下のように得られる。
【0089】
F=−1/2*S
T*k
B*grad(T
2)
ここで、S
Tはソレット(Soret)係数であり、k
Bはボルツマン定数である。
【0090】
温度Tは、x及びyの関数である:T=T(x、y)。例えば、(添付図面、特に
図3aに例示されたように)焦点合わせがなされたIRレーザーにより生成された空間温度分布のような半径方向対称性形状の場合には、力は、空間温度分布の最大値のところに粒子を引き付ける、ということが容易に分かる。S
T<0ならば、任意の目標粒子/ビーズ、例えばケイ酸マイクロ粒子、好ましくは被膜されたケイ酸マイクロ粒子を、温度分布の(局所的又は全体的)最大値の位置において捕獲するような力となる。
【0091】
従来知られている光学的ツイーザー/光学的捕獲と対比すると、本発明による熱泳動的捕獲はそれとは異なる原理に基づくものである。光学的ツイージングで使用されているような電磁界勾配を使用する代わりに、本発明によれば、粒子を捕獲して、移動させ、制御するのに、温度勾配が使用されている。ゆえに、熱泳動的捕獲のいくつかの実施形態においては、洗練された共焦点光学部品は必要としない。また、温度勾配を利用するので、温度勾配の幅(例えば、IRレーザー焦点の幅)に応じて、1μmから数百μmのレーザー焦点までの距離の分子を引き付けることができる。熱光学的捕獲と比較すると、光学的ツイーザーによる獲得領域は、数μmオーダーであり、大変狭い。
【0092】
添付実施例に示すように、ソレット係数S
Tは、目標分子、例えばビーズ、の表面積A、二次有効電荷σ
eff、及び粒子場所依存水和エントロピーS
hydの関数である。それにより熱泳動力は、この粒子特性に比例することになる。
【0093】
これらの特性の1つ(好ましくは有効電荷又は水和エントロピー)が変化すると、捕獲力も変化する。捕獲力/捕獲ポテンシャルが変化すると、(添付の
図32にも例示されているように)揺動も変化する。粒子の揺動を記録することにより、粒子の熱光学的特性の変化が検出でき、従って例えば分子の当該粒子/ビーズに対する結合が検出できる。
【0094】
粒子/ビーズ、例えばケイ酸マイクロ粒子、好ましくは被膜されたケイ酸マイクロ粒子、更に好ましくは表面が特別の基で被膜されたケイ酸マイクロ粒子の場合には、これらの基が蛋白質、抗体、小さな分子、DNA、RNA等に結合する。ビーズ/粒子上の特別な基に対するこの種の1つの結合がある場合には、粒子、例えばビーズ、の特性(例えば表面A)が変化し、それにより異なるソレット係数S
Tとなり、従って異なる熱泳動力F(例えば、その力の符号/方向が変化する)となる。
【0095】
本発明の特定の実施形態は、蛍光等の測定を介してそのような任意の目標粒子/分子の位置を検出することにより、温度分布の最大値における当該粒子/分子の揺動を測定する
ことに関する。粒子/分子が温度分布内において捕獲されると、その周りの溶液は、例えば(例えば抗体による)特別結合が許容されるように変性化されたときにその“捕獲された”粒子に結合すると想到される非標識化又は標識化分子を含む溶液に、容易に交換され得る。結合事象は、揺動の振幅の変化により検出できる(すなわち、粒子が捕獲されるポテンシャルは、分子の粒子表面に対する結合により変化する)。振幅の変化の時間依存特性を検出することにより、結合運動が計測されて確定される。
【0096】
この発明の更に特定の実施形態においては、目標粒子のS
Tの符号の変化が利用できる。S
T<0ならば、特定の結合基/サイトを有する粒子、例えばビーズ又は蛍光ケイ酸マイクロ粒子、は、空間温度分布の最大温度の位置で捕獲される。目標粒子のS
Tの符号が、結合基の分子、例えば小さな分子、に対する接近や係わりに応じて、変化すると、目標粒子は力を受けて空間温度分布の最大値点から外され、粒子、例えばビーズは、誘引の代わりに反発を受け、その結果、目標粒子の振る舞いの定性的変化が検出できる。例えば、力が誘引から反発に変化すると、粒子は、空間温度分布の最大値点から動いて離れる。それにより、粒子/ビーズの表面で前記結合基と結合した分子、例えば、小さな分子、を検出できる。分子、例えば小さな分子、の結合は、単一粒子追跡方法のみにより容易に計測することができる。緩衝液条件(例えば塩分濃度)、溶液の温度を変えることにより、又は例えば疎水性もしくは電荷粒子との特定の変性化により、粒子は、符号変化の点に近づく条件に至る。語句“目標粒子”又は“目標ビーズ”は、この実施形態においては、生物分子を含む、もしくはそれに関係付けられた粒子/ビーズ、又はそのような生物分子で被膜された粒子/ビーズのような、対応する変性粒子及びビーズのことも意図するものである。ゆえに、“粒子/ビーズ”についての上記記載の実施形態及び特に変性粒子/ビーズは、ここでは当然扱うものである。
【0097】
目標粒子、例えば特別な基で被膜されたケイ酸マイクロ粒子、に掛かる力は、蛍光(粒子が蛍光で励起されている場合)、位相コントラスト、干渉、遠視野像等の適当な方法でその位置を追跡することにより計測することができる。
【0098】
目標粒子、例えば特別に被膜されたケイ酸マイクロ粒子、に対して第二の力を掛けて、結果的な力が、熱泳動力とその第二の力(例えば磁力)の合成となるようにすることもできる。その第二の力は、例えば(磁気粒子)に対する磁力、又は(電荷粒子)に対する電気力、又は流体力学的力、又は光学的ツイーザーにより生成されるような他の光学的力などである。
【0099】
その後、結果の合成力が、例えば粒子の揺動を計測することにより、計測される(添付の
図32にも例示されている)。目標粒子/ビーズの特性の1つが僅かに変化すると目標粒子/ビーズが移動するが、粒子/ビーズの特性が変わらなければそれらは同じ場所に居続ける、というように、例えば中和的な力を利用することにより、その方法の感度を増加させるため、この合成は行われる。感度の増加は、第二の力(例えば磁力)の可能な限り細密な調整によるものである。
【0100】
“熱光学的捕獲”は、目標粒子/分子、例えばビーズ/粒子を、入射するIRレーザー照射の軸に垂直な二次元において移動されるために使用できる。IRレーザーの焦点が、例えばガルバニックミラー又は音響光学的ディフレクター(AOD)を使用することにより移動する場合には、空間温度分布の結果的最大値も移動し、それにより目標粒子/分子/ビーズも移動する。又は逆に、チャンバーを移動させて、IRレーザー焦点を固定したままにしてもよい(添付図面、特に
図34に例示されるように)。
【0101】
IRレーザー焦点スポットを多様にすることにより、多くの粒子/ビーズ/分子が同時に移動し、それにより異なる目標粒子、例えば特別に被膜されたマイクロ粒子、を互いに
重ね合わせたり組み付けたりすることができるようになる。それで、抗体を有するある目標粒子と対応する抗原を有する他の目標粒子がある場合、それらの目標粒子は、2つのIRレーザー焦点により動かされて、最終的に接触して、抗体が抗原に結合してしまう。このように目標粒子は互いに結合し、粒子の化合物が生成できる。
【0102】
この発明によれば、IRレーザー照射の干渉パターンを生成することができ、それが温度最大値の空間的格子となる。この空間温度分布の空間的格子により、目標粒子/分子は捕獲され、それらはまたその干渉パターンを移動することにより、移動させることができる。
【0103】
添付図面で表されているように、本発明は、一本鎖又は二本鎖核酸分子の判定に特に有用である(例えば添付の
図5参照)。これにより、任意のプローブ/サンプルにおいて、一本鎖核酸分子を含むか、二本鎖のそれを含むかを、特に判定できるようになる。これは、任意の生物学的サンプルが、一本鎖DNA又は一本鎖RNAのような、例えばウイルス核酸を含んでいるか否かを判定する必要がある場合に特に重要である。
【0104】
ここで説明するように、本発明の一実施形態は、本発明の手段及び方法により、分子間又は分子内相互作用を大変短い時間で計測できるという事実に基づくものである。この発明の第一の実施形態においては、(任意のプローブ/サンプル内の)広い温度範囲の同時検出ができる熱光学的方法が開示されている。ここで、前記“同時”は、約1msから250msの温度範囲であり、とりわけ80msから180msであり、また例としては150ms、但し長くても250msである。この発明の第一実施形態は、熱泳動に基づくものでも関連するものでもない。つまり、熱泳動は大幅に排除されている。第一実施形態は、例えば融解曲線の判定、例えばDNA及び蛋白質融解(点)曲線の判定に関するものである。この第一実施形態の限定されない例は、添付の
図4で提示されたようなものに基づく、一塩基多型の判定/測定についてのものである。“融点”は、50%解離分子により定義される。第一実施形態で提示され開示された方法は、DNA分子の融点の判定には限定されないということはここでは明らかである。
【0105】
この発明の第二実施形態においては、熱泳動又は熱泳動的効果は、とりわけ、約0.5秒から約250秒、好ましくは約1秒から約150秒、更に好ましくは約5秒から約100秒、更に好ましくは約5秒から約80秒、更に好ましくは約5秒から約50秒、より更に好ましくは約5秒から約40秒の所定時間内でその役割を果たし、空間温度分布の濃度変化が計測及び/又は検出される。ここで、特徴付けられるべき粒子/分子の構造的変化ではなく濃度の変化が計測/検出される。この文脈における構造的変化は第一実施形態で言及した熱的変性に関連するものである。第二実施形態は、構成的変化、表面(大きさ及び化学的性質等)の変化、及び相互作用が、熱泳動的特性が変化するという理由から、熱光学的特徴により計測され得る、ということを示している。また、熱光学的“捕獲”装置が、この実施形態で例証されている。この発明のこの実施形態の有用性を最大限に表した対応する例が、添付の例、例えば、流体力学的半径及び蛋白質間の相互作用の判定、分子間の相互作用の検出、大きさに基づく核酸の識別、分子の粒子に対する結合の検出、(生物)分子の構成、構造及び表面の精査、分子のフォールディング/アンフォールディング、粒子又は(生物)分子の捕獲(例えば、ベシクル構造又は脂質の捕獲)等の構成的変化の検出、粒子の共有結合的及び非共有結合的変性の検出、として示されている。
【0106】
以下においては、例えば、核酸(特にDNA)の熱泳動は長さ/大きさの依存性があり、ここで提案される手段及び方法により、一本鎖対二本鎖DNAの判定及び解明と共に、例えば100,300,1000又は5000までの塩基又は塩基対の小さな核酸を判定できる、ということが例示的に記述されている。限定されるものではないが、例が添付の
図5に示されている。そこでは、温度勾配中の移動性が、ここで提供さえる手段及び方法
により計測されることが示されている。ここで、特に、この発明の第二実施形態により、核酸分子(特定の例として、一本鎖DNA対二本鎖DNA)の長さ/大きさ(特定の例として20mer対50mer)及び/又は“鎖”の識別的確証を得ることができる。また、本発明のこの第二実施形態は、短DNAの検出や二本鎖又は一本鎖核酸分子の判定には限定されない。また、例えば、蛋白質、核酸(例えば、DNA、RNA、PNA、LNA)、ナノ粒子、ビーズ、特にマイクロビーズ、脂質、リポゾーム、ベシクル、セル、生重合体(ヒアルロン酸、アルギン酸塩等)、二次元脂質シート、無機物質(例えば、カーボンナノチューブ、ブッキーボール等)、ポリエチレングリコール(PEG)などの粒子/分子間の相互作用、構成、またそのような粒子/分子の流体力学的半径、結合運動性及び安定性が計測できる。上述の分子は、例えば温度安定性において違いを示す。それぞれの熱光学的特性の測定のための分子依存温度範囲の例を表1に示す。
【0107】
ここで開示される手段、方法及び装置に使用される例は、本発明を説明するものであるが、限定して解釈されるべきではない。特に、本発明及びその対応する手段及び方法は、核酸又は蛋白質/蛋白質構造のような生物分子の検出、測定及び/又は確証のために使用されるが、限定するものではない。ここで開示されている発明から、各種の温度感応性システムが、ここで開示された方法及び装置に採用できる。例えば、無機又は有機反応のような化学的反応も計測できることは容易に分かるであろう。
【0108】
当業者であれば、ここで開示された発明は、計測され、検出され、確証され、及び/又は評価されるべき反応は、加熱できる、特に任意に加熱できる溶液内で起こる、という事実により限定されるのみである。
【0109】
いくつかの実施形態にあっては、本発明の装置は、励起手段、例えば励起用発光ダイオード(LED)、励起/放射フィルター組、ミクロ液体チャンバー用試料ホルダー、及び蛍光強度の空間解析記録用高速CCDカメラを有する蛍光顕微装置を基本とするものである。そのような蛍光顕微装置は、生命科学や他の分野では十分に確立したものである。本発明によれば、そのような普通の装置に、照射焦点合わせが可能なIRレーザーが加わる。レーザーは試料ホルダーの下に配置され、試料ホルダーの下からミクロ液体チャンバーに対して、IR補正レンズにより、照射の焦点が合わせられる(添付図面、特に
図1に例示される)。しかしながら、レーザー、検出手段及び励起手段は、試料ホルダーに対して一方の側、例えば
図2に描かれるように試料ホルダーの下、に配置するようにしてもよい。一実施形態にあっては、試料ホルダーは、対物レンズ系に取り付けられる。そのような装置は、試料ホルダーが対物レンズ系に対して動くのを防ぐことができる。更なる実施形態によれば、二電圧駆動赤外線ミラーを使用することにより、レーザーを目標面内において自由に移動させることが可能である。また、局所コヒーレントIR照射と共に、例えば分子溶液の薄型液体チャンバー内に、薄い液体膜(概ね1μmから500μm、好ましくは1μmから50μm、更に好ましくは1μmから20μm、より更に好ましくは1μmから10μm)を使用するというのも有利な点となる。しかしながら、本発明の方法は、薄型液体チャンバーに限定されない。添付図面、例えば添付の
図2、16−24に示すように、水溶液のμl液滴又はnl液滴、細管、マイクロ油井プレートに拡張することもできる。更なる実施形態によれば、赤外線加熱及び蛍光検出は同じ対物レンズ系で実現される。それによれば、装置をより柔軟にかつ小型にすることができる(
図2、16−24参照)。スペクトルの赤外線と可視部分の双方からの電磁放射に対して焦点合わせできるような1つの対物レンズが使用できるためには、その対物レンズはその双方に対して高い光学的質を有していなければならない。特に、赤外線照射は、その対物レンズにより広く分散してはならない。広く分散してしまうと、高い温度オフセットが生じ、また加熱中心からの各距離における温度勾配が比較的強くなってしまう。いくつかの実施形態においては、かかる状況を避けている。広く分散してしまうと、測定時間が長くなり、正確性は低下する。理論の制約ではないが、このことは、熱泳動が強い部分で長さスケールの増加が大
きくなり、それによりシステムが定常状態に達するまでにより時間がかかる、ということに起因する。また、二つ目の効果は、加熱スポットから非常に離れた位置において熱泳動が無視できるときに非線形脱色補正が正確となるという事実に起因する。これは、赤外線照射の回折度が低いときに達成できることである。従って、本発明によれば、空間の一方向のみが検出及び操作のために使用される。ここの記述された方法とここに開示された装置は、確立している機器や高いスループットを数有するシステムに組み込むことができる。
【0110】
水は、1200nmを超える赤外線レジームの照射をよく吸収する。吸収されたエネルギーは熱に変換される。コヒーレントIRレーザー及びIR光学系によれば、溶液中に、赤外線照射による非常に高いパワー密度を形成することができる。レーザー(LASER)光
学系を制御することにより、レーザー(LASER)焦点を移動させて変更することができる
。これには、半径方向対称レーザービームのアスペクト比を変化させて線形状焦点を生成するような光学系が含まれる。これは特に測定が細管内で行われる場合に有益である。全断面は均一に加熱されるので、空間温度分布は、細管の長さ方向に沿ってのみ現れる。加熱中心から等距離にある全ての画素は平均化されるので、空間の一方向のみの温度勾配は測定の正確性を向上させる。特に、このことにより、単一ライン画素のCCDカメラを使用できるようになる。この場合、蛍光の積算はハードウェアにより得られる。フォトダイオード又は光電子増倍管を使用することにより、有限体積要素から(すなわち、加熱スポット/ラインの中間から)の蛍光が、空間的解析はなくして、計測される。蛍光検出における空間的解析は、熱力学的半径が注目する熱光学的特性である場合にのみ必要となる。この光学的加熱技法によれば、ミクロスケールで、広い温度分布及び強い温度勾配が得られる。レーザー(LASER)焦点の位置においては、温度は最も高くなる。この上側温度限
界は、レーザー(LASER)のパワーとレーザー焦点の形を制御することにより調整できる
。レーザー焦点から距離が増加すると、熱伝導性により、水溶液の温度は降下する。温度の下側限界は、取り囲むチャンバーの材料の温度により設定できる。この材料は、例えば0℃まで冷却できる。このように、レーザー焦点における100℃(高レーザーパワー)と加熱スポットからより離れた0℃の間の全温度を含む温度分布を生成することができる。
【0111】
本発明の方法により、熱光学的方法で、溶液、特に水溶液を加熱して解析することが可能である。加熱要素(銅線、ペルチエ等)からの熱を伝える熱変換器のような熱伝導材料は必要ない。溶液自体が、レーザー(LASER)光により直接加熱される。レーザーの焦点
合わせは、回折に影響を与えるのみであるので、0℃から100℃(水の完全な液体状態)全温度に渡る温度分布が、数百マイクロメーターの長さスケールで同時に観測できる。
【0112】
本発明の方法により、従来有用な最も早い測定システムよりも、3000から10000倍も早く測定が行える。本発明の方法によれば、空間温度分布が使用されるのであるから、0℃から100℃までの全温度を同時に得ることができる。加熱要素に触れることにより温度が形成されるわけではなく、サンプルそれ自体の中で温度が生成される。赤外線走査光学系を使用することにより、溶液中に任意の二次元温度パターンが形成される。このとき、如何なる面の構成ももはや行われない。加えて、ミクロ液体測定チャンバーを造るのに、照射される赤外線を透過するあらゆる材料が使用できる(ガラス、サファイア、プラスチック、シリコン、クリスタル)。
【0113】
加えて、本発明の方法は、表面近くの水溶液内に温度分布を形成するために使用できる。温度の連続性により、表面にも温度分布を採用することができる。ゆえに、溶液と共に表面も加熱することができる。可能な応用は、DNAマイクロアレーの解析である。表面に近いところの温度勾配は、分子を表面方向に移動させたり、表面から離したりするのに使用される。これらの局所濃度変化は、添付図面、特に
図24及び36に示された全内部
反射蛍光(TIRF)系、又はTIRFが可能なあらゆる光学系(1)により、正確に計測することができる。入射レーザー光の方向へのこの熱泳動的移動は、分子を捕えたり、及び/又は集約させたりする目的で、分子をミクロ液体構造物内へ移すのに使用される。ゆえに、本発明により生成された温度勾配は、分子/粒子を捕えたり、及び/又は集約させたりすることにも使用される。分子/粒子の獲得と集約は、それらの熱光学的特性(例えば熱泳動的効果の符号)に依存する。
【0114】
溶液内の不均一温度に関する副作用を抑制する方法の1つは、正しいミクロ液体チャンバー形状を選択する、ということである。例えば、対流は、薄い液体シートを用いることのみで対処できる。このことはまた、薄い液体シートの高さが測定ごとに多様ではないということが、再生成可能で正確な測定にとって有利である、ということを意味している。空間温度分布をもたらす対流の速度は、二次的に液体シートの高さに依存する。チャンバー高の僅かな変化が、対流速度の比較的大きな変化を引き起こし、それが濃度及び温度の分布に非常に微妙に影響を及ぼす、ということを、この非線形性は意味している。ゆえに、実験は、規定高さのミクロ液体チャンバー(例えば細管)内で行われることが好ましい。本発明の手段及び方法によれば、熱の吸収プロセスによる生成により、熱が生成されるのであるから、一定の高さというのは、再生可能な温度分布を得るためには有利である。高さの違いがあると、吸収エネルギーの違いにより、また体積/表面の比の違いのために変動が生じてしまうであろう。この比により、熱の周囲への伝搬の割合が決まり、ゆえにまた溶液内の温度分布が決まる。温度分布の再生成性は、測定の可能な最大正確度を決する。
【0115】
他の方法としては、より早く計測して対流による阻害を避ける、ということがある。このことは、単一液滴又はマイクロ油井プレート(より薄い液体シート)での計測の可能性を開く。IRレーザーは、300μm(1/e)の長さスケールで吸収されるので、薄いサンプル、例えば薄いチャンバーはz方向(高さ)に均一に加熱される。
【0116】
従って、本発明は、溶液中の粒子/分子の特徴を熱光学的に計測する改良された方法を提案しており、その方法は、(a)溶液中にマークされた粒子/分子のついたサンプルプローブを配し、(b)前記マークされた粒子を蛍光により励起し、前記励起された粒子/分子の蛍光の第一の検出を行い、(c)溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成し、(d)溶液へのレーザーの照射が始ってから所定時間後に、溶液内の粒子/分子の蛍光の第二の検出を行い、前記2つの検出に基づいて粒子/分子の特徴付けを行うものである。
【0117】
一実施形態において、所定時間は、1msから250msの範囲内である。好ましくは検出時間は、1msから50msの範囲である。特定の実施形態にあっては、レーザービームは、温度分布内の温度勾配が0.0から2K/μm、好ましくは0.0から5K/μmの範囲になるように、焦点外しが行われる。好ましくは、レーザービームは、光学素子を介して溶液中に照射される。特定の実施形態にあっては、光学素子は単一レンズである。本発明の特定の実施形態にあっては、当該方法は、更に、溶液中の照射ビームの周りの温度分布を温度感応性染料により計測するステップを備える。温度分布は、温度感応性染料の検出された蛍光に基づいて判定され、温度感応性染料を含む溶液は照射レーザービームにより加熱され、空間蛍光強度がレーザービームの周りで実質的に垂直に計測される。更なる実施形態にあっては、所定時間は、0.5sから250sの範囲である。好ましくは、前記所定時間内で、溶液中の空間温度分布内において、熱泳動効果により濃度が変化し、かかる濃度変化が、蛍光の分布の変化により検出される。いくつかの実施形態にあっては、温度分布内の温度勾配が0.001から10K/μmの範囲となるように、レーザービームの焦点合わせが行われる。本発明の更なる実施形態にあっては、蛍光はCCDカメラにより検出される。いくつかの実施形態にあっては、前記蛍光の輝度が、レーザービ
ームの中心において、フォトダイオード又はCCDの単一画素により検出される。更なる実施形態にあっては、粒子は、生物分子及び/又はナノ粒子及び/又はマイクロビーズ及び/又はそれらの組み合わせである。特定の実施形態にあっては、レーザー光は、1200nmから2000nmの範囲内にある。好ましくは、レーザーは、0.1Wから10W、更に好ましくは0.1Wから10W、より更に好ましくは4Wから6Wの範囲内のハイパワーレーザーである。いくつかの実施形態にあっては、溶液は、1アットモル(例えば、単一粒子マイクロビーズ)から1モル、好ましくは1アットモルから100μモルの範囲内の粒子濃度を有する水溶液である。特に、溶液は、0から1Mの範囲の濃度を有する食塩水である。好ましくは、空間温度分布は、0.1℃と100℃の間である。好ましい実施形態にあっては、温度勾配は、レーザービームの周りに、直径0.1μmから500μmの範囲で形成される。レーザーの照射及び蛍光の検出は、本発明の好ましい実施形態にあっては、サンプルプローブに対して同じ側から行われる。好ましくは、溶液は、レーザー光ビームの方向に、1μmから500μmの厚さを有する。特定の実施形態にあっては、蛍光は、レーザービームの方向に、1nmから500μm、好ましくは50nmから500μmの範囲内で検出される。好ましくは、蛍光は、CCDカメラにより、レーザー光ビームに対して実質的に垂直な方向に検出される。更に好ましくは、第二の蛍光検出は、レーザー光ビームに対して実質的に垂直な温度分布に依存した蛍光の空間的測定である。好ましい実施形態にあっては、サンプル溶液は、細管内にある。
【0118】
本発明は、また、上記実施形態のいずれかに記述されたように、溶液中の粒子の特徴を熱光学的に計測するための装置を提供し、その装置は、溶液中のマークされた粒子を受け入れる受容手段と、マークされた粒子を蛍光で励起する手段と、前記溶液中の励起された蛍光を検出する手段と、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに空間温度分布を形成するためのレーザーと、を備えている。いくつかの実施形態にあっては、マークされた粒子を蛍光で励起する手段はLEDである。好ましくは、レーザーは、0.1Wから10W、更に好ましくは1Wから10W、より更に好ましくは4Wから6Wの範囲のハイパワーレーザーである。特定の実施形態にあっては、レーザーと励起された蛍光を検出する手段は、受容手段に対して同じ側に配置されている。更に好ましい実施形態にあっては、装置は、検出された領域を拡大する光学系を更に備える。特定の実施形態にあっては、装置は、レーザービームの焦点合わせや焦点外しを行う光学系を更に備えている。好ましくは、その光学系は単一レンズである。好ましい実施形態にあっては、検出手段は、CCDカメラである。いくつかの好ましい実施形態にあっては、CCDカメラは、ラインCCDカメラである。特定の実施形態にあっては、検出は、細管の長さ方向に沿って一次元的である。他の特定の実施形態にあっては、検出手段は、フォトダイオードである。
【0119】
本発明は、上記実施形態のいずれかに記述されたような、溶液中の粒子及び/又は分子の特徴を検出及び/又は計測するための装置に関する。この発明により検出され、計測され、又は特徴付けられるべき分子は、医薬品候補であってもよい。
【0120】
この発明に特定の実施形態にあっては、この発明により検出され、計測されるべき特徴は、粒子の安定性、長さ、大きさ、構成、電荷、相互作用、鎖生成、及び化学的変性の群の中から選択される。好ましい実施形態にあっては、計測されるべき粒子は、分子、生物分子、ナノ粒子、ビーズ、マイクロビーズ、有機物、無機物、及び/又はこれらの組み合わせ、からなる群の中から選択される。好ましくは、前記粒子は、(生物)分子、ナノ粒子、マイクロ粒子、マイクロビーズ、有機物、無機物、及び/又はこれらの組み合わせ、からなる群の中から選択される。更に好ましくは、(生物)分子は、蛋白質、核酸(例えば、RNA(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、snRNA、siRNA、miRNA)、DNA)、RNAアプタマー、抗体(又はその断片又は誘導体)、蛋白質−核酸融合分子、PNA、ロックされたDNA(LNAs)、及び生重合体(糖重合体、ヒアル
ロン酸、アルギン酸塩等)、からなる群の中から選択される。また、分子間又は分子内相互作用、例えば蛋白質フォールディング/アンフォールディング、は、この実施形態の範囲内にある。
【0121】
本発明の特定の好ましい実施形態は、溶液中の粒子/分子の物理的、化学的又は生物学的な特徴を熱光学的に計測する方法に関し、その方法は、(a)細管内の溶液中にマークされた粒子/分子の付いたサンプルプローブを配し、(b)前記マークされた粒子/分子を蛍光により励起し、細管の長さ方向に沿って一次元的に前記励起された粒子/分子の蛍光の第一の検出を行い、(c)溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに細管の長さ方向に沿って線形温度分布を形成し、(d)溶液へのレーザーの照射が始ってから所定時間後に、溶液内の粒子/分子の蛍光の第二の検出を行い、前記2つの検出に基づいて粒子の特徴付けを行うものである。
【0122】
本発明は、また、上記実施形態のいずれかに記述されたように、溶液中の粒子/分子の物理的、化学的又は生物学的な特徴を熱光学的に計測するための特定の装置を提供し、その装置は、溶液中のマークされた粒子を受け入れる細管と、マークされた粒子/分子を蛍光で励起する手段と、前記細管の長さ方向に沿って一次元的に前記溶液中の励起された蛍光を検出する手段と、溶液内にレーザー光ビームを照射して溶液内の照射レーザー光ビームの周りに線形温度分布を形成するためのレーザーと、を備えている。
【0123】
蛍光顕微及び局所赤外線レーザー加熱の手法を備えた本発明による装置は、解離分子に対する温度勾配(例えば温度不均一性)の効果を計測するためにも使用される(本発明の第二実施形態参照)。ほとんどすべての解離分子は、温度勾配中を、熱い領域へも冷たい領域へも移動し始める。この効果は、熱泳動又はソレット(Soret)効果と呼ばれ、15
0年前から知られている。しかし、液体中の分子の動きのメカニズムはずっと不明であった。液体中の熱泳動の理論的理解へのマイヤーの一ステップが最近為された。
【0124】
本発明の装置及び方法により、分子、特に生物分子の安定性、構成、大きさ及び/又は長さの特徴が判定できる。(生物)分子の他の分子又は粒子、例えば更なる(生物)分子、ナノ粒子、又はビーズ、例えばマイクロビーズに対する相互作用の特徴付けが、本発明の特定の実施形態においてはなされる。分析されるべき分子は、ビーズ又は粒子に(共有結合的に又は非共有結合的に)結びつくこともあり得る。例えば、ビーズ又は粒子は、本発明により分析され、特徴付けられるべき分子(例えば生物分子)で被膜される。
【0125】
本発明による方法の以下の2つの実施形態においては、非常に類似している測定プロトコルに基づいているものの非常に異なる分子を分析しているが、そのパラメータの議論が行われている。本発明の第二実施形態の方法においてのみ、粒子の熱泳動的動きが利用されている。第一実施形態の方法では、この効果は除かれるべきであった。更に、本発明の特定の実施形態が、図面を参照し、また添付の詳細実施例を参照して、詳細に説明されるであろう。但し、図面や実施例に対するそのような参照は、発明を限定するものではないと考える。
【0126】
発明の第一実施形態
第一実施形態による方法は、分子、特に生物分子、の温度安定性測定において、特に有益である。しかしながら、再度の注意であるが、ここで供される手段及び方法は、生物分子の検出、確証及び/又は測定に限定されない。以下の限定するものではない実施例として記述され例証されている方法により、例えば、融解温度の測定が可能となる(
図3)(安定性や、生物分子(一本の核酸鎖が(ナノ)粒子、マイクロビーズ、表面等に結合できるような蛋白質、二本鎖(ds)RNA、dsDNA)の、dS(エントロピーの変化)、dH(エンタルピーの変化)、及びdG(ギブス(Gibss)自由エネルギーの変化)の
ような熱力学的パラメータ)。dsDNA及びDNAの融解曲線を計測する前記方法により、ヘアピンが為される。その結果は、各文献に示された値に非常によく整合する。上述のように、本発明は、一般的に生物分子の測定に特に有益である。例示であるが、例えば、(短)DNA鎖におけるSNPs(一塩基多型)が容易に検出できることがここで示される(
図4も参照)。
【0127】
第一実施形態の特定の方法が、以下に説明される。蛍光タグの付された核酸が、薄いミクロ液体チャンバー(すなわち、例えば40μm、20μm、又は5μm、好ましくは20μm)に入れられる。蛍光タグのようなタグが付された核酸の変性化というのは、広く使用されている十分に確立した技巧である。加熱開始の前に、100%非融解分子の蛍光レベルを判定するために、蛍光が観察される。使用される蛍光タグが、2つのDNA鎖の融解に際し反応する(又はRNA鎖又は蛋白質構造、又はナノ粒子の蛍光が、ssDNA/RNA又はdsDNA/RNAがそれに結合するか否かに応じて反応する)。このことは、例えば蛍光体/失活剤ペアー(ドナー/失活剤ペアー、特にドナー/アクセプターペアー:エネルギー伝達(ET)、例えば共鳴エネルギー伝達(RET)、特に蛍光共鳴エネルギー伝達(FRET))を使用して、又は混入する核酸染料(例えば、SYBR 緑/POPO/YOYO)もしくは蛋白質染料(例えばSYPRO 橙(Invitrogen))の解離により実現され
る。例えば金‐ナノ粒子の場合、DNA結合の屈折率を変えることにより、蛍光は変化する。顕微鏡に取り付けられたレーザーは、熱泳動による粒子の流れが無視できるまでに十分抑えられる程度に温度勾配が低くなるように、焦点合わせが調整される。同時に、分子の融解に十分な高温に達するように、焦点合わせはしっかりと行われなければならない。熱泳動的移動がやはり無視されるもののミクロ液体チャンバーの加熱処理が完全であるような長さの時間で測定が行われる必要があるのであるから、測定は、いくつかの実施形態においては、マイクロ秒のレンジで、高い時間的解像度で行われる。測定は実験条件に強く依存する。融解温度を判定するのに必要なデータは、典型的には、200ms以内で、150ms以内で、100mn以内で、又は50ms以内で、好ましくは150mn以内で得られる。これは大変驚くべきことであり、本発明の趣旨をなすものである。更に短い時間も可能である。本発明の文脈においては、例えば異なる種又は核酸の量的な識別を行う。IRレーザーがオンされる前に第一の画像が取得され、それにより100%非融解分子の蛍光レベルが得られる。レーザーがオンされてから100mn後に、好ましくは50mn後に、更に好ましくは40ms後に、第二の画像が取得される(このときチャンバーは定常状態温度に達している)。これらの2つの画像は、全ての必要な情報を含んでいる。第一の画像は、非融解分子の蛍光を含んでいる。レーザーがオンしている間にとられた画像により、すべての異なる温度における融解分子の割合を同時に観察できる。つまり、加熱スポットから遠く離れた0%(冷たい)から加熱スポットの中心における100%(熱い)までの範囲である。独立した測定から、融解実験におけるすべての画素の温度が分かる。すなわち、融解DNA鎖対温度の割合をプロットすることにより、分子の安定性を判定でき(すなわち融解温度)、また熱力学的パラメータを得ることができる。
【0128】
要するに、本発明の第一実施形態は、ミクロメータースケールの空間温度分布の測定を、化学的/生化学的反応に依存した温度と分子/生物分子/ナノクリスタル/マイクロビーズ間の相互作用に依存した温度に結び付けている。その測定においては、温度傾斜ではなく絶対温度が重要である。マイクロリアクターとしての各検出体積(これはCCDカメラ画素にマッピングされる)を誰でも想像できるであろう。その測定においては、すべての分子が、測定時間中、このマイクロリアクター内に留まっている、ということが非常に重要である。ゆえに、測定は素早く行われて、マイクロリアクターとして扱われる領域から粒子を追い出してしまうような熱泳動及び対流を避けるようにしなければならない。この要求は、150msの測定時間であれば満たされるであろう。
【0129】
第一実施形態による方法及び装置を用いれば、安定性における塩依存性及び長さ依存性
と共に単一塩基不整合(SNP、一塩基多型)をもってして各dsDNAを識別できる。安定性における違いは、dsRNA、DNA及びRNAの各ヘアピン(それらによるssDNA/RNA塩基対)並びに蛋白質についても、計測できる。また、異なる緩衝液システムの安定性に対する影響も計測できる(pH、塩濃度、イオンの価)。生物分子は、また、(ナノ)粒子や(マイクロ)ビーズに結びつき得る。これらの変性粒子の影響は、例えばssDNA/RNA又はdsDNA/RNA(又は他の生物分子)がそれに結合しているか否かに依存して変化する。そのような溶液を加熱すると、生物分子に特別な蛍光マークを付する必要なく、同じ結果を得ることができる。定性的な識別に加えて、定性的な熱力学的解析も可能である。測定時間は、いくつかのケースでは、分子間の反応の緩和時間よりも短いのであるから、全てのケースにおいて、dS(エントロピーの変化)、dH(エンタルピーの変化)及びdG(ギブス自由エネルギーの変化)等の熱力学的パラメータを直接判定できるわけではない。しかし、非平衡熱力学を使用することにより、これらは容易に算出できる。(すなわち)一塩基多型の定性的識別については、非平衡条件下での解析作業が、比較すべき分子の安定性について計測された違いを更に明確にすることができる。ヌクレオチド配列における不整合の測定は、医療診断において非常に重要である。この方法により遺伝病を識別することが可能になる。それはまた、低分子量化合物の核酸に対する結合のための医薬的高効率スクリーニングにおいても使用できる。更に、二本鎖(ds)核酸の融解によりその長さを判定することができる。
【0130】
本発明により計測された融解曲線は、確立された技法により計測された結果を再生するものであるが、PCRサイクラー又は蛍光測定器手法のようなペルチエ又は加熱槽基本手法よりも3000倍も速く結果を提供する。直接接触により全体を加熱する必要がないのであるから、この発明の方法はかなり速いものとなり、分子の0℃から100℃までの間の特別な温度に対する反応を同時に観察することができるというものである。再度言及すると、この実施形態の趣旨は、温度が、時間的な解析の代わりに空間的な解析をもってして、生成されて計測されるということである。加熱及び冷却時間による遅延がないので、本発明の方法は、大変速いものとなる。同時に、薄い液体シートが使用されるので、必要なサンプル容量を小さくすることができる。加えて、分子に対する操作及び解析は、汚染の危険性なく全て光学的に行われる。解析が、すなわち人間のDNAによる汚染が解析を不可能にするようなPCR反応と関わる場合には、それは不可欠なことである。
【0131】
例えば100ms、好ましくは50msの時間内で熱変性が為されることにより、DNA/蛋白質の安定性に対する、高い温度に敏感な物質(例えばDNA結合蛋白質、サイクリックアデノシン−リン酸(cAMP)のような物質)の影響を計測することができる。これらの物質は、従来の技術を使用した実験では、ダメージを受け劣化し、温度安定性に対する影響はそのような従来の技法では検知できない。
【0132】
空間温度分布内においては、温度勾配が存在する。(例えば20μmの厚さのここで提案されているチャンバーについて)測定時間が150msより長いと、生物分子(分子、ナノ粒子、マイクロビーズ)の熱泳動的移動を計測することができる。この計測から更なる情報を集めることができる。
【0133】
発明の第二実施形態
第二実施形態による方法(すなわち、この発明の方法の前記第二の検出についての所定時間が、0.5秒から250秒の範囲内、好ましくは0.5秒から50秒の範囲内、更に好ましくは0.5秒から40秒の範囲内である測定に関する上記の方法)は、温度勾配中の分子の移動性を計測するのに特に有用であり、分子の特徴付けに使用される。上述の第一形態の方法は、温度分布内の分子を、ミリ秒の短い時間スケールで分析する。熱泳動のような動的影響は、この短い時間間隔では、無視することができる。分子が秒のオーダーの時間で観察されると、熱泳動は広まりだし、分子が温度勾配内を移動し始める。この効
果により、電気泳動と同様、分子は勾配に沿って温度の低い方へ(逆が観測されるケースもある)移動する。分子の速度は、分子特有係数D
Tでもって、温度勾配に直接に比例する。つまり、v=D
T∇Tである。
【0134】
予想外に、生重合体の熱泳動的移動性は、鎖/分子の長さに応じて大きく変動する。
【0135】
これらの分子の熱泳動的移動性は、溶媒和のエントロピー、大きさ、電荷、表面の種類、表面の大きさ、流体力学的半径等を変化させる分子パラメータに応じて大きく変動する。このことにより、生物分子を区別し、それらの間の(また、ナノ粒子/マイクロビーズと生物分子の間の)相互作用を検出できる可能性が開ける(添付図面、特に
図4に例示される)。
【0136】
熱泳動は濃度勾配を作り上げるので、その効果は、通常の拡散により抑えられる。これらの2つの効果の間の相互動作により、式c/c
0=exp[−S
T×ΔT]で表現される定常状態濃度分布に導かれる。温度分布内の任意の位置における濃度は、温度差のみに依存し、温度勾配にはもはや依存しない。熱泳動的移動性D
T及び通常の拡散定数Dについての商は、ソレット係数と呼ばれ、定常状態における熱泳動の大きさを表わしている。それは、温度差に指数関数的に依存する。従って、測定の正確性は、温度分布の再生性に大きく依存する。
【0137】
第二実施形態による典型的な測定手順を以下説明する。正に最初は、IRレーザー(LASER)による加熱なしで画像が取得され、100%の相対濃度レベルの蛍光強度が判定さ
れる。そして、レーザー(LASER)がオンされる。この実験装置においては、レーザーの
焦点合わせを6μm以下の半幅で厳格に行い、強力な温度勾配を創り出したり、焦点を外してレーザーを使用したりすることができる(例えば200μmの温度分布半幅について上述のように)。これにより、分子の速度が影響され、定常状態に到達する速度が影響される。必要な温度上昇は、0.1℃と周囲の温度(20℃)よりも高い80℃との間で変化する。チャンバーが例えば0℃にまで冷却されている場合、サンプルの熱的安定性及び熱泳動効果の大きさに応じて、0.l℃と100℃の間の温度範囲の温度上昇が実現できる。一般的に、(生物)分子、(ナノ)粒子、又は(マイクロ)ビーズの熱泳動効果を判定するのに、画像記録の高い時間的解像度は必要ない。測定信号は、ほとんどの場合2,3秒後に到達する定常状態濃度のものであるか、またはそれに近い状態濃度のものである。定常状態に到達する前においては、ほとんどの分子の信号は、互いに非常に異なり、それにより何ら疑問なくそれらを識別できる。初期濃度以外のデータ分析については、レーザー(LASER)加熱が始まった後のある時点における濃度が必要である(時間変化も取得
可能である)。単一画素(すなわち最大温度点)の濃度が判定できれば十分である。
【0138】
レーザーがオンされる前、分子は均一に分布している。ゆえに、濃度に直接比例する蛍光強度(又はどんな測定信号であろうとも)は、各点で同一の大きさを有している。レーザー(LASER)がオンされると、濃度分布は変化する。分子は、熱いレーザー焦点から離
れるように移動する。ゆえに、蛍光強度の大きさは、定常状態に達するまで、減少し続ける。この減少が計測でき、従って、分子の特徴が熱泳動の理論により導かれ、異なる分子が比較することにより識別できることになる。
【0139】
ここで開示する方法によれば、特に第二実施形態と関連して、多くの相互作用を検出し、計測し、及び/又は拡張するための手段及び方法が提供される。例えば、DNA/DNA、RNA/RNA、蛋白質/蛋白質、蛋白質/DNA、蛋白質/RNAの相互作用と、更に蛋白質、DNA、RNA、の他の物質、例えばナノ粒子/マイクロビーズ、との間の相互作用も計測できる。唯一必要なことは、分子の1つの付される標識、特に蛍光標識である。例外は、例えば、検出に光分散が(直接)利用されるような大きなマイクロビーズ
の場合である。例えば一本鎖DNAが結合するような形の変性マイクロビーズを使用する場合には、このビーズの移動性はその結合に起因して変化する。従って、第二実施形態の方法によれば、この結合を検出することができる。この変性ビーズは、シーケンス設定で使用されるのであるから、本発明の方法はここで採用できる。本方法によれば、分子の大きさ、電荷又は表面を変化させるあらゆるものを検出できる。本発明の方法は、ストレプトアビジン・ビオチン法により、ナノ粒子及びポリスチレンマイクロビーズに対する特別なDNA結合も計測できるということが示されてきた(
図35参照)。また、抗体とエピトープとの間の相互作用も検出可能である。また、蛋白質、例えば重合酵素のDNA鎖に対する結合も検出できる。
【0140】
高い時間的及び空間的解像度は必要ないので、第二実施形態の方法は、コスト効果が高く、容易に実現できる。例えば、CCDカメラの代わりに、アバランシェフォトダイオードが使用できる(単一画素についての情報のみが必要とされる)。ミクロ液体チャンバーが細管(すなわち、高いアスペクト比(長さ/幅)を有するミクロ液体チャンバー)の場合には、幅方向の空間解像度は必要なく、蛍光分布の検出にはラインCCDカメラが必要なだけである。蛍光の積算はハードウェアにより行われるのであるから、このCCDカメラとアバランシェフォトダイオード/光電子増倍管の択一性は、非常にコスト効果が高く、データ評価の時間を短縮することができる。測定システムは、より高い濃度において何ら制限なくナノモルまでの濃度を示すことができる。また、比較的程度の大きな汚染が本発明の方法により無視される。セルの粗抽出物や血液についても測定が可能である。汚染に対する耐性以外に、この方法は、溶液の粘性についての高い多様性にも対処できる。測定は、例えば、水もしくはグリセロールで、又は粘性物のようなゲルを含む水溶液で行われる。測定はミクロ液体チャンバーで行われるのであるから、実験に必要な容積は、例えば、0.5μl、1μl、2μl、5μl、10μl、好ましくは2μlであり、更に小さくすることも可能である。簡単に計測調整が行えることから、この方法は、FCS(蛍光補正鏡検法)と比較して大きな利点を有しており、容易に自動化できる。この方法は、生物分子/ナノ粒子/マイクロビーズ間の相互作用を判定するための、市場の他のどんな方法(すなわち、ビアコア(Biacore))よりも早く識別可能である。短DNA分子の長
さは、ゲル電気泳動のようなこの分野の確立された方法に必要な1時間という時間に比較して、数秒以内で判定できる。更なる利点は、測定が水溶液内で行われるということである。分子が解離する相(ゲル熱電気泳動におけるゲル、又はHPLCにおけるC18、HICカラム)を変える必要がない。一本鎖及び二本鎖DNAを区別する可能性により、化学的探究と共に診断分野において新たな可能性が開かれる。一例としては、例えば、ウイルス性の病気又は細菌性の病気のような伝染性の病気である。
【0141】
要するに、第二実施形態の発明方法は、IRレーザー(LASER)により創り出された温
度勾配(10K/μm、いくつかの実施形態では5K/μmまで、特に2K/μmまで)を用いて、水溶液中の生物分子/ナノ粒子/マイクロビーズの濃度を操作している。ここの添付されている例において、液体中の熱泳動の一般的理論は記述されている。