(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104104
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】紙用液体嵩高剤
(51)【国際特許分類】
D21H 21/22 20060101AFI20170316BHJP
D21H 17/06 20060101ALI20170316BHJP
D21H 17/07 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
D21H21/22
D21H17/06
D21H17/07
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-176769(P2013-176769)
(22)【出願日】2013年8月28日
(65)【公開番号】特開2015-45106(P2015-45106A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100076680
【弁理士】
【氏名又は名称】溝部 孝彦
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】濱田 義人
(72)【発明者】
【氏名】池田 康司
【審査官】
井上 由美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−271292(JP,A)
【文献】
特開2004−027401(JP,A)
【文献】
特開平10−296068(JP,A)
【文献】
国際公開第98/024867(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21G 1/00−9/00
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、及び下記一般式(3)で表される化合物を含有する、紙用液体嵩高剤。
R
1−O−(PO)
m(EO)
nH (1)
〔式中、R
1は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、Pはプロピレン基、Eはエチレン基を示し、m、nは平均付加モル数であり、mは1以上、20以下の範囲の数であり、nは1以上、10以下の範囲の数であり、(PO)
m(EO)
nはブロック付加である。〕
R
2−O−(EO)
o(PO)
p(EO)
qH (2)
〔式中、R
2は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、Pはプロピレン基、Eはエチレン基を示し、o、p、qは平均付加モル数であり、それぞれ、1以上、10以下の範囲の数である。o、p、qは同一でも異なってもよい。(EO)
o(PO)
p(EO)
qは、ブロック付加である。〕
【化1】
〔式中、R
3は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、R
4、R
5、R
6は同一でも異なってもよく、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はベンジル基を示し、X
-は対イオンを示す。〕
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物を75質量%以上、90質量%以下、一般式(2)で表される化合物を1質量%以上、7質量%以下、一般式(3)で表される化合物を5質量%以上、20質量%以下含有する、請求項1記載の紙用液体嵩高剤。
【請求項3】
更に、水を5質量%以上、12質量%以下含有する、請求項1又は2記載の紙用液体嵩高剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙用液体嵩高剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白色度、不透明度、印刷適性、そしてボリューム感等の面に優れた品質の高い紙が求められている一方で、環境への配慮からパルプ使用量の少ない軽量な紙が望まれている。これらを紙の嵩高さによって解決すべく、これまでに種々の嵩向上の方法が試みられており、その一つとして嵩高剤等の紙質向上剤の利用が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、紙用嵩高剤として特定のアルコールのアルキレンオキサイドを付加した化合物及び該化合物を多価アルコール型非イオン界面活性剤により乳化状態の嵩高剤として、パルプスラリーに均一に混合することを容易にする技術が開示されている。また、特許文献2には、カチオン性化合物、アミン、アミンの酸塩及び両性化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する紙用嵩高剤が開示されている。特許文献2には、前記化合物に、非イオン界面活性剤を併用できることが記載されている。
【0004】
一方、嵩高剤は、取り扱い性や設計の自由度拡張などの点から、液状であることが望ましい場合がある。この観点から、有効分濃度が高く、保存安定性に優れた液状製品についての検討も種々されている。特許文献3には、エチレンオキシ基とプロピレンオキシ基とを有する所定の化合物Aと、炭素数6〜22の1価脂肪酸とを含有する液状紙用嵩高剤が開示されている。また、特許文献4には、エチレンオキシ基とプロピレンオキシ基とを有する所定の化合物Aと、スルホコハク酸と炭素数1〜6の直鎖アルコールとのエステル化合物と、炭素数14〜22の不飽和脂肪酸とを含有する液状紙用嵩高剤が開示されている。
【0005】
また、紙に柔軟性を付与する薬剤として紙用柔軟剤が知られており、特許文献5には、特定の非イオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤とを含有する紙用柔軟剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第98/03730号
【特許文献2】特開平11−269799号公報
【特許文献3】特開2008−163499号公報
【特許文献4】特開2009−155784号公報
【特許文献5】特開2004−44058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紙の嵩を高くするには、嵩高剤を多く添加することが1つの方策となるが、添加量を多くすると、製紙設備に粘着汚れが発生する場合があることが判明した。
【0008】
本発明は、紙力の低下が少なく、嵩高性能、水への分散性に優れ、紙の厚みを向上させる事ができ、粘着物質の発生抑制効果と白水の泡立ち抑制効果にも優れた紙用液体嵩高剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物〔以下、化合物(1)という〕、下記一般式(2)で表される化合物〔以下、化合物(2)という〕、及び下記一般式(3)で表される化合物〔以下、化合物(3)という〕を含有する、紙用液体嵩高剤に関する。
R
1−O−(PO)
m(EO)
nH (1)
〔式中、R
1は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、Pはプロピレン基、Eはエチレン基を示し、m、nは平均付加モル数であり、mは1以上、20以下の範囲の数であり、nは1以上、10以下の範囲の数であり、(PO)
m(EO)
nはブロック付加である。〕
R
2−O−(EO)
o(PO)
p(EO)
qH (2)
〔式中、R
2は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、Pはプロピレン基、Eはエチレン基を示し、o、p、qは平均付加モル数であり、それぞれ、1以上、10以下の範囲の数である。o、p、qは同一でも異なってもよい。(EO)
o(PO)
p(EO)
qは、ブロック付加である。〕
【0010】
【化1】
【0011】
〔式中、R
3は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基を示し、R
4、R
5、R
6は同一でも異なってもよく、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はベンジル基を示し、X
-は対イオンを示す。〕
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、紙力の低下が少なく、嵩高性能、水への分散性に優れ、紙の厚みを向上させる事ができ、粘着物質の発生抑制効果と白水の泡立ち抑制効果にも優れた紙用液体嵩高剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
化合物(1)は、主に嵩高性能の発現に寄与すると考えられる。また、化合物(1)に化合物(2)、化合物(3)を組み合わせることで、白水の泡立ち抑制効果にも優れたものとなる。
一般式(1)中、R
1は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、好ましくは炭素数8以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは18以下、より好ましくは16以下のアルキル基、もしくはアルケニル基である。
一般式(1)中、mは、プロピレンオキシ基POの平均付加モル数であり、1以上、20以下の範囲の数である。嵩高性能の観点から、mは、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、そして、好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
一般式(1)中、nは、エチレンオキシ基EOの平均付加モル数であり、1以上、10以下の範囲の数である。水への分散性及び白水の泡立ち抑制の観点から、nは、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、そして、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。
一般式(1)では、(PO)
m(EO)
nは、この順にブロック付加している。
【0014】
化合物(2)は、化合物(1)や化合物(3)の水への分散性を更に高めると考えられる。水への分散性が更に高まる結果、嵩高性能がより効果的に発現し、添加量を低減しても優れた嵩高効果を得ることができる。
【0015】
一般式(2)中、R
2は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、好ましくは炭素数8以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは18以下、より好ましくは16以下のアルキル基、もしくはアルケニル基である。
一般式(2)中、o、qはエチレンオキシ基EOの平均付加モル数であり、pはプロピレンオキシ基POの平均付加モル数であり、それぞれ、1以上、10以下の範囲の数である。化合物(1)や化合物(3)の水中への分散性の観点から、o、p、qは、それぞれ、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、そして、好ましくは9以下、より好ましくは8以下である。
また、pは、嵩高性能発現の観点から、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、そして、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。
o、p、qは、同一でも異なってもよい。
一般式(2)では、(EO)
o(PO)
p(EO)
qは、この順にブロック付加している。
【0016】
化合物(3)は、主に化合物(1)のパルプへの定着を促進すると考えられる。
一般式(3)中、R
3は炭素数6以上、22以下のアルキル基、炭素数6以上、22以下のアルケニル基、又は炭素数4以上、20以下のアルキル基を有するアルキルアリール基であり、好ましくは炭素数8以上、18以下のアルキル基、もしくはアルケニル基である。
一般式(3)中、R
4、R
5、R
6は同一でも異なってもよく、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はベンジル基であり、好ましくは炭素数1もしくは2のアルキル基、又はベンジル基である。
一般式(3)中、X
-は対イオンであり、塩化物イオン(Cl
-)、臭化物イオン(Br
-)などのハロゲン化物イオン、エチルサルフェートイオン等が挙げられ、好ましくはハロゲン化物イオンであり、より好ましくは塩化物イオンである。
【0017】
本発明の紙用液体嵩高剤は、嵩高性能の観点から、化合物(1)を、好ましくは75質量%以上、より好ましくは78質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、そして、紙力維持の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは88質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、含有する。
【0018】
本発明の紙用液体嵩高剤は、水中への分散性の観点から、化合物(2)を、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、そして、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、含有する。
【0019】
本発明の紙用液体嵩高剤は、化合物(1)のパルプヘの定着性を高め嵩高性能を向上する観点から、化合物(3)を、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4.5質量%以上、よりさらに好ましくは5質量%以上、そして、水中への分散性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、含有する。
【0020】
本発明の紙用液体嵩高剤の形態は、化合物(1)、化合物(2)、及び化合物(3)を含有する液体組成物であり、通常は、残部の水を含有する。水としては前記化合物等を有効分とする原料に含まれる水を用いることもできる。本発明の紙用液体嵩高剤が引火性を有さないようにする点から、水を、紙用液体嵩高剤中に5質量%以上含有することが好ましい。この観点から、本発明の紙用液体嵩高剤は、水を、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、そして、好ましくは12質量%以下、より好ましくは11質量%以下、含有する。
【0021】
本発明の紙用液体嵩高剤は、紙の製造時にパルプ原料に添加して用いられる。紙は、印刷用紙、新聞巻取紙、包装用紙、記録用紙などが挙げられ、印刷用紙が好ましい。よって、本発明の嵩高剤は、印刷用紙用液体嵩高剤として好適である。
【0022】
本発明の紙用液体嵩高剤を適用できる紙用のパルプ原料としては、機械パルプ、化学パルプなどのヴァージンパルプから、再生パルプ、脱墨パルプなどの各種古紙パルプに至るものまで広くパルプ一般に適用できるものである。また、本発明の紙用液体嵩高剤の添加場所としては抄紙工程であれば特に限定するものではないが、例えば工場ではリファイナー、マシンチェスト、ヘッドボックスで添加するなど均一にパルプ原料にブレンドできる場所が望ましい。なお、本発明の紙用液体嵩高剤はパルプ原料に添加後、そのまま抄紙され効率よく紙中に残存する。本発明の紙用液体嵩高剤の添加量は、パルプに対して好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0023】
本発明の紙用液体を用いて得られたパルプシートは、無添加品に比べて緊度(測定方法は、後述の実施例記載の方法による)が5%以上、好ましくは7%以上低く、且つJIS P 8112により測定された破裂強度が無添加品の75%以上、好ましくは80%以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0024】
表1の成分を用いて、表2の印刷用紙用液体嵩高剤を調製し、以下の評価を行った。結果を表2に示す。なお、表2では、化合物(1)に該当しない比較化合物も便宜的に化合物(1)の欄に示した。
【0025】
(I)抄紙条件
<パルプ原料>
市中回収された原料古紙(新聞紙/チラシ=60/40、質量比)を4cm×4cmに裁断後、一定量を卓上離解機に入れ、その中に温水及び水酸化ナトリウム(対原料)0.35%(質量基準、以下同様)、脱墨剤として、ステアリルアルコールのエチレンオキサイド50モルプロピレンオキサイド40モル付加物(平均付加モル数)0.3%(対原料)を加え、パルプ濃度13%、45℃で10分間離解した。得られたパルプスラリーに温水を加えてパルプ濃度を1%に希釈し、55℃にて5分間フロテーション処理を行った。フロテーション処理後、水洗、濃度調整を行い1%の脱墨パルプ(以下、DIPという)スラリーとして古紙パルプを用意した。このときのDIPのフリーネスは250mlであった。
【0026】
<抄紙方法>
次に上記のDIPスラリーを、抄紙後のシートの秤量が80g/m
2になるように量り取ってから、pHを硫酸バンドで4.5に調整した。表2の嵩高剤を対パルプ1%添加し、丸型タッピ−抄紙機にて150メッシュワイヤーで抄紙しシートを得た。使用する水の温度は40±5℃に調整した。抄紙後のシートは、0.34MPaで5分間プレス機にてプレスし、鏡面ドライヤーを用い0.1MPaの線圧下、105℃で1分間乾燥した。乾燥されたシートは23℃、湿度50%の条件で1日間調湿してから、紙の嵩高性として紙の緊度、紙力性能として破裂強度を測定した。緊度と破裂強度は、それぞれ、10回の平均値である。
【0027】
(II)評価
<嵩高性(緊度)>
調湿されたシートの秤量(g/m
2)と厚み(mm)を測定し、下記式の計算値より緊度(g/cm
3)を求め、嵩高性の指標とした。
緊度=(秤量)/(厚み)×0.001
なお、緊度は値が小さいほど嵩高性能は高く、緊度の値の0.01の差は有意な差である。
【0028】
<紙力(破裂強度)>
調湿されたシートの破裂強度をJIS P 8112(紙−破裂強さ試験方法)に基づいて測定した。なお、破裂強度は値が大きいほど紙力は高く良好である。
【0029】
<白水の泡立ち>
前記「(I)抄紙条件」の「<抄紙方法>」で表2の嵩高剤を対パルプ1%添加したDIPスラリーについて、実機設備における泡立ちを想定した泡立ち評価を行った。
前記DIPを、80メッシュワイヤーにてろ過し、採取したろ液(白水)の泡立ち性を確認した。泡立ち試験は、白水温度40℃での循環滝落とし試験にて行った。循環流量は、1400mL/分(白水量:500g)にて行い、循環3分後の泡高を評価した。泡立ち性の評価は下記の様にして求めた。なお、泡量は少ない方が好ましく、泡立ち試験の評価点が2以上であれば、実機において操業可能な範囲である。
3:循環開始3分後の泡量が50mL以下である。
2:循環開始3分後の泡量が50mL超、100mL以下である。
1:循環開始3分後の泡量が100mL超である。
【0030】
<インキ成分の溶解性>
粘着異物発生の尺度として、インキ成分の溶解性を確認した。スクリュー管No.7(株式会社マルエム製)のふたの内側に新聞インキ(DIC株式会社製 N/ZナチュラリスNK墨)を0.1g塗布し、50℃にて3日間乾燥した。スクリュー管に、表2の嵩高剤を1000ppmの濃度で含有する水分散液を50g調製し、先の、インキを塗布したふたをはめ、40℃条件下でレシプロシェーカー(大洋科学工業製 R−1)にてレベル10の強さで24時間振盪した。
24時間振盪後の混合液をメンブランフィルター(セルロースアセテート、孔径0.8μm)にてろ過し、1晩放置、乾燥後のメンブランフィルターの白色度を測定し、インキ成分の溶解性とした。インキ成分の溶解性が高い程、混合液中にインキが溶出し、ろ過した後のメンブランフィルター上に多くのカーボンブラックが残り、白色度の値が低くなる。逆にインキ成分の溶解性が低いと、溶液中へのインキの溶出が無く、ろ過後のフィルター上に残る物はなく、白色度の値は高くなる。
なお、白色度の測定は、Technidyne社製のColor TouchPCにて行った。
実機操業において、粘着異物の発生原因は多様であると考えられるが、近年、ほとんどの抄造物に古紙パルプが用いられることから、古紙パルプ中のインキ成分由来の粘着異物の発生が確認されている。古紙パルプ中のインキ成分由来の粘着異物は、古紙パルプ中のインキ成分が紙表面の物性を制御する抄紙薬剤等により白水中に溶け出し、製紙設備や紙表面上で再凝集することにより発生するものと考えられる。したがって、粘着異物を低減するためには、インキの溶解性を低減することが重要であると考えられる。
この評価では、白色度が、80%以上であれば、例えば、古紙パルプ中のインキ成分の溶解性は低く、実機操業において粘着物トラブルが起きにくいものと判断できる。
【0031】
<水分散液の濁度>
水中への分散性の指標として水分散液の濁度を測定した。濁度の値が小さいほど、嵩高剤の水中への分散性が高く、単位質量当たりの嵩高性能が高い事になる。嵩高剤の固形分(水以外の成分)について、1質量%水分散液を調製し、ニッコーハンセン(株)製のポータブル濁度計TN100IRにて水分散液の濁度を測定した。なお、濁度の数値が小さいほど、水への嵩高剤成分の分散性は良好であるといえる。
【0032】
【表1】
【0033】
化合物A、B、C、D、E、F、G、I、N−1、N−2は、特許第3187846号公報の合成例1〜10の何れかの方法に準じて合成した。
【0034】
【表2】
【0035】
比較例8、9は、嵩高剤の調製後に分離が生じたが、強制的に混合して各評価に用いた。