特許第6104145号(P6104145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6104145油脂含有排水の嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104145
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】油脂含有排水の嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/28 20060101AFI20170316BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20170316BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C02F3/28 A
   C02F3/28 B
   C02F3/10 Z
   C02F1/28 N
   C02F1/28 T
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-255843(P2013-255843)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-112532(P2015-112532A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(74)【代理人】
【識別番号】100103735
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 隆盛
(72)【発明者】
【氏名】野口 真人
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−321792(JP,A)
【文献】 特開2005−270862(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/091032(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/117971(WO,A1)
【文献】 特開2009−039709(JP,A)
【文献】 特開平11−347588(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0213883(US,A1)
【文献】 特開平11−244892(JP,A)
【文献】 特開平06−246295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00− 3/28
C02F 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分含有排水を処理するための嫌気性処理装置において、
前記油分含有排水を酸生成菌により酸生成を行う酸生成槽と、メタン発酵槽と、を備え、
前記酸生成槽内に油分吸着剤を備え、
前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする嫌気性処理装置。
【請求項2】
前記油分吸着剤は、シート状又は糸状であることを特徴とする請求項1に記載の嫌気性処理装置。
【請求項3】
前記油分吸着剤は担体であって、前記担体が前記酸生成槽外に流出することを防止するスクリーンが設けられたことを特徴とする請求項1に記載の嫌気性処理装置。
【請求項4】
油分含有排水を処理するための嫌気性処理に用いられ、前記油分含有排水を酸生成菌により酸生成を行う酸生成槽であって、
前記酸生成槽内に油分吸着剤を備え、
前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする酸生成槽。
【請求項5】
前記油分吸着剤は、シート状又は糸状であることを特徴とする請求項4に記載の酸生成槽。
【請求項6】
前記油分吸着剤は担体であって、前記担体が前記酸生成槽外に流出することを防止するスクリーンが設けられたことを特徴とする請求項4に記載の酸生成槽。
【請求項7】
油分含有排水を処理するための嫌気性処理方法において、
前記油分含有排水を酸生成菌により酸生成を行う酸生成工程と、メタン発酵工程と、を備え、
前記酸生成工程は、酸生成槽内に油分吸着剤を備え、
前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項8】
油分含有排水を処理するための嫌気性処理方法に用いられ、前記油分含有排水を酸生成菌により酸生成を行う酸生成工程であって、
酸生成槽内に油分吸着剤を備え、
前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする酸生成工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂のような水難溶性物質と有機物とを含む油分含有排水の嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法に関する。さらに詳しくは、油分含有排水の嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法に利用する酸生成槽及び酸生成工程に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機物を含む排水を処理する方法として、有機物を基質として増殖する種々の微生物を利用する生物処理が知られている。例えば、好気的条件下で生物処理を行う方法としては、活性汚泥と呼ばれる好気性微生物群集を用いた活性汚泥法、または嫌気的条件下で生物処理を行う方法としては、酸生成菌及びメタン生成菌等の嫌気性細菌を用いたメタン発酵法等が知られている。
【0003】
嫌気性処理方法では、嫌気性雰囲気下で微生物活動を利用して有機物を分解するため、曝気動力が不要であり、処理コストを低く抑えることができ、更にメタンガス等の有用ガスも得られることから、産業排水や下水等の処理に広く用いられている。
【0004】
しかし、嫌気性処理方法において、油脂、界面活性剤、分散剤等の水難溶性物質を含む油分含有排水を処理する場合には、これらの物質等は微生物で分解され難いため、微生物活動を阻害したり、生物処理過程で分解されずに処理水に残留したりするといった問題があった。
【0005】
また、高い処理能を有する嫌気性処理方法として、グラニュール状の嫌気性汚泥を用いたUASB(Upflow Anaerobic Sludge Bed)法やEGSB(Expand Granular Sludge Bed)法等の高負荷メタン発酵法が知られている。
【0006】
高負荷メタン発酵法により油分含有排水を処理する場合、油分含有排水を高負荷メタン発酵槽に投入すると、高密度で沈降性のよいグラニュール状の嫌気性汚泥に油分が付着して沈降性が低下するという問題があった。そのため、油分含有排水を高負荷メタン発酵法で処理する場合には、高負荷メタン発酵槽に油分が流入しないようにする必要があった。
【0007】
そこで、従来、油分含有排水を高負荷メタン発酵槽で処理する場合には、油分を分離して有機物とは別に処理していた。例えば、特許文献1には、密閉容器とした酸生成槽内で、油脂等の水難溶性物質を含む油分含有排水を嫌気的に生物処理することにより、ガスを加圧状態で含ませた加圧排水を調製し、そして、加圧排水を大気圧に開放することによりマイクロエアを発生させ、油分とフロックが吸着した吸着フロックをマイクロエアとともに浮上させて除去する方法が記載されている。この方法では、油分が除去された有機性排水は高負荷メタン生成槽で処理され、一方、浮上分離により除去された油分を含む吸着フロックは別のメタン発酵槽で処理される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−252968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された発明は、酸生成槽で油分を除去するため、後工程の高負荷メタン生成槽における処理効率の低下を防止する。しかし、分離された油分は後工程の高負荷メタン生成槽で処理できないために、別のメタン発酵槽を設ける必要があった。そのため、処理装置の構成が複雑化し、装置設置面積も大きくなるという問題が生じていた。
また、特許文献1に記載された発明において、分離された油分は、結局別のメタン発酵槽で処理されており、この処理では滞留時間を長くする必要があるため、メタン発酵槽として非常に大きな槽が必要であった。
なお、分離された油分を好気的に処理することも考えられるが、好気的な生物処理では、油分を有用ガスとして回収できないだけでなく、曝気のためのエネルギーを必要とするためエネルギー効率が非常に悪い。
【0010】
本発明では、構成が簡素で装置が長大になることを回避することができる嫌気性処理装置を提供することを目的とする。また、油分含有排水をメタン発酵処理するときに、油分による微生物の活性低下を防止する嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法を提供することを目的とする。更には、グラニュール汚泥を用いた高負荷メタン発酵槽において、油分を分解物として高負荷メタン発酵の原料に利用することができる嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討した結果、酸生成槽内に油分吸着剤を設けることにより、油分含有排水中の油分が酸生成工程で分解されることを見いだし、本発明を完成させた。そして、これを利用することにより、処理設備が簡素化されるだけでなく、後工程のメタン発酵において、油分の流入による微生物の活性低下を防止できる優れた嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法が提供されるに至った。具体的には、本発明は、以下の嫌気性処理装置及び嫌気性処理方法を提供する。
【0012】
(本願第1発明の構成)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、油分含有排水を処理するための嫌気性処理装置において、酸生成槽と、メタン発酵槽と、を備え、前記酸生成槽内に油分吸着剤を備え、前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする嫌気性処理装置である。
(本願第2発明の構成)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、前記油分吸着剤は、シート状又は糸状であることを特徴とする本願第1発明に記載の嫌気性処理装置である。
(本願第3発明の構成)
上記課題を解決するための本願第3発明の構成は、前記油分吸着剤は担体であって、前記担体が前記酸生成槽外に流出することを防止するスクリーンが設けられたことを特徴とする本願第1発明に記載の嫌気性処理装置である。
(本願第4発明の構成)
上記課題を解決するための本願第4発明の構成は、油分含有排水を処理するための嫌気性処理に用いられる酸生成槽であって、前記酸生成槽内に油分吸着剤を備え、前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする酸生成槽である。
(本願第5発明の構成)
上記課題を解決するための本願第5発明の構成は、前記油分吸着剤は、シート状又は糸状であることを特徴とする本願第4発明に記載の酸生成槽である。
(本願第6発明の構成)
上記課題を解決するための本願第6発明の構成は、前記油分吸着剤は担体であって、前記担体が前記酸生成槽外に流出することを防止するスクリーンが設けられたことを特徴とする本願第4発明に記載の酸生成槽である。
(本願第7発明の構成)
上記課題を解決するための本願第7発明の構成は、油分含有排水を処理するための嫌気性処理方法において、酸生成工程と、メタン発酵工程と、を備え、前記酸生成工程は、酸生成槽内に油分吸着剤を備え、前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする嫌気性処理方法である。
(本願第8発明の構成)
上記課題を解決するための本願第8発明の構成は、油分含有排水を処理するための嫌気性処理方法に用いられる酸生成工程であって、酸生成槽内に油分吸着剤を備え、前記酸生成槽内に前記油分吸着剤を保持しつつ、油分を分解することを特徴とする酸生成工程である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油分含有排水の嫌気性処理装置において、酸生成槽内に油分吸着剤を設けて排水中の油分を当該油分吸着剤に吸着させ、これを酸生成槽内で保持することにより、酸生成槽内で油分を分解することができる。そのため、油分を分解するための別の生物処理装置を設ける必要がなくなり、処理装置が過大になることを防止することができる。
また、本発明によれば、酸生成槽の後工程の嫌気性生物処理槽に油分が流入することを低減することができ、メタン発酵等の嫌気的な生物処理の効率低下を防止することができる。
更には、酸生成槽の後工程に高負荷メタン発酵槽を用いた場合、油分含有排水中の油分は分解物として高負荷メタン発酵槽へ供されるため、油分の流入によるグラニュール汚泥の浮上を防止することができ、高負荷メタン発酵法における有機物原料として油分分解物を利用ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例の嫌気性処理装置及び酸生成槽の構成を示す概略説明図である。
図2】本発明の酸生成槽の別の態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の酸生成槽の更に別の態様を示す概略説明図である。
図4】本発明の実施例の嫌気性処理装置の使用例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、「油分含有排水」とは、水中に油脂分を含有する有機性の排水を示し、主に惣菜加工工場排水、菓子類製造工場排水、食用油製造工場排水等が挙げられる。また、油分を含有する有機性の排水であればよく、下水排水、牛や豚の畜舎排水等で油分を含有する汚泥も含まれる。
【0016】
排水中の油分は、水に難溶性の物質であり、具体的には、動植物性油脂、脂肪酸、炭化水素、芳香油、高級アルコール、界面活性剤等が挙げられる。水中にSS(Suspended Solid)として個体として存在しても、室温付近で液体の油分が乳化分散していても、水と分離した状態であってもよい。
油分含有排水中の油分含量について限定されないが、n−ヘキサン抽出法で測定した油分含量として、30mg/L以上であると本願発明の効果が顕著となり好ましい。特に100mg/L以上であれば、本願発明の効果が更に顕著となる。
【0017】
本発明の嫌気性処理装置における生物処理は、被処理液中の酸素濃度がほぼゼロである嫌気的条件で、有機物を基質としてガスを生成する生物反応が起こる処理である。具体的には、メタン発酵、従属栄養型脱窒が挙げられるが、これに限定されない。特に、有用なメタンガスを発生するメタン発酵は、エネルギー効率の観点から好ましい。
【0018】
メタン発酵は、糖、蛋白質又は油分などの固体や高分子有機物を基質として、プロピオン酸、酪酸等の低級脂肪酸を生成する酸生成、プロピオン酸、酪酸等の低級脂肪酸から酢酸と水素を生成する酢酸生成、及び、酢酸、水素、ギ酸等からメタンと二酸化炭素を生成するメタン生成から構成される。本発明の「酸生成工程」は、主に、糖、蛋白質又は油分などの固体や高分子有機物から低級脂肪酸を生成する酸生成が行われ、「メタン発酵工程」では、主に、低級脂肪酸からメタンを生成するメタン生成が行われる。酸生成とメタン生成の中間である酢酸生成は、酸生成工程、メタン発酵工程のいずれの工程でも行われるが、主にメタン発酵工程に付随する生物処理である。
【0019】
本発明の嫌気性処理装置は、酸生成工程において、油分含有排水中の油分を分解することが可能な酸生成槽を備えた構成である。また、本発明の嫌気性処理装置は、酸生成槽とメタン発酵工程を行うメタン発酵槽を備えた構成である。
そして、本発明の酸生成槽には、メタン発酵工程以外の嫌気性生物処理又は好気性生物処理を組み合わせて使用することも可能である。また、排水処理の態様に応じて、本発明の酸生成槽に他の複数の生物処理を組み合わせてもよい。
【0020】
[酸生成槽及び酸生成工程]
本発明の嫌気性処理装置において、「酸生成槽」とは、油分含有排水中に含まれる糖、蛋白質及び油分などの固体や高分子有機物を分解して、単糖類、アミノ酸、低級脂肪酸及び酢酸を生成する酸生成工程を行うための装置である。酸生成槽は、内部の水温を調整するための手段、pH調整剤を投入するための手段を備えており、酸生成工程に最適な条件に調整される。
酸生成工程は、通性嫌気性細菌である酸生成菌により溶存酸素のない嫌気性雰囲気で行い、水温は20〜40℃、pH5〜8の条件で、酸生成菌、メタン生成菌を維持するために菌が必要とする栄養源である窒素、リン、コバルト及びニッケル等の金属類を添加することが好ましい。
【0021】
本発明の酸生成槽は、内部に油分吸着剤を備えている。「油分吸着剤」とは、油分含有排水中の油分を吸着し、油分吸着剤を酸生成槽内に保持することにより、吸着した油分を酸生成槽内に保持することができるものである。材質は、油分を吸着するものであれば限定されないが、具体的には、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸アルキル、ポリメタクリル酸アルキル、ポリエステル、ポリウレタン等のポリマー材料、ガラス、珪藻土、活性炭、天然セルロース等が挙げられる。ポリマー材料は、油分の吸着性に優れるため好ましく、その中でもポリプロピレンは特に油分吸着性に優れるため好ましい。
【0022】
油分吸着剤の形状については限定されないが、シート状又は糸状、あるいは、球状、ペレット状、ハニカム状等の担体が挙げられる。シート状の油分吸着剤では、取り扱いが容易であり、部品交換等の作業が効率的に行えるため好ましい。また、糸状や担体では、油分含有排水との接触面積が大きくなり、油分を吸着し易いため好ましい。
【0023】
本発明の「シート状」の油分吸着剤とは、シートの表面に油分吸着剤を備えた構成であり、ポリマーの繊維を絡み合わせた不織布などのシート、ポリマーを板状に成型したシート、金属等の板状の支持部材表面にポリマー等の油分吸着剤を固定させたシートでもよい。シート状の油分吸着剤の表面には、油分が吸着し易いように微細な凹凸が形成されていることが好ましい。油分吸着剤のシートの内部を油分含有排水が通過できるように、小さな格子状やヘチマ状(スポンジ状の不規則な立体網目形状)のシートとしてもよい。
【0024】
シート状の油分吸着剤は、複数枚のシートを油分含有排水の流れに沿って垂直方向に平行して保持したり、水平方向や斜め方向に保持してもよい。水平方向や斜め方向に保持する場合、小さな格子状やヘチマ状のシートをフィルタとして、油分含有排水が透過するように構成してもよいし、複数枚のシート状の油分吸着剤を水平方向に交互にずらして保持し、油分含有排水がシート状の油分吸着剤の間を蛇行して通過するように構成してもよい。
シート状の油分吸着剤の方向は、垂直方向に平行して保持することが好ましい。垂直方向に保持することにより、油分含有排水の流れに対して抵抗が小さくなる。また、構成が簡素となり設置しやすいという利点がある。
【0025】
本発明の「糸状」の油分吸着剤とは、糸の表面に油分吸着剤を備えた構成であり、ポリマー繊維の糸や、糸状の支持部材に油分吸着剤をコーティングした糸でもよい。また、糸状の油分吸着剤を絡めて紐状としたようなものも糸状の概念に含まれる。また、油分吸着剤の糸は、油分が吸着しやすいように、分岐するように形成することが好ましい。分岐した糸は、つなぎ合わせて網状としてもよいが、この場合はシート状の概念に含まれる。糸の表面は、油分が吸着しやすいように微細な凹凸を形成することが好ましい。
【0026】
糸状に形成された油分吸着剤は、複数本の糸を油分含有排水の流れに沿って垂直方向に垂らしたり、水平方向や斜め方向に張って保持してもよい。糸状の油分吸着剤を保持する方向は、油分含有排水の流れに対して抵抗が小さくなるように、垂直方向に垂らして保持することが好ましい。
ポリマー糸等の水より比重の小さい油分吸着剤を垂直方向に垂らして保持する場合には、下端部に重りを付けて垂らす、あるいは、酸生成槽の下部に下端を固定することにより酸生成槽内に均一に分布することができる。
【0027】
本発明の「担体」の油分吸着剤とは、粒状物、塊状物の表面に油分吸着剤を備えた構成であり、形状としては、球状、ペレット状、ハニカム状、小円筒状、チューブ状、立方体状等が挙げられる。担体の表面は、油分が吸着し易いように微細な凹凸を形成することが好ましく、波板状、格子状、ヘチマ状の部材で構成することが好ましい。具体的には、複数枚の小さい平板を組み合わせたような複雑な形状を有する球状体や立方体、ポリマー発泡材料(スポンジ片)の球状体や立方体、表面が波板状の小円筒体、ハニカム体等のポリマー成型物や、活性炭粒子、ガラス粒子、珪藻土粒子、天然セルロース粒子等が挙げられる。また、比重の大きい粒子表面にポリマーを被覆して、ポリマー粒子の比重を調整してもよい。
【0028】
担体の油分吸着剤は、スクリーンを設けることにより酸生成槽内に保持される。本発明のスクリーンとは、担体の油分吸着剤を酸生成槽の外へ流出を防止し、油分を吸着除去された排水のみを酸生成槽の外へ流出させるための構成である。よって、担体の粒子径より小さい孔径を有するものであればよい。スクリーンの設置場所は限定されないが、酸生成槽の下部、酸生成槽の出口等に設けることができる。
【0029】
なお、先に述べた「シート状」や「糸状」の油分吸着剤は直接酸生成層に固定することで、酸生成槽内に保持することが可能である。
本発明では、酸生成槽に油分吸着剤を設けることにより、油分含有排水中の油分が油分吸着剤表面に付着し、更にこの油分を吸着した油分吸着剤を酸生成槽内に保持することにより、油分吸着剤に吸着した油分が酸生成菌により徐々に低分子化され、油分吸着剤から剥離する。この反応の繰り返しにより、排水中の油分を酸生成菌により効率よく分解することができる。
また、油分含有排水中の油分を高効率で除去することができるため、後工程のメタン発酵工程において、油分の付着による酢酸生成菌、メタン生成菌の活性低下を防止することができる。
【0030】
酸生成工程に利用される酸生成菌は、浮遊状態で油分含有排水中を流動させてもよいし、多孔質材料、ポリビニルアルコール粒子、活性炭等の充填材表面に生物膜として固定したものを流動させてもよい。
酸生成菌の流動は、酸生成槽内の油分含有排水を撹拌する手段を設ければよい。撹拌手段としては、酸生成槽を攪拌機、ポンプ、ブロワ等により撹拌する方法がある。
撹拌する方法としては、酸生成槽から排出された排水をポンプにより酸生成槽に循環させて撹拌流を形成する方法が好ましい。この方法によると、酸生成槽からの排水を送液するためのポンプを利用でき、他に特別な装置を設ける必要がないという利点がある。
酸生成菌を流動させることにより、油分吸着剤に吸着した油分に酸生成菌が接触して、効率的に油分を分解することができる。
【0031】
本発明の酸生成工程により処理された排水は、メタン発酵工程で処理することができ、排水中の有機性成分をメタンガスに変換することができる。また、酸生成工程により分解された単糖、アミノ酸、低級脂肪酸を、その他の生物処理に利用してもよいし、そのまま肥料として利用してもよい。有用なメタンガスを回収できることから、メタン発酵に使用することが好ましい。
【0032】
[メタン発酵槽及びメタン発酵工程]
本発明の嫌気性処理装置において、「メタン発酵槽」とは、酸生成工程で処理された排水(以下、「酸生成排水」という。)に含まれる低級脂肪酸からメタンを生成するメタン発酵工程を行うための装置である。
メタン発酵工程では、絶対嫌気性細菌であるメタン生成菌により溶存酸素のない嫌気性雰囲気で行い、酸生成排水中の酢酸等からメタンを生成する。メタン生成菌の生育条件としては、水温20〜40℃、pH6〜8であることが好ましい。
【0033】
酸生成排水中の酪酸等の低級脂肪酸は、絶対嫌気性細菌である酢酸生成菌の働きにより酢酸に分解された後、メタン生成菌によりメタンに変換される。メタン生成は、酢酸生成と並行して進行するため、酸生成を最適条件下に保つことで酪酸等の低級脂肪酸は酢酸に分解され、更にメタンに変換される。
【0034】
メタン生成菌をメタン発酵槽に保有する手段としては、浮遊法、固定床法、流動床法、UASB法、EGSB法等がある。浮遊法は、メタン生成菌を浮遊状態で保有する方法、固定床法は、充填材の表面にメタン生成菌を固定させて保有する方法、流動床法は、流動する充填材表面にメタン生成菌を固定させて保有する方法である。
UASB法、EGSB法は、水より比重の高いグラニュール汚泥を用いて、メタン発酵槽の下部から上部に向かうように酸生成排水を流してメタン発酵工程を行う方法である。
【0035】
グラニュール汚泥とは、糸状に生育したメタン生成菌が互いに絡まり、粒径0.3〜3mmの顆粒を形成したものであり、高活性のメタン生成菌が高密度に濃縮されている。また、グラニュール汚泥の代わりに、ポリビニルアルコールのゲル等にメタン生成菌を固定した担体を用いてもよい。グラニュール汚泥を用いたメタン発酵は、高負荷運転が可能であるため好ましい。ゲルに菌を固定した担体と比較してグラニュール汚泥は純粋に菌の集合体であることから、より高負荷の運転が行えるため、より好ましい。
【0036】
グラニュール汚泥を用いた高負荷メタン発酵を行う場合には、メタン発酵槽の上部に、メタンガスと処理水とグラニュール汚泥を分離するための分離装置を設けることが好ましい。分離装置を設けることにより、グラニュール汚泥が処理液と共に流出することを抑制できる。分離装置はメタンガス、処理水、グラニュールを分離できればどの様な形状でもよい。
【0037】
本発明のメタン発酵工程において高負荷メタン発酵法を用いた場合には、油分の付着によるグラニュール汚泥の比重低下を抑制することができ、グラニュール汚泥が処理液と共に流出することを防止できる。
さらには、本発明の嫌気性処理装置では、従来、高負荷メタン発酵法でメタンガスに変換することができなかった油分を、油分分解物としてメタン生成の原料に利用することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
図1は、本発明の実施例の嫌気性処理装置及び酸生成槽の構成を示す概略説明図である。また、図1は、嫌気性処理装置及び酸生成槽の具体例を示すとともに、本発明に係る実施例の嫌気性処理方法及び酸生成工程も示している。
同図に示す嫌気性処理装置1は、酸生成槽2、メタン発酵槽3で構成される。そして、酸生成槽2内には、シート状の油分吸着剤4が固定されている。油分吸着剤4の材質は、ポリプロピレン製である。
シート状の油分吸着剤4は、図示するように、複数枚の油分吸着剤4が油分含有排水の流れ方向と並行して固定されている。
【0039】
酸生成槽2の上部には、油分含有排水を投入するための原水流入路L1が設けられ、下部には、酸生成排水をメタン発酵槽3に送水するための送水路L2が連結されている。また、送水路L2には、酸生成槽内に撹拌流を形成するための撹拌流路L3が分岐しており、送水路L2から分岐した撹拌流路L3は、酸生成槽2の上部に連結されている。なお、送水路L2には、送水するための動力としてポンプ5を備えている。
また、原水流入路L1、送水路L2には、流量調整バルブを設けて、酸生成槽2及びメタン発酵槽3の各槽への送液量を調整する。
【0040】
メタン発酵槽3の内部には、グラニュール汚泥6を含み、高負荷メタン発酵が行われる。高負荷メタン発酵では、メタンガスと処理水とグラニュール汚泥を分離するための分離装置7が設けられ、分離装置7で分離されたメタンガスは、上部に設けられたガス排出路L6から排出して回収する。また、分離装置7で分離された処理水を排出するための排水路L5、処理水の一部を酸生成槽2に返送するための返送路L4を備えている。
また、排水路L5には、流量調整バルブを設けて処理水の排出量を調整し、排水路L5の排出量を超える処理水の一部は、返送路L4より酸生成槽2に返送するように構成する。返送路L4では、メタン発酵槽3より低い位置に酸生成槽2を設置する。これにより、動力を使用せずに自然落下で処理水を返送することできる。
【0041】
本発明の嫌気性処理方法では、原水流入路L1から油分含有排水を酸生成槽2に投入し、油分含有排水中の糖、蛋白質及び油分等の高分子有機物を酸生成工程によって低級脂肪酸に分解する。ここで、油分含有排水中の油分は、油分吸着剤4に付着して油分吸着剤4と共に酸生成槽2内に保持されつつ分解される。そして、酸生成槽2では、送水路L2、撹拌流路L3を介して、油分含有排水を循環することにより撹拌流を形成する。これにより、微生物が油分の表面に付着して効率よく油分を分解することができる。
【0042】
酸生成槽2で処理された酸生成排水は、送水路L2を介してメタン発酵槽3の下部から流入する。図示していないが、メタン発酵槽3へ酸生成排水を流入する際には、多孔管等の分配手段を用いる。分配手段を用いることにより、メタン発酵槽3の底面に酸生成排水を均等に分配することができる。また、分配手段の噴出口は下方向に向けられている。これにより、グラニュール汚泥が底面に堆積することを防ぐことができる。
【0043】
メタン発酵槽3では、酸生成排水中の低級脂肪酸は、グラニュール汚泥6の働きによりメタンと二酸化炭素に転換される。生成されたメタンガスと二酸化炭素は、酸生成排水中を上昇し、分離装置7の外側の領域を通過してメタン発酵槽3の上部に溜まる。そして、メタン発酵槽3の上部に設けられたガス排出路L6から、バイオガスとして回収される。
【0044】
一方、メタン発酵工程により処理された処理水は、分離装置7でグラニュール汚泥6やバイオガスと分離され、排水路L5より排出される。排出された処理水は、必要に応じて好気性処理等を更に行った後、河川等に排水する。
また、排水路L5は返送路L4に分岐しており、処理水の一部を酸生成槽2に返送する。なお、返送路L4は、排水路L5を介することなく、分離装置7内の処理水を直接抜き出す構成としてもよい。
処理水中には酸生成菌等の微生物が含まれているので、このまま排出されれば嫌気性処理装置1内の菌体濃度が低下するが、上記のように処理水の一部を返送することにより、処理水に含まれる菌体が酸生成槽2に返送され、嫌気性処理装置1内の菌体濃度を確保することができる。また、このような返送処理水により、溶存酸素のような酸生成やメタン発酵を阻害する物質を希釈することもできるため、安定した運転が可能となる。
【0045】
本発明の嫌気性処理方法は、酸生成槽2に投入する油分含有排水の流量と、メタン発酵槽3から排出される処理水の流量を同じ流量に調整することにより、連続的に処理することができる。また、油分含有排水の流入と処理水の排出を止めて、バッチ式で処理してもよい。油分含有排水を安定的に処理することができるので、連続的に処理することが好ましい。
【0046】
図2は、本発明の酸生成槽2の別の態様を示す概略説明図である。
同図において、酸生成槽2には、分岐した糸状の油分吸着剤4'が固定されている。油分吸着剤の糸は、ポリプロピレン繊維で形成されている。
糸状の油分吸着剤4'は、酸生成槽2の上部からつり下げられ、油分含有排水の流れ方向と並行して下方に垂れ下がって保持される。ポリプロピレン繊維は、水より比重が小さいため、糸状の油分吸着剤4'の下端を油分含有排水中に維持する手段を設ける。下端を油分含有排水中に維持する手段としては、糸状の油分吸着剤4'の下端に重りを付ける、又は、酸生成槽2の下部に固定する等が挙げられる。これにより、糸状の油分吸着剤4'が酸生成槽2の内部全体に分布するため、油分を広範囲に分布することができ、効率よく油分吸着が行われる。
【0047】
図3は、本発明の酸生成槽2の更に別の態様を示す概略説明図である。
同図において、酸生成槽2には、球状担体の油分吸着剤4"が保持されている。球状担体は、ヘチマ状のポリマー球状体であり、酸生成菌が球状担体の内部を通過することが可能な構成である。また、酸生成槽2の下部には、球状担体が酸生成槽2から流出しないように、球状担体を保持するためのスクリーン8が設置されている。
球状担体は、比重の小さいポリプロピレンからなり、上部から流入する油分含有排水、撹拌流、及び、返送流により流動状態が形成されている。なお、比重の大きい担体を用いて充填床としてもよい。
【0048】
(処理例)
図4は、本発明の実施例の嫌気性処理装置の使用例を示す概略説明図である。
同図における嫌気性処理方法は、油分含有排水の投入量と処理水の排出量を同流量とした連続運転である。なお、本実施例において、酸生成槽2の容量は25m3、メタン発酵槽3の容量は250m3としたが、各槽の容量は、処理量に応じて適宜設定されるものである。
【0049】
本実施例では、酸生成槽2に投入する油分含有排水の流量を500m3/日、メタン発酵槽3より排出する処理水の流量を、油分含有排水の投入量と同じ500m3/日に調整した。流量の調整は、原水流入路L1、排水路L5にそれぞれ設けられた流量調整バルブにより設定した。油分含有排水のCOD(Chemical Oxygen Demand)は、10,000mg/Lとした。
【0050】
酸生成槽2の下部から、ポンプ5により900m3/日の流量で酸生成工程で処理された酸生成排水を抜き出し、600m3/日をメタン発酵槽3に投入した。メタン発酵槽3への流入量は、送水路L2に設けられた流量調整バルブにより設定した。
ポンプ5で送液された酸生成排水の残りの300m3/日は、撹拌流路L3を介して酸生成槽2の上部から撹拌流として還流される。この撹拌流により、微生物が油分表面に付着して効率よく酸生成が行われる。
【0051】
メタン発酵槽3に投入された600m3/日の酸生成排水は、グラニュール汚泥6の働きによりメタンを生成しながら上昇し、処理水として500m3/日が排出される。処理水の残り100m3/日は、返送路L4を介して酸生成槽2の上部から返送される。
この処理水には、酸生成菌等の微生物が含まれており、酸生成槽2の菌体の量の減少を防止する。また、溶存酸素濃度の低い処理水を酸生成槽2に投入することにより、油分含有排水の溶存酸素濃度を低下することができ、微生物の生育条件を安定化することができる。
【0052】
本実施例の嫌気性処理方法により、油分含有排水のCODは、10,000mg/Lから処理水の2,500mg/Lまで低下した。そして、メタン発酵槽3からは、メタンガスを75%含む1,750Nm3/日のバイオガスが回収された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、食用油製造工場等から排出される油分含有排水を効率的に嫌気的条件で処理することが可能な嫌気性処理装置を提供することができる。
本発明は、高負荷メタン発酵処理において、メタンの原料として油分含有排水の油分を利用することが可能な嫌気性処理装置を提供することができる。得られたメタンガスは、燃料や電力として利用することができる。
本発明は、酸生成工程において、油分含有排水の油分を効率的に分解することが可能な酸生成槽を提供することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 嫌気性処理装置
2 酸生成槽
3 メタン発酵槽
4、4'、4" 油分吸着剤
5 ポンプ
6 グラニュール汚泥
7 分離装置
8 スクリーン
L1 原水流入路
L2 送水路
L3 撹拌流路
L4 返送路
L5 排水路
L6 ガス排出路
図1
図2
図3
図4