(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104155
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】腹膜透析治療の間に脈管石灰化を低下させるかまたは予防するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/42 20060101AFI20170316BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20170316BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20170316BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20170316BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20170316BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20170316BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20170316BHJP
A61P 7/08 20060101ALI20170316BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
A61K33/42
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/36
A61P7/08
A61P9/00
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-506322(P2013-506322)
(86)(22)【出願日】2011年4月22日
(65)【公表番号】特表2013-525374(P2013-525374A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】US2011033571
(87)【国際公開番号】WO2011133855
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2014年4月18日
【審判番号】不服2015-19531(P2015-19531/J1)
【審判請求日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】61/327,429
(32)【優先日】2010年4月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(73)【特許権者】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare SA
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ライザー, ブルース エル.
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト, ジェフリー エー.
(72)【発明者】
【氏名】ドルトン, クリストファー アール.
【合議体】
【審判長】
村上 騎見高
【審判官】
蔵野 雅昭
【審判官】
松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0098215号明細書
【文献】
米国特許出願公開第2005/0142212号明細書
【文献】
特表2007−523056号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K33/42
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるための腹膜透析溶液であって、該腹膜透析溶液が、30μM〜150μMの間の範囲の量のピロホスフェートを含み、該腹膜透析溶液が、腹膜透析治療の間に該患者に投与されるものであることを特徴とする、腹膜透析溶液。
【請求項2】
前記腹膜透析溶液は、濃縮物の形態である、請求項1に記載の腹膜透析溶液。
【請求項3】
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸、ピロリン酸の塩およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の腹膜透析溶液。
【請求項4】
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸四ナトリウムである、請求項1に記載の腹膜透析溶液。
【請求項5】
前記腹膜透析溶液は、浸透性因子、バッファー、電解質およびこれらの組み合わせからなる群より選択される透析成分を含む、請求項1に記載の腹膜透析溶液。
【請求項6】
前記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載の腹膜透析溶液。
【請求項7】
前記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載の腹膜透析溶液。
【請求項8】
前記腹膜透析治療は、自動化腹膜透析、連続携行式腹膜透析および連続フロー型腹膜透析からなる群より選択される、請求項1に記載の腹膜透析溶液。
【請求項9】
治療上有効量の、30μM〜150μMの間の範囲のピロホスフェートを含む、腹膜透析溶液。
【請求項10】
前記腹膜透析溶液は、濃縮物の形態である、請求項9に記載の腹膜透析溶液。
【請求項11】
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸、ピロリン酸の塩およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項9に記載の腹膜透析溶液。
【請求項12】
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸四ナトリウムである、請求項9に記載の腹膜透析溶液。
【請求項13】
浸透性因子、バッファー、電解質およびこれらの組み合わせからなる群より選択される透析成分を含む、請求項9に記載の腹膜透析溶液。
【請求項14】
前記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項13に記載の腹膜透析溶液。
【請求項15】
前記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項13に記載の腹膜透析溶液。
【請求項16】
マルチパート腹膜透析製品であって、
濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を含む第1の要素;および
腹膜透析溶液を含む第2の要素であって、該第1の要素と該第2の要素との組み合わせは、治療上有効量の、30μM〜150μMの間の範囲のピロホスフェートを含む混合溶液を形成する、第2の要素
を含む、マルチパート腹膜透析製品。
【請求項17】
前記腹膜透析溶液は、浸透性因子、バッファー、電解質およびこれらの組み合わせからなる群より選択される透析成分を含む、請求項16に記載のマルチパート腹膜透析製品。
【請求項18】
前記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項17に記載のマルチパート腹膜透析製品。
【請求項19】
前記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項17に記載のマルチパート腹膜透析製品。
【請求項20】
マルチパート腹膜透析製品であって、
濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を含む第1の要素;および
腹膜透析溶液を含む第2の要素であって、ここで、該第1の要素は、該第2の要素とは別個の容器中に入れられ、該第1の要素と該第2の要素との組み合わせは、治療上有効量の、30μM〜150μMの間の範囲のピロホスフェートを含む混合溶液を形成し得る、第2の要素
を含む、マルチパート腹膜透析製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景)
本開示は、一般に、医療処置に関する。より具体的には、本開示は、腹膜透析治療および欠乏したピロホスフェートレベルの補充に関連して、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患、傷害もしくは他の原因に起因して、個体の腎システムは、機能不全になり得る。任意の原因の腎不全において、いくつかの生理学的混乱がある。水分、ミネラルおよび1日代謝負荷の排出のバランスは、腎不全においてはもはや不可能である。腎不全の間に、窒素代謝の毒性最終生成物(例えば、尿素、クレアチニン、尿酸など)は、血中および組織に蓄積し得る。
【0003】
腎不全および低下した腎機能は、透析で処置されてきた。透析は、老廃物、毒素および過剰な水を身体から除去する。上記老廃物、毒素および過剰な水は、本来ならば、正常に機能している腎臓によって除去される。腎機能を代償するための透析処置は、多くの人々にとって非常に不可欠である。なぜなら、上記処置は、生命を助けるからである。腎臓が機能しなくなったヒトは、上記腎臓の少なくとも濾過機能を代償しなければ、生き続けられなかった。
【0004】
過去の研究から、末期腎疾患(「ESRD」)患者は、ピロホスフェートが欠乏していることが示されている。ピロホスフェートは、軟組織の石灰化の予防において助けになり得、ピロホスフェートの欠乏は、脈管石灰化およびカルフィラキシーにおけるリスク因子であり得る。しかし、処置もしくは予防としての外因性に送達されたピロホスフェートの潜在的使用、または実際に、インビボでの脈管石灰化の予防におけるその役割の確認は、明確に実証されてもこなかったし、積極的に探求されても来なかった。
【0005】
ピロホスフェートの安定性は、上記分子の経口送達が、この投与経路による低いバイオアベイラビリティーのため、好ましくないというようなものである。ピロホスフェートの皮下注射が試されたが、皮膚壊死の発生から、この投与経路は好ましくない。
【0006】
ビスホスホネート(より化学的に安定な、ピロホスフェートのアナログ)は、脈管石灰化の処置について試されてきた。それらの主な排泄経路は、腎臓を介するものであり、ビスホスホネートは極めて安定な化合物であるので、ビスホスホネートは、腎機能不全に陥ったかもしく腎機能がない患者において毒性レベルまで蓄積し得る。多くのこれらアナログが骨粗鬆症を処置するために現在使用されているものの、患者が薬物を排出できず、ピロホスフェートとは異なり、それらが、遍在して循環しているピロホスフェート分解酵素(例えば、アルカリホスファターゼ)によって分解されないので、末期腎疾患におけるそれらの使用は禁忌である。それらの蓄積は、骨軟化を生じ、そのために、それらの適用の可能性を低下させると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(要旨)
本開示は、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるための方法および組成物に関する。一般的実施形態において、上記方法は、患者に、腹膜透析治療の間に、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む透析溶液を投与する工程を包含する。本開示において特許請求される用量範囲に従う透析溶液の処方物は、治療上有効量のピロホスフェートが腹膜透析治療患者に送達されることを可能にする。上記治療上有効量のピロホスフェートは、上記患者の身体において維持されて、上記患者に有害に作用することなく、脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるのに十分である。上記腹膜透析治療は、例えば、自動化腹膜透析、連続携行式腹膜透析もしくは連続フロー型腹膜透析であり得る。
【0008】
上記方法の一実施形態において、上記ピロホスフェートは、上記透析溶液において約30μM〜約300μMの間の範囲である。上記透析溶液は、単一の溶液、後に希釈される濃縮物、もしくはマルチパート透析製品の形態で存在し得る。上記ピロホスフェートは、ピロリン酸、ピロリン酸の塩もしくはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態において、上記ピロホスフェートは、ピロリン酸四ナトリウムである。
【0009】
上記方法の一実施形態において、上記透析溶液は、1種以上の透析成分を含み、これらとしては、浸透性因子(osmotic agent)、バッファー、電解質もしくはこれらの組み合わせが挙げられる。上記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンもしくはこれらの組み合わせであり得る。上記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、ペプチド、クレブス回路の中間体もしくはこれらの組み合わせであり得る。
【0010】
別の実施形態において、本開示は、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む透析溶液を提供する。代替の実施形態において、上記ピロホスフェートは、約30μM〜約300μMの間の範囲である。上記透析溶液は、単一の溶液、濃縮物もしくはマルチパート透析製品の形態にあり得る。上記ピロホスフェートは、ピロリン酸、ピロリン酸の塩もしくはこれらの組み合わせであり得る。一実施形態において、上記ピロホスフェートは、ピロリン酸四ナトリウムである。
【0011】
上記透析溶液の一実施形態において、上記溶液は、1種以上の透析成分(例えば、浸透性因子、バッファー、電解質もしくはこれらの組み合わせ)をさらに含む。上記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンもしくはこれらの組み合わせであり得る。上記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、ペプチド、クレブス回路の中間体もしくはこれらの組み合わせであり得る。
【0012】
上記透析溶液の一実施形態において、上記透析溶液は、別個に収納された少なくとも2個の透析要素の形態にあり得、上記ピロホスフェートは、上記透析要素のうちの少なくとも一方とともに存在し、上記透析要素
とともに滅菌される。
【0013】
代替の実施形態において、本開示は、濃縮ピロホスフェートおよび/もしくはピロホスフェート粉末を有する第1の要素、および透析溶液を有する第2の要素を含むマルチパート透析製品を提供する。上記第1の要素と上記第2の要素との組み合わせは、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを有する混合溶液を形成する。
【0014】
別の実施形態において、本開示は、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む溶液を提供する。
【0015】
さらに別の実施形態において、本開示は、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させる方法を提供する。上記方法は、上記患者に、腹膜透析治療の間に、投与前もしくは投与の間に希釈されて、上記患者に治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを提供する、濃縮ピロホスフェート溶液および/もしくはピロホスフェート粉末を投与する工程を包含する。上記濃縮ピロホスフェート溶液は、上記投与前もしくは投与の間に、別個の透析溶液で希釈され得る。
【0016】
本開示の利点は、改善された腹膜透析治療を提供することである。
【0017】
本開示の別の利点は、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるための、治療上有効量のピロホスフェートを含む透析溶液を提供することである。
【0018】
本開示のさらに別の利点は、患者に透析を提供する工程において改善された方法を提供することである。
【0019】
本開示のなお別の利点は、腹膜透析治療の一部として、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるための改善された処置を提供することである。
【0020】
本開示の別の利点は、慢性腎疾患、腎不全および/もしくは透析の結果として失われ、脈管石灰化を予防もしくは処置するのみならず、現在定義されていないが正常な生理学的レベルを必要とする他の状態をも処置するために必要とされる、「生理学的に正常な」レベルのピロホスフェートを補充することである。
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下が提供される:
(項目1)
患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させる方法であって、該方法は、
該患者に、腹膜透析治療の間に、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む透析溶液を投与する工程
を包含する、方法。
(項目2)
前記ピロホスフェートは、約30μM〜約300μMの間の範囲である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記透析溶液は、濃縮物を含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸、ピロリン酸の塩およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸四ナトリウムである、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記透析溶液は、浸透性因子、バッファー、電解質およびこれらの組み合わせからなる群より選択される透析成分を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、ペプチド、クレブス回路の中間体およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目6に記載の方法。
(項目9)
前記腹膜透析治療は、自動化腹膜透析、連続携行式腹膜透析および連続フロー型腹膜透析からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目10)
治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む、透析溶液
(項目11)
前記ピロホスフェートは、約30μM〜約300μMの間の範囲である、項目10に記載の透析溶液。
(項目12)
前記透析溶液は、濃縮物を含む、項目10に記載の透析溶液。
(項目13)
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸、ピロリン酸の塩およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目10に記載の透析溶液。
(項目14)
前記ピロホスフェートは、ピロリン酸四ナトリウムである、項目10に記載の透析溶液。
(項目15)
浸透性因子、バッファー、電解質およびこれらの組み合わせからなる群より選択される透析成分を含む、項目10に記載の透析溶液。
(項目16)
前記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目15に記載の透析溶液。
(項目17)
前記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、ペプチド、クレブス回路の中間体およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目15に記載の透析溶液。
(項目18)
別個に収納された少なくとも2個の透析要素を含み、前記ピロホスフェートは、該透析要素のうちの少なくとも一方とともに存在し、該透析要素とともに滅菌される、項目10に記載の透析溶液。
(項目19)
マルチパート透析製品であって、
濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を含む第1の要素;および
透析溶液を含む第2の要素であって、該第1の要素と該第2の要素との組み合わせは、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む混合溶液を形成する、第2の要素
を含む、マルチパート透析製品。
(項目20)
前記透析溶液は、浸透性因子、バッファー、電解質およびこれらの組み合わせからなる群より選択される透析成分を含む、項目19に記載のマルチパート透析製品。
(項目21)
前記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール、フルクトース、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンおよびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目20に記載のマルチパート透析製品。
(項目22)
前記バッファーは、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス、アミノ酸、ペプチド、クレブス回路の中間体およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、項目20に記載のマルチパート透析製品。
(項目23)
治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む、溶液。
(項目24)
マルチパート透析製品であって、
濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を含む第1の要素;および
透析溶液を含む第2の要素であって、ここで該第1の要素は、該第2の要素とは別個の容器中に入れられ、該第1の要素と該第2の要素との組み合わせは、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む混合溶液を形成し得る、第2の要素
を含む、マルチパート透析製品。
(項目25)
患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させる方法であって、該方法は、
該患者に、腹膜透析治療の間に、投与前もしくは投与の間に希釈されて、該患者に、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを提供する、濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を投与する工程
を包含する、方法。
(項目26)
前記濃縮ピロホスフェート溶液は、投与前もしくは投与の間に別個の透析溶液で希釈される、項目25に記載の方法。
【0021】
さらなる特徴および利点は、本明細書に記載され、以下の詳細な説明および図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、2.25mM ピロホスフェート溶液の4ml/kgを静脈内投与(白四角)または0.150μM ピロホスフェート溶液の60ml/kgの腹腔内投与(白丸)の後の、血漿ピロホスフェート濃度を示す図である。
【
図2】
図2は、ApoE KO/CRFモデル:石灰化の発生(大動脈総カルシウム)に対するピロホスフェート添加による毎日の「腹膜透析」の効果を定量的様式で示す図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、ApoE/CRFモデル:石灰化の発生(大動脈弁石灰化)に対するピロホスフェート添加による毎日の「腹膜透析」の効果を定量的様式で示す図である。
【
図4】
図4は、ピロホスフェート含有溶液において試験される用量が脈管石灰化の発生をブロックする能力を定量的様式で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(詳細な説明)
本開示は、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるための方法および組成物に関する。例えば、本開示の実施形態における上記透析溶液は、慢性腎疾患を有する患者、腎不全を有する患者、そして/もしくは腹膜透析治療を受けている患者におけるピロホスフェートの欠乏または不足に起因する、脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させるように処方される。上記ピロホスフェートは、上記透析溶液において治療上有効量で提供され、その結果、上記ピロホスフェートは、上記患者内で有効なレベルでとどまり、上記患者の健康状態に有害に作用することはない。
【0024】
一般的実施形態において、本開示は、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させる方法を提供する。上記方法は、上記患者に、腹膜透析治療の間に、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む透析溶液を投与する工程を包含する。上記患者は、脈管石灰化を有し得るか、または脈管石灰化に罹りやすいか、またはピロホスフェートの欠乏を有し得る。透析溶液の処方物は、本開示において特許請求される用量範囲に従って、治療上の量のピロホスフェートが腹膜透析患者に送達されることを可能にする。
【0025】
別の実施形態において、本開示は、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む透析溶液を提供する。より具体的には、上記ピロホスフェートの上記量は、約30μM、35μM、40μM、45μM、50μM、55μM、60μM、65μM、70μM、75μM、80μM、85μM、90μM、95μM、100μM、110μM、120μM、130μM、140μM、150μM、160μM、170μM、180μM、190μM、200μM、225μM、250μM、275μM、300μM、325μM、350μM、375μM、および400μMなどであり得る。本明細書に記載される上記ピロホスフェートの任意の2つの量は、上記ピロホスフェートの治療上好ましい範囲における終点をさらに代表し得ることは、理解されるべきである。例えば、40μMおよび150μMの量は、上記ピロホスフェートの個々の量、ならびに約40μM〜約150μMの間の、上記透析溶液における上記ピロホスフェートの好ましい範囲を表し得る。
【0026】
薬物動態実験を、腹膜透析溶液を介して送達される場合、外因性のピロホスフェートは、腹膜において迅速に分解されるよりむしろ、ゆっくりと循環に入り得、血漿レベルおよび軟組織レベルの毎日の上昇の潜在力を有して、連続投与を提供し得るという可能性を試験するために設計した。腹腔内経路もしくは静脈内経路を介した投与に関する研究から、静脈内送達される用量は、そのほぼ全量が循環する血漿中で利用可能であることが示されたが;それは、半減期5〜10分で急速に消失した。対照的に、腹腔内経路を介する腹膜透析溶液によって投与された同じ全量は、血漿中により一層ゆっくりと出現し、より低いレベルにおいてピークに達し、約40%が、生物学的に利用可能であり、2時間を超える血漿半減期を示した。腹腔内投与では、測定可能なレベルのピロホスフェートが数時間にわたって持続した。このことは、本明細書に記載される方法もしくは処方物を用いる、ピロホスフェートを補充および維持するための腹腔内経路による優れた送達の可能性を示唆する。
【0027】
驚くべきことに、本明細書に記載される治療上有効な範囲のピロホスフェートの下端は、当業者が以前の文献に基づいて理解されてきたものより高いことが見いだされた。本開示の実施形態に従う上記治療上のピロホスフェート範囲の下限は、一連の研究から集めたデータの組み合わせから導き出された。例えば、透析に対して、慢性腎疾患および末期腎疾患に発生している疾患と類似の疾患を固有に示す動物モデルを使用して、150μM ピロホスフェートを含む溶液が、脈管石灰化の完全にブロックすることを見いだした。有効性の低下は、上記ピロホスフェート濃度が30μM ピロホスフェートへと低下する場合に観察され、このことは、30μM ピロホスフェートがいくつかの治療効果を生じることを示す。本発明者らは、30μM ピロホスフェート以上の濃度が治療上有効であると同時に、30μM未満の濃度は、もはや有効ではないようであるので、上記治療上のピロホスフェート範囲の下限が、約30μM ピロホスフェートであると結論づけた。
【0028】
驚くべきことに、ピロホスフェートの上記治療上有効かつ安全な範囲の上端は、当業者が以前の文献に基づいて理解していたものより遙かに低いこともまた、見いだされた。このことは、動物での効力研究と用量調査研究(dose−finding study)との組み合わせ、ならびに動物毒性研究から決定された。投与に適した最大耐量が、決定された。約400μM ピロホスフェートより高い投与量において、上記患者は、毒物学的影響に起因して、有害な健康状態を経験し得る。慢性毒性研究から、ピロホスフェートが高い方のミリモル濃度(文献中で報告されているとおり)において投与されるまで全身毒性は起こらなかったのに対して、用量調査研究において、ピロホスフェートの600μM以上で局所作用が観察され、無影響量(no−observed−effect level)(「NOEL」)は、300μM ピロホスフェートであることが示された。300μM ピロホスフェートでの観察される毒性作用がなく、かつ600μM ピロホスフェートでの観察される毒性作用があることに基づくと、本発明者らは、上記治療範囲の上限が、約400μM ピロホスフェートであると結論づけた。
【0029】
代替の実施形態において、本開示の方法および透析溶液は、慢性腎疾患、腎不全および/もしくは透析の結果として失われた、患者におけるピロホスフェートの「生理学的に正常な」レベルを補充するために使用され得る。ピロホスフェートの上記生理学的に正常なレベルは、脈管石灰化を予防もしくは処置するのみならず、現在定義されていないが、正常な生理学的レベルを必要とする他の状態をも予防もしくは処置するために必要とされる。
【0030】
本開示の任意の実施形態における上記透析溶液は、任意の適切な滅菌技術(例えば、オートクレーブ、スチーム、高圧、紫外線、濾過もしくはこれらの組み合わせ)を使用して滅菌され得る。上記透析溶液はまた、1種以上の透析成分および1種以上のピロホスフェートが組み合わされる前、その間もしくはその後に、滅菌され得る。
【0031】
上記ピロホスフェートは、例えば、ピロリン酸、ピロリン酸の塩もしくはこれらの組み合わせであり得る。ピロリン酸の塩としては、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウムなどが挙げられる。一実施形態において、上記ピロホスフェートは、ピロリン酸四ナトリウムである。
【0032】
別の実施形態において、本開示は、治療上有効量のピロホスフェートおよび1種以上の透析成分(例えば、浸透性因子、バッファーおよび電解質)を含む透析溶液を提供する。上記透析溶液は、好ましくは、生理学的浸透圧より高く(例えば、約285mOsmol/kgより高く)上記溶液の浸透圧を維持するための量で、上記透析成分を含み得る。
【0033】
上記浸透性因子は、グルコース、グルコースポリマー(例えば、マルトデキストリン、イコデキストリン)、グルコースポリマー誘導体、シクロデキストリン、改変デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリオール(例えば、キシリトール)、フルクトース、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、アミノ糖、グリセロール、N−アセチルグルコサミンもしくはこれらの組み合わせであり得る。上記バッファーとしては、重炭酸塩、ラクテート、ピルベート、アセテート、シトレート、トリス(すなわち、トリスヒドロキシメチルアミノメタン)、アミノ酸、ペプチド、クレブス回路の中間体もしくはこれらの組み合わせが挙げられ得る。上記電解質としては、透析処置に適した、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、およびクロリドなどが挙げられ得る。
【0034】
上記重炭酸塩のバッファーは、上記重炭酸塩がガス遮断外装(gas barrier overpouch)などを使用せずに安定なままであり得るように、アルカリ性溶液であり得る。上記重炭酸塩溶液の要素のpHは、任意の適切なタイプの成分(例えば、水酸化ナトリウムおよび/もしくは類似のもの)で調節され得る。本開示の重炭酸塩溶液の例示としての例は、米国特許第6,309,673号(発明の名称 BICARBONATE−BASED SOLUTION IN TWO PARTS FOR PERITONEAL DIALYSIS OR SUBSTITUTION IN CONTINUOUS RENAL REPLACEMENT THERAPY、2001年10月30日発行(その開示は、本明細書に参考として援用される))において見いだされ得る。
【0035】
種々の異なるかつ適切な酸性および/もしくは塩基性の因子は、浸透溶液、バッファー溶液および/もしくは電解質溶液または浸透濃縮物、バッファー濃縮物および/もしくは電解質濃縮物のpHを調節するために利用され得る。上記酸としては、1種以上の生理学的に受容可能な酸(例えば、乳酸、ピルビン酸、酢酸、クエン酸、および塩酸など)が挙げられ得る。上記酸は、約5以下、約4以下、約3以下、約2以下、約1以下からの範囲のpHを有する、および任意の他の適切な酸性pHを有する個々の溶液中に存在し得る。有機酸(例えば、乳酸)を、単独でもしくは別の適切な酸(例えば、塩酸を含む適切な無機酸、別の適切な有機酸(例えば、乳酸/乳酸塩、ピルビン酸/ピルビン酸塩、酢酸/酢酸塩、クエン酸/クエン酸塩)など)と組み合わせて、その酸溶液中で使用することにより、一実施形態によれば、上記溶液をより生理学的に許容性にし得る。
【0036】
代替の実施形態において、上記透析溶液/濃縮物は、単一の腹膜透析溶液または2個以上の透析要素(例えば、混合されたときに最終透析溶液を作り上げる個々の溶液/濃縮物)を含むマルチパート透析製品(各々の透析要素は、1種以上の透析成分を含む)の形態にあり得る。ピロホスフェートのある量は、上記単一の腹膜透析溶液または上記マルチパート透析製品の透析要素のうちの1種以上に添加され得、上記透析要素
とともに滅菌され得る。上記2個以上の透析要素は、別個に(例えば、別個の容器もしくはマルチチャンバ容器の中に)入れられ、滅菌され得る。混合されたとき、得られる透析溶液は、治療上有効量のピロホスフェートを有する。
【0037】
代替の実施形態において、本開示は、濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を有する第1の要素、および腹膜透析溶液を有する第2の要素を含むマルチパート透析製品を提供する。一実施形態において、上記マルチパート透析製品は、2個の別個の要素を有する単一の容器であり、上記マルチパート透析製品の上記2個の要素の間のバリアもしくは剥離可能なシールを破ると、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを有する最終混合溶液が作られ得る。上記透析溶液は、1種以上の透析成分(例えば、浸透性因子、バッファー、電解質もしくはこれらの組み合わせ)を含み得る。
【0038】
別の実施形態において、上記濃縮ピロホスフェート溶液もしくは上記ピロホスフェート粉末を有する上記第1の要素は、その後、任意の適切な混合技術(例えば、自動化腹膜透析サイクラーなど)を使用して、透析治療のときに上記腹膜透析溶液と混合される上記腹膜透析溶液(例えば、第2の容器の中に入れられる)を有する上記第2の要素から離して、別個の容器もしくはカートリッジの中に保持され得る。この点に関して、上記第1の要素と上記第2の要素との組み合わせは、上記患者に投与され得る治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを含む混合溶液を形成し得る。
【0039】
上記マルチパート透析溶液の個々の透析要素は、上記透析溶液が効率的に調製および投与され得るように、任意の適切な様式で収納もしくは含まれ得ることが、理解されるべきである。種々の容器は、適切な流体連絡機構によって接続される上記2個以上の透析要素(例えば、別個の容器(例えば、バイアルおよびバッグ)を収納するために使用され得る。透析溶液の2個以上の別個の要素は、別個に滅菌され得、上記容器の中に入れられ得る。一実施形態において、上記ピロホスフェートは、上記透析要素のうちの少なくとも1個に添加され得、その透析要素
とともに滅菌される。上記ピロホスフェートを含まない上記透析要素はまた、滅菌され得る。
【0040】
一実施形態において、上記透析要素は、例えば、同じ容器の(例えば、マルチチャンバのもしくはツインチャンバのバッグの)別個の区画もしくはチャンバに別個に入れられ得、透析処置の前もしくはその間に組み合わされ得る。上記チャンバ間のバリア(例えば、上記チャンバの間の剥離シールもしくはもろいもの(frangible)など)の作動は、両方のチャンバの内容物の混合を可能にし得る。上記容器は、ガス不透過性外側容器で覆われ得る。あるいは、滅菌された上記透析要素は、別個に入れられ得、以前に論じられたように、完全な直ぐ使用できる透析溶液を形成するためにいつでも合わせられ得る。
【0041】
以前に論じられたように、透析溶液において浸透性因子として働き得る化合物の適切なファミリーは、グルコースポリマーもしくはそれらの誘導体(例えば、イコデキストリン、マルトデキストリン、ヒドロキシエチルデンプンなど)のファミリーである。これら化合物が浸透性因子として使用するのに適している一方で、それらは、特に、滅菌および長期間貯蔵の間に、低いpHおよび高いpHに感受性であり得る。グルコースポリマー(例えば、イコデキストリン)は、腹膜透析溶液において、グルコースに加えて、もしくはその代わりに使用され得る。一般に、イコデキストリンは、トウモロコシデンプンの加水分解から得られたグルコースのポリマーである。イコデキストリンは、分子量12,000〜20,000ダルトンを有する。イコデキストリン中のグルコース分子の大部分は、α(1−4) グルコシド結合(>90%)で直線的に連結されている一方で、少ない割合(<10%)は、α(1−6)結合によって連結されている。
【0042】
本開示の滅菌された透析溶液は、種々の適切な腹膜透析治療において使用され得る。例えば、上記透析溶液は、腹膜透析治療(例えば、自動化腹膜透析、連続携行式腹膜透析、連続フロー型腹膜透析など)の間に使用され得る。
【0043】
本開示の透析溶液が、上記に記載される成分に加えて、透析処置に適した任意の他の成分/構成要素(ingredient)を含み得ることは、認識されるべきである。一実施形態において、上記単一の(例えば、混合)透析溶液のpHは、広い範囲(好ましくは、約4〜約9の間)を有し得る。別の実施形態において、上記(混合)透析溶液のpHは、広い範囲(好ましくは、約5〜約8の間)を有し得る。
【0044】
さらに別の実施形態において、本開示は、患者における脈管石灰化を低下させる、予防する、またはその進行を低下させる方法を提供する。上記方法は、上記患者に、腹膜透析治療の間に、投与前もしくはその間に希釈されて、上記患者に、治療上有効量の、約30μM〜約400μMの間の範囲のピロホスフェートを提供する、濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を投与する工程を包含する。上記濃縮ピロホスフェート溶液は、上記投与の前もしくはその間に、別個の透析溶液で希釈され得る。上記濃縮ピロホスフェート溶液は、適切な透析機械を使用して自動でもしくは手動で、上記透析溶液で希釈され得る。
【0045】
本開示の透析溶液は、任意の適切な方法によって作製され得る。一実施形態において、上記方法は、2種以上の溶液要素に、1種以上の透析成分(例えば、浸透性因子、バッファーもしくは電解質)を含む少なくとも1個の要素および濃縮ピロホスフェート溶液もしくはピロホスフェート粉末のうちの少なくとも一方を含む別の要素を提供する工程を包含する。あるいは、上記で論じたような、治療上有効な範囲のピロホスフェートは、マルチパート透析製品の1個以上の別個の透析要素に添加され得、上記透析要素
とともに滅菌され得る。上記透析要素は、その後混合されて、最終透析溶液を形成する。
【0046】
上記滅菌は、例えば、オートクレーブ、スチーム、高圧、紫外線、濾過もしくはこれらの組み合わせによって、行われ得る。上記滅菌は、上記透析溶液における上記ピロホスフェートの顕著な分解を生じない温度およびpHにおいて行われ得る。例えば、適切なバッファーは、ピロホスフェート分解を最小限にするレベルにおいて上記pHを維持するために使用され得る。代替の実施形態において、上記方法は、浸透性因子、電解質およびバッファーのうちの1種以上を、治療上有効量のピロホスフェートとともに含む単一の透析溶液を調製する工程、ならびに上記透析溶液を滅菌する工程を包含する。
【実施例】
【0047】
例示であって限定ではなく、以下の実施例は、本開示の種々の実施形態を示し、ピロホスフェートを含む透析溶液で行われた実験的試験をさらに示す。
【0048】
(実施例1:薬物動態/バイオアベイラビリティー研究)
54匹の雄性Sprague Dawleyラット(各々約250g)を、2群(静脈内(「IV」)投与および腹腔内(「IP」)投与)に無作為化した。両群に、2.0mg/kg用量のピロホスフェート(「PPi」)を与えた。群1には、単一ボーラスとして、尾静脈を通じた注入を介して、PPi 2.25mMおよびP−32標識PPi(50μCi,比活性84.5 Ci/mmol)を含む4mL/kg用量のpH調節した(7.4)食塩水溶液を投与し、続いて、0.2mL 食塩水でのフラッシュ(saline flush)を行った。群2には、単一の腹腔内注射を介して、PHYSIONEAL(登録商標) 40透析溶液中のPPiおよびP−32標識PPi(50μCi,比活性84.5Ci/mmol)の0.15mM 溶液を60mL/kg用量投与した。血液(IV)、および血液(IP)と腹水(IP)を、投与後8時間にわたって、種々の時点で集めた。
【0049】
血漿および腹水を、2つの方法によって分析した:総放射活性量に関しては液体シンチレーション法、ならびにピロホスフェートを、ホスフェートおよび他のホスフェート含有化合物から分離するための、放射活性検出を伴うHPLC法。
【0050】
薬物動態パラメーターを、ノンコンパートメントモデル(noncompartmental model)を使用して、血漿濃度および腹水濃度から得た。パラメーターは、最大濃度(「C
max」)、C
maxに達する時間(「T
max」)、血漿半減期(「t
1/2」)および0から最終測定可能時間までの濃度時間曲線下の面積(AUC
0−t)の決定を含んだ。血漿における上記IP用量のバイオアベイラビリティー(「F」)を、F%=(AUC
IP/用量
IP)/(AUC
IV/用量
IV)×100を使用して計算した。薬物動態データを、表1〜2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1〜2におけるデータおよび
図1は、ピロホスフェートの腹腔内送達が、ピロホスフェートの静脈内送達によって得られるものと比較して、ピロホスフェートの長引いた送達を生じるという証拠を提供する。上記長引いた送達は、IV送達で得られる血漿中PPiのより短い半減期(0.12時間)とは対照的に、IP送達により得られる血漿中PPiのより長い半減期(2.19時間)によって実証される。AUC
0−t(時間*μg/mL)によって与えられるピロホスフェートの総送達用量は、静脈内投与より腹腔内投与において低い。同等に、腹腔内送達されるピロホスフェートのバイオアベイラビリティーは、100%より低く、ここでは38%であると認められる。腹腔内投与を介して送達されたピロホスフェートのバイオアベイラビリティーは、新規な知見を構成する。これら研究において集められた薬物動態データ(特に、上記ピロホスフェートのバイオアベイラビリティー)は、上記薬物を如何に首尾よく投与し得るかおよびこのような投与の限界を実証する。
【0054】
(実施例2:透析集団におけるヒト疾患のモデルとしての脈管石灰化の作製)
ホモ接合体のアポリポタンパク質Eノックアウト(apoE
−/−)マウスを、厳密に12時間の明/暗サイクルおよび実験用飼料および水に自由にアクセスできる状態の、病原体なしの温度制御された(25℃)部屋の中の、ポリカーボネートケージの中に収容した。すべての手順は、実験動物のケアおよび使用に関する国立衛生研究所(「NIH」)ガイドライン(NIH刊行物番号85−23)に従った。
【0055】
慢性腎不全(「CRF」)を、8週齢の雌性apoE
−/−マウスにおいて作りだし、次いで、上記マウスを以下のように4群に無作為に割り当てた:
1)非CRF−EKO(ApoEノックアウト)動物(コントロール群,6匹のマウス);
2)透析溶液のみ(PPiなし)で処置したCRF/EKO動物(CRFプラセボ群,8匹のマウス);
3)透析溶液中低用量PPi(30μM(これは、0.21mg PPi/kg体重/日に近い))によって処置したCRF/EKO動物(CRF PPi低用量群,8匹のマウス);および
4)透析溶液中高用量のPPi(150μM(これは、1.10mg PPi/kg体重/日に近い))で処置したCRF/EKO動物(CRF PPi高用量群,8匹のマウス)。
【0056】
2工程手順を使用して、10週齢のマウスにおいてCRFを作り出した。簡潔には、8週齢において、皮質の電気焼灼を、2cmの側腹部切開を介して右腎に行い、対側の腎全摘出術を、同様の切開を介して2週間後に行った。他のマウスには、両方の腎臓の被膜剥離を伴う偽手術の2工程手順(2回の手術の間には14日間の間隔を空けた)を受けさせた。腎摘出術の2週間後に血液サンプルを採取し、この時点で腹腔内カテーテルを埋め込んだ。
【0057】
尿素レベル>20mM(腎障害を確認する[正常マウスの血清尿素は≦12mM])を有する上記CRF群の動物を、その後、3つのCRF亜群に無作為化した:2つのCRF亜群を、2種の異なる用量(6日間にわたって1回の腹腔内注射/日)のPPiで処置し、1つのCRF亜群には、上記透析溶液のみを8週間の期間にわたって与えた。上記研究の最後に、心臓と大動脈起始部(aortic root)とを、その後、上行大動脈から分離した。上記大動脈起始部組織の凍結切片を、脈管石灰化の定量化のために使用し、上記起始部の部位におけるアテローム性動脈硬化病変を評価するために使用した。上記大動脈の胸部を−80℃において貯蔵し、カルシウム含有量の定量化のために使用した。
【0058】
高LDLを有するマウスは、アテローム性動脈硬化を発症させる。部分的腎摘出術を加えたマウスは、腎障害を発症させる。そして上記マウスは心臓および大動脈の顕著な脈管石灰化を生じ、従って、それは多くの透析患者において認められる疾患を摸倣すると予測された。すべての群を、PPiなし(偽群およびCRFプラセボコントロール群)か、もしくは2種の異なる用量のPPi(上記で概説したとおり)を含むかのいずれかの腹膜透析溶液での腹膜透析治療を摸倣する様式で処置した。
【0059】
脈管石灰化(「VC」)に対する、毎日の腹膜送達を介するPPi処置の効果を決定するために、総大動脈カルシウム含有量を最初に測定した。
図2は、CRFの作出が、上記偽群と比較して、大動脈石灰化含有量の顕著な平均値の上昇(約65%)を誘導したことを示す。以前の研究から、Apo−E KOマウスは、非KOバックグラウンドの系統(すなわち、いずれもCRFでなかった場合)よりわずかに上昇したレベルを有することが示された。最高用量(150μM)の PPiでの処置は、大動脈カルシウムの上昇に対するCRFの作用を完全にブロックし、このことは、上記偽群におけるものよりわずかに低い平均値を生じた。低い方の用量のPPi(30μM)は、中程度の低下を生じ、これは統計的に有意ではなかったので(
図2)、用量効果が観察された。
【0060】
次に、形態学的画像処理アルゴリズムを、von Kossaの硝酸銀法を使用して染色した大動脈切片からの石灰化を半自動化測定するために使用することによる方法を使用した(
図3Aおよび
図3B)。これらを、カラー画像から低倍率で取得した。そのプロセスを、2つの連続相に分離した:1)石灰化構造を分離し、組織内のアテローム性動脈硬化病変の領域を区別するための分割、および2)定量化。石灰化構造を、統計的サイズパラメーターの計算を可能にする粒度分析曲線を使用して、上記病変の内側および外側で測定した。
【0061】
この方法を使用することによって、上記大動脈起始部での石灰化の定量化を決定した。これを
図3Aおよび
図3Bに示す。偽手術した(非CRF)群におけるアテローム性動脈硬化病変内部で測定した大動脈起始部石灰化の面積は、CRFを有する動物において大いに増大する(約5倍)ことが観察された(
図3A)。この石灰化の強い用量依存性のブロックは、PPiでの処置後に生じた。PPiの高用量を含む溶液は、CRFに起因する上昇を完全に予防したのに対して、上記低用量を有する溶液は、上記病変内部の石灰化の約50%を阻害した。主に中膜の(medial)石灰化であると想定される上記病変の外部の石灰化を検査したところ、それは上記CRF群において大いに上昇し、両方の用量のPPiによって完全にブロックされた。両方の処置群において、石灰化の平均レベルは、上記偽プラセボの平均レベルよりも低下したようであった。上記偽プラセボからの差異は、統計的に有意ではなかった(
図3B)。
【0062】
代表的な染色の写真は、
図4において定性的形態で示す。繰り返すと、これは、上記処置が石灰化をブロックする能力のみならず、高い方の150μM用量が石灰化を完全にブロックするのに対して、低い方の30μM濃度では、それよりは低いが顕著な石灰化の低下を生じることもまた、実証する。
【0063】
脈管石灰化の上記APOe−KO/CRFマウスモデルにおけるデータは、濃度150μMが、腹膜透析溶液において毎日投与された場合に、すべての脈管石灰化の形成をブロックするに十分であることを実証した。上記効果は濃度30μMにおいて低下したが、なお顕著であった。結果として、この効力研究からのデータは、濃度30μM以上のピロホスフェートが治療有効性を提供する一方で、30μM未満のピロホスフェートの濃度では、もはや有効ではないようであるので、上記治療上の範囲の下限が、約30μM ピロホスフェートであることを示した。
【0064】
(実施例3)
最大耐量研究を、表3における研究設計に従って行った。投与した溶液を、デキストロース濃縮物もしくは改変デキストロース濃縮物、およびバッファー濃縮物もしくは改変緩衝化濃縮物(3:1比(デキストロース:バッファー)で混合)から作製した。上記濃縮物の組成を、表4〜7に示す。上記PPiを、表5および表7に示されるバッファー溶液もしくは改変バッファー溶液中に含めた。試験物品もしくはコントロール物品の各々を、ボーラス注射としてバタフライニードルを介して、容量40mL/kgにおいて、5匹の異なる雌性ラットの各々に、7日間連続して毎日1回腹腔内投与した。最後の投与の1日後に、剖検を行った。
【0065】
すべてのラットの横隔膜(diaphragm)の組織サンプルを切り出し、処理し、パラフィン中に包埋し、切片にした。ヘマトキシリンン・エオシン染色したスライドを調製し、光学顕微鏡で検鏡した。顕微鏡による観察から、変化の相対的重篤度に基づいて主観的にグレード付けした:グレード1=最小、グレード2=軽度、グレード3=中程度、グレード4=顕著。横隔膜の切片における処置関連の組織病理的変化は、≧600μM ピロホスフェート処方物を与えたラットにおける腹膜表面の慢性炎症に限定された。
【0066】
表8は、7日間にわたる上記ラットへのピロリン酸二ナトリウムの腹腔内投与後の臨床観察をまとめる。600μM 濃度を与えたラットにおける、上記横隔膜炎症は、軽度(グレード2)とグレード付けされ、それは線維芽細胞が豊富な、上記切片の厚みのうちの約5〜25%を巻き込む中程度の数の炎症性単核細胞を伴う漿膜下領域によって特徴が示された。900μM 濃度においては、上記反応は、1匹のラットにおいて軽度であり、5匹のうちの4匹のラットにおいては中程度であり、上記切片の厚みのうちの最大50%まで巻き込んだ。上記反応は、少数の好酸球およびマスト細胞を含み、その他の点では、600μMでの反応に定性的に類似していた。コントロールラットおよび処置ラットに由来する横隔膜における残りの組織病理的観察から、コントロール物品もしくは試験物品の投与に関連しない非特異的炎症変化もしくは退行性変化が考えられた。
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
(結論)
40mL/kg/日において7日間連続してラットへ濃度150μM、300μM、600μM、もしくは900μMのピロリン酸二ナトリウムを含む腹膜透析溶液を腹腔内投与すると、≧600μM ピロホスフェート濃度において横隔膜の腹膜表面の慢性炎症が生じた。この研究の条件下では、7日間連続したピロリン酸二ナトリウムを含む腹膜透析溶液の腹腔内投与の無影響量は、40mL/kg/日において300μMであった。
【0074】
全身毒性に対する他者による従来の研究から、ミリモル濃度範囲内の十分高い用量が安全であることが示された。以前の研究は、IV投与でこのことを確認したが、腹膜透析を介して投与した場合、驚くべきことに、遙かにより低い用量(600μM)が、長期に注入した場合に炎症を伴う腹腔内刺激を引き起こし得ることが見いだされた。これは、濃度600μMにおいてさらなる限界を示した。300μM ピロホスフェートでの毒性作用が認められないこと、および600μM ピロホスフェートでの毒性作用が認められることに基づいて、本発明者らは、治療範囲の上限が約400μM ピロホスフェートであると結論づけた。
【0075】
本明細書に記載される現在好ましい実施形態に対する種々の変更および改変は、当業者に明らかであることが理解されるべきである。このような変更および改変は、本主題の趣旨および範囲から逸脱することなくおよびその意図された利点を減少させることなく行われ得る。従って、このような変更および改変が、添付の特許請求の範囲によって網羅されると解釈される。