特許第6104163号(P6104163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6104163高炭素熱延鋼板、冷延鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104163
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】高炭素熱延鋼板、冷延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20170316BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20170316BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C21D9/46 S
   C21D9/46 F
   C22C38/00 301W
   C22C38/00 301U
   C22C38/18
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-529061(P2013-529061)
(86)(22)【出願日】2011年9月15日
(65)【公表番号】特表2013-540896(P2013-540896A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】KR2011006812
(87)【国際公開番号】WO2012036483
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年8月19日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0091086
(32)【優先日】2010年9月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】パク、 キョン−ス
(72)【発明者】
【氏名】シン、 ハン−チュル
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭57−028726(JP,B2)
【文献】 特開2004−137527(JP,A)
【文献】 特開2000−273537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46− 9/48
C21D 8/00− 8/04
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:0.7〜0.9%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下を含み、残部のFeおよびその他不可避の不純物からなる高炭素鋼材を準備する段階と、
前記鋼材を再加熱した後、熱間圧延の仕上げ温度がAr3変態温度以上であるオーステナイト領域で熱間圧延を実施して鋼板を製造する段階と、
相変態が開始する前に、水冷却台(ROT;Run−Out Table)で前記鋼板の冷却を開始し、前記相変態が生じない冷却速度で急速に冷却し、相変態率が10%以下で520〜620℃に到達する冷却する段階と、
前記鋼板の温度を520〜620℃のいずれかの温度の冷却維持温度から±20℃の範囲に維持し、5秒以上60秒以下の時間で相変態させる段階と、
前記鋼板を前記冷却維持温度で巻き取る段階と、
を含む高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は前記冷却維持温度の±5℃範囲に維持する、請求項1に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記相変態させる段階で、前記水冷却台を通過する鋼板を、上部は空冷を行い、下部は水冷を行う、請求項1に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記熱間圧延する段階で、前記鋼板は厚さが1.4mm〜4.0mmに熱間圧延される、請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記冷却する段階で、前記鋼板の冷却速度は50〜300℃/秒である、請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の高炭素熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記巻き取られた鋼板は、熱処理工程を省略し、70%以上の圧下率で冷間圧延する段階をさらに含む、請求項1乃至3のうちのいずれか一項に記載の製造方法で製造される高炭素熱延鋼板を冷間圧延して製造される高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記巻き取られた鋼板は、熱処理工程を省略し、70%以上の圧下率で冷間圧延する段階をさらに含む、請求項4に記載の製造方法で製造される高炭素熱延鋼板を冷間圧延して製造される高炭素冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
質量%でC:0.7〜0.9%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下を含み、残部のFeおよびその他不可避の不純物からなる高炭素鋼材として、前記鋼材の微細組織中の層状炭化物間の層間間隔が50〜200nmであるラメラ(Lamellar)構造の微細パーライトを含み、前記微細パーライト相の層状炭化物間の層間間隔のばらつきが±20nm以内であり、前記微細パーライト相の体積分率が70%以上である高炭素熱延鋼板。
【請求項9】
前記微細パーライト相の平均コロニー(Colony)サイズ(粒径)が1〜5μmである、請求項8に記載の高炭素熱延鋼板。
【請求項10】
前記微細パーライト相とベイナイト相の体積分率の合計が90%以上である、請求項に記載の高炭素熱延鋼板。
【請求項11】
熱延鋼板のビッカース硬度は、300〜400HVである、請求項8、9および10のうちのいずれか一項に記載の高炭素熱延鋼板。
【請求項12】
請求項8、9および10のうちのいずれか一項の熱延鋼板を用いて冷間圧延した高炭素冷延鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高炭素鋼板およびその製造方法に関し、より詳しくは熱間圧延以後の工程を一部省略しても最終製品の品質を満足させることができる後工程省略型高炭素熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼板は炭素を0.3重量%以上で含有し、その結晶組織がパーライト(pearlite)結晶相を有する鋼板(steel)をいう。
【0003】
高炭素鋼板は、最終工程を経た以後に高い強度と高い硬度を有するようになる。このように高炭素鋼板は高い強度と高い硬度を有するため、高い強度と硬度が要求される工具鋼、スプリング鋼または機械構造用鋼として使用される。
【0004】
スプリング用高炭素鋼を生産するための方法を説明する。
【0005】
スプリング用高炭素鋼は、高炭素鋼材を製造した後、熱間圧延と酸洗、そして球状化焼鈍を実施する。そして続いて1次冷間圧延と熱処理、そして酸洗を反復した後、2次冷間圧延を経てスプリング用高炭素鋼を生産する。
【0006】
ここで、熱間圧延以後に酸洗を行う理由は、熱間圧延で製造された初期素材にはやむをえず酸化層が生成されるので、これを除去するためである。そして球状化焼鈍を実施する理由は、熱間圧延によって素材の組織が不均一なのを均質化し、同時に1次冷間圧延が可能なように素材の強度を低くするためである。
【0007】
また1次冷間圧延は、2次冷間圧延の圧下率を最適に制御するために予め1次冷間圧延を実施する。そして1次冷間圧延以後に行われる熱処理工程は、最終製品の微細組織を決定する段階であって、所望の品質を得ることができるように適切な熱処理条件で行う。
【0008】
熱処理以後には再び酸洗を行って、鋼材の表面に生成された追加酸化層を除去し、最終的に2次冷間圧延によって所望の厚さの最終製品を製造する。
【0009】
しかし、以上のようなスプリング用高炭素鋼の製造方法は、熱間圧延以後にも様々な工程を経なければならないため、各工程の費用と工程間の物流などによって非常に多くの費用と時間がかかる問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
微細で均一な微細パーライト組織を有していて、高い強度と高い硬度を同時に有する優れた高炭素熱延鋼板を提供する。
【0011】
熱延工程で微細なパーライトを形成して、後続熱処理工程を省略することができる高炭素熱延鋼板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態は、i)重量%で炭素(C):0.7〜0.9%、ケイ素(Si):0.5%以下、マンガン(Mn):0.1〜1.5%、クロム(Cr):0.5%以下、リン(P):0.05%以下、硫黄(S):0.03%以下を含み、残部の鉄(Fe)およびその他不可避の不純物からなる高炭素鋼材を準備する段階と、ii)前記鋼材を再加熱した後、熱間圧延の仕上げ温度がAr3変態温度以上であるオーステナイト領域で熱間圧延を実施して鋼板を製造する段階と、iii)前記鋼板を水冷却台(ROT;Run−Out Table)で相変態が開始する前に520〜620℃で急速に冷却する段階と、iv)前記冷却された鋼板を前記冷却温度のうちのいずれか一つの温度で相変態が行われるように冷却維持温度を均一に維持する段階と、v)前記鋼板を前記冷却維持温度で巻き取る段階と、を含む高炭素熱延鋼板の製造方法を提供する。
【0013】
このような高炭素熱延鋼板の製造方法の冷却段階で、前記鋼板は冷却途中の相変態率が10%以下であるのが好ましく、前記鋼板は前記冷却維持温度の±20℃範囲で均一に維持するのが好ましい。このような冷却維持温度のさらに好ましい範囲は±5℃である。
【0014】
また、巻取り段階で、前記鋼板の相変態分率が70%以上で巻き取ることが好ましい。
【0015】
また、冷却温度を維持する段階では、前記水冷却台を通過する鋼板を、上部は空冷を行い、下部は水冷を行うのが好ましい。
【0016】
また、熱間圧延段階で、前記鋼板は厚さが1.4mm〜4.0mmに熱間圧延されるのが好ましい。
【0017】
また、冷却段階で、前記鋼板の冷却速度は50〜300℃/秒(sec)であるのが好ましい。
【0018】
さらに、冷却温度を維持する段階で、前記鋼板を5秒乃至60秒間維持することが好ましい。
【0019】
本発明の他の一実施形態では、巻取られた鋼板に対して、酸洗工程と球状化焼鈍工程、そして1次冷間圧延工程から選択されたいずれか一つ以上の工程を省略する高炭素熱延鋼板の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の他の一実施形態では、巻取られた鋼板に対して、熱処理工程を省略し、70%以上の圧下率で冷間圧延する段階をさらに含む高炭素熱延鋼板の製造方法を提供する。
【0021】
本発明の他の一実施形態では、重量%でC:0.7〜0.9%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下を含み、残部のFeおよびその他不可避の不純物からなる高炭素鋼材として、前記鋼材の微細組織中の層状炭化物間の層間間隔が50〜200nmであるラメラ(Lamellar)構造の微細パーライトを含む高炭素熱延鋼板を提供する。
【0022】
ここで、このような微細パーライト相の層状炭化物間の層間間隔は±20nm以内で均一な大きさを有するのが好ましい。
【0023】
また、このような微細パーライト相の平均コロニー(Colony)サイズ(粒径)は1〜5μmであるのが好ましい。
【0024】
また、このような微細パーライト相の体積分率は70%以上であるのが好ましく、さらに好ましくは、微細パーライト相とベイナイト相の体積分率の合計は90%以上であるのが好ましい。
【0025】
また、このような熱延鋼板のビッカース硬度は、300〜400HVであるのが好ましい。
【0026】
本発明の他の一実施形態は、以上のような高炭素熱延鋼板を冷間圧延した高炭素冷延鋼板を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一実施形態による高炭素熱延鋼板の製造方法は、高炭素鋼の熱延工程で相変態途中に起こる変態発熱を上部空冷と下部水冷の弱冷パターンによって効果的に制御することができる技術的効果がある。
【0028】
このように変態発熱を効果的に制御して、熱延段階で均一な微細パーライトを製造することができる技術的効果がある。
【0029】
また、熱延工程での冷却パターンを制御して、上部冷却による形状不良や局部的な過冷を防止することができ、製品の品質を向上させることができる。
【0030】
本発明の一実施形態によって製造された高炭素熱延鋼板は、層間間隔が50nm〜200nmである微細パーライトを製造することができて、高い強度と高い硬度を同時に有する優れた高炭素熱延鋼板を提供することができる技術的効果がある。
【0031】
本発明の一実施形態によって製造された高炭素熱延鋼板は、層間間隔が50nm〜200nmである微細パーライトを製造することができて、後続製造工程の中の熱処理工程を省略することができる技術的効果がある。
【0032】
また、熱間圧延以後、熱処理工程以外にも後続する酸洗工程と球状化焼鈍工程および1次冷間圧延を追加的に省略することができる技術的効果がある。
【0033】
以上のように後続製造工程段階を省略することができるようにすることによって、製品生産時に後続工程の費用を節減することができ、製造工程時間を短縮することができる。
【0034】
また、付随的に酸洗工程および熱処理工程などで発生する環境汚染を防止することができる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態による高炭素熱延鋼板の製造工程を従来の製造工程と比較して示す比較工程図である。
図2】本発明の温度による微細組織差を比較するための実施例および比較例によって製造された高炭素熱延鋼板の微細組織を示す顕微鏡組織写真である。
図3】製造された高炭素熱延鋼板の微細パーライト組織を示す顕微鏡組織写真である。
図4】本発明の一実施形態による冷却方法とそれによる鋼板の温度変化および相分率変化を示す説明図である。
図5】本発明の比較例によって鋼板の上部と下部を冷却して製造された熱延鋼板の形状を示す写真である。
図6】本発明の微細組織の均一性有無を確認するための比較例によって製造された高炭素熱延鋼板の微細組織を示す顕微鏡組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものに過ぎず、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外させるのではない。
【0037】
異なって定義しなかったが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一な意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り理想的であるか非常に公式的な意味に解釈されない。
【0038】
また、本発明で成分元素の化学組成に対する表示は、特別な説明がない限り、全て重量%を意味する。
【0039】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。このような実施形態は単に本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明がここに限定されるのではない。
【0040】
本発明の一実施形態による高炭素熱延鋼板は、重量%でC:0.7〜0.9%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下を含み、残部のFeおよびその他不可避の不純物からなる。
【0041】
以下、このように高炭素熱延鋼板の化学組成を限定した理由について説明する。
【0042】
まず、炭素(C)について説明する。炭素(C)は高炭素鋼微細組織の分率を決定する成分である。炭素(C)を0.7%以下に含有する場合、熱延工程でフェライト組織が生成されるかパーライトの炭化物層が薄くなって組織の強度が低くなる原因になる。また、Cを0.9%を超過して含有する場合、熱延工程で初析セメンタイトが形成されるかパーライトの炭化物層が厚くなりすぎて強度が過度に高くなり、このようになる場合、冷間圧延性を低下させるか最終製品の耐久性が低くなる原因になる。したがって、炭素(C)は0.7〜0.9%範囲で含有するのが好ましい。
【0043】
次に、ケイ素(Si)について説明する。ケイ素(Si)は脱酸剤として作用するだけでなく、強度を向上させる役割を果たす。しかし、ケイ素(Si)の含有量が増加するほど、強度は高くなることがあるが、熱間圧延工程中または後続製造工程で鋼板表面にスケールが形成されて製品の表面品質を低下させることがある。したがって、ケイ素(Si)は0.5%以下に含有するのが好ましい。
【0044】
次に、マンガン(Mn)について説明する。マンガン(Mn)は硬化能を向上させて強度を向上させ、硫黄(S)と結合してMnSを生成し、硫黄(S)によるクラック生成を抑制することができる。したがって、MnS形成のためには0.1%以上のマンガン(Mn)を含有する必要性がある。しかし、マンガン(Mn)は1.5%以上で過度に多く含有する場合、靭性が低下するか相変態が必要以上に遅延する原因になる。したがって、マンガン(Mn)0.1〜1.5%範囲で含有するのが好ましい。
【0045】
次に、クロム(Cr)について説明する。クロム(Cr)は強度を向上させ、脱炭を抑制し、硬化能を向上させる作用をする。しかし、クロム(Cr)は0.5%以上に多く含有する場合、必要以上に硬化能を増加させる原因になる。したがって、クロム(Cr)は0.5%以下に含有するのが好ましい。
【0046】
次に、リン(P)について説明する。リン(P)はその含有量が0.05%を超える場合には結晶粒界に偏析して靭性を低下させる原因になる。したがって、リン(P)は0.05%以下にその含有量を制御するのが好ましい。
【0047】
次に、硫黄(S)について説明する。硫黄(S)はその含有量が0.03%を超える場合には製造工程中に析出して鋼を脆化させる原因になる。したがって、硫黄(S)は0.03%以下にその含有量を制御するのが好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態による高炭素熱延鋼板は、以上の元素成分以外の残りは鉄(Fe)であり、その他不可避の不純物が含まれる。
【0049】
以下、前述の高炭素熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0050】
まず、重量%でC:0.7〜0.9%、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下を含み、残部のFeおよびその他不可避の不純物からなる高炭素鋼材(例えば、スラブ形態)を製造する。
【0051】
その次に、製造された鋼材を再加熱した後、熱間圧延を実施する。熱間圧延は、仕上げ温度がAr3変態温度以上であるオーステナイト領域で実施するのが好ましい。このように熱間圧延の仕上げ温度を設定した理由は次の通りである。
【0052】
熱間圧延の仕上げ温度をAr3変態温度以下で熱間圧延すると、初析フェライトや初析セメンタイトが形成されて、最終組織の強度や耐久性を低下させる原因になるためである。
【0053】
このような条件で前記鋼材を熱間圧延して、厚さが1.4mm以上であり4.0mm以下である薄板を製造する。このように熱延鋼板の厚さを限定する理由は、薄板の厚さが4.0mmを超過すると、後続冷却段階および温度維持段階で十分な冷却量を確保することができないため巻取り以前に相変態率を確保することができず、温度維持段階で下部冷却時に厚さ方向の温度偏差が大きくなって均一な組織を得ることができない。また、熱延鋼板の厚さが1.4mmより小さいと、熱間圧延負荷が大きくなって圧延がよく行なわれないだけでなく、熱延以後に最終製品を製造する場合、冷間圧延による厚さ減少量が小さくなって冷間加工量が減るようになり、これによって最終製品の強度が低くなる。
【0054】
その次に、前記薄板を水冷却台(ROT;Run−Out Table)で制御冷却で相変態開始前に520℃以上620℃以下に急速に冷却するのが好ましい。このときの冷却速度は50〜300℃/秒(sec)が好ましい。また、このような温度範囲で薄板を冷却する理由は次の通りである。
【0055】
薄板の冷却温度が520℃より低いと、微細パーライトに変態するのではなく、多量がベイナイトに変態し(図2の比較例1−1参照)最終製品の耐久性を低下させる原因になる。また、冷却温度が620℃を超過する場合、粗大パーライトが形成され(図2の比較例1−2または比較例1−3参照)層状炭化物間の層間間隔が大きくなって強度が低下する原因になる。
【0056】
また、このような冷却段階では冷却する途中の相変態が10%を超過しないように制御しなければならない。これは、冷却段階での相変態は温度維持段階より高い温度で相変態が起こるので、均一な微細パーライト組織を得ることができないためである。
【0057】
その次に、冷却された前記薄板は冷却温度区間の中のいずれか一つの温度で±20℃範囲で均一に維持するのが好ましく、さらに好ましくは±5℃範囲で均一に維持する。例えば、薄板が冷却によって冷却温度区間の520℃〜620℃に含まれる580℃まで冷却された場合、この温度の±20℃である560℃〜600℃範囲内に薄板の温度を維持するのが好ましい。
【0058】
高炭素鋼の場合、鋼中に炭素が多く含まれていて、相変態の途中で変態発熱によって鋼材の温度が上昇する。このように鋼板が相変態の途中で変態発熱が発生すると、空冷中には鋼板の温度がむしろ上昇する現象が発生して、均一な組織を得ることができなくなる。
【0059】
したがって、変態発熱による温度上昇を防止して鋼板の温度を均一に維持するためには、鋼板を水冷する必要がある。しかし、熱間圧延設備で速く移動する鋼板に対して上下部を全て水冷する場合、温度制御が難しいだけでなく、場合によって冷却速度が速くなって温度がむしろ下がり、これによって組織が不均一になることがある。したがって、このように鋼板の温度が不均一になることを防止するために、通板中の鋼板の上部は空冷で冷却し、下部は水冷で冷却することが好ましい。
【0060】
このように冷却された鋼板に対して、その上部は空冷を行い、その下部は水冷を行って、鋼板の変態発熱による温度上昇を抑制することによって、鋼板の温度を一定に維持して均一な相変態を起こす温度維持段階を経るようになる。
【0061】
このような方法で制御冷却をすると、変態発熱に該当する温度上昇分のみを冷却するようになって、温度を±20℃範囲に維持することができる。このように相変態中の鋼板の温度を均一に維持させることによって、鋼板の組織を均一な微細パーライト組織に相変態できるようにする。
【0062】
また、鋼板の上部を空冷することによって、鋼板は水冷による幅方向温度偏差および滞留水による局部的な過冷などを防止することができる。これによって鋼板の材質偏差を低減することができる。また、上部冷却による幅方向温度偏差および滞留水は熱延鋼板の形状が不良になる結果をもたらす。図5は形状不良の一例として、上部と下部を同時に冷却したものであって、熱延鋼板が波のようにくねくねとした形状を示している。このような形状が不良である場合には、後続工程の作業性を低下させるか製品の品質を低下させる。したがって、下部冷却による制御は窮極的に熱延鋼板を用いて製造された鋼製品の品質を向上させることができる。
【0063】
以上のように前記薄板を一定の温度に維持して相変態を完了させた後、前記鋼板を巻取機でコイル状態に巻き取る。このとき、巻取り温度は鋼板の冷却維持温度で直ちに巻き取ることが好ましい。
【0064】
また、鋼板の巻取り時点で、鋼板の相変態分率は70%以上にならなければならない。このとき、相変態分率が70%より小さいと、巻取り以後に相変態が起こりながら変態発熱を起こすようになり、持続的に相変態温度が高まるようになって均一な微細パーライト組織を得ることができない。また、温度上昇と相変態によって巻取り形状低下する原因になる。このように鋼板の相変態分率が70%以上になるために、鋼板の冷却温度維持時間を5秒以上60秒以下に制御することが好ましい。
【0065】
以上のような工程によって製造された熱延鋼板は、後続する工程全体または選択的にいずれか一つの工程を省略することが可能である。省略可能な後続工程は熱間圧延以後の酸洗工程、球状化焼鈍工程、1次冷間圧延工程、そして熱処理工程である。
【0066】
従って、本発明の一実施形態による高炭素鋼製造方法は、以上の工程によって製造された熱延鋼板に対して熱処理工程を省略して直ちに最終冷間圧延を実施することが好ましい。
【0067】
このとき、鋼板の冷間圧延は70%以上の圧下率で冷間圧延するのが好ましい。冷間圧延は最終製品の要求特性に合うように圧下率を調節することによって製品の厚さを合わせ、最適の強度と耐久性を確保することができる。
【0068】
従来の熱延工程では均一な微細パーライト組織を得ることができなかったために、後工程である高費用の熱処理工程によって均一な微細パーライト組織を作らなければならなかった。しかし、本発明の一実施形態による高炭素鋼製造方法は、熱延工程段階で均一な微細パーライト組織を形成させることができるために、後続工程および微細パーライト組織形成のための熱処理工程を省略することが可能である。
【0069】
このように製造された冷延鋼板は成形加工工程によって所望の製品に加工した後、変形時効によって最終製品に製造される。以下、以上の工程によって製造される後工程省略型高炭素熱延鋼板の組織について説明する。
【0070】
後工程省略型高炭素熱延鋼板の組織は、層状炭化物間の層間間隔が50nm乃至200nmであるラメラ(Lamellar)構造を含む微細パーライト組織に形成される。このとき、層状炭化物の間隔が200nmを超過すると、炭化物の間の軟質層が広くなって、強度が低くなる。また、層状炭化物の間隔が50nmより小さいと、過度に強度が高くなり、耐久性が低くなる原因になる。
【0071】
このような微細パーライトの層状炭化物の間隔の偏差は、平均大きさに比べて±20nm以内に均一な大きさを有するのが好ましい。熱延鋼板で形成された微細組織は後続熱処理工程なしに最終製品に使用されるため、これを均一に制御することが必要である。このとき、層状炭化物の間隔が平均大きさに比べて±20nmを超過すると、微細組織の均一性が低下して最終製品の耐久性を満足させることができず、製品の不良率が高くなる原因になる。
【0072】
また、微細パーライトの平均コロニー(Colony)大きさ(粒径)は、1μm乃至5μmで形成されるのが好ましい。このとき、コロニー大きさが1μmより小さいと、疲労亀裂遅延効果が落ち、5μmを超過すると、変態速度が遅くて巻取り以前の相変態分率を確保することができなくなる。
【0073】
図3はこのような微細パーライトのコロニーに対する説明および層状炭化物の間隔に対する説明を示している。
【0074】
後工程省略型高炭素熱延鋼板の微細組織において、このような微細パーライト相は70%以上の体積分率を占め、全体的には微細パーライト相とベイナイト相の合計が90%以上に形成するのが好ましい。
【0075】
微細組織において、微細パーライトは強度と耐久性を向上させる役割を果たすので、このような微細パーライト相は70%以上の体積分率を確保するのが好ましく、ベイナイト相は高い強度を維持させる役割を果たすので、微細パーライト相との合計が90%以上を確保するのが好ましい。
【0076】
また、後工程省略型高炭素熱延鋼板の微細組織において、強度を低下させるフェライト相と、耐久性を低下させるマルテンサイト組織は10%を超過しないようにするのが好ましい。
【0077】
また、このような後工程省略型高炭素熱延鋼板はビッカース硬度が300HV乃至400HVであるのが好ましい。このような硬度範囲を有する熱延鋼板は後続する冷間圧延以後の最終製品の強度を得るために必要な初期強度値を確保することができる。
【0078】
以下、実験例によって本発明をより詳しく説明する。このような実験例は単に本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明がここに限定されるのではない。
[実験例]
【0079】
後工程省略型高炭素熱延鋼板の微細組織と硬度を調査するために下記表1のような組成を有する高炭素鋼を準備した。
【表1】
【0080】
表1の組成を有するスラブを製造した後、このスラブを1170℃で再加熱して、熱間圧延をして薄板を製造した。
【0081】
熱間圧延による熱延鋼板の板厚さは比較例と実施例の両方とも2.01mmになるようにした。
【0082】
以上のように仕上げ熱間圧延した薄板を水冷却台で急冷して、下記表2の条件で冷却した後、それぞれの冷却温度で±5℃範囲に制御して均一に維持した後、各冷却温度でそのまま薄板を巻き取った。
【0083】
以上のように変態温度を別にして製造した各薄板に対して、それぞれの微細組織と硬度を測定し、その結果を下記の表2に共に示した。ここで、表1の実施例1は表2における比較例1−1乃至比較例1−4、そして実施例1−1乃至実施例1−3に該当し、表1における比較例2と比較例3はそれぞれ、表2における比較例2−1と比較例3−1に該当するサンプルである。
【表2】
【0084】
図2は、比較例1−1乃至比較例1−3と、実施例1−1、そして実施例1−3によって製造された薄板に対してそれぞれの微細組織を撮影して示す顕微鏡写真である。そして図3は、実施例1−2によって製造された薄板に対して微細組織を撮影して示す顕微鏡写真である。
【0085】
図2図3から分かるように、比較例1−1は変態温度が500℃で低くてベイナイト相を示し、比較例1−2と比較例1−3は変態温度が650℃と700℃で高くて粗大なパーライト相を示した。しかし、これに反し、実施例1−1と実施例1−2、そして実施例1−3の場合には均一な微細パーライト相を示した。
【0086】
表2に示されているように、パーライトにおいて層状炭化物間の層間間隔は、ベイナイト相を示す比較例1−1を除いては、温度が増加することによって増加する傾向を示した。特に、比較例1−3の場合は700℃の高い変態温度によって、層間間隔が346nmで、非常に大きな値を示した。
【0087】
また、表2から分かるように、ビッカース硬度値は変態温度と反比例関係を示した。変態温度が500℃で低い比較例1−1の場合、非常に高い硬度値を示し、このような事実は冷間圧延後の最終製品の強度が非常に高くて耐久性が低くなる要因になる。
【0088】
一方、比較例1−4は変態温度が一定に維持されず、600℃〜680℃の範囲内で制御されて微細組織の層間間隔が均一でなく(図6)、硬度も均一でない結果を示した。このように均一でない組織は硬度の低い部分に変形と応力が集中する現象によって、最終製品の耐久性を低下させる原因になる。
【0089】
また、比較例2−1と比較例3−1は炭素含量がそれぞれ0.57%と1.04%で、多少低いか高い炭素含量を示していて、これを変態温度580℃で生産した場合、層間間隔と硬度が基準値を外れる結果を示した。炭素含量の低い比較例2−1の場合、炭化物の 層間間隔が広くて低い硬度値を示し、炭素含量の高い比較例3−1の場合、炭化物の層間間隔が狭くて高い硬度値を示した。
【0090】
図4は実施例1−2を参照して熱間圧延された薄板を冷却する方法とそれによる鋼板の温度変化、そして相分率変化を示す説明図である。
【0091】
図4において図面符号1は水冷却台の冷却状態を表示したコントロールパネルを示す。
【0092】
このコントロールパネル1において左側のロール図(FDT)は仕上げ熱間圧延ロールを示し、右側のロール図(CT)は巻取ロールを示す。そして、図4の図面符号4は水冷却台の前半部を示すもので、仕上げ熱間圧延後の薄板を水冷却台で急冷させる冷却段階を示す。そして、図4の図面符号5は水冷却台の後半部を示すもので、冷却段階以後に冷却された薄板を冷却された温度状態そのままその温度を維持する温度維持段階を示す。
【0093】
図4において冷却段階4と温度維持段階5での水冷却台には左側から右側にL1乃至F16と命名した冷却水噴射バンクが設置されている。これらそれぞれの冷却水噴射バンクは複数個の冷却水噴射ノズルから構成され、必要によって冷却水噴射ノズルの個数と噴射バンクの個数を制御して、冷却水噴射量を制御する。図4においてL1乃至F16直下部ラインおよびコントロールパネル1の最下部ラインに表示された数字(0または1、2、4)は各噴射バンクで作動しているノズルの個数を示す。
【0094】
本実験例において、冷却段階4ではロールの間を通過する薄板(仕上げ熱間圧延ロールと巻取ロールの中心を連結する線)の上部と下部で噴射バンクを作動させて冷却水を同時に噴射し、温度維持段階5では薄板の上部に設けられた冷却水噴射バンクは作動せず、薄板の下部に設けられた冷却水バンクのみを作動して、薄板の下部のみを冷却させている。このような水冷却台の作動状況は比較例1−1乃至比較例1−3、そして実施例1−1乃至実施例1−3まで全て同一である。
【0095】
次に、図4における図面符号2について説明する。図4の図面符号2は実施例1−2による高炭素薄板に対して水冷却台での温度の変化および通過時間を示している。実施例1−2の薄板が水冷却台の冷却段階4で880℃から冷却されて、580℃で冷却を停止した後、温度維持段階5では580℃±3を継続して維持6している。
【0096】
このように実施例1−2による高炭素薄板が水冷却台を通過しながら示す薄板の時間による相変化率を示すものが図4の図面符号3である。そして、図4の図面符号7は巻取り時点の相変態分率を示す。
【0097】
図4で例示したような実験条件で製造した実施形態1−2の薄板に対して顕微鏡組織写真を撮影したものを図3に示した。
【0098】
図3のように実施例1−2によって製造された薄板は、その微細組織が微細なパーライトに形成されており、微細組織の層状炭化物間の層間間隔が123nm程度であるラメラ(Lamellar)構造であり、微細パーライトの平均コロニー(Colony)サイズは約2μmである。
【0099】
次に、製造された薄板のうちの比較例1−1と実施例1−3を選択して、冷間圧延を実施した。
【0100】
冷却圧延を実施するためにまず、製造された熱延鋼板に対して酸洗を実施して、表面酸化層を除去した。その後、この熱延鋼板に対して圧下率88.5%で冷間圧延して、厚さ0.23mmの冷延鋼板を製造した。
【0101】
このような条件で冷間圧延を行った結果、比較例1−1によって製造された熱延鋼板は冷間圧延途中に側面から亀裂が発生して、鋼板自体が切断される問題が持続的に発生し、一定の圧下率以上では強度が大き過ぎてそれ以上冷間圧延がされなかった。
【0102】
しかし、実施例1−3の条件によって製造された熱延鋼板は以上の冷間圧延条件で均質な品質の冷延鋼板が製造された。
【0103】
したがって、実施例1−3によって製造された冷延鋼板に対してスプリングに成形加工した。このように加工された製品に対して変形時効を経てスプリング用高炭素鋼に製造した。
【0104】
このように製造されたスプリング用高炭素鋼に最終製品テストを実施した結果、引張強度は2205MPa、そして耐久性は12万回以上を発揮することを確認した。
【0105】
したがって、本発明の実施例によって熱間圧延および冷間圧延を実施した後、スプリング鋼に製造する場合、最終スプリング鋼の要求基準である引張強度2200MPa以上と耐久性12万回以上を確保することができるという事実を確認した。
【0106】
以上のように熱間圧延によって均一な微細パーライト組織を形成する場合、熱処理などの後続製造工程を省略しても所望の品質の最終製品を得ることができるのを確認した。
【0107】
以上のように本発明の一実施形態を前述のとおり説明したが、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を逸脱しない限り、多様な修正および変形が可能であるということを本発明の属する技術分野に務める者は容易に理解できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6