(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0006】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、生体由来の細胞から構成される膜状組織について、その原形状を損なうことなく、品質や生物学的活性を保持するとともに、かかる膜状組織の保存及び輸送を簡便に行うことができる膜状組織の保存輸送容器及び保存輸送方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、生体由来の細胞からなる膜状組織を保存又は輸送するために使用する膜状組織の保存輸送容器であって、上方に開放した上側開口部を有する容器本体と、前記容器本体の前記上側開口部を閉じ得るように構成された蓋部材とを有する外側容器と、前記容器本体と前記蓋部材とを結合させる結合機構と、前記外側容器内に配置され、前記膜状組織の平面形状よりも大きく下方に開放した下側開口部を有し、前記容器本体の底部に下端が当接することで前記下側開口部が閉じられた内側容器と、前記内側容器と前記蓋部材とに挟まれた弾力性を有する介在部と、前記内側容器内に気体層が形成されることがない程度に前記内側容器内に満たされた保存液とを備え、前記内側容器内に満たされた前記保存液中に前記膜状組織が浮遊状態で存在
し、前記内側容器は、前記介在部の前記弾力性によって前記容器本体に押し付けられていることを特徴とする。
【0008】
上記のような本発明の構成によれば、内側容器内に満たされた保存液中に膜状組織が浮遊状態で存在することから、保存輸送容器が振動を受けても、内側容器内の保存液が波打ったり流動したりすることがないため、膜状組織の破損を防止できる。また、膜状組織を取り出す際に、膜状組織及び保存液を別の容器に移し替える必要がなく、迅速に作業を行えるとともに、移し替え作業に伴う膜状組織の破損の可能性を本質的に回避できる。さらに、外側容器の製作精度に起因して外側容器の形状や寸法にある程度の誤差があっても、当該誤差は介在部の弾力性(伸縮性)によって吸収することができるので、外側容器内で内側容器を安定的且つ確実に固定することができる。
【0009】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記内側容器は、前記容器本体の底部から離間して対向するとともに通液可能に構成された通液性壁部を備え、前記内側容器と前記介在部が互いに密着することにより、前記内側容器と前記介在部との間が液密にシールされている。
【0010】
上記の構成によれば、保存輸送容器の組立工程において、通液性壁部を介して内側容器内から空気を排出できるので、内側容器内を容易に液体で満たすことができる。また、内側容器と介在部との間が液密にシールされているので、内側容器と介在部との間を通して内側容器内に空気が流入することを防止できる。
【0011】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記内側容器は、上下に開口した筒状部を有し、前記通液性壁部は、前記筒状部の高さ方向の途中位置に設けられるとともにメッシュ状に構成されるとよい。
【0012】
上記の構成によれば、通液性壁部における液体を通過させるための流路面積を大きくとることができ、通液性に優れるため、保存輸送容器の組立工程において、内側容器を容器本体の底部に迅速に載置することができる。
【0013】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記介在部は、前記通液性壁部の上方に、前記筒状部の内周面に周方向の全周に渡って接触した状態で配置されるとよい。
【0014】
上記の構成によれば、介在部の外周面と筒状部の内周面との間を通して内側容器内へ空気が流入することが阻止され、内側容器内の液密状態が好適に保持される。
【0015】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記通液性壁部は、上下方向に貫通した貫通孔を有する板状体であり、前記介在部により前記貫通孔が閉じられてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、介在部を通液性壁部と外側容器の蓋部材との間に配置するだけで、貫通孔が閉じられるので、外側容器の内部に容易に液密構造を作り出すことができる。
【0017】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記内側容器は、前記容器本体の底部から離間して対向するとともに上下方向に貫通した貫通孔を有する通液性壁部を備え、前記通液性壁部と前記介在部との間に、前記貫通孔を閉じる閉塞部材が配置されてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、通液性壁部を介して内側容器内から空気を排出できるので、内側容器内を容易に液体で満たすことができる。液体で満たした後は貫通孔が閉塞部材により閉じられるので、貫通孔を通して内側容器内に空気が流入することを確実に防止でき、内側容器内の液密状態を好適に確保できる。
【0019】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記外側容器内において前記内側容器の外側には、前記保存液と同一の又は異なる液体が存在するとよい。
【0020】
上記の構成によれば、内側容器の周囲に液体が存在することにより、下側開口部を介して内側容器内に空気が流入することを防止できる。
【0021】
上記の膜状組織の保存輸送容器において、前記外側容器内で前記内側容器の外側にある前記液体の液面に浮かぶ安定化部材をさらに備えるとよい。
【0022】
このような安定化部材を配置することで、内側容器及び液体を安定化でき、激しい振動を受けた場合でも内側容器の下端が空気に曝されることを防止でき、内側容器内に空気が流入することを防止できる。
【0023】
また、本発明は、生体由来の細胞からなる膜状組織の保存輸送方法であって、外側容器の容器本体に入れられた保存液中に前記膜状組織を浮遊させる浮遊工程と、下方に開放する下側開口部を有する内側容器が前記容器本体の底部に載置され、前記内側容器内に気体層が形成されることがない程度に前記内側容器内が前記保存液で満たされ、且つ前記内側容器内に前記膜状組織が浮遊状態で収容された状態を作り出す収容工程と、前記容器本体の蓋部材と前記内側容器との間に、弾力性を有する介在部を挟圧保持した状態で、前記容器本体を前記蓋部材で閉じて、前記膜状組織を収容した前記内側容器を前記外側容器内に密封する密封工程と、を含
み、前記密封工程では、前記内側容器は、前記介在部の前記弾力性によって前記容器本体に押し付けられることを特徴とする。
【0024】
上記のような本発明の構成によれば、保存輸送容器が振動を受けても膜状組織の破損を防止でき、膜状組織の取出し作業を迅速に行うことができ、さらに、外側容器の製作精度に起因して外側容器の形状や寸法にある程度の誤差があっても外側容器内で内側容器を安定的且つ確実に固定することができる。
【0025】
上記の膜状組織の保存輸送方法において、前記内側容器は、前記容器本体の底部から離間して対向するとともに通液可能に構成された通液性壁部を有し、前記収容工程では、前記内側容器を前記容器本体の底部上に載置することで、前記内側容器を前記保存液で満たすとともに前記内側容器内の前記保存液中に前記膜状組織を浮遊させるとよい。
【0026】
これにより、通液性壁部を介して内側容器内から空気を排出できるので、内側容器内を容易に液体で満たすことができる。また、内側容器と介在部との間を通して内側容器内に空気が流入することを防止できる。
【0027】
本発明の膜状組織の保存輸送容器及び保存輸送方法によれば、膜状組織の原形状を損なうことなく、品質や生物学的活性を保持するとともに、膜状組織の保存及び輸送を簡便に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る膜状組織の保存輸送容器及び保存輸送方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0030】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る膜状組織の保存輸送容器10(以下、単に「保存輸送容器10」という)の断面図であり、
図2は、当該保存輸送容器10の分解斜視図である。この保存輸送容器10は、生体由来の細胞からなる膜状組織11を保存又は輸送するために使用するデバイスであり、容器本体13と蓋部材14とを有する外側容器12と、容器本体13と蓋部材14とを結合する結合機構16と、外側容器12内に配置された内側容器18と、内側容器18と蓋部材14との間に配置された介在部19と、内側容器18及び外側容器12に入れられた保存液20とを備え、内側容器18内に満たされた保存液20中に膜状組織11が浮遊状態で存在する。
【0031】
保存及び輸送対象となる膜状組織11は、心臓、角膜、網膜、血管、神経、表皮、真皮、軟骨、歯等の臓器、組織の一部又は全体、又は複数の臓器の、疾患、疾病、欠損に対し再生、治療、治癒促進を目的として用いられたり、臓器、組織に対する薬品の刺激性、感作性、毒性、薬物の効果、組織への反応等を調べたりするために用いられたりする、ある程度の厚みを有する生体由来構造物であり、例えば、皮膚組織、粘膜上皮組織、角膜上皮組織、培養皮膚、培養真皮、培養表皮、培養上皮組織、培養角膜組織、軟骨組織、網膜組織、神経フィラメント、人工血管、筋芽細胞組織、前述の生体組織由来細胞から作製されたシート状細胞培養物等が挙げられ、好ましくは筋芽細胞からなるシート状細胞培養物が挙げられる。膜状組織11は、細胞や細胞分泌物のみから構成されていてもよいし、さらに、支持体等の生体に由来しない物質を含んでもよい。
【0032】
外側容器12は、その内部に内側容器18を収容可能な大きさを有する。具体的には、外側容器12は、外側容器12内に内側容器18が収容された状態で、内側容器18の外周と外側容器12の内周との間に空間(例えば、環状空間)が形成される程度の大きさである。また、外側容器12は、外側容器12から内側容器18を取り外して保存液20中に浮遊する膜状組織11を適宜の器具(移植デバイス等)を用いて取り出す際に、十分な作業スペースが確保される程度の大きさであることが好ましい。例えば、外側容器12が円形シャーレである場合、その内径は、30〜300mm程度が好ましく、80〜150mm程度がより好ましい。
【0033】
容器本体13は、略平板状の底部22と、底部22の外周縁部から上方に延出する側壁部24とを有する高さの低い有底筒状体(図示例では有低円筒状)であり、その上部は、上方が開放した上側開口部25(
図2参照)として開口している。
【0034】
底部22には、内側容器18の水平方向の位置決めをするための浅い溝状の位置規制部28が設けられている。位置規制部28は、内側容器18の下端と係合し、内側容器18の容器本体13に対する水平方向の位置決めをする機能を有する。図示例の位置規制部28は、内側容器18の下端の外径より僅かに大きい内径を有する円形溝であり、底部22の略中央に設けられている。位置規制部28の構成はこれに限らず、円環状の溝であってもよいし、周方向の複数個所で上方に突出する突起であってもよい。また、位置規制部28は必須ではなく、位置規制部28が省略された構成であってもよい。
【0035】
蓋部材14は、天部34と、当該天部34の外周縁部から下方に延出する側壁部36を有し、容器本体13の上側開口部25を閉じ得るように構成されている。当該側壁部36の内径は、容器本体13の側壁部24の外径と略同じか、それよりも僅かに大きい。
【0036】
天部34の外周部下面には、環状のシール部材37が設けられている。蓋部材14で容器本体13を閉じると、蓋部材14と容器本体13との間がシール部材37によりシールされ、外側容器12が液密に密封される。なお、蓋部材14の天部34の下面にシール部材37を設ける代わりに、容器本体13の側壁部24の上面にシール部材37を設けても、上記と同様の封止効果が得られる。シール部材37としては、液体の漏出を防ぐもので、例えば、シリコン、ブタジエンゴムから形成される。
【0037】
内側容器18は、膜状組織11を原形状の大きさを維持した状態で収容可能な大きさを有する容器であり、これに収容される膜状組織11の平面形状よりも大きく下方に開放した下側開口部38(
図2参照)が設けられている。本実施形態において、内側容器18は、上下に開口した筒状部40と、筒状部40の高さ方向の途中位置に設けられたメッシュ部42とからなる。
【0038】
筒状部40の軸線方向の長さ(高さ方向寸法)は、容器本体13が蓋部材14で閉じられた状態での容器本体13の底部22(位置規制部28)から蓋部材14までの距離よりも短い。従って、容器本体13が蓋部材14で閉じられた状態で、筒状部40の上端は、蓋部材14から離間する。本実施形態において、筒状部40は円筒形に構成されているが、楕円筒形状や、多角筒型形状に形成されてもよい。
【0039】
メッシュ部42は、筒状部40の軸線方向の途中位置に、当該軸線方向と略直交して設けられており、内側容器18が容器本体13の底部22に載置された状態で、当該底部22に対して略平行に対向する。メッシュ部42の外周縁部は、全周に渡って筒状部40の内周面に固着されている。本実施形態において、メッシュ部42は、容器本体13の底部22から離間して対向するとともに通液可能に構成された通液性壁部として機能する。内側容器18を外側容器12の底部22上に載置すると、内側容器18の下側開口部38が外側容器12の底部22により閉じられて、筒状部40、メッシュ部42及び底部22によって囲まれた、膜状組織11の収容室44が形成される。
【0040】
収容室44には、膜状組織11用の保存液20が、収容室44内に気体層が形成されることがない程度に満たされている。すなわち、収容室44内は、略全体が保存液20で満たされており、上方に空気の層が形成されていない状態である。「保存液20が、収容室44内に気体層が形成されることがない程度に満たされている」とは、収容室44内の上部に多少の気泡が存在することを許容する趣旨である。このような多少の気泡が収容室44内の上部に存在しても、保存輸送容器10が振動を受けた際における収容室44内の保存液20の波打ちや流動が発生することはほとんどない。保存液20としては、液体培地、生理食塩水、等張液、緩衝液、ハンクス平衡塩液等が挙げられる。
【0041】
介在部19は、弾力性(伸縮性)を有する部材であり、蓋部材14と内側容器18との間に弾性圧縮状態で配置される。介在部19は、本実施形態では、多孔質体で構成されている。当該多孔質体としては、例えば、スポンジ、不織布等が挙げられる。また、多孔質体の構造としては、隣接する気孔同士が連通しており吸液性を有する構造、隣接する気孔同士が互いに独立しており吸液性を有しない構造、のいずれでもよい。
【0042】
介在部19は、上面が蓋部材14の下面に接触し、下面がメッシュ部42の上面に接触する。介在部19の自然状態(非圧縮状態)での厚さ(高さ寸法)は、容器本体13が蓋部材14で閉じられた外側容器12内に配置された内側容器18のメッシュ部42と蓋部材14との距離よりも大きい。このため、介在部19は、蓋部材14とメッシュ部42との間に弾性圧縮状態で挟まれて保持されている。介在部19の下部側の外周面は、内側容器18の筒状部40の上部側(メッシュ部42よりも上側)の内周面に全周に渡って接触している。
【0043】
本実施形態のように、筒状部40及び介在部19が円筒形である場合、介在部19の外径は、筒状部40の内径と略同じか僅かに大きいとよい。これにより、介在部19が筒状部40に嵌合した状態で、介在部19の外周面が全周に渡って筒状部40の内周面に確実に接触するため、筒状部40の内周面と介在部19の外周面との間に気体が通過可能な隙間が形成されることがない。なお、介在部19は円筒形に限らず、筒状部40が非円形(例えば、楕円筒形、多角筒形等)である場合には、当該筒状部40の内周面の形状に対応した非円形の形状に形成し得る。
【0044】
上述した内側容器18、容器本体13及び蓋部材14の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂の他、ガラス、セラミックス、金属、合金等が挙げられる。また、内側容器18、容器本体13及び蓋部材14の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であるのが好ましい。さらに、構成材料は、細胞の接着を防ぐために細胞非接着性の表面を持つのが好ましい。
【0045】
多孔質体である介在部19の構成材料は、弾力性(柔軟性)を有するものであれば特に限定されないが、例えば、綿、コットン、ガーゼ、レーヨン等の天然素材、もしくは、ポリエステル、ポリアミド、PVDF、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン等の合成素材が挙げられる。
【0046】
容器本体13が蓋部材14により閉じられ、結合機構16により蓋部材14と容器本体13とが結合され、且つ内側容器18と蓋部材14との間に介在部19が配置されている状態で、内側容器18は、介在部19の弾性力により容器本体13に押し付けられるため、外側容器12内での移動が制限される。これにより、内側容器18を外側容器12内で安定的に固定することができる。
【0047】
外側容器12内で且つ内側容器18の外側(外側容器12と内側容器18との間)には、保存液20が収容されている。外側容器12内で且つ内側容器18の外側に存在する保存液20(以下、「外側の保存液20」ともいう)は、介在部19が途中まで浸る程度の量である。換言すれば、外側の保存液20の液面の高さは、内側容器18のメッシュ部42よりも高い位置に設定されている。
図1に示すように、外側の保存液20の液面の高さは、内側容器18(具体的には、筒状部40)の上端の高さを越えてもよい。
【0048】
次に、容器本体13と蓋部材14とを結合するための結合機構16について説明する。図示例の結合機構16は、容器本体13の下面と蓋部材14の上面とに当接して、容器本体13及び蓋部材14を弾性的に挟圧する2つのクリップ46により構成されている。各クリップ46は、互いに対向して延在する一対のアーム部46a、46bと、一対のアーム部46a、46bの基端部同士を連結する連結部46cとからなる。各クリップ46は、一対のアーム部46a、46bが外側方向に弾性変形することで拡開可能であり、自然状態(何らの外力も付与されていない状態)で、一対のアーム部46a、46b間の間隔は、蓋部材14で容器本体13を閉じた状態の外側容器12の厚さ(高さ)よりも小さい。このようなクリップ46は、弾性を有する各種金属、合金、樹脂等で構成できる。
【0049】
図1では、外側容器12に対して互いに反対側の位置に2つのクリップ46が取り付けられているが、取り付けるクリップ46の数は、蓋部材14と容器本体13とを適切な保持力で結合させることができる範囲で適宜設定すればよく、従って、1つあるいは3つ以上であってもよい。
【0050】
本実施形態に係る保存輸送容器10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0051】
上記の保存輸送容器10を組み立てるには、以下の工程を行う。
【0052】
(1) 浮遊工程
浮遊工程では、
図3Aに示すように、容器本体13に保存液20を入れ、その保存液20中に膜状組織11を浮遊させる。
【0053】
(2) 収容工程
収容工程は、内側容器18が容器本体13の底部22に載置され、内側容器18内に気体層が形成されることがない程度に内側容器18内が保存液20で満たされ、且つ内側容器18(収容室44)内に膜状組織11が浮遊状態で収容された状態を作り出す工程である。
【0054】
具体的には、
図3Bに示すように、膜状組織11及びその周囲の保存液20を内側容器18で覆うように、内側容器18を容器本体13の底部22上に載置する。この場合、本実施形態では、底部22に形成された位置規制部28上に内側容器18を載置する。なお、
図3Aの段階で、内側容器18を容器本体13の底部22上に載置したときに内側容器18のメッシュ部42よりも保存液20の液面が高くなるように液量を調整して保存液20を入れておく。
【0055】
内側容器18を容器本体13内の保存液20中に沈めていく過程で、内側容器18に設けられたメッシュ部42を通して内側容器18内の空気が排出され、内側容器18内が保存液20で満たされる。このようにメッシュ部42を通して内側容器18内の空気を排出し、内側容器18内を保存液20で置換することができるので、内側容器18内を容易且つ迅速に保存液20で満たすことができる。
【0056】
(3) 密封工程
密封工程は、蓋部材14と内側容器18との間に介在部19を挟圧保持した状態で、容器本体13を蓋部材14で閉じて(
図3D参照)、膜状組織11を収容した内側容器18を外側容器12内に密封する工程である。
【0057】
密封工程では、先ず、
図3Cに示すように、内側容器18上に介在部19を載置する。具体的には、内側容器18の上側の開口部から介在部19を挿入し、介在部19の底面を内側容器18のメッシュ部42に当接させるとともに、介在部19の外周面と内側容器18の筒状部40の内周面とを全周に渡って接触させる。介在部19が吸水性を有する多孔質体である場合、保存液20の一部は介在部19に吸収され、介在部19は湿潤状態となる。
【0058】
次に、容器本体13を蓋部材14で閉じ、上述したクリップ46で容器本体13と蓋部材14を結合する。そうすると、介在部19を介して、内側容器18が蓋部材14と容器本体13との間で挟持されるため、外側容器12内で内側容器18が安定して固定される。
【0059】
以上の(1)〜(3)の工程を実施することにより、
図1に示した状態の保存輸送容器10が完成する。なお、保存輸送容器10を組み立てる上記の作業工程は、例えば、クリーンルーム、手術室、又は無菌環境下等で行われる。
【0060】
図1の状態の保存輸送容器10から膜状組織11を取り出すには、先ず、クリップ46を取り外して蓋部材14と容器本体13との固定状態を解除したうえで、蓋部材14を容器本体13から取り外す。次に、介在部19を内側容器18から取り外したうえで、容器本体13に対して内側容器18を持ち上げていく。そうすると、内側容器18の上昇に伴ってメッシュ部42を通して内側容器18内に空気が流入するので、内側容器18内に収容されていた膜状組織11と保存液20は容器本体13に残される。
【0061】
なお、介在部19を内側容器18から取り外さず、内側容器18を介在部19ごと持ち上げることで、内側容器18内の膜状組織11を保存液20ごと容器本体13側に移し替えてもよいが、上述したように内側容器18を持ち上げる前に介在部19を内側容器18から取り外しておくと、メッシュ部42を通して空気が内側容器18内に流入するので、保存液20の流動や乱れをほとんど生じさせずに内側容器18を持ち上げることができる。従って、膜状組織11に対する影響を最小限に抑えることができる。
【0062】
上述した方法により容器本体13内の保存液20中に膜状組織11を浮遊させた状態としたら、適宜の器具(移植デバイス等)を用いて膜状組織11を保存液20から取り出して、患者へ移植する等の治療に供される。
【0063】
上記のように構成された保存輸送容器10によれば、内側容器18を保存液20で満たし、当該保存液20中に膜状組織11を浮遊させたので、保存輸送容器10の輸送中に振動が発生し、内側容器18が振動しても、その内側の保存液20が波打ったり流動したりすることがない。従って、膜状組織11に振動が伝わらず、膜状組織11の破損を防止できる。
【0064】
また、本実施形態では、内側容器18が下側開口部38を有し、外側容器12の底部22に内側容器18の下端が当接することで下側開口部38が閉じられる構成となっているため、膜状組織11を取り出す操作の際には、内側容器18を容器本体13に対して持ち上げるだけで、内側容器18内に収容されていた膜状組織11が容器本体13側に移動する。このため、膜状組織11及び保存液20を別の容器に移し替える必要がなく、迅速に作業を行えるとともに、移し替え作業に伴う膜状組織11の破損の可能性を本質的に回避できる。
【0065】
本実施形態では、内側容器18の外側に保存液20が収容されるので、内側容器18の下側開口部38から内側容器18内に空気が流入することを防止できる。すなわち、内側容器18の外側に保存液20がない場合、内側容器18と容器本体13の底部22との間から内側容器18内の保存液20が漏れ出て内側容器18内に空気が流入するおそれがあるが、内側容器18の周囲に保存液20があることにより、そのような空気の流入が阻止される。
【0066】
なお、保存輸送容器10の組立てにおいて、内側容器18内の空気を排出し、内側容器18を容器本体13の底部22上に載置した後、内側容器18の外側の保存液20を除去し、代わりにゲル状体を入れてもよい。内側容器18の周囲にゲル状体が存在することにより、下側開口部38から内側容器18に気体が流入することを防止できるとともに、内側容器18がゲル状体により保持されることで内側容器18の移動が阻止され、内側容器18をより安定的に固定できる。
【0067】
本実施形態では、内側容器18の上部に介在部19が設けられ、容器本体13を蓋部材14で閉じてクリップ46で固定すると、介在部19は、内側容器18と蓋部材14との間に弾性圧縮状態で保持される。内側容器18は介在部19の弾性力によって容器本体13に押し付けられる。従って、外側容器12内で内側容器18が安定的に固定される。
【0068】
このように、内側容器18は外側容器12内で安定的に固定されるので、外側容器12内で内側容器18がずれることがないとともに、内側容器18の下端と容器本体13の底部22から浮くことが防止され、内側容器18内が保存液20で満たされた状態を好適に保持できる。また、位置規制部28によって内側容器18が容器本体13に対して横方向にずれることが防止され、膜状組織11を安定的に保持できる。
【0069】
外側容器12において、製作精度に起因する形状誤差や寸法誤差がある程度あっても、当該誤差は介在部19の弾力性(伸縮性)によって吸収することができるので、外側容器12内で内側容器18を安定的且つ確実に固定することができる。すなわち、蓋部材14と内側容器18のメッシュ部42との距離に応じて、介在部19が適度に圧縮され、内側容器18を確実に容器本体13に押し付けることができる。従って、外側容器12に対して要求される寸法規制、製作精度が緩和されるため、製作コストの低減を図ることが可能である。
【0070】
本実施形態では、介在部19の外周面と筒状部40の内周面とが全周に渡って接触している。従って、介在部19の外周面と筒状部40の内周面との間を通して内側容器18内へ空気が流入することが阻止され、内側容器18(収容室44)内の液密状態が保持される。なお、介在部19が、隣接する気孔同士が連通した構造を有する場合でも、介在部19は保存液20を吸収しているため、介在部19の気孔を介して空気が内側容器18内に流入することはない。
【0071】
本実施形態の場合、保存輸送容器10の組立工程において、内側容器18内を保存液20で満たす際に、通液性壁部としてのメッシュ部42を介して内側容器18内から空気を排出できるので、内側容器18内を容易に保存液20で満たすことができる。特に、メッシュ部42によれば、保存液20を通過させるための流路面積を大きくとることができ、通液性に優れる。このため、内側容器18内から空気を排出した後、さらに内側容器18を保存液20中に沈める際のメッシュ部42での流体抵抗を小さくことができる。従って、内側容器18を容器本体13の底部22に迅速に載置することができる。
【0072】
本実施形態では、結合機構16がクリップ46からなるので、外側容器12が樹脂材料等の比較的撓みやすい材料からなる場合でも、外側容器12の上面と下面から挟むことで、蓋部材14により内側容器18をしっかりと容器本体13に押圧でき、内側容器18をより安定的に固定できる。なお、結合機構16がクリップ46である場合、クリップ46のアーム部46a、46bの先端部(外側容器12と接する部位)は、内側容器18及び介在部19とが外側容器12に接する部位を挟圧するのがよい。
【0073】
上述したメッシュ部42を有する内側容器18に代えて、
図4Aに示す第1変形例に係る保存輸送容器10aのように、貫通孔50が設けられた天壁52を有する内側容器18aを採用してもよい。天壁52は、筒状部40の軸線方向の途中位置に、当該軸線方向と略直交して設けられており、内側容器18aが容器本体13の底部22に載置された状態で、当該底部22に対して略平行に対向する。貫通孔50は、内側容器18aの内外を連通するように形成されており、
図4Aでは複数設けられているが、1つだけ設けられてもよい。このように構成された天壁52は、容器本体13の底部22から離間して対向するとともに通液可能な通液性壁部として機能する。天壁52は、筒状部40と一体的に形成されたものでも、別部品として製作された筒状部40に対して接合されたものであってもよい。
【0074】
介在部19の下面と天壁52の上面とは密着状態で接触し、貫通孔50は介在部19により閉じられている。従って、内側容器18aと外側容器12との間に存在する保存液20が、介在部19と天壁52との間を通して内側容器18a内に流入することがないため、内側容器18a内の液密状態が保持される。
【0075】
上記のように構成された保存輸送容器10aは、上述した保存輸送容器10と同様の手順で組み立てることができる。保存輸送容器10aの場合、内側容器18aを容器本体13内の保存液20中に沈めていく過程で、内側容器18aの天壁52に設けられた貫通孔50を通して内側容器18a内の空気が排出され、内側容器18a内が保存液20で満たされる。
【0076】
図4Aに示した第1変形例に係る保存輸送容器10aは、天壁52上に直接、介在部19を載置した構成であるが、
図4Bに示す第2変形例に係る保存輸送容器10bのように、天壁52と介在部19との間に閉塞部材54を配置した構成としてもよい。閉塞部材54は、下面が天壁52の上面に面状に接触する閉塞板56と、閉塞板56の端部から上方に突出した把持部58とを有する。天壁と介在部19との間に閉塞部材54が挟まれた状態で、貫通孔50は閉塞板56により閉じられる。把持部58は、閉塞部材54を内側容器18aの天壁52上に載置する際、及び閉塞部材54を持ち上げる際に、使用者により把持される部分である。
【0077】
上記のように構成された保存輸送容器10bによれば、貫通孔50が閉塞部材54により閉じられるので、貫通孔50を通して内側容器18a内に空気が流入することを一層確実に防止でき、内側容器18a内の液密状態を好適に確保できる。
【0078】
図4Bに示した保存輸送容器10bでは、比較的小さい貫通孔50が複数設けられたが、
図4Cに示す保存輸送容器10cのように、比較的大きい単一の貫通孔60が設けられてもよい。このような大きな貫通孔60が設けられた場合でも、介在部19の弾性力で閉塞部材54が天壁52に押し付けられることにより、天壁52の上面と閉塞部材54の下面とが密着し、貫通孔60が閉じられる。従って、天壁52と閉塞部材54との間を通して空気が内側容器18b内に流入することが有効に阻止される。
【0079】
上述した保存輸送容器10では、外側容器12内で内側容器18の外側にある保存液20の上部には空気が存在するため、保存輸送容器10が振動を受けた際には当該保存液20の液面が波打つ等の動きが生じ、その激しさによっては、一時的に外側容器12の下端が空気に曝される場合があることが懸念される。そこで、
図5Aに示す第4変形例に係る保存輸送容器10dのように、外側容器12内で内側容器18の外側にある保存液20の液面に浮かぶ安定化部材62を配置してもよい。
【0080】
このような安定化部材62は、内側容器18と外側容器12との間の形状(本例ではドーナツ状)をした発砲スチロール又はフィルムで構成することができる。安定化部材62は、内側容器18と外側容器12との間の保存液20を除く空間の形状をとることができる(例えば、厚みのあるドーナツ状)。このような安定化部材62を配置することで、内側容器18及び保存液20を安定化でき、激しい振動を受けた場合でも内側容器18の下端が空気に曝されることが防止され、内側容器18内に空気が流入することを防止できる。
【0081】
なお、保存輸送容器10dにおいて、内側容器18に代えて、
図4Aに示す内側容器18a又は
図4Cに示す内側容器18bを適用してもよく、さらに、
図4B及び
図4Cに示す閉塞部材54を加えてもよい。
【0082】
複数のクリップ46により構成された結合機構16に代えて、
図5Bに示す第5変形例に係る保存輸送容器10eのように、互いに螺合可能な雄ネジ部64と雌ネジ部65とから構成される結合機構66を採用してもよい。雄ネジ部64は、容器本体13の側壁部24の上部外周面に形成されている。雌ネジ部65は、蓋部材14の側壁部36の内周面に形成されている。蓋部材14の雌ネジ部65を容器本体13の雄ネジ部64に螺合させると、蓋部材14と容器本体13とがしっかりと結合されるとともに、蓋部材14と容器本体13との間に挟まれたシール部材37により外側容器12が密閉される。このように構成された結合機構66によれば、クリップ46からなる結合機構16(
図1等参照)と比較して、容器本体13と蓋部材14とを簡易な操作により迅速に結合することができる。
【0083】
なお、保存輸送容器10eにおいて、内側容器18に代えて、
図4Aに示す内側容器18a又は
図4Cに示す内側容器18bを適用してもよく、さらに、
図4B及び
図4Cに示す閉塞部材54を設けてもよい。また、保存輸送容器10eにおいて、
図5Aに示した安定化部材62をさらに設けてもよい。
【0084】
容器本体13と蓋部材14とを結合する結合手段は、上記の結合機構16、66以外の構成を採用してもよく、例えば、容器本体13と蓋部材14の一方に設けられた係合片と、容器本体13と蓋部材14の他方に設けられた爪部とからなり、当該爪部が係合片に引っ掛かることにより容器本体13と蓋部材14とを結合するように構成された結合機構であってもよい。
【0085】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態に係る保存輸送容器70の断面図である。なお、第2実施形態に係る保存輸送容器70において、第1実施形態に係る保存輸送容器10と同一又は同様な機能及び効果を奏する要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0086】
第2実施形態に係る保存輸送容器70は、内側容器72と介在部74の構成において、第1実施形態に係る保存輸送容器10と異なる。内側容器72は、膜状組織11を原形状の大きさを維持した状態で収容可能な大きさを有する容器であり、これに収容される膜状組織11の平面形状よりも大きく下方に開放した下側開口部76が設けられている。本実施形態において、内側容器72は、中空状の筒状部78と、筒状部78の上端に設けられた天部80とを備え、天部80により筒状部78の上端が閉じられている。
【0087】
天部80は、筒状部78の軸線方向と略直交して設けられており、内側容器72が容器本体13の底部22に載置された状態で、当該底部22に対して略平行に対向する。内側容器72を外側容器12の底部22上に載置すると、内側容器72の下側開口部76が外側容器12の底部22により閉じられて、筒状部78、天部80及び底部22によって囲まれた、膜状組織11の収容室44が形成される。収容室44は、保存液20で満たされ、当該保存液20中に膜状組織11が浮遊状態で存在する。
【0088】
内側容器72と蓋部材14との間には、弾力性(伸縮性)を有する介在部74が配置されている。介在部74の上端は、蓋部材14の下面に当接し、介在部74の下端は内側容器72の天部80の上面に当接し、介在部74の弾性力により内側容器72が容器本体13の底部22に押し付けられている。介在部74の自然状態(非圧縮状態)での長さ(高さ寸法)は、容器本体13が蓋部材14で閉じられた外側容器12内に配置された内側容器72の天部80と蓋部材14との距離よりも大きい。このため、介在部74は、蓋部材14と天部80との間に弾性圧縮状態で挟まれて保持されている。
【0089】
図6に示す介在部74は、コイルばねの形態をした圧縮ばねであるが、スポンジ体やゴム製のばねであってもよい。また介在部74は、内側容器72の上部(天部80)又は蓋部材14の下面に固定されるか、内側容器72及び蓋部材14とは独立した(分離可能な)部材であってもよい。
【0090】
介在部74の位置ずれを防止するため、内側容器72の天部80の上面には、位置規制部82が設けられている。位置規制部82は、
図6の例では、コイルばねの形態を有する介在部74よりも大径の環状突起であるが、当該環状突起と同径の環状溝でもよく、あるいは、介在部74よりも小径の環状突起又は環状溝でもよい。位置規制部82は、介在部74の位置ずれを防止する機能を有するものであればよく、他の形態としては、天部80の上面に互いに離間して形成された複数の突起であってもよい。位置規制部82は、蓋部材14の下面に設けられてもよい。
【0091】
内側容器72と外側容器12との間(外側容器12内で内側容器72の外側)に存在する保存液20の液面の高さは、内側容器72内の保存液20の高さよりも低いとよい。こうすることで、大気圧によって内側容器72を容器本体13の底部22に押し付ける力が生じるため、内側容器72を容器本体13により安定的に固定することができる。内側容器72の外側の保存液20に代えて、保存液20とは異なる液体又はゲル状体を収容してもよい。
【0092】
上記の保存輸送容器70を組み立てるには、先ず
図7Aに示すように、容器本体13に保存液20を入れ、その保存液20中に膜状組織11を浮遊させる。次に、
図7Bに示すように、膜状組織11及びその周囲の保存液20を内側容器72で覆うとともに、内側容器72の下端の全周が保存液20中に位置し、且つ、容器本体13の底部22から内側容器72の下端の全周が離間した状態となるように、内側容器72を配置する。そして、この状態で、例えば、湾曲したノズル86(管状部材)を有する吸引具87(図示例では、シリンジ)を用いて内側容器72内の気体(空気)を排出する。
【0093】
すなわち、内側容器72の下端と容器本体13の底部22との間から、湾曲したノズル86を内側容器72内に挿入したうえで、吸引具87の押し子88を引くことで、内側容器72内の気体を吸引する。この際、吸引の最終段階で、内側容器72内に気泡が残るが、内側容器72を傾けて気泡を角部に移動させたうえで、そこにノズル86の先端部を位置させて吸引することで内側容器72内から気泡を略完全になくすことができる。内側容器72が透明な部材で構成されていると、気泡の存在及び位置を目視で確認しながら上記の操作を行うことができるため、気泡の除去を迅速且つ確実に行うことができる。
【0094】
内側容器72内から気体を除去し、内側容器72内を保存液20で満たしたら、
図7Cに示すように、内側容器72を容器本体13の底部22上に載置する。このとき、内側容器72内の保存液20の高さより内側容器72の外側の保存液20の液面高さが高い場合には、内側容器72の外側の保存液20の量を減らして、内側容器72の外側の保存液20の液面高さを内側容器72内の保存液20の液面高さより低くする。
【0095】
そして、内側容器72と蓋部材14との間に介在部74を挟んだ状態で、容器本体13を蓋部材14で閉じ(
図7D参照)、上述したクリップ46で容器本体13と蓋部材14を結合する。そうすると、介在部74の弾性力により内側容器72が容器本体13の底部22に押し付けられるため、外側容器12内で内側容器72が安定して固定される。以上の操作により、
図6に示した状態の保存輸送容器70が完成する。なお、保存輸送容器70を組み立てる上記の作業工程は、クリーンルーム(無菌環境下)で行われる。
【0096】
図6の状態の保存輸送容器70から膜状組織11を取り出すには、先ず、クリップ46を取り外して蓋部材14と容器本体13との固定状態を解除したうえで、蓋部材14を容器本体13から取り外す。次に、容器本体13に対して内側容器72を持ち上げることで、内側容器72内の膜状組織11を保存液20ごと容器本体13側に移し替える。なお、容器本体13に対して内側容器72を持ち上げる前に、内側容器72の外側に保存液20を足して、内側容器72の外側の液面高さを内側容器72内の保存液20の液面高さよりも高くしておくと、浮力により内側容器72を持ち上げやすくなる。
【0097】
上記のような移し替えの方法に代えて、次のような方法を採用してもよい。すなわち、内側容器72の下端が容器本体13内の保存液20から完全に出ない程度に内側容器72を持ち上げた状態で、内側容器72の下端と容器本体13の底部22との間から、
図7Bに示した吸引具87の湾曲したノズル86を内側容器72内に挿入し、内側容器72内に空気を入れることで、内側容器72から保存液20を排出してもよい。このようにすると、内側容器72を容器本体13から取り外す際に保存液20を大きく流動させずに済むので、膜状組織11が保存液20の流動によって破損する可能性をなくすことができる。
【0098】
本実施形態に係る保存輸送容器70によれば、内側容器72を保存液20で満たし、当該保存液20中に膜状組織11を浮遊させたので、保存輸送容器70の輸送中に振動が発生し、内側容器72が振動しても、その内側の保存液20が波打ったり流動したりすることがない。従って、膜状組織11に振動が伝わらず、膜状組織11の破損を防止できる。
【0099】
また、蓋部材14と内側容器72との間に配置される介在部74は、伸縮性を有するので、外側容器12の製作精度に起因して外側容器12の形状や寸法にある程度の誤差があっても、当該誤差は介在部74の伸縮性によって吸収することができる。すなわち、蓋部材14と内側容器72の天部80との距離に応じて、介在部74が圧縮され、内側容器72を確実に容器本体13に押し付けることができる。従って、外側容器12の寸法規制、製作精度が緩和されるため、製作コストの低減を図ることが可能である。
【0100】
その他、第2実施形態において、第1実施形態と共通する各構成部分については、第1実施形態における当該共通の各構成部分がもたらす作用及び効果と同一又は同様の作用及び効果が得られることは勿論である。
【0101】
[第3実施形態]
図8は、本発明の第3実施形態に係る保存輸送容器90の断面図である。なお、第3実施形態に係る保存輸送容器90において、第1及び第2実施形態に係る保存輸送容器10、70と同一又は同様な機能及び効果を奏する要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0102】
第2実施形態に係る保存輸送容器90は、内側容器92の構成において、第2実施形態に係る保存輸送容器70と異なる。具体的には、内側容器92の天部80には、貫通孔94が形成され、この貫通孔94が閉塞部材96で閉塞されている。閉塞部材96は、図示例では、例えばゴム材料で構成された円錐台形の栓体である。図示例の貫通孔94及び閉塞部材96の構成に代えて、貫通孔94の上部に上方に突出する円筒状の突起を設けるとともに、下方に開放し上部が閉じた円筒状のキャップ(閉塞部材)を、当該突起に装着して閉塞した構成であってもよい。
【0103】
上記の保存輸送容器90を組み立てるには、先ず、
図9Aに示すように、容器本体13に保存液20を入れ、その保存液20中に膜状組織11を浮遊させる。次に、
図9Bに示すように、膜状組織11及びその周囲の保存液20を内側容器92で覆うように、内側容器92を容器本体13の底部22上に載置する。なお、
図9Aの段階で、内側容器92を容器本体13の底部22上に載置したときに内側容器92の天部80よりも保存液20の液面が高くなるように液量を調整して保存液20を入れておく。
【0104】
内側容器92を容器本体13内の保存液20中に沈めていく過程で、内側容器92の天部80には貫通孔94が設けられているために、この貫通孔94から内側容器92内の空気が排出され、内側容器92内が保存液20で満たされる。このように貫通孔94を通して内側容器92内の空気を排出できるので、内側容器92内を容易且つ迅速に保存液20で満たすことができる。必要に応じ、内側容器92内の空気は、ノズル86を有する吸引具87(
図7B参照)を用いて排出することができる。
【0105】
次に、
図9Cに示すように、貫通孔94を閉塞部材96で閉じるとともに、内側容器92内の保存液20の液面高さよりも容器本体13内で内側容器92の外側にある保存液20の液面高さが低くなるように、容器本体13内で内側容器92の外側にある保存液20の液量を調整して液面を低くする。介在部74内に入った保存液20は、必要に応じて取り除く。
【0106】
次に、
図10Aに示すように、内側容器92上に介在部74を載置する。そして、
図10Bに示すように、容器本体13を蓋部材14で閉じ(
図10B参照)、上述したクリップ46で容器本体13と蓋部材14を結合する。そうすると、介在部74を介して、内側容器92が蓋部材14と容器本体13との間で挟持されるため、外側容器12内で内側容器92が安定して固定される。以上の操作により、
図8に示した状態の保存輸送容器90が完成する。なお、保存輸送容器90を組み立てる上記の作業工程は、クリーンルーム(無菌環境下)で行われる。
【0107】
図8の状態の保存輸送容器90から膜状組織11を取り出すには、先ず、クリップ46を取り外して蓋部材14と容器本体13との固定状態を解除したうえで、蓋部材14を容器本体13から取り外す。次に、閉塞部材96を貫通孔94から取り外したうえで、容器本体13に対して内側容器92を持ち上げていく。そうすると、内側容器92の上昇に伴って貫通孔94から内側容器92内に空気が流入するので、内側容器92内に収容されていた膜状組織11と保存液20は容器本体13に残される。こうして容器本体13内の保存液20中に膜状組織11を浮遊させた状態としたら、適宜の器具(移植デバイス等)を用いて膜状組織11を保存液20から取り出して、患者へ移植する等の治療に供される。
【0108】
なお、第3実施形態において、第1及び第2実施形態と共通する各構成部分については、第1実施形態における当該共通の各構成部分がもたらす作用及び効果と同一又は同様の作用及び効果が得られることは勿論である。
【0109】
上記において、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。