(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
低級アルコール化合物が、低級アルコール、低級アルキレングリコール及び低級アルコキシ低級アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のルテニウム触媒の製造方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−184881号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Miura, K. Wada, S. Hosokawa, M. Inoue, ChemCatChem 2010, 2, 1223-1225.
【非特許文献2】S. Murai, F. Kakiuchi, S. Sekine, Y. Tanaka, A. Kamatani, M. Sonoda, N. Chatani, Nature 1993, 366, 529−530.
【非特許文献3】C. G. Jia, T. Kitamura, Y. Fujiwara, Acc. Chem. Res. 2001, 34, 633−639;
【非特許文献4】C. Nevado, A. M. Echavarren, Synthesis2005, 2, 167−182.
【非特許文献5】F. Kakiuchi, S. Murai, Acc. Chem. Res. 2002, 35, 826−834.
【非特許文献6】F. Kakiuchi, T. Kochi, Synthesis2008, 19, 3013−3039.
【非特許文献7】F. Kakiuchi, S. Sekine , Y. Tanaka, A. Kamatani, M. Sonoda, N. Chatani, S. Murai, Bull. Chem. Soc. Jpn. 1995, 68, 62−83.
【非特許文献8】R. Martinez, R. Chevalier, S. Darses, J.-P. Genet, Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 8232−8235.
【非特許文献9】R. Martinez, J.-P. Genet, S. Darses, Chem. Commun. 2008, 3855−3857.
【非特許文献10】R. Martinez, M.-O. Simon, R. Chevalier, C. Pautigny, J. -P. Genet, S. Darses, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131,7887−7895.
【非特許文献11】M.-O. Simon, J.-P. Genet, S. Darses, Org. Lett. 2010, 12, 3038−3041.
【非特許文献12】F. Kakiuchi, T. Kochi, E. Mizushima, S. Murai, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 17741−17750.
【非特許文献13】K. Gao, N. Yoshikai, Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 6888−6892.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、飛躍的に広範な原料に対して適用可能であり、従来の触媒よりも高い活性を有し、かつ触媒活性の低下を伴うことなく触媒の再生利用が可能な、金属酸化物に担持したルテニウム触媒の製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
また本発明は、当該金属酸化物に担持したルテニウム触媒を用いることで、従来のルテニウム系固体触媒では、反応が進行し得なかった原料においても反応が進行し、より効率が高く、環境等への負荷が小さいアルキル基又はアルケニル基置換化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、特定の金属酸化物に担持したルテニウム触媒に対して、特定の条件での前処理を施すことによって、アルキル基又はアルケニル基置換化合物を得ることができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の製造方法に係る。
項1.
希土類金属酸化物、酸化ジルコニウム、並びに希土類金属酸化物及び/又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物に担持したルテニウム、
アルデヒド化合物、
リン化合物、及び
低級アルコール化合物を混合し、加熱する工程を含む
ルテニウム触媒の製造方法。
項2.
アルデヒド化合物がホルムアルデヒド、1,3,5-トリオキサン、パラホルムアルデヒド、グリオキサール、メチルグリオキサール、マロンアルデヒド、アセトアルデヒド及びプロピオンアルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のルテニウム触媒の製造方法。
項3.
アルデヒド化合物がホルムアルデヒドである項1に記載のルテニウム触媒の製造方法。
項4.
リン化合物がホスフィン、ホスファイト及びホスフィンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のルテニウム触媒の製造方法。
項5.
リン化合物がトリフェニルホスフィンである、項1に記載のルテニウム触媒の製造方法。
項6.
低級アルコール化合物が、低級アルコール、低級アルキレングリコール及び低級アルコキシ低級アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のルテニウム触媒の製造方法。
項7.
低級アルコール化合物が、2−メトキシエタノールである、項1に記載のルテニウム触媒の製造方法。
項8.
加熱温度が、40〜200℃である項1〜7のいずれかに記載のルテニウム触媒の製造方法。
項9.
項1〜8のいずれかの製造法によって得られる、金属酸化物に担持したルテニウム触媒の存在下で、下記式(1-1)の部分構造を有する化合物(1)と下記式(2)で表される化合物を反応させて下記式(3-1)の部分構造を有する化合物(3)を得る工程を含む、化合物(3)の製造方法:
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R
1は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、R
1’及びR
2’は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基を示し、
Eは、酸素原子であり、
R
a及びR
bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子、又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基であり、また、
R
a及びR
bは結合し、ビシクロ環を形成してもよく、
p及びqは、それぞれ1又は2であって、Wが二重結合である場合は、p及びqは、それぞれ2であり、Wが三重結合である場合は、p及びqは、それぞれ1である。
【0013】
C
*は、sp2炭素を示す。
【0014】
「実線+点線」で表されるC
*の2つの結合の一方は、二重結合を示し、他方は単結合を示す。
【0015】
Wは、二重結合又は三重結合であり、
W
aは、単結合又は二重結合である)
項10.
前記ルテニウム触媒の存在下で、下記式(1a)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物を反応させて下記式(3a)で表される化合物を得る工程を含む、項9に記載の製造方法。
【0016】
【化2】
【0017】
(式中、
Eは、酸素原子であり、
R
1及びR
2は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、R
1’及びR
2’は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基、又は
R
1及びR
2が、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環であり、
A環は、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子及び式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は前記式と同じある)で表される基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい5〜10員の不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくはヘテロ原子を有していてもよい芳香環であり、
Z
1は、炭素原子又はヘテロ原子である(ただし、Z
1が窒素原子以外のヘテロ原子である場合は、R
2は置換されず、Z
1が窒素原子である場合、R
2が置換されていてもよい)
R
a及びR
bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子、又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基であり、また、
R
a及びR
bは結合し、ビシクロ環を形成してもよく、
p及びqは、それぞれ1又は2であって、Wが二重結合である場合は、p及びqは、それぞれ2であり、Wが三重結合である場合は、p及びqは、それぞれ1である。
【0018】
Wは、二重結合又は三重結合である、
W
aは、単結合又は二重結合である)
項11.
前記ルテニウム触媒の存在下で、下記式(1b)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物を反応させて下記式(3b)で表される化合物を得る工程を含む、項9に記載の製造方法。
【0019】
【化3】
【0020】
(式中、
Eは、酸素原子であり、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、R
1’及びR
2’は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基を示し
R
3は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基を示し、又は
R
1及びR
3が、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい5〜10員の飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環であり、
R
4は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基であり、
Z
2は、炭素原子又は窒素原子であり、
nは、1又は2であって、Z
2が炭素原子である場合は、nは2であって、R
4は同じであっても異なっていてもよく、Z
2が、窒素原子である場合は、nは1である、
R
a及びR
bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子、又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基であり、また、
R
a及びR
bは結合し、ビシクロ環を形成してもよく、
p及びqは、それぞれ1又は2であって、Wが二重結合である場合は、p及びqは、それぞれ2であり、Wが三重結合である場合は、p及びqは、それぞれ1である。
【0021】
Wは、二重結合又は三重結合である、
W
aは、単結合又は二重結合である)
項12.
前記ルテニウム触媒の存在下で、下記式(1c)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物を反応させて下記式(3c)で表される化合物を得る工程を含む、項9に記載の製造方法。
【0022】
【化4】
【0023】
(式中、
Eは、酸素原子であり、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、R
1’及びR
2’は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基を示し
R
3は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基を示し、又は
R
1及びR
3が、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合したハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい5〜10員の飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環であり、
R
5は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基であり、
R
a及びR
bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子、又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基であり、また、
R
a及びR
bは結合し、ビシクロ環を形成してもよく、
p及びqは、それぞれ1又は2であって、Wが二重結合である場合は、p及びqは、それぞれ2であり、Wが三重結合である場合は、p及びqは、それぞれ1である。
【0024】
Wは、二重結合又は三重結合である、
W
aは、単結合又は二重結合である)
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、再利用性や金属溶出抑制等の優れた環境対応性能を有する高性能なルテニウム触媒を製造することができる。
【0026】
また、当該ルテニウム触媒は、従来のルテニウム系固体触媒よりも広範な原料に対して適用可能であり、より効率性、経済性及び環境対応性に優れたアルキル基及びアルケニル基置換化合物を製造することができる。
【0027】
さらに本発明のルテニウム固体触媒は、適切な条件での反応あるいは前処理により、目的とする反応に応じた最適な触媒活性種を自在に発生することができる。そのため本発明の製造方法により得られるルテニウム系固体触媒は、従来の固体触媒では達成不可能であった難易度の高い合成反応を含む、より広範な反応に適用可能であり、かつ飛躍的に優れた環境・資源・エネルギー負荷最小化特性を有する金属酸化物触媒に応用が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.金属酸化物に担持したルテニウム触媒の製造方法
本発明は、金属酸化物に担持したルテニウム触媒の製造方法に関する。ルテニウムが担持している金属酸化物(複合酸化物)としては、一般的に機械的強度が高く、触媒として利用した際の触媒の摩耗や粉化等によるロス及び製品への混入等の不利を避けることができるという点、高活性を有する触媒調製が容易であるという点、使用後の触媒の焼成による再活性化が容易である点、高い熱的、化学的安定性を有する点、及び他の副生成物を産しない点等から、希土類金属酸化物、酸化ジルコニウム、あるいはこれらの一方又は両方を含む複合酸化物が挙げられる。希土類金属酸化物としては、例えば、酸化セリウム、酸化プラセオジウム、酸化テルビウム、酸化イッテルビウム、酸化イットリウム等が挙げられる。これらの金属酸化物は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を混合して用いてもよい。これらの金属酸化物の中で、入手可能性、価格、触媒活性等の観点から、酸化ジルコニウム、酸化セリウムあるいはこれらの一方又は両方を含む複合酸化物が好ましい。
【0029】
また、前記の金属酸化物(希土類金属酸化物及び/又は酸化ジルコニウム)は、さらにその他の金属酸化物との複合酸化物であってもよい。ここで、「希土類金属酸化物及び/又は酸化ジルコニウムを含む複合酸化物」とは、希土類金属酸化物及び/又は酸化ジルコニウムと他の金属酸化物との複合体を意味する。希土類金属酸化物及び/又は酸化ジルコニウム以外の他の金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅等が挙げられる。
【0030】
前記複合酸化物を用いる場合における、希土類金属酸化物及び/又は酸化ジルコニウム以外の金属酸化物の含有割合は後述の化合物(3)を製造する上で触媒としての機能を発現できれば特に制限されるものではないが、例えば、複合酸化物中、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
前記金属酸化物又は複合酸化物は、その前駆体として、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の金属塩を用い、加水分解後に空気中で焼成させることによって得られる。
【0032】
金属酸化物(複合酸化物)に担持されたルテニウムを製造する方法としては特に限定されるものではないが、例えば、後述のルテニウム前駆体を溶媒に溶解させ、その溶液中に前記金属酸化物(複合酸化物)を含浸させた後に焼成することによって得られる。
【0033】
ルテニウム前駆体としては、Ru
3(CO)
12、[RuCl
2(CO)
3]
2、テトラクロロビス(p−シメン)二ルテニウム([RuCl
2(p−cymene))
2)、RuCl
3・nH
2O、(シクロオクタジエン)(シクロオクタトリエン)ルテニウム(0)錯体(Ru(cod)(cot))、トリアセチルアセトネートルテニウム、ヨウ化ルテニウム等が挙げられる。ルテニウム前駆体を溶解させる溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、メタノール等のアルコール系溶媒、クロロホルム等の塩素系溶媒等が挙げられる。
【0034】
ルテニウム前駆体の溶液中に前記金属酸化物(複合酸化物)を含浸させた後の焼成温度としては、200〜700℃程度が好ましく、300〜500℃程度がより好ましい。
【0035】
金属酸化物に担持されたルテニウムにおける、ルテニウムの担持割合としては、0.005〜20質量%程度あるいは0.01〜20質量%程度が好ましく、0.1〜5質量%程度がより好ましく、0.5〜2質量%程度がさらに好ましい。ルテニウムの担持割合を0.005質量%程度以上に設定することで、反応に要する固体触媒の量を減らすことができ、触媒にかかるコストを低減することができる。また、ルテニウムの担持割合を20質量%以下に設定することで、触媒表面上に原子レベルで高分散したルテニウム種を形成することができる。
【0036】
前記金属酸化物に担持したルテニウムは、アルデヒド化合物、リン化合物、及び低級アルコール化合物を混合し、加熱する工程によって本発明のルテニウム触媒が製造される。
【0037】
アルデヒド化合物としては、ホルムアルデヒド、1,3,5-トリオキサン、パラホルムアルデヒド、グリオキサール、メチルグリオキサール、マロンアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらの中で、後述の式(1a)〜(1c)や式(2)で表される広範の基質に対して触媒活性を示すことができる点、少量の添加で機能を発揮する等の観点から、ホルムアルデヒドが好ましい。なお、前記ホルムアルデヒドは、ホルマリン水(ホルムアルデヒド水溶液)として用いることができ、ホルマリン水として用いる場合の濃度としては、5〜50質量%程度が好ましく、30〜40質量%程度がより好ましい。
【0038】
アルデヒド化合物の使用量としては、金属酸化物に担持したルテニウム1質量部に対して、1〜100質量部程度が好ましく、10〜50質量部程度がより好ましく、20〜30質量部程度がさらに好ましい。アルデヒド化合物の含有量を、1質量部以上に設定することで、後述の式(1a)〜(1c)及び式(2)で表される広範の基質に対して安定して高い触媒活性を有するルテニウム触媒を確実に製造できる点から好ましく、また、100質量部以下に設定することで、金属溶出を抑制することができる点、アルデヒド化合物の使用量を削減できる点等から好ましい。
【0039】
リン化合物は、ルテニウムオキソ種から低原子価ルテニウム種への還元を促進する効果と、触媒表面上のルテニウム種に配位してルテニウム種の電子状態を変化させたり、基質や生成物のルテニウム種への配位状態を適切な状態に制御するというメカニズムより、目的化合物の収率を向上させることができる触媒が得られるという点から配合される。
【0040】
リン化合物の具体例としては、ホスフィン、ホスファイト、ホスフィンオキシド等が挙げられる。ホスフィンの具体例としては、トリフェニルホスフィン(PPh
3)、トリ−p−トリルホスフィン(P(p−tolyl)
3)、トリス(4−フルオロフェニル)ホスフィン(P(p−F−C
6H
4)
3)、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン(P(p−CF
3−C
6H
4)
3)、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン等が挙げられる。ホスファイトの具体例としては、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等が挙げられる。ホスフィンオキシドの具体例としては、トリフェニルホスフィンオキシド(POPh
3)、トリ−p−トリルホスフィンオキシド(PO(p−tolyl)
3)、トリス(4−フルオロフェニル)ホスフィンオキシド(PO(p−F−C
6H
4)
3)、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィンオキシド(PO(p−CF
3−C
6H
4)
3)、トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルホスフィンオキシドが挙げられる。これらの中で、目的化合物の収率を向上させることができる触媒が得られるという点から、PPh
3がより好ましい。
【0041】
前記リン化合物の使用量としては、金属酸化物に担持されたルテニウム中におけるルテニウム1molに対して、0.1〜20mol程度が好ましく、1〜6mol程度がより好ましく、3〜5mol程度がさらに好ましい。リン化合物の配合量を1mol以上に設定することで、反応が円滑に進行し、温和な条件下で収率よく目的物のみを選択的に生成できるという効果が得られる。また、リン化合物の配合量を20mol以下に設定することで、生成物収率を下げることなくリン化合物を効率よく利用できるという効果が得られる。
【0042】
低級アルコール化合物としては、炭素数1〜6、好ましくは、炭素数1〜4、より好ましくは炭素数1〜3の低級アルコール、炭素数3〜6、好ましくは、炭素数3〜5、より好ましくは炭素数3〜4の低級アルコキシ低級アルコール、炭素数2〜4、好ましくは、炭素数2〜3の低級アルキレングリコールが挙げられる。低級アルコール化合物は、低級アルコキシ低級アルコールが好ましい。低級アルコキシ低級アルコールの具体例としては、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、3−メトキシプロパノール、2−メトキシ−1−プロパノール、3−エトキシプロパノール、2−エトキシ−1−プロパノールが挙げられる。低級アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールが挙げられる。アルキレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。これらの中で、後述の式(1a)〜(1c)で表される広範の基質に対して触媒活性を示す触媒が得られるという点、適切な沸点を有する等の点から、2−メトキシエタノールがより好ましい。
【0043】
前記、金属酸化物に担持したルテニウム、アルデヒド化合物、リン化合物、及び低級アルコール化合物は混合した後、加熱を行う。加熱温度としては、40〜200℃程度が好ましく、80〜170℃程度がより好ましく、120〜150℃程度がさらに好ましい。加熱温度を40℃以上に設定することで、触媒の前処理に要する時間を短縮するという効果が得られる。また、加熱温度を200℃以下に設定することで、比較的沸点の低い成分のロスを抑制し、前処理に必要な添加剤の量を減らすことができる。このような加熱処理を行うことで、高活性なルテニウム触媒を得ることができる。
【0044】
金属酸化物に担持したルテニウム、アルデヒド化合物、リン化合物、及び低級アルコール化合物の混合及び加熱工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。
【0045】
上記の加熱を行った後、揮発成分(アルデヒド化合物、低級アルコール化合物)を留去することによって、ルテニウム触媒が製造される。揮発成分を留去する方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0046】
上記の製造された金属酸化物に担持したルテニウム触媒は、後述の化合物(3)を製造後、分離、回収を行い、必要に応じて洗浄後、アルデヒド化合物、リン化合物、及び低級アルコール化合物を混合し、加熱することで、再利用することができる。
【0047】
洗浄に用いられる洗浄剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、THF、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、ヘキサン、石油エーテルあるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0048】
アルデヒド化合物、リン化合物、及び低級アルコール化合物としては、前記のものを用いることができる。また、加熱温度は、前記で挙げられた温度を適用することができる。
【0049】
2.化合物(3)の製造方法
本発明は、金属酸化物に担持したルテニウム、アルデヒド化合物、リン化合物、及び低級アルコール化合物を混合し、加熱する工程により得られる金属酸化物に担持したルテニウム触媒の存在下で、後述の化合物(1)と化合物(2)を反応させる工程を含む化合物(3)の製造方法にも関する。
【0050】
化合物(1)は、下記(1-1)の部分構造を有し、具体的には式(1a)の化合物、式(1b)の化合物、式(1c)の化合物を包含する。
【0051】
化合物(3)は、下記(3-1)の部分構造を有し、具体的には式(3a)の化合物、式(3b)の化合物、式(3c)の化合物を包含する。
【0053】
(式中、R
1、E、R
a、R
b、W
a、p及びqは前記に定義される通りである。C
*はsp2炭素を示し、「実線+点線」で表されるC
*の2つの結合の一方は、二重結合を示し、他方は単結合を示す。)
【0054】
金属酸化物に担持したルテニウム触媒の製造方法としては、前述の「1.金属酸化物に担持したルテニウム触媒の製造方法」によって製造されるルテニウム触媒を用いることができる。
【0055】
基質である化合物(1)は、後述の化合物(2)と反応する水素原子が置換されている炭素がsp
2炭素、すなわち二重結合にかかわる炭素を有する化合物であればよく、式(1a):
【0061】
(式中、R
1,R
2、R
3,R
4,R
5、Z
1,Z
2,E,n及びA環は、前記に定義されるとおりである)によって表される化合物が用いられる。
【0062】
式(1a)中、化合物(2)と反応する水素原子は、金属酸化物が担持された前記のルテニウム触媒により炭素―水素結合が活性化を受ける。
【0063】
Eは、触媒上のルテニウム種を配位させ、オルト位のC−H結合に近接した位置にルテニウム種を配置させてその選択的な活性をもたらすという観点から酸素原子である。
【0064】
R
1及びR
2は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖若しくは分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基又は低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、mは0〜3の整数であり、R
1’及びR
2’は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である)で表される基である。
【0065】
本明細書において、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、フルオロメチル基、ヨードメチル基、ジフルオロメチル基、ジブロモメチル基、ジクロロメチル基、2−クロロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、2,2,2−トリクロロエチル基、3−クロロプロピル基、2,3−ジクロロプロピル基、4,4,4−トリクロロブチル基、4−フルオロブチル基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基が挙げられる。
【0066】
ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリクロロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、フルオロメトキシ基、ヨードメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、ジブロモメトキシ基、ジクロロメトキシ基、2−クロロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基、3−クロロプロポキシ基、2,3−ジクロロプロポキシ基、4,4,4−トリクロロブトキシ基、4−フルオロブトキシ基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルコキシ基が挙げられる。
【0067】
本明細書において、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、tert−ブチルカルボニル基、トリフルオロメチルカルボニル基、トリクロロメチルカルボニル基、クロロメチルカルボニル基、ブロモメチルカルボニル基、フルオロメチルカルボニル基、ヨードメチルカルボニル基、ジフルオロメチルカルボニル基、ジブロモメチルカルボニル基、ジクロロメチルカルボニル基、2−クロロエチルカルボニル基、2,2,2−トリフルオロエチルカルボニル基、2,2,2−トリクロロエチルカルボニル基、3−クロロプロピルカルボニル基、2,3−ジクロロプロピルカルボニル基、4,4,4−トリクロロブチルカルボニル基、4−フルオロブチルカルボニル基等の炭素数1〜4程度のハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基を有するカルボニル基が挙げられる。
【0068】
本明細書において、アミノ基としては、例えば式:−NH
2、−NHR
3’、−NR
3’2(式中、R
3’は、低級アルキル基であり、R
3’の数が2である場合、即ち、−NR
3’2である場合、低級アルキル基は同じであっても異なっていてもよい)で表されるものが挙げられる。式中、R
3’における低級アルキル基の具体例としては、前記の低級アルキル基と同様のものが挙げられる。
【0069】
本明細書において、不飽和炭化水素環としては、単環でも多環でもよく、5〜10員環、好ましくは5〜6員環のものが挙げられ、具体的には、以下の環が挙げられる。
【0071】
本明細書において、不飽和複素環としては、単環でも多環でもよく、5〜10員環、好ましくは5〜6員環のものが挙げられ、具体的には、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等が挙げられる。
【0072】
本明細書において、芳香環としては、5〜14員環のものが挙げられ、単環でも多環でもよく、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。
【0073】
本明細書において、カルバモイル基は、−CONH
2である。
【0074】
本明細書において、アミド基としては、例えば式:−CONHR
3’、−CONR
3’2(式中、R
3’は、低級アルキル基であり、R
3’の数が2である場合、即ち、−NR
3’2である場合、低級アルキル基(R
3’)は同じであっても異なっていてもよい)で表されるものが挙げられる。式中、R
3’における低級アルキル基の具体例としては、前記の低級アルキル基と同様のものが挙げられる。
【0075】
本明細書において、エステル基としては、例えば式:−COOR
3’(式中、R
3’は、低級アルキル基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基である)で表されるものが挙げられる。式中、R
3’における低級アルキル基の具体例としては、前記の低級アルキル基と同様のものが挙げられる。
【0076】
本明細書において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0077】
式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−mで表される基におけるR
1’及びR
2’としては、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ低級アルキル基又は芳香環である。低級アルキル基又は芳香環の具体例としては、前記のものが挙げられる。式(a)の具体例としては、例えばトリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基等が挙げられる。
【0078】
また、前記R
1及びR
2は、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環であってもよい。
【0079】
前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。不飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環は、単環であっても多環であってもよい。前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環としては、シクロペンテン、シクロヘキセン等の不飽和炭化水素環、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環等の不飽和複素環;ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等の芳香環等が挙げられる。これらの環の2以上が縮合して多環になっていてもよい。
【0080】
前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;アミノ基;ヒドロキシル基;カルバモイル基;不飽和複素環;芳香環;ニトロ基:アミド基;エステル基;カルボキシル基;ヒドロキシル基;シアノ基;ハロゲン原子;式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m及びR
aは前記式と同じ)で表される基等が挙げられ、これらの具体例としては、前記のR
1と同様のものが挙げられる。置換基の数は、1〜3個、好ましくは1〜2個が挙げられる。
【0081】
A環は、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくは芳香環である。A環は単環であっても多環であってもよい。
【0082】
前記不飽和複素環又は芳香環としては、単環であっても多環であってもよく、1つの環は5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環若しくはヘテロ原子を有していてもよい芳香環としては、ピリジン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、フラザン環、イミダゾール環、ピラゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ジハイドロオキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピラゾール環、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらの環の2以上が縮合して多環になっていてもよい。
【0083】
前記不飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;アミノ基;ヒドロキシル基;カルバモイル基;不飽和複素環;芳香環;ニトロ基:アミド基;エステル基;カルボキシル基;ヒドロキシル基;シアノ基;ハロゲン原子;式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基等が挙げられ、これらの具体例としては、前記のR
1と同様のものが挙げられる。置換基の数は、1〜3個、好ましくは1〜2個が挙げられる。
【0084】
Z
1は、炭素原子又はヘテロ原子である。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が挙げられる。また、Z
1が窒素原子以外のヘテロ原子(例えば、酸素原子若しくは硫黄原子)である場合は、R
2は存在せず、Z
1が窒素原子である場合、R
2を有する場合(Z
1は−NR
2−)とR
2を有しない場合(Z
1は−N=)がある。Z
1が炭素原子である場合、R
2を1個有する場合(Z
1は−CR
2=)とR
2を2個有する場合(Z
1は−C(R
2)
2−)がある。
【0087】
(式中、R
1及びR
2は前記式(1a)と同じであり、Z
3はヘテロ原子であり、rは1〜3の整数であり、r1は1〜2の整数であり、sは1〜5の整数であり、tは1〜6の整数であり、uは1〜6の整数であり、vは1〜3の整数であり、yは1又は2である。R’及びR”は、それぞれ、前記式(1a)のR
1で挙げられた置換基と同様のものであり、r、r1、s、t、u、v、及びyがそれぞれ2以上である場合は、R’は同じであっても異なっていてもよい)
等が挙げられる。
【0088】
前記式(1b)中、E及びR
1は、前記式(1a)と同じものが挙げられる。
【0089】
R
3は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基が挙げられ、これらの具体例としては、前記のR
1と同様のものが挙げられる。
【0090】
また、R
1及びR
3は、ヘテロ原子を介し、又は介することなく互いに結合した置換基を有していてもよい飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環であってもよい。飽和炭化水素環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環が挙げられる。
【0091】
前記飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環としては、5〜10員環であることが好ましく、5〜6員環であることがより好ましい。
【0092】
前記飽和炭化水素環、不飽和複素環又は芳香環及びこれらの環の置換基の具体例としては、前記R
1及びR
2の置換基を有していてもよい不飽和複素環若しくは芳香環及びその置換基と同様のものが挙げられ、さらに加えて、シクロヘキサン、シクロペンタン等の飽和炭化水素環等が挙げられる。
【0093】
R
4は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基である。これらの具体例としては、前記のR
1と同様のものが挙げられる。
【0094】
Z
2は、炭素原子又は窒素原子であり、nは、1又は2であって、Z
2が炭素原子である場合は、nは2であって、R
4は同じであっても異なっていてもよく、Z
2が、窒素原子である場合は、nは1である。
【0095】
式(1c)中、E及びR
1は式(1a)と同じである。また、R
3は前記式(1b)と同じである。
【0096】
R
5は、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基;カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子、式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基である)で表される基が挙げられ、これらの具体例としては、前記のR
1と同様のものが挙げられる。
【0099】
(式中、R
a,R
b、p,q及びWは、前記に定義されるとおりである)
によって表される。
【0100】
式(2)中、R
a及びR
bは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい直鎖又は分枝鎖状の低級アルキル基、低級アルコキシ基若しくは低級アルキルカルボニル基、低級アルケニル基、低級アルキニル基、カルバモイル基、不飽和複素環、芳香環、ニトロ基、アミノ基、アミド基、エステル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基又はハロゲン原子、又は式(a):−Si(R
1’)
m(OR
2’)
3−m(式(a)中、m、R
1’及びR
2’は、前記式と同じある)で表される基が挙げられ、これらの具体例としては、前記のR
2と同様のものが挙げられる。
【0101】
前記直鎖又は分枝鎖状の低級アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等の炭素数2〜4程度の直鎖又は分枝鎖状の低級アルケニル基が挙げられる。
【0102】
また、前記直鎖又は分枝鎖状の低級アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等の炭素数2〜4程度の直鎖又は分枝鎖状の低級アルキニル基が挙げられる。
【0103】
p、及びqは、それぞれ1又は2であって、Wが二重結合である場合は、p、及びqは、それぞれ2であり、Wが三重結合である場合は、p、及びqは、それぞれ1である。
【0104】
式(2)のより具体的な例としては、例えば、
【0106】
(式中、R
aは、前記式(2)と同じである、R’’’は、それぞれ、前記式(1a)のR
1で挙げられた置換基と同様のものであり、dは、1〜5の整数である)
等が挙げられる。
【0107】
化合物(2)の配合量は、特に限定されるものではなく、工業的観点から、未反応原料が残らないようにするという観点から、化合物(1)1molに対して、等モル量配合してもよく、また、化合物(1)又は化合物(2)のいずれかを大過剰配合してもよい。なお、化合物(1)1molに対して、0.1〜10mol、好ましくは1〜4mol、より好ましくは1〜2molの化合物(2)を配合してもよい。
【0108】
本発明の製造方法により、
式(3a):
【0110】
(式(3a)中、E、A、Z
1、R
1及びR
2は前記式(1a)と同じであり、R
a、R
b、p、及びqは、前記式(2)と同じであり、W
aは、単結合又は二重結合である)、
式(3b):
【0112】
(式(3b)中、Z
2、R
1、R
3、R
4及びnは前記式(1b)と同じであり、R
a、R
b、p、及びqは、式(2)と同じであり、W
aは前記式(3a)と同じである)、又は
式(3c):
【0114】
(式(3c)中、R
1、R
3及びR
5は前記式(1c)と同じであり、R
a、R
b、p、及びqは、式(2)と同じであり、W
aは前記式(3a)と同じである)
で表される化合物(3)が製造される。
【0115】
本発明の製造方法において、反応系中に水が少量含まれていても、反応が進行し、化合物(3)を製造することができる。また、反応系中は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。
【0116】
また、本発明は、有機溶媒の存在下で化合物(3)を製造してもよく、また、無溶媒下で化合物(3)を製造してもよい。
【0117】
有機溶媒の存在下で化合物(3)を製造する場合、有機溶媒としては、メシチレン、キシレン、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、n−オクタン、n−デカン等の無極性溶媒;N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、THF、ジオキサン、塩化メチレン等の極性溶媒が挙げられるが、これらの中で、化合物(3)の収率が向上するという点において、無極性溶媒であることが好ましく、具体的には、トルエン、メシチレン等が特に好ましい。
【0118】
反応温度は、40〜200℃程度であることが好ましく、80〜150℃程度であることがより好ましい。
【0119】
本発明で用いられるルテニウム触媒は、金属酸化物に担持された不均一系の触媒であるため、本発明の製造方法は、固相−液相プロセスにおいて行われる。そのため、例えば、本発明の金属酸化物に担持されたルテニウム触媒をカラム等に詰め、出発物質等を流して、化合物(3)を得るといった連続的に反応を行う方法や、溶液中に分散させて反応後にろ過や傾斜法によって触媒と生成物を分離する方法等に応用することが可能である。
【0120】
また、本発明の製造方法によって製造される化合物(3)は、医薬品原料、農薬原料、液晶材料、電子材料、高分子モノマー等に用いることが可能であり、当該化合物(3)を効率的かつ低環境負荷型製造法として有用である。なお、芳香族炭素−水素結合の活性化を伴う炭素−炭素結合形成反応は、例えば、血圧降下剤(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)の前駆体合成等に活用されているが、均一系触媒を用いる現行プロセスでは、生成物からの触媒成分の除去段階の環境・エネルギー負荷が大きい。これに対して、本願発明の不均一系触媒を用いた製造方法によると、触媒成分の除去にかかるコストを低減することが可能となり、有用な活用が期待できる。
【実施例】
【0121】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0122】
合成例1(Ru/CeO
2の調製)
トリス(アセチルアセトネト)ルテニウム(アルドリッチ社製)をルテニウムとして2質量%の担持量となるようにテトラヒドロフラン(THF)約10mLに溶かし、H. Miura, K. Wada, S. Hosokawa, M. Inoue, ChemCatChem 2010, 2, 1223-1225(非特許文献1)及び特開2010−18488号公報に記載の方法で調製した酸化セリウム1.0gを加えて室温で含浸し、蒸発乾固させ、空気中で400℃にて30分焼成し、酸化セリウムに担持したルテニウム(Ru/CeO
2)を得た。
【0123】
合成例2(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2の調製
前記合成例1で調製したRu/CeO
2を125mg(Ruとして0.025mmol含有)、トリフェニルホスフィンを26.3mg(0.10mmol)、36質量%のホルマリン水0.25mL、及び2−メトキシエタノール()2mLを20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に加え、アルゴンガス雰囲気下、ホットプレート上で130℃で30分間加熱攪拌し、室温で揮発成分を減圧留去して得られた固体を(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2とした。
【0124】
合成例3(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2の調製
Ru/CeO
2に代えて、Ru/ZrO
2を用いた以外は、合成例2と同様の方法によって(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2を調製した。
【0125】
合成例4(4PPh
3−Ru/CeO
2の調製)
非特許文献1記載の方法で、4PPh
3−Ru/CeO
2を調製した。即ち、合成例1で調製したRu/CeO
2を125mg(Ruとして0.025mmol含有)及びトリフェニルホスフィン26.3mg(0.10mmol)を20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に加え、1気圧の水素雰囲気下、100℃で20分間保持し、4PPh
3−Ru/CeO
2とした。
【0126】
合成例5((4PPh
3)−Ru/CeO
2の調製)
合成例1で調製したRu/CeO
2を125mg(Ruとして0.025mmol含有)、トリフェニルホスフィンを26.3mg(0.10mmol)、及び2−メトキシエタノール2mLを磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に加え、アルゴンガス雰囲気下、ホットプレート上で130℃で30分間加熱攪拌し、室温で揮発成分を減圧留去して得られた固体を(4PPh
3)−Ru/CeO
2とした。
【0127】
合成例6〜9(Ru触媒の調製)
CeO
2に代えて、SiO
2(Cabosil(登録商標)(キャボットジャパン(株)製))(合成例6)、Al
2O
3(JRC−ALO−8(触媒学会参照触媒)(合成例7)、TiO
2(JRC−TIO−4(触媒学会参照触媒))(合成例8)、MgO(合成例9)をそれぞれ用いた以外は、合成例1と同様の方法によって各Ru触媒を調製した。
【0128】
合成例10〜13(HCHO+4PPh
3)−Ru触媒の調製
Ru/CeO
2に代えて、合成例6〜9で調製したRu/SiO
2、Ru/Al
2O
3、Ru/TiO
2、Ru/MgOをそれぞれ用いた以外は、合成例2の方法によって各(HCHO+4PPh
3)−Ru触媒を調製した。
【0129】
実施例1
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、合成例2で調製した(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2(Ruとして0.050mmol)を加え、アルゴン置換後、α−テトラロン(1a)を1.0mmol、スチレン(2a)を3.0mmol、及び溶媒としてトルエンを2.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えた140℃に保ったホットプレート上で3時間反応を行い、反応式(A)に示すビニル基に芳香族C−H結合が位置選択的に挿入された化合物(3aa及び4aa)を2種類の位置異性体の混合物として合成した。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3aa及び4aa)の定性、及び定量は、NMR(日本電子(株)製のEX−400)、GC−MS((株)島津製作所製のParvum2)及びGC(ジーエルサイエンス(株)製のGC353)を用いて測定した。
【0130】
実施例1の反応を反応式(A)に示し、実施例1によって得られた化合物(3aa及び4aa)の収率及び異性体比率を表1に示す。
【0131】
実施例2
触媒として、合成例3で調製したRu触媒((HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2)を用いた以外は、実施例1と同様の条件下で化合物(3aa及び4aa)の合成を行った。
【0132】
比較例1
触媒として、合成例1で調製したRu触媒を用い、添加剤としてPPh
3を0.20mmol添加した以外は、実施例1と同様の条件下で化合物(3aa及び4aa)の合成を行った。
【0133】
比較例2及び3
触媒として、合成例4及び5で調製したRu触媒をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の条件下で化合物(3aa及び4aa)の合成を行った。
【0134】
比較例4
触媒として、合成例1で調製したRu触媒を用い、添加剤としてPPh
3を0.20mmol、ホルマリン水(濃度:36%)を0.5mL添加した以外は、実施例1と同様の条件下で化合物(3aa及び4aa)の合成を行った。
【0135】
比較例5〜8
触媒として、合成例10〜13で調製したRu触媒をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の条件下で化合物(3aa及び4aa)の合成を行った。
【0136】
実施例1及び2、並びに比較例1〜8についてのα−テトラロン(1a)とスチレン(2a)間の反応に対する、種々の触媒の効果について、表1に結果を示す。
【0137】
【化16】
【0138】
【表1】
【0139】
<結果と考察>
トリフェニルホスフィン及びホルマリン水を用いる手法によって前処理を施した(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2触媒、及び(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2触媒を用いた場合のみが、前記反応式(A)における反応において活性を示し、目的とするアルキル基置換芳香族化合物を良好な収率で得ることができた。ホルマリン水を加えずに同様の手法で調製した(4PPh
3)−Ru/CeO
2触媒(比較例1)は、前記反応式(A)において全く活性を示さなかった。以上より、ホルマリン水共存下での前処理が活性発現のために必須であることが示された。なお、比較例2及び3に示すように、非特許文献1及び特開2010−18488号公報で用いられるRu/CeO
2触媒(合成例4及び5)を用いた場合には、反応式(A)で示した反応は全く進行しなかった。さらに、CeO
2及びZrO
2以外の担体にルテニウムを担持し、トリフェニルホスフィン及びホルマリン水を用いる手法によって前処理を施した触媒も全く活性を示さなかった。
【0140】
実施例3〜10
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、合成例2で調製した(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2(Ruとして0.025mmol)を加え、アルゴン置換後、α−テトラロン(1a)を0.5mmol、表2に示すアルケン(2b)〜(2k)を3.0mmol(2eについては1.0mmol)、及び溶媒としてトルエンを1.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えたホットプレート上で表2に示す温度に保ち、表2に示す反応時間で反応を行い、反応式(B)に示すビニル基に芳香族C−H結合が位置選択的に挿入された化合物(3及び4)を2種類の位置異性体の混合物として合成した。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3及び4)の定性、及び定量は、実施例1と同様の方法により、測定した。
【0141】
実施例3〜10の反応を反応式(B)に示し、実施例3〜10によって得られた化合物(3及び4)の収率及び異性体比率を表2に示す。
【0142】
【化17】
【0143】
【表2】
【0144】
<結果と考察>
合成例2で合成した((HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2)は、表2に示すアルケン(2b)〜(2k)との反応においても有効であることが確認できた。特に、アルケンが2b〜2jにおいては、目的生成物がごく短時間で収率よく得られた。
【0145】
なお、非特許文献1において得られた従来の固体触媒(4PPh
3−Ru/CeO
2等)は、トリエトキシビニルシラン及びジメチルエトキシビニルシランのみが適用可能であり、それ以外のアルケンを原料として用いた反応には活性を示さず、目的生成物は全く得られなかった。さらに、前記従来法により得られる固体触媒を用いたα−テトラロンとトリエトキシシラン間の反応の完結には最短で90分を要したが、((HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2を用いた場合においては30分以内に反応が完了していることから、効率よく目的生成物が得られるということが分かる。
【0146】
実施例11〜14
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、合成例2で調製した(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2(Ruとして0.025mmol)を加え、アルゴン置換後、表3に示す芳香族化合物(1)を0.5mmol、スチレンを1.5mmol、及び溶媒としてトルエンを1.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えた140℃に保ったホットプレート上で3時間反応を行い、表3に示す反応時間で反応を行い、反応式(C)に示すビニル基に芳香族C−H結合が位置選択的に挿入された化合物(3及び4)を2種類の位置異性体の混合物として合成した。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3及び4)の定性、及び定量は、実施例1と同様の方法により測定した。
【0147】
実施例11〜14の反応を反応式(C)に示し、実施例11〜14によって得られた化合物(3及び4)の収率及び異性体比率を表3に示す。
【0148】
【化18】
【0149】
【表3】
【0150】
<結果と考察>
合成例2で得られた((HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2)は、表3に示すような各種の芳香族化合物との反応においても有効であり、目的生成物がごく短時間で収率よく得られた。なお、非特許文献1及び特開2010−18488号公報において記載される従来の固体触媒(4PPh
3−Ru/CeO
2等)は、上記実施例11〜14に基づくいずれの反応に対しても全く活性を示さなかった。
【0151】
実施例15
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、合成例2で調製した(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2(Ruとして0.025mmol)を加え、アルゴン置換後、α−テトラロン(1a)を1.2mmol、ジフェニルアセチレン(5)を1.0mmol、及び溶媒としてトルエンを1.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えた140℃に保ったホットプレート上で6時間反応を行い、反応式(D)に示す化合物(6a)を合成した。化合物(6a)の収率は、88%であった。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(6
a)の定性、及び定量は、実施例1と同様の方法により、測定した。
【0152】
実施例15の反応を反応式(D)に示す。
【0153】
実施例16
前記実施例15で用いたRu触媒を反応系から分離し、ジエチルエーテルを用いて洗浄し、一晩中80℃で乾燥させ、空気中で400℃にて30分焼成した。焼成させて得られたRu/CeO
2125mg(Ruとして0.025mmol含有)、トリフェニルホスフィン26.3mg(0.10mmol)、36質量%のホルマリン水0.25mL、及び2−メトキシエタノール2mLを20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に加え、アルゴンガス雰囲気下、ホットプレート上で140℃で30分間加熱攪拌し、室温で揮発成分を減圧留去して固体(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2を得た。
【0154】
前記方法で得られた(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2を用いて実施例15と同様の方法により、α−テトラロン(1a)とジフェニルアセチレン(5)を反応させ、反応式(D)に示す化合物(6a)を合成した。得られた化合物(6a)の定性、及び定量は、実施例1と同様の方法により測定した。化合物(6a)の収率は、88%であった。
【0155】
実施例16の反応を反応式(D)に示す。
【0156】
【化19】
【0157】
<結果と考察>
実施例15より、合成例2で合成した触媒((HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2)はジフェニルアセチレンとの反応に有効であり、目的とするアルケニル基置換芳香族化合物がごく短時間で収率よく得られた。
【0158】
さらに実施例15で用いた触媒を分離・回収し、実施例15と同様の方法で合成を行った実施例16においても、ほとんど触媒の活性の低下を伴わず、実施例15と同様に、目的とするアルケニル基置換芳香族化合物がごく短時間で収率よく得られた。そのため、合成例2で合成したRu触媒は、再生利用が可能であることがわかった。
【0159】
なお、非特許文献1及び特開2010−18488号公報に記載される従来の固体触媒(4PPh
3−Ru/CeO
2等)においては、上記の実施例15のような反応には全く活性を示さず、また、実施例16のように触媒を分離、回収し、再利用しても、得られた触媒は全く活性を示さなかった。
【0160】
実施例17
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、合成例2で調製した(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2(Ruとして0.050mmol)を加え、アルゴン置換後、2−アセチルチオフェン(1f)を1.0mmol、スチレン(2a)を3.0mmol、及び溶媒としてトルエンを2.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えた140℃に保ったホットプレート上で6時間反応を行い、反応式(E)に示すビニル基に芳香族C−H結合が位置選択的に挿入された化合物(3fa及び4fa)を2種類の位置異性体の混合物として合成した。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3fa及び4fa)の定性、及び定量は、実施例1と同様の方法により、測定した。化合物(3fa及び4fa)の収率は、99%であった。
【0161】
実施例17の反応を反応式(E)に示す。
【0162】
実施例18
前記実施例17で用いたRu触媒を反応系から分離し、ジエチルエーテルを用いて洗浄し、一晩中80℃で乾燥させ、空気中で400℃にて30分焼成した。焼成させて得られたRu/CeO
2125mg(Ruとして0.025mmol含有)、トリフェニルホスフィン26.3mg(0.10mmol)、36質量%のホルマリン水0.25mL、及び2−メトキシエタノール2mLを20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に加え、アルゴンガス雰囲気下、ホットプレート上で140℃で30分間加熱攪拌し、室温で揮発成分を減圧留去して固体(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2を得た。
【0163】
前記方法で得られた(HCHO+4PPh
3)−Ru/CeO
2を用いて実施例16と同様の方法により、2−アセチルチオフェン(1f)とスチレン(2a)を反応させ、反応式(E)に示す化合物(3fa及び4fa)を合成した。化合物(3fa及び4fa)の収率は、99%であった。得られた化合物(3fa及び4fa)の定性、及び定量は、実施例1と同様の方法により、測定した。
【0164】
実施例18の反応を反応式(E)に示す。
【0165】
【化20】
【0166】
<結果と考察>
実施例17及び18より、実施例17で用いた触媒を分離・回収し、実施例17と同様の方法で合成を行った実施例18においても、ほとんど触媒の活性の低下を伴わずに、実施例17と同様に、目的とするアルケニル基置換芳香族化合物がごく短時間で収率よく得られた。そのため、合成例2で合成したRu触媒は、反応式(E)の系においても、再生利用が可能であることがわかった。
【0167】
なお、非特許文献1及び特開2010−18488号公報に記載される従来の固体触媒(4PPh
3−Ru/CeO
2等)においては、上記の実施例16のように、Ru触媒を使用後に分離・回収した触媒は、2回目の使用時にはほぼ完全に活性を失った。
【0168】
合成例14(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2の調製
トリフェニルホスフィンを13.2mgとした以外は、合成例3と同様の方法によって(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2を調製した。
【0169】
合成例15(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2の調製
トリス(アセチルアセトネト)ルテニウム(アルドリッチ社製)の担持量をルテニウムとして1質量%の担持量となるようにした以外は、合成例3と同様の方法によって(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2を調製した。
【0170】
合成例16(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2の調製
トリフェニルホスフィンを13.2mgとした以外は、合成例15と同様の方法によって(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2を調製した。
【0171】
・合成例17(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2の調製
トリス(アセチルアセトネト)ルテニウム(アルドリッチ社製)の担持量をルテニウムとして0.5質量%の担持量となるようにした以外は、合成例16と同様の方法によって(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2を調製した。
【0172】
実施例19
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、合成例3で調製した(HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2(Ruとして0.025mmol)を加え、アルゴン置換後、α−テトラロン(1a)を0.5mmol、アルケン(2g)を1.5mmol、及び溶媒としてトルエンを1.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えたホットプレート上で140℃に保ち、3時間反応を行い、ビニル基に芳香族C−H結合が位置選択的に挿入された化合物(3g)を合成した。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物(3g)の定性、及び定量は、実施例1と同様の方法により、測定した。
【0173】
実施例20〜26
触媒として、合成例14〜17で調製したRu触媒((HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2)((Ruとして0.0125mmol〜0.0063mmol)を用いた以外は、実施例19と同様の条件下で化合物(3g)の合成を行った(実施例24のみ反応時間6時間)。
【0174】
実施例19〜26によって得られた化合物の収率を表4に示す。
【0175】
【表4】
【0176】
<結果と考察>
合成例3で合成した((HCHO+4PPh
3)−Ru/ZrO
2)は、アルケン(2g)との反応においても有効であることが確認できた。さらに、合成例15および16に示した、ルテニウムとして1質量%の担持量とした触媒を用いると、より少ないルテニウム量ながら99%以上の収率で目的化合物が得られた(実施例22および26)。さらに担持量をルテニウムとして0.5質量%まで減らした触媒(合成例17)は、合成例16に示した触媒よりも単位ルテニウム量あたりの触媒活性は高い値を示した(実施例26)。このように、ルテニウム担持量を調整することによって、さらに高い活性を示す触媒が調製でき、反応に必要なルテニウム触媒の量を減らすことができることが示された。