特許第6104245号(P6104245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧 ▶ 日本化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6104245-リチウムイオン二次電池 図000004
  • 特許6104245-リチウムイオン二次電池 図000005
  • 特許6104245-リチウムイオン二次電池 図000006
  • 特許6104245-リチウムイオン二次電池 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104245
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20170316BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20170316BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20170316BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20170316BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20170316BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M4/58
   H01M10/0567
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-522461(P2014-522461)
(86)(22)【出願日】2013年4月16日
(86)【国際出願番号】JP2013061238
(87)【国際公開番号】WO2014002584
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-144976(P2012-144976)
(32)【優先日】2012年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健
(72)【発明者】
【氏名】木谷 泰行
(72)【発明者】
【氏名】工藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】桜庭 孝仁
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−231206(JP,A)
【文献】 特開2001−233887(JP,A)
【文献】 特開2010−287526(JP,A)
【文献】 特開2010−287431(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043367(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36〜 4/62
H01M 10/05〜10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、
リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、
リチウムフルオロエチルホスフェートを電解質として、全電解質に対して、85質量%を超過する量で含有する非水電解液と、
を備え、
前記リチウムフルオロエチルホスフェート電解質は、Li(C2F5)3PF3であり、
前記リチウムフルオロエチルホスフェートの含有率が、電解液全質量を100質量%とした場合の0.1質量%〜35質量%の範囲にあることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
作動電圧が、4.3V以上であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記非水電解液の溶媒が、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、アセトニトリル(AN)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-シオキソラン(DOXL)、ジメチルスホキシド(DMSO)、スルホラン(SL)、若しくはプロピオニトリル(PN)、又はこれらの2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記溶媒の総量に対して、0.1質量%〜30質量%のフルオロエチレンカーボネートを含むことを特徴とする、請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記リン酸バナジウムリチウムが、
LiV2−yM(PO4)
で表され、
MがFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれる金属元素の一種以上であり、かつ
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦z≦3
であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記リン酸バナジウムリチウムが、Li3V2(PO4)3であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期信頼性に優れたリチウムイオン二次電池、特に多サイクル使用後の容量維持率が向上したリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車(EV、HEV等)や携帯型情報通信関連機器等の多岐の分野にわたり、リチウムイオン二次電池等のリチウムイオン蓄電デバイスが広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の多くでは、LiCoO2等のリチウム複合酸化物が正極活物質として使用されており、これにより高容量・高寿命の蓄電デバイスを実現している。
【0004】
しかしながら、これらの正極活物質は、異常発生時の高温高電位状態等において、電解液と激しく反応し、酸素放出を伴って発熱し、最悪の場合には、発火に至る可能性も否定できない。
【0005】
また、自動車や電子機器等の高性能化及び大容量化に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスについても、その更なる特性向上、例えばエネルギー密度の向上(高容量化)、出力密度の向上(高出力化)、サイクル特性の向上(サイクル寿命の向上)、及び高い安全性等が望まれている。
【0006】
近年では、熱安定性に優れ、発火等の危惧の少ない電極材料として、Li3V2(PO4)3等のリン酸バナジウムリチウムが注目されている。Li3V2(PO4)3は作動電圧がLi/Li+に対して3.8Vであり、かつ理論容量が195mAh/gと高いため、大容量で安全性の高いリチウムイオン二次電池が構成可能である。
【0007】
しかしながら、リン酸バナジウムリチウムを正極材料として繰り返し使用すれば、容量劣化を引き起こすことが報告されている。繰返し使用を行うと、バナジウムの溶出が生じ、これに起因して充放電サイクル特性が劣化するものと考えられる。例えばLi3V2(PO4)3は4.2V充電時に120〜130mAh/g、4,6V充電時に150〜180mAh/gという高容量を示す正極活物質ではあるものの、4.3V以上の高電圧下で繰り返し使用することにより容量劣化を引き起こす。充放電サイクル特性を顧慮し、例えば、特許文献1に、Li3V2(PO4)3粒子の表面に3価を超えるバナジウム化合物を配した正極材料を用いた非水電解質電池が示されている。特許文献1の非水電解質電池はLi3V2(PO4)3粒子からのバナジウムの流出を回避し、高温での充放電サイクル特性を改善しようとするものである。
【0008】
また、高温における安定な使用を行い、リチウムイオン二次電池の耐久性を向上させるために、電極材料のみならず、電解質塩の特性も種々検討されている(特許文献2及び3)。
【0009】
例えば、特許文献2では、リチウムC3-C8フルオロアルキルホスフェートは長時間にわたる加水分解耐性を示すため、二次電池の電解質塩として良好に使用可能である旨の記載がある。引用文献2では、電解質自体の分解を回避し電解液を安定化させ、この結果として、リチウムイオン二次電池の安定性及び耐久性(サイクル特性)の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−231206
【特許文献2】特開2001−233887
【特許文献3】特表2001−354681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のリチウムイオン二次電池は、高電圧印加における大容量の充放電によっても安定であり、かつ優れたサイクル特性を実現し、更に安全性の要求も満足するためには、なおも各性能ないしそのバランスを改善する余地がある。
【0012】
そこで、本発明は、エネルギー密度が大きく、かつ高電圧印加によっても繰り返し使用後の容量維持率(サイクル特性)が向上し、安全性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明者等は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、リチウムフルオロエチルホスフェート、好ましくはLi(C2F5)3PF3を電解質として含有する非水電解液と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池を見出した。
【0014】
この構成によると、充放電に際して、正極表面にリチウムフルオロエチルホスフェートを含む被膜(正極皮膜または正極上の皮膜ともいう)が生成される。すなわち、正極合剤層の電解質に接する面が皮膜により保護されるため、正極活物質からのバナジウム溶出が回避される。従って、バナジウムの負極上への析出も生じにくい。
【0015】
この結果、本発明のリチウムイオン二次電池においては、サイクル試験後の容量維持率が向上し、長期信頼性が良好なリチウム二次電池を提供することが出来る。
【0016】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、作動電圧が4.3V以上、特に4.6V以上であると好ましい。これにより、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極材料のリン酸バナジウムリチウムの有する高いエネルギー密度を最大限に利用し、高出力密度を得ることができる。
【0017】
更に、本発明では、非水電解液の溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、アセトニトリル(AN)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-シオキソラン(DOXL)、ジメチルスホキシド(DMSO)、スルホラン(SL)、若しくはプロピオニトリル(PN)、又はこれらの2種類以上の混合物を用いることができる。
【0018】
これらの溶媒を用いると、電解質であるリチウムフルオロエチルホスフェートが均一に分散する。
【0019】
また、非水電解液の溶媒の総量に対して、0.1質量%〜30質量%のフルオロエチレンカーボネートを含むと、正極皮膜が特に安定化するため好ましい。
【0020】
更に、リン酸バナジウムリチウム(LVP)は、
LixV2-yMy(PO4)z
で表され、
Mが原子番号11以上の金属元素の一種以上であり、かつ
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦z≦3
で表わされる材料、特に、Li3V2(PO4)3であると好ましい。
【0021】
リチウムフルオロエチルホスフェートの含有率は、電解液全質量を100質量%とした場合、0.1〜35質量%の範囲にあると好ましい。
【0022】
電解液全質量を100質量%とした場合のリチウムフルオロエチルホスフェートの含有率が 0.1質量%未満であると正極皮膜の膜厚が不十分となる。また、電解液全質量を100質量%とした場合のリチウムフルオロエチルホスフェートの含有率が35質量%を超過する量とすると、LVPからのリチウムイオンの流動が阻害される場合がある。
【0023】
更に、リチウムフルオロエチルホスフェートの含有率が35質量%を超過すると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇が観察される。
【発明の効果】
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リン酸バナジウムリチウム(LVP)を含有する正極と、リチウムフルオロエチルホスフェートを電解質として含む非水電解液と、を用いて構成されることにより、リン酸バナジウムリチウムが本来有する優れたエネルギー密度を最大限有効に利用することが可能とされる。すなわち、リチウムフルオロエチルホスフェート電解質を用いることにより、正極上に皮膜が形成されるため、正極材料からのバナジウムが負極上への析出が回避され、電極材料の容量劣化が生じない。この結果、本発明のリチウムイオン二次電池は繰り返し使用後の容量維持率が向上し、長期信頼性に優れる。また、高電圧の印加が可能であるため大容量の充放電が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施の形態におけるリチウムイオン二次電池の内部を模式的に示した断面図である。
図2】本発明及び比較用のリチウムイオン二次電池を充放電サイクル試験に付した際の負極におけるバナジウム析出量を示すグラフである。
図3】本発明及び比較用のリチウムイオン二次電池を充放電サイクル試験に付した際の放電容量維持率の推移を示すグラフである。
図4】(a)は実施例1、(b)は実施例2、及び(c)は比較例2に関する、リチウムイオン二次電池を充放電サイクル試験に付した後の、正極皮膜の表面ならびに深さ方向の定性分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出する負極と、リン酸バナジウムリチウムを含有する正極と、リチウムフルオロエチルホスフェートを電解質として含有する非水電解液と、を備えることを特徴とするものである。本発明では、理論容量の大きな正極材料を使用したリチウムイオン二次電池に対して4.3Vを超過する電圧、特に4.6V以上の高電圧を印加することにより、大容量の充放電を可能とし、かつ繰り返し使用しても容量劣化を引き起こさない、すなわちサイクル特性が向上した、長寿命のリチウムイオン二次電池が提供される。
【0028】
本発明では、リチウムフルオロエチルホスフェート(FEP)は
LiRxPF6-x
で表され、かつ
RがC25
1≦x≦5、
を示す化合物、特にLi(C253PF3であると好ましい。
【0029】
リチウムフルオロエチルホスフェートを電解質とする電解液を用いることにより、正極上、詳細には正極合剤層の電解液と接する面上のほぼ全面にわたり、リチウムフルオロエチルホスフェートに由来する元素から構成される被膜が形成される。この皮膜は、安定な状態で付着するため、正極活物質であるバナジウムが正極合剤層から流出することを阻止する。
【0030】
従来のリチウムイオン二次電池では、正極材料活物質としてリン酸バナジウムリチウムを用いる場合、一般に、サイクル劣化の懸念から、4.2V以下の電圧下で使用される。リン酸バナジウムリチウム自体の理論容量は大きいが、電圧が制限されるため、放電エネルギー値に限界があった。また、他の活物質を用いる場合にも、作動電圧が4.2V以下とされることが一般的である。
【0031】
正極活物質としてリン酸バナジウムリチウムを用いたリチウムイオン二次電池に高電圧を印加すると、活物質中のバナジウムが電解液中に溶出し、負極材料上に析出する。よって、リチウムイオン二次電池を多数回繰り返して使用すると、容量維持率が次第に低下し、必然的に電池寿命が短くなるものとされていた。
【0032】
これに対して、本願発明ではリチウムフルオロエチルホスフェート(FEP)を電解質とする電解液を用いることに着目した。FEPを電解質として用いることにより、例えばLiPF6を電解質として用いた従来のリチウムイオン二次電池において観察された、バナジウムの電解液への溶出と負極上への析出を、本発明においては、既に上述した機構により妨げることが可能とされたた。そして、従来よりも高電圧、すなわち作動電圧を4.3V以上としてもバナジウムの溶出が生じないリチウムイオン二次電池を得ることが可能とされた。
【0033】
このように、本発明のリチウムイオン二次電池は、リン酸バナジウムリチウム本来の大きな理論容量が最大限に利用可能となり、これにより放電エネルギー値が増大可能とされた。
【0034】
また、正極活物質からのバナジウムの溶出を防ぐことにより、4.3V以上の電圧、特に4.6V以上といった高電圧を繰り返し印加しても、容量劣化が最小限に抑えられた高寿命のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0035】
[正極活物質]
本発明では、正極活物質としてリン酸バナジウムリチウム(LVP)が使用される。本発明において、リン酸バナジウムリチウムとは、ナシコン型のリン酸バナジウムリチウムであり、例えば、
LixV2-yMy(PO4)z
で表され、
Mが原子番号11以上の金属元素、例えばFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、Zrからなる群より選ばれるの一種以上であり、かつ
1≦x≦3、
0≦y<2、
2≦z≦3
を表わす材料を意味する。
【0036】
本発明では、LVPとしてLi3V2(PO4)3が最も好ましく使用される。しかしながら、上記式で表される他のLVP全てにおいても、Li3V2(PO4)3と同様にバナジウム溶出という共通の課題を有するので、本発明によりその課題が解決される。
【0037】
LVPは充放電容量及び充放電サイクル特性に特に優れた材料であるため、本発明のリチウムイオン二次電池の大容量の充放電、及び優れたサイクル特性に直接的に寄与する。使用するリン酸バナジウムリチウムは粒状化して使用することができる。粒径には特に制限はない。
【0038】
[リン酸バナジウムリチウム(LVP)の製造法]
本発明において、LVPは、どのような方法で製造されても良く、製造法に特に制限されない。例えば、LiOH、LiOH・H2O等のリチウム源、V25、V23等のバナジウム源、及びNH42PO4、(NH42HPO4等のリン酸源等を混合し、反応、焼成する等により製造できる。LVPは、通常、焼成物を粉砕等した粒子状の形態で得られる。
【0039】
LVP粒子は球形又は略球形であると好ましく、平均一次粒子径は2.6μm以下とされ、0.05μm〜1.2μmの範囲であると好ましい。平均一次粒子径が0.05μm未満であると各粒子の電解液との接触面積が増大し過ぎることからLVPの安定性が低下する場合があり、平均一次粒子径が2.6μmを超過する場合には、反応性が不十分となる場合がある。LVPの平均一次粒子径を上記の値とすることにより、活物質粒子の表面積が増大するため、電解液との接触面積が増え、電極反応が生じやすくなる。これによりリチウムイオン二次電池のレート特性が向上する。なお、平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡で観察し、任意に抽出した粒子200個の一次粒子径を測定し、得られる測定値を平均した値である。
【0040】
更に、LVPが上記値の平均一次粒子径としていることにより、LVP粒子の加熱状態が均一となり、結晶化度が上がり、異相の少ない結晶構造が得られる。結晶化度は、LVPの製造原料や焼成条件によっても変化するが、結晶化度が98%以上であると、これを用いたリチウムイオン二次電池の容量特性及びサイクル特性が向上する。
【0041】
また、粒度はLVPの密度や塗料化等のプロセス性に影響するため、LVPの二次粒子の粒度分布におけるD50 が0.5〜25μmであることが好ましい。上記D50 が0.5μm未満の場合は、電解液との接触面積が増大し過ぎることからLVPの安定性が低下する場合があり、25μmを超える場合は反応効率低下のため出力が低下する場合がある。平均一次粒子径D50 が上記の範囲であれば、より安定性が高く高出力の蓄電デバイスとすることができる。LVPの二次粒子の粒度分布におけるD50 は1〜10μmであることが更に好ましく、3〜5μmであることが特に好ましい。なお、この二次粒子の粒度分布におけるD50 は、レーザー回折(光散乱法)方式による粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。
【0042】
また、LVPは、それ自体では電子伝導性が低いため、その表面に導電性カーボン被膜加工が施された粒子であることが好ましい。これによりLVPの電子伝導性を向上することができる。
【0043】
LVPへの導電性カーボンの被覆は種々の方法で行うことができる。LVPの合成後に導電性カーボン(例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等のカーボンブラック、及びカーボンナノチューブ等)を被覆させる工程や、LVPの合成段階に導電性カーボン自体、或いは導電性カーボンの前駆体を混合する工程を採用することができる。正極被覆層の形成に用いる導電性カーボンの前駆体としては、例えばグルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース等の糖類などの天然高分子が挙げられる。
【0044】
LVP粒子を、LVPの総質量に対して0.5質量%〜2.4質量%、好ましくは0.6質量%〜1.8質量%の範囲の導電性カーボンで被覆することにより、正極活物質として所望の電気伝導性を得ることができる。0.5質量%を下回る量では電気伝導性が不十分となり、2.4質量%を超過すると導電性カーボンによる副反応が大きくなり、信頼性が低下する。
【0045】
LVPの平均一次粒子径を2.6μm以下とした上で、更に導電性カーボンの使用量を上述の通りに規定することで、本来絶縁体としての性質を有するLVPに対して、導電性が付与されるため充放電効率に係るレート特性が向上するとともに、このリチウムイオン二次電池を繰り返し用いた場合にも容量維持率の低下が抑制される。なお、LVPに導電性カーボンが被覆されている場合、LVPの平均一次粒子径は、LVP−導電性カーボン複合体の平均一次粒子径としてもよい。
【0046】
LVPと導電性カーボンの複合体を工業的に有利な方法で製造する方法としては、リチウム源、バナジウム化合物、リン源、及び加熱分解により炭素が生じる導電性炭素材料源を、水溶媒中で混合して得られる反応液(a)を噴霧乾燥して反応前駆体を得る工程と、次いで該反応前駆体を不活性ガス雰囲気中又は還元雰囲気中で焼成する工程と、を有する製法が挙げられる。この製法で得られるLVP−炭素複合体を正極活物質として用いることにより、放電容量が高く、サイクル特性に優れる蓄電デバイスを得ることが出来る。
【0047】
前記反応液(a)を得る方法は、例えば、以下の3つのいずれかの方法を用いることができる。
(1)バナジウム化合物、リン源及び加熱分解により炭素が生じる導電性炭素材料源を水溶媒中で、好ましくは60〜100℃で加熱処理して反応を行った後、室温まで冷却後、加熱処理後の液に、更にリチウム源を添加して反応を行うことにより前記反応液(a)を得る方法。
(2)バナジウム化合物、リン源及び加熱分解により炭素が生じる導電性炭素材料源を水溶媒中で、好ましくは60〜100℃で加熱処理して反応を行った後、加熱処理後の液に、リチウム源を添加して加温下に好ましくは60〜100℃で更に反応を行って前記反応液(a)を得る方法。
(3)リチウム源、バナジウム化合物、リン源及び加熱分解により炭素が生じる導電性炭素材料源を水溶媒中に添加し、加温下に好ましくは60〜100℃で反応を行って前記反応液(a)を得る方法。
【0048】
前記(1)で得られる反応液(a)は溶液であり、一方、前記(2)及び(3)の反応液(a)は、沈殿生成物を含む反応液(a)として得られる。必要により、沈殿生成物を含む反応液(a)は湿式粉砕処理に付することが出来る。
【0049】
本発明において、LVPと導電性カーボンの複合体の製法は、前記(3)の方法で得られる反応液(a)を用いる方法が、得られるLVP−炭素複合体の一次粒子の粒径の制御が容易になる観点から特に好ましい。
【0050】
前記(3)の方法で得られる反応液を用いる具体的な方法の例としては、リチウム源、5価又は4価のバナジウム化合物、リン源及び加熱分解により炭素が生じる導電性炭素材料源を水溶媒中で混合して原料混合液を調製する第1工程と、該原料混合液を好ましくは60℃〜100℃に加熱して沈殿生成反応を行い、沈殿生成物を含む反応液(a)を得る第2工程と、該沈殿生成物を含む反応液をメディアミルにより湿式粉砕処理して、粉砕処理物を含むスラリーを得る第3工程と、該粉砕処理物を含むスラリーを噴霧乾燥処理して反応前駆体を得る第4工程と、該反応前駆体を不活性ガス雰囲気中又は還元雰囲気中で600℃〜1300℃で焼成する第5工程と、を有する製法が挙げられる。この製法で得られるLVP−炭素複合体を正極活物質として用いれば、放電容量が高く、サイクル特性に優れる蓄電デバイスを得ることが出来る。
【0051】
上記製造方法において、リチウム源としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム又はシュウ酸リチウム等の有機酸リチウムが挙げられ、これらは含水物であっても無水物であってもよい。この中では、水酸化リチウムが、水への溶解性が高いため、工業的観点から好ましい。
【0052】
バナジウム化合物としては、五酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、オキシシュウ酸バナジウム等が挙げられ、五酸化バナジウムが安価に入手できる点、優れた反応性を有する反応前駆体が得られる点から好ましい。
【0053】
リン源としては、リン酸、ポリリン酸、無水リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸アンモニウム等が挙げられ、リン酸が安価に入手できる点、優れた反応性を有する反応前駆体が得られる点から好ましい。
【0054】
導電性炭素材料源としては、例えば、軟ピッチから硬ピッチまでのコールタールピッチ;乾留液化油等の石炭系重質油、常圧残油、減圧残油の直流重質油、原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油の石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素;フェナジン、ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン;ポリ塩化ビニル;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール等の水溶性ポリマー、及びこれらの不溶化処理品;含窒素性のポリアクリロニトリル;ポリピロール等の有機高分子;含硫黄性のポリチオフェン、ポリスチレン等の有機高分子;グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース等の糖類などの天然高分子;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキシド等の熱可塑性樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0055】
これらのうち、糖類が工業的に安価に入手でき、好ましい。また、糖類を用いた結果として得られるLVP−炭素複合体を正極活物質とする蓄電デバイスは、放電容量とサイクル特性が特に優れたものとなるため、糖類の使用が好ましい。
【0056】
なお、前記(1)の反応液(a)を用いてLVPと導電性カーボンの複合体を得るには、前記(1)の反応液(a)を得た後、次いで、前記第4工程及び第5工程を順次実施すればよく、また、前記(2)の反応液(a)を用いてLVPと導電性カーボンの複合体を得るには、前記(2)の反応液(a)を得た後、前記第3工程、第4工程及び第5工程を順次実施すればよい。
【0057】
[非水電解液]
本発明に用いられる電解液は、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、非水電解液とされる。
【0058】
本発明では、非水電解液の電解質の少なくとも一部にリチウムフルオロエチルホスフェート(FEP)を含むことを必須とする。
リチウムフルオロエチルホスフェートは、
LiRxPF6-x
で表され、かつ
RがC25
1≦x≦5、
を示す化合物であると好ましい。
【0059】
リチウムフルオロエチルホスフェートの具体例としては、Li(C251PF5、Li(C252PF4があり、化合物安定性の高いLi(C253PF3が特に好ましく使用可能である。
【0060】
リチウムフルオロエチルホスフェートを電解質として用いることにより、正極合剤層の電解質と直接接する表面のほぼ全域にわたりリチウムフルオロエチルホスフェートによる皮膜を形成することができる。分析結果により、正極皮膜は、リチウムフルオロエチルホスフェートを構成する元素である、Li、C、O、F、Pを含むこと、及び他の電解質によると正極皮膜が生成しにくいことから、主な成分がリチウムフルオロエチルホスフェートに由来するものと考えられる。
【0061】
本発明では、リチウムフルオロエチルホスフェートと併用して他種の電解質を用いることが可能である。併用可能な電解質としては、例えば、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiCF3BF3、LiPF6、LiB(C654、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(C25SO22NLi、(CF3SO22NLi等やこれらの混合物を用いることができる。
【0062】
FEPに対して、他の電解質を一種類使用しても、複数種類を併用してもよい。本発明では、LiPF6やLiBF4が特に好ましく使用される。
【0063】
但し、電解質の全質量(100質量%)に対して、リチウムフルオロエチルホスフェート以外の電解質は、15質量%以下の割合とする必要がある。これにより、本発明において必須の電解質であるFEPの使用量が確保され、FEPを含む安定な皮膜を形成することができる。
【0064】
リチウムフルオロエチルホスフェートを単独の電解質として用いる場合の使用割合は、電解液全質量を100質量%とした場合の0.1質量%以上35質量%以下であると好ましく、0.5質量%以上30質量%以下であると特に好ましい。
【0065】
電解液全質量を100質量%とした場合のリチウムフルオロエチルホスフェートの含有率が0.1質量%未満であると正極材料上に析出する皮膜の膜厚が不十分となる。また、電解液全質量を100質量%とした場合のリチウムフルオロエチルホスフェートの含有率が35質量%を超過する量とすると、LVPからのリチウムイオンの流動が阻害される場合がある。
【0066】
更に、リチウムフルオロエチルホスフェート(他の電解質を含む場合は電解質の合計)の含有率が40質量%を超過すると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇が観察される。
【0067】
正極皮膜を設けることにより、正極におけるリチウムイオンの流出入、及びバナジウムイオン溶出の回避が、好適に行われる。
【0068】
本発明では、使用可能な溶媒に特に制限はないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)等の鎖状カーボネート、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート、及びアセトニトリル(AN)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-シオキソラン(DOXL)、ジメチルスホキシド(DMSO)、スルホラン(SL)、プロピオニトリル(PN)等の比較的分子量の小さい溶媒、又はこれらの混合物を使用することができる。
【0069】
これらの溶媒のうち、電解質の分散性及び正極への電解質による皮膜形成性を考慮すると、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)の任意の組み合わせを用いると特に好ましい。
【0070】
更に、本発明では、電解液の溶媒の少なくとも1部として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を用いると好ましい。フルオロエチレンカーボネート(FEC)は、電解液総量に対して、例えば0.1質量%〜30質量%の量で用いられると、正極皮膜が更に安定化し、正極材料からのバナジウムの溶出の阻止及びサイクル特性の向上に極めて有効である。
【0071】
非水電解液は液状でも良く、可塑剤やポリマー等を混合し、固体電解質又はポリマーゲル電解質としたものでも良い。電解質としてリチウムフルオロエチルホスフェートを含む非水電解液を用いた本発明のリチウムイオン二次電池では、4.3V以上の高電圧を印加すると、正極表面上に均一かつ安定な皮膜を形成し、正極活物質からのバナジウムの流出を防ぐことができる。
【0072】
LVPから電解液へのバナジウムの溶出が回避されると、LVP本来の大きなエネルギー密度を維持することができる。
【0073】
正極皮膜の形成により、繰り返し使用後にも、リチウムイオン二次電池の容量維持率が良好に保たれ、更にLVPの使用により発火等の不具合の可能性も回避される。また、繰り返しの高電圧印加によっても、効率のよい充放電を行うことができる。この結果、本発明では、長期信頼性に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0074】
以下、本発明のリチウムイオン蓄電デバイスの一実施の形態を、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0075】
[蓄電デバイス]
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池10の実施形態の一例を示す概略断面図である。図示のように、リチウムイオン二次電池10は、それぞれ板状の正極18と、負極12とがセパレータ25を介して相互に対向して配置されている。
【0076】
正極18は、正極集電体20と、正極集電体20上に設けられ本発明の正極活物質を含む正極合材層22と、から構成され、負極12は、負極集電体14と、負極集電体14上に設けられ負極活物質を含む負極合材層16と、から構成されている。負極合剤層16は、セパレータ25を介して正極合材層22に対向するように配置されている。これら正極18、負極12、セパレータ25は、図示しない外装容器に封入されており、外装容器内には非水電解液が充填されている。外装材としては例えば電池缶やラミネートフィルム等が挙げられる。
【0077】
また、正極集電体20と負極集電体14とには、必要に応じて、それぞれ外部端子接続用のリード20a及び14aが接続されている。
【0078】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質から得られる最大限の充放電容量及び充放電サイクル特性を維持して、かつ長寿命とされる。
【0079】
本発明のリチウムイオン蓄電デバイスに係る、正極18、負極12、及びセパレータ25について更に説明する。
【0080】
[正極]
本発明における正極18は、上述のようにLVPを含み、それ以外は公知の材料を用いて作製することができる。具体的には、例えば、以下のように作製する。
【0081】
上記正極活物質、結着剤、導電助剤を含む混合物を溶媒に分散させた正極スラリーを、正極集電体20上に塗布、乾燥を含む工程により正極合材層22を形成する。乾燥工程後にプレス加圧等を行っても良い。これにより正極合材層22が均一且つ強固に集電体に圧着される。正極合材層22の膜厚は10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0082】
本発明の正極活物質は、その総質量に対してLVPを80質量%以上含むことが必須であるが、他の正極活物質であるリチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物等を混合することも可能である。ただし、正極活物質がLVPのみから構成されることが好ましい。
【0083】
正極合材層22の形成に用いる結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、アクリル系バインダ、SBR等のゴム系バインダ、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、カルボキシメチルセルロース等が使用できる。結着剤は、本発明の蓄電デバイスに用いられる非水電解液に対して化学的、電気化学的に安定な含フッ素系樹脂、熱可塑性樹脂が好ましく、特に含フッ素系樹脂が好ましい。含フッ素系樹脂としてはポリフッ化ビニリデンの他、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体及びプロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。結着剤の配合量は、上記正極活物質に対して0.5〜20質量%が好ましい。
【0084】
正極合材層22の形成に用いる導電助剤としては、例えばケッチェンブラック等の導電性カーボン、銅、鉄、銀、ニッケル、パラジウム、金、白金、インジウム及びタングステン等の金属、酸化インジウム及び酸化スズ等の導電性金属酸化物等が使用できる。導電材の配合量は、上記正極活物質に対して1〜30質量%が好ましい。
【0085】
正極合材層22の形成に用いる溶媒としては、水、イソプロピルアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が使用できる。
【0086】
正極集電体20は正極合材層22と接する面が導電性を示す導電性基体であれば良く、例えば、金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電性基体や、非導電性の基体本体を上記の導電性材料で被覆したものが使用できる。導電性材料としては、銅、金、アルミニウムもしくはそれらの合金又は導電性カーボンが好ましい。正極集電体20は、上記材料のエキスパンドメタル、パンチングメタル、箔、網、発泡体等を用いることができる。多孔質体の場合の貫通孔の形状や個数等は特に制限はなく、リチウムイオンの移動を阻害しない範囲で適宜設定できる。
【0087】
また、本発明おいては、正極合材層22の目付けを4mg/cm2以上、20mg/cm2以下とすることで、優れたサイクル特性を得ることができる。目付けが20mg/cm2を超えると、サイクル劣化が生じる。なお、目付けが大きいほど高容量が得られる。正極合材層22の目付けは10mg/cm2以上、20mg/cm2以下であることがさらに好ましい。なお、ここでいう目付けとは正極集電体20の一方の面側の正極合材層22の目付けを意味する。正極合材層22を正極集電体20の両面に形成する場合には、一方の面および他方の面の正極合材層22がそれぞれ上記範囲に含まれるよう形成される。
【0088】
また、本発明においては、正極合材層22の空孔率を35%以上、65%以下とすることで、優れたサイクル特性を得ることができる。正極合材層22の空孔率が35%未満ではサイクル劣化が生じる。正極合材層22の空孔率が65%を超えても、優れたサイクル特性は維持できるが、容量や出力が低下するため好ましくない。正極合材層22の空孔率は40%以上、60%以下であることがさらに好ましい。
【0089】
[負極]
本発明において負極12は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な材料であれば特に制限はなく、公知の材料を用いて作製することができる。
例えば、一般に使用される負極活物質及び結着剤を含む混合物を溶媒に分散させた負極スラリーを、負極集電体14上に塗布、乾燥等することにより負極合材層16を形成する。
【0090】
なお、結着剤、溶媒及び集電体は上述の正極の場合と同様の材料が使用できる。
【0091】
負極活物質としては、例えば、リチウム系金属材料、金属とリチウム金属との金属間化合物材料、リチウム化合物、リチウムインターカレーション炭素材料、炭素材料、又はシリコン系材料が挙げられる。
【0092】
リチウム系金属材料は、例えば金属リチウムやリチウム合金(例えば、Li−Al合金)である。金属とリチウム金属との金属間化合物材料は、例えば、スズ、ケイ素等を含む金属間化合物である。リチウム化合物は、例えば窒化リチウムである。
【0093】
また、リチウムインターカレーション炭素材料としては、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素材料等の炭素材料、ポリアセン物質等が挙げられる。ポリアセン系物質は、例えばポリアセン系骨格を有する不溶且つ不融性のPAS等である。なお、これらのリチウムインターカレーション炭素材料は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。負極合材層16の膜厚は一般に10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0094】
炭素材料の例は、グラファイト、及びハードカーボンである。
【0095】
更に、シリコン系材料としては、シリコン及びシリコンと炭素の複合材料が挙げられる。
【0096】
本発明では、炭素材料、リチウム系金属材料、及びシリコン系材料が負極として好ましく使用される。
【0097】
また、本発明おいては、負極合材層16の目付けは、正極合材層22の目付けに合わせて適宜設計される。通常、リチウムイオン二次電池では、正負極の容量バランスやエネルギー密度の観点から正極と負極の容量(mAh)がおおよそ同じになるように設計される。よって、負極合材層16の目付けは、負極活物質の種類や正極の容量等に基づいて設定される。
【0098】
[セパレータ]
本発明で使用するセパレータは、特に制限はなく、公知のセパレータを使用できる。例えば、電解液、正極活物質、負極活物質に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性の無い多孔質体等を好ましく使用できる。このような多孔質体として例えば、織布、不織布、合成樹脂性微多孔膜、ガラス繊維などが挙げられる。合成樹脂性の微多孔膜が好ましく用いられ、特にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好ましい。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載の各材料の使用量における「部」及び「%」は、特に記載のない限り「質量」を基準とするものとする。
【0100】
[実施例1]
(1)正極の作製
正極活物質としてカーボン被覆されたLi3V2(PO4)3を93質量部と、導電剤としてのケッチェンブラック3質量部と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)4質量部とを均質に混合した。このように得られた混合物50gを、75mlのN‐メチル‐2‐ピロリドン(NMP)に分散させて、正極合剤塗液を得た。得られた正極合剤塗液を、正極集電体となる厚み15μmのアルミニウム箔の両面に均一に塗布し、乾燥して、片面当たり15mg/cm2の正極活物質層を形成した。これを幅24mm、長さ38mmの形状に切断して、正極を作製し、更に正極リードを取り付けた。なお、Li32(PO43はカーボンをC原子換算で1.7質量%被覆したものを用いた。カーボンの被覆量はTOC全有機炭素計(島津製作所製TOC−5000A)を用いて測定した。
【0101】
(2)負極の作製
負極活物質としての黒鉛96質量部と、結着剤としてのPVdF4質量部とを均質に混合した。このように得られた、混合物50gを75mlのNMPに分散させて、負極合剤塗液を得た。得られた負極合剤塗液を、負極集電体となる厚み15μmの銅箔の両面に均一に塗布し、乾燥して、片面当たり7mg/cm2の負極活物質層を形成した。これを幅26mm、長さ40mmの形状に切断して、負極を作製し、更に負極リードを取り付けた。
【0102】
(3)電解液の作製
エチレンカーボネート(EC)を27.6質量部と、エチルメチルカーボネート(EMC)を15.0質量部と、とジメチルカーボネート(DMC)を27.6質量部と、リチウムフルオロエチルホスフェート(Li(C2F5)3PF3)を29.8質量部の割合で混合した。
【0103】
(4)リチウムイオン二次電池の作製
上記(1)及び(2)により得られた正極と負極とを、厚み12μmの微多孔性ポリエチレンフィルムからなるセパレータを介して積層し、アルミニウムラミネートフィルムからなる外装部材内に装填し、熱融着を行った。このように積層型セルを作製した。この積層型セルに上記(3)により得られた電解液を1g注液後、真空熱融着を行い、封止して、実施例1のミニセルサイズのリチウムイオン二次電池(サンプル1)を得た。
【0104】
[実施例2及び3]
電解液の作成において、溶媒及び溶質の使用割合を以下の表1に記載したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、実施例2及び3によるミニセルサイズのリチウムイオン二次電池(サンプル2及び3)を製造した。
【0105】
[比較例1及び2]
電解液の作成において、溶媒及び溶質の使用割合を以下の表1に記載したように変更した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、比較例1及び2によるミニセルサイズのリチウムイオン二次電池(比較サンプル1及び2)を製造した。
【0106】
【表1】
【0107】
表1における数値は質量部を基準とする。
【0108】
[性能評価:サイクル試験]
サンプル1〜3及び比較サンプル1及び2を、室温(20℃)下、終止電圧4.6Vまで0.7Cの定電流にて充電したのち、引き続き4.6Vの定電圧で充電し、さらに、終止電圧2.5Vに到達するまで0.7Cの定電流にて放電した。この条件にて500サイクルの充放電を繰り返した。
【0109】
(1)バナジウム定量試験: 電解液へのバナジウム溶出量
サンプル1〜3(実施例1〜3)及び比較サンプル1(比較例1)を、それぞれ4個ずつ、上記のサイクル試験に付した。100、200、300、及び500サイクル後に電池を解体し、負極1枚を取り出してジエチルカーボネートにて洗浄後、真空乾燥を行った。負極物質を薬匙で削り取り、50%硫酸水溶液にて80℃加熱攪拌を行い濾過後、負極中のバナジウム量(ppm)を、ICP(誘導結合プラズマ)質量分析器(セイコー電子工業社製)を用いて測定した。その結果を図2に示した。
【0110】
この結果から、電解質としてLi(C253PF3を用いたサンプル1〜3では、サイクル数を重ねても、負極上へのバナジウム析出量が極めて低レベルに抑えられていることがわかる。これに反して、電解質としてLiPF6を用いた比較サンプル1では、サイクル数の増加とともに、負極に析出するバナジウム量が急激に増大していることが示されている。
【0111】
(2)容量維持率
サンプル1〜3(実施例1〜3)及び比較サンプル1及び2(比較例1及び2)を、それぞれ上記のサイクル試験に付した後、500サイクル後の放電容量維持率を測定した。初期放電容量を100%としたときの放電容量維持率(%)は以下の通りであった。
【0112】
【表2】
【0113】
更に、図3に500サイクルまでの各サンプルの放電容量維持率の推移を示すグラフを示す。
【0114】
上記結果から、電解質としてLi(C253PF3を用いたサンプル1〜3では、サイクル試験によっても放電容量維持の低下が抑制されていることがわかる。これに対し、電解質としてLiPF6を用いた比較サンプル1及び2では、サイクル数の増加とともに放電容量維持率が著しい低下を示していることがわかる。
【0115】
また、図3から、電解質の溶媒としてフルオロエチレンカーボネート(FEC)を用いた場合に(サンプル2(実施例2))、放電容量維持率が極めて良好に維持可能であることがわかる。
【0116】
(3)正極表面分析
サンプル1、2(実施例1及び2)及び比較サンプル1(比較例1)を、それぞれ上記のサイクル試験に付し、500サイクル後に、各サンプルをアルゴンボックス内にて解体した。それぞれ正極1枚を取り出し、ジエチルカーボネートにて洗浄後、真空乾燥を行った。
【0117】
トランスファーベッセルを用いて、大気に曝すことなく走査型オージェ電子分光装置(PHI製 670Xi型)に導入し、正極皮膜の表面ならびに深さ方向の定性分析結果を行った。分析結果を図4に示す。図4中、(a)はサンプル1、(b)はサンプル2、及び(c)は比較サンプル1の分析結果であり、それぞれ横軸に正極皮膜の深さ(Å)、縦軸に原子濃度(%)を示す。
【0118】
本発明のサンプル1及び2は、比較サンプル1と比較すると、正極表面の炭素(C)、酸素(O)濃度が高くなっており、リン(P)も確認されることより、本発明では正極表面に炭素、酸素、リンからなる混合被膜が生成していると考えられる。
【0119】
リチウムフルオロエチルホスフェートはそれ自体安定な化合物として分解しにくいことが知られているが、高電圧状態では溶媒と共に酸化分解を起こし、混合物が正極被膜として存在しているものと推測される。
【0120】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0121】
10 リチウムイオン二次電池
12 負極
14 負極集電体
16 負極合剤層
18 正極
20 正極集電体
22 正極合剤層
14a リード
25 セパレータ
20a リード
図1
図2
図3
図4