【実施例】
【0102】
1.ニコチアナ・ベンサミアナからのFucT遺伝子の単離。
【0103】
FucT KO植物を産生するため、FcuT遺伝子ファミリーの全てのメンバーを同定および単離する必要があった。従って、我々はまずサザンブロット分析によりその遺伝子ファミリーの大きさを決定した。N.ベンサミアナからのゲノムDNAをEcoRI、EcoRV、PstI、HindIII、NsiI、またはAseIで消化し、1%アガロースゲル上で泳動し、ナイロン膜上にブロットした。そのブロットをN.ベンサミアナからのFcuTAのcDNAクローン(Strasser et al. (2008) Plant Biotech J. 6:392)とハイブリダイズさせた。曝露後、そのオートラジオグラムはレーンあたり7本に至るまでのハイブリダイズしたバンドを示し、これは最大で7個の遺伝子のファミリーを示している(
図1)。
【0104】
このFucT遺伝子ファミリーの全てのメンバーを単離するため、Amplicon Expressにより2つのBACライブラリーを構築した。それぞれが、クローニング酵素としてそれぞれMboIおよびHindIIIを用いて、ゲノムの2.5倍をカバーしていた。そのライブラリーをFucTA cDNAプローブを用いてスクリーニングした。合計で32個のBACクローンが見付かった。これらのクローンを、それぞれの個々のクローンのハイブリダイゼーションパターンをN.ベンサミアナのゲノムDNAのハイブリダイゼーションパターンと比較するサザンブロット分析に基づいて、異なるファミリーに分類した(
図2)。その32個のクローンの内で、8個はハイブリダイズしなかった。残りのクローンは8個のファミリーに分類することができた。これらのファミリーの5個は、N.ベンサミアナのゲノムのサザンブロットハイブリダイゼーションにおけるバンドと重なるハイブリダイゼーションパターンを示した。
【0105】
それぞれのBACクローンファミリーの1つの代表を、454配列決定技術を用いて配列決定し、FucTA cDNAの配列を用いたBLAST相同性検索により、FucT遺伝子の存在に関して分析した。この方法で試験した8個のファミリーの内で、5個はFucT配列を含有し、それらは全てFucTAのコード配列に関する完全長であった。これらの5個の遺伝子をFucTA、−B、−C、−D、および−Eと名づけた。これらの5個のFucT遺伝子の配列を、それぞれSEQ ID NO 1、SEQ ID NO 4、SEQ ID NO 7、SEQ ID NO 10、およびSEQ ID NO 13において示す。
【0106】
これらのコンティグおよび公開されたFucTA cDNAの配列を用いたEST2Genome(Mott (1997) Comput. Applic. 13:477)分析は、FucTEを除く全ての遺伝子がA.サリアナのFucT−Aおよび−B遺伝子と比較した場合に同じ数のイントロンを有し、そのイントロン−エキソン境界もこれらの2つの種の間で保存されていることを示した。驚くべきことに、N.ベンサミアナのFucTE遺伝子中にはイントロンは見付からなかった。FucT−D遺伝子は7833bpの異常に大きなイントロン1を含有することが分かった。
【0107】
TSSP(Shahmuradov et al. (2005) Nucl. Acids Res. 33:1069)を用いたプロモーター要素に関する上流の配列の分析は、FucTEを除く全ての遺伝子が高い信頼度で予測されたTATA領域を有することを示した。加えて、FucTE遺伝子のアミノ酸配列の分析は、それが288位においてチロシンのアスパラギン酸への置換(Y288D)を含有することを示した。この位置は高度に保存された供与体基質結合部位(“モチーフII”)の一部であり、このチロシン残基の変異はヒトのFucT VIの酵素活性を完全に不活性化することが示されている(Jost et al. 2005 Glycobiology 15:165)。対照的に、全ての他のN.ベンサミアナのFucT遺伝子はこの位置に保存されたチロシン残基を含有する。まとめると、これはFucTEはおそらく不活性なFucT酵素をコードする不活性な遺伝子であることを示している。
【0108】
最後に、その遺伝子の間の相同性を決定するため、我々はその遺伝子の引き出されたコード配列をClonemanagerプログラムを用いてヌクレオチドレベルでアラインメントし、結果としてFucT遺伝子ファミリーは2つの群に分けられた:FucTAおよびFucTBが1つの群を形成し、FucTAは以前に公開されたN.ベンサミアナFucTA cDNA(Strasser et al. (2008) Plant Biotech J. 6:392)に対して100%の同一性を有する。FucTAおよび−Bのコード領域は96%の同一性を有する。その2個の遺伝子の間の主な目立つ違いは、FucTBは中途での停止コドンのためより短いコード配列を有することである。FucTC、FucTDおよびFucTEは第2の群を形成する。3個の遺伝子全てがそのコード領域において96%の同一性を有する。その2個の群からの遺伝子は80%の相対的同一性を共有している。
【0109】
2.EMSによる突然変異誘発
我々はそれぞれのFucT遺伝子に関するヌル変異の選択に至る(come to)ためにEMSによる突然変異誘発を用いた。エチルメタンスルホネート(EMS)は、グアニン(G)をアルキル化することにより、GのAへの、およびCのTへの点変異を引き起こす。これらの点変異は、それらが停止コドンまたはスプライス部位の変異を誘発することによりヌル変異を生成した場合、遺伝子をノックアウトし得る。この方法を用いて、我々は全てのFucT遺伝子に関するノックアウトに関してスクリーニングすることができる。これらの変異体を交配した後、完全ノックアウトが達成されるであろう。
【0110】
M2種子産生に関する最適なEMS用量の決定。
【0111】
異なるEMS用量および結実(seed set)、発芽および植物の表現型への作用を試験した。これは、N.ベンサミアナにおけるEMSに誘発されるFucTのノックアウトを見付けるための最適なEMS用量を見出すために必要であった。
【0112】
EMSによる突然変異誘発に関する最適用量を、種子を0、50、75、100、150、および200mMのEMSで処理することにより決定した。簡潔には、種子を室温で2時間浸し、室温で4時間EMSで処理し、室温で15分間の洗浄を5回行った。種子を一夜乾燥させ、すぐに播種した。発芽、幼苗致死および植物の稔性への作用を記録した。N.ベンサミアナはN.デブネイ(N.debneyi)およびN.スアベオレンス(N.suaveolens)の組み合わせからの複二倍体種である可能性が最も高いため(Goodspeed, T. H. 1954 Pages 485-487 in: The Genus Nicotiana: Origins, Relationships and Evolution of its Species in the Light of Their Distribution, Morphology and Cytogenetics. Chronica Botanica、米国マサチューセッツ州ウォルサム)、それらも最初はその試験に含まれた。しかし、それらはN.ベンサミアナと比較してEMSに対する感受性が低いことが示されたため(データは示していない)、それらは稔性試験には用いられなかった。EMS処理は発芽の遅れを引き起こしたが(
図3A)、75mM EMSまで致死性は検出されなかった。より高いEMS用量では致死率が急速に上昇し、150mMではその処理を生き延びた種子はなかった(
図3B)。稔性は50mMにおいて既に影響を受けた。その種子を75mMで処理することにより、M1植物のおおよそ60%が不稔であった(
図3C)。これらの結果に基づいて、最適なEMS用量を75mMに設定した。
【0113】
EMSにより突然変異誘発された植物およびFucT変異体に関してスクリーニングするためのM2集団のDNA試料の産生
我々の変異体を見付けるよい機会を有するため、我々は約10000の植物をスクリーニングする必要があった。75mMのEMS用量を用いることにより10000より多くのM2植物を得るため、我々は少なくとも20000のM1植物を生長させる必要があった。決定された密度および世代時間において、7000のM1植物を4ヶ月で生長させることができた。従って、少なくとも3つのM1集団を生長させる必要があった。
【0114】
M2種子を播種し、そのM2のN.ベンサミアナ植物の葉の試料に対してDNA抽出を行った。そのDNA抽出は組織内で行われ、組織内のEdwardsおよびKingfisher法に従って植物あたり4個の葉のディスク(discs)を抽出した。1つのEMS処理に由来するDNAプレートをEMS処理単位と定めた。
【0115】
我々は合計で6つのEMS処理単位を作った。2つの処理単位は失敗した:処理単位2は不十分な変異頻度により、処理単位4はEMSによる突然変異誘発とは無関係の植物の死のために失敗した。まとめると、4つの処理単位が残り、それはそれぞれがM2のN.ベンサミアナの葉の試料から抽出された95のDNA試料の99のプレートを含んでいた。それぞれのプレートの位置H12において、我々はUSDA国立生殖質システムからのN.ベンサミアナ系統種(accession)NBNPGS2(系統種コードPI555684)の内部対照DNA試料を含ませた。この系統種はEMSによる突然変異誘発のために用いられたベンサミアナ系統種(すなわち、Icon Genetics GmbHにより供給された栽培品種“BENTHAMIANA”)と比較していくつかの既知のSNPを含有していた。これらのSNPの位置を表1において要約する。プレートを−70℃で保管した。
【0116】
【表1】
【0117】
直接配列決定によるEMSに誘発された点変異の検出および一塩基多型(SNP)の検出
直接配列分析によるEMSに誘発された点変異の高スループット検出のため、我々はSmits et al. (2006), Pharmacogenet. Genomics 16:159により記述された方法を用いた。その方法はAgowa GmbH(現在LGC実験室サービス(laboratory service)の一部)により我々のために適合された。簡潔には、特定の遺伝子断片をPCRにより個々の植物の葉の組織のDNAから遺伝子特異的なプライマーを用いて増幅した。それぞれのプライマーはその5’末端において、結果として生じるPCR断片の両方の鎖の配列の分析を可能にするであろう追加の配列を有していた。
【0118】
配列のクロマトグラムを、それらをNovoSNP(Weckx, S. et al. 2005 Genome Research 15:436)でFucTA、FucTB、FucTC、FucTDおよびFucTEの配列と比較することにより、一塩基多型(SNP)に関して分析した。
【0119】
突然変異誘発の検出のための標的領域の定義。
【0120】
直接配列決定によるSNPの検出は500bpの配列断片に限られていたため、EMSを用いて突然変異誘発した際にヌル変異を生成する最も高い見込みを有するFucTA〜E遺伝子中の500bpの領域を同定する必要があった。従って、我々は(1)1回のGのAへの、またはCのTへの変異により停止コドンに変化し得るコドンおよび/またはスプライス供与部位および受容部位の最も高い密度を有し、かつ(2)触媒ドメインまたは保存されたドメインの中または上流に位置する領域を同定する必要があった。
【0121】
停止またはスプライス変異の候補の最も高い密度を見付けるため、我々は1回のEMS変異により停止コドンまたはスプライス変異体に変異し得るコード配列中の全てのコドンを同定するアルゴリズムを用いた。
【0122】
FucT遺伝子内の突然変異誘発の検出のために2つの一般的な標的が定められた:
我々の第1の標的に関して、我々の選択はα1,3−FucTの“モチーフII”ならびにモチーフIIの上流の2個の他のモチーフである“Mn結合”および“SSDモチーフ”に関する共有された保存されたアミノ酸配列に基づいた(Jost et al. 2005 Glycobiology 15:165; Wilson et al. 2001 Biochim Biophys Acta. 1527:88)。従って、標的として我々は上記の“モチーフII”および“Mn結合、SSDモチーフ”の間のエキソンを選んだ。FucTA〜D遺伝子に関して、これはエキソン3であり(FucTAに関してSEQ ID No 1のヌクレオチド2833〜3074;FucTBに関してSEQ ID No 4のヌクレオチド2813〜3054、FucTCに関してSEQ ID No 7のヌクレオチド2565〜2806、およびFucTDに関してSEQ ID No 10のヌクレオチド9685〜9926)、全て241bpの長さを有し;FucTE(1個のエキソンのみからなる)に関して我々は320bpの断片を選んだ(SEQ ID No 13のヌクレオチド592〜912)。
【0123】
我々は変異の発見においてより多くの機会を有するために第2の標的をスクリーニングした。我々は、停止コドンに変化し得るコドンの最も高い密度を有するエキソン1(FucTAに関してSEQ ID No 1のヌクレオチド1〜354、FucTBに関してSEQ ID No 4のヌクレオチド1〜354、FucTCに関してSEQ ID No 7のヌクレオチド1〜396、およびFucTDに関してSEQ ID No 10のヌクレオチド1〜396)およびFucTEに関して396bpの断片(SEQ ID No 13のヌクレオチド1〜396)を選んだ。
【0124】
変異体に関するスクリーニングはFucTEおよびFucTAを除く全ての遺伝子に関して停止コドン変異体をもたらし、その内で後者はスプライス部位変異体のみをもたらしたため、FucTA遺伝子に関して第3の標的を含めることが決定された。この標的はエキソン2中に位置していた(SEQ ID No 1のヌクレオチド1098〜1258)。
【0125】
それぞれの遺伝子に関して、停止コドンまたはスプライス部位変異を引き起こす可能性のあるSNPを表2および3において標的ごとに列挙する。エキソン1を標的として用いることは、はるかにより多くの可能性のある停止コドンまたはスプライス部位変異体の位置を与えるはずであることは明らかである。しかし、これらの変異は、変異の下流のATGが新しい開始コドンとして機能し得る可能性があるため、有効なノックアウト変異体をもたらすより低い信頼度を有していた。次いでこれは膜貫通ドメインを欠くタンパク質を産生する可能性があり、それはなお活性なグリコシルトランスフェラーゼ活性を有し得る(Jost et al., 2005, Glycobiology 15:165)。
【0126】
【表2】
【0127】
【表3-1】
【0128】
【表3-2】
【0129】
異なるFucT遺伝子における可能性のあるノックアウト変異に関する異なるEMSで突然変異誘発した集団のスクリーニングの結果
FucT遺伝子に関して、以下の数のEMS系統をスクリーニングした:4275系統のM2個体をFucTAにおける変異に関してスクリーニングし、FucTBに関して8075系統、FucTCに関して6555系統、FucTDに関して6270系統およびFucTEに関して4370系統のM2個体をスクリーニングした。以下の数の推定上のヌルアレルを同定した:FucTAにおいて3系統、2系統はスプライス部位変異、1系統は停止コドン変異であり、それぞれFucT001、FucT004、およびFucT013と名付けられた。2系統の推定上のヌルアレルがFucTBに関して同定され、それぞれ1系統はスプライス部位変異、1系統は停止コドン変異であり、FucT006およびFucT008と名付けられた。FucTCに関して、4系統の推定上のヌルアレルが同定され、それぞれ1系統はスプライス部位変異、3系統は停止コドン変異であり、FucT007、FucT010、FucT011およびFucT012と名付けられた。FucTDに関して、1系統のスプライス部位変異および1系統の停止コドン変異が同定され、FucT005およびFucT009と名付けられた。最後に、FucTEに関して、停止コドン変異は同定されなかった。代わりに、置換変異を有する2系統のアレルが同定され、FucT002およびFucT003と名付けられた。そのFucT003置換は保存された“モチーフII”中に位置していた。
【0130】
表4は、FucT遺伝子に関するスクリーニングの結果:変異の位置、変異の配列および変異のタイプを要約する。
【0131】
【表4】
【0132】
3.全てのXylTおよびFucT遺伝子のノックアウト変異体に関してホモ接合型のN.ベンサミアナ植物:7重ノックアウト植物を産生するための交配スキーム。
【0133】
我々は、変異が同定されていた元のM2種子のロットから24系統の植物を播種およびスクリーニングすることにより、表4において列挙した全ての系統に関してホモ接合型の変異体を回収した。これらの植物のそれぞれからのDNA試料を、上記で記述した直接配列決定技法を用いてスクリーニングした。我々は変異体FucT013を回収することができなかった。
【0134】
この方法で選択されたホモ接合型変異体を自家受粉させて安定な変異体種子ロットを作り出した。加えて、選択された数の変異体を、変異薬物(drag)の全部ではなくてもほとんどを排除するため、“BENTHAMIANA”系統種を用いた5重戻し交配スキームに入れた。最後に、選択された数の変異体を交配スキームに入れて7重ノックアウト植物を産生した。その交配スキームを
図4において示す。その7重ノックアウト植物を産生するために用いられた最後の変異体のセットは以下の通りであった:XYL001(国際公開第2010145846号において記述されているようなXylTg14−1)、XYL002(国際公開第2010145846号において記述されているようなXylTg19−1)、FucT003、FucT004、FucT006、FucT007、FucT009。最後のFucT変異体のセットの選択は、遺伝子転写アッセイおよび相補性アッセイに基づいた。両方を下記で記述する。
【0135】
上記で記述した戻し交配および交配スキームにおいて変異体アレルの接合状態を迅速かつより経済的に同定することを可能にするため、End Point TaqManアッセイがApplied Bioscienceにより設計された。これのためのRT−PCR分析が組織内で行われた。TaqManプローブは、その5’末端に結合した蛍光レポーター色素および3’末端に連結された消光部分を有するオリゴヌクレオチドである。これらのプローブはPCR産物の内部領域にハイブリダイズするように設計される。ハイブリダイズしていない状態では、その蛍光および消光分子の近接がそのプローブからの蛍光シグナルの検出を妨げる。PCRの間、ポリメラーゼがその上にTaqManプローブが結合している鋳型を複製した際に、そのポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性がそのプローブを切断する。これはその蛍光および消光色素の連結を解く。そうして、蛍光がそれぞれのサイクルにおいてプローブ切断の量に比例して増大し、それは今度はその標的の接合状態のレベルに関連している。従って、内部標準と比較した際に、その蛍光のレベルを接合状態のレベル:“野生型”、“ヘテロ接合型”および“ホモ接合型”に変換することができる。
【0136】
4.FucT遺伝子の連鎖分析。
【0137】
FucT遺伝子のいずれかが遺伝的に連鎖しているかどうかを決定するため、我々は系統種“BENTHAMIANA”およびNBNPGS2(USDA国立生殖質システム系統種PI555684;表1も参照)において全てのFucT遺伝子中のSNPを利用して連鎖分析を実施した。この目的のため、BENTHAMIANAおよびNBNPGS2を交配し、そのF1をBENTHAMIANAと交配し、次のBC1世代からの576系統の個体のFucT遺伝子型を分析した。
【0138】
FucT遺伝子のいずれの間にも連鎖が存在しない場合、アレルは異なる個体の遺伝子型にわたって見掛け上ランダムに分布するであろう。2個以上のFucT遺伝子の間に連鎖が存在する(exits)場合、これはその個体のおおよそ50%が2個以上の特定のFucT遺伝子に関してホモ接合型であることとして現れるであろう。分析した96系統の集団において後者が観察されなかったため、我々はその5個のFucT遺伝子が連鎖していないと結論付けた。
【0139】
5.異なるFucT遺伝子が転写されているかどうかの決定。
【0140】
完全ノックアウト植物のための交配スキームは5世代を超えると考えられるため、我々はこのタイムラインを短縮する機会を探した。1つの可能性は、その5個のFucT遺伝子のいずれかが発現されていないかどうかを調べることであった。これを決定するため、我々はFucT転写産物を葉のmRNAから広い特異性を有するプライマーセットを用いて増幅した。次いで我々はこの増幅の結果得られた個々のcDNAをクローニングおよび配列決定した。従って、このクローンのセットの配列分析は、FucT遺伝子が発現されていたかどうか、およびどのFucT遺伝子が発現されていたかを明らかにするはずである。加えて、我々はFucT遺伝子間で保存されている領域にハイブリダイズするプライマーを用いたため、我々は我々がBACスクリーニングにおいて見逃していた可能性のある追加の遺伝子を拾い上げることができるであろう。
【0141】
cDNAを、N.ベンサミアナの葉から抽出したmRNAからsuperscript II(Invitrogen)キットのプロトコルに従って調製した。
【0142】
我々は、これらのcDNA試料に対して、FucTAのCDSに基づいて遺伝子間のSNPを考慮して設計したプライマーを用いてPCRを実施した。プライマーの組み合わせ1(PC1)として記述されるプライマーVH031(SEQ ID NO.15)およびVH032(SEQ ID NO.16)を用いて、570bpの断片が増幅されるであろう。プライマーVH033(SEQ ID NO.17)およびVH034(SEQ ID NO.18)により形成されるプライマーの組み合わせ2(PC2)を用いて、384bpの断片が増幅されるであろう。そのPCRは、56℃(PC2)および62℃(PC1)のアニーリング温度で、標準的なPCR混合物[50μlの総体積中、10μl Go Taq緩衝液 5×;1μl dNTM 10mM;1μl 順方向プライマー 10μM;1μl 逆方向プライマー 10μM;0.4μl Taqポリメラーゼ 5U/μl;2μl 精製されたPCR産物]および標準的なプロトコル[2分間94℃;30×[30秒間94℃、30秒間56℃/62℃、30秒間72℃]、10分間72℃]を用いて運転された。
【0143】
結果として得られたPCR産物をQuiagen PCR精製キットを用いて精製し、PGemT Easyベクター(Promega)中にクローニングし、商業的なthermo competent TOP10細胞(Invitrogen)中に形質転換した。100μlを100μg/mlトリアセリン(triacelline)を含有するLBプレート上にまいた。プライマーの組み合わせPC1から得られた192個のクローンおよびPC2から得られた96個のクローンを、AGOWAにより配列決定した。5個のFucT配列中のSNPに基づいて、異なるFucT遺伝子のどれが発現されたかを識別することが可能であった。
【0144】
PC1に関して、148個のクローンが使用可能な配列情報を与え、結果として61個のクローンがFucTAに、58個のクローンがFucTBに、2個のクローンがFucTCに、27個のクローンがFucTDに相同性であり、FucTEに相同性であるクローンはなく、44個の試料は配列決定により失敗した。PC2の96個のクローンを調べて、我々はFucTAに相同性の15個のクローン、FucTBに相同性の39個のクローンを見付け、FucTCに相同性のクローンは見付からず、FucTDに相同性の12個のクローンを見付け、そしてFucTEに相同性のクローンは見付からず、30個の試料は配列決定により失敗した。加えて、その2つのプライマーの組み合わせは新規のFucT配列を全くもたらさなかった。
【0145】
まとめると、これはおそらくFucTEを除く全てのFucT遺伝子がN.ベンサミアナの葉において発現していることを示した。これらの発見は、実施例1で示されたTSSP予測データを確証している。加えて、これらの結果は、おそらくBACスクリーニングにより同定された5個以外に他のFucT遺伝子は存在しないことを示した。
【0146】
FucTEはN.ベンサミアナの葉において発現していないようであったため、我々はFucTE遺伝子を7重ノックアウト植物のための交配スキームに組み入れる最後の1個として残しておくことに決定した(
図4における“世代4”を参照)。
【0147】
6.相補性アッセイはどのFucT遺伝子がおそらく活性でありどの変異がおそらくヌル変異であるかを示す。
【0148】
個々のFucT遺伝子の機能性を決定するため、そして我々のEMSスクリーニングから単離された推定上のヌル変異が真のヌルまたはノックアウト変異体であるかどうかも決定するため、我々は相補性アッセイを考案した。このアッセイにおいて、補完されるべき変異体は、FucTおよびXylT遺伝子がT−DNAの挿入によりノックアウトされたアラビドプシス・サリアナ系統(“3重ノックアウト変異体”)であった。この系統はKang et al. (2008) Proc Natl Acad Sci USAにより記述されており、我々の実験室でもSALKから入手可能な3つの異なるT−DNAノックアウト系統を交配することにより作り出された(国際公開第2010121818号参照)。
【0149】
その系を設定するため、我々はまずそのアラビドプシス3重変異体をそのN.ベンサミアナFucT遺伝子のいずれか1つを用いて補完することができるかどうかを試験した。我々はそのアラビドプシス3重変異体をアグロバクテリウム浸漬法を用いてCaMV 35Sプロモーターにより駆動されるFucT遺伝子の1つのcDNA配列を含有するT−DNAにより形質転換した。そのcDNA配列は、予測されたその遺伝子のコード配列およびイントロン−エキソン境界に基づいて合成により産生された。basta(グルフォシネート)を用いたその形質転換体の選択の後、葉の組織からのタンパク質試料を、コアのα1,3フコースを含有するグリカンの存在に関してウェスタンブロットを用いて抗コアα1,3フコース抗体で調べて分析した。この抗体は、Faye et al. (1993) Anal Biochem 209:104により記述された通りに調製された。
図5(左のパネル)において、その結果は、そのA.サリアナ3重変異体をN.ベンサミアナのFucTA cDNAにより補完することができることを示している。野生型の対照のレーンは、コアのα1,3フコースに対する抗体の結合により産生される明確な化学発光シグナルを示している。A.サリアナ3重変異体からのタンパク質試料を含有するレーンでは化学発光シグナルは検出されなかった。これは、内在性のFucT遺伝子の不活性化の結果としてのコアのα1,3フコースの非存在により引き起こされた。対照的に、FucTA cDNAを用いて形質転換したいくつかの異なる個々の3重変異体からのタンパク質を含有するレーンでは明確なシグナルを検出することができた。まとめると、これはその相補性アッセイを用いてN.ベンサミアナのFucT遺伝子が活性であるかどうかを決定することができることを示している。
【0150】
このアッセイを用いて、我々はFucTBおよびFucTEを除く全ての遺伝子が補完することができ、従って活性な遺伝子であることを示した(データは示していない)。FucTBはFucTAに対してそのFucTタンパク質のC末端から41アミノ酸を取り除く中途での停止コドンを除いて100%相同性であるため、FucTBは補完することができず、従っておそらく不活性な遺伝子であるという事実は意外であった。相補性アッセイに基づく、FucTEはおそらく不活性な遺伝子であるという事実は、この遺伝子もN.ベンサミアナの葉において転写されていないようであり、モチーフII中に不活性化するY288D置換を含有するという発見と一致する。
【0151】
次に、我々はこの相補性アッセイを用いて、EMSで突然変異誘発した集団から分離された推定上のヌル変異が実際にそれぞれのFucT遺伝子を不活性にするかどうかを決定した。
図5の右のパネルは、EMS変異が8番目の可能性のある停止コドン(217位;表3のFucTA遺伝子を参照)において模擬的に再現された(simulated)FucTAを用いた相補性アッセイの結果を示す。“At3KO + mut FucTA(エキソン1における停止)と表記した区画におけるレーン1〜5における化学発光シグナルの非存在から、このFucTAの変異版は3重ノックアウト変異体を補完することができないことは明白である。化学発光の非存在は、その植物が形質転換されていないという事実により引き起こされたものでも(そのレーンのそれぞれの下の“コピー数”を参照)、リアルタイムRT−PCRにより決定した場合にその変異した遺伝子が発現されていなかったという事実により引き起こされたものでもなかった(データは示していない)。従って、我々は、この変異はヌル変異であると考えることができると結論付けることができる。
【0152】
我々は続いて、この相補性分析を、我々がEMS集団中で見付けたFucTA、−C、および−D遺伝子に関する全ての推定上のヌル変異に適用した。FucTBおよび−E変異は、それらの野生型遺伝子が補完することができなかったため、分析しなかった。
【0153】
まず、FucTA(イントロン3および1;それぞれFucT001、および−004)およびFucTC(イントロン2;FucT007)に関して同定されたスプライス部位変異体に関して補完を調べた(表4)。FucTDに関するスプライス部位変異は、イントロンの大きさ(7833bp)のため、分析しなかった。FucTAおよび−C変異を分析するため、我々はその3重ノックアウト変異体を、それら自身のイントロン3、1、または2を含有するFucTAまたはFucTC CDSを用いて形質転換し、これらの遺伝子を用いて得られた補完をスプライス部位変異を含有する遺伝子と比較した。その結果は、FucTAに関して変異体FucT001はヌル変異ではなく、一方でFucT004はヌル変異である可能性が非常に高いことを示した(データは示していない)。FucTCに関して、イントロンスプライス部位変異は、イントロン3を含有するFucTC CDSを用いて形質転換された3重ノックアウト植物はその変異体の表現型を補完しなかったため、評価することができなかった。しかし、遺伝子予測プログラムFGENESHはFucTCのスプライス部位変異に関する強力に破壊的な作用を予測しなかった。
【0154】
次の補完アッセイに基づいて、我々は変異体FucT004(FucTA)、FucT010、−011、および−012(FucTC)、ならびにFucT009(FucTD)はヌル変異体であることを確証した(データは示していない)。我々がその相補性アッセイからの全てのデータを手元に有する時点までに、我々は既にFucT004、−007、および−009の交配を進めていたため、我々はそれらを用いて続行し、他の変異体をバックアップ変異体FucTとして用いた。我々の交配戦略は、まず完全ノックアウト植物を作り出すための最も可能性の高い戦略として5重ノックアウト変異体(XYL001、XYL002、FucT004、FucT007、およびFucT009)の達成に向けられた。我々の第2の戦略は、さらにFucT006およびFucT003を導入することにより7重ノックアウトを作り出すことに向けられた(それぞれ
図4中の世代4および5を参照)。
【0155】
7.7重ノックアウト植物:全てのFucTおよびXylT遺伝子におけるヌル変異に関してホモ接合型のN.ベンサミアナ植物のグリカン分析。
【0156】
7重ノックアウト植物を産生する一方で、我々は3重、4重、および5重ノックアウト植物も交配スキームの副産物として産生した。我々はこれらの植物を、連続したFucT遺伝子のノックアウトが相加作用を有するかどうか、そして従ってFucT−Bおよび−E遺伝子が相補性アッセイから示唆されたように実際に不活性であるかどうかを評価するために用いた。
【0157】
図6は、結合した抗α1,3フコース抗体からの化学発光シグナルの減少により示されるように、より多くのFucT遺伝子のノックアウトがコアのα1,3フコシルトランスフェラーゼ活性をその変異体植物から進行的に取り除くことを明確に示している。この結果は、おそらくFucTBおよび−E遺伝子がなおいくらかのフコシルトランスフェラーゼ活性を、これは検出されなかったが、有していることを示している(すなわち、レーン“aBcdE”を“abcdE”に対して比較、およびレーン“abcdE”を“abcde”に対して比較)。
【0158】
ノックアウトアレルFucT004、FucT006、FucT007、FucT009、およびFucT003を含有する、5個のFucT遺伝子FucTA、FucTB、FucTC、FucTDおよびFucTEがノックアウトされている植物の種子は、国立産業、海洋および食品細菌保存機関(National Collection of Industrial,Marine and Food Bacteria)(NCIMB),NCIMB Ltd,Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen AB219YA,Scotlandに、2011年9月12日に、受入番号NCIMB 41860の下で、Bayer BioScience NV,Technologiepark 38,BE−9052 Gent,Belgiumにより寄託されている。寄託者であるBayer BioScience NV(出願者へのこの発明の譲渡人)は、その登録事務所をJ.E.Mommaertslaan 14,1831 Diegem,Belgiumにおいて有するBayer CropScience NVと、およびその中に合併された。
【0159】
その4重(“abcdE”)および5重植物(“abcde”)においてどの特定のグリカンレベルが低減しているかを決定するため、そしてどのタイプのグリカンが存在しているかも決定するため、我々は上記で言及した植物の葉からの総可溶性内因性タンパク質から単離されたグリカンに対してMALDI−TOF分析を実施した。結果を表5において要約し、
図7において示す。
【0160】
野生型ならびに4重および5重KO植物中のグリカンを比較した際、フコース含有グリカンのレベルが、完全には消滅していないとはいえ、急激に低減していることは明らかである。対照的に、キシロースのみを有する(すなわちフコースを有しない)グリカンのレベルは急激に増大している。同様の結果がStrasser et al.によりA.サリアナにおけるFucTノックアウトに関して報告されている(Strasser et al. 2004, FEBS Lett 561:132)。
【0161】
最後に、我々は全てのFucTおよびXylT遺伝子が変異し、ノックアウトされている完全ノックアウト植物(7KO)におけるグリカンの量および質を分析した。結果を表5および
図8において要約する。
【0162】
野生型植物を5KOおよび7KO植物と比較すると、フコース、キシロースのどちらかまたは両方を含有する全てのグリカンにおける強い低減が観察される。5KOおよび7KO植物を比較した場合、我々の以前の2重XylTノックアウト植物に関する結果(国際公開第2010145846号)から予想されたように、全てのキシロース含有グリカンが7KOのスペクトルから消失していることは明らかである。また、5KO植物におけるキシロースおよびフコースの両方を含有するグリカンを表す棒が、フコースのみを有するグリカンに移動したように見える(例えば、MMXFおよびMMF;GnMXFおよびGnMF;GnGnXFおよびGnGnFを比較)。最後に、7KO植物から得られたグリカンをXylTおよびFucT RNAi遺伝子を発現する植物(Strasser et al. 2008, Plant Biotech J 6:392)から得られたグリカンと比較した場合、そのスペクトルはほとんど同一である。注目すべき違いは7KO植物におけるMMグリカンの強い存在であり、それはそのRNAi植物には存在せず、程度はより低いがMan4Gnグリカンに関しても同様である。また、その7KO植物はRNAiと比較してより高いレベルのGnGnFグリカンを有し、逆もまた同様であり、RNAi植物はより高いレベルのGnMおよびGnGnグリカンを有する。
【0163】
【表5-1】
【0164】
【表5-2】
【0165】
8.N.ベンサミアナの完全ノックアウト植物においてmagnICON(登録商標)を用いて発現させたIgG1のグリカン分析。
【0166】
7KO植物の内因性タンパク質上のグリカンの質および量はXylT−およびFucT RNAi遺伝子を発現している植物の内因性タンパク質上のグリカンの質および量と比較可能であったため、ならびに後者の植物において発現させたIgG1タンパク質はキシロースまたはフコースを有するグリカンを含有しないことが記述されている(すなわち、それらの内因性タンパク質はフコースを有するという事実にもかかわらず;Nagels et al. 2011, Plant Physiol 155:1103)ため、我々は完全ノックアウト植物において発現させたIgG1分子上のグリカンが同様にフコースおよびキシロースを有しないであろうかどうかを試験することに決定した。
【0167】
IgG1を浸潤の9日後に葉の抽出物からプロテインGを用いて単離した。精製された抗体の重鎖を還元的SDS−PAGEから対応するバンドを切り出すことにより単離した。このバンド中の重鎖のタンパク質を、Kolarich et al. (2006) Proteomics 6:3369により記述された通りのLC−MSによるグルカン分析のために用いた。
【0168】
図9は、この分析の結果得られたスペクトルを示す。上のパネルは、グリコシル化されていないペプチドの存在を図説するためのより広い質量スペクトルを示す。ペプチド1(EEQYNSTY)およびペプチド2(TKPREEQYNSTYR)は同じトリプシン消化からの2つの変種である。それらは長さが異なり、それはN−グリカンの存在によるトリプシンの立体障害により引き起こされる。結果として、全てのペプチド−グリカンはこのLC−MSスペクトルにおいて2個のピークを生成する:下のパネルにおいて、グリコペプチド1に関して黒で、グリコペプチド2に関して橙色で示す。
図9の下のパネルにおいて、1個の主要なグリカンのピークのみをGnGnに関して見付けることができる。加えて、高マンノースグリカンに関するいくつかの小さなピークも見ることができる(Man7、8、および−9)。しかし、表6において列挙されたLC−MSにより同定された全てのグリコペプチドの完全な要約において、グリコシル化された、およびグリコシル化されていないグリコペプチドの全画分の2.6%に相当するGnGnFグリカンの小さい画分が同定された。
【0169】
【表6】
【0170】
7重ノックアウト植物のFucT RNAi遺伝子との組み合わせは、N−グリカン上のフコースレベルをさらに低減する
7重ノックアウト植物中のN−グリカン上の残留フコース残基の量をさらに減少させる試みにおいて、我々はこれらの植物をpGAX3(国際公開第2009/056155号)からのFucT RNAi遺伝子を含有する植物と交配することによりこれらの植物においてFucT RNAi遺伝子を導入した。その7重ノックアウト遺伝子ならびにFucT RNAi遺伝子のホモ接合性を、End Point TaqManアッセイにより確証した。これらの植物(すなわち7KO/FucT RNAi)からの内因性タンパク質を、ウェスタンブロットにより、およびMALDI−TOF分析により分析した。
【0171】
図11におけるウェスタンブロット分析の結果は、FucT RNAi遺伝子を7重ノックアウト植物に追加することは、6または7個の遺伝子がノックアウトされている植物からのタンパク質を含有するレーンと比較した場合の7KO/FucT RNAi植物からのタンパク質を含有するレーンからの化学発光シグナルの完全な非存在により示されるように、N−グリカンからコアのα1,3フコース残基をさらに取り除くことを明確に示している。1時間の延長された曝露の後でさえも、7KO/FucT RNAiのレーンにおいてシグナルを検出することはできなかった。
【0172】
特定のグリカンレベルを決定するため、7KO/FucT RNAi植物の葉からの総可溶性内因性タンパク質から単離されたグリカンに対してMALDI−TOF分析を実施した。
【0173】
7KO/FucT RNAi植物のグリカンを野生型、4重、5重および7重KO植物と比較した場合、MMF、GnGnFおよびGnAF(LeaGn)グリカンのフコース含有グリカンのレベルがごく痕跡量までさらに低減していることは明らかである。7KO植物の場合と同様に、キシロシル化N−グリカンは7KO/FucT RNAi植物において(表7において示されるように)完全に消失していた。
【0174】
【表7-1】
【0175】
【表7-2】
【0176】
【表7-3】
【0177】
図12は、野生型、4重、5重および7重KO、RNAiならびに7KO/FucT RNAi植物の内因性タンパク質上に存在するフコシル化、キシロシル化されたN−グリカンそれぞれの定量的概要を示す。
【0178】
N−グリカン上のフコースレベルをさらに低減するための、FucT RNAi遺伝子の7重ノックアウト植物中への導入。
【0179】
7重ノックアウト植物におけるN−グリカン上のフコースレベルをさらに低減するため、2個以上のFucT遺伝子に対して100%相同性である25個以上のヌクレオチドの多数の区間(stretches)が含まれ、組み合わせられて全てのFucT遺伝子を標的とする、全てのFucT遺伝子のサイレンシングを目標とするRNAi遺伝子を構築する。例えば、FucTBコード配列(Seq ID No 5)のヌクレオチド1183から1265まで(Seq ID No 20)の断片は、FucT−B、−C、−D、および−Eに100%相同性である1183から1226までの44ヌクレオチドの区間ならびにFucT−Aおよび−Bに100%相同性である1219から1265までの47ヌクレオチドの断片を含有する。この断片(Seq ID No 20)を、Seq ID No 21において示されるようなRNAi遺伝子へと組み立てる。そのRNAi遺伝子の発現は、それをpGAX3(国際公開第2009/056155号)と同様にT−DNAベクター中にクローニングすることにより、35Sプロモーターにより駆動される。7重ノックアウトN.ベンサミアナ植物をこのコンストラクトを用いて形質転換し、内因性タンパク質上の、および例えばIgG1分子のような異種性にmagnICON(登録商標)で発現させたタンパク質上のN−グリカンの組成に関して分析する。
【0180】
加えて、そのFucT RNAi遺伝子を、既存のBAR遺伝子がFucT RNAi遺伝子断片により置き換えられているpICH3781およびpICH3831(国際公開第02/101060号)と同様に、プロモーターを有しないT−DNAベクター中にクローニングする。7重ノックアウトN.ベンサミアナ植物を、これらのコンストラクトを用いて形質転換する。プロモーターを有しないベクターの使用は、強い構成的プロモーターを有するベクターと比較して、より広い一次形質転換体の選択肢を提供するであろう。そのような場合、そのRNAiは居住遺伝子(residential gene)との転写融合体の一部になる(そのプロモーターを有しないベクターはそのRNAi遺伝子の前にスプライス受容部位を含有する)。これは、RNAiは通常は多重遺伝子ファミリーを標的とし、これは植物の表現型−生長、発生、非生物的または生物的ストレス耐性等を損ない得るため、好都合である可能性がある。結果として得られた安定に形質転換された植物を、それらの内因性タンパク質の、および例えばIgG1分子のような異種性にmagnICON(登録商標)で発現させたタンパク質のN−グリカン上のフコースの非存在に関してスクリーニングする。選択された植物を、さらにそれらのガラス温室中での性能、例えば野生型植物と比較した栄養生長効率に関してスクリーニングすることができる。
【0181】
その優先権が本特許出願により主張される2011年10月4日に出願された米国特許出願第61/542,965号および2011年10月6日に出願された欧州特許出願第11 075 218.5号の内容は、記述、全ての特許請求の範囲、全ての図および配列リストのSEQ ID NO 1〜19を含め、参照により本明細書にそのまま援用される。
本発明は、非限定的に以下の態様を含む。
[態様1] ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法であって、以下の工程:
a.少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む植物または植物細胞を提供し;そして
b.前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する;
を含む、前記方法。
[態様2] ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基および低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法であって、以下の工程:
a.植物細胞を提供し、前記の植物細胞は
i.少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み;そして
ii.低減したレベルのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性を有することを特徴とし;そして
b.前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する;
を含む、前記方法。
[態様3] 前記のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性の低減したレベルが内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウト変異の結果である、態様2に記載の方法。
[態様4] 前記の植物または植物細胞が少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、態様1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[態様5] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:3に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
b.SEQ ID NO:6に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
c.SEQ ID NO:9に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
d.SEQ ID NO:12に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
e.SEQ ID NO:14に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[態様6] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:1に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
b.SEQ ID NO:4に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
c.SEQ ID NO:7に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
d.SEQ ID NO:10に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
e.SEQ ID NO:13に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様5に記載の方法。
[態様7] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、態様6に記載の方法。
[態様8] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子がゲノム中にホモ接合型の状態で存在する、態様1〜7のいずれか1項に記載の方法。
[態様9] さらに少なくとも5個の内在性のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現が転写サイレンシングまたは転写後サイレンシングにより低減していることを特徴とする、態様1〜8のいずれか1項に記載の方法。
[態様10] 前記の植物または植物細胞がさらに、以下の作動可能に連結されたDNA断片:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域;
c.植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域;
を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む、態様9に記載の方法。
[態様11] さらに、前記のDNA領域が少なくとも以下:
a.SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:13、またはそれらの相補物から選択される21ヌクレオチドの内の少なくとも18ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第1センスDNA領域から転写されるRNA領域;
b.前記の第1センスDNA領域の相補物に対して少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも18個の連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第2アンチセンスDNA領域から転写されるRNA領域
の間で二本鎖RNA領域を形成することができるRNA分子を生じることを特徴とする、態様10に記載の方法。
[態様12] 前記のDNA領域がSEQ ID NO:19の配列を含む、態様11に記載の方法。
[態様13] 前記の糖タンパク質が異種糖タンパク質である、態様1〜12のいずれか1項に記載の方法。
[態様14] 前記の異種糖タンパク質が、以下の作動可能に連結された核酸分子:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域;
c.転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域;
を含むキメラ遺伝子から発現されることを特徴とする、態様13に記載の方法。
[態様15] さらに前記の異種糖タンパク質の精製の工程を含む、態様13または14に記載の方法。
[態様16] 態様1〜15のいずれか1項に記載の方法により得られる糖タンパク質。
[態様17] 態様1〜15のいずれか1項に記載の方法により得られる、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質。
[態様18] 態様2〜15のいずれか1項に記載の方法により得られる、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有し、かつ低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質。
[態様19] 少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、ニコチアナ・ベンサミアナ植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫。
[態様20] 少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、態様19に記載の植物。
[態様21] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上が、以下:
a.SEQ ID NO:3に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
b.SEQ ID NO:6に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
c.SEQ ID NO:9に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
d.SEQ ID NO:12に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
e.SEQ ID NO:14に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様19または20に記載の植物。
[態様22] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上が、以下:
a.SEQ ID NO:1に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
b.SEQ ID NO:4に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
c.SEQ ID NO:7に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
d.SEQ ID NO:10に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
e.SEQ ID NO:13に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様21に記載の植物。
[態様23] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、態様21または22に記載の植物。
[態様24] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に関してホモ接合型である、態様19〜23のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様25] さらに少なくとも1個のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み、前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子が該ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子中に対応する野生型DNA領域と比較して1個以上の挿入された、欠失した、または置換されたヌクレオチドからなる変異したDNA領域を含み、かつここで前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子が機能するベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼタンパク質をコードしていない、態様19〜24のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様26] さらに以下の作動可能に連結されたDNA断片:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域;
c.植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域;
を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む、態様19〜25のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様27] 前記のDNA領域がSEQ ID NO:19の配列を含む、態様26に記載の植物または植物細胞。
[態様28] さらに前記の植物または植物細胞に対して外来の糖タンパク質を含む、態様19〜27のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様29] 前記の糖タンパク質が、以下の作動可能に連結された核酸分子:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域;
c.転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域;
を含むキメラ遺伝子から発現される、態様28に記載の植物または植物細胞。
[態様30] 以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトアレル。
[態様31] 低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を得るための、態様1〜15のいずれか1項に記載の方法の使用。
[態様32] 低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有し、かつ低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を得るための、態様2〜15のいずれか1項に記載の方法の使用。