特許第6104252号(P6104252)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6104252フコシルトランスフェラーゼ活性が欠損したニコチアナ・ベンサミアナ植物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104252
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】フコシルトランスフェラーゼ活性が欠損したニコチアナ・ベンサミアナ植物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170316BHJP
   A01H 5/00 20060101ALI20170316BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20170316BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20170316BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20170316BHJP
   A01H 5/10 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   A01H5/00 A
   C12P21/02 Z
   C12N15/00 G
   C12N5/10
   A01H5/10
【請求項の数】15
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2014-533791(P2014-533791)
(86)(22)【出願日】2012年10月4日
(65)【公表番号】特表2014-531903(P2014-531903A)
(43)【公表日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】EP2012004160
(87)【国際公開番号】WO2013050155
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年9月3日
(31)【優先権主張番号】61/542,965
(32)【優先日】2011年10月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】11075218.5
(32)【優先日】2011年10月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514084761
【氏名又は名称】アイコン・ジェネティクス・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】ウェテリングス,クーン
(72)【発明者】
【氏名】ファン・エルディク,ゲルベン
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/141806(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/145846(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/056155(WO,A1)
【文献】 Jae Sook Kang, et al.,PNAS,2008年 4月15日,vol.105, no. 15,pp. 5933-5938
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00−15/90
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、ニコチアナ・ベンサミアナ植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫。
【請求項2】
ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上が、以下:
a.SEQ ID NO:3に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
b.SEQ ID NO:6に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
c.SEQ ID NO:9に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
d.SEQ ID NO:12に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
e.SEQ ID NO:14に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、請求項1に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項3】
ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上が、以下:
a.SEQ ID NO:1に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
b.SEQ ID NO:4に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
c.SEQ ID NO:7に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
d.SEQ ID NO:10に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
e.SEQ ID NO:13に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、請求項2に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項4】
ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項5】
ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に関してホモ接合型である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
【請求項6】
さらに少なくとも1個のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み、前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子が該ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子中に対応する野生型DNA領域と比較して1個以上の挿入された、欠失した、または置換されたヌクレオチドからなる変異したDNA領域を含み、かつここで前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子が機能するベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼタンパク質をコードしていない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項7】
さらに以下の作動可能に連結されたDNA断片:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域;
c.植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域;
を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項8】
さらに、前記のDNA領域が少なくとも以下:
a.SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:13、またはそれらの相補物から選択される21ヌクレオチドの内の少なくとも18ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第1センスDNA領域から転写されるRNA領域;
b.前記の第1センスDNA領域の相補物に対して少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも18個の連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第2アンチセンスDNA領域から転写されるRNA領域
の間で二本鎖RNA領域を形成することができるRNA分子を生じることを特徴とする、請求項7に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項9】
前記のDNA領域がSEQ ID NO:19の配列を含む、請求項8に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項10】
さらに前記の植物または植物細胞に対して外来の異種糖タンパク質を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項11】
前記の糖タンパク質が、以下の作動可能に連結された核酸分子:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域;
c.転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域;
を含むキメラ遺伝子から発現される、請求項10に記載の植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫
【請求項12】
以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトアレル。
【請求項13】
ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法であって、以下の工程:
a.少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む植物または植物細胞を提供し;そして
b.前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する;
を含む、前記方法。
【請求項14】
ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基および低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法であって、以下の工程:
a.植物細胞を提供し、前記の植物細胞は
i.少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み;そして
ii.低減したレベルのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性を有することを特徴とし;そして
b.前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する;
を含む、前記方法。
【請求項15】
前記植物または植物細胞、並びに、そのノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、請求項2−11のいずれか1項に規定されたものである、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子農業、すなわち植物および植物細胞の、生物製剤(biopharmaceuticals)、特に薬学的に興味深いポリペプチドおよびタンパク質、例えば結果として免疫原性のタンパク質に結合したN−グリカンの対応する未改変の植物よりも低いレベル、特にタンパク質に結合したN−グリカン上のベータ(1,2)−キシロース残基およびコアのアルファ(1,3)−フコース残基のより低いレベルをもたらす変更されたN−グリコシル化パターンを有する療法用タンパク質が含まれる、ペプチドおよびタンパク質を産生するための生物反応器としての使用の分野に関する。本発明はアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼおよびベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性が欠損しているニコチアナ属の植物に関し、その植物は異種糖タンパク質を産生するための宿主植物または宿主細胞として適用することができる。
【背景技術】
【0002】
グリコシル化は、結果として糖タンパク質をもたらすオリゴ糖鎖のタンパク質への共有結合である。多くの糖タンパク質において、そのオリゴ糖鎖はアスパラギン(Asn)残基のアミド窒素に結合し、N−グリコシル化がもたらされる。グリコシル化は天然および生物製剤タンパク質において見出される最も広く行き渡った翻訳後修飾である。ヒトのタンパク質の半分より多くがグリコシル化されており、それらの機能はしばしば特定の糖型(グリカン)に依存し、それはそれらの血漿半減期、組織標的化またはそれらの生物学的活性にさえ影響を及ぼし得ると推定されている。同様に、認可された生物製剤の3分の1より多くが糖タンパク質であり、それらの機能および効率の両方がそれらのN−グリカンの存在および組成により影響を受ける。
【0003】
タバコ植物ニコチアナ・ベンサミアナ(Nicotiana benthamiana)のような葉状作物は、植物は一般に、動物性病原体、例えばプリオン類およびウイルスを有しないこと、安全かつ生物学的に活性な価値ある組み換えタンパク質の低費用かつ大規模な生産、スケールアップの場合、効率的な収穫および貯蔵の可能性が含まれるいくつかの利点を有すると考えられているため、療法用タンパク質の生産のための魅力的な系である。しかし、植物由来のN結合型グリカンは哺乳類細胞のN結合型グリカンとは異なる。植物において、ベータ(1,2)−キシロースおよびアルファ(1,3)−フコース残基がグリカンのコアであるMan3GlucNAc2−Asnに連結されていることが示されており、一方でそれらは哺乳類のグリカンでは検出されず、そこでは代わりにシアル酸残基および末端のベータ(1,4)−ガラクトシル構造が存在する。植物により付加される独特のN−グリカンはそのタンパク質の免疫原性および機能活性の両方に影響を与える可能性があり、結果としてそれはタンパク質生産プラットフォームとして用いられるべき植物に関する制限の代表的なものである可能性がある。実際、ベータ(1,2)−キシロース残基およびアルファ(1,3)−フコースの哺乳類における免疫原性が記述されている(Bardor et al., 2003, Glycobiology 13: 427)。
【0004】
キシロースのUDP−キシロースからタンパク質に結合したN−グリカンのコアのβ結合マンノースへの転移を触媒する酵素は、ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ(“XylT”,EC2.4.2.38)である。そのベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼは植物および一部の無脊椎動物種に特有の酵素であり、ヒトまたは他の脊椎動物には存在しない。国際公開第2007107296号は、ニコチアナ属、例えばニコチアナ・ベンサミアナからのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼの同定およびクローニングを記述している。
【0005】
フコースのGDP−フコースからタンパク質に結合したN−グリカンのコアのβ結合N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)への転移を触媒する酵素はアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ(“FucT”,EC2.4.1.214)である。国際公開第2009056155号は、ニコチアナ・ベンサミアナからのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼのcDNA配列を記述している。
【0006】
植物により産生される糖タンパク質上のアルファ(1,3)−フコシルおよびベータ(1,2)−キシロシル構造を回避するために、様々な戦略が適用されてきた。国際公開第2008141806号は、アラビドプシス・サリアナ(Arabidopsis thaliana)における2個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子における、および1個のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子におけるノックアウトを記述している。国際公開第2009056155号は、異種糖タンパク質上のベータ−1,2−キシロシル構造の形成が欠損しており、アルファ−1,3−フコシル構造も欠いているニコチアナ・ベンサミアナ植物の産生のためのRNA干渉戦略を記述している。Yin et al. (2011, Protein Cell 2:41)は、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)における内因性キシロシルトランスフェラーゼおよびフコシルトランスフェラーゼの発現のRNA干渉(RNAi)戦略を用いた下方制御を報告している。彼らは、その糖鎖工学的に操作された(glycoengineered)系統においてキシロシル化された、およびコアがフコシル化されたN−グリカンが著しく(完全にではないが)低減していることを見出した。国際公開第2010145846号は、ニコチアナ・ベンサミアナにおけるその2個のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトを記述している。4種類のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼヌルアレルのホモ接合型の組み合わせは、ニコチアナ・ベンサミアナにおける完全なベータ−1,2−キシロシルトランスフェラーゼ活性の消失に十分であることが分かった。
【0007】
ニコチアナ・ベンサミアナのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼのノックアウトアレルは今までに記述されていない。
【0008】
本発明は、ニコチアナ・ベンサミアナにおける糖タンパク質上のN−グリカン上のコアのアルファ(1,3)−フコース残基のレベルを低減するための方法および手段を提供し、それは本明細書において提供される以下の記述、実施例、図面および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007107296号
【特許文献2】国際公開第2009056155号
【特許文献3】国際公開第2008141806号
【特許文献4】国際公開第2010145846号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bardor et al., 2003, Glycobiology 13: 427
【非特許文献2】Yin et al., 2011, Protein Cell 2:41
【発明の概要】
【0011】
第1の態様において、本発明はニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法を提供し、前記の方法は、少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む植物または植物細胞を提供し、そして前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する工程を含む。別の態様において、前記の方法はさらに、ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性のレベルの低減を含む。さらに別の態様において、前記のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性のレベルの低減は、内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウト変異の結果である。
【0012】
本発明の別の態様において、ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法が提供され、前記の方法は、少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む植物または植物細胞を提供し、そして前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する工程を含む。さらなる態様において、前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子はそのゲノム中にホモ接合型の状態で存在する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明に従う方法は、さらに少なくとも5個の内在性のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現が転写サイレンシングまたは転写後サイレンシングにより低減されることを特徴とする。さらなる態様において、本発明に従う植物または植物細胞は、さらに以下の作動可能に連結されたDNA断片を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む:植物で発現可能なプロモーター、転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域、ならびに植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域。さらに別の態様において、前記のDNA領域はSEQ ID NO.19の配列を含む。
【0014】
本発明の方法のさらに別の態様において、前記の糖タンパク質は異種タンパク質である。さらに別の態様において、前記の異種糖タンパク質は以下の作動可能に連結された核酸分子を含むキメラ遺伝子から発現される:植物で発現可能なプロモーター、前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域、ならびに転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域。さらに別の態様において、本発明に従う方法は、さらに前記の異種糖タンパク質の精製の工程を含む。
【0015】
本発明の別の態様において、本発明に従う方法により得られる糖タンパク質が提供される。本発明のさらに別の態様において、本発明に従う方法により得られる低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質が提供される。さらに別の態様において、本発明に従う方法により得られる低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコースおよびベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質が提供される。
【0016】
本発明の別の態様は、少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むニコチアナ・ベンサミアナ植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫を提供する。本発明のさらに別の態様は、少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むニコチアナ・ベンサミアナ植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫を提供する。さらに別の態様において、前記の植物または植物細胞はそのノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に関してホモ接合型である。別の態様において、前記の植物または植物細胞はさらに少なくとも1個のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み、ここで前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子はそのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子中に対応する野生型DNA領域と比較して1個以上の挿入された、欠失した、または置換されたヌクレオチドからなる変異したDNA領域を含み、かつここで前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子は機能するベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼタンパク質をコードしていない。
【0017】
さらに別の態様において、前記の植物または植物細胞は、さらに以下の作動可能に連結されたDNA断片を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む:植物で発現可能なプロモーター;転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域;ならびに植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域。さらなる態様において、前記のDNA領域はSEQ ID NO.19の配列を含む。
【0018】
さらなる態様において、前記の植物または植物細胞は、さらに前記の植物または植物細胞に対して外来性の糖タンパク質を含む。さらに別の態様において、前記の糖タンパク質は以下の作動可能に連結された核酸分子を含むキメラ遺伝子から発現される:植物で発現可能なプロモーター、前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域、ならびに転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域。
【0019】
本発明の別の態様において、アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトアレルが提供される。
【0020】
さらに別の態様は、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を得るための本発明に従う方法の使用を提供する。さらなる態様は、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有し、かつ低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を得るための本発明に従う方法の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1:N.ベンサミアナからのFucTAのcDNAプローブとハイブリダイズさせたN.ベンサミアナのゲノムDNAのサザンブロットハイブリダイゼーションの結果。レーン1=ラムダマーカー、レーン2〜7:EcoRV(レーン2)、HindIII(レーン3)、EcoRI(レーン4)、NsiI(レーン5)、AseI(レーン6)、PstI(レーン7)で消化したN.ベンサミアナのゲノムDNA;レーン8=EcoRVおよびHindIIIで消化したニコチアナ・タバカムcv.SR1。
図2図2:BACクローン(レーン1〜15)のハイブリダイゼーションパターンをN.ベンサミアナのゲノムDNAのハイブリダイゼーションパターン(c)と比較したサザンブロットの例。
図3図3:N.ベンサミアナにおけるM2種子の産生に関する最適なEMS用量の決定。種子を異なる濃度のEMSで処理した。A:播種の6日後(黒い棒)および12日後(白い棒)の発芽率。B:種子の生存。C:植物の稔性。
図4図4:ホモ接合型の7重ノックアウト植物を得るために用いられた交配スキーム。x14:変異体アレルXYL001(国際公開第2010145846号において記述されているようなXylTg14−1)、x19:XYL002(国際公開第2010145846号において記述されているようなXylTg19−1)、a:FucT004、b:FucT006、c:FucT007、d:FucT009、e:FucT003。“x14/x14 x19/x19”は、以前に国際公開第2010145846号において記述された二重ノック(double knock)XylT変異体を指す。
図5図5:N.ベンサミアナFucT遺伝子および変異体遺伝子の機能性に関する相補性アッセイの設定および試験。WT:A.サリアナ野生型;3KO:A.サリアナ三重変異体(XylTおよびFucTAおよびFucTBに関するT−DNA挿入ノックアウト変異体);At3KO+NbFucTA:N.ベンサミアナFucTA cDNAを有するT−DNAで形質転換された三重変異体;At3KO+mut FucTA:エキソン1中にSEQ ID No.1の217位において停止コドンを作り出す点変異を有するN.ベンサミアナFucTA cDNAを有するT−DNAで形質転換された三重変異体。
図6図6:異なるFucT遺伝子がノックアウトされているN.ベンサミアナ植物からのタンパク質試料のフコシル化レベルの比較。異なるFucT遺伝子がノックアウトされている植物からの葉のタンパク質の試料のウェスタンブロット分析。抗α1,3フコース抗体(1/500希釈)で調べ;化学発光に関して3分間の曝露。WT:野生型植物;M:タンパク質マーカー。その遺伝子のノックアウト版はその表において小文字で;野生型版は大文字で示されている。
図7図7:4個または5個のFucT遺伝子に関してヌル変異を有するN.ベンサミアナ植物からの葉のタンパク質上の相対グリカンレベルの比較。総タンパク質を異なるFucT遺伝子が変異している植物の葉から単離した。グリカンを単離し、MALDI−TOFにより分析した。相対レベルをMALDI−TOFスペクトルから決定された総ピーク面積の百分率として表す。白い棒:野生型;黒い棒:4KO:FucTA(FucT004)、−B(FucT006)、−C(FucT007)、および−D(FucT009)がノックアウトされている(3つの系統の平均);灰色の棒:5KO:全てのFucT遺伝子がノックアウトされている(FucT004、−006、−007、−009、および−003)(3つの系統の平均)。
図8図8:全てのXylTおよび/またはFucT遺伝子がノックアウトされているN.ベンサミアナ植物(国際公開第2010145846号において記述されているように、FucT004、−006、−007、−009、および−003、ならびにXylTg14−1およびXylTg19−1)からの葉のタンパク質における相対グリカンレベルの比較。全てのXylTおよび/またはFucT遺伝子が変異している植物の葉から総タンパク質を単離した。グリカンを単離し、MALDI−TOFにより分析した。相対レベルをMALDI−TOFスペクトルから決定された総ピーク面積の百分率として表す。白い棒:野生型;濃い灰色の棒:5KO:全てのFucT遺伝子がノックアウトされている(3つの系統の平均);黒い棒:7KO:全てのFucTおよびXylT遺伝子がノックアウトされている(3つの系統の平均);薄い灰色の棒:RNAi:XylTおよびFucT RNAi遺伝子を発現する植物(Strasser et al. 2008, Plant Biotech J 6:392)。
図9図9:magnICON(登録商標)を用いて完全ノックアウトN.ベンサミアナ植物中で発現させたIgG1上のグリカンのLC−MS分析。完全ノックアウトN.ベンサミアナ植物において、全てのXylTおよび/またはFucT遺伝子がノックアウトされている(国際公開第2010145846号において記述されているように、FucT004、−006、−007、−009、および−003、ならびにXylTg14−1およびXylTg19−1)。IgG1をこれらの完全ノックアウト植物中でmagnICON(登録商標)を用いて発現させた。IgG1を浸潤の9日後に葉の抽出物からプロテインGを用いて単離した。精製された抗体の重鎖を還元的SDS−PAGEから対応するバンドを切り出すことにより単離した。このバンド中の重鎖のタンパク質を、Kolarich et al. (2006) Proteomics 6:3369により記述された通りのLC−MSによるグルカン分析のために用いた。上のパネルは、グリコシル化されていないペプチドの存在を図説するためのより広い質量スペクトルを示す。ペプチド1(EEQYNSTY)およびペプチド2(TKPREEQYNSTYR)は同じトリプシン消化からの2つの変種である。それらは長さが異なり、それはN−グリカンの存在によるトリプシンの立体障害により引き起こされる。結果として、全てのペプチド−グリカンはこのLC−MSスペクトルにおいて2個のピークをもたらす;下のパネルにおけるグリコペプチド2に関する2個のピークを矢印で示す。
図10図10:N−グリカンの構造(N−グリカンの最新の命名法に関してhttp://www.proglycan.comも参照)。は示した糖鎖および結果として得られる糖タンパク質のペプチド部分のアスパラギンの間の結合を示す。
図11図11:6または7個の遺伝子がノックアウトされているN.ベンサミアナ植物からのタンパク質試料のフコシル化レベルの比較。FucT RNAi遺伝子を含有する植物を、この遺伝子を含有しない植物と比較した。葉のタンパク質の試料のウェスタンブロット分析。抗α1,3フコース抗体(1/500希釈)で調べ;化学発光に関して1時間の曝露。WT:野生型植物;M:タンパク質マーカー。その遺伝子のノックアウト版はその表において小文字で;野生型版は大文字で示されている。
図12図12:WT、4、5、7重KO、RNAiおよび7KO/FucT RNAi植物の内因性タンパク質上に存在するフコシル化されたN−グリカン、キシロシル化されたN−グリカン、それぞれの定量的概要。総タンパク質を植物の葉から単離し、グリカンを単離し、MALDI−TOFにより分析した。グリカンのレベルを、MALDI−TOFスペクトルから決定された全ての異なるフコシル化、キシロシル化されたN−グリカンそれぞれのピークの合計として表した。WT:野生型(2つの系統の平均)。RNAi XylTおよびFucT RNAi遺伝子を発現する植物(Strasser et al. 2008, Plant Biotech J 6:392)(2つの系統の平均)。4KO:FucTEを除く全てのFucT遺伝子がノックアウトされている(6つの系統の平均)。5KO:全てのFucT遺伝子がノックアウトされている(3つの系統の平均)。HOM7KO:全てのFucTおよびXylT遺伝子がノックアウトされている(3つの系統の平均)。HET7KO+RNAi:XylTおよびFucTA遺伝子がノックアウトされ、他のFucT遺伝子がヘテロ接合型でノックアウトされており、FucT RNAi遺伝子と組み合わせられている(4つの系統の平均)。HOM7KO+FucT RNAi:7個全部のノックアウト遺伝子に関してホモ接合型であり、FucT RNAi遺伝子を含有する植物(4つの系統の平均)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ニコチアナ・ベンサミアナにおけるアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする5個の遺伝子の同定およびこれらの遺伝子のより多くのノックアウトは前記の植物において産生されるタンパク質上のコアのアルファ(1,3)−フコース残基のレベルを進行的に低減することに基づく。
【0023】
第1の態様において、本発明はニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法を提供し、前記の方法は、少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む植物または植物細胞を提供し、そして前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する工程を含む。
【0024】
“低減したレベル(Reduced levels)のコアのアルファ(1,3)−フコース残基”または“低減したレベル(a reduced level)のコアのアルファ(1,3)−フコース残基”は、本明細書で用いられる際、対照の植物において得られるようなレベルに関するコアのアルファ(1,3)−フコース残基のレベルの低減であることを意味する。その“対照の植物”は一般に選択された標的植物であり、それはあらゆる植物であってよく、好都合には、N.ベンサミアナ、N.タバカムが含まれるニコチアナおよびS.ツベローサム(S.tuberosum)のようなタバコおよび関連する種、または他の植物、例えばM.サティバ(M.sativa)の中から選択されてよい。一般に、その対照の植物において、アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は未改変であり、それは野生型レベルのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ活性を有する。
【0025】
“野生型レベルのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ活性”(“野生型(wildtype)”または“野生型(wild−type)”とも書かれる)は、本明細書で用いられる際、それが天然において最も一般的に生じるような、植物中の典型的なアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ活性のレベルを指す。従って、前記の対照植物は、内在性のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を標的とするサイレンシング核酸分子または低レベルのアルファ−1,3−フコシルトランスフェラーゼ活性と関係するアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のアレル、例えばノックアウトアレルのどちらも与えられていない。
【0026】
前記のコアのアルファ(1,3)−フコース残基の低減したレベルは、少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%、または少なくとも99%の低減からなることができる。産生された糖タンパク質と結合したアルファ(1,3)−フコシル化されたグリカン構造の量は、この発明において記述される方法に従って決定することができる。
【0027】
“コアのアルファ(1,3)−フコース構造”、また“アルファ(1,3)−フコース(alfa(1,3)−fucose)残基”、または“アルファ(1,3)−フコース(alpha(1,3)−fucose)残基”または“α(1,3)−フコース残基”は、本明細書で用いられる際、N−グリカンのコア領域にアルファ1,3結合しているフコースを指す。
【0028】
“アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ(Alfa(1,3)−fucosyltransferase)”または“アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ(alpha(1,3)−fucosyltransferase)”、または“α(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ”、または“FucT”は、フコースのGDP−フコースからタンパク質に結合したN−グリカンのコアのβ結合N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)への転移を触媒する酵素である(EC2.4.1.214)。
【0029】
植物におけるアルファ(1,3)フコシルトランスフェラーゼ(FucT)をコードする遺伝子には、実験により実証された、および推定上のFucTのcDNAおよび遺伝子配列、その一部または相同配列を同定する以下のデータベース登録が含まれる:NM112815(アラビドプシス・サリアナ)、NM103858(アラビドプシス・サリアナ)、AJ618932(フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens))、At1g49710(アラビドプシス・サリアナ)、At3g19280(アラビドプシス・サリアナ)、DQ789145(レムナ・ミノル(Lemna minor))、AY557602(メディカゴ・トランカツラ(Medicago truncatula))、Y18529(ビグナ・ラジアタ(Vigna radiata))、AP004457(オリザ・サティバ(Oryza sativa))、タンパク質CAI70373をコードするAJ891040(ポプルス・アルバ(Populus alba) x ポプルス・トレムラ(Populus tremula))、タンパク質AAL99371をコードするAY082445(メディカゴ・サティバ(Medicago sativa))、タンパク質CAE46649をコードするAJ582182(トリーティクム・アエスティウム(Triticum aestivum))、タンパク質CAE46648をコードするAJ582181(ホルデウム・ウルガレ(Hordeum vulgare))、およびEF562630.1(ニコチアナ・ベンサミアナ)(全ての配列は参照により本明細書に援用される)。
【0030】
“ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子”または“ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼアレル”または“アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトアレル”または“ノックアウトFucT遺伝子”または“ノックアウトFucTアレル”は、本明細書において用いられる際、本発明において記述されるような方法を用いて、Kang et al. (2008, Proc Natl Acad Sci USA 105: 5933)により記述されたようなアラビドプシス・サリアナの3重ノックアウトを補完しない、遺伝子または前記の遺伝子のアレルを指す。前記の“ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子”は、その核酸配列中に1個以上の変異を含む野生型のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子またはアレルである。前記のノックアウト遺伝子は、例えば機能するmRNAに転写されない遺伝子、またはそれがコードするRNAが正しくスプライシングされない遺伝子、または機能するタンパク質をコードしていない遺伝子であり得る。従って、ノックアウト遺伝子は、例えばプロモーター領域中に変異を有する、スプライス部位中に変異を有する、またはコード配列中に結果としてアミノ酸置換をもたらす、もしくは結果として中途での翻訳終結をもたらす変異を有する遺伝子を含み得る。
【0031】
変異は1個以上のヌクレオチドの欠失、挿入または置換であり得る。変異は天然において見付かる(例えばヒトによる変異原の適用なしで自然に生じる)変異である“自然突然変異”またはヒトの介入により、例えば突然変異誘発により誘発され、非天然変異体ヌルアレルと呼ばれる“誘発突然変異”のどちらかであり得る。
【0032】
“突然変異誘発”は、本明細書で用いられる際、植物細胞(例えば複数のニコチアナ・ベンサミアナの種子または他の部位、例えば花粉等)にその細胞のDNAにおいて変異を誘発する技法、例えば突然変異誘発物質、例えば化学物質(例えばエチルメチルスルホネート(ethylmethylsulfonate)(EMS)、エチルニトロソ尿素(ENU)等)との接触、または電離放射線(中性子(例えば高速中性子突然変異誘発等における中性子)、アルファ線、ガンマ線(例えばコバルト60線源により供給されるガンマ線)、エックス線、紫外線等)、またはこれらの2つ以上の組合せを適用するプロセスを指す。従って、1個以上のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の所望の突然変異誘発を、化学的手段の使用により、例えば1個以上の植物組織のエチルメチルスルホネート(EMS)、エチルニトロソ尿素等との接触により、物理的手段、例えばX線等の使用により、またはガンマ線、例えばコバルト60線源により供給されるガンマ線により成し遂げることができる。照射により作り出される変異はしばしば大きな欠失または他の全体的な損傷、例えば転座もしくは複雑な再編成であるが、化学的変異原により作り出される変異はしばしばより離散的な損傷、例えば点変異である。例えば、EMSはグアニン塩基をアルキル化し、それは結果として塩基の誤対合をもたらし:アルキル化されたグアニンはチミン塩基と対合し、結果として主にG/CのA/Tへの転位をもたらすであろう。突然変異誘発後、ニコチアナ・ベンサミアナ植物を処理された細胞から既知の技法を用いて再生される。例えば、結果として得られたニコチアナ・ベンサミアナの種子を従来の栽培手順に従って植えることができ、続いてその植物において自家受粉種子が形成される。現世代または後の世代におけるそのような自家受粉の結果として形成される追加の種子を収穫し、変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の存在に関してスクリーニングすることができる。特定の変異体遺伝子に関してスクリーニングするためのいくつかの技法が既知であり、例えばDeleteagene(商標)(Delete-a-gene; Li et al., 2001, Plant J 27: 235-242)はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)アッセイを用いて高速中性子での突然変異誘発により産生された欠失変異体に関してスクリーニングし、TILLING(ゲノム中の標的化された誘発された局所損傷;McCallum et al., 2000, Nat Biotechnol 18:455-457)はEMSで誘発された点変異を同定する;直接配列決定等。
【0033】
変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、当該技術で一般的に用いられる様々な方法を用いて、例えばPCRに基づく方法を用いてそのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼのゲノムまたはcDNAの一部または全部を増幅し、直接配列決定して、産生(例えば突然変異誘発により誘発)および/または同定することができる。
【0034】
突然変異誘発後、植物を処理された種子から生長させ、または処理された細胞から既知の技法を用いて再生させる。例えば、突然変異誘発した種子を従来の栽培手順に従って植えてよく、続いてその植物において自家受粉種子が形成される。現世代または後の世代におけるそのような自家受粉の結果として形成される追加の種子を収穫し、変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の存在に関して当該技術において一般的に用いられる技法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に基づく技法(アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の増幅)またはハイブリダイゼーションに基づく技法、例えばサザンブロット分析、BACライブラリスクリーニング等、および/またはアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の直接配列決定を用いてスクリーニングすることができる。変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子中の点変異(いわゆる一塩基多型またはSNP)の存在に関してスクリーニングするために、当該技術において一般的に用いられるSNP検出法、例えばオリゴライゲーションに基づく技法、一塩基伸長に基づく技法、制限部位の差異に基づく技法、例えばTILLING、または直接配列決定および例えばNovoSNP(Weckx et al, 2005, Genome Res 15: 436)を用いたその配列の野生型配列に対する比較を用いることが出来る。
【0035】
上記で記述したように、特定の野生型のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の(自然ならびに誘発された)突然変異誘発は、結果として得られた変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子中の1個以上の欠失した、挿入された、または置換されたヌクレオチド(以下“変異領域”と呼ぶ)の存在をもたらす。従って、その変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を、野生型アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子中のその1個以上の欠失した、挿入された、または置換されたヌクレオチドの位置および構成により特性付けることができる。
【0036】
一度特定の変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が配列決定されたら、生物学的試料(例えば植物、植物性物質または植物性物質を含む製品の試料)中の変異アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を特異的に認識するプライマーおよびプローブを開発することができる。
【0037】
本明細書で用いられる際、用語“アレル(単数または複数)”は、特定の座位にある遺伝子の1つ以上の取り得る形態のいずれかを意味する。生物の二倍体(または複二倍体)細胞において、所与の遺伝子のアレルは、染色体上の特定の位置または座位(locus)(複数形は座位(loci))に位置する。1つのアレルは一対の相同染色体のそれぞれの染色体上に存在する。
【0038】
別の態様において、ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基および低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を産生する方法が提供され、前記の方法は以下の工程を含む:少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み、かつ低減したレベルのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性を有する植物細胞を提供し;そして前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する。
【0039】
“低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基”は、本明細書で用いられる際、対照植物において得られるようなレベルに関する、コアのベータ(1,2)−キシロース残基のレベルの低減を意味する。その“対照”植物は一般に選択された標的植物であり、それはあらゆる植物であってよく、好都合には、N.ベンサミアナ、N.タバカムが含まれるニコチアナおよびS.ツベローサムのようなタバコおよび関連する種、または他の植物、例えばM.サティバの中から選択されてよい。一般に、その対照の植物において、ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼは未改変であり、それは野生型レベルのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性を有する。“野生型レベルのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性”(“野生型(wildtype)”または“野生型(wild−type)”とも書かれる)は、本明細書で用いられる際、それが天然において最も一般的に生じるような、植物中の典型的なベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性のレベルを指す。従って、前記の対照植物は、内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を標的とするサイレンシング核酸分子または低レベルのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性と関係するベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子のアレル、例えばノックアウトアレルのどちらも与えられていない。
【0040】
前記のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ残基の低減したレベルは、少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%、または少なくとも99%の低減からなることができる。産生された糖タンパク質と結合したベータ(1,2)−キシロシル化されたグリカン構造の量は、この発明において記述される方法に従って決定することができる。
【0041】
“コアのアルファ(1,3)−フコース残基の低減したレベルおよびベータ(1,2)−キシロース残基の低減したレベル”は、アルファ(1,3)−フコース残基、ベータ(1,2)−キシロース残基、またはアルファ(1,3)−フコースおよびベータ(1,2)−キシロース残基を含むグリカンのレベルの低減からなることができる。前記の低減は、少なくとも50%、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも97%、または少なくとも99%の低減からなることができる。産生された糖タンパク質と結合したアルファ(1,3)−フコシル化およびベータ(1,2)−キシロシル化されたグリカン構造の量は、この発明において記述される方法に従って決定することができる。
【0042】
ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性のレベルは、内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を低減することにより低減することができる。
【0043】
述べられた整数(a stated integer)の“発現を低減する”により、その整数の転写および/または翻訳および/または翻訳後修飾が、その明記された整数がそうでなければそれを発現したであろう細胞、組織、器官または生物への低減した生物学的作用を有するように、阻害される、または妨げられる、またはノックダウンされる、またはノックアウトされる、または妨害されることを意味する。
【0044】
当業者は、発現が阻害された、妨害された、または低減したかどうかを、過度の実験なしで知るであろう。例えば、特定の遺伝子の発現レベルは、mRNA鋳型分子の逆転写に続くポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により決定することができる。あるいは、遺伝子配列の発現レベルはノーザンハイブダイゼーション分析またはドットブロットハイブリダイゼーション分析またはインサイチュハイブリダイゼーション分析または類似の技法により決定することができ、そのような技法ではmRNAを膜支持体に転写し、目的の遺伝子によりコードされるmRNA転写産物のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、適切なレポーター分子、例えばとりわけ放射活性により標識されたdNTP(例えば[アルファ−32P]dCTPまたは[アルファ−35S]dCTP)またはビオチン化されたdNTPで標識された“プローブ”分子にハイブリダイズさせる。次いで、目的遺伝子の発現を、そのハイブリダイズしたプローブ分子に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの出現を検出することにより決定することができる。
【0045】
あるいは、特定の遺伝子の転写の速度を核ランオン(run−on)および/または核ランオフ(run−off)実験により決定することができ、ここで核を特定の細胞または組織から単離し、rNTPの特定のmRNA分子中への組み込みの速度を決定する。あるいは、目的の遺伝子の発現をRNアーゼプロテクションアッセイにより決定することができ、ここで前記の目的遺伝子によりコードされるmRNAのヌクレオチド配列に相補的である標識されたRNAプローブまたは“リボプローブ”を前記のmRNAに二本鎖mRNA分子が形成されるのに十分な時間および条件下でアニーリングさせ、その時間の後、試料をRNアーゼに消化させて一本鎖RNA分子を除去し、そして特にハイブリダイズしなかった過剰なリボプローブを除去する。そのようなアプローチは、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. Molecular Cloning: a laboratory manual. (第2版)ニューヨーク, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989. 1659 p. ISBN 0-87969-309-6により詳細に記述されている。
【0046】
当業者は、タンパク質レベルで特定の遺伝子の発現のレベルを検出するための様々な免疫学的および酵素的方法、例えば、とりわけロケット免疫電気泳動、ELISA、放射免疫アッセイおよびウェスタンブロット免疫電気泳動の技法の使用も知っているであろう。
【0047】
ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性のレベルは、好都合には内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現の転写サイレンシングまたは転写後サイレンシングにより低減または排除することができる。この目的のため、その内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を標的とするサイレンシングRNA分子をその植物細胞中に導入する。
【0048】
本明細書で用いられる際、“サイレンシングRNA”または“サイレンシングRNA分子”は、植物細胞中に導入された際に標的遺伝子の発現を低減するあらゆるRNA分子を指す。そのようなサイレンシングRNAは、例えばいわゆる“アンチセンスRNA”であってよく、それによりそのRNA分子は、標的核酸の配列、好ましくは標的遺伝子のコード配列の相補物(complement)に対して95%の配列同一性を有する少なくとも20個の連続したヌクレオチドの配列を含む。しかし、アンチセンスRNAは、プロモーター配列ならびに転写終結およびポリアデニル化シグナルが含まれる標的遺伝子の制御配列に向けられてもよい。サイレンシングRNAにはさらに、いわゆる“センスRNA”も含まれ、それによりそのRNA分子は標的核酸の配列に対して95%の配列同一性を有する少なくとも20個の連続したヌクレオチドの配列を含む。他のサイレンシングRNAは、国際公開01/12824号または米国特許第6423885号(両方の文献が参照により本明細書に援用される)において記述されているような、標的核酸の配列の相補物に対して95%の配列同一性を有する少なくとも20個の連続したヌクレオチドを含む“ポリアデニル化されていないRNA”であることができる。さらに別のタイプのサイレンシングRNAは、国際公開第03/076619号(参照により本明細書に援用される)において記述されているような、標的核酸の配列またはその相補物に対して95%の配列同一性を有する少なくとも20個の連続したヌクレオチドを含み、さらに国際公開第03/076619号において記述されているような大部分が二本鎖である領域を含む(ジャガイモやせいもウイロイド型のウイロイドからの核局在化シグナルを含む、またはCUG三塩基反復を含む、大部分が二本鎖である領域が含まれる)RNA分子である。サイレンシングRNAは、本明細書で定義されるようなセンスおよびアンチセンス鎖を含む二本鎖RNAであってもよく、ここでそのセンスおよびアンチセンス鎖は互いに塩基対合して二本鎖RNA領域を形成することができる(好ましくは、前記のセンスおよびアンチセンスRNAの少なくとも20個の連続したヌクレオチドは互いに相補的である)。そのセンスおよびアンチセンス領域は、そのセンスおよびアンチセンス領域が二本鎖RNA領域を形成した際にヘアピンRNA(hpRNA)が形成され得るように1個のRNA分子内に存在していてもよい。hpRNAは当業者に周知である(例えば参照により本明細書に援用される国際公開第99/53050号を参照)。そのhpRNAは、大部分が相補的であり得るが完全に相補的である必要はない長いセンスおよびアンチセンス領域を有する長鎖hpRNAとして分類することができる(典型的には約200bpより大きく、200bp〜1000bpの範囲に及ぶ)。hpRNAは、大きさが約30から約42bpまでの範囲のかなり小さいものであることもできるが、94bpよりはるかに大きくはない(参照により本明細書に援用される国際公開第04/073390号を参照)。サイレンシングRNAは、例えば国際公開第2005/052170号、国際公開第2005/047505号、もしくは米国特許出願公開第2005/0144667号において記述されているような人工のマイクロRNA分子、または国際公開第2006/074400号において記述されているようなta−siRNAであることもできる(全ての文献が参照により本明細書に援用される)。
【0049】
ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼをサイレンシングするための適切な方法は、国際公開第2009056155号において記述されているような方法である。
【0050】
本発明の特定の態様において、ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性の低減したレベルは、内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子におけるノックアウト変異の結果である。
【0051】
“内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子におけるノックアウト変異”は、本明細書において用いられる際、そのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を不活性にする変異であり、ここでその不活性な遺伝子は、その遺伝子が機能するアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼタンパク質をコードしていないことを特徴とする。“ノックアウト遺伝子”または“ノックアウトアレル”とも呼ばれる前記の遺伝子は、機能するmRNAに転写されない遺伝子、またはそれがコードするRNAが正しくスプライシングされない遺伝子、または機能するタンパク質をコードしていない遺伝子のいずれかであり得る。従って、ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を不活性にする変異は、例えばプロモーター領域中の変異、スプライス部位中の変異、または結果としてアミノ酸置換もしくは中途での翻訳終結をもたらすコード配列中の変異を含む。
【0052】
ニコチアナ・ベンサミアナの内在性ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子における適切なノックアウト変異は、国際公開第2010145846号において記述されているようなノックアウトである。
【0053】
そのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼおよびベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性は、それぞれ植物からのタンパク質に結合したN−グリカン上のアルファ(1,3)−フコース残基のレベルおよびベータ(1,2)−キシロース残基のレベルを決定することにより評価することができる。植物からのタンパク質に結合したN−グリカン上のアルファ(1,3)−フコース残基のレベルおよびベータ(1,2)−キシロース残基のレベルは、例えばFaye et al. (Analytical Biochemistry (1993) 209: 104-108)により記述されたようなフコースもしくはキシロース特異的抗体を用いるウェスタンブロット分析により、または例えばKolarich and Altmann (Anal. Biochem. (2000) 285: 64-75)により記述されたようなマトリクス援助レーザー脱着/イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF−MS)を用いるその植物の糖タンパク質から単離されたグリカンに対する質量分析法により、またはPabst et al. (Analytical Chemistry (2007) 79: 5051-5057)により記述されたような液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化−質量分析法(LC/ESI/MS)を用いて、または例えばHenriksson et al. (Biochem. J. (2003) 375: 61-73)により記述されたような液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)を用いて測定することができる。
【0054】
本発明の方法のさらに別の態様において、前記の植物または植物細胞は少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む。
【0055】
少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、または6個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、または7個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、または7個より多くのノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子であることができる。
【0056】
適切なノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、SEQ ID NO.3、SEQ ID NO.6、SEQ ID NO.9、SEQ ID NO.12、SEQ ID NO.14のアミノ酸配列をコードする核酸からなる、またはこれらのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、もしくは少なくとも85%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも95%、もしくは少なくとも97%、もしくは少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版であることができる。
【0057】
適切なノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子はさらに、SEQ ID NO.1、SEQ ID NO.4、SEQ ID NO.7、SEQ ID NO.10、SEQ ID NO.13からなる、またはこれらの配列に対して少なくとも80%、もしくは少なくとも85%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも95%、もしくは少なくとも97%、もしくは少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する核酸からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版であることができる。
【0058】
本発明のさらに別の態様において、前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、以下:
−SEQ ID NO:3に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:6に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:9に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:12に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:14に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である。
【0059】
さらなる態様において、前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、以下:
−SEQ ID NO:1に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:4に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:7に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:10に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:13に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である。
【0060】
本発明に関する適切なノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、表2および表4において示されるような変異の群から選択される1個以上の変異を有する遺伝子である。
【0061】
さらに別の態様において、前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、以下:
−SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
−SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
−SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
−SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
−SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される。
【0062】
遺伝子の“変異版”は、本明細書で用いられる際、ある遺伝子の1個以上の変異を含有する版である。“天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ”、また、“野生型アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ”は、本明細書で用いられる際、それが天然において最も一般的に存在するような、アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼの典型的な形態を指す。
【0063】
別の特定の態様において、前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、ゲノム中にホモ接合型の状態で存在する。
【0064】
本発明に従う別の態様において、本発明に従う方法はさらに、少なくとも5個の内在性のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現が転写サイレンシングまたは転写後サイレンシングにより低減していることを特徴とする。転写サイレンシングまたは転写後サイレンシングは、適切には内在性のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を標的とするサイレンシングRNA分子を植物細胞中に導入することにより達成することができる。
【0065】
少なくとも5個の内在性のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子をサイレンシングするために、1個より多くのキメラ遺伝子を植物細胞中に導入することが適切であり、それはそのキメラ遺伝子のそれぞれがサイレンシングRNA分子をコードし、そのそれぞれがそのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の少なくとも1個をサイレンシングするのに適していることを特徴とする。あるいは、少なくとも5個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子をサイレンシングすることができるサイレンシングRNA分子をコードする1個のキメラ遺伝子を植物細胞中に導入することができる。前記の1個のキメラ遺伝子はいくつかの21個の連続したヌクレオチドの領域を含むことができ、そのそれぞれがアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の少なくとも1個に存在する21ヌクレオチドの領域に対して少なくとも85%の配列同一性を有する。あるいは、前記の1個のキメラ遺伝子は21個の連続したヌクレオチドの領域を含むことができ、それは少なくとも5個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が前記の21個の連続したヌクレオチドの領域に対して85%の配列同一性を有する21ヌクレオチドの配列を含むことを特徴とする。
【0066】
ニコチアナ・ベンサミアナのアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子をサイレンシングするための適切な方法は、国際公開第2009056155号において記述されているような方法である。
【0067】
さらに別の態様において、本発明に従う植物細胞は、以下の作動可能に連結されたDNA断片を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む:植物で発現可能なプロモーター、転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域、植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域。さらなる態様において、前記のDNA領域は、少なくともSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:13、またはそれらの相補物から選択される21ヌクレオチドの内の少なくとも18ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第1センスDNA領域から転写されるRNA領域および前記の第1センスDNA領域の相補物に対して少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも18個の連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第2アンチセンスDNA領域から転写されるRNA領域の間で二本鎖RNA領域を形成することができるRNA分子を生じる。
【0068】
“少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子”は、本明細書で用いられる際、少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を低減するサイレンシングRNA分子を指す。
【0069】
本明細書で用いられる際、用語“植物で発現可能なプロモーター”は、植物細胞において転写を制御(開始)することができるDNA配列を意味する。これには植物由来のあらゆるプロモーターが含まれるが、植物細胞において転写を方向付けることができる非植物由来のあらゆるプロモーター、すなわちウイルスまたは細菌由来の特定のプロモーター、例えばCaMV35S(Harpster et al.(1988) Mol Gen Genet. 212(1):182-90)、サブタレニアンクローバーウイルスプロモーター4番および7番(国際公開第9606932号)、またはT−DNA遺伝子プロモーターも含まれ、種子特異的プロモーター(例えば国際公開第89/03887号)、器官原基特異的プロモーター(An et al. (1996) Plant Cell 8(1):15-30)、茎特異的プロモーター(Keller et al., (1988) EMBO J. 7(12): 3625-3633)、葉特異的プロモーター(Hudspeth et al. (1989) Plant Mol Biol. 12: 579-589)、葉肉特異的プロモーター(例えば光誘導性Rubiscoプロモーター)、根特異的プロモーター(Keller et al. (1989) Genes Dev. 3: 1639-1646)、塊茎特異的プロモーター(Keil et al. (1989) EMBO J. 8(5): 1323-1330)、維管束組織特異的プロモーター(Peleman et al. (1989) Gene 84: 359-369)、雄ずい選択的プロモーター(国際公開第89/10396号、国際公開第92/13956号)、裂開領域(dehiscence zone)特異的プロモーター(国際公開第97/13865号)等が含まれるがそれらに限定されない組織特異的または器官特異的プロモーターも含まれる。
【0070】
“転写終結およびポリアデニル化領域”は、本明細書で用いられる際、新生RNAの切断を駆動し、その後ポリ(A)尾部が結果として生じるRNAの3’末端において付加される、植物において機能する配列である。植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルには、3’nos、3’35S、3’hisおよび3’g7が含まれるが、それらに限定されない。
【0071】
さらに別の態様において、本発明に従う植物細胞は、植物で発現可能なプロモーター、転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域、ならびに植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域を含むキメラ遺伝子を含み、前記のDNA領域がSEQ ID NO.19の配列を含むことを特徴とする。
【0072】
本発明の別の態様において、本発明の方法に従って産生される糖タンパク質は異種糖タンパク質である。さらに別の態様において、前記の異種タンパク質は、以下の作動可能に連結された核酸分子を含むキメラ遺伝子から発現される:植物で発現可能なプロモーター、前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域、転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域。さらに別の態様において、本発明に従う方法はさらに前記の異種タンパク質の精製の工程を含む。
【0073】
単語“発現”は、本明細書で用いられる際、その最も広範な文脈において、センスもしくはアンチセンスmRNAを産生するための特定の遺伝子配列の転写、またはペプチド、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質もしくは酵素分子を産生するためのセンスmRNA分子の翻訳を指すように解釈されるものとする。センスmRNA転写産物の産生を含む発現の場合には、単語“発現”は、その後のペプチド、ポリペプチド、オリゴペプチド、タンパク質または酵素分子の生物学的活性、細胞または細胞内局在、代謝回転または定常状態レベルを修正する翻訳後の事象有りまたは無しで、転写および翻訳プロセスの組み合わせを示すように解釈されてもよい。
【0074】
異種糖タンパク質、すなわち天然ではそのような植物細胞で通常発現されない糖タンパク質には、例えばモノクローナル抗体のような、療法薬として用いることができる哺乳類またはヒトのタンパク質が含まれてよい。好都合には、その外来の糖タンパク質は植物で発現可能なプロモーターおよび目的の糖タンパク質のコード領域を含むキメラ遺伝子から発現させることができ、それによりそのキメラ遺伝子は植物細胞のゲノム中に安定に組み込まれる。外来タンパク質を植物細胞中で発現させるための方法は、当該技術において周知である。あるいは、その外来糖タンパク質を、例えば国際公開第02/088369号、国際公開第2006/079546号および国際公開第2006/012906号において記述されているウイルスベクターおよび方法を用いて、または国際公開第89/08145号、国際公開第93/03161号および国際公開第96/40867号もしくは国際公開第96/12028号において記述されているウイルスベクターを用いて、一過性の方法で発現させることもできる。
【0075】
“異種タンパク質”により、それは天然ではその植物または植物細胞により発現されないタンパク質(すなわちポリペプチド)であることは理解されている。これは、植物または植物細胞により天然に発現されるタンパク質である同種タンパク質とは対照的である。翻訳後N−グリコシル化を経る異種および同種ポリペプチドは、本明細書において異種または同種糖タンパク質と呼ばれる。
【0076】
本発明の方法により好都合に産生され得る対象の異種タンパク質の例には、サイトカイン、サイトカイン受容体、成長因子(例えばEGF、HER−2、FGF−アルファ、FGF−ベータ、TGF−アルファ、TGF−ベータ、PDGF、IGF−I、IGF−2、NGF)、成長因子受容体が含まれるが、それらに限定されない。他の例には、成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン);インスリン(例えばインスリンA鎖およびインスリンB鎖)、プロインスリン、エリスロポエチン(EPO)、コロニー刺激因子(例えばG−CSF、GM−CSF、M−CSF);インターロイキン;血管内皮成長因子(VEGF)およびその受容体(VEGF−R)、インターフェロン、腫瘍壊死因子およびその受容体、トロンボポエチン(TPO)、トロンビン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP);凝固因子(例えば第VIII因子、第IX因子、フォン・ヴィルブランド因子等)、抗凝固因子;組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、カルシトニン、CDタンパク質(例えばCD2、CD3、CD4、CD5、CD7、CD8、CDl Ia、CDl Ib、CD18、CD19、CD20、CD25、CD33、CD44、CD45、CD71等)、CTLAタンパク質(例えばCTLA4);T細胞およびB細胞受容体タンパク質、骨形成タンパク質(BMP、例えばBMP−1、BMP−2、BMP−3等)、神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン類、例えばレンニン、リウマチ因子、ランテス、アルブミン、リラキシン、マクロファージ抑制タンパク質(例えばMIP−1、MIP−2)、ウイルスタンパク質または抗原、表面膜タンパク質、イオンチャンネルタンパク質、酵素、制御タンパク質、免疫調節タンパク質、(例えばHLA、MHC、B7ファミリー)、ホーミング受容体、輸送タンパク質、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、Gタンパク質共役型受容体タンパク質(GPCR)、神経調節タンパク質、アルツハイマー病関連タンパク質およびペプチドが含まれる。融合タンパク質およびポリペプチド、キメラタンパク質およびポリペプチド、ならびに前記のタンパク質のいずれかの断片もしくは部分、または変異体、変種、もしくは類似体も、本発明の方法により産生することができる適切なタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドの中に含まれる。対象のタンパク質は糖タンパク質であることができる。糖タンパク質の1つのクラスは、例えばワクチンを産生するために用いることができるウイルスの糖タンパク質、特にサブユニットである。ウイルスタンパク質の一部の例は、ライノウイルス、ポリオウイルス、ヘルペスウィルス、ウシヘルペスウィルス、インフルエンザウイルス、ニューカッスル病ウイルス、呼吸系発疹ウイルス(respiratory syncitio virus)、麻疹ウイルス、レトロウイルス、例えばヒト免疫不全ウイルス、またはパルボウイルス、またはパポバウイルス、ロタウイルス、またはコロナウイルス、例えば伝染性胃腸炎ウイルス、またはフラビウイルス、例えばダニ媒介性脳炎ウイルスもしくは黄熱ウイルス、トガウイルス、例えば風疹ウイルスもしくは東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、もしくはベネズエラウマ脳炎ウイルス、肝炎を引き起こすウイルス、例えばA型肝炎ウイルスもしくはB型肝炎ウイルス、ペスチウイルス、例えばブタコレラウイルス、またはラブドウイルス、例えば狂犬病ウイルスからのタンパク質を含む。
【0077】
その異種糖タンパク質は、抗体またはその断片であることができる。用語“抗体”は、組換え抗体(例えばIgD、IgG、IgA、IgM、IgEのクラス)ならびに組換え抗体、例えば単鎖抗体、キメラおよびヒト化抗体ならびに多重特異性抗体を指す。用語“抗体”は、前記の全ての断片および誘導体も指し、さらにエピトープに特異的に結合する能力を保持しているそのあらゆる改変または誘導体化された変種を含み得る。抗体誘導体は、抗体にコンジュゲートされたタンパク質または化学的部分を含み得る。モノクローナル抗体は標的抗原またはエピトープに選択的に結合することができる。抗体には、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト化またはキメラ抗体、ラクダ化抗体、ラクダ科(camelid)抗体(nanobody(登録商標))、単鎖抗体(scFv)、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、ジスルフィド連結Fv(sdFv)フラグメント、抗イディオタイプ(anti−Id)抗体、細胞内抗体、合成抗体、および上記のいずれかのエピトープ結合断片が含まれる。用語“抗体”は、免疫グロブリンのFc領域と同等の領域を含む融合タンパク質も指す。いわゆる二重特異性抗体(Bostrom J et al (2009) Science 323, 1610-1614)の本発明の植物または植物細胞における産生も考えられる。
【0078】
本発明の範囲内の抗体には、以下の抗体のアミノ酸配列を含む抗体が含まれる:重鎖および軽鎖可変領域を含む抗体(米国特許第5,725,856号参照)またはトラスツズマブ、例えばHERCEPTIN(商標)が含まれる抗HER2抗体;抗CD20抗体、例えば米国特許第5,736,137号におけるようなキメラ抗CD20、米国特許第5,721,108号におけるような2H7抗体のキメラまたはヒト化変種;ヒト化および/または親和性成熟抗VEGF抗体、例えばヒト化抗VEGF抗体huA4.6.1 AVASTIN(商標)(国際公開第96/30046号および国際公開第98/45331号)が含まれる抗VEGF抗体;抗EGFR(国際公開第96/40210号におけるようなキメラ化またはヒト化抗体);抗CD3抗体、例えばOKT3(米国特許第4,515,893号);抗CD25または抗tac抗体、例えばCHI−621(SIMULECT)および(ZENAPAX)(米国特許第5,693,762号)。本発明は、本発明の形質転換された植物細胞を培養することまたは本発明の形質転換された植物を生長させることを含む、抗体の産生のための方法を提供する。産生された抗体は、標準的な手順に従って精製および配合することができる。
【0079】
その異種糖タンパク質をコードするDNA領域は、植物内での発現のレベルを増大させるためにコドン最適化されていてよい。コドン最適化により、植物におけるコドン使用頻度に近づけるための、構造遺伝子またはその断片のオリゴヌクレオチド構築ブロックの合成およびそれらのその後の酵素集合のための適切なDNAヌクレオチドの選択を意味する。
【0080】
“精製”は、本明細書において用いられる際、植物の総タンパク質の混合物からその異種タンパク質を単離することである。精製のレベルは、少なくとも50%の純度まで、または少なくとも60%の純度まで、または少なくとも70%の純度まで、または少なくとも80%の純度まで、または少なくとも85%の純度まで、または少なくとも90%の純度まで、または少なくとも95%の純度まで、または少なくとも98%の純度まで、または少なくとも99%の純度までであることができる。タンパク質精製のための方法は当該技術で周知であり、それは示差沈殿、超遠心分離、クロマトグラフィー、または親和性精製からなることができるが、それらに限定されない。
【0081】
本発明の別の態様は、本発明に従う方法により得られる糖タンパク質を提供する。さらに別の態様において、前記の糖タンパク質は低減したレベルのアルファ(1,3)−フコース残基を有する。さらに別の態様において、前記の糖タンパク質は低減したレベルのアルファ(1,3)−フコース残基および低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する。
【0082】
本発明に従う別の態様は、少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、ニコチアナ・ベンサミアナ植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫を提供する。さらに別の態様において、前記の植物は少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む。
【0083】
少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、または6個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、または7個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、または少なくとも7個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子であることができる。
【0084】
適切なノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、SEQ ID NO.3、SEQ ID NO.6、SEQ ID NO.9、SEQ ID NO.12、SEQ ID NO.14のアミノ酸配列をコードする核酸からなる、またはこれらのアミノ酸配列に対して少なくとも80%、もしくは少なくとも85%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも95%、もしくは少なくとも97%、もしくは少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版であることができる。
【0085】
適切なノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子はさらに、SEQ ID NO.1、SEQ ID NO.4、SEQ ID NO.7、SEQ ID NO.10、SEQ ID NO.13からなる、またはこれらの配列に対して少なくとも80%、もしくは少なくとも85%、もしくは少なくとも90%、もしくは少なくとも95%、もしくは少なくとも97%、もしくは少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する核酸からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版であることができる。
【0086】
別の態様は本発明に従う植物を提供し、ここでそのノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上は、以下:
−SEQ ID NO:3に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:6に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:9に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:12に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
−SEQ ID NO:14に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である。
【0087】
さらに別の態様は本発明に従う植物を提供し、ここでそのノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上は、以下:
−SEQ ID NO:1に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:4に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:7に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:10に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
−SEQ ID NO:13に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である。
【0088】
さらに別の態様は本発明に従う植物を提供し、ここでそのノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、以下:
−SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
−SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
−SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
−SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
−SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される。
【0089】
さらなる態様において、本発明に従う植物または植物細胞は、そのノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に関してホモ接合型である。
【0090】
さらに別の態様において、本発明に従う植物または植物細胞はさらに少なくとも1個のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み、ここで前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子はそのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子中に対応する野生型DNA領域と比較して1個以上の挿入された、欠失した、または置換されたヌクレオチドからなる変異したDNA領域を含み、かつここで前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子は機能するベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼタンパク質をコードしていない。
【0091】
さらに別の態様において、前記の植物または植物細胞は、さらに以下の作動可能に連結されたDNA断片を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む:植物で発現可能なプロモーター;転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域;ならびに植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域。適切には、前記のDNA領域は、少なくともSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:13、またはそれらの相補物から選択される21ヌクレオチドの内の少なくとも18ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第1センスDNA領域から転写されるRNA領域および前記の第1センスDNA領域の相補物に対して少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも18個の連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第2アンチセンスDNA領域から転写されるRNA領域の間で二本鎖RNA領域を形成することができるRNA分子を生じる。
【0092】
さらなる態様において、前記のDNA領域はSEQ ID NO.19の配列を含む。
【0093】
さらなる態様において、本発明に従う植物または植物細胞はさらに前記の植物または植物細胞に対して外来の糖タンパク質を含む。さらに別の態様において、前記の糖タンパク質は以下の作動可能に連結された核酸分子を含むキメラ遺伝子から発現される:植物で発現可能なプロモーター、前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域、転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域。
【0094】
本発明に従う別の態様は、以下:
−SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
−SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
−SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
−SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
−SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択されるアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトアレルを提供する。
【0095】
さらに別の態様は、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を得るための本発明に従う方法の使用を提供する。さらなる態様は、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有し、かつ低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を得るための本発明に従う方法の使用を提供する。
【0096】
本発明に従う植物はさらに、伝統的な育種技法により交配することができ、低減したレベルのアルファ(1,3)−フコシル化および/または低減したレベルのベータ(1,2)−キシロシル化を有する糖タンパク質を含む子孫植物を得るための種子を産生するために用いることができる。
【0097】
本明細書で用いられる際、“含む”は、述べられた特徴、整数、工程または構成要素の言及された通りの存在を明記するものとして解釈されるべきであるが、1個以上の特徴、整数、工程もしくは構成要素、またはそれらの群の存在または追加を除外しない。従って、例えば、ヌクレオチドまたはアミノ酸の配列を含む核酸またはタンパク質は、実際に言及されたものよりも多くのヌクレオチドまたはアミノ酸を含んでいてよく、すなわち、より大きな核酸またはタンパク質中に組み込まれていてよい。機能的または構造的に定義されたDNA領域を含むキメラ遺伝子は、追加のDNA領域等を含んでいてよい。
【0098】
別途記載しない限り、実施例において、全ての組み換え技法は、“Sambrook J and Russell DW (編者) (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第3版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ニューヨーク”において、および“Ausubel FA, Brent R, Kingston RE, Moore DD, Seidman JG, Smith JA and Struhl K (編者) (2006) Current Protocols in Molecular Biology. John Wiley & Sons, ニューヨーク”において記述されているような標準的なプロトコルに従って実施される。標準的な材料および参考文献は、“Croy RDD (編者) (1993) Plant Molecular Biology LabFax, BIOS Scientific Publishers Ltd., Oxford and Blackwell Scientific Publications, オックスフォード”において、および“Brown TA, (1998) Molecular Biology LabFax, 第2版, Academic Press, サンディエゴ”において記述されている。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に関する標準的な材料および方法は、“McPherson MJ and Moller SG (2000) PCR (The Basics), BIOS Scientific Publishers Ltd., オックスフォード”において、および“PCR Applications Manual, 第3版 (2006), Roche Diagnostics GmbH, マンハイムまたはwww.roche-applied-science.com”において見付けることができる。
【0099】
本明細書において参照または引用される全ての特許、特許出願、および刊行物または公表(public disclosures)(インターネット上の刊行物を含む)は、参照によりそのまま援用される。
【0100】
記述および実施例全体を通して、以下の配列への参照が行われる:
SEQ ID No 1:FucTAゲノムDNA
SEQ ID No 2:FucTAコード配列
SEQ ID No 3:FucTAタンパク質
SEQ ID No 4:FucTBゲノムDNA
SEQ ID No 5:FucTBコード配列
SEQ ID No 6:FucTBタンパク質
SEQ ID No 7:FucTCゲノムDNA
SEQ ID No 8:FucTCコード配列
SEQ ID No 9:FucTCタンパク質
SEQ ID No 10:FucTDゲノムDNA
SEQ ID No 11:FucTDコード配列
SEQ ID No 12:FucTDタンパク質
SEQ ID No 13:FucTEゲノムDNA
SEQ ID No 14:FucTEタンパク質
SEQ ID No 15:プライマーVH031
SEQ ID No 16:プライマーVH032
SEQ ID No 17:プライマーVH033
SEQ ID No 18:プライマーVH034
SEQ ID No 19:FucTサイレンシングRNAをコードする配列
SEQ ID No 20:FucTサイレンシングRNAをコードする配列:ニコチアナ・ベンサミアナFucTBコード配列の一部(1183から1265まで):gaaactgtctatcatgtatatgtacgtgaaagagggaggtttgagatggattccattttcttaaggtcgagtgatttgtcttt
SEQ ID No 21:FucTサイレンシングRNAをコードする配列:
【0101】
【化1】
【実施例】
【0102】
1.ニコチアナ・ベンサミアナからのFucT遺伝子の単離。
【0103】
FucT KO植物を産生するため、FcuT遺伝子ファミリーの全てのメンバーを同定および単離する必要があった。従って、我々はまずサザンブロット分析によりその遺伝子ファミリーの大きさを決定した。N.ベンサミアナからのゲノムDNAをEcoRI、EcoRV、PstI、HindIII、NsiI、またはAseIで消化し、1%アガロースゲル上で泳動し、ナイロン膜上にブロットした。そのブロットをN.ベンサミアナからのFcuTAのcDNAクローン(Strasser et al. (2008) Plant Biotech J. 6:392)とハイブリダイズさせた。曝露後、そのオートラジオグラムはレーンあたり7本に至るまでのハイブリダイズしたバンドを示し、これは最大で7個の遺伝子のファミリーを示している(図1)。
【0104】
このFucT遺伝子ファミリーの全てのメンバーを単離するため、Amplicon Expressにより2つのBACライブラリーを構築した。それぞれが、クローニング酵素としてそれぞれMboIおよびHindIIIを用いて、ゲノムの2.5倍をカバーしていた。そのライブラリーをFucTA cDNAプローブを用いてスクリーニングした。合計で32個のBACクローンが見付かった。これらのクローンを、それぞれの個々のクローンのハイブリダイゼーションパターンをN.ベンサミアナのゲノムDNAのハイブリダイゼーションパターンと比較するサザンブロット分析に基づいて、異なるファミリーに分類した(図2)。その32個のクローンの内で、8個はハイブリダイズしなかった。残りのクローンは8個のファミリーに分類することができた。これらのファミリーの5個は、N.ベンサミアナのゲノムのサザンブロットハイブリダイゼーションにおけるバンドと重なるハイブリダイゼーションパターンを示した。
【0105】
それぞれのBACクローンファミリーの1つの代表を、454配列決定技術を用いて配列決定し、FucTA cDNAの配列を用いたBLAST相同性検索により、FucT遺伝子の存在に関して分析した。この方法で試験した8個のファミリーの内で、5個はFucT配列を含有し、それらは全てFucTAのコード配列に関する完全長であった。これらの5個の遺伝子をFucTA、−B、−C、−D、および−Eと名づけた。これらの5個のFucT遺伝子の配列を、それぞれSEQ ID NO 1、SEQ ID NO 4、SEQ ID NO 7、SEQ ID NO 10、およびSEQ ID NO 13において示す。
【0106】
これらのコンティグおよび公開されたFucTA cDNAの配列を用いたEST2Genome(Mott (1997) Comput. Applic. 13:477)分析は、FucTEを除く全ての遺伝子がA.サリアナのFucT−Aおよび−B遺伝子と比較した場合に同じ数のイントロンを有し、そのイントロン−エキソン境界もこれらの2つの種の間で保存されていることを示した。驚くべきことに、N.ベンサミアナのFucTE遺伝子中にはイントロンは見付からなかった。FucT−D遺伝子は7833bpの異常に大きなイントロン1を含有することが分かった。
【0107】
TSSP(Shahmuradov et al. (2005) Nucl. Acids Res. 33:1069)を用いたプロモーター要素に関する上流の配列の分析は、FucTEを除く全ての遺伝子が高い信頼度で予測されたTATA領域を有することを示した。加えて、FucTE遺伝子のアミノ酸配列の分析は、それが288位においてチロシンのアスパラギン酸への置換(Y288D)を含有することを示した。この位置は高度に保存された供与体基質結合部位(“モチーフII”)の一部であり、このチロシン残基の変異はヒトのFucT VIの酵素活性を完全に不活性化することが示されている(Jost et al. 2005 Glycobiology 15:165)。対照的に、全ての他のN.ベンサミアナのFucT遺伝子はこの位置に保存されたチロシン残基を含有する。まとめると、これはFucTEはおそらく不活性なFucT酵素をコードする不活性な遺伝子であることを示している。
【0108】
最後に、その遺伝子の間の相同性を決定するため、我々はその遺伝子の引き出されたコード配列をClonemanagerプログラムを用いてヌクレオチドレベルでアラインメントし、結果としてFucT遺伝子ファミリーは2つの群に分けられた:FucTAおよびFucTBが1つの群を形成し、FucTAは以前に公開されたN.ベンサミアナFucTA cDNA(Strasser et al. (2008) Plant Biotech J. 6:392)に対して100%の同一性を有する。FucTAおよび−Bのコード領域は96%の同一性を有する。その2個の遺伝子の間の主な目立つ違いは、FucTBは中途での停止コドンのためより短いコード配列を有することである。FucTC、FucTDおよびFucTEは第2の群を形成する。3個の遺伝子全てがそのコード領域において96%の同一性を有する。その2個の群からの遺伝子は80%の相対的同一性を共有している。
【0109】
2.EMSによる突然変異誘発
我々はそれぞれのFucT遺伝子に関するヌル変異の選択に至る(come to)ためにEMSによる突然変異誘発を用いた。エチルメタンスルホネート(EMS)は、グアニン(G)をアルキル化することにより、GのAへの、およびCのTへの点変異を引き起こす。これらの点変異は、それらが停止コドンまたはスプライス部位の変異を誘発することによりヌル変異を生成した場合、遺伝子をノックアウトし得る。この方法を用いて、我々は全てのFucT遺伝子に関するノックアウトに関してスクリーニングすることができる。これらの変異体を交配した後、完全ノックアウトが達成されるであろう。
【0110】
M2種子産生に関する最適なEMS用量の決定。
【0111】
異なるEMS用量および結実(seed set)、発芽および植物の表現型への作用を試験した。これは、N.ベンサミアナにおけるEMSに誘発されるFucTのノックアウトを見付けるための最適なEMS用量を見出すために必要であった。
【0112】
EMSによる突然変異誘発に関する最適用量を、種子を0、50、75、100、150、および200mMのEMSで処理することにより決定した。簡潔には、種子を室温で2時間浸し、室温で4時間EMSで処理し、室温で15分間の洗浄を5回行った。種子を一夜乾燥させ、すぐに播種した。発芽、幼苗致死および植物の稔性への作用を記録した。N.ベンサミアナはN.デブネイ(N.debneyi)およびN.スアベオレンス(N.suaveolens)の組み合わせからの複二倍体種である可能性が最も高いため(Goodspeed, T. H. 1954 Pages 485-487 in: The Genus Nicotiana: Origins, Relationships and Evolution of its Species in the Light of Their Distribution, Morphology and Cytogenetics. Chronica Botanica、米国マサチューセッツ州ウォルサム)、それらも最初はその試験に含まれた。しかし、それらはN.ベンサミアナと比較してEMSに対する感受性が低いことが示されたため(データは示していない)、それらは稔性試験には用いられなかった。EMS処理は発芽の遅れを引き起こしたが(図3A)、75mM EMSまで致死性は検出されなかった。より高いEMS用量では致死率が急速に上昇し、150mMではその処理を生き延びた種子はなかった(図3B)。稔性は50mMにおいて既に影響を受けた。その種子を75mMで処理することにより、M1植物のおおよそ60%が不稔であった(図3C)。これらの結果に基づいて、最適なEMS用量を75mMに設定した。
【0113】
EMSにより突然変異誘発された植物およびFucT変異体に関してスクリーニングするためのM2集団のDNA試料の産生
我々の変異体を見付けるよい機会を有するため、我々は約10000の植物をスクリーニングする必要があった。75mMのEMS用量を用いることにより10000より多くのM2植物を得るため、我々は少なくとも20000のM1植物を生長させる必要があった。決定された密度および世代時間において、7000のM1植物を4ヶ月で生長させることができた。従って、少なくとも3つのM1集団を生長させる必要があった。
【0114】
M2種子を播種し、そのM2のN.ベンサミアナ植物の葉の試料に対してDNA抽出を行った。そのDNA抽出は組織内で行われ、組織内のEdwardsおよびKingfisher法に従って植物あたり4個の葉のディスク(discs)を抽出した。1つのEMS処理に由来するDNAプレートをEMS処理単位と定めた。
【0115】
我々は合計で6つのEMS処理単位を作った。2つの処理単位は失敗した:処理単位2は不十分な変異頻度により、処理単位4はEMSによる突然変異誘発とは無関係の植物の死のために失敗した。まとめると、4つの処理単位が残り、それはそれぞれがM2のN.ベンサミアナの葉の試料から抽出された95のDNA試料の99のプレートを含んでいた。それぞれのプレートの位置H12において、我々はUSDA国立生殖質システムからのN.ベンサミアナ系統種(accession)NBNPGS2(系統種コードPI555684)の内部対照DNA試料を含ませた。この系統種はEMSによる突然変異誘発のために用いられたベンサミアナ系統種(すなわち、Icon Genetics GmbHにより供給された栽培品種“BENTHAMIANA”)と比較していくつかの既知のSNPを含有していた。これらのSNPの位置を表1において要約する。プレートを−70℃で保管した。
【0116】
【表1】
【0117】
直接配列決定によるEMSに誘発された点変異の検出および一塩基多型(SNP)の検出
直接配列分析によるEMSに誘発された点変異の高スループット検出のため、我々はSmits et al. (2006), Pharmacogenet. Genomics 16:159により記述された方法を用いた。その方法はAgowa GmbH(現在LGC実験室サービス(laboratory service)の一部)により我々のために適合された。簡潔には、特定の遺伝子断片をPCRにより個々の植物の葉の組織のDNAから遺伝子特異的なプライマーを用いて増幅した。それぞれのプライマーはその5’末端において、結果として生じるPCR断片の両方の鎖の配列の分析を可能にするであろう追加の配列を有していた。
【0118】
配列のクロマトグラムを、それらをNovoSNP(Weckx, S. et al. 2005 Genome Research 15:436)でFucTA、FucTB、FucTC、FucTDおよびFucTEの配列と比較することにより、一塩基多型(SNP)に関して分析した。
【0119】
突然変異誘発の検出のための標的領域の定義。
【0120】
直接配列決定によるSNPの検出は500bpの配列断片に限られていたため、EMSを用いて突然変異誘発した際にヌル変異を生成する最も高い見込みを有するFucTA〜E遺伝子中の500bpの領域を同定する必要があった。従って、我々は(1)1回のGのAへの、またはCのTへの変異により停止コドンに変化し得るコドンおよび/またはスプライス供与部位および受容部位の最も高い密度を有し、かつ(2)触媒ドメインまたは保存されたドメインの中または上流に位置する領域を同定する必要があった。
【0121】
停止またはスプライス変異の候補の最も高い密度を見付けるため、我々は1回のEMS変異により停止コドンまたはスプライス変異体に変異し得るコード配列中の全てのコドンを同定するアルゴリズムを用いた。
【0122】
FucT遺伝子内の突然変異誘発の検出のために2つの一般的な標的が定められた:
我々の第1の標的に関して、我々の選択はα1,3−FucTの“モチーフII”ならびにモチーフIIの上流の2個の他のモチーフである“Mn結合”および“SSDモチーフ”に関する共有された保存されたアミノ酸配列に基づいた(Jost et al. 2005 Glycobiology 15:165; Wilson et al. 2001 Biochim Biophys Acta. 1527:88)。従って、標的として我々は上記の“モチーフII”および“Mn結合、SSDモチーフ”の間のエキソンを選んだ。FucTA〜D遺伝子に関して、これはエキソン3であり(FucTAに関してSEQ ID No 1のヌクレオチド2833〜3074;FucTBに関してSEQ ID No 4のヌクレオチド2813〜3054、FucTCに関してSEQ ID No 7のヌクレオチド2565〜2806、およびFucTDに関してSEQ ID No 10のヌクレオチド9685〜9926)、全て241bpの長さを有し;FucTE(1個のエキソンのみからなる)に関して我々は320bpの断片を選んだ(SEQ ID No 13のヌクレオチド592〜912)。
【0123】
我々は変異の発見においてより多くの機会を有するために第2の標的をスクリーニングした。我々は、停止コドンに変化し得るコドンの最も高い密度を有するエキソン1(FucTAに関してSEQ ID No 1のヌクレオチド1〜354、FucTBに関してSEQ ID No 4のヌクレオチド1〜354、FucTCに関してSEQ ID No 7のヌクレオチド1〜396、およびFucTDに関してSEQ ID No 10のヌクレオチド1〜396)およびFucTEに関して396bpの断片(SEQ ID No 13のヌクレオチド1〜396)を選んだ。
【0124】
変異体に関するスクリーニングはFucTEおよびFucTAを除く全ての遺伝子に関して停止コドン変異体をもたらし、その内で後者はスプライス部位変異体のみをもたらしたため、FucTA遺伝子に関して第3の標的を含めることが決定された。この標的はエキソン2中に位置していた(SEQ ID No 1のヌクレオチド1098〜1258)。
【0125】
それぞれの遺伝子に関して、停止コドンまたはスプライス部位変異を引き起こす可能性のあるSNPを表2および3において標的ごとに列挙する。エキソン1を標的として用いることは、はるかにより多くの可能性のある停止コドンまたはスプライス部位変異体の位置を与えるはずであることは明らかである。しかし、これらの変異は、変異の下流のATGが新しい開始コドンとして機能し得る可能性があるため、有効なノックアウト変異体をもたらすより低い信頼度を有していた。次いでこれは膜貫通ドメインを欠くタンパク質を産生する可能性があり、それはなお活性なグリコシルトランスフェラーゼ活性を有し得る(Jost et al., 2005, Glycobiology 15:165)。
【0126】
【表2】
【0127】
【表3-1】
【0128】
【表3-2】
【0129】
異なるFucT遺伝子における可能性のあるノックアウト変異に関する異なるEMSで突然変異誘発した集団のスクリーニングの結果
FucT遺伝子に関して、以下の数のEMS系統をスクリーニングした:4275系統のM2個体をFucTAにおける変異に関してスクリーニングし、FucTBに関して8075系統、FucTCに関して6555系統、FucTDに関して6270系統およびFucTEに関して4370系統のM2個体をスクリーニングした。以下の数の推定上のヌルアレルを同定した:FucTAにおいて3系統、2系統はスプライス部位変異、1系統は停止コドン変異であり、それぞれFucT001、FucT004、およびFucT013と名付けられた。2系統の推定上のヌルアレルがFucTBに関して同定され、それぞれ1系統はスプライス部位変異、1系統は停止コドン変異であり、FucT006およびFucT008と名付けられた。FucTCに関して、4系統の推定上のヌルアレルが同定され、それぞれ1系統はスプライス部位変異、3系統は停止コドン変異であり、FucT007、FucT010、FucT011およびFucT012と名付けられた。FucTDに関して、1系統のスプライス部位変異および1系統の停止コドン変異が同定され、FucT005およびFucT009と名付けられた。最後に、FucTEに関して、停止コドン変異は同定されなかった。代わりに、置換変異を有する2系統のアレルが同定され、FucT002およびFucT003と名付けられた。そのFucT003置換は保存された“モチーフII”中に位置していた。
【0130】
表4は、FucT遺伝子に関するスクリーニングの結果:変異の位置、変異の配列および変異のタイプを要約する。
【0131】
【表4】
【0132】
3.全てのXylTおよびFucT遺伝子のノックアウト変異体に関してホモ接合型のN.ベンサミアナ植物:7重ノックアウト植物を産生するための交配スキーム。
【0133】
我々は、変異が同定されていた元のM2種子のロットから24系統の植物を播種およびスクリーニングすることにより、表4において列挙した全ての系統に関してホモ接合型の変異体を回収した。これらの植物のそれぞれからのDNA試料を、上記で記述した直接配列決定技法を用いてスクリーニングした。我々は変異体FucT013を回収することができなかった。
【0134】
この方法で選択されたホモ接合型変異体を自家受粉させて安定な変異体種子ロットを作り出した。加えて、選択された数の変異体を、変異薬物(drag)の全部ではなくてもほとんどを排除するため、“BENTHAMIANA”系統種を用いた5重戻し交配スキームに入れた。最後に、選択された数の変異体を交配スキームに入れて7重ノックアウト植物を産生した。その交配スキームを図4において示す。その7重ノックアウト植物を産生するために用いられた最後の変異体のセットは以下の通りであった:XYL001(国際公開第2010145846号において記述されているようなXylTg14−1)、XYL002(国際公開第2010145846号において記述されているようなXylTg19−1)、FucT003、FucT004、FucT006、FucT007、FucT009。最後のFucT変異体のセットの選択は、遺伝子転写アッセイおよび相補性アッセイに基づいた。両方を下記で記述する。
【0135】
上記で記述した戻し交配および交配スキームにおいて変異体アレルの接合状態を迅速かつより経済的に同定することを可能にするため、End Point TaqManアッセイがApplied Bioscienceにより設計された。これのためのRT−PCR分析が組織内で行われた。TaqManプローブは、その5’末端に結合した蛍光レポーター色素および3’末端に連結された消光部分を有するオリゴヌクレオチドである。これらのプローブはPCR産物の内部領域にハイブリダイズするように設計される。ハイブリダイズしていない状態では、その蛍光および消光分子の近接がそのプローブからの蛍光シグナルの検出を妨げる。PCRの間、ポリメラーゼがその上にTaqManプローブが結合している鋳型を複製した際に、そのポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性がそのプローブを切断する。これはその蛍光および消光色素の連結を解く。そうして、蛍光がそれぞれのサイクルにおいてプローブ切断の量に比例して増大し、それは今度はその標的の接合状態のレベルに関連している。従って、内部標準と比較した際に、その蛍光のレベルを接合状態のレベル:“野生型”、“ヘテロ接合型”および“ホモ接合型”に変換することができる。
【0136】
4.FucT遺伝子の連鎖分析。
【0137】
FucT遺伝子のいずれかが遺伝的に連鎖しているかどうかを決定するため、我々は系統種“BENTHAMIANA”およびNBNPGS2(USDA国立生殖質システム系統種PI555684;表1も参照)において全てのFucT遺伝子中のSNPを利用して連鎖分析を実施した。この目的のため、BENTHAMIANAおよびNBNPGS2を交配し、そのF1をBENTHAMIANAと交配し、次のBC1世代からの576系統の個体のFucT遺伝子型を分析した。
【0138】
FucT遺伝子のいずれの間にも連鎖が存在しない場合、アレルは異なる個体の遺伝子型にわたって見掛け上ランダムに分布するであろう。2個以上のFucT遺伝子の間に連鎖が存在する(exits)場合、これはその個体のおおよそ50%が2個以上の特定のFucT遺伝子に関してホモ接合型であることとして現れるであろう。分析した96系統の集団において後者が観察されなかったため、我々はその5個のFucT遺伝子が連鎖していないと結論付けた。
【0139】
5.異なるFucT遺伝子が転写されているかどうかの決定。
【0140】
完全ノックアウト植物のための交配スキームは5世代を超えると考えられるため、我々はこのタイムラインを短縮する機会を探した。1つの可能性は、その5個のFucT遺伝子のいずれかが発現されていないかどうかを調べることであった。これを決定するため、我々はFucT転写産物を葉のmRNAから広い特異性を有するプライマーセットを用いて増幅した。次いで我々はこの増幅の結果得られた個々のcDNAをクローニングおよび配列決定した。従って、このクローンのセットの配列分析は、FucT遺伝子が発現されていたかどうか、およびどのFucT遺伝子が発現されていたかを明らかにするはずである。加えて、我々はFucT遺伝子間で保存されている領域にハイブリダイズするプライマーを用いたため、我々は我々がBACスクリーニングにおいて見逃していた可能性のある追加の遺伝子を拾い上げることができるであろう。
【0141】
cDNAを、N.ベンサミアナの葉から抽出したmRNAからsuperscript II(Invitrogen)キットのプロトコルに従って調製した。
【0142】
我々は、これらのcDNA試料に対して、FucTAのCDSに基づいて遺伝子間のSNPを考慮して設計したプライマーを用いてPCRを実施した。プライマーの組み合わせ1(PC1)として記述されるプライマーVH031(SEQ ID NO.15)およびVH032(SEQ ID NO.16)を用いて、570bpの断片が増幅されるであろう。プライマーVH033(SEQ ID NO.17)およびVH034(SEQ ID NO.18)により形成されるプライマーの組み合わせ2(PC2)を用いて、384bpの断片が増幅されるであろう。そのPCRは、56℃(PC2)および62℃(PC1)のアニーリング温度で、標準的なPCR混合物[50μlの総体積中、10μl Go Taq緩衝液 5×;1μl dNTM 10mM;1μl 順方向プライマー 10μM;1μl 逆方向プライマー 10μM;0.4μl Taqポリメラーゼ 5U/μl;2μl 精製されたPCR産物]および標準的なプロトコル[2分間94℃;30×[30秒間94℃、30秒間56℃/62℃、30秒間72℃]、10分間72℃]を用いて運転された。
【0143】
結果として得られたPCR産物をQuiagen PCR精製キットを用いて精製し、PGemT Easyベクター(Promega)中にクローニングし、商業的なthermo competent TOP10細胞(Invitrogen)中に形質転換した。100μlを100μg/mlトリアセリン(triacelline)を含有するLBプレート上にまいた。プライマーの組み合わせPC1から得られた192個のクローンおよびPC2から得られた96個のクローンを、AGOWAにより配列決定した。5個のFucT配列中のSNPに基づいて、異なるFucT遺伝子のどれが発現されたかを識別することが可能であった。
【0144】
PC1に関して、148個のクローンが使用可能な配列情報を与え、結果として61個のクローンがFucTAに、58個のクローンがFucTBに、2個のクローンがFucTCに、27個のクローンがFucTDに相同性であり、FucTEに相同性であるクローンはなく、44個の試料は配列決定により失敗した。PC2の96個のクローンを調べて、我々はFucTAに相同性の15個のクローン、FucTBに相同性の39個のクローンを見付け、FucTCに相同性のクローンは見付からず、FucTDに相同性の12個のクローンを見付け、そしてFucTEに相同性のクローンは見付からず、30個の試料は配列決定により失敗した。加えて、その2つのプライマーの組み合わせは新規のFucT配列を全くもたらさなかった。
【0145】
まとめると、これはおそらくFucTEを除く全てのFucT遺伝子がN.ベンサミアナの葉において発現していることを示した。これらの発見は、実施例1で示されたTSSP予測データを確証している。加えて、これらの結果は、おそらくBACスクリーニングにより同定された5個以外に他のFucT遺伝子は存在しないことを示した。
【0146】
FucTEはN.ベンサミアナの葉において発現していないようであったため、我々はFucTE遺伝子を7重ノックアウト植物のための交配スキームに組み入れる最後の1個として残しておくことに決定した(図4における“世代4”を参照)。
【0147】
6.相補性アッセイはどのFucT遺伝子がおそらく活性でありどの変異がおそらくヌル変異であるかを示す。
【0148】
個々のFucT遺伝子の機能性を決定するため、そして我々のEMSスクリーニングから単離された推定上のヌル変異が真のヌルまたはノックアウト変異体であるかどうかも決定するため、我々は相補性アッセイを考案した。このアッセイにおいて、補完されるべき変異体は、FucTおよびXylT遺伝子がT−DNAの挿入によりノックアウトされたアラビドプシス・サリアナ系統(“3重ノックアウト変異体”)であった。この系統はKang et al. (2008) Proc Natl Acad Sci USAにより記述されており、我々の実験室でもSALKから入手可能な3つの異なるT−DNAノックアウト系統を交配することにより作り出された(国際公開第2010121818号参照)。
【0149】
その系を設定するため、我々はまずそのアラビドプシス3重変異体をそのN.ベンサミアナFucT遺伝子のいずれか1つを用いて補完することができるかどうかを試験した。我々はそのアラビドプシス3重変異体をアグロバクテリウム浸漬法を用いてCaMV 35Sプロモーターにより駆動されるFucT遺伝子の1つのcDNA配列を含有するT−DNAにより形質転換した。そのcDNA配列は、予測されたその遺伝子のコード配列およびイントロン−エキソン境界に基づいて合成により産生された。basta(グルフォシネート)を用いたその形質転換体の選択の後、葉の組織からのタンパク質試料を、コアのα1,3フコースを含有するグリカンの存在に関してウェスタンブロットを用いて抗コアα1,3フコース抗体で調べて分析した。この抗体は、Faye et al. (1993) Anal Biochem 209:104により記述された通りに調製された。図5(左のパネル)において、その結果は、そのA.サリアナ3重変異体をN.ベンサミアナのFucTA cDNAにより補完することができることを示している。野生型の対照のレーンは、コアのα1,3フコースに対する抗体の結合により産生される明確な化学発光シグナルを示している。A.サリアナ3重変異体からのタンパク質試料を含有するレーンでは化学発光シグナルは検出されなかった。これは、内在性のFucT遺伝子の不活性化の結果としてのコアのα1,3フコースの非存在により引き起こされた。対照的に、FucTA cDNAを用いて形質転換したいくつかの異なる個々の3重変異体からのタンパク質を含有するレーンでは明確なシグナルを検出することができた。まとめると、これはその相補性アッセイを用いてN.ベンサミアナのFucT遺伝子が活性であるかどうかを決定することができることを示している。
【0150】
このアッセイを用いて、我々はFucTBおよびFucTEを除く全ての遺伝子が補完することができ、従って活性な遺伝子であることを示した(データは示していない)。FucTBはFucTAに対してそのFucTタンパク質のC末端から41アミノ酸を取り除く中途での停止コドンを除いて100%相同性であるため、FucTBは補完することができず、従っておそらく不活性な遺伝子であるという事実は意外であった。相補性アッセイに基づく、FucTEはおそらく不活性な遺伝子であるという事実は、この遺伝子もN.ベンサミアナの葉において転写されていないようであり、モチーフII中に不活性化するY288D置換を含有するという発見と一致する。
【0151】
次に、我々はこの相補性アッセイを用いて、EMSで突然変異誘発した集団から分離された推定上のヌル変異が実際にそれぞれのFucT遺伝子を不活性にするかどうかを決定した。図5の右のパネルは、EMS変異が8番目の可能性のある停止コドン(217位;表3のFucTA遺伝子を参照)において模擬的に再現された(simulated)FucTAを用いた相補性アッセイの結果を示す。“At3KO + mut FucTA(エキソン1における停止)と表記した区画におけるレーン1〜5における化学発光シグナルの非存在から、このFucTAの変異版は3重ノックアウト変異体を補完することができないことは明白である。化学発光の非存在は、その植物が形質転換されていないという事実により引き起こされたものでも(そのレーンのそれぞれの下の“コピー数”を参照)、リアルタイムRT−PCRにより決定した場合にその変異した遺伝子が発現されていなかったという事実により引き起こされたものでもなかった(データは示していない)。従って、我々は、この変異はヌル変異であると考えることができると結論付けることができる。
【0152】
我々は続いて、この相補性分析を、我々がEMS集団中で見付けたFucTA、−C、および−D遺伝子に関する全ての推定上のヌル変異に適用した。FucTBおよび−E変異は、それらの野生型遺伝子が補完することができなかったため、分析しなかった。
【0153】
まず、FucTA(イントロン3および1;それぞれFucT001、および−004)およびFucTC(イントロン2;FucT007)に関して同定されたスプライス部位変異体に関して補完を調べた(表4)。FucTDに関するスプライス部位変異は、イントロンの大きさ(7833bp)のため、分析しなかった。FucTAおよび−C変異を分析するため、我々はその3重ノックアウト変異体を、それら自身のイントロン3、1、または2を含有するFucTAまたはFucTC CDSを用いて形質転換し、これらの遺伝子を用いて得られた補完をスプライス部位変異を含有する遺伝子と比較した。その結果は、FucTAに関して変異体FucT001はヌル変異ではなく、一方でFucT004はヌル変異である可能性が非常に高いことを示した(データは示していない)。FucTCに関して、イントロンスプライス部位変異は、イントロン3を含有するFucTC CDSを用いて形質転換された3重ノックアウト植物はその変異体の表現型を補完しなかったため、評価することができなかった。しかし、遺伝子予測プログラムFGENESHはFucTCのスプライス部位変異に関する強力に破壊的な作用を予測しなかった。
【0154】
次の補完アッセイに基づいて、我々は変異体FucT004(FucTA)、FucT010、−011、および−012(FucTC)、ならびにFucT009(FucTD)はヌル変異体であることを確証した(データは示していない)。我々がその相補性アッセイからの全てのデータを手元に有する時点までに、我々は既にFucT004、−007、および−009の交配を進めていたため、我々はそれらを用いて続行し、他の変異体をバックアップ変異体FucTとして用いた。我々の交配戦略は、まず完全ノックアウト植物を作り出すための最も可能性の高い戦略として5重ノックアウト変異体(XYL001、XYL002、FucT004、FucT007、およびFucT009)の達成に向けられた。我々の第2の戦略は、さらにFucT006およびFucT003を導入することにより7重ノックアウトを作り出すことに向けられた(それぞれ図4中の世代4および5を参照)。
【0155】
7.7重ノックアウト植物:全てのFucTおよびXylT遺伝子におけるヌル変異に関してホモ接合型のN.ベンサミアナ植物のグリカン分析。
【0156】
7重ノックアウト植物を産生する一方で、我々は3重、4重、および5重ノックアウト植物も交配スキームの副産物として産生した。我々はこれらの植物を、連続したFucT遺伝子のノックアウトが相加作用を有するかどうか、そして従ってFucT−Bおよび−E遺伝子が相補性アッセイから示唆されたように実際に不活性であるかどうかを評価するために用いた。
【0157】
図6は、結合した抗α1,3フコース抗体からの化学発光シグナルの減少により示されるように、より多くのFucT遺伝子のノックアウトがコアのα1,3フコシルトランスフェラーゼ活性をその変異体植物から進行的に取り除くことを明確に示している。この結果は、おそらくFucTBおよび−E遺伝子がなおいくらかのフコシルトランスフェラーゼ活性を、これは検出されなかったが、有していることを示している(すなわち、レーン“aBcdE”を“abcdE”に対して比較、およびレーン“abcdE”を“abcde”に対して比較)。
【0158】
ノックアウトアレルFucT004、FucT006、FucT007、FucT009、およびFucT003を含有する、5個のFucT遺伝子FucTA、FucTB、FucTC、FucTDおよびFucTEがノックアウトされている植物の種子は、国立産業、海洋および食品細菌保存機関(National Collection of Industrial,Marine and Food Bacteria)(NCIMB),NCIMB Ltd,Ferguson Building,Craibstone Estate,Bucksburn,Aberdeen AB219YA,Scotlandに、2011年9月12日に、受入番号NCIMB 41860の下で、Bayer BioScience NV,Technologiepark 38,BE−9052 Gent,Belgiumにより寄託されている。寄託者であるBayer BioScience NV(出願者へのこの発明の譲渡人)は、その登録事務所をJ.E.Mommaertslaan 14,1831 Diegem,Belgiumにおいて有するBayer CropScience NVと、およびその中に合併された。
【0159】
その4重(“abcdE”)および5重植物(“abcde”)においてどの特定のグリカンレベルが低減しているかを決定するため、そしてどのタイプのグリカンが存在しているかも決定するため、我々は上記で言及した植物の葉からの総可溶性内因性タンパク質から単離されたグリカンに対してMALDI−TOF分析を実施した。結果を表5において要約し、図7において示す。
【0160】
野生型ならびに4重および5重KO植物中のグリカンを比較した際、フコース含有グリカンのレベルが、完全には消滅していないとはいえ、急激に低減していることは明らかである。対照的に、キシロースのみを有する(すなわちフコースを有しない)グリカンのレベルは急激に増大している。同様の結果がStrasser et al.によりA.サリアナにおけるFucTノックアウトに関して報告されている(Strasser et al. 2004, FEBS Lett 561:132)。
【0161】
最後に、我々は全てのFucTおよびXylT遺伝子が変異し、ノックアウトされている完全ノックアウト植物(7KO)におけるグリカンの量および質を分析した。結果を表5および図8において要約する。
【0162】
野生型植物を5KOおよび7KO植物と比較すると、フコース、キシロースのどちらかまたは両方を含有する全てのグリカンにおける強い低減が観察される。5KOおよび7KO植物を比較した場合、我々の以前の2重XylTノックアウト植物に関する結果(国際公開第2010145846号)から予想されたように、全てのキシロース含有グリカンが7KOのスペクトルから消失していることは明らかである。また、5KO植物におけるキシロースおよびフコースの両方を含有するグリカンを表す棒が、フコースのみを有するグリカンに移動したように見える(例えば、MMXFおよびMMF;GnMXFおよびGnMF;GnGnXFおよびGnGnFを比較)。最後に、7KO植物から得られたグリカンをXylTおよびFucT RNAi遺伝子を発現する植物(Strasser et al. 2008, Plant Biotech J 6:392)から得られたグリカンと比較した場合、そのスペクトルはほとんど同一である。注目すべき違いは7KO植物におけるMMグリカンの強い存在であり、それはそのRNAi植物には存在せず、程度はより低いがMan4Gnグリカンに関しても同様である。また、その7KO植物はRNAiと比較してより高いレベルのGnGnFグリカンを有し、逆もまた同様であり、RNAi植物はより高いレベルのGnMおよびGnGnグリカンを有する。
【0163】
【表5-1】
【0164】
【表5-2】
【0165】
8.N.ベンサミアナの完全ノックアウト植物においてmagnICON(登録商標)を用いて発現させたIgG1のグリカン分析。
【0166】
7KO植物の内因性タンパク質上のグリカンの質および量はXylT−およびFucT RNAi遺伝子を発現している植物の内因性タンパク質上のグリカンの質および量と比較可能であったため、ならびに後者の植物において発現させたIgG1タンパク質はキシロースまたはフコースを有するグリカンを含有しないことが記述されている(すなわち、それらの内因性タンパク質はフコースを有するという事実にもかかわらず;Nagels et al. 2011, Plant Physiol 155:1103)ため、我々は完全ノックアウト植物において発現させたIgG1分子上のグリカンが同様にフコースおよびキシロースを有しないであろうかどうかを試験することに決定した。
【0167】
IgG1を浸潤の9日後に葉の抽出物からプロテインGを用いて単離した。精製された抗体の重鎖を還元的SDS−PAGEから対応するバンドを切り出すことにより単離した。このバンド中の重鎖のタンパク質を、Kolarich et al. (2006) Proteomics 6:3369により記述された通りのLC−MSによるグルカン分析のために用いた。
【0168】
図9は、この分析の結果得られたスペクトルを示す。上のパネルは、グリコシル化されていないペプチドの存在を図説するためのより広い質量スペクトルを示す。ペプチド1(EEQYNSTY)およびペプチド2(TKPREEQYNSTYR)は同じトリプシン消化からの2つの変種である。それらは長さが異なり、それはN−グリカンの存在によるトリプシンの立体障害により引き起こされる。結果として、全てのペプチド−グリカンはこのLC−MSスペクトルにおいて2個のピークを生成する:下のパネルにおいて、グリコペプチド1に関して黒で、グリコペプチド2に関して橙色で示す。図9の下のパネルにおいて、1個の主要なグリカンのピークのみをGnGnに関して見付けることができる。加えて、高マンノースグリカンに関するいくつかの小さなピークも見ることができる(Man7、8、および−9)。しかし、表6において列挙されたLC−MSにより同定された全てのグリコペプチドの完全な要約において、グリコシル化された、およびグリコシル化されていないグリコペプチドの全画分の2.6%に相当するGnGnFグリカンの小さい画分が同定された。
【0169】
【表6】
【0170】
7重ノックアウト植物のFucT RNAi遺伝子との組み合わせは、N−グリカン上のフコースレベルをさらに低減する
7重ノックアウト植物中のN−グリカン上の残留フコース残基の量をさらに減少させる試みにおいて、我々はこれらの植物をpGAX3(国際公開第2009/056155号)からのFucT RNAi遺伝子を含有する植物と交配することによりこれらの植物においてFucT RNAi遺伝子を導入した。その7重ノックアウト遺伝子ならびにFucT RNAi遺伝子のホモ接合性を、End Point TaqManアッセイにより確証した。これらの植物(すなわち7KO/FucT RNAi)からの内因性タンパク質を、ウェスタンブロットにより、およびMALDI−TOF分析により分析した。
【0171】
図11におけるウェスタンブロット分析の結果は、FucT RNAi遺伝子を7重ノックアウト植物に追加することは、6または7個の遺伝子がノックアウトされている植物からのタンパク質を含有するレーンと比較した場合の7KO/FucT RNAi植物からのタンパク質を含有するレーンからの化学発光シグナルの完全な非存在により示されるように、N−グリカンからコアのα1,3フコース残基をさらに取り除くことを明確に示している。1時間の延長された曝露の後でさえも、7KO/FucT RNAiのレーンにおいてシグナルを検出することはできなかった。
【0172】
特定のグリカンレベルを決定するため、7KO/FucT RNAi植物の葉からの総可溶性内因性タンパク質から単離されたグリカンに対してMALDI−TOF分析を実施した。
【0173】
7KO/FucT RNAi植物のグリカンを野生型、4重、5重および7重KO植物と比較した場合、MMF、GnGnFおよびGnAF(LeaGn)グリカンのフコース含有グリカンのレベルがごく痕跡量までさらに低減していることは明らかである。7KO植物の場合と同様に、キシロシル化N−グリカンは7KO/FucT RNAi植物において(表7において示されるように)完全に消失していた。
【0174】
【表7-1】
【0175】
【表7-2】
【0176】
【表7-3】
【0177】
図12は、野生型、4重、5重および7重KO、RNAiならびに7KO/FucT RNAi植物の内因性タンパク質上に存在するフコシル化、キシロシル化されたN−グリカンそれぞれの定量的概要を示す。
【0178】
N−グリカン上のフコースレベルをさらに低減するための、FucT RNAi遺伝子の7重ノックアウト植物中への導入。
【0179】
7重ノックアウト植物におけるN−グリカン上のフコースレベルをさらに低減するため、2個以上のFucT遺伝子に対して100%相同性である25個以上のヌクレオチドの多数の区間(stretches)が含まれ、組み合わせられて全てのFucT遺伝子を標的とする、全てのFucT遺伝子のサイレンシングを目標とするRNAi遺伝子を構築する。例えば、FucTBコード配列(Seq ID No 5)のヌクレオチド1183から1265まで(Seq ID No 20)の断片は、FucT−B、−C、−D、および−Eに100%相同性である1183から1226までの44ヌクレオチドの区間ならびにFucT−Aおよび−Bに100%相同性である1219から1265までの47ヌクレオチドの断片を含有する。この断片(Seq ID No 20)を、Seq ID No 21において示されるようなRNAi遺伝子へと組み立てる。そのRNAi遺伝子の発現は、それをpGAX3(国際公開第2009/056155号)と同様にT−DNAベクター中にクローニングすることにより、35Sプロモーターにより駆動される。7重ノックアウトN.ベンサミアナ植物をこのコンストラクトを用いて形質転換し、内因性タンパク質上の、および例えばIgG1分子のような異種性にmagnICON(登録商標)で発現させたタンパク質上のN−グリカンの組成に関して分析する。
【0180】
加えて、そのFucT RNAi遺伝子を、既存のBAR遺伝子がFucT RNAi遺伝子断片により置き換えられているpICH3781およびpICH3831(国際公開第02/101060号)と同様に、プロモーターを有しないT−DNAベクター中にクローニングする。7重ノックアウトN.ベンサミアナ植物を、これらのコンストラクトを用いて形質転換する。プロモーターを有しないベクターの使用は、強い構成的プロモーターを有するベクターと比較して、より広い一次形質転換体の選択肢を提供するであろう。そのような場合、そのRNAiは居住遺伝子(residential gene)との転写融合体の一部になる(そのプロモーターを有しないベクターはそのRNAi遺伝子の前にスプライス受容部位を含有する)。これは、RNAiは通常は多重遺伝子ファミリーを標的とし、これは植物の表現型−生長、発生、非生物的または生物的ストレス耐性等を損ない得るため、好都合である可能性がある。結果として得られた安定に形質転換された植物を、それらの内因性タンパク質の、および例えばIgG1分子のような異種性にmagnICON(登録商標)で発現させたタンパク質のN−グリカン上のフコースの非存在に関してスクリーニングする。選択された植物を、さらにそれらのガラス温室中での性能、例えば野生型植物と比較した栄養生長効率に関してスクリーニングすることができる。
【0181】
その優先権が本特許出願により主張される2011年10月4日に出願された米国特許出願第61/542,965号および2011年10月6日に出願された欧州特許出願第11 075 218.5号の内容は、記述、全ての特許請求の範囲、全ての図および配列リストのSEQ ID NO 1〜19を含め、参照により本明細書にそのまま援用される。
本発明は、非限定的に以下の態様を含む。
[態様1] ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法であって、以下の工程:
a.少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む植物または植物細胞を提供し;そして
b.前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する;
を含む、前記方法。
[態様2] ニコチアナ・ベンサミアナにおいて低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基および低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を産生するための方法であって、以下の工程:
a.植物細胞を提供し、前記の植物細胞は
i.少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み;そして
ii.低減したレベルのベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性を有することを特徴とし;そして
b.前記の細胞を培養し、前記の細胞から糖タンパク質を単離する;
を含む、前記方法。
[態様3] 前記のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ活性の低減したレベルが内在性のベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウト変異の結果である、態様2に記載の方法。
[態様4] 前記の植物または植物細胞が少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、態様1〜3のいずれか1項に記載の方法。
[態様5] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:3に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
b.SEQ ID NO:6に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
c.SEQ ID NO:9に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
d.SEQ ID NO:12に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
e.SEQ ID NO:14に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[態様6] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:1に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
b.SEQ ID NO:4に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
c.SEQ ID NO:7に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
d.SEQ ID NO:10に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
e.SEQ ID NO:13に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様5に記載の方法。
[態様7] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、態様6に記載の方法。
[態様8] 前記のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子がゲノム中にホモ接合型の状態で存在する、態様1〜7のいずれか1項に記載の方法。
[態様9] さらに少なくとも5個の内在性のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現が転写サイレンシングまたは転写後サイレンシングにより低減していることを特徴とする、態様1〜8のいずれか1項に記載の方法。
[態様10] 前記の植物または植物細胞がさらに、以下の作動可能に連結されたDNA断片:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域;
c.植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域;
を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む、態様9に記載の方法。
[態様11] さらに、前記のDNA領域が少なくとも以下:
a.SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:13、またはそれらの相補物から選択される21ヌクレオチドの内の少なくとも18ヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第1センスDNA領域から転写されるRNA領域;
b.前記の第1センスDNA領域の相補物に対して少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも18個の連続したヌクレオチドのヌクレオチド配列を含む第2アンチセンスDNA領域から転写されるRNA領域
の間で二本鎖RNA領域を形成することができるRNA分子を生じることを特徴とする、態様10に記載の方法。
[態様12] 前記のDNA領域がSEQ ID NO:19の配列を含む、態様11に記載の方法。
[態様13] 前記の糖タンパク質が異種糖タンパク質である、態様1〜12のいずれか1項に記載の方法。
[態様14] 前記の異種糖タンパク質が、以下の作動可能に連結された核酸分子:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域;
c.転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域;
を含むキメラ遺伝子から発現されることを特徴とする、態様13に記載の方法。
[態様15] さらに前記の異種糖タンパク質の精製の工程を含む、態様13または14に記載の方法。
[態様16] 態様1〜15のいずれか1項に記載の方法により得られる糖タンパク質。
[態様17] 態様1〜15のいずれか1項に記載の方法により得られる、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質。
[態様18] 態様2〜15のいずれか1項に記載の方法により得られる、低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有し、かつ低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質。
[態様19] 少なくとも3個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、ニコチアナ・ベンサミアナ植物、またはその細胞、部位、種子もしくは子孫。
[態様20] 少なくとも5個のノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を含む、態様19に記載の植物。
[態様21] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上が、以下:
a.SEQ ID NO:3に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
b.SEQ ID NO:6に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
c.SEQ ID NO:9に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
d.SEQ ID NO:12に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
e.SEQ ID NO:14に対して少なくとも90%の配列同一性を含むアミノ酸配列をコードする核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様19または20に記載の植物。
[態様22] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の1個以上が、以下:
a.SEQ ID NO:1に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
b.SEQ ID NO:4に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
c.SEQ ID NO:7に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
d.SEQ ID NO:10に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
e.SEQ ID NO:13に対して少なくとも90%の配列同一性を含む核酸分子;
からなる群から選択される天然のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子の変異版である、態様21に記載の植物。
[態様23] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、態様21または22に記載の植物。
[態様24] ノックアウトアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子に関してホモ接合型である、態様19〜23のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様25] さらに少なくとも1個のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子を含み、前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子が該ベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子中に対応する野生型DNA領域と比較して1個以上の挿入された、欠失した、または置換されたヌクレオチドからなる変異したDNA領域を含み、かつここで前記のノックアウトベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼ遺伝子が機能するベータ(1,2)−キシロシルトランスフェラーゼタンパク質をコードしていない、態様19〜24のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様26] さらに以下の作動可能に連結されたDNA断片:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.転写された際に少なくとも1個のアルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子に対して阻害性のRNA分子を生じるDNA領域;
c.植物において機能する転写終結およびポリアデニル化シグナルを含むDNA領域;
を含む少なくとも1個のキメラ遺伝子を含む、態様19〜25のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様27] 前記のDNA領域がSEQ ID NO:19の配列を含む、態様26に記載の植物または植物細胞。
[態様28] さらに前記の植物または植物細胞に対して外来の糖タンパク質を含む、態様19〜27のいずれか1項に記載の植物または植物細胞。
[態様29] 前記の糖タンパク質が、以下の作動可能に連結された核酸分子:
a.植物で発現可能なプロモーター;
b.前記の異種糖タンパク質をコードするDNA領域;
c.転写終結およびポリアデニル化に関わるDNA領域;
を含むキメラ遺伝子から発現される、態様28に記載の植物または植物細胞。
[態様30] 以下:
a.SEQ ID NO:1の355位におけるGのAへの置換を含有するFucTA遺伝子;
b.SEQ ID NO:4の3054位におけるGのAへの置換を含有するFucTB遺伝子;
c.SEQ ID NO:7の2807位におけるGのAへの置換を含有するFucTC遺伝子;
d.SEQ ID NO:10の224位におけるGのAへの置換を含有するFucTD遺伝子;
e.SEQ ID NO:13の910位におけるGのAへの置換を含有するFucTE遺伝子;
からなる群から選択される、アルファ(1,3)−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子のノックアウトアレル。
[態様31] 低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有する糖タンパク質を得るための、態様1〜15のいずれか1項に記載の方法の使用。
[態様32] 低減したレベルのコアのアルファ(1,3)−フコース残基を有し、かつ低減したレベルのベータ(1,2)−キシロース残基を有する糖タンパク質を得るための、態様2〜15のいずれか1項に記載の方法の使用。
図1
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図10-1】
図10-2】
図10-3】
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図10-5】
図10-6】
図10-7】
図10-8】
図11
図12
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]