特許第6104259号(P6104259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104259
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】イオン伝導性膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20170316BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20170316BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   H01M8/02 P
   H01M8/10
   H01M8/02 E
   H01B1/06 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-536338(P2014-536338)
(86)(22)【出願日】2012年10月24日
(65)【公表番号】特表2015-502629(P2015-502629A)
(43)【公表日】2015年1月22日
(86)【国際出願番号】GB2012052636
(87)【国際公開番号】WO2013061054
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年9月10日
(31)【優先権主張番号】1118288.8
(32)【優先日】2011年10月24日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、フュエル、セルズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY FUEL CELLS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】オマリー, レイチェル ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】パーモゴロフ, ナディア ミッシェル
(72)【発明者】
【氏名】ペッチ, マイケル イアン
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−157425(JP,A)
【文献】 国際公開第03/068853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01B 1/06
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の層と第二の層を含み、第一の層がペルフルオロスルホン酸ポリマーを含むイオン伝導性膜において、第二の層がスルホン化炭化水素ポリマーを含み、イオン伝導性膜が、5μm〜50μmの総厚さを有し、第二の層が2μm以下の総厚さを有することを特徴とする、イオン伝導性膜。
【請求項2】
スルホン化炭化水素ポリマーを含む第三の層を更に含み、第一の層が第二の層と第三の層との間に挟持される、請求項1に記載のイオン伝導性膜。
【請求項3】
第三の層が2μm以下の総厚さを有する、請求項2に記載のイオン伝導性膜。
【請求項4】
第二の層が、スルホン化炭化水素ポリマー及びペルフルオロスルホン酸ポリマーの混合物を含む、請求項1から3の何れか一項に記載のイオン伝導性膜。
【請求項5】
第三の層が、スルホン化炭化水素ポリマー及びペルフルオロスルホン酸ポリマーの混合物を含む、請求項2から4の何れか一項に記載のイオン伝導性膜。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載のイオン伝導性膜と、該膜の少なくとも一側に堆積された電気触媒層を含む触媒被覆膜。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一項に記載のイオン伝導性膜を含む膜電極接合体。
【請求項8】
請求項6に記載の触媒被覆膜を含む膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス、例えば燃料電池に使用するのに好適な新規なイオン伝導性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を含む電気化学セルである。燃料、例えば水素又は炭化水素、例えばメタノール又はエタノールは、アノードに供給され、酸化体、例えば酸素又は空気は、カソードに供給される。電気化学反応は電極で生じ、燃料と酸化体の化学エネルギーは、電気エネルギーと熱に変換される。電気触媒は、アノードにおいては燃料の電気化学的酸化を、カソードにおいては酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
水素又は炭化水素を燃料とするプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)において、電解質は、電気的に絶縁性であり、プロトン伝導性である固体の高分子膜である。アノードで生成されたプロトンは、膜を通ってカソードに輸送され、そこで酸素と結合して水を形成する。最も広く使用されている炭化水素燃料はメタノールであり、このPEMFCの変形例は、直接メタノール燃料電池(DMFC)と称されることが多い。
【0004】
水素を燃料とするPEMFC又はDMFCの主要な構成要素は、膜電極接合体(MEA)として知られ、本質的に5つの層から構成される。中心層は、ポリマーイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜の何れの側にも、特定の電解反応のために設計された電気触媒を含む電気触媒層が存在する。最後に、各電気触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応体が、電気触媒層に到達可能となるようにしなければならず、電気化学反応によって生じる電流を伝導しなければならない。故に、ガス拡散層は、多孔性でなければならず、電気伝導性でなければならない。
【0005】
MEAは、幾つかの方法によって構築できる。電気触媒層は、ガス拡散層に適用されてガス拡散電極を形成してもよい。2つのガス拡散電極は、イオン伝導性膜の両側に配置でき、共に積層されて5つの層を形成できる。あるいは、電気触媒層は、イオン伝導性膜の両面に適用されて、触媒被覆イオン伝導性膜を形成してもよい。続いて、ガス拡散層は、触媒被覆イオン伝導性膜の両面に適用される。最後に、MEAは、電気触媒層の一側にコーティングされたイオン伝導性膜、この電気触媒層に隣接するガス拡散層、及びイオン伝導性膜の他方の側のガス拡散電極から形成されることができる。
【0006】
通常、大抵の用途にとって十分な電力を提供するためには数十又は数百のMEAが必要とされ、そのため複数のMEAが組み立てられて、燃料電池スタックを構成する。フィールドフロープレートがMEAを分離するために使用される。プレートは、幾つかの機能:反応体をMEAに供給する機能、生成物を除去する機能、電気的接続を提供する機能、及び物理的支持体を提供する機能を果たす。
【0007】
PEMFC及びDMFCに使用される従来のイオン伝導性膜は、一般にペルフッ素化スルホン酸(PFSA)アイオノマーから形成され、これらのアイオノマーから形成された膜は、商標名Nafion(登録商標)(E.I.DuPont de Nemours and Co.)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)及びFlemion(登録商標)(Asahi Glass KK)で販売されている。こうしたPFSA系のイオン伝導性膜は、好適には、エーテル結合を介してポリマーの主鎖に連結する側鎖を有するポリマーから形成される。PFSAアイオノマーの典型的な構造を以下に示す。
【0008】
PFSAイオン伝導性膜は、改善された機械的特性、例えば増大した引裂耐性、ならびに水和及び脱水時の低減した寸法変化を提供する補強を含有し得る。好ましい補強は、限定されるものではないが、フルオロポリマー、例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載されるようなポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)又は代替材料、例えばPEEK又はポリエチレンの細孔ウェブ又は繊維に基づいてもよい。
【0009】
PEMFCは、部分的にはそのイオン抵抗を最小限にし、従って燃料電池の性能を最大限にするために非常に薄いアイオノマー性膜を使用するので、反応体ガスH及びOの膜を通るある程度までの透過(いわゆるガスクロスオーバー)は、一般に不可避である。ガスクロスオーバー、及び続く触媒作用を受けたクロスオーバーガスの化学反応は、膜寿命に重大な影響を与える。PEMFC電極の触媒作用を受けた又は触媒作用を受けない炭素表面においてクロスオーバーガスによって過酸化水素(H)及び関連ラジカル種、例えばヒドロペルオキシル(HO・)及びヒドロキシル(HO・)が発生することは広く受け入れられている。これらの酸化性ラジカル種は、膜のアイオノマー性構成要素を攻撃し、鎖切断及びアンジッピングを導き、官能基を失う。O又はHガスクロスオーバーは、膜化学分解についての最も基本的な支配機構である。この化学分解は、機械的分解及び熱分解と組み合わせられる場合もあり、又は組み合わせられない場合もあるが、膜の薄膜化及びピンホール形成を導き−従ってこれは更にガスクロスオーバーを加速する。こうした分解の影響は、伝導度の損失及び後続の性能損失(軽度の化学分解の場合)から個々のセル及び最終的にはスタック欠陥の範囲に及び得る。反応体ガスの反対側の電極へのクロスオーバーは更に、寄生反応によりその電極を消極させることによってセル性能を低減し得る。最終的には反応体ガスのクロスオーバーは、反応体は消費されるが、電気作用は捕捉されないので、燃料電池の電気効率の直接的な損失を導く。PEMFC膜の機能性を更に改善し、材料コストを低減するために、より薄い膜は、最近の燃料電池の開発の焦点となっている。膜厚さのこうした低減は、ガスクロスオーバーの直接的な増大をもたらす場合があり;故に、PEMFCの性能に妥協することなく、ガスクロスオーバー、特にアノードからカソードへの水素クロスオーバーを低減することが明らかに必要とされている。
【0010】
DMFCにおいて、燃料電池の電気効率又は電力密度を低下させることなく、MEAの固体のポリマー性膜を通る、アノードからカソードへの未反応メタノールのクロスオーバーを低下させる必要がある。これは、燃料効率を上昇させ、メタノールによるカソードの汚染及びメタノールからカソードで発生した電気酸化生成物によるMEA性能の低下を防止する必要がある。
【発明の概要】
【0011】
よって、本発明の目的は、反応体のクロスオーバーを低減するが、最新鋭のPFSA膜に匹敵する性能を有する水素を燃料とするPEMFC及びDMFCの両方にとって改善されたイオン伝導性膜を提供することである。
【0012】
従って、本発明は、第一の層と第二の層を含み、第一の層がペルフルオロスルホン酸ポリマーを含むイオン伝導性膜において、第二の層がスルホン化炭化水素ポリマーを含み、イオン伝導性膜が、5μm〜50μmの総厚さを有し、第二の層が2μm以下の総厚さを有することを特徴とする、イオン伝導性膜を提供する。好適には、第二の層は、2μm未満の総厚さを有する。
【0013】
本発明の1つの実施態様において、イオン伝導性膜は更に、スルホン化炭化水素ポリマーを含む第三の層を含み、第一の層は、第二の層と第三の層との間に挟持する。好適には、第三の層は、2μmの以下の総厚さを有する。好適には第三の層は、2μm未満の総厚さを有する。
【0014】
本発明の更なる態様において、第二の層、及び存在する場合には第三の層は、スルホン化炭化水素ポリマー及びペルフルオロスルホン酸ポリマーの混合物を含む。2つのポリマーの混合物は、第二の層及び第三の層全体を通して均質であってもよく、又は層の界面及び/又は膜の外面においてペルフルオロスルホン酸ポリマーが豊富であるような不均質であってもよい。
【0015】
ペルフルオロスルホン酸ポリマーは、以上に記載されたような構造を有し、それらとしては、商標名Nafion(登録商標)(E.I.DuPont de Nemours and Co.)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)及びFlemion(登録商標)(Asahi Glass KK)の下で販売されるポリマーが挙げられる。
【0016】
スルホン化炭化水素ポリマーとしては、ポリアリーレン(ポリエーテルスルホン(例えばポリアリーレンスルホン(PSU,Udel(登録商標))、ポリアリーレンエーテルスルホン(PES,Victrex(登録商標))及びポリエーテルケトン(例えばポリアリーレンエーテルエーテルケトン(PEEK,Victrex(登録商標))、ポリアリーレンエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK,Hostatec(登録商標))、ポリアリーレンエーテルケトン、エーテルケトンケトン(PEKEKK,Ultrapec(登録商標))及びポリアリーレンエーテルケトン(PEK,Victrex(登録商標)))に基づくものが挙げられる。好適には、炭化水素ポリマーは、スルホン化ポリアリーレンエーテルスルホン又はスルホン化ポリアリーレンエーテルケトンである。
【0017】
第三の層が存在する場合、第二の層及び第三の層中のスルホン化炭化水素ポリマーは、同一又は異なっていてもよく;好ましい実施態様において、第二の層及び第三の層中のスルホン化炭化水素ポリマーは同じである。
【0018】
イオン伝導性膜は、50μm以下、好適には30μm以下、より好適には25μm以下、より好適には20μm以下の厚さを有する。好適には、イオン伝導性膜は、5μmの最小厚さを有する。実際の厚さは、その最終用途に依存し、イオン伝導性膜の適切な厚さは、当業者に容易に既知である。
【0019】
第二の層、及び存在する場合は第三の層のそれぞれの厚さは、好適には第一の層の厚さ未満である。第二の層、及び存在する場合は第三の層のそれぞれは、2μm以下、好適には2μm未満、より好適には1μm未満、好ましくは0.5μm未満の個々の厚さを有する。
【0020】
本発明のイオン伝導性膜は、スルホン化炭化水素層を、予め存在するペルフルオロスルホン酸膜の片側又は両側に、噴霧、k−バーコーティング及びドクターブレードが挙げられるが、これらに限定されない方法によって、適用することによって調製されてもよい。あるいは、膜は、適切なポリマー分散液又は溶液から層を連続してキャスティングすることによって調製されてもよい。第二の層、及び存在する場合は第三の層がスルホン化炭化水素ポリマー及びペルフルオロスルホン酸ポリマーの混合物を含む場合、両方のポリマーと相溶性の溶媒系が必要とされる;こうした溶媒系の選択は、当業者の能力の範囲内である。
【0021】
本発明の更なる態様において、特にPEMFC用途に関して、イオン伝導性膜は更に、本明細書に参考として組み込まれる国際公開2009/109780号パンフレットに更に詳細に記載されるような過酸化水素分解触媒及び/又はラジカルスカベンジャを含む。過酸化水素分解触媒は、第一の層、第二の層及び/又は第三の層内に埋め込まれてもよく、第一の層/第二の層及び/又は第一の層/第三の層の界面に存在してもよく、あるいは第二の層及び/又は第三の層の外側面上にコーティングとして存在してもよい。
【0022】
本発明の更なる実施態様において、イオン伝導性膜は更に、少なくとも1つの補強材料、例えばフルオロポリマー、例えば米国特許第6,254,978号明細書、欧州特許第0814897明細書及び米国特許第6,110,330号明細書に記載されるようなPTFE又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)、又は代替材料、例えばPEEK又はポリエチレンの細孔ウェブ又は繊維を含む。好適には、補強材料はPTFE製である。1つの実施態様において、補強材料は、第一の層内に位置できる。第2の実施態様において、補強材料は、第一の層/第二の層及び/又は第一の層/第三の層の界面にわたって、第二の層及び/又は第三の層まで延びる。この第2の実施態様において、補強材料は、イオン伝導性膜の外側面の一方又は両方に延びることができ、又は別の方法として、イオン伝導性膜の外側面の一方又は両方において、イオン伝導性膜が補強されないようにイオン伝導性膜の構造の外側面の一方又は両方まで延びない。補強されたイオン伝導性膜を製造するために、補強材料は、固体フィルムを乾燥及び形成する前に第一の層内に部分的に埋め込まれる。第一の層が乾燥されたら、第二の層、及び存在する場合は第三の層は、補強材料がまた第二の層及び/又は第三の層内に埋め込まれるように、第一の層の一方の面又は両面にキャストされる。補強材料がイオン伝導性膜の外表面の一方又は両方まで延びない場合、十分な第二の層及び/又は第三の層がキャストされるので、乾燥されたら必要に応じて補強材料を超えて延びる。
【0023】
本発明のイオン伝導性膜は、イオン伝導性、特にプロトン伝導性膜を必要とするいずれかの電気化学デバイスに使用されてもよい。従って、本発明の更なる態様は、以上に記載されたようなイオン伝導性膜を含む電気化学デバイスを提供する。あるいは、電気化学デバイスにおいて以上で記載されたようなイオン伝導性膜の使用を提供する。本発明の好ましい実施態様において、イオン伝導性膜は、燃料電池、例えばPEMFC(DMFCを含む)、好ましくは水素を燃料とするPEMFCに使用される。故に、本発明は更に、本発明に係るイオン伝導性膜及びこのイオン伝導性膜の少なくとも一側に堆積された電気触媒層を含む触媒被覆イオン伝導性膜を提供する。1つの実施態様において、触媒被覆イオン伝導性膜構造は、イオン伝導性膜の両側に堆積された電気触媒層を有する。本発明のイオン伝導性膜が、存在する第二の層だけを有し、第三の層は有していない場合、第二の層は、アノード電気触媒又はカソード電気触媒のいずれかに隣接でき;アノード電気触媒に隣接するか、又はカソード電気触媒に隣接するかに拘わらず、それはまた、反応体のクロスオーバーを低減することに役立つと共に、セルの水管理を補助し得る。
【0024】
電気触媒層は、微細化金属粉末(メタルブラック)であってもよく、又は小金属粒子が電気伝導性粒子状炭素支持体上に分散されている担持触媒であってもよい電気触媒を含む。電気触媒金属(一次金属)は、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びオスミウム)、
(ii)金又は銀、
から好適に選択される。一次金属は、1つ以上の他の貴金属、例えばルテニウム又はベース金属、例えばモリブデン、タングステン、コバルト、クロム、ニッケル、鉄、銅又はこれらの酸化物と合金化又は混合されてもよい。好ましくは、一次金属は白金である。電気触媒が担持触媒である場合、炭素支持体材料の金属粒子の充填量は、好適には、5〜90重量%、好ましくは5〜75重量%の範囲である。
【0025】
電気触媒層(複数可)は、他の構成成分、例えばイオン伝導性ポリマーを含んでいてもよく、これは層内のイオン伝導度を改善するために含まれる。イオン伝導性ポリマーは、通常、溶液又は分散液形態で提供され、電気触媒と共に混合され、電気触媒層の後続の形成のためのインクを形成する。イオン伝導性ポリマーは、本明細書に記載されるように、ペルフルオロスルホン酸ポリマー又は炭化水素ポリマー又はこれらの混合物であってもよい。1つの実施態様において、電気触媒層は更に、以上で記載されたような、1つ以上の過酸化水素分解触媒及び/又は1つ以上のラジカルスカベンジャを含んでいてもよい。これらの構成成分を含む電気触媒層を調製するための調製経路は、当業者に既知である。
【0026】
本発明のなお更なる態様は、以上に記載されたような、イオン伝導性膜又は触媒被覆イオン伝導性膜を含むMEAを提供する。MEAは、多数の方法によって作製されることができ、そうした方法としては:
(i)本発明のイオン伝導性膜は、2つのガス拡散電極(1つのアノード及び1つのカソード)間に挟持されてもよい;
(ii)触媒層によって片側のみコーティングされ、ガス拡散層とガス拡散電極との間に挟持された本発明の触媒被覆イオン伝導性膜であって、ガス拡散層は、触媒層でコーティングされたイオン伝導性膜の側部と接触する;又は
(iii)触媒層の両側にコーティングされ、2つのガス拡散層間に挟持された本発明の触媒被覆イオン伝導性膜
が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
アノード及びカソードガス拡散層は、好適には、従来の不織(non−woven)炭素繊維ガス拡散基板、例えば硬質シートの炭素繊維紙(例えばToray Industries Inc.,Japanから入手可能な炭素繊維紙のTGP−Hシリーズ)又はロールグッド炭素繊維紙(例えばFreudenberg FCCT KG,Germanyから入手可能なH2315系シリーズ;SGL Technologies GmbH,Germanyから入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ;Ballard Material Products,United States of Americaから入手可能なAvCarb(登録商標)シリーズ;CeTech Co.,Ltd.Taiwanから入手可能なN0Sシリーズ)、あるいは編地(woven)炭素繊維布地基板(例えばSAATI Group,S.p.A.,Italyから入手可能なSCCGシリーズ;CeTech Co.,Ltd,Taiwanから入手可能なW0Sシリーズ)に基づく。多くのPEMFC用途に関して、不織炭素繊維紙又は編地炭素繊維布地基板は、通常、疎水性ポリマー処理により、及び/又は基板内に埋め込まれるか又は平坦な面上にコーティングされる粒子状材料を含む細孔層の適用により、又はガス拡散層を形成するために両方の組み合わせにより改質される。粒子状材料は、通常、カーボンブラック及びポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合物である。好適には、ガス拡散層は、100〜300μmの厚さである。好ましくは電気触媒層と接触するガス拡散層の面上に、粒子状材料、例えばカーボンブラック及びPTFEの層が存在する。
【0028】
MEAは更に、国際公開2005/020356号パンフレットに記載されるようなMEAの縁部領域をシールする及び/又は補強する構成成分を含んでいてもよい。MEAは、当業者に既知の従来の方法によって組み立てられる。
【0029】
本発明のなお更なる態様は、以上に記載されるようなイオン伝導性膜、触媒被覆イオン伝導性膜又はMEAを含む燃料電池を提供する。
【0030】
ここで本発明のイオン伝導性膜は、図面を参照してより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1のPFSA層及び第2のスルホン化炭化水素層を含む本発明のイオン伝導性膜の概略図である。
図2】第1のPFSA層、第2のスルホン化炭化水素層及び第3のスルホン化炭化水素層を含む本発明のイオン伝導性膜の概略図である。
図3】単一セル性能試験の結果を示す。
図4】サイクリック・ボルタンメトリー・データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1a、1b及び1cはそれぞれ、第1のイオン伝導性PFSA層(2)及び第2のイオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)を含むイオン伝導性膜(1)を示す。図1aに示されるイオン伝導性膜(1)は、補強されない。図1bに示されるイオン伝導性膜(1)は、第1のイオン伝導性PFSA層(2)と第2のイオン伝導性炭化水素層(3)の界面にわたって位置する補強材料(5)を有する。補強材料(5)は、イオン伝導性膜(1)の外側面までは延びない。図1cに示されるようにイオン伝導性膜(1)はまた、第1のイオン伝導性PFSA層(2)と第2のイオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)との界面にわたって位置する補強材料(5)を有する。補強材料(5)は、イオン伝導性膜全体を通って延びる。また、図1b及び1cと同様のイオン伝導性膜(1)は、本発明の範囲内であり、ここで補強は、外側面の一方までは延びないが、第2の外側面までは延びる。
【0033】
図2a、2b及び2cはそれぞれ、第1のイオン伝導性PFSA層(2)、第2のイオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)及び第3のイオン伝導性スルホン化炭化水素層(4)を含むイオン伝導性膜(1)を示す。図2aにおいて、イオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)及び(4)は、全体が、スルホン化炭化水素アイオノマーで構成される。図2bにおいて、イオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)及び(4)はそれぞれ、PFSA及びスルホン化炭化水素アイオノマーのブレンドを含む。PFSA/スルホン化炭化水素組成物は、層(3)及び(4)それぞれについて均一である。図2cにおいて、イオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)及び(4)は、PFSA及びスルホン化炭化水素アイオノマーのブレンドを含み、これは(i)第1のイオン伝導性PFSA層(2)との界面、及び/又は(ii)イオン伝導性膜(1)の外側面にてPFSA成分が豊富となるように格付けされる。イオン伝導性スルホン化炭化水素のこうした格付けは、イオン伝導性層(3)及び/又は(4)の面の一方又は両方においてであってもよい。
【0034】
第二の層(3)及び第三の層(4)の一方は、層全体を通して均一な組成として(図2bに関連して記載されるように)又は勾配(図2cに関連して記載されるように)を有して、PFSA/スルホン化炭化水素のブレンドを有し、第二の層(3)及び第三の層(4)の他方は、スルホン化炭化水素だけを有し、又は他の層とは異なるブレンド組成/勾配を有するイオン伝導性膜が本発明の範囲内であることも当業者には明らかである。同様に、図1a、1b及び1cの第2のイオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)は、図2に関連して記載されるようにPFSA/炭化水素のブレンドを含むことができる。
【0035】
図2a、2b及び2cの構造は:図1aに例示されるように、(i)補強材料を含まず;(ii)第1のイオン伝導性PFSA層(2)、第2のイオン伝導性スルホン化合炭化水素層(3)及び第3のイオン伝導性スルホン化炭化層(4)の界面の一方又は両方にわたって位置する補強構造を有していてもよく、ここでこの補強材料は、図1bのように、イオン伝導性膜の外側面には延びず;(iii)第1のイオン伝導性PFSA層(1)、第2のイオン伝導性スルホン化炭化水素層(3)及び第3のイオン伝導性スルホン化炭化水素層(4)との間の界面の一方又は両方にわたって位置する補強構造を有していてもよく、ここで補強材料は、図1cのように、イオン伝導性膜の外側面に完全に延びる;又は(iv)外側面の一方に延びるが、第2の外側面に延びる補強構造を有していてもよい。
【0036】
実施例1
本発明のイオン伝導性膜の調製
スルホン化ポリアリーレンエーテルケトンコポリマーは、遊星ミルを用いて粉砕され、アセトン/THF/水(6/3/1)に溶解させ、濾過し、1.24%溶液を得た。この溶液を、約45℃にて真空床上の位置に保持された17μmの補強されたPFSA膜上に自動化スプレーコーターを用いてスプレーコーティングした。得られた膜は、一方の面に形成されたわずかに半透明の炭化水素ポリマー層を示した。SEMは、炭化水素層の厚さが2μmであること、及び補強材料が、PFSA(第1の)層内のみに存在することを示した。
【0037】
MEAの調製
CCMは、アノード(<0.1mg/cmPt;60%Pt/Ketjen EC300J カーボンブラック/150%水性Nafion)及びカソード(0.4mg/cmPt;60%Pt/Ketjen EC300J カーボンブラック/120%水性Nafion)の間に上記で調製された膜を積層する(170℃/800psiにて)ことによって調製された。CCMは、アノード側では炭素コーティングされたテフロン処理されたToray TGP−G−H060(Toray Industries製)と組み合わせ、カソード側ではSGL Technologies GmbHからのSigracet(登録商標)シリーズのガス拡散層を組み合わせて、完全な5層MEAを得た。
【0038】
比較例1
膜が、それらの一方の表面上に炭化水素コーティングを有していない17μmの補強されたPFSA膜であった以外は、実施例1について記載されるのと同様の様式でCCMを調製した。CCMは、アノード側では炭素コーティングされたテフロン処理されたToray TGP−G−H060(Toray Industries製)と組み合わせ、カソード側ではSGL Technologies GmbHからのSigracet(登録商標)シリーズ製の基板を組み合わせて完全な5層MEAを得た。
【0039】
単一セル性能(分極テスト)
実施例1及び比較例1において調製されたMEAは、蛇行するチャネルフローフィールドプレートを有する49cmの活性面積のグラファイトプレート単一燃料電池において試験した。ブラダーシステムを用いて、セルを60psiに圧縮した。
【0040】
MEAは、500mA/cmにおいて一晩、80℃、100%RHのアノード/100%RHのカソード、H/空気、100kPaのアノード/100kPaのカソード、2/2化学量論にて調整し、その後0.75Vの安定電圧を得て、MEA分極曲線は、80℃、100%RHのアノード/50%RHのカソード、H2//酸素/空気、50kPaのアノード/50kPaのカソードで行った。
【0041】
結果を図3に示し、これは、本発明の実施例1が、PFSA膜の一側に炭化水素ポリマー層を有するにも拘わらず、比較例1に匹敵する性能を有することを示す。
【0042】
クロスオーバーの低減の決定
分極試験の完了時、実施例1及び比較例1のMEAは、初期条件、すなわち80℃、100%RHのアノード/100%RHのカソード、H2/空気、100kPaのアノード/100kPaのカソード、2/2の化学量論におおよそ1時間戻した。次いでカソードガスを空気からN(1.5L/min)に切り替え、小さい負荷(100mA/cm)を10分間かけ、カソード電極上の残留空気を消費した。次いで、セルを制御するためのポテンショスタットを用いてカソード電極からのサイクリック・ボルタンメトリー・データを収集した:(0.05〜1.0V,15mV/s)。結果を図4に示す。0.35〜0.45Vの電圧にて得られた電流は、Hクロスオーバーによる;電流が小さくなるにつれて、クロスオーバーも小さくなる。本発明の実施例1は、この領域において順方向電圧及び逆方向電圧掃引の両方からの低い平均電流を有し、故に比較例1に比べてHクロスオーバーが低減されたことがわかる。
図1
図2
図3
図4