特許第6104288号(P6104288)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6104288手術シミュレーション用モデルの生成方法、手術シミュレーション方法、及び手術シミュレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104288
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】手術シミュレーション用モデルの生成方法、手術シミュレーション方法、及び手術シミュレータ
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/22 20120101AFI20170316BHJP
   G06T 15/08 20110101ALI20170316BHJP
   G06T 19/00 20110101ALI20170316BHJP
【FI】
   G06Q50/22
   G06T15/08
   G06T19/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-847(P2015-847)
(22)【出願日】2015年1月6日
(62)【分割の表示】特願2009-136898(P2009-136898)の分割
【原出願日】2009年6月8日
(65)【公開番号】特開2015-127965(P2015-127965A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2015年1月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176730
【氏名又は名称】三菱プレシジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087756
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 猛
(72)【発明者】
【氏名】窪田 吉信
(72)【発明者】
【氏名】槙山 和秀
(72)【発明者】
【氏名】菊川 孝明
(72)【発明者】
【氏名】長坂 学
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英男
(72)【発明者】
【氏名】緒方 正人
【審査官】 青柳 光代
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−111958(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072756(WO,A1)
【文献】 特開2008−134373(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/032875(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/015365(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
G06T 15/08
G06T 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボリュームデータ構築部において、医療用画像データ格納部に格納された手術対象者の医用画像の元データから幾何情報を取得し、前記医用画像の元データに含まれる必要な臓器を2次元的に抽出し、各臓器の定められた連結関係に応じて配置し、さらにこれらスライスされた画像を積層し、必要な臓器の3次元ボリュームデータを構築する第1の過程と、
第1の過程の後、生成された3次元ボリュームデータの臓器をボリュームデータ構築部においてメッシングする第2の過程と、
ボリュームデータ構築部において、前記メッシングされた臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜を形成する第3の過程と、
ボリュームデータ構築部において、前記メッシングされた臓器のメッシングにより接続する各節点間をバネ定数が非線形に設定され、模擬術具に応じた力を発生する仮想バネにより形成し配置する第4の過程とからなることを特徴とする手術シミュレーション用モデルの生成方法。
【請求項2】
力覚装置が、手術者が操作する手術操作具の位置と模擬生体との接触位置に応じた反力を発生させる力覚模擬過程と、
模擬運動演算装置が、手術対象であり、ボリュームデータ構築部において、医療用画像データ格納部に格納された手術対象者の医用画像の元データから幾何情報を取得し、前記医用画像の元データに含まれる必要な臓器を2次元的に抽出し、各臓器の定められた連結関係に応じて配置し、さらにこれらスライスされた画像を積層して3次元ボリュームデータとして構築しメッシングされた臓器及びメッシングされた臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にメッシングにより接続する各節点間をバネ定数が非線形に設定され、模擬術具に応じた力を発生する仮想バネで形成配置する手術シミュレーション用モデルデータを得て、前記力覚模擬過程による手術操作具の移動及び手術操作具と模擬生体との接触による反力を計算して前記力覚模擬過程に与えるとともに模擬生体の反応との運動とを計算する模擬運動演算過程と、
画像生成装置が、模擬内視鏡から撮像した模擬生体の模擬画像を生成する画像生成過程と、
画像表示装置が、前記画像生成過程により生成された画像を表示する画像表示過程とからなることを特徴とする手術シミュレーション方法。
【請求項3】
模擬運動演算過程において、加えられた力による模擬生体の反応である位置変形が生体の物性値の変化に反映させ、反映された物性値により反力を計算することを特徴とする請求項2記載の手術シミュレーション方法。
【請求項4】
【請求項5】
手術対象であり、ボリュームデータ構築部において、医療用画像データ格納部に格納された手術対象者の医用画像の元データから幾何情報を取得し、前記医用画像の元データに含まれる必要な臓器を2次元的に抽出し、各臓器の定められた連結関係に応じて配置し、さらにこれらスライスされた画像を積層して3次元ボリュームデータとして構築しメッシングされた臓器及びメッシングされた臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にメッシングにより接続する各節点間をバネ定数が非線形に設定され、模擬術具に応じた力を発生する仮想バネで形成配置する手術シミュレーション用モデルデータを得て、格納する手術シミュレーション用モデルデータ部と、
手術者が操作する手術操作具の位置と模擬生体との接触位置に応じた反力を発生させる力覚装置と、
前記手術シミュレーション用モデルデータ部から手術シミュレーション用モデルデータを得て前記力覚装置による手術操作具の移動及び手術操作具と模擬生体との接触による反力を計算して前記力覚装置に与えるとともに模擬生体の反応との運動とを計算する模擬運動演算装置と、
前記模擬運動演算装置が計算し模擬内視鏡から撮像した模擬生体の模擬画像を生成する画像生成装置と、
前記画像生成装置により生成された画像を表示する画像表示装置とからなることを特徴とする手術シミュレータ。
【請求項6】
模擬運動演算装置が、加えられた力による模擬生体の反応である位置変形が生体の物性値の変化に反映させ、反映された物性値により反力を計算することを特徴とする請求項5記載の手術シミュレータ。
【請求項7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下で手術をする前に手術シミュレーションをするための手術シミュレーション用モデルの生成方法、手術シミュレーション方法、及び手術シミュレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療技術と医療機器の進歩により、腹部手術の多くが腹腔鏡下に行われるようになってきた。腹腔鏡下手術は、3次元のものを2次元の画像表示装置を見ながら操作するので、その習得にはトレーニングが不可欠である。実際の腹腔鏡手術では患者毎に血管の本数や走行、臓器の位置関係、例えば腫瘍の位置や大きさが異なり、それぞれに対応した手術が要求される。
術前のシミュレーションを可能とするため、個々の患者の情報をもとにシミュレータが考えられる。
個々の患者の情報を取り入れるためには、CTやMRI等の医用画像データを用いるのが一般的であるが、このような画像には手術臓器周辺にある膜組織が映らないため認識できず、モデル化できない等の問題があり、それらを持たないモデルは術前シミュレーションとして不完全である。また、手術対象臓器の物理・力学的条件を線形に設定することが考えられるが、この場合は臓器の変形模擬が実際とは大きく異なることとなり、術前シミュレーションとして不満足なものであった。
【0003】
また、シミュレーションとして国際公開第2008/032875号公報に記載のものがあるが、これは血小板血栓形成シミュレーションに関するものであり、用いるバネに加わる力が血液の粘性による力を模擬するものである。しかし、本願発明が手術シミュレーションに関するものである点、後述するように本願のバネに加わる力が模擬術具からの力を模擬する点で技術分野および模擬する対象とその目的、実現手段が異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/032875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、医用画像から手術状況に即したシミュレーション用モデルの生成方法、さらには手術シミュレーション方法、並びに手術シミュレータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る手術シミュレーション用モデルの生成方法は、ボリュームデータ構築部において、医療用画像データ格納部に格納された手術対象者の医用画像の元データから幾何情報を取得し、前記医用画像の元データに含まれる必要な臓器を2次元的に抽出し、各臓器の定められた連結関係に応じて配置し、さらにこれらスライスされた画像を積層し、必要な臓器の3次元ボリュームデータを構築する第1の過程と、第1の過程の後、生成された3次元ボリュームデータの臓器をボリュームデータ構築部においてメッシングする第2の過程と、ボリュームデータ構築部において、前記メッシングされた臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜を形成する第3の過程と、ボリュームデータ構築部において、前記メッシングされた臓器のメッシングにより接続する各節点間をバネ定数が非線形に設定され、模擬術具に応じた力を発生する仮想バネにより形成し配置する第4の過程とからなることを特徴とするからなることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に係る手術シミュレーション方法は、力覚装置が、手術者が操作する手術操作具の位置と模擬生体との接触位置に応じた反力を発生させる力覚模擬過程と、模擬運動演算装置が、手術対象であり、ボリュームデータ構築部において、医療用画像データ格納部に格納された手術対象者の医用画像の元データから幾何情報を取得し、前記医用画像の元データに含まれる必要な臓器を2次元的に抽出し、各臓器の定められた連結関係に応じて配置し、さらにこれらスライスされた画像を積層して3次元ボリュームデータとして構築しメッシングされた臓器及びメッシングされた臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にメッシングにより接続する各節点間をバネ定数が非線形に設定され、模擬術具に応じた力を発生する仮想バネで形成配置する手術シミュレーション用モデルデータを得て、前記力覚模擬過程による手術操作具の移動及び手術操作具と模擬生体との接触による反力を計算して前記力覚模擬過程に与えるとともに模擬生体の反応との運動とを計算する模擬運動演算過程と、画像生成装置が、模擬内視鏡から撮像した模擬生体の模擬画像を生成する画像生成過程と、画像表示装置が、前記画像生成過程により生成された画像を表示する画像表示過程とからなることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に係る手術シミュレーション方法は、請求項2記載のものであって、模擬運動演算過程において、加えられた力による模擬生体の反応である位置変形が生体の物性値の変化に反映させ、反映された物性値により反力を計算することを特徴とするものである。
【0009】
【0010】
請求項5に係る手術シミュレータは、手術対象であり、ボリュームデータ構築部において、医療用画像データ格納部に格納された手術対象者の医用画像の元データから幾何情報を取得し、前記医用画像の元データに含まれる必要な臓器を2次元的に抽出し、各臓器の定められた連結関係に応じて配置し、さらにこれらスライスされた画像を積層して3次元ボリュームデータとして構築しメッシングされた臓器及びメッシングされた臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にメッシングにより接続する各節点間をバネ定数が非線形に設定され、模擬術具に応じた力を発生する仮想バネで形成配置する手術シミュレーション用モデルデータを得て、格納する手術シミュレーション用モデルデータ部と、手術者が操作する手術操作具の位置と模擬生体との接触位置に応じた反力を発生させる力覚装置と、前記手術シミュレーション用モデルデータ部から手術シミュレーション用モデルデータを得て前記力覚装置による手術操作具の移動及び手術操作具と模擬生体との接触による反力を計算して前記力覚装置に与えるとともに模擬生体の反応との運動とを計算する模擬運動演算装置と、前記模擬運動演算装置が計算し模擬内視鏡から撮像した模擬生体の模擬画像を生成する画像生成装置と、前記画像生成装置により生成された画像を表示する画像表示装置とからなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項6に係る手術シミュレータは、請求項5記載のものにおいて、模擬運動演算装置が、加えられた力による模擬生体の反応である位置変形が生体の物性値の変化に反映させ、反映された物性値により反力を計算することを特徴とするものである。
【0012】
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る手術シミュレーション用モデルの生成方法によると、臓器及び臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜のメッシングにより接続する各節点間を仮想バネにより形成し配置するから、臓器及び臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にバネの弾性が働き、臓器の変形模擬精度を向上させることができ、訓練効果の高い手術シミュレーションを可能にするモデルを生成することができる。
【0014】
請求項2に係る手術シミュレーション方法によると、模擬運動演算過程が、手術シミュレーション用モデルデータを得て力覚模擬過程による手術操作具の移動及び手術操作具と模擬生体との接触による反力を計算して力覚過程に与えるとともに模擬生体の反応との運動とを計算する。このとき、手術シミュレーション用モデルデータは手術対象である臓器及び臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にメッシングにより接続する各節点間を仮想バネで形成配置するから、臓器及び臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にバネの弾性が働き、臓器の変形模擬精度を向上させることができ、訓練効果の高い手術シミュレーションを可能にする。
【0015】
請求項3に係る手術シミュレーション方法によると、加えられた力による模擬生体の反応である位置変形が生体の物性値の変化に反映させ、反映された物性値により反力を計算するから、大変形において、臓器の変形模擬精度を向上させることができ、訓練効果の高い手術シミュレーションを可能にする。
【0016】
【0017】
請求項5に係る手術シミュレータによると、手術シミュレーション用モデルデータ部が格納する手術シミュレーション用モデルデータに手術対象である臓器及び臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にメッシングにより接続する各節点間を仮想バネで形成配置するから、臓器及び臓器を覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜にバネの弾性が働き、臓器の変形模擬精度を向上させることができ、訓練効果の高い手術シミュレーションを可能にする。
【0018】
請求項6に係る手術シミュレータによると、加えられた力による模擬生体の反応である位置変形が生体の物性値の変化に反映させ、反映された物性値により反力を計算するから、大変形において、臓器の変形模擬精度を向上させることができ、訓練効果の高い手術シミュレーションを可能にする。
【0019】
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は手術シミュレーション用モデルの生成方法の第1の実施例を説明するフロー図である。
図2図2は手術シミュレーション用モデルの生成方法の第2の実施例を説明するフロー図である。
図3図3は手術シミュレーション方法の第1の実施例を説明するフロー図である。
図4図4は手術シミュレーション方法の第2の実施例を説明するフロー図である。
図5図5は手術シミュレータの実施例を説明する機能ブロック図である。
図6図6は膜構造を説明する図である。
図7図7は臓器の有限要素モデルを説明する図である。
図8図8は仮想バネの特性を説明する図である。
図9図9は<K>,<K(<U>)>,<U>の関係を示す図である。
【実施例1】
【0021】
図1は手術シミュレーション用モデルの生成方法の第1の実施例を説明するフロー図、図2は手術シミュレーション用モデルの生成方法の第2の実施例を説明するフロー図、図3は手術シミュレーション方法の第1の実施例を説明するフロー図、図4は手術シミュレーション方法の第2の実施例を説明するフロー図、図5は手術シミュレータの実施例を説明する機能ブロック図である。
図5において、501は医療用画像データ格納部、502はボリュームデータ構築部、503は画像生成装置、504は画像表示装置、505は手術シミュレーション用モデルデータ部、506は力覚装置、507は模擬運動演算装置、508は手術操作具、509は模擬内視鏡、510は模擬鉗子である。
【0022】
まず、手術シミュレーション用モデルの生成方法を説明する。
医療用画像データ格納部501は例えば手術対象者の医療用画像の元データが格納されている。医療用画像の元データは、例えばCT,MRI等で撮像されている。医療用画像データは、ボリュームデータ構築部502において、画像生成装置503により画像生成される。これは、画像表示装置504に表示しながら、手術対象者の断面を細かくスライスし、臓器を含む生体の部位を撮影した医療用画像データの幾何学的な情報に基づき、生体の各部位(臓器)を2次元的に抽出し、各臓器の定められた連結関係に応じて配置し、さらにこれらスライスされた画像を積層し、3次元ボリュームデータを構成する(図1のP101)。3次元ボリュームデータは医療用画像データ格納部501の医療用画像の元データとは別の記憶領域に格納される。
【0023】
操作者は、手術対象者の医療用画像データを医療用画像データ格納部501から読み出す。ボリュームデータ構築部502、画像生成装置503は読み出された目的の臓器を含む所定範囲の各臓器を抜き出し所定の位置関係で画像表示装置504に表示する。操作者は画像表示装置504に表示された臓器の中から目的の臓器を必要により移動・回転させる。
ボリュームデータには、臓器毎にIDが割り振られており、元のボリュームデータを
ID=F(x,y,z)、処理後をID=G(x,r,z)とかける。この移動・姿勢変換を行列RIDで表すと、FとGの関係は、RIDF=Gとなるので、G=RID−1FとしてGを求めることができる。この移動位置データは、手術シミュレーション用モデルデータ部505に記録される。
次に目的の臓器の前記移動に合わせて目的の臓器に連結する他の臓器を生成する。この他の臓器モデルデータは、手術シミュレーション用モデルデータ部505に記録される。
次に、ボリュームデータに対し、幾何情報を入力情報とし、解剖学的性質を元に、プログラムにより、四面体にメッシングして有限要素モデルを生成する(図1のP102)。
次に、ボリュームデータに対し、幾何情報を入力情報とし、解剖学的性質を元に、厚さを決定し、指定した臓器の周りに膜モデルを生成させる(図1のP103)。膜は、医療用画像からは認識できるものではないが、所定の臓器の周りに複数層で形成する。この膜は、所定臓器と膜及び各膜間の間隔を一定の距離又は間隔が異なる部分を有するように適当に配置する(図1のP103a,P103b)。
図6に示すように、過程P102でメッシングされた所定臓器601の表面各節点602a,602b,602c…から例えば法線方向に仮想線603a,603b,603c…を延ばし、前記仮想線603a,603b,603c…と過程P103により形成した模擬膜604a,604b,604c…との交点による膜面用節点605a,605b,605c…を形成し、この各仮想線603a,603b,603c…について前記所定臓器601の表面各節点602a,602b,602c…と膜面用節点605a,605b,605c…及び膜面用節点間を接続する仮想膜間用バネ606a,606b,606c…を配置し、さらに、各膜604a,604b,604c…の各面について前記膜面用節点605a,605b,605c…の間をメッシュ形成するように面方向バネ607a,607b,607c…を配置する(図1のP104)。仮想膜間用バネ606a,606b,606c…、面方向バネ607a,607b,607c…はバネモデルにより形成する。
このとき、各節点間に接続配置した仮想膜間用バネ606a,606b,606c…のバネ定数kが異なるもの(k=k1,k2…)を有するようにし、また、面方向バネ607a,607b,607c…のバネ定数Kが異なるもの(K=K1,K2…)を有するようにしてもよい(図1のP104a,P104b)。
そして、各節点間に接続配置した仮想膜間用バネ606a,606b,606c…と面方向バネ607a,607b,607c…に所定の張力又は伸びにより切断する物理定数を備えさせることもできる(図1のP104c)。
これら手術シミュレーション用モデルデータは手術シミュレーション用モデルデータ部505に記録格納される。
【実施例2】
【0024】
次に、所定の臓器の大変形に対し高精度に模擬できることを意図した手術シミュレーション用モデルの生成法について図2により説明する。
図2において、過程P201,P202の内容は、図1における過程101,P102と同様である。
次に、過程P203において、四面体にメッシングした所定臓器の有限要素モデルについて、メッシングにより接続する各節点間を仮想バネ701a,701b,701c…により形成しこれを配置する(図7)。仮想バネ701a,701b,701c…は、バネモデルにより形成し、臓器内部の節点間についても、実施例1と同様にバネ定数が異なるものを含むように構成することができる。また、各節点間に接続配置した仮想バネ701a,701b,701c…に所定の張力又は伸びにより切断する物理定数を備えさせることもできる。このとき、各仮想バネ701a,701b,701c…の加える力と伸びに対する特性が直線でなく、一つのバネが例えば図8のように上に凸の非線形のものとし、所定の張力又は伸びにより切断するものとする。
これら手術シミュレーション用モデルデータは手術シミュレーション用モデルデータ部505に記録格納される。
【実施例3】
【0025】
次に、実施例1において構成した手術シミュレーション用モデルデータを用いてシミュレーションを行うこと及びその実施するため装置について説明する。実施例装置は図5で説明した装置が用いられる。
手術対象である臓器にそれを覆う、医療用画像からは認識できない複数層の模擬膜組織を備え当該臓器及び模擬膜の生体組織の力学的性質を設定した手術シミュレーション用モデルデータを手術シミュレーション用モデルデータ部505から読み出し、画像生成装置503で当該臓器を含む画像を生成し、画像表示装置504で表示する。
手術者が手術操作具508の一つである模擬鉗子510を操作して、模擬生体である模擬膜に接触し、模擬鉗子510の狭持面で模擬膜を引っ張る。模擬鉗子510の位置と模擬膜との接触位置に応じた反力を力覚装置506により発生され、力覚装置506を介して模擬鉗子510にフィードバックされる。(P301)
模擬鉗子510に与えられる反力は、仮想膜間用バネ606a,606b,606c…、面方向バネ607a,607b,607c…のバネ定数と模擬鉗子510の移動位置とにより、模擬運動演算装置507が計算し、力覚装置506に引っ張り力を発生させて、模擬する。このとき、模擬膜をはさむ模擬鉗子510の狭持面の位置により模擬鉗子のグリップ力が異なり、このグリップ力は、模擬運動演算装置507により計算される。模擬鉗子510が膜を引っ張りときの模擬膜の伸び又は張力が所定以上に達すると仮想膜間用バネ606a,606b,606c…、面方向バネ607a,607b,607c…が切断し、模擬膜が剥がれることを模擬することができる。(P302)
手術シミュレーションの間、画像生成装置503は、模擬運動演算装置507が計算する模擬鉗子510と模擬膜との移動運動に基づく位置により、模擬内視鏡から撮像したように模擬膜を含む模擬生体と模擬鉗子を含む手術操作具508の運動模擬画像を生成する。(P303)
この模擬画像は、画像表示装置504に表示され、手術者はこの画像を見ながら、手術シミュレーションを行う。(P304)
【実施例4】
【0026】
次に、実施例2において構成した手術シミュレーション用モデルデータを用いてシミュレーションを行うこと及びその実施するため装置について説明する。実施例装置は図5で説明した装置が用いられる。
手術対象である臓器にメッシングにより接続する各節点間を仮想バネで形成配置する手術シミュレーション用モデルデータを手術シミュレーション用モデルデータ部505から読み出し、画像生成装置503で当該臓器を含む画像を生成し、画像表示装置504で表示する。
手術者が手術操作具508の一つである模擬鉗子510を操作して、模擬生体である臓器に接触し、模擬鉗子510の狭持面で模擬臓器を押す又は引っ張る。模擬鉗子510の位置と模擬臓器との接触位置に応じた反力を力覚装置506により発生される。(P401)
模擬鉗子510に与えられる反力は、バネ定数が非線形に設定されている仮想バネ701a,701b,701c…のバネ定数と模擬鉗子の移動位置とにより、模擬運動演算装置507が計算し、力覚装置506に圧縮力又は引っ張り力を発生させて、模擬する。このとき、医療用画像からは認識できない模擬膜をはさむ模擬鉗子の狭持面の位置により模擬鉗子のグリップ力が異なり、このグリップ力は、模擬運動演算装置507により計算される。
高精度に生体の変形を模擬するために、主要臓器の変形モデルに、非線形FEM(有限要素法)を用いる。
非線形処理を、区分的に線形化することにより、実時間で、非線形処理を行う。従来の線形計算モデルは、変位が少ないことを前提として、変位ベクトルを<U>、質量マトリクスを<M>、粘性抵抗マトリクスを<C>、剛性マトリクスを<K>、外力を<f>としたとき以下の絶対表示で示される。(本明細書で、<a>はaのベクトル、マトリクスを表示し、太字とともに用いる。)

【数1】
これを、剛性マトリクス<K>が変位<U>の関数である<K(<U>)>とした次の非線形モデルとする。

【数2】
(区分的に線形化すること)
今、物体(臓器等)に鉗子等の模擬術具(手術操作具)により力を加えたとする。すると、物体が変形して応力を発生しこの表面力と、模擬術具による力が釣り合った状態で変形が止まり、平衡状態に達する。ここで、更に力を加えると、次の釣り合う表面力を発生するまで変形し、次の平衡状態で安定する。実時間の処理では、これを、高速に繰り返している。
このような動的な計算を想定した場合、1フレーム前の剛性マトリクス(応力発生の元となる情報)と現在の剛性マトリクスの差は少ないと考えられる(即ち、区分的には線形化される)。特に、手術シミュレータでは操作が比較的緩やかである。従って、1フレーム前の位置(<U>k−1)に対応する剛性マトリクス<K>、とΔ<u>を用いて、

【数3】
から得られる。
従って、処理は、
処理(1)から処理(7)全体を式(4)とする。
但し、添え字kは計算時刻、αはi番目の要素の加速度、fは同外力、vは同速度、uは同変位、Kfiは剛性力である。図9に<K>,<K(<U>)>,<U>の関係を示す。また、<U>は、各要素に対応したuを積み重ねて、

=(u,u,…u) (5)

としたものである。但し、Nは有限要素数である。
処理(6)におけるKをuを用いて計算することは、以下の式を用いる。
はKと表示して、
【数4】
ここで、<B(<x>)>は歪みテンソルと変位(節点1から節点nの変位)とを(歪みテンソル)=(形状マトリクス)・(変位)として関係付ける形状マトリクス、<D>は応力テンソルと歪みテンソルとを(応力テンソル)=(物性マトリクス)・(歪みテンソル)として関係付ける物性マトリクスである。
上記式(4)の処理により、形状に応じた剛性マトリクス<K>の再構成と、模擬運動演算装置507上での更新を、実時間で実施する。(P403)
手術シミュレーションの間、画像生成装置503は、模擬運動演算装置507が計算する模擬鉗子510と模擬臓器との移動運動に基づく位置により、模擬内視鏡から撮像したように模擬臓器を含む模擬生体と模擬鉗子を含む手術操作具508の運動模擬画像を生成する。(P403)
この模擬画像は、画像表示装置504に表示され、手術者はこの画像を見ながら、手術シミュレーションを行う。(P404)
【符号の説明】
【0027】
501:医療用画像データ格納部、502:ボリュームデータ構築部、
503:画像生成装置、504:画像表示装置、
505:手術シミュレーション用モデルデータ部、506:力覚装置、
507:模擬運動演算装置、508:手術操作具、509:模擬内視鏡、
510:模擬鉗子、601:所定臓器、602a,602b,602c…:表面各節点、
603a,603b,603c…:仮想線、
604a,604b,604c…:模擬膜、
605a,605b,605c…:膜面用節点、
606a,606b,606c…:仮想膜間用バネ、
607a,607b,607c…:面方向バネ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9