【文献】
HILL, E., et al.,Designing Scaffolds to Enhance Transplanted Myoblast Survival and Migration,TISSUE ENGINEERING,2006年,Vol. 12, No. 5,pp. 1295-1304
【文献】
LESLIE-BARBICK, J. E., et al.,Micron-Scale Spatially Patterned, Covalently Immobilized Vascular Endothelial Growth Factor on Hydro,TISSUE ENGINEERING: Part A,2011年,Vol. 17, No. 1-2,pp. 221-229
【文献】
HATAKEYAMA, H., et al.,Patterned biofunctional designs of thermoresponsive surfaces for spatiotemporally controlled cell ad,Biomaterials,2007年,Vol. 28, No. 25,pp. 3632-3643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物(オンライン情報を含む)は、その全内容を参照により本明細書に援用する。
【0010】
本発明は、RGDペプチドを有効成分として含む、組織再生を促進するための組成物、RGDペプチドを有効成分として配合することを含む、組織再生を促進するための組成物を製造する方法、RGDペプチドの、組織再生を促進するための組成物の製造への使用、組織再生を促進するための有効量のRGDペプチドを含む組成物、ならびに、組織再生の促進に用いるRGDペプチドに関する。
【0011】
本明細書において、RGDペプチドは、RGDモチーフ、すなわち、Arg−Gly−Aspからなるアミノ酸配列を含むペプチドを意味する。RGDペプチドは、Arg−Gly−Aspのみからなっても、N末端、C末端または両末端にさらなるアミノ酸残基を含んでいてもよい。RGDペプチドは、限定されずに、例えば、3〜100アミノ酸長、3〜50アミノ酸長、3〜25アミノ酸長、3〜20アミノ酸長、3〜15アミノ酸長、3〜10アミノ酸長、3〜8アミノ酸長、3〜5アミノ酸長等であってよい。したがって、RGDペプチドは、限定されずに、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50アミノ酸長等であってもよい。
【0012】
RGDペプチドは直鎖状であっても環状であっても分枝状であってもよい。環状である場合、ペプチドの両末端が結合した形(head-to-tail型)であっても、少なくとも1つの末端がフリーのループ状であってもよい。ループ状ペプチドの場合、RGDモチーフはループの頂点部分に位置してもよい。アミノ酸残基は無修飾であっても修飾されていてもよい。6アミノ酸長以上のRGDペプチドの場合、RGDモチーフは1つまたは2つ以上含まれていてもよい。RGDペプチドは、遅くとも細胞と接触するまでに、少なくとも1つのRGDモチーフが細胞に認識されるようなトポロジーを取ることができる。例えば、RGDペプチドは、生体外で既に少なくとも1つのRGDモチーフが細胞に認識されるようなトポロジーを取っていてもよいし、生体外ではRGDモチーフが細胞に認識されないトポロジーを取っているが、生体内でpHなどの環境の変化や代謝などにより少なくとも1つのRGDモチーフが細胞に認識されるようなトポロジーを取るように設計されていてもよい。ここで、細胞に認識されるようなトポロジーとしては、限定されずに、例えば、RGDペプチドが3次元構造をとった場合に、RGDモチーフが他のアミノ酸残基で隠されないようなトポロジーなどが挙げられる。一態様において、RGDペプチドは無修飾のアミノ酸残基で構成される少なくとも1つのRGDモチーフを有する。
【0013】
RGDペプチドは既知のものを利用してもよいし、新たに設計してもよい。既知のRGDペプチドの非限定例としては、例えば、Arg-Gly-Asp(例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No. A8052)、Arg-Gly-Asp-Ser(配列番号1、例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No. A9041、ペプチド研究所、Cat. No. 4171)、Gly-Arg-Gly-Asp-Ser(配列番号2、例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No. G4391)、Cyclo(Ala-Arg-Gly-Asp-3-Aminomethylbenzoyl)(配列番号3、例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No.C9357)、Gly-Arg-Gly-Asp-Thr-Pro(配列番号4、例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No.G5646)、Gly-Arg-Gly-Asp-Ser-Pro(配列番号5、例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No.SCP0157)、Gly-Arg-Gly-Asp-Ser-Pro-Lys(配列番号6、例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No.G1269)、Echistatin(例えば、Sigma-Aldrich, Cat. No.SCP0157)、GRGDS(配列番号7、例えば、ペプチド研究所、Cat. No. 4189-v)、Cilengitide、RGD4C(ACDCRGDCFCG、配列番号8)、RGD10(DGARYCRGDCFDG、配列番号9)、Cyclo(Cys-Arg-Gly-Asp-Cys)(配列番号10)、SKF 107260、G-4120、CYGGRGDTP(配列番号11)、Cyclo(RGDfK)などが挙げられる。
【0014】
また、本発明におけるRGDペプチドは、RGDペプチドの機能を模したRGDペプチド模倣体(例えば、Duggan et al., J Med Chem. 2000;43(20):3736-45)、および、RGDペプチドと類似の機能を有するRLD(Arg−Leu−Asp)モチーフまたはKGD(Lys−Gly−Asp)モチーフを有するペプチドを含む。RGDペプチドの機能としては、本明細書の例1に記載のような細胞増殖促進作用や、インテグリン分子(例えば、インテグリンαvβ1、αvβ3など)への結合性などが挙げられる。
【0015】
本発明の組成物により再生を促進する組織は特に限定されず、全身の種々の組織を含む。かかる組織としては、限定されずに、例えば、星細胞が存在する組織、線維化が生じる組織、幹細胞が存在する組織などが挙げられる。再生を促進する組織の非限定例としては、例えば、肝臓、膵臓、腎臓、腸管、肺、脾臓、心臓、骨髄、声帯、皮膚、腹膜、眼、脈管、神経組織、軟骨、骨、筋肉、乳房、毛包などが挙げられる。
本発明の組成物は、障害組織または移植組織において生じる組織再生に有用である。障害組織は、組織破壊、炎症、壊死、線維化、手術的侵襲、臓器不全等を受けた組織を含む。
【0016】
本発明の組成物による組織再生は、幹細胞の分化および/または増殖を伴うものであってもよい。また、本発明の組成物による組織再生は、組織実質細胞の増殖を伴うものであってもよい。幹細胞の分化は、例えば、分化細胞に特異的な細胞マーカーの検出、分化細胞が示す機能の検出などにより評価することができる。細胞の増殖は、種々の既知の手法、例えば、経時的な生細胞数の計数、組織のサイズ、体積または重量の測定、DNA合成量の測定、細胞増殖マーカーの検出、WST−1法、BrdU(ブロモデオキシウリジン)法、
3Hチミジン取込み法などにより評価することができる。
【0017】
本発明の組成物は、組織再生が抑制された状態を有する対象に対して用いることができる。組織再生が抑制された状態としては、限定されずに、例えば、炎症、壊死、線維化、臓器不全、血小板数の減少、遺伝子異常、ノルアドレナリンの減少などを含む。
【0018】
本発明の組成物におけるRGDペプチドの配合量は、組成物が投与された場合に、組織再生が促進される量であってもよい。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は公知であるか、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。組織再生の促進は、組織の機能、重量、大きさなどの回復を、生化学検査、レントゲン、超音波、MRI、CT、内視鏡などを用いた画像診断などにより評価することができる。RGDペプチドの配合量は、組成物の投薬態様によって変化し得る。例えば、1回の投与に複数の単位の組成物を用いる場合、組成物1単位に配合するRGDペプチドの量は、1回の投与に必要なRGDペプチドの量の複数分の1とすることができる。かかる配合量の調整は当業者が適宜行うことができる。
【0019】
本発明はまた、RGDペプチドを、これを必要とする対象に投与する工程を含む、対象において組織再生を促進する方法に関する。本方法における対象は、組織に障害を受けているか、組織移植を受けていてもよい。障害は、限定されずに、例えば、組織破壊、炎症、壊死、線維化、手術的侵襲、臓器不全等を含む。また、本方法における対象は、組織の再生により改善し得る疾患に罹患していてもよい。かかる疾患については下記に詳述する。
【0020】
本発明はまた、RGDペプチドを有効成分として含む、細胞増殖を促進するための組成物、RGDペプチドを有効成分として配合することを含む、細胞増殖を促進するための組成物を製造する方法、RGDペプチドの、細胞増殖を促進するための組成物の製造への使用、細胞増殖を促進するための有効量のRGDペプチドを含む組成物、ならびに、細胞増殖の促進に用いるRGDペプチドに関する。
【0021】
増殖を促進する細胞としては、限定されずに、例えば、肝臓、膵臓、腎臓、腸管、肺、脾臓、心臓、骨髄、声帯、皮膚、腹膜、眼、脈管、神経組織、軟骨、骨、筋肉、乳房、毛包などの組織の細胞が挙げられる。細胞は体細胞(すなわち、分化した細胞)であっても、幹細胞であってもよい。体細胞は、実質細胞および非実質細胞を含む。幹細胞は、特に限定されず、例えば、組織幹細胞(体性幹細胞、成体幹細胞)、胚性幹細胞、iPS細胞等を含む。幹細胞は、全能性、万能性、多能性または単能性であってもよい。組織幹細胞としては、限定されずに、例えば、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、心臓幹細胞等が挙げられる。細胞は自己由来のものであっても、同種の他の個体または異種の個体のものであってもよい。増殖させた細胞は、それを必要とする対象に移植することができる。また、増殖を促進する細胞は生体内に存在しても、生体外に存在してもよい。生体外に存在する場合、細胞は生体から単離された組織中に存在しても、組織から単離された状態で存在してもよい。
【0022】
細胞は、RGDモチーフを認識する細胞表面分子を有していてもよい。かかる細胞表面分子としては、例えば、インテグリンが挙げられる。インテグリンは、α鎖とβ鎖の2つのサブユニットからなるタンパク質である。一態様において、細胞は、β1鎖を有するインテグリンを発現している。一態様において、細胞は、αv鎖を有するインテグリンを発現している。特定の態様において、細胞は、インテグリンα5β1、α8β1、αIIBβ3、αvβ1、αvβ3、αvβ5、αvβ6およびαvβ8からなる群から選択されるインテグリンを発現している。
【0023】
細胞の増殖は、種々の既知の手法、例えば、経時的な生細胞数の計数、組織のサイズ、体積または重量の測定、DNA合成量の測定、細胞増殖マーカーの検出、WST−1法、BrdU(ブロモデオキシウリジン)法、3Hチミジン取込み法などにより評価することができる。本発明において、細胞増殖を促進するとは、RGDペプチドの存在下での細胞増殖(例えば、所定期間培養後の細胞数や、ある時点の細胞数(例えば、播種時の細胞数)からの増加率など)が、RGDペプチドの不在下での細胞増殖より増大していることを意味する。細胞増殖の増大の程度は、限定されずに、例えば、RGDペプチドの不在下での細胞増殖の、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、150%以上、200%以上、250%以上、300%以上などであってよい。
【0024】
本発明の組成物におけるRGDペプチドの配合量または有効量は、組成物が投与された場合に、細胞増殖が促進される量であってもよい。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は公知であるか、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。細胞増殖の促進は、上述の種々の手法により評価することができる。RGDペプチドの配合量は、組成物の投薬態様によって変化し得る。例えば、1回の投与に複数の単位の組成物を用いる場合、組成物1単位に配合するRGDペプチドの量は、1回の投与に必要なRGDペプチドの量の複数分の1とすることができる。かかる配合量の調整は当業者が適宜行うことができる。本発明の組成物は、in vitro、in vivoまたはex vivoで使用することができる。本発明の組成物はまた、後述の本発明の細胞培養物製造方法に用いることもできる。
【0025】
本発明はまた、RGDペプチドの有効量を、これを必要とする対象に投与する工程を含む、対象において細胞増殖を促進する方法に関する。本方法における対象は、組織に障害を受けているか、組織移植を受けていてもよい。障害は、限定されずに、例えば、組織破壊、炎症、壊死、線維化、手術的侵襲、臓器不全等を含む。また、本方法における対象は、細胞の増殖により改善し得る疾患に罹患していてもよい。かかる疾患については下記に詳述する。
【0026】
本発明はまた、RGDペプチドを有効成分として含む、組織の再生および/または細胞の増殖により改善し得る疾患の処置のための組成物、RGDペプチドを有効成分として配合することを含む、前記疾患を処置するための組成物を製造する方法、RGDペプチドの、前記疾患を処置するための組成物の製造への使用、前記疾患の処置に用いるRGDペプチド、前記疾患を処置する有効量のRGDペプチドを含む組成物、ならびに、RGDペプチドの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記疾患を処置するための方法に関する。
【0027】
組織の再生および/または細胞の増殖により改善し得る疾患としては、限定されずに、例えば、組織における細胞や細胞基質の消失を伴う疾患や、細胞や組織の移植を要する疾患などが挙げられる。細胞や細胞基質の消失は、限定されずに、例えば、壊死やアポトーシスなどによる細胞の死滅、外傷などによる組織の損傷、手術などによる組織の摘出などにより生じ得る。組織の再生および/または細胞の増殖により改善し得る疾患は、例えば、肝臓、膵臓、腎臓、腸管、肺、脾臓、心臓、骨髄、声帯、皮膚、腹膜、眼、脈管、神経組織、軟骨、骨、筋肉、乳房、毛包などの組織に生じ得る。組織の再生および/または細胞の増殖により改善し得る疾患の非限定例としては、例えば、組織線維症(例えば、肝線維症(肝硬変を含む)、肺線維症、腎線維症、膵線維症、腸管線維症、骨髄線維症、腹膜線維症等)、梗塞性疾患(例えば、心筋梗塞、脳梗塞等)、壊死性疾患(例えば、壊疽(糖尿病性壊疽を含む)、褥瘡、潰瘍等)、神経変性疾患、外傷、細胞や組織の移植を要する臓器不全、再建術を要する腫瘍性疾患(例えば、乳がん、頭頸部がん、舌がん、口腔がん、食道がん等)などが挙げられる。
【0028】
本発明の種々の組成物は、RGDペプチドに加えて、細胞成長因子を有効成分としてさらに含んでもよく、また、細胞成長因子と併用することもできる。同様に、本発明の種々の方法においても、RGDペプチドを細胞成長因子と併用することができる。細胞成長因子としては、限定されずに、例えば、HGF、EGF、VEGF、FGF、TGF−α、PDGF、HB−EGF、ニューロトロフィン、GDNFなどが挙げられる。細胞成長因子は天然に存在するものであっても、人工的に作製したものであってもよい。したがって、細胞成長因子は組換え細胞成長因子を含む。細胞成長因子のアミノ酸およびこれをコードする塩基配列に関する情報は既存のデータベース(例えば、GenBankなど)から入手し得る。
【0029】
本発明における細胞成長因子は、その機能的変異体も含む。細胞成長因子がタンパク質である場合、その機能的変異体は、限定されることなく、例えば、(i)当該タンパク質のアミノ酸配列に1個または2個以上、典型的には1個または数個の変異を有するが、なお当該タンパク質と同等の機能を有する変異体、(ii)当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を有する核酸もしくは同核酸と同一のポリペプチドをコードする核酸の塩基配列に1個または2個以上、典型的には1個または数個の変異を有する核酸によりコードされ、かつ当該タンパク質と同等の機能を有する変異体、(iii)当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を有する核酸、同核酸と同一のポリペプチドをコードする核酸もしくは(ii)の変異体をコードする核酸の相補鎖、またはその断片にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸によりコードされ、かつ、当該タンパク質と同等の機能を有する変異体、(iv)当該タンパク質のアミノ酸配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、当該タンパク質と同等の機能を有する変異体、(v)当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する核酸によりコードされ、かつ、当該タンパク質と同等の機能を有する変異体等が挙げられる。
【0030】
当業者は細胞成長因子の配列情報をもとに、上記機能的変異体を、既知の任意の手法、例えば、化学合成、制限酵素による核酸の切断または挿入、部位特異的変異導入、放射線もしくは紫外線の照射などにより適宜作製することができる。
ある変異体が細胞成長因子と同等の機能を有するか否かは、当該変異体を、細胞成長因子の既知の機能、限定されずに、例えば、細胞増殖誘導能などについて、既知の任意の方法により解析し、適切な陰性対照や、陽性対照としての細胞成長因子と比較することによって評価することができる。例えば、ある変異体において、上記機能が陰性対照より優れている場合、例えば、10%以上、25%以上、50%以上、75%以上、さらには100%以上優れている場合、および/または、同機能が陽性対照との1/100以上、1/50以上、1/25以上、1/10以上、1/5以上、さらには1/2以上である場合、この変異体を細胞成長因子の機能的変異体に含める。
【0031】
本明細書で用いる「ストリンジェントな条件」という用語は、当該技術分野において周知のパラメータであり、標準的なプロトコル集、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Press (2001)や、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992)等に記載されている。
【0032】
本発明におけるストリンジェントな条件は、例えば、65℃での、3.5×SSC(0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7)、フィコール0.02%、ポリビニルピロリドン0.02%、ウシ血清アルブミン0.02%、NaH2PO425mM(pH7)、SDS0.05%、EDTA2mMからなるハイブリダイゼーションバッファーによるハイブリダイゼーションを指す。ハイブリダイゼーション後、DNAが移された膜は、2×SSCにて室温において、次いで0.1〜0.5×SSC/0.1×SDSにて68℃までの温度において洗浄する。あるいは、ストリンジェントなハイブリダイゼーションは、ExpressHyb
(R)Hybridization Solution(Clontech Laboratories)等の市販のハイブリダイゼーションバッファーを用いて、製造者によって記載されたハイブリダイゼーションおよび洗浄条件で行ってもよい。
【0033】
同程度のストリンジェンシーを生じる結果となる使用可能な他の条件、試薬等が存在するが、当業者はかかる条件に通じていると思われるため、これらについては、本明細書中に特段記載はしていない。しかしながら、タンパク質の変異体をコードしている核酸の明確な同定ができるよう、条件を操作することが可能である。
本発明における細胞成長因子は、当該タンパク質自体やその機能的変異体のほか、当該タンパク質やその機能的変異体をコードする核酸分子をも含む。
【0034】
本明細書に記載される本発明の各種の組成物、方法等における有効成分が核酸分子(例えば、細胞成長因子をコードする核酸分子など)を含む場合、これらは、裸の核酸としてそのまま利用することもできるが、種々のベクターに担持させることもできる。ベクターとしては、プラスミドベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター等の公知の任意のものを利用することができる。ベクターは、担持する核酸の発現を増強するプロモーターを少なくとも含んでいることが好ましく、この場合、該核酸は、かかるプロモーターと作動可能に連結されていることが好ましい。核酸がプロモーターに作動可能に連結されているとは、プロモーターの作用により、該核酸のコードするタンパク質が適切に産生されるように、該核酸とプロモーターとが配置されていることを意味する。ベクターは、宿主細胞内で複製可能であってもなくてもよく、また、遺伝子の転写は宿主細胞の核外で行われても、核内で行われてもよい。後者の場合、核酸は宿主細胞のゲノムに組み込まれてもよい。
【0035】
また、有効成分は、種々の非ウイルス性脂質またはタンパク質担体に担持させることもできる。かかる担体としては、限定されずに、例えば、コレステロール、リポソーム、抗体プロトマー、シクロデキストリンナノ粒子、融合ペプチド、アプタマー、生分解性ポリ乳酸コポリマー、ポリマーなどが挙げられ、細胞内への取込み効率を高めることができる(例えば、Pirollo and Chang, Cancer Res. 2008;68(5):1247-50などを参照)。特に、カチオン性リポソームやポリマー(例えば、ポリエチレンイミンなど)が有用である。かかる担体として有用なポリマーのさらなる例としては、例えば、US 2008/0207553、US 2008/0312174等に記載のものなどが挙げられる。
【0036】
本明細書に記載される本発明の各種組成物は、生体内の組織の再生、疾患の処置などの医療用途に用いることができる。したがって、本発明の各種組成物は医薬組成物とすることができる。医薬組成物においては、有効成分の効果を妨げない限り、有効成分を他の任意成分と組み合わせてもよい。そのような任意成分としては、例えば、他の化学治療剤、薬理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤等が挙げられる。また、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記組成物を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。
【0037】
本明細書に記載される本発明の各種組成物(各種医薬組成物を含む)は、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、腫瘍内、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
【0038】
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、移植片、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0039】
本明細書に記載される本発明の各種組成物(各種医薬組成物を含む)はいずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供してもよい。かかる形態は、本発明の組成物が、脂質やタンパク質、核酸などの安定した保存が難しい成分を含むときに特に有用である。この場合、本発明の組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0040】
したがって、本発明は、本発明の各種組成物に含まれ得る有効成分を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む組成物の調製キットまたはパック、ならびに、そのようなキットまたはパックの形で提供される各種組成物の必要構成要素にも関する。本発明のキットまたはパックは、上記のほか、本発明の各種組成物の調製方法や使用方法(例えば、投与方法等)などに関する指示、例えば使用説明書や、指示内容を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等の電子記録媒体などをさらに含んでいてもよい。また、本発明のキットまたはパックは、本発明の各種組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットまたはパックは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。本発明のキットまたはパックは、本発明の組成物について上記した種々の用途、例えば、細胞増殖の促進、組織再生の促進、細胞培養物の製造などに用いることができる。
【0041】
本明細書に記載される本発明の各種方法における有効量とは、例えば、組織の再生に関しては、組織の再生を促進し、または、組織再生の遅延を解消する量であってもよく、細胞の増殖に関しては、細胞の増殖を促進し、または、細胞増殖の遅延を解消する量であってもよく、疾患の処置に関しては、疾患の症状を低減し、または疾患の進行を遅延もしくは停止する量であってもよく、好ましくは、疾患を抑制し、または治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、本発明の処置方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。RGDペプチドの1日総投与量は、限定されずに、例えば、約1μg/kg〜約1000mg/体重kg、約10μg/kg〜約100mg/体重kg、約100μg/kg〜約10mg/体重kgなどであってよい。
【0042】
本明細書に記載される本発明の処置方法において投与する有効成分の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、組織再生や細胞増殖を阻害する状態の有無、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、剤形、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
【0043】
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、腫瘍内、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる組成物の性状や、上記のものを含む対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0044】
本明細書で用いる場合、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、特定の疾患の処置が企図される場合には、典型的にはかかる疾患に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。
また、用語「処置」は、本明細書で用いる場合、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0045】
本発明はまた、RGDペプチドと細胞とを接触させる工程を含む、細胞増殖を促進させる方法に関する。この方法はin vitro、in vivoまたはex vivoで行われてもよい。RGDペプチドと細胞とを接触させる工程は、血清および/または細胞増殖因子の存在下で行うことができる。RGDペプチド、細胞、細胞増殖の促進および細胞増殖因子については、細胞増殖を促進するための組成物について上記したとおりである。
【0046】
血清は、異種血清および同種血清を含む。異種血清は、RGDペプチドと接触させる細胞とは異なる種の生物に由来する血清を意味する。例えば、当該細胞がヒト細胞である場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清に該当する。また、「同種血清」は、当該細胞と同一の種の生物に由来する血清を意味する。例えば、当該細胞がヒト細胞である場合、ヒト血清が同種血清に該当する。同種血清は、自己血清、すなわち、当該細胞が由来する個体の血清、および同個体以外の同種個体に由来する同種他家血清を含む。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を非自己血清と総称することもある。血清の濃度は、限定されずに、例えば、0.1〜50v/v%、0.5〜40v/v%、1〜30v/v%、2〜20v/v%などの範囲であってよい。
【0047】
RGDペプチドと細胞との接触は、RGDペプチドが当該細胞の増殖を促進し得る様式であれば特に限定されず、例えば、当該細胞を含む媒体(例えば、培地や生理緩衝液など)にRGDペプチドを添加して行っても、当該細胞を含む対象または組織にRGDペプチドを投与して行ってもよい。細胞と接触させる際のRGDペプチドの濃度は、限定されずに、例えば、0.1μg/mL〜100mg/mL、1μg/mL〜10mg/mL、10μg/mL〜1mg/mL、20μg/mL〜500μg/mL、25μg/mL〜400μg/mL、50μg/mL〜100μg/mLなどの範囲であってよい。
【0048】
本発明はまた、RGDペプチドと細胞とを接触させる工程、および、細胞を培養する工程を含む、細胞培養物の製造方法に関する。RGDペプチドと細胞とを接触させる工程、および/または、細胞を培養する工程は、血清および/または細胞増殖因子の存在下で行うことができる。RGDペプチド、細胞、細胞増殖の促進、RGDペプチドと細胞とを接触させる工程、血清および細胞増殖因子等については、細胞増殖を促進するための組成物または細胞増殖を促進させる方法について上記したとおりである。
【0049】
本発明における細胞の培養は、当該細胞の生存や増殖に適した条件で行うことができる。かかる条件は当業者に既知であるか、当業者が適宜調整し得る。かかる条件の非限定例としては、細胞培養培地中の、37℃、5%CO
2での培養などが挙げられる。細胞培養培地としては、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80−7、DMEM/F12などが挙げられる。培地は血清を含んでいてもいなくてもよい。
【0050】
本発明の製造方法で製造した細胞培養物は、種々の移植療法などに用いることができる。したがって、本発明の製造方法で製造する細胞培養物は、移植療法に用いるためのものであってもよい。本発明の製造方法は、所望の細胞数を有する細胞培養物を迅速に製造できるため、移植療法などにおける細胞培養物の製造に有用である。
【実施例】
【0051】
本発明を以下の例でさらに詳細に説明するが、これらは例示に過ぎず、本発明を決して限定するものではない。
【0052】
例1 RGDペプチドが肝細胞の増殖に与える影響
GFP遺伝子導入ラット(Slc Japan)の肝臓から、コラゲナーゼ溶液を門脈から灌流することより採取したラット肝実質細胞(Seglen, Methods Cell. Biol. (1976)13: 29-83)を、ラット尾由来Native collagen I(Sigma-Aldrich)を10μg/cm
2の濃度でコートした60mmディッシュに、10%ウシ胎児血清を含むDME/F12培地中2×10
5個/mlの濃度で播種し、異なる濃度のペプチド(RGDペプチド(Sigma-Aldrich, Cat. No. A8052):50μg/ml、100μg/ml、GRGESペプチド(ペプチド研究所、Cat. No. PFA-3907-PI):100μg/ml、GRGDSペプチド(ペプチド研究所、Cat. No. 4189-v):50μg/ml、100μg/ml)を加え、37℃、5%CO
2で48時間培養した。培養48時間目に、培地を10μM BrdUおよび10%FBSを含むDME/F12培地に置換して、37℃、5%CO
2でさらに24時間培養した。培養24時間目に、培地を除去し、PBSで洗浄した後、4%PFAを加え、室温で30分間固定した。固定後、PBSで洗浄し、2N HClおよび0.1%Triton X−100を含むPBSを加えて透過処理を行った。
【0053】
PBSで洗浄後、5%ヤギ血清でブロッキングを行い、マウスモノクローナル抗BrdU抗体(MBL)およびウサギポリクローナル抗GFP抗体(Life Technologies)を加えて、一次抗体反応を37℃で60分間行った。一次抗体反応後、PBSで洗浄し、Alexa Fluor
(R) 488標識ヤギ抗ウサギIgG(Life Technologies)およびAlexa Fluor
(R) 555標識ヤギ抗マウスIgG(Life Technologies)を加えて、二次抗体反応を37℃で60分間行った。二次抗体反応後、PBSで洗浄し、DAPIを含む封入剤を用いて細胞を封入した。蛍光顕微鏡像を
図1に示す。図中、矢頭はBrdU陽性細胞を示す。また、BrdU陽性細胞の割合を算出するために、BrdU陽性細胞数およびGFP陽性細胞数をカウントした。
図2に、GFP陽性細胞(全肝細胞)に対するBrdU陽性細胞(増殖肝細胞)の割合を示す。
図1および2に示した結果から、RGDペプチドにより肝細胞の増殖が促進されることが分かる。