特許第6104348号(P6104348)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104348
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】銅合金粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/08 20060101AFI20170316BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170316BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20170316BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20170316BHJP
   C22C 9/02 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
   B22F9/08 A
   B22F1/00 L
   F16C33/12 B
   F16C33/14 A
   !C22C9/02
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-213071(P2015-213071)
(22)【出願日】2015年10月29日
(62)【分割の表示】特願2012-511684(P2012-511684)の分割
【原出願日】2011年4月20日
(65)【公開番号】特開2016-94661(P2016-94661A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2015年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2010-99917(P2010-99917)
(32)【優先日】2010年4月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 知広
(72)【発明者】
【氏名】平井 良政
(72)【発明者】
【氏名】丸山 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 武
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−297052(JP,A)
【文献】 特開2009−132986(JP,A)
【文献】 特開平02−125822(JP,A)
【文献】 特開平04−228529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00−9/24
C22C 9/00−9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50質量%以上のCuと1質量%以上15質量%以下のSnと2.5質量%以下のFeと5.1質量%以下のSと0.03質量%以下のPとを含有し、残部が不可避不純物からなる原料を溶融混合した後、アトマイズ法により銅合金粉末を形成する、CuFeS1質量%以上20質量%以下含む青銅系銅合金粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受材料などの摺動部材に用いる銅合金であって、摺動性に寄与する成分として鉛以外の摺動性に寄与する成分を含有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
軸受材料などの摺動部材には、CAC603(Cu−Sn−Pb系銅合金)に代表される鉛を含む銅合金が使用されており、いずれも鉛が摺動性に寄与している。しかし、鉛の使用を抑制する社会的要請に応えるため、鉛の使用量を抑制した摺動材用銅合金が様々に検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一部をSnかZnで置き換えても良いCuをマトリクス材料とし、低摩擦合金としてFe、Ni、Coのいずれかと、MoとSとからなる合金を用いてこれらを焼結して得られる摺動部材が記載されている。MoS相が摩擦係数の低減に寄与し、硫化鉄によりMoSの生成が妨げられることを、Feの一部をMi、Coに置き換えることで抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−73758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、MoSを主な摺動材とする銅合金(特許文献1)では、MoSを得る焼結工程だけでなく、使用中でもMoSが酸化して劣化することがあるため、焼結工程での酸化を防ぐだけでは潤滑性能の低下を防ぐことができないという問題がある。
【0006】
そこでこの発明は、酸化の恐れがあるMoSに頼ることなく、有効な摺動特性を発揮する銅合金を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、CuFeSを含む摺動材用銅合金により上記の課題を解決したのである。CuFeSを含む銅合金は、高い摺動性能を発揮する。
【0008】
CuFeSを含む銅合金を得る方法としては、例えば、アトマイズ法によりCuとSとFeとを含有する原料粉末を形成させると、CuFeSを含む銅合金が生じる。これはアトマイズ法の急冷によるものと考えられ、同様の条件を達成できるのであれば製造方法は特に限定されない。
【発明の効果】
【0009】
この発明にかかる銅合金は、含有するCuFeSが摺動性を発揮するため、従来の摺動材用銅合金が有していた問題を解決したものとなる。
【0010】
この銅合金は焼結体とした後もCuFeSが存在できるため、軸受に用いる金具の裏金上にガスアトマイズ法により生成した粒子粉を散布し、焼結、圧延することで、表面に摺動性能を発揮する層を形成した積層焼結部材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1の焼結前の原料粉末のX線回折グラフ
図2】実施例2の焼結前の原料粉末のX線回折グラフ
図3】実施例1の焼結後の原料粉末のX線回折グラフ
図4】実施例2の焼結後の原料粉末のX線回折グラフ
図5】摩擦摩耗試験に用いるチップの形状を示す図
図6】摩擦摩耗試験に用いるチップホルダーの形状を示す図
図7】摩擦摩耗試験に用いるピンの形状を示す図
図8】摩擦摩耗試験に用いるディスクの形状を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、CuFeSを含む摺動材用銅合金である。CuFeSはCuとFeとSを有する原料を溶融混合した後ガスアトマイズ法や水アトマイズ法などの方法で急冷することで銅合金中に生成する。ここで、銅合金とは50質量%以上が銅からなる合金をいう。
【0013】
この銅合金はCuとFeとS以外の元素を含んでいてもよい。例えば、Snを1質量%以上15質量%以下含む青銅系銅合金でもよい。このような青銅系銅合金となる成分で焼成すると、高強度となるため好ましい。
【0014】
また、脱酸効果を発揮させるため、急冷を実行する前の溶融した段階でPを含めてもよい。
【0015】
焼結後の上記銅合金中が有するPbの量は、少ないほど好ましい。Pbが多いと環境負荷の点から好ましくない。
【0016】
これらの元素を含む、急冷を行う溶湯を作製する際に用いる原料としては、Cuの単体、Snの単体、硫化鉄、Cu−Fe、CuPなどを用いることができる。
【0017】
これらの材料を混合して溶解した後、溶湯を急冷してCuFeSを含有する銅合金材料または銅合金を生成させる。急冷方法としては、アトマイズ法を用いると、速やかに冷却できるとともに均一な粒子が得られやすいので好ましく、ガスアトマイズ法によると均一で良好な銅合金材料の原料となる粒子が得られる。ガスアトマイズ法により銅合金粒子を得るには、溶湯を入れた容器の底部に設けたノズル孔からその溶湯を流し、その流れに向かって不活性ガスをジェットで吹きつける。不活性ガスを用いるのは、原料が酸化してしまうことを防ぐためである。具体的には、窒素、アルゴンなどを用いることができる。
【0018】
上記の不活性ガスの温度は規定しないが溶湯との十分な温度差による急冷が必要となる。具体的には、10K/sec程度か、又はそれ以上の冷却速度であればよい。
【0019】
溶湯の流れはジェットで吹きつけられる不活性ガスによって微細化されるとともに急冷して微細粉末となる。この、液滴化と冷却を同時に行うために、粒子は球形に近く均質なものが得られる。この急冷の際に、CuFeSの化合物が一旦合金内に形成される。
【0020】
このガスアトマイズ法で生成する原料粉末の粒子径は150μm以下であると好ましい。粒径が大きすぎると摺動材の製造が効率的に行えないおそれがある。
【0021】
こうして得られた原料粉末を焼結して、摺動材として適した銅合金が得られる。この焼結は例えば、摺動層を形成させたい材料上に粉末を散布してから焼結すべき温度に加熱するといった方法で行うとよい。散布してから焼成する場合、一時焼結の後、圧延した後に、二次焼結を行って再度圧延すると、一時焼結だけの場合よりも強固に基材と一体化した摺動層を得ることができる。ここで焼結前の粉末に銅合金など他の合金粉末を混合した後、焼結に使用する事もできる。
【0022】
原料粉末を焼結する温度は、800℃以上900℃以下が好ましく、特に830℃以上860℃以下の条件で、5分〜60分焼結を行うことが好ましい。温度が低すぎても時間が短すぎても、温度が高すぎたり時間が長すぎたりしても摺動材として好適な機械的特性を得られなくなるおそれがある。また、焼結は還元雰囲気下で行うことが好ましい。粉末が酸化してしまうおそれがあるためである。なお、焼結炉はバッチ炉でも連続炉でもよい。
【0023】
この発明にかかる摺動材用銅合金は、CuFeSを1質量%以上含有すると、必要な摺動性を発揮することができ、2質量%以上であると十分な摺動性を確保できるのでより好ましい。一方、20質量%を超えて含有させようとしても他の相が生じてしまうために困難であり、15質量%以下であると摺動材用銅合金として現実的で好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、この発明について、青銅系銅合金としての具体的な実施例を挙げて説明する。まず、用いる原料について説明する。
【0025】
(実施例1、2)
単体のCu、単体のSn、硫化鉄、Cu−Fe、CuPを混合して坩堝に入れ、窒素雰囲気中で加熱し融解させて溶湯を得る。
【0026】
この溶湯を、流し出し、その流路上のノズルから常温窒素ガスを噴射し、10K/s程度で急冷するとともに粒子を得た。この粒子の内、粒径が150μm以下の粉末を後述する試験に用いた。
【0027】
アトマイズ法で得る実施例の目標とする材料中元素比は、実施例1ではSnが9.0〜11.0質量%、Feが1.5〜2.5質量%、Sが0.5〜0.7質量%、Pが0.01〜0.03質量%、残部がCuと不可避不純物である。また、実施例2では、Snが9.0〜11.0質量%、Feが1.5〜2.5質量%、Sが1.8〜2.2質量%、Pが0.01〜0.03質量%残部がCuと不可避不純物である。
【0028】
<X線回折試験>
こうして得られた粒子の粉末について、粉末X線回折法による解析を行った。装置はX線回折装置(XRD、(株)リガク RINT−2500H/PC)を用いた。X線源はCoKα(30kV−100mA)であり、方式はθ−2θ法である。走査解像度は0.02°で、走査速度は2°/minで行うよう60rpmで試料を回転させた。実施例1の結果を図1に、実施例2の結果を図2に示す。それぞれ(a)は全強度グラフ、(b)は拡大グラフである。いずれも、CuFeSの一形態であるPDF(Powder Diffraction File(International Centre for Diffraction Date−ICDD発行))42−1405の回折ピーク(各図下のグラフ)に相当する箇所にピークが観測されており、溶湯からの急冷によってCuFeSが生成していることが確認された。またその他の硫化物及び硫黄単体は検出されなかった。このため、実施例1及び2において、硫黄はほぼ全量がCuFeSを形成していると考えられる。
【0029】
この粒子粉末とCu(80)―Sn(20)合金粉末を混合したものを、厚さ3.2mmのバックメタル(SPC鋼板100mm×28mm)上に厚さ2.5mmとなるように散布し、還元雰囲気下の管状炉にて、830〜860℃の範囲で、10分間に亘って加熱し一次焼結を行った。その後ローラにて一次圧延を行い、次に一次焼結と同等の条件で二次焼結を行い、総厚さが90%程度(銅合金層の厚さ2mm程度)となった焼結試料を得た。この焼結試料について、上記と同様に粉末X線回折法による解析を行った。実施例1の結果を図3に、実施例2の結果を図4に示す。いずれも、CuFeSの一形態であるPDF25−1424の回折ピーク(各図下のピーク)に対応する箇所にはっきりとしたピークが観測された。またその他の硫化物及び硫黄単体は検出されなかった。このため、焼結後もCuFeSの構造が変化しているものの、硫黄はほぼ全量がCuFeSを形成したままであると考えられる。
【0030】
<成分分析>
実施例1及び2の焼結した試験片について、成分分析を行った。それぞれの成分の含有率の分析は、Sn、FeについてはICP発光分光分析法により行い、Sの含有率の分析は高周波燃焼赤外線吸収法により行い、Pの含有率はモリブドバナドりん酸吸光光度法により行い、Pbについては、ICP発光分光分析法により行った。なお、ICP発光分光分析法にあたっては、ICP分析装置として、サーモエレクトロン社製:IRIS Advantage RP CID 検出器を用いた。また、残余分を銅と計算した。その結果を表1に示す。上記の通り、Sは全量がCuFeSを形成していると考えられるので、成分比から、実施例1では2.03質量%、実施例2では6.34質量%のCuFeSが含まれると考えられる。また、比較例1及び2については合金の目標値を表1に記載した。
【0031】
【表1】
【0032】
<摩擦摩耗試験>
次に、上記の実施例1及び2、比較例1として従来の鉛含有摺動材用合金であるCAC603、比較例2としてCu:88wt%−Sn:12wt%からなるCu−Sn合金について、試験片を作製して摩擦摩耗試験を行い、PV値を測定した。
【0033】
まず、試験片の作製について説明する。実施例1,2ではガスアトマイズ法で得られた粒子とCu(80)−Sn(20)合金粉末を混合したもの、比較例2では下記表1に記載の成分比の粉末を用いX線回折試験と同じ方法にて試験片を制作した。
【0034】
実施例1,2及び比較例2の焼結品を、図5に示す形状のφ5×4tで摺動表面はRa3.2のバイメタルチップ11に加工した。なお、図の左側12が銅合金層で、右側13がバックメタルである。これを、図6に示す形状の内周がφ5.0であるチップホルダー15に、セットボルト16にて固定して試験片とした。また、比較例1のCAC603摺動材については、図7に示す形状のピン17(非段つき部19がφ8×25tで、段つき部18がφ5×6tであるように摺動側を段つき加工してある。摺動表面はRa3.2。)に加工したものを試験片とした。これらのピンと摺動させるディスクは、図8に示す形状の通り、φ55×5tで試験面がRa3.2のS45C鉄鋼製試料ディスク21を用いた。
【0035】
試験機は、高千穂精機(株)製摩擦摩耗試験機RI−S−500NPを用いた。試験機のディスク21及びチップ試験片22は流量200ml/minで流れるオイル(昭和シェル(株)製リムラD20W−20)に浸漬させており、試験環境の温度は80±5℃を維持させた。
【0036】
試験はディスクの周速を6.2m/sとし、3分間のなじみ運転の後、25MPaずつ荷重(平均面圧)を上昇させるステップ運転とし、各荷重では2分間保持した。試験中に油煙が発生した時点を焼き付きと想定して試験を終了させた。表1に各荷重での平均摩擦係数と焼き付き時の付加における平均面圧と周速の積である最大PV値を示す。
【0037】
実施例1及び2は鉛を有する従来の摺動材CAC603と同等以上の平均摩擦係数とPV値を示し、有効な摺動特性が発揮することが確かめられた。また実施例1と2を比較するとCuFeSを多く含む実施例2の方が良好な平均摩擦係数とPV値を示していることがわかる。これに対し、CuFeSを有さない比較例2は一段階目の昇圧後すぐに焼き付きを起こしてしまい、摺動特性を発揮しなかった。
【0038】
他の実施例として水アトマイズ法にて製作した粒子粉末を使用して上記と同様に製作した試験片と焼結前の粉末のX線回折試験を行ったところ、図示は省略するが両者ともCuFeS(PDF25−1424)の回折ピークに相当する箇所にはっきりとピークが観測され、その他の硫化物や硫黄単体のピークは観測されなかった。
【符号の説明】
【0039】
11 バイメタルチップ
12 銅合金層
13 バックメタル
15 チップホルダー
16 セットボルト
17 ピン
18 段つき部
19 非段つき部
21 試料ディスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8