(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104355
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】合成繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D06M 15/277 20060101AFI20170316BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20170316BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20170316BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20170316BHJP
D06M 101/20 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
D06M15/277
D06M15/53
D06M13/17
D06M13/224
D06M101:20
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-239260(P2015-239260)
(22)【出願日】2015年12月8日
(62)【分割の表示】特願2013-101298(P2013-101298)の分割
【原出願日】2008年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-75022(P2016-75022A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】川上 吉久
【審査官】
斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4161717(JP,B2)
【文献】
特開平08−291468(JP,A)
【文献】
特許第4172949(JP,B2)
【文献】
特開2000−212549(JP,A)
【文献】
特開昭57−149557(JP,A)
【文献】
特許第2836249(JP,B2)
【文献】
特開2000−248271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系撥水剤の付着量が、1〜5g/m2、およびノニオン系帯電防止剤の付着量が0.2〜1.0g/m2の範囲にあるポリプロピレン不織布からなる合成繊維構造物。
【請求項2】
フッ素系撥水剤が、パーフルオロアルキル基を有する化合物を含む(共)重合体からなる請求項1記載の合成繊維構造物。
【請求項3】
ノニオン系帯電防止剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル及び多価アルコールエステルから選ばれた一種以上である請求項1記載の合成繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥アルコール性及び撥油性に優れ、且つ耐水性を有する、衛生材料、医療用材料、衣料用材料等に好適な合成繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成繊維からなる織布、不織布等の合成繊維構造物は、通気性、柔軟性に優れることから各種用途に幅広く用いられている。そのため、合成繊維構造物には、その用途に応じた各種の特性が求められるとともに、その特性の向上が要求されている。
【0003】
また、合成繊維からなる織布、不織布等の合成繊維構造物は、一般に疎水性であり、親油性を有している。また、疎水性は有しているものの、撥水性は不十分である。
合成繊維構造物に撥水性を付与する方法として、合成繊維構造物をカチオン系帯電防止剤、アニオン系帯電防止剤及びフッ素系撥水剤を一浴に含む処理液で処理する方法(特許文献1:特公平2−55550号公報)、合成繊維構造体を、撥水剤、アニオン系帯電防止剤及び架橋剤で処理する方法(特許文献2;特開平11−189976号公報)等種々の方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、合成繊維構造物に撥水性を付与することは容易であるが、特にポリプロピレン等のポリオレフィンからなる繊維は親油性に優れることから、撥油性をも付与することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−55550号公報
【特許文献2】特開平11−189976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、撥アルコール性及び撥油性に優れ、且つ耐水性を有する合成繊維構造物を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フッ素系撥水剤の付着量が、1〜5g/m
2、およびノニオン系帯電防止剤の付着量が0.2〜1.0g/m
2の範囲にあるポリプロピレン不織布からなる合成繊維構造物に係る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の合成繊維構造物は、撥アルコール性及び撥油性に優れており、且つ耐水性を有するので衛生材料、医療用材料、衣料用材料等に好適に用い得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<合成繊維構造体>
本発明に係る合成繊維構造体は、種々公知の熱可塑性樹脂、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンおよび1−オクテン等のα−オレフィンの単独若しくは共重合体である高圧法低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン(所謂LLDPE)、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンランダム共重合体、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・1−ブテンランダム共重合体、プロピレン・1−ブテンランダム共重合体等のポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、熱可塑性ポリウレタンあるいはこれらの混合物等からなる一種以上の合成繊維からなる構造物であり、通常、織布、編布、不織布等の形状を有する。
【0010】
本発明に係る合成繊維構造体は、単層であっても二種以上の積層体あるいは合成繊維構造体と透湿性フィルム、ガス不透過性フィルム、防湿性フィルム、ガス透過性フィルム等のフィルムあるいは合成紙等との複合体であってもよい。
【0011】
合成繊維構造体の積層体あるいは複合体の例としては、例えば、スパンボンド不織布/メルトブローン不織布、スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布、スパンボンド不織布/透湿性フィルム、スパンボンド不織布/メルトブローン不織布/スパンボンド不織布/透湿性フィルムを挙げることができる。
【0012】
合成繊維構造体を構成する合成繊維としては、ポリオレフィン繊維が疎水性、耐水性に優れるので好ましく、特にポリプロピレン繊維が疎水性、耐水性、剛性、嵩高性、通気性に優れるので好ましい。
【0013】
合成繊維には、本発明の目的を損なわない範囲で、通常用いられる酸化防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、ブロッキング防止剤、無機あるいは有機の充填剤、滑剤、核剤、顔料、染料等の添加剤を必要に応じて添加されていてもよい。
【0014】
合成繊維としては、特に限定はされず、短繊維(ステープルファイバー)、撚糸、長繊維、スプリットファイバーあるいは単繊維、異型断面繊維、連糸、芯鞘構造あるいはサイドバイサイド等の複合繊維等種々の形状であってもよい。
本発明に係る合成繊維構造体は、合成繊維以外に他の成分、例えば、天然繊維、再生繊維あるいは無機繊維等を含んでいてもよい。
【0015】
<フッ素系撥水剤>
本発明に係るフッ素系撥水剤は、種々公知のフッ素系撥水剤、例えば、フルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、モノパーフルオロアルキルエチルフォスフェイト塩、パーフルオロアルキルスルホン酸ジエタノールアミド等のフロロカーボン類、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリトリフルオロモノクロルエチレン、ポリビニルフロライド、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系重合体、一般式CH
2=CR
1COOR
2Rf(式中RfはC
nF
2n+1で表されるパーフルオロアルキル基、R
1は水素原子又はメチル基、R
2は−C
mH
2m−で表されるアルキレン基であり、nは5〜16の正の整数、mは1〜10の正の整数である)で表されるパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む(共)重合体等のフッ素系化合物を挙げることができる。
【0016】
これらフッ素系化合物の中でも、パーフルオロアルキル基を有する化合物を含む(共)重合体が撥水、撥油性能で好ましい。かかるパーフルオロアルキル基を有する化合物を含む(共)重合体は、デュポン社からZonyl 7040の商品名、旭硝子社からAG−5850の商品名で製造・販売されている。
【0017】
<ノニオン系帯電防止剤>
本発明に係るノニオン系帯電防止剤は、非イオン界面活性剤とも呼ばれる界面活性剤であり、種々公知のノニオン系帯電防止剤、例えば、ポリオキシエチレアルキルエーテル(略称:AE);ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル(略称:APE);アルキルグルコキシド(AG);モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート、ポリエチレングリコールジステアレート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸ペンタエリスリット等の多価アルコールエステル;脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0018】
これらノニオン系界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル及び多価アルコールエステルが前記フッ素系撥水剤及びイソプロピルアルコールとの親和性が特に良好で、しかも肌への刺激が無い点で好ましい。
【0019】
<合成繊維構造物>
本発明の合成繊維構造物は、前記合成繊維構造体を、前記フッ素系撥水剤、前記ノニオン系帯電防止剤及びイソプロピルアルコールを含む水溶液あるいは水性分散体で処理してなることを特徴とする合成繊維構造物である。
【0020】
本発明の合成繊維構造物は、好ましくは撥アルコール性が9級以上、より好ましくは10級であり、且つ、好ましくは撥油性が7級以上の性能を有する。
本発明における撥アルコール性は、JIS L 1912医療用不織布試験法で測定した値である。
【0021】
本発明における撥油性は、AATCC 118−1992で測定した値である。
本発明の合成繊維構造物は、好ましくは表面固有抵抗が1.0×10
12Ω以下、より好ましくは1.0×10
10Ω以下であり、耐水圧が処理前の原反の60%以上を維持し、より好ましくは、80%以上のものである。表面固有抵抗値は、JIS K 6911 5.13、耐水圧は、JIS L 1092 Aに準拠して測定した値である。
【0022】
本発明に係る合成繊維構造体を処理する水溶液あるいは水性分散体におけるフッ素系撥水剤の濃度は、通常、5〜25重量%、好ましくは5〜15重量%の範囲にあり、ノニオン系帯電防止剤の濃度は、通常、2〜10重量%、好ましくは2〜5重量%の範囲にあり、イソプロピルアルコールの濃度は、通常、2〜10重量%、好ましくは2〜5重量%の範囲にある。
【0023】
合成繊維構造体に対するフッ素系撥水剤の塗布量(付着量)はフッ素系撥水剤の固形分として、通常、1〜5g/m
2、好ましくは1〜3g/m
2の範囲にあり、ノニオン系帯電防止剤の塗布量(付着量)はノニオン系帯電防止剤の固形分として、通常、0.2〜1.0g/m
2、好ましくは0.2〜0.5g/m
2の範囲にある。
【0024】
<合成繊維構造物の製造方法>
本発明の合成繊維構造物は、前記合成繊維構造体を、前記フッ素系撥水剤、前記ノニオン系帯電防止剤及びイソプロピルアルコールを含む水溶液あるいは水性分散体で処理することにより得られる。
【0025】
本発明に係る合成繊維構造体を水溶液あるいは水性分散体で処理する方法は、種々公知の方法、例えば、合成繊維構造体を水溶液等に浸漬した後乾燥する方法、合成繊維構造体に水溶液等をエアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター、ダイコーター等種々公知の塗工機を用いて塗布した後乾燥する方法、合成繊維構造体に水溶液等をスプレーコート(その他の方法)した後乾燥する方法等により処理することができる。
【0026】
水溶液等で処理した合成繊維構造体(合成繊維構造物)を乾燥する場合は、水分が蒸発する温度以上で合成繊維構造体(合成繊維構造物)が溶融しない温度未満、例えば、合成繊維構造体(合成繊維構造物)が、ポリプロピレン不織布であれば、通常、95〜120℃、好ましくは100〜105℃の温度で乾燥すればよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例における物性値等は、前述の方法により測定した。
【0028】
〔実施例1〕
デュポン社製造のパーフルオロアルキル基含有フッ素系撥水剤(商品名 Zonyl 7040)5.0g、イソプロピルアルコール2.5g(和光純薬製)、ポリオキシエチレントリデシルエーテル型ノニオン系帯電防止剤(商品名;デスパノールTOC、日本油脂製)を含んだ混合水溶液1000gに、目付け55g/m
2のポリプロピレンスパンボンド不織布/ポリプロピレンメルトブローン不織布/ポリプロピレンスパンボンド不織布(SMS不織布)(目付け構成:S/M/S=22.5/10/22.5g/m
2)を全体が含浸するまで3分間浸漬した。浸漬後、SMS不織布を取り出した後、3分間余分な水分を切り、乾燥機にて105℃で12分間乾燥して、撥アルコール処理不織布からなる合成繊維構造物を得た。
【0029】
得られた合成繊維構造物の評価結果を表1に示す。表1に記載したように、合成繊維構造物の撥アルコール性は10級及び、撥油性は8級であった。また、当該合成繊維構造物は、帯電性を有し、耐水圧も未処理(参考例1)に比較して、64%以上を維持している。
なお、得られた合成繊維構造物をプレス成形して(フィルム状)赤外線吸収スペクトルを測定した結果、C−F伸縮振動に基く1074cm
-1の吸収が観測された。
【0030】
〔実施例2〕
実施例1で用いたフッ素系撥水剤に替えて、旭硝子社製造のパーフルオロアルキル基含有フッ素系撥水剤(商品名 AG−5850)を用いる以外は実施例1と同様に行い、撥アルコール処理不織布からなる合成繊維構造物を得た。
【0031】
得られた合成繊維構造物の評価結果を表1に示す。表1に記載したように合成繊維構造物の撥アルコール性は10級及び、撥油性は8級であった。また、当該合成繊維構造物は、帯電性を有し、耐水圧も未処理(参考例1)に比較して、64%以上を維持している。
なお、得られた合成繊維構造物をプレス成形して(フィルム状)赤外線吸収スペクトルを測定した結果、C−F伸縮振動に基く1074cm
-1の吸収が観測された。
【0032】
〔比較例1〕
実施例1で用いたノニオン系帯電防止剤に替えて、リン酸エステル型アニオン系帯電防止剤(商品名 デレクトールLM−3、明成化学工業社製)を用いる以外は実施例1と同様に行い、撥アルコール処理不織布を得た。得られた撥アルコール処理不織布の評価結果を表1に示す。表1に記載したように、撥アルコール処理不織布の撥アルコール性は7級及び、撥油性は4級であった。
【0033】
〔比較例2〕
実施例1で用いたノニオン系帯電防止剤に替えて、スルホン酸ナトリウム型カチオン系帯電防止剤(商品名 エラガンT−501AN、日本油脂社製)を用いる以外は実施例1と同様に行い、撥アルコール処理不織布を得た。得られた撥アルコール処理不織布の評価結果を表1に示す。表1に記載したように、撥アルコール処理不織布の撥アルコール性は8級及び、撥油性は5級であった。
【0034】
〔参考例1〕
実施例1で用いた目付け55g/m
2のポリプロピレンスパンボンド不織布/ポリプロピレンメルトブローン不織布/ポリプロピレンスパンボンド不織布を撥アルコール処理せずに、物性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の合成繊維構造物は、撥アルコール性及び撥油性に極めて優れるので、かかる特性を活かして、種々の用途、例えば、医療用、衛生材用、包装材、産業用材料などの用途に好適に用いられ、具体的な用途として手術ガウン、作業着、電池の防水部材、化粧品部材、シューズの表面処理、防水テープ素材等に応用でき、特に使い捨ておむつや生理用ナプキンの防漏部材、液体導入経路部材として好ましく用いることができる。