(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも前後一対の針床を備える横編機を用いて編成された無縫製の編地であって、シューズを構成するシューズアッパーのうち、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバーにおいて、
前記インステップカバーのうち、着用者のアキレス腱から踵に至る領域を覆う部分をヒールカバー部とし、このヒールカバー部を除く部分をボディー部としたとき、
前記ヒールカバー部と前記ボディー部との境界線の位置で、前記ヒールカバー部の編幅方向の端部近傍の編目と前記ボディー部のウエール方向の端部の編目とが接続されることで、前記インステップカバーが立体的に形成されており、
前記インステップカバーの少なくとも一部が、前後の針床を用いて編成された編組織で構成されているインステップカバー。
前記ヒールカバー部とボディー部とで構成されるカバー本体のうち、爪先側の下端および踵側の下端の少なくとも一方に繋がり、前記カバー本体の下端側の開口部の内方側に折れ曲がることで、前記カバー本体を着用者の足の形状に沿った立体形状に保つ保形部を備える請求項1または請求項2に記載のインステップカバー。
前記保形部は、前記ヒールカバー部の下端、およびそのヒールカバー部を挟む位置にある前記ボディー部の下端に繋がる後側保形部であって、前記後側保形部における前記ヒールカバー部および前記ボディー部との接続部分の輪郭線が山型に形成されており、
前記山型の輪郭線の中間部分では、前記後側保形部のウエール方向端部の編目が、前記ヒールカバー部のウエール方向端部に連続し、
前記山型の輪郭線における中間部分を除く両側縁部分では、前記後側保形部のウエール方向端部の編目が、前記ボディー部の編幅方向端部に編成で接続されている請求項3に記載のインステップカバー。
前記保形部は、前記ボディー部の爪先側の部分の下端に繋がる前側保形部であって、前記前側保形部における前記ボディー部との接続部分の輪郭線が山型に形成されており、
前記山型の輪郭線の中間部分では、前記前側保形部のウエール方向端部の編目が、前記ボディー部のウエール方向端部に連続し、
前記山型の輪郭線における中間部分を除く両側縁部分では、前記前側保形部のウエール方向端部の編目が、前記ボディー部の編幅方向端部に編成で接続されている請求項3に記載のインステップカバー。
少なくとも前後一対の針床を備える横編機によって、シューズを構成するシューズアッパーのうち、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバーを編成するインステップカバーの編成方法において、
前記インステップカバーのうち、着用者のアキレス腱から踵に至る領域を覆う部分をヒールカバー部とし、このヒールカバー部を除く部分をボディー部としたとき、
前記ボディー部をその爪先側から踵側に向かって編成し、前記ボディー部を完成させる工程であって、前記ボディー部の左側部分と右側部分とを前記針床上で左右に並べた状態で編成する工程αと、
前記針床の長手方向における前記左側部分の終端編目列と前記右側部分の終端編目列との間で前記ヒールカバー部の上端となる編出し部を編成する工程βと、
前記編出し部のウエール方向に続いて前記ヒールカバー部となる編目列を編成することと、その編目列の編幅方向の一端側の編目及び他端側の編目をそれぞれ、前記左側部分の終端編目列の編目及び前記右側部分の終端編目列の編目に接続することと、を繰り返し、前記ヒールカバー部を完成させる工程γと、を順次行ない、
前記工程α〜前記工程γの少なくとも一部において、前後の針床を用いて編組織を編成するインステップカバーの編成方法。
前記工程αの前に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を拡げた編地であって、前記インステップカバーの爪先側の部分を着用者の爪先の丸みに沿った立体形状に保つ前側保形部を編成する工程α’、および
前記工程γの後に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を狭くした編地であって、前記インステップカバーの踵側の部分を着用者の踵の丸みに沿った立体形状に保つ後側保形部を編成する工程γ’の少なくとも一方を行い、
前記工程α’を行う場合、前記工程αでは、前記前側保形部のウエール方向終端部のセンター編目列に連続して前記ボディー部を編み出し、前記ボディー部の編成コース数を増す際、前記前側保形部のウエール方向終端部における前記センター編目列を除くサイド編目列に、前記ボディー部の編幅方向端部の編目を形成し、
前記工程γ’を行う場合、前記工程γ’では、前記ヒールカバー部のウエール方向終端部、およびそのウエール方向終端部を挟む位置にある前記ボディー部の編幅方向端部に連続して前記後側保形部を編み出す請求項6に記載のインステップカバーの編成方法。
少なくとも前後一対の針床を備える横編機によって、シューズを構成するシューズアッパーのうち、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバーを編成するインステップカバーの編成方法において、
前記インステップカバーのうち、着用者のアキレス腱から踵に至る領域を覆う部分をヒールカバー部とし、このヒールカバー部を除く部分をボディー部としたとき、
前記ヒールカバー部をその下端側から上端側に向かって徐々に編幅を狭くしながら編成し、前記ヒールカバー部を完成させる工程δと、
前記ヒールカバー部の編幅方向の一端側の縁に続けて前記ボディー部の左側部分を編出すと共に、前記ヒールカバー部の編幅方向の他端側の縁に続けて前記ボディー部の右側部分を編出す工程εと、
前記ボディー部をその踵側から爪先側に向かって編成し、前記ボディー部を完成させる工程であって、前記ボディー部の左側部分と右側部分とを前記針床上で左右に並べた状態で編成する工程ζと、
を順次行ない、
前記工程δ〜前記工程ζの少なくとも一部において、前後の針床を用いて編組織を編成するインステップカバーの編成方法。
前記工程δの前に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を拡げた編地であって、前記インステップカバーの踵側の部分を着用者の踵の丸みに沿った立体形状に保つ後側保形部を編成する工程δ’、および
前記工程ζの後に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を狭くした編地であって、前記インステップカバーの爪先側の部分を着用者の爪先の丸みに沿った立体形状に保つ前側保形部を編成する工程ζ’の少なくとも一方を行い、
前記工程δ’を行う場合、前記工程δでは、前記後側保形部のウエール方向終端部のセンター編目列に連続して前記ヒールカバー部を編み出し、前記工程ζでは、前記ボディー部の編成コース数を増す際、前記後側保形部のウエール方向終端部における前記センター編目列を除くサイド編目列に、前記ボディー部の編幅方向端部の編目を順次形成し、
前記工程ζ’では、前記ボディー部のウエール方向終端部、およびそのウエール方向終端部を挟む位置にある前記ボディー部の編幅方向端部に連続して前記前側保形部を編み出す請求項8に記載のインステップカバーの編成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3の技術では、インステップカバーの左右に分かれた部分を繋げて立体的な形状にするために、インステップカバーの一部を縫製する必要がある。この縫製作業が煩雑であるため、特許文献1〜3の技術を用いたシューズの製造には、シューズの生産効率(時間、コストなど)が芳しくないという問題があった。
【0005】
上記問題点に対して、予め踵の部分が繋がった立体的に編成されたインステップカバーがあれば、シューズの生産性を向上させることができると考えられる。しかし、そのようなインステップカバー、およびその編成方法は今のところ提案されていない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、予め立体的に編成されたインステップカバーと、その編成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のインステップカバーは、少なくとも前後一対の針床を備える横編機を用いて編成された無縫製の編地であって、シューズを構成するシューズアッパーのうち、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバーに係る。このインステップカバーのうち、着用者のアキレス腱から踵に至る領域を覆う部分をヒールカバー部とし、このヒールカバー部を除く部分をボディー部としたとき、ヒールカバー部とボディー部との境界線の位置で、ヒールカバー部の編幅方向の端部近傍の編目とボディー部のウエール方向の端部の編目とが接続されることで、インステップカバーが立体的に形成されており、インステップカバーの少なくとも一部が、前後の針床を用いて編成された編組織で構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のインステップカバーとして、ヒールカバー部が、その下端側から上端側に向かうに従い徐々に幅が狭くなる形状を備える形態を挙げることができる。
【0009】
本発明のインステップカバーとして、ヒールカバー部とボディー部とで構成されるカバー本体のうち、爪先側の下端および踵側の下端の少なくとも一方に繋がり、カバー本体の下端側の開口部の内方側に折れ曲がることで、カバー本体を着用者の足の形状に沿った立体形状に保つ保形部を備える形態を挙げることができる。特に、後述する実施形態4に示すように、保形部におけるカバー本体との接続部分の輪郭線のうち、中間部分では、保形部のウエール方向端部の編目がカバー本体のウエール方向端部に連続し、中間部分を除く両側縁部分では、保形部のウエール方向端部の編目がカバー本体の編幅方向に編成で接続されている形態が好ましい。
【0010】
本発明のインステップカバーとして、上記保形部が、ヒールカバー部の下端、およびそのヒールカバー部を挟む位置にあるボディー部の下端に繋がる後側保形部であって、その後側保形部におけるヒールカバー部およびボディー部との接続部分の輪郭線が山型に形成されている形態を挙げることができる。その山型の輪郭線の中間部分では、後側保形部のウエール方向端部の編目が、ヒールカバー部のウエール方向端部に連続し、山型の輪郭線における中間部分を除く両側縁部分では、後側保形部のウエール方向端部の編目が、ボディー部の編幅方向端部に編成で接続されている。山型の輪郭線には、アーチ状の輪郭線や台形状の輪郭線が含まれる。この輪郭線の意義は、次の前側保形部においても同様である。
【0011】
本発明のインステップカバーとして、上記保形部が、ボディー部の爪先側の部分の下端に繋がる前側保形部であって、その前側保形部におけるボディー部との接続部分の輪郭線が山型に形成されている形態を挙げることができる。その山型の輪郭線の中間部分では、前側保形部のウエール方向端部の編目が、ボディー部のウエール方向端部に連続し、山型の輪郭線における中間部分を除く両側縁部分では、前側保形部のウエール方向端部の編目が、ボディー部の編幅方向端部に編成で接続されている。
【0012】
本発明のインステップカバーの編成方法(以下、編成方法I)は、少なくとも前後一対の針床を備える横編機によって、シューズを構成するシューズアッパーのうち、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバーを編成するインステップカバーの編成方法に係る。この本発明の編成方法Iでは、インステップカバーのうち、着用者のアキレス腱から踵に至る領域を覆う部分をヒールカバー部とし、このヒールカバー部を除く部分をボディー部としたとき、以下の工程α〜工程γを順次行ない、その工程α〜工程γの少なくとも一部において、前後の針床を用いて編組織を編成することを特徴とする。
[工程α]…ボディー部をその爪先側から踵側に向かって編成し、ボディー部を完成させる工程であって、ボディー部の左側部分と右側部分とを針床上で左右に並べた状態で編成する工程。
[工程β]…針床の長手方向における左側部分の終端編目列と右側部分の終端編目列との間でヒールカバー部の上端となる編出し部を編成する工程。
[工程γ]…編出し部のウエール方向に続いてヒールカバー部となる編目列を編成することと、その編目列の編幅方向の一端側の編目及び他端側の編目をそれぞれ、左側部分の終端編目列の編目及び右側部分の終端編目列の編目に接続することと、を繰り返し、ヒールカバー部を完成させる工程。
【0013】
上記編成方法Iとして、下記工程α’および下記工程γ’の少なくとも一方を行う形態を挙げることができる。
[工程α’]…工程αの前に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を拡げた編地であって、インステップカバーの爪先側の部分を着用者の爪先の丸みに沿った立体形状に保つ前側保形部を編成する工程。この工程α’を行う場合、工程αでは、前側保形部のウエール方向終端部のセンター編目列に連続してボディー部を編み出し、ボディー部の編成コース数を増す際、前側保形部のウエール方向終端部における前記センター編目列を除くサイド編目列に、ボディー部の編幅方向端部の編目を形成する。
[工程γ’]…工程γの後に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を狭くした編地であって、インステップカバーの踵側の部分を着用者の踵の丸みに沿った立体形状に保つ後側保形部を編成する工程。この工程γ’を行う場合、工程γ’では、ヒールカバー部のウエール方向終端部、およびそのウエール方向終端部を挟む位置にあるボディー部の編幅方向端部に連続して後側保形部を編み出す。
【0014】
本発明のインステップカバーの編成方法(編成方法II)は、少なくとも前後一対の針床を備える横編機によって、シューズを構成するシューズアッパーのうち、着用者の甲側の部分を覆うインステップカバーを編成するインステップカバーの編成方法に係る。この本発明の編成方法IIでは、インステップカバーのうち、着用者のアキレス腱から踵に至る領域を覆う部分をヒールカバー部とし、このヒールカバー部を除く部分をボディー部としたとき、以下の工程δ〜工程ζを順次行ない、その工程δ〜工程ζの少なくとも一部において、前後の針床を用いて編組織を編成することを特徴とする。
[工程δ]…ヒールカバー部をその下端側から上端側に向かって徐々に編幅を狭くしながら編成し、ヒールカバー部を完成させる工程。
[工程ε]…ヒールカバー部の編幅方向の一端側の縁に続けてボディー部の左側部分を編出すと共に、ヒールカバー部の編幅方向の他端側の縁に続けてボディー部の右側部分を編出す工程。
[工程ζ]…ボディー部をその踵側から爪先側に向かって編成し、ボディー部を完成させる工程であって、ボディー部の左側部分と右側部分とを針床上で左右に並べた状態で編成する工程。
【0015】
上記編成方法IIとして、下記工程δ’および下記工程ζ’の少なくとも一方を行う形態を挙げることができる。
[工程δ’]…工程δの前に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を拡げた編地であって、インステップカバーの踵側の部分を着用者の踵の丸みに沿った立体形状に保つ後側保形部を編成する工程。この工程δ’を行う場合、工程δでは、後側保形部のウエール方向終端部のセンター編目列に連続してヒールカバー部を編み出し、工程ζでは、ボディー部の編成コース数を増す際、後側保形部のウエール方向終端部におけるセンター編目列を除くサイド編目列に、ボディー部の編幅方向端部の編目を順次形成する。
[工程ζ’]…工程ζの後に、ウエール方向の始端部から終端部に向かって徐々に編幅を狭くした編地であって、インステップカバーの爪先側の部分を着用者の爪先の丸みに沿った立体形状に保つ前側保形部を編成する工程。この工程ζ’では、ボディー部のウエール方向終端部、およびそのウエール方向終端部を挟む位置にあるボディー部の編幅方向端部に連続して前側保形部を編み出す。
【発明の効果】
【0016】
本発明のインステップカバーは、立体的な形状に形成された無縫製のインステップカバーとなる。それは、インステップカバーをヒールカバー部とボディー部とに分けて編成し、かつヒールカバー部の編幅方向端部とボディー部のウエール方向端部とを編成で繋げているからである。このような接続状態にあるヒールカバー部とボディー部とは互いに支え合い、インステップカバーの踵側部分を立体的な形状に維持する。立体的な本発明のインステップカバーは、シューズの生産性を向上させる効果を持つ。それは、特許文献1〜3のインステップカバーにおいて必要であった縫製作業が、本発明のインステップカバーには必要がないからである。また、立体的な本発明のインステップカバーは、ソールカバーと組み合わせてシューズとする際、インステップカバーとソールカバーとの位置合わせを容易に行なえることも、シューズの生産性を向上させることができる要因の一つである。
【0017】
また、本発明のインステップカバーは、その少なくとも一部が前後の針床を用いて編成された肉厚の編組織で構成されているため、丈夫である。使用時に負荷がかかるシューズのインステップカバーを肉厚の編組織で構成すれば、形崩れし難く、確りしたシューズを作製することができる。
【0018】
ヒールカバー部を、インステップカバーの下端側から上端側に向かうに従い徐々に幅が狭くなる形状とすることで、インステップカバーの踵側の部分の形状を、着用者の足の形状により近い形状にすることができる。ヒールカバー部の下端側(つまり、底側)の幅が広くなっているため、インステップカバーの踵側の部分に丸みを持たせることができるからである。
【0019】
ヒールカバー部とボディー部とで構成されるカバー本体の爪先側および踵側の少なくとも一方に保形部を形成することで、カバー本体(即ち、インステップカバー)のうち、保形部を設けた部分の形状を立体的な形状にすることができる。特に、上述した編目の繋がりを持つ前側保形部(後側保形部)であれば、カバー本体の爪先側(踵側)の形状を、さらに着用者の足の形状に沿った立体的な形状とすることができる。
【0020】
編成方法Iおよび編成方法IIによれば、本発明のインステップカバーを編成することができる。いずれの編成方法においても、ボディー部の左側部分と右側部分とを針床上で左右に並べて編成しているため、前後の針床を用いてボディー部を編成することができる。その結果、ボディー部は、天竺組織などの編組織に比べて肉厚の編組織となる。もちろん、ヒールカバー部も前後の針床を用いて編成することができる。
【0021】
後側保形部あるいは前側保形部を編成する編成方法Iおよび編成方法IIによれば、ヒールカバー部のみを備えるインステップカバーよりも、インステップカバーを立体的に形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のインステップカバーとその編成方法の実施形態を図面に基づいて説明する。いずれの実施形態においても、インステップカバーの編成には、少なくとも前後一対の針床を備えた2枚ベッド横編機を用いた。もちろん、4枚ベッド横編機などで本発明のインステップカバーを編成することもできる。
【0024】
<実施形態1>
≪全体構成≫
実施形態1では、
図1に示すインステップカバー1を編成する例を説明する。図中の大きなクロスハッチングで示す部分はインステップカバー1の表側(外側)を、小さなクロスハッチングで示す部分はインステップカバー1の裏側(内側)を表している。
【0025】
インステップカバー1は、シューズにおける着用者の甲側部分を覆う部材であって、横編機を用いて無縫製で編成された部材である。インステップカバー1の少なくとも一部は、熱融着糸を含む融着編糸を用いて編成することが好ましい。このインステップカバー1の上方にはシューズ開口部5が形成されており、このシューズ開口部5は、着用者が足を挿入する履き口5iと、履き口5iから爪先側に向かって延びるスリット5sと、で構成されている。インステップカバー1におけるスリット5sの位置には、靴紐を通す鳩目孔(eyelet hole)6が形成されている。靴紐を用いないシューズであれば、鳩目孔6は必要ない。もちろん、スリット5sがないインステップカバー1とすることもできる。
【0026】
このインステップカバー1の下端側の開口部(
図1(B)参照)に、着用者の足裏部分を覆うソールカバー(図示せず)を組合せ、そのソールカバーの外側に樹脂などでできたアウターソール(図示せず)を取り付けることで、シューズを完成させることができる。
【0027】
上記インステップカバー1は、ソールカバーやアウターソールを取り付けていない状態であっても立体的に形成されている。特に、インステップカバー1の踵側の部分が立体的に形成されている。それは、後述するインステップカバーの編成方法に示すように、インステップカバー1を、ヒールカバー部10とボディー部11とに分けて編成しているからである。以降、ヒールカバー部10とボディー部11をまとめてカバー本体15と表現する場合もある。
【0028】
≪ヒールカバー部≫
インステップカバー1を構成するヒールカバー部10は、着用者のアキレス腱から踵に至る領域を覆う部分である。このヒールカバー部10は、インステップカバー1の上端(即ち、開口部5iの側)から下端(シューズのソール側)に至る大きさを有している。このヒールカバー部10の幅(インステップカバー1の靴幅方向の長さ)は、インステップカバー1の上端から下端にかけて一定であっても良いし、異なっていても良い。本実施形態のヒールカバー部10は、その下端側から上端側に向かって徐々に幅が狭くなる形状を備えている。逆に、ヒールカバー部10の上端側から下端側に向かって徐々に幅が狭くなる形状を備えていても構わない。
【0029】
ヒールカバー部10を構成する編目は、インステップカバー1の高さ方向における上側または下側に向いている。当該編目が上側を向く編目となるか、下側を向く編目となるかは、後述する編成方法の手順次第である。いずれにせよ、インステップカバー1の高さ方向がヒールカバー部10のウエール方向となり、インステップカバー1の幅方向がヒールカバー部10の編幅方向となる。従って、図中のヒールカバー部10とボディー部11との境界線L1,L2には、ヒールカバー部10の編幅方向端部の編目が並んでいる。
【0030】
≪ボディー部≫
ボディー部11は、インステップカバー1におけるヒールカバー部10を除く部分である。このボディー部11を構成する編目は、インステップカバー1の長さ方向における踵側または爪先側に向いている。つまり、インステップカバー1の長さ方向がボディー部11のウエール方向となり、インステップカバー1の高さ方向がボディー部11の編幅方向となる。従って、境界線L1,L2に、ボディー部11のウエール方向端部の編目が並んでいる。
【0031】
ボディー部11の側縁には、シューズアッパーにおけるソールカバーに相当するものが繋がっていない。つまり、ボディー部11の左側部分11L(右側部分11R)のうち、インステップカバー1の下端側(シューズのソール側)は、編成の引き返し端となっている。この点は、後述するいずれの実施形態でも同様である。
【0032】
≪ヒールカバー部とボディー部との接続≫
編目の方向が異なるヒールカバー部10とボディー部11とは、境界線L1,L2の位置で接続されている。より具体的には、境界線L1(L2)の位置で、ヒールカバー部10の編幅方向の端部近傍の編目(端部の編目、もしくは端部から1〜2目内側の編目)と、ボディー部11の左側部分11L(右側部分11R)のウエール方向端部の編目と、が接続されている。ヒールカバー部10とボディー部11とがこのような接続関係で接続されることで、ヒールカバー部10とボディー部11とが互いに支え合う状態になる。その結果として、インステップカバー1、特にその踵側の部分が立体形状に保形される。予め立体的に形成されているインステップカバー1であれば、ソールカバーやアウターソールと組み合わせてシューズを作製する際、シューズの生産性を向上させることができる。インステップカバー1には、特許文献1〜3のインステップカバーでは必要であったインステップカバーを立体的に形成するための縫製作業が必要ないからである。
【0033】
≪インステップカバーの編組織≫
インステップカバー1(ヒールカバー部10およびボディー部11)の少なくとも一部、本実施形態ではインステップカバー1全体が、前後の針床を用いて編成された編組織で構成されている。その編組織が前後の針床を用いて編成されたことは、編地の編目の状態や編糸の繋がりを調べれば分かる。このような編組織は、天竺などの編組織よりも厚く、丈夫である。使用時に負荷がかかるシューズのインステップカバー1を肉厚の編組織で構成すれば、形崩れし難く、確りしたインステップカバー1とすることができ、シューズの耐久性を向上させることができる。肉厚の編組織の編成方法については、後述する。
【0034】
≪インステップカバーの編成方法≫
上記インステップカバー1は、以下に示す編成方法Iもしくは編成方法IIによって編成することができる。
・編成方法I…ボディー部11を爪先側から踵側に向かって編成し、次いでヒールカバー部10を上端側から下端側に向かって編成する編成方法。
・編成方法II…ヒールカバー部10を下端側から上端側に向かって編成し、次いでボディー部11を踵側から爪先側に向かって編成する編成方法。
以下、編成方法Iおよび編成方法IIを順次説明する。
【0035】
[編成方法I]
編成方法Iの説明には
図2を用いる。
図2は、編成方法Iの編成手順を示す模式図である。
図2の白抜き矢印は編成の進行方向(ウエール方向に同じ)を示し、各部10,11における横線は編幅方向(編目が並ぶ方向)を示す。また、図中で編成の要所となる部分に大文字アルファベットを付している。この白抜き矢印、横線、およびアルファベットの意義は、
図4、
図6、
図7、
図9、
図10においても共通である。
【0036】
編成方法Iではまず、ボディー部11をその爪先側から踵側に向かって編成し、ボディー部11を完成させる工程αを行なう。その際、ボディー部11の左側部分11Lと右側部分11Rとを針床上で左右に並べた状態で編成する。ボディー部11の編成において、部分的に編組織や編糸を変えても良い。
【0037】
工程αでは、左側部分11Lと右側部分11Rの編幅を適宜増やしたり減らしたりして、両部分11L,11Rを着用者の足に沿った形状にする。また、本実施形態では、ボディー部11の後に編成するヒールカバー部10の形状を考慮して、ボディー部11の踵側で両部分11L,11Rの編幅を徐々に減らす。そのため、左側部分11Lについては、点A−点Bに左側部分11Lのウエール方向終端部の編目が並んだ状態になっており、右側部分11Rについては、点E−点Fに右側部分11Rのウエール方向終端部の編目が並んだ状態となっている。
【0038】
上記工程αに続いて、針床の長手方向における左側部分11Lの終端編目列(点A−点B参照)と、右側部分11Rの終端編目列(点E−点F参照)と、の間でヒールカバー部10の上端となる編出し部10s(点G−点H参照)を編成する工程βを行なう。
【0039】
上記工程βに続いて、編出し部10sのウエール方向に続いてヒールカバー部10となる編目列を編成することと、その編目列の編幅方向の一端側の編目(点G−点Iの編目)及び他端側の編目(点H−点Jの編目)をそれぞれ、左側部分11Lの終端編目列の編目及び右側部分11Rの終端編目列の編目に接続することと、を繰り返し、ヒールカバー部10を完成させる工程γを行なう。上記一端側の編目(他端側の編目)とは、編幅方向に並ぶ複数の編目のうち、左側部分11L側(右側部分11R側)にある編目のことである。ヒールカバー部10とボディー部11との接続の際は、ボディー部11の編目をヒールカバー部10側に寄せて、両部10,11の編目を重ねると良い。重ね目のウエール方向に続いてヒールカバー部10の編目列を編成すれば、重ね目が固定されて、ヒールカバー部10とボディー部11とが接続される。
【0040】
ヒールカバー部10は左右対称の形状としても良いし、左右の足の形状に合わせて非対象の形状としても良い。また、ヒールカバー部10を編成する編糸は、ボディー部11を編成する編糸と同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0041】
以上説明した手順に従えば、インステップカバー1における境界線L1,L2の位置で、ヒールカバー部10の編幅方向端部と、ボディー部11のウエール方向端部と、が接続された
図1のインステップカバー1を編成することができる。この手順に従って編成されたインステップカバー1のボディー部11の編目は踵側に向き、ヒールカバー部10の編目は下側に向く。
【0042】
ここで、本実施形態では、インステップカバー1全体を肉厚の編組織としている。肉厚の編組織は、前後の針床を用いて編成される。そのような肉厚の編組織の編成方法は、前後の針床を用いて編組織に厚みを持たせる編成方法であれば良く、特に限定されない。例えば、リブ編みや袋編みなどの前後の針床を用いる編成を適宜組み合わせて肉厚の編組織を編成すれば良い。以下に、袋編みを利用した肉厚の編組織の編成例を
図3に基づいて説明する。
【0043】
図3は、肉厚の編組織の編成方法の一例を示す編成工程図である。
図3の『S+数字』は編成工程の番号を、右欄の黒点は前針床(FB)と後針床(BB)の編針を、Vマークはタック目を、黒丸は各工程で編成される新規編目、白丸は旧編目を示す。また、
図3における編針の位置は小文字アルファベットで特定するものとする。
【0044】
S1では、給糸口8を用いて、FBの編針a,c,e,g,i,kとBBの編針b,d,f,h,jに交互にタック編成する。S2では、給糸口9を用いて、S1で掛け目を形成しなかった編針に交互にタック編成する。S3では、給糸口8を用いて、BBに係止される全ての編目のウエール方向に連続する編目列を編成する。S4では、給糸口9を用いて、FBに係止される全ての編目のウエール方向に連続する編目列を編成する。以降は、S1〜S4と同様の編成を繰り返す。その結果、S3とS4に示す袋編みで編成された編目列によって肉厚の編組織が形成される。
【0045】
図3を参照して説明したように、肉厚の編組織の編成に前後の針床を利用できるのは、
図2に示すように、左側部分11Lと右側部分11Rとが左右に並んだ状態で編成され、針床の長手方向における左側部分11Lの編成領域と右側部分11Rの編成領域とが重複していないからである。
【0046】
なお、
図3に示す編成方法によって左側部分11Lと右側部分11Rを編成した後、
図2に示すようにヒールカバー部10の編成を開始する場合、各部11L,11RのBB側の編目をFB側の編目に重ね合わせ、両部分11L,11Rをヒールカバー部10の側に寄せるための空針をBBに形成する(4枚ベッド横編機など、FBとBBに空針が無くても目移しを行なえる場合は、この限りではない)。さらに、ボディー部11とヒールカバー部10との接合の際に、ヒールカバー部10の幅を、ボディー部11のウエール方向端部と重複する幅とすることで、ボディー部11の編目をヒールカバー部10の側に寄せる必要がなく、編目が傷むことを回避することができる。
【0047】
[編成方法II]
編成方法Iとは逆の順番で編成を行なう編成方法IIの説明には
図4を用いる。
図4は、編成方法IIの編成手順を示す模式図であって、その見方は
図2と同じである。
【0048】
編成方法IIではまず、ヒールカバー部10を、インステップカバー1の下端側(紙面下側)から上端側に向かって徐々に編幅を狭くしながら編成し、前記ヒールカバー部10を完成させる工程δを行なう。具体的には、ヒールカバー部10の編出し部(点A−点B参照)を編成し、その編出し部のウエール方向に続く複数の編目列を編成する。その際、編目列の編幅を徐々に狭めていく。その結果得られたヒールカバー部10の編幅方向の一端側の縁10l(点B−点D参照)に並ぶ編目(Vマーク参照)、及び他端側の縁10r(点A−点C参照)に並ぶ編目(Vマーク参照)は、針床上に係止された状態となる。一方、ヒールカバー部10のウエール方向終端部(点C−点D参照)は、伏目処理などで針床から外された状態となる。
【0049】
工程δの次に、ヒールカバー部10の編幅方向の一端側の縁10lに続けてボディー部11の左側部分11Lを編出すと共に、ヒールカバー部10の編幅方向の他端側の縁10rに続けてボディー部11の右側部分11Rを編出す工程εを行なう。これら左側端部11Lと右側部分11Rとは別々の給糸口を利用して編成する。
【0050】
工程εの後に、ボディー部11をその踵側から爪先側に向かって編成し、ボディー部11を完成させる工程であって、ボディー部11の左側部分11Lと右側部分11Rとを針床上で左右に並べた状態で編成する工程ζを行なう。その際、足の形状に合わせて左側部分11Lと右側部分11Rの編幅を適宜増減する。また、シューズ開口部5のスリット5sの先端の位置まで左側部分11Lと右側部分11Rとを編成したら、両部分11L,11Rとを一つに纏め、ボディー部11を爪先まで編成する。ここで、両部11L,11Rを編成する際、ヒールカバー部10の編目を寄せる操作が必要ないため、ヒールカバー部10の編目が寄せによって損傷することを回避できる。
【0051】
以上説明した手順に従えば、
図1に示す踵側の部分が立体的に形成されたインステップカバー1を編成することができる。このインステップカバー1におけるヒールカバー部10の編目は上側に向き、ボディー部11の編目は爪先側に向く。
【0052】
<実施形態2>
実施形態2では、実施形態1の構成に加えて保形部12を備えるインステップカバー2を
図5に基づいて説明する。また、そのインステップカバー2の編成方法を
図6に基づいて説明する。
【0053】
≪インステップカバーの構成≫
図5(B)に示すように、保形部12は、ヒールカバー部10の下端側に繋がり、カバー本体15の下端側の開口部の内方側に折れ曲がることで、インステップカバー2の踵側の部分を着用者の踵の丸みに沿った立体形状に保つ役割を果たす。保形部12におけるヒールカバー部10との接続部分の輪郭線は山型に形成されている。
【0054】
保形部12は、ヒールカバー部10との接続側から離れるに従って徐々に編幅が広がる形状を備えており、ウエール方向に並ぶ編成コースの編目の数の差によってインステップカバー2の踵が立体的になる。つまり、保形部12における上記輪郭線の中間部分には保形部12のウエール方向端部の編目が並び、上記輪郭線のうちの中間部分を除く両側縁部分には保形部12の編幅方向端部の編目が並んでいる。従って、輪郭線の中間部分ではヒールカバー部10のウエール方向端部の編目と保形部12のウエール方向端部の編目とが連続しており、両部10,12の間に外観上の繋ぎ目がない。一方、輪郭線の両側縁部分ではヒールカバー部10のウエール方向端部の編目と保形部12の編幅方向端部の編目とが編成によって接続されており、両部10,12との間に繋ぎ目がある。
【0055】
上述した接続関係にあるヒールカバー部10と保形部12とは、ヒールカバー部10とボディー部11とが支え合うのと同様に、互いに支え合う。そのため、保形部12によって、ヒールカバー部10の下端側の部分が、着用者の踵の丸みに沿った立体形状に保たれる。その結果、本実施形態2のインステップカバー1は、より着用者の足の形状に沿ったインステップカバー2となる。
【0056】
≪インステップカバーの編成方法≫
上記インステップカバー2は、
図6に示す編成手順に従って編成することができる。この
図6では、ボディー部11の爪先側から踵側に向かって編成を行なっており、ボディー部11とヒールカバー部10の編成手順は、
図2を参照する編成方法Iと全く同じである。
【0057】
本実施形態のインステップカバー2では、ヒールカバー部10のウエール方向に続いてさらに保形部12を編成している。より具体的には、ヒールカバー部10のウエール方向終端部の編目列のうち、中間領域にある一部の編目(点K−点Lを参照)のウエール方向に続いて保形部12を編出す。そして、保形部12の編出し部に続いて徐々に編幅を拡げた複数の編目列からなる保形部12を編成する。その際、ヒールカバー部10のウエール方向端部の編目(点K−点I,点L−点J参照)と、保形部12の編幅方向端部の編目(点K−点M,点L−点N参照)と、を接続する。
【0058】
以上説明した手順に従えば、保形部12の斜部の位置で、ヒールカバー部10のウエール方向端部と、保形部12の編幅方向端部と、が接続された
図5に示すインステップカバー2を編成することができる。このインステップカバー2は、保形部12によって、実施形態1の構成よりもさらに着用者の足の形状に沿った立体的な形状に保たれている。また、このインステップカバー2を足型に嵌めて熱処理する場合、保形部12が足型の踵の位置に引っ掛かるため、足型にインステップカバー2を嵌め易く、また足型に対してインステップカバー2の位置がずれ難い。さらに、上記手順で編成されたインステップカバー2では、インステップカバー2の編終わり部(保形部12の編終わり部)がソール側に隠れるので、インステップカバー2の見栄えを向上させることができる。
【0059】
ここで、保形部12のウエール方向終端部の編幅(点M−点Nの長さ)を、ヒールカバー部10のウエール方向終端部の編幅(点I−点Jの長さ)よりも長くしても構わない。その場合、保形部12の編幅方向端部の編目(点K−点M,点L−点N参照)のうち、ヒールカバー部10に接続されずに余った編目は、ボディー部11における点A,F近傍の編幅方向端部の編目に接続すると良い。そうすることで、カバー本体15の踵側の形状をより立体的な形状にすることができる。
【0060】
なお、実施形態2のインステップカバー2は、保形部12→ヒールカバー部10→ボディー部11の順に編成することもできる。
【0061】
<実施形態3>
実施形態3では、保形部の構成が実施形態2とは異なるインステップカバー3,4を
図7に基づいて説明する。
図7は、インステップカバー3,4の編成手順を示す模式図である。
【0062】
図7(A)では、実施形態2と同様の手順で保形部12Aを形成した後、さらに保形部12Aのウエール方向に連続してソール側編地120Aを編成し、インステップカバー3を完成させた。ソール側編地120Aは、着用者の足裏に対応する形状を備えており、ソールカバーの代わりとなる。
【0063】
一方、
図7(B)では、先端部13を編成した後、ボディー部11、ヒールカバー部10、保形部12B、ソール側編地120Bの順に編成し、インステップカバー4を完成させた。先端部13と保形部12Bとソール側編地120Bとを合わせたものがソールカバーとして機能する。先端部13におけるボディー部11側の編幅方向の端部を、ボディー部11に接続しても良い。
【0064】
その他、
図7(B)に示す先端部13の形状を細くして、先端部13をボディー部11側に折り返したときに、先端部13がシューズのタン(tongue)となるようにしても良い。また、先端部13のみで保形部を備えない構成などとすることもできる。これらソールカバーやタンなどになる部材は、自由に組み合わせてボディー部11の爪先側やヒールカバー部10に設けることができる。さらに、各部を構成する編糸を同一にしても良いし、異ならせても良い。
【0065】
なお、インステップカバー3,4は、
図7(A),(B)の白抜き矢印とは反対方向に編成することもできる。
【0066】
<実施形態4>
実施形態4では、後側保形部22および前側保形部32を備えるインステップカバー7を
図8に基づいて説明する(各部22,32については、45°の斜めハッチング部分を参照)。また、そのインステップカバー7の編成方法を
図9に基づいて説明する。
【0067】
≪インステップカバーの構成≫
インステップカバー7のヒールカバー部10とボディー部11の構成は、実施形態1や実施形態2と同様の構成を備えるため、その説明は省略する。以降は、後側保形部22および前側保形部32の構成を主に説明する。なお、インステップカバー7に、後側保形部22および前側保形部32のいずれか一方のみを設けても良い。
【0068】
[後側保形部]
図8に示すように、後側保形部22は、ヒールカバー部10の下端側、およびヒールカバー部10を挟む位置にあるボディー部11の下端側に繋がり、カバー本体15の下端側の開口部の内方側に折れ曲がる編地であって、インステップカバー7の踵側の部分を着用者の踵の丸みに沿った立体形状に保つ役割を果たす。この後側保形部22におけるヒールカバー部10およびボディー部11との接続部分の輪郭線は山型に湾曲している。
【0069】
上記山型の輪郭線には、後側保形部22のウエール方向端部の編目が並んでいる。この輪郭線の中間部分(二点鎖線で示す部分)では、ヒールカバー部10のウエール方向端部の編目と、後側保形部22のウエール方向端部の編目と、が連続しており、両部10,22の間に外観上の繋ぎ目がない。一方、上記輪郭線の中間部分を除く両側縁部分(実線で示す部分)では、後側保形部22のウエール方向端部の編目と、ボディー部11(左側部分11Lおよび右側部分11R)の編幅方向端部と、が編成で接続されており、両部11,22との間に繋ぎ目がある。このような接続状態であれば、後側保形部22に接続される左側部分11Lと右側部分11Rとが互いに近づく方向に寄せられ、カバー本体15の踵側の部分が丸みを帯びた立体的な形状に形成される。
【0070】
一方、後側保形部22の黒矢印で示すU字状部分には、上記輪郭線とは反対側のウエール方向端部の編目が並んでいる。本例では、U字状部分の編幅は上記輪郭線の編幅よりも狭くなっているため、左側部分11Lと右側部分11Rとが互いに近づく方向に寄せられる。その結果、カバー本体15の踵側の部分をさらに着用者の踵の形状に沿った立体的な形状にすることができる。U字状部分の編幅と輪郭線の編幅とを調節することで、シューズアッパー7のサイズを微調整することができる。例えば、U字状部分の編幅を図示する状態よりも小さくすれば、左側部分11Lと右側部分11Rとがさらに近づく方向に寄せられ、シューズアッパー7のサイズが小さくなる。つまり、カバー本体15が同じ大きさでも、複数のサイズのシューズアッパー7を作製できる。
【0071】
[前側保形部]
一方、前側保形部32は、ボディー部11の爪先側の部分の下端側に繋がり、カバー本体15の下端側の開口部の内方側に折れ曲がる編地であって、インステップカバー7の爪先側の部分を着用者の丸みに沿った立体形状に保つ役割を果たす。この前側保形部32におけるボディー部11との接続部分の輪郭線は山型に形成されている。
【0072】
上記山型の輪郭線には、前側保形部32のウエール方向端部の編目が並んでいる。この輪郭線の中間部分(λで示す位置)では、前側保形部32のウエール方向端部の編目と、ボディー部11のウエール方向端部の編目と、が連続しており、両部11,32との間に外観上の繋ぎ目がない。一方、上記輪郭線の中間部分を除く両側縁部分(ωで示す位置)では、前側保形部32のウエール方向端部の編目と、ボディー部11の編幅方向端部の編目と、が段差の生じる折り返し編成で接続されており、両部11,32との間に繋ぎ目がある。このような接続状態であれば、前側保形部32に接続される左側部分11Lと右側部分11Rとが互いに近づく方向に寄せられ、カバー本体15の爪先側の部分が丸みを帯びた立体的な形状に形成される。
【0073】
一方、前側保形部32の黒矢印で示すU字状部分には、上記輪郭線とは反対側のウエール方向端部の編目が並んでいる。U字状部分は、後側保形部32のU字状部分と同様の働きをする。
【0074】
[その他]
さらに、本例のインステップカバー7は、ボディー部11の側縁に形成され、ソール側に張り出す張出部40R,40Lを備える(135°の斜めハッチング部分を参照)。張出部40R,40Lは、インステップカバー7と、図示しないソールカバーと、の位置合わせ及び接続を容易にする役割を持つ。張出部40R,40Lは、後述するようにボディー部11と一体に編成されるので、二点鎖線で示すボディー部11と張出部40R,40Lとの境界には繋ぎ目はないが、当該境界にはインステップカバー7を足型に嵌めて熱処理する際に折り目を形成する。
【0075】
≪インステップカバーの編成方法I≫
上記インステップカバー7は、
図9に示す編成手順に従って編成することができる。この
図9では、ボディー部11の爪先側から踵側に向かって編成を行なっている。
【0076】
本実施形態のインステップカバー7では、まず袋編みなどによって編出し部(点A−点Bを参照)を編成し、その編出し部に続いて複数段の袋編みを行った後、徐々に編幅を拡げて前側保形部32を完成させる(工程α’相当)。前側保形部32のウエール方向終端部(点C−点D)は、針床に係止された状態としておく。前側保形部32は、
図3に示すように前後の針床を用いて肉厚に編成することが好ましい。なお、袋編みとは、前後の針床を使って袋状に編地を編成することである。また袋編みを必ず行わなければならないわけではない。
【0077】
次いで、ボディー部11の編成を行う(工程α相当)。具体的には、前側保形部32のウエール方向終端部のセンター編目列32cに続いてボディー部11を編出す。そして、ボディー部11の編成コース数を増す際、前側保形部32のウエール方向終端部のサイド編目列32sr,32slに、ボディー部11の編幅方向端部11xr,11xlの編目を形成し、サイド編目列32sr,32slと編幅方向端部11xr,11xlとを接続する。
【0078】
本例のボディー部11の編成では、ボディー部11の両側縁に張出部40R,40Lを編成する。張出部40R,40Lは、ボディー部11の編幅を増減させる際に、ボディー部11に求められる幅よりも大きな幅で編地を編成する。このボディー部11の編成が終了した時点で、点E−点Gには左側部分11Lの編幅方向端部の編目が並んだ状態となっており、点J−点Hには右側部分11Rの編幅方向端部の編目が並んだ状態になっている。これらの編目は、ウエール方向端部の編目でもあり、針床に係止された状態にある。
【0079】
次に、点G−点Hを編出し部とするヒールカバー部10を編成し、そのヒールカバー部10をボディー部11に接続する(工程β相当)。接続方法は、実施形態1で既に説明した通りである。このヒールカバー部10を含むカバー本体15の編組織は特に限定されない。
【0080】
最後に、後側保形部22を編成する(工程γ’相当)。具体的には、ヒールカバー部10のウエール方向終端部10e、およびそのウエール方向終端部10eを挟む位置にあるボディー部11の編幅方向端部11yr,11ylに連続して後側保形部22を編み出す。そして、後側保形部22の編幅を徐々に狭め、最後に袋編みを複数段編成し、インステップカバー7を完成させる。
【0081】
以上説明した手順に従えば、
図8に示す立体的なインステップカバー7を編成することができる。
【0082】
≪インステップカバーの編成方法II≫
インステップカバー7は、踵側から爪先側に向かってに編成することもできる。以下、
図10を参照してその編成方法を説明する。
【0083】
ヒールカバー部10の編成、およびボディー部11の編成手順は、
図4を参照する実施形態1の編成方法IIとほぼ同様である。但し、ボディー部11の爪先側の一部の編目(点E−点H参照)を針床に係止させたままとしておく。点E−点Fの編目は、右側部分11Rの編幅方向端部11zrの編目であり、点H−点Gの編目は、左側部分11Lの編幅方向端部11zlの編目である。これらの編目は、ボディー部11のウエール方向端部の編目でもある。
【0084】
前側保形部32を編成する(工程ζ’相当)。具体的には、ボディー部11のウエール方向終端部11e(点F−点G参照)、およびそのウエール方向終端部11eを挟む位置にあるボディー部11の編幅方向端部11zr,11zlに連続して前側保形部32を編み出す。そして、前側保形部32の編幅を徐々に狭め、最後に袋編みを複数段編成し、インステップカバー7を完成させる。
【0085】
その他、一点鎖線で示すようにヒールカバー部10を編成する前に、後側保形部22を編成しても構わない(工程δ’相当)。その場合、後側保形部22のウエール方向終端部のセンター編目列に連続してヒールカバー部10を編み出す(工程δ相当)また、ヒールカバー部10を完成させ、ヒールカバー部10の縁10r,10lに続けてボディー部11を編出し(工程ε相当)、その後、ボディー部11の編成コース数を増す際、後側保形部22のウエール方向終端部における前記センター編目列を除くサイド編目列に、ボディー部11の編幅方向端部の編目を順次形成する(工程ζ相当)。