特許第6104413号(P6104413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6104413フェノール及びナフトールの電気化学的カップリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104413
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】フェノール及びナフトールの電気化学的カップリング
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/23 20060101AFI20170316BHJP
   C07C 41/30 20060101ALN20170316BHJP
   C25B 3/10 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
   C07C43/23 DCSP
   !C07C41/30
   !C25B3/10
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-560569(P2015-560569)
(86)(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公表番号】特表2016-516009(P2016-516009A)
(43)【公表日】2016年6月2日
(86)【国際出願番号】EP2013076086
(87)【国際公開番号】WO2014135237
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】102013203866.6
(32)【優先日】2013年3月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】カトリン マリー デュバラ
(72)【発明者】
【氏名】ローベアト フランケ
(72)【発明者】
【氏名】ディアク フリダーク
(72)【発明者】
【氏名】ジークフリート エア. ヴァルトフォーゲル
(72)【発明者】
【氏名】ベアント エルスラー
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−528938(JP,A)
【文献】 SARTORI G.,JOURNAL OF THE CHEMICAL SOCIETY, PERKIN TRANSACTIONS 1,1995年,N17,P2177-2181
【文献】 KIRSTE A.,ANGEWANDTE CHEMIE, INTERNATIONAL EDITION,ドイツ,VCH VERLAG,2010年 1月25日,V49 N5,P971-975
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2012年,134,pp.3571-3576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C25B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)〜(III):
【化1】
[式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R9、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R19、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R28、R30は、−H、−アルキル、−O−アルキル、−O−アリール、−S−アルキル、−S−アリールから選択され、かつ、
810、R1820、R27及び29は、−アルキルを表す]
のうちの1つによる化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物であって、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R19、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R28、R30が、−H、−アルキルから選択される、前記化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物であって、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R9、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R21、R22、R23、R24、R25、R26が、−Hを表す、前記化合物。
【請求項4】
請求項1からまでのいずれか1項に記載の化合物であって、
7、R9、R17、R19、R28、R30、が−Hを表す、前記化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化電位の異なるフェノールとナフトールとをカップリングさせるための電気化学的方法に関する。さらに本発明は、例えば前記電気化学的カップリングにより製造可能な化合物に関する。
【0002】
フェノール及びナフトールという概念は、本願においては総称として用いられているため、置換フェノールや置換ナフトールも含まれる。
【0003】
電気化学的カップリングは、これまでに、フェノールとOH基を有しないナフトールとのものしか記載されていない:Kirste et al. Angew. Chem. 2010, 122, 983-987及びKirste et al. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 3571-3576。
【0004】
異種分子の電気化学的カップリングの際に生じる問題の一つに、これらが異なる
【化1】
を有しているという点がある。その結果、より高い酸化電位を有する分子よりもより低い酸化電位を有する分子の方が、電子(e-)をアノードで、そしてH+イオンを例えば溶媒に放出しやすい性質を示す。
【0005】
【化2】
は、ネルンストの式:
【化3】
により算出可能である。
【0006】
本発明の課題は、フェノールとナフトールとをカップリングさせる電気化学的方法であって、その際、これら双方の分子が異なる酸化電位を有するものとする前記方法を提供することであった。
【0007】
さらに、新規の化合物を合成することが望まれていた。
【0008】
一般式(I)〜(III):
【化4】
[式中、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R30は、−H、−アルキル、−O−アルキル、−O−アリール、−S−アルキル、−S−アリールから選択され、かつ、
10、R18、R29は、−アルキルを表す]
のうちの1つによる化合物。
【0009】
アルキルは、1〜10個の炭素原子を有する非分岐状又は分岐状の脂肪族炭素鎖を表す。好ましくは、前記炭素鎖は1〜6個の炭素原子を有し、特に好ましくは1〜4個の炭素原子を有する。
【0010】
アリールは、好ましくは14個までの炭素原子を有する芳香族(炭化水素)基を表し、例えばフェニル(C65−)、ナフチル(C107−)、アントリル(C149−)を表し、好ましくはフェニルを表す。
【0011】
一実施形態においては、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R30は、−H、−アルキル、−O−アルキル、−O−アリールから選択される。
【0012】
一実施形態においては、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R30は、−H、−アルキルから選択される。
【0013】
一実施形態においては、R8及びR27は−アルキルを表す。
【0014】
一実施形態においては、R20は−アルキルを表す。
【0015】
一実施形態においては、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R21、R22、R23、R24、R25、R26は、−Hを表す。
【0016】
一実施形態においては、R7、R9、R17、R19、R28、R30は、−Hを表す。
【0017】
前記化合物に加えて、例えば上記化合物を製造することのできる方法も特許請求の範囲に記載されている。
【0018】
以下の方法工程:
a)溶媒又は溶媒混合物及び導電性塩を反応容器に充填する工程、
b)前記反応容器中に、
【化5】
を有するフェノールを添加する工程、
c)前記反応容器中に、
【化6】
を有するナフトールを添加する工程、
その際、より高い酸化電位を有する物質を過剰に添加するものとし、かつ、
【化7】
が成り立つものとし、
かつ、前記溶媒又は溶媒混合物が、
【化8】
が10mV〜450mVの範囲内となるように選択されているものとする、
d)前記反応溶液に2つの電極を導入する工程、
e)前記電極に電圧を印加する工程、
f)前記フェノールと前記ナフトールとをカップリングさせてクロスカップリング生成物を得る工程
を含む、電気化学的方法。
【0019】
ここで、前記方法工程a)〜d)は任意の順序で行われてよい。
【0020】
前記方法は、種々の炭素(ガラス状炭素、ホウ素ドープダイヤモンド、グラファイト、炭素繊維、ナノチューブなど)電極、金属酸化物電極及び金属電極上で実施可能である。その際、1〜50mA/cm2の範囲内の電流密度が適用される。
【0021】
本発明による方法を用いて、冒頭に記載した問題が解決される。
【0022】
本発明の一態様は、前記反応の収率を
【化9】
により制御できるということである。
【0023】
効率的な反応実施のために、2つの反応条件が必要である:
− より高い酸化電位を有する化合物が過剰に添加されねばならないこと、及び
【化10】
が所定の範囲内になければならないこと。
【0024】
前記第一の条件が満たされない場合には、主生成物として、より低い酸化電位を有する2つの分子からのカップリングによって生じる化合物が生じる。
【0025】
【化11】
が小さすぎる場合には、より高い酸化電位を有する2つの分子からのカップリングにより生じる化合物の副生成物が極めて多量に生じてしまう。何故ならば、この分子が過剰に添加されるためである。それに対して、
【化12】
が大きすぎる場合には、より高い酸化電位を有する化合物が極めて高過剰で必要となり、これにより前記反応は非経済的となる。
【0026】
本発明による方法に関して、前記双方の化合物の絶対的な酸化電位を知ることは必ずしも必要であるわけではない。双方の酸化電位の互いの差が明らかであれば十分である。
【0027】
本発明のもう一つの態様は、
【化13】
が、使用される溶媒又は溶媒混合物により影響を受けうるということである。
【0028】
溶媒/溶媒混合物を所望の範囲内に好適に選択することによって、
【化14】
を変化させることができる。
【0029】
ベース溶媒として1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)から出発した場合には、小さすぎる
【化15】
を、例えばアルコールの添加によって高めることができる。一方で、大きすぎる
【化16】
を、水の添加によって低下させることができる。
【0030】
進行する反応シーケンスを、以下の図に示す:
【化17】
【0031】
まず、より低い酸化電位を有する化合物Aが、電子をアノードで放出する。前記化合物Aは正電荷に基づき極めて強い酸になり、かつ同時にプロトンが脱離する。そのようにして生じるラジカルは、引き続き、前記化合物Aよりも過剰に前記溶液中に存在している化合物Bと反応する。このカップリングにより生じるAB−ラジカルは、電子をアノードで放出し、かつプロトンを溶媒に放出する。
【0032】
より高い酸化電位を有する化合物が過剰に添加されていない場合には、A−ラジカルが第二の化合物Aと反応して相応するAA化合物が生成される。
【0033】
本発明による方法を用いて初めて、フェノールとナフトールとを電気化学的に良好な収率でカップリングさせることができた。
【0034】
本方法の一変形においては、前記より高い酸化電位を有する物質は前記より低い酸化電位を有する物質に対して少なくとも2倍の量で使用される。
【0035】
本方法の一変形においては、前記溶媒又は溶媒混合物は、
【化18】
が20mV〜400mVの範囲内、好ましくは30mV〜350mVの範囲内となるように選択されている。
【0036】
本方法の一変形においては、前記導電性塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、テトラ(C1〜C6−アルキル)−アンモニウム塩、1,3−ジ(C1〜C6−アルキル)イミダゾリウム塩又はテトラ(C1〜C6−アルキル)−ホスホニウム塩の群から選択される。
【0037】
本方法の一変形においては、前記導電性塩の対イオンは、硫酸イオン、硫酸水素イオン、アルキル硫酸イオン、アリール硫酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、アリールスルホン酸イオン、ハロゲン化物イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、アルキルリン酸イオン、アルキル炭酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロケイ酸イオン、フッ化物イオン及び過塩素酸イオンの群から選択される。
【0038】
本方法の一変形においては、前記導電性塩はテトラ(C1〜C6−アルキル)アンモニウム塩から選択され、かつ前記対イオンは硫酸イオン、アルキル硫酸イオン、アリール硫酸イオンから選択される。
【0039】
本方法の一変形においては、前記フェノールは少なくとも1つの−O−アルキル基を有する。
【0040】
本方法の一変形においては、前記反応溶液は遷移金属を含有しない。
【0041】
本方法の一変形においては、前記反応溶液は、水素原子以外の脱離官能基を有する基質を含有しない。
【0042】
本方法の一変形においては、前記反応溶液は有機酸化剤を含有しない。
【0043】
本方法の一変形においては、前記フェノールは、Ia、IIa、IIIa:
【化19】
から選択されており、かつ前記ナフトールは、Ib、IIb、IIIb:
【化20】
から選択されており、ここで、
1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R30は、−H、−アルキル、−O−アルキル、−O−アリール、−S−アルキル、−S−アリールから選択され、ここで、
10、R18、R29は、−アルキルを表すものとし、
ここで、以下の組合せ:
【化21】
が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】カップリング反応を実施することのできる反応装置を示す。
図2】カップリング反応をより大規模で実施することのできる反応装置を示す。
図3】メタノール添加下でのそれぞれの酸化電位のプロットを示す。
【0045】
以下、本発明を実施例及び図面をもとに詳説する。
【0046】
図1は、上記カップリング反応を実施することのできる反応装置を示す。前記装置は、ニッケルカソード(1)及びケイ素上のホウ素ドープダイヤモンド(BDD)からのアノード(5)を含む。前記装置は冷却ジャケット(3)を用いて冷却可能である。ここで、矢印は冷却水の流れ方向を示す。反応室はテフロン栓(2)により密閉されている。反応混合物は、マグネチックスターラーバー(7)により混合される。アノード側で、前記装置はスクリュークランプ(4)及びシール(6)により密閉されている。
【0047】
図2は、上記カップリング反応をより大規模で実施することのできる反応装置を示す。前記装置は2つのガラスフランジ(5’)を含んでおり、これは、スクリュークランプ(2’)及びシールによって、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)で被覆された担体材料又は当業者に公知の他の電極材料からなる電極(3’)に圧力をかけるのに用いられる。反応室にはガラススリーブ(1’)を介して還流冷却器が備えられてよい。反応混合物は、マグネチックスターラーバー(4’)により混合される。
【0048】
図3は、MeOH添加下でのそれぞれの酸化電位のプロットを示す(クロスカップリングの成功した実施例)。
【0049】
分析
クロマトグラフィー
「フラッシュクロマトグラフィー」による予備液体クロマトグラフィー分離を、1.6barの最高圧で、デューレン在Macherey-Nagel GmbH & Co社製シリカゲル60 M(0.040〜0.063mm)上で行った。非加圧分離を、ダルムシュタット在Merck KGaA社製シリカゲルGeduran Si 60(0.063〜0.200mm)上で実施した。溶離液として使用した溶媒(酢酸エチルエステル(工業用)、シクロヘキサン(工業用))は、ロータリーエバポレーターでの蒸留により予め精製しておいた。
【0050】
薄層クロマトグラフィー(TLC)のために、ダルムシュタット在Merck KGaA社製 PSC使用準備済みプレートシリカゲル60 F254を使用した。Rf値を、使用した溶離液混合物と関連付けて示す。TLCプレートの発色のために、浸漬試薬としてセリウム−リンモリブデン酸溶液を使用した。セリウム−リンモリブデン酸試薬:水200mL中のリンモリブデン酸5.6g、硫酸セリウム(IV)四水和物2.2g及び濃硫酸13.3g。
【0051】
ガスクロマトグラフィー(GC/GCMS)
生成物混合物及び純物質のガスクロマトグラフィー試験(GC)を、日本国在島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2010を用いて行った。米国在Agilent Technologies社製石英キャピラリーカラムHP-5(長さ:30m;内径:0.25mm;共有結合固定相の膜厚:0.25μm;キャリアガス:水素;インジェクター温度:250℃;ディテクター温度:310℃;プログラム:「ハード」法;開始温度50℃で1分間、加熱速度:15℃/分、最終温度290℃で8分間)で測定した。生成物混合物及び純物質のガスクロマトグラフィーマススペクトル(GCMS)を、前記ガスクロマトグラフGC-2010と日本国在島津製作所製質量分析計GCMS-QP2010とを組み合わせて用いて記録した。米国在Agilent Technologies社製石英キャピラリーカラムHP-1(長さ:30m;内径:0.25mm;共有結合固定相の膜厚:0.25μm;キャリアガス:水素;インジェクター温度:250℃;ディテクター温度:310℃;プログラム:「ハード」法;開始温度50℃で1分間、加熱速度:15℃/分、最終温度290℃で8分間;GCMS:イオン源温度:200℃)で測定した。
【0052】
融点
融点を、マインツ在HW5社製融点測定器SG 2000を用いて測定し、補正を行わなかった。
【0053】
元素分析
元素分析を、マインツ在ヨハネス・グーテンベルク大学有機化学研究所分析部において、ハーナウ在Foss-Heraeus社製vario EL Cubeで行った。
【0054】
質量分析法
全てのエレクトロスプレーイオン化分析(ESI+)を、マサチューセッツ州ミルフォード在Waters Micromass社製 QTof Ultima 3で行った。EIマススペクトル及び高分解能EIスペクトルを、ブレーメン在ThermoFinnigan社製 MAT 95 XL型二重収束型装置で測定した。
【0055】
NMR分光法
NMR分光法による試験を、カールスルーエ在Bruker, Analytische Messtechnik社製 AC 300型又はAV II 400型の多核磁気共鳴分光計で行った。溶媒としてCDCl3を使用した。1H−スペクトル及び13C−スペクトルを、非重水素化溶媒の残留含分に従って、米国在Cambridge Isotopes Laboratories社のNMR Solvent Data Chartによってキャリブレーションした。1H−シグナル及び13C−シグナルの帰属を、部分的にH−H COSY、Η−Η NOESY、H−C HSQC及びH−C HMBC−スペクトルを用いて行った。化学シフトをδ値としてppmで示す。NMRシグナルの多重度に関しては、以下の略称を用いた:s(シングレット)、bs(ブロードシングレット)、d(ダブレット)、t(トリプレット)、q(カルテット)、m(マルチプレット)、dd(ダブルダブレット)、dt(ダブルトリプレット)、tq(トリプルカルテット)。全てのカップリング定数Jを、含まれる結合の数と共にヘルツ(Hz)で示した。シグナル帰属において示した番号は構造式中に示した位置番号に対応しているが、これはIUPAC命名法に準拠する必要のないものである。
【0056】
全般的作業規定
カップリング反応を、図1に示されているような装置内で実施した。
【0057】
より高い酸化電位を有する化合物5mmolと、より低い酸化電位を有する化合物15mmolとを、以下の第1表に示されている量の1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)及びMeOH中に又はギ酸及びMeOH中に溶解させる。電解を定電流で行う。反応混合物を撹拌し、かつ砂浴を用いて50℃に加熱する間に、電解セルの外側ジャケットをサーモスタットで約10℃に調温する。電解の終了後に、セル内容物をトルエンと共に50mL丸底フラスコ内に移し、溶媒を、減圧下にロータリーエバポレーターで50℃で200〜70mbarで除去する。未反応出発物質を、ショートパス蒸留を用いて回収する(100℃、10-3mbar)。
【0058】
【化22】
【0059】
合成
1−(2−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−メチルフェニル)−2−ナフトール、及び1−(5−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−メチルフェニル)−2−ナフトール
電解の実施を、全般的作業規定1に従って、BDDアノードを備えた分割されていないフランジセル中で行う。このために、2−ナフトール0.78g(5mmol、1.0当量)及び4−メチルグアイアコール2.18g(15mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液4:1(CH:EE)中で精製し、生成物混合物を得る。第二の「フラッシュクロマトグラフィー」をジクロロメタン中で行うことにより、双方の成分を、薄赤色で結晶質の主生成物と無色で結晶質の副生成物として分離できる。
【0060】
1−(2−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−メチルフェニル)−2−ナフトール(主生成物)
【化23】
【0061】
1−(5−ヒドロキシ−4−メトキシ−2−メチルフェニル)−2−ナフトール(副生成物)
【化24】
【0062】
1−(3−(ジメチルエチル)−2ーヒドロキシ−5−メトキシフェル)−2−ナフトール
【化25】
【0063】
電解の実施を、全般的作業規定1に従って、BDDアノードを備えた分割されていないフランジセル中で行う。このために、2−ナフトール0.72g(5mmol、1.0当量)及び2−(ジメチルエチル)−4−メトキシフェノール2.77g(15mmol、3.0当量)をHFIP 27mL及びMeOH 6mL中に溶解させ、MTES 0.68gを添加し、この電解質を電解セルに移した。溶媒及び未反応の出発物質量を電解後に減圧で除去し、粗生成物を、シリカゲル60上で「フラッシュクロマトグラフィー」として溶離液9:1(CH:EE)中で精製し、生成物を無色の固形物として得る。
【0064】
【化26】
【0065】
結果
第1表に、収率及び選択率を示す:
【表1】
【0066】
第1表は、種々のフェノールと種々のナフトールとが、上記の方法により直接的クロスカップリングを生じうることを示している。
【0067】
収率及び選択率に対する酸化電位差の影響
使用した基質のサイクリックボルタンメトリー測定により、個々の酸化電位の差
【化27】
が、フェノールの電気化学的クロスカップリングの選択率及び収率と相関関係にあることが判明した。
【0068】
【表2】
【0069】
MeOHの添加により(項目1)、フェノール酸化に関する選択率の後退が達成される。これにより、ナフトールホモカップリングの抑制が可能となる。
【0070】
【化28】
を大きくすることにより(項目2、HFIP/MeOH系)、クロスカップリング生成物の選択的な形成が可能となる。
【0071】
メタノールの添加により、双方の酸化電位が十分に離れ(図3参照)、従って、極めて選択的なクロスカップリングを電気化学的に成功裏に行うことができる。
【符号の説明】
【0072】
1 カソード、 2 テフロン栓、 3 冷却ジャケット、 4 スクリュークランプ、 5 アノード、 6 シール、 7 マグネチックスターラーバー、 1’ ガラススリーブ、 2’ スクリュークランプ、 3’ 電極、4’ マグネチックスターラーバー、 5’ ガラスフランジ
図1
図2
図3