特許第6104513号(P6104513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104513
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】人工呼吸器
(51)【国際特許分類】
   A61M 16/12 20060101AFI20170316BHJP
   A61M 16/00 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   A61M16/12
   A61M16/00 370A
   A61M16/00 370Z
   A61M16/00 375
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-53018(P2012-53018)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-183981(P2013-183981A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126115
【氏名又は名称】エア・ウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相川 徹也
(72)【発明者】
【氏名】馬場 淳
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−220711(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/073839(WO,A2)
【文献】 特開2000−279521(JP,A)
【文献】 特表2001−517108(JP,A)
【文献】 実開平05−095549(JP,U)
【文献】 特表2009−501031(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/054342(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00−16/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素とヘリウムとを混合したガスを吸気ガスとして患者に供与する人工呼吸器であって、
高頻度振動換気法により酸素を含むガスを供給する第1のガス供給装置と、
患者の気管に挿入され、留置される気管内管路と、
第1のガス供給装置と気管内管路とを接続し、患者に第1のガス供給装置からの酸素を含むガスを導くための気管外管路であって、中途に分岐を有する気管外管路と、
気管外管路のうち一端が気管内管路に接続され、他端が前記分岐に接続された管路、または、気管内管路に接続され、酸素とヘリウムとの混合ガスを気管外管路の前記管路または気管内管路に供給する第2のガス供給装置とを備える、人工呼吸器。
【請求項2】
第2のガス供給装置と、気管外管路のうち一端が気管内管路に接続され、他端が前記分岐に接続された管路、または、気管内管路との間に、酸素とヘリウムとの混合ガスの流量を測定するための流量計が接続されている、請求項1に記載の人工呼吸器。
【請求項3】
第2のガス供給装置と気管外管路のうち一端が気管内管路に接続され、他端が前記分岐に接続された管路、または、気管内管路との間に、酸素とヘリウムとの混合ガス中の酸素濃度を測定するための酸素濃度計が接続されている、請求項1または2に記載の人工呼吸器。
【請求項4】
気管外管路と第1のガス供給装置との間に、第2のガス供給装置が接続された箇所より呼吸器側の酸素を含むガス中の酸素濃度を測定するための酸素濃度計が接続されている、請求項1〜のいずれかに記載の人工呼吸器。
【請求項5】
気管内管路が、独立した2つの流路を有し、一方の流路を第1のガス供給装置からの酸素を含むガスが流れ、他方の流路を第2のガス供給装置からの酸素とヘリウムとの混合ガスが流れるように構成されている、請求項1〜のいずれかに記載の人工呼吸器。
【請求項6】
第1のガス供給装置からの酸素を含むガスが圧縮空気を含む、請求項1〜のいずれかに記載の人工呼吸器。
【請求項7】
第1のガス供給装置は、気管内管路、気管外管路を経た患者からの呼気ガスを排気するように構成されている、請求項1〜のいずれかに記載の人工呼吸器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素と酸素以外の医薬ガスとを混合したガスを吸気ガスとして患者に供与する人工呼吸器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な人工換気療法は、体重あたり6〜10mL/kgの一回換気量で、毎分15〜20回行なわれている。たとえば体重60kgの成人の場合、一回換気量は360〜600mLとなる。この量は、ヒトの解剖学的死腔(すなわち、酸素と二酸化炭素とガス交換に関与しない、鼻腔、気管・気管支)の容積より大きく、肺胞内に新鮮なガスが十分に届く量である。
【0003】
しかしながら、このような人工換気療法は、ヒトの自然な呼吸と異なり、肺に圧力をかけてガスを押し込んでいることから、肺が大きく伸び縮みし、肺の細胞のつながりに亀裂を生じることにより、人工呼吸器誘発肺損傷(VILI:Ventilator Induced Lung Injury)と呼ばれる障害を引き起こすことがある。
【0004】
このVILIを防止するため開発された人工換気療法として、実開昭58−16146号公報(特許文献1)に開示されているような、高頻度振動換気法(HFO:High Frequency Oscillation)と呼ばれる換気方法がある。HFOは解剖学的死腔より小さい一回換気量で、かつ換気回数を数から十数Hzとする換気法である。いわば、肺を小さく震えさせることにより、振動によりガス交換を促している。これにより、上述した一般的な人工換気療法と異なり、肺の伸び縮みが殆どなく、VILIの可能性が低くなる。
【0005】
一方、気道狭窄などを有する呼吸不全患者に対して、Andrew Katz et al., "Heliox Improves Gas Exchange during High-frequency Ventilation in a Pediatric Model of Acute Lung Injury", Am. J. Respir. Crit. Care Med., Jul 15; 164(2), p.260-264, (2001)(非特許文献1)、Bakhtiyar Zeynalov et al., "Effects of heliox as carrier gas on ventilation and oxygenation in an animal model of piston-type HFOV: a crossover experimental study.", Biomed. Eng. Online., Nov 12; 9:71(2010)(非特許文献2)に開示されているような、HFOに加え、人工換気療法に使用するガスとして空気と酸素との混合ガスではなく、ヘリウムと酸素との混合ガスを吸入させる治療法(以下、「ヘリウム・酸素吸入療法」という)がある。なお、ヘリウムと酸素との混合ガスのことを欧米では「ヘリオックス(Heliox)」と称する場合もある。
【0006】
上述したへリウム・酸素吸入療法では、ヘリウムの密度が小さいことにより、細い気道でもガスが流れやすくなり、気道狭窄を有する患者においても換気を改善することが期待される。ヘリウム・酸素吸入療法は、一般的な人工呼吸器であるかHFO人工呼吸器であるかは問わず、人工呼吸器の圧縮ガス取り入れ口にヘリウムと酸素との混合ガスを供給し、人工呼吸器および呼吸回路全体をヘリウムと酸素との混合ガスで満たすことにより実施可能となる。
【0007】
上述した一般的な人工換気療法やHFOは、気管内チューブと呼ばれる管を患者の気管に挿入、留置することにより実施する。通常、この気管内チューブは1本の管となっているが、この場合、患者の吸気と呼気が同一の管を通ることから、ガス交換の効率がよくない。このため、特表2009−504240号公報(特許文献2)、特開2008−93328号公報(特許文献3)および特表2002−524155号公報(特許文献4)に開示されているような、複数の管を有する気管内チューブも検討されている。これら複数の管を有する気管内チューブでは、管のいくつかは患者に吸気ガスを供給し、残りの管で呼気ガスを排気するというように使用する。このような換気方法は、Avi Nahum, "Equipment review :Tracheal gas insufflation", Crit. Care., 2(2), p.43-47, (1998)(非特許文献3)に開示されており、気管内ガス直接注入(TGI:Tracheal Gas Insufflation)と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭58−16146号公報
【特許文献2】特表2009−504240号公報
【特許文献3】特開2008−93328号公報
【特許文献4】特表2002−524155号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Andrew Katz et al., "Heliox Improves Gas Exchange during High-frequency Ventilation in a Pediatric Model of Acute Lung Injury", Am. J. Respir. Crit. Care Med., Jul 15; 164(2), p.260-264, (2001)
【非特許文献2】Bakhtiyar Zeynalov et al., "Effects of heliox as carrier gas on ventilation and oxygenation in an animal model of piston-type HFOV: a crossover experimental study.", Biomed. Eng. Online., Nov 12; 9:71(2010)
【非特許文献3】Avi Nahum, "Equipment review :Tracheal gas insufflation", Crit. Care., 2(2), p.43-47, (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献2で開示されている方法でヘリウム・酸素吸入療法を実施する場合、実験例で後述するように、呼吸回路に流すガスとして約8L/min、HFO人工呼吸器を駆動させるために約28L/min、すなわち合計約36L/minのガスを消費する。高圧ガスの法規上、ヘリウムは内容量7000Lのボンベで供給されることが多く、約194分間でボンベ1本を消費することになる。ヘリウム・酸素吸入療法を必要とするような患者は、数日間連続でガス吸入が必要である場合が多く、このような場合には頻繁にボンベ交換をする必要がある。また、この作業のため医療従事者の負担が大きくなってしまうという問題もあった。加えて、ヘリウムは希少な天然資源であることから高価であり、多量に消費することから治療に要する費用も大きくなってしまうという問題もあった。
【0011】
HFO人工呼吸器以外の一般的な人工呼吸器においても同様に、呼吸回路に流すガス、人工呼吸器を駆動させるために使用するガスなど、患者に吸入させるガス以外にもガスを消費している。そのため、ヘリウム・酸素吸入療法は、治療という観点では患者への有効な方法と考えられてはいるものの、ガスの使用量が実務上および経済上の大きな問題となり、一般的には用いることが難しい方法であった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、酸素以外の医薬ガスの消費量を低減できつつも効果的な人工呼吸が可能な人工呼吸器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、酸素と酸素以外の医薬ガスとを混合したガスを吸気ガスとして患者に供与する人工呼吸器であって、酸素を含むガスを供給する第1のガス供給装置と、患者の気管に挿入され、留置される気管内管路と、第1のガス供給装置と気管内管路とを接続し、患者に第1のガス供給装置からの酸素を含むガスを導くための気管外管路と、気管外管路または気管内管路に接続され、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを気管外管路または気管内管路に供給する第2のガス供給装置とを備える人工呼吸器に関する。
【0014】
本発明の人工呼吸器において、酸素以外の医薬ガスはヘリウムであることが好ましい。
本発明の人工呼吸器において、第1のガス供給装置は高頻度振動換気法により酸素を含むガスを供給することが好ましい。
【0015】
本発明の人工呼吸器において、第2のガス供給装置と気管内管路または気管外管路との間に、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスの流量を測定するための流量計が接続されていることが好ましい。
【0016】
本発明の人工呼吸器において、第2のガス供給装置と気管内管路または気管外管路との間に、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガス中の酸素濃度を測定するための酸素濃度計が接続されていることが好ましい。
【0017】
本発明の人工呼吸器において、気管外管路と第1のガス供給装置との間に、第2のガス供給装置が接続された箇所より呼吸器側の酸素を含むガス中の酸素濃度を測定するための酸素濃度計が接続されていることが好ましい。
【0018】
本発明の人工呼吸器において、気管内管路が、独立した2つの流路を有し、一方の流路を第1のガス供給装置からの酸素を含むガスが流れ、他方の流路を第2のガス供給装置からの酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスが流れるように構成されていることが好ましい。
【0019】
本発明の人工呼吸器において、第1のガス供給装置からの酸素を含むガスが圧縮空気を含むことが好ましい。
【0020】
本発明の人工呼吸器において、第1のガス供給装置は、気管内管路、気管外管路を経た患者からの呼気ガスを排気するように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、酸素以外の医薬ガスの消費量を低減できつつも効果的な人工呼吸が可能な人工呼吸器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の好ましい一例の人工呼吸器1を模式的に示す図である。
図2】本発明の好ましい他の例の人工呼吸器31を模式的に示す図である。
図3図2に示す人工呼吸器31に好適に用いられる気管外管路および気管内管路の一例を模式的に示す図であり、図3(A)は斜視図、図3(B)はその断面図である。
図4】実験例2において、方法Cの投与量を設定する際のウサギ動脈血酸素分圧の変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血酸素分圧(mmHg)である。
図5】実験例2において、方法Cの投与量を設定する際のウサギ動脈血二酸化炭素分圧の変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血二酸化炭素分圧(mmHg)である。
図6】実験例2において方法A、方法C、方法Aの順で人工呼吸を施した際のウサギ動脈血酸素分圧の相対変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血酸素分圧の相対比である。
図7】実験例2において方法A、方法C、方法Aの順で人工呼吸を施した際のウサギ動脈血二酸化炭素分圧の相対変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血二酸化炭素分圧の相対比である。
図8】実験例3において、方法Dの投与量を設定する際のウサギ動脈血酸素分圧の変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血酸素分圧(mmHg)である。
図9】実験例3において、方法Dの投与量を設定する際のウサギ動脈血二酸化炭素分圧の変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血二酸化炭素分圧(mmHg)である。
図10】実験例3において方法A、方法D、方法Aの順で人工呼吸を施した際のウサギ動脈血酸素分圧の相対変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血酸素分圧の相対比である。
図11】実験例3において方法A、方法D、方法Aの順で人工呼吸を施した際のウサギ動脈血二酸化炭素分圧の相対変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血二酸化炭素分圧の相対比である。
図12】方法Aでヘリウム・酸素吸入療法を実施する場合の人工呼吸器101を模式的に示す図である。
図13】方法Bに用いる場合の人工呼吸器201を模式的に示す図である。
図14】実験例1において方法B、方法A、方法Bの順で人工呼吸を施した際のウサギ動脈血酸素分圧の相対変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血酸素分圧の相対比である。
図15】実験例1において方法B、方法A、方法Bの順で人工呼吸を施した際のウサギ動脈血二酸化炭素分圧の相対変化を示すグラフであり、縦軸はウサギ動脈血二酸化炭素分圧の相対比である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の好ましい一例の人工呼吸器1を模式的に示す図である。本発明の人工呼吸器1は、酸素を含むガスを供給する第1のガス供給装置(人工呼吸器の「本体」とも呼称する)2と、患者6の気管に挿入され、留置される気管内管路(気管内チューブ)7と、第1のガス供給装置2と気管内管路7とを接続し、患者6に第1のガス供給装置2からの酸素を含むガスを導くための気管外管路8と、気管外管路8に接続され、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを気管外管路8に供給する第2のガス供給装置(混合器)13とを備えることを特徴とする。なお、本発明の人工呼吸器において、気管外管路8の第1のガス供給装置2に接続された端部から患者6の気管に挿入され、留置される気管内管路7の第1のガス供給装置2側の端部に至るまでを「呼吸回路」と称し、また、気管外管路8に関し、第1のガス供給装置2に接続された側を「呼吸器側」、気管内管路7に接続された側を「患者側」と呼称する。
【0024】
本発明において、「医薬ガス」とは、医薬的に許容される範囲で人体に投与しても人体に害を及ぼすことなく所望の医薬的効果を奏するガスを指す。酸素もこの医薬ガスに含まれるが、本発明において用いられる酸素以外の医薬ガスとしては、たとえば、ヘリウム、キセノン、水素、一酸化窒素、一酸化炭素、硫化水素、亜酸化窒素、二酸化炭素、窒素、アルゴン、クリプトン、ラドンなどが挙げられる。その他、セボフルラン、イソフルラン、ハロタン、デスフルランのような揮発性麻酔薬や、一般にステロイド吸入剤と呼ばれるものも挙げられる。これらの中でも、酸素以外の医薬ガスとしてヘリウムを用いた場合には、後述する実験例1でも立証されるように、細い気道でもガスが流れやすくなり、気道狭窄を有する患者においても換気を改善できるという効果が奏される。また、酸素以外の医薬ガスとしてキセノン、アルゴン、クリプトンおよび揮発性麻酔薬を用いた場合には麻酔および神経保護、水素を用いた場合には神経保護、一酸化窒素を用いた場合には肺血管拡張および抗炎症、一酸化炭素を用いた場合には投与する濃度に応じて肺血管拡張または収縮、硫化水素を用いた場合には冬眠、臓器保護および抗炎症、亜酸化窒素を用いた場合には麻酔、二酸化炭素を用いた場合には呼吸中枢の興奮および血管拡張、窒素を用いた場合には肺血管抵抗増加、ラドンを用いた場合には抗炎症、ステロイド吸入剤を用いた場合には気管支拡張および抗炎症、というような効果がそれぞれ奏される。
【0025】
本発明の人工呼吸器によれば、後述する実験例により立証されるように、人工換気療法で酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスをHFOで投与する方法に比べ、酸素以外の医薬ガスの消費量を格段に低減することができる。これにより、人工呼吸の際に酸素以外の医薬ガスのボンベを交換する頻度も大幅に低減でき、医療従事者の負担も減ることに繋がる。これは、本発明の人工呼吸器においては、人工呼吸器を駆動させるためのガスとして酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを用いず、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを気管内管路の付近から供給することで、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスによる人工換気効率の向上という効果を損なうことなく、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスの消費量を低減することができるものと考えられる。
【0026】
図1に示す例では、人工呼吸器1の本体2に酸素3および圧縮空気4が別々に供給される。本体2からは、酸素を含むガス(図1に示す例では酸素3および圧縮空気4)が、吸気ガス5として呼吸回路に供給される。本発明に用いられる本体2は、VILIの可能性を低くできることから、高頻度振動換気法(HFO)により酸素を含むガスを供給するように構成することが好ましい。このような本体2としては、市販の人工呼吸に用いられる装置を適宜用いることができ、たとえばピストンタイプのHFO人工呼吸器ハミングII(株式会社スカイネット製)などが好適に用いられ得る。また、酸素も市販されているものを特に制限なく用いることができ、具体的には、酸素3としては日本薬局方酸素(しなのエア・ウォーター株式会社製、純度:99.5%以上)などを好適に用いることができる。
【0027】
吸気ガス5が酸素と圧縮空気との混合ガスである場合、その混合比率は特に制限されるものではない。
【0028】
図1に示す例の人工呼吸器1において、気管外管路8は中途で分岐しており、上述した吸気ガス5を通過させるための管路8a以外に、本体2からのHFOによる振動を伝えるための管路8b、患者6からの呼気ガス9を本体2に戻すための管路8cおよびその患者側が気管内管路7に接続された管路8dを備える。図1に示す例では、管路8bおよび管路8cは中途で合流し、またその患者側で管路8aと合流し、管路8dに連なるように構成されている。吸気ガス5は、管路8aを通過した後、管路8dを経て、管路8bを介して伝えられるHFOによる振動とともに気管内管路7へと流れる。一方、患者6からの呼気ガス9は、管路8dおよび管路8cを経て本体2に戻された後、本体2から排気ガス10として排出される。気管外管路8は、たとえば市販の気密性のチューブおよび接続部材などを適宜用いることで構成でき、また、気管外管路8の分岐は、たとえばYチューブを用いることで形成することができる。
【0029】
本発明の好ましい一例の人工呼吸器1においては、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを気管外管路8に供給する第2のガス供給装置を備えることが大きな特徴的部分である。図1には、酸素以外の医薬ガスの一例としてヘリウム11が、酸素12と、第2のガス供給装置としての混合器13で混合され、ヘリウム11と酸素12との混合ガスが気管外管路8の中途から供給され、気管内管路7を介して吸気ガス5とともに投与されるように構成された例が示されている。第2のガス供給装置としては市販されているものを特に制限なく用いることができ、たとえばガスの混合器であるHe+Oブレンダー(エア・ウォーター株式会社製)などを好適に用いることができる。酸素、ヘリウムとしても市販のものを用いればよく、酸素12としては上述した日本薬局方酸素(しなのエア・ウォーター株式会社製、純度:99.5%以上)、ヘリウム11としてはヘリウムと酸素を混合して100%となるように、79.1〜76.9%のヘリウムと、20.9〜23.1%の酸素を予め混合してある調整ヘリウム(日本ヘリウム株式会社製)などを好適に用いることができる。
【0030】
酸素以外の医薬ガスがヘリウムである場合、酸素との混合比率は特に制限されるものではないが、混合後の酸素濃度が16〜100%の範囲内であることが好ましく、21〜50%の範囲内であることがより好ましい。混合後の酸素濃度が21%未満である場合、低酸素による窒息の虞があり、また、混合後の酸素濃度が50%を超える場合、換言すれば混合後のヘリウム濃度が50%を下回る場合、ヘリウムの密度が小さいことによる、細い気道でもガスが流れやすくなり、気道狭窄を有する患者においても換気を改善するという効果が小さくなり過ぎるためである。
【0031】
図1に示す例では、混合器13と気管外管路8との間には、混合器13側から流量調整器14および流量計兼酸素濃度計15がこの順で介在される。このように本発明においては、第2のガス供給装置と気管外管路(または、後述する図2に示す例では気管内管路)との間に、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスの流量を測定するための流量計が接続されていることが好ましく、また、酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガス中の酸素濃度を測定するための酸素濃度計が接続されていることがさらに好ましい。このように本発明の人工呼吸器1では、第2のガス供給装置から供給される酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスの流量および酸素濃度を確認し、患者6に投与する量を制御し得るように構成されていることが好ましい。流量調整器14、流量計兼酸素濃度計15は、市販の製品を適宜用いればよく、流量調整器14としては、たとえば面積式流量計RK1202(コフロック株式会社製)、流量計兼酸素濃度計15としては、たとえばフローアナライザーPF−300(imtメディカル(スイス)製)などが好適に用いられる例として挙げられる。
【0032】
また、図1に示す例の人工呼吸器1において、管路8aには、その中途に、酸素濃度センサ16が介在される。本発明の人工呼吸器1では、このように、気管外管路と第1のガス供給装置との間に、第2のガス供給装置が接続された箇所より呼吸器側の酸素を含むガス中の酸素濃度を測定するための酸素濃度計が接続されていることが好ましい。また、図1に示す例では、管路8dの中途に圧力計17が接続される。これら酸素濃度センサ16および圧力計17は、データロガー18に接続され、酸素濃度センサ16により管路8a内を通過するガス中の酸素の濃度を測定し、圧力計17により管路8d内の圧力を測定するように構成される。
【0033】
本発明においては、患者6に投与されるガス(上述した吸気ガス5および酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスとを混合したガス)中、酸素濃度が好ましくは16〜100%の範囲内、より好ましくは21〜100%の範囲内となるように、上述した流量計兼酸素濃度計15、酸素濃度センサ16などによる測定結果に基づいてそれぞれのガス中の酸素濃度が適宜調整されることが、好ましい。患者6に投与されるガス中の酸素濃度が稀なケースとして16〜100%の場合もあるが、21%未満である場合には、低酸素による窒息の虞があるためである。
【0034】
本発明の人工呼吸器1において、患者6の気管内に挿入され、留置される気管内管路7としては、人工呼吸に適宜用いられている市販の気管内チューブ、具体的には、カフなし気管内チューブ(シリコナイズドPVC)(Smiths medical(イギリス)製)、ソフトシールカフ付リインフォースド気管内チューブ(Smiths medical(イギリス)製)、カフなしリインフォースド気管内チューブ(Smiths medical(イギリス)製)、サセット気管内チューブ(Smiths medical(イギリス)製)、ソフトシールカフ付気管内チューブ(クリアPVC)(Smiths medical(イギリス)製)、サウスポーラー気管内チューブ(ソフトシールカフ)(Smiths medical(イギリス)製)、ノースポーラー気管内チューブ(ソフトシールカフ)(Smiths medical(イギリス)製)、サウスポーラー気管内チューブ(カフなし/クリアPVC)(Smiths medical(イギリス)製)、ブルーライン気管支内チューブ(Smiths medical(イギリス)製)、テーパーガード気管内チューブ(COVIDIEN(アメリカ)製)などが好適な例として挙げられる。
【0035】
また、図2は、本発明の他の例の人工呼吸器31を模式的に示す図である。図2に示す例の人工呼吸器は、一部を除いては図1に示した例の人工呼吸器1と同様であり、同様の構成を有する部分については同一の参照符を付して説明を省略する。
【0036】
図2に示す例の人工呼吸器31は、第2のガス供給装置(混合器)13からの酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを供給する箇所が気管外管路の中途ではなく、気管内管路であることがその特徴的部分である。このように気管外管路の中途ではなく気管内管路に酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを供給するように構成することで、後述する実験例2と実験例3とを比較して理解されるように、より効率的なガスの供給が可能となる。
【0037】
図2に示すように気管外管路の中途ではなく気管内管路に酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスを供給する場合、独立した2つの流路を有し、一方の流路を第1のガス供給装置からの酸素を含むガスが流れ、他方の流路を第2のガス供給装置からの酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスが流れるように構成された気管内管路が好適に用いられる。このような独立した2つの流路を有する気管内管路としては、市販のもの、具体的には、COVIDIEN社(http://respiratorysolutions.covidien.com/AirwayManagement/EndotrachealTubes/UncuffedTrachealTubewithMonitoringLumen/tabid/172/Default.aspx)、Cardinal Health社(http://www.cardinal.com/us/en/distributedproducts/ASP/43167-025.asp?cat=surgerycenter)、HUDSON RCI社(http://www.hudsonrci.com/products/product_indiv.asp?catalog=1&PageId=67&prod_cat=21&prod_subcat=38&keywords=)などのホームページに示されている気管内チューブを好適に用いることができる。
【0038】
ここで、図3は、図2に示す人工呼吸器31に好適に用いられる気管外管路および気管内管路の一例を模式的に示す図であり、図3(A)は斜視図、図3(b)はその断面図である。たとえば、図3には、気管外管路8の端部に分岐用の部材21が取り付けられ、圧力計17に繋がれた管路22と、気管内管路7とに分岐された構成を模式的に示している。また、図3に示す例では、気管内管路7は大きさの異なる独立した2つの流路20a,20bを有し、大きい方の流路20aには、第1のガス供給装置から気管外管路8を経た酸素を含むガスが流れ、小さい方の流路20bには、その端部23が流量計兼酸素濃度計15および流量調整器14を介して混合器13に繋がれ、第2のガス供給装置からの酸素と酸素以外の医薬ガスとの混合ガスが流れるように構成されている。
【0039】
<実験例1>
まず、非特許文献2で開示されている方法(以下、「方法A」とする)(比較例1)によるヘリウム・酸素吸入療法が、従来からの一般的な人工換気法、すなわちヘリウムおよび酸素混合ガスを用いないHFO人工呼吸(以下、「方法B」とする)(比較例2)より優れているか否かについて、事前に検証を行なった。
【0040】
ここで、図12は、方法Aでヘリウム・酸素吸入療法を実施する場合の人工呼吸器101を模式的に示す図である。図12に示す人工呼吸器101では、HFOの人工呼吸器の本体102にヘリウム103および酸素104が混合器105で混合され、混合ガスとして供給される。また本体102には圧縮空気106も供給される。本体102からは、ヘリウム103と酸素104との混合ガスが吸気ガス107として呼吸回路に供給される。圧縮空気106も本体102に供給されるが、本体102を駆動させるために消費されるのみで、呼吸回路には供給されない。本体102は、気管外管路110を介して、被験体(ウサギ)108の気管に挿入され、留置された気管内管路(気管内チューブ)109に接続されて呼吸回路が形成される。気管外管路110は中途で分岐しており、上述した吸気ガス107を通過させるための管路110a以外に、本体102からのHFOによる振動を伝えるための管路110b、被験体108からの呼気ガス111を本体102に戻すための管路110cおよびその患者側が気管内管路109に接続された管路110dを備える。図12に示す例では、管路110bおよび管路110cは中途で合流し、またその患者側で管路110aと合流し、管路110dに連なるように構成されている。吸気ガス107は、管路110aを通過した後、管路110dを経て、管路110bを介して伝えられるHFOによる振動とともに気管内管路109へと流れる。一方、被験体108からの呼気ガス111は、管路110dおよび管路110cを経て本体102に戻された後、本体102から排気ガス112として排出される。また、管路110aには、その中途に、酸素濃度センサ113が介在され、管路110dには、その中途に、圧力計114が接続される。これら酸素濃度センサ113および圧力計114は、データロガー115に接続され、酸素濃度センサ113により管路110a内を通過するガス中の酸素の濃度を測定し、圧力計114により管路110d内の圧力を測定するように構成される。
【0041】
また図13は、方法Bに用いる場合の人工呼吸器201を模式的に示す図である。図13に示す例の人工呼吸器201は、ヘリウムと酸素との混合ガスの代わりに酸素104を本体102に供給するようにしている点を除いては図12に示した例の人工呼吸器101と同様であり、図12に示した例の人工呼吸器101と同様の構成を有する部分については同一の参照符を付し、説明を省略する。
【0042】
本実験例では、被験体108であるウサギに対してHFO人工呼吸下で、方法Bと方法Aとを交互に施行した。ウサギの動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧の変動を調べ、方法Aが方法Bと同等以上の効果があるかを検証した。実験の詳細を以下に示す。
【0043】
方法A、Bのいずれにおいても、本体102としては、ピストンタイプのHFO人工呼吸器ハミングII(株式会社スカイネット製)を用いた。ピストンタイプのHFO人工呼吸器は、ピストンによる圧力の振幅を、HFOの振動として伝える。人工呼吸器の気管外管路の中途に分岐を設け、試験用圧力計114(型番:AP−C35、株式会社キーエンス製)を取り付けた。圧力計にデータロガー115(LabVIEW8.5およびNI CompactDAQ、日本ナショナルインスツルメンツ株式会社製))を取り付け、圧力を記録した。本実験例においては、圧力計114での圧力を一定とすることにより、試験条件を揃えた。また酸素濃度センサ113としては、JKO−25LJII(株式会社ジコー製)を用い、この酸素濃度センサ113も圧力計114と同じデータロガー115に接続した。
【0044】
方法Aにおいて本体102に供給するヘリウム103と酸素104との混合ガスとしては、酸素(日本薬局方酸素、しなのエア・ウォーター株式会社製、純度:99.5%以上)と調整ヘリウム(日本ヘリウム株式会社製)を、混合器105(He+Oブレンダー、エア・ウォーター株式会社製)でヘリウム50%および酸素50%の濃度に調整した。なお、「調整ヘリウム」とは、ヘリウムと酸素を混合して100%となるように、79.1〜76.9%のヘリウムと、20.9〜23.1%の酸素を予め混合してあるガスである。また、圧縮空気106は、コンプレッサー(ベンチレアーII、Hamilton Medical AG社(スイス)製)を用いて本体102に供給した。
【0045】
図12に示した人工呼吸器101を用いた方法Aでは、混合器105で濃度を調整したヘリウム103と酸素104との混合ガスを、本体102の酸素供給口に導入した。この際、本体102の酸素濃度設定は100%とした。このように設定することにより、人工呼吸器101から被験体108であるウサギに供給される吸気ガス107は、調整されたヘリウムと酸素との混合ガス(ヘリウム50%、酸素50%)のみとなる。なお、人工呼吸器に接続した圧縮空気は、人工呼吸器の正常な駆動上必要なものであり、ウサギに投与されたガスには、この圧縮空気は含まれない。また、人工呼吸器の駆動用に消費される調整されたヘリウムと酸素との混合ガス、ならびに、ウサギに供給される調整されたヘリウムと酸素との混合ガスの合計は約36L/minであった。
【0046】
一方、図13に示した人工呼吸器201を用いた方法Bでは、本体102に供給する酸素の濃度の設定を50%とした。このように設定することにより、ウサギに供給するガス中の酸素濃度については50%となる。
【0047】
なお、今回は、ウサギに投与するガスを加温加湿しなかったが、37℃100%RH程度に加温加湿してから投与する場合もある。
【0048】
被験体108として、日本白色ウサギ(型番:Std:JW/CSK、日本エスエルシー株式会社製、11週齢、体重約2kg、オス)を用いた。ウサギの試験前処置は以下のとおりとした。
【0049】
まず、注射用麻酔薬を皮下注射して沈静させた。その後、ウサギに気管切開を行ない、内径3.5mmの気管内チューブ(気管内管路109)を取り付け、HFO人工呼吸器を装着した。静脈に留置針を入れ、注射用麻酔薬と補液をシリンジポンプ(アトムシリンジポンプ1235N、アトムメディカル株式会社製)で、持続投与した。
【0050】
続いて、頚動脈に留置針(ジェルコI.V.カテーテル24G、スミスメディカル・ジャパン株式会社製)を入れ、採血用ポート(インターリンクI.V.アクセスシステム:カテーテル延長チューブ1アダプターラインTコネクタータイプ、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)を接続した。採血は採血用ポートから行ない、微量採血管(テルモキャピラリー ヘパリンリチウム VC−C110HL、テルモ株式会社製)を用いて実施した。動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧の測定は血液ガス分析装置(型番:ABL505、ラジオメーター株式会社製)で実施した。
【0051】
以下の手順で実験を行なった。
(1)方法Bで換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0052】
(2)方法Aに切り替えて換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0053】
(3)方法Bに戻して換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0054】
上記(1)〜(3)を、ウサギ4羽(ウサギa,b,c,d)に対して、各2回施行した。なお、本実験例の結果の評価方法は、ウサギの個体差に伴う絶対値の差を除くため、最初の方法Bの値を割合1とし、そこから方法A、方法Aに続く方法Bの値をそれぞれ相対比で示した。ここで、動脈血酸素分圧は値が大きいほど、動脈血二酸化炭素分圧は値が小さいほど、換気の状態がよいことを表している。動脈血酸素分圧については、方法Aのときの値が、方法Bと比べて同等以上であった場合、方法Aによる効果が同等以上であると判断した。同様に、動脈血二酸化炭素分圧については、方法Aのときの値が、方法Bと比較して同等以下であった場合、方法Aによる効果が同等以上であると判断した。この結果について、動脈血酸素分圧を図14および表1に、動脈血二酸化炭素分圧を図15および表2にそれぞれ示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1、2および図14、15から分かるように、方法Aは方法Bに比べ、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を改善した。したがって、従来からの一般的な人工換気法よりも、ヘリウムと酸素との混合ガスをHFOで投与する方法の方が有効であることが本試験でも確認された。
【0058】
<実験例2>
図1に示した例の本発明の人工呼吸器1を用いて、ヘリウムと酸素との混合ガスを気管外管路8の中途の分岐から供給したHFO人工呼吸(以下、「方法C」とする)(実施例1)と、上述した方法A(比較例1)とを交互に行ない、ウサギの動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧の変動を調べ、方法Cが方法Aと同等以上の効果があるかを検証した。
【0059】
方法Cでは、上述した方法Bと同様に、本体2に供給する酸素の濃度の設定を50%とした。方法Cでは、方法Aについて上述したのと同様の調整ヘリウム11および酸素12を用い、これらを混合器13でヘリウム50%と酸素50%の濃度に調整した後、流量調整器14(面積式流量計RK1202、コフロック株式会社製)で流量を調整し、さらに、流量計兼酸素濃度計15(フローアナライザーPF−300、imtメディカル(スイス)製)にて、流量および酸素濃度を確認してから、気管外管路8の中途の分岐から供給した。このように、ウサギに供給するガス中の酸素濃度が50%となるように設定した。
【0060】
まず、以下の手順で、方法Cの投与量を設定した。
(1)方法Aで換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0061】
(2)方法Cに切り替えて換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。ヘリウムおよび酸素混合ガスの投与流量は0.50L/minとした。
【0062】
(3)方法Aに戻して換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0063】
(4)方法Cに切り替えて換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。ヘリウムおよび酸素混合ガスの投与流量は1.00L/minとした。
【0064】
以降、方法A、方法Cで投与量を1.50L/min、方法Aという手順を繰り返し、方法Cの投与量4.00L/minまで0.50L/minずつ増やしながら実施した。なお、この方法Cの投与量の設定には、後述する3羽のウサギのうちウサギgを用いた。結果を図4および図5、表3に示す。この結果、方法Cの投与量を2.00L/minと決定した。
【0065】
【表3】
【0066】
次に、以下の手順で方法Cで方法Aと同等以上の効果が得られるか検討した。
(5)方法Aで換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0067】
(6)方法Cに切り替えて換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0068】
(7)方法Aに戻して換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0069】
上記(5)〜(7)を、ウサギ3羽(ウサギe,f,g)に対して、各2回施行した。結果を図6および図7、表4および表5に示す。
【0070】
なお、実験例2の結果の評価方法も、実験例1と同様に、ウサギの個体差に伴う絶対値の差を除くため、最初の方法Aの値を割合1とし、そこからの方法C、方法Cに続く方法Aの値をそれぞれ相対比で示した。動脈血酸素分圧については、方法Cのときの値が、方法Aと比べて同等以上であった場合、方法Cによる効果が同等以上であると判断した。同様に、動脈血二酸化炭素分圧については、方法Cのときの値が、方法Aと比べて同等以下であった場合、方法Cによる効果が同等以上であると判断した。
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
図6図7、表4および表5に示す結果から、方法Cは方法Aと同等以上の効果を得ることができた。すなわちこの条件では、試験Aのようにヘリウム・酸素のガス量を36L/minとしなくても、試験Cのように、2.00L/minで十分に同等の効果が得られることが分かった。
【0074】
なお、今回は、ウサギに投与するガスを加温加湿しなかったが、37℃100%RH程度に加温加湿してから投与するようにしてもよい。
【0075】
<実験例3>
図2に示した例の本発明の人工呼吸器31を用いて、ヘリウムと酸素との混合ガスを気管内管路7の先端から供給したHFO人工呼吸(以下、「方法D」とする)(実施例2)と、上述した方法A(比較例1)とを交互に行ない、ウサギの動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧の変動を調べ、方法Dが方法Aと同等以上の効果があるかを検証した。
【0076】
方法Dでは、上述した方法Bと同様に、本体2に供給する酸素の濃度の設定を50%とした。方法Dでは、方法Aについて上述したのと同様の調整ヘリウム11および酸素12を用い、これらを混合器13でヘリウム50%と酸素50%の濃度に調整した後、流量調整器14(面積式流量計RK1202、コフロック株式会社製)で流量を調整し、さらに、流量計兼酸素濃度計15(フローアナライザーPF−300、imtメディカル(スイス)製)にて、流量および酸素濃度を確認してから、気管内管路7の先端から供給した。このように、ウサギに供給するガス中の酸素濃度が50%となるように設定した。
【0077】
方法Dでは、気管内管路7の先端からヘリウムと酸素との混合ガスを供給するために、気管内管路7として、COVIDIEN社(http://respiratorysolutions.covidien.com/AirwayManagement/EndotrachealTubes/UncuffedTrachealTubewithMonitoringLumen/tabid/172/Default.aspx)のホームページに示されている気管内チューブを用いた。また、方法Dでは、Cardinal Health社(http://www.cardinal.com/us/en/distributedproducts/ASP/43167-025.asp?cat=surgerycenter)やHUDSON RCI社(http://www.hudsonrci.com/products/product_indiv.asp?catalog=1&PageId=67&prod_cat=21&prod_subcat=38&keywords=)のホームページに示されている気管内チューブも好適に用いることができる。
【0078】
まず、以下の手順で、方法Dの投与量を設定した。
(1)方法Aで換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0079】
(2)方法Dに切り替えて換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。ヘリウムおよび酸素混合ガスの投与流量は0.10L/minとした。
【0080】
(3)方法Aに戻して換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0081】
(4)方法Dに切り替えて換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。ヘリウムおよび酸素混合ガスの投与流量は0.20L/minとした。
【0082】
以降、方法A、方法Dで投与量を0.10L/min増量、方法Aという手順を繰り返し、方法Dの投与量0.50L/minまで実施した。結果を図8および図9、表6および表7に示す。なお、この方法Dの投与量の設定には、後述する3羽のウサギのうち、ウサギiと、さらに別のウサギlの2羽を用いた。ウサギlについては、ヘリウムおよび酸素混合ガスの投与流量0.20L/minのみ実施した。表6は、方法Dの投与量設定の際のウサギ動脈血酸素分圧の変化を示し、表7は、方法Dの投与量設定の際のウサギ動脈血二酸化炭素分圧の変化を示している。この結果、方法Dの投与量を0.30L/minと決定した。
【0083】
【表6】
【0084】
【表7】
【0085】
次に、以下の手順で方法Dで方法Aと同等以上の効果が得られるか検討した。
(5)方法Aで換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0086】
(6)方法Dに切り替えて換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0087】
(7)方法Aに戻して換気した後、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を測定した。
【0088】
上記(5)〜(7)を、ウサギ3羽(ウサギh,i,j)に対して、1〜3回施行した。結果を図10および図11、表8および表9に示す。
【0089】
なお、実験例3の結果の評価方法も、実験例1と同様に、ウサギの個体差に伴う絶対値の差を除くため、最初の方法Aの値を割合1とし、そこからの方法D、方法Dに続く方法Aの値をそれぞれ相対比で示した。また実験例3でも試験順として、方法Dを、方法Aで挟むことで、ウサギの容体変化を除いた形で、動脈血酸素分圧および動脈血二酸化炭素分圧を評価した。なお、動脈血酸素分圧は値が大きいほど、動脈血二酸化炭素分圧は値が小さいほど、換気の状態がよいことを表している。動脈血酸素分圧については、方法Dのときの値が、方法Aと比べて同等以上であった場合、方法Dによる効果が同等以上であると判断した。同様に、動脈血二酸化炭素分圧については、方法Dのときの値が、方法Aと比べて同等以下であった場合、方法Dによる効果が同等以上であると判断した。
【0090】
【表8】
【0091】
【表9】
【0092】
図10図11、表8および表9に示す結果から、方法Dも方法Aと同等以上の効果を得ることができた。すなわちこの条件下では、試験Aのようにヘリウム・酸素のガス量を36L/minとしなくても、試験Dのように、0.30L/minで十分に同等の効果が得られることが分かった。
【0093】
なお、今回は、ウサギに投与するガスを加温加湿しなかったが、37℃100%RH程度に加温加湿してから投与するようにしてもよい。
【0094】
以上の結果より、人工換気療法でヘリウムと酸素との混合ガスをHFOで投与する方法(方法A)に比べ、気管外管路の中途からヘリウムと酸素との混合ガスを供給する方法Cでは、ヘリウムの消費量を(2.00L/min)/(36L/min)=5.6%に、気管内管路にヘリウムと酸素との混合ガスを供給する方法Dでは、(0.30L/min)/(36L/min)=0.83%に低減することができた。これにより、7000Lのヘリウムボンベ1本で、たとえば方法Cでは58.3時間、方法Dでは388.9時間治療継続でき、ボンベ交換の頻度も大幅に低減することができ、医療従事者の負担も減ることに繋がり、実務上、ヘリウム・酸素吸入療法を現実的な治療法として実施することが可能となることが分かる。
【0095】
このような効果については、ヘリウムが気管内チューブでの圧力損失を下げることに発揮されていると考えられている。図12に示した非特許文献2で開示されている方法(方法A)では、気管内管路のみならず、気管外回路およびHFO人工呼吸器本体の内部もヘリウムと酸素との混合ガスで満たしている。これにより、HFO人工呼吸器を駆動させるためのガスにもヘリウムおよび酸素を使用していることになる。一方、本発明では、効果を発揮しているであろう気管内管路の付近にのみヘリウムと酸素との混合ガスを供給していることから、ヘリウムと酸素との混合ガスによる人工換気効率の向上という効果を損なうことなく、ヘリウムと酸素との混合ガスの消費量を低減することができたと考えられる。
【0096】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
1,31 人工呼吸器、2 第1のガス供給装置(本体)、3 酸素、4 圧縮空気、5 吸気ガス、6 患者(被験体)、7 気管内管路、8 気管外管路、9 呼気ガス、10 排気ガス、11 ヘリウム、12 酸素、13 第2のガス供給装置(混合器)、14 流量調整器、15 流量計兼酸素濃度計、16 酸素濃度センサ、17 圧力計、18 データロガー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15