(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための例示的な実施例を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、特別な記載がある場合を除き、以下の実施例で説明する寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、特別な記載がない限り、本発明の範囲は、以下に具体的に記載された実施例に限定されるものではない。
【0014】
[第1実施形態]
図1に示された薬液を注入するためのシリンジ1は、注入する薬液を充填するためのシリンダ2と、該シリンダ2内において摺動可能なプランジャー3と、該プランジャー3の先端に設けられると共に、シリンダ2の内面と接触し且つシリンダ2内において摺動可能なシール部材4とを備える。シリンダ2は中空の円筒状部分を有しており、シリンダ2の先端部21には不図示のチューブを介して翼状針等が接続される。なお、シール部材4におけるプランジャー3の頂上部に対向する部分と、プランジャー3の頂上部との間には僅かな隙間が設けられている。
【0015】
このシリンジ1において、薬液を充填するときには、プランジャー3をシリンダ2の後端部22の方向に向かって引き出し、チューブ等を介してシリンダ2内に薬液を充填する。また、薬液を注入するときには、プランジャー3をシリンダ2の先端部21の方向に向かって押し込み、チューブ等を介して患者の体内に薬液を注入する。なお、シリンダ2及びプランジャー3は、硬質樹脂、軟質樹脂、エンジニアリングプラスチック又はガラス等から形成することができる。
【0016】
このシリンジ1は、予めシリンダ内に薬液が充填されたプレフィルドシリンジであってもよい。プレフィルドシリンジの場合は、予め薬液が充填されたシリンダ2を備えており、シリンダ2の先端部21には、薬液が漏出しないようにシリンダ2を封止する封止部材が設けられる。充填された薬液は、この封止部材とシール部材4とによってシリンダ2内に収容保持される。なお、プレフィルドシリンジの場合も含め、シリンジ1に充填される薬液としては、例えば、造影剤、生理食塩水又は抗がん剤等が挙げられる。
【0017】
このようなシリンジ1は、自動注入装置であるインジェクターにセットして用いられる。インジェクターは、薬液が充填されたシリンジ1が装着されるシリンジ保持部と、該シリンジ1のプランジャー3をシリンダ2に向けて押し込む駆動手段と、駆動手段の動作を制御すると共にメモリ及びCPU等を備える制御回路とを有している。そして、インジェクターは、キャスター付きのスタンド上等に保持され、患者の体内に薬液を注入する際に用いることができる。
【0018】
図2は、シール部材4としてのガスケットの中央断面を示す概略断面図と、側方から見た場合の概略外観図を示す。なお、
図2においては、左側に断面図を示し、右側に外観図を示している。また、
図3は、シール部材4の概略正面図及び概略裏面図を示す。ここで、正面とは
図2に示すシール部材4を図面上方から見た場合の表面のことをいい、裏面とは
図2に示すシール部材4を図面下方から見た場合の表面のことをいう。なお、
図3においては、上側に正面図を示し、下側に裏面図を示す。
【0019】
シール部材4は、基体40と、基体40上に接着された超高分子量ポリエチレンフィルム6とを備える。また、シール部材4は、先端部43の頂点から後端部までにおいて、例えば、9〜20mmの高さを有する。そして、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、例えば、10〜100μmの厚さを有する。シール部材4の先端部43は、略円錐状の形状を有し、シリンダ2内において充填された薬液と接触する部分である。
【0020】
また、シール部材4の側面には、シリンダ2の内面と接触する2つの環状突部41と、環状突部41同士の間に設けられる環状凹部45とが形成されている。そして、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、シール部材4の先端部43、環状突部41及び環状凹部45に密着するように、後述する接着フィルム層62により接着されている。さらに、シール部材4の内側にはプランジャー3の先端が挿入される凹部46が形成されている。この凹部46には係合溝42が形成されており、プランジャー3の先端を挿入することにより、係合溝42をプランジャー3の先端に形成された突部と係合させることができる。また、プランジャー3の先端を雄ねじ状に構成するようにねじ溝を設けると共に、シール部材4の凹部46内面を雌ねじ状に構成するようにねじ溝を設けた、ねじ式の係留方式を用いることもできる。
【0021】
図3に示すように、シール部材4は、シリンダ2の円筒状部分の内面に接触するように略円形の外形を有している。また、シール部材4の後端側には、凹部46と連通する開口47が形成されている。そして、プランジャー3の先端は、該開口47を介して凹部46内に挿入される。なお、基体40は、スチレン系エラストマー、ハロゲン化ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム又はシリコーンゴム等から形成することができる。
【0022】
次に、接着された超高分子量ポリエチレンフィルム6について、
図4を参照して説明する。超高分子量ポリエチレンフィルム6は、超高分子量ポリエチレン層61及び接着フィルム層62を有している。そして、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、該接着フィルム層62を介して基体40に接着されている。この接着フィルム層62は、超高分子量ポリエチレン層61よりも融点が低い熱可塑性樹脂から構成されている。そして、接着フィルム層62は、例えば、10〜100μmの厚さを有する。
【0023】
このような接着フィルム層62としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体フィルム、エチレン−メタクリル酸共重合体フィルム、リニア低密度(ローデンシティ)ポリエチレンフィルム等が挙げられる。この内、リニア低密度ポリエチレンフィルム又はエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムが接着性に優れている。そのため、接着フィルム層62は、リニア低密度ポリエチレンフィルム又はエチレン−酢酸ビニル共重合体フィルムからなることが好ましい。特に、リニア低密度ポリエチレンフィルムは接着性に優れているので、接着フィルム層62は、リニア低密度ポリエチレンフィルムから構成することがより好ましい。このリニア低密度ポリエチレンフィルムには、有害な添加剤が用いられていないので、薬液を注入するためのシリンジ1に用いられるフィルムとしても好適である。
【0024】
また、接着フィルム層62用のフィルムは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、アイオノマー、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(エチレンブチレン)ポリスチレンブロック共重合体およびポリプロピレンを含んでなる樹脂混合物、スチレンブタジエンゴムの水素添加物およびポリエチレンを含んでなる樹脂混合物、及びスチレンブタジエンゴムの水素添加物およびポリプロピレンを含んでなる樹脂混合物等から選択される樹脂から構成することができる。
【0025】
このようなシール部材4の摺動抵抗について、比較例のシール部材と比較したグラフを
図5に示す。なお、
図5において、縦軸はプランジャー押力(N)を示し、横軸は時間(sec)を示す。また、比較例のシール部材においては、シリコーンゴムから形成された基体の表面にシリコーンオイルを塗布している。比較は、水を充填した50mlサイズのシリンジに21Gの翼状針を接続し、該シリンジを固定した状態で、プランジャーをシリンダ内に押し込むことにより行った。また、プランジャーの押し込みはシリンジの載置面に対して水平に行い、押し込み時のプランジャー押力を測定した。なお、プランジャー押力の測定にはプッシュプルゲージ(テスター)を使用し、押し込み中に押力値が変化しなくなる時点の値を測定した。また、シリンジには、ポリプロビレン樹脂からなるシリンジを用いている。
【0026】
図5に示されているように、本実施形態に係るシール部材4のプランジャー押力は、比較例におけるシール部材のプランジャー押力とおおよそ20N程度の相違があるのみであり、同程度の良好な摺動性能を有しているといえる。すなわち、シリコーンオイルを使用せずに、同程度の良好な摺動性能を発揮させることができる。このシール部材4を用いることにより、薬液中へのシリコーンオイルの溶出、及び塗布膜の剥離を防止することができる。さらに、本実施形態に係るシール部材4によれば、良好な摺動性能を発揮させることができるので、安定した薬液の注入が可能となる。また、このようなシール部材4によれば、手動でプランジャー3を押して薬液を注入することもできる。
【0027】
続いて、
図6乃至9を参照し、薬液を注入するためのシリンジ1に用いられるシリンジ部材4の製造方法を説明する。
図6は、シール部材4の成形前の状態にある成形用金型を示す概略断面図であり、下側に下金型8(第1の金型)を示し、上側に上金型7(第2の金型)を示す。また、
図7は、シール部材4の成形工程において、基体40の構成材料を射出する前の状態を示す概略断面図である。また、
図8は、シール部材4の成形工程において、基体40の構成材料を射出する状態を示す概略断面である。そして、
図9は、基体40を成形した後に、シール部材4のトリミングを行うトリミング工程を説明する概略断面図である。なお、
図9においては、説明の便宜のため下金型8及び上金型7の図示を省略している。
【0028】
図6に示すように、下金型8は、成形時に上金型7の突出部分72が挿入される凹部81と、空気抜き孔としてのエアベント85とを備える。この凹部81は、シール部材4の外面形状に対応する内面形状、すなわち、シール部材4の外面形状にほぼ一致する内面形状を有する。そして、該凹部81内に、突出部分72が凹部81の開口82を介して挿入される。後述するように、この凹部81には、シール部材4の基体40の構成材料が供給される。なお、上金型7又は下金型8は、上下方向において、不図示の移動機構によって他方に対して相対的に移動させることができる。
【0029】
上金型7は、基体40の構成材料を供給するためのランナー71を備える。なお、本実施形態において、上金型7のランナー71は2つであるが、1つ又は3つ以上のランナーであってもよい。また、上金型7は、シール部材4の凹部46の内面形状に対応する外面形状を有する突出部分72と、ランナー71と突出部分72との間に位置すると共に、下金型8の凹部81を囲むような形状を有する外周ランナー溝73と、金型を閉じたときに基体40の構成材料の流路を狭めるゲート74と、空気抜き孔としてのエアベント75とを備えている。この外周ランナー溝73の形状は、円状、楕円状、多角形状等の種々の形状から選択することができる。
【0030】
そして、本実施形態の外周ランナー溝73は、下金型8の凹部81の開口82を囲むような形状を有する。さらに、本実施形態の場合、外周ランナー溝73はシール部材4の外形によりも大きく、好ましくは円状の形状を有する。すなわち、外周ランナー溝73は、開口82の僅かに外側に位置するように構成されている。そのため、
図6の矢印Aで示すように、外周ランナー溝73は開口82の径よりも大きい径(内径)を有する。これにより、外周ランナー溝73は、成形されるシール部材4の外寸よりも大きな内径を有することになる。なお、
図6においては、ゲート74の幅が、外周ランナー溝73の内径と開口82の径との差に略対応している。
【0031】
シール部材4を成形する場合、まず凹部81を備えた下金型8と、外周ランナー溝73及びランナー71を備えた上金型7とを対向配置する。そして、下金型8上に、超高分子量ポリエチレンフィルム6を接着フィルム層62がランナー71側を向くように載置する。次いで、
図7に示すように、上金型7の突出部分72を超高分子量ポリエチレンフィルム6に接触させ、超高分子量ポリエチレンフィルム6を下金型8の凹部81内に押し込む。同時に、
図8に示すように、上金型7のランナー71から基体40の構成材料を射出する。このとき、
図8の矢印で示すように、外周ランナー溝73を介して基体40の構成材料を凹部81に供給する。そのため、基体40の構成材料は、外周ランナー溝73に導かれて突出部分72の周囲全体から凹部81内に流入する。すなわち、基体40の構成材料は、外周ランナー溝73の内側を回り込むように流れて凹部81内に流入する。
【0032】
そして、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、基体40の構成材料によって、突出部分72の周囲全体から凹部81内に押し込まれる。そのため、上金型7によって予備賦形をしなくとも、超高分子量ポリエチレンフィルム6を凹部81内に精度よく押し込むことができる。これにより、超高分子量ポリエチレンフィルム6の予備賦形工程を省略することができる。そして、シール部材4の成形が完了した後は、
図9の点線で示す位置でトリミングを行い、シール部材4の本体からはみ出した余分な部分を切除する。具体的には、該はみ出した部分には、ゲート74に対応する位置に凹部が形成されており、ランナー71に対応する位置に凸部が形成されている。そのため、このような凹部及び凸部が、トリミングによって切除される。こうして、シール部材4が製造される。なお、トリミングは、シール部材4の外形に沿った位置で行われる。
【0033】
このように製造されたシール部材4は、別途製造されたプランジャー3及びシリンダ2と組み合わされる。すなわち、シール部材4の凹部46にプランジャー3の先端を挿入して、凹部46内の係合溝42にプランジャー3の先端に形成された突部を係合させる。そして、シール部材4が取り付けられたプランジャー3を、シリンダ2内に挿入する。このようにして、シリンジ1が製造される。さらに、プレフィルドシリンジの場合は、シリンダ2に薬液を充填し、シリンダ2の先端部21に封止部材を取り付ける。
【0034】
本実施形態に係るシール部材4の製造方法によれば、シール部材4の基体40にゲート痕が形成されてしまうことを防止することができる。ここでゲート痕とは、シール部材の基体を成形する際に、基体における金型のゲートに対応する部分に形成される突部又は凹部のことである。この点、従来の成形方法においては、
図10に示すように、基体140の構成材料を射出するための上金型170のランナー171及びゲート174が、シール部材104の基体140の先端部分内側に対応する位置に配置される。そのため、基体140の先端部分内側には、ランナー171と対応する位置にゲート痕172が形成されてしまう。一方、基体140の先端部分外側には、ランナー171と対応する位置(エアベント175と対応する位置)にゲート痕173が形成されてしまう。
【0035】
そして、ゲート痕173が形成されてしまうと、該ゲート痕173と基体140を被覆するフィルム106との間の部分から、フィルム106が剥離しやすくなってしまう。さらに、基体140のゲート痕173は、シール部材104の先端部分外側にも反映される。そして、シール部材104の先端部分外側は薬液と接触するため、薬液内に気泡が生じてしまう可能性がある。すなわち、先端部分外側の凹部に微小気泡が集まることにより、薬液内に気泡が生じやすくなってしまう。また、このような凹部が形成されたシール部材104は、見た目が悪いという問題もある。
【0036】
これに対して、本実施形態に係る製造方法により製造されたシール部材4の先端部分外面は、
図2に示すように凹凸が無い滑らかな表面となる。これは、上金型7のランナー71が設けられている位置が、シール部材4の本体からトリミングによって切除される部分に対応するからである。そのため、仮にランナー71に対応する位置にゲート痕が形成されても、トリミングによって切除されるので、シール部材4の本体にゲート痕が残ることはない。この点、従来の製造方法において、このような位置にランナーを設けようとすると、基体の構成材料を下金型の凹部内に十分に流入させることができなかった。すなわち、ランナーから凹部内に流入する基体の構成材料の流れが偏ってしまうため、ランナーを設ける位置が制限されていた。
【0037】
これに対して、本実施形態に係る製造方法においては、シール部材4の外形に対応する大きさを有する外周ランナー溝73が上金型7に設けられている。そのため、該外周ランナー溝73により、基体40の構成材料は、下金型8の凹部81の周囲全体から凹部81内に流入する。これにより、ランナー71から凹部81内に流入する基体の構成材料の流れが偏ることを防止し、基体40の構成材料を下金型8の凹部81の全体に流入させることができる。したがって、本実施形態に係る製造方法によれば、シール部材4の本体からトリミングによって切除される部分に対応する位置に、上金型7のランナー71を設けることができる。これにより、シール部材4の基体40にゲート痕が形成されてしまうことを防止し、シール部材4の先端部分外面は凹凸が無い滑らかな表面となる。そして、先端部分が滑らかな表面を有するため、シール部材4の見た目も向上させることができる。
【0038】
以上説明した第1実施形態に係るシール部材4、及び該シール部材4を備えたシリンジ1によれば、超高分子量ポリエチレンフィルム6の剥離を抑制することができる。同時に、良好な摺動性能を発揮するシール部材4、又は該シール部材4を備えたシリンジ1を提供することができる。さらには、シリコーンオイルを使用する必要がないので、薬液中へのシリコーンオイルの溶出及び塗布膜の剥離を防止することもできる。
【0039】
さらに、超高分子量ポリエチレンフィルム6の超高分子量ポリエチレン層61を超高分子量ポリエチレンのみから構成することにより、シリコンを含まない超高分子量ポリエチレンフィルム6であっても良好に接着させることができる。このような超高分子量ポリエチレンフィルム6を使用すれば、薬液中へのシリコーンオイルの溶出及び塗布膜の剥離をより確実に防止することができる。
【0040】
また、第1実施形態に係るシール部材4の製造方法によれば、超高分子量ポリエチレンフィルムの剥離を抑制することができると共に、良好な摺動性能を発揮するシール部材を製造することができる。さらに、シール部材4の先端部分外面にゲート痕が形成されることを防止できる。これにより、シール部材4の先端部分外面を、凹凸が無い滑らかな表面とすることができる。さらに、予備賦形工程を省略できるので、製造コストを低減することができると共に、製造時間を短縮することができる。
【0041】
なお、上金型7の外周ランナー溝73を設ける位置は、下金型8の開口82に対向する位置であってもよい。また、外周ランナー溝73を設ける位置は、開口82の僅かに内側であってもよい。このような位置に外周ランナー溝73を設けた場合であっても、下金型8の凹部81全体に基体40の構成材料を流し込むことができる。
【0042】
[第2実施形態]
続いて
図11を参照して第2実施形態に係るシール部材4の製造方法を説明する。なお、第2実施形態の説明においては、第1実施形態との相違点について説明し、第1実施形態で説明した構成要素については同じ参照番号を付し、その説明を省略する。特に説明した場合を除き、同じ参照符号を付した構成要素は略同一の動作及び機能を奏し、その作用効果も略同一である。
【0043】
図11は、シール部材の成形工程において、基体の構成材料を射出する状態を示す概略断面図であり、上側に上金型27を示し、下側に下金型28を示す。第1実施形態においては、上金型7のランナー71が、外周ランナー溝73の外側で開口していた。一方、第2実施形態においては、上金型27のランナー271は、外周ランナー溝273内において開口する。
【0044】
第1実施形態と同様に、上金型27は下金型28に対向するように配置される。そして、下金型28は、成形時に上金型27の突出部分272が挿入される凹部281と、空気抜き孔としてのエアベント285とを備える。この凹部281は、シール部材4の外面形状に対応する内面形状を有し、突出部分272は凹部281の開口282を介して該凹部281内に挿入される。一方、上金型27は、基体40の構成材料を射出するためのランナー271と、シール部材4の凹部46の内面形状に対応する外面形状を有する突出部分272と、金型を閉じたときに基体40の構成材料の流路を狭めるゲート274と、空気抜き孔としてのエアベント275とを備える。なお、第1実施形態と同様に、外周ランナー溝273の形状は種々の形状から選択することができる。そして、第2実施形態においては、上金型27のランナー271が、外周ランナー溝273内において開口している。
【0045】
第2実施形態においても、シール部材4を成形する工程は第1実施形態と略同様である。すなわち、まず下金型28上に超高分子量ポリエチレンフィルム6を配置する。次いで、上金型27の突出分272を超高分子量ポリエチレンフィルム6に接触させ、超高分子量ポリエチレンフィルム6を下金型28の凹部281内に押し込む。その後、上金型27のランナー271から基体40の構成材料を供給する。このとき、基体40の構成材料は、外周ランナー溝273に導かれて突出部分272の周囲全体から凹部281内に流入する。そのため、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、射出された基体40の構成材料によって、突出部分272の周囲全体から凹部281内に押し込まれる。成形後には、トリミング工程を行い、シール部材4の本体からはみ出した余分な部分を切除して、シール部材4が製造される。
【0046】
このような第2実施形態のシール部材4の製造方法によっても、超高分子量ポリエチレンフィルムの剥離を抑制することができると共に、良好な摺動性能を発揮するシール部材を製造することができる。さらに、シール部材4の先端部分外面にゲート痕が形成されることを防止できる。これにより、シール部材4の先端部分外面を、凹凸が無い滑らかな表面とすることができる。さらに、予備賦形工程を省略できるので、製造コストを低減することができると共に、製造時間を短縮することができる。
【0047】
[第3実施形態]
図12は、第3実施形態に係る薬液注入装置(インジェクター)320の概略斜視図を示す。また、
図13及び
図14は第3実施形態に係る薬液注入装置320に装着されるプレフィルドシリンジを示す。
【0048】
患者に造影剤等の薬液を注入するための薬液注入装置320は、第1シリンジ301及び第2シリンジ302と、第1シリンジ301を装着するためのアダプター311と、第2シリンジ302を装着するためのアダプター312とを備えている。そして、第1シリンジ301及び第2シリンジ302は、上述したシール部材4(不図示)を備えている。この第1シリンジ301及び第2シリンジ302には、チューブ303が接続される。また、薬液注入装置320のヘッドは、床面に置かれた可動式のスタンドベース316上のスタンドポール317の上部に回動自在に保持されている。これにより、ヘッドの先端側(第1シリンジ301及び第2シリンジ302が装着される側)を床面に向ける姿勢と、ヘッドの後端側(第1シリンジ301及び第2シリンジ302が装着されない側)を床面に向ける姿勢とにヘッドを回動できる。
【0049】
薬液注入装置320は、撮像装置(不図示)に有線又は無線接続され、薬液の注入時及び画像の撮影時には撮像装置と薬液注入装置320との間で各種データが送受信される。このような撮像装置としては、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、CT(Computed Tomography)装置、アンギオ撮像装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、CTアンギオ装置、MRアンギオ装置、超音波診断装置、血管撮像装置等の各種医療用撮像装置がある。
【0050】
また、薬液注入装置320は、不図示のコンソール等の制御装置をさらに備える。そして、薬液注入装置320のヘッドと制御装置とは、有線又は無線接続されている。この制御装置は、タッチパネルを備えると共に、ハンドスイッチに有線又は無線接続されており、コントローラーとして機能する。また、制御装置には、動作パターン(注入プロトコル)のデータ、及び薬液のデータ等が予め記憶されている。患者に薬液を注入する場合、オペレータは、タッチパネルを操作して、注入速度、注入量、注入時間、体重などの患者の身体的データ、及び薬液の種類のデータ等を入力する。そして、制御装置は、入力されたデータと予め記憶されているデータに応じて、最適な注入条件を算出する。その後、制御装置は、算出された注入条件に基づいて、患者に注入する薬液の量及び注入プロトコルを決定する。
【0051】
制御装置は、薬液の量及び注入プロトコルを決定すると、所定のデータ又はグラフなどをタッチパネルに表示させる。そして、オペレータは、表示されたデータ又はグラフなどを確認し、実際に注入動作をスタートさせるならばヘッドのスタートボタンを押す。スタートボタンが押されると薬液の注入が開始される。また、ハンドスイッチのボタンを押して注入を開始することもできる。なお、動作パターン(注入プロトコル)のデータ、及び薬液のデータ等は、外部の記憶媒体から入力することもできる。
【0052】
第3実施形態においては、第1シリンジ301及び第2シリンジ302がいずれもプレフィルドシリンジである。そして、第1シリンジ301及び第2シリンジ302のシリンダ2には予めに薬液が充填されている。このプレフィルドシリンジについて、第1シリンジ301を例に、
図13及び
図14を参照して説明する。
【0053】
図13に示す第1シリンジ301は、200mlサイズのプレフィルドシリンジであり、シリンジ全体の概略斜視図を
図13左上に示し、シリンダ2を後端側から見た概略斜視図を
図13右下に示している。この第1シリンジ301は、薬液が充填されたシリンダ2と、該シリンダ2内において摺動可能なプランジャー3と、該プランジャー3の先端に取り付けられる上述したシール部材4(不図示)とを備える。そして、プランジャー3は、シール部材4にねじ込むことによって取り付けられている。シリンダ2の先端部には、キャップ等の封止部材(不図示)が設けられており、第1シリンジ301を装着する前に封止部材が外されチューブ303が第1シリンジ301の先端に接続される。
【0054】
また、シリンダ2の後端にはフランジが形成されている。そして、フランジは、薬液注入装置320のアダプター311(
図12)に嵌めるための切り欠き313と、リング状のリブ314と、シリンダ2の後端方向に立ち上がったリブ315とを有する。そして、第1シリンジ301を装着する際には、第1シリンジ301のフランジを薬液注入装置320のアダプター311に挿入し回転させることにより、フランジをアダプター311に嵌めて固定することができる。なお、
図13においてはリブ315が5つ形成されているが、4つ以下又は6つ以上のリブ315を形成することもできる。
【0055】
一方、
図14に示す第1シリンジ301は、100mlサイズのプレフィルドシリンジであり、シリンジ全体の概略斜視図を左上に示し、シリンダ2を後端側から見た概略斜視図を右下に示している。この第1シリンジ301も、薬液が充填されたシリンダ2と、該シリンダ2内において摺動可能なプランジャー3と、該プランジャー3の先端に取り付けられる上述したシール部材4(不図示)とを備える。
図14においても、シリンダ2の後端にはフランジが形成されており、該フランジは、薬液注入装置320のアダプター311(
図12)に嵌めるための切り欠き313と、リング状のリブ314とを有する。この
図14に示す第1シリンジ301は、後端方向に立ち上がったリブ315を有していない点で
図13とは異なる。ただし、
図14において、板状のリブ315を形成することもできる。
【0056】
このような第3実施形態に係る薬液注入システム300によれば、上述したシール部材4を備えることにより良好な摺動性能を発揮させることができるので、安定した薬液の注入が可能となる。なお、第1シリンジ301又は第2シリンジ302としては、200ml、100ml、50ml等の各種サイズのシリンジを用いることができる。また、第1シリンジ301又は第2シリンジ302は、薬液バッグ等から薬液を吸引する吸引タイプのシリンジであってもよい。
【0057】
以上、実施例を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、上述の各実施形態及び変形例は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【0058】
なお、超高分子量ポリエチレンフィルム6を接着する方法は上記実施例に挙げた方法に限定されない。例えば、三次元フィルム成形法を用いて、超高分子量ポリエチレンフィルム6を接着することもできる。具体的に三次元フィルム成形法を用いた超高分子量ポリエチレンフィルム6の接着は、以下のように行う。まず、下側筺体内に基体40をセットする。そして、下側筺体に対向する上側筺体と下側筺体との間に、超高分子量ポリエチレンフィルム6をセットする。その後、上側筺体を下側筺体に向かって下降させ、上側筺体と下側筺体との間の空間を真空吸引する。そして、上側筺体に設けられたヒータによって、超高分子量ポリエチレンフィルム6を加熱する。次いで、大気圧力又は圧縮空気の圧力によって超高分子量ポリエチレンフィルム6を基体40に接着させる。
【0059】
この三次元フィルム成形法による接着においては、シール部材4の側面、特に環状凹部45に対応する部分に超高分子量ポリエチレンフィルム6を接着させることが困難である場合がある。そのような場合は、環状凹部45に対応する部分に圧縮空気を吹き付けることにより、超高分子量ポリエチレンフィルム6を接着させることができる。この圧縮空気の吹き付けは、環状凹部45に対応する環状の形状を有する空気孔を介して圧縮空気を吹き付けることにより行うことができる。または、環状凹部45に対向する位置に設けられた空気孔を介して圧縮空気を吹き付けると共に、基体40を回転させることによって、環状凹部45全体に超高分子量ポリエチレンフィルム6を接着させることもできる。
【0060】
また、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、2層構造には限定されず、3層以上の層構造を有していてもよい。例えば、2層の接着フィルム層62と、超高分子量ポリエチレン層61とを有する3層構造の超高分子量ポリエチレンフィルム6であってもよい。また、超高分子量ポリエチレン層61としては、超高分子量ポリエチレンを含む種々のフィルムを用いることもできるが、超高分子量ポリエチレンのみから構成されたフィルムを用いることが望ましい。
【0061】
さらに、上記実施例においては、シール部材4の外面全体に超高分子量ポリエチレンフィルム6が設けられていた。しかし、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、シール部材4の外面の一部の領域のみ、例えば、薬液と接触する部分のみ、又はシリンダ2の内面と接触する部分のみに設けることもできる。また、超高分子量ポリエチレンフィルム6は、シール部材4と同様にシリンダ2の内面にも接着させることができる。