特許第6104597号(P6104597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104597
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】フォイル軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 27/02 20060101AFI20170316BHJP
   F04D 29/057 20060101ALI20170316BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20170316BHJP
   F01D 25/16 20060101ALI20170316BHJP
   F02C 7/06 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   F16C27/02 A
   F04D29/057 Z
   F02B39/00 J
   F01D25/16 A
   F02C7/06 B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-276907(P2012-276907)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-119095(P2014-119095A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】吉野 真人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏樹
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−035723(JP,U)
【文献】 特開2004−190762(JP,A)
【文献】 特開2008−241015(JP,A)
【文献】 特開2007−239962(JP,A)
【文献】 特開2006−177542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 27/02
F01D 25/16
F02B 39/00
F02C 7/06
F04D 29/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒面状の内周面を有する外方部材と、前記外方部材の内周面に取り付けられた複数のフォイルとを備え、内周に挿入された軸を相対回転自在にラジアル方向で支持するフォイル軸受であって、
各フォイルが、軸受面を有し、且つ、周方向両端部を前記外方部材に接触した状態で保持され、
隣接するフォイルの周方向端部を軸方向視で交差させ、各フォイルの周方向端部を隣接するフォイルの外径側に配し
各フォイルの周方向一方の端部を、前記外方部材の内周面に設けられた固定溝に差し込むと共に、各フォイルの周方向他方の端部を、隣接するフォイルと前記外方部材の内周面の円筒面との間に配したフォイル軸受。
【請求項2】
各フォイルの少なくとも周方向一方の端部を、前記外方部材に対して摺動可能とした請求項1に記載のフォイル軸受。
【請求項3】
各フォイルの周方向一方の端部に、軸方向一部領域を延在させてなる凸部を設け、各フォイルの周方向他方の端部に、前記周方向一方の端部の凸部と異なる軸方向領域を延在させてなる凸部を設け、隣接するフォイルの周方向端部の凸部を軸方向視で交差させた請求項1又は2に記載のフォイル軸受。
【請求項4】
各フォイルの周方向一方の端部に、軸方向一部領域を延在させてなる凸部を設け、各フォイルの周方向他方の端部にスリットを設け、前記凸部を、隣接するフォイルの前記スリットに挿入した請求項1又は2に記載のフォイル軸受。
【請求項5】
各フォイルの周方向一方の端部の軸方向に離隔した複数箇所に、前記凸部が設けられた請求項3又は4記載のフォイル軸受。
【請求項6】
各フォイルと前記外方部材の内周面との間に、各フォイルに内径向きの弾性を付与する弾性部材を設けた請求項1〜の何れか1項に記載のフォイル軸受。
【請求項7】
前記弾性部材がバックフォイルである請求項記載のフォイル軸受。
【請求項8】
請求項1〜の何れか1項に記載のフォイル軸受を備えたターボ機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォイル軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンやターボチャージャの主軸は高速で回転駆動される。また、主軸に取り付けられたタービン翼は高温に晒される。そのため、これらの主軸を支持する軸受には、高温・高速回転といった過酷な環境に耐え得ることが要求される。この種の用途の軸受として、油潤滑の転がり軸受や油動圧軸受を使用する場合もあるが、潤滑油などの液体による潤滑が困難な場合、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難な場合、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる場合、等の条件下では、これらの軸受の使用は制約を受ける。そこで、そのような条件下での使用に適合する軸受として、空気動圧軸受が着目されている。
【0003】
空気動圧軸受としては、回転側と固定側の双方の軸受面を剛体で構成したものが一般的である。しかしながら、この種の空気動圧軸受では、回転側と固定側の軸受面間に形成されるラジアル軸受隙間の管理が不十分であると、安定限界を超えた際にホワールと呼ばれる自励的な主軸の振れ回りを生じ易い。そのため、使用される回転速度に応じた隙間管理が重要となる。特に、ガスタービンやターボチャージャのように、温度変化の激しい環境では熱膨張の影響でラジアル軸受隙間の幅が変動するため、精度の良い隙間管理は極めて困難となる。
【0004】
ホワールが生じにくく、かつ温度変化の大きい環境下でも隙間管理を容易にできる軸受としてフォイル軸受が知られている。フォイル軸受は、曲げに対して剛性の低い可撓性を有する薄膜(フォイル)で軸受面を構成し、軸受面のたわみを許容することで荷重を支持するものである。通常は、軸受の内周面をトップフォイルと呼ばれる薄板で構成し、その外径側にバックフォイルと呼ばれるばね状の部材を配置してトップフォイルが受ける荷重をバックフォイルで弾性的に支持している。この場合、軸の回転時には、軸の外周面とトップフォイルの内周面との間に空気膜が形成され、軸が非接触支持される。
【0005】
フォイル軸受では、フォイルの可撓性により、軸の回転速度や荷重、周囲温度等の運転条件に応じた適切なラジアル軸受隙間が形成されるため、安定性に優れるという特徴があり、一般的な空気動圧軸受と比較して高速での使用が可能である。また、一般的な動圧軸受のラジアル軸受隙間は軸直径の1/1000のオーダーで管理する必要があり、例えば直径数mm程度の軸では数μm程度のラジアル軸受隙間を常時確保する必要がある。従って、製造時の公差、さらには温度変化が激しい場合の熱膨張まで考慮すると、厳密な隙間管理は困難である。これに対して、フォイル軸受の場合には、数十μm程度のラジアル軸受隙間に管理すれば足り、その製造や隙間管理が容易となる利点を有する。
【0006】
フォイル軸受としては、バックフォイルに設けた切り起こしでトップフォイルを弾性的に支持するもの(特許文献1)、素線を網状に編成した弾性体で軸受フォイルを弾性的に支持するもの(特許文献2)、および、バックフォイルに、外輪内面に接触し周方向に移動しない支持部とトップフォイルからの面圧により弾性的に撓む弾性部とを設けたもの(特許文献3)等が公知である。また、特許文献4及び5には、複数のフォイルを周方向に並べて配置し、各フォイルの周方向両端を外方部材に取り付けた、いわゆる多円弧型のフォイル軸受が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−364643公報
【特許文献2】特開2003−262222号公報
【特許文献3】特開2009−299748号公報
【特許文献4】特開2009−216239号公報
【特許文献5】特開2006−57828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献4及び5に示されている多円弧型のフォイル軸受では、外方部材の内周面の周方向に離隔した複数箇所に、内径向きに突出した突出部(偏移抑制部、係止機構)が設け、この突出部の周方向間にフォイルを固定している。しかし、この場合、突出部の内径面が各フォイルの周方向間から露出しているため、突出部の分だけ軸受面の面積が減少してしまい、支持力の低下を招くおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、軸受面の面積を減少することなく、外方部材にフォイルを取り付けることができる多円弧型のフォイル軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、円筒面状の内周面を有する外方部材と、前記外方部材の内周面に取り付けられた複数のフォイルとを備え、内周に挿入された軸を相対回転自在にラジアル方向で支持するフォイル軸受であって、各フォイルが、軸受面を有し、且つ、周方向両端部を前記外方部材に接触した状態で保持され、隣接するフォイルの周方向端部を軸方向視で交差させ、各フォイルの周方向端部を隣接するフォイルの外径側に配したことを特徴とする。
【0011】
このように、隣接するフォイルの周方向端部を軸方向視で交差させ、各フォイルの周方向端部を隣接するフォイルの外径側に配することで、フォイルの裏側(外径側)で、各フォイルの周方向端部を外方部材の内周面に保持させることができる。これにより、フォイルを周方向で連続して配置して、外方部材の内周面全周をフォイルで覆うことができるため、軸受面の面積の減少を回避することができる。
【0012】
例えば、各フォイルの周方向両端部を、外方部材の内周面に設けられた固定溝に差し込むことにより、各フォイルを外方部材に取り付けることができる。あるいは、各フォイルの周方向一方の端部を、外方部材の内周面に設けられた固定溝に差し込むと共に、各フォイルの周方向他方の端部を、隣接するフォイルと外方部材の内周面との間に配することで、各フォイルを外方部材に取り付けることができる。
【0013】
各フォイルの少なくとも周方向一方の端部を、外方部材に対して摺動可能とすれば、フォイルと外方部材との摺動の摩擦エネルギーにより軸の相対回転による振動を減衰させることができる。
【0014】
例えば、各フォイルの周方向一方の端部に、軸方向一部領域を延在させてなる凸部を設け、各フォイルの周方向他方の端部に、前記凸部と異なる軸方向領域を延在させてなる凸部を設ければ、隣接するフォイルの端部に設けられた凸部を軸方向視で交差させることができる。あるいは、各フォイルの周方向一方の端部に、軸方向一部領域を延在させてなる凸部を設け、各フォイルの周方向他方の端部にスリットを設け、前記凸部を、隣接するフォイルの前記スリットに挿入すれば、隣接するフォイルの端部を軸方向視で交差させることができる。これらの場合、各フォイルの周方向一方の端部の軸方向に離隔した複数箇所に凸部を設け、この凸部を外方部材に取り付けることで、各フォイルを軸方向でバランスよく保持することができる。
【0015】
上記のフォイル軸受は、例えば、各フォイルと外方部材の内周面との間に、各フォイルに内径向きの弾性を付与する弾性部材(例えばバックフォイル)を設けた構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、軸受面の面積を減少することなく、外方部材にフォイルを取り付けることができる多円弧型のフォイル軸受を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ガスタービンの構成を概念的に示す図である。
図2】上記ガスタービンにおけるロータの支持構造を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態にかかるフォイル軸受を軸方向から見た正面図である。
図4】(a)は、上記フォイル軸受で使用されるフォイルの斜視図であり、(b)は同フォイルを複数組み合せた状態を示す斜視図である。
図5】(a)は、図3のフォイル軸受で使用されるバックフォイルの斜視図であり、(b)は同バックフォイルを複数組み合せた状態を示す斜視図である。
図6】上記フォイル軸受の拡大断面図である。
図7】(a)は、他の実施形態に係るフォイル軸受で使用されるフォイルの斜視図であり、(b)は同フォイルを複数組み合せた状態を示す斜視図である。
図8】他の実施形態に係るフォイル軸受の拡大断面図である。
図9】(a)は、他の実施形態に係るフォイル軸受で使用されるフォイルの斜視図であり、(b)は同フォイルを複数組み合せた状態を示す斜視図である。
図10】過給機の構成を概念的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に、ガスタービンの構成を概念的に示す。このガスタービンは、翼列を形成したタービン1および圧縮機2と、発電機3と、燃焼器4と、再生器5とを主に備える。タービン1、圧縮機2、および発電機3には、水平方向に延びる共通の軸6が設けられ、この軸6と、タービン1および圧縮機2とで一体回転可能のロータが構成される。吸気口7から吸入された空気は、圧縮機2で圧縮され、再生器5で加熱された上で燃焼器4に送り込まれる。この圧縮空気に燃料を混合して燃焼させ、高温、高圧のガスでタービン1を回転させる。タービン1の回転力が軸6を介して発電機3に伝達され、発電機3が回転することにより発電し、この電力がインバータ8を介して出力される。タービン1を回転させた後のガスは比較的高温であるため、このガスを再生器5に送り込んで燃焼前の圧縮空気との間で熱交換を行うことで、燃焼後のガスの熱を再利用する。再生器5で熱交換を終えたガスは、排熱回収装置9を通ってから排ガスとして排出される。
【0020】
図2に、上記ガスタービンにおけるロータの支持構造の一例を示す。この支持構造では、軸方向の2箇所にラジアル軸受10が配置され、軸6のフランジ部6bの軸方向両側にスラスト軸受20、20が配置される。このラジアル軸受10およびスラスト軸受20により、軸6がラジアル方向及び両スラスト方向に回転自在に支持されている。
【0021】
この支持構造において、タービン1と圧縮機2の間の領域は、高温、高圧のガスで回転されるタービン1に隣接しているために高温雰囲気となる。この高温雰囲気では、潤滑油やグリース等からなる潤滑剤が変質・蒸発してしまうため、これらの潤滑剤を使用する通常の軸受(転がり軸受等)を適用することは難しい。そのため、この種の支持構造で使用される軸受10、20としては、空気動圧軸受、特にフォイル軸受が適合する。
【0022】
以下、上記ガスタービン用のラジアル軸受に適合するフォイル軸受10の構成を図面に基づいて説明する。
【0023】
このフォイル軸受10は、図3に示すように、ハウジング(図示省略)の内周に固定され、内周に軸6が挿入される外方部材11と、外方部材11の内周面11aに取り付けられた複数のフォイル13(トップフォイル)と、外方部材11の内周面11aとフォイル13との間に設けられ、フォイル13に弾性を付与するための弾性部材とで構成される。本実施形態では、弾性部材がバックフォイル12である場合を示す。このフォイル軸受10は、外方部材11の内周面11aが円筒面状をなし、この内周面11aに3枚のフォイル13が周方向に並べて配された、いわゆる多円弧型のフォイル軸受である。
【0024】
各フォイル13は、周方向両端に設けられた保持部13a、13bと、両保持部13a、13bの周方向間に設けられた本体部13cとからなる。各フォイル13は、保持部13a、13b、および本体部13cを含めて一枚のフォイルからプレス加工等により一体に形成される。保持部13a、13bは、外方部材11に接触した状態で保持されている。隣接するフォイル13の周方向端部(本実施形態では保持部13a、13b)は、軸方向視(図3参照)で互いに交差して設けられ、各フォイル10の保持部13a、13bは、隣接するフォイル10の本体部13cの外径側に配される。図示例では、保持部13a、13bが、外方部材11の内周面11aに設けられた固定溝11b、11cに差し込まれている。固定溝11b、11cは、例えばワイヤカット加工により形成され、外方部材11の軸方向全長に亘って形成される。保持部13a、13bの少なくとも一方は固定溝11b、11cに完全に固定されておらず、摺動可能な状態で保持される。固定溝11bは外径に向けて周方向一方(軸6の回転方向先行側、図3の矢印参照)に傾斜し、固定溝11cは外径に向けて周方向他方に傾斜している。固定溝11b、11cは同じ周方向位置に開口している。フォイル13の本体部13cは、矩形状の平板を略円弧状に湾曲させてなり、内径面13c2に軸受面Aを有する。
【0025】
図4(a)に示すように、各フォイル13の周方向一方の保持部13aは、本体部13cの軸方向一部領域(図示例では軸方向中央部)を周方向一方に延在させた凸部で構成される。一方、各フォイル13の周方向他方の保持部13bは、本体部13cの軸方向一部を周方向他方に延在させた凸部で構成される。周方向他方の保持部13bは、軸方向に離隔して設けられた複数(図示例では2つ)の凸部で構成され、これらの軸方向間に凹部13b1が設けられる。フォイル13の一端に設けられた保持部13aを、隣接するフォイルの他端に設けられた保持部13b間の凹部13b1に挿入することにより、保持部13a、13bが軸方向視で交差する(図4(b)参照)。
【0026】
図4(b)に示すように、フォイル13の一方の保持部13aを、これに隣接するフォイル13の他方の保持部13bの軸方向間に設けられた凹部13b1挿入して、複数(図示例では3枚)のフォイル13を一体化した状態で、保持部13a、13bを固定溝11b、11cにそれぞれ差し込むことにより、複数のフォイル13が外方部材11の内周面11aに取り付けられる。このように、隣接するフォイル13の保持部13a、13bを交差させ、フォイル13の外径側(裏側)で固定溝11b、11cに差し込むことで、外方部材11の内周面11aの全周をフォイル13の本体部13cで覆うことができるため、軸受面の面積を最大限確保することができる。また、フォイル13の周方向端部(保持部13a、13b)が軸6との摺動面に露出しないため、フォイル13の周方向端部が内径側にめくれる事態を確実に防止できる。
【0027】
各バックフォイル12は、図5(a)に示すように、フォイル13とおおよそ同様の形状をなし、周方向両端に設けられた保持部12a、12bと、両保持部12a、12bの周方向間に設けられた本体部12cとからなる。保持部12a、12bは略平板状とされ、本体部12cは、半径方向の圧縮力により弾性変形可能な形状をなしている。本実施形態では、本体部12cが波型形状をなし、その凹凸高さが本体部12cの周方向中央部から両端に向けて徐々に小さくなっている。バックフォイル12は、フォイル13と同様に、一端に設けた保持部12aを、隣接するバックフォイル12の他端に設けた一対の保持部12bの間に挿入可能とされる(図5(b)参照)。
【0028】
図6に示すように、各フォイル13の本体部13cの周方向両端(保持部13a、13bとの境界部)は、外方部材11の内周面11aに沿って延びているのではなく、内周面11aに対して各本体部13cの周方向中央に向けて内径側に立ち上がっている。図示例では、本体部13cの周方向両端と各保持部13a、13bとの境界部が折れ曲がることなく滑らかに連続し、本体部13cの周方向端部が内径に向けて凸となるように湾曲している。フォイル13の本体部13cの立ち上がり角度θ1、θ2が大きすぎると、フォイル13が内径側に大きく迫り出してしまうため、軸6との干渉により折れ曲がる恐れが高くなる。従って、立ち上がり角度θ1、θ2は、30°以下、好ましくは20°以下に設定することが望ましい。尚、立ち上がり角度θ1、θ2は、等しくてもよいし、異ならせてもよい。図示例では、θ1>θ2となっている。
【0029】
フォイル13は、ばね性に富み、かつ加工性のよい金属、例えば鋼材料や銅合金からなる厚さ20μm〜200μm程度の帯状フォイルで形成される。本実施形態のように流体膜として空気を用いる空気動圧軸受では、雰囲気に潤滑油が存在しないため、油による防錆効果は期待できない。鋼材料や銅合金の代表例として、炭素鋼や黄銅を挙げることができるが、一般的な炭素鋼では錆による腐食が発生し易く、黄銅では加工ひずみによる置き割れを生じることがある(黄銅中のZnの含有量が多いほどこの傾向が強まる)。そのため、帯状フォイルとしては、ステンレス鋼もしくは青銅製のものを使用するのが好ましい。
【0030】
フォイル軸受10の組み付けは、以下のようにして行われる。まず、略同形状のフォイル13(図4参照)とバックフォイル12(図5参照)とを重ね、これを3組用意する。そして、重ねたフォイル13及びバックフォイル12の一端の保持部13a、12aを、他のフォイル13及びバックフォイル12の他端に設けた一対の保持部13b、12bの間に挿入し、3組のフォイル13及びバックフォイル12を環状に連結する。この状態で、各フォイル13及びバックフォイル12の一方の保持部13a、12a及び他方の保持部13b、12bを、外方部材11の固定溝11b、11cに挿入することで、フォイル13及びバックフォイル12が外方部材11の内周面に取り付けられる。
【0031】
以上の構成において、周方向一方(図3の矢印方向)、すなわち楔状のラジアル軸受隙間Rの縮小方向に軸6を回転させると、各フォイル13の軸受面Aと軸6の外周面6aとの間に空気膜が形成される。この空気膜の圧力が高まると、フォイル13の本体部13cの端部が外径側に押し込まれ、バックフォイル12が弾性変形して半径方向に圧縮される。そして、軸6の周囲の周方向複数個所(図示例では3箇所)に楔状のラジアル軸受隙間Rが形成され、軸6がフォイル13に対して非接触の状態でラジアル方向に回転自在に支持される。このとき、バックフォイル12の弾性力と、ラジアル軸受隙間Rに形成される空気膜の圧力とが釣り合う位置で、フォイル13及びバックフォイル12の形状が保持される。なお、実際のラジアル軸受隙間Rの幅は数十μm程度の微小なものであるが、図3ではその幅を誇張して描いている。また、フォイル13及びバックフォイル12が有する可撓性により、各フォイル13の軸受面Aが荷重や軸6の回転速度、周囲温度等の運転条件に応じて任意に変形するため、ラジアル軸受隙間Rは運転条件に応じた適切幅に自動調整される。そのため、高温・高速回転といった過酷な条件下でも、ラジアル軸受隙間Rを最適幅に管理することができ、軸6を安定して支持することが可能となる。
【0032】
フォイル軸受10では、軸6の停止直前や起動直後の低速回転時に、各フォイル13の軸受面Aや軸6の外周面6aに表面粗さ以上の厚さの空気膜を形成することが困難となる。そのため、各フォイル13の軸受面Aと軸6の外周面6aとの間で金属接触を生じ、トルクの増大を招く。この時の摩擦力を減じてトルク低減を図るため、各フォイル13の軸受面A(内径面13c2)と、これと摺動する部材の表面(本実施形態では軸6の外周面6a)との何れか一方または双方に、表面を低摩擦化する被膜(第一被膜)を形成するのが望ましい。この被膜としては、例えばDLC膜、チタンアルミナイトライド膜、あるいは二硫化モリブデン膜を使用することができる。DLC膜、チタンやアルミナイトライド膜はCVDやPVDで形成することができ、二硫化モリブデン膜はスプレーで簡単に形成することができる。特にDLC膜やチタンアルミナイトライド膜は硬質であるので、これらで被膜を形成することにより、軸受面Aの耐摩耗性をも向上させることができ、軸受寿命を増大させることができる。
【0033】
また、軸受の運転中は、ラジアル軸受隙間に形成された空気膜の影響でフォイル13及びバックフォイル12が全体的に拡径して外方部材11の内周面11aに押し付けられ、これに伴ってフォイル13の外径面13c1とバックフォイル12の内径面との間、バックフォイル12の外径面と外方部材11の内周面11aとの間、及び、フォイル13及びバックフォイル12の保持部13a、13b、12a、12bと固定溝11b、11cとの間で周方向の微小摺動が生じる。従って、フォイル13の外径面13c1とこれに接触するバックフォイル12の内径面との何れか一方または双方、バックフォイル12の外径面とこれに接触する外方部材11の内周面11aとの何れか一方または双方、フォイル13の保持部13a、13bとこれに接触する固定溝11b、11cとの何れか一方または双方、あるいは、バックフォイル12の保持部12a、12bとこれに接触する固定溝11b、11cとの何れか一方または双方に被膜(第二被膜)を形成することにより、これらの摺動部での耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0034】
なお、振動の減衰作用を向上させるためには、上記の摺動部である程度大きい摩擦力が必要となる場合もあり、第二被膜にはそれほど低摩擦性は要求されない。従って、第二被膜としては、二流化モリブデン膜よりも摩擦係数は大きいが耐摩耗性に優れるDLC膜やチタンアルミナイトライド膜を使用するのが好ましい。例えば軸受面Aに形成する第一被膜として二流化モリブデン膜を使用する一方で、フォイル13と外方部材11の摺動部に形成する第二被膜としてチタンアルミナイトライドやDLC膜等を使用し、両被膜の摩擦係数を異ならせることで、低トルク化と振動の減衰性の向上とを両立することが可能となる。
【0035】
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば図7に示す実施形態は、フォイル13の他端、詳しくは本体部13cと他端側の保持部13bとの境界にスリット13dが設けられている点で、上記の実施形態と異なる。尚、本実施形態のバックフォイル12は、本体部12cが波型である点を除いて図7のフォイル13と同様であるため、図示及び説明を省略する。スリット13dは、フォイル13の一端側の保持部13aと同じ軸方向位置に設けられ、保持部13aを差し込み可能とされる(図7(b)参照)。保持部13aを、隣接するフォイル13のスリット13dに差し込んで、複数のフォイル13を環状に連結した状態で、各フォイル13の保持部13a、13bを外方部材11の固定溝11b、11cに差し込むことにより、フォイル13が外方部材11の内周面11aに取り付けられる。このフォイル軸受10の軸直交断面は、図3と同様の状態となる。この場合、フォイル13の保持部13aが、隣接するフォイル13のスリット13dを貫通して固定溝11bに差し込まれるため、保持部13aとスリット13dとが周方向で係合することでフォイル13の他端(保持部13b)の周方向の移動が確実に規制される。
【0036】
図8に示す実施形態は、外方部材11に固定溝11cが設けられず、フォイル13の他端側の保持部13bが外方部材11の内周面11aに沿って設けられている点で、上記の実施形態と異なる。尚、本実施形態のバックフォイル12は、本体部12cが波型である点を除いて図8のフォイル13と同様であるため、図示及び説明を省略する。具体的には、隣接するフォイル13の保持部13a、13bを軸方向視で交差させ(図4(b)あるいは図7(b)参照)、この状態で、一端側の保持部13aを外方部材11の固定溝11bに差し込むと共に、フォイル13の他端側の保持部13bを、隣接するフォイル13と外方部材11の内周面11aとの間に挿入する。これにより、フォイル13の他端側の保持部13bが、隣接するフォイル13で内径側から押さえられ、外方部材11の内周面11aに接触した状態で保持される。
【0037】
この場合、フォイル13の周方向一方(図8の実線矢印方向)への移動は、保持部13aが固定溝11bの奥部に突き当たることにより、または、スリットが保持部13aと突き当たることにより規制される。一方、フォイル13は、周方向他方(同図点線矢印方向)へは移動可能であるため、軸6が周方向他方(同図点線矢印方向)に回転すると、軸6との摺動によりフォイル13が周方向他方に移動して、フォイル13の一端側の保持部13aが固定溝11bから抜けてしまう恐れがある。従って、このフォイル軸受10は、周方向一方(実線矢印方向)にのみ相対回転する軸6を支持する用途に用いられる。
【0038】
図9に示す実施形態は、フォイル13の周方向一方の保持部13aを、軸方向に離隔した複数の凸部で構成した点で、上記の実施形態と異なる。尚、本実施形態のバックフォイル12は、本体部12cが波型である点を除いて図9のフォイル13と同様であるため、図示及び説明を省略する。このように、軸方向に離隔した複数の凸部(保持部13a)を外方部材11の固定溝11bに差し込むことで、フォイル13の端部が軸方向に離隔した2箇所で固定溝11bに保持されるため、フォイル13を軸方向でバランスよく保持することができる。本実施形態では、図7に示す実施形態と同様に、フォイル13の他端にスリット13dを設け、このスリット13dに保持部13aを挿入している。これに限らず、図示は省略するが、図4に示す実施形態と同様に、フォイル13の他端に、本体部13cを延在させた複数の凸部からなる保持部13bを設け、この保持部13bの間の凹部に一方の保持部13aを挿入してもよい。また、フォイル13の外方部材11への取付は、図3に示すように保持部13a、13bを共に固定溝11b、11cに差し込んでもよいし、図8に示すように一方の保持部13aのみを固定溝11bに差し込んで、他方の保持部13bは外方部材11の内周面11aに沿わせるようにしてもよい。また、図9では保持部13aを構成する凸部を2個の凸部で構成しているが、これに限らず、保持部13aを構成する凸部の数を3個以上としてもよい。この場合、保持部13aの凸部と同数のスリット13dが設けられる。
【0039】
バックフォイル12は、上記のようにフォイル13と略同形状であることが好ましい。従って、例えばフォイル13が図7図10に示す形状であれば、バックフォイル12もこれらと略同形状であることが好ましい。尚、バックフォイル12を、フォイル13とは別途の手段で外方部材11に取り付ける場合は、フォイル13と略同形状とする必要はない。
【0040】
また、弾性部材はバックフォイル12に限らず、フォイル13に内径向きの弾性を付与するものであれば使用でき、例えば素線を網状に編成した弾性体等を使用することができる。
【0041】
以上の説明では、フォイル軸受10にフォイル13を3枚設けた場合を示したが、これに限らず、フォイル13を2枚、あるいは4枚以上設けてもよい。
【0042】
また、以上の説明では、軸6を回転側部材とし、外方部材11を固定側部材とした場合を例示したが、これとは逆に軸6を固定側部材とし、外方部材11を回転側部材とした場合にも図3の構成をそのまま適用することもできる。但し、この場合はフォイル13が回転側部材となるので、遠心力によるフォイル13全体の変形を考慮してフォイル13の設計を行う必要がある。
【0043】
本発明にかかるフォイル軸受10の適用対象は、上述したガスタービンに限られず、例えば過給機のロータを支持する軸受としても使用することができる。過給機は、図10に示すように、エンジン53で生じた排気ガスでタービン51を駆動し、その駆動力で圧縮機52を回転させて吸入エアを圧縮し、エンジン53のトルクアップや効率改善を図るものである。タービン51、圧縮機52、および軸6でロータが構成され、軸6を支持するラジアル軸受10として、上記各実施形態のフォイル軸受10を使用することができる。
【0044】
本発明にかかるフォイル軸受は、ガスタービンや過給機等のターボ機械に限らず、潤滑油などの液体による潤滑が困難である、エネルギー効率の観点から潤滑油循環系の補機を別途設けることが困難である、あるいは液体のせん断による抵抗が問題になる等の制限下で使用される自動車等の車両用軸受、さらには産業機器用の軸受として広く使用することが可能である。
【0045】
また、以上に説明した各フォイル軸受は、圧力発生流体として空気を使用した空気動圧軸受であるが、これに限らず、圧力発生流体としてその他のガスを使用することもでき、あるいは水や油などの液体を使用することもできる。さらに、軸6と外方部材11のどちらか一方を回転側の部材、他方を固定側の部材として用いる場合を例示したが、双方の部材を、速度差を持つ回転側の部材として使用することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10 フォイル軸受
11 外方部材
11b、11c 固定溝
12 バックフォイル
13 フォイル
13a、13b 保持部
13c 本体部
A 軸受面
R ラジアル軸受隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10