(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動的粘弾性測定により決定されるガラス転移温度が80℃を超える、(メタ)アクリル単量体からなるハードセグメント(a)と、ガラス転移温度が0℃以下の、アクリル単量体からなるソフトセグメント(b)とから構成され、ハードセグメント(a)とソフトセグメント(b)の質量比(ハードセグメント(a)/ソフトセグメント(b))が10/90〜30/70である(メタ)アクリル系ブロック共重合体である(メタ)アクリルエラストマー(成分A)と、
前記ハードセグメント(a)と、前記ソフトセグメント(b)とから構成され、ハードセグメント(a)とソフトセグメント(b)の質量比(ハードセグメント(a)/ソフトセグメント(b))が40/60〜70/30である(メタ)アクリル系ブロック共重合体である(メタ)アクリルエラストマー(成分B)を
20/80〜95/5の質量比(成分A/成分B)で含有してなり、さらに、エステル交換触媒(成分C)を、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して0.01〜10質量部含有してなる熱可塑性エラストマー組成物。
さらに、カルボジイミド化合物(成分D)を、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して0.01〜10質量部含有する、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
さらに、融点が100〜350℃の結晶性熱可塑性樹脂(成分E)を、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して10〜400質量部含有する、請求項1〜3いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
さらに、ポリカーボネート樹脂(成分F)を、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して1〜200質量部含有する、請求項1〜4いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ハードセグメントとソフトセグメントの構成比が異なる2種の(メタ)アクリルエラストマー(成分A、B)とエステル交換触媒(成分C)を含有するものであり、これにより、成形体の材料として、柔軟性を損なうことなく、耐油性、特に高温下での耐油性(耐熱耐油性)を向上させることができる。
【0011】
(メタ)アクリルエラストマーの耐熱性を向上させるには、一般的にガラス転移温度(Tg)の高い成分(ハードセグメント)をより多く含むブロック共重合体を用いることが好ましい。しかしながら、高Tg成分が多くなると柔軟性が低下し、高硬度化するという課題がある。
【0012】
しかしながら、本発明では、ハードセグメントとソフトセグメントの組成比の異なる2種の(メタ)アクリルエラストマーを混合し、さらにエステル交換触媒を配合することにより、柔軟性を損なわずに耐熱耐油性を向上することができる。通常のブレンド樹脂系においては、樹脂物性が異なるが相溶性のある2種類の樹脂を混合したとき、得られる樹脂組成物の特性は混ぜる前の2種類から見て中間的なものになることが通常であるが、本発明において、成分A、B、C成分を併用したとき、得られる樹脂組成物の特性は、硬度は、より柔らかい成分Aに近くなり、耐熱耐油性は、成分A、Bのいずれよりも著しく優れたものとなるという当業者にも予期し得ない驚くべき効果が見出された。
【0013】
(メタ)アクリルエラストマーにおいて、ハードセグメントは耐油性が良好ではあるが、柔軟性をもたらすソフトセグメントは耐油性が低い。そのため、柔軟性と耐油性を両立することが困難である。これは、(メタ)アクリルエラストマー中のハードセグメントとソフトセグメントの各々の極性の違いに起因している。ソフトセグメントは極性が低く、ソフトセグメント同士の相互作用が少なくて自由に動けるので柔軟性をもたらす一方で、耐熱性はあまり高くなく、油との親和性がよいため油を吸収しやすい傾向がある。ハードセグメントは極性が高いので油を吸収し難くする他、互いに凝集してエラストマーの成形品の形状を保持し、耐熱性を高めるのに貢献するが、ハードセグメントが多すぎれば成形品が硬くなってしまう。
【0014】
そこで、本件発明者らは、ハードセグメント/ソフトセグメント比の異なる2種類の(メタ)アクリルエラストマーをブレンドし、ソフトセグメントの多い(メタ)アクリルエラストマー(成分A)で柔軟性を確保し、ハードセグメントの多い(メタ)アクリルエラストマー(成分B)で耐油性を確保することを考えたが、ブレンドによる相乗効果は起きず、成分Aが多い場合は柔軟性は高くなるが耐油性が低下し、成分Bが多い場合は耐油性は高くなるが硬くなってしまうという現象が起きただけであった。また、エステル交換触媒で部分的、又は全体的に(メタ)アクリルエラストマー同士の架橋反応を行わせることで、耐油性を向上させることを考えたが、単独の(メタ)アクリルエラストマーにエステル交換触媒を加えたときの耐油性の向上の効果は小さく、満足できるものではなかった。しかし、成分Aと成分Bを特定比率でブレンドした系にエステル交換触媒を加えたとき、予想し得ない効果が顕れ、成形品の柔軟性は損なわれず、耐熱性や耐油性は著しく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0015】
本発明において、ソフトセグメントの多い(メタ)アクリルエラストマー(成分A)は、ハードセグメント(a)と、ソフトセグメント(b)とから構成され、ハードセグメント(a)とソフトセグメント(b)の質量比(ハードセグメント(a)/ソフトセグメント(b))が10/90〜30/70である(メタ)アクリル系ブロック共重合体である。
また、ハードセグメントの多い(メタ)アクリルエラストマー(成分B)は、ハードセグメント(a)と、ソフトセグメント(b)とから構成され、ハードセグメント(a)とソフトセグメント(b)の質量比(ハードセグメント(a)/ソフトセグメント(b))が40/60〜70/30である(メタ)アクリル系ブロック共重合体である。
ここで、ハードセグメント(a)とは、(メタ)アクリル単量体からなる、動的粘弾性測定により決定されるガラス転移温度(Tg)が80℃を超える成分であり、ソフトセグメント(b)とは、アクリル単量体からなる、Tgが0℃以下の成分である。
【0016】
(メタ)アクリルエラストマー(成分A及び成分B)は、2種以上の(メタ)アクリルモノマー、及び必要に応じてその他共重合可能なビニルモノマーを構成成分とすることが好ましい。
【0017】
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。なお、本明細書において、添え字のないアルキル基名は、特に記載のない限り、n-、iso-、sec-、tert-等の異性体を含み、(メタ)アクリルと示される場合、メタクリル及びアクリルの両者を意味する。
【0018】
(メタ)アクリルモノマーの量は、成分Aと成分Bの合計量中、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0019】
その他共重合可能なビニルモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、無水マレイン酸等が挙げられ、これらの中では、スチレン、α−メチルスチレン及びエチレンが好ましく、これらのビニルモノマーは、本発明の目的を損なわない範囲(好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下)で併用されていてもよい。
【0020】
本発明において、樹脂組成物が優れた耐熱性と耐油性を発揮する観点から、成分A及びBにおけるハードセグメント(a)のガラス転移温度は、80℃を超えることが必須であり、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは100℃以上である。また、原料の入手が容易である点から、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましい。
【0021】
ハードセグメント(a)を構成する(メタ)アクリル単量体は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸イソプロピル及びメタクリル酸2,2,2-トリフルオリエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種である、メタアクリル酸メチルがより好ましい。ハードセグメント(a)を構成する単量体には、上記(メタ)アクリル単量体が含まれていることが好ましいが、ハードセグメント(a)のガラス転移温度が所望の範囲に調整されるものであれば、他の単量体が含まれていてもよい。
【0022】
本発明において、樹脂組成物の柔軟性を保つ観点から、成分A及びBにおけるソフトセグメント(b)のガラス転移温度は、0℃以下であることが必須であり、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−10℃以下である。また、原料の入手が容易である点から、−100℃以上が好ましく、−80℃以上がより好ましく、−70℃以上がさらに好ましい。
【0023】
ソフトセグメント(b)を構成するアクリル単量体としては、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル等が挙げられるが、これらの中では、柔軟性が高い点から、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニルエチル等のアクリル酸エステルが好ましい。
【0024】
ソフトセグメント(b)のガラス転移温度を0℃以下とするためのアクリル単量体としては、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸n-へプチル、アクリル酸n-オクチル及びアクリル酸フェニルエチルからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、上記のハードセグメント(a)と相溶し難く、相分離構造となりやすい点から、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-へプチル及びアクリル酸n-オクチルからなる群より選ばれた少なくとも1種がより好ましく、アクリル酸n-ブチルがさらに好ましい。ソフトセグメント(b)を構成する単量体には、上記アクリル単量体が含まれていることが好ましいが、ソフトセグメント(b)のガラス転移温度が所望の範囲に調整されるものであれば、他の単量体が含まれていてもよい。
【0025】
高分子のガラス転移温度を測定する方法としては、示差走査熱量測定(DSC)、動的粘弾性測定、熱膨張測定(TMA)などが知られているが、ハードセグメントとソフトセグメントの両方を含むブロック共重合体において、ハードセグメントとソフトセグメントの両方の値を正確に測定する方法として一般的なのが動的粘弾性測定であり、温度を変えて粘弾性測定を行い、損失正接Tanδのピークからガラス転移温度を決定する方法が知られている。従って、本発明におけるハードセグメント(a)とソフトセグメント(b)のガラス転移温度には、動的粘弾性測定により測定されたガラス転移温度を用いる。
【0026】
(メタ)アクリルエラストマーを得るためのモノマーの重合方法として、例えば、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。また、重合の形態として、例えば、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法、塊状重合法等が挙げられる。
【0027】
成分A及びBは、それぞれ、ハードセグメントを構成するブロックを2個以上、及びソフトセグメントを構成するブロックを1個以上、備えるブロック共重合体であることが好ましく、ソフトセグメントを構成するブロック1個の両側に、ハードセグメントを構成するブロック2個を備えるトリブロック共重合体であることがより好ましい。トリブロック共重合体の割合は、成分A及び成分B中、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、成分A及びBはトリブロック共重合体以外にジブロック共重合体及びマルチブロック共重合体を含んでいてもよい。
【0028】
成分Aにおけるハードセグメント(a)とソフトセグメント(b)の質量比(ハードセグメント(a)/ソフトセグメント(b))は、樹脂組成物に適度な柔軟性を付与する観点から、10/90〜30/70であり、15/85〜25/75が好ましい。成分Bにおけるハードセグメント(a)とソフトセグメント(b)の質量比(ハードセグメント(a)/ソフトセグメント(b))は、樹脂組成物の耐熱性を付与する観点から、40/60〜70/30であり、45/55〜60/40が好ましい。
【0029】
成分A及びBとして利用可能な市販品としては、(株)クラレ製のクラリティ、アルケマ(株)製のナノストレングス、(株)カネカ製のナブスター等が挙げられる。
【0030】
成分A及びBの重量平均分子量は、引張強度等の機械的物性の観点から、2万以上が好ましく、3万以上がより好ましく、4万以上がさらに好ましい。また、取り扱いが容易であり、射出成形等の成形体の製造にも適した溶融粘度を維持する観点から、100万以下が好ましく、80万以下がより好ましく、70万以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Aの重量平均分子量は、2万〜100万が好ましく、3万〜80万がより好ましく、4万〜70万がさらに好ましい。
【0031】
また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係では、Mw/Mnで、1〜5が好ましく、1.1〜3がより好ましい。
【0032】
本発明において、成分A及びBは、エステル交換触媒やラジカル重合開始剤等により、原料段階の成分A及びBのそれぞれの重合平均分子量よりも高分子量化されたものであってもよい。その場合の重量平均分子量の分布は幅広いものや多峰性(2個以上のピークを有する)の分布となるが、上記重量平均分子量は、全体を平均した分子量とする。
【0033】
成分AのA硬さは、組成物の柔軟性の観点から、10〜90が好ましく、15〜80がより好ましく、20〜70がさらに好ましい。成分BのD硬さは、組成物の耐油性の観点から、40〜85が好ましく、42〜75がより好ましく、45〜70がさらに好ましい。なお、A硬さとは、JIS K 6253に規定されたデュロメータタイプA硬さを意味する。デュロメータタイプA硬さが90を超える場合は、デュロメータタイプD硬さを採用する。
【0034】
熱可塑性エラストマー組成物中の成分Aと成分Bの質量比(成分A/成分B)は、20/80〜95/5であり、25/75〜90/10が好ましく、30/70〜85/15がより好ましい。
【0035】
成分Aと成分Bの総量は、熱可塑性エラストマー組成物中、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。
【0036】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、エステル交換触媒(成分C)を含有する。エステル交換触媒を配合することにより、得られる組成物の耐油性、特に耐熱耐油性は、原料である成分A、Bのいずれよりも高くなる。一方、組成物の硬さは、大きく上昇しないので、柔らかくて耐油性の高い組成物が得られる。
【0037】
エステル交換触媒(成分C)としては、有機スズ系触媒、有機チタン系触媒、有機ジルコニウム系触媒等の有機金属化合物が好ましい。
【0038】
有機スズ系触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキシド、塩化トリブチルスズ、トリブチルスズフルオリド、トリブチルスズオキシド等が挙げられる。
【0039】
有機チタン系触媒としては、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート等のチタンアルカノールアミネート、チタンジノルマルブタノール・ビス(トリエタノールアミネート)、テトラステアリルチタネート等が挙げられ、これらの中では、チタンアルカノールアミネートが好ましく、チタントリエタノールアミネートがより好ましい。
【0040】
有機ジルコニウム系触媒としては、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0041】
成分Cとしては、成分Aとの反応性の観点から、チタントリエタノールアミネート、チタンジノルマルブタノール・ビス(トリエタノールアミネート)及びジルコニウムテトラアセチルアセトネートが好ましい。
【0042】
成分Cの含有量は、耐熱性を向上させる観点から、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、0.01質量部以上であり、0.02質量部以上が好ましく、0.03質量部以上がより好ましい。また、得られる組成物の熱可塑性が低下するのを抑制する観点から、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、10質量部以下であり、8質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。これらの観点から、成分Cの含有量は成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、0.01〜10質量部であり、0.02〜8質量部が好ましく、0.03〜5質量部がより好ましい。
【0043】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、耐油性の観点から、さらに、カルボジイミド化合物(成分D)を含有することが好ましい。カルボジイミド化合物は、ポリエステル樹脂やポリ乳酸樹脂等に用いて耐熱性や耐久性を向上させることができることが知られているが、(メタ)アクリル系エラストマーに用いられた例はなく、(メタ)アクリル系エラストマーにもたらす効果についても知られていない。
【0044】
カルボジイミド化合物(成分D)は式(I):
【0046】
(式中、n個のRはそれぞれ異なっていてもよく、炭素数1〜18の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜12の2価の複素環基、炭素数6〜14の2価の芳香族炭化水素基、炭素数3〜13の2価の脂環式炭化水素基、又は末端水酸基であり、nは1〜15の整数である)
で表される骨格を有することが好ましい。アミンやカルボン酸と反応して架橋反応することができる。
【0047】
式(I)において、nが1のものとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-フェニルカルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)及びその塩酸塩、1-エチル-3-(tert-ブチル)カルボジイミド(BEC)、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド(CMC)等が挙げられる。
【0048】
式(I)において、nが2以上のものとしてはポリカルボジイミドと呼ばれる線状ポリマーが知られている。ポリカルボジイミド化合物の製造における合成原料である有機ジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を使用することができる。
【0049】
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートの混合物、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6-イソプロピルフェニルジイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルベンゼン-2,4-ジイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、へキサメチレンジイソシアネート等を例示することができる。脂環族ジイソシアネートとしては、例えば、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0051】
ポリカルボジイミド化合物は、例えば、モノイソシアネート又はポリイソシアネートを原料とし、有機リン系化合物又は有機金属化合物存在下にて、約70℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で脱炭酸縮合反応を行うことより、得られる。
【0052】
ポリカルボジイミドとしては、Rが脂肪族基である脂肪族ポリカルボジイミドと、Rに芳香族基を有する基である芳香族ポリカルボジイミドとがあり、脂肪族ポリカルボジイミドの方が芳香族ポリカルボジイミドよりもブリードしやすいために好ましく、また脂肪族基は分枝状よりも線状の方が好ましい。ポリカルボジイミドの分子量は、安全性や扱いやすさの観点から、100以上100,000以下が好ましく、500以上10,000以下がより好ましい。
【0053】
一般的に入手可能な市販の脂肪族ポリカルボジイミド化合物としては、カルボジライトLA-1(ポリ(4,4'−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、数平均分子量2,000、カルボジイミド当量247g/モル)、カルボジライトHMV-8CA(数平均分子量約3,000、カルボジイミド当量278g/モル)、イソシアネート基を含まないカルボジライトHMV-15CA(カルボジイミド当量262g/モル)(以上、日清紡ケミカル(株)製)等が挙げられる。また、芳香族ポリカルボジイミド化合物の市販品としては、スタバクゾールP(ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、数平均分子量3,500)や、スタバクゾールP-400(ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、数平均分子量約20,000)、スタバクゾールI(N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、数平均分子量450)(以上、ラインケミー(株)製)等が挙げられる。
【0054】
成分Dの含有量は、耐油性の観点から、成分A 100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐熱性の観点から、成分A 100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、3質量部以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Dの含有量は、成分A 100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましく、1.5〜3質量部がさらに好ましい。
【0055】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、組成物に耐熱性を付与する観点から、さらに、融点が高い結晶性熱可塑性樹脂(成分E)を含有することが好ましい。結晶性熱可塑性樹脂の融点は、100℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。また、製造しやすさの観点から、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。結晶性熱可塑性樹脂の融点は、100〜350℃が好ましく、180〜300℃がより好ましく、200〜280℃がさらに好ましい。
【0056】
本発明において、結晶性の熱可塑性樹脂とは、示差走査熱量分析計(DSC)において、JIS K 7121に基づく融解温度が観測される熱可塑性樹脂のことをいう。
【0057】
結晶性熱可塑性樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。ポリアセタール樹脂としては、ポリオキシメチレン樹脂等が挙げられる。ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられる。これらの中では、耐熱性(高い融点)及び成分Aとの非相溶性の観点から、芳香族ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂が好ましい。これらの中の複数を併用することも好ましい。
【0058】
結晶性熱可塑性エラストマーも、結晶性熱可塑性樹脂の範疇であり、ポリエステルエラストマーやポリアミドエラストマー等が挙げられる。結晶性熱可塑性エラストマーが本発明の組成物に含まれることによって、組成物に柔軟性や延伸性が与えられる。複数のエラストマーを併用したり、エラストマー以外の結晶性熱可塑性樹脂とエラストマーを併用することも好ましい。
【0059】
ポリエステルエラストマーとしては、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルブロックを有し、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルブロック、脂肪族ポリエステルブロック、又は脂肪族ポリカーボネートブロックを有するブロック共重合体を有することが好ましい。
【0060】
ハードセグメントである芳香族ポリエステルブロックは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-又は2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルの1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジヒドロキシジビフェニル、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン等のジオールの1種又は2種以上との重縮合体であることが好ましい。市販品としては、例えば、「ペルプレンP−シリーズ」(東洋紡績株式会社製、商品名)、「ハイトレル」(東レ・デュポン株式会社製、商品名)、「フレクマー」(日本合成化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0061】
ソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックは主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなることがより好ましい。脂肪族ポリエーテルブロックの質量平均分子量は、通常400〜6,000が好ましく、前記脂肪族ポリエーテルブロックの含有量は、60〜90質量%が好ましい。脂肪族ポリエーテルブロックの含有量は、原料仕込み組成から換算される。
【0062】
ソフトセグメントである脂肪族ポリエステルブロックとしては、ポリε-カプロラクトン、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。市販品としては、例えば、「ペルプレンS−シリーズ」(東洋紡績株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0063】
ソフトセグメントである脂肪族ポリカーボネートブロックは、主として炭素数2〜12の脂肪族ジオール残基からなるものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等が挙げられる。得られる結晶性熱可塑性エラストマーの柔軟性や低温特性の点から、炭素数5〜12の脂肪族ジオールが好ましい。市販品としては、例えば、「ペルプレンC−シリーズ」(東洋紡績(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0064】
成分Eの含有量は、耐熱性の観点から、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。また、柔軟性の観点から、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、400質量部以下が好ましく、300質量部以下がより好ましく、250質量部以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Eの含有量は成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、10〜400質量部が好ましく、20〜300質量部がより好ましく、30〜250質量部がさらに好ましい。
【0065】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、組成物に高温における耐熱性を付与する観点から、さらに、非結晶性熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂(成分F)を含有することが好ましい。
【0066】
ポリカーボネート樹脂(成分F)は、一般的にビスフェノールAとホスゲンを原料とし、溶媒中での界面重縮合により得られる。またはビスフェノールAとジフェニルカーボネートを無溶媒で加熱溶融し、減圧下でエステル交換反応による重縮合反応により得られる。
【0067】
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAを単量体とし、ホスゲンを用いてカーボネート結合で連結されたものが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、任意のジオール成分を用いたポリカーボネート系共重合体であってもよい。
【0068】
ポリカーボネート樹脂の具体例としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’-ビフェノール、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’-(p-フェニレンジイソブロピリデン)ジフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(ビスフェノールM)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エステル、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等が挙げられ、なかでもビスフェノールZ、ビスフェノールE、ビスフェノールA、ビスフェノールC及びビスフェノールMが好ましく、ビスフェノールZ及びビスフェノールAがより好ましい。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0069】
また、重合鎖が直鎖構造のみならず、分岐構造を有するポリカーボネート樹脂も用いることができる。分岐構造を有するポリカーボネートは分岐剤を用いた重合によって得ることができ、好ましい分岐剤としては、2,2-ビス[4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、2,2-ビス[4,4-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキシル]プロパン等を挙げることができる。
【0070】
ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量は、1万〜30万が好ましく、2万〜20万がより好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との関係では、Mw/Mnで、1〜5が好ましく、1.5〜3がより好ましい。
【0071】
成分Fの含有量は、耐熱性及び耐油性の観点から、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、柔軟性の観点から、成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、100質量部以下がさらに好ましい。これらの観点から、成分Dの含有量は成分Aと成分Bの合計量100質量部に対して、1〜200質量部が好ましく、2〜150質量部がより好ましく、5〜100質量部がさらに好ましい。
【0072】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、公知の添加剤を必要に応じて適宜含有していてもよい。添加剤としては、熱安定剤;重金属不活性化剤、脂肪酸エステル等の滑剤;ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾエート化合物やヒンダードフェノール系化合物等の光安定剤;エポキシ化合物やオキサゾリン化合物等の加水分解防止剤;フタル酸エステル系化合物、ポリエステル化合物、(メタ)アクリルオリゴマー、プロセスオイル等の可塑剤;重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等の無機系発泡剤;ニトロ化合物、アゾ化合物、スルホニルヒドラジド等の有機系発泡剤;カーボンブラック、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維等の充填剤;テトラブロモフェノール、ポリリン酸アンモニウム、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤;シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤や酸変性ポリオレフィン樹脂等の相溶化剤;そのほか顔料や染料等が挙げられる。
【0073】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも、(メタ)アクリルエラストマー(成分A、B)及びエステル交換触媒(成分C)、さらに必要に応じて、カルボジイミド化合物(成分D)、結晶性熱可塑性樹脂(成分E)、ポリカーボネート樹脂(成分F)、その他添加剤等を含有する原料成分を、押出機又はニーダーにより加熱混練する方法により得ることが好ましい。
【0074】
加熱混練の温度は、成形性の観点から、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。また、加熱混練中の熱劣化を防ぐ観点から、320℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。
【0075】
押出機としては、例えば、単軸押出機、平行スクリュー二軸押出機、コニカルスクリュー二軸押出機等が挙げられる。本発明では、混合能力が優れる(得られる混合物が分散性の良好なものとなる)観点から、二軸押出機が好ましく、同方向回転二軸押出機がより好ましい。
【0076】
押出機の吐出部分に装着されるダイは、任意のものを選択できるが、例えば、ペレットの生産に適するストランドダイ、シートやフィルムの生産に適するTダイ等のほか、パイプダイ、異形押出ダイ等が挙げられる。
【0077】
また、押出機は、空気開放部分や減圧装置につながるガス抜き用のベントを備えていてもよいし、複数の原料投入口を供えていてもよい。
【0078】
ニーダーとは、温度制御が可能なバッチ式ミキサーを意味し、バンバリーミキサー、ブラベンダー等が挙げられる。
【0079】
各成分は、押出機又はニーダーに、一括で投入しても、別々に投入しても、また、分割して投入してもよい。ただし、熱安定剤の投入については前記のとおりである。
【0080】
加熱混練時間は、加熱温度や各成分の種類、濃度等に依存するため、一概には決定できないが、得られる熱可塑性エラストマー組成物の品質のバラツキの制御と生産性を考慮して適宜決定することが好ましい。押出機を用いる場合の代表的な加熱混合時間は、例えば、0.5〜20分間、好ましくは0.7〜15分間、より好ましくは1〜10分間である。
【0081】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性、耐熱性及び耐油性に優れており、熱可塑性エラストマー材料分野においては、熱可塑性ポリエステル系エラストマーや熱可塑性ポリアミド系エラストマーと同様の用途分野に用いることができる。
【0082】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の用途としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0083】
〔自動車分野のブーツ・カバー類、エンジン回りのホース・カバー類〕
・車体回り
ドアーラッチ、コントロールケーブルカバー、ブーツ、エンブレム、シャーシ・ステアリング周り、フューエルホース、
等速ジョイントブーツ、ピニオン&ラックブーツ、ストラットサスペンションブーツ、ボールジョイント用ブッシュ、ダストシール、ブレーキホース、
【0084】
・エンジン回り
エアーダクトホース、エアーダクト、エアーインテークホース、エンジンコントロール系バキュームホース、インタークーラーホース、フューエルラインカバー、各種防振・制振材、ラジエータホース、ヒーターホース、オイルクーラーホース、パワーステアリングホース、各種ガスケット類、エンジンアンダーフード、エンジンルームカバー等の各種カバー・ケース類
【0085】
〔電線・ケーブルの被覆材〕
・電子・民生機器用電線
コンピュータ・OA機器・テレビ・VTR等の電線被覆
・通信ケーブル
通信用電線・光ファイバー用被覆材料
・絶縁電線・通信ケーブル・機器用電線・自動車用ワイヤハーネス
【0086】
〔ホース・チューブ・ベルト・防音防振シート等の工業用品〕
空・油圧ホース(チューブ)、高圧ホース(チューブ)、燃料ホース(チューブ)、コンベアベルト、V・丸ベルト、タイミングベルト、クッショングリップ、フレックスハンマー、消音ギア、フレキシブルカップリング、ガソリンタンクシート、ガスケット、パッキン、シール材、Oリング、ダイヤフラム、カールコード、アキュムレータ内装、搬送ローラ、圧縮スプリング、マンドレル、牽引ロープジャケット
【0087】
〔スポーツ用品〕
ゴルフボール表皮、スキー靴・登山靴カフ、スポーツシューズ本底
【0088】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0089】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形体は、耐熱性が優れるため、例えば100℃以上(設計によっては120℃以上、150℃以上等)の耐熱性を必要とする用途にも好適に使用することができる。
【0090】
加熱成形時の温度は、組成物の流動性及びそれに起因する成形加工性の観点から、180℃以上が好ましく、組成物中の成分Aの(メタ)アクリル成分の熱分解を防止する観点から、350℃以下が好ましい。これらの観点から、加熱成形時の温度は、180〜350℃が好ましく、200〜320℃がより好ましい。
【0091】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置には、組成物を溶融成形することができる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0092】
熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる本発明の成形体は、柔軟性の指標となるA硬さが、15〜100であることが好ましく、20〜95がより好ましい。また、D硬さは、1〜70であることが好ましく、3〜20がより好ましい。
【0093】
また、本発明の成形体の25℃での貯蔵弾性率は、柔軟性の観点から、3.0×10
5〜6,000×10
5が好ましく、5.0×10
5〜5,000×10
5がより好ましい。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0095】
実施例1〜12及び比較例1〜12
260℃に加熱されたバッチ式ニーダー(ブラベンダー社製、プラストグラフEC50型)に表1、2に示す組成比(質量部)で原料成分を投入し、60r/minの回転数で原料を溶融混練した。混練時間10分で、溶融状態の混練物を全量取り出し、室温で冷却して、組成物を得た。
【0096】
使用した原料の詳細は以下の通り。
【0097】
<成分A>
・(メタ)アクリルエラストマーa:クラリティーLA3320((株)クラレ製)
PMMA-PBA-PMMAトリブロック共重合体、MMA/BA=15/85(質量比)、Mw:128,901、Mn:99,999、Mw/Mn:1.29、Tg:ハードセグメント(PMMA)=139℃,ソフトセグメント(PBA)=-27℃、A硬さ:28、D硬さ:2
・(メタ)アクリルエラストマーb:クラリティーLA2330((株)クラレ製)
PMMA-PBA-PMMAトリブロック共重合体、MMA/BA=20/80(質量比)、Mw:99,394、Mn:81,982、Mw/Mn:1.21、Tg:ハードセグメント(PMMA)=137℃,ソフトセグメント(PBA)=-23℃、A硬さ:32、D硬さ:5
・(メタ)アクリルエラストマーc:クラリティーLA2550((株)クラレ製)
PMMA-PBA-PMMAトリブロック共重合体、MMA/BA=30/70(質量比)、Mw:109,049、Mn:90,196、Mw/Mn= 1.21、Tg:ハードセグメント(PMMA)=141℃,ソフトセグメント(PBA)=-23℃、A硬さ:60、D硬さ:16
<成分B>
・(メタ)アクリルエラストマーc:クラリティーLA4285((株)クラレ製)
PMMA-PBA-PMMAトリブロック共重合体、MMA/BA=50/50(質量比)、Mw:58,000、Mn:51,527、Mw/Mn:1.13、Tg:ハードセグメント(PMMA)=141℃,ソフトセグメント(PBA)=-29℃、D硬さ:98、D硬さ:59
〔(P)MMA:(ポリ)メタクリル酸メチル、(P)BA:(ポリ)アクリル酸n-ブチル〕
【0098】
<成分A’>
・PMMA樹脂:スミペックスLG21(住友化学(株)製)
Mw:59,048、Mn:31,952、Mw/Mn:1.85、Tg:113℃
【0099】
<成分C>
・有機チタン系触媒:オルガチックスTC-400(マツモトファインケミカル(株)製)
チタントリエタノールアミネート
【0100】
<成分D>
・カルボジイミド化合物:カルボジライトLA-1(日清紡ケミカル(株)製)
ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、Mn:2,000、カルボジイミド当量:247g/モル
【0101】
<成分E>
・PBT(ポリブチレンテレフタレート):トレコン1401x04(東レ(株)製)
融点:225℃
・PET(ポリエチレンテレフタレート):SA-1206(ユニチカ(株)製)
融点:255℃
・共重合PET(ポリエチレンテレフタレート):MA-1346P(ユニチカ(株)製)
融点:230℃
【0102】
<成分F>
・ポリカーボネート樹脂:レキサン141R(サビックイノベーティブプラスチック(株)製)
ビスフェノールAポリカーボネート、Mw:40,428、Mn:18,091、Mw/Mn:2.23
【0103】
なお、各原料成分の物性は以下の方法により測定した。
【0104】
〔重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)より、以下の装置、カラム及び溶媒を使用し、ポリスチレン換算から求める。
・装置:東ソー製、HLC-8120
・カラム:Inertsil WF300
・溶媒:テトラヒドロフラン
【0105】
〔ガラス転移温度(Tg)及び融点〕
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のRSAIII)を使用し、−100〜280℃の温度範囲、5℃/分の昇温速度、周波数10Hzの条件で試験片を加熱した際に測定される、損失正接(Tanδ)のピーク温度をガラス転移温度(Tg)とする。また、試験片の溶融のために弾性率測定が不能になった温度を融点(Tm)とする。試験片としては、厚さ2mm、幅12.5mm、長さ30mmのものを使用する。
複数のブロック(ソフトセグメントとハードセグメント)を有するエラストマーでは、普通、複数の損失正接のピークが観測されるが、この場合低温側のピークがソフトセグメントに由来するものであり、高温側のピークがハードセグメントに由来するものである。
【0106】
〔A硬さ〕
JIS K 6253-3に準拠して測定する。
【0107】
〔D硬さ〕
JIS K 6253-3に準拠して測定する。
【0108】
実施例及び比較例で得られた組成物を、260℃に加熱された熱プレス機(東邦株式会社製)の50t熱プレス機にて、厚さ2mm×幅10cm×長さ10cmの型枠を用いて5分間熱プレス成型した後、5分間冷却プレスを施し、試験片として2mm厚のプレスシートを作製した。
【0109】
2mm厚のプレスシートを用い、下記特性を測定、評価した。結果を表1、2に示す。
【0110】
(1) 柔軟性
<A硬さ>
2mm厚のプレスシートを恒温恒湿室(温度23℃、相対湿度50%)に24時間以上静置し、シートの状態を安定させる。
2mm厚のプレスシートを3枚重ね、JIS K 6253-3の「デュロメータ硬さ試験法」に準じて測定する。
【0111】
<D硬さ>
A硬さと同じく、JIS K 6253-3「デュロメータ硬さ試験法」に準じて測定する。
【0112】
<貯蔵弾性率>
動的粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント(株)製のRSAIII)を使用し、25℃での貯蔵弾性率を測定する。試験片としては、2mm厚のプレスシートを、幅12.5mm×長さ30mmに打ち抜いて使用する。
【0113】
<引張強度及び破断伸び率>
試験片は2mm厚のプレスシートを、JIS K 6251に記載の3号ダンベル型に打ち抜いて使用する。引張試験機を用い、室温23℃で24時間置いた試験片を、引張速度500mm/minで引張り、試験片が破断したときの応力を引張強度として記録し、破断したときの伸び率から下記式により破断伸び率を算出する。
破断伸び率(%)=(L−L
0)/L
0×100
(L
0は試験前の試験片長さ、Lは破断したときの試験片長さを示す)
【0114】
(3) 耐油性
<耐油浸漬試験>
JIS K 6258に規定の試験方法に準じる。試験片には、2mm厚のプレスシートを3号ダンベル型に打ち抜いたものを用いる。該試験片をIRM#903オイル(旧ASTM 3号オイル)に23℃、120℃又は150℃で168時間浸漬した後、下記式により質量変化率(%)を算出する。
【0115】
質量変化率(%)=(m3−m1)/m1×100
m1:浸漬前の空気中の試験片の質量(mg)
m3:浸漬後の空気中の試験片の質量(mg)
【0116】
<透明性>
2mm厚のプレスシートを用い、23℃の恒温室で24時間放置後、光線透過率及びHAZEを測定する。JIS K 7361(プラスチック 透明材料の全光線透過率の試験方法)に準じた方法により、光線透過率を、JIS K 7136(プラスチック 透明材料のヘーズの求め方)に準じた方法により、HAZEを測定する。装置には、(株)東洋精機製作所製のHAZE-GARDIIを使用する。
【0117】
なお、結晶性熱可塑性樹脂を用いた場合は、結晶性熱可塑性樹脂が他の成分との相溶性に劣るため透明性が低くなるが、耐油性には影響しない。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
以上の結果より、実施例の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性に優れ、さらに耐油性も良好であることが分かる。
【0121】
実施例1〜3では、成分A/成分Bを20/80〜85/15で配合しており、いずれか一方のみしか含まない比較例11、12に比べて、特に耐熱耐油性が向上している。また、PMMA樹脂を配合した比較例7は柔軟性に欠ける。
【0122】
実施例4、5では、高硬度の(メタ)アクリルエラストマーb、cを配合している。実施例1〜3と同様に、耐熱耐油性に優れ、柔軟性も併せ持つ。
【0123】
実施例6ではカルボジイミド化合物、実施例9、11、12では結晶性熱可塑性樹脂、実施例10ではポリカーボネート樹脂を配合しており、耐熱耐油性が良好である。実施例7ではカルボジイミド化合物と結晶性熱可塑性樹脂を、実施例8ではさらにポリカーボネート樹脂を配合しており、さらに耐熱耐油性に優れる。
【0124】
比較例8ではエステル交換触媒を配合しておらず、耐熱耐油性が不十分である。