【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1に、実施の形態に係るRE系の酸化物超電導線材の構成を示す。酸化物超電導線材100は、テープ状であり、テープ状の基板110上に、中間層120、YBCO超電導層130、及び、安定化層140が、順に積層されている。
【0014】
基板110は、NiまたはNi−W等のNi合金、SUS(ステンレス鋼)、Ag、Cu又はCu合金等である。また、基板110は、NiまたはCuにW、Sn、Zn、Mo、Cr、V、TaまたはTiの中から選択されたいずれか1種以上の元素を添加した合金を用いることもできる。この場合の添加元素量は、形成する超電導層の好適な超電導特性を確保するために1〜10[at%]の範囲とすることが好ましい。基板110の厚さは、例えば、0.1[mm]以下である。ここでは、基板110としてハステロイ(登録商標)テープが適用されているが、インコネル(登録商標)でもよい。また、基板110の厚さは、例えば、30〜200[μm]である。
【0015】
中間層120は、基板110上に、第1中間層、第2中間層、第3中間層、第4中間層、及び、第5中間層を順次積層することで構成されている。ここでは、第1中間層はAl
2O
3層121、第2中間層はLaMnO
3層122、第3中間層はMgO層123、第4中間層はLaMnO
3層124、第5中間層はCeO
2層125としている。
【0016】
第1中間層としてのAl
2O
3層121は、基板110上に接してスパッタリング法で成膜される。なお、第1中間層は、Al
2O
3に代えて、ReZrO(Re=Tb、Y、Eu、Gd、Ho、Yb、Lu、Nd、Tm、La、Sm、Dy、Er、Ce、Prからなる群から選ばれる一種又は二種以上の希土類元素)等で、RF−スパッタリング法、MOD法などで成膜してもよい。この第1中間層は、ベッド層であり、耐熱性が高く、界面反応性を低減するための層であり、その上に配される膜の配向性を得るために用いられる。この第1中間層としてのAl
2O
3層121は、基板110からの元素の拡散を抑制する拡散防止層として機能する。
【0017】
第2中間層は、非晶質であることが好ましく、ここでは、第2中間層は、非晶質のLaMnO
3層122を、Al
2O
3層121上に成膜することで構成されている。LaMnO
3層122の膜厚は、5〜100[nm]である。LaMnO
3層122の膜厚が5[nm]以下では、膜の連続性が悪く十分な配向性が得られず、100[nm]以上の膜厚になると、膜表面の凹凸が大きくなり、LaMnO
3層122上に接して積層されるMgO層123の配向性を阻害するからである。
【0018】
LaMnO
3層122は、はRFスパッタ法、イオンビームスパッタ法等のスパッタリング法により、150[℃]以下の範囲(0[℃]より大きく150[℃]以下の範囲)内で、基板110上に成膜される。これは、LaMnO
3の成膜温度を、150[℃]以下とすると、LaMnO
3は非晶質となり、150[℃]より高い温度で成膜するとLaMnO
3は結晶化し易くなり、MgO層123の配向化を阻害するからである。
【0019】
このLaMnO
3層122上には、第3中間層としてMgO層123が接して積層される。本実施の形態では、MgO層123直下のLaMnO
3層122は必須である。MgO層123は、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法で成膜される。IBAD法は、基板に対して斜め方向からイオンを照射しつつ、基板上(ここではLaMnO
3層122上)に、ターゲットから発生した粒子を体積させる(ここではMgO層123を成膜する)方法である。
【0020】
MgO層123上には、第4中間層としてのLaMnO
3層124がスパッタリング法で成膜されている。MgO層123は、上下でLaMnO
3層122、124に挟まれた構成となっている。なお、MgO層123より上方の層は、YBCO超電導層130との反応を防止する反応防止層としても機能する。ここでは、第4中間層(LaMnO
3層124)及び第5中間層(CeO
2層125)が反応防止層としても機能する。
【0021】
第4中間層としてのLaMnO
3層124上には、YBCO超電導層130の直下に配置される層として、第5中間層であるCeO
2層125が積層されている。
【0022】
CeO
2層125は、LaMnO
3層124上に、スパッタリング法で成膜される。CeO
2層125は、YBCO超電導層130との整合性がよく、且つ、YBCO超電導層130との反応性が小さいため最も優れた中間層の一つとして知られている。
【0023】
なお、このCeO
2層125は、スパッタリング法に代えてPLD(Pulsed Laser Deposition:パルスレーザ蒸着法)法で、LaMnO
3層124上に成膜されてもよい。また、CeO
2層125は、CeO
2にGdを所定量添加したCe−Gd−O膜、又はCeの一部が他の金属原子又は金属イオンで一部置換されたCe−M−O系酸化物からなる膜であってもよい。CeO
2にGdを添加すると、クラックの発生を抑制できるものの基板110からの元素拡散を抑制できなくなるといった問題が生じるが、本実施の形態では、第1中間層としてのAl
2O
3層121で元素拡散を抑制できるので、Al
2O
3層121より上の層である第5中間層としてのCeO
2層125にGdを添加した材料を用いることができるようになる。
【0024】
この第5中間層であるCeO
2層125上には、YBCO超電導層130が積層されている。
【0025】
YBCO超電導層130は、ここでは、イットリウム系酸化物超電導体(RE123)により構成されている。この超電導層は、全軸配向REBCO層、つまり、REBa
yCu
3O
z系(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr及びHoから選択された1種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7である。)の高温超電導薄膜の層である。YBCO超電導層130は、ここでは、MOD法(Metal Organic Deposition Processes:有機酸塩堆積法)によりCeO
2層125上に成膜されている。
【0026】
なお、MOD法は、基板上の金属有機酸塩を加熱して熱分解することで基板上に超電導層である薄膜を形成する方法である。具体的には、MOD法では、まず、金属成分の有機化合物が均一に溶解された原料溶液を基板上に塗布する。次いで、溶液を塗布した基板に仮焼成熱処理を施してアモルファス状の前駆体を形成し、その後、結晶化熱処理(本焼成熱処理)を施すことで前駆体を結晶化させて酸化物超電導体を形成する。
【0027】
YBCO超電導層130で用いられる原料溶液は、以下のような原料溶液(a)〜(d)の混合溶液である。
【0028】
(a)REを含む有機金属錯体溶液:REを含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩のいずれか1種以上を含む溶液。特に、REを含むトリフルオロ酢酸塩溶液
(b)Baを含む有機金属錯体溶液:Baを含むトリフルオロ酢酸塩の溶液
(c)Cuを含む有機金属錯体溶液:Cuを含むナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
(d)Baと親和性の大きい金属を含む有機金属錯体溶液:Zr、Ce、Sn又はTiから選択された少なくとも1種以上の金属を含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
【0029】
YBCO超電導層130は、上記原料溶液(a)〜(d)の混合溶液を第5中間層であるCeO
2層125上に塗布した後、例えば、水蒸気分圧3〜76[Torr]、酸素分圧300〜760[Torr]の雰囲気中で400〜500[℃]の温度範囲で仮焼する。仮焼されてなるアモルファスを、仮焼の後、例えば、水蒸気分圧30〜100[Torr]、酸素分圧0.05〜1[Torr]の雰囲気中で700〜800[℃]の温度範囲で本焼することでYBCO超電導層130が形成される。
【0030】
YBCO超電導層130の上には、安定化層140であるAg層が積層されている。なお、安定化層は、ここでは、銀(Ag)により構成しているが、金(Au)、白金(Pt)等の貴金属、あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属であってもよい。この安定化層は、YBCO超電導層130の直上に形成することによって、YBCO超電導層130が金、銀などの貴金属、あるいはそれらの合金以外の材料と直接的な接触によって反応によって引き起こす性能低下を防止する。これに加えて、安定化層は、事故電流や交流通電により発生した熱を分散して発熱による破壊・性能低下を防止する。安定化層の厚みはここでは10〜30[μm]である。
【0031】
このように構成される酸化物超電導線材100は、以下のようにして製造される。テープ状の基板110上に、第1中間層〜第5中間層を順に積層することで中間層120が形成される。具体的には、基板110上に、スパッタリング法で、Al
2O
3を蒸着して、第1中間層であるAl
2O
3層121を成膜する。次いで、Al
2O
3層121上に、スパッタリング法で、LaMnO
3を蒸着して、第2中間層であるLaMnO
3層122を非晶質(アモルファス)状態で成膜する。次いで、この非晶質のLaMnO
3層122上に、ターゲットの構成粒子を堆積させつつ、所定の入射角度でイオン照射を行うIBAD法でMgO層123を成膜する。このとき、LaMnO
3層122上に形成されるスパッタ膜(MgO)の特定の結晶軸がイオンの入射方向に固定され、結晶のc軸が基板110の表面に対して垂直方向に配向するとともに、a軸及びb軸が面内において一定方向に好適に配向する。これにより、MgO層123は、第1中間層(拡散防止層)上に直接成膜される構成と比較して、高い面内配向度を有するものとなる。次いで、LaMnO
3層122上に、IBAD法で、第3中間層であるMgO層123を成膜する。次いで、MgO層123上に、スパッタリング法で、LaMnO
3を蒸着して、第4中間層であるLaMnO
3層124を成膜した後、スパッタリング法で、CeO
2層125を成膜する。このようにして基板110上に中間層120を成膜した後、MOD法で、YBCO超電導層130を形成し、安定化層を成膜することで酸化物超電導線材100を製造する。
【0032】
以上の構成によれば、以下のような顕著な効果を得ることができる。
酸化物超電導線材100では、基板110とYBCC超電導層130との間でバッファ層となる中間層120において、MgO層123が、LaMnO
3層122上に接して設けられることで、MgO層123の2軸配向性が向上する。このMgO層123の2軸配向性の向上に伴い、このMgO層123の上方にLaMnO
3層124を介して形成され、且つ、YBCO超電導層130の下地層となるCeO
2層125は、IBAD法によって、高い面内配向度、つまり、高配向で成膜される。
【0033】
このCeO
2層125の高配向化を図る、つまり、中間層120の高配向化を図ることで、YBCO超電導層130の超電導特性の向上を実現できる。
【0034】
[他の実施の形態]
なお、上述の実施の形態では、主に、中間層120をAl
2O
3層121、LaMnO
3層122、MgO層123、LaMnO
3層124、CeO
2層125の第1中間層〜第5中間層から構成された5層構造とした場合について述べた。これに限らず、基板110と超電導層(YBCO超電導層130)の間に中間層を有する超電導線材において、中間層が、LaMnO
3層122上にMgO層123を接して形成した構成を含む層であれば、2層以上で構成してもよい。
【0035】
例えば、
図2の超電導線材100Aに示すように、超電導線材100と同様の基板110及びYBCO超電導層130間に、基板110側から順に、Al
2O
3層、LaMnO
3層、MgO層、CeO
2層を積層した中間層120Aを備える構成してもよい。なお、
図2の酸化物超電導線材100Aにおける各層は、酸化物超電導線材100における同名称の各層と同様に成膜され、且つ、同様の機能を有する。
図2の酸化物超電導線材100Aによれば、酸化物超電導線材100と同様に、LaMnO
3層上に、このLaMnO
3層に接して形成されるMgO層では2軸配向性が向上するので、CeO
2層を高配向化できる。これに伴い、YBCO超電導層130の超電導特性、つまり、酸化物超電導線材100Aの超電導特性の向上を図ることができる。
【0036】
また、
図1に示す酸化物超電導線材100の構成において、MgO層の下地層であるLaMnO
3層122より下層で、基板110上に接して設けられるAl
2O
3層121に代えて、基板110側から順にYAlO
3層、CeZrO層を積層した層を設けてもよい。酸化物超電導線材100の構成において、Al
2O
3層121に代えて、Gd
2Zr
2O
7層を設けてもよい。さらに、酸化物超電導線材100の構成において、Al
2O
3層121に代えて、基板110から順にGd
2Zr
2O
7層、Y
2O
3層を積層した層を設けてもよい。
【0037】
すなわち、酸化物超電導線材100の構成において、基板110とYBCO超電導層130との間に形成される中間層120を、基板110側から順に、Gd
2Zr
2O
7層、Y
2O
3層、LaMnO
3層、MgO層、CeO
2層を積層した中間層としてもよい。また、酸化物超電導線材100の構成において、中間層120を、基板110側から順に、YAlO層、LaMnO
3層、MgO層、CeO
2層を積層した中間層としてもよい。さらに、酸化物超電導線材100の構成において、中間層120を、基板110側から順に、CeZrO層、LaMnO
3層、MgO層、CeO
2層を積層した中間層としてもよい。また、酸化物超電導線材100の構成において、中間層120を、基板110側から順に、Gd
2Zr
2O
7層、LaMnO
3層、MgO層、CeO
2層を積層した中間層としてもよい。また、これら中間層は、LaMnO
3層を下地層とするMgO層と、CeO
2層との間にそれぞれLaMnO
3層等が形成された構成としてもよい。中間層の構成を上記構成に代えたそれぞれの酸化物超電導線材によれば、酸化物超電導線材100と同様に、LaMnO
3層上に、このLaMnO
3層に接して形成されるMgO層では2軸配向性が向上する。これにより、MgO層上に成膜されるCeO
2層を高配向化できる。これに伴い、YBCO超電導層130の超電導特性、つまり、酸化物超電導線材100の超電導特性の向上を図ることができる。
【0038】
YBCO超電導層130は、MOD法で、中間層120上に形成した構成としたが、これに限らず、例えば、PLD法、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法等により形成してもよい。
【0039】
また、YBCO超電導層130は、Zrを含む50[nm]以下の酸化物粒子を磁束ピンニング点として分散させた有機金属錯体溶液を塗布後に、焼成して作製してもよい。このようにすることで、磁場印加角度依存性に優れたRE系の酸化物超電導線材を得ることができる。ここで、磁束ピンニング点については、公知の技術なので、ここでの説明は省略する。
【0040】
以下、本発明の実施例について参照して説明する。
【実施例】
【0041】
<実施例1>
Ra=2[nm]のハステロイ(登録商標)基板(基板110)上に、RFスパッタにより第1中間層としてのAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、RFスパッタにより第2中間層としてLaMnO
3層122を成膜温度50[℃]中において、膜厚5[nm]で成膜し、この膜の上に、IBAD法で第3中間層であるMgO層123を膜厚5[nm]で成膜した。この膜の上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]にてLaMnO
3層(第4中間層)124を膜厚10[nm]で成膜し、次いで、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を膜厚500[nm]で成膜し、CeO
2層におけるΔφ(「CeO
2Δφ」)=3.2[deg.]の高配向基板を得た。なお、Δφは、面内結晶配向度を示す指標である面内方向の結晶軸分散の半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum 半値全幅)である。この膜上にTFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]で成膜した。この結果、以下の表1に示すような超電導特性(臨界電流値であり「YBCO特性Ic」で示す)=420[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0042】
<実施例2>
実施例1と同様のRa=2[nm]のハステロイ基板(基板110)上に、RFスパッタにより第1中間層としてのAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、RFスパッタにより第2中間層としてLaMnO
3層122を成膜温度50[℃]中において、膜厚20[nm]で成膜し、この膜の上に、IBAD法で第3中間層であるMgO層123を膜厚5[nm]で成膜した。この膜の上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]でLaMnO
3層(第4中間層)124を膜厚10[nm]で成膜し、次いで、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を膜厚500[nm]で成膜し、CeO
2層におけるΔφ(「CeO
2Δφ」)=3.0[deg.]の高配向基板を得た。この膜上にTFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]で成膜した。この結果、以下の表1に示すような超電導特性(臨界電流値であり「YBCO特性Ic」で示す)=460[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0043】
<実施例3>
実施例1と同様のハステロイ基板(基板110)上に、RFスパッタにより第1中間層としてのAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、Al
2O
3層121上に、RFスパッタにより第2中間層としてLaMnO
3層122を成膜温度50[℃]中において、膜厚50[nm]で成膜し、この膜の上に、IBAD法で、第3中間層であるMgO層123を膜厚5[nm]で成膜した。この膜の上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]でLaMnO
3層(第4中間層)124を、膜厚10[nm]で成膜し、次いで、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を、膜厚500[nm]で成膜し、CeO
2層におけるΔφ(「CeO
2Δφ」)=3.1[deg.]の高配向基板を得た。この膜上にTFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]成膜した。この結果、以下の表1に示すような超電導特性(臨界電流値であり「YBCO特性Ic」で示す)=450[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0044】
<実施例4>
実施例1と同様のハステロイ基板(基板110)上に、RFスパッタにより第1中間層としてのAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、Al
2O
3層121上に、RFスパッタにより第2中間層としてLaMnO
3層122を成膜温度50[℃]中において、膜厚100[nm]で成膜し、この膜の上に、IBAD法で、第3中間層であるMgO層123を膜厚5[nm]で成膜した。この膜の上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]でLaMnO
3層(第4中間層)124を、膜厚10[nm]で成膜し、次いで、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を、膜厚500[nm]で成膜し、CeO
2層におけるΔφ(「CeO
2Δφ」)=3.1[deg.]の高配向基板を得た。この膜上にTFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]成膜した。この結果、以下の表1に示すような超電導特性(臨界電流値であり「YBCO特性Ic」で示す)=455[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0045】
<実施例5>
実施例1と同様のハステロイ基板(基板110)上に、RFスパッタにより第1中間層としてのAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、Al
2O
3層121上に、RFスパッタにより第2中間層としてLaMnO
3層122を成膜温度100[℃]中において、膜厚20[nm]で成膜し、この膜の上に、IBAD法で、第3中間層であるMgO層123を膜厚5[nm]で成膜した。この膜の上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]でLaMnO
3層(第4中間層)124を、膜厚10[nm]で成膜し、次いで、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を、膜厚500[nm]で成膜し、CeO
2層におけるΔφ(「CeO
2Δφ」)=3.4[deg.]の高配向基板を得た。この膜上にTFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]成膜した。この結果、以下の表1に示すような超電導特性(臨界電流値であり「YBCO特性Ic」で示す)=400[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0046】
<実施例6>
実施例1と同様のハステロイ基板(基板110)上に、RFスパッタにより第1中間層としてのAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、Al
2O
3層121上に、RFスパッタにより第2中間層としてLaMnO
3層122を成膜温度150[℃]中において、膜厚20[nm]で成膜し、この膜の上に、IBAD法で、第3中間層であるMgO層123を膜厚5[nm]で成膜した。この膜の上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]でLaMnO
3層(第4中間層)124を、膜厚10[nm]で成膜した。次いで、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を、膜厚500[nm]で成膜し、CeO
2層におけるΔφ(「CeO
2Δφ」)=3.4[deg.]の高配向基板を得た。この膜上にTFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]成膜した。この結果、以下の表1に示すような超電導特性(臨界電流値であり「YBCO特性Ic」で示す)=410[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0047】
<参照例1>
参照例1は、Ra=2[nm]に研磨した実施例1と同様のハステロイ基板(基板110)に、RFスパッタにより第1中間層としてのAl
2O
3121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、RFスパッタにより、第2中間層としてLaMnO
3層122を成膜温度50[℃]中において、膜厚2[nm]で成膜した。このLaMnO
3層122上にIBAD法でMgO層(第3中間層)123を膜厚5[nm]で成膜した。その後、MgO層123上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]にてLaMnO
3層(第4中間層)124を膜厚10[nm]で成膜した。次いで、LaMnO
3層(第4中間層)124上に、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を膜厚50[nm]で成膜し、CeO
2層125におけるΔφ(「CeO
2Δφ」)=7.0[deg.]の高配向基板を得た。その後、CeO
2層125上に、TFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]で成膜した。この結果、以下の表1に示すような超電導特性(YBCO特性Ic)=110[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0048】
<参照例2>
参照例2は、Ra=2[nm]に研磨した実施例1と同様のハステロイ基板(基板110)に、RFスパッタにより第1中間層としてAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、RFスパッタにより、第2中間層としてのLaMnO
3層122を成膜温度50[℃]中において、膜厚150[nm]で成膜した後、LaMnO
3層122上にIBAD法でMgO層(第3中間層)123を成膜した。その後、MgO層123上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]にてLaMnO
3層(第4中間層)124を膜厚10[nm]で成膜した。次いで、LaMnO
3層(第4中間層)124上に、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を膜厚50[nm]で成膜し、CeO
2層のΔφ=6.5[deg.]の高配向基板を得た。その後、CeO
2層125上に、TFA−MOD法でYBCO超電導層130を膜厚1.5[μm]で成膜した。この結果、表1に示すような超電導特性(YBCO特性Ic)=150[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0049】
<参照例3>
参照例3は、Ra=2[nm]に研磨した実施例1と同様のハステロイ基板(基板110)に、RFスパッタにより第1中間層としてAl
2O
3層121を膜厚100[nm]で成膜した。この後、RFスパッタにより、第2中間層としてのLaMnO
3層122を成膜温度200[℃]中において、膜厚20[nm]で成膜した。その後、LaMnO
3層122上に、IBAD法でMgO層(第3中間層)123を成膜した。その後、RFスパッタにより成膜温度800[℃]でLaMnO
3層(第4中間層)124を、膜厚10[nm]で成膜した。次いで、成膜温度650[℃]でCeO
2層(第5中間層)125を膜厚500[nm]で成膜し、CeO
2層のΔφ=6.0[deg.]の高配向基板を得た。この後、CeO
2層125上に、TFA−MOD法でYBCO超電導層130を1.5[μm]成膜した。この結果、表1に示すような超電導特性(YBCO特性Ic)=180[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【0050】
<比較例1>
比較例1は、実施例1の構造においてAl
2O
3層(第1中間層)の上に成膜されるLaMnO
3層122を無くし、Al
2O
3層上にMgOを接して成膜した。具体的には、実施例1と同様のハステロイ基板に、RFスパッタによりAl
2O
3層を膜厚100[nm]で成膜した。この後、Al
2O
3層上にIBAD法でMgO層を成膜した後、MgO層上に、RFスパッタにより成膜温度800[℃]でLaMnO
3層を膜厚10[nm]で成膜した。このLaMnO
3層上に、成膜温度650[℃]でCeO
2層を膜厚500[nm]で成膜し、無配向基板を得た。この後、CeO
2層上に、TFA−MOD法でYBCO層を1.5[μm]成膜した。この結果、表1に示すような超電導特性(YBCO特性Ic)=0[A/cm−w]の酸化物超電導線材を得た。
【表1】
【0051】
[実験結果]
表1の比較例1と、実施例1〜6及び参照例1〜3との比較から明らかなように、酸化物超電導線材の中間層において、MgO層の下地層としてLaMnO
3層を設けるか否かによって、酸化物超電導線材の特性に明らかな違いが生じた。中間層において、LaMnO
3層上に、MgO層を接して設けた酸化物超電導線材(実施例1〜6及び参照例1〜3)の方が、LaMnO
3層上にMgO層を設けない酸化物超電導線材(比較例1)よりも、明らかに超電導特性が優れていることがわかった。
【0052】
また、表1の実施例1〜6に示すように、MgO層がLaMnO
3層上に成膜された構成において、LaMnO
3層の膜厚が5〜100[nm]で、このLaMnO
3層を成膜する温度(成膜温度)が150[℃]以下であると、YBCO特性Ic=400[A/cm−w]以上(400〜460[A/cm−w])という極めて高い超伝導特性が得られた。特に、表1に示すように、LaMnO
3層の膜厚20[nm]、成膜温度50[℃]とした実施例2の酸化物超電導線材が、最も優れたYBCO特性Ic[A/cm−w]を得た。