(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているスマートフォンやタブレットPC等の携帯型情報端末においては、マルチタッチ操作の可能な投影型の静電容量方式のタッチパネルが多く用いられている。
この投影型の静電容量方式のタッチパネルの構造について
図12(分解図)を用いて簡単に説明する。
図12に示す静電容量方式のタッチパネル50は、例えば透明な絶縁フィルム53の裏側に、Y方向の座標検出を行うための複数の電極を有する酸化インジウム・スズ膜(以下、ITO膜と称する)51が形成され、表側にX方向の座標検出を行うための複数の電極を有するITO膜52が形成される。
【0003】
前記ITO膜51は、X方向に連結されて相互に電気的に接続された複数の菱形の電極パッド54(センサ電極)がY方向に複数行設けられており、前記ITO膜52は、Y方向に連結されて相互に電気的に接続された複数の菱形の電極パッド55(センサ電極)がX方向に複数列設けられている。各電極パッド54,55は、指示体(指やスタイラスペンなど)の接触位置を検出可能な静電容量(約1pF)の変化を発生させるに十分な面積を有しており、例えばその対角線の幅が5mm程度に形成されている。
前記ITO膜51,52が形成された絶縁フィルム53を平面視すると、
図13のように各電極パッド54,55が所定の隙間を空けて面方向に配置された2次元格子状の構造をなしている。
【0004】
このタッチパネル50に対し、カバーガラス(図示せず)を介し、例えば指先を接触させると、X方向に連結された電極パッド54のうち、接触位置の電極パッド54の静電容量が所定値以上に変化する。これによりY方向の座標位置が検出される。
また、Y方向に連結された電極パッド55のうち、接触位置の電極パッド55の静電容量が所定値以上に変化する。これによりX方向の座標位置が検出される。
【0005】
ところで、前記静電容量方式のタッチパネル50は、前記のように指やスタイラスペンによる接触箇所に所定以上の静電容量(約1pF)の変化を発生させなければ、その位置を検出することができない。このため従来から、静電容量方式のタッチパネルに対する入力操作は、電極パッド54,55の面積よりも大きい接触面積で接触可能な導電性のスタイラスペン、或いは指先などにより行い、位置検出に必要な静電容量の変化を発生させるようにしている(接触面積が小さいと、位置検出に必要な静電容量の変化が生じない)。
尚、投影型静電容量方式のタッチパネルについての先行技術は、例えば特許文献1に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記導電性のスタイラスペンにより静電容量方式のタッチパネルに入力する場合には、前記のようにペン先が太いもの(例えば直径5mm(接触面積が約19.6mm
2)以上)に限られるために、操作性や操作時の視認性、使用感が損なわれるという課題があった。
前記課題を解決するには、単純にタッチパネルのセンサ電極をより細分化し、各センサ電極において検出可能な静電容量の変化量を小さくすることが考えられるが、その場合、より微弱な電流変化を検出しなければならず、誤検出が生じる虞が大きくなるという課題があった。
更に、センサ電極を細分化すると、電極本数が増加するため、タッチ位置を求めるための演算量が大幅に増大する。そのため、演算を行う制御部の処理能力が不足した場合には、タッチ操作に対しタッチ位置検出が追従できず、表示などに遅延が生じて、使い勝手が低下するという課題があった。また、タッチ操作に対しタッチ位置検出が追従できるように制御部の処理能力を向上させた場合には、消費電力の増大や、コストがより嵩むという課題があった。
【0008】
本発明は、前記した点に着目してなされたものであり、指示体により接触した画面上の位置が座標情報として得られる静電容量方式のタッチパネル上に設けられ、指示体の接触面積が従来の場合よりも小さな接触面積であっても、接触位置を検出可能とするタッチパネル用フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するために、本発明に係るタッチパネル用フィルムは、センサ電極が配置された静電容量方式のタッチパネルと導電性の指示体との間に介される静電容量式タッチパネル用フィルムであって、フィルムの表面に形成された、10
5.0〜10
7.0Ω/sqの範囲内で設定された所定の表面抵抗率を有する透明導電性薄膜と、前記透明導電性薄膜に積層された透明性の保護層とを少なくとも有し、前記指示体が前記保護層の表面に接触した際、その接触位置を含む所定領域と前記センサ電極との間の誘電体に、単位面積あたり0.52〜5.96pF/mm
2の静電容量の変化が発生することに特徴を有する。
尚、前記指示体が前記保護層の表面に接触した際、前記保護層において、前記指示体の接触位置を含む所定領域と前記透明導電性薄膜との間に、少なくとも1.11pF/mm
2の静電容量の変化が生じることが望ましい。
また、前記保護層の厚さ寸法は、30μm未満であることが望ましい。
【0010】
このように10
5.0〜10
7.0Ω/sqの範囲内で設定された所定の表面抵抗率を有する透明導電性薄膜を少なくとも有するフィルムに指示体が接触すると、その接触位置を含む所定領域と前記センサ電極との間の誘電体に、単位面積あたり0.52〜5.96pF/mm
2の静電容量の変化が発生するため、指示体の接触面積が、タッチパネルを構成するセンサ電極の面積よりも小さくても、人の指と等価な接触状態とすることができる。
即ち、指示体の接触面積が小さくても、フィルム表面に接触した指示体とセンサ電極との間に、所定範囲内の静電容量の変化を生じさせることができ、指示体の接触位置を検出することができる。
このため、例えばペン先が細いスタイラスペンによるタッチパネルの操作が可能となり、操作性や操作時の視認性、及び使用感を向上させることができる。
【0011】
また、タッチパネルの構成は、従来の構成を採用することができるため、製造にかかるコストの増加を抑制することができる。
更に、透明導電性薄膜の上に透明性の保護層が形成されているため、透明導電性薄膜を保護することができ、耐久性(耐擦傷性)に優れたタッチパネル用フィルムを得ることができる。
【0012】
また、前記保護層は、紫外線吸収剤を含有する構成としてもよい。
即ち、透明導電性薄膜を例えばポリチオフェンに代表される導電性ポリマーを用いて形成した場合、紫外線に曝されると導電性が劣化するなど、耐性に劣るため、その前面側にある保護層が紫外線吸収剤を含むことによって、透明導電性薄膜の劣化を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、指示体により接触した画面上の位置が座標情報として得られる静電容量方式のタッチパネル上に設けられ、指示体の接触面積が従来の場合よりも小さな接触面積であっても、接触位置を検出可能とするタッチパネル用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係るタッチパネル用フィルムが設けられたタッチパネル装置の断面図である。
【0016】
図1のタッチパネル装置1は、液晶表示装置であるLCDユニット2の上にタッチパネル3が設けられ、その上には、誘電体であるカバーガラス4を介して、タッチパネル用フィルムとしての高抵抗フィルム5が設けられている。尚、本実施形態においては、前記高抵抗フィルム5を前記カバーガラス4上に取り付けるために、高抵抗フィルム5は、その最下層に少なくとも粘着層9を有している。
【0017】
前記タッチパネル3は、例えば従来の
図12に示した構成と同様に、透明な絶縁フィルム10(
図12の絶縁フィルム53に相当)の表裏面に、ITO膜からなるセンサ電極が形成されている。具体的には、絶縁フィルム10の表側に複数の電極パッド11(
図12の電極パッド55に相当)が形成され、裏側に複数の電極パッド12(
図12の電極パッド54に相当)が形成されている。各電極パッド11,12は、従来の
図11,
図12の構成と同様に菱形状に形成され、それにより、(
図13の構成と同様に)2次元格子状のセンサ電極を構成している。また、各電極パッド11,12の対角線の幅は例えば5mmに形成され、所定の静電容量(例えば約1pF)の変化により、その電極パッド11,12における指示体(指や導電性のスタイラスペンなど)の接触が検出可能となされている。
【0018】
また、前記高抵抗フィルム5は透明な積層フィルムであって、PETフィルム8と、PETフィルム8上に形成された高抵抗の透明導電性薄膜7と、透明導電性薄膜7上に形成された保護層6とを有する。さらには、PETフィルム8の下層に粘着層9が設けられている。
前記PETフィルム8は、所定厚さ(例えば約50μm)に形成されたポリエチレンテレフタレートのフィルムであり、透明性、耐熱性、電気的絶縁性などに優れている。
また、前記透明導電性薄膜7は、前記PETフィルム8の上面に対し、スパッタリング法などにより例えばITO膜が成膜されて形成される、或いは透明導電性樹脂が塗布等により成膜されて形成される。
また、この透明導電性薄膜7は、その表面抵抗率が10
5〜10
7Ω/sqの範囲内で設定された高抵抗となされている。このような高表面抵抗の透明導電性薄膜7は、例えば、低抵抗な導電性を有するITO膜やポリチオフェンに代表される導電性ポリマーの膜厚を薄くし抵抗率を増大させる方法、或いは導電性高分子のPEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))とポリアニオンのPSS(ポリスチレンスルホン酸塩)の混合物からなるPEDOT−PSS水溶液に代表される導電性高分子の低導電性グレードをフィルム上へ均一に成膜することなどにより得ることができる。
【0019】
また、前記保護層6は、その厚さ寸法が30μm未満であって、耐擦傷性の高い透明な樹脂のフィルムにより形成されている。
具体的には、前記保護層6を形成する場合、一般的に市販されているハードコート剤、例えば、商品名:Acier−PMMA(株式会社ニデック製)や、商品名:紫光UV7600B(日本合成化学工業株式会社製)などを、スピンコーターあるいはバーコーターを用い、前記透明導電性薄膜7上に均一に塗布した後、UV光(紫外線)で硬化させることにより得ることができる。
また、前記保護層6は、UV(紫外線)吸収剤を含有するものであってもよい。即ち、透明導電性薄膜7を例えばポリチオフェンに代表される導電性ポリマーを用いて形成した場合、UV光(紫外線)に曝されると導電性が劣化するなど、耐性に劣るため、その前面側にある保護層6がUV吸収剤を含むことによって、透明導電性薄膜7の劣化を防止することができる。
尚、UV吸収剤を含む保護層6の材料として、例えば、東洋インキ株式会社製のリオデュラス(登録商標)TYNやTYTを用いることができる。
また、これ以外にも一般的な酸化チタンや酸化亜鉛を含んだ無機系のUV吸収剤や、あるいはベンゾトリアゾールや系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系などの有機系のUV吸収剤を用いることができる。
【0020】
また、粘着層9は、例えばアクリル系材料、ウレタン系材料、シリコーン系材料、ゴム系材料により、所定厚さ(例えば厚さ10μm)に形成され、適度な粘着力と高い透明性および再剥離性を有している。
この粘着層9は、PETフィルム8の下面に対し、バーコートやスピンコートあるいはスプレーコートなどにより形成することができる。
【0021】
また、前記透明導電性薄膜7の表面抵抗率は、10
5〜10
7Ω/sqの範囲内において、保護層6、カバーガラス4、PETフィルム8、粘着層9などの厚さ、比誘電率に応じて、指示体の接触した所定領域とセンサ電極との間に生じる単位面積あたりの静電容量の変化が、0.52〜5.96pF/mm
2の範囲内となるように設定されている。
【0022】
次に、前記高抵抗フィルム5を前記カバーガラス4上に設けることによって、導電性を有する指示体を前記高抵抗フィルム5へ接触させた際、実際の接触面積が擬似的に拡大する効果を得ることができる原理について説明する。尚、ここでは、保護層が設けられていない場合を例に説明する。
【0023】
図2に示すように、一様な所定の表面抵抗率を有する透明導電性薄膜21と、PETフィルム22と、粘着層23とで形成されるフィルム20を用意し、前記粘着層23側に、このフィルム20よりも広い面積の電極25を配置し、前記透明導電性薄膜21上に前記フィルム20よりも小さい面積の導電性指示体の先端(電極26)を接触させる。
このとき、電極25,26に挟まれた前記フィルム20にあっては、
図3に示すような等価回路に置き換えることができる。即ち、このフィルム20には、抵抗R(R1、R2、R3、・・・、Rn、Rn+1、・・・)と静電容量C(C1、C2、C3、・・・、Cn、Cn+1、・・・)とで構成される微小な積分回路が分布している(nは正の整数値)。
ここで、積分回路の時定数τは、次式(1)で表され、Cnのnが増えるほど(面積が拡がるほど)、直列接続される抵抗の合成値が大きくなってCnの時定数τは大きくなる。
【0024】
(数1)
τ=R×C ・・・(1)
時定数τが大きくなりすぎると、Cnにおいては短時間では電荷を殆ど蓄えることができない。そのため、C1〜Cn−1までが、静電容量の蓄積された範囲と見なされる。
【0025】
このような積分回路にあっては、透明導電性薄膜21の表面抵抗率Rを小さくすれば、前記式(1)から、時定数τは小さくなる。そのため、静電容量の蓄積可能な境界にあった前記CnをCn+1、Cn+2、・・・と増やすことができ、擬似的な面積を拡大することが可能となる。
【0026】
尚、一般に、静電容量Cは、次式(2)により定義することができるため、前記時定数τは、前記PETフィルム22の比誘電率、厚さ寸法によっても影響を受ける。
【0027】
(数2)
C=ε
r・ε
0×S/d ・・・(2)
ε
r:比誘電率
ε
0:真空の誘電率
d:誘電体の厚さ
S:電極面積
【0028】
続いて、
図4を用いて、
図1に示した高抵抗フィルム5(タッチパネル用フィルム)と共に用いることのできるスタイラスペンの構成について説明する。
図4は、スタイラスペン30の先端部を示す側面図である。
図4に示すスタイラスペン30は、導電性材料(例えば鋼、銅、或いは導電性ゴム、導電性繊維など)により形成されたペン先31と、ペン先31を保持するペン先ホルダー32とを有する。ペン先ホルダー32より後端側には、グリップ部やペン軸本体など(いずれも図示せず)が設けられている。
【0029】
前記ペン先ホルダー32、グリップ部及びペン軸本体などは、人体とペン先31とを電気的に結合するように、前記ペン先31と電気的に接続された導電性材料(例えばアルミニウム合金)により形成されている。或いは、前記ペン先ホルダー32、グリップ部及びペン軸本体などの表面に、ペン使用者(人体)の手(指)が必ず接触する例えば金属製の導通部(図示せず)を、前記ペン先31と電気的に接続された状態で設けてもよい。
【0030】
また、前記ペン先31の先端幅寸法d1は、タッチパネル3の電極パッド11,12の対角線の幅(例えば5mm)よりも小さく形成されている。
尚、
図1に示した高抵抗フィルム5(タッチパネル用フィルム)と共に用いるスタイラスペンにあっては
図4に示す形状に限定されるものではない。即ち、少なくとも導電性材料により形成されると共に、先端幅が前記電極パッド11,12の幅よりも小さいペン先を備え、ペン使用者がスタイラスペン30を手に持って使用する際に、使用者の手と前記ペン先とが電気的に結合する構成であればよい。
【0031】
このように構成されたスタイラスペン30と前記タッチパネル装置1とによれば、スタイラスペン30のペン先31が電極パッド11,12の幅よりも細くても、前記ペン先31が高抵抗フィルム5の表面に接触することで、その接触位置の検出を行うことができる。
【0032】
即ち、
図5に示すように高抵抗フィルム5にスタイラスペン30が接触すると、高抵抗フィルム5の透明導電性薄膜7は、10
5〜10
7Ω/sqの範囲内で設定された表面抵抗率を有しているため、導体であるスタイラスペン30の接触面積が擬似的に拡がり、人の指先が接触した場合と等価の状態となる。
【0033】
これにより、
図5に示すように、スタイラスペン30のペン先31の接触位置を含む所定領域と電極パッド11との間(誘電体である保護層6、カバーガラス4、PETフィルム8、粘着層9)には、単位面積あたり所定の静電容量の変化(約0.52〜5.96pF/mm
2)が生じる(保護層6には、少なくとも1.11pF/mm
2以上の静電容量の変化が生じる)。
そして、前記ペン先31の接触位置を含む所定領域と電極パッド11との間に生じた静電容量は、スタイラスペン30を介して人体に微弱な電流(例えば10μA〜20μA)として流れ、それによりスタイラスペン30のペン先31の接触位置のうち、例えば縦方向の座標位置(
図12,
図13のY方向の位置)が検出される。
【0034】
また、前記ペン先31の接触位置を含む所定領域と電極パッド11の場合と同様に、スタイラスペン30のペン先31の接触位置を含む所定領域と電極パッド12との間(誘電体である保護層6、カバーガラス4、PETフィルム8、粘着層9)にも、単位面積あたり所定の静電容量の変化(約0.52〜5.96pF/mm
2)が生じる(保護層6には、少なくとも1.11pF/mm
2以上の静電容量の変化が生じる)。
そして、前記ペン先31の接触位置を含む所定領域と電極パッド12との間に生じた静電容量は、スタイラスペン30を介して人体に微弱な電流(例えば10μA〜20μA)として流れ、それによりスタイラスペン30のペン先31の接触位置のうち、例えば横方向の座標位置(
図12,
図13のX方向の位置)が検出される。
【0035】
以上のように、本発明に係る実施の形態によれば、タッチパネル3上にカバーガラス4を介して表面抵抗率が10
5〜10
7Ω/sqの範囲内で設定された透明導電性薄膜7を含む高抵抗フィルム5が設けられるため、スタイラスペン30の接触面積がタッチパネル3を構成する電極パッド11,12の面積より小さくても、接触面積を擬似的に拡大することができる。そして、例えばスタイラスペン30のペン先31が接触した高抵抗フィルム5の保護層6上の所定領域と、電極パッド11,12との間には、それぞれ単位面積あたり所定の静電容量の変化(約0.52〜5.96pF/mm
2)が生じるため、人の指と等価な接触状態とすることができる。
即ち、スタイラスペン30のペン先31の接触面積が小さくても、高抵抗フィルム5の表面に接触したペン先31と電極パッド11,12との間の誘電体に、タッチパネル3の反応に必要な静電容量の変化を生じさせることができ、スタイラスペン30の接触位置を検出することができる。
【0036】
このため、ペン先31が細いスタイラスペン30によるタッチパネル装置1の操作が可能となり、操作性や操作時の視認性及び使用感を向上させることができる。
また、タッチパネル3の構成は、従来の構成を採用することができるため、製造にかかるコストの増加を抑制することができる。
更に、透明導電性薄膜7の上に保護層6が形成されているため、透明導電性薄膜7を保護することができ、耐久性(耐擦傷性)に優れた高抵抗フィルム5を得ることができる。
【0037】
尚、前記実施の形態において、タッチパネル3は、絶縁フィルム10の表裏面に、センサ電極として複数の電極パッド11と複数の電極パッド12とがそれぞれ形成されてなる構成としたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではない。
例えば、ITO膜からなる電極パッド11と電極パッド12とを、それぞれ別の透明薄膜の絶縁フィルム上に形成し、それらを重ねてタッチパネル3を構成してもよい。或いは、電極パッド11と電極パッド12とが電気的に絶縁されていれば、それらを同一層上に形成した構成としてもよい。
【0038】
また、前記実施の形態において、高抵抗フィルム5を構成する高抵抗の透明導電性薄膜7は、フィルム全面に一様に形成されているものとして説明したが、
図6に示すように相互に絶縁された複数の小区画(小区画電極Ar)に分割して形成してもよい。
そのように構成した場合には、スタイラスペン30のペン先31が高抵抗フィルム5の表面に接触した際、その接触位置に対応する小区画電極Arの領域において、前記接触位置とセンサ電極(電極パッド11,12)との間にタッチパネル3の反応に必要な静電容量の変化を発生させることができる。
即ち、スタイラスペン30の先端径(接触面積)が小さくても、その接触位置における小区画電極の領域でタッチパネルを反応させることができるため、細いペン先のスタイラスペン30であってもタッチパネル操作が可能となる。
尚、
図6に示す各小区画電極Arは、縦横の格子状に区切られた方形状としたが、方形状に限らず、他の形状により各小区画電極Arを形成してもよく、各小区画電極Arの大きさや形状が互いに異なるものであってもよい。
【0039】
また、前記実施の形態においては、透明導電性薄膜7は、例えばITO膜などにより形成されるものとして説明したが、それに限らず、透明性及び導電性を有するものであれば、如何なる材料を用いて形成されてもよい。
【0040】
また、前記実施の形態においては、PETフィルム8の上面に透明導電性薄膜7を形成するものとしたが、PETフィルム8に限らず、透明性、及び電気的絶縁性に優れるフィルムであれば、その他の材料により形成されたものをPETフィルム8の代わりに用いてもよい。
尚、前記実施の形態において記載した透明導電性薄膜7、保護層6、PETフィルム8、粘着膜9における透明性とは、それがタッチパネル上に配置された際に、表示画像の内容を識別可能な状態のものをいう。
【0041】
また、前記実施の形態においては、投影型静電容量方式のタッチパネルを例に説明したが、本発明に係るタッチパネル用フィルムは、それに限らず、ペン先の接触による微弱電流の変化を捉えて位置検出を行う静電容量方式のタッチパネルであれば適用することができる。
【実施例】
【0042】
本発明について、実施例に基づきさらに説明する。本実施例では、以下の実験1〜6を行うことにより、本発明の構成要件を特定すると共に、その有効性を確認した。
【0043】
[実験1]
実験1では、タッチパネルとしてアップル社製の第5世代アイポッド(登録商標)タッチを用い、そのカバーガラス上にフィルムを貼らず、体積抵抗率が2.5Ω・cmの導電ゴムを指示体とした場合のタッチパネルが反応可能な前記指示体の最小の接触面積径について検証した。
その結果、指示体である導電ゴムの接触面積径が最小4mmの指示体であればタッチパネルが反応することを確認した。
【0044】
[実験2]
実験2では、タッチパネルとしてアップル社製の第5世代アイポッドタッチを用い、そのカバーガラス上に、厚さ10μmの粘着層(アクリル系粘着剤)を介して厚さ50μmのPETフィルムを貼付し、前記実験1で求めたアップル社製の第5世代アイポッドタッチが反応する接触面積径が4mmの導電ゴムを指示体として、タッチパネルが反応するかを検証した。
その結果、タッチパネルは反応しなかった。これは、誘電体の厚みが増して、導電ゴムとセンサ電極との間の距離が大きくなり、静電容量の変化が小さくなったためと考えられる。
【0045】
[実験3]
実験3では、タッチパネルとしてアップル社製の第5世代アイポッドタッチを用い、そのカバーガラス上に、高抵抗フィルム(保護層なし)を貼付し、タッチパネルが反応する表面抵抗率の範囲について検証した。
前記高抵抗フィルムとして、厚さ50μmのPETフィルムの上に所定の表面抵抗率を有する透明導電性薄膜(ITO膜)を形成し、前記PETフィルムの下に、厚さ10μmの粘着層(アクリル系粘着剤)を形成したものを使用した。また、指示体として、接触面積径が4mmの導電ゴムを用いた。
この実験3において、前記透明導電性薄膜の表面抵抗率の値を変えて検証したところ、透明導電性薄膜の表面抵抗率が、10
5〜10
8Ω/sqの範囲内であれば、指示体の接触面積径が4mmでも反応することを確認した。
即ち、前記PETフィルム上に10
5〜10
8Ω/sqの範囲の表面抵抗率を持つ透明導電性薄膜を形成することによって、導電ゴムからなる指示体の擬似的な接触面積の拡大効果が得られ、導電ゴムとセンサ電極との間に、タッチパネルが反応可能な静電容量の変化が生じることを確認できた。
【0046】
[実験4]
実験4では、実験3の結果を受け、透明導電性薄膜の表面抵抗率が10
5〜10
8Ω/sqの範囲内において、前記実験3で用いた高抵抗フィルムの透明導電性薄膜上に所定厚さの保護層を設けた高抵抗フィルムを用い、タッチパネルが反応するか検証した。
タッチパネルとしてアップル社製の第5世代アイポッドタッチを用い、また、指示体として、接触面積径が4mmの導電ゴムを用いた。
また、商品名:Acier−PMMA(株式会社ニデック製)により形成された保護層を形成し、その厚さ寸法を1〜30μmの範囲内で複数条件を設定した。
この実験4の結果を、表1に示す。尚、表1において、○は反応することを示し、×は反応しないことを示し、△は接触する場所によって反応することを示す。
【0047】
【表1】
表1の結果から、透明導電性薄膜の表面抵抗率が10
5〜10
7Ω/sqの範囲内であって、保護層の厚さ寸法が30μm未満であれば、保護層を設けても擬似的な面積拡大効果が得られ、タッチパネルが反応することを確認した。
【0048】
[実験5]
実験5では、さらに実験4の結果について検証するための実験を行った。
尚、高抵抗フィルムにおいて、透明導電性薄膜を保護層で覆うと、測定電極を透明導電性薄膜に直接的に接触させることができず、透明導電性薄膜の導電性を正確に評価することができないため、静電容量の測定装置(LCRメーター)を用いて、電極間の静電容量の変化を測定した。
装置構成としては、
図7に模式的に示すように、200mm×100mmの方形状のアルミ製電極41の上に95mm×55mmの保護層付きの高抵抗フィルム5を貼付し、その上に直径8mmの円柱形状の真鍮製の電極42を配置し、2Nの荷重にて接触を安定させた後、静電容量の測定を行った。
【0049】
前記高抵抗フィルム5は、前記実施の形態において、
図1に示した通りの構成であり、同符号を用いて
図8に模式的に示すと、厚さ50μmのPETフィルム8の下層に厚さ10μmの粘着層9(アクリル系粘着剤)、上層に透明導電性薄膜7が形成され、透明導電性薄膜7の上に、商品名:Acier−PMMA(株式会社ニデック製)からなる保護層6が形成されたものを使用した。
また、電極間の静電容量の測定に用いるLCRメーター(Agilent社製U1731)43において、測定周波数は1kHzとした。
測定条件として、高抵抗フィルム5に用いた透明導電性薄膜7の表面抵抗率は、前記実験4でタッチパネルが動作した10
5Ω/sq、10
6Ω/sq、10
7Ω/sqの3条件とした。また、保護層6の厚さは、1μm〜30μmの範囲内で条件を変えた。
【0050】
図9に、実験5の結果をグラフで示す。
図9のグラフにおいて、横軸は保護層の厚さ寸法(μm)、縦軸は高抵抗フィルム20全体の静電容量(pF/mm
2)である。
また、
図9のグラフにおいて、△は透明導電性薄膜7の表面抵抗率が10
5Ω/sqの場合の結果を示し、□は10
6Ω/sqの場合の結果を示し、○は10
7Ω/sqの場合の結果を示す。また、比較基準として透明導電性薄膜及び保護層を有さないフィルム、具体的には、厚さ50μmのPETフィルムを厚さ10μmの粘着層で貼り付けた場合の静電容量の結果を同グラフ中に示す。
【0051】
図9のグラフに示されるように、保護層6の厚さ寸法が大きいほど、電極間の静電容量の変化量は小さくなった。このことから、保護層6の厚さ寸法が大きいほど、擬似的に指示体の接触面積を拡大する効果が減少することを確認できた。
また、タッチパネルが動作する電極間の静電容量の最大値は、表面抵抗率が10
5Ω/sqの透明導電性薄膜7上に、厚さ1μmの保護層6を塗布形成した場合の5.96pF/mm
2であった。
一方、タッチパネルが動作する電極間の静電容量の最小値は、表面抵抗率が10
7Ω/sqの透明導電性薄膜7上に厚さ5μm以上の保護層6を塗布形成した場合の0.52pF/mm
2であった。
よって、この実験5で確認できたタッチパネルが動作可能な静電容量の変化の範囲は、0.52〜5.96pF/mm
2であった。
尚、フィルムに透明導電性薄膜7と保護層6とを設けない場合、前記実験2に示したようにタッチパネルは反応しないが、そのときの電極間の静電容量は0.47pF/mm
2であり、前記タッチパネルが動作する静電容量の最小値は、これを少し超える値であった。
【0052】
また、保護層6における静電容量の変化に着目すると、保護層6を有する高抵抗フィルム5をタッチパネル3上に貼付した場合、指示体(スタイラスペン、指など)とセンサ電極との間に形成される静電容量は、
図10に模式的に示すように、センサ電極(タッチパネル3)と透明導電性薄膜7との間の静電容量C
1と、透明導電性薄膜7と指示体との間(即ち保護層6)の静電容量C
2との合成容量となる。
静電容量C
1とC
2との合成容量をC
totalとすると、合成容量C
totalは、次式(3)で表すことができる。
【0053】
(数3)
C
total=C
1・C
2/(C
1+C
2) ・・・(3)
【0054】
ここで、前記実験5により得られた静電容量値の結果(カバーガラス4は含まない構成)は、全体の静電容量C
totalである。次にそれぞれの表面抵抗率に対するC
1を明らかにするため、保護層6を形成せず、静電容量C
1の測定を行った。結果、表面抵抗率が10
5Ω/sqではC
1=26.72pF/mm
2であった。10
6Ω/sqではC
1=3.98pF/mm
2であった。10
7Ω/sqではC
1=1.00pF/mm
2であった。この結果と前記式(3)に基づき、それぞれの抵抗率における透明導電性薄膜7と指示体との間の静電容量C
2、即ち保護層6における静電容量C
2を求めると、
図11のグラフに表すことができる。
透明導電性薄膜7の表面抵抗率が10
5Ω/sq〜10
7Ω/sqの場合には、前記実験4で示したとおり保護層が30μm未満であれば擬似的な面積の拡大効果が得られ、タッチパネルは反応する。そのときの反応下限のC
totalは0.52pF/mm
2であり、このときのC
2も同様に下限値を取る。それぞれの保護層6における静電容量C
2の値は表面抵抗率が10
5Ω/sqのとき、0.53pF/mm
2、10
6Ω/sqのとき、0.60pF/mm
2、10
7Ω/sqのとき、1.09pF/mm
2であった。
よってタッチパネルが動作可能となるような保護層6における静電容量C2の変化は、少なくとも0.53pF/mm
2以上であることがわかった。
【0055】
以上の実施例の結果から、本発明に係るタッチパネル用フィルム(高抵抗フィルム)をタッチパネルに貼ることにより、本発明に係るスタイラスペンのように細い先端径の指示体であっても、擬似的に接触面積を拡げ、静電容量の変化を大きくすることができ、タッチパネルの操作が可能になることを確認することができた。