特許第6104785号(P6104785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6104785ペルヒドロポリシラザン、およびそれを含む組成物、ならびにそれを用いたシリカ質膜の形成方法
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  • 特許6104785-ペルヒドロポリシラザン、およびそれを含む組成物、ならびにそれを用いたシリカ質膜の形成方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104785
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ペルヒドロポリシラザン、およびそれを含む組成物、ならびにそれを用いたシリカ質膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   H01L21/316 G
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-254456(P2013-254456)
(22)【出願日】2013年12月9日
(65)【公開番号】特開2015-115369(P2015-115369A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】511293803
【氏名又は名称】アーゼッド・エレクトロニック・マテリアルズ(ルクセンブルグ)ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】岡 村 聡 也
(72)【発明者】
【氏名】神 田 崇
(72)【発明者】
【氏名】櫻 井 一 成
(72)【発明者】
【氏名】バートラム、ベルント、バーニッケル
(72)【発明者】
【氏名】青 木 宏 幸
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−138107(JP,A)
【文献】 特開2011−142207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式:
【化1】
で表される構造を含む、重量平均分子量が5,000以上17,000以下のペルヒドロポリシラザンであって、前記ペルヒドロポリシラザンをキシロールに溶解させた17重量%溶液のH−NMRを測定した時、キシロールの芳香族環水素の量を基準とした、SiH1,2の量の比が0.235以下、NHの量の比が0.055以下であることを特徴とするペルヒドロポリシラザン。
【請求項2】
下記一般式(Ia)〜(If)で表される繰り返し単位と下記一般式(Ig)で表される末端基とから構成される、請求項1に記載のペルヒドロポリシラザン。
【化2】
【請求項3】
重量平均分子量が、5,700以上15,000以下である、請求項1または2に記載のペルヒドロポリシラザン。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のペルヒドロポリシラザンと、溶媒とを含んでなることを特徴とする、硬化用組成物。
【請求項5】
前記溶媒が、(a)芳香族化合物、(b)飽和炭化水素化合物、(c)不飽和炭化水素、(d)エーテル、(e)エステル、および(f)ケトンからなる群から選択される、請求項に記載の硬化用組成物。
【請求項6】
組成物の全重量を基準として、0.1〜70質量%のペルヒドロポリシラザンを含んでなる、請求項4または5に記載の硬化用組成物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の硬化用組成物を基材上に塗布し、加熱することを含んでなることを特徴とする、シリカ質膜の形成方法。
【請求項8】
前記加熱を水蒸気雰囲気下で行う、請求項7に記載のシリカ質膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等の製造過程において欠陥の少ないシリカ質膜を形成させることができるペルヒドロポリシラザン、およびそれを含む組成物に関するものである。また、本発明は、それらを用いたシリカ質膜の形成方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス、とりわけ半導体デバイスの製造において、トランジスター素子とビットラインとの間、ビットラインとキャパシターとの間、キャパシターと金属配線との間、複数の金属配線の間などに、層間絶縁膜の形成がなされていることがある。さらに、基板表面などに設けられたアイソレーション溝に絶縁物質が埋設されることがある。さらには、基板表面に半導体素子を形成させた後、封止材料を用いて被覆層を形成させてパッケージにすることがある。このような層間絶縁膜や被覆層は、シリカ質材料から形成されていることが多い。
【0003】
一方、電子デバイスの分野においては、徐々にデバイスルールの微細化が進んでおり、デバイスに組み込まれる各素子間を分離する絶縁構造などの大きさも微細化が要求されている。しかし、絶縁構造の微細化が進むにつれて、トレンチなどの構成するシリカ質膜における欠陥発生が増大してきており、電子デバイスの製造効率低下の問題が大きくなってきている。
【0004】
一方、シリカ質膜の形成方法としては化学気相成長法(CVD法)、ゾルゲル法、ケイ素含有ポリマーを含む組成物を塗布および焼成する方法などが用いられている。これらのうち、比較的簡便であるため、組成物を用いたシリカ質膜の形成方法が採用されることが多い。このようなシリカ質膜を形成させるためには、ポリシラザン、ポリシロキサン、ポリシロキサザン、またはポリシランなどのケイ素含有ポリマーを含む組成物を基板などの表面に塗布し、焼成をすることでポリマーに含まれるケイ素を酸化して、シリカ質膜とする。このような場合において、形成されるシリカ質膜の欠陥を低減する方法が検討されている。
【0005】
たとえば、水素化されたポリシラザンまたはポリシロキサザンを含む組成物において、過大な分子量を有するポリマー成分を低減させることによって、シリカ質膜の欠陥を低減させる方法(特許文献1)、水素化されたポリシロキサザン溶液の塩素含有量を制御して形成されるシリカ質膜の欠陥を低減させる方法(特許文献2)などが検討されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの方法では十分な欠陥低減が達成できない場合があり、さらなる改良の余地があった。
【0006】
また、半導体素子のギャップに充填するための、特定の元素組成を有するポリシラザンおよびポリシロキサザンを含む充填剤(特許文献3)、特定の構造を有するポリシラザンを用いた被膜形成用組成物(特許文献4および5)なども検討されているが、これらの文献に記載された組成物は形成されるシリカ質膜または窒化ケイ素膜の欠陥の低減を目的としたものではなく、その観点では十分な効果が認められるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公開第2012/164382A1号公報
【特許文献2】米国特許公開第2012/177829A1号公報
【特許文献3】米国特許公開第2013/017662A1号公報
【特許文献4】特許第2613787号明細書
【特許文献5】特許第2651464号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような課題に鑑みて、シリカ質膜を形成した場合に、欠陥の発生を抑制または防止し、欠陥の少ないシリカ質膜を形成させることができるケイ素含有ポリマーまたはそれを含む組成物が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるペルヒドロポリシラザンは、重量平均分子量が5,000以上17,000以下のペルヒドロポリシラザンであって、前記ペルヒドロポリシラザンをキシロールに溶解させた17重量%溶液のH−NMRを測定した時、キシロールの芳香族環水素の量を基準とした、SiH1,2の量の比が0.235以下、NHの量の比が0.055以下であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による硬化用組成物は、前記のペルヒドロポリシラザンと、溶媒とを含んでなることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明によるシリカ質膜の形成方法は、前記硬化用組成物を基材上に塗布し、加熱することを含んでなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるペルヒドロポリシラザンは、酸化に対する安定性が高く、このペルヒドロポリシラザンを含む組成物を用いることにより欠陥の少ないシリカ質膜を形成させることができる。さらに、得られたシリカ質膜は、硬化時の収縮が小さく、ウェットエッチングレートが小さく、クラックが発生しにくいという特徴も併せ持つ。このため、その組成物を用いて電子デバイスを形成することによって、電子デバイスの製造効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施態様であるペルヒドロポリシラザンのNMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0015】
[ペルヒドロポリシラザン]
本発明によるペルヒドロポリシラザン(以下、PHPSという)は、Si−N結合を繰り返し単位として含み、かつSi、N、およびHのみからなるケイ素含有ポリマーである。このPHPSは、Si−N結合を除き、Si,Nに結合する元素がすべてHであり、その他の元素、たとえば炭素や酸素を実質的に含まないものである。ペルヒドロポリシラザンの最も単純な構造は、下記の繰り返し単位(I)を有する鎖状構造である。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明では、分子内に鎖状構造と環状構造を有するPHPSを使用してもよく、例えば、分子内に下記一般式(Ia)〜(If)で表される繰り返し単位と下記一般式(Ig)で表される末端基とから構成されるPHPSが挙げられる。
【0018】
【化2】
【0019】
このようなPHPSは、分子内に分岐構造や環状構造を有するものであり、そのようなPHPSの具体的な部分構造の例は下記一般式に示されるものである。
【0020】
【化3】
【0021】
また、下記式に示される構造、すなわち複数のSi−N分子鎖が架橋された構造を有していてもよい。
【化4】
【0022】
本発明によるPHPSは、Si−N結合を繰り返し単位として含み、かつSi、N、およびHのみからなるケイ素含有ポリマーであれば、その構造は限定されず、上記に例示したほかの種々の構造を取りえる。たとえば、前記したような直鎖構造、環状構造、架橋構造を組み合わせた構造を有するものであってもよい。なお、本発明におけるPHPSは、環状構造または架橋構造、特に架橋構造を有するものが好ましい。
【0023】
本発明によるPHPSは、特定の分子量を有することが必要である。本発明によるPHPSを含む組成物をシリカ質へ転化させるために加熱する際に、飛散(蒸発)する低分子成分を少なくし、低分子成分の飛散に起因する体積収縮、ひいては微細な溝内部の低密度化を防ぐために、PHPSの重量平均分子量は大きいことが好ましい。このような観点から、本発明によるPHPSの重量平均分子量は5,000以上であることが必要であり、5,700以上であることが好ましい。一方、PHPSを溶媒に溶解させて組成物とした場合、その組成物の塗布性を高くすることが必要である、具体的には、組成物の粘度が過度に高くなること、および凹凸部への浸透性を確保するために組成物の硬化速度を制御することが必要である。このような観点から、本発明によるPHPSの重量平均分子量は、17,000以下であることが必要であり、15,000以下であることが好ましい。ここで重量平均分子量とは、ポリスチレン換算重量平均分子量であり、ポリスチレンの基準としてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0024】
また、本発明によるPHPSは、分子構造に特徴があり、従来一般的に知られているPHPSに比較して、−SiH1,2−および−NH−構造が少ないという特徴がある。すなわち、PHPS分子中に分岐構造または架橋構造が相対的に多い。具体的には、PHPSを構成する繰り返し単位(Ia)が相対的に少なく、(Ib)〜(If)が多い。
【0025】
このような構造の特徴は、定量的NMRにより検出することができる。すなわち、本発明によるPHPSは、定量的NMRにより評価した場合に特定の特性値を示す。定量的NMR(quantitative NMR)、は、NMRを用いて末端基定量などを行うための方法として知られている。具体的には内標準物質と測定対象物質由来の信号の積分値を比較することにより分析を行う(内部標準法)。本発明によるPHPSは、内標準物質としてキシロール(キシレン)を用いてH−NMRを測定し、PHPS分子中の
(1)キシロールの芳香族環水素を基準とした、SiH(上記式の(Ia)および(Ib)に対応)およびSiH(上記式の(Ic)および(Id)に対応)との合計量の相対値(以下、R(SiH1,2)という)、ならびに
(2)キシロールの芳香族環水素を基準とした、NH(上記式の(Ia)、(Ic)および(Ie)に対応)の合計量の相対値(以下、R(NH)という)
が特定の範囲にあることを特徴の一つとしている。なお、上記式の(If)は、H−NMRによって検出されないものなので無視できる。
【0026】
本発明においては定量的NMRの測定は具体的に以下のようにして行う。
まず、試料(PHPS)をキシロールに17重量%の濃度で溶解させてポリマー溶液を調製する。次いで、得られたポリマー溶液51mgを重溶媒、たとえば重クロロホルム(関東化学株式会社製)1.0gに溶解させて試料溶液を得る。 試料溶液のH−NMRをJNM−ECS400型核磁気共鳴装置(商品名、日本電子株式会社製)を用いて、64回測定してNMRスペクトルを得る。図1はこの方法により得られた、本発明によるPHPSのNMRスペクトルの一例である。このNMRスペクトルには、PHPSのSiHおよびSiHに帰属されるピーク(δ=4.8ppm付近)、SiHに帰属されるピーク(δ=4.4ppm付近)、NHに帰属されるピーク(δ=1.5ppm付近)、キシロールの芳香環水素に帰属されるピーク(δ=7.2ppm付近)が認められる。また、内標準資料に用いたキシロールに含まれる不純物であるエチルベンゼンのエチル基の水素に帰属されるピーク(δ=2.7ppm)も認められる。このエチルベンゼンのエチル基の水素に帰属されるピークはδ=1.3ppm付近にも現れ、このピークはNHに帰属されるδ=1.5ppm付近のピークと重なるが、δ=2.7ppmのピークから求められるエチルベンゼンのエチル基が定量されるので、それを差し引いてNH量を定量できる。同様にエチルベンゼンのフェニル基の水素に帰属されるピークはδ=7.2ppm付近に現れ、このピークはキシロールの芳香環水素に帰属されるδ=7.2ppm付近のピークと重なるが、δ=2.7ppmのピークから求められるエチルベンゼンのフェニル基が定量されるので、それを差し引いてキシロール芳香環水素を定量できる。
【0027】
図1に示されるNMRスペクトルから、各水素に対応するスペクトルの積分値(a)、エチルベンゼンの水素の影響を考慮して修正したスペクトル積分値(b)、およびそれらから求められるキシロール芳香族環水素の量を基準とした水素量の比(c)を求めると以下の通りである。
【表1】
なお、表中、ArHおよびNHについての修正したスペクトル積分値(b)は、以下のようにして求めた。
ArH: ArHのスペクトル積分値(a)−CH2(エチルベンゼン)のスペクトル積分値(a)×(5/2) =22.55−1.22×(5/2)=19.5
NH: [NH+CH3(エチルベンゼン)]のスペクトル積分値(a)−CH2(エチルベンゼン)のスペクトル積分値(a)×(3/2) =2.64−1.22×(3/2)=0.81
【0028】
本発明によるPHPSにおいて、R(SiH1,2)は、小さいほど本発明の効果が強く発現し、シリカ質膜を形成させたときに欠陥が少なくなる傾向にある。このため、R(SiH1,2)は、0.235以下であり、0.230以下であることが好ましい。一方、繰り返し単位(Ia)〜(Id)を含まないPHPSを合成することは極めて困難である。このため、PHPSの製造の容易性、とりわけ合成されたポリマーの溶解性の観点から、R(SiH1,2)は一般的に0.187以上であり、0.195以上であることが好ましい。
【0029】
また、本発明によるPHPSにおいて、R(NH)は、小さいほど本発明の効果が強く発現し、シリカ質膜を形成させたときに欠陥が少なくなる傾向にある。このため、R(NH)は、0.055以下であり、0.050以下であることが好ましい。一方、繰り返し単位(Ia)または(Ic)を含まないPHPSを合成することは困難である。このため、PHPSの製造の容易性、とりわけ合成されたポリマーの溶解性の観点から、R(NH)は一般的に0.038以上であり、0.042以上であることが好ましい。
【0030】
また、上記したのと同様の理由により、SiHの量を基準とした、SiHおよびSiHとの合計量の比、あるいは、全水素の量を基準としたNHの量は小さいほうが好ましい。
【0031】
なお、本発明において、qNMRの測定は、キシロールに対するPHPSの濃度が17%である溶液を用いるのが原則である。しかし、PHPSの溶解性のためにキシロール17重量%溶液が調整できない場合や、既存の溶液を測定することが有利な場合には、測定される溶液の濃度のもとに17重量%濃度に換算することも可能である。
【0032】
このような特定の構造を有するPHPSは、組成物として基板上に塗布されて大気と接触した場合に酸化されにくいという特徴を有する。また本発明によるPHPSを用いてシリカ質膜を形成させた場合に、欠陥の数が抑制される。その理由は、PHPSが特定の構造を有することにより、水蒸気との反応性が抑制されるため、たとえばPHPS塗布直後の大気からの酸化を抑えられ、硬化反応が適切な速度に制御され、その結果欠陥の発生が抑制されるものと考えられる。
[ペルヒドロポリシラザンの製造方法]
【0033】
本発明によるPHPSは、一般に、低分子量の無機ポリシラザンを形成させ、さらにその低分子量の無機ポリシラザンを塩基性化合物の存在下に重縮合させることにより合成することができる。ここで、従来の方法に対して、比較的高い温度で、かつ比較的長い時間反応させることによって、本発明によるPHPSを製造することができる。
【0034】
本発明によるPHPSの製造方法をより具体的に説明すると以下の通りである。
まず、原料としてジクロロシランをジクロロメタンまたはベンゼンなどの溶媒中でアンモニアと反応させて低分子量の無機ポリシラザンを形成させる。または、ジクロロシランにピリジンなどの塩基性化合物を反応させてアダクトを形成させ、そのアダクトにアンモニアを反応させることによって低分子量無機ポリシラザンを形成させてもよい。
【0035】
次いで、中間生成物である低分子量の無機ポリシラザンを、塩基性溶媒または塩基性化合物を含む溶媒中で加熱し、重縮合反応させることによって本発明によるPHPSを形成させることができる。この場合、塩基性化合物としては、窒素やリンの如き塩基性元素を含有する化合物、例えば、第3級アミン類や、立体障害性の基を有する2級アミン類、フォスフィン等を用いることができる。
【0036】
本発明で用いる反応溶媒は、非塩基性溶媒にこのような塩基性化合物を添加した溶媒あるいは塩基性化合物自体からなる溶媒である。非塩基性溶媒に塩基性化合物を添加する場合、塩基性化合物の添加量は、従来は非塩基性溶媒100重量部に対し少なくとも5重量部とされていた(特許文献1)。しかし、本発明において特定されたPHPSを得るには無機シラザン骨格中の−SiH1,2−と−NH−の架橋反応を促進させ、−SiHと−NH−の縮合反応や分解反応を抑止するために、非塩基性溶媒100重量部に対して、塩基性化合物の割合が少なくとも100部以上であることが好ましく、185部以上であることがより好ましい。塩基性化合物の添加量がこれより少なくなると、−SiH1,2−と−NH−の重縮合反応が円滑に促進されない場合がある。
【0037】
前記塩基性化合物又は塩基性溶媒としては、無機ポリシラザンを分解しないものであれば任意のものが使用できる。このようなものとしては、例えば、トリメチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン及びトリエチルアミン等のトリアルキルアミン、ピリジン、ピコリン、ジメチルアニリン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン及びこれらの誘導体等の第3級アミン類の他、ピロール、3−ピロリン、ピラゾール、2−ピラゾリン、及びそれらの混合物等を挙げることができる。また、非塩基性溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素の炭化水素溶媒、ハロゲン化メタン、ハロゲン化エタン、ハロゲン化ベンゼン等のハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。好ましい溶媒は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ブチルエーテル、1,2−ジオキシエタン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、イソヘキサン、メチルペンタン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素等である。
【0038】
本発明の重縮合反応は、前記した如き溶媒中で実施されるが、この場合、無機ポリシラザンの溶媒中濃度は一般に0.1重量%〜50重量%、好ましくは1重量%〜12重量%である。無機ポリシラザンの濃度がこれより低いと分子間重縮合反応が十分進行せず、またそれより高いと分子間重縮合反応が進みすぎてゲルを生成するようになる。反応温度は、一般に40℃〜200℃、好ましくは80℃〜140℃であり、それより低い温度では重縮合反応が十分進行せず、それより高い温度では本発明が目的としている架橋反応だけではなく、無機ポリシラザンの分解反応が同時に起こり、構造制御が困難になるとともに、重縮合反応が進みすぎてゲルを生成することがある。反応雰囲気としては、大気の使用が可能であるが、好ましくは、水素雰囲気や、乾燥窒素、乾燥アルゴン等の不活性ガス雰囲気あるいはそれらの混合雰囲気が使用される。本発明における重縮合反応においては、副生物の水素によって反応の際圧力がかかるが、必ずしも加圧は必要でなく、常圧を採用することができる。なお、反応時間は、無機ポリシラザンの種類、濃度および塩基性化合物又は塩基性溶媒の種類、濃度、重縮合反応温度など諸条件により異なるが、一般的に0.5時間〜40時間の範囲とすれば充分である。
【0039】
本発明によるPHPSを形成させる重縮合反応の最適条件は無機ポリシラザンの平均分子量、分子量分布等にも依存するが、無機ポリシラザンの平均分子量が低い程、より高い反応温度、またはより長い反応時間が必要とされる。すなわち、反応温度を高くする、または反応時間を長くすると、形成されるPHPSの分子量が大きくなるのが一般的である。一方で、前記したようにPHPSの分子量が大きくなりすぎると、組成物の塗布性や合成溶剤に対する溶解性が低下する傾向にある。また、そのような反応条件は製造上のコストが増大する原因となる。事実、現在、一般的に使用されているPHPSの分子量は3,000〜3,500が上限である。このため、反応温度を高くし、かつ反応時間を長くし、分子量の大きなPHPSを得ることは、そのPHPSを含む組成物の塗布性や合成溶剤に対する溶解性が劣ることが懸念されるため、従来は避けられていたのである。
【0040】
このような反応条件で無機ポリシラザンが重合して高分子量化し、それと同時に、ポリシラザンの分子鎖同士が相互に架橋するが、その際に分子鎖の末端に存在する−SiH3基は架橋反応にはあまり寄与せず、分子鎖中間にある−SiH1,2−と−NH−とが反応するために、SiH1,2やNHが相対的に少ない、本発明によるPHPSが形成される。
【0041】
本発明の重縮合反応においては、高分子量化されたPHPSを含む溶媒溶液が得られるが、この場合、その溶液組成を調整して、塩基性化合物又は塩基性溶媒含量を、全溶媒中30重量%以下、好ましくは5重量%以下にするのがよい。塩基性化合物又は塩基性溶媒は、PHPSの分子間重縮合反応触媒として作用するため、その全溶媒に対する割合が余りにも多くなると、室温で長時間保存している間にゲルを生成する可能性があるためである。この溶液組成の調整は、例えば、前記重縮合反応で得られたPHPS溶液を加熱することにより、それに含まれる塩基性化合物もしくは溶媒を留去した後、非塩基性(非反応性)溶媒を添加することによって行うことができる。溶液中の塩基性化合物の含量が高い場合や、反応溶媒として塩基性化合物自体を用いる場合は、この溶液組成調整操作を行うことによって、溶液の安定性を改良することができる。本発明において溶液の安定性改良のために用いることができる非塩基性溶媒としては、前記で示した如き脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等を用いることができる。
【0042】
[硬化用組成物]
本発明による硬化用組成物は、前記のPHPSと溶媒とを含むものである。この組成物液を調製するために用いられる溶媒としては、(a)芳香族化合物、たとえばベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、たとえばシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、p−メンタン等、(c)不飽和炭化水素、たとえばシクロヘキセン等、(d)エーテル、たとえばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール等、(e)エステル、たとえば酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸n−アミル、酢酸i−アミル等、(f)ケトン、たとえばメチルイソブチルケトン(MIBK)等、が挙げられるが、これらに限定はされない。また、複数種の溶媒を使用することにより、PHPSの溶解度や溶媒の蒸発速度を調節することもできる。
【0043】
組成物への溶媒の配合量は、採用する塗布方法により作業性がよくなるように、また微細な溝内への溶液の浸透性や溝外部において必要とされる膜厚を考慮して、用いるPHPSの重量平均分子量、その分布及び構造に応じて適宜選定することができる。本発明による硬化用組成物は、組成物の全重量を基準として、一般に0.1〜70質量%、好ましくは1〜30質量%のPHPSを含む。
【0044】
[シリカ質膜の形成方法]
本発明によるシリカ質膜の形成方法は、前記の硬化用組成物を、基材に塗布し、加熱することを含んでなる。基材の形状は特に限定されず、目的に応じて任意に選択することができる。しかしながら、本発明による硬化用組成物は、狭い溝部などにも容易に浸透し、溝の内部においても均一なシリカ質膜を形成できるという特徴があるため、アスペクト比の高い溝部や孔を有する基板に適用することが好ましい。具体的には最深部の幅が0.2μm以下でそのアスペクト比が2以上である溝を少なくとも一つ有する基材などに適用することが好ましい。ここで溝の形状に特に限定はなく、断面が長方形、順テーパー形状、逆テーパー形状、曲面形状、等いずれの形状であってもよい。また、溝の両端部分は開放されていても閉じていてもよい。
【0045】
従来法では、最深部の幅が0.2μm以下でそのアスペクト比が2以上である溝をシリカ質材料で埋封しようとしても、シリカ質への転化時の体積収縮が大きいために溝内部が溝外部よりも低密度化し、溝の内外で材質が均質となるように溝を埋封することが困難であった。これに対して、本発明によると、溝の内外で均一なシリカ質膜を得ることができる。このような本発明の効果は、最深部の幅が0.1μm以下のような非常に微細な溝を有する基材を用いた場合により一層顕著なものとなる。
【0046】
アスペクト比の高い溝を少なくとも一つ有する基材の代表例として、トランジスター素子、ビットライン、キャパシター、等を具備した電子デバイス用基板が挙げられる。このような電子デバイスの製作には、PMDと呼ばれるトランジスター素子とビットラインとの間、トランジスター素子とキャパシターとの間、ビットラインとキャパシターとの間、またはキャパシターと金属配線との間の絶縁膜や、IMDと呼ばれる複数の金属配線間の絶縁膜の形成、或いはアイソレーション溝の埋封、といった工程に続き、微細溝の埋封材料を上下に貫通する孔を形成するスルーホールめっき工程が含まれる場合がある。
【0047】
本発明は、アスペクト比の高い基材に対し、その溝の内外で均質なシリカ質材料による埋封が必要とされる他のいずれの用途にも適している。このような用途として、例えば、液晶ガラスのアンダーコート(Na等パッシベーション膜)、液晶カラーフィルターのオーバーコート(絶縁平坦化膜)、フィルム液晶のガスバリヤ、基材(金属、ガラス)のハードコーティング、耐熱・耐酸化コーティング、防汚コーティング、撥水コーティング、親水コーティング、ガラス、プラスチックの紫外線カットコーティング、着色コーティング、が挙げられる。
【0048】
このような基材への硬化用組成物の塗布方法に特に制限はなく、通常の塗布方法、例えば、スピンコート法、浸漬法、スプレー法、転写法、スリットコート法等が挙げられる。
【0049】
硬化用組成物の塗布後、塗膜の乾燥又は予備硬化の目的で、大気中、不活性ガス中又は酸素ガス中で50〜400℃の温度で10秒〜30分の処理条件による乾燥工程を行う。乾燥により溶媒は除去され、微細溝は実質的にPHPSによって埋封されることになる。
【0050】
本発明によると、溝内外に含まれるPHPSを加熱することでシリカ質材料に転化させる。加熱する際に水蒸気を含む雰囲気において加熱することが好ましい。
【0051】
水蒸気を含む雰囲気とは、水蒸気分圧が0.5〜101kPaの範囲内にある雰囲気をいい、好ましくは1〜90kPa、より好ましくは1.5〜80kPaの範囲の水蒸気分圧を有する。加熱は300〜1200℃の温度範囲で行うことができる。
【0052】
なお、水蒸気を含む雰囲気において高温で、例えば600℃を超える温度で、加熱すると、同時に加熱処理に晒される電子デバイス等の他の要素が存在する場合に当該他の要素への悪影響が懸念されることがある。このような場合には、シリカ転化工程を二段階以上に分け、最初に水蒸気を含む雰囲気において比較的低温で、例えば300〜600℃の温度範囲で加熱し、次いで水蒸気を含まない雰囲気においてより高温で、例えば500〜1200℃の温度範囲で加熱することができる。
【0053】
水蒸気を含む雰囲気における水蒸気以外の成分(以下、希釈ガスという。)としては任意のガスを使用することができ、具体例として空気、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴン、等が挙げられる。希釈ガスは、得られるシリカ質材料の膜質の点では酸素を使用することが好ましい。しかしながら、希釈ガスは、当該加熱処理に晒される電子デバイス等の他の要素への影響をも考慮して適宜選択される。なお、上述の二段階加熱方式における水蒸気を含まない雰囲気としては、上記希釈ガスのいずれかを含む雰囲気の他、1.0kPa未満の減圧または真空雰囲気を採用することもできる。
【0054】
これらの事情を勘案して設定される好適な加熱条件の例を挙げる。
(1)本発明による硬化用組成物を所定の基材に塗布、乾燥後、温度が300〜600℃の範囲、水蒸気分圧が0.5〜101kPaの範囲の雰囲気中で加熱し、引き続き温度が400〜1200℃の範囲で、酸素分圧が0.5〜101kPaの範囲の雰囲気中で加熱すること;
(2)本発明による硬化用組成物を所定の基材に塗布、乾燥後、温度が300〜600℃の範囲、水蒸気分圧が0.5〜101kPaの範囲の雰囲気中で加熱し、引き続き温度が400〜1200℃の範囲で、窒素、ヘリウム及びアルゴンの中から選ばれる一種又は二種以上の不活性ガス雰囲気中で加熱すること、並びに
(3)本発明による硬化用組成物を所定の基材に塗布、乾燥後、温度が300〜600℃の範囲、水蒸気分圧が0.5〜101kPaの範囲の雰囲気中で加熱し、引き続き温度が400〜1200℃の範囲で、1.0kPa未満の減圧または真空雰囲気中で加熱すること。
【0055】
加熱の際の目標温度までの昇温速度及び降温速度に特に制限はないが、一般に1℃〜100℃/分の範囲とすることができる。また、目標温度到達後の加熱保持時間にも特に制限はなく、一般に1分〜10時間の範囲とすることができる。
【0056】
上記の加熱工程により、PHPSが水蒸気による加水分解反応を経てSi−O結合を主体とするシリカ質材料へ転化する。この転化反応は、また有機基の分解もないため、反応前後での体積変化が非常に小さい。このため、本発明による硬化用組成物を用いてアスペクト比の高い溝を有する基材の表面にシリカ質膜を形成させた場合には、溝の内外のいずれにおいても均質になる。また、本発明の方法によると、CVD法のようなコンフォーマル性がないため、微細溝内部に均一に埋封できる。さらに、従来法ではシリカ膜の高密度化が不十分であったが、本発明の方法によると、シリカ質転化後の膜の高密度化が促進され、クラックが生じにくい。
【0057】
上述したように、本発明によるシリカ質膜はPHPSの加水分解反応により得られるため、Si−O結合を主体とするが、転化の程度によって多少のSi−N結合をも含有している。すなわち、シリカ質材料にSi−N結合が含まれているということは、その材料がポリシラザンに由来することを示すものである。具体的には、本発明によるシリカ質膜は、窒素を原子百分率で0.005〜5%の範囲で含有する。実際、この窒素含有量を0.005%よりも少なくすることは困難である。窒素の原子百分率は原子吸光分析法で測定することができる。
【0058】
従来のゾルゲル法やシロキサン系ポリマー溶液塗布法、或いは有機基を含むポリシラザンを用いた方法では、シリカ質材料への転化時に大きな体積収縮が発生するため、これらの方法によりアスペクト比が高い溝などをシリカ質材料で埋封した場合には溝内部のシリカ質材料が密度に関して不均質となりやすく、また膜密度が低下してしまう。本発明によるシリカ質膜は、シリカ質材料への転化時に体積収縮がほとんどなく、シリカ質材料は溝の内外でより均質となり、さらに酸化反応性を安定化させることにより、シリカ転化により形成される被膜の膜密度を向上させることができる。
また、溝幅の異なる複数の溝の間では、シリカ質材料への転化時に体積収縮が発生する場合には、溝が微細になればなるほど溝壁面による拘束の影響が大きくなり、シリカ質材料の密度が低くなる傾向にある。本発明によるシリカ質膜は、シリカ質材料への転化時に体積収縮がほとんどないため、溝幅が異なっていても密度が均一となる。
【0059】
なお、本発明によるシリカ質膜の形成方法において、基板表面に形成されるシリカ質膜の厚さ、溝外部の表面に形成された塗膜の厚さに特に制限はなく、一般にはシリカ質材料への転化時に膜にクラックが生じない範囲の任意の厚さとすることができる。上述したように、本発明の方法によると膜厚が0.5μm以上となる場合でも被膜にクラックが生じにくいので、たとえば幅1000nmのコンタクトホールで、2.0μm深さの溝を実質的に欠陥なく埋封することができる。
【実施例】
【0060】
本発明を実施例によってさらに詳述すると以下の通りである。
[合成例1:中間体(A)の合成]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン7,500mlを反応容器に投入し、−3℃まで冷却した。次いでジクロロシラン500gを加えると各色固体状のアダクト(SiHCl・2CN))が生成した。反応混合物が−3℃以下になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア350gを吹き込んだ。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去した。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液6,000mlを得た。エバポレーターを用いてピリジンを留去したところ、濃度38.9%の無機ポリシラザンのキシロール溶液を得た。得られた無機ポリシラザンの重量平均分子量をGPC(展開液:CHCl)により測定を行い、ポリスチレン換算で1401であった。この処方にて得られた無機ポリシラザンを以下、中間体(A)と呼ぶ。
【0061】
[実施例1]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン4680g、乾燥キシロール151gと比較例1で得られた38.9%の中間体(A)1673gを投入し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌した。引き続いて110℃で9.6時間改質反応を行い、実施例1のPHPSが得られた。
【0062】
得られたPHPSの
(1)重量平均分子量Mw、
(2)重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn、
(3)キシロールの芳香族環水素を基準とした、SiHおよびSiHとの合計量の相対値(R(SiH1,2))、
(4)キシロールの芳香族環水素を基準とした、NHの量の相対値(R(NH))、
(5)キシロールの芳香族環水素を基準とした、SiHの量の相対値(R(SiH))、
(6)キシロールの芳香族環水素を基準とした、PHPSに含まれる全水素の合計量の相対値R(SiHtotal)、
(7)前記(4)と前記(6)から算出される、全水素の量に対するNHの量の比、および
(8)前記(3)と前記(5)から算出される、SiHの量に対する、SiHおよびSiHとの合計量の比
は表2に示す通りであった。
【0063】
[実施例2]
実施例1に対して、改質反応時間を10.4時間に変更して合成を行い、構造の異なるPHPSを合成した。得られたPHPSの各特性値は表2に示す通りであった。
【0064】
[実施例3]
実施例1に対して、改質反応時間を9.0時間に変更して合成を行い、構造の異なるPHPSを合成した。得られたPHPSの各特性値は表2に示す通りであった。
【0065】
[実施例4]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥ピリジン5697g、乾燥キシロール428gと比較例1と同様の方法で得られた41.3%、Mw1388の中間体(A)1790gを投入し、窒素ガス0.5NL/minでバブリングを行いながら、均一になるように撹拌した。引き続いて130℃で8.2時間改質反応を行い、実施例4のPHPSが得られた。
【0066】
[比較例1]
合成例1で得られた無機ポリシラザンのキシロール溶液を比較例1とした。
【0067】
[比較例2]
実施例1に対して、100℃で改質反応時間を11.4時間に変更して合成を行い、構造の異なるPHPSを合成した。得られたPHPSの各特性値は表2に示す通りであった。
【0068】
[比較例3]
冷却コンデンサー、メカニカルスターラーと温度制御装置を備えた10L反応容器内部を乾燥窒素で置換した後、乾燥キシロール7,000mlと乾燥ピリジン500mlを反応容器に投入し、−3℃まで冷却した。次いでジクロロシラン500gを加えると各色固体状のアダクト(SiHCl・2CN))が生成した。反応混合物を30℃になったことを確認し、撹拌しながらこれにゆっくりとアンモニア350gを吹き込んだ。引き続いて30分間撹拌し続けた後、乾燥窒素を液層に30分間吹き込み、過剰のアンモニアを除去した。得られたスラリー状の生成物を乾燥窒素雰囲気下でテフロン(登録商標)製0.2μmフィルターを用いて加圧濾過を行い、濾液6,000mlを得た。エバポレーターを用いてピリジンを留去したところ、濃度39.8%の無機ポリシラザンのキシロール溶液を得た。得られた無機ポリシラザンの重量平均分子量をGPC(展開液:CHCl)により測定を行い、ポリスチレン換算で12368であった。得られたPHPSの各特性値は表2に示す通りであった。
【0069】
[比較例4]
実施例1に対して、130℃で改質反応時間を7.0時間に変更して合成を行い、構造の異なるPHPSを合成した。得られたPHPSの各特性値は表2に示す通りであった。
【0070】
[比較例5]
実施例1に対して、140℃で改質反応時間を6.0時間に変更して合成を行い、構造の異なるPHPSを合成した。得られたPHPSの各特性値は表2に示す通りであった。
【0071】
[比較例6]
実施例1に対して、150℃で改質反応時間を5.1時間に変更して合成を行い、構造の異なるPHPSを合成した。得られたPHPSの各特性値は表2に示す通りであった。
【0072】
【表2】
【0073】
[PHPSの酸化安定性評価]
各PHPSを塗布膜300nmになるように濃度調整を行い、塗布液を調製した。得られた塗布液をスピンコーター(ミカサ株式会社製スピンコーター1HDX2(商品名))を用いて、4インチウェハに回転数1000rpmでスピン塗布した。得られた塗布膜を湿度50.5%で22.5℃に15分間暴露させた。成膜直後と、暴露後とに、Pelletron 3SDH(商品名、National Electrostatics Corporation製)を用いて、ラザフォード後方散乱分光法にて元素分析を行った。得られた結果は表3に示す通りであった。
【0074】
【表3】
【0075】
この結果より、本発明によるPHPSを含む組成物をシリコンウェハ上に塗布し、塗布膜を大気暴露させてとしても酸化が起こりにくいことがわかる。このことから本発明による特定の構造を持つPHPSは大気酸化に対する安定性が著しく向上していることがわかる。
【0076】
[PHPSの評価]
得られたシリカ質膜について、表面の欠陥、トレンチ内におけるボイド、収縮率、ウェットエッチングレートを評価した。評価方法はそれぞれ以下の通りである。
【0077】
(a)欠陥数
各PHPSを塗布膜で580nm程度になるように濃度調整を行い、塗布液を調製した。得られた塗布液を、スピンコーター(東京エレクトロン株式会社製ACT12 SOD(商品名))を用いて、12インチウェハに回転数1000rpmでスピン塗布し、150℃のホットプレート上で3分間プリベークを行った。プリベーク後の膜厚を、M−44型分光エリプソメーター(商品名、JA ウーラム社製)にて測定し、各サンプルが一定膜厚(580nm程度)であることを確認した。その後、ウェハ上膜の欠陥検査をLS9100(商品名、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)、ならびにUVision4(商品名、アプライドマテリアルズ社製)にて行った。
【0078】
(b)ボイド数
スピンコーター(東京エレクトロン株式会社製Mark8(商品名))を用いて、PHPSを含む塗布液を1000rpmにて塗布した。このシリコンウェハは、縦断面が長方形であり、深さ500nm、幅50nmのトレンチを有するものであった。塗布済みのウェハを150℃にて3分間プリベークに付した。その後、焼成炉(光洋サーモシステム製VF1000LP)にて400℃の水蒸気雰囲気にて30分、引き続いて400℃の窒素雰囲気下で焼成を行った。焼成後のウェハーサンプルを、トレンチパターン部をトレンチ方向に対して垂直に割ってから、 5重量%のフッ化アンモニウムと0.5重量%のフッ化水素酸を含有する水溶液に30秒浸し、純水洗浄後に乾燥させてからSEM観察を行った。トレンチを200箇所観察し、そのうちのボイドが確認されるトレンチの数をボイド数とした。
【0079】
(c)収縮率
各PHPSを塗布膜で580nm程度になるように濃度調整を行い、塗布液を調製した。
得られた塗布液をスピンコーター(東京エレクトロン株式会社製Mark8(商品名))を用いて、ベアシリコンウェハーに1000rpmにて塗布した。塗布済みのウェハを、150℃にて3分間プリベークに付し、得られた被膜の膜厚を、M−44型分光エリプソメーター(商品名、JA ウーラム社製)にて測定し、初期膜厚を得た。その後、焼成炉(光洋サーモシステム株式会社製VF1000LP(商品名))にて400℃の水蒸気雰囲気にて30分、引き続いて400℃の窒素雰囲気下で焼成を行った。焼成後の各サンプルの膜厚を分光エリプソメーター(JA ウーラム社製M−2000V(商品名))にて測定し、焼成後膜厚を得た。収縮率は、以下の式にて算出した。
(初期膜厚−焼成後膜厚)/初期膜厚×100=収縮率(%)
【0080】
(e)ウェットエッチングレート
各PHPSを塗布膜で580nm程度になるように濃度調整を行い、塗布液を調製した。調製した塗布液を濾過精度0.02μmのPTFE製フィルターで濾過した。濾過後の塗布液をスピンコーター(東京エレクトロン株式会社製Mark8)を用いて、シリコンウェハー上に1000rpmにて塗布した。このウェハは、縦断面が長方形であり、深さ500nm、幅50nmのトレンチを有するものであった。塗布済みのウェハをまず150℃にて3分間プリベークに付した。その後、焼成炉(光洋サーモシステム製VF1000LP)にて400℃の水蒸気雰囲気にて30分、引き続いて400℃の窒素雰囲気下で焼成を行った。そして、化学機械研磨(CMP)にて溝の最表面まで研磨を行い、基盤上の余剰の膜を除去した。
【0081】
得られたシリカ質膜付きのシリコンウェハとリファレンスとしての熱酸化膜付きシリコンウェハを、0.5重量%のフッ化水素酸を含有する水溶液に20℃で浸漬し、その後純水でよく洗浄して乾燥させた。このシリコンウェハの断面を電子顕微鏡にて観察し、トレンチのない部分(ブランケット部)と、トレンチ内部について、エッチング時間と膜厚減少量の関係からサンプルのエッチングレートを線形近似にて算出し、また熱酸化膜に対するサンプル膜のエッチングレートの比を計算し、エッチングレートを算出した。
【0082】
評価の結果、得られた結果は表4に示す通りであった。
【表4】
【0083】
得られた結果より、本発明によるPHPSを用いて形成された塗膜は、欠陥およびボイドが少なく、またウェットエッチングレートも低いことがわかる。
図1