特許第6105079号(P6105079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6105079-手持ち式の作業装置の作動方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105079
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】手持ち式の作業装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
   B25C 7/00 20060101AFI20170316BHJP
   B25C 1/08 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   B25C7/00 A
   B25C1/08
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-546054(P2015-546054)
(86)(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公表番号】特表2015-536833(P2015-536833A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】EP2013076055
(87)【国際公開番号】WO2014090788
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2015年6月5日
(31)【優先権主張番号】102012223011.4
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ゲロルド, ウヴェ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルテ, ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】サヴァー, トルステン
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−196763(JP,A)
【文献】 特開平08−276376(JP,A)
【文献】 特開2010−012533(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/098886(WO,A2)
【文献】 特開2009−090384(JP,A)
【文献】 特開2008−018513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25C 7/00
B25C 1/00 − 1/08
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリガスイッチの操作の検知と作業装置(1)の加速度の検知が行われるデータ収集ユニット(24)を備えた手持ち式の作業装置(1)の作動方法において、トリガスイッチを操作してから所定期間が経過するまでの間、前記作業装置(1)の加速度が加速度閾値を超えたか否かを監視することにより、前記作業装置(1)の作動中における、点火不良または作動不良を検知する第1の工程と、前記第1の行程において検知された点火不良または作動不良の回数に基づき、前記手持ち式の作業装置(1)のメンテナンスが必要であるか否かを判定する第2の工程とを備えることを特徴とする手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項2】
前記第1の工程では、前記作業装置(1)の加速度が前記加速度閾値を超えた場合に、正常点火または正常作動であると推定することを特徴とする請求項1に記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項3】
前記第1の工程では、前記作業装置(1)の加速度が前記加速度閾値に達することができなかった場合に、前記点火不良または作動不良と推定することを特徴とする請求項1または2に記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項4】
前記第1の工程では、前記所定期間内における加速度の変化特性を検出することを特徴とする請求項1に記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項5】
前記第1の工程では、前記所定期間内における加速度が、前記加速度閾値の超過を含む正常な作動に対応する変化特性を示す場合に、正常点火または正常作動であると推定することを特徴とする請求項4に記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項6】
前記第1の工程では、前記所定期間内における加速度が、前記加速度閾値の超過を含む正常な作動に対応する変化特性を示さない場合に、前記点火不良または作動不良と推定することを特徴とする請求項4または5に記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項7】
前記第2の工程では、前記点火不良または作動不良の回数を保管することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項8】
前記第2の工程では、前記点火不良または作動不良の回数を前記作業装置(1)に表示することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項9】
前記第2の工程では、前記点火不良または作動不良の回数を、要求時または周期的に、表示もしくは出力し、または表示すると共に出力することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【請求項10】
前記第2の工程では、前記点火不良または作動不良の回数を、遠隔データ伝送を介して出力することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の手持ち式の作業装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリガスイッチの操作の検知と作業装置の加速度の検知が行われるデータ収集ユニットを備えた手持ち式の作業装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、取り付け用打撃パルスを発生させる作動機構が内部に設けられた手持ち式の作業装置が開示されており、この作業装置は、取り付け用打撃パルス発生の際に生じる加速力を検知するために用いられる少なくとも1つのセンサ装置と、例えばトリガスイッチに連結することにより、実際の点火の過程を検知できるようにした識別装置とを有している。また、特許文献2には、もう1つの手持ち式の作業装置が開示されており、この作業装置は、加速度センサなどのセンサ装置と、作業装置のトリガスイッチに接続されたコントローラとを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第10303006号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102008000973号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、トリガスイッチの操作の検知と作業装置の加速度の検知が行われるデータ収集ユニットを備えた手持ち式の作業装置において、操作の更なる簡素化及び改善の少なくとも一方を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、トリガスイッチの操作の検知と作業装置の加速度の検知が行われるデータ収集ユニットを備えた手持ち式の作業装置の作動方法において、トリガスイッチを操作してから所定期間が経過するまでの間、前記作業装置の加速度が加速度閾値を超えたか否かを監視することにより、前記作業装置の作動中における、点火不良または作動不良を検知する第1の工程と、前記第1の行程において検知された点火不良または作動不良の回数に基づき、前記手持ち式の作業装置のメンテナンスが必要であるか否かを判定する第2の工程とを備えることで達成される。作業装置は、燃料ガスまたは火薬を用いて作動する、固定具打ち込み用の手持ち式作業装置であるのが好ましい。即ち、手持ち式作業装置は、燃料式、または火薬式の固定具打ち込み装置または固定具押し込み装置とすることができる。燃料ガスは作動装置内の燃焼室に供給され、燃焼室内において可燃性混合気が点火されることにより、好ましくは打ち込み用ピストンを介して間接的に、ボルトまたは釘といった固定具が対象部材に打ち込まれる。作業装置の作動は、点火の不良により、好ましくない形で阻害されることがある。また、作業装置は、電気エネルギを用いる機構、即ち、作業装置内に設けられた充電式バッテリからの電気エネルギを用いる機構により作動するものもある。この場合は、バネまたはフライホイールといったエネルギ蓄積機構が、内部に蓄積したエネルギを、好ましくは打ち込み用ピストンを介して間接的に、固定具に向けて急激に放出するようになっており、このエネルギ蓄積機構は、トリガスイッチの操作により、バッテリ駆動式の電動モータを用いてエネルギが与えられる。このような機構に問題が生じた場合にも、作業装置の作動が阻害されることになる。
【0006】
本発明に係る方法により、作動中の作業装置における点火不良の比率または作動不良の比率を、容易に検出、判定、監視または記録することが可能となる。これにより、作業装置の作動状況や使用者の行為の効果的な監視が可能となる。点火不良の比率または作動不良の比率をオンラインで監視することにより、作用装置の内部に適切な処置を施して、点火不良または作動不良の抑制を作用装置の内部で行うことも可能である。
【0007】
本発明に係る方法の好ましい態様は、前記第1の行程において、前記作業装置の加速度が前記加速度閾値を超えた場合に、正常点火または正常作動であると推定することを特徴とする。加速度閾値に関する値は、例えば適合するコントロールユニットなど、作業装置の内部に設定または保管するのが好ましい。
【0008】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第1の行程において、前記作業装置の加速度が前記加速度閾値に達することができなかった場合に、前記点火不良または作動不良と推定することを特徴とする。点火不良または作動不良の原因を、加速度閾値に関連付けて、実際に検出された加速度から推定するようにしてもよい。
【0009】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第1の行程において、前記所定期間内における加速度の変化特性を検出することを特徴とする。所定期間内における加速度の変化特性から、点火不良または作動不良の原因を、より効果的に推定することができる。
【0010】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第1の行程において、前記所定期間内における加速度が、前記加速度閾値の超過を含む正常な作動に対応する変化特性を示す場合に、正常点火または正常作動であると推定することを特徴とする。この変化特性は、例えば作業装置の開発の際に実験及び調査を行うことによって決定し、作業装置の内部メモリに保管するようにしてもよい。
【0011】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第1の行程において、前記所定期間内における加速度が、前記加速度閾値の超過を含む正常な作動に対応する変化特性を示さない場合に、前記点火不良または作動不良と推定することを特徴とする。変化特性からの逸脱状態に応じ、作業装置の内部に様々な対策を効果的に施すことができる。
【0012】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第2の行程において、前記点火不良または作動不良の回数を保管することを特徴とする。このような情報は、例えば作業装置に対するメンテナンス作業を最適に行うために利用することができる。
【0013】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第2の行程において、前記点火不良または作動不良の回数を前記作業装置に表示することを特徴とする。それぞれの回数を、作業装置に明確に表示するようにしてもよい。また、様々な色のバーもしくは領域、または図もしくはグラフの形で、作業装置の外面に、それぞれの回数またはそれぞれの回数の1つを、視覚的に表示するようにしてもよい。このような情報は、例えば作業装置にメンテナンス作業を行う必要があることを、作業装置の使用者に通知するために用いることができる。
【0014】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第2の行程において、前記点火不良または作動不良の回数を、要求時または周期的に、表示もしくは出力し、または表示すると共に出力することを特徴とする。それぞれの回数は、例えば作業装置を作動させたときに表示させてもよい。作業装置の検査を行う際、または作業装置のメンテナンス作業を行う前に、それぞれの回数が出力または表示されるようにすると特に有用である。
【0015】
本発明に係る方法のもう1つの好ましい態様は、前記第2の行程において、前記点火不良または作動不良の回数を、遠隔データ伝送により出力することを特徴とする。このために、例えば作業装置には、無線送受信ユニットとアンテナとを有して、無線ネットワークによるデジタル遠隔データ伝送を行うための遠隔データ伝送装置を設けるようにしてもよい。これら無線送受信ユニット及びアンテナは、位置に依存することなく集中管理室と情報交換を行うべく、作業装置内のコントロールユニットに接続されている。例えば、このような遠隔データ伝送は、上述した特許文献2に示されている。
【0016】
本発明の、更なる効果、特徴、及び詳細構成は、図面に基づいて以下に詳述する様々な実施形態の説明から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る作業装置の概要を断面で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明に係る固定具取り付け用の作業装置1を簡略化して示す図であり、作業装置1はハウジング2を有している。作業装置1は、固定具を打ち込む際に保持することが可能なハンドル4を有した手持ち式の固定具打ち込み工具1として構成されており、トリガスイッチ3の操作により、固定具が固定具案内端部5から固定具打ち込み工具1の外に出て、対象部材に打ち込まれるようになっている。
【0019】
使用する固定具は、固定具打ち込み工具1の固定具案内端部5近傍に取り付けられた内装式のマガジン6を介して供給されるのが好ましい。固定具は、マガジン6から自動的に取り出され、固定具案内端部5に供給されるのが好ましい。
【0020】
対象部材に固定具を打ち込むために必要なエネルギは、固定具打ち込み工具1の内部に設けられた燃料容器8に蓄えられる。この燃料容器8は、好ましくは液化燃料ガスを収容するものであり、従ってガス容器またはガスカートリッジと称する場合もある。
【0021】
ガスカートリッジ8は、調整可能または制御可能な調量装置10、及びガス供給管11を介し、燃焼室12、即ち燃焼用の空間に連通可能となっている。調量装置10は、燃焼室に供給されるガスの量を、例えば体積で、または時間に関連付けて制御可能な調量弁を備えているのが好ましい。
【0022】
燃料、即ち、好ましくは燃料容器8から供給される燃料は、燃焼室12内で空気と混合されて可燃性混合気を形成し、ボルトまたは釘といった固定具を対象部材に打ち込むために、この可燃性混合気が点火される。打ち込みに必要なエネルギは、燃焼室12から、例えば作動ピストン(図示せず)を介し、固定具案内端部5にある固定具に伝達される。
【0023】
燃焼室12内に乱流を生成し、燃焼室12の掃気及び冷却の少なくとも一方を行うために用いられる装置14が、燃焼室12内に配設されている。この装置14は、電動モータ18で駆動されるファン15を備えている。電動モータ18は、電子制御装置20によって起動されるようになっている。
【0024】
電子制御装置20は、固定具打ち込み工具1の作動時に検知された作動データまたは計測値といったデータの取得、保管及び加工処理を行うことが可能なデータ収集ユニット24を備えている。また、電子制御装置20には、接続線25を介し、センサ装置26が接続されている。
【0025】
センサ装置26は、例えばトリガスイッチ3の操作を感知する検出素子を備える。トリガスイッチ3が操作されると、信号伝達線として構成されるのが好ましい接続線25を介し、この情報が電子制御装置20内のデータ収集ユニット24に伝送される。
【0026】
電子制御装置20には、同じく信号伝達線として構成されるのが好ましいもう1つの接続線28を介し、加速度センサ30が接続されている。この加速度センサ30は、固定具打ち込み工具1の作動時に、様々な加速度、具体的には固定具の打ち込み時に生じる加速度などを検出することが可能な、1以上のセンサからなる。
【0027】
具体的には、加速度センサ30は、固定具が固定具案内端部5から固定具打ち込み工具1の外に出る方向に沿った作動装置軸線の方向における加速度を検出する。加速度センサ30が、加速度の変化特性を検出するように構成される場合には特に効果的である。このような目的のためには、複数のセンサが組み合わされて用いられるのが好ましい。
【0028】
加速度センサ30が検出した加速度または加速度の変化特性に関する情報は、接続線28を介し、電子制御装置20内のデータ収集ユニット24に伝送される。本発明の本質的な特徴により、トリガスイッチ3の操作に伴ってセンサ装置26が検出した操作信号が、点火不良の比率を求めるために、例えば150msの所定期間として定められる待機時間の開始に使用される。トリガスイッチ3はトリガと称することもあるが、このトリガスイッチ3が操作されたときの操作信号は、トリガ信号と称することもある。
【0029】
待機時間の間、データ収集ユニット24は待機し、加速度センサ30が検出した加速度の信号が生じたか否かを監視する。電子制御装置20は、データ収集ユニット24を利用して、発生した加速度の信号が、調整可能な加速度閾値を超過したか否かを監視または確認する。
【0030】
発生した加速度の信号が、特定の変化特性を有するか否かを監視または確認するのが好ましく、具体的には、この特定の変化特性に2つ以上の加速度閾値を設け、異なる時点のそれぞれ、または異なる所定期間のそれぞれにおいて、加速度の信号が加速度閾値を超過したこと、または加速度閾値に到達しなかったことを判定するのが好ましい。
【0031】
このような特定の変化特性を有する加速度の信号が待機時間内に生じると、正常点火と推定することができる。この場合は、正常点火をカウントするためのカウンタを、電子制御装置20によってインクリメントするようにしてもよい。また、正常点火に関する情報は、任意の方法により、内部メモリに保管することも可能である。
【0032】
一方、このような加速度の信号が生じなかった場合、即ち、加速度の信号が特定の変化特性を有していない場合、及び加速度の信号が加速度閾値を超過しない場合の少なくとも一方では、点火不良と見なすことができる。この場合は、点火不良をカウントするためのカウンタをインクリメントするようにしてもよい。また、点火不良に関する情報も、任意の方法により、内部メモリに保管することが可能である。
【0033】
点火不良または正常点火に関する情報は、固定具打ち込み工具1の使用者や操作者に直接的に表示するようにして、例えば点火不良の回数が増大した場合に、修理またはメンテナンスの時期であることを示すようにしてもよい。また、点火不良または正常点火に関する情報は、周期的に修理センタに出力されるようにしてもよい。更に、点火不良の比率を遠隔データ伝送によって収集し、一元的に評価するようにすることも可能である。
図1