特許第6105083号(P6105083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6105083熱可塑性樹脂フィルム、ラベル付き中空成型容器、粘着フィルム及びラベル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105083
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルム、ラベル付き中空成型容器、粘着フィルム及びラベル
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20170316BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20170316BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20170316BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20170316BHJP
   G09F 3/04 20060101ALI20170316BHJP
   G09F 3/02 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C08J7/04 HCES
   B32B27/18 D
   B32B27/20 Z
   B32B27/32 Z
   G09F3/04 Z
   G09F3/02 E
【請求項の数】16
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2015-547723(P2015-547723)
(86)(22)【出願日】2014年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2014078823
(87)【国際公開番号】WO2015072331
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2016年3月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-237276(P2013-237276)
(32)【優先日】2013年11月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122313
【氏名又は名称】株式会社ユポ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】上田 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】椎名 真樹
(72)【発明者】
【氏名】座間 高広
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−079617(JP,A)
【文献】 特開2003−292654(JP,A)
【文献】 特表平07−507248(JP,A)
【文献】 特開2008−024727(JP,A)
【文献】 特開2006−143893(JP,A)
【文献】 特開2008−074901(JP,A)
【文献】 特開2007−083714(JP,A)
【文献】 特開2003−292655(JP,A)
【文献】 特開2004−211014(JP,A)
【文献】 特開平10−044287(JP,A)
【文献】 特開2007−022033(JP,A)
【文献】 特開2006−011411(JP,A)
【文献】 特開昭61−179285(JP,A)
【文献】 特開平08−058044(JP,A)
【文献】 特開平10−086307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04−06
B32B
G09F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂フィルムは、ポリエチレン系樹脂20〜40質量%と、無機微細粉末60〜80質量%とを含んでなり、
前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムの前記表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが300秒以下であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記表面コート層の水接触角Hは、70°以上120°未満であり、
前記熱可塑性樹脂フィルムの前記表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが300秒以下であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂フィルムは、
少なくともフロント面、熱可塑性樹脂を含む基材層(A)、ヒートシール層(B)及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層を有し、
前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムの前記表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが300秒以下であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂フィルムは、
少なくともフロント面、基材層(A)、強度付与層(C)及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層を有し、
前記基材層(A)が含有する無機微細粉末の含有率は、前記強度付与層(C)が有する無機微細粉末の含有率より高く、
前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムの前記表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが300秒以下であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂フィルムは、
少なくともフロント面、高平滑層(D)、基材層(A)、及びバック面をこの順で備え、
前記フロント面に、前記表面コート層を有し、
前記表面コート層は、前記表面コート層に対して40質量%以上の前記金属酸化物を有する微粒子を含み、
前記金属酸化物は、アルミニウムを含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムの前記表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが300秒以下であることを特徴とする、
熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂フィルムが、熱可塑性樹脂20〜99質量%と、無機微細粉末1〜80質量%とを含んでなることを特徴とする、
請求項から請求項5までの何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
前記表面コート層の水への再溶解率Cが、5%以下であることを特徴とする、
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
前記表面コート層が、さらに水溶性ポリマーに由来する成分を含む、
請求項1から請求項7までの何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂フィルムが、ポリプロピレンフィルムを含む、
請求項から請求項8までの何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項10】
前記ポリプロピレンフィルムが、少なくとも1軸方向に延伸されている、
請求項9に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項11】
前記ポリプロピレンフィルムが、2軸方向に延伸された層を少なくとも1層有する、
請求項9又は10に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項12】
前記ポリプロピレンフィルムが、カレンダー成形で得られた層を少なくとも1層有する、
請求項9から請求項11までの何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項13】
前記表面コート層の塗工量Dが、0.07〜20g/mであることを特徴とする、
請求項1から請求項12までの何れか一項に記載の熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項14】
請求項3に記載の熱可塑性樹脂フィルムをインモールド成形により貼着してなる、
ラベル付き中空成型容器。
【請求項15】
請求項4に記載の熱可塑性樹脂フィルムのバック面に粘着剤層(E)を有する、
粘着フィルム。
【請求項16】
請求項3から請求項5までの何れか1項に記載の熱可塑性樹脂フィルムを使用した、
ラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂フィルム、ラベル付き中空成型容器、粘着フィルム、ラベル及び印刷用フィルムに関する。詳細には、静電気トラブルが少なく、印刷性に優れた熱可塑性樹脂フィルム、該熱可塑性樹脂フィルムをインモールド成形により貼着してなるラベル付き中空成型容器、該熱可塑性樹脂フィルムに粘着剤層を設けてなる粘着フィルム、該熱可塑性樹脂フィルムからなるラベル及び印刷用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
インモールドラベルプロセス及びインモールドラベルまたは粘着ラベルを用いて、該ラベルに印刷を施し、プラスチック容器にラベルを設けることが知られている。例えば、熱により活性化するエチレン共重合体接着層(ヒートシール層)を含む共押出プラスチックフィルムからなるインモールドラベル(特許文献1)、ヒートシール性樹脂層にエンボス加工を施したインモールドラベル(特許文献2)、ヒートシール性樹脂層にエチレン40〜98質量%と炭素数が3〜30のα−オレフィン60〜2質量%とをメタロセン触媒を用いて共重合させて得たエチレン・α−オレフィン共重合体を主成分として用いるインモールドラベル(特許文献3)、ポリエチレンイミンを主成分とする表面コートされた印刷性の良好な可塑性樹脂フィルム(特許文献4)、熱定着式電子写真プリンターまたは熱定着式電子写真複写機で印刷することが可能な電子写真ラベル(特許文献5)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,837,075号明細書
【特許文献2】実開平1−105960号公報
【特許文献3】特開平9−207166号公報
【特許文献4】特開2000−290411号公報
【特許文献5】特開2003−345052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
帯電防止性に優れ、かつ、印刷性または耐水性に優れた熱可塑性樹脂フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様においては、少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、熱可塑性樹脂フィルムの表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による、帯電半減期Sが300秒以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムが提供される。
【0006】
上記の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂20〜99質量%と、無機微細粉末1〜80質量%とを含んでなる熱可塑性樹脂フィルムであってよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、金属酸化物は、アルミニウム、亜鉛、スズ、インジウムの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含んでよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、表面コート層の水への再溶解率Cは、5%以下であってよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、表面コート層は、水溶性ポリマーに由来する成分を含んでよい。
【0007】
上記の熱可塑性樹脂フィルムは、ポリプロピレンフィルムを含んでよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、ポリプロピレンフィルムは、少なくとも1軸方向に延伸されていてよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、ポリプロピレンフィルムは、2軸方向に延伸された層を少なくとも1層有してよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、ポリプロピレンフィルムは、カレンダー成形で得られた層を少なくとも1層有してよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムは、ポリエチレン系樹脂20〜40質量%と、無機微細粉末60〜80質量%とを含んでなる熱可塑性樹脂フィルムであってよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、表面コート層の水接触角Hは、70°以上120°未満であってよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、表面コート層の塗工量Dは、0.07〜20g/mであってよい。
【0008】
上記の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、熱可塑性樹脂を含む基材層(A)、ヒートシール層(B)及びバック面をこの順で備えてよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に表面コート層を有してよい。
【0009】
上記の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、基材層(A)、強度付与層(C)及びバック面をこの順で備えてよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、基材層(A)が含有する無機微細粉末の含有率は、強度付与層(C)が有する無機微細粉末の含有率より高くてよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に、表面コート層をしてよい。
【0010】
上記の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、高平滑層(D)、基材層(A)、及びバック面をこの順で備えてよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に、表面コート層を有してよい。
【0011】
上記の熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、基材層(A)、及びバック面をこの順で備えてよい。上記の熱可塑性樹脂フィルムは、フロント面及びバック面のそれぞれに、表面コート層を有してよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、上記の熱可塑性樹脂フィルムをインモールド成形により貼着してなる、ラベル付き中空成型容器が提供される。
【0013】
本発明の第3の態様においては、上記の熱可塑性樹脂フィルムのバック面に粘着剤層を有する、粘着フィルムが提供される。
【0014】
本発明の第4の態様においては、上記の熱可塑性樹脂フィルムを使用したラベルが提供される。
【0015】
本発明の第5の態様においては、上記の熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に記録層を有する印刷用フィルムが提供される。
【0016】
本発明の第6の態様においては、上記の熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に印刷情報を有する印刷物が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一側面によれば、表面の帯電防止性に優れ、かつ、表面コート層の印刷性または耐水性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが得られ、該熱可塑性樹脂フィルムをインモールド成形により貼着してなるラベル付き容器、該熱可塑性樹脂フィルムのバック面に粘着剤層を有する粘着フィルム、該熱可塑性樹脂フィルムを使用したラベル及び該熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に印刷情報を有する印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。なお、本発明において「〜」と表記するときは、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を指す。また、「(メタ)アクリル酸」と表記するときは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を指して言う。(メタ)アクリル酸誘導体についても同様である。本明細書において、「フロント面」及び「バック面」は、互いに異なる平行な一対の仮想平面を意味する。
【0019】
プラスチック容器などの容器は、昨今、多種多様な液体(例えば食用油、液体調味料、飲料、酒類、台所用洗剤、衣料用洗剤、洗髪剤、整髪剤、液体石鹸、消毒用アルコール、自動車用オイル、自動車用洗剤、農薬、殺虫剤、除草剤、液体医薬、血液など)を包含してこれを流通し、陳列し、購入し、保管し、使用するために、多種多様なサイズや形状のものが使用されている。容器は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミドなどの樹脂を用いた単層、または複数の樹脂の層を持つものとして、ブロー成形、インジェクション成形、ヒートシールなどによって製造される。
【0020】
容器には、包含する内容物を特定するために、商品名その他の情報を含むラベルが設けられる。例えば、容器が形成された後、当該容器の上に、紙やフィルム等の基材及び感圧粘着剤を含むラベルまたは熱収縮性のフィルムを含むラベルが設けられる。一方、インモールドラベルプロセスを利用して容器を作製する場合、プラスチック容器などの容器の成形と同時に、容器上にラベルが設けられる。インモールドラベルプロセスにおいては、ラベルを金型内に導入しておき、金型内に容器本体の原料が供給される。これにより、金型内で容器を成形すると同時に、当該容器上にラベルが設けられる。インモールドラベルプロセスによれば、容器成形後のラベル貼付工程が不要となり、また、ラベルの貼付工程に備えて容器成形品を保管しておく必要がない。その結果、製造工程を簡略化又は省力化することができる。また、仕掛かり品を保管しておくスペースを削減することができる。さらに、ラベル付き中空成型容器を即座に出荷することができる。
【0021】
ヒートシールプロセスを利用して容器を作製する場合、例えば、まず、感圧粘着剤等を用いて、ヒートシール性フィルムの表面にラベルが貼付される。次に、ヒートシールプロセスを利用して、ラベルを貼付されたヒートシール性フィルムが、開口部を有する容器の形状に成形される。開口部は、ヒートシール性を有してもよい。上記の容器に内容物を注入した後、開口部をヒートシールにより封じたのち、滅菌処理が施される場合がある。この場合、滅菌処理後における異なる容器のラベル同士との接着、または、一の容器のラベルと他の容器との接着を防止することができる。その結果、例えば、食品製造現場、医療現場などにおける取扱での信頼性が向上する。
【0022】
ところで、ラベルの製造工程において、熱可塑性樹脂フィルムを特定の形状に打ち抜いてラベルを作製する工程がある。しかし、特定の形状に打ち抜かれた複数のラベルが、ラベルの帯電、ラベル材料の粘着性などにより、互いに貼り付いて、容易に分離できなくなる場合がある(ブロッキング現象と称される場合がある。)。本発明者らは、上記課題に鑑み種々検討を重ねた結果、少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、熱可塑性樹脂フィルムの表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による、帯電半減期Sが300秒以下である熱可塑性樹脂フィルムにより上記課題を解決することを見出した。本実施形態によれば、表面の帯電防止性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが得られる。そのため、上記のブロッキング現象の発生を抑制することができ、ラベルの取り扱いが簡便になる。
【0023】
本実施形態の熱可塑性樹脂フィルムは表面の帯電防止性に優れるので、熱可塑性樹脂フィルムに商品名その他の情報を印刷する場合に、印刷中に複数のラベルが互いに貼り付くことを抑制できる。その結果、印刷機の紙送りを安定化させることができる。また、印刷ヘッドを有する印刷機を利用する場合、ラベルの表面が帯電していると、印刷ヘッドにゴミが付着して、印刷品質が低下することがある。しかし、本実施形態の熱可塑性樹脂フィルムは、表面の帯電防止性に優れるので、上記の印刷品質の低下を抑制することができる。また、本実施形態の熱可塑性樹脂フィルムは、金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する。そのため、特定の形状に打ち抜かれた複数のラベルがラベル材料の粘着性により互いに貼り付く現象を抑制できる。また、熱定着プロセスを有する印刷方式により、熱可塑性樹脂フィルムに情報を印刷する場合であっても、熱可塑性樹脂フィルムが熱ローラーに融着することを抑制できる。
【0024】
[コート層]
コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムは、少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する。熱可塑性樹脂フィルムの表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される、半減期測定法による帯電半減期Sは、好ましくは300秒以下であり、より好ましくは200秒以下であり、さらに好ましくは100秒以下である。
【0025】
これにより、例えば、シート印刷工程、ラベル搬送工程または金型へのラベルのインサート工程において、静電気発生によるハンドリング不良を防止することができる。また、上記の表面コート層は、優れた印刷性または耐水性を有する。例えば、上記の表面コート層は、ポリエチレンイミンを主成分とする表面コートと比較して耐水性に優れる。また、上記の表面コート層は、ポリエチレンイミンを主成分とする表面コートと比較して、保管安定性に優れる。これにより、印刷前の熱可塑性樹脂フィルムを高湿度環境下で保管した場合であっても、表面コート層の変質を抑制することができる。その結果、インキの転移不良を防止することができる。また、上記の表面コート層は、金属酸化物を有する微粒子と、有機高分子の溶媒分散体とに由来する。そのため、粘着性を有するポリエチレンイミンを主成分とする表面コートと比較して、表面汚染を起こしにくい。
【0026】
(金属酸化物を有する微粒子)
金属酸化物を有する微粒子は、表面に金属酸化物の層を有する無機物粒子のゾル及び金属酸化物ゾルの少なくとも一方を含むことが好ましい。無機物粒子のゾルは、コロイダルシリカの表面に金属酸化物層を有するコロイダルシリカゾルであってよい。コロイダルシリカゾルの製造方法としては、特に限定されるものではないが、ケイ酸アルカリ金属塩水溶液(例えば水ガラス)を原料とし、イオン交換樹脂または電気泳動法等でアルカリ金属塩を除去して無水ケイ酸ゾルとし、さらに酸またはアルカリを添加してpHを調整し安定化する方法、オルトケイ酸テトラエトキシド(TEOS)等のアルコキシドを酸またはアルカリで加水分解する方法(いわゆるゾルゲル法)、四塩化ケイ素等の有機ケイ素化合物を水素等の火炎に導入して合成する方法(いわゆる気相法)等が挙げられる。
【0027】
コロイダルシリカゾルは、カチオン性コロイダルシリカゾルであってもよく、アニオン性コロイダルシリカゾルであってもよい。コロイダルシリカゾルは、アニオン性のコロイダルシリカの表面をカチオン性化合物で被覆したカチオン性化合物被覆コロイダルシリカゾルであってもよい。カチオン性化合物被覆コロイダルシリカゾルは、アニオン性のコロイダルシリカの表面を金属酸化物で被覆した金属酸化物被覆コロイダルシリカゾルであってもよい。カチオン性化合物被覆コロイダルシリカゾルは、例えば、シリカを分散媒に分散させる分散工程以降の工程において、コロイダルシリカゾルに、カチオン性化合物またはその前駆体を添加することによって得られる。金属酸化物被覆コロイダルシリカゾルは、例えば、シリカの分散工程以降の工程において、コロイダルシリカゾルに、金属酸化物またはその前駆体を添加することによって得られる。例えば、コロイダルシリカゾルにアルミニウム水溶性塩を添加することによって、コロイダルシリカの表面を処理することで、アルミナ被覆コロイダルシリカゾルが得られる。金属酸化物を有する微粒子としてカチオン性のアルミナ被覆コロイダルシリカゾルを用いることで、アニオン性のコロイダルシリカゾルを用いた場合と比較して、帯電防止性及び印刷性の少なくとも一方が向上する。
【0028】
コロイダルシリカゾルに含まれるコロイダルシリカ粒子は、表面にシラノール基(≡Si−OH)を有してよい。また、上記の粒子は単分散微粒子であってよい。上記の粒子のCV値(Coefficient of Variation)[%]は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。上記の粒子は、長鎖状であってもよい。
【0029】
金属酸化物ゾルとしては、酸化ハフニウムゾル、酸化ジルコニウムゾル、酸化亜鉛ゾル、酸化チタンゾル、酸化イットリウムゾル、酸化アルミニウムゾル、酸化銅ゾル、酸化ゲルマニウムゾル、酸化タングステンゾル、酸化インジウムゾル、酸化スズゾル等が挙げられる。金属酸化物ゾルとして、例えば酸化アルミニウムゾルを製造する方法としては、アルミニウムイソプロポキシド等のアルコキシドを酸で加水分解して製造する方法、塩化アルミニウムを水素等の火炎中に導入して合成する方法(いわゆる気相法)等が挙げられる。
【0030】
金属酸化物ゾルに含まれる粒子は単分散微粒子であってよい。上記の粒子のCV値(Coefficient of Variation)[%]は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。上記の粒子は、長鎖状であってもよい。
【0031】
コロイダルシリカの表面に金属酸化物の層を有するコロイダルシリカゾル及び金属酸化物ゾルに用いられる金属酸化物は、アルミニウム、亜鉛、スズ、インジウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましく、アルミニウムを含むことがより好ましい。金属酸化物は、アルミナであってよい。金属酸化物がアルミナであると、コロイダルシリカの表面に金属酸化物の層を有するコロイダルシリカゾル及び金属酸化物ゾルの表面がカチオン性になり、帯電防止性及び印刷性の少なくとも一方が向上する。
【0032】
金属酸化物を有する微粒子の平均一次粒子径は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、25nm以下がさらに好ましい。金属酸化物を有する微粒子の平均粒子径が200nm以下になると、熱可塑性樹脂フィルムの表面光沢性が発現しやすくなり、熱可塑性樹脂フィルムの帯電防止性が発現しやすくなる。また、塗膜の強度がより向上する。一方、金属酸化物を有する微粒子の平均一次粒子径は、1nm以上が好ましく、4nm以上がより好ましく、7nm以上がさらに好ましい。上記の平均一次粒子径が1nm以上になると、粒子の製造がより容易になる。なお、上記の金属酸化物を有する微粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察された粒子の面積円相当径の平均値として算出する。
【0033】
熱可塑性樹脂フィルム表面のコート層は、金属酸化物を有する微粒子を、当該コート層全体に対して30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好ましい。金属酸化物を有する微粒子の含有量が30質量%以上になると、熱可塑性樹脂フィルムの帯電防止性が発現しやすくなる。また、印刷ヘッドを有する印刷機を利用した印刷方式における印刷ヘッドへのゴミの付着を抑制したり、熱定着プロセスを有する印刷方式における、熱可塑性樹脂フィルムの熱ローラーへの融着を抑制したりすることができる。
【0034】
一方、熱可塑性樹脂フィルム表面のコート層は、金属酸化物を有する微粒子を、当該コート層全体に対して85質量%以下含むことが好ましく、70質量%以下含むことがより好ましい。金属酸化物を有する微粒子の含有量が85質量%以下であると、印刷性がより向上する。同様の理由により、表面コート層を形成するための塗工液中における金属酸化物を有する微粒子の質量と、有機高分子の溶媒分散体の質量との比率は、好ましくは30:70〜85:15であり、より好ましくは40:60〜85:15であり、さらに好ましくは40:60〜70:30である。
【0035】
(有機高分子の溶媒分散体)
有機高分子の溶媒分散体は、ノニオン性であってもよく、金属酸化物を有する微粒子と同種のイオン性であってもよく、塗工剤と同種のイオン性であってもよい。これにより、表面コート層を形成するための塗工剤中における金属酸化物を有する微粒子の凝集を防止することができる。その結果、金属酸化物を有する微粒子を塗工剤中で安定的に分散させることができる。例えば、金属酸化物を有する微粒子がカチオン性である場合、有機高分子の溶媒分散体もカチオン性であることが好ましく、塗工剤に配合する材料をすべてノニオン性またはカチオン性の物質から選択することがより好ましい。
【0036】
有機高分子の溶媒分散体はビニル系樹脂エマルションまたはポリウレタン樹脂エマルションであることが好ましい。これにより、金属酸化物を有する微粒子を熱可塑性樹脂フィルムの表面に接着固化することができる。同様の理由で、有機高分子の溶媒分散体に用いる樹脂の重量平均分子量は、1000以上が好ましく3000以上がより好ましく、5000以上が更に好ましい。
【0037】
ビニル系樹脂エマルションは、カチオン性のビニル系共重合体エマルションであってよい。カチオン性のビニル系共重合体エマルションは、分子内に4級アンモニウム塩構造を有するビニル系共重合体が溶剤に分散したものである。ビニル系樹脂エマルション中のビニル系共重合体の濃度は、好ましくは20〜80質量%であり、より好ましくは30〜70質量%であり、さらに好ましくは40〜60質量%である。
【0038】
ビニル系共重合体を構成するビニル系モノマーは、オレフィン類;ビニルエステル類;不飽和カルボン酸類及びそれらのアルカリ金属塩若しくは酸無水物;炭素数12までの分岐または環状構造を有してよいアルキル基のエステル;(メタ)アクリルアミド、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1または2のアルキレン基を同時に有する誘導体;及び、ジメチルジアリルアンモニウム塩からなる群から選択される1種以上であってよい。なお、上記の塩は酸残基であり、係る酸イオンとしてはメチル硫酸イオン、塩化物イオンが好ましい。
【0039】
オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、ブタジエン等を例示することができる。ビニルエステル類としては、酢酸ビニル等を例示することができる。不飽和カルボン酸類としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等を例示することができる。(メタ)アクリルアミド、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1または2のアルキレン基を同時に有する誘導体としては、N−アルキルアミノアルキレン(メタ)アクリレート、N−アルキルアミノアルキレン(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキルアミノアルキレン(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキルアミノアルキレン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシアルキレントリアルキルアンモニウム塩、(メタ)アクリロイルアミノアルキレントリアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。
【0040】
分子内に4級アンモニウム塩構造を有する共重合体を得るには、上記の中から4級アンモニウム塩構造を有するモノマーを必須成分として直接共重合してもよく、上記の中から3級アミン構造を有するモノマーを必須成分として共重合体を得たのち、該3級アミンをジメチル硫酸、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド等の4級化剤で4級化してもよく、窒素を含有しないモノマーのみを用いて共重合体を得たのち、4級アンモニウム塩構造を有するモノマーをグラフトしてもよい。
【0041】
ポリウレタン樹脂エマルションは、カチオン性のポリウレタン樹脂エマルションであってよい。カチオン性のポリウレタン樹脂エマルションは、ポリウレタン樹脂骨格にカチオン性基を導入した共重合体を溶剤に分散したものである。ポリウレタン系樹脂エマルション中の上記共重合体の濃度は、好ましくは5〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは20〜30質量%である。上記の共重合体は、1分子中にエポキシ基を2個有する化合物と2級アミンとを反応させて得られる3級アミノ基含有ポリオールを、ポリイソシアネートと反応して得られるウレタン樹脂を前記4級化剤で4級化して生成してよい。ポリオールの一部にN,N−ジアルキルアルカノールアミン類;N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N−ブチル−N,N−ジエタノールアミン等のN−アルキル−N,N−ジアルカノールアミン類;及び、トリアルカノールアミン類からなる群から選択される1種以上を添加して、ポリイソシアネートと反応して得られるウレタン樹脂を前記4級化剤で4級化して生成してもよい。
【0042】
有機高分子の溶媒分散体に用いる溶媒は、水可溶性の溶媒を含むことが好ましく、水を含むことがより好ましく、水を90%以上含むことがより好ましい。これにより、有機高分子の溶媒への溶解を抑制することができ、分散体の安定性が向上する。また、金属酸化物を有する微粒子の表面に、電荷二重層が安定的に形成される。その結果、金属酸化物を有する微粒子の分散体の安定性が向上する。
【0043】
分子内に4級アンモニウム塩構造を有するビニル系共重合体、又は、ポリウレタン樹脂骨格にカチオン性の親水性基を導入した共重合体を水に分散させてエマルジョンにする方法としては、目的の重合体を構成するモノマーを水に乳化分散させて重合させる方法、塊状重合等により目的の重合体を得たのち、二軸押出機を使用して原料樹脂の溶融混練と乳化を逐次行う方法等が挙げられる。分子内に4級アンモニウム塩構造を有するビニル系共重合体、又は、ポリウレタン樹脂骨格にカチオン性の親水性基を導入した共重合体に導入されるカチオンの量は、有機高分子の溶媒分散体のポリビニル硫酸カリウム溶液によるコロイド滴定法で得られるコロイド当量で評価する。表面コート層塗工剤において金属酸化物を有する微粒子が分散して安定に存在するためには、有機高分子の溶媒分散体のコロイド当量は0.2meq/g以上が好ましく、0.6meq/g以上がより好ましく、1.0meq/g以上がさらに好ましい。一方、分子内に4級アンモニウム塩構造を有するビニル系共重合体、又は、ポリウレタン樹脂骨格にカチオン性の親水性基を導入した共重合体のカチオン当量が高すぎると表面コート層の水への再溶解率が上昇する傾向がある。そこで、有機高分子の溶媒分散体のカチオン当量は5meq/g以下が好ましく、4meq/g以下がより好ましく、3meq/gがさらに好ましい。
【0044】
熱可塑性樹脂フィルム表面のコート層は、有機高分子の溶媒分散体を、当該コート層全体に対して15質量%以上含むことが好ましく、30質量%以上含むことがより好ましい。有機高分子の溶媒分散体の含有量が15質量%以上になると、熱可塑性樹脂フィルムの印刷性がより向上する。一方、熱可塑性樹脂フィルム表面のコート層は、有機高分子の溶媒分散体を、当該コート層全体に対して65質量%以下含むことが好ましく、60質量%以下含むことがより好ましい。これにより、熱可塑性樹脂フィルムの帯電防止性が発現しやすくなる。
【0045】
(水溶性ポリマー)
本発明の熱可塑性樹脂フィルムにおいて、少なくとも一方の面に設けられる表面コート層には、水溶性ポリマーに由来する成分が含まれることが好ましい。水溶性ポリマーは、表面コート層材料を含む塗工剤中では水に溶解し、該塗工剤が熱可塑性フィルム表面の表面に塗工され、乾燥された後には水に再溶解しない性質を有することが好ましい。
【0046】
水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン等のビニル系共重合体;部分ケン化のポリビニルアルコール(以下、「PVA」と称することがある)、完全ケン化のPVA、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩等のビニル系共重合体加水分解物;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル酸誘導体;変性ポリアミド;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール等の開環重合系高分子またはそれらの変性物;ゼラチン、澱粉等の天然系高分子等またはそれらの変性物が挙げられる。これらの中でも、部分ケン化のPVA、完全ケン化のPVA、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミン変性物を使用することが好ましい。
【0047】
本発明において、表面コート層には無機バインダーとエマルションとの合計100質量部に対して、水溶性ポリマーを0質量部以上、300質量部以下配合することが好ましい。無機バインダーが熱可塑性樹脂フィルム表面から脱落しにくくする観点から、水溶性ポリマーを10質量部以上配合することがより好ましく、30質量部以上配合することがさらに好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルム表面の印刷性や加工性を好適なものにする観点から、水溶性ポリマーを200質量部以下配合することがより好ましく、150質量部以下配合することがさらに好ましい。
【0048】
また、完全ケン化PVA以外の水溶性ポリマーは、塗工剤として塗布・乾燥された後に水に再溶解することから、架橋剤を添加することが好ましい。該架橋剤としては、塗工剤に使用する水溶性ポリマーと反応する物質であれば特に限定されず、カルボジイミド類;ジイソシアネート類;ジグリシジルエーテル類等が挙げられる。架橋剤は、水溶性ポリマー100質量部に対し、0.1〜200質量部配合することが好ましく、1〜200質量部配合することが好ましく、1〜50質量部配合することがより好ましい。架橋剤は、水溶性ポリマー100質量部に対し、5〜10質量部配合されてもよい。
【0049】
(塗工剤の配合方法)
熱可塑性樹脂フィルムに表面コート層を設ける場合、少なくとも金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体を含む塗工剤を塗工したのち乾燥することが好ましい。該塗工剤は、その配合及び塗工が容易であり、経時的に変質(特に粘弾性、腐敗)しにくいことが好ましい。
【0050】
塗工剤の製造工程において、例えば、金属酸化物を有する微粒子及び有機高分子の溶媒分散体の固形濃度が高い場合、塗工剤のpHが有機高分子の等電点近くにある場合、金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とのゼータ電位が逆符号の関係にある場合、または、価数の高いイオン性物質(特に、官能基を有するポリマー)を添加した場合に、金属酸化物を有する微粒子及び有機高分子の溶媒分散体の少なくとも一方が、凝集することがある。そこで、塗工剤の製造工程において、各材料を希釈水に順次投入したり、投入する順番や投入する速度を適宜調節したりして、各材料の濃度が局所的に高くならないようにすることが好ましい。また、塗工剤の製造工程において、塗工剤のpHを調節したり、分散剤を添加したりして、粒子同士の反発力を高めてもよい。これらにより、凝集を抑制することができる。
【0051】
塗工剤における表面コート層材料の固形分濃度は、表面コート層の乾燥後塗工量と塗工剤の塗工方法に応じて適宜調整できるが、0.5〜35質量%であることが好ましく、0.5〜20質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。塗工剤における表面コート層材料の固形分濃度は、3〜15質量%であってもよい。塗工剤のpHは、塗工剤に含まれる各材料が凝集しないことが必要であるが、作業者の安全性や機械の腐食を防止する観点から、pH3〜11であることが好ましく、pH4〜10がより好ましい。
【0052】
[熱可塑性樹脂フィルム]
熱可塑性樹脂フィルムは、単層構成でも2層以上の複層構成であってもよい。一実施形態において、熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、熱可塑性樹脂を含む基材層(A)及びバック面をこの順で備える。この場合、熱可塑性樹脂フィルムは、フロント面及びバック面の少なくとも一方に、金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する。
【0053】
熱可塑性樹脂フィルムは、後述の基層(A)に使用しうる熱可塑性樹脂を含んでなることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムは、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、またはポリプロピレンフィルムを含むことが好ましい。これにより、成形性又は耐久性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが得られる。上記のフィルムは、少なくとも1軸方向に延伸されていてよい。上記のフィルムは、2軸方向に延伸された層を少なくとも1層有していてよい。また、上記のフィルムは、カレンダー成形で得られた層を少なくとも1層有していてよい。
【0054】
以下、熱可塑性樹脂フィルムを構成する各層の好ましい態様について説明する。しかし、熱可塑性樹脂フィルムはこれらに限定されるべきものではない。
【0055】
[基材層(A)]
基材層(A)は1層構成であってもよく、2層構成であってもよく、3層以上の多層構成であってもよい。また、基材層(A)は対称の層構成であってもよく、非対称の層構成であってもよい。
【0056】
(熱可塑性樹脂)
基材層(A)は、熱可塑性樹脂を含む。基材層(A)に用いられる熱可塑性樹脂は、フィルム成形が可能であればその種類は特に制限されない。例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン系共重合樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン・環状オレフィン共重合体等のオレフィン系樹脂;アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、スチレン−マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリ乳酸等のエステル系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6等のアミド系樹脂;及びポリカーボネート等が挙げられる。これらの樹脂の中から、1種類もしくは2種類以上を混合して使用することができる。
【0057】
これらの熱可塑性樹脂の中でも、フィルムの加工性に優れる観点から、オレフィン系樹脂または官能基含有オレフィン系樹脂が好ましく、オレフィン系樹脂を用いることがより好ましい。オレフィン系樹脂の中でも、耐薬品性、加工性、低コストの観点から、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂が好ましい。
【0058】
エチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン等のα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等が挙げられる。
プロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体であってアイソタクティック、シンジオタクティック、アタクティック等の立体規則性を示すポリプロピレン;プロピレンを主成分とし、これとエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの1種以上とを共重合させた共重合体等が挙げられる。さらに、共重合体としては、ランダム共重合体でもブロック共重合体でも良い。
【0059】
上記オレフィン系樹脂または官能基含有オレフィン系樹脂をグラフト変性することもできる。グラフト変性は、例えば、過酢酸、過硫酸、過硫酸カリウム等の過酸及びその金属塩;オゾン等の酸化剤の存在下で不飽和カルボン酸またはその誘導体を反応させる方法が挙げられる。グラフト変性率は、オレフィン系樹脂または官能基含有オレフィン系樹脂に対して、通常0.005〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%である。
【0060】
基材層(A)の成形時における延伸が1軸方向の延伸倍率として3倍を超える場合、延伸の安定性の観点から、基材層(A)は、熱可塑性樹脂を75質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましい。また、基材層(A)の成形時における延伸が1軸方向の延伸倍率として3倍以下の場合、基材層(A)は、熱可塑性樹脂を20質量%以上含むことが好ましく、30質量%以上含むことがより好ましい。一方、基材層(A)の不透明度や白色度を高くする観点から、基材層(A)は、熱可塑性樹脂を99質量%以下含むことが好ましく、95質量%以下含むことがより好ましい。
【0061】
(無機微細粉末)
基材層(A)は、熱可塑性樹脂に加え、無機微細粉末を含有することが好ましい。基材層(A)が無機微細粉末を含有することにより、白色化及び不透明化を達成し、ラベル上に設ける印刷の視認性を向上させることができる。
【0062】
無機微細粉末の粒子径は、レーザー回折法によって測定された体積平均粒子径によって表され、該体積平均粒子径は、基材層(A)の白色化及び不透明化を達成する観点から、好ましくは0.01μm以上であり、さらに好ましくは0.1μm以上である。一方、上記の体積平均粒径は、熱可塑性樹脂フィルム表面の外観を良好にする観点から、好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは5μm以下である。
【0063】
基材に用いる無機微細粉末の種類としては、炭酸カルシウム、焼成クレイ、シリカ、けいそう土、白土、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、ガラスファイバー等が挙げられる。中でも、白色化、不透明化、及び樹脂成形性の観点から、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタンが好ましく、炭酸カルシウム、酸化チタンが更に好ましい。
【0064】
これらの無機微細粉末の表面には、事前に親水性処理または疎水性処理を施しても良い。これらの表面処理により、基材層(A)に印刷適性、塗工適性、耐擦過性、二次加工適性等の様々な性質を付与することができる。
【0065】
基材層(A)の不透明度や白色度を高くする観点から、基材層(A)は、無機微細粉末を1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましい。一方、延伸が1軸方向の延伸倍率として3倍を超える場合、基材層(A)の成形時における延伸の安定性を向上させる観点から、基材層(A)は無機微細粉末を25質量%以下含むことが好ましく、20質量%以下含むことがより好ましい。また、基材層(A)の成形時における延伸が1軸方向の延伸倍率として3倍以下の場合、基材層(A)は、無機微細粉末を80質量%以下含むことが好ましく、70質量%以下含むことがより好ましい。
【0066】
(その他成分)
本発明において、基材層(A)には、必要に応じて有機フィラー、熱安定剤(酸化防止剤)、光安定剤、分散剤または滑剤、帯電防止剤等を含有することができる。
【0067】
基材層(A)が有機フィラーを含有する場合は、有機フィラーの機能を発現する観点から、有機フィラーを0.01質量%以上含有することが好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの外観を良好にする観点から、有機フィラーを20質量%以下含有することが好ましく、10質量%以下含有することがより好ましい。
【0068】
有機フィラーとしては、基材層(A)の主成分である熱可塑性樹脂と異なる種類の樹脂を選択することが好ましい。中でも、主成分である熱可塑性樹脂より、高い融点またはガラス転移点を示す樹脂を選択することがより好ましい。
【0069】
例えば、基材層(A)の主成分である熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂(融点が80〜160℃)の場合は、有機フィラーの融点は170〜300℃であることが好ましく、有機フィラーのガラス転移点は170〜280℃であることが好ましい。このような融点またはガラス転移点を示す有機フィラーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン−6、ナイロン−6,6等が挙げられる。
【0070】
一方、有機フィラーとして基材層(A)の主成分である熱可塑性樹脂と相溶しない樹脂を選択することがより好ましい。基材層(A)の主成分である熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合は、有機フィラーとしては、上記列挙した樹脂に加えてポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等が挙げられ、主成分である熱可塑性樹脂がプロピレン系樹脂の場合は、有機フィラーとしては、上記列挙した樹脂に加えて高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、環状ポリオレフィン等が挙げられる。
【0071】
基材層(A)が熱安定剤を含有する場合は、熱安定剤の機能を発現する観点から、熱安定剤を0.001質量%以上含有することが好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの外観を良好にする観点や経済性の観点から、熱安定剤を1質量%以下含有することが好ましく、0.5質量%以下含有することがより好ましい。熱安定剤としては、通常知られているヒンダードフェノール系、リン系、アミン系等の熱安定剤(酸化防止剤)の中から1種または2種以上を適宜使用することができる。
【0072】
基材層(A)が光安定剤を含有する場合は、光安定剤の機能を発現する観点から、光安定剤を0.001質量%以上含有することが好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの外観を良好にする観点や経済性の観点から、光安定剤を1質量%以下含有することが好ましく、光安定剤を0.5質量%以下含有することがより好ましい。光安定剤としては、通常知られているヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤の中から1種または2種以上を適宜使用することができる。また、光安定剤と上記の熱安定剤を併用することも好ましい。
【0073】
基材層(A)が分散剤または滑剤を含有する場合は、分散剤または滑剤の機能を発現する観点から、分散剤または滑剤を0.01質量%以上含有することが好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの成形性や印刷適性を良好にする観点から、分散剤または滑剤を4質量%以下含有することが好ましく、2質量%以下含有することがより好ましい。分散剤または滑剤としては、通常知られているシランカップリング剤;オレイン酸やステアリン酸等の炭素数8〜24の脂肪酸及びその金属塩、アミド、炭素数1〜6のアルコールとのエステル等;ポリ(メタ)アクリル酸及びその金属塩の中から1種または2種以上を適宜使用することができる。
【0074】
基材層(A)が帯電防止剤を含有する場合は、帯電防止剤の機能を発現する観点から、帯電防止剤を0.5質量%以上含有することが好ましく、1質量%以上含有することがより好ましい。一方、熱可塑性樹脂フィルムの成形性や印刷適性を良好にする観点から、帯電防止剤を10質量%以下含有することが好ましく、5質量%以下含有することがより好ましい。帯電防止剤としては、通常知られているシランカップリング剤;オレイン酸、ステアリン酸等の炭素数8〜24の脂肪酸、並びに、その金属塩、そのアミド及び炭素数1〜6のアルコールとのエステル等;ポリ(メタ)アクリル酸及びその金属塩の中から選択される1種または2種以上を適宜使用することができる。
【0075】
[ヒートシール層(B)]
一実施形態において、熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、熱可塑性樹脂を含む基材層(A)、ヒートシール層(B)及びバック面をこの順で備える。本実施形態において、熱可塑性樹脂フィルムは、フロント面の側に、前記表面コート層を有する。本実施形態によれば、インモールド成形に適した熱可塑性樹脂フィルムを提供することができる。ヒートシール層(B)は、インモールド成形により成形用ラベルを容器に貼着するときに、プラスチック容器などの容器に成形用ラベルを貼着する機能を有する。ヒートシール層(B)は、例えば、基材層(A)を構成する樹脂組成物の融点より低い融点を示す熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物からなる。
【0076】
ヒートシール層(B)の主成分である熱可塑性樹脂の融点と、基材層(A)を構成する樹脂組成物の融点との差は、10℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。これにより、成形用ラベルをプラスチック容器に貼着するときに、基材層(A)の変形を抑制することができる。一方、ヒートシール層(B)の主成分である熱可塑性樹脂の融点と、基材層(A)を構成する樹脂組成物の融点との差は、150℃以下が好ましい。これにより、成形用ラベルをプラスチック容器に貼着する前の保管時、又は成形用ラベルの加工時において、成形用ラベルのブロッキングを抑制することができる。その結果、成形用ラベルのハンドリング性が向上する。
【0077】
ヒートシール層(B)に用いる熱可塑性樹脂の具体例としては、超低密度、低密度、または中密度の高圧法ポリエチレン、直鎖線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アルキル基の炭素数が1〜8のエチレン・アクリル酸アルキルエステル重合体、アルキル基の炭素数が1〜8のエチレン・メタクリル酸アルキルエステル共重合体、プロピレン・αオレフィン共重合体に代表されるプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系エラストマー樹脂、ポリアミド系樹脂等を挙げることができる。ヒートシール層(B)に用いる熱可塑性樹脂としては、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましく、メタロセンを重合触媒とする直鎖状低密度ポリエチレンがより好ましい。これにより、ヒートシール接着強度に優れる接着層が得られる。
【0078】
ヒートシール性を阻害しない範囲で、ヒートシール層(B)に、公知の他の樹脂用添加剤を任意に添加してよい。他の樹脂用添加剤としては、例えば染料、核剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。添加剤として帯電防止剤を添加することにより、熱可塑性樹脂フィルムのバック面における表面抵抗率を低下させることができる。この場合、帯電防止剤として3級アミノ基を有する物質を添加することが好ましく、N,N−ジメチルアミノ基またはN,N−ジエチルアミノ基を有する物質を添加することがより好ましい。これにより、プラスチック容器とラベルとの接着強度を低下させずに熱可塑性樹脂フィルムのバック面に帯電防止性を付与することができる。他の樹脂用添加剤の添加量は、ヒートシール層(B)全体に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。これにより、フィルムの連続製造時にダイスに添加剤が堆積する現象を抑制することができる。
【0079】
熱可塑性樹脂フィルムにヒートシール層(B)を設ける方法は、特に限定されない。例えば、押し出し成形時にフィードブロック、マルチマニホールド等を使用した多層ダイス方式を用いる方法;複数のダイスを使用して、基材層(A)の上にヒートシール層(B)を押出ラミネーションする方式;これらの方法の組み合わせなどが挙げられる。
【0080】
塗工法により、成形後の基材層(A)上にヒートシール層(B)を設けてもよい。例えば、ヒートシール層(B)を構成する材料(ヒートシール層(B)材料と称する場合がある。)を有機溶剤に溶解して得られた塗工液を、基材層(A)の一方の面に塗工した後、乾燥させることで、基材層(A)上にヒートシール層(B)を設ける。ヒートシール層(B)を構成する材料を含む水性樹脂エマルジョンを、基材層(A)の一方の面に塗工した後、乾燥させることで、基材層(A)上にヒートシール層(B)を設けてもよい。
【0081】
上記の水性樹脂エマルジョンは、例えば、特開昭58−118843号、特開昭56−2149号、特開昭56−106940号、特開昭56−157445号公報などに記載される方法によって得られる。具体的には、まず二軸スクリュー押出機にヒートシール層(B)を構成する材料を供給し、溶融混練する。その後、押出機の圧縮部域またはベント域に設けた液導入管より分散液を含有する水を導入し、スクリューを回転することにより溶融した共重合体樹脂と水を混練する。そして、押出機のハウジング内でスクリューを逆転させて、得られた混練物を押出機の出口ノズルより大気圧域に放出する。必要に応じて水をさらに加え、貯槽内に収容する。
【0082】
水性樹脂エマルジョン中のヒートシール層(B)材料の平均粒径は、0.01〜3μmであることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましい。オレフィン系樹脂粒子の平均粒径が上記範囲内であると、分散液の状態で相が安定し、液の保管性及び塗工性が優れたものとなる。また、当該分散液を塗工して形成されるヒートシール層(B)は、得られたフィルムをインモールド成形によりボトルに貼着した後において、即ち樹脂成形品の状態において、透明性が一層優れたものとなる傾向がある。平均粒径を上記範囲にするために、ヒートシール層(B)材料を分散させるための分散剤(各種の界面活性剤を例示することができる。)が添加されてもよい。
【0083】
水性樹脂エマルジョン中のヒートシール層(B)材料の平均粒径は、次の手順で算出される。まず、サンプル溶液(例えばオレフィン系樹脂エマルジョン溶液)を低温かつ減圧条件下で乾燥させる。当該乾燥後のサンプルを、走査型電子顕微鏡を用いて適度な倍率(例えば1,000倍)に拡大し写真画像を撮影する。撮影した画像から、サンプル中に存在する無作為に選んだ100個の粒径(長径)の平均値を計算する。これにより平均粒径を算出する。
【0084】
水性樹脂エマルジョン中のヒートシール層(B)材料の固形分濃度は、8〜60質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。当該固形分濃度が上記範囲内であると、分散液の状態で相が安定し、液の保管性及び塗工性が優れたものとなる。
【0085】
[強度付与層(C)]
他の実施形態において、熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、基材層(A)、強度付与層(C)及びバック面をこの順で備える。熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の側に、表面コート層を有してよい。本実施形態によれば、外部の物体に付着するのに適した熱可塑性樹脂フィルムが提供される。強度付与層(C)は、熱可塑性樹脂フィルムが、バック面の側において外部の物体に付着するときに、外部の物体に強力に付着する機能を有する。
【0086】
強度付与層(C)を構成する樹脂は、基材層(A)に含まれる樹脂と同種であってもよく、異種であってもよい。強度付与層(C)を構成する樹脂は、融点が105〜280℃の範囲の熱可塑性樹脂であることが好ましい。融点が105〜280℃の範囲の熱可塑性樹脂は、プロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の中から選択されてよい。融点が105〜280℃の範囲の熱可塑性樹脂は、2種以上の樹脂を含んでよい。強度付与層(C)を構成する樹脂は、プロピレン系樹脂または高密度ポリエチレンを主成分として含んでよい。これにより、耐水性、耐薬品性、経済性などに優れた強度付与層(C)が得られる。
【0087】
強度付与層(C)は、無機微細粉末を含んでもよい。強度付与層(C)が無機微細粉末を含む場合、基材層(A)における無機微細粉末の含有率は、強度付与層(C)における無機微細粉末の含有率よりも大きいことが好ましい。これにより、基材層(A)の密度を、強度付与層(C)の密度よりも小さくすることができる。その結果、熱可塑性樹脂フィルムの白色度若しくは不透明度を大きくしつつも、又は、熱可塑性樹脂フィルムを軽量化しつつも、強度付与層(C)の層内強度、並びに、基材層(A)及び強度付与層(C)の層間強度を高めることができる。また、熱可塑性樹脂フィルムと外部の物体とを強固に付着させることができる。強度付与層(C)に含まれる無機微細粉末は、基材層(A)に含まれる無機微細粉末と同種であってもよく、異種であってもよい。
【0088】
強度付与層(C)は、無機微細粉末を1質量%以上含むことが好ましく、5質量%以上含むことがより好ましい。これにより、強度付与層(C)の不透明度を大きくなる。強度付与層(C)は無機微細粉末を20質量%以下含むことが好ましく、18質量%以下含むことがより好ましい。これにより、強度付与層(C)の層内強度、並びに、基材層(A)及び強度付与層(C)の層間強度が向上する。
【0089】
外部の物体との接着を阻害しない範囲で、強度付与層(C)に、公知の他の樹脂用添加剤を任意に添加してよい。他の樹脂用添加剤としては、例えば染料、核剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を挙げることができる。他の樹脂用添加剤の添加量は、強度付与層(C)全体に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。これにより、フィルムの連続製造時にダイスに添加剤が堆積する現象を抑制することができる。
【0090】
強度付与層(C)を有するフィルムの製造方法は、特に限定されず、ヒートシール層(B)を有するフィルムと同様の手法により製造されてよい。例えば、基材層(A)の成形と同時に表面層をダイスから押し出すことで製造されてもよく、複数のダイスを使用して、基材層(A)の上に強度付与層(C)を押出ラミネーションすることで製造されてもよく、フィルム状に成形された強度付与層(C)を基材層(A)に貼り合わせることで製造されてもよい。
【0091】
[高平滑層(D)]
他の実施形態において、熱可塑性樹脂フィルムは、少なくともフロント面、高平滑層(D)、基材層(A)及びバック面をこの順で備える。熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の側に、表面コート層を有してよい。本実施形態によれば、表面に光沢を有するのに適した熱可塑性樹脂フィルムが提供される。高平滑層(D)は、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の光沢を高める機能を有する。これにより、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に情報を印刷したときに、印刷された情報に光沢感を与えることができる。熱可塑性樹脂フィルムの内部に入射した光を、基材層(A)と高平滑層(D)との界面で正反射させることにより、より効率的に光沢を高めることができる。
【0092】
高平滑層(D)は熱可塑性樹脂を70〜100質量%含有することが好ましく、75〜100%含有することがより好ましい。また、高平滑層(D)は無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方を0〜30質量%含有することが好ましく、0〜25質量%含有することがより好ましい。これにより、表面の平滑性が高くなり、20°光沢(JIS Z8741)を向上させることができる。20°光沢は、JIS Z8741に定められた手順に従って測定される。また、高平滑層(D)の不透明度は30%以下であることが好ましい。これにより、高平滑層(D)の透明性が高くなり、熱可塑性樹脂フィルムの内部に入射した光を効率よく取り出すことができる。その結果、全光線反射率を向上させることができる。
【0093】
高平滑層(D)は延伸されていることが好ましい。これにより、高平滑層(D)が無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方を含有する場合に、平滑層(D)の内部に、無機微細粉末又は有機フィラーを核とした空孔が形成される。その結果、全光線反射率を向上させることができる。また、延伸により、高平滑層(D)の表面平滑度が向上する。その結果、20°光沢が向上する。高平滑層(D)が無機微細粉末及び有機フィラーの少なくとも一方を含有しない場合、延伸により高平滑層(D)の表面平滑度はより一層高くなる。
【0094】
光沢感の向上を目的とする場合、高平滑層(D)の延伸は2軸方向で行われることがより好ましい。高平滑層(D)の延伸が一軸延伸の場合、高平滑層(D)中の空孔はラグビーボール状となり、高平滑層(D)での光反射は入射光に対して指向性が少なく、いわゆる乱反射となる。その結果、白色度が向上するが光沢度は抑えられる。一方、高平滑層(D)の延伸が二軸延伸の場合、高平滑層(D)中の空孔はより扁平な円盤状となり、高平滑層(D)での光反射における正反射の割合が多くなる。その結果、目視での光沢感が向上する。
【0095】
[熱可塑性樹脂フィルムの製造方法]
(シート成形)
熱可塑性樹脂フィルムは、無延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよい。熱可塑性樹脂フィルムの成形は押し出し成形によることが好ましい。熱可塑性樹脂フィルムの成形法としては、熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂の融点またはガラス転移点より高い温度に設定した押出機でフィルムの原料を溶融混練し、TダイやIダイなどを使用してシート状に押し出し、金属ロール、ゴムロール、金属ベルト等で冷却するキャスト成形、円形のダイを使用してチューブ状に押し出し、チューブ内圧力により一定の倍率に膨らませながら空気や水で冷却するインフレーション成形、混練された材料を複数の熱ロールで圧延しシート状に加工するカレンダー成形、圧延成形等を挙げることができる。
【0096】
熱可塑性樹脂フィルムは、カレンダー成形法又はキャスト成形法により形成されることが好ましい。カレンダー成形法によれば、熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物を加熱ロールで混練しながら、二本のロールの間から熱可塑性樹脂組成物を押し出し、二本のロールの間で圧延を繰り返す。各ロールの回転速度と引き取り速度を制御することで熱可塑性樹脂フィルムの厚さを制御しつつ、熱可塑性樹脂フィルムを冷却ロールに押し当て冷却することで、熱可塑性樹脂フィルムが得られる。キャスト成形法によれば、熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給して溶融し、押出機に接続されたTダイを使用して、熱可塑性樹脂組成物をシート状に押し出して、押し出された熱可塑性樹脂組成物を冷却ロールに押し当て冷却することで、熱可塑性樹脂フィルムが得られる。
【0097】
熱可塑性樹脂フィルムを多層構成にする場合は、公知の方法が適宜使用できるが、具体的には、フィードブロック、マルチマニホールド等を使用した多層ダイス方式、複数のダイスを使用する押出ラミネーション方式等が挙げられ、両者を単独で、または組み合わせて使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂フィルムのうちの1層を上記キャスト成形し、必要に応じてロール周速差を利用して延伸を行った後、または、熱可塑性樹脂フィルムのうちの1層を上記カレンダー成形法で得た後、熱可塑性樹脂フィルムの他の層を構成する樹脂組成物を溶融ラミネートして積層体としてもよい。
【0098】
(延伸)
熱可塑性樹脂フィルムは2層以上の多層構成であってもよい。熱可塑性樹脂フィルムを構成するいずれかの層を延伸する場合において、延伸方法は特に限定されず、公知の種々の方法を使用することができる。具体的には、各層の延伸は1軸延伸であってもよく、2軸延伸であってもよく、無延伸であってもよい。また、延伸の方向は縦方向でも、横方向でもよい。さらに、2軸延伸の場合は、同時に延伸してもよく、逐次延伸してもよい。
【0099】
延伸方法としては、キャスト成形フィルムを延伸する場合は、ロール群の周速差を利用した縦延伸法、テンターオーブンを使用した横延伸法、圧延法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸法等が挙げられる。また、インフレーションフィルムを延伸する場合は、チューブラー法による同時二軸延伸法が挙げられる。
【0100】
熱可塑性樹脂フィルムの延伸条件は特に限定されず、用いる熱可塑性樹脂の特性等を考慮して適宜決定する。例えば、延伸倍率は、熱可塑性樹脂としてプロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用する時には一方向に延伸する場合は約1.2〜12倍、好ましくは2〜10倍であり、二軸延伸の場合には面積倍率で1.5〜60倍、好ましくは4〜50倍である。熱可塑性樹脂としてエチレン系樹脂を使用し、かつ無機微細粉末を45%以上含有するときには、一方向に延伸する場合は約1.2〜5倍、好ましくは2〜4倍であり、二軸延伸の場合には面積倍率で1.5〜15倍、好ましくは2〜10倍である。その他の熱可塑性樹脂を使用する時には一方向に延伸する場合は1.2〜10倍、好ましくは2〜5倍であり、二軸延伸の場合には面積倍率で1.5〜20倍、好ましくは4〜12倍である。
【0101】
延伸温度はガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下の熱可塑性樹脂に好適な公知の温度範囲内で行うことができる。具体的には、熱可塑性樹脂がプロピレン単独重合体(融点155〜167℃)の場合は100〜164℃、高密度ポリエチレン(融点121〜134℃)の場合は70〜133℃であり、融点より1〜70℃低い温度である。また、ポリエチレンテレフタレート(融点246〜252℃)は結晶化が急激に進まない温度を選択する。また、延伸速度は20〜350m/分にするのが好ましい。
【0102】
さらに、延伸後には熱処理を行うのが好ましい。熱処理の温度は、延伸温度以上、延伸温度より30℃高い温度以下が好ましい。熱処理を行うことにより、延伸方向の熱収縮率が低減し、製品保管時の巻き締まりや、熱及び溶断シール時の収縮による波打ち等が少なくなる。熱処理の方法はロール及び熱オーブンで行うのが一般的であるが、これらを組み合わせてもよい。熱処理は、高い処理効果が得られる観点から、延伸したフィルムを緊張下に保持された状態において行うことが好ましい。
【0103】
(表面処理)
上記のようにして得られた熱可塑性樹脂からなるフィルムは、表面が疎水性で塗工剤をはじきやすいため、フィルム表面を酸化処理することが好ましい。フィルム表面に酸化処理を施すことにより、フィルム表面に塗工剤を均一に塗布しやすくなるだけでなく、表面コート層とフィルムが強固に接着する。その結果、印刷インキや、後加工工程で形成する各種機能材層(例えば、感熱発色層、インクジェット受容層、接着剤層、ドライラミネート層)との密着性を高めることができる。
【0104】
表面酸化処理としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、オゾン処理等を挙げることができる。中でもコロナ放電処理、プラズマ処理を用いることが好ましい。
【0105】
酸化処理量は、コロナ放電処理の場合には10W・分/m(600J/m)以上であることが好ましく、20W・分/m(1,200J/m)以上であることがより好ましい。20W・分/m(1,200J/m)以上にすることにより、安定で効果的な酸化処理を行うことができる。また、酸化処理量は、コロナ放電処理の場合には200W・分/m(12,000J/m)以下であることが好ましく、180W・分/m(10,800J/m)以下であることがより好ましい。
【0106】
(塗工方法)
表面コート層は、例えば、熱可塑性樹脂フィルムの表面に塗工剤を塗布・乾燥することで、形成される。塗工剤の塗工方法としては、ダイコーター、ロールコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター、サイズプレスコーター等による塗工、または浸漬等により行われる。
【0107】
塗工剤は、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に塗工される。塗工剤は、熱可塑性樹脂フィルムの両表面に塗工されてもよい。これにより、帯電防止性能をより向上させることができる。
【0108】
塗工のプロセスは、熱可塑性樹脂フィルムの成形ライン中で熱可塑性樹脂フィルム成形と併せて実施されてもよく、熱可塑性樹脂フィルムの成形ラインとは別のラインにおいて、当該成形ラインで成形された熱可塑性樹脂フィルムに対して、塗工プロセスが実施されてもよい。また、上記支持体の成形が延伸法による場合は、延伸工程の前に塗工を行っても良く、延伸工程の後に塗工を行ってもよい。必要に応じてオーブン等を用いた乾燥工程を経て余分な溶媒を除去し、表面処理層を形成してよい。
【0109】
(塗工量D)
熱可塑性樹脂フィルムの表面コート層の厚さが厚すぎると、表面コート層の内部で表面コート層の成分が凝集破壊を起こす場合がある。その結果、熱可塑性樹脂フィルムと、インク(若しくは印刷用インキ)または機能材層塗工液(感熱塗工液等を例示することができる。)との密着性が低下する場合がある。そこで、熱可塑性樹脂フィルムへの表面処理層の適用量(塗工量DまたはDRY塗工量と称する場合がある。)は、単位面積(平米)当たりの乾燥後固形分換算で、20g/m以下であることが好ましく、5g/m以下であることがより好ましく、3g/m以下であることが特に好ましい。塗工量Dは、1g/m以下であってもよい。
【0110】
一方、塗工により形成された表面コート層の厚さが薄すぎると、表面コート層の成分が熱可塑性樹脂フィルムの表面に均質に存在することができず、十分な表面処理効果(帯電半減期Sの抑制)が得られにくくなったり、熱可塑性フィルムと、インク(または印刷用インキ)、感熱塗工液等の塗工液との接着力が不足したりする場合がある。そこで、塗工量Dは、0.07g/m以上であることが好ましく、0.1g/m以上であることがより好ましく、0.15g/m以上であることが特に好ましい。
【0111】
なお、表面コート層の塗工量Dは、フィルムに塗工剤を塗工した直後のウエットフィルム質量から、塗工剤を塗工する前のフィルム質量を差し引いてウエット塗工量を算出して、これに塗工剤の固形分濃度を乗じて乾燥後の塗工量Dを決定する。ただし、やむを得ない場合は熱可塑性樹脂フィルムから表面コート層を剥離してこの質量を測定することにより乾燥後の塗工量Dを直接決定してもよく、試料の断面を走査型電子顕微鏡で観察して表面コート層の厚さを決定して、これに塗工剤固形分の密度を乗じて乾燥後の塗工量Dを算出してもよい。
【0112】
[熱可塑性樹脂フィルムの性質]
(厚み)
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、JIS K 7130:1999に従い、定圧厚さ測定器を用いて測定する。熱可塑性樹脂フィルムをインモールド成形により樹脂中空容器に貼着する時、ラベルインサーターで金型へラベルを挿入する際に正規の位置に固定しやすくしたり、ラベルにシワを生じさせにくくしたりする観点から、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、60μm以上がさらに好ましい。一方、ラベルと中空成形容器との間に空隙や薄肉部分を生じさせず成形品の耐落下強度を向上させたり、金型の加工コストを低減させたりする観点から、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
【0113】
熱可塑性樹脂フィルムがヒートシール層(B)を有する場合、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、樹脂成形品への十分な接着力を得る観点から、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。一方、シート状でのオフセット印刷時や、成形用ラベルを金型に挿入するときに、該ラベルのカールを抑制する観点から、熱可塑性樹脂フィルムの厚みは20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0114】
(密度)
熱可塑性樹脂フィルムの密度は、JIS K 7112:1999に記載されている方法に従い、上記測定により得られた厚みの値と、試料を10cm×10cmサイズに打ち抜いて質量を測定して得られた坪量の値から、下記の計算式によって算出する。
ρ=Wf/Tf
ただし、ρ、Wf及びTfのそれぞれは下記を示す。
ρ :熱可塑性樹脂フィルムの密度(g/cm)、
Wf:熱可塑性樹脂フィルムの坪量(g/cm)、
Tf:熱可塑性樹脂フィルムの厚み(cm)。
【0115】
熱可塑性樹脂フィルムの密度は、ラベル表面強度維持の観点から0.5g/cm以上が好ましく、0.6g/cm以上がより好ましい。一方、ヒートシール強度付与の観点から、熱可塑性樹脂フィルムの密度は、1.3g/cm以下が好ましく、1.0g/cm以下がより好ましい。
【0116】
(空孔率)
熱可塑性樹脂フィルムの空孔率は、上記測定によって得られた密度ρと、該フィルムのシート成形に用いる樹脂組成物の密度測定によって得られた真密度ρを用いて次の式により算出する。
空孔率(%)=(ρ−ρ)/ρ
ただし、ρ及びρのそれぞれは下記を示す。
ρ:熱可塑性樹脂フィルムの真密度、
ρ:熱可塑性樹脂フィルムの密度。
【0117】
熱可塑性樹脂フィルムの空孔率は、ヒートシール強度付与の観点から1%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。一方、表面強度維持の観点から、熱可塑性樹脂フィルムの空孔率は、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
【0118】
(帯電半減期S)
表面コートを行った面の、23℃、相対湿度30%環境下での帯電半減期SはJIS L 1094:1997に記載される方法で測定する。熱可塑性樹脂フィルムの帯電防止の観点から、帯電半減期Sは300秒以下が好ましく、200秒以下がより好ましく、100秒以下がさらに好ましい。帯電半減期Sが300秒を超えると、印刷時の静電気トラブル、中空成型時のラベルインサート時のラベルの2枚取りなどのトラブルが起こりやすい。
【0119】
(水接触角H)
表面コートを行った面の、水接触角Hは静的水接触角測定法によって測定する。水接触角Hが65°未満では、オフセット印刷にて、水負けによる印刷不良が発生しやすいことから、水接触角Hは65°以上が好ましく、70°以上がより好ましく、75°以上がさらに好ましい。一方、帯電防止性の発現、後加工性の容易性等の観点から、前記水接触角Hは120°以下が好ましく、110°以下がより好ましく、100°以下がさらに好ましい。
【0120】
(表面コート剤の水への再溶解率C)
熱可塑性樹脂フィルムは、表面コート剤の水への再溶解率Cが5%以下であることが好ましく、当該再溶解率Cが1.5%以下であることがより好ましい。表面コート剤の水への再溶解率Cは、表面コート剤を熱風乾燥して得た固形分をイオン交換水の中に投入し、当該水に不溶の固形分(水不溶分と称する場合がある。)を得た後、当該イオン交換水中への投入の前後における質量減少率として算出する。表面コート剤の水への再溶解率Cが低いほど、熱可塑性樹脂フィルムの耐水性があることになり、熱可塑性樹脂フィルム表面の印刷物の耐水性も向上する。
【0121】
[印刷用フィルム]
(印刷方式)
上記の熱可塑性樹脂フィルムを使用して、印刷用フィルムを製造してよい。熱可塑性樹脂フィルムには、グラビア印刷、フレキソ印刷、レタープレス印刷、スクリーン印刷、溶融熱転写方式、紫外線硬化型インクジェット方式、電子写真記録方式等により、直接印刷することが可能である。また、直接感熱方式、水系染料インクジェット方式、水系顔料インクジェット方式、溶剤系インクジェット方式、液体トナー方式等に対しては、それぞれの印刷方式に適した後述の記録層(F)を表面に設けることにより印刷することができる。上記記載の溶融熱転写方式、紫外線硬化型オフセット方式、紫外線硬化型インクジェット方式、電子写真方式等による印刷情報の耐久性を高めるためのアンカー層を設けてもよい。この場合は該アンカー層が記録層(F)に相当する。印刷の精細性の観点からはグラビア印刷、インクジェット記録方式、電子写真記録方式が好ましく、小ロット対応可能である観点からはレタープレス印刷、フレキソ印刷が好ましい。
【0122】
オフセット印刷は、表面コート層の水の濡れが良過ぎる場合は、インクが水負けしやすくインクが転移しにくくなるために、絵柄によっては適さない場合がある。一方、表年コート層の水の濡れが悪すぎる場合は、オフセット印刷の非印画部にインキが付着し、地汚れを起こす場合がある。したがって、表面コートを行った面の、上述の水接触角Hを適正範囲に制御することによってオフセット印刷が良好なものとなる。
【0123】
これらの印刷に用いるインキは、油性インキならびに紫外線硬化型インキが使用可能であるが、印刷後のセット性(乾燥性)及び耐擦過性の観点から紫外線硬化型インキが好ましい。紫外線硬化型インキで印刷を施す場合、該インキは紫外線照射により乾燥固化される。紫外線照射方法は、紫外線硬化型インクが硬化される方法であれば特に限定されないが、例えば、メタルハライドランプ(200〜400nm)、低圧水銀灯(180〜250nm)、高圧水銀灯(250〜365nm)、ブラックライト(350〜360nm)、UV−LEDランプ(355〜375nm)から照射される紫外線を、300〜3000mJ/cm、好ましくは400〜1000mJ/cmの照射量となるように照射すること等が挙げられる。
【0124】
一般に熱可塑性樹脂フィルムの表面と印刷インキとの親和性は、経時的に低下する傾向があり、熱、空気中の水分等によって親和性の低下が加速されることが知られている。その理由としては、熱可塑性樹脂フィルムに配合された各種添加剤が表面に析出したり、フィルムの表面処理で生じせしめた親水性基が消失したりすることが考えられる。なお、各種添加材は疎水性である場合が多い。また、熱可塑性樹脂フィルム表面にインキと親和性の高いポリマー型表面コート剤による表面処理を行った場合は、ポリマー型表面コート剤の劣化も考えられる。
【0125】
これに対し、上記の熱可塑性樹脂フィルムは、その表面に耐久性の高い金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する。これにより、表面コート層における水接触角Hの変動が少なく、印刷インキとの親和性が持続する効果を奏すると考えられる。
【0126】
(記録層(F))
熱可塑性樹脂フィルムに情報が印刷される場合、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の側に設けられた表面コート層上に、記録層(F)を設けてよい。記録層(F)は、印刷方式に応じて、適切な層が選択される。印刷方式としては、直接感熱方式、水系染料インクジェット方式、水系顔料インクジェット方式、溶剤系インクジェット方式、液体トナー方式等を例示することができる。印刷方式によっては、熱可塑性樹脂フィルムのバック面の側にも記録層(F)を設けてよい。バック面側の記録層(F)は、フロント面側の記録層(F)と同種であってもよく、異種であってもよい。記録層(F)は、内部に発色性材料を含有する層または、外部から着色材料を受理し定着させる層として機能してよい。これにより、可変情報を適切に付与することができる。
【0127】
直接感熱方式に適した記録層(F)としては、少なくとも発色剤と顕色剤とを含んでなる層を例示することができる。発色剤及び顕色剤の組合せについては、両者が接触して発色反応を起こす組合せであれば、特に限定されない。発色剤及び顕色剤の組合せとしては、無色ないし淡白の塩基性染料と無機ないし有機の酸性物質との組合せ、ステアリン酸第二鉄などの高級脂肪酸金属塩と没食子酸の様なフェノール類等との組合せ、ジアゾニウム塩化合物とカプラー及び塩基性物質との組合せなどを例示することができる。上記のジアゾニウム塩化合物は、ポリウレア樹脂、ウレタン樹脂またはゼラチンを殻とするマイクロカプセル内に包含されていてもよい。直接感熱方式に適した記録層(F)は、バインダー、発色調整剤、蛍光増白剤、滑剤、硬化剤等の各種添加剤をさらに含んでもよい。
【0128】
直接感熱方式に適した記録層(F)の形成方法は、特に制限されない。直接感熱方式に適した記録層(F)の形成方法としては、ドライラミネーション法、押出ラミネーション、ウエットラミネーション法、塗工法等を例示することができる。直接感熱方式に適した記録層(F)は、塗工法により形成されてよい。記録層(F)における感熱記録層の塗工液の塗工方法としては、ロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、リバースコーター、ダイコーター、リップコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、コンマコーター、サイズプレス、ゲートロール等を利用した塗工方法を例示することができる。直接感熱方式に適した記録層(F)の塗工量は、特に制限されない。上記の塗工量は、固形分質量が1g/m以上であることが好ましく、より好ましくは2g/m以上である。記録層(F)における感熱記録層の塗工量は、30g/m以下であることが好ましく、10g/m以下であることがより好ましい。なお、感熱記録用紙の製造分野における各種の公知技術を必要に応じて付加してよい。例えば、直接感熱方式に適した記録層(F)の上に更にオーバーコート層を設けて、直接感熱方式に適した記録層(F)を保護してよい。
【0129】
水系染料インクジェット方式及び水系顔料インクジェット方式に適した記録層(F)としては、少なくとも、無機顔料、無機顔料の結着剤を含んでなるカチオン性の層を例示することができる。無機顔料がカチオン性の場合、無機顔料は染料を吸着する能力を有する。一方、無機顔料がアニオン性またはノニオン性の場合、無機顔料は染料を吸着できず、染料が記録層(F)の中を移動しうる。そのため、経時的に画像がにじむことがある。この画像のにじみは、温度が高いほど、湿度が高いほど顕著になる。そこで、水系染料インクジェット方式及び水系顔料インクジェット方式に適した記録層(F)は、無機顔料及び無機顔料の結着剤に加えて、カチオン性材料を含んでよい。これにより、記録層(F)をカチオン性の層にすることができる。
【0130】
無機顔料としては、シリカ、アルミナ等を例示することができる。無機顔料は、非晶質シリカ、気相法シリカ又は気相法アルミナを含んでよい。これにより、記録層(F)の透明性を向上させることができる。その結果、水系染料インクジェット方式又は水系顔料インクジェット方式により印字された色材が、記録層(F)に隠蔽されることを抑制することができ、高濃度で鮮明な画像を得ることができる。また、上記の無機顔料は細孔容積が大きいので、記録層(F)の膜厚を薄くしても、インクを十分に吸収することができる。無機顔料は、その表面にアルミナを含んでよい。これにより、無機顔料がカチオン性になる。
【0131】
無機顔料の結着剤としては、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸共重合体等のビニル系重合体及びその誘導体;スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系重合体;(メタ)アクリル酸エステルの重合体もしくは共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド等の(メタ)アクリル系重合体、または、これらの各種重合体のカルボキシル基、カチオン性基等の官能基含有変性重合体;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化樹脂等;ポリウレタン樹脂;アルキッド樹脂などの高分子が例示することができる。無機顔料の結着剤は、ビニル系重合体及びその誘導体、又は、(メタ)アクリル系重合体であってよい。
【0132】
カチオン性材料としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、ポリジアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリジアルキルアミノエチルアクリレート、ポリジアルキルアミノエチルメタクリルアミド、ポリジアルキルアミノエチルアクリルアミド、ポリエポキシアミン、ポリアミドアミン、ジシアンジアミド−ホルマリン縮合物、ジシアンジアミドポリアルキル−ポリアルキレンポリアミン縮合物、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩酸塩等のジアリルジメチルアンモニウム塩重合物塩、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩、ポリビニルアミン塩、ポリ(オキシエチル−1−メチレン)アミン塩、ポリビニルベンジルアミン塩、ポリアクリルアミドプロピルメチルアミン塩、ポリジアリルアミン塩、アクリルアミド・ジアリルアミン塩共重合体、モノアリルアミン・ジアリルアミン塩共重合体、ポリアミンジシアン重合体、等の化合物及びこれらの変性物等を例示することができる。カチオン性材料は、分子内に1〜3級アミンの塩及び4級アンモニウム塩構造を有する化合物であってよい。
【0133】
溶融熱転写方式、紫外線硬化型オフセット方式、紫外線硬化型インクジェット方式、電子写真方式等による印刷情報の耐久性を高めるのに適した記録層(F)としては、ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリアクリルウレタン、アクリリル酸エステル共重合体、ポリエチレンイミン、ポリアルキレンポリアミド等の中から選択される1種以上を含んでなるアンカーコート層を例示することができる。アンカーコート層は、帯電防止剤を含んでいてもよい。帯電防止剤としては、アルキレンオキシド基を有するポリマーとアルカリ金属との組み合わせ、(メタ)アクリル酸共重合体とアルカリ金属との組み合わせ、4級アンモニウム基を有するポリマー等を例示することができる。
【0134】
アンカーコート層は、公知の塗工装置により基材層(A)上に設けられた表面コート層の上に塗膜を形成して、当該塗膜を乾燥することにより形成することができる。塗工装置の具体的な例としては、ダイコーター、バーコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター等が挙げられる。アンカーコート層の塗工量としては、乾燥後の固形分量で0.1〜20g/mであることが好ましく、0.5〜8g/mであることがより好ましい。塗工量が0.1g/m以上であれば溶融熱転写方式、紫外線硬化型オフセット方式、紫外線硬化型インクジェット方式、電子写真方式等による印刷情報の耐久性が得られやすくなる傾向がある。20g/m以下であれば、印刷情報の密着性と耐水性が得られやすくなる傾向がある。
【0135】
[インモールド成形]
上記の熱可塑性樹脂フィルムを使用して、ラベル付き中空成形容器を製造してよい。このとき、ラベル付き中空成形容器の材料及び成形方法は特に限定されず、公知の材料及び成形法を使用することができる。
(容器材料)
ラベル付き中空成形容器の容器本体材料としては、中空容器が成形可能な材料を用いる。例えば、熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはその共重合体、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂等を挙げることができる。なかでも、ブロー成形し易い樹脂であることから、ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。また、上記の熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂組成物を使用してもよい。
【0136】
(インモールド成形方法)
ラベル付き中空成形容器を製造する場合、金型にラベルを挿入して、該金型内に成形可能な状態の熱可塑性樹脂組成物を注入することが好ましい。中でも、金型にこれらの樹脂からなるプリフォームまたはパリソンをまず製造し、これらを金型で挟んでブロー成形する方法が好ましい。ブロー成形することによって、容器を成形すると同時にラベルを容器に貼着することができる。これによって、容器の意匠性、軽量化及び生産性を維持したまま、短時間のうちにラベル付き容器を簡便に製造することができる。
【0137】
(ラベル付き中空成形容器の性質)
上記の方法で得られたラベル付き中空成形容器は、熱可塑性樹脂フィルムの性質に基づき、表面コート層の耐水性に優れたものである。また、表面コート層は熱可塑性樹脂フィルムをインモールド成形する際にも脱落することがなく、印刷による意匠性が損なわれない。
【0138】
[粘着フィルム]
上記の熱可塑性樹脂フィルムを使用して、粘着フィルムを使用してよい。前記熱可塑性樹脂フィルムのバック面に粘着剤層(E)を設け、前記熱可塑性樹脂フィルムのバック面が前記粘着剤層(E)を介して外部に付着することができる。一方、前記熱可塑性樹脂フィルムのフロント面は前記表面コート層を有しているので、前記熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に直接印刷を行ってもよく、前記熱可塑性樹脂フィルムのフロント面上に後述の記録層(F)を設けて印刷情報を付与してもよい。
【0139】
(粘着剤層(E))
粘着剤層(E)に用いる粘着剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の粘着剤が挙げられる。
ゴム系粘着剤としては、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、及びこれらの混合物、或いはこれらゴム系粘着剤にアビエチン酸ロジンエステル、テルペン・フェノール共重合体、テルペン・インデン共重合体などの粘着付与剤を配合したもの等を挙げることができる。
アクリル系粘着剤としては、2−エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸n−ブチル共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体等のガラス転移点が−20℃以下のものが挙げられる。
シリコーン系粘着剤としては、白金化合物等を触媒とする付加硬化型粘着剤、過酸化ベンゾイル等によって硬化させる過酸化物硬化型粘着剤等が挙げられる。
粘着剤としては、溶液型、エマルジョン型、ホットメルト型等の各種形態のものが挙げられる。
【0140】
粘着剤層(E)は、粘着剤を基材層(A)の表面に直接塗工して形成してもよいし、後述する離型紙の表面に粘着剤を塗工して粘着剤層(E)を形成した後、これを基材層(A)の表面に適用するようにしてもよい。
粘着剤の塗工装置としては、バーコーター、ブレードコーター、コンマコーター、ダイコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、リップコーター、リバースコーター、ロールコーター、スプレーコーター等を挙げることができる。
これらの塗工装置によって塗工された粘着剤等の塗膜を、必要に応じてスムージングし、乾燥工程を行うことで粘着剤層が形成される。
粘着剤の塗工量は、特に限定されないが、乾燥後の固形分量で3〜60g/mであることが好ましく、10〜40g/mであることがより好ましい。
【0141】
また、基材層(A)と粘着剤層(E)との接着力が小さく、両者の接着界面で剥離が生じてしまうような場合には、粘着剤を設ける前に基材層(A)のフロント面側表面に、アンカーコート剤を塗布することが好ましい。
アンカーコート剤としては、ポリウレタン、ポリイソシアネート・ポリエーテルポリオール、ポリイソシアネート・ポリエステルポリオール・ポリエチレンイミン、アルキルチタネート等を挙げることができる。これらのアンカーコート剤は、例えばメタノール、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン等の有機溶剤、または水に溶解した溶液として基材層(A)の表面に塗工することができる。
アンカーコート剤の塗工量は、乾燥後の固形分量で0.01〜5g/mであることが好ましく、0.02〜2g/mであることがより好ましい。
【0142】
(離型紙)
離型紙は、粘着剤層(E)表面を保護する目的で、粘着剤層の基材層(A)と接しない面に必要に応じて設けられる。
離型紙としては、上質紙やクラフト紙をそのまま、あるいは上質紙やクラフト紙にカレンダー処理、樹脂コート、フィルムラミネートをしたもの、またはグラシン紙、コート紙、プラスチックフィルム等にシリコーン処理を施したもの等を使用することができる。このうち、粘着剤層との剥離性が良好であることから、粘着剤層に接触する面にシリコーン処理を施したものを用いることが好ましい。
【実施例】
【0143】
以下に調製例、シート成形例、実施例、比較例及び試験例を用いて、本発明を更に具体的に説明する。以下に示す材料、使用量、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。なお、以下に記載される%は、特記しない限り質量%である。
【0144】
[試験例]
<塗工量D>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂フィルムにおける表面コート層の塗工量Dは、シート成形例で得られた熱可塑性樹脂フィルムの片面に調製例で得られた塗工剤を塗工する際、塗工直後の熱可塑性樹脂フィルムの質量から塗工前の熱可塑性樹脂フィルムの質量を差し引いてウエット塗工量を求め、これに表2に記載の固形分濃度を乗じて乾燥後の塗工量Dを求めた。
<帯電半減期S>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性樹脂フィルムにおける塗工面を23℃、相対湿度30%(温度及び相対湿度の条件を、23℃/30%のように表記する場合がある。)の環境下で、STATIC HONESTMETER(SHISHIDO ELECTROSTATIC.LTD製、製品名:TYPE S5109)を用いてJIS L 1094:1997「織物及び編物の帯電性試験方法」に記載の半減期測定法に準拠して、測定を行った。この際、印加を止めてからの測定時間は300秒とし、帯電半減期S(Sec)を求めた。
【0145】
<厚み>
シート成形例で得られた熱可塑性樹脂フィルム全体の厚みは、JIS K 7130:1999「プラスチック−フィルム及びシート−厚さ測定方法」に基づき、定圧厚さ測定器((株)テクロック製、機器名:PG−01J)を用いて測定した。シート成形例で得られた熱可塑性樹脂フィルムにおける各層の厚みは、測定対象試料を液体窒素にて−60℃以下の温度に冷却し、ガラス板上に置いた試料に対してカミソリ刃(シック・ジャパン(株)製、商品名:プロラインブレード)を直角に当て切断し断面測定用の試料を作成し、得られた試料を走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製、機器名:JSM−6490)を使用して断面観察を行い、組成外観から境界線を判別して、全体の厚みと観察される層厚み比率を乗算して求めた。
【0146】
<坪量>
シート成形例1、2で得られた熱可塑性樹脂フィルムの坪量は、JIS P 8124:2011「紙及び板紙−坪量の測定方法」に基づき、100mm×100mmサイズに打抜いたサンプルを電子天秤で秤量して求めた質量を面積で除して求めた。
【0147】
<密度>
シート成形例1、2で得られた熱可塑性樹脂フィルムの密度ρは、上記で得た坪量を、上記で得た厚みで除した値として求めた。また、用いた熱可塑性樹脂の真密度ρは、JIS K 7112:1999「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」のA法に基づき、用いる熱可塑性樹脂のプレスシートから水中置換法によって求めた。
【0148】
<空孔率P>
空孔率Pは用いた熱可塑性樹脂の真密度ρと、シート成形例で得られた熱可塑性樹脂フィルムの密度ρを用いて、次式(1)により算出した。
空孔率P[%]=(ρ−ρ)/ρ ・・・式(1)
【0149】
<表面コート剤の水への再溶解率C>
表2に配合を記載した塗工剤の調整例No1〜9をそれぞれ100mオーブンに投入し、l70℃において水分を完全に蒸発させ、塗工剤の固形分を採取した。この時質量を測定し、W1とした。次に、得られた塗工剤の固形分をイオン交換水の中に投入し、12時間撹拌した後、濾紙(アドバンテック製、製品名:GS−25)を用いて、吸引濾過を行い、水不溶分を回収した。回収した水不溶分を70℃のオーブンで2時間乾燥させた後、質量を測定しW2とした。再溶解率Cを次式(2)により算出した。
水への再溶解率C[%]=(W1−W2)/W1×100 ・・・式(2)
【0150】
<水の接触角H>
接触角の測定は、23℃、相対湿度50%の環境下で、全自動接触角計(協和界面科学(株)製、機器名:DM−700)を用いて、コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムの塗工面に、1μLの水を滴下し接触角Hを測定した。
【0151】
<UVオフセット印刷性評価>
UVオフセット印刷性は、実施例1〜9、比較例1〜5で得られた熱可塑性樹脂フィルムをA4サイズに断裁し、オフセット印刷機(リョービ(株)製、機器名:RYOBI3300CR)、UVオフセット印刷用インキ(T&K TOKA株式会社製、製品名:BC161)を用いて、2000枚印刷した。得られた印刷物にUV(照射量100mJ/cm)を照射し、インキを固化させ、印刷性評価、耐水性評価に供した。
【0152】
(印刷性評価)
2000枚目の印刷物の、ドット面積率50%の部分を観察し、水負けの印刷性評価を実施した。表5においては、下記の記号を用いて印刷性評価の結果を示す。
○:給排紙が良好で、水負けが見られなかった。
△:給排紙が不良。
×:水負けが見られた。
【0153】
(耐水性評価)
得られたオフセット印刷サンプルを40℃の水に24時間浸漬した後、表面の水を拭き取り、18mmのセロハンテープ(株式会社ニチバン製、製品名:CT−18)を5cmの長さで貼り付け、高速手剥離を行いインクの剥がれを目視にて確認し、判定を行った。表5においては、下記の記号を用いて耐水性評価の結果を示す。
◎:手剥離を実施した部分の100%の面積でインクが残った。またはインクの密着が強すぎて熱可塑性樹脂フィルムが材破した。
○:手剥離を実施した部分の80%以上100%未満の面積でインクが残った。
△:手剥離を実施した部分の50%以上80%未満の面積でインクが残った。
×:手剥離を実施した部分の50%未満の面積でインクが残った。
【0154】
<加湿促進試験によるインキ密着試験>
実施例1〜9、比較例1〜5で得られた熱可塑性樹脂フィルムを40℃、80%の環境下に2週間放置して、加湿促進試験サンプルを得た。加湿促進試験サンプルの表面コート層を有する面に、JIS K5701−1:2000「平版インキ−第1部:試験方法」に基づき、RIテスター(株式会社IHI機械システム社製、製品名:RI2型)とUVオフセット用インク(T&K TOKA社製、製品名:BC161)を用いて、インキ盛り量1.5g/mにてベタ印刷を実施した。次いで、UV照射機を用いて、照射強度が100mJ/cmになるようにUV照射を実施し、インキ転移及びインキ密着評価用サンプルを得た。
【0155】
(インキ転移)
得られた評価用サンプルのインキ転移状態を目視にて判定を行った。表5においては、下記の記号を用いてインキ転移評価の結果を示す。
◎:転移不良が発生せず良好。
○:白抜けが見られるが、目立たない。
△:かすれが認められる(実用下限)。
×:転移不良が発生して不良(実用に耐えない)。
【0156】
(インキ密着)
得られた評価用サンプルの印刷面に、18mm幅のセロハンテープ(株式会社ニチバン製、製品名:CT405AP−18)を5cmの長さで貼り付け、高速手剥離を行いインクの剥がれを目視にて確認し、判定を行った。表5においては、下記の記号を用いてインキ密着評価の結果を示す。
◎:手剥離を実施した部分の100%の面積でインクが残った。またはインクの密着が強すぎて熱可塑性樹脂フィルムが材破した。
○:手剥離を実施した部分の80%以上100%未満の面積でインクが残った。
△:手剥離を実施した部分の50%以上80%未満の面積でインクが残った。
×:手剥離を実施した部分の50%未満の面積でインクが残った。
【0157】
<インモールド成型>
実施例1〜9、比較例1〜5で得られた熱可塑性樹脂フィルムを、横60mm、縦110mmの矩形に打抜加工してラベル付きプラスチック容器の製造に用いるラベルとした。このラベルを400mlの内容量のボトルを成型できるブロー成形用金型の一方にヒートシール層がキャビティ側に向くように配置し、吸引を利用して金型上に固定した後、金型間に高密度ポリエチレン(商品名「ノバテックHD HB420R」、日本ポリエチレン株式会社製、MFR(JIS K 7210:1999)=0.2g/10分、融解ピーク温度(JIS K 7121:2012)=133℃、結晶化ピーク温度(JIS K 7121:2012)=115℃、密度=0.956g/cm)を170℃で溶融してパリソン状に押出した。次いで金型を型締めした後、4.2kg/cmの圧縮空気をパリソン内に供給した。16秒間パリソンを膨張させて、当該パリソンを金型に密着させて容器状とするとともに、当該パリソンとラベルとを融着させた。次いで、金型内で成型物を冷却し、型開きをしてラベル付き中空成型容器を得た。この際、金型冷却温度は20℃、ショットサイクル時間は34秒/回とした。ラベルのセット性及び得られた中空成型容器の外観を確認し容器の状態を目視にて確認した。
◎:強固に接着し、目視でラベルの浮きが認識できない。
○:強固に接着しているが、目視でラベルの浮きが認識できる。
△:ラベルを金型にセットしにくい(実用下限)。
×:強固に接着できないか、ラベルを金型にセットできない(実用不可)。
【0158】
<UVインクジェット適性評価>
(滲み評価)
紫外線硬化型インク(AGORA G1、日本アグファゲバルト株式会社製)を使用するインクジェットプリンター(SJ−500、CTCジャパン社製)のインクジェットプリンターを用い、文字を熱可塑性樹脂フィルムの表面コート層上に印字した。印字した文字を目視によって評価した。
◎:文字が非常に鮮明でコントラストがはっきりしている。
○:文字が鮮明でコントラストがはっきりしている。
△:文字に滲みがあり、実用上の下限。
×:文字に滲みがあり、実用上使用できない。
【0159】
(ドライインキ密着評価)
熱可塑性樹脂フィルムの表面コート層上に、紫外線硬化型インク(AGORA G1、日本アグファゲバルト株式会社製)を、#1のワイヤーバーにて塗布し、紫外線ランプ(メタルハライド灯、出力80W/cm、アイグラフィックス株式会社製)で紫外線を照射してインクを硬化させた。なお、1灯の下でランプからの距離10cmのところを10m/分の速度で1回通過させて、サンプルの印刷面に紫外線を照射した。硬化したインクの上に18mmのセロハンテープ(株式会社ニチバン製、製品名:CT−18)を貼り、指で密着させた後に、基材の内部破壊が起きない速度で180度剥離を実施した。熱可塑性樹脂フィルム上のインクの残存面積の割合からドライインキ密着性を評価した。
◎:インクの残存面積が100%。
○:インクの残存面積が80%以上100%未満。
△:インクの残存面積が50%以上100%未満(実用下限)。
×:インクの残存面積が50%未満(実用に耐えない)。
【0160】
(耐水インキ密着評価)
次いで、上記インクを塗布及び硬化させた熱可塑性樹脂フィルムを、バットに充満させた水(イオン交換水)の中に浮かない様に浸漬させた。24時間浸漬させた後、熱可塑性樹脂フィルムを水中から取り出して、ティッシュで水を拭き取り、耐水インキ密着性をVインクジェット適性評価のドライインキ密着性と同じ基準で判定した。
【0161】
<直接感熱印刷適性評価>
(画質評価)
温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿室内で、市販の直接感熱記録プリンター「MULTISCAN VIDEO PRINTER UP−930」(SONY製、商品名)によって、記録層(F)を印刷面とした通紙経路で、黒ベタ印刷を実施した。印刷後の黒ベタ部を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:濃度ムラが無く非常に良好。
○:濃度ムラが少しあるが、良好。
△:白抜けが見られるが、実使用可能。
×:濃度ムラがあり、実使用困難。
【0162】
<水系インクジェット適性評価>
(画質評価)
染料インクを使用するインクジェットプリンター(PM−A900、セイコーエプソン株式会社製)及び顔料系インクを使用するインクジェットプロッター(PX−7500、セイコーエプソン株式会社製)を用い、ISO標準画像(ISO/JIS−SCID高精細カラーデジタル標準画像データ、画像の名称:ポートレート、画像の識別番号:N1)を記録層(F)上に印字した。印字した画像を目視によって評価した。
◎:記録画像が非常に鮮明でコントラストがはっきりしている。
○:記録画像が鮮明でコントラストがはっきりしている。
△:記録画像が鮮明であるがコントラストがはっきりしなく、色がやや沈んでおり、実用上の下限。
×:記録画像が不鮮明で、色が沈んでおり、実用上使用できない。
【0163】
<溶融熱転写印刷評価>
(インキ転移性)
バーコードプリンター「ZEBRA140 Xi III」(Zebra株式会社製、商品名)と溶融型レジンインクリボン「B110C」(株式会社フジコピアン製、商品名)とを用いて、実施例、比較例で得た熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の側(表面コート層上または記録層(F)上)に連続5枚のテスト画像印刷を実施した。熱ロール融着性を以下の評価基準で判定した。なお、サーマルヘッドの温度は110℃(サーマルヘッドに熱電対を取り付けて実測した)になるように条件を設定した。
記録用紙にかかる温度を110℃、印字速度を3インチ/秒にして、上記の溶融型ワックスインクリボンを記録用紙に転写した。溶融熱転写して印字したバーコード(CODE39)を、温度23℃、相対湿度50%の条件下でバーコード検証機「LASERCHEK II」(富士電機冷凍機株式会社製、商品名)にて読みとり、読みとり率をANSI(American National Standards Institute)GRADEにて評価した。ANSI GRADEはA〜D、F及びNo Decodeの6段階で現したもので、Aが最も良好な印字状態を示す。ANSI GRADE A〜Cを合格として判定した。
A:極めて良好(バーコードにかすれが全くみられず、市販のバーコードリーダーを用いて1回のバーコード読みとりで正確に読みとれるレベル)。
B:良好(基本的に1回のバーコード読みとりで読みとりが可能であるが、再度バーコード読みとりが必要な場合もあるレベル)。
C:可(バーコードに若干のかすれが見られ、複数回のバーコード読みとりが必要であるが実用できるレベル)。
D、F:不可(バーコードに線切れが生じ、Cレベルより多くのバーコード読みとり回数が必要であり実用的でないレベル)。
No Decord:不可(CODE39のバーコードと認識できないレベル)。
【0164】
(インキ密着性)
印刷画像の上に18mmのセロハンテープ(株式会社ニチバン製、製品名:CT−18)を貼り、指で密着させた後に、基材の内部破壊が起きない速度で180度剥離を行い、熱可塑性樹脂フィルム上に残存した画像についてドライインキ密着性を上記のANSI GRADEで判定した。
次いで、上記印刷を行った熱可塑性樹脂フィルムを、バットに充満させた水(イオン交換水)の中に浮かない様に浸漬し、24時間水に浸漬後に取り出してティッシュで水を拭き取り、耐水インキ密着性を溶融熱転写印刷評価のドライインキ密着性と同じ基準で判定した。
【0165】
(耐擦過性)
上記印刷を行った熱可塑性樹脂フィルムを、JIS L0849:1996に従い、染色堅ろう度試験用摩擦試験機「FR−II型」(スガ試験機株式会社製、商品名)を用い、摩擦用白綿布をドライで200g荷重にて1000回擦過した。また、常に湿潤状態を保つように水ならびにエタノールを適宜供給しながら200g荷重にて200回擦過した。擦過試験後の印刷面をバーコード検証機にてANSI GRADEを測定し、耐擦過性を溶融熱転写印刷評価のドライインキ密着性と同じ基準で判定した。
【0166】
<電子写真方式印刷評価>
(トナー密着性)
カラーレーザプリンタ(カシオ株式会社製、CASIO SPEEDIA N3600)を使用し、実施例、比較例で得た熱可塑性樹脂フィルムのフロント面に連続5枚のテスト画像印刷を行い、印刷画像の上にセロハンテープ(株式会社ニチバン製、LP−18)を貼り、指で密着させた後に、基材の内部破壊が起きない速度で180度剥離を行い、熱可塑性樹脂フィルム上に残存した画像についてトナー密着性を以下の基準で判定した。
◎:印刷の剥がれは認められない。
○:印刷の10%未満に剥がれが認められるが、剥がれるときの剥離強度が高く、実用上問題ない。
△:印刷の10%以上50%未満に剥がれが認められるが、剥がれるときの剥離強度が高く、実用に耐えうる。
×:印刷の剥がれが認められ、剥がれるときの剥離強度が低く、実用に適さない。
次いで、上記印刷を行った熱可塑性樹脂フィルムを、バットに充満させた水(イオン交換水)の中に浮かない様に浸漬し、24時間水に浸漬後に取り出してティッシュで水を拭き取り、耐水インキ密着性を電子写真方式印刷評価のトナー密着性と同じ基準で判定した。
【0167】
(熱ロール融着性)
熱可塑性樹脂フィルムを2枚、フロント面同士が接するように重ねて熱傾斜試験機(TYPE HG−100、株式会社東洋精機製作所製)に挟持し、90〜170℃の20度刻みの温度設定で5秒間圧着させ、熱ロール融着性を以下の評価基準で判定した。
◎:170℃で接着しない。
○:150℃以上170℃未満で接着しない。
△:130℃以上150℃未満で接着しない(実用下限)。
×:130℃未満で接着した(実用に適さない)。
【0168】
[塗工剤の調製例]
以下に示す塗工剤の試験例で使用する材料を表1に示す。塗工剤の製造条件及び物性を表2に示す。表2における塗工剤の製造条件としては、塗工剤における各材料の配合と、10%酢酸水溶液によるpH調整の有無と、固形分濃度と、塗工剤のpHとを示す。ここで、配合における質量部は水溶液または水分散体としての質量部を表し、固形分の質量部を表すものではない。物性としては、水への再溶解率Cを示す。なお、表2において、「−」は、塗工剤が当該成分を含まないことを示す。また、表2において、計算の都合上、含有率の合計が100%をわずかに超えている場合がある。
【0169】
【表1】
【0170】
【表2】
【0171】
調整例1:
表1に記載の水溶性ポリマー及び水を、表2に記載の配合比になるように混合し、5分間撹拌を行った。その後、10%濃度の酢酸を用いて、上記ポリマー及び水の混合物のpHが4.5〜5.5になるようにpHを調整した。次に、pH調整を行った混合液に、表1に記載のエマルション及び無機バインダーを、表2に記載の配合比になるように添加し、5分間撹拌した。これにより、塗工剤1を調整した。調整例3−5、9−13及び15−17のそれぞれについても、調整例1と同様に調整した。
【0172】
調整例2:
調製例1において、ポリエチレンイミン及びpH調製用の酢酸を使用しなかったこと以外は調製例1と同様にして、塗工剤2を調整した。調整例6−8及び14のそれぞれについても、表2に記載の配合で同様に調整した。
【0173】
[熱可塑性樹脂フィルムのシート成形例]
表3に、塗工剤の熱可塑性樹脂フィルムのシート成形例で使用するラベル用材料の仕様を示す。表3において、「−」はデータがないことを示す。また、容器用材料の仕様についても表3に示す。表4Aに、熱可塑性樹脂フィルムのシート成形条件を示す。表4Bに、シート物性の評価値を示す。表4Aにおいて、「−」は当該成分または層を含まないことを示す。表4Bにおいて、「−」は当該層がないこと、または、データをないことを示す。
【0174】
【表3】
【0175】
【表4A】
【表4B】
【0176】
シート成形例1:
基材層(A)の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−1)、重質炭酸カルシウム(CA−1)、ルチル型二酸化チタン(TI−1)を質量比80:19:1で混合した。これを250℃に設定した押出機にて溶融混練した後、250℃に設定したTダイに供給し、シート状に押し出した。得られたシートを冷却ロールにて約60℃まで冷却して無延伸シートを得た。次いで、この無延伸シートを、150℃に再加熱した後、ロール群の周速差を利用して縦方向に4倍延伸し、冷却ロールにて約60℃まで冷却して4倍延伸シートを得た。
【0177】
一方、ヒートシール層(B)の材料として、表3記載のメタロセン系ポリエチレン(PE−1)を、230℃に設定した押出機にて溶融させ、230℃に設定したTダイよりシート状に押し出し、上記の4倍延伸シートの上に重ねて、#150線のグラビアエンボスを付形した金属冷却ロールとマット調ゴムロールとの間に導いた。金属冷却ロールとマット調ゴムロールとの間で挟圧して両者を接合しながら、熱可塑性樹脂側にエンボスパターンを転写し、冷却ロールにて室温に冷却して、オレフィン系樹脂フィルム/ヒートシール層の2層構造を有する積層樹脂シートを得た。
【0178】
次いで、このオレフィン系樹脂フィルム/ヒートシール層の2層構造を有する積層樹脂シートを、テンターオーブンを用いて160℃に再加熱した後、テンターを用いて横方向に9倍延伸した。更に、160℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を実施した後、冷却ロールにて約60℃まで冷却した。その後、耳部をスリットして、表4Bに記載の全体厚さ、密度、不透明度を有する2層構造の2軸延伸樹脂フィルムを得た。これをシート成形例1の熱可塑性樹脂フィルムとした。
【0179】
シート成形例2:
シート成形例1において、基材層(A)を構成するPP−1、CA−1、TI−1の配合比を表4Aの通りに変更し、押出機の吐出量をシート成形例1の75%に変更したこと以外はシート成形例1と同様にしてシート成形例2の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0180】
シート成形例3:
基材層(A)の材料として、表3に記載の高密度ポリエチレン(PE−3)、重質炭酸カルシウム(CA−2)を質量比30:70で混合した。これを180℃に設定した押出機にて溶融混練した後、190℃に設定したTダイに供給し、シート状に押し出した。押し出されたシートを冷却ロールにて約40℃まで冷却して、296μmの無延伸シートを得た。次に、無延伸シートを、110℃に再加熱した後、ロール群の周速差を利用して縦方向に2倍延伸(MD延伸)し、引き続きテンターオーブンを用いて128℃に再加熱した後、テンターを用いて横方向に2倍延伸(TD延伸)した。更に、130℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を実施した後、冷却ロールにて約60℃まで冷却した。その後、耳部をスリットして、多孔質層単層で構成される2軸延伸HDPEフィルムを得た。
【0181】
シート成形例4:
基材層(A)を構成するベース層の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−2)、プロピレン単独重合体(PP−3)、高密度ポリエチレン(PE−2)、重質炭酸カルシウム(CA−1)、ルチル型二酸化チタン(TI−1)を質量比14:60:10:15:1で混合した。これを260℃に設定した押出機にて溶融混練した後、260℃に設定したTダイに供給し、シート状に押し出し、得られたシートを冷却ロールにて約70℃まで冷却して無延伸シートを得た。次いで、この無延伸シートを、140℃に再加熱した後、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸し、冷却ロールにて約60℃まで冷却して5倍延伸シートを得た。
【0182】
一方、基材層(A)を構成するラミネート層の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−2)、プロピレン単独重合体(PP−3)、高密度ポリエチレン(PE−2)、重質炭酸カルシウム(CA−1)、ルチル型二酸化チタン(TI−1)を質量比20:30:4.5:45:0.5で混合し、260℃に設定したTダイよりシート状に押し出し、5倍延伸シートの上に重ね、2本の金属冷却ロールの間に導いた。2本の金属冷却ロールの間で挟圧して両者を接合し、冷却ロールにて室温に冷却して、ベース層/ラミネート層の2層構造を有する積層樹脂シートを得た。
【0183】
次いで、基材層(A)を構成するラミネート層の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−2)、プロピレン単独重合体(PP−3)、高密度ポリエチレン(PE−2)、重質炭酸カルシウム(CA−1)、ルチル型二酸化チタン(TI−1)を質量比20:30:4.5:45:0.5で混合し、260℃に設定したTダイよりシート状に押し出し、ベース層/ラミネート層の2層構造を有する積層樹脂シートのベース層上に重ね、2本の金属冷却ロールの間に導いた。2本の金属冷却ロールの間で挟圧して両者を接合し、冷却ロールにて室温に冷却して、ラミネート層/ベース層/ラミネート層の3層構造を有する積層樹脂シートを得た。
【0184】
次いで、このラミネート層/ベース層/ラミネート層の3層構造を有する積層樹脂シートを、テンターオーブンを用いて155℃に再加熱した後、テンターを用いて横方向に8倍延伸した。更に、160℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を実施した後、冷却ロールにて約60℃まで冷却した。その後、耳部をスリットして表4Bに記載の全体厚さ、密度、不透明度を有する3層構造の2軸延伸樹脂フィルムを得た。これをシート成形例4の熱可塑性樹脂フィルムとした。
【0185】
シート成形例5:
シート成形例4において、基材層(A)を構成するベース層及びラミネート層のPP−2、PP−3、PE−2、CA−1、TI−1の配合比を表4Aの通りに変更したこと以外はシート成形例4と同様にしてシート成形例5の熱可塑性樹脂フィルムを得た。
【0186】
シート成形例6:
シート成形例4において、基材層(A)を構成するベース層及びラミネート層のPP−2、PP−3、PE−2、CA−1、TI−1の配合比を表4Aの通りに変更したこと以外はシート成形例4と同様にしてベース層/ラミネート層の2層構造を有する積層樹脂シートを得た。
【0187】
次いで、強度付与層(C)を構成する材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−2)、プロピレン単独重合体(PP−3)、高密度ポリエチレン(PE−2)、重質炭酸カルシウム(CA−1)、ルチル型二酸化チタン(TI−1)を質量比14:60:10:15:1で混合し、260℃に設定したTダイよりシート状に押し出し、ベース層/ラミネート層の2層構造を有する積層樹脂シートのベース層上に重ね、2本の金属冷却ロールの間に導いた。2本の金属冷却ロールの間で挟圧して両者を接合し、冷却ロールにて室温に冷却して、強度付与層(C)/ベース層/ラミネート層の3層構造を有する積層樹脂シートを得た。
【0188】
次いでこの無延伸シート(強度付与層(C)/ベース層/ラミネート層の3層構造を有する積層樹脂シート)を、140℃に再加熱した後、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸し、冷却ロールにて約60℃まで冷却して5倍延伸シートを得た。次いで、この縦方向に5倍に延伸された積層樹脂シートを、テンターオーブンを用いて155℃に再加熱した後、テンターを用いて横方向に9倍延伸した。更に、160℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を実施した後、冷却ロールにて約60℃まで冷却した。その後、耳部をスリットして表4Bに記載の全体厚さ、密度、不透明度を有する3層構造の2軸延伸樹脂フィルムを得た。これをシート成形例6の熱可塑性樹脂フィルムとした。
【0189】
シート成形例7:
シート成形例6において、強度付与層(C)の代わりに高平滑層(D)を形成したこと以外はシート成形例6と同様にしてシート成形例7の熱可塑性樹脂フィルムを得た。より具体的には、高平滑層(D)を構成する材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−1)を、260℃に設定したTダイよりシート状に押し出し、ベース層/ラミネート層の2層構造を有する積層樹脂シートのベース層上に重ね、2本の金属冷却ロールの間に導いた。2本の金属冷却ロールの間で挟圧して両者を接合し、冷却ロールにて室温に冷却して、高平滑層(D)/ベース層/ラミネート層の3層構造を有する積層樹脂シートを得た。
【0190】
シート成形例8:
基材層(A)を構成するベース層の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−1)、プロピレン単独重合体(PP−3)、高密度ポリエチレン(PE−2)、重質炭酸カルシウム(CA−1)を質量比40:30:10:20で混合し、これを260℃に設定した主押出機にて溶融混練した。一方、基材層(A)を構成するラミネート層の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−1)、高密度ポリエチレン(PE−3)、重質炭酸カルシウム(CA−1)、ルチル型二酸化チタン(TI−1)を質量比65:15:10:10で混合し、ポリプロピレン(MFI:2.4)67重量%、静電気防止剤3重量%を混合した後、これを260℃に設定した第1副押出機にて溶融混練した。また、高平滑層(D)の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−1)を260℃に設定した第1副押出機にて溶融混練した。
【0191】
上記材料を3種3層のTダイに導き、Tダイの中で高平滑層(D)/ベース層/ラミネート層の3層に積層し、Tダイヘッドから押し出した。押し出されたシートを45℃に設定された冷却ロールで冷却して、高平滑層(D)/ベース層/ラミネート層の3層構造を有する積層樹脂シートを得た。次いで、この無延伸シート(高平滑層(D)/ベース層/ラミネート層の3層構造を有する積層樹脂シート)を、135℃に再加熱した後、ロール群の周速差を利用して縦方向に5倍延伸し、冷却ロールにて約60℃まで冷却して5倍延伸シートを得た。次いで、この縦方向に5倍に延伸された積層樹脂シートを、テンターオーブンを用いて155℃に再加熱した後、テンターを用いて横方向に9倍延伸した。更に、165℃に調整した熱セットゾーンによりアニーリング処理を実施した後、冷却ロールにて約60℃まで冷却した。その後、耳部をスリットして表4Bに記載の全体厚さ、密度、不透明度を有する3層構造の2軸延伸樹脂フィルムを得た。これをシート成形例8の熱可塑性樹脂フィルムとした。
【0192】
シート成形例9:
基材層(A)の材料として、表3に記載のプロピレン単独重合体(PP−2)、プロピレン単独重合体(PP−3)、高密度ポリエチレン(PE−2)、重質炭酸カルシウム(CA−1)、ルチル型二酸化チタン(TI−1)を質量比12:8:5:70:5で混合した。これを200℃に設定した主押出機にて溶融混練した。次いで、主押出機からストランド状に押し出した基材層(A)用の樹脂組成物を220℃に設定したカレンダー成形機に送り、引き取り速度比1:2.5で60℃に設定した引取り機で引き取って単層フィルムを得た。これをシート成形例9の熱可塑性樹脂フィルムとした。
【0193】
[粘着剤層(E)の形成]
シリコーン処理を施したグラシン紙(G7B、王子タック株式会社製)を剥離シート層(E)として用い、グラシン紙のシリコーン処理面に、溶剤系アクリル系粘着剤(オリバインBPS1109、トーヨーケム株式会社製)と、イソシアネート系架橋剤(オリバインBHS8515、トーヨーケム株式会社製)と、トルエンとを100:3:45の割合で混合した混合液を、乾燥後の坪量が25g/mとなるようにコンマコーターで塗工し、乾燥して粘着剤層(E)を形成した。次いで、この粘着剤層(E)に後述の熱可塑性樹脂フィルムのバック面の側が接するように積層し、熱可塑性樹脂フィルムとグラシン紙とを圧着ロールで加圧接着して、熱可塑性樹脂フィルム上に粘着剤層(E)を形成した。
【0194】
[記録層(F)の形成]
記録層(F)として、アンカーコート層、感熱記録層、または、インクジェット受容層を製造した。
【0195】
(アンカーコート層の形成)
ポリエステル樹脂溶液(バイロンGK810、東洋紡株式会社製、ポリエステル樹脂40質量%)50質量部、フュームドシリカ(アエロジルR972、日本アエロジル社製、平均粒径16nm)1質量部、トルエン44質量部、シクロヘキサノン15質量部、酢酸ブチル15質量部、及び、シリコーン油(ペインタッドM、ダウコーニング社製)0.1質量部を攪拌混合して、アンカーコート層用塗工液を作成した。次に、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の側の表面コート層上に、上記のとおり調製したアンカーコート層用塗工液を、メイヤーバー#20及びバーコーターを用いて塗工した。アンカーコート層用塗工液を60℃で乾燥させてアンカーコート層を形成した。
【0196】
(感熱記録層の形成)
3−(N−メチル−N−シクロヘキシルアミノ)−6−メチル−7−アニリノフルオラン4質量部、3−ジエチルアミノ−7−オルトクロロアニリノフルオラン1質量部、及び、ヒドロキシエチルセルロース5%水溶液20質量部よりなる組成物を、サンドグラインダーで平均粒径2μmまで粉砕して、A液とした。一方、4,4'−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)25質量部、ステアリン酸アミド15質量部、及び、ヒドロキシエチルセルロース5%水溶液140質量部よりなる組成物を、サンドグラインダーで平均粒径2μmまで粉砕して、B液とした。次いで、A液25質量部、B液180質量部、タルク50%水分散液70質量部、及び、バインダーとしてのヒドロキシエチルセルロース5%水溶液240質量部を混合し、感熱記録層形成用塗工液を得た。次に、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の側の表面コート層上に、上記のとおり調製した感熱記録層形成用塗工液をメイヤーバー#2及びバーコーターを用いて塗工した。感熱記録層形成用塗工液を60℃で乾燥させて感熱記録層を形成した。
【0197】
(インクジェット受容層の形成)
カチオンポリマー(Sumirez Resin1001、田岡化学工業株式会社製、カチオンポリマー30質量%)30質量部を水1000質量部に溶解した溶液に、フュームドシリカ(CAB−O−SIL M−5、キャボット製、BET比表面積200m/g、pH4.0)100質量部を少しずつ混合して分散液を作成した。この分散液に、完全ケン化型ポリビニルアルコール(PVA−140H、株式会社クラレ製)の10質量%水溶液を200質量部添加して1時間攪拌したのち、水を添加して濃度を8質量%に調整してインクジェット受容層用塗工液を得た。次に、熱可塑性樹脂フィルムのフロント面の表面コート層上に、上記にて調製したインクジェット受容層用塗工液をメイヤーバー#60及びバーコーターを用いて塗工した。インクジェット受容層用塗工液を105℃で乾燥させてインクジェット受容層を形成した。
【0198】
[実施例]
(コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造及びラベル付き中空成型容器の製造)
実施例1:
シート成形例1で得た熱可塑性樹脂フィルムの基材層(A)側(フロント面)に、ワット密度60W・min/mでコロナ放電処理を実施した。コロナ放電処理された面に製造例1の塗工剤をwet塗工量が5g/mになるようにバーコーターを用いて塗工し、70℃で1分間乾燥させ、熱可塑性樹脂フィルム表面に表面コートを形成した。
【0199】
実施例2〜19及び比較例1〜4:
製造例1において、熱可塑性樹脂フィルムのシート成形例、調製例の塗工剤、wet塗工量及び塗工面、粘着剤層(E)の有無、記録層(F)の有無及びその種類を表5に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして熱可塑性樹脂フィルム表面に表面コートを形成した。
さらに、
【0200】
表5に、熱可塑性樹脂フィルムの実施例及び比較例における表面コート層の形成条件及び熱可塑性樹脂フィルムの評価結果を示す。表5における表面コート層の形成条件としては、熱可塑性樹脂フィルムの種類と、塗工剤の種類と、塗工剤の塗工量(Wet塗工量及びDry塗工量)[g/m]と、塗工面の種類と、バック面の粘着剤層(E)の有無と、フロント面の記録層(F)の有無及び種類とを示す。表5における評価結果としては、23℃/30%における帯電半減期S[秒]と、水接触角H[°]と、オフセット印刷の評価(印刷性及び耐水性)と、40℃/80%/24時間の加湿促進印刷試験の評価(インキ転移及びインキ密着)と、各表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムをインモールドラベルとして用いた中空成型容器の外観の評価とを示す。なお、表5において、「−」と記載している項目についての評価を実施していないことを示す。
【0201】
【表5】
【0202】
実施例20:
表6Aに示すとおり、シート成形例3の熱可塑性樹脂フィルムの両面に表面コート層を設け、その片面をフロント面とし、上記の方法で、フロント面のUVオフセット印刷性評価、UVインクジェット適性評価、溶融熱転写印刷評価および電子写真印刷評価を行った。その結果を表6B及び表6Cに示す。
【0203】
実施例22、26、28、30、32、および36:
実施例20と同様にして、表6Aに示すとおり、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に表面コート層を設けてなるフロント面について、表6B及び表6Cの少なくとも一方に示す各種評価を行った。
【0204】
実施例21:
表6Aに示すとおり、シート成形例3の熱可塑性樹脂フィルムの片面に表面コート層を設け、表面コート層を設けた面をフロント面として、表面コート層の上に記録層(F)としてアンカーコート層を形成し、次いでバック面に粘着剤層(E)を設けた。次いで、上記の方法で、フロント面の溶融熱転写印刷評価及び電子写真印刷評価を行った。その結果を表6Cに示す。
【0205】
実施例23、27、29、31、33、および37:
実施例21と同様にして、表6Aに示すとおり、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片方の面に表面コート層を設け、表面コート層を設けた面をフロント面として、表面コート層の上に記録層(F)としてアンカーコート層を形成した。次いで、フロント面について、表6B及び表6Cの少なくとも一方に示す各種評価を行った。
【0206】
実施例24:
表6Aに示すとおり、シート成形例4の熱可塑性樹脂フィルムの両面に表面コート層を設け、表面コート層の一方の面をフロント面として、表面コート層の上に記録層(F)として感熱記録層を形成した。次いで、上記記載の方法で、フロント面の直接感熱印刷適性評価を行った。その結果を表6Cに示す。
【0207】
実施例34:
表6Aに示すとおり、シート成形例8の熱可塑性樹脂フィルムの両面に表面コート層を設け、表面コート層の一方の面をフロント面として、表面コート層の上に記録層(F)として感熱記録層を形成した。次いで、表6に示すとおり、フロント面の直接感熱印刷適性評価を行った。その結果を表6Cに示す。
【0208】
実施例25:
表6Aに示すとおり、シート成形例4の熱可塑性樹脂フィルムの両面に表面コート層を設け、表面コート層の一方の面をフロント面として、表面コート層の上に記録層(F)としてインクジェット受容層を形成した。次いで、上記の方法でフロント面の水系インクジェット適性評価を行った。その結果を表6Cに示す。
【0209】
実施例35:
表6Aに示すとおり、シート成形例8の熱可塑性樹脂フィルムの両面に表面コート層を設け、表面コート層の一方の面をフロント面として、表面コート層の上に記録層(F)としてインクジェット受容層を形成した。次いで、上記の方法でフロント面の水系インクジェット適性評価を行った。その結果を表6Cに示す。
【0210】
表5からわかるとおり、少なくとも一方の面に、金属酸化物を有する微粒子と有機高分子の溶媒分散体とに由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、熱可塑性樹脂フィルムの表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による帯電半減期Sが300秒以下である実施例1〜19の熱可塑性樹脂フィルムは、オフセット印刷評価が良好で、加湿促進印刷試験(40℃、80%、2週間)でもインキが完全に剥離せず良好であった。
【0211】
一方、表面コート層に金属酸化物を有する微粒子に由来する成分を含まない比較例1及び比較例2の熱可塑性樹脂フィルムの帯電半減期Sは、300秒より大きかった。比較例1及び比較例2の熱可塑性樹脂フィルムは、帯電半減期Sが長くなった結果、オフセット印刷評価において、給紙時にシートが2枚給紙され、また排紙時に静電気起因でシートが揃わない問題が発生した。
【0212】
また、比較例2〜4の熱可塑性樹脂フィルムは、表面コート層に有機高分子の溶媒分散体に由来する成分を含まない。この場合、UVオフセット印刷評価において、印刷後の耐水性が得られなかった。
【0213】
実施例1〜19と、比較例1及び比較例2とを対比すると、樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、金属酸化物を有する微粒子を含む塗工液に由来する表面コート層を形成することで、帯電半減期Sが小さくなり、帯電防止性を有する樹脂フィルムが得られることが分かる。加えて、実施例1〜19と、比較例2〜4とを比較すると、塗工液に有機高分子の溶媒分散体を更に添加することにより、帯電防止性に優れ、かつ、印刷性または耐水性に優れた樹脂フィルムが得られることが分かる。
【0214】
実施例の中でも、実施例1〜6、11〜16、18及び19と、実施例7〜10及び17とを対比すると、表面コート層中における有機高分子の溶媒分散体に由来する成分の含有量が特定の閾値を超えると、熱可塑性樹脂フィルムのオフセット印刷における耐水性または加湿促進試験におけるインキ密着性が良好になることがわかる。また、塗工液に水溶性ポリマーを添加することにより、塗工液の乾燥後も粘着性を有する塗膜を形成することができる。例えば、実施例1と、実施例3とを対比すると、水溶性ポリマーに由来する成分を含むことで、熱可塑性樹脂フィルムのオフセット印刷における耐水性または加湿促進試験におけるインキ密着性がより良好になることがわかる。
【0215】
【表6A】
【表6B】
【表6C】
【0216】
表6A、表6B及び表6Cにおいて、「−」は、該当する層を有しないことを示す。表6B及び表6Cにおいて、「−」と記載している項目についての評価は実施していないことを示す。表6A、表6B及び表6Cにおいて、実施例20、22、26、28、30、32、36及び37に示すとおり、表面コート層上に、直接、情報を印刷できることが分かる。また、UVオフセット印刷、UVインクジェット印刷、溶融熱転写印刷、及び、電子写真印刷という、幅広い印刷方式に対応できることがわかる。また、実施例20と21、22と23、28と29、30と31、32と33、及び、36と37のそれぞれを対比すると、表面コート層上にアンカーコート層を設けることで、溶融熱転写印刷または電子写真印刷による印刷物は、熱可塑性樹脂フィルムとの密着性が向上することが分かる。
【0217】
実施例24及び34に示すとおり、表面コート層上に記録層(F)として感熱記録層を設けることで、直接感熱記録により情報を印刷できることが分かる。また、実施例27及び37に示すとおり、表面コート層上に記録層(F)としてインクジェット受容層を設けることで、水系染料インクジェット記録及び水系顔料インクジェット記録により情報を印刷できることが分かる。
【0218】
実施例21、23、29、33、及び37に示すとおり、熱可塑性樹脂フィルムのバック面に粘着剤層(E)を設けることで、粘着フィルムが得られることが分かる。加えて、各実施例は、インモールド成形用ラベル、粘着用ラベルとしての適用できることを示している。
【0219】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、技術的に矛盾しない範囲において、特定の実施形態について説明した事項を、他の実施形態に適用することができる。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。例えば、本願明細書には、少なくとも一方の面に金属酸化物を有する微粒子に由来する表面コート層を有する熱可塑性樹脂フィルムであって、上記熱可塑性樹脂フィルムの上記表面コート層を有する面におけるJIS L 1094:1997で規定される半減期測定法による、帯電半減期Sが300秒以下であることを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルム及び上記熱可塑性樹脂フィルムをインモールド成形により貼着してなるラベル付き中空成型容器、粘着フィルム、ラベル及び印刷用フィルムが記載されている。
【0220】
請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0221】
表面の帯電防止性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが得られた。また、表面コート層の印刷性または耐水性に優れた熱可塑性樹脂フィルムが得られた。これにより、印刷時の給排紙トラブルが改善される。また、印刷前のフィルムを高湿度環境下で保管した場合でも、表面コート層の変質に起因するインキ転移不良を抑制することができる。その結果、印刷を施すすべての用途に適する。さらに、フィルムを加工する場合に、静電気起因のハンドリング不良を抑制することができる。そのため、ラベル等の用途に適する。また、インモールド成形時に印刷インキの剥がれや熱可塑性樹脂フィルムの変形を抑制することができる。そのため、熱可塑性樹脂フィルムを貼着してなるラベル付きプラスチック容器の製造に適する。また、粘着剤層を設けることによって粘着フィルム及び粘着ラベルが得られ、記録層を設けることによって可変情報を印刷することが可能なラベルや印刷フィルムが得られる。