(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一の実施形態において、アーチワイヤを歯と連結するための歯科矯正ブラケットが提供される。該歯科矯正ブラケットは、ブラケット本体、弾性ヒンジピン、及びラッチを備える。該ブラケット本体は、歯に取り付けられるように構成された第1の表面、第2の表面、及び前記第2の表面におけるアーチワイヤスロットを含む。該ヒンジピンは、ブラケット本体と動作可能に連結された第1のシャフト部分、及び第2のシャフト部分を含む。ラッチは、ヒンジピンによって画定された回転軸に関する移動のための、ヒンジピンの第2のシャフト部分によって、ブラケット本体に動作可能に連結される。該ラッチは、アーチワイヤが前記アーチワイヤスロット内に挿入可能である開放位置と、前記ラッチが前記アーチワイヤスロット内でアーチワイヤを保持する閉鎖位置との間で移動可能である。ヒンジピンの第1のシャフト部分及び/又は第2のシャフト部分の断面輪郭(cross−sectional profile)がラッチに対してばね付勢を行うために弾性的に変形するように構成されている。
【0006】
第1のシャフト部分及び/又は第2のシャフト部分の断面輪郭は、ブラケット本体に対するラッチの位置及び/又はラッチ上の任意の力の方向に応じて変化することができる。一の実施形態において、ヒンジピンの第1のシャフト部分及び第2のシャフト部分のうちの1つは、ラッチが閉鎖位置にある場合の第1の断面輪郭から、前記ラッチが閉鎖位置から移動する場合の第2の断面輪郭へ弾性的に変形するように構成されており、前記ばね付勢が前記閉鎖位置からの前記ラッチの移動に抵抗し、且つ前記第1の断面輪郭及び前記第2の断面輪郭は、異なっている。
【0007】
一の実施形態において、ヒンジピンの前記第1のシャフト部分及び第2のシャフト部分のうちの1つは、第2の断面輪郭から、ラッチが開放位置に向けて回転される場合の第3の断面輪郭へ弾性的に変形するように構成されている。
【0008】
一の実施形態において、ヒンジピンは、中空円筒である。
【0009】
一の実施形態において、ブラケット本体は、第1のシャフト部分を受容するためのボアを含み、ラッチは第2のシャフト部分を受容するための孔を含み、孔及びボアの少なくとも1つは、回転軸を含む平面に沿って非対称的な断面輪郭を有する。
【0010】
一の実施形態において、ボアは、ボア断面輪郭を含み、孔は孔断面輪郭を含む。前記ボア断面輪郭及び前記孔断面輪郭のうちの1つは、前記第1のシャフト部分又は前記第2のシャフト部分の対応する断面輪郭に対して略合同ではない。ヒンジピンは、前記ボア又は前記孔に対して移動し、且つラッチが閉鎖位置から移動する場合、略合同ではない断面輪郭の少なくとも1部に向けて弾性的に変形するように構成されている。
【0011】
一の実施形態において、孔断面輪郭は、前記第2のシャフト部分に対して略合同ではなく、且つ中央部分及び第1の狭い端部を含む。第2のシャフト部分は、ラッチが閉鎖位置にある場合に前記中央部分に位置しており、前記ラッチが閉鎖位置から移動する場合に前記第1の狭い端部内に弾性的に変形する。
【0012】
一の実施形態において、孔断面輪郭の中央部分は、閉鎖位置においてヒンジピンを弾性的に変形するように寸法決めされる。
【0013】
一の実施形態において、前記略合同ではない断面輪郭は、中央部分と隣接している第1の狭い端部を含む。第1のシャフト部分及び第2のシャフト部分のうちの1つは、ラッチが閉鎖位置にある場合に前記中央部分に位置されており、前記ラッチが前記閉鎖位置から移動する場合に前記第1の狭い端部内に弾性的に変形する。
【0014】
一の実施形態において、略合同ではない断面輪郭は、前記中央部分と隣接している第2の狭い端部を含み、第1のシャフト部分及び前記第2のシャフト部分のうちの1つは、前記ラッチが前記開放位置に向けて移動する場合に、前記第2の狭い端部内に弾性的に変形する。
【0015】
一の実施形態において、ラッチはカム表面を含む外周を含み、カム表面はブラケット本体と接触するように構成され、且つ前記ラッチが前記閉鎖位置から前記開放位置へ前記回転軸に関して回転する場合に、前記回転軸に対して非同一直線上(non−collinear)の方向において前記ラッチを移動させるように構成される。
【0016】
一の実施形態において、前記カム表面は、前記ラッチを前記開放位置に保持するように、前記ブラケット本体と接触するように構成される。
【0017】
一の実施形態において、ブラケット本体は凹部を含み、ラッチは、前記ラッチが閉鎖位置にある場合に、前記凹部と係合された突出部を含み、それによって閉鎖位置から前記開放位置に向けて前記回転軸に関する前記ラッチの移動を阻止する。前記ヒンジピンの前記ばね付勢は、凹部から離れた方向において、前記ラッチの移動に抵抗する。
【0018】
一の実施形態において、前記ブラケット本体は、前記ラッチが前記閉鎖位置にある場合に、前記ラッチと係合されたショルダーを含み、それによって前記閉鎖位置から前記開放位置に向けて前記回転軸に関する前記ラッチの移動を阻止する。前記ヒンジピンの前記ばね付勢は、前記ショルダーから離れた前記ラッチの移動に抵抗する。
【0019】
一の実施形態において、前記ラッチは、前記閉鎖位置への前記ラッチの移動を阻止するために、前記ラッチが前記閉鎖位置にあり、且つ前記閉鎖位置から移動する場合に、前記ブラケット本体と接触するように構成されている。
【0020】
本願明細書に組み込まれ、且つ本願明細書の一部を構成する添付した図面は、本願発明の複数の実施形態を図示し、且つ以下に付与された詳細な説明とともに、本願発明を説明するのに役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面を続けて参照すると、特に
図1及び
図2を参照すると、自己結紮型歯科矯正ブラケット110の一の実施形態は、ブラケット本体112と、(
図2に示されるように)弾性ヒンジピン116によってブラケット本体112に動作可能に連結された移動可能な結紮ラッチ114と、を含む。自己結紮型歯科矯正ブラケット110は、矯正的な歯科矯正処置において使用するために構成される。その目的のために、ブラケット本体112は、ブラケット本体112に形成されたアーチワイヤスロット118を含む。該アーチワイヤスロット118は、歯に矯正力を適用するためのアーチワイヤ(図示せず)を受容するように適合される。結紮ラッチ114は、結紮ラッチ114がアーチワイヤスロット118内にアーチワイヤを保持する閉鎖位置(
図1)と、該アーチワイヤがアーチワイヤスロット118内に挿入可能である開放位置(
図2)との間で移動可能である。閉鎖位置から開放位置への結紮ラッチ114の移動は、ヒンジピン116によって決定された回転軸117回りの回転運動と、結紮ラッチ114とブラケット本体112との間の相対的な並進運動との組み合わせを必要とする場合がある。例として、並進運動は、回転軸に対する非同一直線上の動きを含む場合がある。さらなる例として、非同一直線上の移動は、回転軸117に対して略垂直である1つ又は複数の方向を含む場合がある。以下に詳細に記載されるように、結紮ラッチ114は、弾性ヒンジピン116との相互作用によって、開放位置及び閉鎖位置でしっかり保持される場合がある。そのような相互作用は、ヒンジピン116の断面輪郭の変形を含む場合がある。この動作は、オダによる米国特許第7,674,110号明細書に開示されたブラケットなどの従来の自己結紮型歯科矯正ブラケットを改良する。米国特許第7,674,110号明細書の開示は、その全体を参照して本願明細書に組み込まれる。
【0023】
この実施形態の自己結紮型歯科矯正ブラケット110及び他の実施形態の歯科矯正ブラケットは、別の指定がない限り、上顎又は下顎の歯の舌側表面に取り付けられる基準系(reference frame)を使用して本願明細書に記載される。結果的に、歯科矯正ブラケット110を記載するために使用された、「唇側」、「舌側」、「近心」、「遠心」、「咬合」、「歯肉」などの用語は、選択された基準系に対して相対的である。しかしながら、本願発明の実施形態は、選択された基準系及び記述的な用語に限定されない。歯科矯正ブラケット110が口腔内で他の歯上で使用され、且つ他の配向で使用されることができる。例えば、歯科矯正ブラケット110はまた、歯の唇側表面に連結されることができ、且つ本願発明の技術的範囲内に存在することができる。当業者は、本願明細書で使用された記述的な用語が基準系における変化が存在する場合に、直接的に適用することができないことを認識するであろう。それにもかかわらず、本願発明の実施形態は、口腔内で、位置及び配向と無関係であることを意図されており、且つ歯科矯正ブラケットの実施形態を記載するために使用された相対的な用語は、図面において実施形態の明確な説明を単に提供するためのものである。唇側、舌側、近心、遠心、咬合側、及び歯肉側などの相対的な用語は少しも、本願発明の実施形態を特定の位置又は配向に限定しない。
【0024】
歯科矯正ブラケット110の一の実施形態は特に、上顎上の前歯の舌側表面での使用のために構成される。この点において、歯科矯正ブラケット110の全体の形状及び全体の輪郭は、上顎上の前歯の形状に実質的に対応する場合がある。患者の上顎上に担持された前歯の舌側表面に取り付けられた場合に、ブラケット本体112は、舌側部分120、咬合側部分122、歯肉側部分124、近心側部分126、遠心側部分128、及び唇側部分130を有する。ブラケット本体112の唇側部分130は、例えば、隣接する歯の周りで、適切な歯科矯正用セメント、接着剤、又はバンドによって任意の従来の方法で歯に固定されるように構成される。図示された配置において、唇側部分130は、歯の表面に固定される接着ベースを画定するパッド(図示せず)上に形成された対応する受け入れ部への挿入のために、及び受け入れ部との連結のために構成された、成形突出部132(
図2に二点鎖線で示される)を含む場合がある。該パッドは、(例えば、レーザー処理によって、又は他の従来の溶着処理によって)別個の部品又は要素としてブラケット本体112に連結されることができ、且つ特定の患者のために特別に形成されることができる。例えば、パッドは、歯の表面に対してアーチワイヤスロットを位置付ける間に、特定の患者の歯の表面に装着するためにカスタマイズされることができる。この点において、患者の歯の窪みが得られ、次いでコンピュータで操作するためにスキャンし、又はデジタル化される。コンピュータで操作された患者の歯のデータとともに、パッドは、該パッドの表面がその歯に一致するように製造される。該パッドは、直接式金属製造法(directmetal manufacturing)、又は金属パウダーがレーザーで焼結される、又は接着される他の類似の方法を介して、製造される場合がある。レーザー及び/又はパウダーは、その患者のためのパッドの表面及び厚さを前処理するために、患者の歯表面のコンピュータで操作されたデータによって方向付けられる。成形突出部132が、カスタム製造されたパッドにおける類似の成形凹部内に適合するために、略台形形状を画定することができることは、理解されるであろう。
【0025】
ブラケット本体112は、歯肉側結束ウィング134を含むことができ、該歯肉側結束ウィング134は舌側部分120で歯肉側方向において延在している。ブラケット本体112はまた、一対の咬合側結束ウィング(図示せず)を含むことができ、該一対の咬合側結束ウィングは舌側部分120で咬合側方向において延在している。例示的な実施形態において、歯科矯正ブラケット110は、歯肉側部分124に向けて幅狭くなるように構成されることができ、それによって上顎の前歯の形状と相関している(correlate)。この目的のために、ブラケット本体112は、歯肉側部分124に向けて近心側−遠心側方向で狭い状態になるように、僅かにテーパーを有することができる。この点において、当業者は、ブラケット110の形状又は一般的な輪郭が多くの形状をとることができ、且つ特定の歯の表面上に装着するために構成されることができるので、本願発明の実施形態が特定の全体的な構成又は輪郭に制限されないことを理解するであろう。
【0026】
ブラケット本体112は、その中に中央空間138を画定しており、該中央空間138は結紮ラッチ114を受容するために構成される。例えば、中央空間138は、ブラケット本体112において形成された略平行な近心側内部表面139a及び遠心側内部表面139bによって、近心側部分及び遠心側部分上に境界を付けられることができる。中央空間138は、ブラケット本体112の舌側部分120に形成された第1のカム表面140(
図4A〜
図5Bにおいて最もよく示されており、且つ以下により詳細に記載される)によって唇側部分上に境界を付けられる。中心空間138は、アーチワイヤスロット118と連通することができる。アーチワイヤスロット118は、ブラケット本体112の近心側部分126から遠心側部分128へ延在しており、歯肉側に付勢されるように通常傾斜されている。アーチワイヤスロット118は、略湾曲した表面を形成するために弓状に曲げられる、又はアーチ状に曲げられることができ、該略湾曲した表面は、アーチワイヤがその中に設置される場合に、アーチワイヤの湾曲に一般的に一致することができる。アーチワイヤスロット118の歯肉側の付勢は、歯の舌側処理中に真直ぐなワイヤの機械加工を容易にする。そのような適用における真直ぐなワイヤの機械加工は、タケモトらによる米国特許第6,264,468号明細書によってさらに説明され、その開示は、その全体を参照することによって本願に組み込まれる。アーチワイヤスロット118は、本願明細書で歯肉側スロット側面142a、唇側スロット側面142b、及び噛合側スロット側面142cとして参照された3つの略垂直な側面によって画定される。しかしながら、アーチワイヤスロット118が、歯肉側の付勢のために、略咬合側−舌側方向において開放されることは理解されるであろう。
【0027】
図2を参照すると、歯肉側スロット側面142aは、舌側縁部144を含む。舌側縁部144は、アーチワイヤスロット118に隣接し、該アーチワイヤスロット118から舌側方向でブラケット本体112に形成された略三角形状の凹部146の一側面を画定する。略三角形状の凹部146は、歯肉側スロット側面142aの舌側縁部144とブラケット本体112の歯肉側部分120での張出しリップ148との間で形成される。略三角形状の凹部146及び張出しリップ148は、以下でさらに詳細に説明されるように、閉鎖位置において結紮ラッチ114と係合するように構成される。
【0028】
図1に示されるように、該ブラケット本体112の舌側部分120は、張出しリップ148での、近心側部分126と遠心側部分128との間に形成された工具スロット150をさらに含むことができる。工具スロット150は、閉鎖位置において、結紮ラッチ114の上部を係合するために開口工具のための迅速なアクセスを提供する。工具スロット150はまた、張出しリップ148を近心側リップ部分148a及び遠心側リップ部分148bに分ける。
【0029】
図2に参照すると、示された例示的な実施形態の噛合側スロット側面142cは、ブラケット本体112の舌側部分120に連続して延在してない。その代わりに、噛合側スロット側面142cは、歯肉側スロット側面142aの舌側縁部144に対応する舌側縁部178で終端する。ブラケット本体112は、傾斜された舌側表面180をさらに含み、該傾斜された舌側表面180は、ブラケット本体112の舌側部分120から歯合側スロット側面142cの舌側縁部178に近接して形成されたショルダー182へ延在している。本願発明の実施形態が、噛合側スロット側部142がアーチワイヤスロット118を越えてブラケット本体112の舌側部分120に連続的に延在することができるように限定されないことは認識されるであろう。
【0030】
ブラケット本体112は、略円形断面を有する近心側−遠心側の貫通孔152をさらに含み、該貫通孔152は、アーチワイヤスロット118及び略三角形状の凹部146からの噛合側方向に位置しており、且つブラケット本体112の噛合側部分122からの歯肉側方向に位置している。貫通孔152は、中央空間138を交差しており、中央空間138によって分割される。弾性ヒンジピン116は、ブラケット本体112における貫通孔152内に配置され、それによって、結紮ラッチ114の回動点及びヒンジを画定する。この点において、ヒンジピン116の一部は、ブラケット本体112の近心側内部表面139aと遠心側内部表面139bとの間の中央空間138に亘って延在する。ヒンジピン116の一部は、ヒンジピン116がブラケット本体112に対してスライドすることができるように、又はブラケット本体112に対して回転することができるように、貫通孔152においてスライド可能に係合されることができる。いくつかの実施形態において、ヒンジピン116が貫通孔152内に位置付けられた後で、ブラケット本体112は、貫通孔152の領域において僅かに変形することができる。それによって、貫通孔152の円形状断面を僅かに変形させる。貫通孔152のこの僅かに変形した断面は、ヒンジピン116が故意ではなくブラケット本体112から抜け出すことを防止するために、ブラケット本体112に対してヒンジピン116の近心側−遠心側方向におけるスライド運動を妨げるように意図されるであろう。しかしながら、この僅かな変形は、
図1〜
図2の実施形態に図示されていない。
【0031】
ヒンジピン116は、弾性材料又は超弾性材料(superelastic material)からなる略中空円筒状部材(hollow cylindrical member)である。例示的な実施形態において、ヒンジピン116は、ニッケルチタニウム(NiTi)超弾性材料からなる。例として、一のニッケルチタニウムの組成は、僅かな量の不純物とともに、約55重量%のニッケル(Ni)と、約45重量%のチタニウム(Ti)と、を含み、カリフォルニア州フリートモントのNDCから入手可能である。ニッケルチタニウム合金の機械的な特性は、約155ksi以上の引張強度(ultimate tensile strength)と、約55ksi以上の上限プラトー(upper plateau)と、25Ksi以上の下限プラトー(lower plateau)とを含むことができる。ヒンジピン116の寸法は、ブラケット自体の寸法に応じて変化することができる。例として、円筒状のヒンジピンの直径は、約0.0145インチから約0.0175インチまで変化することができ、さらなる例として、約0.0155インチから約0.0165インチまで変化することができる。円筒状のヒンジピンの側壁の厚さは、約0.001インチから約0.003インチまで変化することができ、さらなる例として、約0.001インチから約0.0025インチまで変化することができる。一旦ブラケット内に組み込まれると、結紮ラッチは、結紮ラッチを開放する、且つ閉鎖するための力が、臨床的な使用のために所望される力に近づく前に、数回(例えば3回)開放され、且つ閉鎖されることができる。
【0032】
ブラケット本体112及び結紮ラッチは一般的に、17−4ステンレス鋼などの相対的に非弾性構造材料からなる。代替的な材料は、本願発明の技術的範囲内の他の実施形態におけるブラケット本体112、結紮ラッチ114、及びヒンジピン116のために使用されることができる。結果的に、ヒンジピン116は、貫通孔152でブラケット本体112内で保持されるが、以下に記載される結紮ラッチ114の有利な動作において、中央空間138で弾性的に変形するように構成される。
【0033】
図2、
図3、
図3A、及び
図4Aに示されるように、結紮ラッチ114は、先端部154と、回動部156とを含む。先端部154は、ブラケット本体112の略幅全体に亘って近心側−遠心側方向で延在する。
図2及び
図4Aに最もよく示されるように、先端部154は、歯肉側部分158、外側に延在する突出部162を含んでいる舌側部分160と、咬合側部分164と、歯肉側部分158及び咬合側部分164からそれぞれ延在している第1の唇側部分166a及び第2の唇側部分166bと、を含む。閉鎖位置において、
図4Aに示されるように、先端部154の咬合側部分158は、ブラケット本体112における三角形状の凹部146内で実質的に着座するように構成されており、それによって、先端部154の舌側部分160は、張出しリップ148の下に位置される。外側に延在する突出部162は、閉鎖位置において張出しリップ148に隣接するように構成されている一方、歯肉側部分164はヒンジピン116及び中央空間138に向けて面する。先端部154の第1の唇側部分166aは、アーチワイヤスロット118の唇側スロット側面142bに対して略平行に延在しており、アーチワイヤスロット118の開口部を閉鎖するように構成される。先端部154の第2の唇側部分166bは、アーチワイヤスロット118の咬合側スロット側面142cに対して略平行に延在するが、閉鎖位置において咬合側スロット側面142cから間隔をあけて配置される状態を維持する。咬合側スロット側面142cが舌側部分120まで延在しない実施形態において、結紮ラッチ114の先端部154は、第1の唇側部分166aが第2の唇側部分166bとアーチワイヤスロット118の咬合側スロット側面142cとの間の間隙を調整するように寸法決めされる状態で形成されることができる。間隙のサイズが、歯科矯正処置中に、アーチワイヤがアーチワイヤスロット118から間隙内に移動することを阻止するために寸法決めされることができることは、理解されるであろう。
【0034】
図1、
図3、
図3A、及び
図4Aを続けて参照すると、結紮ラッチ114の回動部156は、先端部154の咬合側部分164から咬合側方向において延在する。回動部156は、ブラケット本体112の近心側内部表面139aと遠心側内部表面139bとの間で、近心側−遠心側方向において延在する略楕円形状の断面によって画定されており、それによって
図1に最もよく示されるように中央空間138内に装着される。回動部156は、第2のカム表面170を画定している丸みのある外周168を含んでおり、該第2のカム表面170は、第1の部分170aと、転移部分(transition portion)170bと、第2の部分170cと、を有する。回動部156はまた、近心側−遠心側の楕円形状ピン孔172を含む。一般的に、近心側−遠心側の楕円形状ピン孔172は、ヒンジピン116の断面輪郭と形状的に異なっている。言い換えると、それぞれの断面輪郭は、略合同ではない場合がある。一方、貫通孔152は、ヒンジピン116の断面輪郭と実質的に合同とされる場合がある。楕円形状ピン孔172は、中央部分172aと、結紮ラッチ114の先端部154に向けて延在している第1の狭い端部172bと、第2のカム表面170の転移部分170bに向けた方向と実質的に反対方向において延在する第2の狭い端部172cと、を含む。楕円形状ピン孔172は、ヒンジピン116を受容するように構成されており、結紮ラッチ114が開放位置と閉鎖位置との間で移動すると、ヒンジピン116を弾性的に変形させるために、ヒンジピン116と相互作用するように構成されている。この目的のために、且つ例として、ピン孔172の全体的な構成は、非対称の断面輪郭を含むことができ、例えば、中央部分172a及び第1の狭い端部172bを包囲している卵形状型の断面輪郭、又は中央部分172a、第1の狭い端部172b、及び第2の狭い端部172cの全てが集合的に包囲される場合の二重卵形状型の断面輪郭(double egg−shaped type cross−sectional profile)を含むことができる。ピン孔172が、ヒンジピン116の対応部分と異なる特定の断面輪郭を有するように記載され、且つ貫通孔152がヒンジピン116の寸法に実質的に一致するように記載されるけれども、ピン孔172及び貫通孔152の形状が入れ替えることができることは、理解されるであろう。すなわち、貫通孔152は、本願明細書で開示された実施形態の技術的範囲から逸脱することなく、ピン孔172がヒンジピン116の外径と一致するように寸法決めされる状態で楕円形状とされる場合がある。
【0035】
この目的のために、一の実施形態において、結紮ラッチ114及びブラケット本体112は、ヒンジピン116が閉鎖位置(
図4A)又は開放位置(
図5B)において結紮ラッチ114を効果的に保持するように固有のカムの関係(unique cam relationship)で係合する。
図4Aに示されるように、ヒンジピン116は、閉鎖位置において、ピン孔172の中央部分172aに位置される。中央部分172aは、ヒンジピン116の付勢されていない状態の直径又は緩和状態の直径より僅かに狭くなるように設計されることができ、それによって、ヒンジピン116は、閉鎖位置において、僅かに圧縮される。結紮ラッチ114上の第2のカム表面170の第1の部分170aは、この位置においてブラケット本体112上の第1のカム表面140と係合されることができ、結紮ラッチ114の先端部154の歯肉側部分158は、以前に記載されるように、張出しリップ148の下に配置される。
【0036】
図4Bを参照すると、結紮ラッチ114を閉鎖位置から移動させるために、スケーラー型工具(scaler−type tool)又はさら頭(flat head)を有する回転工具(すなわち、ドライバー)などの工具(図示せず)は、ブラケット本体112の工具スロット150内に挿入されることができる。それによって、咬合側方向において、又は咬合側部分112に向けて、結紮ラッチ114を押し付ける。結紮ラッチ114はそれ故に、閉鎖位置から、ブラケット本体112に対する方向(矢印173によって示される方向)に沿って移動することができる。結紮ラッチ114が噛合側方向に移動すると、ガイドピン116がピン孔172の第1の狭い端部172b内に押し付けられるので、ヒンジピン116は、その断面輪郭に沿って弾性的に変形されることができる。この変形は、中央部分172aにおけるヒンジピン116の一部の略円形状の断面輪郭を、第1の狭い端部172bにある場合に、楕円形状の断面輪郭に弾性的に変形させることを含む場合がある。一の実施形態において、第1の狭い端部172bの輪郭は、ヒンジピン116の対応部分に押し付けられることができる。それによって、それらの断面輪郭は、互いに一致することができる。第1の狭い端部172bの他の構成が、ヒンジピン116を弾性的に変形させるために利用されることができることは、理解されるであろう。
【0037】
一旦先端部154の歯肉側部分158がブラケット本体112上の張出しリップ148を越えて平行移動すると、工具は、ヒンジピン116に対して結紮ラッチ114を回転させ始めることができ、それによって、先端部154をアーチワイヤスロット118から離れて移動させる又は回転させる。容易に理解されるであろうように、ヒンジピン116は、回転している先端部154が張出しリップ148を取り除いた(clear)後に、ピン孔172の中心部分172a内に戻るように直ちに膨脹する。すなわち、第1の狭い端部172bに存在したヒンジピン116の一部分は、結紮ラッチ114が閉鎖位置にあった間に、それが有していた断面輪郭を回復させることができる。先端部154の第2の唇側部分166bは、閉鎖位置からのこの移動中に、任意のポイントで咬合側スロット側面142cと接触状態にならない場合がある。結果的に、ピン孔172内の弾性ヒンジピン116の弾性変形は、先端部154の舌側部分160及びブラケット本体112上の張出しリップ148の係合がまた、結紮ラッチ114を閉鎖位置に保持することを促進することができるけれども、上述したように、工具がヒンジピン116をピン孔172内で変形させるまで、結紮ラッチ114を閉鎖位置に保持する。
【0038】
次に
図5Aを参照すると、結紮ラッチ114が、ヒンジピン116によって決定された回転軸に関して回転され続けると、結紮ラッチ114上の第2のカム表面170の転移部分170bは、前記ブラケット本体112における第1のカム表面140に対してスライドし始める。第2のカム表面170の転移部分170bは、前記第2のカム表面170の第1の部分170a及び第2の部分170cと比較して外側に突出する。それ故に、転移部分170bが第1のカム表面140に対して回転すると、結紮ラッチ114は、ブラケット本体112に対して結紮ラッチ114を平行移動させる方向において押し付けられる。これは、回転軸117と非同一直線上である方向において行われる場合がある。例えば、結紮ラッチ114は、(矢印175によって示されるように)舌側方向において押し付けられる場合がある。それによって、ヒンジピン116は、ピン孔172の第2の狭い端部172c内に圧縮する、又は弾性的に変形する。上述したように、弾性的な変形は、ヒンジピンが第2の狭い端部172c内に押し込まれると、ヒンジピン116の断面輪郭の弾性的な変形を含むことができる。
【0039】
図5Bを参照すると、結紮ラッチ114が次いで、第2のカム表面170の第2の部分170cが第1のカム表面140と係合状態になるように、さらに回転すると、ヒンジピン116は、
図2及び
図5Bの開放位置においてピン孔172の中央部分172a内に戻るように膨脹する、又は弾性的に回復する。結果的に、ピン孔172内の弾性ヒンジピン116の変形は、臨床医が、ピン孔172の第2の狭い端部172c内にヒンジピン116を変形させるための十分な力で、結紮ラッチ114を回転させるまで、開放位置において結紮ラッチ114を保持する。重力が、ヒンジピン116が開放位置で結紮ラッチ114を保持することなく、下顎に固定された歯科矯正ブラケット110において結紮ラッチ114を自動的に閉鎖するように意図する場合があるので、この動作は有利である。
【0040】
動作の概要を述べるために、弾性ヒンジピン116は、結紮ラッチ114におけるピン孔172によって圧縮される、又は弾性的に変形される。それによって、結紮ラッチ114は有利に、
図4Aの閉鎖位置又は
図5Bの開放位置のいずれかで保持される。結紮ラッチ114を閉鎖位置から開放位置へ移動させるために、工具スロット150内に挿入された工具は、ヒンジピン116をピン孔の第1の狭い端部172b内に変形させることによって、ブラケット本体112上の張出しリップ148を越えて、且つ張出しリップ148の周りで結紮ラッチ114を押し付けなければならない。次いで、工具又はフィンガは、結紮ラッチ114上の第2のカム表面170の転移部分170bが前記第1のカム表面140と係合すると、ヒンジピン116をピン孔172の第2の狭い端部172c内に変形させるように、回転方向において結紮ラッチ114を押し付けるために使用されることができる。結紮ラッチ114を開放位置から閉鎖位置へ移動させるために、臨床医は、反対方向においてヒンジピン116に関して結紮ラッチ114を回転させるために、結紮ラッチ114の先端部154の外側に延在する突出部162に押し進める場合がある。第1の唇側部分166aは、結紮ラッチ114が閉鎖位置に近づくと、ブラケット本体112上の張出しリップ148に当接するであろう。しかし、第1の唇側部分166aの滑らかに傾斜された外形は、臨床医が外側に延在する突出部162上に力を作用させると、咬合側方向において結紮ラッチ114にカムとして作用する(cam)ために構成され、それによって、専門工具を使用することなく、結紮ラッチ114が閉鎖位置に戻ることを可能にする。この点に関して、外側に延在する突出部162は、舌側の適用におけるブラケット110の低減された可視性で、結紮ラッチ114を容易に見つけるために、且つ閉鎖位置に向けて結紮ラッチ114を移動させるために、臨床医のための特定の触覚感覚を提供する。
【0041】
結紮ラッチ114が開放位置にある場合に、アーチワイヤスロット118の略楕円形状の開放方向は、臨床医がアーチワイヤをアーチワイヤスロット118内に容易に「挿入する(drop−in)」ことを可能にする。アーチワイヤはまた、アーチワイヤの置換又は調整が必要とされる場合に、ブラケット110から容易に取り除く。
【0042】
一の実施形態において、
図2に示されるように、任意のボール形状部材174(極めて細い線で示される)は、貫通孔152を閉鎖するように、近心側部分126でブラケット本体112と係合される。示されないけれども、他のボール形状部材は、ブラケット本体112の遠心側部分128に類似に配置されることができる。該ボール形状部材174は、僅かに変形されることができる。それによって、ボール形状部材174がブラケット本体112において摩擦適合によって保持される。任意のボール形状部材は、中空ヒンジピンを通じて開口通路を閉鎖し、食べ物又は他の物質が、ヒンジピン116に存在する状態になることを実質的に阻止し、その状態はブラケット110の性能に影響を与えることができる。
【0043】
ブラケット本体112の近心側内部表面139aと遠心側内部表面139bとの間の中央空間138に提供された有利なヒンジメカニズムは、ブラケット110が、従来の自己結紮型ブラケットに比べて、近心側−遠心側の全体の減少した幅で形成されることを可能にする。この目的のために、ブラケット110の減少した全体の幅は、前歯の舌側表面上での使用のために理想的に構成されており、前歯の対応する頬側表面又は唇側表面より小さな接着領域を有する。しかしながら、上述したように、ブラケット110は、本願明細書に記載された発明の技術的範囲から逸脱することなく、歯の唇側部分と同じように、上顎又は下顎の任意の数の歯に適用されることができる。
【0044】
一の実施形態において、
図1に示されるように、ブラケット110の歯肉側結束ウィング134は、略基準化された円形状断面を有する取付凹部176を含む。取付凹部176は、歯科矯正処置が補助的な部材を必要とする場合に、フック(図示せず)などの補助的な部材を受容するために構成される。補助的な部材は、ブラケット110の歯肉側部分124の周りの口における利用可能な空間が制限されるので、使用する前に取付凹部176と通常係合しない。基準化された取付凹部176との補助的な部材の接続は、この技術分野でよく理解されており、且つ本願明細書でさらに記載されていない。
【0045】
同様に
図1に図示されるように、一の実施形態において、一対の咬合側結束ウィング136は、上述したように、咬合側方向において延在しているというよりむしろ、それぞれ近心側方向及び遠心側方向において、咬合側部分122でブラケット本体112の舌側部分120から延在している。十分な量の空間が、結紮部材又は他の部材をブラケット110に結束するための咬合側結束ウィング136の下に提供されることを確実にするために、ブラケット本体112の幅は、ブラケット本体112の近心側部分126及び遠心側部分128上に形成された外側ショルダー184で内側に僅かに段をつける。ブラケット本体112を狭くすることは、
図1に最もはっきりと示される。しかしながら、ブラケット110における全体の近心側−遠心側の幅は、上顎の前歯の舌側部分に対する適用のために有利に構成され、且つ有利に形成される。
【0046】
本願発明の自己結紮型歯科矯正ブラケット410の他の実施形態は、
図6〜
図8に図示される。歯科矯正ブラケット410のこの実施形態は、上顎又は下顎における小臼歯の舌側部分上での使用のために構成される。以前の実施形態と同様に、歯科矯正ブラケット410は、ブラケット本体412と、ヒンジピン416によってブラケット本体412に連結された結紮ラッチ414と、を含む。結紮ラッチ414は、閉鎖位置と開放位置(二点鎖線で示される)と間で移動するように構成される。閉鎖位置において、結紮ラッチ414は、ブラケット本体412を通じて近心側−遠心側方向で形成されたアーチワイヤスロット418を閉鎖する。開放位置において、結紮ラッチ414は、アーチワイヤスロット418から離れるように移動し、それによって、アーチワイヤは、アーチワイヤスロット418内に位置付けられることができ、又はアーチワイヤスロット418から取り除かれることができる。さらに以下に詳細に記載されるように、結紮ラッチ414は、弾性ヒンジピン416との相互作用によって、閉鎖位置又は開放位置において保持される。以前の実施形態と同様に、ヒンジピン416は、超弾性ニッケルチタニウム材料からなる場合があり、且つブラケット本体412及び結紮ラッチ414は17−4ステンレス鋼からなる場合がある。
【0047】
一般的に言えば、小臼歯は、歯科矯正ブラケット410での厳密な寸法における制限を提供することはなく、それによって、ブラケット本体412は、略矩形状の形状を有する。ブラケット本体412の形状は、本願発明の技術的範囲を逸脱することなく変更されることができる。ブラケット410が上顎又は下顎における歯に取り付けられるかどうかにかかわらず、ブラケット本体412は、舌側部分420、咬合側部分422、歯肉側部分424、近心側部分426、遠心側部分428、及び唇側部分430を含む。唇側部分430は、歯の舌側表面と連結されるように再び構成されており、歯に固定されたパッド(図示せず)上に形成された対応する受け入れ部内への挿入のための成形突出部432を含むことができる。成形突出部432は、
図6及び
図8において二点鎖線で示されており、レーザー加工及び溶着を含む任意の周知な連結方法によってパッドに連結されることができる。
【0048】
示された例示的な実施形態において、歯科矯正ブラケット410は、どんな結束ウィングも含んでいない。その代わりに、ブラケット本体412は、一対の外側突出本体部分434a、434bを含んでおり、該一対の外側突出本体部分434a、434bは、アーチワイヤスロット418を部分的に画定し、且つアーチワイヤスロット418からブラケット本体412の歯肉側部分424への咬合側−歯肉側方向において延在している。一対の外側突出本体部分434a、434bは、互いから空間を空けて配置されており、それによって、ブラケット本体412の舌側部分420に亘って咬合側−歯肉側方向において延在している中央空間436を画定する。該一対の外側突出本体部分434a、434bは、略平行な内側対向表面438a、438bを含んでおり、該略平行な内側対向表面438a、438bは、中央空間436の近心側−遠心側の幅を画定する。中央空間436はまた、内側対向表面438a、438bの間で、ブラケット本体412に形成された第1のカム表面440(
図8)によって境界付けられる。
【0049】
アーチワイヤスロット418は、唇側スロット側面442aと、歯肉側スロット側面442bと、舌側スロット側面442cと、によって画定される。
図7及び
図8に最も明らかに示されるように、歯肉側スロット側面442b及び舌側スロット側面442cは、一対の外側突出本体部分434a、434bによって画定される。結果的に、アーチワイヤスロット418は、略咬合側方向において開放されている。アーチワイヤは再び、他の実施形態に対して以前に記載されるように、結紮ラッチ414が開放位置にある場合に、アーチワイヤスロット418内に“挿入”されることができる、又は容易に位置付けされることができる。ブラケット本体412は、ラッチスロット444を含んでおり、工具スロット446(
図7における二点鎖線によって示される)を含むことができる。該工具スロット446は、ブラケット本体412の咬合側部分422に近接した舌側部分420内で機械加工される。ラッチスロット444は、以下にさらに詳細に記載されるように、ブラケット本体412の幅に亘って近心側−遠心側方向において延在しており、結紮ラッチ414の前縁448を受容するように構成される。ラッチスロット444は、舌側スロット側部442aに直接的に隣接しており、舌側スロット側部442aから咬合側に隣接している。現在の場合、工具スロット446は、咬合側−歯肉側方向において延在することができ、ブラケット本体412の咬合側部面422から少なくともラッチスロット444へ延在することができる。工具スロット446は、閉鎖位置から離れて結紮ラッチ414を動かすために使用された工具の一部を受容するように構成されている。
【0050】
一対の外側突出本体部分434a、434bは、咬合側に延在しているショルダー450をさらに画定しており、該ショルダー450は、舌側部分420でアーチワイヤスロット418の上方に突出している。該ショルダー450及びヒンジピン416は、開放位置又は閉鎖位置において結紮ラッチ414を保持するために、結紮ラッチ414と協働するように構成される。一対の外側突出本体部分434a、434bはまた、第1のカム表面440から唇側方向において、且つブラケット本体412の舌側部分420から唇側方向において位置した、略円形状断面を有する近心側−遠心側の貫通孔452を含む。他の実施形態と同様に、貫通孔452は、弾性ヒンジピン416を受容するように構成されており、それによって、ヒンジピン416は、結紮ラッチ414のための回動点として中央空間436に亘って延在し、且つ回転軸453を実質的に画定する。ヒンジピン416は、ヒンジピン416が貫通孔452内に挿入された後で適用されたブラケット本体412の僅かな変形(図示された実施形態に示されていない)によって引き起こされた摩擦適合又は締まりばめによって貫通孔452内に保持される。
【0051】
結紮ラッチ414は、閉鎖部分454、回動部分456、及び閉鎖部分454から回動部分456の反対側に配置された補助部分458を含む。閉鎖部分454は、ブラケット本体412の幅に亘って近心側−遠心側方向において延在しており、且つ略L字状の断面を画定する。
図6及び
図8に示された閉鎖位置に対して、閉鎖部分454は、歯肉側部分460、咬合側部分462と、前縁448とを含む。閉鎖部分454の咬合側部分462の一部は、閉鎖部分454における任意の結束ウィング状のキャビティ464を画定するために機械加工される(machined off)ことがきる。この点において、キャビティ464は、結束ウィングに従来連結された結紮装置又は他の装置を受容することができる。前縁448は、示されるように、閉鎖位置においてブラケット本体412のラッチスロット444内に配置されるように構成される。閉鎖部分454の歯肉側部分460は、閉鎖位置において、アーチワイヤスロット418の咬合側部分を閉鎖するように構成される。歯肉側部分460は、閉鎖位置において、ブラケット本体412上のショルダー450の傾斜された角と当接関係又は当接に近い関係(near−abutting relation)になる一対の傾斜されたレリーフ部分466をさらに含む。閉鎖部分454は工具スロット468も含んでおり、該工具スロット468は、キャビティ464に隣接しており、且つブラケット本体412における工具スロット446と連通している。
【0052】
図8に示された実施形態を参照すると、回動部分456は、外周に沿って形成された第2のカム表面470を含んでおり、ヒンジピン416を受容するために構成されたピン孔472をさらに含む。第2のカム表面470は丸みを帯びた部分470aと、平坦な部分470bとを含んでおり、該丸みを帯びた部分470a及び平坦な部分470bは、結紮ラッチ414の移動中にブラケット本体412上の第1のカム表面440に対してスライドする、又は第1のカム表面440と係合するようにそれぞれ構成される。補助部分458は、カプセル形状の近心側−遠心側に延在する部材として形成され、該部材は、結紮糸又は他の補助的な取付装置を受容するために構成される。例えば、閉鎖部分454におけるキャビティ464は、以前の実施形態の結束ウィングを効果的に置換える。しかしながら、補助部分458との組み合わせにおける結束ウィング状のキャビティ464は、動力チェーン(power chains)及び同様のものがブラケット410に取り付けられる場合に、結紮ラッチ414の不注意な開放を阻止するように利用されることができる。この点において、動力チェーンからの負荷は、結紮ラッチ414上に等しく分散されることができる。特に、負荷は、ヒンジピン416の両側に分散されることができ、且つヒンジピン416に関する正味トルクを最小限に保つことができる。それ故に、結紮ラッチ414は、それらの状況下で開放しにくい。
【0053】
一の実施形態において、ピン孔472は、略楕円形状の中央部分474を含む。該中央部分472の長手方向軸は、唇側−舌側方向において方向付けられることができ、且つ楕円形形状の中央部分474と隣接しているローブ状部分476を含むことができる。略楕円形状の中央部分474は、ブラケット本体412におけるヒンジピン416の組み立てを容易にすることができる。一般的に、ピン孔472の断面輪郭は、上記に示すものと同様に、ヒンジピン416の対応する断面輪郭と略合同ではない場合があり、且つ貫通孔452に対して非対称的とされる場合がある。この点において、ヒンジピン416の外周は、それらに沿った全ての位置で、ピン孔472と接触しない場合がある。一の実施形態において、ヒンジピン416の少なくとも厚さは、上記に示したヒンジピン116より大きい。増加した厚さは、アーチワイヤスロット内のアーチワイヤの負荷下で、不注意な開放に対する結紮ラッチ414の抵抗を増加させることができる。アーチワイヤスロット118、418の相対的な配向のために、結紮ラッチ114と比較して、結紮ラッチ414が非常に大きな負荷を経験することができることは、理解されるであろう。アーチワイヤスロット118は、咬合側−舌側方向において実質的に方向付けされるのに対して、アーチワイヤスロット418は、咬合側−歯肉側方向においてより多く方向付けされ、それ故に、より大きな負荷は、結紮ラッチ414によって経験されることができる。一の実施形態において、ピン孔472は、ヒンジピン416の緩和状態の直径より一の方向において僅かに狭くなっている。それによって、ヒンジピン416は、中央空間436において連続的に圧縮され、又は弾性的に変形される。同様に、一の実施形態において、ヒンジピン416は、結紮ラッチ414が閉鎖位置にある場合にピン孔の歯肉側部分と接触し、この位置にある間に負荷が掛けられることができる。この位置におけるヒンジピン416のこの負荷状態又は非緩和状態は、有利とされる場合がある。この点において、前負荷がかけられる場合に、ヒンジピン416は、この位置において、結紮ラッチ414によって経験されそうであるより大きな負荷で結紮ラッチ414を閉鎖位置に維持することができる。さらに、ヒンジピン416に負荷を付与することは、示されるように、ショルダー450に隣接したブラケット本体412との直接的な当接関係で、結紮ラッチ414を維持することができる。これは、アーチワイヤスロット418で観察された公差における偏差を減少させることができ、アーチワイヤスロット418のより一致した咬合側−歯肉側の寸法を生み出すことができる。
【0054】
図8を参照すると、結紮ラッチ414は、結紮ラッチ414が閉鎖位置又は開放位置において保持されることができるように、固有のカムの関係でブラケット本体412と協働する。閉鎖位置において、閉鎖部分454の歯肉側部分460の傾斜されたレリーフ部分466は、結紮ラッチ414の不注意な開放に抵抗するように、ブラケット本体412上のショルダー450と当接することができる、又はショルダー450との当接関係になることができる。さらに、第2のカム表面470の丸みを帯びた部分470aは、ブラケット本体412上の第1のカム表面440と係合されることができる。
【0055】
結紮ラッチ414を閉鎖位置から開放位置へ移動させるために、マイナスドライバーなどの工具は、工具スロット468及び任意の工具スロット446内に挿入され、且つブラケット本体412に対して結紮ラッチ414を平行移動する方向(矢印478によって示される)に平行移動される。例えば、相対的な並進運動は、回転軸453に対して咬合側方向における移動を含むことができる。そのような移動によって、ヒンジピン416は、ローブ状部分476内に弾性的に変形し、レリーフ部分466は、咬合側方向においてショルダー450を取り除く(clear)。結紮ラッチ414は、回転軸453に関して回転される、又は移動されることができる。一の実施形態において、結紮ラッチ414は、ショルダー450に向けて閉鎖部分454を押し付けるように、工具スロット468内に工具を係合することによって、閉鎖位置から移動されることができる。傾斜されたレリーフ部分466は、ショルダー450上をスライドする(slide up)ように押し付けられることができ、咬合側方向において結紮ラッチ414を平行移動させ、ピン孔472内でさらに圧縮させる、又はさらに変形させるために、ヒンジピン416を押し付ける。
【0056】
図8を続けて参照すると、傾斜されたレリーフ部分466がショルダー450を取り除く(clear)直後に、結紮ラッチ414の回動部分456の回転は、第2のカム表面470の平坦な部分470bが第1のカム表面と係合させ、それによって、歯肉側方向において結紮ラッチ414のさらなる回転を阻止させるであろう。ヒンジピン416は、緩和状態又は非応力状態に関連した断面輪郭などの、その閉鎖位置における断面輪郭又は他の断面輪郭へ弾性的に回復することができる。しかしながら、
図8に示された開放位置において、閉鎖部分454の歯肉側部分460は、ブラケット本体412の舌側部分420でショルダー450に依然として当接することができるが、ヒンジピン416は、その弾性変形の回復のおかげで結紮ラッチ414を押し付け、結紮ラッチ414を開放位置に保持するように、歯肉側方向において僅かに平行移動させる。結紮ラッチ414を閉鎖位置から開放位置へ移動させるために、臨床医は、ブラケット本体412上のショルダー450に亘って、且つショルダー450を越えて、歯肉側部分460を押し付けるために、結紮ラッチ414の閉鎖部分454上に十分な力のみを適用する必要がある。
【0057】
結果的に、ヒンジピン416は、閉鎖位置又は開放位置に結紮ラッチ部材414を維持する。結紮ラッチ部材414は、制限された可視性及び臨床医にとって小臼歯の舌側部分上の利用可能な空間にかかわらず、工具によって又は手動で容易に移動させる。そのようなものして、歯科矯正ブラケット410は、他の実施形態のための上述した少なくとも同じ理由のために、従来の自己結紮型歯科矯正ブラケットと比較して有利である。
【0058】
自己結紮型歯科矯正ブラケット610の他の例示的な実施形態は、
図9に図示される。歯科矯正ブラケット610のこの実施形態は、上顎又は下顎における臼歯の舌側部分上の使用のために構成される。歯科矯正ブラケット610は、上記に開示された実施形態と同じ要素及び同じ動作的な機能性の多くを含む。しかしながら、一例として、
図9に示された実施形態と上記に示した実施形態との間の差異は、以下にさらに詳細に記載される。
【0059】
図9に示されるように、この実施形態の結紮ラッチ614は、閉鎖部分654及び回動部分656を含むが、補助部分を含んでいない。上記に開示した結紮ラッチと同様に、閉鎖部分654は、任意の結束ウィング状のキャビティ664を含むけれども、閉鎖部分654が断面においてプレート形状とされる場合があり、それによって、閉鎖部分654の咬合側部分622が、ブラケット本体612におけるラッチスロット644を越えて(咬合側方向において)突出しないことは、理解されるであろう。示された実施形態において、補助部分は、回動部分656の対向側部から取り除かれる。それ故に、結紮ラッチ614は、歯科矯正ブラケット610のこの実施形態において、ブラケット本体612上の結束ウィングを効果的に置換しない。
【0060】
この実施形態におけるブラケット本体612は、第2の実施形態(
図1及び
図2)を参照して以前に記載されるように、一対の円形状の基準化された取付窪み674を含むように変更される。取付窪み674は、ブラケット本体612の歯肉側部分624に沿って形成されており、より具体的には、第1のブラケット本体部分及び第2のブラケット本体部分(
図9に示された本体部分634a)で、ブラケット本体612の歯肉側部分624に沿って形成される。取付窪み674は、補助的フックなどの補助的な装置を受容するために構成される。技術的によく理解されるように、補助的フック676は、2つの歯科矯正ブラケットの間の結紮糸又は他の歯科矯正装置を連結するために使用される場合がある。ブラケット本体612はまたは、臼歯に対応するためにより幅広の近心側−遠心側の寸法で形成されるが、この略幅広の矩形状の形状は、本願発明の技術的範囲から逸脱することなく変更されることができる。
【0061】
結紮ラッチ614及びヒンジピン616は、本願明細書に記載される複数の実施形態と同一の方法で、開放位置又は閉鎖位置のいずれかに結紮ラッチ614を有利に保持して操作する。この点において、結紮ラッチ614の閉鎖部分654の歯肉側部分660は、ブラケット本体612におけるショルダー650に亘って工具によって、又は手動で押し付けられることができ、それによってピン孔472に類似のピン孔内でヒンジピン616を変形させる。歯科矯正ブラケット610は、上記に示された少なくとも同一の理由で、従来の自己結紮型歯科矯正ブラケットと比較して有利である。
【0062】
本願発明が様々な好ましい実施形態の説明によって図示されるけれども、且つそれらの実施形態が少し詳しく記載されるけれども、添付した特許請求の範囲をそのような詳細な説明に制限すること、又は任意の方法で限定することは、発明者の意図ではない。追加の利点及び変更は、当業者に容易に現れるであろう。本願発明の実施形態の様々な特徴は、使用者の必要性及び好みに応じて、単独で、又は任意の組み合わせで使用されることができる。