特許第6105152号(P6105152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105152
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】CVD製造空間の清掃
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/035 20060101AFI20170316BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20170316BHJP
   C23C 16/24 20060101ALI20170316BHJP
   A47L 13/16 20060101ALI20170316BHJP
   A47L 11/24 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C01B33/035
   C23C16/44 J
   C23C16/24
   A47L13/16 A
   A47L11/24
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-506833(P2016-506833)
(86)(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公表番号】特表2016-521239(P2016-521239A)
(43)【公表日】2016年7月21日
(86)【国際出願番号】EP2014055605
(87)【国際公開番号】WO2014166718
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2015年11月25日
(31)【優先権主張番号】102013206436.5
(32)【優先日】2013年4月11日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘルトレイン,ハラルト
(72)【発明者】
【氏名】ポップ,フリードリッヒ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−018675(JP,A)
【文献】 特開2013−032236(JP,A)
【文献】 特開昭60−060913(JP,A)
【文献】 特開2012−062243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
A47L 11/24
A47L 13/16
C23C 16/24
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のCVD反応器を含む多結晶シリコン製造用製造室を清掃する方法であって、清掃が少なくとも2週間の内に1回行われ、水性の洗浄液が清掃に使われ、該CVD反応器の外側ケーシング、パイプラインおよび該製造室の床が清掃される、方法。
【請求項2】
洗浄液で湿潤させた毛羽立ちのないクロスが清掃に使われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ブラシ型、湿式および乾式バキュームクリーナー、掃除機、スクラバードライヤー、シングルディスクマシーンなどの清掃機も清掃に使用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
使われる洗浄液が脱塩水を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
使われる洗浄液が、脱塩水ならびに5から15%のアニオン性界面活性剤および5%未満のイオン性界面活性剤を含む中性pH洗浄剤の混合物である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
CVD反応器の外側ケーシング、パイプラインおよび製造室の床が、少なくとも週1回清掃される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
最初に、それぞれのケースで、反応器の外側ケーシングおよびパイプラインを洗浄液で湿潤させた毛羽立ちのないクロスで拭き、その後になって初めて床を洗浄液で清掃する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
床が少なくとも週2回、パイプラインおよび反応器の外側ケーシングが少なくとも1日1回清掃される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコン製造用CVD製造室の清掃方法に関する。
【0002】
本発明は、多結晶シリコンがCVD(化学蒸着法)により製造される部屋または工場のホールに関する。
【背景技術】
【0003】
多結晶シリコンは、通常、シーメンス法によって製造される。この方法では、1種以上のシリコン含有成分および場合により水素を含む反応ガスが、直接通電により加熱される基材を含む反応器に導入され、シリコンは固体状態で基材上に蒸着される。使用が好ましいシリコン含有成分は、シラン(SiH)、モノクロロシラン(SiHCl)、ジクロロシラン(SiHCl)、トリクロロシラン(SiHCl)、テトラクロロシラン(SiCl)または前記物質の混合物である。
【0004】
シーメンス法は、通常、蒸着反応器(「シーメンス反応器」とも呼ばれる。)中で実行される。最もよく知られた実施形態では、反応器は金属製ベースプレートおよびベースプレートに取り付けられた冷却可能なベルを含み、これにより、反応チャンバーがベルの内部に形成される。ベースプレートは、1個以上のガス入口開口部および反応ガスが出て行くための1個以上の排ガス開口部を備え、さらにホルダーも備えており、このホルダーを使って反応チャンバー内に基材を保持し、電流を供給する。
【0005】
複数のこのようなシーメンス反応器が1つの製造室中に配置される。この方法では、設備として、反応器に反応ガス、即ち、シランおよび場合により水素を供給するための、および蒸着時に形成される排ガスを取り出すための多数のパイプラインも含まれる。
【0006】
多結晶シリコンは、高純度に対する要件を満たす必要がある。
【0007】
多結晶シリコンはロッドの反応器からの取り出しの間におよびその後の処理ステップの間に汚染する可能性がある。
【0008】
製造される大部分の多結晶シリコンロッドは、破砕片に粉砕する必要がある。理由は、エレクトロニクスおよび太陽光産業の顧客が後工程で処理することができるのが破砕片のみであるためである。1つの例外としては、浮遊帯(FZ)法により直接に単結晶シリコンロッドに変換され、その後ウエハにされる多結晶シリコンロッドがある。
【0009】
ロッドは通常、金属製粉砕工具を備えた粉砕機により機械的に粉砕される。この方法では、多結晶シリコンは表面が汚染される。種々の手段により、例えば、極めて耐摩耗性である結果として、ポリシリコンを汚染する金属の放出が少ない超硬合金製の粉砕工具を使って、この影響を弱めるための努力がなされている。多結晶シリコンがエレクトロニクス産業向けである場合、破砕片の湿式化学洗浄をさらに行い、ポリシリコンの表面から金属をエッチング除去する。
【0010】
しかし、多結晶シリコンは、この全体処理の間に、環境の影響にさらされる。これは反応器からのロッドの取り出しに始まり、次の処理ステップへの輸送および粉砕、洗浄および梱包設備における処理に関連する。これも汚染に繋がる。
【0011】
特に、反応器からのロッドの取り出しは、ポリシリコン製造における重要なステップであると考えられている。
【0012】
ロッドが冷却された後で、反応器のベルが開かれ、さらなる処理のために、または一時保管のために、ロッドが手作業でまたは取り出し補助具(removal aid)と呼ばれる特殊装置を使って取り出される。US20100043972A1は、多結晶シリコンロッドを取り出すためのさらなる装置を開示しており、この装置は、内壁、外壁および内壁と外壁との間の多数の連結部からなる壁、内壁と外壁との間のギャップ、外壁中の操作窓、ベースプレートならびにベースプレート上の多数の端子を備え、内壁および外壁は円筒形で同軸であり、ギャップはベースプレートの端子上に位置する多数のシリコンロッドを収容する寸法であり、操作窓はシリコンロッドへのアクセスを可能とするように設計されている。ロッドは操作窓を介して取り出すことができる。
【0013】
通常は、貯蔵だけでなくその後の処理、特に、ロッドの粉砕、破砕片の分級と梱包も、概して空調制御された部屋の特定の環境条件下で進められ、製品の汚染が防止される。
【0014】
しかし、反応器を開放した時点と貯蔵または以降の処理との間に、蒸着材料は環境影響、特に塵粒子にさらされる。
【0015】
ポリシリコンロッドを取り出す間、いわゆる取り出しバッグ(removal bag)を使ってシリコンロッドを覆うことが提案されている。US2012175613A1は、多結晶シリコン片の製法を開示し、この方法は、フィラメントワイヤー上にシリコンを蒸着させることにより多結晶シリコンロッドを製造するCVD工程であって、フィラメントワイヤーの一端は第1の電極に接続され、残りの一端は第2の電極に接続される、工程と、多結晶シリコンロッドを反応器から取り出す工程およびシリコンロッドをシリコン片に粉砕する工程からなり、粉砕工程に入る前に、多結晶シリコンロッドの少なくとも70mmが電極端から取り出される(短縮工程(shortening process))。好ましい実施形態では、反応器から取り出す前にポリエチレン製のバッグ様部分で多結晶シリコンロッドの表面が覆われる。取り出しそのものは、クレーンなどを使って行うことができる。バッグ様部分は、反応器を開放した後に作業環境中に放出されるニッケル、クロムおよび銅を含む金属粒子が、ロッド取り出しの間にシリコンロッドの表面上に蓄積するのを防ぐのが目的である。
【0016】
原理的には、クリーンルーム中で製造工程を実行することも考えられる。US20020040568A1は、半導体製品、特にウエハを製造する設備を開示しており、この設備は、給気システムを備えた少なくとも1つのクリーンルーム中に製造ユニットを配置し、この給気システムでは、クリーンルームの床を通して給気が行われる。この給気システムの大きな利点は、重力を利用した給気および排気の循環が行われ、これにより、半導体製品処理現場において低エネルギー消費で給気が行えることである。
【0017】
しかし、多結晶シリコンを製造する設備は多数のシーメンス反応器を備えている。蒸着ロッドは数メートルの高さと、数百kgの重量になり得ることを考慮する必要がある。従って、このような設備は非常に大きい。数十のシーメンス反応器を備えたクリーンルームとしてのホールの建設は、到底経済的に想定できるものではない。
【0018】
これらの問題が本発明の目的に繋がった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0043972号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0175613号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0040568号明細書
【発明の概要】
【0020】
本発明は、多数のCVD反応器を含む多結晶シリコン製造室の、少なくとも2週間の内に1回の清掃を提供し、清掃には水性の洗浄液が使われ、CVD反応器の外側ケーシング、パイプラインおよび製造室の床が清掃される。
【0021】
このような製造または蒸着ホールの定期的な清掃は、取り出されたシリコンロッドへの金属および特に、環境元素の担持をより少なくするという点で極めて有益な効果があることが明らかになった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
清掃用として、毛羽立ちのないクロスを使用することができる。清掃は手作業で行うことができる。
【0023】
同様に、床清掃に対しては、ブラシ型、湿式および乾式バキュームクリーナー、掃除機、スクラバードライヤー、シングルディスクマシーンなどの清掃機を使用することができる。
【0024】
洗浄液として、水、特に、従来の水道水を使用することができる。
【0025】
水およびアニオン性/イオン性界面活性剤を含む混合物の使用が好ましい。
【0026】
好ましくは、洗浄液は脱塩水を含む。
【0027】
脱塩水およびアニオン性/イオン性界面活性剤を含む混合物の使用が特に好ましい。
【0028】
例えば、10リットルの脱塩水を食卓用大さじ数杯の、5から15%のアニオン性界面活性剤および5%未満のイオン性界面活性剤を含み、場合によりメチルクロロイソチアゾリノンおよびメチルイソチアゾリノンなどの防腐剤を含む中性pH洗浄剤と混合して、洗浄液として使用することができる。
【0029】
各ケースで、最初に、反応器およびパイプラインを洗浄液で湿潤させた毛羽立ちのないクロスで拭き、その後になって初めて製造ホールの床を清掃するのが好ましい。床は手作業でまたは清掃機を使って清掃できる。
【0030】
好ましくは、CVD反応器の外側ケーシング、パイプラインおよび製造室の床は、少なくとも週1回清掃される。
【0031】
しかし、特に好ましくは、製造ホールの床の清掃は、少なくとも週2回、パイプラインおよび反応器の外側ケーシングは少なくとも1日1回清掃される。
【0032】
このようなタイプの清掃が非常に効果的であるため、高価なクリーンルーム技術の導入が不必要であることが明らかになった。この結果、大きな資本コストが節約できる。これは、ポリシリコンの製造コストにも影響を与える。
【0033】
金属値および環境元素に関してポリシリコンの品質を大きく改善することができる。
【0034】
床およびプラント部品を少なくとも週1回清掃しなければならないという程度までの清掃計画の標準化の結果として、種々の場所で[原文のまま]、種々の場所で製造された多結晶シリコンの間の品質の差は、もはやほとんどないことも明らかになった。以前は、この点に関し顕著な特性の差異があったが、種々の場所における製造および処理自体は完全に同じであったので、この理由は長期にわたり解明されなかった。
【0035】
意外にも、相関試験において、蒸着ホールの清掃頻度と、品質パラメータであるポリシリコン中の金属および環境元素との間で間接的な比例関係が認められた。
【実施例】
【0036】
3箇所の蒸着ホールA、BおよびCで製造されたポリシリコンを、Fe、ZnおよびNaによる表面汚染に関して調査した。
【0037】
3箇所のホールの製造工程は同じとした。同じシーメンス反応器中、同じ条件下(温度、ガス流量、ノズル断面積など)で蒸着を行った。また、全ホールで、同じ直径のロッド上に蒸着を行った。
【0038】
ホールA、BおよびCで同じようにロッドを取り出した。試験ロッドをそれぞれホール中にある間にPEバッグに入れ、分析を行うために運搬トラックに乗せて輸送した。
【0039】
ASTM F1724−96に準拠して、シリコン表面を化学溶解した後、溶解した溶液を誘導結合プラズマ質量分析法(ICPMS)により表面金属を測定した。
【0040】
しかし、3箇所のホールの清掃周期は異なるものとした。ホールAでは、下表1で分かるように、最も高頻度に清掃を行った。ホールCでは、すべての部品を10週毎にのみ清掃した。
【0041】
清掃のために、全ホールで、10リットルの脱塩水当たり、食卓用大さじ数杯の洗浄剤(5から15%のアニオン性および5%未満のイオン性界面活性剤)の混合比率の、脱塩水およびアニオン性/イオン性界面活性剤を含む混合物を使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
調査した全金属において、ホールAのより頻度の高い清掃の結果として、ポリシリコンの表面汚染に関して、ホールAで製造されたポリシリコンで、ホールB由来のポリシリコンより良好な値が得られ、さらに、ホールCの場合より極めて良好な値が得られた。
【0044】
従って、本発明は、50pptw未満のFe、5pptw未満のZnおよび10pptw未満のNaの表面汚染物質を含む多結晶シリコンロッドにも関する。
【0045】
好ましくは、多結晶シリコンロッドは、35pptw以下のFe、2pptw以下のZnおよび7pptw以下のNaの表面汚染物質を含む。