(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステントの近位領域と前記弁の近位領域とが本来の弁と整合せしめられ、前記弁の遠位領域は前記本来の弁から遠位方向に隔置される、ことを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
前記ステントの近位領域の前記複数の独立しているセルが、前記ステントが拡張状態にあるときに、該ステントの前記遠位領域の前記複数の独立しているセルよりも大きな径方向の力を有している、ことを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
前記ステントの遠位領域の前記独立しているセルのうちの少なくとも1つが4つの角度が付けられている突っ張り部分(strut segments)を備えており、該角度が付けられている突っ張り部分のうちの2つが、前記独立しているセル内の他の2つの角度が付けられている突っ張り部分より長さが長い、ことを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
前記弁の前記近位領域が筒状本体を備えており、前記弁の前記遠位領域が概ね矩形形状で互いに対向している平らな面を備えており、該矩形形状の互いに対向している平らな面は、それら矩形形状の面よりも狭い平らな側面によって互いに分離されており、血液の順方向の流れの際にはその中を流体が流れるのを許容し且つ逆方向の流れの際には概ね互いに隣接して該弁内を血液が流れるのを阻止するようになされている、ことを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
前記ステントの前記近位領域が、複数の近位の頂端(apices)であって、少なくとも1つが、その一部として形成された棘状部を備えている複数の近位の頂端を備えており、前記近位領域の複数の独立しているセルは前記複数の近位の頂端の遠位側に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の医療器具。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願において、“近位“という用語は、医療処置中において心臓に最も近い方向を示しており、一方、“遠位”という用語は、医療処置中において心臓から最も遠い方向を示している。
【0013】
図1〜2を参照すると、大動脈弁人工器官と組み合わせて使用されるステント構造20の第一の実施例が示され且つ説明されている。ステント構造20は、大動脈弁20と組み合わせて使用されて、
図9に示されている完全な大動脈弁人工器官10を形成している。
【0014】
ステント構造20は、圧潰されている給送状態と拡張された配備状態とを含んでおり、
図1〜2に示されているように、概ね、近位領域30と、テーパー領域50と、遠位領域70とからなる。平らに圧潰された状態で示されているステント構造20のパターンが
図3に示されている。
【0015】
ステント構造20は連続している筒状体によって作られ、該筒状体には、該筒状体の壁にスリットを形成するために、レーザー又は化学エッチングによってパターンが切られている。次いで結果的に得られた構造は、次いで、熱硬化されて所望の最終形状を付与する。
図1〜2に示されているように、該最終的な形状は、一連の多数の互いに独立したセルからなる。
【0016】
ステント構造20の近位領域30は、拡張せしめられた外径がd
1の概ね円筒形状を有している。近位領域30は、
図10に示されているように、少なくとも部分的に大動脈洞内に配置される構造とされている。これに対して、ステント構造20の遠位領域70は、拡張された外径がd
2である概ね筒形状をしており、少なくとも部分的に上行大動脈内に配置される構造とされている。テーパー領域50は、直径がd
1からd
2へ変わる橋渡しをしている。
【0017】
ステント構造20の近位領域30は、多数の互いに隣接している近位の頂端31を備えている。近位の頂端31の各々は、
図4に示されているように、内部に一体の棘状部33が設けられている端部領域32を備えている。棘状部33は、端部領域32内に所望の棘状形状を切り込むレーザーによって形成される。従って、スリット34は、
図4に示されているように、所望の棘形状が形成された後に、各端部領域32に形成される。所望の棘形状が切られると、棘状部33の主本体は、端部領域32に対して径方向外方へ曲げられる。角度は、如何なる鋭角であっても良く、又は別の方法として、ほぼ直交していても良い。所望ならば、棘状部33は、例えば目標組織部位における係合を補助するために棘状部の頂端を研磨することによって尖らせても良い。
【0018】
同じく
図1〜2を参照すると、ステント構造20の近位領域30は更に、多数の角度が付けられている突っ張り部分によって形成された複数の独立したセル35を備えている。
図1に示されているように、一つの例においては、4つの角度が付けられた突っ張り部分36,37,38,39が1つの独立したセル35を形成している。この例においては、第一の近位の頂端31は、遠位方向に延び且つ第一及び第二の角度が付けられた突っ張り部分36及び37に分かれており、これらの突っ張り部は結合部41において相互に結合されている。更に、
図1に示されているように、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38及び39は、結合部41において結合されており且つそこから遠位方向に向かって延びている。圧縮状態においては、セル35の角度が付けられている突っ張り部分36〜39は、これらが実質的に平行になるように圧縮されている。
【0019】
図1に示されているように、第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分36及び37は、各々、概ね長さがL
1であり、各々がステント構造20の長手軸線Lに対して角度α
1で配置されている。
図1に示されているように、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38及び39は、各々が概ね長さがL
2であり、各々が概ね長手軸線Lに対して角度α
2で配置されている。
図1に示されているように、独立したセル35は、結合された長さL
1とL
2とを表している全長L
3を有している。
【0020】
この例においては、第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分36及び37の長さL
1は
、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38及び39の長さL
2よりも長い。一つの実施例においては、長さL
1は長さL
2の約1.5倍〜約4.0倍である。
【0021】
更に、第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分36及び37の断面積は、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38及び39の断面積よりも大きい。一つの実施例においては、第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分36,37の断面積は、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38,39の断面積の約4倍である。第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分36,37の大きい断面積は、これらの部分が独立したセル35内に主として径方向の力を付与するようにさせ、一方、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38,39は、主として大きい径方向の力を付与する代わりに、互いに隣接している独立したセル35と55aとを結合させることを意図されている。
【0022】
更に、この例においては、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38,39の角度α
2は、第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分36,37の角度α1より大きい。第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分36及び37は、主として径方向の力を付与するので、角度α
1は所望の径方向の力を達成するように選択され、一方、上記したように、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分38,39は、主として、互いに隣接している独立したセル35及び55a同士を結合させることを意図されており、従って、この異なる主目的のために異なる角度α
2をなしている。一つの実施例においては、角度α
2は、角度α
1の約1.2〜4.0倍である。
【0023】
全体的に、上記した相対長さ及び角度構造が付与されている場合には、各独立したセル35は、
図1〜2に示されているように概ねスペード形状の構造を有している。しかしながら、該相対的な長さ及び角度は、ここに開示されている例示的な寸法で図示され且つ/又は提供されているものより大きくても小さくても良いことは明らかである。
【0024】
角度が付けられている突っ張り部分36〜39のパターンは、ステント構造20の近位領域30の外周に沿って繰り返されている。このようにして、ステント構造20は、連続した概ね筒形状に形成されている。一つの例においては、10個の近位の頂端31と10個の独立したセル35とが近位領域30の外周に設けられているが、ステントの直径及び/又は径方向の力を変えるために、より多くの又はより少ない近位の頂端及び近位の独立セルが設けられても良い。
【0025】
近位領域30は、長手軸線Lに対して若干広げられている。一つの例においては、各頂端31の近位端は、同じ頂端31の遠位端に対して外方へ曲がっている。このような広がりによって、植え込まれた際の大動脈洞との係合が補助される。
【0026】
同じく
図1〜2を参照すると、テーパー領域50もまた複数の独立セルからなる。この例においては、4つの異なる独立セル55a,55b,55c,55dがテーパー領域50の全長に沿って設けられている。独立セル55a〜55dの各々は、
図1〜2に示されているように若干異なった形状を有している。この例においては、各独立したセルの列55a〜55dのうちの10個がテーパー領域50の外周に設けられており、テーパー領域50の直径は外径d
1から外径d
2まで増大している。
【0027】
一つの例においては、
図1に示されているように、4つの角度が付けられている突っ張り部分56,57,58,59が一つの独立セル55bを形成している。第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分56及び57は、各々が概ね長さがL
4であり、各々が長手軸線Lに対してある角度をなして設けられており、該角度は角度α
1とほぼ同じか若干大きいか若干小さい。第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分58及び59は、各々概ね長さがL
5であり、各々が長手軸線Lに対してある角度をなして設けられており、該角度は、角度α
2とほぼ同じか若干大きいか若干小さい。独立セル55bは、
図1に示されているように、全長がL
6であり、この全長は結合長さL
4とL
5とを表わしている。
【0028】
この例においては、第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分56及び57の長さL
4は、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分58及び59の長さL
5よりも長い。一つの実施例においては、長さL
4は、長さL
5の約1.1倍〜約4倍である。
【0029】
更に、この例においては、テーパー領域50の独立セル55bの全長L
6は、
図1に示されているように、近位領域30の独立セル35の全長L
3よりも長い。更に、一つの例においては、テーパー領域50の1以上の個々の突っ張り部の長さ、例えば、長さがL
4の第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分56及び57は、近位領域30の独立セル35の全長L
3よりも長い。
【0030】
遠位領域70も同様に複数の独立したセルを備えている。この例においては、2つの互いに異なっている独立セル75a及び75bが近位領域70の全長に沿って設けられている。独立しているセル75a及び75bは、
図1〜2に示されているように、互いに異なった形状を有している。この例においては、独立したセル75a及び75bの各列うちの10個が遠位領域70の外周に沿って設けられていて全体の外径d
2を形成している。
【0031】
一つの例においては、最も遠位の独立しているセル75bは、
図1に示されているように、4つの角度が付けられている突っ張り部分76,77,78,79を備えている。第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分76及び77は、各々長さがL
7であり且つ各々が長手軸線に対してある角度をなして設けられており、該角度は、角度α
1と等しいか若干大きいか若干小さい。第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部分78及び79は、各々、長さがL
9であり且つ各々が長手軸線に対してある角度をなして設けられており、該角度は、角度α
2と等しいか若干大きいか若干小さい。
【0032】
更に、棘状部83を備えている棘状領域80が、
図1に示されているように、角度が付けられている突っ張り部分同士の間に設けられている。棘状領域80の棘状部83は、
図4に示されているように、近位領域30の棘状部33と同じ形態で一体に形成されているが、近位方向を向いているのが好ましい。棘状領域80は、ステント構造20の長手軸線Lと概ね平行であり且つ長さがL
8である。セル55bは、
図1に示されているように全長がL
10であり、該全長は結合長さL
7,L
8,L
9を示している。
【0033】
この例においては、第一及び第二の角度が付けられている突っ張り部分76及び77の長さL
7は、第三及び第四の角度が付けられている突っ張り部78及び79の長さL
9よりも長い。一つの実施例においては、長さL
7は長さL
9の約1.1倍〜約4.0倍である。
【0034】
更に、この実施例においては、遠位領域70の独立したセル75bの全長L
10は、テーパー領域50の独立したセル55bの全長L
6よりも長く、この全長L
6は、
図1に示されているように近位領域30の独立セル35の全長L
3よりも長い。従って、個々の独立のセルの長さは、ステント構造20の近位端22から遠位端24までステント構造に沿って増加している。
【0035】
個々の独立しているセルの長さはステント構造20に沿って近位端22から遠位端24まで増大しているので、種々の領域に沿ってステント構造20によってかけられる力は、患者の解剖学的構造について変わるので有利である。径方向の力及び剛性は、個々のセルの長さの関数である。従って、大動脈弁の交換の例においては、近位領域30の独立したセル35の比較的短い長さL
3は、この位置における比較的高く且つ堅牢な取り付けを可能にする比較的大きい径方向の力をもたらす。これと逆に、遠位領域70の独立したセル75bの比較的長い長さL
10は、上行大動脈にかかる比較的低い径方向の力をもたらして遠位領域70の可撓性の外形を容易化させる。この可撓性の外形は上行大動脈105に有害な衝撃を与えない。
【0036】
更に、径方向の力及び剛性は、突っ張り角度の関数である。
図1〜2の例においては、近位領域30の個々の突っ張り部36及び37は、遠位領域70の個々の突っ張り部分76及び77に対する突っ張り角度が浅く、すなわち、個々の突っ張り部分36及び37は、器具の長手曲線Lに対して更に直立している。従って、個々の突っ張り部分36及び37の角度は、近位領域30において、遠位領域70の個々の突っ張り部分76及び77よりも大きな径方向の力を惹き起こす。
【0037】
更に、遠位領域70における突っ張り幅より比較的大きな径方向の力を促進するために、近位領域30には、大きな突っ張り幅が設けられている。要するに、ステント構造20は、近位領域30と近位領域70との径方向の力の特性が異なっており、このことは、これらの領域が植え込まれる関連する領域例えば大動脈洞及び上行大動脈の各々と有益に相互作用する。
【0038】
一つの実施例においては、個々のセルの長さは、近位から遠位に向かう方向に常に相対的に増大して移動する。すなわち、独立したセルの各々は、それの近位側に配置されている他の独立したセルの長さよりも全長が長い。他の実施例においては、互いに隣接しているセルは、ほぼ同じ長さであり又は近位のセルは隣接の遠位のセルよりも長さが短い。従って、個々の角度が付けられている突っ張り部分の長さは近位から遠位に向かう方向に概して増大しているけれども、更に遠位例の領域の個々の角度が付けられている突っ張り部分のうちの幾つかは、更に近位側に向けられた領域よりも小さい。
【0039】
ステント構造20の拡張は、少なくとも部分的には、
図3の圧縮状態において互にほぼ平行である角度付きの突っ張り部分によって提供されるが、
図1〜2に示されている拡張状態においては相対的に離れるように外方へ曲がる傾向がある。ステント構造20は、あらゆる適当な材料によって作られ且つレーザー加工されたカニューレによって作られる。ステント構造20は、血管又は導管内の目標位置まで進入させることができるように、直径が小さい給送形態を有している。更に、ステントの突っ張り部分は、ほぼ平らなワイヤー形状又は丸みを付けられた外形を有している。
図1〜2において最も良くわかるように、ステント突っ張り部分は、この例においては、概ね平らなワイヤー形状を有している。
【0040】
ステント構造20は超弾性材料によって製造されてもよい。単なる例示として、超弾性材料としては、ニッケルチタン合金(ニチノール)のような形状記憶合金によって構成することができる。ステント構造20がニチノールのような自己拡張型材料からなる場合には、ステントは所望の拡張状態となるように熱硬化せしめられ、このようにして、ステント構造20は、何らかの冷却媒体又は加熱媒体を適用すると事前に形成された第一の拡張された内径をなす弛緩形状を呈することができる。別の方法として、ステント構造20は、配備させたときにステント構造20が圧縮による材料の永久歪みを誘発することなく元の拡張状態へ戻るのを可能にする他の金属及び合金によって作られても良い。単なる例示として、ステント構造20は、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、アモルファス金属、タンタル、白金、金、チタンのような他の材料によって構成しても良い。ステント構造20はまた、熱可塑性樹脂及びその他の重合体のような非金属材料によって作ることもできる。
【0041】
ステントが
図3の圧潰形状から
図1〜2の拡張配備状態へと拡張する間に、ステント構造20の何らかの短縮が生じるかも知れないことは注目すべき点である。ステント構造20の近位領域30は最初に配備されるので、このような短縮はそれほど問題ではないと考えられる。なぜならば、上行大動脈内での遠位領域70の正確なランド面積は、密接状態が達成される限り概ね不必要であるからである。
【0042】
更に、ステント構造が目標部位に植え込まれたときにステント構造の移動を少なくするためには、近位領域30の棘状部33が遠位方向を向いた方向に向けられ、一方、遠位領域70の棘状部83は近位方向を向いた方向に向けられているのが好ましい。しかしながら、補足的な棘状部又はより少ない棘状部をステント構造20に沿った種々の位置に配置し、これらは同じ方向に向けられても又は異なる方向に向けられても良い。更に、一体の及び/又は外部に取り付けられた棘状部が使用されても良い。
【0043】
図5〜7を参照すると、ステント構造20と組み合わせて使用されて大動脈人工器官を形成している大動脈弁の第一の実施例120が示され且つ説明されている。大動脈弁120は、各々、概ね、近位領域130と、遠位領域170と、これらの領域間内に配置されているテーパー領域150とを備えている。大動脈弁120は、ステント構造20と共に経皮的に植え込むことができるように圧縮される給送状態を有し、更に、心収縮期及び心拡張期中の種々の状態を有している。一般的に、順行性の流れは大動脈弁120を開かせ、一方、逆行性の流れは大動脈弁120を閉じさせる。
図7に示されている大動脈弁120の心収縮期の位相においては、血液は、大動脈弁120の遠位端170に設けられている互いに対向している平らな面172と174との間を流れる。大動脈弁120の心拡張期の位相においては、大動脈弁120の遠位端170の互いに対向している平らな面172と174とは、互いにほぼ隣接していて血液が弁内を逆流するのを阻止する。
【0044】
近位領域130は、概ね筒状体からなり、該筒状体の外径は、ステント構造20の近位領域30の拡張した内径にほぼ等しいか又はそれよりほんの少し小さい。
図8〜9に示され且つ以下に説明される一つの製造方法においては、大動脈弁120は、ステント構造20内に、近位領域130が該ステント構造20の近位領域30と少なくとも部分的に整合されるように配置される。
【0045】
大動脈弁120のテーパー領域150は、
図5〜6に示されているように、2つの対向している平らな面152と154とを備えている。この互いに対向している平らな面152及び154は、
図5〜6に示されているように、各々、近位領域130の直径を小さくしている湾曲領域の形態の近位部分156と、遠位領域170内へ移行している幅の広い平らなパネル形態の遠位部分157とを備えている。
【0046】
大動脈弁120の遠位領域170は、端面図で見て、すなわち、器具を遠位方向から近位方向に向かって見た場合に概ね矩形形状を有している。遠位領域170は、上記した対向している平らな面172及び174を備えており、これらの平らな面は、
図5〜6に示されているように、比較的狭い平らな側面175a及び175bによって分離されている。テーパー領域150の互いに対向している平らな面152及び154は、各々、概ね遠位領域170の互いに対向している平らな面172及び174へと移行している。テーパー領域150の互いに対向している平らな面152及び154は、
図5〜6に示されているように、近位領域130と遠位領域170との両方に対して角度が付けられている。
【0047】
大動脈弁120は生体適合性のグラフト材料からなり、該グラフト材料は、生理的力によって漏れないように非多孔質であるのが好ましい。該グラフト材料は、Thoralon(登録商標)(カルフォルニア州プレザントンにあるThoratec Corporation )、ダクロン(登録商標)(英国スコットランドのレンフルーにあるVASCUIEK Ltd.,)、これらの複合物、又は別の適当な材料によって作られる。グラフト材料は継ぎ目なしで作られるのが好ましい。管状グラフトは、他のポリエステル繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、発泡PTFE、及びその他の合成材料のような繊維を含んでいる少なくとも実質的に生体適合性の他のあらゆる材料によって作ることができる。天然由来の生物材料、特に細胞外マトリックスとして知られている誘導コラーゲン材料もまた極めて望ましい。弾性部材は、繊維の特性として又はクリンプ加工のような後続の処理によって組み込んでも良い。
【0048】
図8〜9を参照すると、一つの製造方法においては、大動脈弁120は、大動脈弁120の近位領域130が少なくとも部分的にステント構造20の近位領域30と整合されるように概ねステント構造20内に配置されている。長さがxの大動脈弁120の近位取り付け部分132が、
図8に示されているようにステント構造20の近位頂端31の近位側に設けられ、次いで、近位の取り付け部分132は、
図9に示されているように近位の頂端31を覆うように外側へ折り曲げられる。次いで、近位の取り付け部分132は、近位の頂端31及び/又は角度が付けられている突っ張り部分36〜39のうちのいずれかに縫い付けられるか或いは取り付けられて、
図9に示されているように大動脈弁120の一部分をステント構造20に固定して完全な大動脈人工器官10が形成される。ステント構造20の棘状部33は、目標組織と係合できるように、近位の取り付け部分132の繊維を貫通して突出している。
【0049】
大動脈弁120が、
図8〜9に示されているようにステント構造20に結合されると、大動脈弁120の遠位領域170は、ステント構造20のテーパー領域50及び/又は遠位領域70内へと伸長し且つその内部の概ね中心に配置されるが、ステント構造20に対する大動脈弁120の遠位領域170の正確な配置は、必要に応じて変えることができる。更に、以下の
図11〜19に示されている1以上の補強部材を大動脈弁120及び/又はステント構造20に結合させて、大動脈人工器官10の構造的一体性及び/又は機能を高めるようにしても良い。
【0050】
大動脈弁120の遠位領域170は、ステント構造20のテーパー領域50及び/又は遠位領域70内に配置されるのが有利である。テーパー領域50及び遠位領域70は、弁輪の上方(遠位側)で且つ本来の大動脈弁の上方の近位の上行胸部大動脈内に位置決めされる。以前の弁は大動脈弁輪を占有する設計とされている。しかしながら、大動脈弁輪の予測不可能な形状及び直径は、弁を形状及び直径が予測不可能なものとし、これは非対称な交換弁の動き、漏れ、寿命の低下につながる。短的に言うと、大動脈弁120の遠位領域170を本来の大動脈弁に対して遠位方向に隔置された位置へ移動させることによって、大動脈弁輪の予測不可能な形状及び直径は、大動脈弁120の大きく隔てられている遠位領域170に対する衝撃が少なくなり、従って、遠位領域170は、非対称な弁の動き及び漏れを受け難くなり且つ耐久性が増す。
【0051】
近位領域130とテーパー領域150との形状及び寸法は、遠位領域170における流れ又は弁機能に重大な影響を及ぼすことなく変えることができる。弁120の遠位領域170は概ね矩形形状を有しているものとして示されているけれども、弁の三尖形状の遠位領域を設けても良く、その場合には、テーパー領域150はこのような三尖形状の遠位領域を収容できるように省略しても良いし又は変更しても良い。
【0052】
図10を参照すると、心臓102と大動脈弁104との部分破断図が示されている。心臓102は、適正に密閉しない大動脈弁106を有している。大動脈弁106のこの欠陥によって、血液は、大動脈104から左心室内へ逆流し、これは大動脈弁逆流として知られる疾患につながる。
図10にはまた、腕頭動脈112、左総頚動脈114、及び左鎖骨下動脈116も示されている。大動脈104における大動脈弁106と腕頭動脈112との間に位置する部分は、ここでは上行大動脈105と称されている。患者の冠状動脈117及び118は、大動脈弁106の遠位側に位置している。
【0053】
大動脈人工器官を10は、患者の血管系内へ導入され、給送され、配備器具又は導入器を使用して配備される。配備器具は、
図10に示されているように、大動脈内の大動脈弁106を置換すべき位置に大動脈人工器官10を給送し且つ配備させる。この配備器具は、大腿切開部を介して管腔内を給送し配備できる形状及び大きさとされている。大動脈人工器官10は、ステント構造20が径方向に圧潰された状態で、一般的な方法を使用して給送カテーテル内に挿入される。その意図されている目的に最適な給送及び配備装置を得るためには、給送カテーテルの他に、種々の他の構成要素が設けられる必要がある。これらの構成要素としては、限定的ではないが、種々のシース、プッシャ、トリガーワイヤ、ストッパ、ガイドワイヤ等がある。例えば、ゼニス(登録商標)胸部動脈瘤血管内グラフト(Zenith Thoracic Aortic Aneurysm Endovascular Graft)は、インディアナ州ブルーミントンにあるCook Incから市販されている給送装置を使用しており、これは、本実施例による大動脈人工器官を給送し配備させるのに適している。
【0054】
一つの特徴においては、大動脈人工器官10のステント構造20の保持されている端部を解放させるためにトリガーワイヤ解放機構が設けられる。トリガーワイヤ構造は、解放機構から配備器具内に延びている少なくとも1つのトリガーワイヤを備えているのが好ましく、該トリガーワイヤは、ステント構造20の選択された位置に係合せしめられる。ステント構造20の種々の領域の配備を個々に制御することによって、全体として、大動脈人工器官10の配備のより良い制御が可能になる。
【0055】
ステント構造20はここでは概ね自己拡張型のフレーム枠として説明されているけれども、同じ機能を果たすためにバルーン拡張型フレーム枠を採用しても良い。バルーン拡張型ステント構造が採用されている場合には、次いで、バルーンカテーテルを採用して、上に概説した大動脈人工器官が給送される。任意ではあるが、自己拡張型ステント構造20を配備させた後に、比較的短いバルーン拡張型ステントを給送し且つステント構造20の近位領域30の内側に配備させて大動脈洞の位置における付加的な固定を提供しても良い。
【0056】
大動脈人工器官10は、配備させたときに概ね
図10に示されているように位置決めされる。上記したように、個々のセルの長さは、ステント構造20に沿って近位端22から遠位端24に向かって概ね増大しているので、近位領域30の独立したセル35によって大動脈洞106上に比較的大きな径方向の力がかけられ、この位置での優れた且つ堅牢な取り付けが可能になる。これと逆に、上行大動脈105には遠位領域70の独立したセル75a及び75bによって比較的小さな径方向の力がかけられて、遠位領域における可撓性の外形が補助され、これは上行大動脈105にぶつかって悪影響を及ぼさない。
【0057】
人工器官10が大動脈に植え込まれると、逆流中に冠状動脈117及び118内への十分な流れが維持される。特に、血液が、大動脈弁120の遠位領域170内を流れた後に、血液は、大動脈弁120のテーパーが付けられている中心領域150の外側の隣を流れ且つ冠状動脈117,118内へステント構造20の開口した個々のセル内を通って流れることができる。
【0058】
更に、棘状部33が近位領域30に設けられている場合には、棘状部33は、大動脈洞106との確実な係合を促進する。同様に、遠位領域70に設けられている棘状部83は、上行大動脈105との確実な係合を促進する。棘状部が省かれている場合には、近位領域30と遠位領域70とが、各々、冠状動脈洞106と上行大動脈105とにかかる径方向の力がステント構造20を定位置に保持するのに十分な大きさである構造とされている。
【0059】
大動脈人工器官10の部材の各々の形状大きさ及び寸法は変えても良い。好ましい人工器官器具の大きさは、主として、意図されている植え込み部位における血管管腔の直径(好ましくは、健全な弁/管腔の組み合わせ)並びにステント及び弁器具全体の所望の長さによって決定される。従って、患者の本来の大動脈弁の位置の最初を評価することによって、人工器官の設計の幾つかの特徴が決まる。例えば、患者体内の本来の大動脈弁の位置によって、ステント構造20及び大動脈弁120の寸法、選択される弁材料の種類、及び配備器具の大きさが決まる。
【0060】
移植後に、大動脈弁120によって、患者の体内に本来存在している損傷した又は機能が低下した大動脈弁が置き換えられる。大動脈弁120は、大動脈弁120の近位側の圧力が該弁の遠位側の圧力より大きいときに血液の流れを許容する。このようにして、人工弁120によって心臓から大動脈内への流体の一方向の流れが調節される。
【0061】
図11〜19を参照すると、大動脈人工器官10の構造的一体性及び/又は機能を高めるために大動脈弁120及び/又はステント構造20に結合することができる種々の補強部材が記載されている。正常な本来の大動脈弁は冠状洞の壁に取り付けられていることによって上方からぶら下げられ、該ぶら下げられた大動脈弁は、取り付けによって閉じられた弁膜にかかる拡張期圧力によって生じる力に耐えて下流への流れを支える。
図11〜19に示されている種々の補強部材は、大動脈弁120を補強し、特に心拡張期中における弁の陥入又は“抜け”を防止することを意図したものである。
【0062】
図11〜13において、補強部材の第一の実施例は、大動脈弁120のテーパー領域150とステント構造20のテーパー領域50との間に結合されている複数の吊り下げ繋ぎ材180a〜180dからなる。大動脈弁120の心収縮期段階においては、血液は、大動脈弁120の遠位端170に設けられている互いに対向する平らな面172と174との間を流れ、吊り下げ繋ぎ材180a〜180dは、比較的弛んでいて大動脈弁120の正常な開放を許容する。大動脈弁120の心拡張期段階においては、大動脈弁120の遠位端170に設けられている互いに対向している平らな面172と174とは、相互に隣接していて弁内を通る血液の逆流を阻止し、一方、吊り下げ繋ぎ材180a〜180dは、
図12の限定された部材分析シミュレーションに示されているように、逆方向の流れが弁の外面にかかるときに大動脈弁120の抜け落ちを防止する。実際には、吊り下げ繋ぎ材180a〜180dは、逆向きの流れの際の抜け落ちを避ける安全機構を堤供するのが有利である。
【0063】
図11〜13の実施例においては、吊り下げ繋ぎ材180a〜180dは、繊維強化部がグラフト構造に成形されるやり方で大動脈弁120に成形され、更に、ステント構造20の拡張を妨げない縫合糸198又は別の適切な結合部材を使用してステント構造20の1以上の突っ張り部に結合される。吊り下げ繋ぎ材180a〜180dの第一の端部は大動脈弁120のテーパー領域150に結合された状態で示されているけれども、これらの第一の端部は、代替的に又は付加的に、遠位領域170のような別の位置に結合されても良い。同様に、吊り下げ繋ぎ材180a〜180dの第二の端部は、ステント構造20のテーパー領域50に結合された状態で示されているけれども、代替的に又は付加的に、これらの第二の端部は、遠位領域70のような別の位置に結合しても良い。4つの例示的な吊り下げ繋ぎ材180a〜180dが示されているけれども、更に多くの又は更に少ない吊り下げ繋ぎ材を使用しても良く、これらの配置は、上記したように、大動脈弁120の所望の機能を達成し且つ抜け落ちの可能性を減じるために上記したように変えることができる。
【0064】
図13に示されているように、長手軸線Lに対する吊り下げ用繋ぎ材180a〜180dの角度α
3は、相対的に弛んでいるときには、約40〜80度とすることができる。しかしながら、角度α
3は、
図13に示されている角度より大きくても小さくても良いことがわかるであろう。
【0065】
一つの実施例においては、吊り下げ用繋ぎ材180a〜180dは、厚みが約0.002〜0.02インチ(0.05〜0.5ミリメートル)であり且つThoralon(登録商標)又はダクロン(登録商標)製のコーティングに成形される。吊り下げ用繋ぎ材180a〜180dが非血栓形成性であるか又は非血栓形成性材料によってコーティングされている限り、他の材料を使用しても良い。
【0066】
大動脈弁120のテーパー領域150又は遠位領域170が、上行胸大動脈内の位置でステント構造20に取り付けられることによって上方から支えられる場合には、大動脈弁120は、たとえ簡単な二尖の設計であっても、大動脈弁120が最適な弁機能のために必要な長さとすることができるので有利である。別の言い方をすると、大動脈弁120の長さは、大動脈弁120の遠位領域170が本来の大動脈洞から離隔された上行胸大動脈内の所望の位置に位置決めされるように変えることができる。
【0067】
図14〜19を参照すると、1以上の補強ストリップを備えている補強部材の代替的な実施例が図示され且つ記載されている。
図14〜16においては、第一の補強ストリップ185aは、
図14〜16に示されているように、概ね近位領域130の一部分の間をテーパー領域150の一方の対向面152を通って遠位領域170の一方の対向する平らな面172まで延びている。第二の補強ストリップ185bは、第一の補強ストリップ185aから約90度離れて配置されており、概ね、狭い方の平らな側面175aのうちの一方に向かって近位領域130の一部間の間を伸長している。第三の補強ストリップ185cは、第一の補強ストリップ185aから約90度離れて配置されており、概ね近位領域130の一部分の間を伸長し、テーパー領域150の一方の対向している平らな面154内を通り、遠位領域170の一方の対向している平らな面174まで伸長している。第四の補強ストリップは、
図14〜16においては不明確であるが、第二の補強ストリップ185bから約90度離れて配置されており且つその鐘像をなしている。
【0068】
図15に示されている大動脈弁120の心収縮期段階においては、血液は大動脈弁120の遠位端170に設けられている互いに対向している平らな面172と174との間を流れ、補強ストリップ185a〜185cは比較的平らであって大動脈弁120の正常な開放を可能にしている。
図16に示されている大動脈弁120の心拡張期段階においては、大動脈弁120の遠位端170に設けられている互いに対向している平らな面172及び174は、概ね相互に隣接していて弁内を通る血液の逆流を防止しており、一方、補強ストリップ185a〜185dは、テーパー領域150に沿って径方向内方へ曲げられた状態になって、弁の外面に逆方向の流れがかけられたときに大動脈弁120の抜け落ちを防止する。一つの実施例においては、補強ストリップ185a〜185cは、関連する圧力が大動脈弁120にかかったときに、各々、心収縮期及び心拡張期中の
図15〜16に示されている状態間をスナップ式に動く。実際には、補強ストリップ185a〜185cは、逆流中の抜け落ちを回避する安全機構を提供するので有利である。
【0069】
一つの実施例においては、
図14〜16の補強ストリップ185a〜185cはステンレス鋼又はニチノ―ルによって構成されているけれども、このような機能を果たすあらゆる適切な材料を使用することができる。該補強ストリップは、厚みが約0.002〜約0.010インチ(約0.5ミリメートル〜約0.254ミリメートル)であり、大動脈弁120の材料内に成形されるか又は大動脈弁120に外部から結合される。
【0070】
図17〜19には、種々の代替的な補強ストリップが示されている。
図17においては、少なくとも1つの楕円形の補強ストリップ190が大動脈弁120の近位領域130の一部分に結合されており且つ概ねテーパー領域150へと遠位方向に延びており且つテーパー領域150の互いに対向している平らな面152と154との間に位置決めされている。
図18においては、第一の楕円形の補強ストリップ191は、全体がテーパー領域150の平らな面152に結合されており、一方、第二の長手方向に伸長している補強ストリップ192は、近位領域130とテーパー領域150のとの間に延びており且つ概ねテーパー領域150の互いに対向している平らな面152と154との間に配置されている。
図19においては、ダイヤモンド形状の補強ストリップ193が、近位領域130とテーパー領域150の平らな面152との間に結合されている。
図14〜16の補強ストリップ185a〜185cと同様に、
図17〜19の補強ストリップ190〜193は、心収縮期及び心拡張期中の2つの段階の間にスナップ式に動く。
図17〜19の実施例の各々において、補強ストリップ190〜193は、逆方向の流れの間において抜け落ちるのを避ける安全機構を提供するので有利である。
図14〜19には種々の例示的な補強ストリップの形状及び配置が示されているけれども、本実施例の精神から逸脱することなく、該補強ストリップの形状及び配置を変えても良く且つより多くの又はより少ないストリップを使用しても良い。
【0071】
更に別の実施例においては、ここに示されているステント構造20は、大動脈弁120の近くで種々の大動脈弁と組み合わせて使用されている。単なる例示として且つ限定的ではなく、種々の人工弁構造は、2又は3個の弁膜を備え且つ解剖学的構造の弁の本来の機能によく似た穴及び組織弁を含む種々の形状で配列させても良い。これと逆に、ここに示されている大動脈弁120は、種々のステント構造と組み合わせて使用しても良い。
【0072】
以上、本発明の種々の実施例を説明したが、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその等価物を参考にする点を除き、これらに限定されるべきではない。更に、ここに記載した利点は必ずしも本発明の唯一の利点ではなく、また本発明の各実施例がここに記載した全ての利点を達成することを必ずしも期待できるわけではない。