(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
イントロダクション
超硬合金において、バインダーの含有分の増加により、通常、靭性は増加するが、硬度及び耐摩耗性は低下する。さらに、タングステンカーバイドの粒度は、一般に、より粒度が微細であるほど、より粗い粒度のものよりも硬質で高い耐摩耗性の材料が提供されるが、耐衝撃性が低い材料が提供される点で特性に影響を及ぼす。
【0003】
超硬合金材料の切削工具及び掘削工具における応用において、異なる特性の組み合わせが効率、耐久性及び工具寿命を最大化するために望ましい。材料から作られる製品の異なる部分での材料に対する要求は異なることもある。たとえば、削岩及び鉱物切削用インサートでは、インサートの破壊の危険性を最小にするために内部で靭性材料が望ましいことがあり、一方、十分な耐摩耗性を得るためには表面ゾーンで硬質材料が望ましいことがある。
【0004】
採掘工具のための超硬合金のインサートは、一般に、その使用の間にその高さ又は質量の半分まで消費される。インサートは衝撃荷重を受け、その変形はインサートが摩耗していく際に徐々にバインダー相を硬化させ、それにより、靭性を増加させる。一般に、削岩及び鉱物切削用途において、超硬合金インサートの表面ゾーンにおけるバインダーの初期変形硬化は、通常、ビット寿命長さの最初の1〜5%である最初の部分で起こる。これにより、上部表面ゾーンで靭性が増加する。この初期の変形硬化の前には、操作の非常に初期の段階の間に、非常に低い靭性が理由でインサートに衝撃損傷の危険性がある。十分な内部靭性、表面ゾーン硬度及び耐摩耗性という一般的な要求を代償とすることなく、少なくとも操作の初期の段階の間に、表面及び表面に最も近い材料の部分で耐衝撃性である材料を提供することにより、このタイプの初期損傷の危険性を最小化することは望ましいであろう。
【0005】
間欠操作又は衝撃操作などの幾つかの不連続荷重を含む金属機械加工操作における使用のための超硬合金のインサートは損傷の危険性を増加する高衝撃荷重を受ける。また、ここでは、内部靭性、硬度及び耐摩耗性という一般的な要求を代償とすることなく、表面及び表面に最も近い材料の部分で耐衝撃性である材料を提供することが望ましいであろう。
【0006】
WO2005/056854A1は削岩及び鉱物切削用超硬合金インサートを開示している。インサートの表面部分は内部部分より微細な粒度を有しかつバインダー相含有分が低い。焼結の前に、成形体の上に、炭素及び/又は窒素を含む結晶粒成長抑制剤の粉末を配置することによりインサートを製造する。
【0007】
US2004/0009088A1はWC及びCoの圧粉体であって、結晶粒成長抑制剤が適用されそして焼結されるものを開示している。
【0008】
EP 1739201 A1は炭素、ホウ素又は窒素の拡散により発生されるバインダー勾配を有するインサートを含むドリルビットを開示している。
【0009】
JP 04−128330はクロムを含むWC及びCoの圧粉体の処理を開示している。
【発明の概要】
【0010】
耐久性がありかつ長工具寿命である、好ましくは採掘工具用インサートである、超硬合金体を提供することが本発明の目的である。
【0011】
初期衝撃損傷に対する高い耐性を有する超硬合金体を提供することが特に本発明の目的である。
【0012】
本発明
本発明は(1)結晶粒成長抑制剤及び炭素及び/又は窒素を含む結晶粒成長抑制剤化合物、及び、(2)結晶粒成長促進剤を、1種以上の硬質相形成性成分及びバインダーを含むWC−ベースの出発材料の成形体の表面の少なくとも一部の上に提供すること、及び、その後、成形体を焼結することを含む、超硬合金体の製造方法を提供する。
【0013】
WC−ベースの出発材料は、適切には、約4〜約30wt%、好ましくは約5〜約15wt%のバインダー含有分を有する。WC−ベースの出発材料中の1種以上の硬質相形成性成分の含有分は、適切には、約70〜約96wt%、好ましくは約90〜約95wt%である。適切には、WCは70wt%を超え、好ましくは80wt%を超え、より好ましくは約90wt%を超える硬質相形成性成分を含む。最も好ましくは、硬質相形成性成分は本質的にWCからなる。WC以外の硬質相形成性成分の例は他の炭化物、窒化物又は炭窒化物であり、その例はTiC、TaC、NbC、TiN及びTiCNである。硬質相形成性成分及びバインダー以外に、二次的な不純物はWC−ベースの出発材料中に存在することができる。
【0014】
バインダーは適切には、Co、Ni及びFeのうち1種以上であり、好ましくはCo及び/又はNiであり、最も好ましくはCoである。
【0015】
成形体は適切には粉末の形態のWC−ベースの出発材料をプレスすることにより提供される。
【0016】
超硬合金体は、適切には、超硬合金工具であり、好ましくは超硬合金工具インサートである。1つの実施形態において、超硬合金体は金属機械加工のための切削工具インサートである。1つの実施形態において、超硬合金体は削岩工具又は鉱物切削工具などの採掘工具のためのインサートであり、又は石油掘削もしくはガス掘削工具のためのインサートである。1つの実施形態において、超硬合金体はねじ、飲料缶、ボルト及びクギを形成するための工具などの冷間加工工具である。
【0017】
結晶粒成長抑制剤は適切には、クロム、バナジウム、タンタル又はニオブであり、好ましくはクロム又はバナジウムであり、最も好ましくはクロムである。
【0018】
結晶粒成長抑制剤化合物は、適切には、炭化物、混合炭化物、炭窒化物又は窒化物である。結晶粒成長抑制剤化合物は、適切には、バナジウム、クロム、タンタル及びニオブの炭化物、混合炭化物、炭窒化物又は窒化物からなる群より選ばれる。好ましくは、結晶粒成長抑制剤化合物はクロム又はバナジウムの炭化物又は窒化物であり、たとえば、Cr
3C
2、Cr
23C
6、Cr
7C
3、Cr
2N、CrN又はVCであり、最も好ましくはクロムの炭化物、たとえば、Cr
3C
2、Cr
23C
6又はCr
7C
3である。
【0019】
結晶粒成長促進剤は好ましくは、超硬合金体中へのバインダーのマイグレーションを促進する。結晶粒成長促進剤は適切には、炭素である。成形体の表面上に提供される炭素は浸炭雰囲気からの堆積炭素の形態、非晶性炭素であってよく、それは、たとえば、煤及びカーボンブラック又はグラファイトで存在しうる。好ましくは、炭素は煤又はグラファイトの形態である。
【0020】
結晶粒成長抑制剤化合物/結晶粒成長促進剤の質量比は、適切には約0.05〜約50、好ましくは約0.1〜約25、より好ましくは約0.2〜約15、さらにより好ましくは約0.3〜約12、最も好ましくは約0.5〜約8である。
結晶粒成長抑制剤化合物は、適切には、約0.1〜約100mg/cm
2の量、好ましくは約1〜約50mg/cm
2の量で表面上に提供される。結晶粒成長促進剤は、適切には、約0.1〜約100mg/cm
2の量、好ましくは約0.5〜約50mg/cm
2の量で表面上に提供される。
【0021】
成形体の1つの部分又は幾つかの別個の部分は結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤を備えることができる。
【0022】
1つの実施形態において、方法は、最初に成形体を提供し、そしてその後、結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤を、成形体の表面の少なくとも一部の上に提供することにより、成形体の表面の上に結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤を提供することを含む。結晶粒成長抑制剤化合物及び/又は結晶粒成長促進剤は別個の又は配合された液体分散体又はスラリーの形態で成形体に適用することにより提供されうる。このような場合には、液体相は適切には水、アルコール、又は、ポリエチレングリコールなどのポリマーである。又は、結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤は固体物質の形態で、好ましくは粉末で成形体に適用されてもよい。成形体上への結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤の適用は、適切には、ディッピング、スプレイ塗布、ペインティング又は、他の任意の方法での成形体上での適用によって、成形体上に結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤を適用することによりなされる。結晶粒成長促進剤が炭素であるときに、代わりに、それは浸炭雰囲気から成形体上に提供されうる。浸炭雰囲気は、適切には、一酸化炭素又はC
1〜C
4アルカン、すなわち、メタン、エタン、プロパン又はブタンのうちの1種以上を含む。浸炭は適切には、約1200〜約1550℃の温度で行われる。
【0023】
1つの実施形態において、方法は、結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤をWC−ベースの出発材料粉末と配合し、その後、それをプレスして成形体とすることにより、成形体の表面の上に結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤を提供することを含む。成形体の表面の上に結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤を提供することは、適切には、WC−ベースの出発材料粉末の導入の前に加圧成形型中に結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤を導入し、次いで、プレス加工を行うことによりなされる。結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤は適切には、分散体又はスラリーとして加圧成形型中に導入される。このような場合には、結晶粒成長抑制剤化合物を分散させ又は溶解させる液体相は適切には、水、アルコール、又は、ポリエチレングリコールなどのポリマーである。又は、結晶粒成長抑制剤化合物及び結晶粒成長促進剤の一方又は両方は固体物質として成形型中に導入される。
【0024】
結晶粒成長抑制剤及び結晶粒成長促進剤を備えた成形体の包囲表面積は、適切には、成形体の総包囲表面積の約1%〜約100%であり、好ましくは約5%〜約100%である。
【0025】
ドリルビット用インサートなどの採掘工具用インサートの製造の場合には、結晶粒成長抑制剤及び結晶粒成長促進剤が適用される成形体の部分は、適切には、先端部分にある。結晶粒成長抑制剤及び結晶粒成長促進剤が適用される包囲表面積は、適切には、成形体の総包囲表面積の約1%〜約100%であり、好ましくは約5%〜約80%であり、より好ましくは、約10%〜約60%であり、最も好ましくは約15〜約40%である。
【0026】
結晶粒成長抑制剤の含有分及びバインダーの含有分の勾配は、適切には、焼結の間に成形体の表面から内側に向って形成される。
【0027】
焼結の間、結晶粒成長抑制剤は結晶粒成長抑制剤化合物を備えた表面から拡散され、それにより、超硬合金体のより深くに進んだときに結晶粒成長抑制剤の含有分が平均で減少しているゾーンを適切に形成している。
【0028】
超硬合金体のより深くに進んだときにバインダーの含有分が平均で増加しているゾーンも焼結の間に適切に形成している。
【0029】
焼結温度は、適切には、約1000℃〜約1700℃であり、好ましくは約1200℃〜約1600℃であり、より好ましくは約1300℃〜約1550℃である。焼結時間は適切には約15分〜約5時間であり、好ましくは約30分〜約2時間である。
【0030】
本発明は、さらに、本発明に係る方法により得ることができる超硬合金体に関する。
【0031】
本発明は、さらに、WC−ベースの硬質相及びバインダー相を含む超硬合金体であって、超硬合金体は上部表面ゾーン及び中間表面ゾーンを含み、中間表面ゾーンの少なくとも一部は平均バインダー含有分が超硬合金体のより内側の部分よりも低く、上部表面ゾーンの少なくとも一部は平均WC粒度が中間表面ゾーンよりも平均で大きい、超硬合金体を提供する。
【0032】
上部表面ゾーンは適切には表面点から深さd1までの距離を含む。中間表面ゾーンは適切には、d1から深さd2までの距離を含む。d1/d2の比は適切には約0.01〜約0.8であり、好ましくは約0.03〜約0.7であり、最も好ましくは約0.05〜約0.6である。
【0033】
バルクゾーンは、場合により、深さd2よりも下に存在する。バルクゾーンにおいて、超硬合金は適切には本質的に均一であり、存在するバインダー含有分又は硬度の有意な勾配又は変動がない。
【0034】
深さd1は、適切には、約0.1〜4mmであり、好ましくは約0.2〜約3.5mmである。深さd2は適切には約4〜約15mm、好ましくは約5〜約12mm、又は、表面点から最遠位部分までのいずれか最初に到達するまでの距離である。
【0035】
1つの実施形態において、上部表面ゾーンの少なくとも一部は平均でバルクゾーンよりも大きな平均WC粒度を有する。
【0036】
超硬合金体は、適切には、総平均バインダー含有分が約4〜約30wt%であり、好ましくは約5〜約15%である。超硬合金体中のWC−ベースの硬質相の総平均含有分は、適切には、約70〜約96wt%であり、好ましくは約85〜約95wt%である。WC−ベースの硬質相は、適切には、70wt%を超え、好ましくは80wt%を超え、より好ましくは90wt%を超えるWCを含む。最も好ましくは、WC−ベースの硬質相は本質的にWCからなる。WC以外の硬質相中の成分の例は他の炭化物、窒化物又は炭窒化物であり、その例はTiC、TaC、NbC、TiN及びTiCNである。WC−ベースの硬質相及びバインダー以外に、二次的な不純物は超硬合金体中に存在することができる。
【0037】
バインダーは適切には、Co、Ni及びFeのうち1種以上であり、好ましくはCo及び/又はNiである。
【0038】
超硬合金体は、適切には、結晶粒成長抑制剤の含有分の勾配を備えている。結晶粒成長抑制剤は、適切には、クロム又はバナジウムであり、好ましくはクロムである。結晶粒成長抑制剤の含有分は、適切には、超硬合金体中を表面点から中間表面ゾーンをとおして内側に進んでいくときに、平均で減少している。もしバルクゾーンが存在するならば、結晶粒成長抑制剤の含有分は、適切には、超硬合金体中を表面点からバルクゾーンに向って内側に進んでいくときに、平均で減少している。
【0039】
上部表面ゾーンにおける結晶粒成長抑制剤の含有分は、適切には、約0.01〜約5wt%であり、好ましくは約0.05〜約3wt%であり、最も好ましくは約0.1〜約1wt%である。
【0040】
超硬合金体は、適切には、バインダーの含有分の勾配を備える。バインダーの含有分は、適切には、超硬合金体中を中間表面ゾーンをとおして進んでいくときに、平均で増加している。もしバルクゾーンが存在するならば、バインダーの含有分の勾配は、適切には、超硬合金体中を中間表面ゾーンからバルクゾーンに向って進んでいくときに、平均で増加している。バルクゾーン中のバインダー濃度/表面点から深さ1mmでのバインダー濃度の質量比は、適切には、約1.05〜約5であり、好ましくは約1.1〜約3.5であり、最も好ましくは約1.3〜約2.5である。もしバルクゾーンが存在しないならば、表面点から最遠位部分でのバインダー濃度/表面点から深さ1mmでのバインダー濃度の質量比は、適切には、約1.05〜約5であり、好ましくは約1.1〜約4であり、最も好ましくは約1.2〜約3.5である。
【0041】
平均等価円直径として、平均WC粒度は、適切には、約0.5〜約10μmであり、好ましくは約0.75〜約7.5μmである。
【0042】
超硬合金体の異なる部分での硬度(HV10)は、適切には、約1000〜約1800の範囲内である。
【0043】
超硬合金体は、適切には、表面から下方に存在する硬度の最大値である少なくとも1つの箇所を備える。
【0044】
硬度の最大値の箇所は、適切には、表面から約0.1〜約4mmの深さにあり、約0.2〜約3.5の深さにある。1つの実施形態において、硬度の最大値の箇所はこの深さの超硬合金体中に1箇所より多く存在している。
【0045】
もし硬度(HV10)の最大値が≧1300HV10であるならば、硬度最大値の箇所は、適切には、表面から約0.2〜約3mmの深さ、好ましくは約0.3〜約2mmの深さにある。
【0046】
もし硬度(HV10)の最大値が<1300HV10であるならば、硬度最大値の箇所は、適切には、表面から約0.5〜約4mmの深さ、好ましくは約0.7〜約3.5mmの深さにある。
【0047】
超硬合金体中の硬度(HV10)の最大値/硬度最大値の箇所に最も近い表面での超硬合金体の硬度(HV10)の比は、適切には、約1.001〜約1.075であり、好ましくは約1.004〜約1.070であり、より好ましくは約1.006〜約1.065であり、さらにより好ましくは約1.008〜約1.060であり、さらにより好ましくは約1.010〜約1.055であり、最も好ましくは約1.012〜約1.050である。実用的理由から、表面点での硬度は、適切には、0.2mmの深さで測定される値として取り、ただし、もし硬度最大値の箇所が深さ≦0.2mmに存在するならば、適切には深さ<0.1mmで測定される任意の値を取ることができる。
【0048】
超硬合金体の硬度(HV10)の最大値とバルクゾーンでの硬度(HV10)の差異は適切には少なくとも約50HV10であり、好ましくは少なくとも70HV10である。
【0049】
超硬合金体中の平均粒度は等価円直径法で測定して<0.4μmであるならば、超硬合金体の硬度(HV10)の最大値とバルクゾーンでの硬度(HV10)の差異は適切には少なくとも約100HV10であり、好ましくは少なくとも130HV10である。
【0050】
適切には、超硬合金体中での硬度最大値の箇所に最も近い少なくとも1つの表面点は採掘工具インサートの先端部分にある。
【0051】
超硬合金体の少なくとも1つの部分では、深さ0.3mmでの粒度/深さ5mm又はバルクゾーンでの粒度の比は、適切には、約1.01〜約1.5であり、好ましくは約1.02〜約1.4であり、より好ましくは約1.03〜約1.3であり、最も好ましくは約1.04〜約1.25である。粒度は平均等価円直径として測定される。
【0052】
超硬合金体の少なくとも1つの部分では、深さ0.3mmでの粒度/深さ3mmでの粒度の比は、適切には、約1.01〜約1.5であり、好ましくは約1.02〜約1.3であり、より好ましくは約1.03〜約1.2であり、最も好ましくは約1.04〜約1.15である。粒度は平均等価円直径として測定される。
【0053】
超硬合金体は当該技術分野において知られた手順にしたがって1層以上の層によってコーティングされうる。たとえば、TiN、TiCN、TiCの層及び/又はアルミニウムの酸化物層は超硬合金体上に提供されうる。
【0054】
超硬合金体は適切には超硬合金工具であり、好ましくは超硬合金工具インサートである。1つの実施形態において、超硬合金体は、金属機械加工のための切削工具インサートである。1つの実施形態において、超硬合金体は削岩工具又は鉱物切削工具などの採掘工具のためのインサートであり、又は石油掘削及びガス掘削工具のためのインサートである。1つの実施形態において、超硬合金体は冷間加工工具であり、たとえば、ねじ、飲料缶、ボルト及びクギを形成するための工具である。
【0055】
採掘工具インサートでは、インサートの幾何学形状は、通常、弾道体形状、球体形状又は円錐形状であるが、鑿形状及び他の幾何学形状も本発明において適切である。インサートは適切には直径D及び長さLである円柱形基部と先端部分とを有する。L/Dは、適切には、約0.5〜約4であり、好ましくは約1〜約3である。
【0056】
本発明は、さらに、削岩又は鉱物切削操作における超硬合金工具インサートの使用に関する。
【実施例】
【0058】
本発明は、さらに、下記の制限しない実施例によって説明される。
例
例1
94wt%WC及び6wt%Coの組成である標準原材料を用いて超硬合金粉末ブレンドを製造した。
10mmの直径の円柱形基部及び球形(半ドーム)先端を有する16mmの長さのドリルビットの形態の採掘工具インサートの形態で成形体を製造した。
平均粒度は平均等価円直径として測定して約1.25μmであった。
先端を、表1にしたがって、結晶粒成長抑制剤化合物としてCr
3C
2、結晶粒成長促進剤としてグラファイト、又はそれらの組み合わせで適用し、「ドープ」した。さらなる対照として、1つのインサートはいかなるものも適用せず、すなわち、「ドープせず」であった。
【0059】
【表1】
【0060】
ポリエチレングリコール中の25wt%のCr
3C
2の分散体中に先端をディッピングすることにより結晶粒成長抑制剤化合物Cr
3C
2のみを適用した。水中の10wt%グラファイトのスラリー中に先端をディッピングすることにより結晶粒成長促進剤グラファイトのみを適用し、次いで、乾燥させた。Cr
3C
2及びグラファイトの組み合わせを、水中に25wt%のCr
3C
2及び7.5wt%のグラファイトを含む組み合わせ分散体によって適用した。すべてのサンプルで、約20mgのスラリー又は分散体を先端上の約1.6cm
2に適用した。
インサートを乾燥させ、その後、慣用のガス圧焼結によって1410℃で1時間焼結させた。
ビッカー硬度を、異なる深さ、すなわち、表面からの距離でインサートに対して測定した。
図1は表面から下方に異なる距離で測定された硬度(HV10)を示す。Cr
3C
2とともにグラファイトを用いて、顕著な硬度勾配が生じることが明らかである。グラファイト溶液を用いたドーピングにより、ドープされないサンプルと比較してを約80HV表面硬度を増加させる。液体PEG中のCr
3C
2でドープしたサンプルはドープされていないサンプルよりも約80HVというほぼ同一の硬度増加を示す。グラファイト溶液中のCr
3C
2を用いたサンプルは150HVを超える硬度増加を示す。硬度は表面のすぐ下で低下していることが判る。
図2は表面から下の異なる距離でのサンプル3中のコバルト、炭素及びクロムの含有分を示す。
図3は、さらに、クロムの勾配の詳細図を示す。コバルト及びクロムの明らかな勾配が存在している。
粒度は後方散乱電子回折(EBSD)から計算した。
図4〜5はそれぞれ深さ0.3mm及び10mmでのサンプル3(本発明)の代表的なEBSD画像を示す。
表2はサンプル1(Cr
3C
2−ドープ)及びサンプル3(Cr
3C
2−グラファイト−ドープ)の間の粒度(等価円直径)の比較を示す。
【0061】
【表2】
【0062】
最も大きな結晶粒は表面の最も近くで見られる。硬度の最大値の箇所は表面の下方約1mmで見られる。
【0063】
例2
例1と同一のサイズ及び組成の成形体を、表3に従い、結晶粒成長抑制剤化合物としてCr
2N又はCrN及び/又は結晶粒成長促進剤としてグラファイトで適用し、「ドープ」した。
【0064】
【表3】
【0065】
結晶粒成長促進剤のグラファイトのみを、水中の10wt%のグラファイトのスラリー中に先端をディッピングすることにより適用し、次いで、乾燥させた。Cr
2N又はCrN及びグラファイトの組み合わせを、水中に20wt%のCr
2N及び8wt%のグラファイト、又は、22wt%のCrN及び8.8wt%のグラファイトをそれぞれ含む組み合わせ分散体によって適用した。すべてのサンプルで、約20mgのスラリー又は分散体を先端上の約1.6cm
2に適用した。
インサートを乾燥させ、その後、慣用のガス圧焼結によって1410℃で1時間焼結させた。
ビッカー硬度を、異なる深さ、すなわち、表面からの距離でインサートに対して測定した。
図6はドープされた表面から下方で測定された硬度(HV10)(サンプル5、6及び7について)を示す。Cr
2N又はCrNとともにグラファイトを用いて、顕著な硬度勾配が生じることが明らかである。
表4は表面から異なる距離でのサンプル6(Cr
2N−グラファイト−ドープ)及びサンプル7(CrN−グラファイト−ドープ)の硬度を示す。
【0066】
【表4】
【0067】
本発明に係るサンプルについては、影響を受けていないバルク材料(8.2mm深さ)と比較して、約140〜160単位(HV)の硬度の増加がある。グラファイトのみでドープされたサンプルはわずか約90単位(HV)の硬度の増加を示す。硬度の最大値の箇所は本発明に係るサンプルについて、表面から下方に約1.2mmに見られる。
図7は深さ0.3mmでのサンプル6の代表的なSEM画像を示している。
図8はサンプル6の影響を受けていないバルク材料部分(10mm)の画像である。
【0068】
例3
例1と同一のサイズ及び組成の成形体を、結晶粒成長抑制剤化合物としてCr
3C
2及び/又は結晶粒成長促進剤としてグラファイト又は煤で適用し、「ドープ」した。
【0069】
Cr
3C
2及びグラファイト又は煤の組み合わせを、水中に20wt%のCr
3C
2及び10wt%のグラファイト又は煤としての炭素を含む組み合わせ分散体によって適用した。すべてのサンプルで、約20mgのスラリー又は分散体を先端上の約1.6cm
2に適用した。
インサートを乾燥させ、その後、慣用のガス圧焼結によって1410℃で1時間焼結させた。
ビッカー硬度を、異なる深さ、すなわち、表面からの距離でインサートに対して測定した。
図9はドープされた表面から下方で測定された硬度(HV10)を示す。Cr
3C
2とともに煤を用いると、Cr
3C
2とともにグラファイトを用いたときと同様に、顕著な硬度勾配が生じることが明らかである。
本発明に係るサンプルでは、影響を受けていないバルク材料(8〜10mm深さ)と比較して約160単位(HV)の硬度の増加がある。硬度の最大値の箇所は表面から下方に約2mmに見られる。
【0070】
例4
93.5wt%のWC及び6.5wt%のCoの組成を有する標準原材料を用いて超硬合金粉末ブレンドを製造した。
16mmの直径の円柱形基部及び円錐形先端を有する25mmの長さの採掘工具用インサートの形態で成形体を製造した。
平均粒度は平均等価円直径として測定して約6μmであった。
25wt%のCr
3C
2及び7.5wt%のグラファイトを水中に含む組み合わせ分散体として、結晶粒成長抑制剤化合物としてCr
3C
2、結晶粒成長促進剤としてグラファイトの組み合わせで、先端を適用し、「ドープ」した。すべてのサンプルで、約40mgのスラリー又は分散体を先端上の約3.2cm
2に適用した。
インサートを乾燥させ、その後、慣用のガス圧焼結によって1520℃で1時間焼結させた。
ビッカー硬度を、異なる深さ、すなわち、表面からの距離でインサートに対して測定した。
図10はドープされた表面から下方で測定された硬度(HV10)を示す。
表6は表面から異なる距離での硬度(HV10)を示す。
【0071】
【表5】
【0072】
本発明に係るサンプルでは、影響を受けていないバルク材料(8〜10mm深さ)と比較して約85単位(HV)の硬度の増加がある。本発明に係るサンプルでは、硬度の最大値の箇所は表面から下方約2.5mmに見られる。
【0073】
例5
本発明に係る耐衝撃性超硬合金インサートを、キルナ、スエーデンの廃棄岩の削岩で大規模なフィールド試験にて従来の均一な超硬合金インサートと比較した。従来の超硬合金インサートは94wt%WC及び6wt%Coの組成を有した。また、本発明の勾配超硬合金インサートは全体として94wt%WC及び6wt%Coの組成を有したが、本発明に係る勾配で分布していた。本発明の超硬合金インサートは例1の手順に従って製造した。勾配超硬合金を、6ゲージインサート及び3フロントインサート毎ビットを有する20ドリルビットにおいて試験した。ドリルビットは初期ゲージ直径49.5mmを有し、45〜46mmで削り取った。ゲージ及びフロントインサートはそれぞれ直径10mm及び9mmであった。勾配超硬合金インサートを、ビットも最も傷つきやすい部分であるゲージにおいて試験した。フロントインサートは標準的な均一な超硬合金であった。このことは20×6=120の勾配インサートが試験されたことを意味し、このことは、岩状態の回避できない分布をよく網羅するはずであり、その分布はキルナ廃棄岩において低いと考えられている。標準的な超硬合金を含む20個の同一のビットを対照として使用した。インサートは球形ドーム先端を有し、そしてその幾何学形状は標準なインサート及び新規の勾配インサートの両方のそれぞれ10mm及び9mmのすべてのインサートで同一であった。1つのインサートを断面にわたって70のHV10測定に付し、そして等硬度線を
図11に示されるように計算した。ドープされた表面のすぐ下のゾーンは、硬度の最大値の箇所が発見されるドープされた表面の下1〜2mmのHV1491よりも低い硬度である1477のHV10であることが明らかに判る。
Sandvik Tamrockから入手されるトップハンマードリルリグを用いて試験を行った。油圧式トップハンマーは操作圧が210バールでありそしてフィード圧が90バールであるHFX5であった。回転は230rpmであり、回転圧は70バールであった。
下記の表7は平均掘削メートル毎ビット、DM、平均掘削メートル毎ビットゲージ直径摩耗mm、DM/mm、及び最初の破損までの平均掘削メートル、DMFを示す。ビットは約58〜59掘削メートルの後にリグラインドした(約12穴/リグラインディング)。
【0074】
【表6】
【0075】
結果は、本発明に係るインサートを有するドリルビットと従来のインサートを有するドリルビットを比較するときに、耐摩耗性(DM及びDM/mm)の20%の増加及び工具寿命(DMF)の40%の増加を示している。